説明

機械の誤差同定方法およびプログラム

【課題】2つ以上の並進軸と1つ以上の回転軸を有する機械において、回転軸に関する幾何誤差と並進軸に関する幾何誤差とをほぼ同時に同定する。
【解決手段】回転軸であるC軸等を複数角度に割り出してターゲット球12を複数箇所に位置決めし、位置計測センサによりターゲット球12の3次元空間上の中心位置を計測し、計測された複数の中心位置計測値を円弧近似し、近似された円弧の1次もしくは2次成分等からC軸等の中心位置の誤差および傾き誤差並びに並進軸であるX軸,Y軸等の傾き誤差を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並進駆動軸と回転駆動軸を有する機械の幾何学的な誤差を同定する方法ないしプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
並進駆動軸と回転駆動軸を有する機械の一例として、部品や金型を加工する工作機械が挙げられる。このような工作機械においては、工具もしくは被加工物を回転させ、両者もしくはどちらかを相対運動させて除去加工することにより、被加工物を任意の形状に加工する。
【0003】
図1はこのような工作機械の1つである、3つの並進軸を有する3軸制御マシニングセンタ(3軸機)の模式図である。主軸頭2は、並進軸であり互いに直交するX軸、Z軸によって、ベッド1に対して並進2自由度の運動が可能であり、テーブル3は、並進軸でありX・Z軸に直交するY軸により、ベッド1に対して並進1自由度の運動が可能である。したがって、テーブル3に対して主軸頭2は並進3自由度を有する。各軸は数値制御装置により制御されるサーボモータ(図示せず)により駆動され、被加工物をテーブル3に固定し、主軸頭2に工具を装着して回転させ、被加工物と工具の相対位置を制御して加工を行う。
【0004】
図2は上記の工作機械の1つである、3つの並進軸および2つの回転軸を有する5軸制御マシニングセンタ(5軸機)の模式図である。主軸頭2は並進軸であり互いに直交するX軸、Z軸によってベッド1に対して並進2自由度の運動が可能である。テーブル3は回転軸であるC軸によってクレードル4に対して回転1自由度の運動が可能であり、クレードル4は回転軸であるA軸によってトラニオン5に対して回転1自由度の運動が可能であり、A軸とC軸は互いに直交している。さらに、トラニオン5は並進軸でありX・Z軸に直交するY軸によりベッド1に対して並進1自由度の運動が可能であり、したがって、主軸頭2はテーブル3に対して並進3自由度および回転2自由度の運動が可能であり、被加工物と工具の相対位置だけでなく相対姿勢も制御しながら加工を行うことができる。
【0005】
前記5軸機の運動精度に影響を及ぼす要因として、例えば、回転軸の中心位置の誤差(想定されている位置からのズレ)や回転軸の傾き誤差(回転軸と並進軸の平行度)等の各軸間の幾何学的な誤差(以下、幾何誤差と呼ぶ)がある。3軸機にも2つの並進軸間直角度等の幾何誤差は存在するが、5軸機の方が3軸機に比べて軸数が多いために幾何誤差の数が多い。すなわち、3軸機には各並進軸間の直角度が3つ、主軸頭の回転軸と並進軸との直角度2つの合計5つの幾何誤差が存在する。一方、5軸機では、回転軸に関し、各回転軸の中心位置誤差の2方向と傾き誤差2方向があるため、1つの回転軸あたり4つの幾何誤差があり、2つの回転軸を有するので8つの幾何誤差が存在する。また、5軸機では、並進軸に関し、3軸機と同様に、各並進軸間の直角度が3つ、主軸頭の回転軸と並進軸との直角度2つの合計5つの幾何誤差が存在する。よって、5軸機では、合計13個の幾何誤差が存在する。
【0006】
また、3軸機では回転軸中心のような基準がなく任意の加工点を基準にした相対加工となるが、5軸機では回転軸と被加工物もしくは工具との相対関係が想定した状態と異なる場合に誤差が発生することになる。すなわち、5軸機ではこれら幾何誤差の加工精度に対する影響が3軸機に比べて大きいことになる。幾何誤差の大きさがわかれば、調整により幾何誤差を小さくする、幾何誤差を考慮した指令プログラムにて制御する、幾何誤差を補正する制御を行う、等の方法により、高精度な加工を行うことができる。したがって、5軸機により高精度な加工を行うためには、5軸機の幾何誤差がどの程度であるかを知ることは大変重要である。
【0007】
5軸機の幾何誤差を同定する手段として、下記特許文献1に記載されるような方法が提案されている。すなわち、2つの球の中心間距離を測長可能な測定器であるボールバーを主軸頭側とテーブル側に取り付け、主軸頭側球とテーブル側球の中心間距離を一定に保つように、並進2軸を円弧運動させながら回転1軸を同期させて動作させ、主軸頭側球とテーブル側球間相対変位を測定する。得られた測定データは円弧軌跡であり、その中心偏差から回転軸に関する幾何誤差の一部を同定する。また、ボールバーの取り付け方向を変えることで異なる幾何誤差を同定でき、合計8個の回転軸に関する幾何誤差が同定できる。
【0008】
一方、5軸機の幾何誤差を同定する別の手段として、下記特許文献2に記載されるような方法が提案されている。この方法では、回転軸を割り出して、主軸頭に装着したタッチプローブによりテーブル上に固定した球の中心位置を複数測定する。測定した複数の球中心位置から平面を計算し、その法線ベクトルを実際の回転軸のベクトルとして理想のベクトルとの差分から回転軸の傾き誤差を求める。また、この実ベクトルを考慮して、前記複数の球中心位置測定値から、実際の回転軸中心位置を求め、理想の中心位置との差分から回転軸の中心位置誤差を求める。したがって、回転軸に関する8個の幾何誤差が同定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−219132号公報
【特許文献2】特開2005−61834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の方法では、高価な測定器であるダブルボールバーを使う必要があり、また、その操作に比較的熟練を要することから、誰でも簡単に行うことができないという課題がある。
【0011】
一方、特許文献2の方法では、使用するタッチプローブは比較的安価であり、また、被加工物の芯出し等の用途に使うために工作機械にオプションとして付随するものであることから新たに測定器を購入する必要がなく入手性がよい。さらに、測定用の動作を制御装置が行うため、熟練を要することもなく簡単に測定することができるという利点もある。しかし、回転軸に関する幾何誤差しか同定することができず、並進軸に関する幾何誤差を同定することができないという課題がある。並進軸の幾何誤差が存在する場合、測定した球中心位置にその影響が含まれるため、回転軸に関する幾何誤差を正確に同定することができない。並進軸に関する幾何誤差をあらかじめ別の方法で計測しておくことも可能であるが、幾何誤差は熱変位や経年変化等により変化するため、その変化の影響で正確に同定できなくなる場合がある。したがって、ある時点での幾何誤差を知るためには、全ての幾何誤差を同時に同定する必要がある。
【0012】
そこで、本発明のうち、請求項1,6では、回転軸に関する幾何誤差に加え、並進軸に関する幾何誤差もほぼ同時に同定する方法,プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、機械の誤差同定方法にあって、2軸以上の並進軸と1軸以上の回転軸を有する機械の前記並進軸および前記回転軸に関する幾何学的な誤差を制御手段によって同定する方法において、前記回転軸を複数角度に割り出して被測定治具を複数箇所に位置決めし、位置計測センサにより前記被測定治具の3次元空間上の位置を計測する計測ステップと、当該計測ステップにおいて計測された複数の位置計測値を円弧近似する円弧近似ステップと、当該円弧近似ステップにおいて近似された円弧から前記回転軸の中心位置の誤差および/または前記回転軸の傾き誤差、並びに前記並進軸の傾き誤差を算出する誤差算出ステップとを含むことを特徴とするものである。
【0014】
請求項2に記載の発明は、上記目的に加えて、精度を維持しながらより一層シンプルに同定する目的を達成するため、上記発明にあって、前記円弧近似ステップにおいて、前記位置計測値と前記回転軸の回転中心からの距離を半径とした円弧に近似し、前記誤差算出ステップにおいて、近似された円弧の2次成分から前記並進軸の傾き誤差を算出することを特徴とするものである。
【0015】
請求項3に記載の発明は、上記目的に加えて、精度を維持しながらより一層シンプルに同定する目的を達成するため、上記発明にあって、前記円弧近似ステップにおいて、前記位置計測値と前記回転軸の回転中心からの距離を半径とした円弧に近似し、前記誤差算出ステップにおいて、近似された円弧の1次成分から前記回転軸に関する幾何学的な誤差を算出することを特徴とするものである。
【0016】
請求項4に記載の発明は、上記目的に加えて、より複雑な機械においても簡易に精度良く同定する目的を達成するため、上記発明にあって、前記機械は前記回転軸を2軸以上有しており、前記計測ステップにおいて、複数角度に割り出す前記回転軸以外の前記回転軸を2つ以上の角度に割り出して計測を行うことを特徴とするものである。
【0017】
請求項5に記載の発明は、上記目的に加えて、精度を維持しながらより一層シンプルに同定する目的を達成するため、上記発明にあって、前記円弧近似ステップにおいて、前記位置計測値の前記回転軸と平行な軸方向成分を円弧に近似し、前記誤差算出ステップにおいて、近似された円弧の1次成分から前記回転軸の傾き誤差を算出することを特徴とするものである。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、上記の機械の誤差同定方法をコンピュータに実行させるための機械の誤差同定プログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回転軸に関する幾何誤差だけでなく並進軸に関する幾何誤差も同定することができる。また、それらの同定をほぼ同時に行うことができるため、熱変位等により変化したある時点での幾何誤差を知ることができ、高精度な加工を行うために役立てることができる。さらに、比較的安価で入手性の高いタッチプローブを位置計測センサとして用いれば、誰でも簡単に幾何誤差の同定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】3軸制御マシニングセンタの模式図である。
【図2】5軸制御マシニングセンタの模式図である。
【図3】本発明で用いるタッチプローブとターゲット球の一例の模式図である。
【図4】C軸を複数角度に割り出して測定する場合の測定位置の一例である。
【図5】A軸を複数角度に割り出して測定する場合の測定位置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態の例として、図2に示す5軸制御マシニングセンタにおけるコンピュータ(制御手段,図示せず)を用いた誤差の同定について、適宜図面に基づいて説明する。コンピュータは、5軸機の数値制御装置であっても良いし、これと接続された独立の制御装置であっても良いし、これらの組合せであっても良い。なお、当該形態は、下記の例に限定されない。
【0022】
まず、幾何誤差について説明する。幾何誤差を各軸間の相対並進誤差3方向および相対回転誤差3方向の合計6成分(δx,δy,δz,α,β,γ)であると定義する。図2の5軸機において、被加工物から工具までの軸のつながりは、C軸,A軸,Y軸,X軸,Z軸の順番であり、Z軸と工具間も考慮すると合計60個の幾何誤差が存在する。ここで、各幾何誤差を表す記号を、挟まれた2つの軸名称を添え字として表すことにする。例えば、C軸とA軸の間のY方向の並進誤差はδyCA,Y軸とX軸の間のZ軸周りの回転誤差はγYXと表す。また、工具を示す記号はTとする。
【0023】
前記60個の幾何誤差の中には冗長の関係にあるものが複数存在する。冗長の関係となるものにおいて1つを残し他を除外すると、最終的な幾何誤差はδxCA,δyCA,αCA,βCA,δyAY,δzAY,βAY,γAY,γYX,αXZ,βXZ,αZT,βZTの合計13個となる。γYX,αXZ,βXZ,αZT,βZTの5つは3軸機にも存在する並進軸に関する幾何誤差であり、それぞれ、X−Y軸間直角度,Y−Z軸間直角度,Z−X軸間直角度,工具−Y軸間直角度,工具−X軸間直角度である。それ以外の8つが回転軸に関する幾何誤差であり、それぞれ、C軸中心位置X方向誤差,C−A軸間オフセット誤差,A軸角度オフセット誤差,C−A軸間直角度,A軸中心位置Y方向誤差,A軸中心位置Z方向誤差,A−X軸間直角度,A−Y軸間直角度である。コンピュータには、これらの幾何誤差を記憶する記憶手段が含まれる。
【0024】
本発明では、図3に示すようなタッチプローブ11を主軸頭2に装着させ、測定対象となる被測定治具としてのターゲット球12をテーブル3に磁石等で固定し、その中心位置をコンピュータの指令に基づき計測する。タッチプローブ11はターゲット球12に接触したことを感知するセンサ(図示せず)を有し、接触を感知した場合に赤外線や電波等で信号を発することができる。コンピュータは、自身に接続された受信機でその信号を受信した瞬間もしくは遅れ分を考慮した時点の各軸の現在位置を測定値とし、当該測定値を記憶手段において記憶する。ターゲット球12の中心位置を測定するためには、ターゲット球12の半径が既知であれば最低3点、既知でなければ最低4点を接触させて計測することで求めることができる。したがって、タッチプローブ11をターゲット球12の中心位置を計測するための位置計測センサとして用いている。
【0025】
一方、位置計測センサの別の例としては、非接触で距離が測定できるレーザ変位計や、3つ以上の変位センサを用いて同時に球に接触させ、それぞれの計測値から球の中心位置を求める装置も従来技術として存在しており、タッチプローブ11の代用が可能である。
【0026】
次に、ターゲット球12の中心位置の計測値と幾何誤差の関係について説明する。なお、コンピュータには、当該関係に関する下記の各数式を計算するプログラムが含まれ、前記記憶手段には、当該プログラム、および下記各数式やその要素ないし変数等が記憶されている。
【0027】
ターゲット球12の中心位置がテーブル座標系(幾何誤差がない理想な状態でA・C軸の交点を原点とし、そのX軸は機械のX軸に平行であるテーブル3上の座標系)で(R,0,H)であるとする。幾何誤差がない場合のターゲット球12の中心位置計測値(x,y,z)はA軸角度をa,C軸角度をcとすると、次に示す[数1]で表すことができる。
【0028】
【数1】

【0029】
一方、ターゲット球12の取り付け位置誤差(δxWC,δyWC,δzWC)を含めた幾何誤差が存在する場合のターゲット球12の中心位置計測値(x’,y’,z’)に関する行列関係式は次の[数2]となる。ただし、幾何誤差が微小であるとして近似している。
【0030】
【数2】

【0031】
この[数2]を展開すると次の[数3]となる。ここで、式の簡略化のため、幾何誤差同士の積は微小であるとして0に近似している。
【0032】
【数3】

【0033】
続いて、幾何誤差の同定について説明する。なお、コンピュータには、当該同定に関する下記の各数式を計算するプログラムが含まれ、前記記憶手段には、当該プログラム、および下記各数式やその要素ないし変数等が記憶されている。
【0034】
始めに、テーブル3の上面が主軸2と垂直になる状態(A軸角度a=0°)にA軸を割り出し、C軸角度cを0°から任意の角度ピッチで割り出して1周分nヶ所のターゲット球12の中心位置の計測を行う(計測ステップ)。例えば、角度ピッチを30°とすると、図4に示すように0°から330°まで12ヶ所の計測を行う。これにより、i=1〜nとするとn個の球中心位置計測値(x’,y’,z’)が得られ、計測値は円軌跡を描くことになる。
【0035】
ここで、計測値のXY平面上での半径、すなわち、C軸中心位置から各中心位置計測値までの距離は、幾何誤差がない場合はRであり、幾何誤差がある場合には半径誤差ΔRXYが加わる。このΔRXYは[数3]を変形して近似することで[数4]に示すように算出することができる。
【0036】
【数4】

【0037】
この[数4]に[数3]を代入すると次の[数5]が得られる。したがって、ΔRXYは0次(半径誤差),1次(中心偏差),2次(楕円形状)の成分を含んだ円軌跡となる(円弧近似ステップ)。
【0038】
【数5】

【0039】
また、360°を等間隔でn個に分割した角度θ〜θの正弦・余弦関数には次の[数6]のような性質がある。
【0040】
【数6】

【0041】
そして[数5]の2次正弦成分に着目し、この[数6]の性質を利用する。各中心位置計測値に対応するΔRXYiに、それぞれ割り出したときのC軸角度cの2次の正弦値を掛け合わせて平均を取ることで2次正弦成分rb2が得られ、これを変形すると次に示す[数7]となり、X−Y軸間直角度γYXを求めることができる(誤差算出ステップ)。
【0042】
【数7】

【0043】
さらに1次成分を抽出する。ΔRXYiにC軸角度cの1次の余弦値もしくは正弦値を掛け合わせることで1次余弦成分ra1および1次正弦成分rb1が得られ、これを変形して次の[数8]が得られる。
【0044】
【数8】

【0045】
なお、[数3]を変形して各中心位置計測値のX座標x’、Y座標y’の平均をそれぞれ求めることで[数9]が得られる。この[数9]は円軌跡の中心、すなわち1次成分を求めるものであり、[数8]の代わりに用いることができる。
【0046】
【数9】

【0047】
一方、[数3]の中心位置計測値のZ座標の式からわかるように、Z座標値はC軸角度cに対して0次、1次余弦・正弦成分を持った円である。この円の1次成分を抽出するため、各中心位置計測値のZ座標に、それぞれ割り出した時のC軸角度cの余弦値、正弦値を掛け合わせると、次の[数10]が得られる。βAYは別の方法もしくは後述の測定および式から求めて代入することにより、C軸の傾き誤差に関する幾何誤差であるβCA,αCAを求めることができる(誤差算出ステップ)。なお、傾き誤差を含んだC軸の実際のベクトルが必要な場合は、誤差のない想定上のベクトルをβCA,αCAだけ回転させることで求めることができる。
【0048】
【数10】

【0049】
次に、A軸を0°以外の任意の角度aに傾けて、C軸角度cを0°から任意の角度ピッチで割り出して1周分nヶ所でターゲット球12の中心位置の計測を行う(計測ステップ)。先と同様に、中心位置計測値は円軌跡を描くが、その半径、すなわち、A軸とC軸の交点から各中心位置計測値までの距離は、幾何誤差がない場合はRであり、幾何誤差がある場合は半径誤差ΔRが加わる。ΔRは[数3]を変形して近似することで得られる次の[数11]で示される。
【0050】
【数11】

【0051】
この[数11]に[数3]を代入すると次の[数12]が得られる。なお、ra0,ra1,rb1,ra2の詳細な式については省略する。
【0052】
【数12】

【0053】
この[数12]は[数5]と同様に、0〜2次成分を含んだ円軌跡である(円弧近似ステップ)。2次正弦成分に着目する。各中心位置計測値に対応するΔRに、それぞれ割り出したときのC軸角度cの2次の正弦値を掛け合わせると次に示す[数13]が得られる。この[数13]に対し[数7]や別の方法で求めたγYXを代入することで、βXZを求めることができる(誤差算出ステップ)。
【0054】
【数13】

【0055】
ここで、A軸の割り出し角度によっては、主軸頭2とテーブル3等の干渉が発生したり、各軸の可動範囲の制限がある等により、1周分測定できない場合がある。1周分の中心位置計測値がない場合は[数13]が使えない。その場合、複数の中心位置計測値を用いて[数12]の係数を最小自乗法等で解くことにより次の[数14]が得られる。
【0056】
【数14】

【0057】
次に、図5に示すように、C軸角度cを90°もしくは−90°に割り出し、A軸を任意の複数の角度に割り出してmヶ所のターゲット球12の中心位置の計測を行う(計測ステップ)。A軸は機構的に1周回転することができない場合が多く、できたとしてもタッチプローブ11により計測できないため、1周分ではなく、ある角度範囲の間で計測を行う。中心位置計測値のX座標に着目すると、[数3]から次に示す[数15]が得られる。
【0058】
【数15】

【0059】
すなわち、[数15]は、0,1次成分を含んだ円弧を示しているといえる(円弧近似ステップ)。ただし、C軸角度cを90°,−90°と変えて混在させると、cに依存した0次成分も加わる。[数12]の各成分の係数を変数として最小自乗法等で求めることで次の[数16]が得られる。したがって、βXZを上述の方法もしくは別の方法で求めて代入することで、A軸の傾き誤差に関する幾何誤差γAYとβAYを求めることができる(誤差算出ステップ)。なお、傾き誤差を含んだA軸の実際のベクトルが必要な場合は、誤差のない想定上のベクトルをβAY,γAYだけ回転させることで求めることができる。
【0060】
【数16】

【0061】
次に、中心位置計測値のY,Z座標に着目する。幾何誤差による円軌跡の半径誤差、すなわち、A軸中心から球中心までの距離の誤差ΔRYZは次の[数17]から得られる。
【0062】
【数17】

【0063】
この[数17]に[数3]を代入すると次の[数18]となる。なお、ra0,rc0の詳細な式については省略する。
【0064】
【数18】

【0065】
したがって、ΔRYZは0〜2次成分を含んだ円弧軌跡であり、各成分の係数を最小自乗法等で解くことにより、次の[数19]が得られる。
【0066】
【数19】

【0067】
ここで、[数18]の係数を求めることは、円弧の半径と中心位置、及び円弧に含まれる楕円成分の大きさを求めることと同じである(円弧近似ステップ)。一般的に、円弧の中心位置や楕円成分を求めることは円弧角度が小さいほど精度が悪くなる。そこで、図5に示すように、C軸を90°(ターゲット球12の中心位置がep1〜ep4)と−90°(ターゲット球12の中心位置がen1〜en4)の両方に割り出して計測する(計測ステップ)。これにより円弧角度を広くすることができ、同定精度を上げることができる。なお、αXZを求める必要がない場合は、[数19]において、2次成分であるra2、rb2を0として無視して計算を行っても良い。
【0068】
以上から、前述の方法でターゲット球12の中心位置を複数箇所測定し(計測ステップ)、上述の数式を用いて計算することで(円弧近似ステップおよび誤差算出ステップ)、回転軸に関する幾何誤差8個に加えて、並進軸に関する3個も併せて11個の幾何誤差を同定することが可能である。残りの2つは別の方法で同定しておく。なお、既知の幾何誤差が存在する場合は、前記数式にあらかじめ代入しておいても良い。その場合、不必要な計測や計算は行わなくても良い。
【0069】
本発明の実施形態の一例として、5軸制御マシニングセンタを用いて説明したが、マシニングセンタに限るものではなく、複合加工機等の別形態の工作機械でも良い。また、工作機械に限らず、三次元測定機等の回転軸を有する機械に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 ベッド
2 主軸頭
3 テーブル
4 クレードル
5 トラニオン
11 タッチプローブ
12 ターゲット球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸以上の並進軸と1軸以上の回転軸を有する機械の前記並進軸および前記回転軸に関する幾何学的な誤差を制御手段によって同定する方法において、
前記回転軸を複数角度に割り出して被測定治具を複数箇所に位置決めし、位置計測センサにより前記被測定治具の3次元空間上の位置を計測する計測ステップと、
当該計測ステップにおいて計測された複数の位置計測値を円弧近似する円弧近似ステップと、
当該円弧近似ステップにおいて近似された円弧から前記回転軸の中心位置の誤差および/または前記回転軸の傾き誤差、並びに前記並進軸の傾き誤差を算出する誤差算出ステップと
を含むことを特徴とする機械の誤差同定方法。
【請求項2】
前記円弧近似ステップにおいて、前記位置計測値と前記回転軸の回転中心からの距離を半径とした円弧に近似し、
前記誤差算出ステップにおいて、近似された円弧の2次成分から前記並進軸の傾き誤差を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の機械の誤差同定方法。
【請求項3】
前記円弧近似ステップにおいて、前記位置計測値と前記回転軸の回転中心からの距離を半径とした円弧に近似し、
前記誤差算出ステップにおいて、近似された円弧の1次成分から前記回転軸に関する幾何学的な誤差を算出する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機械の誤差同定方法。
【請求項4】
前記機械は前記回転軸を2軸以上有しており、
前記計測ステップにおいて、複数角度に割り出す前記回転軸以外の前記回転軸を2つ以上の角度に割り出して計測を行う
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の機械の誤差同定方法。
【請求項5】
前記円弧近似ステップにおいて、前記位置計測値の前記回転軸と平行な軸方向成分を円弧に近似し、
前記誤差算出ステップにおいて、近似された円弧の1次成分から前記回転軸の傾き誤差を算出する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の機械の誤差同定方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の機械の誤差同定方法を、コンピュータに実行させるための機械の誤差同定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−38902(P2011−38902A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186735(P2009−186735)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】