説明

放射線画像検出器

【課題】TFT方式の放射線画像検出器において、点欠陥抑制と残像抑制との両立を可能にする具体的な構成を明確化する。
【解決手段】放射線画像検出器は、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層20と、電荷発生層20において発生した電荷を収集する収集電極8、および収集電極8によって収集された電荷を読み出すためのスイッチ素子3を有する画素部11が2次元状に多数配列された検出層10とが積層された構造を有する。収集電極8の周縁部全周に保護膜18を設け、収集電極8の全面積に対する収集電極8の保護膜18で覆われていない部分の面積の比率(フィルファクター)を40%以上、99.8%以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層と、スイッチ素子を有する多数の画素部が2次元状に配列された検出層とが積層された放射線画像検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野などにおいて、被写体を透過した放射線の照射を受けて電荷を発生し、その電荷を蓄積することにより被写体に関する放射線画像を記録する放射線画像検出器が各種提案、実用化されている。
【0003】
放射線画像検出器の方式としては、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsI:Tl、GOS(Gd2S:Tb)などのシンチレータで光に変換し、その光を光導電層で電荷に変換し蓄積する間接変換方式がある。また、読取り方式としては、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した光読取方式と、放射線の照射により発生した電荷を収集電極に蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取るTFT方式に大別される。
【0004】
上記のような放射線画像検出器では、光電変換層にかかる電界がある閾値を超えると、急激に電極からの電荷注入(暗電流)が増加し、結晶化が起こり、点欠陥が発生することが知られている。そこで、特許文献1には、光読取方式の放射線画像検出器において、暗電流を防止するために電極端部を絶縁膜からなる保護膜で覆うことが提案されている。また、特許文献2には、TFT方式の放射線画像検出器において、収集電極からの暗電流を防止するために収集電極全面を有機膜からなる保護膜で覆うことが提案されている。
【特許文献1】特開2005−183670号公報
【特許文献2】特開2006−156555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、「絶縁膜はたとえば電極上面の幅の30%程度が望ましい」との記載があるが、その論拠は示されておらず、また、絶縁膜の幅や形状が具体的に示されていない。
【0006】
また、放射線画像検出器においては、点欠陥だけでなく、以前の画像パターンが残る残像も大きな問題である。特に、TFT方式の放射線画像検出器では、収集電極に直接電荷を蓄積するため、残像の問題解決が重要である。これに対して、光読取方式の放射線画像検出器では、電極とは別に蓄電部を備え、この蓄電部に電荷を蓄積するようにしているため、電極そのものの残像問題はTFT方式とは異なると言える。また、TFT方式の放射線画像検出器では一般に、収集電極間にデータ線やゲート線等の配線があるのに対し、光読取方式の放射線画像検出器では、電極間に配線がない。配線の有無や配線と収集電極との距離は、形成すべき保護膜の構成に影響する。以上のことから、光読取方式の保護膜の構成をTFT方式にそのまま適用しても、点欠陥および残像の両方を効果的に防止することは難しいと考えられる。
【0007】
特許文献2では、残像特性を改善するために保護膜に導電性を付与することを提案しているが、保護膜が収集電極全体を覆っているため、残像特性の劣化は避けがたく、点欠陥防止と残像防止とを両立することは難しいと考えられる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、TFT方式の放射線画像検出器において、点欠陥抑制と残像抑制との両立を可能にする具体的な構成を明確化することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の放射線画像検出器は、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層と、該電荷発生層において発生した電荷を収集する収集電極、および該収集電極によって収集された前記電荷を読み出すためのスイッチ素子を有する画素部が2次元状に多数配列された検出層とが積層された放射線画像検出器において、前記収集電極の周縁部全周に保護膜が設けられ、前記収集電極の全面積に対する前記収集電極の前記保護膜で覆われていない部分の面積の比率が、40%以上、99.8%以下であることを特徴とする。
【0010】
上記の放射線画像検出器においては、上記比率が、60%以上、99.5%以下であることが好ましく、さらに上記比率が、80%以上、96%以下であることがより好ましい。
【0011】
また、上記の放射線画像検出器において、上記保護膜が、絶縁膜であるように構成してもよい。
【0012】
なお、本明細書において、上記の「収集電極の全面積(S)に対する前記収集電極の前記保護膜で覆われていない部分の面積(Sn)の比率(=Sn/S×100[%])」を「フィルファクター」と呼ぶことにする。
【0013】
また、「放射線」の具体例としては例えばX線が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の放射線画像検出器によれば、収集電極の周縁部全周に保護膜を設け、収集電極の全面積に対する収集電極の保護膜で覆われていない部分の面積の比率(フィルファクター)を40%以上、99.8%以下とすることにより、点欠陥特性および残像特性の両方を製品として許容可能なレベル以上に保持できる。また、フィルファクターを60%以上、99.5%以下としたときは、点欠陥特性および残像特性の両方を製品として十分なレベル以上に保持できる。そして、フィルファクターを80%以上、96%以下としたときには、点欠陥特性および残像特性の両方を製品として優れたレベルに保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態にかかる放射線画像検出器について説明する。図1は本放射線画像検出器100の概略構成図であり、図2は図1に示す放射線画像検出器100の画素部のレイアウトである。
【0016】
本実施形態の放射線画像検出器100は、TFT方式のものであり、図1に示すように、上部電極層21と、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層20と、電荷発生層20において発生した電荷を収集する収集電極8、および該収集電極8によって収集された前記電荷を読み出すためのスイッチ素子3を有する画素部11が2次元上に多数配列された検出層10とが順次積層された構造を有する。
【0017】
上部電極層21は、Auなどの低抵抗の導電材料で構成されている。そして、上部電極層21には、バイアス電圧を印加するための高圧電源22が接続されている。
【0018】
電荷発生層20は、電磁波導電性を有するものであり、放射線の照射により内部に電荷を発生するものである。電荷発生層20としては、たとえば、セレンを主成分とする膜厚100〜1000μmの非晶質a−Se膜を用いることができる。
【0019】
検出層10は、アクティブマトリクス基板からなり、収集電極8と、収集電極8によって収集された電荷を蓄積する蓄積容量4と、蓄積容量4に蓄積された電荷を読み出すためのスイッチ素子3とを有するアレイ状に配置された画素部11を備えている。
【0020】
収集電極8は、たとえばAl、Au、Cr、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)等の材料を用いて構成でき、その厚みは0.05μm〜1μmの範囲が好ましい。
【0021】
収集電極8の周縁部の全周には保護膜18が設けられている。保護膜18が収集電極8を覆っているカバー幅Wは均一である。図2においては、収集電極8の外形を太い点線で示し、保護膜18を太い実線で囲まれた斜線部で示している。なお、図1および図2は概念図であり、図面内の各部の寸法は必ずしも実際の物と同じではない。また、本例では、隣接する保護膜18は分離した構成となっているが、隣り合う収集電極8間にわたって連続する構成にしてもよい。
【0022】
保護膜18を設けることにより、収集電極8の中央部の電界強度に対する収集電極8の端部の電界強度の比(電界比)を小さくすることができ、暗電流を低減し、点欠陥を減少できる。これらの効果を安定して得るためには、カバー幅Wは均一であることが好ましく、本実施形態ではそのように構成している。なお、「カバー幅Wが均一」とは、各部のカバー幅が、全周におけるカバー幅Wの平均値±10%以内の幅であることを意味する。
【0023】
保護膜18は、例えば絶縁膜により構成することができ、材料としては、ノボラック樹脂、アクリル樹脂、PVA(polyvinylalcohol)膜、PVP(polyvinyl pyrrolidone)膜、PAA(Polyacrylic Acid)膜等を用いることができる。保護膜18の厚みは、たとえば0.05μm〜5μmの範囲にすることができる。
【0024】
また、検出層10は、スイッチ素子3をON/OFFするための多数の走査線1と、蓄積容量4に蓄積された電荷を読み出すための多数のデータ線5とを備えている。
【0025】
スイッチ素子3としては、一般的には、アモルファスシリコンを活性層に用いたa−SiTFTが用いられる。そして、スイッチ素子3のゲート電極2には、スイッチ素子3をON/OFFするための走査線1が接続されており、ソース電極6には、蓄積容量4に蓄積された電荷を読み出すためのデータ線5が接続され、ドレイン電極7には、蓄積容量4を構成する一方の電極である蓄積容量電極9が接続されている。データ線5の終端には、アンプ23が接続されている。そして、蓄積容量4の他方の電極は蓄積容量配線12に接続されている。なお、図の煩雑化を避けるため、図1では同一部位の符号の一部を省略している。
【0026】
次に、放射線画像検出器100の動作の一例について説明する。図1の上方よりX線等の放射線画像を担持した記録用の放射線が照射され、該放射線は上部電極層21を透過し、電荷発生層20に照射される。この照射により電荷発生層20は内部に電荷を発生する。その発生した電荷のうち正孔は上部電極層21と収集電極8間のバイアスにより収集電極8に集められ、収集電極8に電気的に接続された蓄積容量4に蓄積される。電荷発生層20は照射された放射線量に応じた量の電荷を発生するため、放射線が担持した画像情報に応じた電荷が各画素部11の蓄積容量4に蓄積される。その後、走査線1を介してスイッチ素子3をON状態にする信号を順次加え、データ線5を介して各蓄積容量4に蓄積された電荷を取り出す。さらにアンプ23で各画素の電荷量を検出することにより画像情報を読み取ることができる。
【0027】
以下、前述の手段の項において定義したフィルファクターを用いて、保護膜の構成と点欠陥特性および残像特性との関係について説明する。フィルファクターは、収集電極の全面積に対する収集電極の保護膜で覆われていない部分の面積の比率である。図3は、放射線画像検出器100において、カバー幅Wの変化によりフィルファクターを変化させ、シミュレーション実験により残像特性と点欠陥特性を評価した結果である。図3中の記号はそれぞれ評価結果を表し、◎:製品として優れた性能を有する、○:製品として十分なレベルの性能を有する、△:製品として十分ではないが許容範囲の性能を有する、×:製品として許容されない、の意味である。
【0028】
上記実験においては、収集電極の一辺の長さが100μm、保護膜の厚みが1μm、保護膜の接触角θが40度、としている。なお、接触角は図4に示すように、収集電極上面に接触している保護膜の収集電極上面に対する角度である。
【0029】
図3に示すように、フィルファクターが40%以上、99.8%以下のときは、点欠陥特性および残像特性の両方が製品として許容可能なレベル以上にある。また、フィルファクターが、60%以上、99.5%以下のときは、点欠陥特性および残像特性の両方が製品として十分なレベル以上にある。そして、フィルファクターが、80%以上、96%以下のときは、点欠陥特性および残像特性の両方が製品として優れたレベルにある。
【0030】
なお、接触角θが60度のものについても同様の実験を行ったところ、上記の接触角θが40度のものと同様の結果が得られた。
【0031】
すなわち、放射線画像検出器100において、収集電極の周縁部を保護膜で覆うことにより、点欠陥特性を改良できるが、覆う面積が大きすぎると、画像特性として重要な残像特性が悪化することがわかった。そして、上記のようにフィルファクターの値を規定することで、欠陥特性および残像特性の両方を良好に維持できることがわかった。
【0032】
なお、本発明の放射線画像検出器は上記実施形態に限定されない。たとえば、本発明の放射線画像検出器における層構成は上記実施形態のような層構成に限らず、その他の層を加えたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の放射線画像検出器の一実施形態の概略構成図
【図2】図1に示す放射線画像検出器の画素部のレイアウト
【図3】フィルファクターの変化による残像特性および点欠陥特性を示す図
【図4】保護膜の接触角を説明するための図
【符号の説明】
【0034】
1 走査線
2 ゲート電極
3 スイッチ素子
4 蓄積容量
5 データ線
6 ソース電極
7 ドレイン電極
8 収集電極
9 蓄積容量電極
10 検出層
11 画素部
12 蓄積容量配線
18 保護膜
20 電荷発生層
21 上部電極層
22 高圧電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層と、
該電荷発生層において発生した電荷を収集する収集電極、および該収集電極によって収集された前記電荷を読み出すためのスイッチ素子を有する画素部が2次元状に多数配列された検出層とが積層された放射線画像検出器において、
前記収集電極の周縁部全周に保護膜が設けられ、
前記収集電極の全面積に対する前記収集電極の前記保護膜で覆われていない部分の面積の比率が、40%以上、99.8%以下であることを特徴とする放射線画像検出器。
【請求項2】
前記比率が、60%以上、99.5%以下であることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。
【請求項3】
前記比率が、80%以上、96%以下であることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。
【請求項4】
前記保護膜が、絶縁膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の放射線画像検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−98330(P2008−98330A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277154(P2006−277154)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】