有機半導体材料及びその製造方法、並びに有機電子デバイス
【課題】高いキャリア移動度と安定性を有し、容易なプロセスで作製可能な有機半導体材料及び有機デバイスを提供する。
【解決手段】チアポルフィリン骨格を有し、チアポルフィリン環平面からチアポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有する化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料、及び、ビシクロ構造を有する前駆体としてのチアポルフィリン骨格を有する化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱することにより、上記チアポルフィリン骨格を有する化合物に変換することを特徴とする有機半導体材料の製造方法、並びに、半導体層と2以上の電極とを有する有機電子デバイスにおいて、該半導体層が上記有機半導体材料を含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【解決手段】チアポルフィリン骨格を有し、チアポルフィリン環平面からチアポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有する化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料、及び、ビシクロ構造を有する前駆体としてのチアポルフィリン骨格を有する化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱することにより、上記チアポルフィリン骨格を有する化合物に変換することを特徴とする有機半導体材料の製造方法、並びに、半導体層と2以上の電極とを有する有機電子デバイスにおいて、該半導体層が上記有機半導体材料を含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料及び電界効果トランジスタ等の有機電子デバイスに関し、特には特定構造を有するポルフィリン類化合物を含む有機半導体材料及びそれを用いた有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、以下、FETと称することがある。)素子は、半導体層としてシリコン(Si)やガリウム砒素単結晶など無機半導体材料を用いたものが広く利用されている。しかし無機材料の場合、製造時に300℃以上の高温で処理するため基板にプラスチック(樹脂)を用いるのが難しいこと、製造に多くのエネルギーを要すること、蒸着やスパッタリング、CVDなどの真空下での素子作製プロセスを経るため大面積の素子を製造するのが困難なこと、また製造ラインに高価な設備を必要とし高コストになること、などの課題がある。
【0003】
そこで、有機半導体材料を、電界効果トランジスタをはじめとして発光ダイオード、非線形光デバイスなど電子デバイスの半導体層に使用した有機電子デバイスが提案されている。これによれば、比較的低温のプロセスで製造できるので基板にプラスチックフィルムが使用でき、軽量で柔軟性に優れた壊れにくいデバイスを作製できる利点がある。また塗布法や印刷法によって形成できるので大面積のデバイスが、高価な設備を必要とせず低コストで製造できる利点もある。更に、有機物は材料のバリエーションが豊富で分子構造を変化させて材料特性を根本的に変えることもできるので、無機物にはない機能を持つ素子が得られる可能性がある。
【0004】
有機半導体材料は、高分子化合物材料(ポリマー材料)と低分子化合物材料の2種に大別され、それぞれ、導電性高分子化合物や共役高分子化合物を利用したデバイス(特許文献1)、低分子化合物を利用したデバイス(特許文献2)が報告されている。
高分子化合物材料としては導電性高分子や共役高分子などが代表的で、共役高分子化合物を半導体としてそのまま用いる方法、電場をかけて共役高分子化合物にイオン(ドーパント)を出し入れしてスイッチングを行う方法などが試みられている。しかし、高分子ゆえの問題点、すなわち溶媒溶解性が低く均一な塗布液が得られず膜の均一性や安定性が低いこと、成膜時に構造の不完全部分に由来する欠陥が生じてしまうこと、精製が困難なこと、酸化電位が下がり酸化されやすくなりやすいこと等の課題があり、高性能かつ安定性の高い材料はいまだ見出されていない。
【0005】
一方、低分子化合物は、合成の結果得られる化合物の構造がほぼ定まっており、かつ昇華精製や再結晶、カラムクロマトグラフィー等のさまざまな精製法が利用できるため、純度が高く、高性能で安定性の高い材料が得られやすい点で優れている。
低分子化合物材料の例としては、ペンタセン等の芳香族縮合炭化水素化合物やチオフェン環が4個以上連結したオリゴチオフェン類で、蒸着成膜されたものながら、アモルファスシリコン(a−Si)並の高い移動度を示した報告がある。しかし、高分子化合物ほどではないものの酸化されやすい傾向があるため、安定性の面で課題がある。即ち、空気中の酸素が有機半導体膜にドーピングされ、キャリア密度が上がってしまい、漏れ電流が多くなったり移動度が変化して安定な特性が得られなくなったりする場合がある。
【0006】
ただし、低分子化合物は塗布プロセスが適用しにくく、製造コストが高い蒸着による製膜法を用いなければならないなど、有機物の特徴を十分に生かしたものになりにくい。また一般に低分子化合物を溶液からの塗布による製膜を行うと、結晶化による粒状の構造に
なるため、均一な膜が得られにくく、製膜性に問題がある場合も多い。
【0007】
例えば、フタロシアニン類の電界効果トランジスタへの応用が報告されているが(特許文献3〜4,非特許文献1)、フタロシアニン類は一般に溶媒に不溶であり、これらの素子を作製するには真空蒸着法により製膜する必要がある。
そこで近年、溶媒溶解性の高い低分子化合物を前駆体とし、これを溶剤などに溶解し塗布プロセスで膜を形成し、そののち半導体に変換して有機半導体膜を得、電界効果トランジスタを作製する方法が報告されている。例えば、ペンタセンあるいは類似の芳香族炭化水素を用いた例がある(非特許文献2〜4)。
【0008】
ここで、電界効果トランジスタの動作特性は、主に半導体層のキャリア移動度μや電導度σ、絶縁層の静電容量Ci、素子の構成(ソース・ドレイン電極間距離L及び幅W、絶縁層の膜厚d等)により決まる。中でも、半導体層に用いる半導体材料のキャリア移動度μ(以下、単に移動度と称することがある。)が高いことが重要である。
【0009】
ペンタセンにおいては、膜の状態では移動度が0.2cm2 /Vsの例が報告されているものの、実際に素子に応用してデモンストレーションされた移動度は10−2cm2
/Vsに留まっており、実用的な移動度は未だ高くない。また、この例におけるペンタセン前駆体からはテトラクロロベンゼン分子が脱離するが、テトラクロロベンゼンは、沸点が高く反応系外に取り除くことが難しいことに加え、その毒性が懸念される。
【0010】
ところで、光電流や光起電力を得るための光デバイスの材料として、ポルフィリン化合物が検討され、ベンゾポルフィリンの太陽電池への適用例が特許文献5に記載されている。しかし、キャリア移動度は低く、実施例のキャリア密度と抵抗率から移動度を計算すると最大でも1.3×10−6cm2 /Vs程度に留まっている。このように移動度が低いため、ポルフィリン化合物の適用検討は光デバイスに限られ、正孔輸送性や電子輸送性を積極的に利用した有機電子デバイスへの適用は見られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭61−202467号公報
【特許文献2】特許2984370号
【特許文献3】特開平11−251601号公報
【特許文献4】特開2000−174277号公報
【特許文献5】特開平9−18039号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,69巻(1996),p3086
【非特許文献2】Science,270巻(1995),p972
【非特許文献3】Optical Materials,12巻(1999),p189
【非特許文献4】J.Appl.Phys.,79巻(1996),p2136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、有機半導体材料は無機半導体材料には無いさまざまな特長を有している。しかし、比較的高性能の有機半導体材料であるフタロシアニン類やペンタセン、オリゴチオフェン類等は、いずれもコストの高い蒸着プロセスにその製造法が限定されていた。それゆえ、より容易なプロセスで製造が可能で、且つ実用的な特性を有する有機電子デバイスを得たいとの要請がある。
【0014】
このため、キャリア移動度と安定性が高く、かつ塗布プロセスなどの容易な製造プロセスで膜が作製できる有機半導体材料と、それを用いた有機電子デバイスが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の事に鑑み、種々検討を行った結果、特定のポルフィリン骨格を有する化合物を半導体材料として用いた有機電子デバイスが有用であることを見出し、本発明に至った。ポルフィリンは太陽電池への応用例は知られているが、そこでは、ポルフィリン自体の精製が不十分であるためか、移動度が未だ不十分であった。このように、従来ポルフィリン化合物は、合成や精製が困難であり、有機電子デバイスの材料としては注目されていなかった。
【0016】
しがしながら、本発明者がポルフィリン化合物の適用を検討した結果、驚くべきことに、特定のポルフィリン類骨格を有する化合物は、溶液プロセスでも製膜でき、かつ高い移動度を示し、他の有機半導体材料と比較して有利な性能を有することが判明した。
即ち、本発明の要旨は、チアポルフィリン骨格を有し、チアポルフィリン環平面からチアポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有する化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料、並びに、下記式で表されるテトラベンゾ−21−チアポルフィリン、及び下記式で表されるテトラベンゾ−21,23−ジチアポルフィリンからなることを特徴とする有機半導体材料に存する。
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
【0019】
本発明の別の要旨は、下記ビシクロ構造を有する前駆体としてのチアポルフィリン骨格
を有する化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱することにより、上記チアポルフィリン骨格を有する化合物に変換することを特徴とする有機半導体材料の製造方法に存する。
【0020】
【化3】
【0021】
本発明の更に別の要旨は、半導体層と2以上の電極とを有する有機電子デバイスにおいて、該半導体層が上記有機半導体材料を含むことを特徴とする有機電子デバイスに存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機電子デバイスに有機半導体材料を用いるため、比較的低温のプロセスで製造できるので基板にプラスチックフィルムが使用でき、軽量で柔軟性に優れ壊れにくいデバイスを作製できる利点がある。従って、薄膜で可撓性のある電界効果トランジスタが製造できるので、これを各セルのスイッチング素子に利用することで、可撓性のあるアクティブマトリクス液晶ディスプレーが作製できるなど、広く応用できる。
【0023】
また、本発明に係るポルフィリン類化合物を含む有機半導体材料及び有機電子デバイスは、高いキャリア移動度と安定性を有し、かつ容易な作製プロセスで得ることができる。また、本発明に係る電界効果トランジスタは漏れ電流(リーク電流)が小さくオンオフ比が大きく、膜及び特性の安定性が高く寿命が長いという利点がある。更には、使用可能温度幅が広く、成膜性が良く、大面積適用性があり、低コストで製造できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の電界効果トランジスタ(FET)の模式図を示す。
【図2】本発明の静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図を示す。
【図3】本発明のダイオード素子の模式図を示す。
【図4】合成例1で得られたポルフィリン化合物の熱分析結果を示す図である。
【図5】合成例1で得られたポルフィリン化合物(1)の溶液を乾燥した膜のIRスペクトルを示す図である。
【図6】合成例1で得られた図5の膜を更に加熱した膜のIRスペクトルを示す図である。
【図7】合成例1における加熱前後の薄膜吸収スペクトルを示す図である。
【図8】参考例1においてFET特性を観測した結果を示す図である。
【図9】参考例5における半導体膜のX線回折パターンを示す図である。
【図10】参考例5及び6における半導体膜のX線回折パターンを示す図である。
【図11】参考例6及び7の素子の、ゲート電圧の走査によるドレイン電流のヒステリシスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
まず、本発明の有機半導体材料について説明する。本発明においては特定のポルフィリン類骨格を有する化合物を用いる。
(ポルフィリン類骨格を有する化合物)
本発明においてポルフィリン類骨格を有する化合物とは、ポルフィリン骨格を有する化合物と、ポルフィリン骨格を形成するピロール環の数を増やしたり、ピロール環をチオフ
ェン環やフラン環などに置き換えた類縁体である拡張ポルフィリン(Expanded
porphyrin)骨格を有する化合物の総称であって、例えば、ポルフィリン系、チアポルフィリン系、ジチアポルフィリン系、オキサポルフィリン系、ジオキサポルフィリン系、チアオキサポルフィリン系化合物等を含む概念である。
【0026】
具体的には、本発明においてポルフィリン類骨格を有する化合物とは、下記一般式(A)で表される構造を含む化合物を言う。
【0027】
【化4】
【0028】
上記式中、Y1 〜Yn は各々独立に、π共役した炭化水素環又は複素環からなる単環を表し、Y1 〜Yn は置換されていてもよい。また、X1 〜Xn は各々独立に、直接結合、又は直鎖の炭化水素基からなる連結基を表し、X1 〜Xn は置換されていてもよい。ここで、下記記号は単結合又は二重結合を表す。
【0029】
【化5】
【0030】
また、nは4〜20の整数である。更に、上記一般式(A)で表される構造全体でπ電子系が環状に共役している。
即ち、上記式で表される構造は、Y1 〜Yn で表されるπ共役した環が、X1 〜Xn を介して全体としてπ共役した構造である。従ってY1 〜Yn は各々が平面状のユニットであり、上記一般式(A)で表される構造全体としても非常に平面性の高い構造となっている。
【0031】
有機半導体材料が高いキャリア移動度を有するためには、固体状態で隣り合う分子間が良好に重なりあうことが望ましい。これは、キャリア、すなわち電子あるいは正孔が分子間を伝達して行く際に、π電子軌道間の相互作用が重要であるためである。有機半導体において、π電子が電荷輸送に重要な役割を果たすことは良く知られている。しかし、π電子がマクロなスケールまで共役して半導体特性を示す例はほとんど知られていない。
【0032】
特に、分子性結晶ではπ電子の共役は分子内に限られており、電荷の輸送は分子間を電荷が移動することによりなされる。その場合、分子内で共役しているπ軌道の重なりが大きいほど、その電荷移動の効率が高くなる。それゆえ、分子性結晶の移動度にも方向依存
性が生ずる。また、一般に非晶質の材料よりも結晶性の高い材料の方が高い移動度を示すことにも反映されている。
【0033】
分子間のπ軌道の重なりを大きくする為には、分子のπ共役系の平面性が高いことが望ましい。平面性の尺度としては、ポルフィリン類環平面からのポルフィリン類骨格を形成している原子のずれを用いることができる。
そこで、本発明においては、ポルフィリン類環平面からポルフィリン類骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有することを特徴とする。この距離が1Å以内であれば、高い平面性を有し、移動度が高くなる条件を満たすことができる。
【0034】
ここで、「ポルフィリン類環」とは、Y1 〜Yn で表されるπ共役した環とX1 〜Xn からなる一般式(A)で表される構造を言う。「ポルフィリン類環平面」とは、ポルフィリン類環を形成するすべての原子の中心からの距離の2乗の和が最小になるような平面を言う。また「ポルフィリン類骨格」とは、ポルフィリン類環を形成する原子に加え、該ポルフィリン類環に対して結合している、室温程度の熱エネルギーでは自由回転の制限された原子または原子団を総称して言う。
【0035】
なお、「該ポルフィリン類環に対して結合している、室温程度の熱エネルギーでは自由回転の制限された原子または原子団」とは、ポルフィリン類環の原子とそれに直接結合した原子との間の結合の、内部回転のエネルギー障壁が、室温(通常、25℃)における熱エネルギーよりも大であるものを言う。例えば、内部回転のエネルギー障壁が10kcal/mol以上の場合である。
一般に、結合の回転に要するエネルギーは、実測によっても求められるが、分子軌道法等による計算により求めることもできる。6−311G(dp)等の非経験的分子軌道法やMOPAC等の半経験的分子軌道法が用いうるが、それぞれ、非経験的分子軌道法は精度が良く、半経験的分子軌道法は比較的計算が簡便である利点がある。
なお、1分子中に2個以上の互いに自由に回転できるポルフィリン類環を含む場合には、それぞれのポルフィリン類環の上記平面性が良好であれば良く、それら複数のポルフィリン類骨格が同一の平面にある構造をとる必要はない。
【0036】
次に、本発明のポルフィリン類骨格を有する化合物についてより詳細に説明する。本発明においてポルフィリン類骨格を有する化合物とは、下記一般式(A)で表される構造を含む化合物を言う。
【0037】
【化6】
【0038】
上記式中、Y1 〜Yn は各々独立に、π共役した炭化水素環又は複素環からなる単環を表し、Y1 〜Yn は置換されていてもよい。また、X1 〜Xn は各々独立に、直接結合、又は直鎖の炭化水素基からなる連結基を表し、X1 〜Xn は置換されていてもよい。ここで、下記記号は単結合又は二重結合を表す。
【0039】
【化7】
【0040】
また、nは4〜20の整数である。更に、上記一般式(A)で表される構造全体でπ電子系が環状に共役している。
好ましくは、nは4〜10の整数であり、より好ましくはnは4〜6の整数であり、最も好ましくはnは4である。nは上記構造中でπ共役している環Yの数を表すが、nが大きすぎると、平面性が悪くなる傾向があり電気的な特性が悪くなる傾向が見られ、また合成が難しくなるためである。
【0041】
一般式(A)において、Y1 〜Yn は各々独立に、π共役した炭化水素環又は複素環からなる単環を表すが、芳香環であると、平面性が高く好ましい。また、好ましくは5〜8員環であり、より好ましくは5〜6員環であり、最も好ましくは5員環である。
Y1 〜Yn の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。5員環のものとしては、ピロール環、チオフェン環、フラン環、チアゾール環、ジチアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、セレノフェン環、シクロペンタジエン環等を挙げることができる。また、6員環のものとしては、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環等が挙げられる。
【0042】
Y1 〜Yn は置換基を有していても良い。例えば、Y1 〜Yn は他の炭化水素環又は複素環と縮合して縮合環を形成していても良い。該他の環も芳香環であると、より平面性が高まり好ましい。また好ましくは5〜8員環であり、より好ましくは5〜6員環である。 以下、Y1 〜Yn からなる単環またはY1 〜Yn と他の環とからなる縮合環を、Y1 〜Yn を含む環、と総称する。好ましくは、Y1 〜Yn を含む環が、単環または2〜8縮合環であり、より好ましくは単環または2〜6縮合環であり、最も好ましくは単環または2〜4縮合環である。とりわけ、Y1 〜Yn を含む環の全てが芳香環からなることが、平面性を高めるうえで望ましい。
【0043】
これら他の環の好ましい例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピリジン、キノリン等のπ共役環である。Y1 〜Yn と他の環とからなる縮合環としては、具体的には、ベンゾピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環等が挙げられる。
逆に、他の環の好ましくない例としては、代表的にはビシクロ環である。
【0044】
Y1 〜Yn を含む環は置換基を有していても良い。Y1 〜Yn を含む環が有していてもよい置換基の例としては、次のようなものが挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の置換されてもよい炭素数1〜18の直鎖又は分岐のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の置換されてもよい炭素数3〜18の環状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数2〜18の直鎖又は分岐のアルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数3〜18の環状アルケニル基;プロピニル基、ヘキシニル基等の置換されてもよい炭素数2〜18の直鎖又は分岐のアルキニル基;2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の置換されてもよい複素環基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等の置換されてもよい炭素数6〜18のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の置換されてもよい炭素数7〜20のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の置換されてもよい炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルコキシ基;プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基等の置換されてもよい炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルケニルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の置換されてもよい炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキルチオ基が挙げられる。
【0045】
他の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;ニトロソ基;シアノ基;イソシアノ基;シアナト基;イソシアナト基;チオシアナト基;イソチオシアナト基;メルカプト基;ヒドロキシ基;ヒドロキシアミノ基;ホルミル基;スルホン酸基;カルボキシル基;−COR6 で表されるアシル基、−NR7 R8 で表されるアミノ基、−NHCOR9 で表されるアシルアミノ基、−NHCOOR10で表されるカーバメート基、−COOR11で表されるカルボン酸エステル基、−OCOR12で表されるアシルオキシ基、−CONR13R14で表されるカルバモイル基、−SO2 R15で表されるスルホニル基、−SO2 NR16R17で表されるスルファモイル基、−SO3 R18で表されるスルホン酸エステル基、−NHSO2 R19で表されるスルホンアミド基、−SOR20で表されるスルフィニル基が挙げられる。ここでR6 、R9 、R10、R11、R12、R15、R18、R19、R20は置換されてもよい炭化水素基、または置換されてもよい複素環基を表し、R7 、R8 ,R13,R14,R16,R17は水素原子、置換されてもよい炭化水素基、置換されてもよい複素環基のいずれかを表す。
【0046】
このR6 〜R20で表される炭化水素基とは、直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖または分岐のアルケニル基、環状アルケニル基、アラルキル基、アリール基を表す。中でも好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−へプチル基等の炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の炭素数3〜18の環状アルキル基、ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜18の直鎖または分岐のアルケニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数3〜18の環状アルケニル基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜20のアラルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等の炭素数6〜18のア
リール基が挙げられる。これらの基のアリール基部分は前述のY1 〜Yn を含む環と同様の置換基で更に置換されていてもよい。
【0047】
またR6 〜R20で表される複素環基は、4−ピペリジル基、モルホリノ基、2−モルホリニル基、ピペラジル基等の飽和複素環でも、2−フリル基、2−ピリジル基、2−チアゾリル基、2−キノリル基等の芳香族複素環でもよい。これらは複数のヘテロ原子を含んでいても、さらに置換基を有していてもよく、また結合位置も問わない。複素環として好ましい構造のものは、5〜6員環の飽和複素環、5〜6員環の単環およびその2縮合環の芳香族複素環である。
【0048】
前記Y1 〜Yn を含む環が有し得る直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖または分岐のアルケニル基、環状アルケニル基、直鎖または分岐のアルキニル基、直鎖または分岐のアルコキシ基、直鎖または分岐のアルキルチオ基、およびR6 〜R20が示すアルキル基のアルキル鎖部分は、更に置換基を有し得るが、その置換基としては、例えば以下のようなものが挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、メトキシブトキシ基等の炭素数2〜12のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、エトキシエトキシメトキシ基等の炭素数3〜15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜12のアリール基(これらは任意の置換基でさらに置換されていてもよい。);フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;アリルオキシ基、ビニルオキシ基等の炭素数2〜12のアルケニルオキシ基等が例示される。
【0049】
更に、他の置換基として、2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の複素環基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシル基;アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のアルキルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n−プロピルスルホニルアミノ基等の炭素数1〜6のアルキルスルホニルアミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0050】
Y1 〜Yn を含む環が有していてもよい置換基として、中でも好ましいのは、水酸基、炭素数1〜10の置換されていても良いアルキル基、アルコキシ基、メルカプト基、アシル基、さらには、カルボキシル基とその炭素数1〜10のアルコールとのエステル、ホルミル基、カルバモイル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていても良いアミノ基、ニトロ基が挙げられ、これらは更に置換基を有していてもよい。
【0051】
最も好ましくは、Y1 〜Yn を含む環が、無置換であるか、ハロゲン原子等の単原子からなる置換基を有する場合である。
X1 〜Xn は各々独立に、直接結合、又は、直鎖の炭化水素基からなる連結基を表
し、X1 〜Xn はそれぞれ置換されていてもよい。該直鎖の炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10程度、より好ましくは炭素数1〜5であり、更に好ましくは炭素数1〜3の直鎖の不飽和炭化水素基が好ましく、特にはアルケニレン基、アルキニレン基、アルカンジイリデン基、アルケンジイリデン基が好ましい。
【0052】
X1 〜Xn の好ましい具体例としては、メチン基、ビニレン基(エテニレン基)、エチニレン基、(=C=C=)、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、X1 〜Xn はいずれも置換基を有していても良い。
X1 〜Xn が有していてもよい置換基の例としては、Y1 〜Yn を含む環が有していてもよい置換基とほぼ同様のものが挙げられるが、かさ高く、自由回転が制限されるような置換基は望ましくない。より好ましくは、置換されていても良い直鎖のアルキル基、直鎖のアルコキシ基、直鎖のアルキルチオ基、カルボキシル基と炭素数1〜10の直鎖のアルコールとのエステル、ハロゲン原子が挙げられる。X1 〜Xn が有していてもよい置換基同士が結合して環を形成していてもよい。
【0053】
なかでも好ましくは、無置換の直鎖のアルキル基、直鎖のアルコキシ基、直鎖のアルキルチオ基、カルボキシル基と炭素数1〜10の直鎖のアルコールとのエステル、ハロゲン原子が挙げられる。
最も好ましくは、X1 〜Xn が、無置換であるか、ハロゲン原子等の単原子からなる置換基を有する場合である。
【0054】
逆に、好ましくない置換基の代表例はフェニル基である。
なお、上記一般式(A)で表される構造全体で、π電子系が環状に共役している必要がある。
また、本発明に係るポルフィリン類骨格を有する化合物は、上記構造のY1 〜Yn の全部あるいは一部に、各種金属、陽イオン、陰イオン、塩などが配位していてもよい。例えば2価の金属原子であり、具体例としてはZn、Cu、Fe、Ni、Coである。また、3価以上の金属と他の原子の結合した原子団、具体的にはFe−B1 、Al−B2
、Ti=O、Si−B3 B4 、等が挙げられる。ここで、B1 、B2 、B3 、B4 はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等の1価の基を表す。
【0055】
このようなポルフィリン系及び拡張ポルフィリン系化合物の例は、KARL M.KADISH KEVIN M.SMITH ROGER GUILARD著、THE PORPHYRIN HANDBOOK VOL.1〜10、ACADEMIC PRESS(2000)等に例を挙げることができる。
また、1個の原子を2つの同一又は異なるポルフィリン類環が共有して配位しているものや、同一又は異なる2個のポルフィリン類環が1個以上の原子あるいは原子団を共有して結合したもの、あるいは同一又は異なる2個のポルフィリン類環が3個以上結合して長鎖上につながったものも挙げることができる。
【0056】
本発明に係るポルフィリン類骨格を有する化合物として最も好ましくは、具体的には、下記一般式(1)又は(2)で表される構造を含むものである。
【0057】
【化8】
【0058】
上記式(1)及び(2)中、Zia及びZib(i=1〜4)は1価の有機基を表し、ZiaとZibが結合して環を形成していてもよい。1価の有機基の例としては、水素原子、水酸基、炭素数1〜10の置換されていても良いアルキル基、アルコキシ基、メルカプト基(アルキルチオ基)、アシル基、さらには、カルボキシル基とその炭素数1〜10のアルコールとのエステル、ホルミル基、カルバモイル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていても良いアミノ基、ニトロ基が挙げられ、これらは更に置換基を有していてもよい。また、ZiaとZibが結合して環を形成する有機基の例としては、Zia−CH=CH−Zibの構造して形成される環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族炭化水素、ピリジン環、キノリン環、フラン環、チオフェン環等の複素環、シクロヘキセン等の非芳香族環状炭化水素等が挙げられる。また、R1 〜R4 は水素原子又は1価の有機基を表す。この有機基としては、置換しても良いアルキル基、アリール基、アルコキシ基、メルカプト基、カルボキシル基と炭素数1〜10のアルコールとのエステル、ハロゲン原子が挙げられる。
【0059】
また、Mは2価の金属原子であり、例えば、Zn、Cu、Fe、Ni、Co、さらには、3価以上の金属と他の原子の結合した原子団、例えばFe−B1 、Al−B2 、Ti=O、Si−B3 B4 、等が挙げられる。ここで、B1 、B2 、B3 、B4
はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等の1価の基を表す。
さらに、1個の原子を2つポルフィリン環が共有して配位しているものや、2個のポルフィリン環が1個以上の原子あるいは原子団を共有して結合したもの、あるいはそれらが3個以上結合して長鎖上につながったものであってもよい。
【0060】
前述の通り、本発明に係るポルフィリン化合物は分子間のπ軌道の重なりを大きくする為には、分子のπ共役系の平面性が高いものが望ましく、ポルフィリン環平面からポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有するこ
とを特徴とする。ポルフィリン骨格を形成する原子とは、ポルフィリン環を形成する原子に加え、(1)あるいは(2)の置換基Zia、Zib、R1 〜R4 に結合している室温程度の熱エネルギーでは自由回転の制限された原子または原子団を示す。
【0061】
例えば、ポルフィリン環の4つのメソ位にベンゼン環の結合したテトラフェニルポルフィリンの4つのベンゼン環を形成する炭素原子は、ベンゼン環とポルフィリン環の立体障害から自由回転が阻害されており、ここでいうポルフィリン骨格に含まれる。このような基がポルフィリン環の平面から外れた位置に存在することは、その立体障害の為にポルフィリン環が重なり合うことを阻害するために好ましくない。一方、アルキル基やアルコキシ基、特に直鎖のアルキル基やアルコキシ基のような結合の回転が自由である場合には、ポルフィリン環が重なるようにその構造を自由に調整できるために障害になりにくく、ポルフィリン骨格に含めない。
【0062】
ポルフィリン環平面は、ポルフィリン環を形成するすべての原子の中心からの距離の2乗の和が最小になるような平面として定義できる。この平面からのポルフィリン骨格を形成している原子の中心までの距離が1Å以内であれば、高い平面性を有し、移動度が高くなる条件を満たすことができる。
平面性の高くないポルフィリン類化合物の典型例は、ポルフィリンとしては最もよく知られた下記テトラフェニルポルフィリンや、ビシクロ構造を持つポルフィリンを挙げることができる。
【0063】
【化9】
【0064】
従って、上記一般式(1)又は(2)中のZia、Zibとしては、水素原子、ハロゲン原子等の単原子が好ましい。また、置換基を有しない平面性の高い環を形成する基、中でもZia−CH=CH−Zib(i=1〜4)の少なくとも一つがベンゼン、ナフタレン、アントラセン等の芳香環を形成する基であるもの、更には、Zia−CH=CH−Zib(i=1〜4)のすべてが芳香環であるものが好ましい。また、R1 〜R4 も、水素原子やハロゲン原子等の単原子が好ましい。
【0065】
本発明においてはまた、ポルフィリン類骨格を有する化合物であって、キャリア移動度(移動度:μ)が1×10−5cm2 /Vs以上であるものを含有することを特徴とする。 電子デバイスに応用するために必要なキャリア移動度は、制御する電流の大きさやスイッチング速度、素子の構造から決められるものである。本発明のポルフィリン類化合物を使用することで、キャリア移動度として1×10−5cm2 /Vs以上、好ましくは1×10−3cm2 /Vs以上の有機デバイスを提供することができる。これまでの分子結晶の有機半導体の移動度はペンタセン等の芳香族縮合炭化水素の単結晶で、〜1c
m2 /Vs程度の値である。ポルフィリン分子はπ軌道が大きく広がっているため分子間相互作用が大きくなる可能性があり、さらには中心金属を有することから、金属を介した相互作用を利用できることも期待でき、移動度が10cm2 /Vsから100cm2
/Vsまでも達成できると考えられる。
【0066】
高い移動度を示す為のもう一つの条件として、半導体層を構成する半導体材料の純度が挙げられる。キャリアをトラップする不純物は微量でも大きな移動度の低下を引き起こす。このようなトラップになりやすい不純物は、キャリアを受け入れる準位が半導体のエネルギーギャップ中にあるものである。キャリアが正孔である場合には半導体よりも高い最高被占準位(HOMO)を有するもの、キャリアが電子の場合には半導体よりも低いLUMO準位を有するものである。
【0067】
そのようなエネルギー準位を与えない不純物も、濃度が高くなると半導体の結晶構造に欠陥をもたらすために移動度の低下を引き起こす。このため不純物の濃度は低いことが望ましく、好ましくは10%以下、より好ましくは1%以下である。後述する、溶解性の高い前駆体を用いた製造方法によれば、高純度の半導体層が形成できる利点がある。
【0068】
ポルフィリン類化合物では、通常は正孔がキャリアとなるが、置換基や中心金属により電子輸送性を示し、電子をキャリアとすることも可能である。
電界効果トランジスタのように電極からの電荷の注入がスムーズに起こる必要のある場合には、キャリアのエネルギー準位には好ましい位置が存在する。正孔の場合は、HOMOが低すぎると電荷注入の障壁が大きくなり好ましくない。但しHOMOがあまりに高いのは空気による酸化をうけやすく不安定になりやすい。従ってHOMOの準位に対応する固体状態でのイオン化ポテンシャルが5.6eV以下が好ましく、5.3eV以下がより好ましい。またイオン化ポテンシャルが4.5eV以上が好ましく、4.8eV以上がより好ましい。
【0069】
本発明のポルフィリン類骨格を有する化合物としては、室温で固体状態のものがデバイスへの応用には都合がよく好ましい。一般式(1)又は(2)中の置換基によっては、液晶性を示す化合物が得られるが、液晶性状態でも有機半導体として用いることができる。特に本発明のポルフィリン類化合物は平面性の良好な構造をしているため、ディスコチック液晶が得られることが期待されるが、そのような構造はキャリアの輸送に都合がよい。動作する温度範囲で大きな特性の変化を生じるのは好ましくないので、融点や凝固点等の相転移温度が5℃〜40℃の範囲ではない化合物が好ましい。室温で固体状態をとる化合物は、融点やガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0070】
また、本発明のポルフィリン類化合物を含む有機半導体材料のオンオフ比としては、高いほど望ましいが、好ましくは800以上であり、より好ましくは1000以上である。
以下に、本発明の好ましいポルフィリン類化合物の例を挙げる。ここでは、無金属体の構造を例示しているが、以下の例に対応する金属塩や、置換基を有する分子であっても同様に好ましい例として使用することができる。また、対称性の良い分子構造を主に例示しているが、部分的な構造の組み合わせによる非対称構造であっても使用できる。もちろん本発明のポルフィリン化合物はこれらの例示化合物に限定されるわけではない。なお、以下において、Meはメチル基を、Etはエチル基を指す。
【0071】
【化10】
【0072】
【化11】
【0073】
【化12】
【0074】
【化13】
【0075】
【化14】
【0076】
【化15】
【0077】
【化16】
【0078】
【化17】
【0079】
(ポルフィリン類化合物の合成方法)
本発明のポルフィリン類化合物は、対応するピロール化合物、チオフェン化合物、フラン化合物などを出発原料として合成することが出来る。ポルフィリン類化合物の合成法に
ついては、例えば、KARL M.KADIS H KEVIN M.SMITH ROGER GUILARD著、THE PORPHYRIN HANDBOOK VOL.1、ACADEMIC PRESS(2000)に記述されている方法を用いることができる。
【0080】
例えば、ピロールとアルデヒドの縮合は特にテトラフェニルポリフィリンの合成法としてよく利用されている。
【0081】
【化18】
【0082】
(上記式中、Q1 及びQ2 は、一般式(1)又は(2)のZia及びZibに対応し、Q3 はR1 〜R4 に対応する。)
また、α位にカルボン酸エステルやメチル基を有するピロールの縮合反応でも得ることができる。
【0083】
【化19】
【0084】
(上記式中、Q1 及びQ2 は、一般式(1)又は(2)のZia及びZibに対応する。またR5 はアルキル基を表わす。)
本発明のポルフィリン類化合物中、ベンゼン環が1個以上のピロール環、チオフェン環、フラン環に縮合した、ベンゾポルフィリン類は、その前駆体として対応するビシクロ化合物を用いて誘導することが出来る。この前駆体は平面構造でないため、溶媒への溶解性が高くかつ結晶化もしにくいため、溶液から塗布することにより、アモルファスまたはアモルファスに近い良好な膜を与える。この膜を加熱処理して脱エチレン反応により、平面性の高いベンゾポルフィリン類膜を得ることが出来る。無置換、無金属体の構造では以下のような化学反応で表される。この反応は100℃以上、好ましくは150℃以上に加熱することにより定量的に進行する。また、脱離するものがエチレン分子であるため、系内に残りにくく、毒性、安全性の面でも問題ない。次に4個のベンゼン環が縮合したテトラベンゾポルフィリンの例を示す。
【0085】
【化20】
【0086】
このビシクロ化合物の合成法としては、例えば次のようなルートが挙げられる。
【0087】
【化21】
また、途中のピロール中間体までの合成ルートは別のルートでも取ることができる。
【0088】
【化22】
【0089】
この前駆体の金属錯体はこの化合物と金属塩を溶解する有機溶媒中で混合することにより得られる。金属塩は有機溶媒に溶解するものであれば用いることが出来るが、酢酸塩はその代表的な例である。溶媒は金属塩とビシクロ化合物を溶解するものであればよいが、好ましい例としては、クロロホルム、アルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
(デバイスの種類)
(1)電子デバイスの定義
本発明の電子デバイスとは、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を光以外の、例えば電気、磁気、又は化学物質等により制御するデバイスである。例えば、電圧の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子が挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振が挙げられる。現在シリコン等で実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。本発明に係るポルフィリン類化合物はキャリア移動度μが高いため、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)に適用すると効果が高い。
【0090】
また光で制御される、あるいは発光を制御するデバイスでも、本ポルフィリン類材料が直接光を吸収したり発光したりして動作する以外の用途、例えば配線や上記の電圧、電流
の制御に使われるデバイスも含まれる。
電子デバイスのより具体的な例は、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley−Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
(2)電界効果トランジスタ
本発明の有機デバイスの例としては、電界効果トランジスタ(FET)が挙げられる。これは、半導体に接して2つの電極間(ソース電極及びドレイン電極)があり、その電極間(チャネルと呼ばれる)に流れる電流を、もう一つのゲートと呼ばれる電極に印加する電圧で制御するものである。ゲート電極は半導体層に電界を印加するだけで電流は基本的には流れない構造になっており、電界効果トランジスタと呼ばれる。
【0091】
本発明によれば、有機半導体材料を用いるため、比較的低温のプロセスで製造できるので基板にプラスチックフィルムが使用でき、軽量で柔軟性に優れた壊れにくいデバイスを作製できる利点がある。従って、薄膜で可撓性のある電解効果トランジスタが製造できるので、これを各セルのスイッチング素子に利用することで、可撓性のあるアクティブマトリクス液晶ディスプレーが作製できるなど、広く応用できる。
【0092】
さて、電界効果トランジスタの動作特性は、半導体層のキャリア移動度μ、電導度σ、絶縁層の静電容量Ci、素子の構成(ソース・ドレイン電極間距離L及び幅W、絶縁層の膜厚d等)などにより決まる。電界効果トランジスタに用いる半導体材料はキャリア移動度μが高いほど好ましいが、本発明に係るポルフィリン類化合物はキャリア移動度μが高い特徴があるため、電界効果トランジスタに用いると効果が高い。また、本発明に係る電界効果トランジスタは漏れ電流(リーク電流)が小さくオンオフ比が大きく、膜及び特性の安定性が高く寿命が長いという利点がある。更には、使用可能温度幅が広く、成膜性が良く、大面積適用性があり、低コストで製造できるという利点もある。
【0093】
一般に、ゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal−Insulator−Semiconductor;MIS構造)がよく用いられる。他には、ショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造のものもあるが、有機半導体材料を用いたFETの場合、MIS構造がよく用いられる。
以下、図を用いて本発明の電界効果トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれら構造には限られない。
【0094】
図1に、A〜Dとして、電界効果トランジスタ素子のいくつかの構造例を示す。1が半導体層、2が絶縁体層、3及び4がソース電極及びドレイン電極、5がゲート電極、6が基板である。なお、各層や電極の配置は、素子の用途により適宜選択できる。基板と並行方向に電流が流れるので、横型FETと呼ばれる。
基板6は、上に形成される各層が剥離することなく保持できる必要がある。このような材料としては、例えば、樹脂からなる板やフィルム、紙、ガラス、セラミックなどの絶縁性材料、金属や合金などの導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成したも、樹脂と無機材料など各種組合せからなる複合材、等が挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、素子に可撓性を持たせることができ、好ましい。
【0095】
電極3,4,5には導電性を有する材料を用いうる。例えば、白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、コバルト、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金、InO2 、SnO2 、ITO等の導電性の酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、等の半導体、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料等が挙げられる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていても良い。ドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6 、AsF5 、FeCl3 等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等が挙げられる。また、上記材料にカーボンブラックや金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いうる。
【0096】
また、電極3,4,5には図示しない配線が連結されているが、配線も電極とほぼ同様の材料により作製できる。
絶縁体層2は絶縁性を有する材料を用いうる。例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、SrTiO3 、BaTiO3 等の強誘電性酸化物、窒化珪素等の窒化物、硫化物、フッ化物などの誘電体、あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー、等が挙げられる。
【0097】
絶縁体層2の膜厚は、上記の通り、必要な機能を果たせる範囲で、薄いほど好ましい。通常、膜厚は1nm以上であり、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。但し、通常、膜厚は10μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500nm以下である。
半導体層1の材料としては、上述のポルフィリン類化合物を主成分として含む半導体層が好ましく用いられる。主成分とは50重量%以上含むことを言う。より好ましくは80重量%以上含む。特性を改善したり他の特性を付与するために、必要に応じて他の有機半導体材料と混合して用いたり、各種添加剤を添加しても良い。また、半導体層1は複数の層から成っても良い。
【0098】
半導体層1の膜厚は、必要な機能を果たせる範囲で、薄いほど好ましい。図1に例示するような横型の電界効果トランジスタ素子(ソース電極とドレイン電極がほぼ水平に配置されている)においては、所定以上の膜厚があれば素子の特性は膜厚に依存しない一方、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多いためである。必要な機能を果たすために、通常、膜厚は1nm以上であり、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。但し、通常、膜厚は10μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500nm以下である。
【0099】
本発明の有機電子デバイスには各層のあいだや素子の外面に必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、半導体層上に直接または他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を最小限にできる利点がある。また、デバイスのON/OFF比を上げるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
【0100】
保護層の材料は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜や、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等、無機酸化膜や窒化膜等の誘電体からなる膜が好ましく挙げられる。特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が望ましい。
【0101】
また、ポルフィリン類化合物は光を吸収して電荷を発生するものがあるため、必要であれば電子デバイス部分を遮光することができる。例えば、所望の領域に光の透過率の小さいパターン(いわゆるブラックマトリクス)を形成することで実現できる。このパターンには、クロムやアルミニウム、銀、金等の金属の膜、カーボンブラック等の顔料を分散した樹脂膜、有機色素の膜等を用いることができる。
(3)静電誘導トランジスタ(SIT)
電界効果トランジスタの一種として、他に静電誘導トランジスタ(SIT)がある。SITの構造を説明する。
【0102】
横型FETはソース電極とドレイン電極が基板上に並べて配置され、電流の流れる方向が、ゲートにより誘起される電場に垂直方向であるのに対し、SITではソースとドレインの間の適当な位置に、ゲート電極がグリッド上に配置され、電流の方向が、ゲートにより誘起される電場に平行方向である点を特徴とする。
図2は静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図である。7がソース電極、8がドレイン電極であり、9がゲート電極、10が半導体層である。これらは図示しない基板上に設けられる。SIT構造によれば、キャリアの流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリアを移動できる。またソース電極とドレイン電極が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流したり、高速のスイッチングを行う用途に好ましく適用できる。
【0103】
半導体層10に関する説明は上記半導体層1と同様であり、電極7,8に関する説明は上記電極3,4,5と同様である。
9のゲート電極は、電極間をキャリアが通り抜けていく網目あるいはストライプ状の構造をしている。ゲート電極の網目の間隔は、ソースとドレインとの距離(素子の厚さに相当する。)よりも小さいことが望ましい。また、電極の厚みは、通常10nm以上であり、好ましくは20nm以上である。但し、通常10μm以下であり、好ましくは1μm以下である。
【0104】
ゲート電極9の材料としては上述の電極3,4,5と同様のものが用いうるが、好ましくは金属、合金や導電性高分子等の導電性材料からなる島状構造薄膜を用いる。例えば、厚さ50nm以下の薄膜で半透明のアルミニウム電極などを用いうる。
ゲート電極9と半導体層10の間には、通常、絶縁層あるいはエネルギー障壁を設け、電極からのキャリアの出入りが抑えられるようにする。例えば電極の周りに絶縁層をパターニングして形成してもよい。また、電極材料として、半導体とエネルギー障壁を作りうる金属を選択し、半導体層とのあいだでキャリアの出入りを押さえても良い。例えばアルミニウムを選ぶことで、p型半導体とのあいだにいわゆるショットキー障壁を形成しうる。
【0105】
また、各層の間や素子の外面には、必要に応じて他の層を設けてもよい。
本発明に係る静電誘導トランジスタは、キャリア移動度μが高く、漏れ電流が小さくオンオフ比が大きく、膜及び特性の安定性が高く寿命が長いという利点がある。更には、使用可能温度幅が広く、成膜性が良く、大面積適用性があり、低コストで製造できるという利点もある。
(4)ダイオード素子
そのほかの例として、ダイオード素子が挙げられる。これは、非対称な構造をした2端子素子である。図3のE,Fはダイオード素子の模式図である。これらは図示しない基板上に設けられる。
【0106】
構造例Eは、仕事関数の異なる2つの金属電極11及び12でポルフィリン類化合物を含む半導体層13を挟んだ構造のものである。半導体層13に関する説明は上記半導体層1と同様である。電極11及び12の少なくとも一方は、半導体材料との間でエネルギー障壁を形成している。エネルギー障壁を形成するためには、電極と半導体とで仕事関数が異なるものを選べばよいが、例えば、p型半導体との間でエネルギー障壁を形成する金属としては、アルミニウムがよく用いられる。他の電極の材料としては上述の電極3,4,5と同様のものが用いうるが、好ましくは金属、合金である。本素子に電圧を印加すると、電圧の極性によって流れる電流値が異なる、いわゆる整流作用が見られる。従ってこのようなダイオード素子の応用例としては、整流素子が挙げられる。
【0107】
また、構造例Fは仕事関数が互いに大きく異なる半導体層16及び17を、電極14及び15で挟んだ構造のものである。半導体層16に関する説明は上記半導体層1と同様である。半導体層17については、半導体層16と仕事関数が大きく異なればよいが、このような材料としては例えばペリレン顔料やフタロシアニン材料、フラーレン、共役高分子等が挙げられる。
【0108】
電極14、15については、同じ材料でも異なる材料でも良く、上述の電極3,4,5と同様のものを用いうる。
また、各層の間や素子の外面には、必要に応じて他の層を設けてもよい。
(5)抵抗等
また、他の応用例として抵抗素子が挙げられる。これは、基板上に設けられた、半導体層を2つの電極で挟んだ、対称な構造をもつ2端子素子である。抵抗素子は、電極間の抵抗を調整するための抵抗器として用いたり、抵抗を大きくして電極間の電気容量を調整するためのコンデンサとして用いることができる。
【0109】
半導体層に関する説明は上記半導体層1と同様であり、電極に関する説明は上記電極3,4,5と同様である。
また、各層の間や素子の外面には、必要に応じて他の層を設けてもよい。
このようなダイオード素子や抵抗素子は、高キャリア移動度を示す本発明の有機半導体材料を用いることにより、抵抗値等のデバイスパラメータを広く制御できるメリットがあり、集積化に都合がよい。
(6)本発明の有機電子デバイスの応用
[6−1]アクティブマトリクス
本発明の有機電子デバイスは、ディスプレーのアクティブマトリクスのスイッチング素子として利用することができる。これは、ゲートに印加される電圧でソースとドレイン間の電流をスイッチングできることを利用して、ある表示素子に電圧を印加あるいは電流を供給する時のみスイッチを入れ、その他の時間は回路を切断することにより、高速、高コントラストな表示を行うものである。
【0110】
適用される表示素子としては、液晶表示素子、高分子分散型液晶表示素子、電気泳動表示素子、エレクトロルミネッセント素子、エレクトロクロミック素子等が挙げられる。
特に、本発明の有機電子デバイスは、低温プロセスでの素子作製が可能であり、プラスチック板、プラスチックフィルムや紙等の、高温処理に耐えない基板を用いることができる。また、塗布あるいは印刷プロセスでの素子作製が可能であることから、大面積のディスプレーへの応用に適している。また、従来のアクティブマトリクスの代替としても、省エネルギープロセス、低コストプロセスの可能な素子として有利である。
【0111】
[6−2]IC
また、トランジスタを集積することにより、デジタル素子やアナログ素子が実現できる。これらの例としては、AND、OR、NAND、NOT等の論理回路、メモリー素子、発振素子、増幅素子、等が挙げられる。さらにこれらを組み合わせることにより、ICカードやICタグを作製することができる
[6−3]センサー
有機半導体は、ガスや化学物質、温度等の外部の刺激により、特性が大きく変化するので、それらのセンサーへの応用も考えられる。例えば本発明の有機電子デバイスの特性が、気体や液体との接触により変化する量を測定することにより、定性的あるいは定量的にそれに含まれている化学物質を検出することが可能である。
(本発明の有機電子デバイスの製造方法)
本発明に係る有機電子デバイスの好ましい製造方法について、図1の構造例Aに示す電界効果トランジスタ(FET)を例として、以下に説明するが、これらは他の有機電子デバイスにも同様に適用しうる。
(1)基板及び基板処理
一般に、電界効果トランジスタなどの有機電子デバイスは、基板1上に必要な層や電極を設けることで作製される。基板としては上記で説明したものを用いうる。
【0112】
基板に所定の表面処理を行うことで、デバイスの特性を向上できる場合がある。例えば基板表面の親水性/疎水性の度合いを調整することで、その上に成膜される膜の膜質を改良しうる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わるが、基板表面処理によって、基板とその後に成膜される半導体膜との界面部分の分子配向を制御し、特性を改良できると推定される。
【0113】
このような基板処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等による疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、コロナ放電などの電気的処理、などが挙げられる。
(2)電極形成
次に、ゲート電極5を形成する。電極材料としては上記で説明したものを用いうる。
【0114】
電極膜を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等を用いうる。
成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行う。パターニング方法も公知の各種方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチング(エッチング液によるウエットエッチングや反応性のプラズマによるドライエッチング)を組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれら手法を複数組み合わせた手法を利用できる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去したり材料の導電性を変化させることにより、直接パターンを作製してもよい。
(3)絶縁層
次に、絶縁体層2を形成する。絶縁体材料としては上記[3]で説明したものを用いうる。
【0115】
絶縁体層2を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、例えばスピンコーティングやブレードコーティングなどの塗布法、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法、真空蒸着法、スパッタリング法、そのほか、アルミニウム上のアルマイトのように金属上に酸化物膜を形成する方法等を用いうる。
なお、絶縁体層上に半導体層を形成する態様においては、両層の界面で半導体分子を良好に配向させるために、絶縁体層に所定の表面処理を行うことができる。表面処理の手法は、基板の表面処理と同様のものが用いうる。
【0116】
さらにソース電極3及びドレイン電極4を形成するが、形成方法等はゲート電極5に準ずる。
(4)半導体層
続いて、有機半導体層1を形成する。有機半導体材料としては上記で説明したものを用いうる。半導体層を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、例えばスパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法と、塗布法、印刷法などの溶液プロセス
での形成方法に大別される。
(5)真空プロセス
有機半導体材料を真空プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について詳しく説明する。例えば、材料をルツボや金属のボートに入れて真空中で加熱し、蒸発させ基板に付着させる真空蒸着法を用いることができる。この際、真空度としては、通常1×10−3Torr(1.3×10−1Pa)以下、好ましくは1×10−6Torr(1.3×10−4Pa)以下とする。また、基板温度によって半導体膜、ひいてはデバイスの特性が変化するので、最適な基板温度を選択する。通常、0℃から200℃の範囲が好ましい。また、蒸着速度は、通常0.001nm/秒以上であり、好ましくは0.01nm/秒以上である。但し、通常10nm/秒以下であり、好ましくは1nm/秒以下である。材料を加熱により蒸発させる方法に代えて、加速したアルゴン等のイオンを材料ターゲットに衝突させて材料原子を叩きだし基板に付着させるスパッタリング法を用いてもよい。
【0117】
本発明の有機半導体材料は比較的低分子化合物であるため、このような真空プロセスが用いうる。真空プロセスには、高価な設備が必要であるものの、成膜性が良く均一な膜が得られやすいという利点がある。
(6)溶液プロセス
有機半導体材料を溶液プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について詳しく説明する。まず、有機半導体材料を溶媒に溶かして基板上に塗布する。
塗布の方法としては、溶液をたらすだけのキャスティング、スピンコーティング、ディップティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いうる。さらに、塗布に類似の技術として、水面上に形成した単分子膜を基板に移し積層するラングミュア・ブロジェット法、液晶や融液状態を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入する方法等も挙げられる。
【0118】
溶液プロセスを用いると、比較的安価な設備で、大面積の有機電子デバイスを作製しやすいという利点がある。
本発明のポルフィリン類化合物は、溶媒に溶解して塗布することによっても素子を作製することが出来る。この際、最終的に素子中で用いるポルフィリン類化合物を直接塗布することも可能であるが、溶解性の高い化合物(以下前駆体と呼ぶ)を塗布しておき、それの化学構造の変化により、最終的なポルフィリン類化合物に変換することも可能である。特に溶媒に難溶な材料を塗布法で膜形成するのに有用である。
【0119】
この前駆体としては、次に示すビシクロ構造を有するものが、好ましい例として挙げられる。
【0120】
【化23】
このビシクロ構造は、加熱によりエチレン分子が解離してベンゼン環に変化する。
【0121】
【化24】
ビシクロ構造は立体的にかさ高いため、結晶性が悪く、この構造を有する分子は溶解性が良好でかつ溶液から塗布した際に、結晶性の低い、あるいは無定型の膜が得やすい性質を有することが多い。加熱工程によりベンゼン環に変化すると、平面性の良好な分子構造になるために、結晶性の良好な分子に変化する。従って、この前駆体からの化学変化を利用することにより、結晶性の良好な膜を塗布により得ることが出来る。この加熱工程は、塗布溶媒を留去するなど他の目的を兼ねても良い。
【0122】
特に、本発明のポルフィリン類化合物中、ベンゾポルフィリン類と呼ばれるピロール環、チオフェン環、フラン環にベンゼン環が縮合している化合物は、前駆体としてビシクロ構造のものから得ることができるので、塗布による素子を得るのに有利である。
また、溶液プロセスでは、塗布−乾燥工程を必要なだけ繰り返して半導体層を厚膜にすることができる。前駆体からの変換により半導体膜が形成されるときには、塗布−半導体変換工程を繰り返せば、前駆体と半導体の溶解性が異なることを利用して積層し厚膜にすることができる。
【0123】
さらに、塗布と蒸着等の異なる製膜方法を組み合わせたり、異なる材料を同一のあるいは異なる製膜方法で積層することもできる。
一般に溶液プロセスは成膜性が高くなく、結晶性の高い有機半導体膜が得られにくいとされているが、本方法によれば、簡便な溶液プロセスで、結晶性の高い特性の良い有機半導体膜が得られ、非常に好ましい。このように形成した膜は、キャリア移動度が高く、かつ漏れ電流が小さくオンオフ比が高いという望ましい特性を持つ。本製造法は、本発明に係る有機半導体材料に限られず、広く有機半導体材料一般に適用しうる優れた方法である。
(7)半導体層の後処理
このように作製された有機半導体層は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、特性の向上や安定化を図ることができる。さらに、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や液体にさらすことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
(8)ドーピング処理
また、ドーピングと呼ばれる微量の元素や原子団、分子、高分子を加えることにより、特性を変化させて望ましいものにすることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6 、AsF5 、FeCl3 等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウムカリウム等の金属原子等をドーピングする事が挙げられる。これは、これらのガスに接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは膜の形成後でなくても、材料合成時に添加したり、溶液からの作製プロセスでは、その溶液に添加したり、前駆体膜の段階で添加することができる。また蒸着時に添加する材料を共蒸着したり、膜形成時の雰囲気に混合したり、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0124】
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変
化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられ、半導体デバイスでは良く利用されているものである。ドーピング処理は同様に本発明の有機電子デバイスでも利用することができる。
(9)保護層
本発明の有機電子デバイスには各層のあいだや素子の外面に必要に応じて他の層を設けることが出来る。例えば、半導体層上に直接または他の層を介して、保護層を形成すると、外気の影響を最小限にできる利点がある。また、デバイスの電気的特性を安定化できる利点もある。保護層材料としては前述のものを用いうる。
【0125】
保護層を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、保護層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法、樹脂モノマーを塗布あるいは蒸着したのち重合する方法などが挙げられる。成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層が無機物からなる場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法を用いることができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、チア/オキサポルフィリン化合物の合成法は、特願2003−049561に記載の方法を用いうる。
合成例1
次のような合成ルートでビシクロ化合物(1)を合成した。
【0127】
【化25】
【0128】
チオフェノール53.5mlと水酸化カリウム51.25gをエタノール600mlに溶解させた。この溶液に、シス−1,2−ジクロロエチレン19.4mlをゆっくりと滴下した。その後室温で30分撹拌し、さらに80−90℃で23時間加熱撹拌した。溶媒を減圧下濃縮し、これに水を加えて、クロロホルムで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮することにより、シス−1,2−フェニルチオエチレンが得られた。
【0129】
このシス−1,2−フェニルチオエチレンとジフェニルジセレニド750mgを塩化メチレン100mlに溶解した。その溶液を氷浴で冷却し、30%過酸化水素水175mlをゆっくり加えた。室温で一晩激しく撹拌して析出する結晶をろ別し、クロロホルムに溶解した後、水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、減圧下、濃縮した。さらにこれをクロロホルム500mlに溶解し、氷浴で冷却しながらm−
クロロ過安息香酸84gをゆっくり加え、室温で一晩撹拌した。析出した固体をセライトろ過し、有機層を水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮した。この固体を、エーテルでリンスして、シス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレン67.06gが得られた(収率87%)。無色結晶、mp100−101℃。
【0130】
このシス体と触媒量のヨウ素を塩化メチレンに溶解し、太陽光を照射することにより固体として析出するものをろ過してトランス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレンを得た。無色結晶、mp219.5℃。
トランス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレン29.33gをトルエン200mlに溶解し、ついで1,3−シクロヘキサジエン11.4mlを加え、21時間乾留した後、再結晶することにより、5,6−ジフェニルスルホニル−ビシクロ−[2,2,2]オクタ−2−エン35.66g(収率96.5%)が得られた。
【0131】
この7.76gを反応容器に入れ、窒素置換し、無水テトラヒドロフラン(THF)50mlを加えて溶解させた。そこにイソシアノ酢酸エチル2.43mlを加え、反応溶液を氷浴で冷却し、t−BuOK/THFの1M溶液50mlをゆっくりと滴下した。その後反応溶液を室温に戻し、一晩撹拌した。1N塩酸でクエンチし、クロロホルムで抽出し、水、飽和食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、4,7−ジヒドロ−4,7−エタノ−2H−イソインドール−1−カルボン酸エチル3.49g(収率80.4%)が得られた。無色結晶、mp129−130℃。
【0132】
得られた結晶0.109gをTHF15mlに溶解したものを、0.144gのLiAlH4 を0℃で撹拌しながら滴下し、0℃で2時間撹拌した。反応液を飽水25mLに注入し、クロロホルム50mLで3回抽出した。抽出液を合わせたものにp−トルエンスルホン酸0.010gを添加し、12時間室温で撹拌した。p−クロラニル0.150gを添加し、室温で12時間撹拌後反応液を水に注入した。有機相を分離し、炭酸水素ナトリウム水溶液250mLで5回、水250mLで1回、飽和食塩水100mLで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を蒸留して除いた残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム、アルミナ)で精製し、0.094gの目的ビシクロ構造を含むポルフィリン化合物(1)を得た。
【0133】
MALDI−TOFマススペクトルの負イオンモードでm/Z=622(M− )の主ピークを観測した。
この化合物の熱分析結果(DTA−TG)を図4に示す。
146℃から198℃の温度範囲で重量の減少および発熱が見られる。この重量減(約18%)はビシクロ化合物からエチレン分子が4個脱離し、テトラベンゾポルフィリンに変化することに対応している。
【0134】
ポルフィリン化合物(1)のクロロホルム溶液を金蒸着膜の上にたらして溶媒を乾燥した膜のIRスペクトルを図5に示す。この膜を210℃で2分間加熱した膜のIRスペクトルを図6に示す。エチレン分子の脱離に伴う分子構造変化を反映したIRスペクトルの変化が見られ、膜の加熱によりテトラベンゾポルフィリンが生成していることが分かる。
【0135】
ビシクロ化合物(1)を210℃で10分加熱したものを、MALDI−TOF法でビシクロ化合物と同様に負イオンモードでマススペクトルを測定した。すると、m/z=510(M− )のテトラベンゾポルフィリンの分子イオンピークが観測され、加熱によるテトラベンゾポルフィリンへの変換が確認された。またこの加熱したもののIRスペクトルは、上記基板上で測定した加熱後のIRスペクトルにほぼ一致した事から、加熱により精製しているものがテトラベンゾポルフィリンであることが確認された。
【0136】
ビシクロ化合物(1)のクロロホルム溶液を石英ガラス基板の上にスピンコートして溶媒を乾燥した膜と、この膜を210℃で10分間加熱した膜の紫外−可視吸収スペクトルを比較したものを図7に示す。これは、ビシクロ化合物からテトラベンゾポルフィリン(690nm)への変化が、ポルフィリンの吸収スペクトルのQバンドの強度増大及び長波長シフトとして観測されている。
【0137】
合成例2
合成例1のビシクロ化合物(1)0.02gと酢酸亜鉛2水和物0.1gをクロロホルム30mLとメタノール3mLの混合溶媒中3時間室温で撹拌した。反応液を水100mLで2回、飽和食塩水40mLで1回洗浄し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を濃縮して得られる固体をクロロホルム−メタノールの混合溶媒で再結晶して、0.022gのビシクロ化合物(1)の亜鉛錯体が得られた。さらに、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本分析工業JAIGEL−1H、2H、クロロホルム)により、単一ピークのみ分取して精製した。
【0138】
マススペクトルを測定し、分子ピークを確認した。
合成例3:21,23−ジチアポルフィリン5の合成
次に示す合成ルートで下記ビシクロ環構造を有するジチアポルフィリン化合物を合成した。
【0139】
【化26】
【0140】
なお、出発原料のジホルミルチオフェン1 は、Tetrahedron Letters,vol.43,8485(2002)で既に報告されている方法で合成した。
(1)1,3−ビス−(ジヒドロキシメチル)−4,7−ジヒドロ−4,7−エタノ−2−ベンゾ[c]チオフェン2の合成
【0141】
【化27】
【0142】
50mlのナス型フラスコにジホルミルチオフェン1(0.437g,2.0mmol)を入れ、ジクロロメタン10mlとメタノール10mlに溶かした。この容器を0℃に冷却した後NaBH4 (0.277g,6.0mmol)を加え30分攪拌した。反応溶液を水でクエンチした後、有機層をジクロロメタンで抽出した。有機層は水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られたオイルを冷凍庫内で結晶化させた後、再結晶(CHCl3 /ヘキサン)により精製することにより、目的物であるジヒドロキシメチルチオフェン2を78%の収率で得た。
【0143】
外観:無色結晶
mp:143−145℃
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.51-1.60(m,4H), 3.90(m,2H), 4.69-4.75(m,4H), 6.46-6.52(m,2H)
13C NMR(100MHz, CDCl3):26.0, 34.8, 57.5, 129.4, 135.3, 144.5
m/z(EI):222(87), 194(100), 177(100)
IR(KBr):3130-3380 cm−1(OH)
C12H14O2S 元素分析
計算値:C=64.83%, H=6.35%
実測値:C=64.73%, H=6.37%
(2)チアトリピランジエチルエステル3の合成
【0144】
【化28】
【0145】
200mlのナス型フラスコにジヒドロキシメチルチオフェン2(0.888g,4.0mmol)とビシクロピロールエチルエステル(1.737g,8.0mmol)とを入れ、容器内をアルゴン置換し、クロロホルム60mlに溶解させた。この容器を0℃に冷却し、TFA1mlを加え、1時間攪拌した後、5時間還流した。反応溶液を水の中に注ぎクエンチした後、有機層をクロロホルムで抽出した。有機層は水、重曹水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られた粗生成物をエーテルとヘキサンの混合溶媒で洗浄した後、再結晶(CHCl3 /ヘキサン) により精製することにより、目的物であるチアトリピランジエチルエステル3を90%の収率で得た。
【0146】
外観:薄茶色粉末(立体異性体を含む)
mp:>180℃(分解)
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.34(t,J7.3,6H), 1.39-1.61(m,12H), 3.62(m,2H), 3.68(m,2H), 3.95-4.01(m,4H), 4.26(q,J7.3,4H), 4.31(m,2H), 6.40-6.51(m,6H), 8.09(brs,2H)
m/z(EI):620(24), 592(100), 564(49), 546(8), 518(18)
IR(KBr):3180-3310 cm−1(NH), 1666 cm −1(CO)
C38H40O4S 元素分析
計算値:C=73.52%, H=6.49%, N=4.51%
実測値:C=73.31%, H=6.52%, N=4.43%
(3)チアトリピランジカルボン酸4の合成
【0147】
【化29】
【0148】
100mlのナス型フラスコにチアトリピランジエチルエステル3(0.620g,1.0mmol)を入れ、テトラヒドロフラン(THF)10ml、エタノール8ml、水12mlに溶解させた。LiOH・H2 O(0.840g,20mmol)を加え20時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、1N HCl水溶液をゆっくり加え、溶液のpHを1にした後、有機層を酢酸エチルで抽出した。有機層は水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られた粗生成物をエーテルとヘキサンの混合溶媒で洗浄することにより、目的物であるチアトリピランジカルボン酸4を98%の収率で得た。なお、この生成物は精製を行わずに次の反応へと用いた。
【0149】
外観:薄茶色粉末(立体異性体を含む)
1H NMR(400MHz, Acetone-d6):1.30-1.58(m,12H), 3.64-3.70(m,2H), 3.80-3.85(m,2H), 3.99-4.08(m,4H), 4.30(m,2H), 6.32-6.49(m,6H), 9.68(brs,2H)
IR(KBr):2820-3460 cm−1(OH), 1670 cm −1(CO)
(4)21,23−ジチアポルフィリン5の合成
【0150】
【化30】
【0151】
遮光した500mlのナス型フラスコにチアトリピランジカルボン酸4(0.508g,0.9mmol)を入れ、容器内をアルゴン置換し、室温下でTFA2.5mlを入れ5分間攪拌した。乾燥CH2 Cl2 200mlを加えた後、ジホルミルチオフェン(0.196g,0.9mmol)を素早く加え、室温下で16時間攪した。その後、トリエチルアミンをゆっくり加え溶液を中和した後、DDQ(0.227g,1.0mmol)を加え、更に2時間攪拌した。得られた溶液を水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られた粗結晶をカラムクロマトグラフィー( アルミナ,50%酢酸エチル/ヘキサン) で処理した後、再結晶(CH2 Cl2 /MeOH)して精製することにより、目的物であるジチアポルフィリン5を37%の収率で得た。
【0152】
外観:緑茶色固体(立体異性体を含む)
mp:>130℃(分解)
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.83-2.02(m,8H), 2.13(m,4H), 2.29(m,4H), 5.55(m,4H), 6.04(m,4H), 7.03-7.06(m,4H), 7.26(m,4H), 10.94(m,meso-H,4H)
m/z(FAB):657(M+1, 35), 629(11), 601(9), 573(29), 545(100)
C44H36N2S2元素分析(0.25CH2Cl2 + 0.25MeOH)
計算値:C=77.64%, H=5.80%, N=4.08%
実測値:C=77.90%, H=5.51%, N=4.01%
以上のように、元素分析、NMR、マススペクトルにより、目的物であることを確認した。
【0153】
合成例4:21−チアポルフィリン6の合成
合成例3と同様にしてチアトリピランジカルボン酸4を合成し、このチアトリピランジカルボン酸4にチオフェンの代わりにピロール誘導体を用いたこと以外は合成例3と同様にして、次に示す合成ルートで、下記ビシクロ構造を有するチアポルフィリン化合物を合成した。
【0154】
【化31】
【0155】
【化32】
【0156】
遮光した500mlのナス型フラスコにチアトリピランジカルボン酸4(0. 508g,0.9mmol)を入れ、容器内をアルゴン置換し、室温下でTFA2.5mlを入れ5分間攪拌した。乾燥CH2 Cl2 200mlを加えた後、ジホルミルピロール(0.181g,0.9mmol)を素早く加え、室温下で16時間攪拌した。その後、トリエチルアミンをゆっくり加え溶液を中和した後DDQ(0.227g,1.0mmol)を加え、更に2時間攪拌した。得られた溶液を水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。粗結晶をカラムクロマトグラフィー(アルミナ,50%酢酸エチル/ヘキサン) で処理した後、再結晶(CH2 Cl2 /MeOH)して精製することにより、目的物であるチアポルフィリン6を42%の収率で得た。
【0157】
外観:緑紫色固体(立体異性体を含む)
mp:>130℃(分解)
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.82-2.00(m,8H), 2.13(m,4H), 2.28(m,4H), 5.57(m,4H), 5.87(m,2H), 6.04(m,2H), 7.06(m,4H), 7.21-7.25(m,4H), 10.39(m,meso-H,2H), 10.90(m,meso-H,2H)
m/z(FAB):640(M+1, 44), 612(10), 584(9), 556(32), 528(100)
C44H37N3S(0.25CH2Cl2) 元素分析
計算値:C=80.39%, H=5.72%, N=6.36%
実測値:C=80.30%, H=6.00%, N=6.17%
以上のように、元素分析、NMR、マススペクトルにより、目的物であることを確認した。
【0158】
参考例1
300nmの酸化膜を形成したN型のシリコン基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ωcm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)2.5〜50μm、幅(W)250μmまたは1000μmのギャップを有する金電極(ソース、ドレイン電極)を形成した。また、この電極と異なる位置の酸化膜をフッ酸/フッ化アンムニウム液でエッチングし、むき出しになったSi部分に金を蒸着し、これをシリコン基板(ゲート電極)に電圧を印加するための電極とした。
【0159】
合成例1で得られたビシクロ化合物(1)2mgをクロロホルム1mLに溶解し、これをソースおよびドレイン電極間にたらして溶媒を蒸発させる事を数回繰り返し、良好な膜を得た。この膜のX線回折を観測すると、鋭いピークは全く観測されなかった。また、クロスニコルの顕微鏡下で膜を観測すると、一面が暗い像が得られ、等方的な膜であった。従って、得られた膜は、非晶質であることが分かる。
【0160】
この基板を、210℃で10分間加熱した。得られた膜のX線回折を観測すると、鋭いピークが見られた。また、クロスニコルの顕微鏡下で膜を観測すると、色のついたドメイン構造が見られた。従って、得られた膜は、結晶質であることが分かる。これは、ビシクロ化合物がテトラベンゾポルフィリンに変化して結晶質になった為である。また、得られた膜は溶媒への溶解度が低くなっており、有機溶媒に難溶であった。
【0161】
こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。その測定結果を図8に示す。
ソースとドレイン間に印加された電圧Vdに対して流れる電流をId、ソースとゲートに印加される電圧をVg、閾値電圧をVt、絶縁膜の単位面積当たりの静電容量をCi、ソース電極とドレイン電極の間隔をL、幅をW、半導体層の移動度をμとすると、その動作は、次のように表すことができる。
【0162】
Vd<Vg−Vtの時、
【0163】
【数1】
【0164】
Vd>Vgの時、
【0165】
【数2】
【0166】
従って、移動度μは素子(トランジスタ)の特性を支配する重要な材料パラメータであり、高特性の素子を得るためには高いμの材料が必要になる。
また逆に、μは素子の電流電圧特性から求めることができる。μを求めるには式(1)或いは(2)を用いるが、移動度μにはいくつかの定義が存在し、あるVgに対してId
−Vdの傾きから求める有効移動度μeff、あるVdに対してId−Vgの傾きから求める電界効果移動度μFE、(2)式の飽和電流部分のId1/2 −Vgの傾きから求める飽和移動度μsatがある。有効移動度μeff、電界効果移動度μFE、飽和移動度μsatは上記式を求めたモデルでは同じ値になるはずであり、実際にも理想的なFET特性が得られるような半導体材料に関しては、同じ程度の値となる。但し、現実の半導体材料の特性とモデルの差から、これらは異なる値となることもある。
【0167】
図8から各移動度を求めると、有効移動度μeffは1×10−3cm2 /Vs、電界効果移動度μFEは1.6×10−3cm2 /Vs、飽和移動度μsatは0.7×10−3cm2 /Vsであった。
参考例2
溶媒としてクロロベンゼンを用いて、参考例1と同様にビシクロ化合物の膜を作製し、加熱によりベンゾポルフィリンに変換した。
【0168】
こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。有効移動度μeffは1.6×10−2cm2 /Vs、飽和移動度μsatは1.3×10−2cm2 /Vsであった。
参考例3
アルミニウムを蒸着したスライドグラス上に、オキシジアニリンとベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物をジメチルホルムアミドにモル比1:1で溶解した液をスピンコートし、250℃で加熱処理して、500nmのポリイミド膜を作製した。この膜の上に参考例1と同様にビシクロ化合物の膜を作製し、加熱によりベンゾポルフィリンに変換した。
【0169】
この上に、25μmの径のタングステンワイヤーをギャップ部分に用いて作製したシャドーマスクを通して金を蒸着し、幅(W)250μm、長さ(L)25μmのギャップを有するソース及びドレイン電極を作製した。こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。有効移動度μeffは3.7×10−2cm2 /Vs、飽和移動度μsatは1.4×10−2cm2 /Vsであった。
【0170】
参考例4
合成例2で合成した亜鉛錯体を用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。このFET特性を測定したところ、有効移動度μeffは1.9×10−4cm2 /Vs、飽和移動度μsatは1.3×10−4cm2 /Vsであった。
参考例5
合成例1で得られたビシクロ化合物(1)を210℃で30分間加熱してテトラベンゾポルフィリンに変換した。これを2×10−6Torr(2.6×10−3Pa)の真空度で、参考例1と同様の電極基板上に真空蒸着して電界効果トランジスタを作製した。真空蒸着時の基板温度とトランジスタの移動度(飽和移動度)との関係を次表に示す。これより、基板温度によって移動度が異なることがわかる。
【0171】
基板温度 飽和移動度μsat
室温 2.9×10−4cm2 /Vs
80℃ 2.3×10−6cm2 /Vs
150℃ 5.6×10−7cm2 /Vs
200℃ 2.8×10−8cm2 /Vs
【0172】
また図9に、80℃〜200℃で蒸着したものについてのX線回折パターンを示す。これらを比較すると、150℃以上と80℃以下とでは異なる結晶形を示しており、かつい
ずれもピークが少ないことから基板に対して強く配向した膜になっていることが推察される。このため、観測される移動度に大きな差が現れたものと考えられる。
【0173】
参考例6
合成例1で得られたビシクロ化合物(1)を、クロロホルム−シリカゲルのカラムクロマトグラフィーとクロロホルム−メタノールでの再沈殿を繰り返し、純度を高めたものを準備した。合成例1では、液体クロマトグラフィーによる254nmでの吸光度での純度が99.0%であるのに対し、本高純度品は99.7%であった。
【0174】
これを用いて、乾燥窒素中でスピンコートして前駆体の膜を作製し、ホットプレート上で窒素中、210℃で5分間加熱したこと以外は参考例1と同様の方法で電界効果トランジスタを作製した。
評価として、飽和領域の電流とゲート電圧の関係から、ドレイン電流Idの平方根とゲート電圧のプロットの傾きから計算される飽和移動度μsatを求めたところ、飽和移動度μsatは0.016cm2 /Vs以上が観察された。また、ドレイン電圧−30Vにおける、ゲート電圧が0Vの場合と−30Vの場合でのドレイン電流の比からオンオフ比を求めたところ、オンオフ比は少なくとも103 以上、最も良いもので105 が観測された。
【0175】
図10に、参考例6で得られた半導体層と、参考例5の基板温度150℃で蒸着して作製した半導体層の、X線回折パターンを示す。低角のピークが一致することから両者は同様の結晶と考えられるが、回折パターンは大きく異なり、配向や結晶性等の膜の状態が異なることが推察される。このため、塗布−加熱により得られた半導体層が良好な特性を示すものと考えられる。
【0176】
参考例7
参考例6で作製した素子の上に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のトルエン溶液をスピンコートして120℃で乾燥し、2μmの膜を形成した。
この素子と、参考例6で作製した素子に対して、ドレイン電圧を−30Vに固定し、ゲート電圧を50V→−50V→50Vと変化させながらドレイン電流を測定した。結果を図11に示す。PMMA膜が無くてもオンオフ比は103 以上あり良好な特性を示すが、PMMA膜を設けるとゲート電圧の走査によるドレイン電流のヒステリシスが小さく、かつオンオフ比も向上していることが分かる。
【0177】
実施例1
合成例3で合成したジチアポルフィリンを用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。すなわち、参考例1と同様に電極が形成された基板上に、下記のビシクロ構造を有する前駆体を塗布した後に加熱処理してテトラベンゾジチアポルフィリンの膜を作製した。こうして得られたFET素子の電気特性を測定したところ、FET特性を示し、飽和移動度1.1×10−4cm2 /Vs、オンオフ比1000を示した。
【0178】
【化33】
【0179】
実施例2
合成例4で合成したチアポルフィリンを用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。すなわち、参考例1と同様に電極が形成された基板上に、下記のビシクロ構造を有する前駆体を塗布した後に加熱処理してテトラベンゾチアポルフィリンの膜を作製した。こうして得られたFET素子の電気特性を測定したところ、FET特性を示し、飽和移動度2.5×10−5cm2 /Vs、オンオフ比38を示した。
【0180】
【化34】
【0181】
参考例8
下記亜鉛錯体を用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。すなわち、参考例1と同様に電極が形成された基板上に、ビシクロ構造を有する前駆体を塗布した後に加熱処理して半導体膜を作製し、電界効果トランジスタを得た。こうして得られたFET素子の電気特性を測定したところ、飽和移動度μsatは0.7×10−4cm2 /Vs、有効移動度μeffは1×10−4cm2 /Vsであった。
【0182】
【化35】
【0183】
比較例1
以下の各構造式に示されたポルフィリン類化合物を用いて電界効果トランジスタを作製し電気特性を評価したが、いずれもFET特性は現れなかった。
【0184】
これらのポルフィリン類化合物の分子構造を、分子軌道法(MOPAC等)及び分子動力学法(MM2)等により求めたところ、ポルフィリン類環平面より1Å以上離れた位置に、ポルフィリン骨格を構成する原子が存在することを確認した。
【0185】
【化36】
【0186】
【化37】
【符号の説明】
【0187】
1 半導体層
2 絶縁体層
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート電極
6 基板
7 ソース電極
8 ドレイン電極
9 ゲート電極
10 半導体層
11 金属電極
12 金属電極
13 半導体層
14 電極
15 電極
16 半導体層
17 半導体層
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料及び電界効果トランジスタ等の有機電子デバイスに関し、特には特定構造を有するポルフィリン類化合物を含む有機半導体材料及びそれを用いた有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、以下、FETと称することがある。)素子は、半導体層としてシリコン(Si)やガリウム砒素単結晶など無機半導体材料を用いたものが広く利用されている。しかし無機材料の場合、製造時に300℃以上の高温で処理するため基板にプラスチック(樹脂)を用いるのが難しいこと、製造に多くのエネルギーを要すること、蒸着やスパッタリング、CVDなどの真空下での素子作製プロセスを経るため大面積の素子を製造するのが困難なこと、また製造ラインに高価な設備を必要とし高コストになること、などの課題がある。
【0003】
そこで、有機半導体材料を、電界効果トランジスタをはじめとして発光ダイオード、非線形光デバイスなど電子デバイスの半導体層に使用した有機電子デバイスが提案されている。これによれば、比較的低温のプロセスで製造できるので基板にプラスチックフィルムが使用でき、軽量で柔軟性に優れた壊れにくいデバイスを作製できる利点がある。また塗布法や印刷法によって形成できるので大面積のデバイスが、高価な設備を必要とせず低コストで製造できる利点もある。更に、有機物は材料のバリエーションが豊富で分子構造を変化させて材料特性を根本的に変えることもできるので、無機物にはない機能を持つ素子が得られる可能性がある。
【0004】
有機半導体材料は、高分子化合物材料(ポリマー材料)と低分子化合物材料の2種に大別され、それぞれ、導電性高分子化合物や共役高分子化合物を利用したデバイス(特許文献1)、低分子化合物を利用したデバイス(特許文献2)が報告されている。
高分子化合物材料としては導電性高分子や共役高分子などが代表的で、共役高分子化合物を半導体としてそのまま用いる方法、電場をかけて共役高分子化合物にイオン(ドーパント)を出し入れしてスイッチングを行う方法などが試みられている。しかし、高分子ゆえの問題点、すなわち溶媒溶解性が低く均一な塗布液が得られず膜の均一性や安定性が低いこと、成膜時に構造の不完全部分に由来する欠陥が生じてしまうこと、精製が困難なこと、酸化電位が下がり酸化されやすくなりやすいこと等の課題があり、高性能かつ安定性の高い材料はいまだ見出されていない。
【0005】
一方、低分子化合物は、合成の結果得られる化合物の構造がほぼ定まっており、かつ昇華精製や再結晶、カラムクロマトグラフィー等のさまざまな精製法が利用できるため、純度が高く、高性能で安定性の高い材料が得られやすい点で優れている。
低分子化合物材料の例としては、ペンタセン等の芳香族縮合炭化水素化合物やチオフェン環が4個以上連結したオリゴチオフェン類で、蒸着成膜されたものながら、アモルファスシリコン(a−Si)並の高い移動度を示した報告がある。しかし、高分子化合物ほどではないものの酸化されやすい傾向があるため、安定性の面で課題がある。即ち、空気中の酸素が有機半導体膜にドーピングされ、キャリア密度が上がってしまい、漏れ電流が多くなったり移動度が変化して安定な特性が得られなくなったりする場合がある。
【0006】
ただし、低分子化合物は塗布プロセスが適用しにくく、製造コストが高い蒸着による製膜法を用いなければならないなど、有機物の特徴を十分に生かしたものになりにくい。また一般に低分子化合物を溶液からの塗布による製膜を行うと、結晶化による粒状の構造に
なるため、均一な膜が得られにくく、製膜性に問題がある場合も多い。
【0007】
例えば、フタロシアニン類の電界効果トランジスタへの応用が報告されているが(特許文献3〜4,非特許文献1)、フタロシアニン類は一般に溶媒に不溶であり、これらの素子を作製するには真空蒸着法により製膜する必要がある。
そこで近年、溶媒溶解性の高い低分子化合物を前駆体とし、これを溶剤などに溶解し塗布プロセスで膜を形成し、そののち半導体に変換して有機半導体膜を得、電界効果トランジスタを作製する方法が報告されている。例えば、ペンタセンあるいは類似の芳香族炭化水素を用いた例がある(非特許文献2〜4)。
【0008】
ここで、電界効果トランジスタの動作特性は、主に半導体層のキャリア移動度μや電導度σ、絶縁層の静電容量Ci、素子の構成(ソース・ドレイン電極間距離L及び幅W、絶縁層の膜厚d等)により決まる。中でも、半導体層に用いる半導体材料のキャリア移動度μ(以下、単に移動度と称することがある。)が高いことが重要である。
【0009】
ペンタセンにおいては、膜の状態では移動度が0.2cm2 /Vsの例が報告されているものの、実際に素子に応用してデモンストレーションされた移動度は10−2cm2
/Vsに留まっており、実用的な移動度は未だ高くない。また、この例におけるペンタセン前駆体からはテトラクロロベンゼン分子が脱離するが、テトラクロロベンゼンは、沸点が高く反応系外に取り除くことが難しいことに加え、その毒性が懸念される。
【0010】
ところで、光電流や光起電力を得るための光デバイスの材料として、ポルフィリン化合物が検討され、ベンゾポルフィリンの太陽電池への適用例が特許文献5に記載されている。しかし、キャリア移動度は低く、実施例のキャリア密度と抵抗率から移動度を計算すると最大でも1.3×10−6cm2 /Vs程度に留まっている。このように移動度が低いため、ポルフィリン化合物の適用検討は光デバイスに限られ、正孔輸送性や電子輸送性を積極的に利用した有機電子デバイスへの適用は見られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭61−202467号公報
【特許文献2】特許2984370号
【特許文献3】特開平11−251601号公報
【特許文献4】特開2000−174277号公報
【特許文献5】特開平9−18039号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,69巻(1996),p3086
【非特許文献2】Science,270巻(1995),p972
【非特許文献3】Optical Materials,12巻(1999),p189
【非特許文献4】J.Appl.Phys.,79巻(1996),p2136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、有機半導体材料は無機半導体材料には無いさまざまな特長を有している。しかし、比較的高性能の有機半導体材料であるフタロシアニン類やペンタセン、オリゴチオフェン類等は、いずれもコストの高い蒸着プロセスにその製造法が限定されていた。それゆえ、より容易なプロセスで製造が可能で、且つ実用的な特性を有する有機電子デバイスを得たいとの要請がある。
【0014】
このため、キャリア移動度と安定性が高く、かつ塗布プロセスなどの容易な製造プロセスで膜が作製できる有機半導体材料と、それを用いた有機電子デバイスが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の事に鑑み、種々検討を行った結果、特定のポルフィリン骨格を有する化合物を半導体材料として用いた有機電子デバイスが有用であることを見出し、本発明に至った。ポルフィリンは太陽電池への応用例は知られているが、そこでは、ポルフィリン自体の精製が不十分であるためか、移動度が未だ不十分であった。このように、従来ポルフィリン化合物は、合成や精製が困難であり、有機電子デバイスの材料としては注目されていなかった。
【0016】
しがしながら、本発明者がポルフィリン化合物の適用を検討した結果、驚くべきことに、特定のポルフィリン類骨格を有する化合物は、溶液プロセスでも製膜でき、かつ高い移動度を示し、他の有機半導体材料と比較して有利な性能を有することが判明した。
即ち、本発明の要旨は、チアポルフィリン骨格を有し、チアポルフィリン環平面からチアポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有する化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料、並びに、下記式で表されるテトラベンゾ−21−チアポルフィリン、及び下記式で表されるテトラベンゾ−21,23−ジチアポルフィリンからなることを特徴とする有機半導体材料に存する。
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
【0019】
本発明の別の要旨は、下記ビシクロ構造を有する前駆体としてのチアポルフィリン骨格
を有する化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱することにより、上記チアポルフィリン骨格を有する化合物に変換することを特徴とする有機半導体材料の製造方法に存する。
【0020】
【化3】
【0021】
本発明の更に別の要旨は、半導体層と2以上の電極とを有する有機電子デバイスにおいて、該半導体層が上記有機半導体材料を含むことを特徴とする有機電子デバイスに存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機電子デバイスに有機半導体材料を用いるため、比較的低温のプロセスで製造できるので基板にプラスチックフィルムが使用でき、軽量で柔軟性に優れ壊れにくいデバイスを作製できる利点がある。従って、薄膜で可撓性のある電界効果トランジスタが製造できるので、これを各セルのスイッチング素子に利用することで、可撓性のあるアクティブマトリクス液晶ディスプレーが作製できるなど、広く応用できる。
【0023】
また、本発明に係るポルフィリン類化合物を含む有機半導体材料及び有機電子デバイスは、高いキャリア移動度と安定性を有し、かつ容易な作製プロセスで得ることができる。また、本発明に係る電界効果トランジスタは漏れ電流(リーク電流)が小さくオンオフ比が大きく、膜及び特性の安定性が高く寿命が長いという利点がある。更には、使用可能温度幅が広く、成膜性が良く、大面積適用性があり、低コストで製造できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の電界効果トランジスタ(FET)の模式図を示す。
【図2】本発明の静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図を示す。
【図3】本発明のダイオード素子の模式図を示す。
【図4】合成例1で得られたポルフィリン化合物の熱分析結果を示す図である。
【図5】合成例1で得られたポルフィリン化合物(1)の溶液を乾燥した膜のIRスペクトルを示す図である。
【図6】合成例1で得られた図5の膜を更に加熱した膜のIRスペクトルを示す図である。
【図7】合成例1における加熱前後の薄膜吸収スペクトルを示す図である。
【図8】参考例1においてFET特性を観測した結果を示す図である。
【図9】参考例5における半導体膜のX線回折パターンを示す図である。
【図10】参考例5及び6における半導体膜のX線回折パターンを示す図である。
【図11】参考例6及び7の素子の、ゲート電圧の走査によるドレイン電流のヒステリシスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
まず、本発明の有機半導体材料について説明する。本発明においては特定のポルフィリン類骨格を有する化合物を用いる。
(ポルフィリン類骨格を有する化合物)
本発明においてポルフィリン類骨格を有する化合物とは、ポルフィリン骨格を有する化合物と、ポルフィリン骨格を形成するピロール環の数を増やしたり、ピロール環をチオフ
ェン環やフラン環などに置き換えた類縁体である拡張ポルフィリン(Expanded
porphyrin)骨格を有する化合物の総称であって、例えば、ポルフィリン系、チアポルフィリン系、ジチアポルフィリン系、オキサポルフィリン系、ジオキサポルフィリン系、チアオキサポルフィリン系化合物等を含む概念である。
【0026】
具体的には、本発明においてポルフィリン類骨格を有する化合物とは、下記一般式(A)で表される構造を含む化合物を言う。
【0027】
【化4】
【0028】
上記式中、Y1 〜Yn は各々独立に、π共役した炭化水素環又は複素環からなる単環を表し、Y1 〜Yn は置換されていてもよい。また、X1 〜Xn は各々独立に、直接結合、又は直鎖の炭化水素基からなる連結基を表し、X1 〜Xn は置換されていてもよい。ここで、下記記号は単結合又は二重結合を表す。
【0029】
【化5】
【0030】
また、nは4〜20の整数である。更に、上記一般式(A)で表される構造全体でπ電子系が環状に共役している。
即ち、上記式で表される構造は、Y1 〜Yn で表されるπ共役した環が、X1 〜Xn を介して全体としてπ共役した構造である。従ってY1 〜Yn は各々が平面状のユニットであり、上記一般式(A)で表される構造全体としても非常に平面性の高い構造となっている。
【0031】
有機半導体材料が高いキャリア移動度を有するためには、固体状態で隣り合う分子間が良好に重なりあうことが望ましい。これは、キャリア、すなわち電子あるいは正孔が分子間を伝達して行く際に、π電子軌道間の相互作用が重要であるためである。有機半導体において、π電子が電荷輸送に重要な役割を果たすことは良く知られている。しかし、π電子がマクロなスケールまで共役して半導体特性を示す例はほとんど知られていない。
【0032】
特に、分子性結晶ではπ電子の共役は分子内に限られており、電荷の輸送は分子間を電荷が移動することによりなされる。その場合、分子内で共役しているπ軌道の重なりが大きいほど、その電荷移動の効率が高くなる。それゆえ、分子性結晶の移動度にも方向依存
性が生ずる。また、一般に非晶質の材料よりも結晶性の高い材料の方が高い移動度を示すことにも反映されている。
【0033】
分子間のπ軌道の重なりを大きくする為には、分子のπ共役系の平面性が高いことが望ましい。平面性の尺度としては、ポルフィリン類環平面からのポルフィリン類骨格を形成している原子のずれを用いることができる。
そこで、本発明においては、ポルフィリン類環平面からポルフィリン類骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有することを特徴とする。この距離が1Å以内であれば、高い平面性を有し、移動度が高くなる条件を満たすことができる。
【0034】
ここで、「ポルフィリン類環」とは、Y1 〜Yn で表されるπ共役した環とX1 〜Xn からなる一般式(A)で表される構造を言う。「ポルフィリン類環平面」とは、ポルフィリン類環を形成するすべての原子の中心からの距離の2乗の和が最小になるような平面を言う。また「ポルフィリン類骨格」とは、ポルフィリン類環を形成する原子に加え、該ポルフィリン類環に対して結合している、室温程度の熱エネルギーでは自由回転の制限された原子または原子団を総称して言う。
【0035】
なお、「該ポルフィリン類環に対して結合している、室温程度の熱エネルギーでは自由回転の制限された原子または原子団」とは、ポルフィリン類環の原子とそれに直接結合した原子との間の結合の、内部回転のエネルギー障壁が、室温(通常、25℃)における熱エネルギーよりも大であるものを言う。例えば、内部回転のエネルギー障壁が10kcal/mol以上の場合である。
一般に、結合の回転に要するエネルギーは、実測によっても求められるが、分子軌道法等による計算により求めることもできる。6−311G(dp)等の非経験的分子軌道法やMOPAC等の半経験的分子軌道法が用いうるが、それぞれ、非経験的分子軌道法は精度が良く、半経験的分子軌道法は比較的計算が簡便である利点がある。
なお、1分子中に2個以上の互いに自由に回転できるポルフィリン類環を含む場合には、それぞれのポルフィリン類環の上記平面性が良好であれば良く、それら複数のポルフィリン類骨格が同一の平面にある構造をとる必要はない。
【0036】
次に、本発明のポルフィリン類骨格を有する化合物についてより詳細に説明する。本発明においてポルフィリン類骨格を有する化合物とは、下記一般式(A)で表される構造を含む化合物を言う。
【0037】
【化6】
【0038】
上記式中、Y1 〜Yn は各々独立に、π共役した炭化水素環又は複素環からなる単環を表し、Y1 〜Yn は置換されていてもよい。また、X1 〜Xn は各々独立に、直接結合、又は直鎖の炭化水素基からなる連結基を表し、X1 〜Xn は置換されていてもよい。ここで、下記記号は単結合又は二重結合を表す。
【0039】
【化7】
【0040】
また、nは4〜20の整数である。更に、上記一般式(A)で表される構造全体でπ電子系が環状に共役している。
好ましくは、nは4〜10の整数であり、より好ましくはnは4〜6の整数であり、最も好ましくはnは4である。nは上記構造中でπ共役している環Yの数を表すが、nが大きすぎると、平面性が悪くなる傾向があり電気的な特性が悪くなる傾向が見られ、また合成が難しくなるためである。
【0041】
一般式(A)において、Y1 〜Yn は各々独立に、π共役した炭化水素環又は複素環からなる単環を表すが、芳香環であると、平面性が高く好ましい。また、好ましくは5〜8員環であり、より好ましくは5〜6員環であり、最も好ましくは5員環である。
Y1 〜Yn の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。5員環のものとしては、ピロール環、チオフェン環、フラン環、チアゾール環、ジチアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、セレノフェン環、シクロペンタジエン環等を挙げることができる。また、6員環のものとしては、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環等が挙げられる。
【0042】
Y1 〜Yn は置換基を有していても良い。例えば、Y1 〜Yn は他の炭化水素環又は複素環と縮合して縮合環を形成していても良い。該他の環も芳香環であると、より平面性が高まり好ましい。また好ましくは5〜8員環であり、より好ましくは5〜6員環である。 以下、Y1 〜Yn からなる単環またはY1 〜Yn と他の環とからなる縮合環を、Y1 〜Yn を含む環、と総称する。好ましくは、Y1 〜Yn を含む環が、単環または2〜8縮合環であり、より好ましくは単環または2〜6縮合環であり、最も好ましくは単環または2〜4縮合環である。とりわけ、Y1 〜Yn を含む環の全てが芳香環からなることが、平面性を高めるうえで望ましい。
【0043】
これら他の環の好ましい例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピリジン、キノリン等のπ共役環である。Y1 〜Yn と他の環とからなる縮合環としては、具体的には、ベンゾピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環等が挙げられる。
逆に、他の環の好ましくない例としては、代表的にはビシクロ環である。
【0044】
Y1 〜Yn を含む環は置換基を有していても良い。Y1 〜Yn を含む環が有していてもよい置換基の例としては、次のようなものが挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の置換されてもよい炭素数1〜18の直鎖又は分岐のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の置換されてもよい炭素数3〜18の環状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数2〜18の直鎖又は分岐のアルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数3〜18の環状アルケニル基;プロピニル基、ヘキシニル基等の置換されてもよい炭素数2〜18の直鎖又は分岐のアルキニル基;2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の置換されてもよい複素環基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等の置換されてもよい炭素数6〜18のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の置換されてもよい炭素数7〜20のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の置換されてもよい炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルコキシ基;プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基等の置換されてもよい炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルケニルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の置換されてもよい炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキルチオ基が挙げられる。
【0045】
他の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;ニトロソ基;シアノ基;イソシアノ基;シアナト基;イソシアナト基;チオシアナト基;イソチオシアナト基;メルカプト基;ヒドロキシ基;ヒドロキシアミノ基;ホルミル基;スルホン酸基;カルボキシル基;−COR6 で表されるアシル基、−NR7 R8 で表されるアミノ基、−NHCOR9 で表されるアシルアミノ基、−NHCOOR10で表されるカーバメート基、−COOR11で表されるカルボン酸エステル基、−OCOR12で表されるアシルオキシ基、−CONR13R14で表されるカルバモイル基、−SO2 R15で表されるスルホニル基、−SO2 NR16R17で表されるスルファモイル基、−SO3 R18で表されるスルホン酸エステル基、−NHSO2 R19で表されるスルホンアミド基、−SOR20で表されるスルフィニル基が挙げられる。ここでR6 、R9 、R10、R11、R12、R15、R18、R19、R20は置換されてもよい炭化水素基、または置換されてもよい複素環基を表し、R7 、R8 ,R13,R14,R16,R17は水素原子、置換されてもよい炭化水素基、置換されてもよい複素環基のいずれかを表す。
【0046】
このR6 〜R20で表される炭化水素基とは、直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖または分岐のアルケニル基、環状アルケニル基、アラルキル基、アリール基を表す。中でも好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−へプチル基等の炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の炭素数3〜18の環状アルキル基、ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜18の直鎖または分岐のアルケニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数3〜18の環状アルケニル基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜20のアラルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等の炭素数6〜18のア
リール基が挙げられる。これらの基のアリール基部分は前述のY1 〜Yn を含む環と同様の置換基で更に置換されていてもよい。
【0047】
またR6 〜R20で表される複素環基は、4−ピペリジル基、モルホリノ基、2−モルホリニル基、ピペラジル基等の飽和複素環でも、2−フリル基、2−ピリジル基、2−チアゾリル基、2−キノリル基等の芳香族複素環でもよい。これらは複数のヘテロ原子を含んでいても、さらに置換基を有していてもよく、また結合位置も問わない。複素環として好ましい構造のものは、5〜6員環の飽和複素環、5〜6員環の単環およびその2縮合環の芳香族複素環である。
【0048】
前記Y1 〜Yn を含む環が有し得る直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖または分岐のアルケニル基、環状アルケニル基、直鎖または分岐のアルキニル基、直鎖または分岐のアルコキシ基、直鎖または分岐のアルキルチオ基、およびR6 〜R20が示すアルキル基のアルキル鎖部分は、更に置換基を有し得るが、その置換基としては、例えば以下のようなものが挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、メトキシブトキシ基等の炭素数2〜12のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、エトキシエトキシメトキシ基等の炭素数3〜15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜12のアリール基(これらは任意の置換基でさらに置換されていてもよい。);フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;アリルオキシ基、ビニルオキシ基等の炭素数2〜12のアルケニルオキシ基等が例示される。
【0049】
更に、他の置換基として、2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の複素環基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシル基;アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のアルキルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n−プロピルスルホニルアミノ基等の炭素数1〜6のアルキルスルホニルアミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0050】
Y1 〜Yn を含む環が有していてもよい置換基として、中でも好ましいのは、水酸基、炭素数1〜10の置換されていても良いアルキル基、アルコキシ基、メルカプト基、アシル基、さらには、カルボキシル基とその炭素数1〜10のアルコールとのエステル、ホルミル基、カルバモイル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていても良いアミノ基、ニトロ基が挙げられ、これらは更に置換基を有していてもよい。
【0051】
最も好ましくは、Y1 〜Yn を含む環が、無置換であるか、ハロゲン原子等の単原子からなる置換基を有する場合である。
X1 〜Xn は各々独立に、直接結合、又は、直鎖の炭化水素基からなる連結基を表
し、X1 〜Xn はそれぞれ置換されていてもよい。該直鎖の炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10程度、より好ましくは炭素数1〜5であり、更に好ましくは炭素数1〜3の直鎖の不飽和炭化水素基が好ましく、特にはアルケニレン基、アルキニレン基、アルカンジイリデン基、アルケンジイリデン基が好ましい。
【0052】
X1 〜Xn の好ましい具体例としては、メチン基、ビニレン基(エテニレン基)、エチニレン基、(=C=C=)、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、X1 〜Xn はいずれも置換基を有していても良い。
X1 〜Xn が有していてもよい置換基の例としては、Y1 〜Yn を含む環が有していてもよい置換基とほぼ同様のものが挙げられるが、かさ高く、自由回転が制限されるような置換基は望ましくない。より好ましくは、置換されていても良い直鎖のアルキル基、直鎖のアルコキシ基、直鎖のアルキルチオ基、カルボキシル基と炭素数1〜10の直鎖のアルコールとのエステル、ハロゲン原子が挙げられる。X1 〜Xn が有していてもよい置換基同士が結合して環を形成していてもよい。
【0053】
なかでも好ましくは、無置換の直鎖のアルキル基、直鎖のアルコキシ基、直鎖のアルキルチオ基、カルボキシル基と炭素数1〜10の直鎖のアルコールとのエステル、ハロゲン原子が挙げられる。
最も好ましくは、X1 〜Xn が、無置換であるか、ハロゲン原子等の単原子からなる置換基を有する場合である。
【0054】
逆に、好ましくない置換基の代表例はフェニル基である。
なお、上記一般式(A)で表される構造全体で、π電子系が環状に共役している必要がある。
また、本発明に係るポルフィリン類骨格を有する化合物は、上記構造のY1 〜Yn の全部あるいは一部に、各種金属、陽イオン、陰イオン、塩などが配位していてもよい。例えば2価の金属原子であり、具体例としてはZn、Cu、Fe、Ni、Coである。また、3価以上の金属と他の原子の結合した原子団、具体的にはFe−B1 、Al−B2
、Ti=O、Si−B3 B4 、等が挙げられる。ここで、B1 、B2 、B3 、B4 はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等の1価の基を表す。
【0055】
このようなポルフィリン系及び拡張ポルフィリン系化合物の例は、KARL M.KADISH KEVIN M.SMITH ROGER GUILARD著、THE PORPHYRIN HANDBOOK VOL.1〜10、ACADEMIC PRESS(2000)等に例を挙げることができる。
また、1個の原子を2つの同一又は異なるポルフィリン類環が共有して配位しているものや、同一又は異なる2個のポルフィリン類環が1個以上の原子あるいは原子団を共有して結合したもの、あるいは同一又は異なる2個のポルフィリン類環が3個以上結合して長鎖上につながったものも挙げることができる。
【0056】
本発明に係るポルフィリン類骨格を有する化合物として最も好ましくは、具体的には、下記一般式(1)又は(2)で表される構造を含むものである。
【0057】
【化8】
【0058】
上記式(1)及び(2)中、Zia及びZib(i=1〜4)は1価の有機基を表し、ZiaとZibが結合して環を形成していてもよい。1価の有機基の例としては、水素原子、水酸基、炭素数1〜10の置換されていても良いアルキル基、アルコキシ基、メルカプト基(アルキルチオ基)、アシル基、さらには、カルボキシル基とその炭素数1〜10のアルコールとのエステル、ホルミル基、カルバモイル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基で置換されていても良いアミノ基、ニトロ基が挙げられ、これらは更に置換基を有していてもよい。また、ZiaとZibが結合して環を形成する有機基の例としては、Zia−CH=CH−Zibの構造して形成される環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族炭化水素、ピリジン環、キノリン環、フラン環、チオフェン環等の複素環、シクロヘキセン等の非芳香族環状炭化水素等が挙げられる。また、R1 〜R4 は水素原子又は1価の有機基を表す。この有機基としては、置換しても良いアルキル基、アリール基、アルコキシ基、メルカプト基、カルボキシル基と炭素数1〜10のアルコールとのエステル、ハロゲン原子が挙げられる。
【0059】
また、Mは2価の金属原子であり、例えば、Zn、Cu、Fe、Ni、Co、さらには、3価以上の金属と他の原子の結合した原子団、例えばFe−B1 、Al−B2 、Ti=O、Si−B3 B4 、等が挙げられる。ここで、B1 、B2 、B3 、B4
はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等の1価の基を表す。
さらに、1個の原子を2つポルフィリン環が共有して配位しているものや、2個のポルフィリン環が1個以上の原子あるいは原子団を共有して結合したもの、あるいはそれらが3個以上結合して長鎖上につながったものであってもよい。
【0060】
前述の通り、本発明に係るポルフィリン化合物は分子間のπ軌道の重なりを大きくする為には、分子のπ共役系の平面性が高いものが望ましく、ポルフィリン環平面からポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有するこ
とを特徴とする。ポルフィリン骨格を形成する原子とは、ポルフィリン環を形成する原子に加え、(1)あるいは(2)の置換基Zia、Zib、R1 〜R4 に結合している室温程度の熱エネルギーでは自由回転の制限された原子または原子団を示す。
【0061】
例えば、ポルフィリン環の4つのメソ位にベンゼン環の結合したテトラフェニルポルフィリンの4つのベンゼン環を形成する炭素原子は、ベンゼン環とポルフィリン環の立体障害から自由回転が阻害されており、ここでいうポルフィリン骨格に含まれる。このような基がポルフィリン環の平面から外れた位置に存在することは、その立体障害の為にポルフィリン環が重なり合うことを阻害するために好ましくない。一方、アルキル基やアルコキシ基、特に直鎖のアルキル基やアルコキシ基のような結合の回転が自由である場合には、ポルフィリン環が重なるようにその構造を自由に調整できるために障害になりにくく、ポルフィリン骨格に含めない。
【0062】
ポルフィリン環平面は、ポルフィリン環を形成するすべての原子の中心からの距離の2乗の和が最小になるような平面として定義できる。この平面からのポルフィリン骨格を形成している原子の中心までの距離が1Å以内であれば、高い平面性を有し、移動度が高くなる条件を満たすことができる。
平面性の高くないポルフィリン類化合物の典型例は、ポルフィリンとしては最もよく知られた下記テトラフェニルポルフィリンや、ビシクロ構造を持つポルフィリンを挙げることができる。
【0063】
【化9】
【0064】
従って、上記一般式(1)又は(2)中のZia、Zibとしては、水素原子、ハロゲン原子等の単原子が好ましい。また、置換基を有しない平面性の高い環を形成する基、中でもZia−CH=CH−Zib(i=1〜4)の少なくとも一つがベンゼン、ナフタレン、アントラセン等の芳香環を形成する基であるもの、更には、Zia−CH=CH−Zib(i=1〜4)のすべてが芳香環であるものが好ましい。また、R1 〜R4 も、水素原子やハロゲン原子等の単原子が好ましい。
【0065】
本発明においてはまた、ポルフィリン類骨格を有する化合物であって、キャリア移動度(移動度:μ)が1×10−5cm2 /Vs以上であるものを含有することを特徴とする。 電子デバイスに応用するために必要なキャリア移動度は、制御する電流の大きさやスイッチング速度、素子の構造から決められるものである。本発明のポルフィリン類化合物を使用することで、キャリア移動度として1×10−5cm2 /Vs以上、好ましくは1×10−3cm2 /Vs以上の有機デバイスを提供することができる。これまでの分子結晶の有機半導体の移動度はペンタセン等の芳香族縮合炭化水素の単結晶で、〜1c
m2 /Vs程度の値である。ポルフィリン分子はπ軌道が大きく広がっているため分子間相互作用が大きくなる可能性があり、さらには中心金属を有することから、金属を介した相互作用を利用できることも期待でき、移動度が10cm2 /Vsから100cm2
/Vsまでも達成できると考えられる。
【0066】
高い移動度を示す為のもう一つの条件として、半導体層を構成する半導体材料の純度が挙げられる。キャリアをトラップする不純物は微量でも大きな移動度の低下を引き起こす。このようなトラップになりやすい不純物は、キャリアを受け入れる準位が半導体のエネルギーギャップ中にあるものである。キャリアが正孔である場合には半導体よりも高い最高被占準位(HOMO)を有するもの、キャリアが電子の場合には半導体よりも低いLUMO準位を有するものである。
【0067】
そのようなエネルギー準位を与えない不純物も、濃度が高くなると半導体の結晶構造に欠陥をもたらすために移動度の低下を引き起こす。このため不純物の濃度は低いことが望ましく、好ましくは10%以下、より好ましくは1%以下である。後述する、溶解性の高い前駆体を用いた製造方法によれば、高純度の半導体層が形成できる利点がある。
【0068】
ポルフィリン類化合物では、通常は正孔がキャリアとなるが、置換基や中心金属により電子輸送性を示し、電子をキャリアとすることも可能である。
電界効果トランジスタのように電極からの電荷の注入がスムーズに起こる必要のある場合には、キャリアのエネルギー準位には好ましい位置が存在する。正孔の場合は、HOMOが低すぎると電荷注入の障壁が大きくなり好ましくない。但しHOMOがあまりに高いのは空気による酸化をうけやすく不安定になりやすい。従ってHOMOの準位に対応する固体状態でのイオン化ポテンシャルが5.6eV以下が好ましく、5.3eV以下がより好ましい。またイオン化ポテンシャルが4.5eV以上が好ましく、4.8eV以上がより好ましい。
【0069】
本発明のポルフィリン類骨格を有する化合物としては、室温で固体状態のものがデバイスへの応用には都合がよく好ましい。一般式(1)又は(2)中の置換基によっては、液晶性を示す化合物が得られるが、液晶性状態でも有機半導体として用いることができる。特に本発明のポルフィリン類化合物は平面性の良好な構造をしているため、ディスコチック液晶が得られることが期待されるが、そのような構造はキャリアの輸送に都合がよい。動作する温度範囲で大きな特性の変化を生じるのは好ましくないので、融点や凝固点等の相転移温度が5℃〜40℃の範囲ではない化合物が好ましい。室温で固体状態をとる化合物は、融点やガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0070】
また、本発明のポルフィリン類化合物を含む有機半導体材料のオンオフ比としては、高いほど望ましいが、好ましくは800以上であり、より好ましくは1000以上である。
以下に、本発明の好ましいポルフィリン類化合物の例を挙げる。ここでは、無金属体の構造を例示しているが、以下の例に対応する金属塩や、置換基を有する分子であっても同様に好ましい例として使用することができる。また、対称性の良い分子構造を主に例示しているが、部分的な構造の組み合わせによる非対称構造であっても使用できる。もちろん本発明のポルフィリン化合物はこれらの例示化合物に限定されるわけではない。なお、以下において、Meはメチル基を、Etはエチル基を指す。
【0071】
【化10】
【0072】
【化11】
【0073】
【化12】
【0074】
【化13】
【0075】
【化14】
【0076】
【化15】
【0077】
【化16】
【0078】
【化17】
【0079】
(ポルフィリン類化合物の合成方法)
本発明のポルフィリン類化合物は、対応するピロール化合物、チオフェン化合物、フラン化合物などを出発原料として合成することが出来る。ポルフィリン類化合物の合成法に
ついては、例えば、KARL M.KADIS H KEVIN M.SMITH ROGER GUILARD著、THE PORPHYRIN HANDBOOK VOL.1、ACADEMIC PRESS(2000)に記述されている方法を用いることができる。
【0080】
例えば、ピロールとアルデヒドの縮合は特にテトラフェニルポリフィリンの合成法としてよく利用されている。
【0081】
【化18】
【0082】
(上記式中、Q1 及びQ2 は、一般式(1)又は(2)のZia及びZibに対応し、Q3 はR1 〜R4 に対応する。)
また、α位にカルボン酸エステルやメチル基を有するピロールの縮合反応でも得ることができる。
【0083】
【化19】
【0084】
(上記式中、Q1 及びQ2 は、一般式(1)又は(2)のZia及びZibに対応する。またR5 はアルキル基を表わす。)
本発明のポルフィリン類化合物中、ベンゼン環が1個以上のピロール環、チオフェン環、フラン環に縮合した、ベンゾポルフィリン類は、その前駆体として対応するビシクロ化合物を用いて誘導することが出来る。この前駆体は平面構造でないため、溶媒への溶解性が高くかつ結晶化もしにくいため、溶液から塗布することにより、アモルファスまたはアモルファスに近い良好な膜を与える。この膜を加熱処理して脱エチレン反応により、平面性の高いベンゾポルフィリン類膜を得ることが出来る。無置換、無金属体の構造では以下のような化学反応で表される。この反応は100℃以上、好ましくは150℃以上に加熱することにより定量的に進行する。また、脱離するものがエチレン分子であるため、系内に残りにくく、毒性、安全性の面でも問題ない。次に4個のベンゼン環が縮合したテトラベンゾポルフィリンの例を示す。
【0085】
【化20】
【0086】
このビシクロ化合物の合成法としては、例えば次のようなルートが挙げられる。
【0087】
【化21】
また、途中のピロール中間体までの合成ルートは別のルートでも取ることができる。
【0088】
【化22】
【0089】
この前駆体の金属錯体はこの化合物と金属塩を溶解する有機溶媒中で混合することにより得られる。金属塩は有機溶媒に溶解するものであれば用いることが出来るが、酢酸塩はその代表的な例である。溶媒は金属塩とビシクロ化合物を溶解するものであればよいが、好ましい例としては、クロロホルム、アルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
(デバイスの種類)
(1)電子デバイスの定義
本発明の電子デバイスとは、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を光以外の、例えば電気、磁気、又は化学物質等により制御するデバイスである。例えば、電圧の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子が挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振が挙げられる。現在シリコン等で実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。本発明に係るポルフィリン類化合物はキャリア移動度μが高いため、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)に適用すると効果が高い。
【0090】
また光で制御される、あるいは発光を制御するデバイスでも、本ポルフィリン類材料が直接光を吸収したり発光したりして動作する以外の用途、例えば配線や上記の電圧、電流
の制御に使われるデバイスも含まれる。
電子デバイスのより具体的な例は、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley−Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
(2)電界効果トランジスタ
本発明の有機デバイスの例としては、電界効果トランジスタ(FET)が挙げられる。これは、半導体に接して2つの電極間(ソース電極及びドレイン電極)があり、その電極間(チャネルと呼ばれる)に流れる電流を、もう一つのゲートと呼ばれる電極に印加する電圧で制御するものである。ゲート電極は半導体層に電界を印加するだけで電流は基本的には流れない構造になっており、電界効果トランジスタと呼ばれる。
【0091】
本発明によれば、有機半導体材料を用いるため、比較的低温のプロセスで製造できるので基板にプラスチックフィルムが使用でき、軽量で柔軟性に優れた壊れにくいデバイスを作製できる利点がある。従って、薄膜で可撓性のある電解効果トランジスタが製造できるので、これを各セルのスイッチング素子に利用することで、可撓性のあるアクティブマトリクス液晶ディスプレーが作製できるなど、広く応用できる。
【0092】
さて、電界効果トランジスタの動作特性は、半導体層のキャリア移動度μ、電導度σ、絶縁層の静電容量Ci、素子の構成(ソース・ドレイン電極間距離L及び幅W、絶縁層の膜厚d等)などにより決まる。電界効果トランジスタに用いる半導体材料はキャリア移動度μが高いほど好ましいが、本発明に係るポルフィリン類化合物はキャリア移動度μが高い特徴があるため、電界効果トランジスタに用いると効果が高い。また、本発明に係る電界効果トランジスタは漏れ電流(リーク電流)が小さくオンオフ比が大きく、膜及び特性の安定性が高く寿命が長いという利点がある。更には、使用可能温度幅が広く、成膜性が良く、大面積適用性があり、低コストで製造できるという利点もある。
【0093】
一般に、ゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal−Insulator−Semiconductor;MIS構造)がよく用いられる。他には、ショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造のものもあるが、有機半導体材料を用いたFETの場合、MIS構造がよく用いられる。
以下、図を用いて本発明の電界効果トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれら構造には限られない。
【0094】
図1に、A〜Dとして、電界効果トランジスタ素子のいくつかの構造例を示す。1が半導体層、2が絶縁体層、3及び4がソース電極及びドレイン電極、5がゲート電極、6が基板である。なお、各層や電極の配置は、素子の用途により適宜選択できる。基板と並行方向に電流が流れるので、横型FETと呼ばれる。
基板6は、上に形成される各層が剥離することなく保持できる必要がある。このような材料としては、例えば、樹脂からなる板やフィルム、紙、ガラス、セラミックなどの絶縁性材料、金属や合金などの導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成したも、樹脂と無機材料など各種組合せからなる複合材、等が挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、素子に可撓性を持たせることができ、好ましい。
【0095】
電極3,4,5には導電性を有する材料を用いうる。例えば、白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、コバルト、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金、InO2 、SnO2 、ITO等の導電性の酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、等の半導体、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料等が挙げられる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていても良い。ドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6 、AsF5 、FeCl3 等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等が挙げられる。また、上記材料にカーボンブラックや金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いうる。
【0096】
また、電極3,4,5には図示しない配線が連結されているが、配線も電極とほぼ同様の材料により作製できる。
絶縁体層2は絶縁性を有する材料を用いうる。例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、SrTiO3 、BaTiO3 等の強誘電性酸化物、窒化珪素等の窒化物、硫化物、フッ化物などの誘電体、あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー、等が挙げられる。
【0097】
絶縁体層2の膜厚は、上記の通り、必要な機能を果たせる範囲で、薄いほど好ましい。通常、膜厚は1nm以上であり、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。但し、通常、膜厚は10μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500nm以下である。
半導体層1の材料としては、上述のポルフィリン類化合物を主成分として含む半導体層が好ましく用いられる。主成分とは50重量%以上含むことを言う。より好ましくは80重量%以上含む。特性を改善したり他の特性を付与するために、必要に応じて他の有機半導体材料と混合して用いたり、各種添加剤を添加しても良い。また、半導体層1は複数の層から成っても良い。
【0098】
半導体層1の膜厚は、必要な機能を果たせる範囲で、薄いほど好ましい。図1に例示するような横型の電界効果トランジスタ素子(ソース電極とドレイン電極がほぼ水平に配置されている)においては、所定以上の膜厚があれば素子の特性は膜厚に依存しない一方、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多いためである。必要な機能を果たすために、通常、膜厚は1nm以上であり、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。但し、通常、膜厚は10μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500nm以下である。
【0099】
本発明の有機電子デバイスには各層のあいだや素子の外面に必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、半導体層上に直接または他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を最小限にできる利点がある。また、デバイスのON/OFF比を上げるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
【0100】
保護層の材料は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜や、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等、無機酸化膜や窒化膜等の誘電体からなる膜が好ましく挙げられる。特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が望ましい。
【0101】
また、ポルフィリン類化合物は光を吸収して電荷を発生するものがあるため、必要であれば電子デバイス部分を遮光することができる。例えば、所望の領域に光の透過率の小さいパターン(いわゆるブラックマトリクス)を形成することで実現できる。このパターンには、クロムやアルミニウム、銀、金等の金属の膜、カーボンブラック等の顔料を分散した樹脂膜、有機色素の膜等を用いることができる。
(3)静電誘導トランジスタ(SIT)
電界効果トランジスタの一種として、他に静電誘導トランジスタ(SIT)がある。SITの構造を説明する。
【0102】
横型FETはソース電極とドレイン電極が基板上に並べて配置され、電流の流れる方向が、ゲートにより誘起される電場に垂直方向であるのに対し、SITではソースとドレインの間の適当な位置に、ゲート電極がグリッド上に配置され、電流の方向が、ゲートにより誘起される電場に平行方向である点を特徴とする。
図2は静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図である。7がソース電極、8がドレイン電極であり、9がゲート電極、10が半導体層である。これらは図示しない基板上に設けられる。SIT構造によれば、キャリアの流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリアを移動できる。またソース電極とドレイン電極が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流したり、高速のスイッチングを行う用途に好ましく適用できる。
【0103】
半導体層10に関する説明は上記半導体層1と同様であり、電極7,8に関する説明は上記電極3,4,5と同様である。
9のゲート電極は、電極間をキャリアが通り抜けていく網目あるいはストライプ状の構造をしている。ゲート電極の網目の間隔は、ソースとドレインとの距離(素子の厚さに相当する。)よりも小さいことが望ましい。また、電極の厚みは、通常10nm以上であり、好ましくは20nm以上である。但し、通常10μm以下であり、好ましくは1μm以下である。
【0104】
ゲート電極9の材料としては上述の電極3,4,5と同様のものが用いうるが、好ましくは金属、合金や導電性高分子等の導電性材料からなる島状構造薄膜を用いる。例えば、厚さ50nm以下の薄膜で半透明のアルミニウム電極などを用いうる。
ゲート電極9と半導体層10の間には、通常、絶縁層あるいはエネルギー障壁を設け、電極からのキャリアの出入りが抑えられるようにする。例えば電極の周りに絶縁層をパターニングして形成してもよい。また、電極材料として、半導体とエネルギー障壁を作りうる金属を選択し、半導体層とのあいだでキャリアの出入りを押さえても良い。例えばアルミニウムを選ぶことで、p型半導体とのあいだにいわゆるショットキー障壁を形成しうる。
【0105】
また、各層の間や素子の外面には、必要に応じて他の層を設けてもよい。
本発明に係る静電誘導トランジスタは、キャリア移動度μが高く、漏れ電流が小さくオンオフ比が大きく、膜及び特性の安定性が高く寿命が長いという利点がある。更には、使用可能温度幅が広く、成膜性が良く、大面積適用性があり、低コストで製造できるという利点もある。
(4)ダイオード素子
そのほかの例として、ダイオード素子が挙げられる。これは、非対称な構造をした2端子素子である。図3のE,Fはダイオード素子の模式図である。これらは図示しない基板上に設けられる。
【0106】
構造例Eは、仕事関数の異なる2つの金属電極11及び12でポルフィリン類化合物を含む半導体層13を挟んだ構造のものである。半導体層13に関する説明は上記半導体層1と同様である。電極11及び12の少なくとも一方は、半導体材料との間でエネルギー障壁を形成している。エネルギー障壁を形成するためには、電極と半導体とで仕事関数が異なるものを選べばよいが、例えば、p型半導体との間でエネルギー障壁を形成する金属としては、アルミニウムがよく用いられる。他の電極の材料としては上述の電極3,4,5と同様のものが用いうるが、好ましくは金属、合金である。本素子に電圧を印加すると、電圧の極性によって流れる電流値が異なる、いわゆる整流作用が見られる。従ってこのようなダイオード素子の応用例としては、整流素子が挙げられる。
【0107】
また、構造例Fは仕事関数が互いに大きく異なる半導体層16及び17を、電極14及び15で挟んだ構造のものである。半導体層16に関する説明は上記半導体層1と同様である。半導体層17については、半導体層16と仕事関数が大きく異なればよいが、このような材料としては例えばペリレン顔料やフタロシアニン材料、フラーレン、共役高分子等が挙げられる。
【0108】
電極14、15については、同じ材料でも異なる材料でも良く、上述の電極3,4,5と同様のものを用いうる。
また、各層の間や素子の外面には、必要に応じて他の層を設けてもよい。
(5)抵抗等
また、他の応用例として抵抗素子が挙げられる。これは、基板上に設けられた、半導体層を2つの電極で挟んだ、対称な構造をもつ2端子素子である。抵抗素子は、電極間の抵抗を調整するための抵抗器として用いたり、抵抗を大きくして電極間の電気容量を調整するためのコンデンサとして用いることができる。
【0109】
半導体層に関する説明は上記半導体層1と同様であり、電極に関する説明は上記電極3,4,5と同様である。
また、各層の間や素子の外面には、必要に応じて他の層を設けてもよい。
このようなダイオード素子や抵抗素子は、高キャリア移動度を示す本発明の有機半導体材料を用いることにより、抵抗値等のデバイスパラメータを広く制御できるメリットがあり、集積化に都合がよい。
(6)本発明の有機電子デバイスの応用
[6−1]アクティブマトリクス
本発明の有機電子デバイスは、ディスプレーのアクティブマトリクスのスイッチング素子として利用することができる。これは、ゲートに印加される電圧でソースとドレイン間の電流をスイッチングできることを利用して、ある表示素子に電圧を印加あるいは電流を供給する時のみスイッチを入れ、その他の時間は回路を切断することにより、高速、高コントラストな表示を行うものである。
【0110】
適用される表示素子としては、液晶表示素子、高分子分散型液晶表示素子、電気泳動表示素子、エレクトロルミネッセント素子、エレクトロクロミック素子等が挙げられる。
特に、本発明の有機電子デバイスは、低温プロセスでの素子作製が可能であり、プラスチック板、プラスチックフィルムや紙等の、高温処理に耐えない基板を用いることができる。また、塗布あるいは印刷プロセスでの素子作製が可能であることから、大面積のディスプレーへの応用に適している。また、従来のアクティブマトリクスの代替としても、省エネルギープロセス、低コストプロセスの可能な素子として有利である。
【0111】
[6−2]IC
また、トランジスタを集積することにより、デジタル素子やアナログ素子が実現できる。これらの例としては、AND、OR、NAND、NOT等の論理回路、メモリー素子、発振素子、増幅素子、等が挙げられる。さらにこれらを組み合わせることにより、ICカードやICタグを作製することができる
[6−3]センサー
有機半導体は、ガスや化学物質、温度等の外部の刺激により、特性が大きく変化するので、それらのセンサーへの応用も考えられる。例えば本発明の有機電子デバイスの特性が、気体や液体との接触により変化する量を測定することにより、定性的あるいは定量的にそれに含まれている化学物質を検出することが可能である。
(本発明の有機電子デバイスの製造方法)
本発明に係る有機電子デバイスの好ましい製造方法について、図1の構造例Aに示す電界効果トランジスタ(FET)を例として、以下に説明するが、これらは他の有機電子デバイスにも同様に適用しうる。
(1)基板及び基板処理
一般に、電界効果トランジスタなどの有機電子デバイスは、基板1上に必要な層や電極を設けることで作製される。基板としては上記で説明したものを用いうる。
【0112】
基板に所定の表面処理を行うことで、デバイスの特性を向上できる場合がある。例えば基板表面の親水性/疎水性の度合いを調整することで、その上に成膜される膜の膜質を改良しうる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わるが、基板表面処理によって、基板とその後に成膜される半導体膜との界面部分の分子配向を制御し、特性を改良できると推定される。
【0113】
このような基板処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等による疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、コロナ放電などの電気的処理、などが挙げられる。
(2)電極形成
次に、ゲート電極5を形成する。電極材料としては上記で説明したものを用いうる。
【0114】
電極膜を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等を用いうる。
成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行う。パターニング方法も公知の各種方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチング(エッチング液によるウエットエッチングや反応性のプラズマによるドライエッチング)を組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれら手法を複数組み合わせた手法を利用できる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去したり材料の導電性を変化させることにより、直接パターンを作製してもよい。
(3)絶縁層
次に、絶縁体層2を形成する。絶縁体材料としては上記[3]で説明したものを用いうる。
【0115】
絶縁体層2を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、例えばスピンコーティングやブレードコーティングなどの塗布法、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法、真空蒸着法、スパッタリング法、そのほか、アルミニウム上のアルマイトのように金属上に酸化物膜を形成する方法等を用いうる。
なお、絶縁体層上に半導体層を形成する態様においては、両層の界面で半導体分子を良好に配向させるために、絶縁体層に所定の表面処理を行うことができる。表面処理の手法は、基板の表面処理と同様のものが用いうる。
【0116】
さらにソース電極3及びドレイン電極4を形成するが、形成方法等はゲート電極5に準ずる。
(4)半導体層
続いて、有機半導体層1を形成する。有機半導体材料としては上記で説明したものを用いうる。半導体層を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、例えばスパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法と、塗布法、印刷法などの溶液プロセス
での形成方法に大別される。
(5)真空プロセス
有機半導体材料を真空プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について詳しく説明する。例えば、材料をルツボや金属のボートに入れて真空中で加熱し、蒸発させ基板に付着させる真空蒸着法を用いることができる。この際、真空度としては、通常1×10−3Torr(1.3×10−1Pa)以下、好ましくは1×10−6Torr(1.3×10−4Pa)以下とする。また、基板温度によって半導体膜、ひいてはデバイスの特性が変化するので、最適な基板温度を選択する。通常、0℃から200℃の範囲が好ましい。また、蒸着速度は、通常0.001nm/秒以上であり、好ましくは0.01nm/秒以上である。但し、通常10nm/秒以下であり、好ましくは1nm/秒以下である。材料を加熱により蒸発させる方法に代えて、加速したアルゴン等のイオンを材料ターゲットに衝突させて材料原子を叩きだし基板に付着させるスパッタリング法を用いてもよい。
【0117】
本発明の有機半導体材料は比較的低分子化合物であるため、このような真空プロセスが用いうる。真空プロセスには、高価な設備が必要であるものの、成膜性が良く均一な膜が得られやすいという利点がある。
(6)溶液プロセス
有機半導体材料を溶液プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について詳しく説明する。まず、有機半導体材料を溶媒に溶かして基板上に塗布する。
塗布の方法としては、溶液をたらすだけのキャスティング、スピンコーティング、ディップティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いうる。さらに、塗布に類似の技術として、水面上に形成した単分子膜を基板に移し積層するラングミュア・ブロジェット法、液晶や融液状態を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入する方法等も挙げられる。
【0118】
溶液プロセスを用いると、比較的安価な設備で、大面積の有機電子デバイスを作製しやすいという利点がある。
本発明のポルフィリン類化合物は、溶媒に溶解して塗布することによっても素子を作製することが出来る。この際、最終的に素子中で用いるポルフィリン類化合物を直接塗布することも可能であるが、溶解性の高い化合物(以下前駆体と呼ぶ)を塗布しておき、それの化学構造の変化により、最終的なポルフィリン類化合物に変換することも可能である。特に溶媒に難溶な材料を塗布法で膜形成するのに有用である。
【0119】
この前駆体としては、次に示すビシクロ構造を有するものが、好ましい例として挙げられる。
【0120】
【化23】
このビシクロ構造は、加熱によりエチレン分子が解離してベンゼン環に変化する。
【0121】
【化24】
ビシクロ構造は立体的にかさ高いため、結晶性が悪く、この構造を有する分子は溶解性が良好でかつ溶液から塗布した際に、結晶性の低い、あるいは無定型の膜が得やすい性質を有することが多い。加熱工程によりベンゼン環に変化すると、平面性の良好な分子構造になるために、結晶性の良好な分子に変化する。従って、この前駆体からの化学変化を利用することにより、結晶性の良好な膜を塗布により得ることが出来る。この加熱工程は、塗布溶媒を留去するなど他の目的を兼ねても良い。
【0122】
特に、本発明のポルフィリン類化合物中、ベンゾポルフィリン類と呼ばれるピロール環、チオフェン環、フラン環にベンゼン環が縮合している化合物は、前駆体としてビシクロ構造のものから得ることができるので、塗布による素子を得るのに有利である。
また、溶液プロセスでは、塗布−乾燥工程を必要なだけ繰り返して半導体層を厚膜にすることができる。前駆体からの変換により半導体膜が形成されるときには、塗布−半導体変換工程を繰り返せば、前駆体と半導体の溶解性が異なることを利用して積層し厚膜にすることができる。
【0123】
さらに、塗布と蒸着等の異なる製膜方法を組み合わせたり、異なる材料を同一のあるいは異なる製膜方法で積層することもできる。
一般に溶液プロセスは成膜性が高くなく、結晶性の高い有機半導体膜が得られにくいとされているが、本方法によれば、簡便な溶液プロセスで、結晶性の高い特性の良い有機半導体膜が得られ、非常に好ましい。このように形成した膜は、キャリア移動度が高く、かつ漏れ電流が小さくオンオフ比が高いという望ましい特性を持つ。本製造法は、本発明に係る有機半導体材料に限られず、広く有機半導体材料一般に適用しうる優れた方法である。
(7)半導体層の後処理
このように作製された有機半導体層は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、特性の向上や安定化を図ることができる。さらに、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や液体にさらすことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
(8)ドーピング処理
また、ドーピングと呼ばれる微量の元素や原子団、分子、高分子を加えることにより、特性を変化させて望ましいものにすることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6 、AsF5 、FeCl3 等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウムカリウム等の金属原子等をドーピングする事が挙げられる。これは、これらのガスに接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは膜の形成後でなくても、材料合成時に添加したり、溶液からの作製プロセスでは、その溶液に添加したり、前駆体膜の段階で添加することができる。また蒸着時に添加する材料を共蒸着したり、膜形成時の雰囲気に混合したり、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0124】
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変
化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられ、半導体デバイスでは良く利用されているものである。ドーピング処理は同様に本発明の有機電子デバイスでも利用することができる。
(9)保護層
本発明の有機電子デバイスには各層のあいだや素子の外面に必要に応じて他の層を設けることが出来る。例えば、半導体層上に直接または他の層を介して、保護層を形成すると、外気の影響を最小限にできる利点がある。また、デバイスの電気的特性を安定化できる利点もある。保護層材料としては前述のものを用いうる。
【0125】
保護層を成膜するにあたっては公知の各種方法を用いうるが、保護層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法、樹脂モノマーを塗布あるいは蒸着したのち重合する方法などが挙げられる。成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層が無機物からなる場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法を用いることができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、チア/オキサポルフィリン化合物の合成法は、特願2003−049561に記載の方法を用いうる。
合成例1
次のような合成ルートでビシクロ化合物(1)を合成した。
【0127】
【化25】
【0128】
チオフェノール53.5mlと水酸化カリウム51.25gをエタノール600mlに溶解させた。この溶液に、シス−1,2−ジクロロエチレン19.4mlをゆっくりと滴下した。その後室温で30分撹拌し、さらに80−90℃で23時間加熱撹拌した。溶媒を減圧下濃縮し、これに水を加えて、クロロホルムで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮することにより、シス−1,2−フェニルチオエチレンが得られた。
【0129】
このシス−1,2−フェニルチオエチレンとジフェニルジセレニド750mgを塩化メチレン100mlに溶解した。その溶液を氷浴で冷却し、30%過酸化水素水175mlをゆっくり加えた。室温で一晩激しく撹拌して析出する結晶をろ別し、クロロホルムに溶解した後、水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、減圧下、濃縮した。さらにこれをクロロホルム500mlに溶解し、氷浴で冷却しながらm−
クロロ過安息香酸84gをゆっくり加え、室温で一晩撹拌した。析出した固体をセライトろ過し、有機層を水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮した。この固体を、エーテルでリンスして、シス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレン67.06gが得られた(収率87%)。無色結晶、mp100−101℃。
【0130】
このシス体と触媒量のヨウ素を塩化メチレンに溶解し、太陽光を照射することにより固体として析出するものをろ過してトランス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレンを得た。無色結晶、mp219.5℃。
トランス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレン29.33gをトルエン200mlに溶解し、ついで1,3−シクロヘキサジエン11.4mlを加え、21時間乾留した後、再結晶することにより、5,6−ジフェニルスルホニル−ビシクロ−[2,2,2]オクタ−2−エン35.66g(収率96.5%)が得られた。
【0131】
この7.76gを反応容器に入れ、窒素置換し、無水テトラヒドロフラン(THF)50mlを加えて溶解させた。そこにイソシアノ酢酸エチル2.43mlを加え、反応溶液を氷浴で冷却し、t−BuOK/THFの1M溶液50mlをゆっくりと滴下した。その後反応溶液を室温に戻し、一晩撹拌した。1N塩酸でクエンチし、クロロホルムで抽出し、水、飽和食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、4,7−ジヒドロ−4,7−エタノ−2H−イソインドール−1−カルボン酸エチル3.49g(収率80.4%)が得られた。無色結晶、mp129−130℃。
【0132】
得られた結晶0.109gをTHF15mlに溶解したものを、0.144gのLiAlH4 を0℃で撹拌しながら滴下し、0℃で2時間撹拌した。反応液を飽水25mLに注入し、クロロホルム50mLで3回抽出した。抽出液を合わせたものにp−トルエンスルホン酸0.010gを添加し、12時間室温で撹拌した。p−クロラニル0.150gを添加し、室温で12時間撹拌後反応液を水に注入した。有機相を分離し、炭酸水素ナトリウム水溶液250mLで5回、水250mLで1回、飽和食塩水100mLで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を蒸留して除いた残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム、アルミナ)で精製し、0.094gの目的ビシクロ構造を含むポルフィリン化合物(1)を得た。
【0133】
MALDI−TOFマススペクトルの負イオンモードでm/Z=622(M− )の主ピークを観測した。
この化合物の熱分析結果(DTA−TG)を図4に示す。
146℃から198℃の温度範囲で重量の減少および発熱が見られる。この重量減(約18%)はビシクロ化合物からエチレン分子が4個脱離し、テトラベンゾポルフィリンに変化することに対応している。
【0134】
ポルフィリン化合物(1)のクロロホルム溶液を金蒸着膜の上にたらして溶媒を乾燥した膜のIRスペクトルを図5に示す。この膜を210℃で2分間加熱した膜のIRスペクトルを図6に示す。エチレン分子の脱離に伴う分子構造変化を反映したIRスペクトルの変化が見られ、膜の加熱によりテトラベンゾポルフィリンが生成していることが分かる。
【0135】
ビシクロ化合物(1)を210℃で10分加熱したものを、MALDI−TOF法でビシクロ化合物と同様に負イオンモードでマススペクトルを測定した。すると、m/z=510(M− )のテトラベンゾポルフィリンの分子イオンピークが観測され、加熱によるテトラベンゾポルフィリンへの変換が確認された。またこの加熱したもののIRスペクトルは、上記基板上で測定した加熱後のIRスペクトルにほぼ一致した事から、加熱により精製しているものがテトラベンゾポルフィリンであることが確認された。
【0136】
ビシクロ化合物(1)のクロロホルム溶液を石英ガラス基板の上にスピンコートして溶媒を乾燥した膜と、この膜を210℃で10分間加熱した膜の紫外−可視吸収スペクトルを比較したものを図7に示す。これは、ビシクロ化合物からテトラベンゾポルフィリン(690nm)への変化が、ポルフィリンの吸収スペクトルのQバンドの強度増大及び長波長シフトとして観測されている。
【0137】
合成例2
合成例1のビシクロ化合物(1)0.02gと酢酸亜鉛2水和物0.1gをクロロホルム30mLとメタノール3mLの混合溶媒中3時間室温で撹拌した。反応液を水100mLで2回、飽和食塩水40mLで1回洗浄し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を濃縮して得られる固体をクロロホルム−メタノールの混合溶媒で再結晶して、0.022gのビシクロ化合物(1)の亜鉛錯体が得られた。さらに、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本分析工業JAIGEL−1H、2H、クロロホルム)により、単一ピークのみ分取して精製した。
【0138】
マススペクトルを測定し、分子ピークを確認した。
合成例3:21,23−ジチアポルフィリン5の合成
次に示す合成ルートで下記ビシクロ環構造を有するジチアポルフィリン化合物を合成した。
【0139】
【化26】
【0140】
なお、出発原料のジホルミルチオフェン1 は、Tetrahedron Letters,vol.43,8485(2002)で既に報告されている方法で合成した。
(1)1,3−ビス−(ジヒドロキシメチル)−4,7−ジヒドロ−4,7−エタノ−2−ベンゾ[c]チオフェン2の合成
【0141】
【化27】
【0142】
50mlのナス型フラスコにジホルミルチオフェン1(0.437g,2.0mmol)を入れ、ジクロロメタン10mlとメタノール10mlに溶かした。この容器を0℃に冷却した後NaBH4 (0.277g,6.0mmol)を加え30分攪拌した。反応溶液を水でクエンチした後、有機層をジクロロメタンで抽出した。有機層は水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られたオイルを冷凍庫内で結晶化させた後、再結晶(CHCl3 /ヘキサン)により精製することにより、目的物であるジヒドロキシメチルチオフェン2を78%の収率で得た。
【0143】
外観:無色結晶
mp:143−145℃
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.51-1.60(m,4H), 3.90(m,2H), 4.69-4.75(m,4H), 6.46-6.52(m,2H)
13C NMR(100MHz, CDCl3):26.0, 34.8, 57.5, 129.4, 135.3, 144.5
m/z(EI):222(87), 194(100), 177(100)
IR(KBr):3130-3380 cm−1(OH)
C12H14O2S 元素分析
計算値:C=64.83%, H=6.35%
実測値:C=64.73%, H=6.37%
(2)チアトリピランジエチルエステル3の合成
【0144】
【化28】
【0145】
200mlのナス型フラスコにジヒドロキシメチルチオフェン2(0.888g,4.0mmol)とビシクロピロールエチルエステル(1.737g,8.0mmol)とを入れ、容器内をアルゴン置換し、クロロホルム60mlに溶解させた。この容器を0℃に冷却し、TFA1mlを加え、1時間攪拌した後、5時間還流した。反応溶液を水の中に注ぎクエンチした後、有機層をクロロホルムで抽出した。有機層は水、重曹水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られた粗生成物をエーテルとヘキサンの混合溶媒で洗浄した後、再結晶(CHCl3 /ヘキサン) により精製することにより、目的物であるチアトリピランジエチルエステル3を90%の収率で得た。
【0146】
外観:薄茶色粉末(立体異性体を含む)
mp:>180℃(分解)
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.34(t,J7.3,6H), 1.39-1.61(m,12H), 3.62(m,2H), 3.68(m,2H), 3.95-4.01(m,4H), 4.26(q,J7.3,4H), 4.31(m,2H), 6.40-6.51(m,6H), 8.09(brs,2H)
m/z(EI):620(24), 592(100), 564(49), 546(8), 518(18)
IR(KBr):3180-3310 cm−1(NH), 1666 cm −1(CO)
C38H40O4S 元素分析
計算値:C=73.52%, H=6.49%, N=4.51%
実測値:C=73.31%, H=6.52%, N=4.43%
(3)チアトリピランジカルボン酸4の合成
【0147】
【化29】
【0148】
100mlのナス型フラスコにチアトリピランジエチルエステル3(0.620g,1.0mmol)を入れ、テトラヒドロフラン(THF)10ml、エタノール8ml、水12mlに溶解させた。LiOH・H2 O(0.840g,20mmol)を加え20時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、1N HCl水溶液をゆっくり加え、溶液のpHを1にした後、有機層を酢酸エチルで抽出した。有機層は水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られた粗生成物をエーテルとヘキサンの混合溶媒で洗浄することにより、目的物であるチアトリピランジカルボン酸4を98%の収率で得た。なお、この生成物は精製を行わずに次の反応へと用いた。
【0149】
外観:薄茶色粉末(立体異性体を含む)
1H NMR(400MHz, Acetone-d6):1.30-1.58(m,12H), 3.64-3.70(m,2H), 3.80-3.85(m,2H), 3.99-4.08(m,4H), 4.30(m,2H), 6.32-6.49(m,6H), 9.68(brs,2H)
IR(KBr):2820-3460 cm−1(OH), 1670 cm −1(CO)
(4)21,23−ジチアポルフィリン5の合成
【0150】
【化30】
【0151】
遮光した500mlのナス型フラスコにチアトリピランジカルボン酸4(0.508g,0.9mmol)を入れ、容器内をアルゴン置換し、室温下でTFA2.5mlを入れ5分間攪拌した。乾燥CH2 Cl2 200mlを加えた後、ジホルミルチオフェン(0.196g,0.9mmol)を素早く加え、室温下で16時間攪した。その後、トリエチルアミンをゆっくり加え溶液を中和した後、DDQ(0.227g,1.0mmol)を加え、更に2時間攪拌した。得られた溶液を水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。得られた粗結晶をカラムクロマトグラフィー( アルミナ,50%酢酸エチル/ヘキサン) で処理した後、再結晶(CH2 Cl2 /MeOH)して精製することにより、目的物であるジチアポルフィリン5を37%の収率で得た。
【0152】
外観:緑茶色固体(立体異性体を含む)
mp:>130℃(分解)
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.83-2.02(m,8H), 2.13(m,4H), 2.29(m,4H), 5.55(m,4H), 6.04(m,4H), 7.03-7.06(m,4H), 7.26(m,4H), 10.94(m,meso-H,4H)
m/z(FAB):657(M+1, 35), 629(11), 601(9), 573(29), 545(100)
C44H36N2S2元素分析(0.25CH2Cl2 + 0.25MeOH)
計算値:C=77.64%, H=5.80%, N=4.08%
実測値:C=77.90%, H=5.51%, N=4.01%
以上のように、元素分析、NMR、マススペクトルにより、目的物であることを確認した。
【0153】
合成例4:21−チアポルフィリン6の合成
合成例3と同様にしてチアトリピランジカルボン酸4を合成し、このチアトリピランジカルボン酸4にチオフェンの代わりにピロール誘導体を用いたこと以外は合成例3と同様にして、次に示す合成ルートで、下記ビシクロ構造を有するチアポルフィリン化合物を合成した。
【0154】
【化31】
【0155】
【化32】
【0156】
遮光した500mlのナス型フラスコにチアトリピランジカルボン酸4(0. 508g,0.9mmol)を入れ、容器内をアルゴン置換し、室温下でTFA2.5mlを入れ5分間攪拌した。乾燥CH2 Cl2 200mlを加えた後、ジホルミルピロール(0.181g,0.9mmol)を素早く加え、室温下で16時間攪拌した。その後、トリエチルアミンをゆっくり加え溶液を中和した後DDQ(0.227g,1.0mmol)を加え、更に2時間攪拌した。得られた溶液を水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄した後、芒硝で乾燥させ濃縮した。粗結晶をカラムクロマトグラフィー(アルミナ,50%酢酸エチル/ヘキサン) で処理した後、再結晶(CH2 Cl2 /MeOH)して精製することにより、目的物であるチアポルフィリン6を42%の収率で得た。
【0157】
外観:緑紫色固体(立体異性体を含む)
mp:>130℃(分解)
1H NMR(400MHz, CDCl3):1.82-2.00(m,8H), 2.13(m,4H), 2.28(m,4H), 5.57(m,4H), 5.87(m,2H), 6.04(m,2H), 7.06(m,4H), 7.21-7.25(m,4H), 10.39(m,meso-H,2H), 10.90(m,meso-H,2H)
m/z(FAB):640(M+1, 44), 612(10), 584(9), 556(32), 528(100)
C44H37N3S(0.25CH2Cl2) 元素分析
計算値:C=80.39%, H=5.72%, N=6.36%
実測値:C=80.30%, H=6.00%, N=6.17%
以上のように、元素分析、NMR、マススペクトルにより、目的物であることを確認した。
【0158】
参考例1
300nmの酸化膜を形成したN型のシリコン基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ωcm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)2.5〜50μm、幅(W)250μmまたは1000μmのギャップを有する金電極(ソース、ドレイン電極)を形成した。また、この電極と異なる位置の酸化膜をフッ酸/フッ化アンムニウム液でエッチングし、むき出しになったSi部分に金を蒸着し、これをシリコン基板(ゲート電極)に電圧を印加するための電極とした。
【0159】
合成例1で得られたビシクロ化合物(1)2mgをクロロホルム1mLに溶解し、これをソースおよびドレイン電極間にたらして溶媒を蒸発させる事を数回繰り返し、良好な膜を得た。この膜のX線回折を観測すると、鋭いピークは全く観測されなかった。また、クロスニコルの顕微鏡下で膜を観測すると、一面が暗い像が得られ、等方的な膜であった。従って、得られた膜は、非晶質であることが分かる。
【0160】
この基板を、210℃で10分間加熱した。得られた膜のX線回折を観測すると、鋭いピークが見られた。また、クロスニコルの顕微鏡下で膜を観測すると、色のついたドメイン構造が見られた。従って、得られた膜は、結晶質であることが分かる。これは、ビシクロ化合物がテトラベンゾポルフィリンに変化して結晶質になった為である。また、得られた膜は溶媒への溶解度が低くなっており、有機溶媒に難溶であった。
【0161】
こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。その測定結果を図8に示す。
ソースとドレイン間に印加された電圧Vdに対して流れる電流をId、ソースとゲートに印加される電圧をVg、閾値電圧をVt、絶縁膜の単位面積当たりの静電容量をCi、ソース電極とドレイン電極の間隔をL、幅をW、半導体層の移動度をμとすると、その動作は、次のように表すことができる。
【0162】
Vd<Vg−Vtの時、
【0163】
【数1】
【0164】
Vd>Vgの時、
【0165】
【数2】
【0166】
従って、移動度μは素子(トランジスタ)の特性を支配する重要な材料パラメータであり、高特性の素子を得るためには高いμの材料が必要になる。
また逆に、μは素子の電流電圧特性から求めることができる。μを求めるには式(1)或いは(2)を用いるが、移動度μにはいくつかの定義が存在し、あるVgに対してId
−Vdの傾きから求める有効移動度μeff、あるVdに対してId−Vgの傾きから求める電界効果移動度μFE、(2)式の飽和電流部分のId1/2 −Vgの傾きから求める飽和移動度μsatがある。有効移動度μeff、電界効果移動度μFE、飽和移動度μsatは上記式を求めたモデルでは同じ値になるはずであり、実際にも理想的なFET特性が得られるような半導体材料に関しては、同じ程度の値となる。但し、現実の半導体材料の特性とモデルの差から、これらは異なる値となることもある。
【0167】
図8から各移動度を求めると、有効移動度μeffは1×10−3cm2 /Vs、電界効果移動度μFEは1.6×10−3cm2 /Vs、飽和移動度μsatは0.7×10−3cm2 /Vsであった。
参考例2
溶媒としてクロロベンゼンを用いて、参考例1と同様にビシクロ化合物の膜を作製し、加熱によりベンゾポルフィリンに変換した。
【0168】
こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。有効移動度μeffは1.6×10−2cm2 /Vs、飽和移動度μsatは1.3×10−2cm2 /Vsであった。
参考例3
アルミニウムを蒸着したスライドグラス上に、オキシジアニリンとベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物をジメチルホルムアミドにモル比1:1で溶解した液をスピンコートし、250℃で加熱処理して、500nmのポリイミド膜を作製した。この膜の上に参考例1と同様にビシクロ化合物の膜を作製し、加熱によりベンゾポルフィリンに変換した。
【0169】
この上に、25μmの径のタングステンワイヤーをギャップ部分に用いて作製したシャドーマスクを通して金を蒸着し、幅(W)250μm、長さ(L)25μmのギャップを有するソース及びドレイン電極を作製した。こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。有効移動度μeffは3.7×10−2cm2 /Vs、飽和移動度μsatは1.4×10−2cm2 /Vsであった。
【0170】
参考例4
合成例2で合成した亜鉛錯体を用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。このFET特性を測定したところ、有効移動度μeffは1.9×10−4cm2 /Vs、飽和移動度μsatは1.3×10−4cm2 /Vsであった。
参考例5
合成例1で得られたビシクロ化合物(1)を210℃で30分間加熱してテトラベンゾポルフィリンに変換した。これを2×10−6Torr(2.6×10−3Pa)の真空度で、参考例1と同様の電極基板上に真空蒸着して電界効果トランジスタを作製した。真空蒸着時の基板温度とトランジスタの移動度(飽和移動度)との関係を次表に示す。これより、基板温度によって移動度が異なることがわかる。
【0171】
基板温度 飽和移動度μsat
室温 2.9×10−4cm2 /Vs
80℃ 2.3×10−6cm2 /Vs
150℃ 5.6×10−7cm2 /Vs
200℃ 2.8×10−8cm2 /Vs
【0172】
また図9に、80℃〜200℃で蒸着したものについてのX線回折パターンを示す。これらを比較すると、150℃以上と80℃以下とでは異なる結晶形を示しており、かつい
ずれもピークが少ないことから基板に対して強く配向した膜になっていることが推察される。このため、観測される移動度に大きな差が現れたものと考えられる。
【0173】
参考例6
合成例1で得られたビシクロ化合物(1)を、クロロホルム−シリカゲルのカラムクロマトグラフィーとクロロホルム−メタノールでの再沈殿を繰り返し、純度を高めたものを準備した。合成例1では、液体クロマトグラフィーによる254nmでの吸光度での純度が99.0%であるのに対し、本高純度品は99.7%であった。
【0174】
これを用いて、乾燥窒素中でスピンコートして前駆体の膜を作製し、ホットプレート上で窒素中、210℃で5分間加熱したこと以外は参考例1と同様の方法で電界効果トランジスタを作製した。
評価として、飽和領域の電流とゲート電圧の関係から、ドレイン電流Idの平方根とゲート電圧のプロットの傾きから計算される飽和移動度μsatを求めたところ、飽和移動度μsatは0.016cm2 /Vs以上が観察された。また、ドレイン電圧−30Vにおける、ゲート電圧が0Vの場合と−30Vの場合でのドレイン電流の比からオンオフ比を求めたところ、オンオフ比は少なくとも103 以上、最も良いもので105 が観測された。
【0175】
図10に、参考例6で得られた半導体層と、参考例5の基板温度150℃で蒸着して作製した半導体層の、X線回折パターンを示す。低角のピークが一致することから両者は同様の結晶と考えられるが、回折パターンは大きく異なり、配向や結晶性等の膜の状態が異なることが推察される。このため、塗布−加熱により得られた半導体層が良好な特性を示すものと考えられる。
【0176】
参考例7
参考例6で作製した素子の上に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のトルエン溶液をスピンコートして120℃で乾燥し、2μmの膜を形成した。
この素子と、参考例6で作製した素子に対して、ドレイン電圧を−30Vに固定し、ゲート電圧を50V→−50V→50Vと変化させながらドレイン電流を測定した。結果を図11に示す。PMMA膜が無くてもオンオフ比は103 以上あり良好な特性を示すが、PMMA膜を設けるとゲート電圧の走査によるドレイン電流のヒステリシスが小さく、かつオンオフ比も向上していることが分かる。
【0177】
実施例1
合成例3で合成したジチアポルフィリンを用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。すなわち、参考例1と同様に電極が形成された基板上に、下記のビシクロ構造を有する前駆体を塗布した後に加熱処理してテトラベンゾジチアポルフィリンの膜を作製した。こうして得られたFET素子の電気特性を測定したところ、FET特性を示し、飽和移動度1.1×10−4cm2 /Vs、オンオフ比1000を示した。
【0178】
【化33】
【0179】
実施例2
合成例4で合成したチアポルフィリンを用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。すなわち、参考例1と同様に電極が形成された基板上に、下記のビシクロ構造を有する前駆体を塗布した後に加熱処理してテトラベンゾチアポルフィリンの膜を作製した。こうして得られたFET素子の電気特性を測定したところ、FET特性を示し、飽和移動度2.5×10−5cm2 /Vs、オンオフ比38を示した。
【0180】
【化34】
【0181】
参考例8
下記亜鉛錯体を用いて参考例1と同様にしてFETを作製した。すなわち、参考例1と同様に電極が形成された基板上に、ビシクロ構造を有する前駆体を塗布した後に加熱処理して半導体膜を作製し、電界効果トランジスタを得た。こうして得られたFET素子の電気特性を測定したところ、飽和移動度μsatは0.7×10−4cm2 /Vs、有効移動度μeffは1×10−4cm2 /Vsであった。
【0182】
【化35】
【0183】
比較例1
以下の各構造式に示されたポルフィリン類化合物を用いて電界効果トランジスタを作製し電気特性を評価したが、いずれもFET特性は現れなかった。
【0184】
これらのポルフィリン類化合物の分子構造を、分子軌道法(MOPAC等)及び分子動力学法(MM2)等により求めたところ、ポルフィリン類環平面より1Å以上離れた位置に、ポルフィリン骨格を構成する原子が存在することを確認した。
【0185】
【化36】
【0186】
【化37】
【符号の説明】
【0187】
1 半導体層
2 絶縁体層
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート電極
6 基板
7 ソース電極
8 ドレイン電極
9 ゲート電極
10 半導体層
11 金属電極
12 金属電極
13 半導体層
14 電極
15 電極
16 半導体層
17 半導体層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアポルフィリン骨格を有し、チアポルフィリン環平面からチアポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有する化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料。
【請求項2】
チアポルフィリン骨格を有する化合物が、移動度が1×10−5cm2 /Vs以上のものである請求項1に記載の有機半導体材料。
【請求項3】
下記式で表されるテトラベンゾ−21−チアポルフィリンからなることを特徴とする有機半導体材料。
【化1】
【請求項4】
下記式で表されるテトラベンゾ−21,23−ジチアポルフィリンからなることを特徴とする有機半導体材料。
【化2】
【請求項5】
下記ビシクロ構造を有する前駆体としてのチアポルフィリン骨格を有する化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱することにより、請求項1乃至4のいずれかに記載のチアポルフィリン骨格を有する化合物に変換することを特徴とする有機半導体材料の製造方法。
【化3】
【請求項6】
半導体層と2以上の電極とを有する有機電子デバイスにおいて、該半導体層が請求項1乃至4のいずれかに記載の有機半導体材料を含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項7】
有機電子デバイスがスイッチング素子である請求項6に記載の有機電子デバイス。
【請求項8】
有機電子デバイスが電界効果トランジスタである請求項6又は7に記載の有機電子デバイス。
【請求項1】
チアポルフィリン骨格を有し、チアポルフィリン環平面からチアポルフィリン骨格を形成する原子の中心までの距離が1Å以内に配置された分子構造を有する化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料。
【請求項2】
チアポルフィリン骨格を有する化合物が、移動度が1×10−5cm2 /Vs以上のものである請求項1に記載の有機半導体材料。
【請求項3】
下記式で表されるテトラベンゾ−21−チアポルフィリンからなることを特徴とする有機半導体材料。
【化1】
【請求項4】
下記式で表されるテトラベンゾ−21,23−ジチアポルフィリンからなることを特徴とする有機半導体材料。
【化2】
【請求項5】
下記ビシクロ構造を有する前駆体としてのチアポルフィリン骨格を有する化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布し、加熱することにより、請求項1乃至4のいずれかに記載のチアポルフィリン骨格を有する化合物に変換することを特徴とする有機半導体材料の製造方法。
【化3】
【請求項6】
半導体層と2以上の電極とを有する有機電子デバイスにおいて、該半導体層が請求項1乃至4のいずれかに記載の有機半導体材料を含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項7】
有機電子デバイスがスイッチング素子である請求項6に記載の有機電子デバイス。
【請求項8】
有機電子デバイスが電界効果トランジスタである請求項6又は7に記載の有機電子デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−239293(P2009−239293A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124553(P2009−124553)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【分割の表示】特願2003−84816(P2003−84816)の分割
【原出願日】平成15年3月26日(2003.3.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【分割の表示】特願2003−84816(P2003−84816)の分割
【原出願日】平成15年3月26日(2003.3.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】
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