説明

攪拌装置及び分析装置

【課題】表面弾性波素子の発熱に起因した液体の温度上昇を抑制することが可能な攪拌装置と分析装置を提供すること。
【解決手段】容器に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌装置及び分析装置。攪拌装置20は、容器に接触した状態で液体に照射する音波を発生させる表面弾性波素子24と、音波の発生に伴う表面弾性波素子の発熱を抑制する抑制部材とを備えている。抑制部材は、表面弾性波素子24に当接し、冷却によって表面弾性波素子の発熱を抑制するペルチェ素子27又は放熱によって表面弾性波素子の発熱を抑制する放熱部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌装置及び分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分析装置は、容器に保持した検体や試薬を含む液体を音波発生手段が発生した音波によって攪拌する攪拌装置を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−300651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、音波発生手段が発生した音波は、伝搬経路に存在する音波発生手段の固体基板,容器壁,音響整合層等の伝搬媒質内を多重反射しながら伝搬して液体中へ漏れ出すが、一部は伝搬に伴って前記伝搬媒質に吸収される。このため、固体基板が発熱してしまう。
【0005】
この結果、音波発生手段が容器に接触した状態で音波を液体に照射する攪拌装置は、駆動に伴う音波発生手段の発熱によって液体の温度が上昇する。この場合、液体が微量になる程、液体の熱容量が小さくなることから、液体の温度上昇が大きくなる。このため、この種の攪拌装置においては、検体や試薬が熱変質し易くなり、分析精度が不安定になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、音波発生手段の発熱に起因した液体の温度上昇を抑制することが可能な攪拌装置と分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に係る攪拌装置は、容器に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌装置において、前記容器に接触した状態で前記液体に照射する音波を発生させる音波発生手段と、音波の発生に伴う前記音波発生手段の発熱を抑制する抑制手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記抑制手段は、前記音波発生手段に当接し、冷却によって当該音波発生手段の発熱を抑制する冷却手段又は放熱によって当該音波発生手段の発熱を抑制する放熱手段であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記冷却手段の冷却動作を制御する制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記制御手段は、前記液体の量,粘性,熱容量,比熱又は熱伝導率の少なくとも一つに基づいて前記冷却手段の冷却動作を制御することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記制御手段は、前記音波発生手段の駆動条件に基づいて前記冷却手段の冷却動作を制御することを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記放熱手段は、前記音波発生手段が音波を発生させる際に生ずる熱を当該前記音波発生手段よりも温度の低い部分に伝導させる熱伝導部材であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段は、音波を発生させる発音部が表面に形成された圧電基板を有し、接着層を介して前記容器に取り付けられる表面弾性波素子であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段は、前記圧電基板の音響インピーダンス又は前記容器の音響インピーダンスと前記接着層の音響インピーダンスとの差の絶対値が、前記圧電基板の音響インピーダンスと前記容器の音響インピーダンスとの差の絶対値よりも大きいことを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波は、バルク波であることを特徴とする。
【0016】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項10に係る分析装置は、複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液の光学的特性を測定して前記反応液を分析する分析装置であって、前記攪拌装置を用いて検体と試薬との反応液を光学的に分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる攪拌装置は、容器に接触した状態で液体に照射する音波を発生させる音波発生手段と、音波の発生に伴う音波発生手段の発熱を抑制する抑制手段とを備えており、分析装置は、前記攪拌装置を用いて検体と試薬との反応液を光学的に分析する。このため、本発明の攪拌装置及び分析装置は、音波発生手段の発熱に起因した液体の温度上昇を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の攪拌装置及び分析装置にかかる実施の形態1について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、実施の形態1に係る攪拌装置を備えた自動分析装置の概略構成図である。図2は、図1に示す自動分析装置を構成するキュベットホイールのA部を拡大し、一部を断面にして示す斜視図である。図3は、反応容器を収容したキュベットホイールをホイール電極の位置で水平に切断した平面図である。図4は、攪拌装置の概略構成をキュベットホイール及び反応容器の断面図と共に示すブロック図である。
【0019】
自動分析装置1は、図1及び図2に示すように、試薬テーブル2,3、キュベットホイール4、検体容器移送機構8、分析光学系12、洗浄機構13、制御部15及び攪拌装置20を備えている。
【0020】
試薬テーブル2,3は、図1に示すように、それぞれ周方向に配置される複数の試薬容器2a,3aを保持し、駆動手段に回転されて試薬容器2a,3aを周方向に搬送する。
【0021】
キュベットホイール4は、図1に示すように、周方向に沿って設けた複数の仕切り板4aによって反応容器5を配置する複数のホルダ4bが周方向に形成され、駆動手段によって矢印で示す方向に回転されて反応容器5を搬送する。キュベットホイール4は、図2に示すように、各ホルダ4bの下部に対応する位置に半径方向に測光孔4cが形成され、測光孔4cの上部に設けた上下2つの挿通孔4dのそれぞれを利用してホイール電極4eが取り付けられている。
【0022】
ホイール電極4eは、図2及び図3に示すように、挿通孔4dから延出した一端が折り曲げられてキュベットホイール4の外面に当接し、挿通孔4dから延出した他端は同様に折り曲げられてホルダ4bの内面近傍に配置されている。これにより、ホイール電極4eは、ホルダ4bに配置される反応容器5をばね力によって保持している。
【0023】
また、キュベットホイール4は、各ホルダ4b下部の周方向に隣り合う位置にペルチェ素子27を配置する凹部4fが形成され、凹部4fの奥に圧接部材28が配置されている。凹部4fは、上部にキュベットホイール4の上面に開口する換気孔4gが形成されている。そして、キュベットホイール4は、近傍に試薬分注機構6,7が設けられている。
【0024】
試薬分注機構6,7は、キュベットホイール4に配置された反応容器5に試薬テーブル2,3の試薬容器2a,3aから試薬を分注する。ここで、試薬分注機構6,7は、図1に示すように、それぞれ水平面内を矢印方向に回動するアーム6a,7aに試薬を分注するプローブ6b,7bが設けられ、洗浄水によってプローブ6b,7bを洗浄する洗浄手段を有している。
【0025】
一方、反応容器5は、後述する分析光学系12から出射された分析光(340〜800nm)に含まれる光の80%以上を透過する透明素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス,環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂が使用される。反応容器5は、図2に示すように、検体や試薬を含む液体を保持する保持部5a(図3,図4参照)を有する四角筒形状のキュベットであり、側壁5bに表面弾性波素子24が取り付けられると共に、表面弾性波素子24の一組の入力端子24dのそれぞれと接続される電極パッド5eが取り付けられている。
【0026】
反応容器5は、表面弾性波素子24を仕切り板4a側に向けてホルダ4bにセットされ、各電極パッド5eが対応するホイール電極4eと接触する。電極パッド5eは、表面弾性波素子24と側壁5bとの間を跨いで一体的に設けられている。そして、反応容器5は、側壁5bに隣接する側壁下部の点線によって囲まれた部分が前記分析光を透過させる測光用の窓5cとして利用される。
【0027】
検体容器移送機構8は、図1に示すように、フィーダ9に配列した複数のラック10を矢印方向に沿って1つずつ移送する移送手段であり、ラック10を歩進させながら移送する。ラック10は、検体を収容した複数の検体容器10aを保持している。ここで、検体容器10aは、検体容器移送機構8によって移送されるラック10の歩進が停止するごとに、水平方向に回動するアーム11aとプローブ11bとを有する検体分注機構11によって検体が各反応容器5へ分注される。このため、検体分注機構11は、洗浄水によってプローブ11bを洗浄する洗浄手段を有している。
【0028】
分析光学系12は、試薬と検体とが反応した反応容器5内の液体試料を分析するための分析光(340〜800nm)を出射するもので、図1に示すように、発光部12a,分光部12b及び受光部12cを有している。発光部12aから出射された分析光は、反応容器5内の液体試料を透過し、分光部12bと対向する位置に設けた受光部12cによって受光される。受光部12cは、制御部15と接続されている。
【0029】
洗浄機構13は、ノズル13aによって反応容器5内の液体試料を吸引して排出した後、ノズル13aによって洗剤や洗浄水等の洗浄液等を繰り返し注入し、吸引することにより、分析光学系12による分析が終了した反応容器5を洗浄する。
【0030】
制御部15は、予め入力された動作プログラム等の情報を記憶して自動分析装置1及び攪拌装置20の各部の作動を制御すると共に、発光部12aの出射光量と受光部12cが受光した光量に基づく反応容器5内の液体試料の吸光度に基づいて検体の成分濃度等を分析する制御手段であり、例えば、マイクロコンピュータ等が使用される。制御部15は、図1に示すように、入力部16及び表示部17と接続されている。
【0031】
入力部16は、制御部15へ検査項目等を入力する操作を行う部分であり、例えば、キーボードやマウス等が使用される。入力部16は、攪拌装置20の表面弾性波素子24に入力する駆動信号の周波数を切り替える操作等にも使用される。表示部17は、分析内容や警報等を表示するもので、ディスプレイパネル等が使用される。
【0032】
攪拌装置20は、図4に示すように、駆動制御部21と表面弾性波素子24とを有している。駆動制御部21は、制御部15を介して入力部16から入力される液体の検査項目や液体の特性等の情報に基づいてペルチェ素子27による表面弾性波素子24の冷却動作を制御し、あるいは表面弾性波素子24の駆動条件に基づいてペルチェ素子27による表面弾性波素子24の冷却動作を制御する。駆動制御部21は、キュベットホイール4の外周にキュベットホイール4と対向させて配置され(図1参照)、ハウジング21aに設けた接触子21b(図3参照)の他に、ハウジング21a内に信号発生器22と駆動制御回路23を備えている。接触子21bは、2つのホイール電極4eと対向するハウジング21aに設けられ、キュベットホイール4が停止すると対応するホイール電極4eと接触し、駆動制御部21と反応容器5の表面弾性波素子24とが電気的に接続される。従って、攪拌装置20は、キュベットホイール4の回転が停止する都度、駆動制御部21の接触子21bが接触するホイール電極4eが変わり、駆動される表面弾性波素子24、即ち、攪拌対象の反応容器5が変更される。
【0033】
ここで、駆動制御部21は、入力部16から制御部15を介して入力される液体の検査項目、入力部16から入力され、制御部15に記憶された液体の特性、あるいは表面弾性波素子24の駆動条件等に基づいてペルチェ素子27の冷却動作を制御することで、表面弾性波素子24の圧電基板24aの温度上昇を抑制する。この場合、液体の特性としては、液体の量,粘性,熱容量,比熱又は熱伝導率がある。駆動制御部21は、少なくともこれらの液体の特性の少なくとも一つに基づいてペルチェ素子27の冷却動作を制御する。また、表面弾性波素子24の駆動条件としては、駆動制御部21が表面弾性波素子24に入力する駆動信号の振幅,周波数,印加時間(デューティ比)等がある。
【0034】
ここで、液体の特性は、自動分析装置1のメーカー側が予め測定し、又は推定して工場出荷時に制御部15に記憶させる特性を含む他、工場出荷後にユーザー側で繰り返し実施される攪拌に先立つ予備攪拌測定の際に測定され、ユーザー側が独自に制御部15に記憶させた特性であってもよい。また、繰り返し攪拌を行う場合には、先行して行った攪拌の際に得られた液体の量,粘性,熱容量,比熱又は熱伝導率等の結果を、液体の特性として利用してもよい。
【0035】
信号発生器22は、駆動制御回路23から入力される制御信号に基づいて発振周波数を変更可能な発振回路を有しており、数MHz〜数百MHz程度の高周波の駆動信号を表面弾性波素子24に入力する。駆動制御回路23は、メモリとタイマを内蔵した電子制御手段(ECU)が使用され、制御部15を介して入力部16から入力される制御信号に基づいて信号発生器22の作動を制御する。
【0036】
駆動制御回路23は、信号発生器22の作動を制御することにより表面弾性波素子24の駆動条件、例えば、表面弾性波素子24が発する音波の特性(周波数,強度(振幅),位相,波の特性)、波形(正弦波,三角波,矩形波,バースト波等)或いは変調(振幅変調,周波数変調)等を制御する。また、駆動制御回路23は、内蔵したタイマに従って信号発生器22が発振する高周波信号の周波数を変化させることができる。
【0037】
表面弾性波素子24は、図4に示すように、圧電基板24aの表面に二方向性櫛歯状電極(IDT)からなる振動子24bが形成されている。振動子24bは、駆動制御部21から入力された駆動信号を音波(バルク波)に変換する発音部であり、振動子24bを構成する複数のフィンガーが圧電基板24aの長手方向に沿って配列されている。振動子24bは、入力端子24dとの間がバスバー24eによって接続されている。また、表面弾性波素子24は、一組の入力端子24dと単一の駆動制御部21との間がホイール電極4eに接触する接触子21bによって接続されている。表面弾性波素子24は、エポキシ樹脂等の接着層25(図6参照)を介して反応容器5の側壁5bに取り付けられる。この場合、表面弾性波素子24は、反応容器5が保持する液量に応じて振動子24bの上下方向の配置位置を調整するとよい。即ち、表面弾性波素子24は、保持する液量が多い場合には反応容器5の上側に、液量が少ない場合には反応容器5の下側に、それぞれ対応するように、振動子24bを配置する。
【0038】
ここで、図4に示す表面弾性波素子24を含め、以下に説明する表面弾性波素子を示す図面は、構成の概略を示すことを主目的とするため、振動子を構成する複数のフィンガーの線幅又はピッチは必ずしも正確に描いていない。なお、電極パッド5eは、入力端子24d上に一体的に設けるか、入力端子24d自体が電極パッド5eであっても良い。
【0039】
ペルチェ素子27は、表面弾性波素子24の駆動に伴う発熱を抑制する抑制手段であり、攪拌装置20の駆動制御回路23によって作動が制御される。ペルチェ素子27は、圧接部材28が有する圧接ピン28aの先端に取り付けられている。ペルチェ素子27は、ホイール電極4eと同様にしてキュベットホイール4に設けた電極4hに接触する接触子21cによって攪拌装置20から駆動電力が供給される。ここで、ペルチェ素子27は、電極4hとの間が電気配線によって接続されている。
【0040】
圧接部材28は、攪拌装置20の駆動制御回路23によって作動が制御され、表面弾性波素子24を介してペルチェ素子27を反応容器5に圧接する。圧接部材28は、例えば、ソレノイド等のアクチュエータが使用され、ホイール電極4eと同様にしてキュベットホイール4に設けた電極4iに接触する接触子21dによって攪拌装置20から駆動電力が供給される。
【0041】
ここで、圧接部材28は、電極4iとの間が電気配線によって接続されている。圧接部材28は、各ホルダ4bに攪拌対象の液体を保持した反応容器5が配置されると、図3及び図4に示すように、圧接ピン28aを繰り出し、表面弾性波素子24を介してペルチェ素子27を反応容器5に圧接させる。但し、圧接部材28は、各ホルダ4bに攪拌対象の液体を保持した反応容器5が配置されない場合には、図5に示すように、圧接ピン28aを引き込み、ペルチェ素子27を凹部4f内に後退させている。
【0042】
以上のように構成される自動分析装置1は、回転するキュベットホイール4によって周方向に沿って搬送されてくる複数の反応容器5に試薬分注機構6,7が試薬容器2a,3aから試薬を順次分注する。試薬が分注された反応容器5は、検体分注機構11によってラック10に保持された複数の検体容器10aから検体が順次分注される。そして、キュベットホイール4が停止する都度、接触子21bがホイール電極4eと接触し、駆動制御部21と反応容器5の表面弾性波素子24とが電気的に接続される。このため、反応容器5は、分注された試薬と検体が攪拌装置20によって順次攪拌されて反応する。
【0043】
自動分析装置1においては、通常、試薬の量に比べて検体の量が少なく、攪拌によって液体中に生ずる一連の流れによって反応容器5に分注された少量の検体が多量の試薬に引き込まれて検体と試薬との反応が促進される。このようにして検体と試薬が反応した反応液は、キュベットホイール4が再び回転したときに分析光学系12を通過し、図4に示すように、発光部12aから出射された光束LBが透過する。これにより、反応容器5内の試薬と検体の反応液は、受光部12cで側光され、制御部15によって成分濃度等が分析される。そして、分析が終了した反応容器5は、洗浄機構13によって洗浄された後、再度検体の分析に使用される。
【0044】
このとき、自動分析装置1は、予め入力部16から制御部15を介して入力された制御信号に基づき、キュベットホイール4の停止時に駆動制御部21が接触子21bから入力端子24dに駆動信号を入力する。これにより、表面弾性波素子24は、入力される駆動信号に応じて振動子24bが駆動され、音波(バルク波)を誘起する。誘起された音波(バルク波)は、接着層25から反応容器5の側壁5b内へと伝搬し、図6に示すように、音響インピーダンスが近い液体L中へバルク波Wbが漏れ出してゆく。この結果、反応容器5が保持した液体Lには、漏れ出したバルク波Wbによって流れFが生じ、分注された試薬と検体が流れFによって攪拌される。
【0045】
ここで、表面弾性波素子24が発生したバルク波Wbは、図7に示すように、圧電基板24a,接着層25及び反応容器5の側壁5b内を多重反射しながら伝搬する。このとき、多重反射しながら伝搬するバルク波Wbは、圧電基板24aと接着層25との境界面、接着層25と側壁5bとの境界面、側壁5bと液体Lとの境界面でそれぞれ音響インピーダンスの差が小さい伝搬媒質側に漏れ出し、液体Lへと漏れ出してゆく。そして、バルク波Wbが各媒質内で多重反射する際に吸収される結果、各媒質が発熱する。このとき、表面弾性波素子24は、伝搬媒質の音響インピーダンスに関し、圧電基板24aの音響インピーダンス又は反応容器5の音響インピーダンスと接着層25の音響インピーダンスとの差の絶対値が、圧電基板24aの音響インピーダンスと反応容器5の音響インピーダンスとの差の絶対値よりも大きく、圧電基板24a,側壁5bの音響インピーダンス≫接着層25の音響インピーダンスの関係があると、圧電基板24aに吸収される音波の量が多くなり、圧電基板24aの発熱量が大きくなる。
【0046】
このとき、表面弾性波素子24は、圧電基板24aの表面に形成される振動子24bが二方向性櫛歯状電極(IDT)のため、図2,図4に示すように、振動子24bが反応容器5の下部側に配置されている場合には、振動子24bの位置を基準として上下に方向にバルク波Wbが漏れ出す。このため、振動子24bが図2,図4に示す位置にある場合には、図5,図6においてバルク波Wbを示す線が錯綜して見難くなる。このため、図5,図6は、振動子24bが圧電基板24a上方であって、反応容器5の気液界面近傍の側壁5bに位置する場合を例にして液体L中へ漏れ出すバルク波Wbや各媒質内を多重反射するバルク波Wbを図示している。
【0047】
攪拌装置20は、キュベットホイール4の停止時に上述のようにして表面弾性波素子24を駆動することによってバルク波Wbを発生させ、バルク波Wbにより反応容器5が保持した液体Lを攪拌する。このとき、表面弾性波素子24の駆動によって圧電基板24aが発熱するが、キュベットホイール4の停止時には、図3に示すように、同時に、接触子21cが電極4hに接触すると共に、接触子21dが電極4iに接触する。これにより、ペルチェ素子27と圧接部材28に攪拌装置20から駆動電力が供給され、圧接部材28によってペルチェ素子27が表面弾性波素子24に圧接されると共に、表面弾性波素子24が冷却される。
【0048】
このため、表面弾性波素子24は、駆動に伴う発熱が抑えられ、発熱に起因した反応容器5が保持した液体Lの温度上昇を抑制することができる。しかも、ペルチェ素子27は、反応容器5保持された攪拌対象であるに液体の特性や表面弾性波素子24の駆動条件等に応じて駆動制御部21によって冷却動作が制御されるため、表面弾性波素子24の駆動に伴う発熱が適切に抑えられる。このとき、ペルチェ素子27は、表面弾性波素子24に圧接される面の温度が低下して表面弾性波素子24を冷却するのに伴って、裏面が発熱して温度が上昇する。
【0049】
但し、キュベットホイール4は、図2及び図4に示すように、ペルチェ素子27を収容する凹部4fの上部にキュベットホイール4の上面に開口する換気孔4gが形成されている。このため、ペルチェ素子27の裏面が発熱すると、ペルチェ素子27裏面側の空気が加熱されて密度が低くなり、反応容器5を配置したホルダ4b内の空気を巻き込みながら凹部4fを上昇し、換気孔4gに案内されて上面からキュベットホイール4の外部へ排出される。従って、反応容器5は、保持した液体Lがペルチェ素子27の裏面で発生した熱によって加熱されることもなく、液体Lの温度上昇が抑制される。
【0050】
この結果、自動分析装置1は、攪拌装置20を使用して反応容器5が保持した液体Lを攪拌しても、表面弾性波素子24の発熱に起因した反応容器5が保持した液体Lの温度上昇が抑制される。自動分析装置1は、反応容器5が保持した検体や試薬の熱変質が発生し難く、精度が安定した分析を行うことができる。
【0051】
ここで、攪拌装置は、図8及び図9に示す攪拌装置30のように、信号発生器32と駆動制御回路33を備える駆動制御部31に加えて、表面弾性波素子34に圧接されるペルチェ素子27の面にRF送信アンテナ35を形成し、RF送信アンテナ35を信号発生器32によって駆動し、RF送信アンテナ35から送信される駆動信号によって表面弾性波素子34を無線駆動するように構成してもよい。
【0052】
このとき、表面弾性波素子34は、図9に示すように、圧電基板34aの表面に二方向性櫛歯状電極(IDT)からなる振動子34bがアンテナ34cと共に一体に設けられている。表面弾性波素子34は、振動子34b及びアンテナ34cを内側に向け、エポキシ樹脂等の音響整合層を介して反応容器5の側壁5bに取り付ける。表面弾性波素子34は、RF送信アンテナ35が発信した電波をアンテナ34cで受信し、共振作用によって発生した起電力により振動子34bに音波(表面弾性波)を発生させる。また、RF送信アンテナ35は、駆動制御部31に設ける接触子によって攪拌装置30から駆動電力が供給される。このように無線方式にすると、攪拌装置30は、構造が簡単で小型な構成とすることができる。
【0053】
(実施の形態2)
次に、本発明の攪拌装置及び分析装置にかかる実施の形態2について、図面を参照しつつ詳細に説明する。実施の形態1は、冷却手段によって音波発生手段の温度上昇を抑制することにより、音波発生手段の発熱に起因した反応容器が保持した液体の温度上昇を抑制する場合について説明した。これに対し、実施の形態2は、放熱手段によって音波発生手段の発熱を抑制することにより、音波発生手段の発熱に起因した反応容器が保持した液体の温度上昇を抑制する場合について説明している。実施の形態2の攪拌装置及び自動分析装置は、ペルチェ素子に代えて放熱板を使用していることを除き実施の形態1の攪拌装置及び自動分析装置であるので、同一の構成部分に同一の符号を使用し、主要部分の図面のみを使用して構成を説明している。
【0054】
実施の形態2の攪拌装置は、駆動に伴う表面弾性波素子24の温度上昇を抑制する抑制手段として放熱板を使用している。このとき、攪拌装置40は、図10に示すように、各ホルダ4b下部の周方向に隣り合う位置に形成された凹部4fに、圧接ピン28aの先端に取り付けられる放熱板41を配置している。放熱板41は、表面弾性波素子24が音波を発生させる際に生ずる熱を表面弾性波素子24よりも温度の低い部分に伝導させる熱伝導部材であり、熱伝導性に優れたアルミニウムや銅等の金属が使用されている。
【0055】
このため、攪拌装置40は、キュベットホイール4のホルダ4bに反応容器5を収容し、キュベットホイール4の停止時に上述のようにして表面弾性波素子24を駆動することによってバルク波Wbを発生させ、バルク波Wbにより反応容器5が保持した液体Lを攪拌する。攪拌装置40は、駆動に伴う表面弾性波素子24の発熱を抑制する抑制手段として放熱板41を使用することにより、攪拌時に圧接部材28によって放熱板41が表面弾性波素子24に圧接され、表面弾性波素子24で発生した熱が裏面等の温度が低い部分へ伝導され、表面弾性波素子24が冷却される。
【0056】
この熱伝導と並行して、表面弾性波素子24から放熱板41へ伝導した熱は、凹部4f内の空気を加熱する。このため、加熱されて密度が低くなった空気は、反応容器5を配置したホルダ4b内の空気を巻き込みながら凹部4fを上昇し、換気孔4gに案内されて上面からキュベットホイール4の外部へ排出される。従って、駆動に伴って表面弾性波素子24が発熱しても、放熱板41によって放熱されるため、表面弾性波素子24の温度上昇が抑制され、液体Lの温度上昇も抑制される。この結果、自動分析装置は、反応容器5が保持した検体や試薬の熱変質が発生し難く、精度が安定した分析を行うことができる。
【0057】
ここで、表面弾性波素子24は、時分割でデューティ比を制御して駆動し、或いは中心周波数で駆動する等、駆動条件を制御しても、表面弾性波素子24が発生する音波による液体の温度上昇を抑制することができる。このため、実施の形態1や実施の形態2の攪拌装置は、ペルチェ素子27や放熱板41によって表面弾性波素子24の発熱を抑制しながら、表面弾性波素子24の駆動条件を制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態1に係る攪拌装置を備えた自動分析装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す自動分析装置を構成するキュベットホイールのA部、一部を断面にして示す斜視図である。
【図3】反応容器を収容したキュベットホイールをホイール電極の位置で水平に切断した平面図である。
【図4】攪拌装置の概略構成をキュベットホイール及び反応容器の断面図と共に示すブロック図である。
【図5】反応容器を収容していないキュベットホイールのホルダを示す断面図である。
【図6】表面弾性波素子を駆動することによって液体内に漏れ出すバルク波とバルク波によって生ずる流れを示す反応容器の断面図である。
【図7】図6のB部を拡大して示す図である。
【図8】実施の形態1に係る攪拌装置の変形例を示す図4に対応した図である。
【図9】図8の変形例を示し、反応容器の斜視図を攪拌装置のブロック図と共に示す図である。
【図10】実施の形態2の攪拌装置の概略構成をキュベットホイール及び反応容器の断面図と共に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0059】
1 自動分析装置
2,3 試薬テーブル
4 キュベットホイール
5 反応容器
6,7 試薬分注機構
8 検体容器移送機構
9 フィーダ
10 ラック
11 検体分注機構
12 分析光学系
13 洗浄機構
15 制御部
16 入力部
17 表示部
20 攪拌装置
21 駆動制御部
22 信号発生器
23 駆動制御回路
24 表面弾性波素子
25 接着層
27 ペルチェ素子
28 圧接部材
30 攪拌装置
31 駆動制御部
32 信号発生器
33 駆動制御回路
34 表面弾性波素子
35 RF送信アンテナ
40 攪拌装置
41 放熱板
F 流れ
L 液体
Wb バルク波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に保持された液体を音波によって攪拌する攪拌装置において、
前記容器に接触した状態で前記液体に照射する音波を発生させる音波発生手段と、
音波の発生に伴う前記音波発生手段の発熱を抑制する抑制手段と、
を備えたことを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記抑制手段は、前記音波発生手段に当接し、冷却によって当該音波発生手段の発熱を抑制する冷却手段又は放熱によって当該音波発生手段の発熱を抑制する放熱手段であることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記冷却手段の冷却動作を制御する制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記液体の量,粘性,熱容量,比熱又は熱伝導率の少なくとも一つに基づいて前記冷却手段の冷却動作を制御することを特徴とする請求項3に記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記音波発生手段の駆動条件に基づいて前記冷却手段の冷却動作を制御することを特徴とする請求項3に記載の攪拌装置。
【請求項6】
前記放熱手段は、前記音波発生手段が音波を発生させる際に生ずる熱を当該前記音波発生手段よりも温度の低い部分に伝導させる熱伝導部材であることを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項7】
前記音波発生手段は、音波を発生させる発音部が表面に形成された圧電基板を有し、接着層を介して前記容器に取り付けられる表面弾性波素子であることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項8】
前記音波発生手段は、前記圧電基板の音響インピーダンス又は前記容器の音響インピーダンスと前記接着層の音響インピーダンスとの差の絶対値が、前記圧電基板の音響インピーダンスと前記容器の音響インピーダンスとの差の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項7に記載の攪拌装置。
【請求項9】
前記音波は、バルク波であることを特徴とする請求項7に記載の攪拌装置。
【請求項10】
複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液の光学的特性を測定して前記反応液を分析する分析装置であって、請求項1〜9のいずれか一つに記載の攪拌装置を用いて検体と試薬との反応液を光学的に分析することを特徴とする分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−248251(P2007−248251A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71659(P2006−71659)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】