説明

抗菌加工品の抗菌性能の評価方法

【課題】抗菌剤の抗菌性能の評価に要する時間および費用を低減する。抗菌剤の抗菌性能の評価において、細菌培養を行うことなく間接的な方法によって簡易な評価方法を提供する。さまざまな形状の抗菌加工品の各部位の抗菌性能を評価する方法を提供する。
【解決手段】本願発明の抗菌の抗菌性能の評価方法は、抗菌剤の少なくとも一部が表面から露出してなる抗菌加工品の抗菌性能を評価する評価方法であり、抗菌加工品の表面上に設定した関心領域の画像を取得し、関心領域において表面から露出する抗菌剤の露出の程度を表す露出率を画像から求め、予め求めておいた露出率と抗菌加工品の抗菌性能との相関関係に基づいて、画像から求めた露出率に対応する抗菌性能を求め、求めた抗菌性能によって抗菌加工品の抗菌性能を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤を配合あるいは付着させてなる抗菌加工品の抗菌性能を評価する評価方法に関し、特に、抗菌剤の抗菌性能を間接的に評価する評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート材や繊維等に抗菌剤を配合あるいは付着させることによって抗菌性能が与えられた抗菌加工品が提案されている。
【0003】
通常、抗菌性能の評価は試験菌の増殖抑制を測定することで行われる。例えば、「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」に関する日本工業規格のJIS Z 2801で定められる試験方法では、無加工品の24時間培養後菌数を抗菌加工品の24時間培養後菌数で除した数の対数値を「抗菌活性値」として定め、この抗菌活性値が2.0以上(99%以上の死滅率)であるときに、抗菌性能の効果があるとしている。
【0004】
また、社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)では、18時間培養後の標準布の生菌数を18時間培養後の加工布の生菌数で除した数の対数値を「静菌活性値」として定め、この静菌活性値が2.2以上であるときに、抗菌性能の効果があるとしている。
【0005】
また、抗菌性繊維製品の抗菌性を評価する方法として、抗菌性繊維上に菌液を噴霧し、抗菌性繊維上の菌液が乾燥後、菌が付与された抗菌性繊維を寒天培地に載せて培養し、寒天培地上に形成された菌のコロニー数を計数する方法において、コロニー数の計測を画像解析装置によって2値化法で行うことが提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、細菌の計量方法において、励起光を照射することによって撮像を行い、形状、面積、発光輝度を画像解析手段で認識することによって細菌計量を行うことが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−24089(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−174751(段落[0012])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗菌加工品の抗菌性能は、使用する抗菌剤の粒径、配合する材料の種類や混練方法などさまざまな要因によって左右される。抗菌剤の粒径が小さいほど単位重量あたりの抗菌剤粒子の数が多くなり、抗菌性能が高くなる。また、抗菌剤粒子と抗菌剤を配合する材料との密着性・濡れ性によっても、抗菌性能が左右される。ポリプロピレン樹脂では1%程度の配合濃度でじゅうぶんな抗菌性能が得られるが、自己治癒性塗料のように5%配合してもほとんど抗菌性能が得られない場合もある。このように、さまざまな材料に対して、抗菌剤の配合濃度のみによって、抗菌性能を推定することはできない。
【0009】
抗菌剤を配合する材料の材質や加工方法、配合する抗菌剤の粒径などの条件をすべて決めて、抗菌剤の配合濃度のみを変更した場合、配合濃度が高くなるにつれて抗菌性能が高くなる。抗菌剤配合濃度のみが異なる抗菌加工品を作成して、抗菌性試験を実施し、抗菌剤配合濃度と抗菌活性値(または静菌活性値)の関係についてグラフを作成し、このグラフから抗菌活性値2.0を越える濃度を求める。このようにして、じゅうぶんな抗菌性能を得るための抗菌剤の配合濃度および配合量を決定することができる。
【0010】
ところが、材料の種類・加工方法、配合する抗菌剤の粒径を変更した場合は、その変更した条件ごとに抗菌剤配合濃度と抗菌活性値(または静菌活性値)の関係のグラフを新たに作成しなければならない。つまり、抗菌剤配合濃度と抗菌活性値(または静菌活性値)の関係は、汎用的には求められない。
【0011】
このように、抗菌加工品の加工条件を変更する度に、抗菌剤配合濃量と抗菌性能の関係を調べなければならず、抗菌性試験を実施すべき試料の点数が膨大になる。
【0012】
菌の培養を行って抗菌性能を試験する試験方法は、試験に長時間を要する他、設備や人件費の負担が大きいという問題がある。例えば、JIS Z 2801で定められる抗菌性能の試験方法では、培養自体に24時間を要する他に試験の前後に数日を要するため、実際には1回の試験は24時間で終わらず、ほぼ6日を要する。
【0013】
抗菌製品の開発は、試作の段階において種々の条件で抗菌処理を行い、作成された試作品の全てについて抗菌性能の試験を行わなければならない。そのため、抗菌性能の試験は、時間および費用において大きな負担となっている。
【0014】
最終段階の試作品についてはJIS Z 2801で定められる抗菌性能の試験方法によって抗菌性能を確認する必要があるが、抗菌製品の仕様を検討する段階では、簡易的に抗菌性能を評価することによって時間および費用の負担を軽減し、抗菌製品の開発スピードを上げることが求められる。
【0015】
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、抗菌剤の抗菌性能の評価に要する時間および費用を低減することを目的とする。
【0016】
また、抗菌性試験JIS Z 2801の試験法は、抗菌加工品の表面が平面でなければならず、抗菌剤を配合した複雑な形状の樹脂成型品や曲面に抗菌剤を配合した塗料を塗布した抗菌加工品などでは、そのまま抗菌性試験を実施することができない。このような場合は、同一材料または同一処理を施した平板試料を別に加工作成して抗菌性試験を実施し、その結果で代用している。
【0017】
しかし、加工形状のちがいによって抗菌剤の分布状態が異なっている可能性もあり、実際の製品を正しく評価できていないことが危惧される。
【0018】
このような製品のように、さまざまな形状の抗菌加工品のさまざまな部位の抗菌性能を評価することを目的とする。
【0019】
また、抗菌剤の抗菌性能の評価において、細菌培養を行うことなく間接的な方法によって簡易な評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願の発明者は、基材となる材料中に抗菌剤が配合された抗菌加工品の抗菌性能は、抗菌加工品の表面から外部に露出した抗菌剤の露出部分に因ることを見いだした。
【0021】
基材内に抗菌剤を配合した際、複数個の粒子状の抗菌剤の内、基材内に埋もれた抗菌剤は外部に露出しないが、基材の表面付近に存在する抗菌剤は、その一部分が抗菌加工品の表面から露出する。この抗菌剤の露出部分に細菌等が接触することによって菌は死滅し、抗菌作用が生じる。
【0022】
したがって、抗菌加工品に配合された抗菌剤の内、抗菌加工品の表面から露出している露出部分は抗菌性能に寄与するが、抗菌加工品内に埋もれている抗菌剤は抗菌性能に関与しない。
【0023】
本願の発明者は、さまざまな材料の抗菌加工品について、抗菌剤粒子の露出量(面積率、露出個数)と抗菌活性値(または静菌活性値)の関係について調べた結果、明瞭な相関関係を見いだした。この相関関係は、抗菌剤を配合する材料の種類・加工方法、配合する抗菌剤の粒径には直接依存しないことが確認された。つまり、さまざまな材料の抗菌加工品について、抗菌剤粒子の露出量(面積率、露出個数)と抗菌活性値(または静菌活性値)の関係についてのただ1つのグラフによって抗菌性能を推定することができることを見い出した。
【0024】
ただし、材料自身がもともとある程度の抗菌性能を有している場合には、このような材料に対しては、個別の材料毎に抗菌剤粒子の露出量(面積率、露出個数)と抗菌活性値(または静菌活性値)の相関関係を求めておく必要がある。
【0025】
本願発明は、抗菌加工品の抗菌性能についての上記知見から、抗菌加工品の表面から露出する抗菌剤の露出部分の露出率が大きいほど、細菌が抗菌剤と接触する確率が高まり、抗菌加工品の抗菌性能が向上することに基づいて、抗菌加工品の抗菌性能を表面の部分単位面積あたりの抗菌剤の露出率によって評価するものである。
【0026】
露出率から抗菌性能を求めるために、露出率と抗菌加工品の抗菌性能との相関関係を予め求めておき、この相関関係に基づいて、評価を行う対象の抗菌加工品について求めた抗菌剤の露出率に対応する抗菌性能を求める。
【0027】
本願発明の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法は、抗菌剤の少なくとも一部が表面から露出してなる抗菌加工品の抗菌性能を評価する評価方法であり、抗菌加工品の表面上に設定した関心領域の画像を取得し、関心領域において表面から露出する抗菌剤の露出の程度を表す露出率を画像から求め、予め求めておいた露出率と抗菌加工品の抗菌性能との相関関係に基づいて、画像から求めた露出率に対応する抗菌性能を求め、求めた抗菌性能によって抗菌加工品の抗菌性能を評価する。
【0028】
本願発明の評価方法は、抗菌加工品の表面の単位面積あたりの抗菌剤の露出率に基づいて抗菌性能を間接的に評価するものであり、細菌培養が不要であることから時間および費用を低減することができる。
【0029】
本願発明の評価方法において、露出部分の露出率は、抗菌剤が抗菌加工品の表面から外側に露出している程度を表す比率であり、抗菌性能を評価する指標として用いる。露出率は、抗菌加工品の表面の単位面積あたりで評価されるため、抗菌加工品の形状にかかわらず抗菌性能を評価することができる。
【0030】
本願発明の評価方法は、抗菌剤の露出率の態様として、露出部分の面積率による態様と、露出部分の単位面積あたりの露出個数による態様とを備えることができる。
【0031】
(露出部分の面積率による態様)
本願発明の面積率による態様は、抗菌剤が表面から露出する露出部分の輪郭面積の関心領域の面積に対する面積率とする。
【0032】
関心領域は、抗菌加工品の表面上の抗菌剤の露出部分の面積率を求める範囲を定める領域であって、抗菌加工品の表面において任意の位置および面積で定めることができ、例えば、光学顕微鏡の光学像をCCDカメラ等の撮像装置で撮像して得られる画像に基づいて定めることができる。画像中の関心領域は、一つの撮像画像内に定めるほか、複数の撮像画像を結合して得られる結合画像内に定めることができる。
【0033】
また、輪郭面積は画像において抗菌剤の露出部分の輪郭で囲まれる面積である。本願発明の面積率による態様では、抗菌剤の露出部分の面積は、露出部分の輪郭で囲まれる面積を用い、この輪郭の面積の単位面積あたりの比率を面積率とする。
【0034】
通常、抗菌剤の外表面は微細な凹凸形状を有するため、抗菌性能に寄与する該抗菌剤の露出面積は凹凸部分を含む全表面面積が寄与すると考えられるが、凹凸部分を含む全表面面積と抗菌剤の露出部分の輪郭で囲まれる面積とは、露出の程度において正の相関関係があると考えられ、凹凸部分を含む全表面面積に代えて抗菌剤の露出部分の輪郭で囲まれる面積を用いることによって生じる評価の誤差は小さいと考えられる。
【0035】
そこで、本願発明の評価方法の第1の態様では、抗菌剤の露出部分の外形の輪郭で囲まれる面積を露出面積とし、この露出面積に基づいて露出率を定めることによって、全表面面積の測定に要する時間を不要とし、簡易で短時間での評価を可能とする。
【0036】
本願発明の面積率による態様は、抗菌剤が表面から露出する露出部分の輪郭面積の関心領域の面積に対する面積率を抗菌剤の露出率とする。
【0037】
面積率の取得は、抗菌加工品の表面から露出する抗菌剤の露出部分を染色する染色工程と、抗菌加工品の表面上の少なくとも関心領域の画像を取得する画像取得工程と、取得した画像から関心領域における染色部分を抽出する抽出工程と、抽出した染色部分の輪郭面積を求め、関心領域の面積に対する輪郭面積の面積率を求める面積率算出工程とを含む画像処理工程によって行い、面積率と抗菌性能との間の相関関係を予め求めておき、この相関関係に基づいて、画像処理工程で求めた面積率から抗菌性能を求める。
【0038】
抗菌性能は、抗菌活性値または静菌活性値とすることができる。面積率と抗菌活性値または静菌活性値との間の相関関係を予め求めておき、この相関関係に基づいて、画像処理工程で求めた面積率から抗菌活性値または静菌活性値を求める。
【0039】
(露出部分の単位面積あたりの個数による態様)
抗菌剤が微細な粒子形状である場合には、抗菌剤の露出部分の露出面積は小さいことから、個々の抗菌剤粒子の露出面積が細菌のサイズと同程度である場合には、露出面積は露出している抗菌剤の露出部分の個数に比例すると近似的に評価することができる。そこで、本願発明の評価方法の第2の態様では、抗菌剤の露出部分の個数を露出率として用いることによって、全表面面積の測定に要する時間を不要とし、簡易で短時間での評価を可能とする。
【0040】
本願発明の露出部分の単位面積あたりの露出個数による態様は、抗菌剤が表面から露出する抗菌剤の露出部分の単位面積あたりの露出個数を抗菌剤の露出率とする。
【0041】
露出個数の取得は、抗菌加工品の表面から露出する抗菌剤の露出部分を染色する染色工程と、抗菌加工品の表面上の少なくとも関心領域の画像を取得する画像取得工程と、画像から関心領域における染色部分を抽出する抽出工程と、関心領域において抽出した染色部分の個数を求め、求めた個数を単位面積あたりの個数に変換して、単位面積あたりの露出個数を求める露出個数算出工程とを含む画像処理工程によって行い、露出部分の単位面積あたりの露出個数と抗菌性能の間の相関関係を予め求めておき、この相関関係に基づいて、露出個数算出工程で求めた露出部分の単位面積あたりの露出個数から抗菌性能を求める。
【0042】
抗菌性能は、抗菌活性値または静菌活性値とすることができる。露出部分の個数と抗菌活性値または静菌活性値との間の相関関係を予め求めておき、この相関関係に基づいて、画像処理工程で求めた露出部分の単位面積あたりの個数から抗菌活性値または静菌活性値を求める。
【0043】
本願発明の評価方法において、抗菌剤は炭酸カルシウムを焼成してなる酸化カルシウムを水和して生成される水酸化カルシウムが主成分であり、この水酸化カルシウムをアリザリンレッドSなどの染料により染色する。
【0044】
水酸化カルシウムは、例えば、アリザリンレッドSによって赤色に染色される。抗菌加工品の表面から露出した水酸化カルシウムの露出部分は染色によって赤色となるが、抗菌加工品の内部に埋もれている水酸化カルシウムは染色されずに水酸化カルシウム自体の色のままである。
【0045】
この状態において、抗菌加工品の表面を撮像して画像を取得し、得られる画像から赤色部分から露出部分を抽出することができる。この露出部分の露出率を求めることによって、抗菌性能を評価する。
【0046】
撮像画素から赤色画像を取得する技術、赤色画像から露出部分を抽出する技術等は、通常に知られる光学処理技術や画像処理技術を適用することができる。
【0047】
例えば、赤色画像の取得は、光学顕微鏡の光学像を光学フィルタや分光装置を通してCCDカメラ等の撮像装置で撮像することで行うことができ、赤色画像からの露出部分の抽出は、エッジ抽出の画像処理技術を適用することができる。
【0048】
なお、水酸化カルシウムを主成分とする抗菌剤は、炭酸カルシウムを焼成して酸化カルシウムとした後、水和させることによって得ることができる。炭酸カルシウム源は、動物性由来のカルシウムを使用することができ、例えば、ホタテ貝殻、アワビ貝殻、サザエ貝殻、ホッキ貝殻、ウニ貝殻の天然あるいは養殖の貝類の他、珊瑚殻等を原料に使用することができる。水酸化カルシウムを主成分とする抗菌性粒子は、水酸化物イオンの抗菌効果によって菌類の増殖を抑制し、硫化水素などの酸性系の匂い成分や、アルデヒド類等の匂い成分を分解除去する。
【発明の効果】
【0049】
以上説明したように、本発明の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法によれば、抗菌剤の抗菌性能の評価に要する時間および費用を低減することができ、細菌培養を行うことなく間接的な方法によって簡易な評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の評価方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の評価方法の概要を説明するための説明図である。
【図3】本発明の評価方法の概要を説明するための撮像画像の図である。
【図4】本発明の評価方法の概要を説明するための染色部分を抽出した画像の図である。
【図5】本発明の染色部分を抽出する画像処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の染色部分を抽出する画像処理を説明するためのしきい値と面積率の図である。
【図7】本発明の染色部分を抽出する画像処理を説明するためのしきい値と面積変化率の図である。
【図8】本発明の露出率の態様である面積率を算出する工程を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の露出率の態様である露出個数を算出する工程を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の露出率の態様である面積率と抗菌活性値との関係を説明するための図である。
【図11】本発明の露出率の態様である露出個数と抗菌活性値との関係を説明するための図である。
【図12】本発明の評価方法を実施するための構成例を説明するための図である。
【図13】本発明の評価方法を実施するための構成例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0052】
図1〜図4は本発明の評価方法の概要を説明するための図であり、図5〜図7は本発明の染色部分を抽出する画像処理を説明するための図であり、図8および図9は本発明の露出率の一態様である面積率を算出する工程を説明するための図であり、図10および図11は本発明の露出率の一態様である抗菌剤の露出個数を算出する工程を説明するための図であり、図12および図13は本発明の評価方法を実施するための構成例を説明するための図である。
【0053】
はじめに、本発明の評価方法の概要を図1〜図4を用いて説明する。図1は本発明の評価方法の概要を説明するためのフローチャートであり、図2は本発明の評価方法の概要を説明するための説明図である。
【0054】
以下では、炭酸カルシウムを焼成してなる酸化カルシウムを水和して生成される水酸化カルシウムを主成分とする抗菌剤について説明する。
【0055】
抗菌加工品1は、樹脂等の基材2に抗菌剤3を配合することによって形成される。図2(a)は、抗菌加工品1の表面および断面部分を示している。抗菌剤3は微細な粒子状であり、一部の抗菌剤3は基材2内に埋もれた状態となるが、一部の抗菌剤3は抗菌加工品1の表面4から外部に露出し、露出部分5を形成している。なお、図2(a)は抗菌加工品における抗菌剤の分布を模式的に示した例であって、抗菌剤の配合濃度、抗菌剤のサイズ、抗菌剤の基材内での分布はこの例に限られるものではない。
【0056】
抗菌加工品1の抗菌性能は、抗菌加工品1の表面4から外部に露出した露出部分5によって奏され、抗菌剤3は基材2内に埋もれた状態にある抗菌剤3は抗菌性能に寄与しない。
【0057】
本発明の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法は、抗菌加工品の表面から露出する抗菌剤の露出部分を染色する染色工程(S1)と、抗菌加工品の表面上の少なくとも関心領域の画像を取得する画像取得工程(S2)と、画像取得工程で取得した画像から関心領域における染色部分を抽出する抽出工程(S3)と、抽出工程で抽出した染色部分の輪郭面積を求め、関心領域において抗菌剤の露出率を求める露出率算出工程(S4)と、露出率と抗菌性能との間において予め求めておいた相関関係に基づいて、露出率算出工程で求めた露出率から抗菌性能を求める抗菌性能算出工程(S5)とを備える。
【0058】
(染色工程)
染色工程(S1)は、抗菌加工品1の抗菌剤3である水酸化カルシウムを染色する。水酸化カルシウムの染色剤として、例えばアリザリンレッドSを用いる。アリザリンレッドSは、アリザリン分子のヒドロキシ基に隣接した水素をスルホ基で置き換えたナトリウム塩であり、この色素は金属イオンと結合してカルシウム塩沈着部を赤色に染色する。
【0059】
この染色工程によって、抗菌加工品1の表面4から露出した抗菌剤(水酸化カルシウム)の露出部分5は染色されて赤色となるが、抗菌加工品1の内部に埋もれている抗菌剤(水酸化カルシウム)は染色されずに抗菌剤(水酸化カルシウム)自体の色のままである。
【0060】
染色工程は、例えば、染色剤の液に抗菌処理対象を浸すことで行うことができ、表面4から露出した抗菌剤の露出部分5のみが染色される。
【0061】
アリザリンレッドSを用いる場合、アリザリンレッドSの粉末を精製水に溶解して1%溶液とし、アンモニア水等のアルカリ溶液を添加し、pHを4〜8に調整したものを染色液として用いる。
【0062】
抗菌加工品が大きい場合は、測定したい部位に、この染色液を滴下して染色処理をおこなってもよい。
【0063】
通常、10〜30分程度、染色液を接触させた後、軽く水洗し、付着した水分を拭き取って、表面を乾燥させる。
【0064】
(画像取得工程)
画像取得工程(S2)は、抗菌加工品1の表面上を光学顕微鏡等で拡大し、その光学像をCCDカメラ等の撮像装置で撮像し、少なくとも関心領域の画像を取得する。関心領域は抗菌加工品1の表面4上の抗菌剤の露出部分5の露出率を求める範囲を定める領域であり、抗菌加工品1の表面4において任意の位置および面積で定めることができる。
【0065】
光学顕微鏡の光学像を撮像装置で撮像して得られる画像を取得する場合には、一つの撮像画像内において任意の位置および面積で定めるほか、複数の撮像画像を結合して得られる結合画像内において任意の位置および面積で定めることができる。
【0066】
図2(b)に示す撮像画像100は、画像全面を関心領域100aとする例を示している。撮像画像100は、染色された抗菌剤の露出部分5の画像部分100bが表示されている。図3は撮像画像の一例を示し、染色された抗菌剤の露出部分は濃く表示されている。
【0067】
(抽出工程)
抽出工程(S3)は、画像取得工程(S2)で取得した撮像画像から関心領域における染色部分を抽出する。染色部分の抽出は撮像画像を画像処理することで行うことができる。
【0068】
図2(c)に示す抽出画像101は、撮像画像100から染色部分の抽出した例を示している。ここでは、抽出した染色部分101bを白で示している。なお、抽出した染色部分101bの表示の濃淡や色彩は任意に定めることができる。以下では、染色部分101bの画像の信号強度は高く設定する例を示している。また、図4は抽出画像の一例を示し、図3で示した撮像画像から抽出した抗菌剤の露出部分を白で表示している。
【0069】
染色部分の抽出は、撮像画像から染色部分の輪郭形状を検出することで行うことができ、例えば、画像信号の信号強度の変化を検出するエッジ検出処理等の任意の画像処理によって行うことができる。
【0070】
図5〜図7は、染色部分を抽出する工程の一例である。
染色された部分と染色されていない部分との信号強度は、染色部分の輪郭部分を境界として信号強度が急峻に変化する。抽出工程では、この染色部分の輪郭部分に対応する信号強度をしきい値として求め、このしきい値を用いて撮像画像を二値化することによって、染色部分の抽出を行う。
【0071】
図3は、本発明の染色部分を抽出する画像処理を説明するためのフローチャートであり、図1中のS3の抽出工程の詳細な工程を説明するものである。
【0072】
抽出工程(S3)は、撮像画像の信号強度から染色部分を抽出するためのしきい値を求め(S31〜S33)、求めたしきい値と撮像画像の信号強度とを比較することによって、染色部分を抽出する。
【0073】
はじめに、撮像画像の信号強度に基づいて、しきい値に対する面積率を求める。ここで、面積率は、撮像画像の信号強度の最小値と最大値との範囲において、撮像画像の各信号強度をしきい値として、撮像画像の信号強度を二値化処理したときの面積率である。
【0074】
図6は各しきい値よりも小さな信号強度が占める面積率を表している。ここでは、しきい値の範囲として0〜256の範囲を設定した場合を示している。しきい値が最小値の0の場合には、0よりも小さな信号強度は存在しないため面積率は0となり、しきい値が最大値の256の場合には、全ての信号強度は256よりも小さいため面積率は1.0となる(S31)。
【0075】
次に、求めた面積率の変化率を求める(S32)。染色されていない部分から染色されている部分への面積率の変化において、染色されていない部分と染色されている部分との境界での面積率は極小値を表し、極小値を表すしきい値よりも大きな信号強度は染色されている部分と見なすことができる。
【0076】
図7は図6で求めた面積率の変化率を示している。図7に示す例では、しきい値が143の箇所で面積率の変化率が極小となり、このしきい値が染色されていない部分と染色されている部分との境界を表していると判断される(S33)。
【0077】
撮像画像の信号強度と求めたしきい値とを比較して信号強度を二値化する。二値化によって、撮像画像から染色部分を抽出することができる(S34)。
【0078】
(露出率算出工程)
露出率算出工程(S4)は、抽出工程(S3)で抽出した染色部分の輪郭面積あるいは染色部分の個数を求め、関心領域の面積に対する輪郭面積の面積率、あるいは関心領域における単位面積あたりの染色部分の露出個数を求める。
【0079】
輪郭面積は染色部分の輪郭内の面積であり、例えば輪郭内に存在する画素数を計数することによって算出することができる。また、輪郭線上に存在する画素については輪郭線の位置に基づいて按分することで求めることができる。これらの面積の算出は、公知の画像処理を適用することで行うことができる。
【0080】
また、染色部分の露出個数は、抽出工程(S3)で抽出した染色部分の個数であり、個数の計数は、公知の画像処理を適用することで行うことができる。
【0081】
面積率の算出工程は、図8のフローチャートにおいて、抽出工程(S3)で抽出した染色部分の輪郭面積を求め(S4a)、求めた輪郭面積を関心領域の面積で除算する(S4b)。
【0082】
露出個数の算出工程は、図9のフローチャートにおいて、抽出工程(S3)で抽出した染色部分の個数を計数し(S4A)、求めた染色部分の個数を単位面積あたりの個数に変換する。単位面積あたりの個数への変換は、染色部分の個数に関心領域の面積に対する単位面積の比率を乗ずることで求めることができる(S4B)。
【0083】
(抗菌性能算出工程)
抗菌性能算出工程(S5)は、露出率と抗菌性能との間の相関関係を予め求めておき、この相関関係に基づいて、露出率算出工程(S4)で求めた露出率から抗菌性能を求める。
【0084】
以下、図10,図11を用いて露出率が面積率の場合と露出部分の個数の場合について説明する。
【0085】
図10は、面積率と抗菌性能との間の相関関係の一例を示し、大腸菌(図中の丸印)と黄色ブドウ球菌(図中の三角印)の例を示している。
【0086】
ここで、抗菌性能は抗菌活性値の場合を示している。通常、抗菌性能の有無の目安として抗菌活性値が2.0の値が用いられる。抗菌活性値は、無加工品の24時間培養後菌数を抗菌加工品の24時間培養後菌数で除した数の対数値で定められるため、この抗菌活性値が2.0以上の場合は99%以上の死滅率に相当する。
【0087】
図10に示す相関関係の例によれば、露出部分の面積率が0.00100以上であれば、抗菌活性値はほぼ3.0以上であり、十分な抗菌活性値が得られると期待される。
【0088】
図11に示す相関関係の例によれば、露出部分の単位面積あたりの個数/mmが200以上であれば、抗菌活性値はほぼ2.0以上であり、十分な抗菌活性値が得られると期待される。
【0089】
(評価方法の実施のための構成例)
次に、図12,図13を用いて、本発明の評価方法を実施するための構成例について説明する。
【0090】
図12において、本発明の評価方法を実施するための一構成は、光学顕微鏡10と光学顕微鏡10の光学像を撮像して撮像画像を取得する撮像装置11と、撮像画像から抗菌剤の露出率を算出するための画像処理部20と、求めた露出率に基づく抗菌性能を算出する抗菌性能算出部31とを備える。画像処理部20は、染色部分を抽出する抽出部21、露出率を算出する露出率算出部22を含む。
【0091】
光学顕微鏡10と撮像装置11は、抗菌加工品1を撮像した撮像画像を取得する。この撮像画像の取得に際して、抗菌性能を評価する対象である抗菌加工品1は予め染色工程によって、少なくとも抗菌性能を評価する表面部分に染色剤を塗布あるいは浸す等によって、抗菌加工品の表面から露出している抗菌剤の露出部分を染色しておき、露出部分と非露出部分とを画像上で識別可能な状態としておく。
【0092】
染色部分を画像上で識別するために、染色部分の波長の画像を選択的に撮像する。染色部分の波長の画像を撮像する構成は、例えば、撮像装置の前面に染色部分の波長を選択的に通す光学フィルタを配置する構成とするほか、撮像装置の前面に分光器を配置し、染色部分の波長を選択的に撮像装置に導く構成とすることができる。
【0093】
図13(a)は光学フィルタを配置する構成例であり、光学顕微鏡10と撮像装置11とを結ぶ光学軸上に光学フィルタ12を配置し、染色部分の波長を選択的に撮像装置11に通して撮像画像を取得する。
【0094】
図13(b)は分光器を配置する構成例であり、光学顕微鏡10と撮像装置11とを結ぶ光学軸上に分光器13を配置し、分光器13で分光した波長の内、染色部分の波長を選択的に撮像装置11に通して撮像画像を取得する。
【0095】
本発明の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法によれば、抗菌加工品に試作段階において本発明の評価方法を用いて抗菌剤の露出率から間接的に抗菌性能を評価した後、最終段階の製品についてJIS Z 2801で定められる抗菌性能の試験を行うことによって、抗菌性能の評価に要する時間および費用を低減することができる。
【0096】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0097】
1 抗菌加工品
2 基材
3 抗菌剤
4 表面
5 露出部分
10 光学顕微鏡
11 撮像装置
12 光学フィルタ
13 分光器
20 画像処理部
21 抽出部
22 露出率算出部
31 抗菌性能算出部
100 撮像画像
100a 関心領域
100b 画像部分
101 抽出画像
101b 染色部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤の少なくとも一部が表面から露出してなる抗菌加工品の抗菌性能を評価する評価方法であり、
前記抗菌加工品の表面上に設定した関心領域の画像を取得し、
当該関心領域において表面から露出する抗菌剤の露出の程度を表す露出率を前記画像から求め、
予め求めておいた露出率と抗菌加工品の抗菌性能との相関関係に基づいて、前記求めた露出率に対応する抗菌性能を求め、求めた抗菌性能によって抗菌加工品の抗菌性能を評価することを特徴とする、抗菌加工品の抗菌性能の評価方法。
【請求項2】
前記抗菌剤の露出率は、前記抗菌剤が表面から露出する露出部分の輪郭面積の前記関心領域の面積に対する面積率であり、
前記抗菌加工品の表面から露出する抗菌剤の露出部分を染色する染色工程と、
前記抗菌加工品の表面上の少なくとも関心領域の画像を取得する画像取得工程と、
前記画像から前記関心領域における染色部分を抽出する抽出工程と、
前記抽出した染色部分の輪郭面積を求め、前記関心領域の面積に対する前記輪郭面積の面積率を求める面積率算出工程とを備え、
面積率と抗菌性能との間において予め求めておいた相関関係に基づいて、前記面積率算出工程で求めた面積率から抗菌性能を求めることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法。
【請求項3】
前記抗菌性能は抗菌活性値、または静菌活性値であり、
前記面積率と前記抗菌活性値または静菌活性値との間において予め求めておいた相関関係に基づいて、前記画像処理工程で求めた面積率から抗菌活性値または静菌活性値を求めることを特徴とする、請求項2に記載の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法。
【請求項4】
前記抗菌剤の露出率は、前記抗菌剤が表面から露出する前記抗菌剤の露出部分の単位面積あたりの個数であり、
前記抗菌加工品の表面から露出する抗菌剤の露出部分を染色する染色工程と、
前記抗菌加工品の表面上の少なくとも関心領域の画像を取得する画像取得工程と、
前記画像から前記関心領域における染色部分を抽出する抽出工程と、
前記抽出した染色部分の個数を求め、求めた染色部分の個数を単位面積あたりの個数に変換して単位面積あたりの露出個数を求める露出個数算出工程とを備え、
露出部分の単位面積あたりの露出個数と抗菌性能の間で予め求めておいた相関関係に基づいて、前記画像処理工程で求めた露出部分の単位面積あたりの露出個数から抗菌性能を求めることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法。
【請求項5】
前記抗菌性能は抗菌活性値、または静菌活性値であり、
前記露出部分の露出個数と前記抗菌活性値または静菌活性値との間で予め求めておいた相関関係に基づいて、前記画像処理工程で求めた露出部分の単位面積あたりの露出個数から抗菌活性値または静菌活性値を求めることを特徴とする、請求項4に記載の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法。
【請求項6】
前記抗菌剤は炭酸カルシウムを焼成してなる酸化カルシウムを水和して生成される水酸化カルシウムが主成分であり、当該水酸化カルシウムを染料により染色することを特徴とする、請求項1から5の何れか一つに記載の抗菌加工品の抗菌性能の評価方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−24587(P2013−24587A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156686(P2011−156686)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(509069973)クリア・オフィス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】