説明

摺動部材用繊維強化樹脂組成物及び積層摺動部材

【課題】PPS繊維織布の表面処理が不要でありかつフェノール樹脂との十分な接着性が得られ摩擦摩耗特性に優れた摺動部材用繊維強化樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂をPPS繊維織布に対し含浸してなる摺動部材用繊維強化樹脂組成物、又は、該レゾール型フェノール樹脂とPTFEとをPPS繊維織布に対し含浸してなる摺動部材用繊維強化樹脂組成物、並びにこれらにより形成された積層摺動部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受等の摺動部材に用いられる繊維強化樹脂組成物及びこれを使用した積層摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、補強基材である綿布に対しフェノール樹脂を含浸してなる繊維強化樹脂組成物、あるいは補強基材である綿布に対しフェノール樹脂に四ふっ化エチレン樹脂を添加した樹脂組成物を含浸してなる繊維強化樹脂組成物が知られている(特許文献1)。この繊維強化樹脂組成物を平板状あるいは円筒状に積層して形成した積層摺動部材は、耐摩耗性及び耐荷重性に優れ、剛性にも優れる。このような積層摺動部材は、例えば油圧シリンダーのピストン外周面に嵌着されるウェアリングや水中用の滑り軸受等として使用されている。フェノール樹脂は、特に水潤滑で優れた性能を示す特徴がある。これは、その表面特性によるところが大きいとされている。具体的には、基材である綿布に水分が吸着し易いこと、並びに、フェノール樹脂のOH基と水との親和性がよいことが挙げられる。
【0003】
しかしながら、綿布とフェノール樹脂とからなる繊維強化樹脂組成物を用いて作製された円筒状積層摺動部材は、湿潤な雰囲気あるいは水中で使用した場合、膨潤して寸法変化をきたし、相手軸とのクリアランス(摺動隙間)を一定に保ち難いという問題がある。この円筒状積層摺動部材の膨潤は、主として補強基材である綿布の高吸水性に起因している。このことから、水中用途においては綿布以外の補強基材として、低吸水性であるポリエステル繊維やポリアクリロニトリル繊維などの合成繊維織布が注目されている。
【0004】
特許文献2には、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリルニトリル繊維又は炭素繊維等の織布を補強基材とし、フッ素系ポリマーを添加したフェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂又はアルキド樹脂等の熱硬化性合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂組成物並びにこれを用いた滑りベアリングが開示されている。これらの合成繊維と合成樹脂との接着性を改善するために、合成樹脂に対し接着性改良剤としてポリアミドの共縮合生成物及びポリビニルアルコール誘導体を添加している。
【0005】
特許文献3には、ポリエステル繊維織布を補強基材とし、不飽和ポリエステル樹脂を含浸させ積層した強化プラスチック板が開示されている。ポリエステル繊維は官能基に乏しいため、そのままでは不飽和ポリエステル樹脂との接着が困難という問題点がある。そこで、特許文献3では、樹脂との接着性すなわち親和性を改善するために、ポリエステル繊維を、ビスフェノール系エポキシ系接着剤と有機溶剤で150℃以下の温度で5〜120分間加熱処理している。
【特許文献1】特公昭39−14852号公報
【特許文献2】特開平4−225037号公報
【特許文献3】特公昭43−27504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したポリエステル繊維は、低吸水性であることから水潤滑用途の摺動部材用の補強繊維としては膨潤を起こさないという利点を有する反面、樹脂に対する補強効果を得る上で樹脂との接着性を改善する必要がある。また、乾燥摩擦条件下で使用される摺動部材における補強材としてのポリエステル繊維は、耐熱性に問題があり、耐熱性が要求される環境への適用に問題がある。
【0007】
本発明の目的は、フェノール樹脂との接着性が良好であり湿潤雰囲気においても膨潤量が小さい補強基材を用いて摺動部材用繊維強化樹脂組成物を提供すること、及び、これを積層して形成した積層摺動部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、繊維補強材として吸水性が極めて低くかつ耐熱性を有するポリフェニレンサルファイド繊維(以下「PPS繊維」と略称する。)に着目した。このPPS繊維からなる織布と特定のレゾール型フェノール樹脂とは親和性に優れており、PPS繊維織布に表面処理等の加工を施すことなく該フェノール樹脂との接着性が良好である。当該フェノール樹脂をPPS繊維織布に含浸した樹脂加工基材を積層して形成した積層体は、剛性が高く機械的強度に優れていると共に水潤滑及び乾燥摩擦条件において優れた摩擦摩耗特性を発揮し、さらに油潤滑あるいは水潤滑などの湿潤な雰囲気においても膨潤量が極めて小さいとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたものである。これにより、補強基材としてのPPS繊維からなる織布と特定のレゾール型フェノール樹脂との充分な接着性が得られる摺動部材用繊維強化樹脂組成物及びこの摺動部材用繊維強化樹脂組成物を用いて作製された滑り軸受等の積層摺動部材が実現された。
【0010】
本発明による第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂を、PPS繊維織布に対し含浸してなるものである。第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂50〜65重量%及びPPS繊維織布35〜50重量%からなることが好適である。
【0011】
また、本発明の第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂と四ふっ化エチレン樹脂(以下「PTFE」と略称する。)とを、PPS繊維織布に対し含浸してなるものである。第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂40〜60重量%、PTFE10〜35重量%及びPPS繊維織布25〜35重量%からなることが好適である。
【0012】
第一及び第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物において、レゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15である。
【0013】
上記PPS繊維織布は、PPS繊維の紡績糸からなる織布である。
【0014】
上記フェノール類がビスフェノールA以外のフェノール類を含む場合、そのビスフェノールA以外のフェノール類は、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール及びフェニルフェノールからなる群から選択された1又は複数のフェノール類である。
【0015】
上記ホルムアルデヒド類は、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド及びp−ヒドロキシベンズアルデヒドからなる群から選択された1又は複数のホルムアルデヒド類である。
【0016】
上記アミン類は、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルメチルアミン及びアンモニア水からなる群から選択された1又は複数のアミン類である。
【0017】
本発明による第一の積層摺動部材は、全体形状が平板状でありかつ上記第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層したもの、あるいは、全体形状が円筒状でありかつ上記第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層捲回したものである。
【0018】
本発明の第二の積層摺動部材は、全体形状が平板状でありかつ少なくとも摺動面を含む部分が上記第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層したもの、あるいは、全体形状が円筒状でありかつ少なくとも摺動面を含む部分が上記第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層捲回したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明による第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、PPS繊維織布に対し、特定のレゾール型フェノール樹脂を含浸させたものである。また、本発明による第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、PPS繊維織布に対し、特定のレゾール型フェノール樹脂とPTFEとを配合した樹脂組成物を含浸させたものである。PPS繊維は疎水性であるので、高湿度雰囲気や水中用途で使用した場合にも綿布を補強基材としたものに比べ膨潤量は遥かに小さい。特に、レゾール型フェノール樹脂及びPPS繊維織布、あるいはレゾール型フェノール樹脂とPTFE及びPPS繊維織布をそれぞれ特定の割合で含有させた場合は、以下に記載する効果が充分に得られる。
【0020】
本発明における特定のレゾール型フェノール樹脂、すなわちビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され
、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂は、疎水性であるPPS繊維との親和性に優れている。従って、このレゾール型フェノール樹脂は、PPS繊維織布に対し充分に含浸し強固に接着することができる。この結果、従来のポリエステル繊維又はその織布に対する接着性向上のための表面処理等の加工を不要とする。また、この接着性の強化によって耐膨潤性もさらに向上する。
【0021】
本発明による第一及び第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、いずれも優れた積層摺動部材となる。
第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層し又は複数層捲回して互いに接合して形成された、全体形状が平板状又は円筒状の積層摺動部材においては、剛性が高く、機械的強度に優れる。同時に、高湿度雰囲気や水中用途での使用においても膨潤量が極めて小さい。
また、PTFEを含む第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層し又は複数層捲回して互いに接合して形成された部分を備えかつ該部分が少なくとも摺動面を含む、全体形状が平板状又は円筒状の積層摺動部材においては、少なくとも摺動面にPTFEが含有されているので摩擦摩耗特性が改善され、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件及び水潤滑条件など幅広い用途への適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明による摺動部材用繊維強化樹脂組成物及びこれを用いた積層摺動部材の実施形態を説明する。
本発明による第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂を、補強基材であるPPS繊維織布に含浸させて形成されたものである。そして、好適例では、第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂50〜65重量%及びPPS繊維織布35〜50重量%からなる。
また、本発明による第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂とPTFEとを配合した樹脂組成物を、PPS繊維織布に対し含浸させて形成されたものである。そして、好適例では、第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂40〜60重量%、PTFE10〜35重量%及びPPS繊維織布25〜35重量%からなる。
【0023】
このレゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15である。
【0024】
上記のように、本発明において使用されるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類のうち、ビスフェノールA(C1516)の割合を50〜100モル%とする。これは、合成開始時に投入する全フェノール類の合計モル数に対するビスフェノールAのモル数の比率である。
【0025】
合成後のレゾール型フェノール樹脂は、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ分子量分布の分散度Mw/Mnが2.1〜15である。分散度Mw/Mnは、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比である。このレゾール型フェノール樹脂では、補強基材としてのPPS繊維織布との親和性が格段に向上している。従って、PPS繊維織布に表面処理等の加工を施すことなくPPS繊維織布に表面処理等の加工を施すことなくPPS繊維織布との接着性の良好な摺動部材用繊維強化樹脂組成物を得ることができる。この摺動部材用繊維強化樹脂組成物を用いて形成された積層摺動部材は、剛性が高く、機械的強度に優れていると共に、水中用途など湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さい。
【0026】
上記のレゾール型フェノール樹脂において、ビスフェノールAが50モル%未満では、PPS繊維織布との充分な親和性が得られず、PPS繊維織布との充分な接着性を得ることができない。また、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ分散度Mw/Mnが2.5〜15であることが必要である。数平均分子量Mnが500未満では、PPS繊維織布との親和性が良好であっても機械的強度の低下をきたし、また数平均分子量Mnが1000を超えるとレゾール型フェノール樹脂の粘度が高くなりすぎてPPS繊維織布への含浸が困難となる。さらに分散度Mw/Mnが2.5未満ではPPS繊維織布との充分な接着力が得られず、また、分散度Mw/Mnが15を超えると、数平均分子量が1000を超える場合と同様、PPS繊維織布への含浸が困難となる。
【0027】
よって、PPS繊維織布に含浸させるレゾール型フェノール樹脂において、フェノール類のビスフェノールAのモル比率、GPC測定による数平均分子量Mn及び分散度Mw/Mnを上記の範囲とすることにより、PPS繊維織布に対する含浸性及び接着性を確保できると共に、摺動部材用繊維強化樹脂組成物の機械的強度を確保できる。
【0028】
なお、フェノール類中のビスフェノールAが100モル%未満のときは、ビスフェノールA以外のフェノール類を含むことになる。ビスフェノールA以外のフェノール類としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール、フェニルフェノール等を挙げることができ、中でもフェノールがその特性から好ましく使用される。これらのビスフェノールA以外のフェノール類は、夫々単独で使用してもよく、また二種類以上を混合して使用してもよい。
【0029】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド等を挙げることができる。特に、合成の容易さからホルマリンやパラホルムアルデヒドが好ましく使用される。これらのホルムアルデヒド類は、夫々単独で使用してもよく、また二種類以上を混合物として使用してもよい。
【0030】
触媒として用いるアミン類としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、アンモニア水等を挙げることができ、中でもトリエチルアミンやアンモニア水が合成の容易さから好ましく使用される。
【0031】
本発明の第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物におけるレゾール型フェノール樹脂に配合されるPTFEとしては、成形用のモールディングパウダー(以下「高分子量PTFE」と略称する。)と、放射線照射などにより高分子量PTFEに比べて分子量を低下させたPTFE(以下「低分子量PTFE」と略称する。)のいずれも使用できる。高分子量PTFEの分子量は、例えば約70万〜1000万又はそれ以上であり、低分子量PTFEの分子量は、例えば約1万〜50万程度である。低分子量PTFEは、主に添加材料として使用され、粉砕し易く分散性がよい。
【0032】
高分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7‐J」、「テフロン(登録商標)7A‐J」、「テフロン(登録商標)70‐J」等、ダイキン工業社製の「ポリフロンM‐12(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンG163(商品名)」、「フルオンG190(商品名)」等が挙げられる。
【0033】
また、低分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP‐10F(商品名)」等、ダイキン工業社製の「ルブロンL‐5(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンL150J(商品名)」、「フルオンL169J(商品名)」等、喜多村社製の「KTL‐8N(商品名)」等が挙げられる。
【0034】
本発明においては、高分子量PTFE及び低分子量PTFEのいずれも使用することができるが、レゾール型フェノール樹脂と混合するにあたって、均一に分散しボイドを生成し難くするためには、低分子量PTFEの粉末が好ましい。また、PTFE粉末の平均粒径は、均一に分散し、ボイドの生成を防ぐという観点から1〜50μm、好ましくは1〜30μmである。
【0035】
そして、第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物中に含まれるPTFEの量は、10〜35重量%が適当である。PTFEの量が10重量%未満では、摩擦摩耗特性の向上に効果が得られず、また35重量%を超えると成形の際に樹脂の粘度が増大し、ボイドを生成する虞があることに加え、上記レゾール型フェノール樹脂の接着性を低下させ、積層摺動部材としての強度低下を来たしたり、層間剥離を惹起させたりする虞がある。
【0036】
PPS繊維は、一般式が(Ar−S)で表されるPPS重合体を通常の溶融紡糸方法によって繊維状に形成されるもので、式中Arは芳香族の基を意味し、フェニレン基、ビフェニレン基、ビフェニレンエーテル基、ナフタレン基などである。このPPS繊維は、耐熱性、耐酸化性、耐燃性、耐薬品性等の優れた特性を具備しており、特に耐熱性においては190℃での連続使用に耐えるという特性を備えている。また、PPS繊維は、吸湿性、吸水性が少なく水分率0.2%である。これに対し、綿は、通常8〜9%、ポリエステル繊維は0.4〜0.5%である。
【0037】
本発明に使用されるPPS繊維織布は、PPS繊維を常法により紡糸し、織布としたものである。このPPS繊維を具体的に挙げれば、東レ株式会社製の「トルコン(商品名)」、東洋紡績株式会社製の「プロコン(商品名)」などである。
【0038】
紡糸の形態は、長繊維を撚り合わせたフィラメント糸(フィラメント・ヤーン)であっても、短繊維を撚り合わせた紡績糸(スパン・ヤーン)であってもよい。また、織布の織物組織は特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織の三原組織、変化平織、変化綾織、変化朱子織等の変化組織、三原組織と変化組織の混合組織などを用いることができる。
【0039】
第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物中に含まれるPPS繊維織布の量は、35〜50重量%が好適である。PPS繊維織布の量が35重量%未満では、積層摺動部材としたときの補強効果が充分でなく、また50重量%を超えると積層摺動部材の成形(製造)に支障をきたすことになる。
【0040】
まとめると、第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物に含まれるレゾール型フェノール樹脂を50〜65重量%、及びPPS繊維織布を35〜50重量%とすることにより、成形性、機械的強度及び摩擦摩耗特性のいずれについても良好なものが得られる。
【0041】
第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物に含まれるPPS繊維織布の量は、25〜35重量%が好適である。PPS繊維織布の量が25%未満では、積層摺動部材としたときの補強効果が充分でなく、また35重量%を超えると積層摺動部材の成形(製造)に支障をきたすことになる。
【0042】
まとめると、第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物中に含まれるレゾール型フェノール樹脂を40〜60重量%、PTFEを10〜35重量%、及びPPS繊維織布を25〜35重量%とすることにより、成形性、機械的強度及び摩擦摩耗特性のいずれについても良好なものが得られ、特に乾燥摩擦条件での摩擦摩耗特性の一層の向上を図ることができる。
【0043】
次に、上記の第一及び第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物、及びこれらを用いた積層摺動部材について、好ましい実施例を示した図を参照して説明する。
【0044】
図1は、第一及び第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物のプリプレグ(樹脂加工基材)の製造方法の一例を概略的に示した図である。
図1に示す製造装置において、アンコイラ1に巻かれたPPS繊維織布からなる補強基材2は、送りローラ3によって容器5に送られる。容器5内には、レゾール型フェノール樹脂ワニス4(第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物の場合)、あるいはPTFE粉末を均一に分散したレゾール型フェノール樹脂ワニス4(第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物の場合)が貯えられている。そして、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられたレゾール型フェノール樹脂ワニス4を通過させられることにより、補強基材2の表面に該レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗布される。続いて、レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗工された補強基材2は送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送られ、圧縮ロール9及び10の間を通過させられることにより、補強基材2の表面に塗布されたレゾール型フェノール樹脂ワニス4が、繊維組織隙間にまで含浸させられる。さらに、レゾール型フェノール樹脂ワニス4を塗布含浸された補強基材2が乾燥炉11内を通過させられることにより、溶剤を飛ばすと同時にレゾール型フェノール樹脂ワニス4の反応を進行させる。これにより、成形可能な摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ(樹脂加工基材)12が作製される。
【0045】
レゾール型フェノール樹脂を揮発性溶剤に溶かして調製されるレゾール型フェノール樹脂ワニス4の固形分は、樹脂ワニス全体に対して約30〜65重量%であり、樹脂ワニスの粘度は、約800〜5000cPが好ましく、特に1000〜4000cPが好ましい。
【0046】
図2〜図4は、図1に示した第一及び第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用した平板状積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【0047】
図2に示すように、プリプレグ12を所望の平板面積が得られる方形状に切断したものを、所望の仕上がり厚さが得られる枚数だけ準備する。次いで、図3に示すように、加熱加圧装置の金型13の方形状の凹所14内に、所定の枚数のプリプレグ12を重ね合わせて積層したのち、金型13内で140〜160℃の温度に加熱し、4.9〜7MPaの圧力でラム15により積層方向に加圧成形して方形状の積層成形物を得る。積層されたプリプレグ12は互いに接合され、融着した状態となる。得られた積層成形物に対し、図4に示すように機械加工を施して平板状の積層摺動部材16を形成する。
【0048】
第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用して形成された平板状の積層摺動部材16は、剛性が高く機械的強度に優れていると共に摩擦摩耗特性に優れており、水中用途における水潤滑においても膨潤量が極めて小さく、滑り板等の摺動部材に適用される。
【0049】
また、第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用して形成された平板状の積層摺動部材16は、剛性が高く機械的強度に優れていると共に摩擦摩耗特性に優れており、さらに、油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて少ないので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の滑り板等の摺動部材への適用が可能となる。
【0050】
再び図1〜図3及び図5を参照し、図1及び図2においては括弧付き符号を用いて、平板状複合積層摺動部材の製造方法の一例を説明する。この複合積層摺動部材は、上述のプリプレグ12を少なくとも摺動面に利用し、別に準備した強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体と重ね合わせ、接合して平板状の複合積層摺動部材としたものである。
【0051】
先ず、図1に示す製造装置において、強化繊維織布17として、ガラス繊維織布、炭素繊維織布などの無機繊維織布、又はアラミド繊維織布(コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維織布)等の有機繊維織布を別途準備する。上記のレゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性合成樹脂を別途準備し、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの揮発性溶剤に溶かして形成される固形分がおおむね30〜60重量%で、粘度がおおむね800〜5000cPの熱硬化性合成樹脂ワニス18を作製し、容器5内に貯える。そして、図1に示す製造装置によって、成形可能な強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体用プリプレグ19を作製する。
【0052】
次に、図2に示すように、積層基体用プリプレグ19を所望の平板面積が得られる方形状に切断したものを、所望の仕上がり厚さが得られる枚数だけ準備する。次いで、図3に示すように、加熱加圧装置の金型13の方形状の凹所14内に、所定の枚数の積層基体用のプリプレグ19を重ね合わせて積層した後、その上面に上述したプリプレグ12と同じ構成のプリプレグを、所望の仕上がり厚さが得られる枚数だけ積層する。このプリプレグ12は、摺動面用プリプレグである。これらを金型13内において積層方向に加熱、加圧して方形状の積層形成物を得る。得られた積層成形物に対し、図5に示すように機械加工を施して平板状複合積層摺動部材20を作製する。
【0053】
このようにした作製した平板状複合積層摺動部材20は、強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体21と、この積層基体21の一方の表面に一体に接合された摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなる積層摺動層22とを具備している。平板状複合積層摺動部材20は、その全体が平板状であり、その一部である積層基体21及び積層摺動層22もそれぞれ平板状である。積層摺動層22は、プリプレグ12から形成されたものである。積層摺動層22の露出した表面が摺動面となる。この平板状複合積層摺動部材20において、積層摺動層22は、摩擦摩耗特性に優れていると共に耐荷重性が高められている。さらに、油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、油潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の滑り板等への適用が可能となる。
【0054】
図6及び図7は、図1に示した摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用した円筒状の積層摺動部材の一例を概略的に示した図である。
【0055】
円筒状の積層摺動部材は、ロールド成形装置を用いたロールド成形により作製することができる。図6に示すように、ロールド成形装置においては、通常、2つの加熱ローラ23と1つの加圧ローラ24のそれぞれを、軸方向から見て三角形の頂点に位置するように配置する。さらに、これら3つのローラ23、23及び24の真ん中に芯型25を置く。そして、この芯型25に、プリプレグ12の一端を固定した後、芯型25を一定方向に駆動回転させ、3つのローラ23、23及び24によって加熱及び加圧しながら円筒状の積層体27となるように巻いていく。
【0056】
図6に示すロールド成形装置において、予め120〜200℃の温度に加熱された芯型25の外周面に、所定の幅に切断したプリプレグ12を、基材巻きローラ26より120〜200℃に加熱された加熱ローラ23を介して供給し、2〜6MPaの圧力を掛けて加圧ローラ24で所望の厚さ(直径)まで複数層捲回してロールド成形する。このようにして成形された円筒状の積層体27を芯型25に保持した状態で120〜180℃の雰囲気温度に調整された加熱炉で加熱硬化させたのち冷却し、芯型25を抜き取り、円筒状の積層体27を成形する。次いで、図7に示すように、成形した円筒状の積層体27に機械加工を施して所望の寸法を有する円筒状の積層摺動部材28を形成する。この円筒状の積層摺動部材28は、剛性が高く機械的強度に優れていると共に摩擦摩耗特性に優れており、さらに油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、油潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の円筒状滑り軸受(ブッシュ)等への適用が可能となる。
【0057】
図8及び図9は、図1に示した摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ12を使用した円筒状の複合積層摺動部材の製造方法の一例を説明する。この円筒状の複合積層摺動部材は、上述のプリプレグ12を少なくとも摺動面に利用し、別に準備した強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体と重ね合わせ接合して円筒状の複合積層摺動部材としたものである。
【0058】
図8に示すロールド成形装置において、あらかじめ120〜200℃の温度に加熱された芯型25の外周面に、所定の幅に切断したプリプレグ12と同様のプリプレグを、摺動面用プリプレグとしてこれを所定の厚さ(直径)となるまで複数層捲回する。その後、その外周面に、上述の強化繊維織布樹脂組成物からなる積層基体用プリプレグ19と同様の積層基体用プリプレグを、基材巻きローラ26より120〜200℃に加熱された加熱ローラ23を介して供給し、2〜6MPaの圧力を掛けて加圧ローラ24で所望の最終厚さ(直径)まで複数層捲回してロールド成形する。このようにして成形された円筒状積層体を芯型25に保持した状態で120〜180℃の雰囲気温度に調整された加熱炉で加熱硬化させたのち冷却し、芯型25を抜き取り、円筒状積層体29を成形する。次いで、このように作製された円筒状積層体29に機械加工を施して、図9に示すように所望の寸法を有する円筒状の複合積層摺動部材30を形成する。この円筒状の複合積層摺動部材30においては、円筒状積層基体31の内面に一体に接合された円筒状積層層32は、その内周面が摺動面として機能する。円筒状の複合積層摺動部材30は、剛性が高く機械的強度に優れていると共に耐荷重性並びに摩擦摩耗特性に優れており、さらに油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、油潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途、特に高荷重用途の円筒状滑り軸受(ブッシュ)等への適用が可能となる。
【0059】
図10及び図11は、図7に示した円筒状の積層摺動部材28を用いて形成されたウエアリング33及びこれを用いた油圧シリンダ35をそれぞれ示している。図10は、ウエアリング33の一部切欠き側面図であり、円筒軸線Xを一点鎖線で示している。ウエアリング33は、図7の円筒状の積層摺動部材28に機械加工を施し、外径D=18〜1000mm、厚さt=2〜5mm、幅W=8〜70mmの寸法に形成したのち、筒壁の一部に、軸線Xに対してθ=45°の角度で幅S=1〜28mmのスリット34を穿設することにより形成される。図11は、図10のウエアリング33を使用した油圧シリンダ35のシリンダ軸方向に沿った断面図である。油圧シリンダ35内に設けられたピストン36については、その円筒側面を示しているが、上方部分は断面を示している。ピストン36の外周面37には、中央の環状溝38と、これを挟んで軸方向に離間した2つの環状溝40、40が形成されており、中央の環状溝38にはピストンパッキン39が、環状溝40、40にはウエアリング33がそれぞれ嵌着されて使用される。
【0060】
このウエアリング33は、摩擦摩耗特性に優れていると共に、剛性が高く機械的強度に優れているので、破損、変形等を生じることがなく、また膨潤量が極めて小さいことから、油圧シリンダ35の内周面41との円滑な摺動を行わせることができ、ピストン36と油圧シリンダ35の内周面41との間での油漏れを防止することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を各実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(1)第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物に係る実施例
実施例1乃至実施例6は、第一の摺動部材用繊維強化樹脂組成物(以下、「第一の繊維強化樹脂組成物」と略称する)を複数層積層して形成した積層摺動部材に係るものである。
・実施例1
補強基材は、縦糸及び横糸として綿番手20の紡績糸を使用し、縦糸の打ち込み本数を42本/インチ、横糸の打ち込み本数を42本/インチとし平織りにて作製したPPS繊維織布を使用した。
【0062】
撹拌機、温度計及び冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA300gと37%ホルムアルデヒド水溶液192gを投入し、撹拌しながら25%アンモニア水溶液9gを投入したのち、常圧下で昇温し90℃の温度に到達後、2.5時間縮合反応させた。その後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。次いで、メタノール64gを添加して常圧下で85℃の温度まで昇温し、4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂を作製した。得られたレゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6であった。フェノール類中のビスフェノールAは、100モル%である。
【0063】
次に、前述の図1に示した製造装置を使用し、アンコイラ1に巻かれたPPS繊維織布からなる補強基材2を送りローラ3によって上記レゾール型フェノール樹脂ワニス4を貯えた容器5に送り、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられたレゾール型フェノール樹脂ワニス4を塗布した。次いで、レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗布された補強基材2を送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送り、圧縮ロール9及び10によって補強基材2の表面に塗布されたレゾール型フェノール樹脂ワニス4を該補強基材2の繊維組織隙間にまで含浸させた。そして、レゾール型フェノール樹脂ワニス4が塗布含浸された補強基材2に対して乾燥炉11内で100℃の温度で15分間溶剤を飛ばすと同時に該樹脂ワニス4の反応を進めた。以上により、補強基材としてのPPS繊維織布40重量%とレゾール型フェノール樹脂60%とからなる成形可能な第一の繊維強化樹脂組成物のプリプレグ(樹脂加工基材)を作製した。
【0064】
さらに、このプリプレグを一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを一辺の長さが31.5mm、深さが6mmの凹所を有する前述の図3に示した加熱加圧装置の金型の凹所内に10枚重ね合わせて積層した後、金型内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力6.9MPaで加圧成形して方形状の積層成形物を得た。得られた積層成形物に機械加工を施し、一辺が30mm、厚さ5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0065】
・実施例2
上記実施例1と同様のセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160gと37%ホルムアルデヒド水溶液79gを投入し、撹拌しながらトリエチルアミン1.3gを投入した後、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1時間縮合反応させた。その後一旦冷却し、フェノール32gと37%ホルムアルデヒド水溶液30gとトリエチルアミン0.3gとをセパラブルフラスコに投入した。次いで、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で2時間縮合反応を行った後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。次いで、メタノール24gを投入し常圧下で90℃の温度まで昇温し4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂を作製した。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは720、分子量分布の分散度Mw/Mnは14.3であった。フェノール類中のビスフェノールAは、67.4モル%である。
【0066】
上記実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で補強基材としてのPPS繊維織布40重量%と上記レゾール型フェノール樹脂60重量%とからなる成形可能な第一の繊維強化樹脂組成物のプリプレグを作製した。以下、実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0067】
・実施例3
前記実施例1と同様のセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160gとブチルフェノール18gと37%ホルムアルデヒド水溶液91gを投入し、撹拌しながらトリエチルアミン1.4gを投入した後、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1.5時間縮合反応させた。その後一旦冷却し、フェノール42gと37%ホルムアルデヒド水溶液39gとトリエチルアミン0.4gとをセパラブルフラスコに投入した。次いで、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1.5時間縮合反応を行った後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。次いで、メタノール24gを投入し常圧下で90℃の温度まで昇温し4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂を作製した。得られたレゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは680、分子量分布の分散度Mw/Mnは11.8であった。フェノール類中のビスフェノールAは、55.4モル%である。
【0068】
前記実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で補強基材としてのPPS繊維織布40重量%と上記レゾール型フェノール樹脂60重量%とからなる成形可能な第一の繊維強化樹脂組成物のプリプレグを作製した。以下、実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0069】
・実施例4
前記実施例1で得た第一の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグと同様のプリプレグを作製した。この第一の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグは、PPS繊維織布40重量%とレゾール型フェノール樹脂60重量%とからなり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6であり、フェノール類中のビスフェノールAは、100モル%である。前記図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型19の外周面に、上記プレプラグを、基材巻きローラ21より予め150℃の温度に加熱された加熱ローラ17を介して供給し、5MPaの圧力を掛けて加圧ローラ18で15周巻き付けてロールド成形を行った。次いで、円筒状の積層体を芯型19に保持した状態で150℃の雰囲気温度に調整した加熱炉で加熱硬化せしめたのち冷却し、芯型19を抜き取り、円筒状の積層体を作製した。この円筒状の積層体に機械加工を施し、内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0070】
・実施例5
前記実施例2で得た第一の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグと同様のプリプレグを作製した。この第一の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグは、PPS繊維織布40重量%とレゾール型フェノール樹脂60重量%とからなり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは720、分子量分布の分散度Mw/Mnは14.3であり、フェノール類中のビスフェノールAは、67.4モル%である。前記図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型19の外周面に、上記プレプラグを、基材巻きローラ21より予め150℃の温度に加熱された加熱ローラ17を介して供給し、以下上記実施例4と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0071】
・実施例6
前記実施例3で得た第一の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグと同様のプリプレグを作製した。この第一の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグは、PPS繊維織布40重量%とレゾール型フェノール樹脂60重量%とからなり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは680、分子量分布の分散度Mw/Mnは11.8であり、フェノール類中のビスフェノールAは、55.4モル%である。前記図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型19の外周面に、上記プレプラグを、基材巻きローラ21より予め150℃の温度に加熱された加熱ローラ17を介して供給し、以下上記実施例4と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0072】
・比較例1
補強基材は、縦糸及び横糸として綿番手20の紡績糸を使用し、縦糸の打ち込み本数を60本/インチ、横糸の打ち込み本数を60本/インチで平織して作製した細糸織布(綿)を使用した。
【0073】
前記実施例1と同様のパラブルフラスコに、フェノール200gと37%ホルムアルデヒド水溶液190gを投入し、撹拌しながら25%アンモニア水溶液8gを投入した後、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1時間縮合反応させた後、0.015MPaの減圧下で90℃の温度まで昇温して水分を除去した。次いで、メタノール37gを投入し、常圧下で85℃の温度まで昇温し1時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂を作製した。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは600、分子量分布の分散度Mw/Mnは3.4であった。フェノール類中のビスフェノールAは、0モル%である。
【0074】
前記実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で補強基材としての細糸織布40重量%と上記レゾール型フェノール樹脂60重量%とからなる成形可能な繊維強化樹脂組成物のプリプレグ12を作製した。以下実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mm平板状の積層摺動部材を作製し、これを比較例1とした。
【0075】
・比較例2
前記実施例1と同様のパラブルフラスコに、ビスフェノールA160gと37%ホルムアルデヒド水溶液71gとを投入し、撹拌しながらトリエチルアミン1.3gを投入した後、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1時間縮合反応させた。その後一旦冷却し、フェノール32gと37%ホルムアルデヒド水溶液29gとトリエチルアミン0.3gとを投入した。次いで常圧下で昇温し100℃の還流条件下で2時間縮合反応を行った後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分を除去した。次いで、メタノール24gを投入し、常圧下で90℃の温度まで昇温して5.5時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂を作製した。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは1100、分子量分布の分散度Mw/Mnは16.7であった。
【0076】
前記実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で補強基材としての細糸織布40重量%と上記レゾール型フェノール樹脂60重量%とからなる成形可能な繊維強化樹脂組成物のプリプレグを作製した。以下実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mm平板状の積層摺動部材を作製し、これを比較例2とした。
【0077】
・比較例3
上記比較例1で得た繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグと同様のプリプレグを作製した。この繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグは、細糸織布(綿)40重量%とレゾール型フェノール樹脂60重量%とからなり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは600、分子量分布の分散度Mw/Mnは3.4であり、フェノール類中のビスフェノールAは、0モル%である。前記図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型19の外周面に、上記プリプレグを、基材巻きローラ21より予め150℃の温度に加熱された加熱ローラ17を介して供給し、以下前記実施例4と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製し、これを比較例3とした。
【0078】
・比較例4
前記比較例2で得た繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグと同様のプリプレグを作製した。この繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグは、細糸織布(綿)40重量%とレゾール型フェノール樹脂60重量%とからなり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは1100、分子量分布の分散度Mw/Mnは16.7であり、フェノール類中のビスフェノールAは、67.4モル%である。前記図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型19の外周面に、上記プリプレグを、基材巻きローラ21より予め150℃の温度に加熱された加熱ローラ17を介して供給し、以下前記実施例4と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製し、これを比較例4とした。
【0079】
・膨潤量及び機械的強度の試験方法及び結果
次に、上記した実施例1乃至実施例6及び比較例1乃至比較例4の積層摺動部材について、水中における膨潤量(%)及び機械的強度を試験した結果を説明する。
【0080】
膨潤量の試験方法は、水温20℃の水中に試料(各積層摺動部材)を120日間浸漬し、その後取出して寸法変化率及び重量変化率を測定した。実施例1乃至3の平板状の積層摺動部材の試験結果を表1に、実施例4乃至6の円筒状の積層摺動部材の試験結果を表2に示す。
【0081】
表1及び表2において、レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量及び分散度の測定は、GPCにより測定し、数値はポリスチレン標準物質による検量線から算出した。計測装置等は以下の通りである。
GPC装置:東ソー社製 HLC−8120
カラム:東ソー社製TSKgel G3000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×10〕1本に続けて、TSKgel G2000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×10〕2本使用
検出器:東ソー社製のUV−8020
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
(注1)表1及び表2中のビスフェノールAのモル比率=(投入時のビスフェノールAのモル数/投入時のフェノール類の合計モル数)×100(モル%)
(注2)表2中の圧環強さは、JISK2507の規定に準拠して測定した値である。
【0085】
上記試験結果から、実施例1乃至実施例6の積層摺動部材(補強基材がPPS)は、比較例1乃至比較例4の積層摺動部材(補強基材が綿)よりも膨潤量が大幅に減少しており、機械的強度においても大幅に向上していることが分かる。
【0086】
以上のように、本発明の第一の繊維強化樹脂組成物は、50〜65重量%のレゾール型フェノール樹脂を50〜35重量%のPPS繊維織布に対し含浸させたものであり、そのレゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、GPC測定よる数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15である。このような条件を満たす第一の繊維強化樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂とPPS繊維織布との親和性に優れ、接着性に優れている。この結果、この第一の繊維強化樹脂組成物を積層して形成した積層摺動部材は、剛性が高く、機械的強度に優れている。加えて、この積層摺動部材は、水中など湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、膨潤に起因する寸法変化も極めて小さいものとなり、油圧シリンダのピストンの外周面に嵌着されて使用されるウエアリングや水中軸受等の摺動部材への適用を可能とするものでる。
【0087】
(2)第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物に係る実施例
次に、第二の摺動部材用繊維強化樹脂組成物(以下、「第二の繊維強化樹脂組成物」と略称する)を複数層積層して形成した積層摺動部材に係る実施例7乃至9について説明する。
【0088】
・実施例7乃至実施例9
補強基材として、前記実施例1と同様のPPS繊維織布を使用した。前記実施例1と同様のレゾール型フェノール樹脂を作製した。このレゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6であり、フェノール類中のビスフェノールAは、100モル%である。
【0089】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに対し、PTFEとして低分子量PTFE(喜多村社製KTL−8N(商品名))粉末を、各実施例毎に所定量配合し分散させた混合溶液を準備し、前記図1に示した製造装置の容器5に貯えた。
【0090】
そして、図1に示す製造装置を使用し、アンコイラ1に巻かれたPPS繊維織布からなる補強基材2を送りローラ3によってレゾール型フェノール樹脂ワニス4に所定量のPTFE粉末を分散含有した混合溶液を貯えた容器5に送り、容器5内設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられた混合溶液内を通過させることにより、補強基材2の表面に該混合溶液を塗布した。次いで、混合溶液が塗布された補強基材2を送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送り、圧縮ロール9及び10によって補強基材2の表面に塗布された混合溶液を繊維組織隙間にまで含浸させた。そして、混合溶液が含浸塗布された補強基材2に対して乾燥炉11に送り、溶剤を飛ばすと同時に混合溶液の反応を進めた。以上により、成形可能な第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ(樹脂加工基材)を作製した。
【0091】
実施例7乃至実施例9の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、それぞれ次の通りである。
実施例7は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが16重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が54重量%である。
実施例8は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
実施例9は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが30重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が40重量%である。
【0092】
さらに、得られた第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを前記実施例1と同様、一片の長さが31mmの方形状に切断し、これを一辺の長さが31.5mm、深さが6mmの凹所を有する前記図3に示した加熱加圧装置の金型の凹所内に10枚重ね合わせて積層したのち、金型内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して、実施例7乃至9の成分組成からなる方形状の積層成形物を得た。得られた積層成形物に機械加工を施し、一辺が30mm、厚さが5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0093】
・実施例10
補強基材として、前記実施例1と同様のPPS繊維織布を使用した。前記実施例2と同様のレゾール型フェノール樹脂を作製した。このレゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは720、分子量分布の分散度Mw/Mnは14.3であり、フェノール類中のビスフェノールAは、67.4モル%である。
【0094】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに対し、PTFEとして低分子量PTFE(喜多村社製KTL−8N(商品名))粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示した製造装置の容器5に貯えた。以下、実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で、成形可能な第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0095】
実施例10の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0096】
このプリプレグを一辺の長さが31mmの方形状に切断し、以下、前記実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0097】
・実施例11
補強基材として、前記実施例1と同様のPPS繊維織布を使用した。前記実施例3と同様のレゾール型フェノール樹脂を作製した。このレゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは680、分子量分布の分散度Mw/Mnは11.8であり、フェノール類中のビスフェノールAは、55.4モル%である。
【0098】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに対し、PTFEとして低分子量PTFE(喜多村社製KTL−8N(商品名))粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示した製造装置の容器5に貯えた。以下、実施例1と同様の製造装置を使用し、同様の方法で、成形可能な第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0099】
実施例11の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0100】
このプリプレグを一辺の長さが31mmの方形状に切断し、以下、前記実施例1と同様にして一辺が30mm、厚さが5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0101】
・実施例12
前記実施例8と同様の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを使用した。実施例12の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0102】
実施例12では、実施例2と同様に、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、100%であり、レゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6である。
【0103】
前記図5に示したロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型17の外周面に、このプリプレグを基材巻きローラ26より予め150℃の温度に加熱された加熱ローラ15を介して供給し、5MPaの圧力を掛けて加圧ローラ24で15周捲回してロールド成形を行った。次いで、円筒状の積層体を芯型23に保持した状態で150℃の雰囲気温度に調整した加熱炉で加熱硬化させたのち冷却し、芯型25を抜き取り、円筒状の積層体を作製した。この円筒状の積層体に機械加工を施し、内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0104】
・実施例13
前記実施例10と同様の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを使用した。実施例13の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0105】
実施例13では、実施例10と同様に、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、67.4%であり、レゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは720、分子量分布の分散度Mw/Mnは14.3である。
【0106】
上記実施例12と同様に、図5に示すロールド成形装置を使用して、内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0107】
・実施例14
前記実施例11と同様の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを使用した。実施例14の第二の繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、PPS繊維織布が30重量%、PTFEが23重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が47重量%である。
【0108】
実施例14では、実施例11と同様に、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、55.4%であり、レゾール型フェノール樹脂のGCP測定による数平均分子量Mnは680、分子量分布の分散度Mw/Mnは11.8である。
【0109】
上記実施例12と同様に、図5に示すロールド成形装置を使用して、内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0110】
・比較例5
補強基材として、前記比較例1と同様の細糸織布(綿)を使用した。
【0111】
前記比較例1と同様のレゾール型フェノール樹脂(固形分60重量%のワニス)を作製した。比較例5では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比は、0モル%であり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは600、分子量分布の分散度Mw/Mnは3.4である。
【0112】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに黒鉛粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示す製造装置の容器5に貯えた。図1に示した製造装置を使用し、アンコイラに巻かれた細糸織布からなる補強基材を、送りローラ3によって混合溶液を貯えた容器5に送り、容器内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器内に貯えられた該混合溶液内を通過させることにより、補強基材の表面に混合溶液を塗布した。ついで、この混合溶液を塗布した補強基材を送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送り、圧縮ロールによって補強基材の表面に塗布した混合溶液を繊維組織隙間にまで含浸させた。そして、混合溶液を含浸塗布した補強基材を乾燥炉11内に送り、補強基材中の溶剤を飛ばすと同時に該混合溶液の反応を進め、成形可能な繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0113】
比較例5の繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、細糸織布(綿)からなる補強基材が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。
【0114】
このプリプレグを、一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを図3に示す加熱加圧成形装置の金型の凹所に10枚重ねて積層した後、金型内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して方形状の積層成形物を得た。この積層成形物に機械加工を施して一辺が30mm、厚さが5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0115】
・比較例6
補強基材として、上記比較例1と同様の細糸織布(綿)を使用した。
【0116】
前記比較例2と同様のレゾール型フェノール樹脂(固形分60重量%のワニス)を作製した。比較例6では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比は、67.4%であり、このレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは1100、分子量分布の分散度Mw/Mnは16.7である。
【0117】
上記レゾール型フェノール樹脂ワニスに黒鉛粉末を配合した混合溶液を準備し、これを図1に示した製造装置の容器に貯えた。以下、上記比較例5と同様にして、成形可能な繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを作製した。
【0118】
比較例6の繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグの成分組成は、細糸織布(綿)からなる補強基材が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。
【0119】
このプリプレグを、一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを図3に示す加熱加圧成形装置の金型の凹所に10枚重ねて積層した後、金型内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して方形状の積層成形物を得た。この積層成形物に機械加工を施して一辺が30mm、厚さが5mmの平板状の積層摺動部材を作製した。
【0120】
・比較例7
前記比較例5と同様の繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを使用した。比較例7のプリプレグの成分組成は、細糸織布(綿)からなる補強基材が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。比較例7では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比は、0モル%であり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは600、分子量分布の分散度Mw/Mnは3.4である。
【0121】
図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型の外周面に対し、このプリプレグを、基材巻きローラより予め150℃の温度に加熱された加熱ローラを介して供給し、以下前記実施例12〜14と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0122】
・比較例8
前記比較例6と同様の繊維補強樹脂組成物からなるプリプレグを使用した。比較例7のプリプレグの成分組成は、細糸織布(綿)からなる補強基材が30重量%、黒鉛が5重量%、残部のレゾール型フェノール樹脂が65重量%である。比較例8では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比は、67.4モル%であり、レゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは1100、分子量分布の分散度Mw/Mnは16.7である。
【0123】
図5に示すロールド成形装置を使用して、予め150℃の温度に加熱し外径が40mmの芯型の外周面に対し、このプリプレグを、基材巻きローラより予め150℃の温度に加熱された加熱ローラを介して供給し、以下前記実施例12〜14と同様にして内径40mm、外径50mm、長さ15mmの円筒状の積層摺動部材を作製した。
【0124】
・膨潤量、機械的強度及び摩擦摩耗特性の試験方法及び結果
次に、上記した実施例7〜14及び比較例5〜8の積層摺動部材について、摩擦摩耗特性、水中における膨潤量(%)、機械的強度及び摩擦摩耗特性を試験した方法及び結果を説明する。
【0125】
実施例7〜14及び比較例5〜8の積層摺動部材についての膨潤量の試験方法は、次の通りである。水温20℃の水中に120日間浸漬し、その後取出して寸法変化率及び重量変化率を測定した。
【0126】
実施例7〜11及び比較例5〜6の平板状の積層摺動部材の摩擦摩耗特性の試験方法は、次の通りである。表3に記載の条件でスラスト試験を行い、摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩耗量については、試験時間30時間の終了後の寸法変化量で示した。
【0127】
【表3】

【0128】
実施例12〜14及び比較例7〜8の円筒状の積層摺動部材の摩擦摩耗特性の試験方法は、次の通りである。表4に記載の条件でジャーナル遥動試験を行い、摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩耗量については、試験時間100時間の終了後の寸法変化量で示した。
【0129】
【表4】

【0130】
実施例7乃至11の平板状の積層摺動部材の試験結果を表5に、実施例12乃至14の円筒状の積層摺動部材の試験結果を表6に示す。
【0131】
表5及び表6において、レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量及び分散度の測定は、GPCにより測定し、数値はポリスチレン標準物質による検量線から算出した。計測装置等は以下の通りである。
GPC装置:東ソー社製HLC−8120
カラム:東ソー社製のTSKgel G3000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×103〕1本に続けて、TSKgel G2000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×104〕2本使用
検出器:東ソー社製のUV−8020
【0132】
【表5】

【0133】
【表6】

【0134】
(注1)表5及び表6中のビスフェノールAのモル比率=(投入時のビスフェノールAのモル数/投入時のフェノール類の合計モル数)×100(%)
(注2)表5中の比較例5〜6のスラスト試験の潤滑(ドライ)条件での*印を付した摩擦係数は、試験時間30時間に到達する前に摩擦係数が急激に上昇し、試験を中止したため、急激に上昇する前の摩擦係数を示し、摩耗量は試験を中止した時点の摩耗量の値を示したものである。
(注3)表6中の比較例7及び8の面圧29.4MPaでのジャーナル遥動試験においては、試験開始直後に摩擦係数が急激に上昇し、試験を中止したため、摩擦係数及び摩耗量の測定はできなかった。
(注4)表6中の圧環強さは、JISK2507の規定に準拠して測定した値である。
【0135】
上記試験結果から、実施例7〜実施例14の積層摺動部材は、比較例5〜比較例8の積層摺動部材よりも膨潤量が大幅に減少しており、摩擦摩耗特性も大幅に向上していると共に機械的強度においても大幅に向上していることが分かる。
【0136】
以上のように、本発明の第二の繊維強化樹脂組成物は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、GPC測定による数平均分子量が500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂とPTFE粉末とを配合した樹脂組成物を、PPS繊維織に対して含浸してなるものである。この第二の繊維強化樹脂組成物は、PPS繊維織布との親和性に優れ、接着性に優れている。さらに、この第二の繊維強化樹脂組成物を積層して形成した積層摺動部材は、優れた摩擦摩耗特性を有すると共に、剛性が高く、機械的強度に優れている。加えて、この積層摺動部材は、水中など湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、膨潤に起因する寸法変化も極めて小さいものとなり、乾燥摩擦(ドライ)条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途への適用が可能である。例えば油圧シリンダのピストン外周面に嵌着されるウエアリング、滑り板や滑り軸受あるいは水中用滑り軸受等の摺動部材への適用を可能とするものでる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグの製造装置を示す説明図である。
【図2】摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを示す斜視図である。
【図3】図1示した摺動部材用繊維強化樹脂組成物のからなるプリプレグを使用した平板状の積層摺動部材製造方法の一例を概略的に示した図である。
【図4】平板状の積層摺動部材を示す斜視図である。
【図5】平板状の複合積層摺動部材を示す斜視図である。
【図6】図1に示した摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグを使用した円筒状の積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【図7】円筒状の積層摺動部材を示す斜視図である。
【図8】図1に示した摺動部材用繊維強化樹脂組成物からなるプリプレグ及び積層基体用プリプレグを使用した円筒状の複合積層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【図9】円筒状の複合積層摺動部材を示す斜視図である。
【図10】図7に示した円筒状の積層摺動部材を用いて形成されたウエアリングの側面図である。
【図11】図7に示した円筒状の積層摺動部材を用いて形成された油圧シリンダを示す断面図である。
【符号の説明】
【0138】
2 補強基材(PPS繊維織布)
4 ワニス
12 摺動部材用繊維強化樹脂組成物(プリプレグ)
16 平板状の積層摺動部材
19 強化繊維織布樹脂組成物(積層基体用プリプレグ)
20 平板状の複合積層摺動部材
22 円筒状の積層摺動部材
30 円筒状の複合積層摺動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂を、ポリフェニレンサルファイド繊維織布に対し含浸してなる摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
前記レゾール型フェノール樹脂を50〜65重量%、前記ポリフェニレンサルファイド繊維織布を35〜50重量%含む、請求項1に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂と四ふっ化エチレン樹脂とを、ポリフェニレンサルファイド繊維織布に対し含浸してなる摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記レゾール型フェノール樹脂を40〜60重量%、前記四ふっ化エチレン樹脂を10〜35重量%、及び前記ポリフェニレンサルファイド繊維織布を25〜35重量%含む、請求項3に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリフェニレンサルファイド繊維織布が、ポリフェニレンサルファイド繊維の紡績糸からなる織布である請求項1〜4のいずれか一項に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記フェノール類がビスフェノールA以外のフェノール類を含む場合、該ビスフェノールA以外のフェノール類が、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール及びフェニルフェノールからなる群から選択された1又は複数のフェノール類である請求項1〜5のいずれか一項に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
前記ホルムアルデヒド類が、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド及びp−ヒドロキシベンズアルデヒドからなる群から選択された1又は複数のホルムアルデヒド類である請求項1〜6のいずれか一項に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項8】
前記アミン類が、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルメチルアミン及びアンモニア水からなる群から選択された1又は複数のアミン類である請求項1〜7のいずれか一項に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層し又は複数層捲回して互いに接合することにより形成され、全体形状が平板状又は円筒状を呈する積層摺動部材。
【請求項10】
請求項3又は4に記載の摺動部材用繊維強化樹脂組成物を複数層積層し又は複数層捲回して互いに接合して形成された部分を備えかつ該部分が少なくとも摺動面を含む、全体形状が平板状又は円筒状を呈する積層摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−120992(P2010−120992A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293692(P2008−293692)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】