説明

有価金属の回収装置及び有価金属の回収方法

【課題】 高分子材料と有価金属を含む複合材から、低コストで有価金属を回収し得る、有価金属の回収装置及び有価金属の回収方法を提供すること。
【解決手段】 複合材を、搬送機構を有する密閉容器からなる熱分解装置3に定量供給し、外気から遮断した状態で加熱溶融することにより溶融体となし、前記溶融体を、水冷により複合固形物とする。高分子材料の熱分解処理により、複合固形物に含まれる有価金属は、処理前よりも濃縮され、これを精錬することで、鉱石を製錬するよりも低コストで有価金属を得ることができる。熱分解装置3には押出機が適用可能で、生成する熱分解ガスを乾燥工程のエネルギー源に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属と高分子材料からなる複合材料から、有価金属を回収する回収装置と回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、加工の容易さや優れた物性などから、日用品、建材、農漁業用品、工業用材料など、あらゆる分野で大量に使用されている。これに伴い、廃棄される量も、経済の規模拡大に対応する形で年々増加している。従って、この再生再資源化も重要視され、様々な技術が検討されている。
【0003】
また、高分子材料は、単独で使用される他、金属材料と組み合わせた複合材として使用されることも多く、このような複合材から金属材料を回収することも、有限な資源を活用するという観点から重要な課題となっている。
【0004】
高分子材料と金属材料を組み合わせた複合材や部品の中でも、電気電子部品においては、金や銅のような比較的高価格の有価金属を使用しているので、金属材料の再生再資源化技術の対象として重要である。しかし、例えば電線のように、導体である銅と絶縁体である高分子材料の分離が比較的容易なもの以外は、再生利用が困難で、例えばプリント基板などは焼却して埋め立てに用いるという処理法が一般的に行われている。
【0005】
しかも電気電子部品の分野では、パーソナルコンピュータに代表されるように、技術開発の進捗が急速で、製品のライフサイクルが短く、廃棄物の量が多くなっているにも関わらず、製品や部品の小型化が著しいため、再生再資源化を一層困難にしている。
【0006】
また、電気電子部品以外で、有価金属を含む高分子材料からなる製品の一例として、レントゲン写真フィルムが挙げられる。このフィルムは、厚さが約0.1mmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す)の表面に、銀の化合物を含む感光剤層と保護層をゼラチンで固めた層を形成した構造になっている。レントゲン写真は、将来電子ファイル化された画像として、利用、管理されることになると予測されるが、現在のところ、前記のフィルムの形で利用され、しかも消耗品なので、廃棄される量が多い。
【0007】
金や銀などの貴金属は、鉱石1トンに含まれる量が数十g、即ち数十ppm程度と少ないが、レントゲン写真フィルムには、銀が約0.6%含まれていて、鉱石に比較すると、含有率が桁違いに高くなっている。同様に半導体の応用製品の中に配線材として含まれている金は、含有率という観点では、鉱石よりもはるかに有用である。
【0008】
例えばレントゲン写真フィルムに含まれる銀を実験室規模で回収するには、PETが熱可塑性高分子であることから、適当な溶媒を用いて、PETを溶解してPETと銀を分離することも可能であるが、工業的に行うには、環境への負荷が大きいことなどの課題が、障害となることが予想される。また、プリント基板などの電子部品においては、用いられているものの殆どが熱硬化性高分子であるため、別の分離方法を適用する必要がある。
【0009】
このような背景から、適当な温度まで加熱することにより、高分子材料を熱分解もしくは燃焼させて金属材料を回収する技術が種々開発されている。
【0010】
例として、特許文献1には、銅滓と金属を含む産業廃棄物をガス炉に投入して熱分解ガスと有価金属を含むスラグに分離する技術が開示されている。また、特許文献2には、有価金属を含むプラスチック廃棄物を熱分解することにより、炭化水素油と有価金属を含む残渣に分離する技術が開示されている。
【0011】
しかしながら、これらの技術に適用される装置は、その構造から大型化せざるを得ず、設備費が高額になり、ランニングコストも高額になるという問題がある。
【0012】
【特許文献1】 特開平11−302748号公報
【特許文献2】 特開2006−321851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、従来のものより簡略な構造を有し、高分子材料と有価金属を含む複合材から、低コストで有価金属を回収し得る、有価金属の回収装置及び有価金属の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記の有価金属回収装置とは別の観点から、装置の小型化とランニングコストの低減を検討した結果なされたもので、さらに具体的には、高分子材料の熱分解によって発生する有機化合物のガスを、装置を稼働させるためのエネルギー源の一部として活用することを考慮したものである。
【0015】
即ち、本発明は、有価金属と高分子材料を含む複合材を搬送する定量供給装置と、前記複合材を外気から遮断した状態で加熱溶融しながら搬送する機構を有する密閉容器からなる熱分解装置と、前記熱分解装置から排出される前記複合材の溶融体を水冷により複合固形物として回収する回収装置と、前記溶融体から放出される熱分解ガスを捕集する捕集装置と、前記熱分解ガスを燃焼させる焼却装置と、前記焼却装置から排出される燃焼ガスの熱を用いて、前記複合固形物を乾燥する加熱炉を有することを特徴とする有価金属回収装置である。
【0016】
また、本発明は、有価金属と高分子材料を含む複合材を、搬送機構を有する密閉容器からなる熱分解装置に定量供給する工程、前記複合材を、前記熱分解装置を用いて外気から遮断した状態で加熱溶融することにより溶融体となす工程、前記溶融体を水冷により複合固形物となす工程、前記溶融体から放出される熱分解ガスを回収する工程、前記複合固形物を前記熱分解ガスの燃焼熱により乾燥する工程を有することを特徴とする有価金属回収方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、有価金属と高分子材料からなる複合材を密閉容器の内部で、外気から遮断した状態で加熱溶融しながら搬送する。具体的には、例えば混練押出機のような外側にヒーターを取り付けたシリンダーと、フライトの外縁がシリンダーの内壁に近接した状態で組み込まれたスクリューを有する装置で、高分子材料の熱分解を行うので、熱分解装置を小型化することができる。
【0018】
しかも、高分子材料の熱分解は、外気から遮断された状態で行われるので、比較的酸化分解の程度が低くなり、生成する成分の中で、熱分解ガスとして回収できる量が多くなるのが本発明の特徴の一つである。
【0019】
また、熱分解装置から排出された複合材の溶融体を直接水冷個化するので、冷却装置が極めて簡便で、しかも溶融体は、熱分解装置の排出口の大きさに応じて、適当な大きさとなって冷却槽に移送されるので、回収が容易である。
【0020】
水冷工程を経由することは、複合固形物を次工程に供給する前に、水分を除く、つまり乾燥工程が必須になり、複合固形物を放置して風乾するにしても、加熱などにより乾燥するにしても、コスト増の要因となるが、本発明の有価金属回収装置においては、複合材に含まれる高分子材料から放出される熱分解ガスを燃料として、複合固形物を加熱して乾燥を行うので、コスト増を抑制できる。
【0021】
よって、本発明によれば、小型かつ低ランニングコストの有価金属回収装置と、有価金属回収方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の有価金属回収装置の基本的な構成を示した図である。図1において、1は複合材の定量供給装置、2は複合材を投入するためのホッパ、3は熱分解装置、4は溶融した複合材を排出する排出口、5は複合材から放出される熱分解ガスを捕集するための捕集フード、6は溶融した複合材を冷却するための冷却水槽、7は冷却した複合材の搬送装置、8は複合材の回収槽、9は熱分解ガス捕集装置、10はブロア、11はバーナー、12は熱分解ガス焼却装置、13は熱交換器、14は加熱炉である。
【0023】
定量供給装置1は貯槽とシリンダー及びスクリューからなり、適当な大きさに粉砕した複合材を貯槽に投入し、スクリューの回転により、複合材を定量的に搬送し、ホッパ2に投入する。定量供給装置1のスクリューの回転数の制御により、単位時間あたりの複合材の供給量を任意に制御できる。
【0024】
熱分解装置3は、周囲にヒーターを取り付けたシリンダーと、フライトの外縁がシリンダーの内壁に近接した状態でシリンダーに取り付けられたスクリューを備え、複合材を外気と遮断した状態で加熱溶融しながら搬送する機能を有する。この装置においては、スクリューの回転数とシリンダーの温度設定により、複合材の熱分解反応を制御できるので、熱分解特性の異なる種々の高分子材料に対応できる。
【0025】
また、熱分解装置3には、その構造的な特徴から、前記のように、高分子材料の押出成形に用いられる汎用の一軸押出成形機を流用したり、同じく高分子材料の混練に用いられている二軸混練押出機を流用したりすることができる。例えばPETの熱分解にあっては、フタル酸のような金属を腐食する成分が放出される可能性があるので、材質の選択など、予め何らかの対策を施す必要がある。ただし、これは押出機を用いる場合に限らず、どのような装置を用いても不可避の問題である。
【0026】
なお、前記のように押出機を用いる利点として、熱硬化性の高分子材料は、加熱しても、軟化して機械的強度が低下するのみで溶融しないが、スクリューのフライトの外縁とシリンダー内壁との間の複合材に、大きな剪断力が加わるので、結果的に複合材が細かく粉砕され、熱分解反応が促進され、後工程での処理が容易になることが挙げられる。
【0027】
排出口4から排出される複合材は、400℃前後の高温の状態なので、そのままでは取り扱いに支障があるため、室温付近まで冷却する必要がある。設備の簡略化や小型化という観点で、溶融状態の複合材を、そのまま冷却水が満たされている冷却水槽6に投入する。溶融した複合材は、排出口4の開口部の大きさに応じて、細かい塊の状態で冷却水槽6に落下するので、速やかに冷却される。
【0028】
搬送装置7には、スクリューまたはベルトの表面に板状の突起を設けたベルトコンベアを用いることができる。搬送装置7によって回収された複合材は回収槽8に投入され、次工程に搬送される。
【0029】
一方、熱分解装置3で加熱された複合材は、熱分解反応により、処理前よりも低分子化するが、室温付近で気相の状態の低分子成分は、排出口4から排出されると同時に熱分解ガスとして大気に放出されることになる。これをこのまま、大気に放出すると、環境への負荷となるので回収する必要がある。
【0030】
本発明においては、ブロア10を用いて熱分解ガス捕集装置9の内部を負圧の状態に維持し、捕集フード5から熱分解ガスを吸引する。ブロア10により吸引された熱分解ガスは、バーナー11と熱分解ガス焼却装置12を用いて燃焼し、得られる燃焼熱を、熱交換器13を介して加熱炉14の熱源とし、水冷した複合材の個形物の乾燥に用いる。
【実施例1】
【0031】
次に具体的な実施例を示し、本発明についてさらに詳細に説明する。ここでは表面に銀を含む層を有するレントゲン写真フィルムの処理について説明する。レントゲン写真フィルムにはフィルム全体に対し、0.6重量%の銀が表面の感光剤層に含まれている。つまり鉱石に比較すると、銀の含有量が桁違いに大きいものである。
【0032】
またレントゲン写真フィルムの基材は、前記のように厚さが約0.1mmのPETフィルムである。適正な熱分解処理を行うには、対象となる物質の熱分解特性を、予め評価しておく必要がある。図2は、PETフィルムの示差熱分析(DTA)と熱重量分析(TG)の結果を示した図である。分析の際の温度上昇速度は20℃/分に設定した。
【0033】
図から、PETでは、400℃以上の温度領域で重量の減少、つまり熱分解反応が著しくなり、500℃近傍の温度で熱分解反応が停止することが示唆される。500℃以上の温度領域における残存物は炭素が大部分で、揮発が起こり難いと推定される。この結果から、熱分解装置の温度は概ね400〜420℃の温度に設定することで、適宜反応速度を制御しながら、PETを熱分解できることが分かる。
【0034】
ここでは、まずレントゲン写真フィルムを概ね20mm四方以下の大きさに裁断し、乾燥処理を行った。裁断したレントゲン写真フィルムを図1における定量供給装置1の貯槽に投入し2kg/分の供給速度で、ホッパ2に投入した。
【0035】
ここで用いた熱分解装置3は、径が40mmで、長さが960mm、つまりL/Dが24のスクリューを備えた二軸混練押出機に改造を加えたものであり、シリンダーの周囲に取り付けられているヒーターは、3ゾーンに分けられ、それぞれ別個に温度制御が可能である。ここでは、ホッパ2から排出口4に向けて、設定値温度を高くした。具体的には、240℃/380℃/420℃という温度プロファイルに設定した。なお、ホッパ2の下部に設けられている水冷ジャケットにより、ホッパ2の下部の温度が、過度に上昇しないように制御した。また、スクリューの回転速度は、30rpmとした。
【0036】
このような条件で、熱分解装置3を運転することにより、排出口4からは熱分解した溶融状態のレントゲン写真フィルムが排出され、同時に熱分解ガスが放出される。排出された溶融状態のレントゲン写真フィルムは、自重で一定以下の大きさを有する塊に分断され、冷却水槽6に落下して複合固形物となる。また、熱分解ガスは、捕集フード5から吸引回収される。
【0037】
次に冷却水槽6に落下した複合固形物を、搬送装置7で回収槽8に移送し、加熱炉14を用いて乾燥した。一定量のレントゲン写真フィルムを処理して得られた複合固形物の重量を測定して、投入したレントゲン写真フィルムの重量と比較すると、約1/3になっていた。つまり残りの2/3は、熱分解ガスとして放出されたと推定される。この結果を複合固形物の銀の含有量の観点からみると、初期値の3倍になっていることになる。
【0038】
このようにして得られるレントゲン写真フィルムに由来する複合固形物は、銀を含む鉱石よりも極めて高品位であり、精錬工程に供することで、鉱石を用いる場合よりも低コストで銀を得ることができる。従って、本発明の有価金属の回収装置及び有価金属の回収方法によれば、従来埋め立てなどの方法で廃棄されていた、高分子材料と有価金属を含む複合材を、資源として再利用することが可能となり、資源の有効利用や環境問題への対策に資するところは極めて大きいと言える。
【0039】
また、ここでは、具体的な実施例を示さないが、金や銅を含む電気・電子部品に本発明を適用した場合においても、レントゲン写真フィルムと同様に有価金属の濃縮が可能であった。なお、本発明は、前記具体例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。即ち、本発明の属する技術の分野のおける通常の知識を有する者であれば、なし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】 本発明の有価金属回収装置の基本的な構成を示した図。
【図2】 PETフィルムの示差熱分析と熱重量分析の結果を示した図。
【符号の説明】
【0041】
1 定量供給装置
2 ホッパ
3 熱分解装置
4 排出口
5 捕集フード
6 冷却水槽
7 搬送装置
8 回収槽
9 熱分解ガス捕集装置
10 ブロア
11 バーナー
12 熱分解ガス焼却装置
13 熱交換器
14 加熱炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属と高分子材料を含む複合材を搬送する定量供給装置と、前記複合材を外気から遮断した状態で加熱溶融しながら搬送する機構を有する密閉容器からなる熱分解装置と、前記熱分解装置から排出される前記複合材の溶融体を水冷により複合固形物として回収する回収装置と、前記溶融体から放出される熱分解ガスを捕集する捕集装置と、前記熱分解ガスを燃焼させる焼却装置と、前記焼却装置から排出される燃焼ガスの熱を用いて、前記複合固形物を乾燥する加熱炉を有することを特徴とする有価金属回収装置。
【請求項2】
前記熱分解装置は、ヒーターを備えたシリンダーと、フライトの外縁が前記シリンダーの内壁に近接した状態のスクリューを備えてなる押出機であることを特徴とする、請求項1に記載の有価金属回収装置。
【請求項3】
有価金属と高分子材料を含む複合材を、搬送機構を有する密閉容器からなる熱分解装置に定量供給する工程、前記複合材を、前記熱分解装置を用いて外気から遮断した状態で加熱溶融することにより溶融体となす工程、前記溶融体を、水冷により複合固形物となす工程、前記溶融体から放出される熱分解ガスを捕集する工程、前記複合固形物を前記熱分解ガスの燃焼熱により乾燥する工程を有することを特徴とする有価金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1893(P2009−1893A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188817(P2007−188817)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(507244714)
【Fターム(参考)】