説明

歪シリコン膜の製造方法

【課題】 新規な歪シリコン膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 (a)基板表面の一部に、複数の凹部を形成する。(b)複数の凹部の各々に、シリコンとは熱膨張係数の異なる絶縁性の膜を埋め込む。(c)絶縁性の膜、及び基板の表面にシリコン膜を形成する。(d)シリコン膜にレーザビームを照射して、シリコン膜をラテラルエピタキシャル成長させるとともに、ラテラルエピタキシャル成長させたシリコン膜に歪を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪の入ったシリコン膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャリア移動度の高いMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を得るために、チャネル層に歪を導入する技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
チャネル層へ歪を導入する方法としては、チャネル層下部にSiGeを埋め込んで引っ張り歪を生じさせる方法(たとえば、非特許文献1参照)、SiNキャップ層の応力を利用する方法(たとえば、非特許文献2参照)、STI(Shallow Trench Isolation)で用いられる絶縁膜の応力を利用する方法(たとえば、非特許文献3参照)、ソース・ドレインにSiGeを埋め込んで圧縮歪を生じさせる方法(たとえば、非特許文献4参照)等がある。
【0004】
また、高いキャリア移動度を有する半導体基板、及びその製造方法に係る発明が開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−209453号公報
【特許文献2】特開2006−140503号公報
【非特許文献1】日経マイクロデバイス 2005年2月号 p.60
【非特許文献2】日経マイクロデバイス 2005年3月号 p.43
【非特許文献3】semiconductor INTERNATIONAL 2006年6月号
【非特許文献4】semiconductor INTERNATIONAL 2007年5月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な歪シリコン膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、(a)基板表面の一部に、複数の凹部を形成する工程と、(b)前記複数の凹部の各々に、シリコンとは熱膨張係数の異なる絶縁性の膜を埋め込む工程と、(c)前記絶縁性の膜、及び前記基板の表面にシリコン膜を形成する工程と、 (d)前記シリコン膜にレーザビームを照射して、前記シリコン膜をラテラルエピタキシャル成長させるとともに、前記ラテラルエピタキシャル成長させたシリコン膜に歪を導入する工程とを有する歪シリコン膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な歪シリコン膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1(A)〜(G)は、実施例による歪シリコン膜の製造方法を説明するための概略図である。
【0010】
図1(A)を参照する。単結晶のシリコン(Si)基板30表面に、たとえば四塩化炭素(CCl)を用いたドライエッチングにより、複数の酸化シリコン(SiO)埋め込み溝30aを形成する。
【0011】
各SiO埋め込み溝30aは、Si基板30表面上方(本図においては、たとえば上方向)から見たとき、たとえば幅5μm〜10μmのライン状に形成され、その幅方向は、本図の左右方向と平行であり、その長さ方向は、紙面垂直方向と平行である。複数のSiO埋め込み溝30aは、幅方向に1μm以下の間隔を隔てて相互に隣接するストライプ状に形成される。SiO埋め込み溝30aの深さは、たとえば0.1〜0.5μmである。
【0012】
図1(B)を参照する。Si基板30表面に、絶縁膜であるSiO膜31を化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition; CVD)で堆積する。ECR(Electron Cyclotron Resonance)装置またはスパッタ装置を用いて成膜してもよい。
【0013】
図1(C)を参照する。化学的機械研磨(Chemical Mechanical Polishing; CMP)を用いてSiO膜31を研磨し、Si基板30表面を露出させる。Si基板30表面に、後述するレーザアニール工程において、結晶化の核となる種結晶が露出する。Si基板30表面に形成されたSiO埋め込み溝30aには、SiO膜が残る。本図においては、SiO埋め込み溝30aに埋め込まれたSiO膜をSiO層32と示した。
【0014】
図1(D)を参照する。Si基板30表面を水素ガス雰囲気中で約800℃まで加熱し自然酸化膜を除去した後、CVDで厚さ20nm〜200nmのアモルファスシリコン膜33を成膜する。アモルファスシリコン膜33の成膜では、RFスパッタリング装置を用いてもよい。また、自然酸化膜の除去は逆スパッタリングで行ってもよい。
【0015】
図1(E)を参照する。アモルファスシリコン膜33に、パルスレーザビーム34を照射し、アモルファスシリコン膜33を結晶化するレーザアニールを行う。結晶成長は、CMPによる表面研磨工程で露出した種結晶を核として、Si基板30の基板面内方向(ラテラル方向、この場合はSiO層32の幅方向)に進行する。
【0016】
パルスレーザビーム34は、固体レーザ、たとえばNd:YAGレーザの2倍高調波(波長532nm)、またはNd:YLFレーザの2倍高調波(波長527nm)である。パルス幅100ns〜1000ns、たとえば150ns、フルエンス1.2J/cmのレーザパルスを、500nsの遅延時間を設けて2パルス連続して同一領域に入射させる。なお、たとえばアモルファスシリコン膜33の厚さが100nmである場合、フルエンス0.9J/cm〜1.6J/cmのレーザパルスを好適に用いることができる。フルエンスがこの範囲より小さい場合、SiO層32上のアモルファスシリコン膜33が単結晶化できず、多結晶となってしまう。フルエンスがこの範囲より大きい場合、シリコン膜33の一部または全部が剥がれてしまう。
【0017】
パルスレーザビーム34の入射領域(ビーム断面形状)は、たとえば長さ方向が2.5mm、幅方向が150μmの長尺状である。ここで幅方向が150μmであるとは、幅方向に沿うレーザ強度のピーク値を100%としたとき、レーザ強度が90%以上となる領域の幅が150μmであるという意味である。パルスレーザビーム34を、たとえば長尺形状の長さ方向とSiO層32の長さ方向(本図における紙面垂直方向)とが平行になるようにアモルファスシリコン膜33に重複させずに照射する。
【0018】
なお、レーザアニールは、連続する2パルスで行う以外にも、様々な態様で実施することができる。たとえば、図1(F)に示すように、長さ0.25mm、幅4μmの長尺細線状のパルスレーザビーム(ビーム幅はSiO層32の幅未満であることが好ましい。)を、長尺細線状の長さ方向とSiO層32の長さ方向(本図における紙面垂直方向)とが平行になるように、1.4J/cmのフルエンスでアモルファスシリコン膜33に入射させ、幅方向(本図における左右方向)に0.2μm/ショット〜0.5μm/ショットで走査して重複照射を行い、アニールしてもよい。この場合、結晶成長は、Si基板30の基板面内方向において、レーザビームの走査方向に逐次連続して進行する。すなわちショットごとに前回のショットで形成された結晶を種結晶として横方向に結晶成長する。
【0019】
照射されるパルスレーザビーム34のパルス幅が150nsと短いので、アニール工程において、アモルファスシリコン膜33は急冷される。このためラテラル成長後の単結晶シリコン膜33には、SiOとSiの熱膨張係数の違い(SiOの熱膨張係数(0.35*10E−6/deg)は、Siの熱膨張係数(2.5*10E−6/deg)より約1桁小さい。)がもとで、下地のSiO層32との関係で熱ストレスが生じ、引っ張り歪が導入される。
【0020】
引っ張り歪が導入されたシリコン膜33のラマンピークを調べたところ、ウエハの単結晶シリコン(ラマンピークの中心値:521.2cm−1、ラマンピークの半値幅:3.4cm−1)を基準としたとき、ラマンシフトは−4.9cm−1、ラマンピークの半値幅は3.7cm−1であった。
【0021】
2004年度秋期応用物理学会で「レーザアニールによる歪Si/SiO/Si構造の直接形成」の研究成果が発表されている。当該研究においては、Si膜厚10nmのSOI基板上に膜厚40nmのアモルファスシリコン層を堆積した後、XeClレーザを5ショット、たとえば700mJ/cmのエネルギ密度で照射し、アモルファスシリコン層のレーザアニールを行ったとき、アモルファスシリコンの単結晶化に伴い、Si0.8Ge0.2バッファ層上に成長したSiの歪に相当する、約8%の歪(ラマンシフト −3.5cm−1)の発生が確認されている。
【0022】
実施例による歪シリコン膜の製造方法により導入されるシリコン膜への歪量はこれより大きい。
【0023】
本図に示す工程において、Si基板30上に、部分的にSOI(Silicon on Insulator)膜を形成するとともに、シリコン膜33に歪を導入することができる。
【0024】
また、アモルファスシリコン膜33へのレーザビームの照射により、アモルファスシリコン膜33のラテラルエピタキシャル成長とともに、アモルファス結晶化後のシリコン膜33への歪の導入が行われる。このため簡便なプロセスで、高価な市販のSOI基板を用いることなく、歪シリコン膜を製造することができる。
【0025】
なお、レーザアニールに用いるレーザビームは、固体レーザまたは半導体レーザから出射した紫外線、可視光、近赤外線領域の波長、とりわけ200nm〜1000nmの波長を有するレーザビームであることが望ましい。レーザビームの波長が長いと、アモルファスシリコン膜の光吸収係数が小さくなり、効果的に膜を溶融させるのが難しくなる。逆に波長が短いとレーザパワーを確保することができない。
【0026】
また、パルスレーザビームに限らず、連続波のレーザビームを用いることもできる。この場合、たとえば長さ100μm、幅4μmに整形されたレーザビームを、7.8Wのパワーでアモルファスシリコン膜33に照射し、300mm/s〜500mm/s、たとえば300mm/sの速さで走査する。
【0027】
図1(G)を参照する。以下、公知の工程により、シリコン膜33をチャネル層とするMOSFETを作製する。
【0028】
MOSFET作製工程は、素子分離絶縁膜38を埋め込み形成し、シリコン膜33上にゲート絶縁膜35を成膜した後、ゲート絶縁膜35上にゲート電極36を形成する工程、ゲート電極36をマスクとして不純物を注入し、ソース・ドレイン拡散層を形成する工程、及び、サイドウォール37を形成する工程等を含む。
【0029】
MOSFETは、SiO層32上のシリコン膜33がチャネル層となるように形成される。MOSFETのチャネル層を形成するシリコン膜33に強い引っ張り歪が導入されているため、キャリアの移動度の高い、高性能のnMOSFETを作製することができる。
【0030】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
たとえば、実施例においては、複数のSiO埋め込み溝30aを、ストライプ状に形成したが、これらを行方向(図1(A)における左右方向)及び列方向(図1(A)における紙面垂直方向)に沿って配列される、一辺が5μm〜10μmの略正方形状に形成してもよい。この場合、複数のSiO埋め込み溝30aは、行方向及び列方向のそれぞれに1μm以下の間隔を隔てて形成される。
【0032】
また、実施例においては、シリコンより熱膨張係数(線膨張係数)の小さい絶縁性の膜を埋め込んでアモルファスシリコン膜に引っ張り歪を導入したが、シリコンより熱膨張係数(線膨張係数)の大きい絶縁性の膜を埋め込んでアモルファスシリコン膜に圧縮歪を導入することもできる。
【0033】
更に、実施例においては、シリコン膜33下の埋め込み溝30aにSiOを埋め込んだ。埋め込み材料としては、線膨張係数の小さいアモルファス酸化物やアモルファス窒化物を用いることができる。例としてSiON等が使用可能である。
【0034】
圧縮歪の導入に対してはシリコン膜より熱膨張係数(線膨張係数)の大きな酸化膜や酸窒化膜を使用すればよい。たとえばアルミナ膜、ジルコニア膜、窒化珪素膜等を利用することができる。
【0035】
また、実施例においては、基板表面にアモルファスシリコン膜を形成し、ラテラルエピタキシャル成長させるとともに歪を導入したが、アモルファスシリコン膜の代わりにマイクロクリスタルシリコン膜を使用してもよい。
【0036】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0037】
MOSFETや混載デバイスの製造等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(A)〜(G)は、実施例による歪シリコン膜の製造方法を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0039】
30 Si基板
30a SiO埋め込み溝
31 SiO
32 SiO
33 シリコン膜
34 レーザビーム
35 ゲート絶縁膜
36 ゲート電極
37 サイドウォール
38 素子分離絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板表面の一部に、複数の凹部を形成する工程と、
(b)前記複数の凹部の各々に、シリコンとは熱膨張係数の異なる絶縁性の膜を埋め込む工程と、
(c)前記絶縁性の膜、及び前記基板の表面にシリコン膜を形成する工程と、
(d)前記シリコン膜にレーザビームを照射して、前記シリコン膜をラテラルエピタキシャル成長させるとともに、前記ラテラルエピタキシャル成長させたシリコン膜に歪を導入する工程と
を有する歪シリコン膜の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)において、前記複数の凹部の各々に、シリコンより熱膨張係数の小さい絶縁性の膜を埋め込み、
前記工程(d)において、前記ラテラルエピタキシャル成長させたシリコン膜に引っ張り歪を導入する請求項1に記載の歪シリコン膜の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁性の膜がアモルファス酸化物を材料として形成されている請求項2に記載の歪シリコン膜の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、前記複数の凹部の各々に、シリコンより熱膨張係数の大きい絶縁性の膜を埋め込み、
前記工程(d)において、前記ラテラルエピタキシャル成長させたシリコン膜に圧縮歪を導入する請求項1に記載の歪シリコン膜の製造方法。
【請求項5】
前記工程(d)で前記シリコン膜に照射されるレーザビームが、波長200nm〜1000nm、パルス幅100ns〜1000nsのパルスレーザビームである請求項1〜4のいずれか1項に記載の歪シリコン膜の製造方法。
【請求項6】
前記工程(d)において、断面が長尺形状のレーザビームを、該長尺形状の幅方向に走査しながら前記シリコン膜に照射する請求項1〜5のいずれか1項に記載の歪シリコン膜の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)において、前記複数の凹部を各々平行なライン状に形成し、
前記工程(d)において、前記ライン状に形成された凹部の各々の幅よりも幅狭の長尺形状のレーザビームを、該長尺形状の長さ方向と前記凹部の長さ方向とが平行になるように前記シリコン膜に入射させ、該長尺形状の幅方向に走査しながら重複照射する請求項6に記載の歪シリコン膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−283480(P2009−283480A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130792(P2008−130792)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】