説明

斜め加工のための5軸加工機の姿勢保証システム

【課題】それぞれ傾斜穴の傾斜、方位に基づいて、加工を始める前に主軸頭やテーブルの旋回角度の誤差を測定しておき、自動的に主軸頭やテーブルの旋回角度を補正しながら斜め加工を実施できるようにする。
【解決手段】特定のワークの加工を開始する前の段階で、当該ワークについて加工するすべての傾斜穴の傾斜角度、方位などの形状データに基づいた測定プログラムの実行により、当該ワークに行う各傾斜穴加工のすべてについて、その傾斜角度に前記主軸頭10を旋回させたときのA軸角度の目標値と実際の測定値との誤差である変位角度を測定し、ワークのすべての傾斜穴加工について、変位角度が許容範囲内になるように補正したA軸角度を記憶させ、当該ワークの加工プログラムをNC装置で実行したときにすべての傾斜穴について補正後のA軸角度を読み出し、各斜め加工を実行するときのA軸角度を前記補正後のA軸角度で指令する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5軸加工機の姿勢保証システムに係り、特に、主軸頭が旋回する門型工作機械などの5軸加工機において、ワークに傾斜穴を加工するときに、主軸頭の旋回軸であるA軸やテーブルを割り出すC軸の誤差を補償できるようにした5軸加工機の姿勢保証システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、5軸加工機の代表的な機械には、門型工作機械がある。この門型工作機械では、主軸頭がクロスレールに設置されており、X軸、Y軸、Z軸に加えて主軸頭を旋回させるA軸と、テーブルを割り出すC軸を備えている。このような門型工作機械の従来技術例としては、例えば、特許文献1に開示されているものを挙げることができる。この種の門型工作機械をはじめとする5軸加工機では、主としてプロペラなどに代表される自由曲面加工にメリットがあるとされてきた。
【0003】
例えば、これまで金型の付加価値加工は、自由曲面の形状加工が最優先され、主軸の高速回転と軸移動の高速追従性能が求められていた。これに応えるようにして、5軸加工機では、形状加工の高速高精度化が実現されてきた。
【0004】
近年、製造業を取り巻く環境が大きく変化し、加工する製品の製造日程短縮の
ための要求が厳しくなっている。そして、5軸加工機に対するユーザーからの要求は、工程集約的な複合加工指向が強くなってきている。これに伴い、上述のように、高速高精度化の面で著しい成果を挙げた反面で、旧態以前たる加工作業も依然として併存しているというアンバランスが問題となってきている。
【0005】
例えば、自動車のインストパネルやバンパーのような大型の樹脂成形品を成形する金型を加工する場合、高度な形状加工を行う以外に、押出ピンを入れる穴や、冷却穴、アンダカット形状加工など、必ずしも高度な形状加工を行う必要のない加工も多数存在する。
【特許文献1】特開2004−34168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これだけ高速化が定着した現在であっても、押出ピン穴加工のような、けっして高速高精度加工とはいえない加工が熟練者による人海戦術で行われているという現状がある。これは、押出ピン穴は、一つの金型に何箇所も設けられており、しかもそれぞれの押出ピン穴は、傾斜および方位が異なっているという特質があるためである。
【0007】
5軸加工機で、押出ピン穴を加工するには、主軸頭を穴の傾斜角に合わせて旋回させるとともに、穴の方位に合わせてテーブルを旋回させる必要がある。しかし、主軸頭の重量によって、不可避的に主軸頭の傾斜角に誤差が生じたり、テーブルの旋回角に機械的な誤差が生じたりするので、押出ピン穴の加工には不向きであった。このため、5軸加工機による形状加工とは別に、熟練者による人海戦術での傾斜ドリル加工作業が行われていた。
【0008】
実際、一つ一つの押出ピン穴について傾斜ドリル加工を行うために、熟練者が手作業でワークの段取り、ドリル加工を行っている。現実の切削に要する時間は、短時間であるのに対して、段取りにほとんどの時間が費やされ、工作機械の高速高精度化の成果を活用できないのが現状であった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、それぞれ傾斜穴の傾斜、方位に基づいて、加工を始める前に主軸頭やテーブルの旋回角度の誤差を測定しておき、自動的に主軸頭やテーブルの旋回角度を補正しながら、加工段階での主軸頭やテーブルの姿勢を正確に保証できるようにした斜め加工のための5軸加工機の姿勢保証システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明は、X軸、Y軸、Z軸に加えて、主軸頭を旋回させるA軸とテーブルを旋回させるC軸を有する5軸加工機において、重力の影響および機械的誤差に起因して生じる誤差を修正し、ワークに斜め加工するときの姿勢を保証するシステムであって、特定のワークの加工を開始する前の段階で、当該ワークについて加工するすべての傾斜穴の傾斜角度、方位などの形状データに基づいた測定プログラムの実行により、当該ワークに行う各傾斜穴加工のすべてについて、その傾斜角度に前記主軸頭を旋回させたときのA軸角度の目標値と実際の測定値との誤差である変位角度を測定するA軸較正手段と、当該ワークのすべての傾斜穴加工について、前記A軸角度を変位角度で補正したA軸角度を記憶する補正データ記憶手段と、当該ワークの加工プログラムをNC装置で実行したときにすべての傾斜穴について補正後のA軸角度を読み出し、各傾斜加工を実行するときのA軸角度を前記補正後のA軸角度で指令するA軸制御手段と、
を具備することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明は、前記A軸制御手段とともに、前記測定プログラムの実行により、当該ワークについてすべての各傾斜穴ごとに、その方位に対応させて前記テーブルを旋回させたときにC軸角度の指令値と実際の測定値との誤差である変位角度を測定するC軸較正手段と、当該ワークのすべての傾斜穴について、C軸角度を前記変位角度で補正したC軸角度を記憶する補正データ記憶手段と、当該ワークに各傾斜穴を加工する段階で、すべての傾斜穴について補正後の前記C軸角度を読み出し、当該テーブルを各傾斜穴の方位に合わせるためのC軸角度指令値を前記補正後のC軸角度で指令するC軸制御手段と、をさらに具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワークのすべての傾斜穴をCADデータに基づいて作成した測定プログラムを実行し、傾斜角度、方位の誤差が許容範囲になるようなA軸角度、C軸角度をすべての傾斜穴について把握した上で、文字通りNC制御による高精度の自動加工が実現することができるので、5軸加工機本来の高速性を活用して、効率的な斜め加工を実現でき、とりわけ、ワークが大型金型である場合に顕著な加工効率の向上を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による斜め加工のための5軸加工機の姿勢保証システムの一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による傾斜穴加工のための姿勢保証システムが適用される5軸加工機の一例として門形工作機械を示す。
図1において、参照番号2は、コラムを示し、参照番号4はベッドを示している。コラム2には、クロスレール6が水平に架設されており、このクロスレール6は、上下方向に昇降するようになっている。また、クロスレール6には、サドル8が左右方向に移動自在に設置されている。主軸頭10は、サドル8に旋回可能に設置されており、旋回ころがりガイドに支持されたスイベル旋回機構により駆動される構造になっている。
【0014】
ベッド4の上には、テーブル12が設けられている。このテーブルは、360°連続回転可能なロータリテーブルであり、テーブル12に載せたワークを任意の方位に向けることができる。
【0015】
このような門形工作機械は、直線軸としてX軸、Y軸、Z軸の3軸を有している。X軸は、テーブル12を前後方向に送る制御軸である。Y軸はサドル8左右方向に送る制御軸、Z軸は、クロスレールを上下方向に送る制御軸である。これらのX軸、Y軸、Z軸に加えて、主軸頭10をY−Z平面内で左右に最大30度旋回させる旋回軸がA軸であり、テーブル12を連続的に任意の角度を旋回される旋回軸がC軸である。
【0016】
次に、図2は、門形工作機械で傾斜穴加工が加えられるワークの一例を示す。この実施形態では、ワークは、自動車のインストパネルのような大型樹脂成形品を成形するのに使用される大型の金型20である。このような大型金型20の場合、成形品を取る出すための押出ピンが必要不可欠となる。そして、大型金型20には、いくつも押出ピンを組み込まなければ、成形品を取り出すことができない。このため、大型金型20には、製品キャビティを形成する曲面の形状加工をした後、押出ピンを挿入するための多数のピン穴が傾斜穴開け加工により加工される。
【0017】
図3は、ピン穴の形状を示す金型20の断面を示す図である。押出ピン21は、入子22とスライドロッド23とからなり、入子22が金型20から突出して成形品を押し出す。金型20には、スライドロット23が摺動するスライドロッド穴24と入子22が収容されるコアポケット25が加工される。スライドロッド穴24とコアポケット25は、全体として一つのピン穴を形成している。
【0018】
このようなピン穴は、傾斜しているのが通常である。図4において、例えば、スライドロッド穴24についてみれば、このスライドロッド穴24は、穴の基準点を設定したときのその座標、スライドロッド穴24の傾斜角度θ、スライドロッド穴24の軸線が延びる方位ψ等のデータによって最低限特定することができる。
【0019】
金型20をテーブル12に載せてスライドロッド穴24をドリルで穴開け加工する場合、スライドロッド穴24の方位に合わせてテーブル12を旋回させ、スライドロッド穴24の傾斜角度にだけ主軸頭10が傾いた姿勢を維持して、X軸、Y軸、Z軸を同時に数値制御しながらドリルを送ることでスライドロッド穴24を加工することができる。
【0020】
理論上は、金型20に加工するすべての傾斜穴について、穴の基準点の座標、穴の傾斜角度、方位、形状についてのデータから加工プログラムを作成し、その加工プログラムを実行して金型20のすべての傾斜穴の加工を自動化することができる。
【0021】
ところが、現実には、主軸頭10を傾斜させた状態では、主軸頭10やコラム2、クロスレール6に撓みが生じて、わずかながら傾斜角度に誤差が生じる。また、テーブル12を旋回させたときにも機械的な誤差が不可避的に生じる。このため、実際の加工では、傾斜角度や方位に誤差が出て正確な斜め加工ができない。
【0022】
そこで、図1の門形工作機械には、傾斜加工をするときの姿勢を保証するシステムを設け、重力の影響および機械的誤差に起因して主軸頭10の旋回角度やテーブル12の旋回角度に生じる誤差を修正している。
【0023】
図5は、本実施形態による姿勢保証システムのブロック構成図である。
図5において、参照番号30は、CAD/CAM機を示し、参照番号40は、CNC装置を示す。CAD/CAM機30とCNC装置40は、シリアル通信やLANなどの通信手段で接続されている。
【0024】
CAD/CAM機30は、加工対象のワーク、この実施形態では、大型金型の設計するCADデータが作成するCADデータ作成部31と、CADデータに含まれるピン穴の基準点の位置、傾斜角度、方位、さらには形状などのデータに基づいて、ピン穴加工の加工プログラムを作成する加工プログラム作成部32と、CADデータに基づいて主軸頭10の旋回角度やテーブル12の旋回角度を補正するのに必要なデータを得るためキャリブレーションを行う測定プログラムを作成する測定プログラム作成部33と、を構成するようになっている。
【0025】
次に、CNC装置40は、X軸、Y軸、Z軸、A軸、C軸の5軸同期制御が可能なCNC装置であり、基本的な構成として入出力部42、演算制御部43、記憶部44、X軸制御部45、Y軸制御部46、Z軸制御部47、A軸制御部48、C軸制御部49を備えている。
【0026】
演算制御部43では、加工プログラムを実行するほか、測定プログラムをユーザ指定で実行する。これらのプログラムを実行すると、X軸制御部45、Y軸制御部46、Z軸制御部47、A軸制御部48、C軸制御部49の各軸制御部は、各軸についての指令を生成し、これらの各軸指令は、それぞれX軸サーボモータ50、Y軸サーボモータ51、Z軸サーボモータ52、A軸サーボモータ53、C軸サーボモータ54に出力される。これら各軸の実際の位置は、位置検出器55、56、57、58、59により検出され、位置検出信号はCNC装置40にフィードバックされる。
【0027】
測定プログラムの実行により、キャリブレーションを行うときには、主軸頭10の主軸先端には、タッチプローブ60が装着される。テーブル12上の所定の位置には、キャリブレーションゲージ62が設置されている。このキャリブレーションゲージ62は、主軸頭10が旋回したときの旋回角度の誤差を測定するためのゲージである。同様に、テーブル12の上には、旋回軸に関して対称な位置に一対のキャリブレーションゲージ64a、64bが配置されている。キャリブレーションゲージ62、キャリブレーションゲージ64a、64bのうち、キャリブレーションゲージ62は、高度な真円度を有する球体である。キャリブレーションゲージ64a、64bは、円筒形のゲージである。
【0028】
タッチプローブ60には、接触子61が設けられており、キャリブレーションゲージ62、64a、64bに接触子61が接触したときに発生するオンオフ信号は、プログラマブルロジックコントローラ65を介してCNC装置40に入力される。
【0029】
次に、図6は、主軸頭10を旋回させたときのA軸の旋回角度の補正量を求めるために行うキャリブレーションを実行する測定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
また、図7は、測定プログラムを実行したときの主軸頭10の姿勢の変化を示す図である。テーブル12上に設置されたキャリブレーションゲージ62の中心位置P(X0、Y0、Z0)は測定済みで既知であるとする。
また、加工対象の金型には、n本の傾斜穴A1乃至Anを加工するものとし、この金型の場合、傾斜穴A1乃至Anの傾斜角度θはそれぞれθ1、θ2、…θnで、方位ψはそれぞれψ1、ψ2、…ψnであるとする。
【0030】
まず、最初に、主軸頭10を旋回させるときのA軸角度が設定される(ステップS1)。最初は、傾斜穴A1の傾斜角度θ1に設定される。その後、最初の傾斜穴A1の傾斜角度θ1になるまでキャリブレーションゲージ62の球面にタッチプローブ60の接触子61が接触を保ったまま主軸頭10を旋回させるマクロプログラムが実行される(ステップS3)。このマクロプログラムの実行により、主軸頭10の姿勢は、図7に示すように、A軸角度は理論上はθ1になる。
【0031】
ステップS4では、主軸頭10の傾いた姿勢を保ったまま、キャリブレーションゲージ62の測定上の中心点位置P’(図8参照)を測定するマクロプログラムを実行する。このマクロプログラムでは、タッチプローブ61がキャリブレーションゲージ62の表面と接触する4点の座標が測定されて、4点の座標から中心位置P’の座標が算出される。
【0032】
こうして、キャリブレーションゲージ62の測定上の中心位置P’の座標がわかったところで、既知の中心位置Pとの誤差から次のようにして、A軸の変位角度εが求められる(ステップS5)。
【0033】
すなわち、図8において、主軸頭10の旋回中心から主軸のゲージラインまでの距離をL、タッチプローブ60のセンサ長をlとすると、PP’間の距離の誤差をeとして、A軸の変位角度εを求めることができる。
続く、ステップS6では、A軸変位角度εと、あらかじめ決められている許容値αとが比較されて、許容範囲に入っているか否かが判別される。許容範囲に入っていれば、このときのA軸角度θ1−εを記憶部44に記憶し(ステップS7)、ステップS8からステップS1に戻って次の傾斜穴の測定に進む。
【0034】
許容値αの範囲に入っていなければ、ステップS9に進む。このステップS9では、それまでθ1に設定されていたA軸角度の目標値を、変位角度を用いてθ1−εに補正し、ステップS2に戻って、再度、A軸角度をθ1−εとして、ステップS3〜S6の再測定を行い、再度求めたA軸変位角度εが許容値αの範囲内に入っているかを判別する。入っていなければ再測定をする。
こうして測定を繰り返し、変位角度εが許容範囲に入ったら、ステップS7でこのときのA軸角度θ1を記憶部44に記憶する。
【0035】
次の傾斜穴A2についても、同じようにして、傾斜角度θ2に主軸頭を旋回させてキャリブレーションケージ62の中心位置を測定し、変位角度εが許容値α内にはいるまで測定を繰り返し、そのときのA軸角度θ2を記憶部44に記憶する。以下、同様に、すべての傾斜穴について測定を行う。
【0036】
次に、図9は、テーブル12を旋回させたときのC軸の旋回角度の補正量を求めるために行うキャリブレーションを実行する測定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図10は、測定プログラムを実行したときのテーブル12の位置の変化を示す図である。
【0037】
図10(a)は、テーブル12の初期位置(C軸角度=0°)を示す。テーブル12の上には、キャリブレーションゲージ64a、64bがそれぞれP点、Q点に設置されている。このP点、Q点は、テーブル12の旋回中心Oに関して180°対称な位置にある。
【0038】
まず、最初のステップS10乃至S13は、テーブル12の旋回中心Oの位置を確認する処理である。すなわち、ステップS10、S11では、テーブル12を初期位置(C軸角度=0°)にして、P点の位置を測定する。この測定には、タッチプローブ60がP点のキャリブレーションゲージ64a、Q点のキャリブレーションゲージ64bのそれぞれの内径部の中心を測定する自動心出し(直径2方向アプローチ)を行うマクロプログラムが実行され、C軸角度0°におけるP点の座標が求められる。
【0039】
ステップS12、S13では、テーブル12を180°旋回させたP’点の座標を求める(図10(b))。テーブル12の旋回中心は、P点、P’点の中点になる(ステップS14)。
【0040】
次に、テーブル12を金型の傾斜穴の方位ψに旋回させるときのC軸角度が設定される(ステップS15)。最初の傾斜穴A1の方位はψ1であるので、C軸角度はψ1に設定される。
その後、テーブル12を図10(a)に示す初期位置に位置決めする(ステップ16)。
【0041】
次いで、最初の傾斜穴A1の方位ψ1になるまでテーブル12を旋回させる(ステップS17)。ステップS18では、自動心出しを行うマクロプログラムの実行により、テーブル12のP点、Q点にあるキャリブレーションゲージ64a、64bの位置を測定する(図10(c))。
こうして、キャリブレーションゲージ64a、64bの測定上の座標がわかれば、このときの実際の旋回角度ψ’1を算出することができる。
【0042】
続く、ステップS19では、理論上の旋回角度ψ1と実際の旋回角度ψ’1の差から、C軸の変位角度δを求める。そして、このときの変位角度δと、許容値βとが比較されて、許容値βの範囲に入っているか否かが判別される(ステップS20)。許容範囲に入っていれば、このときのC軸角度ψ1を記憶部44に記憶した後、ステップS22からステップS15に戻って次の傾斜穴についての測定に進むが、許容範囲に入っていなければ、ステップS23に進む。このステップS23では、それまでψ1に設定されていたC軸角度の目標値を、変位角度を用いてψ1−δに補正し、ステップS16に戻って、再度、主軸頭10を初期位置に戻してから、A軸角度をψ1−δとして、ステップS16〜S23の再測定を行い、再測定した変位角度δが許容値βの範囲内に入るまで繰り返す。
こうして、変位角度δが許容範囲に入ったら、ステップS21でこのときのC軸角度ψ1を記憶部44に記憶する。
【0043】
次の傾斜穴A2についても、同じようにして、方位ψ2に合わせてテーブル12を旋回させてキャリブレーションケージ64a、64bの位置を測定し、変位角度δが許容値β内にはいるときのC軸角度ψ2を記憶部44に記憶する。以下、同様に、すべての傾斜穴について測定を行う。
【0044】
以上のようにして、金型20に加工する傾斜穴A1〜Anのすべてについて、変位角度が許容範囲になるようなA軸角度、C軸角度等のデータが実際に加工を始める前に測定されて、記憶部44に記憶される。
【0045】
次に、加工プログラムをCNC装置40で実行したときの、実際の斜め加工について説明する。
【0046】
金型20に加工する傾斜穴A1乃至Anとして、押出ピンを挿入するためのピン穴をドリルで加工する場合を例にする。
【0047】
上述したように、加工する前から、既に測定プログラムの実行により、すべての傾斜穴A1乃至Anについて、それぞれ傾斜角θに関してはA軸角度をいくらにすれば正確に主軸頭10の姿勢を保てることがわかっており、それぞれ方位ψに関しても、C軸角度をいくらでテーブル12を旋回させれば、正確に方位を合わせられることがわかっている。
【0048】
したがって、実際に加工するときには、CNC装置40は、すべての傾斜穴A1乃至AnについてA軸角度θと、C軸角度ψを随時読み出し、各傾穴A1乃至Anの斜めドリル加工を実行するときに、加工プログラムで指令するA軸角度、C軸角度の替わりに、補正後のA軸角度、C軸角度をA軸制御部48、C軸制御部49に指令するので、重力による主軸頭10、コラム2、クロスレール6の撓みや、テーブル12の機械的誤差が補償された正確な斜めドリル加工を実現することができる。
【0049】
しかも、一つ一つの傾斜穴について斜めドリル加工を行うために、傾斜角、方位に合わせて熟練者が手作業でワークの段取りした上で、ドリル加工を行う従来の加工工程とは様相を一変させる。すなわち、ワークのすべての傾斜穴をCADデータに基づいて作成した測定プログラム、加工プログラムを実行するだけで、文字通りNC制御による高精度の自動加工を実現することができるので、5軸加工機本来の高速性を活用して、効率的な斜めドリル加工を実現でき、とりわけ、ワークが大型金型である場合に顕著な加工効率の向上を実現できる。
【0050】
なお、傾斜穴の加工については、例えば、図3のピン穴であれば、さまざな加工がある。すなわち、時系列では、最初に、エンドミルによるざぐり加工を行い、ドリルによるガイド穴加工、ガンドリルによる穴開け加工、タップによるねじ加工等がある。これらの加工のいずれについても、本発明による傾斜穴加工の適用範囲にあることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明による5軸加工機の姿勢保証システムが適用される門形工作機械を示す斜視図。
【図2】5軸加工機により加工するワークを示す斜視図。
【図3】ワークに加工される押出ピン穴を示す断面図。
【図4】押出ピン穴の傾斜角度と方位を説明する図。
【図5】本発明の一実施形態による5軸加工機の姿勢保証システムのブロック構成図。
【図6】A軸の旋回角度の変位角度を測定するプログラムのフローチャート。
【図7】測定中の主軸頭の姿勢の変化を示す図。
【図8】A軸の変位角度を説明する図。
【図9】C軸の旋回角度の変位角度を測定するプログラムのフローチャート。
【図10】テーブルの測定中の位置変化を示す図。
【符号の説明】
【0052】
2 コラム
4 ベッド
6 クロスレール
8 サドル
10 主軸頭
12 テーブル
20 金型
21 押出ピン
22 入子
23 スライドロッド
24 スライドロッド穴
30 CAD/CAM機
40 CNC装置
60 タッチプローブ
61 接触子
62 キャリブレーションゲージ
64a、64b キャリブレーションゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X軸、Y軸、Z軸に加えて、主軸頭を旋回させるA軸とテーブルを旋回させるC軸を有する5軸加工機において、重力の影響および機械的誤差に起因して生じる誤差を修正し、ワークに斜め加工するときの姿勢を保証するシステムであって、
特定のワークの加工を開始する前の段階で、当該ワークについて加工するすべての傾斜穴の傾斜角度、方位などの形状データに基づいた測定プログラムの実行により、当該ワークに行う各傾斜穴加工のすべてについて、その傾斜角度に前記主軸頭を旋回させたときのA軸角度の目標値と実際の測定値との誤差である変位角度を測定するA軸較正手段と、
当該ワークのすべての傾斜穴加工について、前記変位角度が許容範囲内になるように補正したA軸角度を記憶する補正データ記憶手段と、
当該ワークの加工プログラムをNC装置で実行したときにすべての傾斜穴について補正後のA軸角度を読み出し、各斜め加工を実行するときのA軸角度を前記補正後のA軸角度で指令するA軸制御手段と、
を具備することを特徴とする斜め加工のための5軸加工機姿勢保証システム。
【請求項2】
前記測定プログラムの実行により、当該ワークについてすべての各傾斜穴ごとに、その方位に対応させて前記テーブルを旋回させたときにC軸角度の指令値と実際の測定値との誤差である変位角度を測定するC軸較正手段と、
当該ワークのすべての傾斜穴について、前記変位角度が許容範囲内になるように補正したC軸角度を記憶する補正データ記憶手段と、
当該ワークに各傾斜穴を加工する段階で、すべての傾斜穴について補正後の前記C軸角度を読み出し、当該テーブルを各傾斜穴の方位に合わせるためのC軸角度指令値を前記補正後のC軸角度で指令するC軸制御手段と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の斜め加工のための5軸加工機の姿勢保証システム
【請求項3】
前記A軸較正手段は、
球体の中心座標が既知であるキャリブレーションゲージと、
前記主軸頭の主軸先端に装着され、前記キャリブレーションゲージの球面に接触する接触子を有するプローブと、
前記プローブの接触子を前記任意の方向から前記キャリブレーションゲージの球面に接触させたときの接触点の位置を検出する位置検出手段と、
任意の傾斜穴についてその傾斜角度に対応するA軸角度で前記主軸頭が傾いた状態で、所定の測定手順にしたがって測定した複数方向からの接触点の位置から球体の中心座標を算出するともに、前記既知の中心座標とに基づいてA軸変位角度を算出する演算手段と、
を具備したことを特徴とする請求項1に記載の斜め加工のための5軸加工機の姿勢保証システム。
【請求項4】
前記C軸較正手段は、
前記テーブルの旋回中心に関して、該テーブル上で180度対称な位置にそれぞれ配置された一対のキャリブレーションゲージと、
前記主軸頭の主軸先端に装着され、前記キャリブレーションゲージに接触する接触子を有するプローブと、
前記一対の各キャリブレーションゲージに前記プローブが接触したときの接触点の位置を検出する位置検出手段と、
任意の傾斜穴についてその方位に対応する角度に前記テーブルを旋回させたときに、前記プローブにより測定した前記一対の各キャリブレーションゲージの位置から実際のテーブルの旋回角度を算出し、C軸の指令値と比較して、C軸変位角度を算出する演算手段と、
を具備したことを特徴とする請求項2に記載の斜め加工のための5軸加工機の姿勢保証システム。
【請求項5】
前記5軸加工機は、前記テーブルを前後方向に移動させるX軸と、コラムによって支持され当該コラムを上下に移動するクロスレールを上下方向に移動させるZ軸と、前記クロスレールに沿って主軸頭を左右方向に移動させるY軸を有する門形工作機械であることを特徴とする請求項1に記載の斜め加工のための5軸加工機の姿勢保証システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−119784(P2008−119784A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305648(P2006−305648)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】