説明

機械要素部品

【課題】潤滑成分を保持する発泡固形潤滑剤の潤滑成分保持力を向上させるとともに、潤滑剤成分の滲み出し量を必要最小限に留めることができ、かつ初期潤滑におけるなじみ性に優れ、長寿命で低コスト化の要望に応じ得る機械要素部品を提供する。
【解決手段】表面処理により被膜が形成された摺動面を有し、該摺動面を含む摺動部に発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤が存在する機械要素部品であり、等速自在継手を例にとると内方部材1、外方部材2、内方部材側トラック溝3、外方部材側トラック溝4、鋼球5、ケージ6、シャフト7、ブーツ8、発泡固形潤滑剤9、被膜10およびその他の付属部品より構成され、発泡固形潤滑剤9は鋼球5の付近に配置され、被膜10はケージの内径面6aに形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機械装置の摺動部や回転部に用いられる機械要素部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や産業用機械に代表されるようなほとんどの機械の摺動部や回転部において潤滑剤が使用されている。潤滑剤は大別して液体潤滑剤と固体潤滑剤に分けられるが、潤滑油を増ちょうさせて保形性を持たせたグリースや、液体潤滑剤を保持してその飛散や垂れ落ちを防止できる固形潤滑剤も知られている。
例えば、潤滑油やグリースに、超高分子量ポリオレフィン、またはウレタン樹脂およびその硬化剤を混合し、樹脂の分子間に液状の潤滑成分を保持させて徐々に滲み出る物性を持たせた固形潤滑剤が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。
また、潤滑剤の存在下でポリウレタン原料であるポリオールとジイソシアネートとを潤滑成分中で反応させた自己潤滑性のポリウレタンエラストマーが知られている(特許文献4参照)。
このような固形潤滑剤は、軸受に封入して固化させると、潤滑油を徐々に滲み出させるものであり、これを用いると潤滑油の補充のためのメンテナンスが不要になり、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも軸受寿命の長期化に役立てることを狙ったものである。
【0003】
このような固形潤滑剤を、等速ジョイントの駆動部のような圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し加わる部位に使用すると、圧縮や屈曲に追従して変形させるために非常に大きな力が必要になり、または非常に大きな応力が固形潤滑剤に加わって、それを保持する部分にも機械的強度が必要になる。
しかし、固形潤滑剤の強度と充填率は通常、補償的なものであるので、潤滑剤を高充填率で保持することが困難であり、長寿命化を妨げる可能性がある。
そのため、圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し起こるような部位においても簡便に使用可能な固形潤滑剤が求められている。
この固形潤滑剤として、例えば、発泡して連通気孔を形成した柔軟な樹脂に潤滑油を含浸し、その気孔内に潤滑油を保持させた発泡固形潤滑剤を軸受や等速ジョイントの内部に充填して使用されることが知られている(特許文献5参照)。
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1〜特許文献4による固形潤滑剤は、潤滑油保持力は大きいが、柔軟な変形性に欠ける。また、特許文献5の発泡固形潤滑剤は外力に応じる柔軟な変形性があって圧縮や屈曲変形にも追従することはできるが、潤滑油保持力が小さく、軸受などの高速条件で使用した場合には、潤滑油が急速に抜け出て枯渇する可能性もある。このような発泡固形潤滑剤は、短時間での潤滑や密閉空間においては使用可能であるが、長時間の潤滑を要する部分や開放空間で使用すると潤滑油が供給不足になり、または、油保持力が弱いと、余剰の潤滑油は気孔から放出および吸収を繰り返し、絶えず空間内を流動することになる。
このような固形潤滑剤や発泡固形潤滑剤から余剰に滲み出した潤滑油は、ゴムなどの外装に接すると、その素材を潤滑油やその添加剤が化学的に腐食または劣化するものもある。
【0005】
また、長寿命化を狙って潤滑油の滲み出しを遅くすると、固形潤滑剤等が封入された潤滑対象部位の潤滑開始直後には摺動部に潤滑油が滲み出してこないために、潤滑油不足による摺動面の損傷により逆に潤滑対象部位が短寿命化する問題が生じる。このため潤滑開始直後から潤滑油を供給可能な潤滑剤が望まれている。
また、このような潤滑剤を製造する工程では、潤滑油やグリースを確実に含浸させるために多くの製造工程が必要になり、これでは低コスト化の要求に応えることも困難である。
【特許文献1】特開平6−41569号公報
【特許文献2】特開平6−172770号公報
【特許文献3】特開2000−319681号公報
【特許文献4】特開平11−286601号公報
【特許文献5】特開平9−42297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点に対処するためになされたものであり、潤滑成分を保持する発泡固形潤滑剤の潤滑成分保持力を向上させるとともに、発泡固形潤滑剤の変形による潤滑成分の滲み出し量を必要最小限に留めることができ、かつ初期潤滑におけるなじみ性に優れ、長寿命で低コスト化の要望に応じ得る機械要素部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の機械要素部品は、表面処理により被膜が形成された摺動面を有し、該摺動面を含む摺動部に潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤が存在することを特徴とする。
【0008】
上記発泡固形潤滑剤の中で第1の発泡固形潤滑剤は、潤滑成分が炭化水素系潤滑油および炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、上記樹脂成分は、高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25 mg KOH/g〜110 mg KOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであり、上記硬化剤は分子内にイソシアネート基を有する有機化合物であり、上記発泡剤が水であり、上記液状ゴムと上記硬化剤との割合は、上記液状ゴムに含まれる水酸基と上記硬化剤に含まれるイソシアネート基とが当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0〜2.0 )の範囲であり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分を 40 重量%〜80 重量%、上記液状ゴムを 5 重量%〜45 重量%含むことを特徴とする。
また、上記液状ゴムがブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体であることを特徴とする。
また、上記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有し、イソシアネート基の割合が 2.5 NCO%〜5.0 NCO%からなるプレポリマーであるか、または芳香族ポリイソシアネートであることを特徴とする。
【0009】
上記発泡固形潤滑剤の中で第2の発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分が潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、上記樹脂成分は、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーであり、上記発泡剤が水であり、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分を 30 重量%〜70 重量%含み、発泡後の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする。また、上記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする。
また、上記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする。
また、上記水の水酸基と、上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする。
上記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物、特にアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする。
【0010】
上記被膜は、リン酸塩被膜であることを特徴とする。
また、上記被膜は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、または、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂により形成された固体潤滑被膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機械要素部品は、表面処理により被膜が形成された摺動面を有し、該摺動面を含む摺動部に発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤が存在するので、発泡固形潤滑剤より潤滑成分が十分に滲み出してくるまでの初期潤滑においても被膜が摺動面に存在し潤滑性に優れるとともに、初期潤滑以降の発泡固形潤滑剤より滲み出してくる潤滑成分に潤滑機能をつなぐことができる。
また、初期潤滑以降は発泡固形潤滑剤より滲み出してくる潤滑成分が多いときには、摺動部の潤滑に寄与するのは主として潤滑成分であるが、発泡固形潤滑剤より滲み出してくる潤滑成分が不足する状態や、経時等で潤滑成分が枯渇する状態においては、摺動面に形成された被膜が潤滑機能を担うこともできる。
このため本発明の機械要素部品は、初期潤滑や、それ以降においても摺動面を含む摺動部において継続して潤滑機能を十分に果たすことができる。
なお、本発明において「初期潤滑」とは潤滑を必要とする機械要素部品の作動開始直後において発泡固形潤滑剤より潤滑成分が摺動部に滲み出してこない状態から、該機械要素部品の作動にともない発泡固形潤滑剤より潤滑成分が摺動部に滲み出してくるまでの期間における潤滑のことをいう。
【0012】
この発泡固形潤滑剤は樹脂を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、かつ樹脂が発泡・硬化するときに、潤滑成分が該樹脂内に吸蔵される。このため、樹脂のみで発泡・硬化して得られる発泡樹脂に潤滑成分を含浸させる場合に比較して、発泡固形潤滑剤中の潤滑成分の保持量が単なる気孔内の含浸による保持量よりも多くなるとともに、本機械要素部品において発泡固形潤滑剤中より潤滑を必要とする摺動面に潤滑成分が徐放されるので、高速運動にも対応が可能である。なお、本発明において「吸蔵」とは、液体・半固体状の潤滑成分が他の配合成分と反応することなく、固体の樹脂中に化合物にならないで含まれることをいう。
【0013】
初期潤滑において摺動面に形成された被膜が潤滑に寄与することができるので、摺動面に被膜が形成されない場合に比較して、発泡固形潤滑剤からの潤滑成分の滲み出し速度をさらに小さく設定できる。そのため、長期間にわたって必要最小限の潤滑成分を安定に摺動面に供給することができ、本発明の機械要素部品をさらに長寿命化させることができる。
【0014】
また、発泡固形潤滑剤を用いることで、本機械要素部品の摺動面近くに潤滑剤が存在でき、発泡固形潤滑剤の代わりにグリースを用いる潤滑と比較して、より潤滑剤が摺動面に供給されやすい。その上、多孔質な部分を多く有するので、本機械要素部品の軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の機械要素部品として等速自在継手の例を挙げ、発泡固形潤滑剤および摺動面に形成される被膜の作用を具体的に説明する。図1は本発明の機械要素部品の一例として等速自在継手を示す断面図である。図2は、図1のケージを示す斜視図である。
図1および図2に示すように等速自在継手は内方部材(内輪ともいう)1、外方部材(外輪ともいう)2、内方部材側トラック溝3、外方部材側トラック溝4、鋼球5、ケージ6、シャフト7、ブーツ8、発泡固形潤滑剤9、被膜10およびその他の付属部品より構成される。このとき等速自在継手のケージの内径面6a(図2参照)、ケージの外径面6b(図2参照)、外方部材の内径面2a、または、内方部材の外径面1aなどの摺動面に表面処理により被膜が形成され、発泡固形潤滑剤9は鋼球5の付近に配置されている。図1および図2においてはケージの内径面6aに表面処理により被膜10が形成されている例を示している。
【0016】
上述の自在継手において、ケージ外径面−外方部材内径面間およびケージ内径面−内方部材外径面間は隙間が小さく摩耗などが発生しやすいため、表面処理により被膜10をケージ6の外径面6bおよび外方部材内径面2aの少なくとも一方に形成し、かつ、ケージ6の内径面6aおよび内方部材外径面1aの少なくとも一方に形成することが好ましい。
【0017】
上述の自在継手において、ケージ6の外径面6bおよび外方部材内径面2aのうち、ケージ6の外径面6bの方が表面処理による被膜10を形成しやすく、形成した被膜10を安定に保つことができる。外方部材内径面2aは凹凸を有するトラック溝を有し、表面処理による被膜の形成が難しく、また形成された被膜のうちトラック溝角部が摺動により損傷しやすいことに対して、ケージ6の外径面6bはトラック溝のような凹凸が無く、表面処理による被膜の形成が容易であり形成された被膜も摺動による損傷は受けにくいからである。
また、同様にケージ6の内径面6aおよび内方部材外径面1aのうちケージ6の内径面6aの方がトラック溝のような凹凸が無く、表面処理による被膜10を形成しやすく、形成した被膜10を安定に保つことができる。
【0018】
発泡固形潤滑剤9は発泡・硬化して多孔質化した樹脂内に潤滑成分を含んでなり、等速自在継手の回転運動に伴う遠心力や等速自在継手が角度を取ったときに発生する圧縮、屈曲、膨張などの外的な応力や毛細管現象によって発泡固形潤滑剤中より摺動部である内方部材側トラック溝3、外方部材側トラック溝4、鋼球5表面およびケージ6表面等に、潤滑成分を徐放する(図1参照)。
【0019】
ケージの内径面6aなどに表面処理により形成された被膜10は、等速自在継手始動時から継手内の摺動面に存在するので、発泡固形潤滑剤9より潤滑成分が十分に滲み出してくるまでの初期潤滑においても潤滑に寄与するとともに、初期潤滑以降の発泡固形潤滑剤9より滲み出してくる潤滑成分に潤滑機能をつなぐことができる。
また、初期潤滑以降、発泡固形潤滑剤9より滲み出してくる潤滑成分が多いときには、潤滑に寄与するのは主として潤滑成分であるが、発泡固形潤滑剤9より滲み出してくる潤滑成分が不足する状態や、経時等で潤滑成分が枯渇する状態になると、摺動面に形成された被膜10が主として潤滑機能を担うことができる。
【0020】
本発明において、発泡固形潤滑剤の潤滑成分は、樹脂の柔軟性により、例えば圧縮、膨張、屈曲、ねじりなどの外力による変形により潤滑剤を滲みださせて樹脂の分子間から外部に徐放できる。この際、滲み出す潤滑油などの潤滑成分量は、外力の大きさに応じて弾性変形する程度を樹脂の選択などによって変えることにより、必要最小限にすることができる。
また、本発明に用いる発泡固形潤滑剤において樹脂は、発泡により表面積が大きくなっており、滲み出した余剰の潤滑成分である潤滑油を再び発泡体の気泡内に一時的に保持することもできて滲み出す潤滑油量は安定しており、また樹脂内に潤滑油を吸蔵させるとともに発泡体の気泡内に含浸させることによって非発泡の状態より潤滑油の保持量も多くなる。
【0021】
その上、本発明に用いる発泡固形潤滑剤は、非発泡体と比較して屈曲時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑油を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。よって、該発泡固形潤滑剤を例えば等速自在継手内部で固化させた後冷却する過程において、発泡固形潤滑剤が収縮し、等速自在継手の鋼球を抱き込んだとしても屈曲・変形時に必要なエネルギーが小さいために容易に変形することができ、回転トルクが大きくなるという問題を防ぐことができる。また、発泡部分すなわち多孔質な部分を多く持つため、軽量化の点でも有利である。
また、本発明に用いる発泡固形潤滑剤は潤滑成分と、樹脂成分とを含む混合物を発泡・硬化させるだけであるので、特別な設備も不要であり、任意の場所に充填して成形することが可能である。
また、上記混合物の配合成分の配合量をコントロールすることにより発泡固形潤滑剤の密度を変化させることができる。
【0022】
本発明において発泡固形潤滑剤を構成する発泡・硬化して多孔質化する樹脂成分としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有し、変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。
発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂成分に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
【0023】
本発明に用いる発泡固形潤滑剤の樹脂成分には耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタン樹脂を用いるのが好ましい。樹脂成分として、以下に説明する分子内に水酸基を有する液状ゴムを用いる第1の発泡固形潤滑剤、所定のNCOを含有するウレタンプレポリマーを用いる第2の発泡固形潤滑剤が好ましい。
また、ポリオールとしてのポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる樹脂成分を用いることができる。
【0024】
本発明に用いることができる第1の発泡固形潤滑剤に用いられる樹脂成分には耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタン樹脂を用いるのが好ましい。ウレタン樹脂を形成する水酸基含有成分としては、分子内に水酸基を有する液状ゴムが好ましく、この液状ゴムは高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25〜110 mg KOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであることが好ましい。水酸基価が 25 mg KOH/g 未満では、発泡・硬化が十分でなく、水酸基価が 110 mg KOH/g をこえると、発泡固形潤滑剤の弾力性が失われる場合がある。
この液状ゴムは、ブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体を用いることができる。
水酸基末端液状ポリブタジエンとしては、poly-bd R45HT(出光興産社製)、poly-bd R15HT(出光興産社製)、NISSO-PB G−1000、G−2000、G−3000(日本曹達社製)が挙げられ、水酸基末端液状ポリイソプレンとしては、poly-ip(出光興産社製)が挙げられ、水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物としては、エポール(出光興産社製)、NISSO-PB GI−1000、GI−2000、GI−3000(日本曹達社製)等が挙げられる。
【0025】
また、これら水酸基末端ポリジエン化合物または水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物の末端水酸基をイソシアネート基やエポキシ基などで一部変性した水酸基末端ポリジエン化合物または水添処理した水酸基末端ポリジエン化合物も水酸基が末端に含まれれば使用することができる。製造された発泡体の物性を制御するなどの目的でこれら化合物を2種類以上混合して用いてもよい。
【0026】
上記水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体は、後述する炭化水素から構成されるパラフィン系やナフテン系の鉱物油からなる潤滑成分と分子構造が類似するので、潤滑成分を構成する分子との化学的親和性に優れ、水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体と潤滑成分分子とが比較的弱い相互作用によって絡み合っていると考えられる。そのため多くの潤滑成分をその水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体の分子内に含浸させることが可能であり、高い潤滑成分保持性を発揮することができる。これに熱や遠心力などの強い力を加えることで、水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体と潤滑成分の相互作用が壊され、潤滑成分を徐放させることができる。
【0027】
液状ゴムを硬化させる硬化剤としての分子内にイソシアネート基を有する有機化合物は、液状ゴム内の水酸基と反応し、分子鎖を延長させ、または架橋させるイソシアネート化合物であれば、特に制限なく使用できる。好ましいイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート類を挙げることができる。ポリイソシアネート類は後述する発泡剤となる水と反応して気体を発生させることができるので特に好ましい。
ポリイソシアネート類としては、ポリイソシアネートおよび/または分子内に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマーが挙げられる。
【0028】
ポリイソシアネート類は芳香族、脂肪族、または脂環族ポリイソシアネート類を挙げることができる。
芳香族ポリイソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと記す)、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)、TDIの多量体、MDIの多量体、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート類としては、オクタデカメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、へキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ポリイソシアネート類としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
また、上記ポリイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどのポリオールとの付加物も使用できる。
液状ゴムの末端官能基である水酸基との反応を高温度で行なう場合は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0029】
水酸基末端ポリジエン系重合体と反応させる場合、ポリイソシアネート類の中で芳香族ポリイソシアネート類が好ましく、更には水酸基末端ポリジエン系重合体等との発泡性および反応性に優れるTDIが好ましい。
【0030】
分子内に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマーとしては、イソシアネート基の割合が 2.5〜5.0 NCO%からなるプレポリマーであれば使用できる。なお、NCO%はプレポリマー中におけるNCO基としての重量%である。2.5〜5.0 NCO%のプレポリマーは水酸基末端ポリジエン系重合体等と反応して弾力性に富んだウレタンを得ることができる。
プレポリマー類には重合させるモノマーの種類によりPPG系、PTMG系、エステル系、カプロラクトン系などに分類される。PPG系にはタケネートL-1170(三井化学ポリウレタン社製)、L-1158(三井化学ポリウレタン社製)があり、PTMG系にはコロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7-QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などを挙げることができる。上記プレポリマーは、目的に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。
【0031】
末端水酸基を有する水酸基末端ポリジエン系重合体または水添処理した水酸基末端ポリジエン系重合体とイソシアネート基を有するイソシアネート化合物との配合割合は、水酸基(−OH)とイソシアネート基(−NCO)との当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0〜2.0 )の範囲が好ましく、特に優れた発泡性および弾力性を考慮すると、(OH/NCO)=1/( 1.1〜1.9 )の範囲が好ましい。(OH/NCO)が 1/2.0 より小さいときにはイソシアネート基が過剰となり、架橋密度が大きく弾性に劣る場合がある。また、(OH/NCO)が 1/1.0 より大きいときには架橋するイソシアネート基が不足するため硬化が十分でなくなる。
【0032】
第1の発泡固形潤滑剤に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
炭化水素系潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
炭化水素系グリースは炭化水素油を基油とするグリースであり、基油としては上述の炭化水素系潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応で、ポリウレア化合物はジイソシアネートとポリアミンの反応で、それぞれ得られる。
【0033】
上記潤滑成分には、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル系ワックス、高級脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを混合して使用することができる。
【0034】
第1の発泡固形潤滑剤を発泡させる手段は、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
【0035】
第1の発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、40〜80 重量%である。潤滑成分が 40 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しなくなる。
上記液状ゴムの配合割合は、混合物全体に対して、 5〜45 重量%、好ましくは 9〜42 重量%である。5 重量%より少ないときは固化しないため発泡固形潤滑剤としての機能を持たず、45 重量%より多いときには潤滑剤の供給が少なく、発泡固形潤滑剤としての機能を持たない。
【0036】
第1の発泡固形潤滑剤において発泡倍率は 1.1〜50 倍であることが好ましく、より好ましくは 1.1〜10 倍である。発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できない。また、50 倍をこえる場合は外部応力に耐える強度を得ることが困難となる。
【0037】
また、第1の発泡固形潤滑剤の硬化速度を促進させるために、3級アミン系触媒や有機金属触媒などを用いることができる。使用する3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類などが挙げられる。また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレートなどが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0038】
本発明において第2の発泡固形潤滑剤の樹脂成分として使用できるウレタンプレポリマーは、活性水素基を有する化合物とポリイソシアネートとの反応によって得られ、イソシアネート基は、分子鎖末端であっても、あるいは分子鎖内から分岐した側鎖末端に含まれていてもよい。また、ウレタンプレポリマーは分子鎖内にウレタン結合を有していてもよい。
反応するモノマー(=活性水素基を有する化合物)の種類によって、カプロラクトン系、エステル系、エーテル系などに分類される。エーテル系にはタケネートL-1170(三井化学ポリウレタン社製)、L-1158(三井化学ポリウレタン社製)、コロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7-QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などが挙げられる。
また、末端基をイソシアネート基に変性したオリゴマーやプレポリマー化合物も使用することができる。このような化合物としては末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールや水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体が挙げられる。末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールにはコロネート1050(日本ポリウレタン社製)などが挙げられる。また、水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体には poly−bd MC50(出光興産社製)や poly−bd HTP9(出光興産社製)が挙げられる。
これらのウレタンプレポリマーは、目的とする機械的性質などに応じて2種類以上を混合して使用することもできる。
【0039】
第2の発泡固形潤滑剤は、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーを使用できる。イソシアネート基(NCO)の含有量が 2 重量%未満であると発泡性と弾力性の両立が難しくなるし、6 重量%以上であると硬度が大きくなりすぎて反発弾性が大きくなり外力による変形を受けるときに発熱等を起こしやすくなる。
また、イソシアネート基は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0040】
上記ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤としては、活性水素を有する化合物が好ましく、官能基がアミノ基であるポリアミノ化合物、官能基が水酸基であるポリオール化合物が挙げられる。
ポリアミノ化合物としては、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと記す)、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジメトキシ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5′-ジメチルジフェニルメタン、トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、メチルチオトルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミンに代表される芳香族ポリアミノ化合物が挙げられる。
【0041】
上記ポリアミノ化合物の中でも芳香族アミノ化合物が低コストであり、物性が優れているため、好ましく、特にアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ジアミノ化合物が好ましい。第2の発泡固形潤滑剤においては、発泡と共に硬化させる工程を経るため、隣接位の置換基によりアミノ基の反応性が抑制されるためと考えられる。
【0042】
ウレタンプレポリマーをポリアミノ化合物で硬化させるとウレタンおよびウレア結合を分子内に有する発泡固形潤滑剤となる。ウレア結合を生成させることによって分子中のウレタン結合密度を下げることになり、伸びや反発弾性が向上する。また、ウレア結合を生成させることによって剛性を与えることができる。
【0043】
ポリオール化合物としては、1,4-ブタングリコールやトリメチロールプロパンに代表される低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ひまし油系ポリオール、ポリエステル系ポリオールが挙げられる。ポリオール化合物の中では、ポリエーテルポリオール、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0044】
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基(−NCO)と、該イソシアネート基と反応する硬化剤の官能基との割合は、官能基がアミノ基または水酸基である場合、当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲である。
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基と硬化剤のアミノ基(−NH2)または水酸基(−OH)、そして発泡剤である水の水酸基(−OH)との割合で発泡固形潤滑剤の発泡倍率や柔軟性、弾力性等が定まる。硬化剤のアミノ基(−NH2)または水酸基(−OH)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(−NCO)とを当量で反応させると、発泡剤である水と反応するイソシアネート基(−NCO)が消失してしまうため、(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲が好ましい。また、発泡剤である水の水酸基と、硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲である。
上記範囲よりも硬化剤の量が少なくなると発泡固形潤滑剤の強度等の物性が著しく低下するばかりでなく、ウレタンエラストマーとして硬化しない場合もある。
【0045】
第2の発泡固形潤滑剤に使用できる潤滑成分は、第1の発泡固形潤滑剤と同様に、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独でもしくは混合して使用できる。特に好ましいものとして炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
炭化水素系潤滑油としては、第1の発泡固形潤滑剤と同様のものを使用できる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、フッ素油、シリコーン油等も使用することができる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
グリースとしては第1の発泡固形潤滑剤と同様のグリースの他に、エステル系合成油、エーテル系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等を基油としたグリースも使用できる。
また、第1の発泡固形潤滑剤と同様の炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル系ワックス、高級脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを混合して使用することができる。
【0046】
第2の発泡固形潤滑剤を発泡させる発泡剤としては、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
また、第2の発泡固形潤滑剤の硬化速度を促進させるために、上述した3級アミン系触媒や有機金属触媒などを用いることができる。
【0047】
第2の発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、 30 重量%〜70 重量%、好ましくは 40 重量%〜60 重量%である。潤滑成分が 30 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、70 重量%より多いときには固化しなくなる。
【0048】
第2の発泡固形潤滑剤の発泡後の連続気泡率は 50%以上であり、好ましくは50 %以上 90 %以下である。連続気泡率が 50%未満の場合は、樹脂成分(固形成分)の潤滑油が一時的に独立気泡中に取り込まれている割合が多くなり、必要な時に外部へ供給されない場合がある。なお、90%をこえると、潤滑剤の保油性の低下および潤滑剤の放出量が多くなることで長期使用に不利となったり、発泡固形潤滑剤自体の強度(耐久性)が低下したりするおそれがある。
【0049】
第2の発泡固形潤滑剤の連続気泡率は以下の手順で算出できる。
(1)発泡硬化した発泡固形潤滑剤を適当な大きさにカットし、試料Aを得る。試料Aの重量を測定する。
(2)Aを 3 時間ソックスレー洗浄(溶剤:石油ベンジン)する。その後 80℃で 2 時間恒温槽に放置し、有機溶剤を完全に乾燥させ、試料Bを得る。試料Bの重量を測定する。
(3)連続気泡率を以下の手順で算出する。
連続気泡率=(1−(試料Bの樹脂成分重量−試料Aの樹脂成分重量)/試料Aの潤滑成分重量)×100
なお、試料A、Bの樹脂成分重量、潤滑成分重量は、試料A、Bの重量に組成の仕込み割合を乗じて算出する。
連続していない独立気泡中に取り込まれた潤滑成分は 3 時間ソックスレー洗浄では外部へ放出されないため試料Bの重量を減少させることがないので、上記の操作で試料Bの重量減少分は連続気泡からの潤滑成分の放出によるものとして連続気泡率が算出できる。
【0050】
なお、第1および第2の発泡固形潤滑剤には必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤、補強剤、無機充填剤、老化防止剤、フィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。補強剤としてはカーボンブラック、ホワイトカーボン、コロイダルシリカなどが挙げられ、無機充填剤としては炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレイ、硅石粉などが挙げられる。
さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0051】
第1および第2の発泡固形潤滑剤は、潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化を同時に両立させるためには望ましい。これは発泡体形成段階において発泡体に形成された気泡に潤滑剤が均一に含浸されるとともに、潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に吸蔵されることにより潤滑剤の高充填化と材料物性の高伸化が両立するものと考えられる。
これに対してあらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑剤を含浸させる後含浸法では潤滑剤保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑剤が供給不足となる。
【0052】
潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
混合物は硬化剤および発泡剤により速やかに硬化するため、硬化剤および発泡剤を除く他の成分を撹拌機へ投入し、最後に硬化剤および発泡剤を投入することが望ましい。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが好ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0053】
本発明の機械要素部品において発泡固形潤滑剤は、部品内に潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を流し込んだ後、発泡・硬化させてもよく、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工し、部品内に組み込むこともできる。
形状が複雑な部品内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、発泡成形体を得るための成形金型や研削工程等も不要であることから、本発明では、混合物を発泡・硬化前に部品内に流し込み、部品内において発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。該方法を採用することで、製造工程が簡易となり低コスト化が図れる。
【0054】
発泡・硬化時において発泡により多孔質化される際に生成させる気泡は気泡が連通している連続気泡であることが好ましく、外部応力によって潤滑成分を樹脂の表面から連続気泡を介して外部に直接供給するためである。気泡間が連通していない独立気泡の場合は固形成分中の潤滑油の全量が一時的に独立気泡中に隔離され気泡間での移動が困難となり、必要なときに摺動部付近等に十分供給されない場合がある。
【0055】
また、発泡固形潤滑剤中に含浸された状態で含まれる潤滑成分は、外力による発泡体の変形によっても急激に滲み出すことがなく、潤滑成分を効率よく滲み出させて用いることができる。その結果、潤滑成分量は必要最小限でよく、しかも長期間にわたって潤滑性能を保つことができる。
【0056】
本発明の機械要素部品において、摺動面を表面処理することにより形成する被膜としては、リン酸塩被膜、銀、銅、ニッケルなどの軟質金属被膜、または、二硫化モリブデン被膜、二硫化タングステン被膜、黒鉛被膜、PTFE樹脂被膜などの固体潤滑被膜が挙げられる。これらは、単独で、または2種類以上組み合わせて用いることができる。
これらの中で摩擦摩耗が始まるとすばやく摺動部の基材表面に馴染み、それ自身の潤滑性(自己潤滑性)により油等の潤滑成分がなくても摩擦の低減や摩耗の防止に寄与することができるリン酸塩被膜、二硫化モリブデン被膜、二硫化タングステン被膜、PTFE樹脂被膜を用いることが好ましい。
【0057】
本発明の機械要素部品において、被膜を形成するための摺動面の表面処理方法は特に限定されるものではなく、摺動面に上記各種の被膜を形成できる方法であればよい。具体的には、銀、銅、ニッケルなど軟質金属被膜の場合にはめっき処理、リン酸塩被膜を形成する場合にはパーカ処理、二硫化モリブデン被膜、二硫化タングステン被膜、黒鉛被膜等の場合にはスパッタ処理、PTFE樹脂被膜の場合にはスプレー法や刷毛塗り、ディッピング等による樹脂コーティング処理などを採用できる。
【0058】
本発明の機械要素部品において、被膜を形成するための表面処理を施す場所は、発泡固形潤滑剤を用いて潤滑が行なわれる摺動部内の任意の摺動面とすることができる。
例えば、機械要素部品が等速ジョイントである場合、内方部材外径部、外方部材内径部、ケージの内外径部、内方部材・外方部材のトラック部、およびケージ窓周縁などが挙げられる。この場合、上記図1および図2で示したように、ケージの内外径部に表面処理がなされると特に効果が高い。その理由としては、ケージの内径部-内方部材外径部およびケージの外径部-外方部材内径部間はすきまが狭いため発泡固形潤滑剤が充填されにくく、発泡固形潤滑剤から徐放される潤滑成分が供給されにくいからである。
【実施例】
【0059】
実施例1〜実施例15および比較例1〜比較例4
実施例1〜実施例15および比較例1〜比較例4に用いた潤滑成分、液状ゴム、硬化剤、発泡剤、触媒を以下に示す。なお、( )内は表中での略号を表す。
潤滑成分
潤滑油(潤滑油):タービン100(新日本石油社製)
潤滑グリース(グリース1):NTG2218M(協同油脂社製)
液状ゴム
水酸基末端ポリブタジエン(PBOH1):Poly-bd R45HT(水酸基価:46.6 mg KOH/g、数平均分子量:2,800、出光興産社製)
水酸基末端ポリブタジエン(PBOH2):Poly-bd R15HT(水酸基価:102.7 mg KOH/g 、数平均分子量:1,200、出光興産社製)
水酸基末端ポリイソプレン(PipOH):Poly-ip(水酸基価:46.6 mg KOH/g 、数平均分子量:2,500、出光興産社製)
水添水酸基末端ポリイソプレン(HPipOH):エポール(水酸基価:50.5 mg KOH/g 、数平均分子量:2,500、出光興産社製)
硬化剤
イソシアネート化合物(TDI):コロネートT-80(日本ポリウレタン社製)
エラストマ1(UE1):コロネート4090(4.4 NCO% 日本ポリウレタン社製)
エラストマ2(UE2):プラクセルEP1130(3.3 NCO% ダイセル化学工業社製)
発泡剤(発泡剤) イオン交換水
整泡剤(整泡剤) SRX298(東レダウ社製)
触媒(触媒1) DM70(東ソー社製)
【0060】
硬化剤(イソシアネート)を除く配合材料を表1〜表3に示す配合割合でよく混合し、最後に硬化剤を加えて素早く混合した混合物 40 g を、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製容器(直径 70 mm×高さ 150 mm )に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、常温で数時間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 Nの力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を、また、発泡体として硬化しない場合、潤滑油が分離したり放出したりしない場合を「×」印を付して表1〜表3に併記した。
また、「○」印と評価された試験片は試験片の円柱軸方向に 20 %伸張させても油が滲み出すことはなかった。
【0061】
【表1】

【表2】

【表3】

【0062】
表1〜表3に示すように、実施例1〜実施例15の発泡固形潤滑剤では指で押したときに相当する力を加えたときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であり、優れた発泡固形潤滑剤であると認められたが、比較例1〜比較例4では発泡はしたものの一部固化せず、発泡固形潤滑剤としては機能しないことがわかった。
次に、実施例1〜実施例15の発泡固形潤滑剤成分を、被膜処理をケージ内外球面に施した図1に示す等速自在継手の鋼球5の周囲に注入して常温で数時間放置し硬化させ、発泡固形潤滑剤を封入してなる等速自在継手を得た。
この等速自在継手は、鋼球5の周囲に発泡固形潤滑剤が封入されているので、潤滑油の外方部材開口端側(ブーツ8側)への飛散・漏洩を効果的に防止でき、トルク伝達部材である鋼球5の周囲に潤滑成分を的確に供給することができ、潤滑特性の低下を抑制できた。
【0063】
実施例16〜実施例35および比較例5〜比較例7に用いた潤滑成分、ウレタンプレポリマー、硬化剤、発泡剤、触媒を以下に示す。なお、( )内は表中での略号を表す。
潤滑成分
潤滑油(潤滑油1):タービン100(パラフィン系鉱油、新日本石油社製)
潤滑油(潤滑油2):クリセフ150(ナフテン系鉱油、新日本石油社製)
潤滑油(潤滑油3):シンフルード801(ポリ-α-オレフィン、新日鉄化学社製) 潤滑グリース(グリース2):パイロノックユニバーサルN6C(新日本石油社製)
ウレタンプレポリマー
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー1(プレポリマー1):プラクセルEP1130(NCO 3.3%、ダイセル化学工業社製)
エーテル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー2):コロネート4090(NCO 4.3%、日本ポリウレタン社製)
エステル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー3):コロネート4047(NCO 4.3%、日本ポリウレタン社製)
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー(プレポリマー4):タケネートL-1350(NCO 2.3%、三井化学ポリウレタン社製)
エーテル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー5):タケネートL-1170(NCO 2.4%、三井化学ポリウレタン社製)
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー(プレポリマー6):タケネートL-1680(NCO 3.2%、三井化学ポリウレタン社製)
カプロラクタン系ウレタンプレポリマー(プレポリマー7):サイアナプレン7-QM(NCO 2.3%、三井化学ポリウレタン社製)
エーテル系ウレタンプレポリマー(プレポリマー8):タケネートL-1158(NCO 4.4%、三井化学ポリウレタン社製)
硬化剤
MOCA(MOCA):イハラキュアミンMT(イハラケミカル社製)
トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)(CUA-4):CUA-4(イハラケミカル社製)
ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミンおよびメチルチオトルエンジアミンの混合物(エタキュア300):エタキュア300(アルベマール社製)
トリメチロールプロパン:試薬
発泡剤(発泡剤) イオン交換水
整泡剤(整泡剤) SRX298(東レダウ社製)
触媒(触媒1) DM70(東ソー社製)
【0064】
実施例16〜18、21、22、24、25、27〜32、34〜35、比較例5〜7
80℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表4〜表6に示す配合割合でよく混合した。次に、120℃で溶解したMOCAをビーカ内に投入してよく攪拌した。続いてアミン触媒および発泡剤(比較例6のみ発泡剤なし)を投入し攪拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 Nの力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を、それ以外のものは「△」印またはコメントを表4〜表6に併記した。
また、連続気泡率を上述の方法で、遠心力油分離評価を以下の方法で測定した。結果を表4〜表6に併記した。
遠心力油分離評価試験
潤滑剤の徐放性を調べるために、遠心力油分離を測定した。遠心力油分離はロータ半径 75 mm、回転速度 1500 rpm の条件で 1 時間回転させた時の油充填量に対する油減少率を示した。
【0065】
実施例19
100℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表4に示す配合割合でよく混合した。次に、140℃で溶解したトリメチレン-ビス(4-アミノベンゾアート)をビーカ内に投入し、よく攪拌した。続いてアミン触媒および発泡剤を投入し攪拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 Nの力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を表4に併記した。
【0066】
実施例20、26、33
80℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表4〜表6に示す配合割合でよく混合した。次に、エタキュア300をビーカ内に投入し、よく攪拌した。続いてアミン触媒および発泡剤を投入し攪拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 Nの力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を表4〜表6に併記した。
【0067】
実施例23
100℃のポリテトラフルオロエチレン製ビーカ(直径 70 mm×高さ 150 mm )内で、硬化剤、アミン触媒および発泡剤を除く原料を表5に示す配合割合でよく混合した。次に、トリメチロールプロパンをビーカ内に投入し、よく攪拌した。続いてアミン触媒および発泡剤を投入し攪拌した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させて円柱試験片を得た。この試験片を目視および光学顕微鏡を用いて観察した。試験片に 30 Nの力を試験片の円柱軸方向に印加したときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であるものを優れた発泡固形潤滑剤であると評価して「○」印を表5に併記した。
【0068】
【表4】

【表5】

【表6】

【0069】
表4〜表6に示すように、実施例16〜実施例35では指で押したとき相当する力を加えたときに油が滲み出す形状の弾性ゴムの発泡体であり、優れた発泡固形潤滑剤であると認められたが、比較例5では発泡はしたものの一部固化せず、また比較例6では樹脂分と潤滑剤が分離してしまい発泡固形潤滑剤としては機能しないことがわかった。比較例7は、弾性に欠けた。また、実施例16〜実施例33は、遠心力下において潤滑剤成分が(即時に発泡体より抜け出てしまわず)徐放されることがわかった。
次に、実施例16〜実施例35の発泡固形潤滑剤成分を、被膜処理をケージ内外球面に施した図1に示す等速自在継手の鋼球5の周囲に注入して 100℃で 30 分間放置し硬化させ、発泡固形潤滑剤を封入してなる等速自在継手を得た。
この等速自在継手は、鋼球5の周囲に発泡固形潤滑剤が封入されているので、潤滑油の外方部材開口端側(ブーツ8側)への飛散・漏洩を効果的に防止でき、トルク伝達部材である鋼球5の周囲に潤滑成分を的確に供給することができ、潤滑特性の低下を抑制できた。
【0070】
実施例36〜実施例37
固定式8個ボールジョイント(NTN株式会社製 EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )のケージ外径面6bおよびケージ内径面6a(図2参照)に、表7に示す表面処理を施し、図1に示す、外方部材2、内方部材1、ケージ6および鋼球5を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシーを準備した。
表1に示す組成のうち(a)、(d)、(e)、(i)を 80℃でよく混合し、次に 120℃で溶解した(b)を加えて素早く混合した。最後に(c)、(h)を投入し撹拌した後、前述のボールジョイントサブアッシーに 15.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置し硬化させた。その後、ブーツ、シャフトなど他の部区を組み付け等速自在継手の試験片を得た。
得られた試験片を以下に示す初期特性試験および寿命試験に供し、初期特性の発現状況および寿命時間を測定した。また前述の連続気泡率の算出法に基づき発泡固形潤滑剤の連続気泡率を測定した。結果を表7に併記する。
【0071】
<等速自在継手を用いた初期特性試験>
目的の初期特性が得られているか評価するために、等速自在継手試験片を以下の条件で実機評価を行なった。試験中に外方部材表面温度が 100℃をこえたものは、異常温度上昇として試験打ち切りとした。また、試験後に試験片内部を点検し、摩耗やピーリング等の内部損傷が見られなかったものを可として「○」を、損傷が確認されたものを不可として「×」を記録する。
・トルク 451 N・m
・角度 6 deg
・回転数 580 rpm
・試験時間 1 時間
【0072】
<等速自在継手を用いた寿命試験>
耐久性の向上についても評価するために、等速自在継手試験片を以下の条件で実機評価を行なった。試験中に外方部材表面温度が 100℃をこえたものは、異常温度上昇として試験打ち切りとした。また、規定時間を経過した試験後に試験片内部を点検し、異常摩耗や剥離等の内部損傷が見られなかったもの、もしくは内部損傷が見られたが軽微で継続運転可能なものを可として「○」を、損傷が激しく継続運転不可能なものを不可として「×」を記録する。
・トルク 725 N・m
・角度 6 deg
・回転数 230 rpm
・試験時間 150 時間
【0073】
実施例38〜実施例39
固定式8個ボールジョイント(NTN株式会社製 EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )のケージ外径面6bおよびケージ内径面6a(図2参照)に、表1に示す表面処理を施し、図1に示す、外方部材2、内方部材1、ケージ6および鋼球5を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシーを準備した。
表7に示す成分量(組成)で、ポリエーテルポリオールにシリコーン系整泡剤、鉱油、アミン系触媒、発泡剤としての水を加え、90℃で加熱しよく撹拌した。これにイソシアネートを加えてよく撹拌した後、前述のボールジョイントサブアッシーに 13.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、90℃に設定した恒温槽で 15 分間放置し硬化させ、ブーツ、シャフトなど他の部区を組み付け等速自在継手の試験片を得た。
実施例34同様の項目を測定した。結果を表7に併記する。
【0074】
比較例8
表7に示す組成で実施例37と同様の手順で等速自在継手試験片を作製したが、ケージには表面処理を施していない。実施例34同様の項目を測定した。結果を表7に併記する。
【0075】
比較例9
表7に示す組成で実施例38と同様の手順で等速自在継手試験片を作製したが、ケージには表面処理を施していない。実施例36同様の項目を測定した。結果を表7に併記する。
【0076】
比較例10
表7に示す組成で実施例36と同様の手順で等速自在継手試験片を作製したが、ケージには表面処理を施していない。実施例36同様の項目を測定した。結果を表7に併記する。
【0077】
比較例11
表7に示す組成で実施例39と同様の手順で等速自在継手試験片を作製したが、シリコーン系整泡剤は使用しなかった。またケージには表面処理を施していない。実施例36同様の項目を測定した。結果を表7に併記する。
【0078】
【表7】

【0079】
実施例36〜実施例39は、実等速自在継手を用いた初期特性試験においても寿命試験においても潤滑剤不足による摩耗等は確認されず、良好な結果を示した。比較例8および比較例9は、初期特性試験においては、摺動部に摩耗が確認された。比較例8および比較例9は、初期に潤滑成分の放出が間に合わなかったため、潤滑剤不足となったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の機械要素部品は、発泡固形潤滑剤の潤滑剤保持力を向上させるとともに、外力による変形によって滲み出る潤滑剤量を必要最小限に留めることができ、かつ摺動面に形成された被膜により初期潤滑におけるなじみ性に優れ、長寿命で低コスト化の要望に応じ得る。このため各種機械要素部品として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の機械要素部品の一例として等速自在継手を示す断面図である。
【図2】図1のケージを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0082】
1 内方部材
1a 内方部材外径面
2 外方部材
2a 外方部材内径面
3 内方部材側トラック溝
4 外方部材側トラック溝
5 鋼球
6 ケージ
6a ケージ内径面
6b ケージ外径面
6c ケージ窓
7 シャフト
8 ブーツ
9 発泡固形潤滑剤
10 被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理により被膜が形成された摺動面を有し、該摺動面を含む摺動部に発泡固形潤滑剤が存在する機械要素部品であって、
前記発泡固形潤滑剤は、潤滑成分と、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡固形潤滑剤であることを特徴とする機械要素部品。
【請求項2】
前記潤滑成分は炭化水素系潤滑油および炭化水素系グリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、
前記樹脂成分は、高分子主鎖が炭化水素から構成され、該主鎖末端に水酸基価が 25〜110 mg KOH/g となる量の水酸基を有する液状ゴムであり、
前記硬化剤は分子内にイソシアネート基を有する有機化合物であり、
前記発泡剤が水であり、
前記液状ゴムと前記硬化剤との割合は、前記液状ゴムに含まれる水酸基と前記硬化剤に含まれるイソシアネート基とが当量比で(OH/NCO)=1/( 1.0〜2.0 )の範囲であり、
前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分を 40〜80 重量%、前記液状ゴムを 5〜45 重量%含むことを特徴とする請求項1記載の機械要素部品。
【請求項3】
前記液状ゴムがブタジエンもしくはイソプレンの重合体の主鎖末端に水酸基を有する数平均分子量 1000〜3500 の水酸基末端ジエン系重合体、または該ジエン系重合体を水添処理した変性水酸基末端ジエン系重合体であることを特徴とする請求項2項記載の機械要素部品。
【請求項4】
前記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有し、イソシアネート基の割合が 2.5〜5.0 NCO%からなるプレポリマーであることを特徴とする請求項2または請求項3記載の機械要素部品。
【請求項5】
前記分子内にイソシアネート基を持つ有機化合物は、芳香族ポリイソシアネートであることを特徴とする請求項2または請求項3記載の機械要素部品。
【請求項6】
前記潤滑成分は潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分であり、
前記樹脂成分は、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーであり、
前記発泡剤が水であり、
前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分を 30〜70 重量%含み、発泡後の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする請求項1記載の機械要素部品。
【請求項7】
前記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする請求項6記載の機械要素部品。
【請求項8】
前記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする請求項6または請求項7記載の機械要素部品。
【請求項9】
前記水の水酸基と、前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか一項記載の機械要素部品。
【請求項10】
前記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれか一項記載の機械要素部品。
【請求項11】
前記芳香族ポリアミノ化合物がアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする請求項10記載の機械要素部品。
【請求項12】
前記被膜は、リン酸塩被膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載の機械要素部品。
【請求項13】
前記被膜は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、または、ポリテトラフルオロエチレン樹脂により形成された固体潤滑被膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載の機械要素部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−297374(P2008−297374A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142695(P2007−142695)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】