説明

構造体及び半導体光装置

【課題】引張歪による直接エネルギーギャップEの縮小効果を増大するゲルマニウム構造体を提供すること。
【解決手段】ゲルマニウム粒子と、前記ゲルマニウム粒子の周囲を覆って、前記ゲルマニウム粒子を埋め込む埋め込み層を具備し、前記埋め込み層が、前記ゲルマニウム粒子の3つの結晶軸方向夫々に於いて、引張歪を前記ゲルマニウム粒子に発生させていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウムを具備する構造体、および当該構造体によって受光層又は発光層が形成された光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路装置(半導体チップ)間の光配線や、半導体集積回路装置を搭載したボード間を光配線で接続する光インターコネクトの要素技術の一つとして、シリコン(Si)基板上に発光素子及び受光素子を集積化する技術が求められている。
【0003】
発光素子や受光素子は、通常、直接遷移によって光を吸収し発光する、III-V族半導体(例えば、InGaAsP)によって形成される。
【0004】
III-V族化合物半導体は、原子間の結合にイオン性結合が寄与する極性半導体である。一方、Siは、原子間の結合が共有性結合だけによって形成される無極性半導体である。このため、III-V族化合物半導体をSi基板上に成長しようとすると種々の困難に直面する。
【0005】
一方、ゲルマニウム(Ge)は、Siと同じ無極性半導体であり、Siとの親和性は高い。このため、Si基板上へのGeの結晶成長は容易である。このような観点から、Ge製の受光素子および発光素子の、Si基板上への集積化が期待されている。
【0006】
しかし、Geは間接遷移型半導体である。従って、Geによって、発光素子を形成することは極めて困難である。
【0007】
一方、Geは、受光素子の形成に利用される、数少ないIV族半導体である。
【0008】
Geの基礎吸収端は、価電子帯の頂上であるΓ点と伝導帯の底であるL点間の間接エネルギーギャップ0.67eVに相当する1.85μmにある(300Kにおいて)。しかし、間接遷移に起因する光吸収は極めて弱いので、1.85μm近傍では、実質的には光は吸収されない。
【0009】
一方、GeのΓ点に於ける直接エネルギーギャップEは、0.81eVである。このため、Geは、0.81eVに相当する1.54μmより短波長側で光を強く吸収する。このためGeを光吸収層とする受光器は、1.54μmより短波長側で光を検出する。
【0010】
光インターコネクトは、半導体チップやボード間の近距離光通信を可能とする技術である。従って、伝送損失低減の観点からは、必ずしも、半導体チップやボード間の通信に、光ファイバ通信に於いて使用される波長帯(Cバンド、Lバンド、Uバンド等)を使う必要はない。しかし、各種光学部品(光カップラ等)は、光ファイバ通信用の波長帯に合わせて開発されている。従って、光インターコネクトでも、光ファイバ通信と同じ波長帯を使用することが好ましい。
【0011】
ところで、上述したようにGeが光を吸収する波長帯は、実質的には1.54μmより短波長側にあり、Cバンド(1.53μm−1.57μm)の一部をカバーするに過ぎない。
【0012】
このような事態に鑑み、Ge薄膜に引張歪を発生させて、Γ点での直接エネルギーギャップEを縮小させようとする試みがなされている(非特許文献1)。
【0013】
Γ点での直接エネルギーギャップEが縮小すると、Geの実質的な光吸収端は1.54μmより長波長側にシフトする(すなわち、ダウンシフトする。)。このように光吸収端のダウンシフトが実現すれば、Geを受光層とする光受光器の動作波長帯が広がり、その有用性、特に光インタコネクト用のGe光受光器としての有用性が高くなる。
【0014】
更にΓ点間の直接エネルギーギャップEが縮小して、Γ点とL点の間の間接エネルギーギャップより小さくなれば、Geによる発光素子の形成も可能になる。
【非特許文献1】"Perfectly tetragonal, tensile-strained Ge on Ge1-ySny buffered Si(100)",Appled Physics Letters 90, 061915(2007).
【非特許文献2】”Theoretical calculations of heterojunction discontinuities in the Si/Ge system”, Physical Review B 34, 5621 (1986).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記試みによって期待される直接エネルギーギャップEの減少量は、けして十分なものではない。このため、上記試み従うゲルマニウム薄膜によっては、Geによる発光はおろか、(直接遷移に基づく)Geの光吸収帯がUバンド(1.63μm−1.68μm)をカバーすることもできない。
【0016】
そこで、本発明の目的は、引張歪による直接エネルギーギャップEの縮小効果を増大するゲルマニウム構造体および当該ゲルマニウム構造体を利用した半導体光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本構造体は、ゲルマニウム粒子と、前記ゲルマニウム粒子の周囲を覆って、前記ゲルマニウム粒子を埋め込む埋め込み層を具備し、前記埋め込み層が、前記ゲルマニウム粒子の3つの結晶軸方向夫々に於いて、引張歪を前記ゲルマニウム粒子に発生させている。
【0018】
また、本光半導体装置は、上記構造体を、光を受けてフォトキャリアを生成する受光層又は電流が注入されて光を生成する発光層とする。
【発明の効果】
【0019】
本構造体によれば、ゲルマニウムを具備する構造体(ゲルマニウム構造体)において、引張歪による直接エネルギーギャップEの縮小効果を増大することができる。
【0020】
また、本光半導体装置では受光層が上記ゲルマニウム構造体によって形成されるので、Geを受光層とする光半導体装置において、光通信波長帯(特に、Cバンド〜Uバンド)での光検出が可能になる。従って、本光半導体装置によれば、Siとの親和性が高いGeによって形成された光半導体装置をSi基板上に集積して、インターコネクト用集積回路装置を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0022】
(引張歪によるEの縮小)
まず、本発明者独自の知見も交えて、先に説明した、引張歪を導入してGe薄膜の直接エネルギーギャップEを縮小させる方法(関連技術)とその原理について説明する。
【0023】
(1)歪Ge薄膜の形成
図1は、引張歪を導入して直接エネルギーギャップEを縮小させたGe薄膜の構成を説明する断面図である。図1には、Ge薄膜の結晶軸と、後述する歪の定義に使用する座標軸(x軸、y軸、z軸)が図示されている。
【0024】
Ge薄膜2に引張歪を導入して直接エネルギーギャップEを縮小させるためには、まずSi(100)基板4の上にゲルマニウム−スズ混晶バッファ層(Ge1−xSnバッファ層6)が形成される。ここで、Snの組成比xは、0.015〜0.025である。Ge1−xSnの格子定数はSiより大きいが、Ge1−xSnバッファ層6は、Si(100)基板4との格子不整合による歪が略完全に緩和された状態で形成される。
【0025】
このGe1−xSnバッファ層6の上に、厚さ120〜240nmのGe薄膜2が形成される。
【0026】
ところでGeの格子定数は、Ge1−xSn混晶より小さい。このため、Ge薄膜6には2軸性の引張歪が発生する。後述するように、この引張歪によって、直接エネルギーギャップE0が縮小する。
【0027】
図2は、Ge薄膜2とGe1−xSnバッファ層6の界面10に於ける原子配列を説明する図である。図2に示すように、Ge薄膜2を構成する原子(Ge原子18)およびGe1−xSnバッファ層6を構成する原子(Ge原子20およびSn原子22)は、夫々の原子配列が連続するように、界面10で結合している。
【0028】
よく知られているように、Geの結晶構造はダイヤモンド構造である。一方、Ge1−xSnの結晶構造は、ダイヤモンド構造の各格子点にGe原子又はSn原子の何れかが一つずつ配置された構造である。
【0029】
従って、Ge薄膜2を構成する原子(Ge18)とGe1−xSnバッファ層6を構成する原子(Ge20またはSn22)の配列は同じである(原子の配列に注目しているので、元素の違いには着目しない。)。そして、図1を参照して説明した構造では、Ge薄膜2は、Ge1−xSnバッファ層6の上にエピタキシャル成長によって形成される。
【0030】
故に、Ge薄膜2を構成する原子(Ge原子18)とGe1−xSnバッファ層6を構成する原子(Ge原子20およびSn原子22)は、図2に示すように、夫々の原子配列が連続するように界面10で結合する。
【0031】
このようにGe薄膜2とGe1−xSnバッファ層6は夫々の原子配列が界面10で連続するように接続するので、両者の格子定数は界面に平行な方向で一致する。
【0032】
ところで、図1を参照して説明した関連技術では、Ge1−xSnバッファ層6はGe薄膜2より十分に厚く形成される。このため、Ge1−xSnバッファ層6の格子定数は殆ど変化しない。一方、Ge薄膜2の格子定数は、界面10に平行な方向で、Ge1−xSnバッファ層6の格子定数に一致するように変化する。
【0033】
ところで、Ge1−xSnの格子定数は、Geの格子定数より大きい。従って、Ge薄膜2には、界面10に平行な方向に引張歪(2軸性の引張歪)が発生する。
【0034】
但し、Ge薄膜2とGe1−xSnバッファ層6の格子定数の違いが大きくなり過ぎると、Ge薄膜2に結晶欠陥が発生して、引張歪が緩和してしまう。従って、図1を参照して説明した構造によって、Ge薄膜2に生成可能な歪には上限が存在する。この上限は、後述する歪ε(=εxx=εyy)によって表すならば、0.0025(0.25%)になる。
【0035】
(2)歪によるEの変化
図3は、Geの波数空間に於けるバンド構造を説明する図である。横軸の右半分は、Γ点(波数k=0)から<100>方向の端のX点に向かうΔ軸に沿った波数である。一方、横軸の左半分は、Γ点(波数k=0)から<111>方向の端のL点に向かうΛ軸に沿った波数である。縦軸は、価電子帯の頂上8に対する電子のエネルギーである。
【0036】
図3に示すように、Geの価電子帯の頂上8およびは伝導帯の底9は、夫々、Γ点およびL点にある。このため、Geの価電子帯の頂上8を占有する電子が、光を吸収(又は放出)して、伝導帯の底9に遷移するためには、フォノンが介在して波数保存則が満たさなければならない。また、Geの伝導帯の底9を占有する電子が、価電子帯の頂上8を占有するホールと再結合するためにも、フォノンが介在して波数保存則が満たさなければならない。
【0037】
このように、波数の異なる準位間の遷移すなわち間接遷移は、フォノンの介在を必要とするので、フォノンの介在を必要としない直接遷移(波数の変化を伴わない遷移)に比べ遷移確率が数桁低くなる。このため、(伝導帯の底9と価電子帯の頂上8のエネルギー差に相当する)基礎吸収端1.85μmの(短波長側)近傍では、Geは殆ど光を吸収しない(但し、基礎吸収端の波長1.85μmは、温度が300Kの場合の値)。
【0038】
しかし、Γ点における伝導帯の底11と価電子帯の頂上8の間の遷移は直接遷移であり、その遷移確率は高い。このため、Geは、この直接遷移に基づくエネルギーギャップすなわち直接エネルギーギャップEに相当する波長1.54μmより短波長側で、光を強く吸収する。
【0039】
ところで、半導体に歪が発生すると、そのバンド構造が変化する。このため歪が発生すると、直接エネルギーギャップEも変化する。
【0040】
歪による直接エネルギーギャップEの変化ΔEΓは、一般的には、ディフォーメーションポテンシャルを考慮した数値計算によって算出される(非特許文献2)。
【0041】
特殊な場合を除き、ΔEΓを明示的に記述することは困難である。但し、次式によってΔEΓを近似することは可能である。
【0042】
【数1】

【0043】
ここでaΓは、歪に対するΓ点に於ける直接エネルギーギャップEの変化率である。図1に示すように座標軸(x軸、y軸、z軸)と結晶軸([100]、[010]、[001])を一致させると、Geの場合、aΓは-9.48eVになる。
【0044】
一方、εxx、εyy、εzzは、歪の成分であり次式によって定義される。
【0045】
【数2】

【0046】
ここで、x、y、zは、固体内部の点Pの位置座標である。
【0047】
一方、u、u、及びuは、当該固体の弾性変形によって誘起される点Pの変位である。すなわち、弾性変形によって、固体内部の点Pが、座標(x,y,z)から座標(x+u,y+uy,z+uz)に変位する。尚、固体の変形が一様な場合には、εxx、εyy、εzzは、位置の関数ではなく定数になる。
【0048】
以下の説明では、εxx、εyy、εzz夫々は、定数と考えてよい。
【0049】
(3)E縮小の原理
ところで、Ge1−xSnの格子定数は、Geの格子定数より大きい。
【0050】
故に、上述したように、Ge1−xSnバッファ層6の上に形成されたGe薄膜2には、2軸性の引張歪が発生する。すなわち、Ge薄膜2では、Si基板4の主面(001)に平行な、x軸方向およびy軸方向に歪εxx、εyyが発生する。
【0051】
ところで引張歪の符号は正である。従って、εxx、εyyは正の値である。
【0052】
一方、Si基板4の主面(001)に垂直な方向の歪εzzは、ポアッソン効果により負の値になる。具体的には、次式であらわされる。
【0053】
【数3】

【0054】
ここで、C11及びC12は、弾性定数(弾性コンプライアンス定数)であり、弾性率テンソル[C]の成分である。
【0055】
GeのC11及びC12は、夫々、13.15×1011dyn/cm及び4.13×1011dyn/cmである。
【0056】
従って、Ge薄膜2に於ける直接エネルギーギャップEの変化ΔEΓは、以下のように表される。
【0057】
【数4】

【0058】
ところで、2軸性歪ではεxxとεyyは等しい。そこで、εxx及びεyyをε(=εxx=εyy)で表すと、ΔEΓは、次式によって表される。
【0059】
【数5】

【0060】
すなわち、Geより格子定数の大きなGe1−xSnバッファ層6の上に、Ge薄膜2を成長すると、式(5)に従って直接エネルギーギャップEが縮小する。
【0061】
(4)課 題
上述したように、図1を参照して説明した関連技術に於けるεの上限は0.0025である。従って、式(5)に従えば、ΔEΓは高々32.5meVにしかならない。この時の直接エネルギーギャップE(0.7723eV)は、波長1.61μmに相当する。
【0062】
しかし、この程度のダウンシフトでは、Cバンド(1.53μm−1.57μm)をカバーすることはできるが、Lバンド(1.57μm−1.63μm)やUバンド(1.63μm−1.68μm)をカバーすることはできない。
【0063】
そこで、下記各実施の形態では、直接エネルギーギャップEの縮小幅を増大したGe構造体等が提供される。
【0064】
(実施の形態1)
本実施の形態は、Ge粒子がGe1−xSn製の埋め込み層で埋め込まれた構造体に関する。
【0065】
(1)構 成
図4は、本実施の形態に従う構造体の構成を説明する断面図である。図4の下側には、Geの結晶軸が示されている。
【0066】
図4に示すように、本実施の形態に従う構造体12は、ゲルマニウム粒子14を具備している。
【0067】
また、本構造体12は、ゲルマニウム粒子14の周囲を覆って、ゲルマニウム粒子14を埋め込む埋め込み層16を具備している。
【0068】
そして、本構造体12では、埋め込み層16が、ゲルマニウム粒子14の3つの結晶軸方向夫々に、引張歪をゲルマニウム粒子14に発生させている。
【0069】
ここで、埋め込み層14は、Geより格子定数の大きな半導体単結晶、例えば、Ge1−xSn(但し、0<x<1)、又はSiGe1−x−ySn(但し、0<x,y<1)によって形成されている。
【0070】
図5は、本実施の形態に従うGe粒子14と埋め込み層(半導体単結晶)16の界面26に於ける原子配列を説明する図である。
【0071】
図5に示すように、本構造体12では、Ge粒子14及び埋め込み層16を形成する原子24が、夫々の原子配列が連続するように界面26で結合している。更に、Ge粒子14は、周囲が埋め込み層16によって覆われている。従って、Ge粒子14には、2軸性の引張歪ではなく、3つの結晶軸方向夫々に向かう引張歪が発生する。
【0072】
(2)原 理
ここで、埋め込み層16の体積がGe粒子14の体積に比べて十分に大きい場合には、埋め込み層16を形成する半導体単結晶は殆ど歪まず、Ge粒子14が3つの結晶軸方向夫々に等しく歪む。
【0073】
この歪をε(=εxx=εyy=εzz)とし、式(1)にこの歪εを代入する。すると、以下に示す通り、直接エネルギーギャップEの変化ΔEΓを表す計算式が得られる。
【0074】
【数6】

【0075】
この式と式(5)を比較すると明らかように、本実施の形態に従う構造体12に於ける直接エネルギーギャップEの変化は、同じ大きさの引張歪εに対するGe薄膜のEの変化の約2.19倍になる。
【0076】
従って、本構造体12によれば、僅かな歪で大きなEの変化を実現することができる。例えば、僅か0.0019たらずの引張歪で、Uバンドをカバーすることが可能になる。この値は、Ge薄膜に形成可能な歪の上限0.0025より小さい。
【0077】
これは、Ge薄膜では、εzzが負の値(式(3)参照)となって、εxx及びεyyにって誘起されるEのダウンシフトを減じるのに対して、本実施の形態のGe粒子では、εzzも正の値ε(=εxx=εyy=εzz)となってEのダウンシフトに寄与するからである(式(1)参照)。
【0078】
デイフォーメーション・ポテンシャを用いた精度の高い計算結果によれば、Uバンドをカバーするためには、各結晶軸方向の歪の和(εxx+εyy+εzz)が0.0054以上であればよいことが分かる。但し、εxx、εyy、εzzの何れかの絶対値が0.02より大きくなることは、Ge粒子に結晶欠陥を発生させるので好ましくない。(
すなわち、本実施の形態に従う構造体12では、各結晶軸方向の歪の和が0.0054以上で、且つ各結晶軸方向の歪の絶対値が0.02以下であることが好ましい。
【0079】
以上説明した通り、本実施の形態に従えば、Geを具備した構造体に於いて、引張歪によるGeの直接エネルギーギャップEの縮小幅を、容易に増大することができる。
【0080】
(3)製造方法
次に、本実施の形態に従う構造体12の詳細を製造手順に従って説明する。
【0081】
図6は、本実施の形態に従う構造体12の一例を説明する断面図である。図7は、本実施の形態に従う構造体の製造手順を説明するフロー図である。
【0082】
(i)傾斜組成層の形成(ステップS1)
まず、Ge(001)基板28が、ガスソース分子線成長装置に装着され、例えば300〜700℃に加熱される。
【0083】
次に、加熱された状態のGe(001)基板28に、ゲルマン(GeH)および重水素化スズ(SnD)が供給される。ここで、GeHに対するSnDの供給割合は、徐々に増加させられる。
【0084】
本ステップによって、Snの組成比が徐々に増加する傾斜組成GeSn層30が形成される。傾斜組成GeSn層30は、例えば、厚さ1μmになるように形成される。尚、「GeSn」等、元素記号だけの表記は、当該混晶半導体の組成は特定しないものとする(すなわち、GeSnは、Ge:Sn=1:1のゲルマニウム−スズを意味するものではない。)。
【0085】
尚、重水素化スズ(SnD)は、高純度のものが得られやすい。このため、本実施の形態では、Snの原料ガスとして重水素化スズ(SnD)が使用される。
【0086】
(ii)歪緩和層の形成(ステップS2)
次に、GeHに対するSnDの供給割合を固定して、一定組成のGe1−xSn層を、例えば500nm成長する。ここで、xは、傾斜組成GeSn層30の最上部に於けるSnの組成である(但し、0<x<1)。xの具体的値については後述する。
【0087】
ステップS1及び本ステップによって形成される傾斜組成GeSn層及びGe1−xSn層によって、Ge(001)基板28との格子不整合が解消された半導体層が形成される。
【0088】
すなわち、Ge1−xSn層32の最上部の格子定数は、Ge1−xSn本来の格子定数となっている。
【0089】
尚、Ge1−xSn層32は、以後、歪緩和GeSn層と呼ばれる。
【0090】
(iii)Ge粒子の形成(ステップS3)
次に、SnDの供給が停止されGeHのみが供給されて、3〜10ML(原子層)相当のGeが供給される。
【0091】
この時、SK(Stranski-Krastanov)モードによってGeが成長し、Ge製の微粒子34(Ge粒子)が形成される。このGe微粒子34の寸法は、全ての方向で10nm以上100nm以下である。すなわち、Ge製の量子ドットが成長する。
【0092】
(iv)被覆層の形成(ステップS4)
次に、SnDの供給が再開され、Ge1−xSn製の被覆層36が形成される。
【0093】
被覆層36の厚さは、10以上100nm以下である。ここで被覆層36は、Ge微粒子34の周囲を覆って、Ge微粒子34を埋め込む。また、被覆層36の組成比xは、上述した歪緩和GeSn層32と同じである。この被覆層36は、Ge微粒子34すなわちGe量子ドットのスペーサ層として機能する。
【0094】
ここで、Ge微粒子34は、その周囲を歪緩和GeSn層32とGeSn製の被服層36によって覆われている。すなわち、歪緩和GeSn層32とGeSn製の被服層36によって、Ge微粒子34の周囲を覆って、Ge微粒子34を埋め込む埋め込み層16が形成される。
【0095】
(v)多層化(ステップS5)
次に、ステップS3とステップS4が複数回繰り返されて、図6に示す構造体12が形成される。ただし、本ステップは実施されなくてもよい。その場合には、Ge微粒子が形成されGe微粒子層は1層のみ形成されることになる。
【0096】
但し、Ge微粒子層を多層化することによって、本構造体12を光半導体装置に適用した場合、外部量子効率を高くすることができる。
【0097】
以上の例では、Ge微粒子34は、SKモードを利用した自己形成方法によって形成される。しかし、Ge微粒子36は、リソグラフィー技術とエッチングによってGe層が加工されて、形成されてもよい。
【0098】
(4)動 作
以上のようにして形成された構造体12では、Ge製の微粒子34とその周囲を覆うGe1−xSn(0<x<1)製の埋め込み層16の構成原子が、夫々の原子配列が連続するように界面で結合している。
【0099】
ところで、Geの格子定数はGe1−xSnより小さい。従って、埋め込み層16が、Ge微粒子34の3つの結晶軸([100]、[010]、[001])の方向夫々に向かう引張歪を、Ge微粒子34に発生させる(図6の下側に、Ge微粒子の結晶軸とその方位が図示されている。)。
【0100】
従って、Ge微粒子34の直接エネルギーギャップは、上述した式(6)に従ってダウンシフトする。
【0101】
ところで、本実施の形態に従う構造体12では、Ge微粒子34は埋め込み層16に比べ、圧倒的に体積が小さい。従って、Ge微粒子34の格子定数は、埋め込み層16を形成するGe1−xSnの格子定数に一致する。故に、Ge微粒子34に発生する歪ε(=εxx=εyy=εzz)は、以下のように表される。
【0102】
【数7】

【0103】
ここで、aGeSnは、埋め込み層16を形成するGe1−xSnの格子定数である。一方、aGeは、歪が発生していなGe本来の格子定数(5.679nm)である。
【0104】
一方、Ge1−xSnの格子定数aGeSnは、以下のように表される。
【0105】
【数8】

【0106】
ここで、xは、Snの組成比である。
【0107】
従って、式(6)〜式(8)に従えば、所望のダウンシフトΔEΓを形成するGe1−xSnの組成xが得られる。例えば、Uバンドをカバーするためには、xは0.013以上であればよい(但し、量子ドットに於けるエネルギー準位の上昇は考慮していない。)。
【0108】
但し、歪が大きなり過ぎるとGe微粒子に結晶欠陥が発生してしまう。従って、歪(εxxyyzz)の絶対値は0.02以下であることが望ましい。
【0109】
ところで、埋め込み層16は、SiGe1−x−ySn(但し、0<x,y<1)によって形成してもよい。ここでSiGe1−x−ySnの格子定数aSiGeSnは、以下のように表される。
【0110】
【数9】

【0111】
この式と、式(6)及び式(7)に従えば、所望のダウンシフトΔEΓを形成するSiGe1−x−ySnの組成x,yが得られる(但し、式(7)では、aGeSnがaSiGeSnで置き換えられる。)。
【0112】
例えば、Uバンドをカバーするためには、0.013<x−0.306yであればよい。但し、Ge微粒子に結晶欠陥が発生しないようにするためには、Ge微粒子に発生する歪の絶対値は0.02以下であることが好ましい。
【0113】
尚、埋め込み層16が互いに分離している場合に、Ge粒子が埋め込み層の中心からズレると、Ge粒子に発生する歪は位置に依って変化するようになる。また、埋め込み層16の一部に格子定数の異なる材料を挿入することによっても、Ge粒子の歪は位置に依って変化するようになる。
【0114】
(実施の形態2)
本実施の形態は、実施の形態1に従う構造体を受光層とする光半導体装置(光受光器)に関する。
【0115】
(1)構成及び製造方法
以下、本実施の形態に従う光半導体装置(光受光器)の構成を、製造手順に従って説明する。
【0116】
図8は、本実施の形態の従う光半導体装置(光受光器37)の構成を説明する断面図である。図9は、本実施の形態に従う光半導体装置(光受光器37)の製造手順を説明するフロー図である。
【0117】
(i)SGOI基板の形成(ステップS1)
まず、Si基板38の上に、SiO層40とSi単結晶層(図示せず)が順次形成されたSOI基板44(silicon on insulator 基板;図示せず)が用意される。このSOI基板44は、例えば、SiO膜の形成されたSi基板にSi単結晶層を貼り合せることによって形成することができる。
【0118】
次に、このSOI基板の上にSiGe層がエピタキシャル成長によって形成される。
【0119】
次に、このSiGe膜が酸化される。この時、Siが選択的に酸化されて、SiGe層の表面にSiO膜が形成される。一方、GeはSiGe層の内部に拡散して、SiGe層のGe組成を高くする。
【0120】
次に、このSiO膜がエッチングによって除去される。
【0121】
この酸化とエッチングの工程が複数回繰り返されて、厚さが10〜300nmでGeの組成比が0.5〜1.0のSiGe層42が形成される。
【0122】
このような高いGe組成を有するSiGe層をエピタキシャル成長によって形成するためには、SiGe層を厚く成長しなければならない。しかし、上記工程によれば、薄いGeSi層を成長するだけで、高Ge組成のSiGe層を形成することができる。
【0123】
本ステップにより、SGOI基板44(silicon- germanium on insulator 基板)が形成される。
【0124】
(ii)歪緩和GeSn層の形成(ステップS2)
次に、このSGOI基板44の上に、実施の形態1のステップS2に準じてGeSn製の歪緩和層46が形成される。
【0125】
但し、GeSn製の歪緩和層46は、SiGe層42の厚さの3〜10倍厚く形成される。この時、SiGe層42より厚く形成された歪緩和層46には殆ど歪が発生せず、SiGe層42が歪む。或いは、SiGe/SiO界面でSiGeが滑って、歪が開放される。
【0126】
尚、GeSn製の歪緩和層46には、ホウ素(B)等のp型不純物がドーピングされる。p型不純物の濃度は、例えば1×1019cm−3である。
【0127】
(iii)受光層の形成(ステップS3)
次に、アンドープGeSn層48が形成される。
【0128】
次に、実施の形態1のステップS3及びステップS4と略同じ手順に従って、Ge微粒子34及びGeSn製の被服層36が形成される。
【0129】
ここで、アンドープのGeSn層48及び被服層36によって、埋め込み層16が形成される。
【0130】
本ステップによって、受光層49が形成される。
【0131】
(iv)n型GeSn層の形成(ステップS4)
次に、n型GeSn層50が、例えば100〜300nm成長される。この時、リン(P)等のn型不純物がドーピングされる。不純物濃度は、例えば1×1019cm−3である。
【0132】
(v)電極の形成(ステップS5)
次に、リソグラフィー技術とエッチングによって、n型GeSn層50〜アンドープGeSn層48までが部分的に除去されて、p型GeSn製の歪緩和層46の表面が露出させられる。
【0133】
この露出面及びn型GeSn層50の表面にp電極58及びn電極60が夫々形成されて、光受光器37が完成する。
【0134】
(2)動 作
本受光器37を形成する各GeSn層のSn組成比は、量子効果も考慮して、Ge微粒子34の直接ギャップがUバンドをカバーするように設定される。
【0135】
従って、例えば、Si基板38の裏面から入射光39を入射させると、Uバンドを含む広い波長範囲に反応して、Ge微粒子34に電子とホール(フォトキャリア)が発生する。
【0136】
この電子とホールは、p電極46とn電極60の間に印加された電界によって、夫々p電極46及びn電極60に向かって加速され光電流となる。
【0137】
この光電流が、受光器37に接続された測定器によって計測され、入射光39が検出される。
【0138】
従って、本受光器37によれば、Uバンドを含み広い範囲の光を検出することができる。また、本受光器37の形成されたSi基板38に集積回路装置を形成すれば、他のSi基板に形成された集積回路装置が発生した光信号を本受光器37が受信し、光電変換した信号を同一基板上の集積回路装置に受け渡すことができる。
【0139】
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に従えば、Geによって吸収層が形成された受光器に於いて、検出限界波長の引張歪による長波長化を増進することができる。
【0140】
(実施の形態3)
本実施の形態は、実施の形態1に従う構造体を発光層とする光半導体装置(発光ダイオード)に関する。
【0141】
(1)構成及び製造方法
以下、本実施の形態に従う光半導体装置(発光ダイオード)の構成を、製造手順に従って説明する。
【0142】
図10は、本実施の形態に従う光導波層の製造手順を説明するフロー図である。図11は、本実施の形態の従う光半導体装置(発光ダイオード52)の構成を説明する断面図である。
【0143】
(i)SGOI基板の形成(ステップS1)
まず、実施の形態2のステップS1と同じ手順でSGOI基板が形成される。
【0144】
(ii)歪緩和層の形成(ステップS2)
次に、実施の形態2のステップS2と略同じ手順でGeSn製の歪緩和層46が形成される。
【0145】
但し、p型不純物の濃度は、例えば1×1018cm−3である。また、歪緩和層46の組成比は、後述するアンドープGeSn層48及び被覆層36の組成と同じに設定される。
【0146】
(iii)下部SCH層の形成(ステップS3)
次に、厚さ10−100nmのアンドープSiGeSn層54が形成される。
【0147】
ここで、Si及びSnの組成比y及びxは、例えば0.03及び0.023とする。このSiGeSn層54の屈折率はGeより小さい。
【0148】
一方、SiGeSn層54の(Γ点に於ける)直接エネルギーギャップEは、Geの直接エネルギーギャップEより大きくなる。従って、SiGeSn層54は下部SCH(separate confinement heterostructure)層として機能する。
【0149】
(iv)発光層の形成(ステップS4)
次に、実施の形態2のステップS3と略同じ手順で、アンドープGeSn層48、Ge微粒子34、及び被覆層36が形成される。但し、アンドープGeSn層48及び被覆層36の組成は、後述するように、Ge微粒子34のΓ点及びL点に於ける直接エネルギーギャップの大きさが逆転するよう設定される。
【0150】
本ステップによって、発光層56が形成される。
【0151】
(v)上部SCH層の形成(ステップS5)
次に、アンドープSiGeSn層58が形成される。SiGeSn層58の厚さ及び組成は、上記アンドープSiGeSn層54と同じである。
【0152】
SiGeSn層58も、SiGeSn層54と同様、SCH層として機能する。
【0153】
(vi)n型GeSn層の形成(ステップS6)
次に、実施の形態2のステップS4と略同じ手順で、n型GeSn層50が形成される。
【0154】
但し、n型不純物の濃度は、例えば1×1018cm−3である。また、GeSn層50の組成は、上記被覆層36及びアンドープGeSn層48と同じである。
【0155】
(vii)電極の形成(ステップS7)
次に、リソグラフィー技術とエッチングによって、n型GeSn層50〜アンドープGeSn層48までが部分的に除去されて、p型GeSn製の歪緩和層46の表面が露出される。
【0156】
この露出面及びn型GeSn層50の表面にp電極58及びn電極60が夫々形成されて、発光ダイオード52が完成する。
【0157】
尚、n電極60は、リング状に形成される。
【0158】
(2)動 作
本発光ダイオード52を形成する各GeSn層のSn組成比は、Ge微粒子34のΓ点に於ける直接エネルギーギャップが、L点に於ける直接エネルギーギャップより小さくなるように設定される。従って、Ge微粒子34の伝導帯の底および価電子帯の頂上は共にΓ点になる。
【0159】
従って、電極60とn電極58の間に信号源を接続して電流を発光層56に注入すると、Ge微粒子34の伝導帯の底と価電子帯の頂上に夫々電子とホールが集中して、反転分布が形成される。反転分布を形成した後、電子とホールは結合し消滅する。この時、電子は、伝導帯の底から価電子帯の頂上に直接遷移して、光を発生する。
【0160】
この光がリング状のn電極60の内側を通って取り出され、出射光62となる。
【0161】
ところで、本発光ダイオード52は、SCH層54,58を備えているので、導波路形の発光ダイオードに加工して使用することができる。
【0162】
(3)原 理
次に、歪の導入によって、Ge粒子が直接遷移型半導体となる理由について説明する。
【0163】
上述したように、Geの価電子帯の頂上8はΓ点にある(図3参照)。一方、伝導帯の底9はL点に存在する。ここで、伝導帯に於ける、Γ点11とL点のエネルギー差は0.15eVである。
【0164】
ところで、Γ点に於ける直接エネルギーギャップEは、上述したように歪によって変化する。その変化量ΔEΓは、次式で近似できる(式(1)及び式(6)参照)。
【0165】
【数10】

【0166】
一方、L点に於ける直接エネルギーギャップも歪によって変化する。その変化量ΔEは、次式で近似される。
【0167】
【数11】

【0168】
ここで、ε=εxx=εyy=εzzとした。また、aΓ=−9.48(eV)及びa=−2.78(eV)である。
【0169】
式(10)と式(11)とを比較すると明らかなように、歪に対する直接エネルギーギャップの変化量はΓ点の方が格段に大きい。
【0170】
従って、歪εを大きくしていくと、(伝導帯における)L点とΓ点のエネルギー差0.15eVがやがて解消し、遂にはΓ点が伝導帯の底になる。故に、所定の歪を導入することによって、Ge粒子を直接遷移型半導体とすることができる。
【0171】
Ge粒子を直接遷移型半導体にするために必要な歪εは、式(10)、式(11)、及びΓ点とL点のエネルギー差0.15eVから0.008であることが分かる。
【0172】
一方、図1を参照して説明したGe薄膜を直接遷移型半導体にするために必要な歪εは、式(5)、式(3)と式(11)、及びΓ点とL点の上記エネルギー差0.15eVから0.018であることが分かる。
【0173】
すなわち、本実施の形態によれば、Geの直接遷移型化が容易になる。従って、本実施の形態によれば、Geを発光層とする発光装置を形成することができる。また、本発光ダイオード52の形成されたSi基板38に集積回路装置を形成すれば、この集積回路装置で生成された電気信号を本発光ダイオード52で光電変換して、他のSi基板に形成された集積回路装置との間で光通信を実施することが可能になる。
【0174】
(実施の形態4)
本実施の形態は、金属製又は酸化物の埋め込み層で埋め込まれた構造体に関する。
【0175】
(1)構 成
図12は、本実施の形態に従う構造体64の構成を説明する断面図である。図12に示すように、本実施の形態に従う構造体64は、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)を具備している。
【0176】
また、本構造体64は、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)の周囲を覆って、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)を埋め込む埋め込み層16を具備している。
【0177】
そして、本構造体64では、埋め込み層16が、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)の3つの結晶軸方向夫々に向かう引張歪をゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)に発生させている。尚、図12の下側には、ゲルマニウム微粒子34の結晶軸の方位が図示されている。
【0178】
更に、本構造体64では、埋め込み層16が、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)の底面に接しゲルマニウムより格子定数の大きな半導体単結晶66と、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)の頂上及び側面に密着し熱膨張係数がゲルマニウムより小さい金属膜68(又は酸化物膜)によって形成されている。
【0179】
そして、本構造体64では、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)及び半導体単結晶66を形成する原子が、夫々の原子配列が連続するように、ゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)の底面で結合している。
【0180】
そして、金属膜68(又は酸化物膜)は、本構造体64の使用温度より高い温度でゲルマニウム微粒子34(ゲルマニウム粒子)に密着するように形成されたものである。
【0181】
(2)原 理
本構造体64は、実施の形態1に従う構造体12と同じように、埋め込み層16が、ゲルマニウム微粒子34の3つの結晶軸方向夫々に向かう引張歪をゲルマニウム粒子34に発生させる。従って、実施の形態1に従う構造体12と同じように、直接エネルギーギャップEが縮小する。
【0182】
但し、本構造体64のGe微粒子34には、その底面に接する半導体単結晶66との格子定数の違い起因して、当該底面に平行な2つの結晶軸方向に引張歪が発生する。一方、当該底面に垂直な方向には、金属膜68(又は酸化膜)によって引張歪が発生する。
【0183】
ここで、半導体単結晶66との格子定数の相違に起因する引張歪の形成過程は、実施の形態1で説明した引張歪の形成過程と同じある。従って、半導体単結晶66との格子定数の相違に起因する引張歪の形成過程に関する説明は省略する。
【0184】
次に、金属膜68(又は酸化膜)によって、Ge微粒子34に発生する引張歪について説明する。
【0185】
金属膜68(又は酸化膜)は、上述したように(本構造体64の使用温度より)高い温度でゲルマニウム微粒子34に密着するように形成されたものである。
【0186】
一般的に、金属(又は酸化)の結晶構造は、半導体、特IV族半導体の結晶構造とは異なっている。従って、Ge微粒子34の上に金属膜68(又は酸化膜)を形成すると、双方の原子は距離が十分に接近した場合にだけ結合する。この段階では、Ge微粒子34に歪(底面に垂直な方向の歪εzz)は発生していない。
【0187】
しかし、高温で金属膜68(又は酸化膜)を形成しその後構造体64の温度を下げると、金属膜68(又は酸化膜)とGe微粒子34の熱膨張係数の違いにより、Ge微粒子34に歪が発生する。
【0188】
ここで、埋め込み層16を形成する金属膜68(又は酸化膜)の熱膨張係数が、ゲルマニウムより小さいとする。この場合、構造体64の温度が下がると、金属膜68(又は酸化膜)よりGe微粒子34がより縮もうとする。このため、Ge微粒子34には、底面に垂直な方向にも引張歪が発生する。
【0189】
ここで、Geの熱膨張係数をKGeとし、金属膜68(又は酸化膜)の熱膨張係数をKMatrixとする。また、構造体64の使用温度(例えば、室温)に於けるGeの格子定数をaGeとし、構造体64の使用温度と金属膜68(又は酸化膜)の形成時の温度との差をΔTとする。
【0190】
すると、Ge微粒子34に発生する歪εzzは、次式で表される。
【0191】
【数12】

【0192】
ここで、Ge微粒子34に発生する歪が、結晶軸の方向に依らず一定の場合(εxx=εyy=εzz)を考える。このような場合、Lバンド(1.57μm−1.63μm)をカバーするためには、歪ε(=εxx=εyy=εzz)が0.001以上でなければならない。
【0193】
この条件を満たす金属膜としては、例えば、使用温度より600K以上高い温度で形成されたタングステン(W)膜や、使用温度より1040K以上高い温度で形成されたモリブデン(Mo)膜がある。
【0194】
尚、実施の形態1に従う構造体でも、埋め込み層は使用温度より高温で形成される。従って、埋め込み層とGeの熱膨張係数の相違によって歪が、影響を受けるようにも思われる。しかし、実施の形態1に従う構造体では、埋め込み層も半導体で形成されているので、Geと埋め込み層の熱膨張係数の相違は少ない。このため埋め込み層とGeの熱膨張係数の相違が、Ge粒子に発生する歪に及ぼす影響は少ない。
【0195】
そもそも、実施の形態1では、埋め込み層の形成時点で、埋め込み層とGe粒子の構成原子は、夫々の原子配列を乱さないように界面で結合している。そして、この状態を保ったまま、Ge粒子が形成された構造体は、冷却され使用される。すなわち、Ge粒子と埋め込み層を形成する半導体は、その温度に拘わらず、互いの構成原子が互いの原子配列を乱さないように規則正しく結合している。
【0196】
従って、実施の形態1に従う構造体では、使用温度に於けるGeと、埋め込み層を形成する半導体の格子定数の相違に起因して発生する歪だけに着目すればよい。
【0197】
(3)製造方法
次に、本実施の形態に従う構造体64の構成を製造手順に従って説明する。
【0198】
図13は、本実施の形態に従う構造体の製造手順を説明するフロー図である。
【0199】
(i)傾斜組成層、歪緩和層、及びGe粒子の形成(ステップS1〜S3)
実施の形態1で説明したステップS1〜S3に従って、Ge(001)基板28の上に、GeSn製の傾斜組成GeSn層30、同じくGeSn製の歪緩和GeSn層32(半導体単結晶66)、及びGe微粒子34が形成される。
【0200】
この時、Ge微粒子34には、その底面に平行な2軸方向の引張歪が発生する。
【0201】
(ii)金属膜の形成(ステップS4)
次に、製造途中の構造体64が627℃に昇温される。
【0202】
次に、厚さ100−300nmのW膜(金属膜68)がGe微粒子34の頂上及び側面に密着するように、例えば真空蒸着により形成される。
【0203】
その後、構造体64の温度が室温(27℃)に下げられる。この時、Ge微粒子34には、その底面に垂直な方向にも引張歪が発生する。その結果、Ge微粒子34には、3つに結晶軸全ての方向に引張歪が発生する。
【0204】
以上の手順によって、本構造体64が完成する。
【0205】
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に従えば、Geを具備した構造体に於いて、引張歪によるGeの直接エネルギーギャップEの縮小幅を、図1を参照して説明したGe薄膜をより広くすることができる。
【0206】
尚、以上の例ではGe粒子の頂上及び側面に密着する膜は金属であったが、SiO等の酸化膜を使用してもよい。
【0207】
(実施の形態5)
本実施の形態は、実施の形態4に従う構造体を受光層とする光半導体装置(光受光器)に関する。
【0208】
(1)構成及び製造方法
以下、本実施の形態に従う光半導体装置(光受光器)の構成を、製造手順に従って説明する。
【0209】
図14は、本実施の形態の従う光半導体装置(光受光器70)の構成を説明する断面図である。図15は、本実施の形態に従う光半導体装置(光受光器70)の製造手順を説明するフロー図である。
【0210】
(i)SGOI基板の形成および歪緩和層の形成、(ステップS1〜S2)
まず、実施の形態2で説明したステップS1及びS2と略同じ手順によって、SGOI基板44およびGeSn製の歪緩和層46が形成される。
【0211】
(ii)受光層の形成(ステップS3)
次に、アンドープGeSn層48が形成される。
【0212】
次に、実施の形態4のステップS3と略同じ手順に従って、Ge微粒子34が形成される。ここで、Ge微粒子34の底辺の幅は10〜100nmであり、Ge微粒子34の高さも10〜100nmである。
【0213】
次に、このGe微粒子34を覆うn型GeSn製の被覆層72が形成される。但し、この被覆層72は省略されてもよい。
【0214】
(iii)金属膜の形成(ステップS4)
次に、実施の形態4のステップS4と同じ手順によって、W製の金属膜68が形成される。
【0215】
(iv)電極の形成(ステップS5)
次に、リソグラフィー技術とエッチングによって、n型GeSn製の被覆層72からアンドープGeSn層48までが部分的に除去されて、p型GeSn製の歪緩和層46の表面が露出される。
【0216】
この露出面にp電極58が形成されて、本光受光器70が完成する。
【0217】
尚、本受光器70では、金属膜68がn電極となる。
【0218】
(3)動 作
本受光器70は、実施の形態2の光受光器37に準じて動作する。
【0219】
従って、本受光器70によれば、Lバンドを含む広い波長範囲の光を検出することができる。また、本受光器70が形成されたSi基板38に集積回路を形成すれば、他のSi基板に形成された集積回路で発生した光信号を本受光器70が受信し、光電変換した信号を同一基板上の集積回路に受け渡すことができる。
【0220】
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に従えば、Geによって光吸収層が形成された受光器に於いて、引張歪による検出波長限界を長波長化することができる。
【0221】
以上の実施の形態をまとめると、次の付記のとおりである。
【0222】
(付記1)
ゲルマニウム粒子と、
前記ゲルマニウム粒子の周囲を覆って、前記ゲルマニウム粒子を埋め込む埋め込み層を具備し、
前記埋め込み層が、前記ゲルマニウム粒子の3つの結晶軸方向夫々に於いて、引張歪を前記ゲルマニウム粒子に発生させている、
構造体。
【0223】
(付記2)
付記1に記載の構造体において、
前記前記ゲルマニウム粒子が、量子ドットであることを、
特徴とする構造体。
【0224】
(付記3)
付記1又は2に記載の構造体において、
各結晶軸方向の歪の和が0.0054以上で、
且つ、各結晶軸方向の歪の絶対値が0.02以下あることを、
特徴とする構造体。
【0225】
(付記4)
付記1乃至3に何れかに記載の構造体において、
前記埋め込み層が、ゲルマニウムより格子定数が大きな半導体単結晶によって形成され、
前記ゲルマニウム粒子及び前記半導体単結晶を形成する原子が、夫々の原子配列が連続するように、前記ゲルマニウム粒子及び前記半導体単結晶の界面で結合していることを、
特徴とする構造体。
【0226】
(付記5)
付記4に記載の構造体において、
前記半導体単結晶が、
Ge1−xSn (但し、0<x<1)
によって形成さていることを、
特徴とする構造体。
【0227】
(付記6)
付記4に記載の構造体において、
前記半導体単結晶が、
SiGe1−x−ySn (但し、0<x,y<1)
によって形成さていることを、
特徴とする構造体。
【0228】
(付記7)
付記1乃至3の何れかに記載の構造体において、
前記埋め込み層が、
前記ゲルマニウム粒子の底面に接し、ゲルマニウムより格子定数の大きな半導体単結晶と、
前記ゲルマニウム粒子の頂上及び側面に密着し、熱膨張係数がゲルマニウムより小さい金属膜又は酸化物膜とによって形成され、
前記ゲルマニウム粒子及び前記半導体単結晶を形成する原子が、夫々の原子配列が連続するように前記底面で結合し、
前記金属膜又は前記酸化物膜が、前記構造体の使用温度より高い温度で前記ゲルマニウム粒子に密着するように形成されたことを、
特徴とする構造体。
【0229】
(付記8)
付記1乃至7の何れかに記載の構造体を、
光を受けてフォトキャリアを生成する受光層、又は電流が注入されて光を生成する発光層とする、
光半導体装置。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】引張歪を導入して直接エネルギーギャップEを縮小したGe薄膜の構成を説明する断面図である。
【図2】Ge薄膜とGe1−xSnバッファ層の界面に於ける原子配列を説明する図である。
【図3】Geの波数空間に於けるバンド構造を説明する図である。
【図4】実施の形態1に従う構造体の構成を説明する断面図である。
【図5】Ge粒子と埋め込み層(半導体単結晶)の界面に於ける原子配列を説明する図である。
【図6】実施の形態1に従う構造体の一例を説明する断面図である。
【図7】実施の形態1に従う構造体の製造手順を説明するフロー図である。
【図8】実施の形態2の従う光半導体装置(受光器)の構成を説明する断面図である。
【図9】実施の形態2に従う光半導体装置(受光器)の製造手順を説明するフロー図である。
【図10】実施の形態3の従う光半導体装置(発光ダイオード)の構成を説明する断面図である。
【図11】実施の形態3に従う光半導体装置(発光ダイオード)の製造手順を説明するフロー図である。
【図12】実施の形態4の従う構造体の構成を説明する断面図である。
【図13】実施の形態4に従う構造体の製造手順を説明するフロー図である。
【図14】実施の形態5の従う光半導体装置(受光器)の構成を説明する断面図である。
【図15】実施の形態5に従う光半導体装置(受光器)の製造手順を説明するフロー図である。
【符号の説明】
【0231】
2・・・Ge薄膜 4・・・Si(100)基板
6・・・Ge1−xSnバッファ層 8・・・価電子帯の頂上
9・・・伝導帯の底
10・・・(Ge薄膜とGe1−xSnバッファ層の)界面
11・・・Γ点における伝導帯の底
12・・・構造体(実施の形態1) 14・・・ゲルマニウム粒子
16・・・埋め込み層 18,20・・・Ge原子
22・・・Sn原子 24・・・原子
26・・・(Ge粒子と埋め込み層の)界面 28・・・Ge(001)基板
30・・・傾斜組成GeSn層 32・・・Ge1−xSn層(歪緩和GeSn層)
34・・・Ge微粒子 36・・・被覆層
37・・・光受光器(実施の形態2) 38・・・Si基板
39・・・入射光 40・・・SiO
42・・・SiGe層 44・・・SGOI基板
46・・・歪緩和層 48・・・アンドープGeSn層
49・・・受光層
50・・・n型GeSn層 52・・・発光ダイオード
54,58・・・アンドープSiGeSn層
56・・・発光層 58・・・p電極
60・・・n電極 62・・・出射光
64・・・構造体(実施の形態4) 66・・・半導体単結晶
68・・・金属膜 70・・・受光器(実施の形態5)
72・・・(n型GeSn製の)被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム粒子と、
前記ゲルマニウム粒子の周囲を覆って、前記ゲルマニウム粒子を埋め込む埋め込み層を具備し、
前記埋め込み層が、前記ゲルマニウム粒子の3つの結晶軸方向夫々に於いて、引張歪を前記ゲルマニウム粒子に発生させている、
構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体において、
各結晶軸方向の歪の和が0.0054以上で、
且つ、各結晶軸方向の歪の絶対値が0.02以下あることを、
特徴とする構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の構造体において、
前記埋め込み層が、
前記ゲルマニウム粒子の底面に接し、ゲルマニウムより格子定数の大きな半導体単結晶と、
前記ゲルマニウム粒子の頂上及び側面に密着し、熱膨張係数がゲルマニウムより小さい金属膜又は酸化物膜とによって形成され、
前記ゲルマニウム粒子及び前記半導体単結晶を形成する原子が、夫々の原子配列が連続するように前記底面で結合し、
前記金属膜又は前記酸化物膜が、前記構造体の使用温度より高い温度で前記ゲルマニウム粒子に密着するように形成されたことを、
特徴とする構造体。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の構造体を、
光を受けてフォトキャリアを生成する受光層、又は電流が注入されて光を生成する発光層とする、
光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−103430(P2010−103430A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275806(P2008−275806)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】