説明

摺動部材用繊維強化樹脂組成物及び積層摺動部材

【課題】ポリエステル繊維織布の表面処理が不要でありかつフェノール樹脂との十分な接着性が得られ摩擦摩耗特性に優れた繊維強化樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂と、四フッ化エチレン樹脂とを配合した樹脂組成物を、ポリエステル繊維織布に対し含浸してなる摺動部材用繊維強化樹脂組成物であり、好適には、レゾール型フェノール樹脂を40〜60重量%、四フッ化エチレン樹脂を10〜30重量%、及びポリエステル繊維織布を25〜35重量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受等の摺動部材に用いられる繊維強化樹脂組成物及びこれを使用した積層摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、綿布を補強基材とし、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性合成樹脂に対し四フッ化エチレン樹脂を添加した樹脂組成物を含浸してなる繊維強化樹脂組成物が知られている。さらに、この繊維強化樹脂組成物を平板状あるいは円筒状に積層して形成した積層摺動部材も知られている(特許文献1等)。このような積層摺動部材は、耐摩耗性及び耐荷重性に優れ、剛性にも優れており、例えば油圧シリンダーのピストン外周面に嵌着されるウエアリングや水中用の滑り軸受等として使用されている。フェノール樹脂は、特に水潤滑で優れた性能を示す特徴がある。これは、その表面特性によるところが大きいとされている。具体的には、基材である綿布に水分が吸着し易いこと、並びに、フェノール樹脂のOH基と水との親和性がよいことが挙げられる。
【0003】
しかしながら、綿布とフェノール樹脂とからなる繊維強化樹脂組成物を用いて作製された積層摺動部材は、湿潤な雰囲気あるいは水中で使用した場合、膨潤して寸法変化をきたし、相手軸とのクリアランス(軸受隙間)を一定に保ち難いという問題がある。この積層摺動部材の膨潤は、主として補強基材である綿布の高吸水性に起因している。このことから、綿布以外の補強基材として、低吸水性であるポリエステル繊維やポリアクリロニトリル繊維などの合成繊維織布が注目されている。加えて、これらの合成繊維織布は、比較的安価であること、樹脂に対する補強効果を具備していること等の利点を有する。
【0004】
特許文献2には、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリルニトリル繊維又は炭素繊維等の織布を補強基材とし、フッ素系ポリマーを添加したフェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂又はアルキド樹脂等の熱硬化性合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂組成物並びにこれを用いた滑りベアリングが開示されている。これらの合成繊維と合成樹脂との接着性を改善するために、合成樹脂に対し接着性改良剤としてポリアミドの共縮合生成物及びポリビニルアルコール誘導体を添加している(特許文献2[0023])
【0005】
特許文献3には、ポリエステル繊維織布を補強基材とし、不飽和ポリエステル樹脂を含浸させ積層した強化プラスチック板が開示されている。ポリエステル繊維は官能基に乏しいため、そのままでは不飽和ポリエステル樹脂との接着が困難という問題点がある。そこで、特許文献3では、樹脂との接着性すなわち親和性を改善するために、ポリエステル繊維を、ビスフェノール系エポキシ系接着剤と有機溶剤で150℃以下の温度で5〜120分間加熱処理している(特許文献3、第1頁右欄1〜6行)。
【0006】
また、非特許文献1は、複合材料における基材であるポリエステル繊維織布と、マトリックスである樹脂との界面接着性を改善するために、次のようなポリエステル繊維の表面処理技術を開示している。
(1)ポリエステル繊維が加水分解、アミン分解、加アルコール分解等を受けやすい性質を利用し、カルボキシル基、水酸基、アミド基の数を増やし、水系接着剤RFL(レソルシル・ホルマリン・ラテックス)との濡れ性を良くしたり、あるいは反応性を賦与し接着性を向上させる化学処理
(2)電子線、紫外線、低温プラズマによる物理処理
(3)イソシアネート系化合物による表面処理
(4)エチレンウレア、エチレンウレタン、フェニルウレタン等による表面処理
(5)アルカリによる表面処理
【特許文献1】特公昭39−14852号公報
【特許文献2】特開平4−225037号公報
【特許文献3】特公昭43−27504号公報
【非特許文献1】材料技術研究協会編集委員会編「複合材料と界面」総合技術出版、1986年5月10日発行 161頁〜166頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2、3や非特許文献1に記載のポリエステル繊維の表面処理技術には、以下のような問題点がある。
・作業上、毒性が著しい場合がある。
・処理溶液が温湿度による影響を受け易く安定性がない。
・処理液を多量に必要とするため高コストとなる。
・ポリエステル繊維自体を劣化させる場合がある。
よって、ポリエステル繊維の表面処理方法として、十分な接着性向上効果が得られかつ安全性もある技術は、確立されているとは言い難い。これらの問題点は、このような繊維強化樹脂組成物を利用して製造される積層摺動部材の問題点でもある。
【0008】
以上の現状から、本発明は、ポリエステル繊維織布を補強基材としてフェノール樹脂を含浸させた繊維強化樹脂組成物において上記の問題点を解決することを目的とする。特に、補強基材であるポリエステル繊維織布におけるポリエステル繊維の表面処理が不要でありかつフェノール樹脂との十分な接着性が得られる繊維強化樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、その繊維強化樹脂組成物を用いて作製された滑り軸受け等の積層摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、四フッ化エチレン樹脂を添加した特定のレゾール型フェノール樹脂がポリエステル繊維との親和性に優れており、ポリエステル繊維に表面処理を施さずともフェノール樹脂との良好な接着性が得られることを見出したことにより、実現されたものである。
【0010】
本発明による摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂と四フッ化エチレン樹脂とを配合した樹脂組成物を、ポリエステル繊維織布に対し含浸してなるものである。このレゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15である。
【0011】
上記において、レゾール型フェノール樹脂を40〜60重量%、四フッ化エチレン樹脂を10〜30重量%、及び前記ポリエステル繊維織布を25〜35重量%含むことが好適である。
【0012】
上記フェノール類がビスフェノールA以外のフェノール類を含む場合、そのビスフェノールA以外のフェノール類は、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール及びフェニルフェノールからなる群から選択された1又は複数のフェノール類である。
【0013】
上記ホルムアルデヒド類は、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド及びp−ヒドロキシベンズアルデヒドからなる群から選択された1又は複数のホルムアルデヒド類である。
【0014】
上記アミン類は、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルメチルアミン及びアンモニア水からなる群から選択された1又は複数のアミン類である。
【0015】
上記四フッ化エチレン樹脂は、高分子量四フッ化エチレン樹脂又は低分子量四フッ化エチレン樹脂のいずれかである。
【0016】
本発明による積層摺動部材は、全体形状が平板状でありかつ少なくとも摺動面において上記の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層したもの、あるいは、全体形状が円筒状でありかつ少なくとも摺動面において上記の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層巻回したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明による摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、ポリエステル繊維織布に対し、特定のレゾール型フェノール樹脂と四フッ化エチレン樹脂とを配合した樹脂組成物を含浸させたものである。ポリエステル繊維は疎水性であるので、高湿度雰囲気や水中で使用した場合にも綿布によるものに比べて膨潤量が小さい。特に、レゾール型フェノール樹脂、四フッ化エチレン樹脂及びポリエステル繊維織布をそれぞれ特定の割合で含有させた場合は、以下に記載する効果が十分に得られる。
【0018】
本発明における特定のレゾール型フェノール樹脂、すなわちビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂は、疎水性であるポリエステル繊維との親和性に優れている。従って、このレゾール型フェノール樹脂は、ポリエステル繊維織布に対し十分に含浸し強固に接着することができる。この結果、従来必要であったポリエステル繊維又はその織布に対する表面処理が不要となる。よって、従来の表面処理に伴う作業上の毒性の問題、高コストの問題等を解消できる。また、この接着性の強化によって耐膨潤性もさらに向上する。
【0019】
本発明による繊維強化樹脂組成物は、優れた積層摺動部材となる。この繊維強化樹脂組成物を複数枚積層し互いに接合して形成された積層摺動部材は、剛性が高く、機械的強度に優れると共に、四フッ化エチレン樹脂を含有することにより摩擦摩耗特性が改善される。同時に、高湿潤雰囲気や水中での使用においても膨潤量が極めて小さい。この結果、積層摺動部材の使用経過に伴う寸法変化も極めて小さいものとなる。よって、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件及び水潤滑条件など幅広い用途への適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明による摺動部材用繊維強化樹脂組成物及びこれを用いた積層摺動部材の実施形態を説明する。
本発明による摺動部材用繊維強化樹脂組成物(以下、単に「繊維強化樹脂組成物」と称する場合がある)は、補強基材であるポリエステル繊維織布に対し、レゾール型フェノール樹脂と四フッ化エチレン樹脂とを含む樹脂組成物を含浸させて形成されたものである。特に、このレゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成されたものである。加えて、このレゾール型フェノール樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15である。
【0021】
上記のように、本発明において使用されるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類のうち、ビスフェノールA(C1516)の割合を50〜100モル%とする。これは、合成開始時に投入する全フェノール類の合計モル数に対するビスフェノールAのモル数の比率である。
【0022】
合成後のレゾール型フェノール樹脂は、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ分子量分布の分散度Mw/Mnが2.5〜15である。分散度Mw/Mnは、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比である。このレゾール型フェノール樹脂では、補強基材としてのポリエステル繊維織布との親和性が格段に向上している。従って、ポリエステル繊維織布に表面処理を施すことなく、ポリエステル繊維織布との接着性が良好な繊維強化樹脂組成物を得ることができる。この繊維強化樹脂組成物を用いて形成された積層摺動部材は、剛性が高く、機械的強度に優れていると共に、水中など湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さい。
【0023】
上記のレゾール型フェノール樹脂において、ビスフェノールAが50モル%未満では、ポリエステル繊維織布との充分な親和性が得られず、ポリエステル繊維織布との充分な接着性を得ることができない。また、GPC測定による数平均分子量Mn500〜1000であり、かつ分散度Mw/Mnが2.5〜15であることが必要である。数平均分子量Mnが500未満では、ポリエステル繊維織布との親和性が良好であっても機械的強度の低下をきたし、また数平均分子量Mnが1000を超えるとレゾール型フェノール樹脂の粘度が高くなりすぎてポリエステル繊維織布への含浸が困難となる。さらに分散度Mw/Mnが2.5未満ではポリエステル繊維織布との充分な接着力が得られず、また、分散度Mw/Mnが15を超えると、数平均分子量Mnが1000を超える場合と同様、ポリエステル繊維織布への含浸が困難となる。
【0024】
よって、ポリエステル繊維織布に含浸させるレゾール型フェノール樹脂において、フェノール類のビスフェノールAのモル比率、GPS測定による数平均分子量Mn及び分散度Mw/Mnを上記の範囲とすることにより、ポリエステル繊維織布に対する含浸性及び接着性を確保できると共に、繊維強化樹脂組成物の機械的強度を確保できる。
【0025】
なお、フェノール類中のビスフェノールAが100モル%未満のときは、ビスフェノールA以外のフェノール類を含むことになる。ビスフェノールA以外のフェノール類としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール、フェニルフェノール等を挙げることができ、中でもフェノールがその特性から好ましく使用される。これらのビスフェノールA以外のフェノール類は、夫々単独で使用してもよく、また二種類以上を混合物として使用してもよい。
【0026】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒドなどを挙げることができる。特に、合成の容易さからホルマリンやパラホルムアルデヒドが好ましく使用される。これらのホルムアルデヒド類は、夫々単独で使用してもよく、また二種類以上を混合物として使用してもよい。
【0027】
触媒として用いるアミン類としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、アンモニア水などを挙げることができ、中でもトリエチルアミンやアンモニア水が合成の容易さから好ましく使用される。
【0028】
本発明の繊維強化樹脂組成物中に含まれるレゾール型フェノール樹脂の含有量は、40〜60重量%が好適である。レゾール型フェノール樹脂の含有量が40重量%未満では、積層摺動部材への成形性(製造)に支障をきたし、また60重量%を超えると積層摺動部材の機械的強度を低下させる。
【0029】
上記レゾール型フェノール樹脂に配合される四フッ化エチレン樹脂(以下「PTFE」と略称する)としては、成形用のモールディングパウダー(以下「高分子量PTFE」と略称する)と、放射線照射などにより高分子量PTFEに比べて分子量を低下させたPTFE(以下「低分子量PTFE」と略称する)のいずれも使用できる。高分子量PTFEの分子量は、例えば約70万〜1000万又はそれ以上であり、低分子量PTFEの分子量は、例えば約1万〜50万程度である。低分子量PTFEは、主に添加材料として使用され、粉砕し易く分散性がよい。
【0030】
高分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7-J」、「テフロン(登録商標)7A-J」、「テフロン(登録商標)70-J」等、ダイキン工業社製の「ポリフロンM‐12(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンG163(商品名)」、「フルオンG190(商品名)」等が挙げられる。
【0031】
また、低分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP-10F(商品名)」等、ダイキン工業社製の「ルブロンL‐5(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンL150J(商品名)」、「フルオンL169J(商品名)」等、喜多村社製の「KTL‐8N(商品名)」等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、高分子量PTFE及び低分子量PTFEのいずれも使用することができるが、レゾール型フェノール樹脂と混合するにあたって、均一に分散しボイドを生成し難くするためには、低分子量PTFEの粉末が好ましい。また、PTFE粉末の平均粒径は、均一に分散し、ボイドの生成を防ぐという観点から、1〜50μm、好ましくは1〜30μmである。
【0033】
そして、摺動部材用繊維強化樹脂組成物中に含まれるPTFEの量は、10〜30重量%が適当である。PTFEの量が10重量%未満では、摩擦摩耗特性の向上に効果が得られず、また30重量%を超えると成形の際に樹脂の粘度が増大し、ボイドを生成する虞があることに加え、上記レゾール型フェノール樹脂の接着性を低下させ、積層摺動部材としての強度低下を来たしたり、層間剥離を惹起させる虞がある。
【0034】
本発明において使用されるポリエステル繊維織布は、ポリエステル繊維を常法により紡糸し、織布としたものである。ポリエステル繊維は、一般にジカルボン酸成分とジオール成分の重縮合により得られる。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸等がある。ジオール成分としては、エチレングリコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビフェニル等がある。また、両成分を兼ねるものとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、2−オキシ−6−ナフトエ酸等があげられる。代表的なポリエステルとして、テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエチレンテレフタレート(PET)がある。一般的なポリエステル繊維は、吸湿性、吸水性が少なく水分率0.4〜0.5%である。これに対し、綿は、通常8〜9%である。
【0035】
紡糸の形態は、長繊維を撚り合わせたフィラメント糸(フィラメント・ヤーン)であっても、短繊維を撚り合わせた紡績糸(スパン・ヤーン)であってもよい。また、織布の織物組織は特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織の三原組織、変化平織、変化綾織、変化朱子織等の変化組織、三原組織と変化組織の混合組織などを用いることができる。
【0036】
繊維強化樹脂組成物中に含まれるポリエステル繊維織布の量は、25〜35重量%が好適である。ポリエステル繊維織布の量が25重量%未満では、積層摺動部材としたときの補強効果が充分でなく、また35重量%を超えると積層摺動部材の成形(製造)に支障をきたすことになる。
【0037】
まとめると、繊維強化樹脂組成物中に含まれるレゾール型フェノール樹脂を40〜60重量%、四フッ化エチレン樹脂を10〜30重量%、及びポリエステル繊維織布を25〜35重量%とすることにより、成形性、機械的強度及び摩擦摩耗特性のいずれについても良好なものが得られる。
【0038】
次に、上記の摺動部材用繊維強化樹脂組成物及びこれを用いた積層摺動部材について、好ましい実施例を示した図を参照して説明する。
【0039】
図1は、摺動部材用繊維強化樹脂組成物のプリプレグ(樹脂加工基材)の製造方法の一例を概略的に示した図である。
図1に示す製造装置において、アンコイラ1に巻かれたポリエステル繊維織布からなる補強基材2は、送りローラ3によって容器5に送られる。容器5内には、四フッ化エチレン樹脂粉末を均一に分散したレゾール型フェノール樹脂ワニス4が貯えられている。そして、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられたレゾール型フェノール樹脂ワニス4内を通過させられることにより、補強基材2の表面に該レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗布される。続いて、レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗工された補強基材2は送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送られ、圧縮ロール9及び10の間を通過させられることにより、補強基材2の表面に塗布されたレゾール型フェノール樹脂ワニス4が、繊維組織隙間にまで含浸させられる。さらに、レゾール型フェノール樹脂ワニス4を塗布含浸された補強基材2が乾燥炉11内を通過させられることにより、溶剤を飛ばすと同時に樹脂ワニス4の反応を進行させる。これにより、成形可能な繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ(樹脂加工基材)12が作製される。
【0040】
レゾール型フェノール樹脂を揮発性溶剤に溶かして調製されるレゾール型フェノール樹脂ワニス4の固形分は、樹脂ワニス全体に対して約30〜65重量%であり、樹脂ワニスの粘度は、約800〜5000cPが好ましく、特に1000〜4000cPが好ましい。
【0041】
図2〜図4は、図1に示した繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用した平板状積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【0042】
図2に示すように、プリプレグ12を所望の平板面積が得られる方形状に切断したものを、所望の仕上がり厚さが得られる枚数だけ準備する。次いで、図3に示すように、加熱加圧装置の金型13の方形状の凹所14内に、所定の枚数のプリプレグ12を重ね合わせて積層したのち、金型13内で140〜160℃の温度に加熱し、4.9〜7MPaの圧力でラム15により積層方向に加圧成形して方形状の積層成形物を得る。積層されたプリプレグ12は互いに接合され、融着した状態となる。得られた積層成型物に対し、図4に示すように機械加工を施して平板状の積層摺動部材16を形成する。このように形成された平板状の積層摺動部材16は、剛性が高く機械的強度に優れていると共に摩擦摩耗特性に優れており、さらに、油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の滑り板等への適用が可能となる。
【0043】
再び図1〜図3及び図5を参照し、図1及び図2については括弧付き符号を用いて、平板状複合積層摺動部材の製造方法の一例を説明する。この複合積層摺動部材は、上述のプリプレグ12を少なくとも摺動面に利用し、別に準備した強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体と重ね合わせ接合して平板状の複合部材としたものである。
【0044】
先ず、図1に示す製造装置において、強化繊維織布17として、ガラス繊維織布、炭素繊維織布などの無機繊維織布、又はアラミド繊維織布(コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維織布)等の有機繊維織布を別途準備する。上記のレゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性合成樹脂を別途準備し、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの揮発性溶剤に溶かして形成される固形分がおおむね30〜60重量%で、粘度がおおむね800〜5000cPの熱硬化性合成樹脂ワニス18を作製し、容器5内に貯える。そして、図1に示す製造装置によって、成形可能な強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体用プリプレグ19を作製する。
【0045】
次に、図2に示すように、積層基体用プリプレグ19を所望の平板面積が得られる方形状に切断したものを、所望の仕上がり厚さが得られる枚数だけ準備する。次いで、図3に示すように、加熱加圧装置の金型13の方形状の凹所14内に、所定の枚数の積層基体用プリプレグ19を重ね合わせて積層した後、その上面に上述したプリプレグ12と同じ構成のプリプレグを、所望の仕上がり厚さが得られる枚数だけ積層する。このプリプレグ12は、摺動面用プリプレグである。これらを金型13内において積層方向に加熱、加圧して方形状の積層成形物を得る。得られた積層成型物に対し、図5に示すように機械加工を施して平板状複合積層摺動部材20を作製する。
【0046】
このようにして作製した平板状複合積層摺動部材20は、強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体21と、この積層基体21の一方の表面に一体に接合された繊維強化樹脂組成物からなる積層摺動層22とを具備している。平板状複合積層摺動部材20は、その全体が平板状であり、その一部である積層基体21及び積層摺動層22もそれぞれ平板状である。積層摺動層22は、プリプレグ12から形成されたものである。積層摺動層22の露出した表面が摺動面となる。この平板状複合積層摺動部材20において、積層摺動層22は、摩擦摩耗特性に優れていると共に耐荷重性が高められている。さらに、油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の滑り板等への適用が可能となる。
【0047】
図6及び図7は、図1に示した繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用した円筒状積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【0048】
円筒状の積層摺動部材は、ロールド成形装置を用いたロールド成形により作製することができる。図6に示すように、ロールド成形装置においては、通常、2つの加熱ローラ23と1つの加圧ローラ24を夫々を、軸方向から見て三角形の頂点に位置するように配置する。さらに、これら3つのローラ23、23及び24の真ん中に芯型25を置く。そして、この芯型25に、プリプレグ12の一端を固定した後、芯型25を一定方向に駆動回転させ、3つのローラ23、23及び25によって加熱及び加圧しながら円筒状の積層体27を巻いていく。
【0049】
図6に示すロールド成形装置において、予め120〜200℃の温度に加熱された芯型25の外周面に、所定の幅に切断したプリプレグ12を、基材巻きローラ26より120〜200℃に加熱された加熱ローラ23を介して供給し、2〜6MPaの圧力を掛けて加圧ローラ24で所望の厚さ(直径)まで複数層巻回してロールド成形する。このようにして成形された円筒状の積層体27を芯型25に保持した状態で120〜180℃の雰囲気温度に調整された加熱炉で加熱硬化させたのち冷却し、芯型25を抜き取り、円筒状の積層体27を成形する。次いで、図7に示すように、成形した円筒状の積層体27に機械加工を施して所望の寸法を有する円筒状の積層摺動部材28を形成する。このように形成された円筒状の積層摺動部材28は、剛性が高く機械的強度に優れていると共に摩擦摩耗特性に優れており、さらに、油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の滑り板等への適用が可能となる。
【0050】
図8及び図9は、図1に示した繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用した円筒状複合積層摺動部材の製造方法の一例を説明する。この複合積層摺動部材は、上述のプリプレグ12を少なくとも摺動面に利用し、別に準備した強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体と重ね合わせ接合して円筒状の複合部材としたものである。
【0051】
図8に示すロールド成形装置において、予め120〜200℃の温度に加熱された芯型25の外周面に、所定の幅に切断したプリプレグ12と同様のプリプレグを、摺動面用プリプレグとしてこれを所定の中間厚さ(直径)となるまで複数層巻回する。その後、その外周に、上述の強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体用プリプレグ19と同様の積層基体用プリプレグを、基材巻きローラ26より120〜200℃に加熱された加熱ローラ23を介して供給し、2〜6MPaの圧力を掛けて加圧ローラ24で所望する最終厚さ(直径)まで複数層巻回してロールド成形する。このようにして成形された円筒状積層体29を芯型25に保持した状態で120〜180℃の雰囲気温度に調整された加熱炉で加熱硬化させた後、冷却し、芯型25を抜き取り、円筒状積層体29を成形する。次いで、このように作製された円筒状積層体29に機械加工を施して、図9に示すように所望の寸法を有する円筒状複合積層摺動部材30を形成する。このように形成された円筒状複合積層摺動部材30においては、円筒状積層基体31の内面に一体に接合された円筒状積層摺動層32は、その内周面が摺動面として機能する。円筒状積層摺動層32は、摩擦摩耗特性に優れていると共に耐荷重性が高められており、さらに油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の滑り軸受け等への適用が可能となる。
【0052】
図10及び図11は、図7に示した円筒状の積層摺動部材28を用いて形成されたウエアリング33及びこれを用いた油圧シリンダ35をそれぞれ示している。図10は、ウェアリング33の一部切欠き側面図であり、円筒軸線を1点破線Xで示している。ウエアリング33は、図7の円筒状の積層摺動部材28に機械加工を施し、外径D=18〜1000mm、厚さt=2〜5mm、幅W=8〜70mmの寸法に形成したのち、筒壁の一部に、軸線Xに対してθ=45°の角度で幅S=1〜28mmのスリット34を穿設することにより形成される。図11は、図10のウエアリング33を使用した油圧シリンダ35のシリンダ軸方向に沿った断面図である。油圧シリンダ35内に設けられたピストン36については、その円筒側面を示しているが、上方部分は断面を示している。ピストン36の外周面37には、中央の環状溝38と、これを挟んで軸方向に離間した2つの環状溝40、40が形成されている。中央の環状溝38にはピストンパッキン39が嵌着されている。ウェアリング33は、環状溝40、40に嵌着されて使用される。
【0053】
このウエアリング33は、摩擦摩耗特性に優れていると共に、剛性が高く機械的強度に優れているので、破損、変形等を生じることがなく、また膨潤量が小さいことから、油圧シリンダ35の内周面41との円滑な摺動を行わせることができ、ピストン36と油圧シリンダ35の内周面41との間での油漏れを防止することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を各実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(1)試料の作製
下記の通り、実施例1〜5及び比較例1、2の平板状積層摺動部材、及び、実施例6〜8及び比較例3、4の円筒状積層摺動部材の各試料を作製した。
【0055】
<実施例1〜3(平板状)>
補強基材は、縦糸及び横糸として綿番手20の紡績糸を使用し、縦糸の打ち込み本数を43本/インチ、横糸の打ち込み本数を42本/インチとし平織にて作製したポリエステル繊維織布を使用した。
【0056】
撹拌機、温度計及び冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA300gと37%ホルムアルデヒド水溶液192gを投入し、撹拌しながら25%アンモニア水溶液9gを投入したのち、常圧下で昇温し90℃の温度に到達後、2.5時間縮合反応させた。
その後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。
次いで、メタノール64gを添加して常圧下で85℃の温度まで昇温し、4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂(固形分60重量%のワニス)を作製した。
実施例1〜3では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、100モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6であった。
【0057】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに対し、PTFEとして低分子量PTFE(喜多村社製KTL−8N(商品名))粉末を、各実施例毎に所定量配合し分散させた混合溶液を準備し、上述の図1に示した製造装置の容器5に貯えた。
【0058】
そして、図1に示した製造装置を使用し、アンコイラ1に巻かれたポリエステル繊維織布からなる補強基材2を送りローラ3によって上記レゾール型フェノール樹脂ワニス4を貯えた容器5に送り、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられたレゾール型フェノール樹脂ワニス4内を通過させることにより、補強基材2の表面にレゾール型フェノール樹脂ワニス4を塗布した。次いで、レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗布された補強基材2を送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送り、圧縮ロール9及び10によって補強基材2の表面に塗布されたレゾール型フェノール樹脂ワニス4を、繊維組織隙間にまで含浸させた。そして、レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗布含浸された補強基材2に対して乾燥炉11に送り、溶剤を飛ばすと同時に該樹脂ワニス4の反応を進めた。
以上により、成形可能な繊維強化樹脂組成物のプリプレグ(樹脂加工基材)を作製した。
【0059】
実施例1〜3の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、それぞれ次の通りである。
実施例1は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが15重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が55重量%である。
実施例2は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
実施例3は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが30重量%、残部レゾール型フェノール樹脂が40重量%である。
【0060】
さらに、得られた繊維強化樹脂組成物のプリプレグを一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを一辺の長さが31.5mm、深さが6mmの凹所を有する前述の図3に示した加熱加圧装置の金型の凹所内に10枚重ね合わせて積層したのち、金型内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して、上記実施例1〜3の成分組成からなる方形状の積層成形物を得た。得られた積層成型物に機械加工を施し、一辺が30mm、厚さが5mmの平板状積層摺動部材を作製した。
【0061】
<実施例4(平板状)>
上記実施例1と同様のセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160gと37%ホルムアルデヒド水溶液79gを投入し、撹拌しながらトリエチルアミン1.3gを投入したのち、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1時間縮合反応させた。その後一旦冷却し、フェノール32gと37%ホルムアルデヒド水溶液30gとトリエチルアミン0.3gとを投入した。次いで、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で2時間縮合反応を行った後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。次いで、メタノール24gを投入し常圧下で90℃の温度まで昇温し4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂(固形分60重量%のワニス)を作製した。
実施例4では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、67.4モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは720、分子量分布の分散度Mw/Mnは14.3であった。
【0062】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに、PTFEとして低分子量PTFE(上記実施例2と同じ量)粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示した製造装置の容器に貯えた。以下、実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で、成形可能な繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0063】
実施例4の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0064】
このプリプレグを一辺の長さが31mmの方形状に切断し、以下、上記実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mmの平板状積層摺動部材を作製した。
【0065】
<実施例5(平板状)>
上記実施例1と同様のセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160gとブチルフェノール18gと37%ホルムアルデヒド水溶液91gを投入し、撹拌しながらトリエチルアミン1.4gを投入した後、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1.5時間縮合反応させた。その後一旦冷却し、フェノール42gと37%ホルムアルデヒド水溶液とトリエチルアミン0.4gを投入した。次いで常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1.5時間縮合反応を行った後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。次いで、メタノール24gを投入し常圧下で90℃の温度まで昇温し4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂(固形分60重量%のワニス)を作製した。
実施例5では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、55.4モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは680、分子量分布の分散度Mw/Mnは11.8であった。
【0066】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに、PTFEとして低分子量PTFE(上記実施例2と同じ量)粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示した製造装置の容器に貯えた。以下、実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で、成形可能な繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0067】
実施例5の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0068】
このプリプレグを一辺の長さが31mmの方形状に切断し、以下、上記実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mmの平板状積層摺動部材を作製した。
【0069】
<実施例6(円筒状)>
上述の実施例2で得たプリプレグと同様のプリプレグを用いた。
実施例6の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0070】
実施例6では、実施例2と同様に、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、100モル%であり、得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6である。
【0071】
上述の図5に示したロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型19の外周面に、このブリプレグを基材巻きローラ26より予め150℃の温度に加熱された加熱ローラ23を介して供給し、5MPaの圧力を掛けて加圧ローラ24で15周巻回してロールド成形を行った。次いで、円筒状積層体19を芯型25に保持した状態で150℃の雰囲気温度に調整した加熱炉で加熱硬化させたのち冷却し、芯型25を抜き取り、円筒状の積層体を作製した。この円筒状積層体に機械加工を施し、内径40mm、外径50mm、長さ30mmの円筒状積層摺動部材を作製した。
【0072】
<実施例7(円筒状)>
上述の実施例4で得たプリプレグと同様のプリプレグを用いた。
実施例7の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0073】
実施例7では、実施例4と同様に、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、67.4モル%であり、得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは720、分子量分布の分散度Mw/Mnは14.3である。
【0074】
上述の実施例6と同様に、図5に示したロールド成形装置を使用して、内径40mm、外径50mm、長さ30mmの円筒状積層摺動部材を作製した。
【0075】
<実施例8(円筒状)>
上述の実施例5で得たプリプレグと同様のプリプレグを用いた。
実施例8の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、ポリエステル繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0076】
実施例8では、実施例5と同様に、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、55.4モル%であり、得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは680、分子量分布の分散度Mw/Mnは11.8である。
【0077】
上述の実施例6と同様に、図5に示したロールド成形装置を使用して、内径40mm、外径50mm、長さ30mmの円筒状積層摺動部材を作製した。
【0078】
<比較例1(平板状)>
補強基材として、縦糸及び横糸を綿番手20の紡績糸を使用し、縦糸の打ち込み本数を60本/インチ、横糸の打ち込み本数を60本/インチで平織して作製した細糸織布(綿)を使用した。
【0079】
上述の実施例4と同様のセパラブルフラスコに、フェノール200gと37%ホルムアルデヒド水溶液190gを投入し、撹拌しながら25%アンモニア水溶液8gを投入した後、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1時間縮合反応させた後、0.015MPaの減圧下で90℃の温度まで昇温して水分を除去した。次いで、メタノール37gを投入し、常圧下で85℃の温度まで昇温し1時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂(固形分60重量%のワニス)を作製した。
【0080】
比較例1では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比は、0モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは600、分子量分布の分散度Mw/Mnは3.4であった。
【0081】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに黒鉛粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示した製造装置の容器5に貯えた。図1に示した製造装置を使用し、アンコイラに巻かれた細糸織布からなる補強基材を、送りローラ3によって混合溶液を貯えた容器5に送り、容器内に設けられた案内ローラ6、7によって容器内に貯えられた混合溶液内を通過させることにより、補強基材の表面に混合溶液を塗布した。ついで、この混合溶液を塗布した補強基材を送りローラ8によって圧縮ロール9、10に送り、圧縮ロールによって補強基材の表面に塗布した混合溶液を繊維組織隙間にまで含浸させた。そして、混合溶液を含浸塗布した補強基材を乾燥炉11内に送り、補強基材中の溶剤を飛ばすと同時に混合溶液の反応を進め、成形可能な繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0082】
比較例1の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、細糸織布(綿)が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。
【0083】
このプリプレグを、一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを図3に示した加熱加圧成形装置の金型の凹所に10枚重ねて積層した後、金型内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して方形状の積層成形物を得た。この積層成形物に機械加工を施して一辺が30mm、厚さが5mmの平板状積層摺動部材を作製した。
【0084】
<比較例2(平板状)>
補強基材として、上記比較例1と同様の細糸織布(綿)を使用した。
【0085】
上記実施例4と同様のビスフェノールAのモル比率67.4モル%をもつフェノール類を用いてレゾール型フェノール樹脂(固形分60重量%のワニス)を作製した。但し、得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは1100、分子量分布の分散度Mw/Mnは16.7である。
【0086】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに黒鉛粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示した製造装置の容器に貯えた。以下、上記比較例1と同様にして、成形可能な繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0087】
比較例2の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、細糸織布(綿)が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。
【0088】
このプリプレグを、一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを図3に示した加熱加圧成形装置の金型の凹所に10枚重ねて積層した後、金型内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して方形状の積層成形物を得た。この積層成形物に機械加工を施して一辺が30mm、厚さが5mmの平板状積層摺動部材を作製した。
【0089】
<比較例3(円筒状)>
上述の比較例1で得たプリプレグと同様のプリプレグを用いた。
比較例3の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、細糸織布(綿)が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。
【0090】
従って、比較例3では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比は、0モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは600、分子量分布の分散度Mw/Mnは3.4である。
【0091】
図5に示したロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型の外周面に対し、このプリプレグを、基材巻きローラより予め150℃の温度に加熱された加熱ローラを介して供給し、以下前記実施例6〜8と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ30mmの円筒状積層摺動部材を作製した。
【0092】
<比較例4(円筒状)>
上述の比較例2で得たプリプレグと同様のプリプレグを用いた。
比較例4の繊維強化樹脂組成物の成分組成は、細糸織布(綿)が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。
【0093】
従って、比較例4では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比は、67.4モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは1100、分子量分布の分散度Mw/Mnは16.7である。
【0094】
図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型の外周面に対し、このプリプレグを、基材巻きローラより予め150℃の温度に加熱された加熱ローラを介して供給し、以下前記実施例6〜8と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ30mmの円筒状積層摺動部材を作製した。
【0095】
(2)試験方法及び結果
次に、上記した実施例1〜8及び比較例1〜4の積層摺動部材について、摩擦摩耗特性、水中における膨潤量(%)及び機械的強度を試験した方法及び結果を説明する。
【0096】
<実施例1〜5及び比較例1〜2の平板状試料の摩擦摩耗特性の試験方法>
スラスト試験を行い、表1に記載の条件で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩耗量については、試験時間30時間の終了後の寸法変化量で示した。
【0097】
【表1】

【0098】
<実施例6〜8及び比較例3〜4の円筒状試料の摩擦摩耗特性の試験方法>
ジャーナル揺動試験を行い、表2に記載の条件で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩耗量については、試験時間100時間の終了後の寸法変化量で示した。
【0099】
【表2】

【0100】
<膨潤量の試験方法>
水温20℃の水中に120日間浸漬し、その後取出して寸法変化率及び重量変化率を測定した。
【0101】
<試験結果>
上記摩擦摩耗試験及び膨潤量の試験結果を表3及び表4に示す。
表3及び表4において、レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量Mn及び分散度Mw/Mnの測定は、GPCにより測定し、数値はポリスチレン標準物質による検量線から算出した。計測装置等は以下の通りである。
GPC装置:東ソー社製HLC−8120
カラム:東ソー社製TSKgel G3000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×10〕1本に続けて、TSKgel G2000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×10〕2本使用
検出器:東ソー社製のUV−8020
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
(注1)表3及び表4中のビスフェノールAのモル比率=(投入時のビスフェノールAのモル数/投入時のフェノール類の合計モル数)×100(モル%)
(注2)表3中の比較例1、2のスラスト試験の潤滑(ドライ)条件での*印を付した摩擦係数は、試験時間30時間に到達する前に摩擦係数が急激に上昇し、試験を中止したため、急激に上昇する前の摩擦係数の値を示し、摩耗量は試験を中止した時点の摩耗量の値を示したものである。
(注3)表4中の比較例3、4の面圧29.4MPaでのジャーナル揺動試験においては、試験開始直後に摩擦係数が急激に上昇し、試験を中止したため、摩擦係数及び摩耗量の測定ができなかった。
(注4)表4中の圧環強さは、JIS K2507の規定に準拠して求めた値である。
【0105】
上記試験結果から、実施例1〜実施例8の積層摺動部材は、比較例1〜比較例4の積層摺動部材よりも膨潤量が大幅に減少しており、摩擦摩耗特性も大幅に向上していると共に機械的強度においても大幅に向上していることが分かる。
【0106】
以上のように、本発明の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂と、四フッ化エチレン樹脂とを配合した樹脂組成物を、ポリエステル繊維織布に対し含浸してなるものである。この摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、ポリエステル繊維織布との親和性に優れ、接着性に優れている。さらに、この繊維強化樹脂組成物を積層して形成した積層摺動部材は、優れた摩擦摩耗特性を有すると共に、剛性が高く、機械的強度に優れている。加えて、この積層摺動部材は、水中など湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、膨潤に起因する寸法変化も極めて小さいものとなり、乾燥摩擦(ドライ)条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途への適用が可能である。例えば、油圧シリンダのピストン外周面に嵌着されるウエアリング、滑り板や滑り軸受あるいは水中用滑り軸受等の摺動部材への適用を可能とするものでる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】摺動部材用繊維強化樹脂組成物のプリプレグの製造装置を示す説明図である。
【図2】摺動部材用繊維強化樹脂組成物のプリプレグを示す斜視図である。
【図3】図1に示した繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを使用した平板状の積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【図4】平板状の積層摺動部材を示す斜視図である。
【図5】平板状の複合積層摺動部材を示す斜視図である。
【図6】図1に示した繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを使用した円筒状の積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【図7】円筒状の積層摺動部材を示す斜視図である。
【図8】図1に示した繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ及び積層基体用プリプレグを使用した円筒状の複合積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【図9】円筒状の複合積層摺動部材を示す斜視図である。
【図10】図7に示した円筒状の積層摺動部材を用いて形成されたウエアリング示す側面図である。
【図11】図7に示した円筒状の積層摺動部材を用いて形成された油圧シリンダ示す断面図である。
【符号の説明】
【0108】
2 補強基材(ポリエステル繊維織布)
4 ワニス
12 繊維強化樹脂組成物(プリプレグ)
16 平板状の積層摺動部材
19 強化繊維織物樹脂組成物(積層基体用プリプレグ)
20 平板状の複合積層摺動部材
22 円筒状の積層摺動部材
30 円筒状の複合積層摺動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂と、四フッ化エチレン樹脂とを配合した樹脂組成物を、ポリエステル繊維織布に対し含浸してなる摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
前記レゾール型フェノール樹脂を40〜60重量%、前記四フッ化エチレン樹脂を10〜30重量%、及び前記ポリエステル繊維織布を25〜35重量%含む、請求項1に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール類が前記ビスフェノールA以外のフェノール類を含む場合、該ビスフェノールA以外のフェノール類が、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール及びフェニルフェノールからなる群から選択された1又は複数のフェノール類である、請求項1又は2に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記ホルムアルデヒド類が、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド及びp−ヒドロキシベンズアルデヒドからなる群から選択された1又は複数のホルムアルデヒド類である、請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
前記アミン類が、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルメチルアミン及びアンモニア水からなる群から選択された1又は複数のアミン類である、請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記四フッ化エチレン樹脂が、高分子量四フッ化エチレン樹脂又は低分子量四フッ化エチレン樹脂のいずれかである、請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
全体形状が平板状でありかつ少なくとも摺動面において請求項1〜6のいずれかに記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層した積層摺動部材。
【請求項8】
全体形状が円筒状でありかつ少なくとも摺動面において請求項1〜6のいずれかに記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層巻回した積層摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−91447(P2009−91447A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262979(P2007−262979)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】