説明

樹脂封止装置

【課題】比較的大容量で樹脂特性が同一若しくは異なる多様なワークに応じた最適な条件でトランスファ成形を行うことが可能な汎用性の高い樹脂封止装置を提供する。
【解決手段】マルチプランジャユニット16は、ワークに応じて少なくとも下型用ポット14内の樹脂を第1のタイミングで送り出す下型プランジャ14aとそれより遅い第2のタイミングで上型用ポット15内の樹脂を送り出す上型のプランジャ15aを駆動するプランジャ駆動部17を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークをトランスファ成形する樹脂封止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のECUやMCMデバイス等の大容量のワークを高品質でトランスファ成形する必要性が高まっている。また、車載用のECU等の電子モジュールにおいては、回路基板の両面に電子部品が実装されており、なかでもアルミコンデンサーのようなディスクリート部品は、大きな樹脂圧力(例えば1MPa以上)を加えることができない。
したがって、ワークに応じて低圧成形とそれより樹脂圧が高い高圧成形、樹脂弾性、封止材料などの同一パッケージ内で樹脂特性の異なる樹脂モールドを行う必要性がある。
【0003】
また、樹脂量が大容量化したパッケージをトランスファ成形する場合、ポット、ランナ、ゲートを通じてキャビティ凹部に樹脂が圧送りされることから、成形マージンが拡大し、金型摩耗も進み易いなどの不具合も生ずる。
【0004】
比較的大容量のワークを樹脂モールドするトランスファモールド装置としては、キャビティに溶融樹脂を注入する第1のプランジャ以外にキャビティからあふれ出る余剰樹脂の樹脂圧によって押し戻される第2のプランジャをキャビティ凹部に設けたことにより、パッケージ部に形成される突起の高さを抑えた構成が提案されている(特許文献1参照)。
また、マルチプランジャによる注入圧力のばらつきをなくし、短時間で樹脂充填を完了させる樹脂封止装置として、筐体内に複数設けられたプランジャを筐体ごと駆動させる主駆動装置と、筐体内で個別にプランジャを駆動する補助駆動装置を設けた構成が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−299358号公報
【特許文献2】特開平11−207773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1,2のトランスファモールド装置では、大容量のワークを高品質でトランスファ成形することができない。更にはアルミコンデンサーのような低圧成形が必要な電子部品とそれより樹脂圧が高い高圧成形を同一パッケージの成形で実現することは困難であるうえに、樹脂弾性、封止材料などの同一パッケージ内で樹脂特性の異なる樹脂モールドを行うことはできない。
【0007】
本発明は上記従来技術の課題を解決し、比較的大容量で樹脂特性が同一若しくは異なる多様なワークに応じた最適な条件でトランスファ成形を行うことが可能な汎用性の高い樹脂封止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
少なくとも一方のクランプ面にキャビティ凹部が形成され、該キャビティ凹部に位置合わせして供給されたワークをクランプする一対のキャビティインサートと、プランジャを各々昇降可能に収納されたポットが複数組み付けられ、各ポットから送り出される樹脂路が形成された一対のセンターインサートと、前記キャビティインサート及びセンターインサートを各々支持する一対の金型チェイスと、前記一対の金型チェイスを各々支持する一対の金型ベースと、前記複数のポット内に各々昇降可能に組み付けられたプランジャを複数有するマルチプランジャユニットと、を具備し、前記マルチプランジャユニットは、ワークに応じて少なくともポット内の樹脂を第1のタイミングで送り出す第1プランジャとそれより遅い第2のタイミングで送り出す第2のプランジャを駆動するプランジャ駆動部を備えていることを特徴とする。
上記構成によれば、マルチプランジャユニットは、ポット内の樹脂を第1のタイミングで送り出す第1プランジャとそれより遅い第2のタイミングでポット内の樹脂を送り出す第2のプランジャを駆動するので、各ポットの樹脂圧や樹脂供給量を同一若しくは異ならせて、比較的大容量で樹脂特性が同一若しくは異なる多様なワークに応じた最適な条件でトランスファ成形を行うことができる。
【0009】
前記キャビティ凹部に金型クランプ前に供給される樹脂と前記ポット内に供給される樹脂は樹脂特性が同質若しくは異質の樹脂が用いられるようにしてもよい。
この場合、樹脂特性が同質の樹脂の場合には、大容量のパッケージを効率よく樹脂成形することができる。また樹脂特性が異なる場合には、ワークに搭載された電子部品のデバイス条件に合わせた樹脂充填(低圧成形と高圧成形)を同時に実現することができる。
【0010】
前記ワーク上に予め液状樹脂若しくは顆粒樹脂が供給された状態でキャビティ凹部にセットされて前記一対のキャビティインサートにクランプされるようにしてもよい。
この場合には、ワーク上に供給された液状樹脂若しくは顆粒樹脂は流動が少なく最終樹脂圧を加えるための所定の樹脂量をトランスファ成形によりポットからキャビティ凹部へ圧送りすれば足りるので効率よく樹脂封止することができる。
【0011】
回路基板の両面に電子部品が実装されたワークの一方の電子部品がキャビティ凹部に溶融した樹脂に浸漬された状態で当該ワークが前記一対のキャビティインサートにクランプされるようにしてもよい。
これにより、アルミコンデンサーのような低圧成形が必要な電子部品をキャビティ凹部内の溶融樹脂に浸漬させて1MPa以下の低圧成形を行うことができ、その他の電子部品は、トランスファ成形によりポットからそれより樹脂圧が高い溶融樹脂を圧送りして高圧成形を行うことができる。
【0012】
下型キャビティインサートに形成された下型キャビティ凹部には、前記ワークの基板部を支持する支持ピンが退避可能に設けられているのが好ましい。
これによれば、ワークが車載用のECU等であっても、基板が下型キャビティ凹部内で撓むのを防いで樹脂封止することができる。
【0013】
前記第1のタイミングで下型キャビティ凹部へ樹脂を送り出す下型プランジャとそれより遅い第2のタイミングで上型キャビティ凹部へ樹脂を送り出す上型プランジャを備えていてもよい。
この場合、下型キャビティ凹部へ予め樹脂を供給して溶融樹脂にワークの電子部品を浸漬することができ、上型キャビティ凹部へポットから溶融樹脂を圧送りして最終樹脂圧となるように樹脂封止することができる。よって、樹脂特性が異なるワークに搭載された電子部品のデバイス条件に合わせた樹脂成形(低圧成形と高圧成形)を同時に実現することができる。
【0014】
前記プランジャ駆動部には、プランジャを付勢支持するコイルばねを備えた押動プレートを備えていてもよい。
これにより、第1プランジャのみをコイルばねに支持し第2プランジャを押動プレートに支持して樹脂圧を変更してもよいし、第1プランジャ及び第2プランジャを復元力の異なるコイルばねに支持して樹脂圧を変更してもいずれでもよい。
【0015】
前記プランジャ駆動部は、複数のプランジャを個別に駆動する駆動源が各々設けられていてもよい。
この場合には、各駆動源の駆動制御により、成形条件を同一条件若しくは異なる条件下でワークである電子部品の多様なデバイス条件に合わせて同一若しくは異なる樹脂特性で樹脂モールドを行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、比較的大容量で樹脂特性が同一若しくは異なる多様なワークに応じた最適な条件でトランスファ成形を行うことが可能な汎用性の高い樹脂封止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】型開閉時の樹脂封止装置の要部断面図、下型平面図、上型平面図、下型プランジャを含むインサート断面図、上型プランジャを含むインサート断面図である。
【図2】樹脂供給形態を示す下型インサート断面図である。
【図3】図1の樹脂封止装置を用いた樹脂モールド動作のインサート断面説明図である。
【図4】下型プランジャ上昇時の樹脂封止装置の要部断面図、下型平面図、下型プランジャを含むインサート断面図、上型プランジャを含むインサート断面図である。
【図5】上型プランジャ上昇時の樹脂封止装置の要部断面図、下型平面図、下型プランジャを含むインサート断面図、上型プランジャを含むインサート断面図である。
【図6】他例に係る樹脂封止装置の要部断面図及び下型平面図である。
【図7】他例に係る樹脂封止装置のワーククランプ時の要部断面図及び下型成形時の要部断面図である。
【図8】図7に続く上型成形時の要部断面図である。
【図9】他例に係る樹脂封止装置の要部断面図、下型平面図、下型プランジャを含むインサート断面図、上型プランジャを含むインサート断面図である。
【図10】他例に係る下型平面図である。
【図11】他例に係る樹脂封止装置の要部断面図及び下型平面図である。
【図12】他例に係る樹脂封止装置の要部断面図及び下型平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施例]
以下、本発明に係る樹脂封止装置の好適な実施の形態について添付図面と共に詳述する。
先ず、樹脂封止装置の要部構成について図1(A)〜(E)を参照して説明する。ワークとしては、車載用ECUなどの、基板両面に電子部品1が搭載された回路基板2(樹脂基板、セラミック基板等)を例示して説明する。
【0019】
図1(A)において、上型3には上型キャビティインサート4、上型センターインサート5(上型ポットインサート)が上型チェイス6(金型チェイス)に組み付けられている。上型チェイス6は、上型ベース7(金型ベース)に支持されている。なお、センターインサートを挟んで両側にキャビティインサートがあっても良い。以下では、説明上わかり易い様に片側のみのキャビティインサートを図示して説明するものとする。
【0020】
図1(C)に示すように上型キャビティインサート4には上型キャビティ凹部4a、これに連なる上型ランナゲート4bが2か所に形成されている。また、上型センターインサート5には、上型ランナゲート4bに各々連なる上型ランナ5a、上型ランナ5aに各々連なる上型カル5b、上型カル5bの間に配置された下型キャビティ用の上型カル5c及びこれに連なる下型キャビティ凹部9aへ接続する上型ランナ5dが形成されている。
【0021】
図1(A)において、下型8には、下型キャビティインサート9、下型センターインサート10(下型ポットインサート)が下型チェイス11(金型チェイス)に組み付けられている。下型チェイス11は、下型ベース12(金型ベース)に支持されている。また、下型チェイス11と下型ベース12との間には、エジャクタピン(図示せず)を起立形成したエジェクタピンプレート13が設けられている。エジャクタピンは、金型クランプ状態で下型キャビティ凹部と面一に退避しており、型開きすると同時に下型キャビティ凹部より突出して成形品を離型するようになっている。
【0022】
また、図1(B)に示すように、下型キャビティインサート9には下型キャビティ凹部9a、これに連なる下型ランナゲート9bが1か所に形成されている。下型キャビティ凹部9aの周囲にはそれより凹部深さが浅い基板搭載部9cが形成されている。
また、下型センターインサート10には、上型センターインサート5の上型ランナ5dと下型ランナゲート9bとの間を接続する下型ランナ10aが形成されている。また、下型センターインサート10には、下型用ポット14とその両側に上型用ポット15が設けられている。
【0023】
図1(A)において、下型センターインサート10の下方には、マルチプランジャユニット16が設けられている。下型ポット14には下型プランジャ14aが挿入されて組み付けられており、上型ポット15には上型プランジャ15aが挿入されて組み付けられている。
【0024】
プランジャ駆動部17には、上型プランジャ15aを支持する支持プレート17aと、下型プランジャ14aを支持する押動プレート17bが設けられている。下型プランジャ14aはコイルばね18を介して支持されている。上型プランジャ15aは支持プレート17aに固定されている。支持プレート17aは押動プレート17bに対して接離動可能に支持されている。押動プレート17bは、図示しない駆動源(電動モータ等)により駆動伝達されて昇降するようになっている。押動プレート17bの支持プレート17aと対向する対向面にはストッパー部17cが設けられている。
【0025】
後述するように、プランジャ駆動部17は、ワークに応じて少なくとも下型用ポット14内の樹脂を下型プランジャ14a(第1プランジャ)により第1のタイミングで送り出し、上型用ポット15内の樹脂を上型プランジャ15a(第2プランジャ)によりそれより遅い第2のタイミングで送り出すようになっている第2のプランジャを駆動する。
【0026】
尚、上記モールド金型には、上型及び下型のクランプ面に各々キャビティ凹部が設けられているが、少なくとも一方のクランプ面にキャビティ凹部が形成されていてもよい。また、マルチプランジャユニット16は、ワークに応じて少なくともポット内の樹脂を第1のタイミングで送り出す第1プランジャとそれより遅い第2のタイミングでポット内の樹脂を送り出す第2プランジャを駆動するプランジャ駆動部を備えていればそれ以上のプランジャを異なるタイミングで駆動してもよい。
【0027】
上記構成によれば、マルチプランジャユニット16は、下型用ポット14内の樹脂を第1のタイミングで送り出す下型プランジャ14aとそれより遅い第2のタイミングで上型用ポット15内の樹脂を送り出す上型プランジャ15aを駆動するので、各ポットの樹脂圧や樹脂供給量を同一若しくは異ならせて、比較的大容量で樹脂特性が同一若しくは異なる多様なワークに応じた最適な条件でトランスファ成形を行うことができる。
【0028】
図1(D)(E)に示すように、下型キャビティインサート9に形成された下型キャビティ凹部9aには、回路基板2を支持する支持ピン19が退避可能に設けられている。支持ピン19は、図1(B)に示すように、下型キャビティ凹部9aの4箇所にあるコーナー部近傍に4本設けられている。ワークが搬入されたモールド金型をクランプする際に、支持ピン19は回路基板2を支持しており、上型キャビティ凹部4a及び下型キャビティ凹部9aに最終的な樹脂圧が加わるまでに下型キャビティ9aより退避するようになっている。これによれば、ワークが車載用のECU等であっても、回路基板2が下型キャビティ凹部9a内で撓むのを防いで樹脂封止することができる。
【0029】
尚、下型キャビティ凹部9aに供給される樹脂と下型用ポット14、上型用ポット15内に供給される樹脂は樹脂特性が同質若しくは異質の樹脂のいずれが用いられるようにしてもよい。
この場合、樹脂特性が同質の樹脂の場合には、大容量のパッケージを効率よく樹脂成形することができる。また樹脂特性が異なる場合には、ワークに搭載された電子部品のデバイス条件に合わせた樹脂充填(低圧成形と高圧成形)を同時に実現することができる。
【0030】
また、図2に示すように、ワーク(回路基板2)上に予め液状樹脂若しくは顆粒樹脂20が供給された状態で下型8の基板搭載部9c(図1(B)参照)にセットされて上型キャビティインサート4及び下型キャビティインサート9にクランプされるようにしてもよい。尚、下型キャビティ凹部9aには、ワークが供給される前から予め液状樹脂若しくは顆粒樹脂20が供給されている。
この場合には、ワーク上に供給された液状樹脂若しくは顆粒樹脂20は流動が少なく最終樹脂圧を加えるための所定の樹脂量をトランスファ成形によりポットからキャビティ凹部へ圧送りすれば足りるので効率よく樹脂封止することができる。
【0031】
次に、樹脂モールド動作の一例を図3乃至図6を参照して説明する。
図3(A)において、モールド金型が型開きした状態を示す。このとき、下型キャビティインサート9の下型キャビティ凹部9aには、支持ピン19が突出した状態にある。
この状態で図3(B)に示すように、下型キャビティ凹部9a及び下型用ポット14内に顆粒状樹脂20(若しくは液状樹脂)を供給する。尚、図示しないが、上型用ポット15にも顆粒状樹脂20(若しくは液状樹脂)が供給される。
【0032】
図3(C)において、下型8に内蔵されたヒータ(図示せず)によりプレヒートされて下型キャビティ凹部9a内及び下型用ポット14内の樹脂20が溶融する。
この状態で、ワークである回路基板2を基板載置部9c(図1(B)参照)に位置あわせして載置する。このとき、図3(D)に示すように電子部品1のうち低圧成形に適したアルミコンデンサーを下型キャビティ凹部9aの樹脂20に浸漬させるように回路基板2をセットする。回路基板2は、比較的大判サイズであっても支持ピン19に支持されるため、撓むことはない。
【0033】
次に図3(E)(F)に示すように、上型3と下型8(モールド金型)により回路基板2をクランプし、プランジャ駆動部17を作動させて下型用ポット14から樹脂20を下型キャビティ凹部9aへ充填し(図4(C))、上型用ポット15から樹脂20を上型キャビティ凹部4aに充填する(図4(D))。
【0034】
樹脂充填動作について、図4及び図5を参照して説明する。
図4(A)において、プランジャ駆動部17は、先ず図示しない駆動源が作動すると押動プレート17bを上昇させる。押動プレート17bは、ストッパー部17cが支持プレート17aに突き当たるまで上昇する。このとき、図4(A)(B)においてコイルばね18を介して下型プランジャ14aのみが第1のタイミングで下型用ポット14内を上昇し、図4(C)に示すように、当該ポット内の溶融樹脂20を上型カル5c、上型ランナ5d、下型ランナゲート9bを通じて下型キャビティ凹部9aに充填する。充填する樹脂圧は、1MPa以下の低圧成形である。下型キャビティ凹部9aには予め樹脂20が供給されているのでアルミコンデンサーなどの電子部品1が下型キャビティ凹部9a内の溶融樹脂20浸漬しているため、デバイス条件に見合った樹脂圧で樹脂成形することができる。
また、図4(D)に示すように、上型用ポット15内には樹脂20が充填されたまま、上型プランジャ15aが待機状態にある。
【0035】
次に、プランジャ駆動部17は、押動プレート17bがストッパー部17cか支持プレート17aに突き当てたまま更に上昇を続けると、支持プレート17aを一体となって押し上げる。これにより、図5(A)(B)に示すように、下型プランジャ14aより遅い第2のタイミングで上型プランジャ15aを上昇させ、図5(D)に示すように上型カル5b,上型ランナ5a,上型ランナゲート4bを通じて上型キャビティ凹部4aへ上型用ポット15内の溶融樹脂20を充填する。充填する樹脂圧は、1MPaより大きい最終樹脂圧に相当する高圧成形である。下型キャビティ凹部9a内に突出して回路基板2を支持していた支持ピン19は、下型樹脂充填後、硬化する前に下型キャビティ凹部9a内より退避している。また、図5(C)に示すように、下型用ポット14内の下型プランジャ14aは上昇したまま停止状態にある。
【0036】
これにより、アルミコンデンサーのような低圧成形が必要な電子部品1を下型キャビティ凹部9a内の溶融樹脂20に浸漬させて1MPa以下の低圧成形を行うことができ、その他の電子部品1は、トランスファ成形により下型用ポット14及び上型用ポット15からそれより樹脂圧が高い溶融樹脂20を圧送りして高圧成形を行うことができる。よって、樹脂特性が異なるワークに搭載された電子部品のデバイス条件に合わせた樹脂充填(低圧成形と高圧成形)を同時に実現することができる。
【0037】
またワークを構成する回路基板2には、上型キャビティインサート4,下型キャビティインサート9に各々形成されたキャビティ凹部を連通する貫通孔が設けられていてもよい。この場合には、上型キャビティインサート4,下型キャビティインサート9の双方に各々ゲートを形成する必要がなく、キャビティ凹部内で溶融樹枝が貫通孔を通じて各キャビティ凹部内に充填されるので、金型の摩耗を低減することができる。この場合、上型及び下型のキャビティ凹部に充填される樹脂は、異なる種類の樹脂特性及び条件であっても良いが、同一の樹脂特性及び条件の樹脂が好ましい。
【0038】
[第2実施例]
次に樹脂封止装置の他の構成について図6を参照して説明する。尚、第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
図6(A)に示すように、下型センターインサート10には、下型用ポット14が2か所に組み付けられており、下型用ポット14に挟まれて上型用ポット15が組み付けられている。下型用ポット14には下型プランジャ14aが各々挿入されており、上型用ポット15には上型プランジャ15aが挿入されている。プランジャ駆動部17において、2本の下型プランジャ14aは押動プレート17bにコイルばね18を介して支持されている。また、上型プランジャ15aは、支持プレート17aに固定されている。
【0039】
図6(B)において、下型センターインサート10には、下型ランナ10aが形成され、下型キャビティインサート9にはこれに連通する下型ランナゲート9bが形成されている。例えばワークが、回路基板2上に電子部品1が集積された大容量のパッケージを形成する場合、低圧成形で下型キャビティ凹部9aに充填する樹脂量を増やす場合にこのような構成を採用することができる。
尚、本実施例は下型用ポットが2本の上型用ポットが1本の場合を例示したが、ポット及びプランジャの数は更にバリエーションを増やすことも可能である。
【0040】
[第3実施例]
樹脂封止装置の他例について図7及び図8を参照して説明する。尚、第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。プランジャ駆動部17には、複数のプランジャを付勢支持する弾性力の異なるコイルばねを備えた押動プレート17bを備えていてもよい。
【0041】
図7(A)において、押動プレート17bには、下型プランジャ14aがコイル長さの長いコイルばね18aにより支持されている。また、押動プレート17bには上型プランジャ15aがコイル長の短いコイルばね18bにより支持されている。コイルばね18bの復元力はコイルばね18aの復元力より大きいものが用いられる。各プランジャは支持プレート17aを貫通して支持されている。
【0042】
図7(A)は、上型3及び下型8でワーク(回路基板2)をクランプした状態を示す。下型用ポット14及び上型用ポット15には各々最終樹脂圧でモールドするための樹脂20(タブレット樹脂、顆粒状樹脂、液状樹脂等)が装填されている。この時、コイルばね18a,18bはプランジャ及び樹脂の重量分だけ押し縮められる。
【0043】
次に、図7(B)において、プランジャ駆動部17を作動させて押動プレート17bを上昇させると、コイルばね18aが押し縮められて下型プランジャ14aが第1のタイミングで上昇して、下型用ポット14内の溶融樹脂20が下型キャビティ凹部9a内に低圧で充填される。このときコイルばね18bのばね長は変わらないので、上型プランジャ15aは待機状態にある。
【0044】
図8において、押動プレート17bが更に上昇を続けるとコイルばね18bが押し縮められて上型プランジャ15aが第1のタイミングに遅れて第2のタイミングで上昇し上型用ポット15内の溶融樹脂20が上型キャビティ凹部4aに最終樹脂圧まで高めて充填される。押動プレート17bの上昇動作はストッパー部17cが支持プレート17aに突き当たる位置で停止する。このように、復元力の異なるコイルばねを用いて複数プランジャ間の樹脂圧を変更するようにしてもよい。
【0045】
[第4実施例]
樹脂封止装置の他例について図9を参照して説明する。尚、第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。本実施例は、図9(C)(D)に示すように、ワークが回路基板2の片面のみをモールドする場合について説明する。上型3において、上型キャビティインサート4には上型キャビティ凹部4aこれに接続する上型センターインサート5に樹脂路は形成されてない。また、下型キャビティ凹部9aのみであるため、上型用ポット15及び上型プランジャ15aも設けられていない。
下型キャビティ凹部9aのみではあるが、基板実装された電子部品1によっては樹脂が充填し難い場合があり、更にはデバイス条件による樹脂圧の制約があるため、低圧成形とそれより高い高圧成形に分けて樹脂モールドする必要がある。尚、樹脂20は樹脂特性が同じであるが、異ならせてもよい。
【0046】
図9(A)において下型センターインサート10には、下型用ポット14及び下型プランジャ14aが3か所に組み付けられている。
プランジャ駆動部17には、中央部の下型プランジャ14aがコイルばね18を介して押動プレート17bに支持されており、その両側の下型プランジャ14aは支持プレート17aに固定されている。図9(B)において、下型センターインサート10には下型ランナ10a、下型キャビティインサート9には下型ランナゲート9bが形成され、これらは下型キャビティ凹部9aと連通している。図9(C)において、上型センターインサート5には、上型カル5c、上型ランナ5dが下型ランナ10aと連通するように形成されている。
【0047】
図9(A)において、プランジャ駆動部17を作動させて押動プレート17bを上昇させると、コイルばね18が押し縮められて中央部の下型プランジャ14aが第1のタイミングで上昇して、中央部の下型用ポット14内の溶融樹脂20が下型キャビティ凹部9a内に低圧で充填される。このとき両側の下型プランジャ14aは待機状態にある。
【0048】
押動プレート17bが更に上昇を続けストッパー部17cが支持プレート17aに突き当たると両側の下型プランジャ14aが第1のタイミングに遅れて第2のタイミングで上昇し両側の下型用ポット14内の溶融樹脂20が下型キャビティ凹部9aに最終樹脂圧まで高めて充填される。
【0049】
尚、図9(C)に示すワーク(回路基板2)を支持する支持ピン19は、省略することも可能である。また、図9(D)に示すように、下型キャビティ凹部9aには、ワーク搬入前に顆粒状樹脂若しくは液状樹脂20が予め所定量供給されていても良いし、省略することも可能である。
【0050】
また、ワークが片面モールドする製品の場合、図10に示すように、下型キャビティインサート9の下型キャビティ凹部9aを仕切る可動仕切り壁21を進退可能に設けてもよい。この場合には、電子部品1に囲まれて樹脂が充填し難い成形エリアPに第1のタイミングで先に樹脂を充填しておき、次いで第2のタイミングで成形エリアQに樹脂を充填し、下型キャビティ凹部9aに樹脂充填が完了する前に可動仕切り壁21を退避させることが好ましい。
【0051】
これにより、同一パッケージの成形において可動仕切り壁21で複数成形エリアP,Qに仕切った状態で樹脂成形することができ、ワークである電子部品1の集積度に合わせた樹脂充填性を確保することができる。
尚、上記実施例では、下型8に下型キャビティ凹部9aが設けられている場合について説明したが、上型3に上型キャビティ凹部4aのみが設けられている場合でも適用することができる。
【0052】
[第5実施例]
樹脂封止装置の他例について図11を参照して説明する。尚、第4実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。本実施例は、上型3及び/又は下型8に設けられるキャビティ凹部は、各プランジャに対応する樹脂路から各々樹脂が供給されるようにしてもよい。
図11(B)に示すように、下型キャビティインサート9のクランプ面には、複数の下型キャビティ凹部9aが形成されており、各下型キャビティ凹部9aは接続ランナ9dにより直列状に接続されて3列に形成されている。下型センターインサート10の近傍の下型キャビティ凹部9aには下型ランナゲート9bが形成されている。また下型センターインサート10には下型ランナゲート9bに接続する下型ランナ10aが形成されている。下型センターインサート10には、図9(C)と同様に下型用ポット14に対向する上型カル5c、下型ランナ10aに接続する上型ランナ5dが形成されている。
【0053】
図11(A)において、下型センターインサート10には下型用ポット14及び下型プランジャ14aが、各下型キャビティ凹部9aの配列に応じて3か所に設けられている。プランジャ駆動部17の構成は、中央部の下型プランジャ14aと両側の下型プランジャ14aとで樹脂充填のタイミングを変えることが可能な構成であるが、押動プレート17bと支持プレート17aとを一体に昇降させることで、各下型キャビティ列に同じタイミングで樹脂20を充填するようにしてもよい。
【0054】
尚、ワークに応じて樹脂圧を変更したい場合には、例えば中央部の下型プランジャ14aを先に上昇させて低圧で樹脂を充填し、続いて両側に下型プランジャ14aを上昇させて樹脂をそれより高い樹脂圧で充填するようにしてもよい。
また、上記実施例は、片面モールドするワークについて説明したが、上型キャビティインサート4に上型キャビティ凹部4aが設けられている両面モールドするワークであってもよい。
この場合にも、キャビティ凹部に応じて同一若しくは異なる樹脂特性(樹脂圧、樹脂弾性、封止材料等)の樹脂モールドを行うことができる。
【0055】
[第6実施例]
樹脂封止装置の他例について図12を参照して説明する。尚、第5実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。本実施例は、プランジャ駆動部17に、複数のプランジャを個別に駆動する駆動源が各々設けられている。
【0056】
図12(B)に示すように、モールド金型の構成は図11(B)と同様に下型3に下型キャビティ凹部9aを複数列設け、これに合わせて下型キャビティインサート10に下型ポット14及び下型プランジャ14aを配置して片面モールドタイプの金型である。
【0057】
図12(A)において、プランジャ駆動部17には、中央部の下型プランジャ14aは、第1駆動部22(シリンダ、電動モータ等)により第1のタイミングで昇降し、その両側の下型プランジャ14aは第2駆動部23(シリンダ、電動モータ等)により第2のタイミングで各々昇降するようになっている。尚、第1,第2駆動部22,23は同一のタイミングで動作させることも可能である。
この場合には、各駆動源22,23の駆動制御により、成形条件を同一条件若しくは異なる条件下で、電子部品1の多様なデバイス条件に合わせて樹脂モールドすることができる。
【0058】
上述した樹脂封止装置は、下型ポット配置タイプのモールド金型を用いて説明したが、上型ポット配置のモールド金型であってもよい。また、上型2と下型3のいずれを固定型とし、いずれを可動型とするかは任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 電子部品 2 回路基板 3 上型 4 上型キャビティインサート 4a 上型キャビティ凹部 4b 上型ランナゲート 5 上型センターインサート 5b,5c 上型カル 5a,5d 上型ランナ 6 上型チェイス 7 上型ベース 8 下型 9 下型キャビティインサート 9a 下型キャビティ凹部 9b 下型ランナゲート 9c 基板搭載部 9d 接続ランナ 10 下型センターインサート 10a 下型ランナ 11 下型チェイス 12 下型ベース 13 エジェクタピンプレート 14 下型用ポット 14a 下型プランジャ 15 上型用ポット 15a 上型プランジャ 16 マルチプランジャユニット 17 プランジャ駆動部 17a 支持プレート 17b 押動プレート 17c ストッパー部 18 コイルばね 19 支持ピン 20 樹脂 21 可動仕切り壁 22 第1駆動部 23 第2駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方のクランプ面にキャビティ凹部が形成され、該キャビティ凹部に位置合わせして供給されたワークをクランプする一対のキャビティインサートと、
プランジャを各々昇降可能に収納されたポットが複数組み付けられ、各ポットから送り出される樹脂路が形成された一対のセンターインサートと、
前記キャビティインサート及びセンターインサートを各々支持する一対の金型チェイスと、
前記一対の金型チェイスを各々支持する一対の金型ベースと、
前記複数のポット内に各々昇降可能に組み付けられたプランジャを複数有するマルチプランジャユニットと、を具備し、
前記マルチプランジャユニットは、ワークに応じて少なくともポット内の樹脂を第1のタイミングで送り出す第1プランジャとそれより遅い第2のタイミングで送り出す第2のプランジャを駆動するプランジャ駆動部を備えていることを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項2】
前記キャビティ凹部に金型クランプ前に供給される樹脂と前記ポット内に供給される樹脂は樹脂特性が同質若しくは異質の樹脂が用いられる請求項1記載の樹脂封止装置。
【請求項3】
前記ワーク上に予め液状樹脂若しくは顆粒樹脂が供給された状態でキャビティ凹部にセットされて前記一対のキャビティインサートにクランプされる請求項1又は2記載の樹脂封止装置。
【請求項4】
回路基板の両面に電子部品が実装されたワークの一方の電子部品がキャビティ凹部に溶融した樹脂に浸漬された状態で当該ワークが前記一対のキャビティインサートにクランプされる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の樹脂封止装置。
【請求項5】
下型キャビティインサートに形成された下型キャビティ凹部には、前記ワークの基板部を支持する支持ピンが退避可能に設けられている請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の樹脂封止装置。
【請求項6】
前記第1のタイミングで下型キャビティ凹部へ樹脂を送り出す下型プランジャとそれより遅い第2のタイミングで上型キャビティ凹部へ樹脂を送り出す上型プランジャを備えた請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の樹脂封止装置。
【請求項7】
前記プランジャ駆動部には、プランジャを付勢支持するコイルばねを備えた押動プレートを備えている請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の樹脂封止装置。
【請求項8】
前記プランジャ駆動部は、複数のプランジャを個別に駆動する駆動源が各々設けられている請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の樹脂封止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−89668(P2013−89668A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226690(P2011−226690)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000144821)アピックヤマダ株式会社 (194)
【Fターム(参考)】