説明

気相成長装置および気相成長方法

【課題】基板により均一な膜厚で成膜する気相成長装置および気相成長方法、を提供する。
【解決手段】MOCVD装置10は、処理室12に配置される頂面21aを有し、800rpm以上の速度で回転するサセプタ21と、サセプタ21の頂面21aに向かい合う位置に複数のガス吐出口44,49を有し、複数のガス吐出口44,49を通じて処理室12に原料ガスを供給するシャワーヘッド31とを備える。サセプタ21には、頂面21aから凹み、基板90が載置される凹部22が形成される。基板は、基板と凹部22の内壁との間に隙間が形成されるように配置され、かつ、基板の気相成長面は、サセプタ21の頂面21aよりも高い位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、気相成長装置および気相成長方法に関し、より特定的には、基板を設置するための基台が高速で回転する気相成長装置、およびそのような装置を用いた気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の気相成長装置に関して、たとえば、特開平11−54437号公報には、基板の端部近傍に形成される発光素子の輝度強度の低下を防ぐことを目的とした化合物半導体膜の形成方法が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された化合物半導体膜の形成方法においては、サセプタに基板を設置するための凹部が形成される。凹部内に、凹部の側壁部側が高くなるような段差部が設けられたり、凹部の底面がすり鉢状に湾曲して形成されたりする。
【0003】
また、特開2007−214344号公報には、基板が下向きに反ることによる局所加熱を防ぐことを目的とした化合物半導体膜の形成方法が開示されている(特許文献2)。特許文献2に開示された化合物半導体膜の形成方法においては、サセプタの上面に凹部が形成される。凹部は、基板の下方への反りに対応して、基板の中心がサセプタに常に非接触となり、基板の外周部がサセプタに常に接触するように形成される。
【0004】
また、特開2010−126796号公報には、作製される窒化物系化合物半導体素子の発振波長のばらつきを抑え、一枚の半導体基板から良品の割合が高い窒化物系化合物半導体素子を複数作成することを目的とした気相成長装置が開示されている(特許文献3)。特許文献3に開示された気相成長装置は、半導体基板を保持するための基板ホルダーを有する。基板ホルダーの半導体基板と対向する面は、半導体基板の反りの形状と略同一の形状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−54437号公報
【特許文献2】特開2007−214344号公報
【特許文献3】特開2010−126796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光ダイオードまたは半導体レーザなどの製造に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が用いられている。このMOCVD法では、たとえば、トリメチルガリウム(TMG)またはトリメチルアルミニウム(TMA)などの有機金属ガスと、アンモニア(NH)、ホスフィン(PH)またはアルシン(AsH)などの水素化合物ガスとを成膜に寄与する原料ガスとして成長室に導入することにより、基板上に化合物半導体結晶を成長させる。
【0007】
このようにMOCVD法は、原料ガスを水素または窒素などの不活性ガスとともに成長室内に導入して加熱し、基板上で気相反応させることにより、その基板上に化合物半導体結晶を成長させる方法である。MOCVD法を用いた化合物半導体結晶の製造では、成長させる化合物半導体結晶の品質を向上させるとともに、コストを抑えて、歩留まりを高め、生産能力を上げることが同時に要求される。
【0008】
上述の特許文献1〜3には、MOCVD法を用いて基板に成膜するための気相成長装置が開示されている。たとえば、特許文献1に開示されたサセプタには、基板を設置するための凹部が形成される。サセプタを回転させつつそのサセプタ上に原料ガスを供給すると、原料ガスがサセプタの内周側から外周側に向けて流れる。この間、基板上を通過した原料ガスが成膜に寄与することによって、基板の気相成長面に化合物半導体膜が堆積される。
【0009】
しかしながら、凹部は、基板のセッティングを可能とするために基板よりも大きい形状に形成されており、凹部の内壁と基板との間に隙間が生じる。原料ガスがその隙間を通過する間、成膜による原料ガスの消費量が小さくなるため、原料ガス流れの上流側に位置決めされた基板の端部(基板の上流側端部)で、原料ガスの濃度が高まる。その結果、基板上に形成される化合物半導体膜の膜厚が上流側端部で局所的に大きくなり、基板に均一な膜厚で成膜できないという懸念が生じる。
【0010】
また、MOCVD法を用いた成膜工程では、原料ガスの利用効率を向上させたり、膜厚の均一性を向上させたりする目的で、サセプタを800rpm以上の高速で回転させる場合がある。この場合、サセプタが低速で回転する場合と比較して、原料ガスが凹部の内壁と基板との間の隙間に拡散し難くなり、成膜による原料ガスの消費量が特に小さくなる。このため、化合物半導体膜の膜厚が上流側端部で局所的に大きくなる上記懸念が特に顕著となる。
【0011】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、基板により均一な膜厚で成膜する気相成長装置および気相成長方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に従った気相成長装置は、基板が設置された処理室に原料ガスを供給することにより、基板の気相成長面に成膜する気相成長装置である。気相成長装置は、処理室に配置される頂面を有し、800rpm以上の速度で回転する基台と、基台の頂面に向かい合う位置に複数のガス吐出口を有し、複数のガス吐出口を通じて処理室に原料ガスを供給するガス供給部とを備える。基台には、頂面から凹み、基板が載置される凹部が形成される。基板は、基板と凹部の内壁との間に隙間が形成されるように配置され、かつ、基板の気相成長面は、基台の頂面よりも高い位置に配置される。
【0013】
このように構成された気相成長装置によれば、基板の気相成長面が基台の頂面よりも高い位置に配置されるため、複数のガス吐出口から処理室に供給され、基台の頂面上を流れる原料ガスが、基板と凹部の内壁との間の隙間を通過して気相成長面に到達する前に、基板の側部と衝突して消費される。これにより、基板の上流側端部で原料ガスの濃度が高まる現象を抑制し、基板により均一な膜厚で成膜することができる。
【0014】
また好ましくは、凹部の直径をDとし、基板の直径をdとする場合に、凹部は、d<D≦d+10mmの関係を満たすように形成される。
【0015】
このように構成された気相成長装置によれば、基板と凹部の内壁との間の隙間を、d<D≦d+10mmの関係を満たす幅に設定することにより、基板と凹部の内壁との間の隙間を通過する際に原料ガスの濃度が上昇する現象を抑制できる。これにより、基板の上流側端部における原料ガスの濃度を適切に制御することができる。
【0016】
また好ましくは、ガス供給部により供給される原料ガスは、キャリアガスとして窒素を含まない。このように構成された気相成長装置によれば、基板にさらに均一な膜厚で成膜することができる。
【0017】
この発明に従った気相成長方法は、基板が設置された処理室に原料ガスを供給することにより、基板の気相成長面に成膜する気相成長方法である。気相成長方法は、処理室に配置される頂面を有する基台に基板を設置する工程と、基台を800rpm以上の速度で回転させるとともに、頂面に向かい合う位置から処理室に原料ガスを供給する工程とを備える。基台には、その頂面から凹み、基板が載置される凹部が形成される。基板を設置する工程は、基板と凹部の内壁との間に隙間が形成され、かつ、基板の気相成長面が頂面よりも高い位置に配置されるように、基台に基板を設置する工程を含む。
【0018】
このように構成された気相成長方法によれば、基板の気相成長面が基台の頂面よりも高い位置に配置されるように、基台に基板を載置するため、複数のガス吐出口から処理室に供給され、基台の頂面上を流れる原料ガスが、基板と凹部の内壁との間の隙間を通過して気相成長面に到達する前に、基板の側部と衝突して消費される。これにより、基板の上流側端部で原料ガスの濃度が高まる現象を抑制し、基板により均一な膜厚で成膜することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上に説明したように、この発明に従えば、基板により均一な膜厚で成膜する気相成長装置および気相成長方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態におけるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置を示す断面図である。
【図2】図1中のシャワーヘッドを構成するプレートを示す底面図である。
【図3】図1中のサセプタを示す平面図である。
【図4】図3中のサセプタを示す断面図である。
【図5】比較のためのMOCVD装置において、サセプタの断面を示す図である。
【図6】比較のためのMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示す図である。
【図7】比較のためのMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示す別の図である。
【図8】この発明の実施の形態におけるMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示す図である。
【図9】比較のためのMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示すさらに別の図である。
【図10】第1実施例において、基板の上流側端部からの距離Xと、化合物半導体膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【図11】第2実施例において、基板の上流側端部からの距離Xと、化合物半導体膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【図12】第2実施例において、基板および凹部間の隙間の大きさと、基板の上流側端部における化合物半導体膜の厚みとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0022】
図1は、この発明の実施の形態におけるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置を示す断面図である。
【0023】
図1を参照して、MOCVD装置10は、MOCVD法を用いて、基板に化合物半導体膜を成膜するための装置である。MOCVD装置10は、反応炉11と、シャワーヘッド31と、III族系ガス供給源41と、V族系ガス供給源46と、マスフローコントローラ42およびマスフローコントローラ47と、冷却装置51とを有する。
【0024】
反応炉11は、処理対象物である基板の気相成長面に化合物半導体結晶を成長させるための処理室12を形成している。処理室12は、反応炉11内部の中空部により形成されている。
【0025】
シャワーヘッド31は、処理室12に成膜に寄与する原料ガスを供給するためのガス供給部として設けられている。シャワーヘッド31は、反応炉11に接続されている。シャワーヘッド31は、反応炉11の天井部に配置されている。シャワーヘッド31は、ガス導入部32と、冷却部としての水冷部33と、ガス吐出口形成部としてのプレート34とから構成されている。
【0026】
III族系ガス供給源41は、III族元素を含むIII族系ガスの供給源として設けられ、V族系ガス供給源46は、V族元素を含むV族系ガスの供給源として設けられている。III族系ガス供給源41は、III族系ガス配管43を介してガス導入部32に接続され、V族系ガス供給源46は、V族系ガス配管48を介してガス導入部32に接続されている。
【0027】
III族系ガス配管43の管路上には、III族系ガス供給源41からガス導入部32に対するIII族系ガスの導入量を調節可能とする、III族系ガス導入量調節部としてのマスフローコントローラ42が設けられている。V族系ガス配管48の管路上には、V族系ガス供給源46からガス導入部32に対するV族系ガスの導入量を調節可能とする、V族系ガス導入量調節部としてのマスフローコントローラ47が設けられている。
【0028】
III族元素としては、たとえば、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)またはIn(インジウム)などがあり、III族元素を含むIII族系ガスとして、たとえば、トリメチルガリウム(TMG)またはトリメチルアルミニウム(TMA)などの有機金属ガスの1種類以上が用いられる。また、V族元素としては、たとえば、N(窒素)、P(リン)またはAs(ヒ素)などがあり、V族元素を含むV族系ガスとして、たとえば、アンモニア(NH)、ホスフィン(PH)またはアルシン(AsH)などの水素化合物ガスの1種類以上が用いられる。
【0029】
冷却装置51は、水冷系配管52を介して水冷部33に接続されている。水冷部33には、水冷系配管52を通じて冷却装置51から冷却水が供給される。水冷部33に供給された冷却水は、ガス導入部32に導入された原料ガスを冷却し、原料ガスが高温となることを防止する。これにより、シャワーヘッド31において原料ガスが反応して反応物が生じ、その反応物によって後述するガス吐出口44およびガス吐出口49が塞がれることを防止できる。
【0030】
図2は、図1中のシャワーヘッドを構成するプレートを示す底面図である。図1および図2を参照して、プレート34は、処理室12に配置されている。プレート34は、シャワーヘッド31の底部に設けられている。
【0031】
プレート34には、複数のガス吐出口44と、複数のガス吐出口49とが形成されている。ガス吐出口44およびガス吐出口49は、処理室12に開口している。
【0032】
III族系ガス供給源41からガス導入部32に導入されたIII族系ガスは、複数のガス吐出口44を通じて処理室12に供給され、V族系ガス供給源46からガス導入部32に導入されたV族系ガスは、複数のガス吐出口49を通じて処理室12に供給される。処理室12にIII族系ガスおよびV族系ガスが均一に供給されるように、複数のガス吐出口44と複数のガス吐出口49とは、プレート34の底面に平面的に散らばって配置されている。複数のガス吐出口44および複数のガス吐出口49は、後述するサセプタ21の頂面21aに向かい合う位置で開口している。
【0033】
なお、図2中では、ガス吐出口44およびガス吐出口49を互いに区別するため、ガス吐出口44にハッチングが付されている。
【0034】
図3は、図1中のサセプタを示す平面図である。図1から図3を参照して、MOCVD装置10は、サセプタ21と、回転軸13と、ヒータ15と、被覆板(ヒータカバー)58とをさらに有する。
【0035】
サセプタ21は、処理室12において処理対象物である基板90を支持するための基台として設けられている。サセプタ21は、プレート34と対向して配置されている。サセプタ21は、図中に仮想線として示された中心線101を中心とする円盤形状を有する。サセプタ21は、導電性材料、たとえばカーボンから形成されている。
【0036】
サセプタ21は、頂面21aを有する。頂面21aは、処理室12に配置されている。頂面21aは、プレート34と向かい合っている。頂面21aは、プレート34に開口する複数のガス吐出口44および複数のガス吐出口49と向かい合っている。頂面21aは、複数のガス吐出口44および複数のガス吐出口49が開口するプレート34の底面と平行に延在している。頂面21aは、ガス吐出口44およびガス吐出口49から原料ガスが吐出される方向に直交する平面内で延在する。
【0037】
ヒータ15は、サセプタ21に支持された基板を加熱するための加熱部として設けられている。サセプタ21は、ヒータ15上に設置されている。ヒータ15は、サセプタ21に対してシャワーヘッド31の反対側に配置されている。
【0038】
回転軸13は、中心線101に沿って延伸し、サセプタ21に接続されている。回転軸13は、図示しないアクチュエータにより回転可能に設けられている。回転軸13の回転に伴って、サセプタ21は、中心線101を中心に図3中の矢印110に示す方向に回転する。サセプタ21は、頂面21aがプレート34と向かい合った姿勢を維持しながら回転する。
【0039】
本実施の形態におけるMOCVD装置10においては、サセプタ21が、800rpm以上の速度で回転する。サセプタ21を高速回転させることにより、高速回転時に生じるせん断流れにより原料ガスが基板90に引き寄せられるため、成膜に寄与する原料ガスの割合が向上する。また、基板90の成膜面に生じる境界層の厚みの均一性が高まるため、境界層の厚みと反比例の関係にある膜厚の均一性が向上する。
【0040】
被覆板58は、中心線101を中心とする外周上で、サセプタ21、回転軸13およびヒータ15を取り囲むように設けられている。
【0041】
MOCVD装置10は、ガス排気部57およびガス処理装置56をさらに有する。ガス排気部57は、処理室12の内部の原料ガスを外部に排気するために設けられている。ガス排気部57は、反応炉11に接続されている。ガス排気部57は、サセプタ21よりも外周側であって、かつ、シャワーヘッド31側から見てサセプタ21の頂面21aよりも遠い位置で、処理室12に連通している。
【0042】
ガス処理装置56は、パージライン55を介してガス排気部57に接続されている。ガス処理装置56は、パージライン55を通じてガス排気部57から送られた原料ガスを無害化するための処理を行なう。
【0043】
図4は、図3中のサセプタを示す断面図である。図1から図4を参照して、サセプタ21には、凹部22が形成されている。本実施の形態では、サセプタ21に複数の凹部22が形成されている。
【0044】
凹部22は、頂面21aから凹む凹形状に形成されている。凹部22は、中心線101から半径方向外側にずれた配置されている。複数の凹部22は、中心線101を中心とする周方向において互いに間隔を隔てて配置されている。複数の凹部22は、中心線101を中心とする周方向において等間隔に配置されている。本実施の形態では、4つの凹部22が90°間隔で配置されている。処理対象物である基板90は、凹部22に載置される。
【0045】
頂面21aを正面から見た場合に、凹部22は、基板90に対応する形状である円形を有する。基板90を凹部22に載置可能なように、凹部22は、基板90よりも大きい形状を有する(基板90の直径d<凹部22の直径D)。一例を挙げると、直径100mmを有する基板90に対して、凹部22の直径を105mmに設定する。基板90は、凹部22の略中心位置に載置される。基板90を凹部22に載置した状態で、凹部22の内壁と基板90のとの間には、隙間61が形成される。
【0046】
基板90は、処理室12において化合物半導体結晶が成長される気相成長面90aを有する。基板90は、気相成長面90aとプレート34とが対向するように凹部22に載置される。気相成長面90aは、サセプタ21の頂面21aと平行に延在する。本実施の形態におけるMOCVD装置10においては、基板90は、気相成長面90aがサセプタ21の頂面21aよりも高い位置に配置されるように凹部22に設置される。すなわち、基板90の高さをhとし、凹部22の深さをHとする場合に、基板90は、h>Hの関係を満たすように凹部22に配置される。
【0047】
一例を挙げると、気相成長面90aが、サセプタ21の頂面21aよりも0.2mm高い位置に配置されるように、凹部22の深さが決定される。本実施の形態では、気相成長面90aと凹部22との高さの差が、凹部22の深さよりも小さい。
【0048】
MOCVD装置10を用いて基板90に成膜する気相成長方法について説明すると、まず、サセプタ21の凹部22に基板90を載置する。この際、基板90と凹部22の内壁との間に隙間61が形成され、かつ、基板90の気相成長面90aがサセプタ21の頂面21aよりも高い位置に配置されるように、基板90を凹部22に載置する。次に、ヒータ15の加熱によってサセプタ21を介して基板90を所定の温度まで加熱するとともに、サセプタ21を、中心線101を中心に800rpm以上の速度で回転させる。
【0049】
III族系ガスおよびV族系ガスを、それぞれ、ガス吐出口44およびガス吐出口49から処理室12に供給する。この際、III族系ガスおよびV族系ガスの導入量を、それぞれ、図示しない制御部から信号を受けたマスフローコントローラ42およびマスフローコントローラ47により制御する。
【0050】
処理室12に供給された原料ガスは、サセプタ21の頂面21aに直交する方向に流れ、その後、各ガス吐出口44,49に対向する頂面21a上の位置から、中心線101を中心とする半径方向外側に向けて流れる。原料ガスが加熱された基板90上を通過する間、基板90の気相成長面90aに、III−V族化合物半導体結晶が成長することになる。
【0051】
続いて、本実施の形態におけるMOCVD装置10およびMOCVD装置10を用いた気相成長方法において奏される作用、効果について説明する。
【0052】
図5は、比較のためのMOCVD装置において、サセプタの断面を示す図である。図6は、比較のためのMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示す図である。図中には、各断面位置に対応させて原料ガスの濃度および化合物半導体膜の膜厚の変化を示したグラフが示されている。
【0053】
図5および図6を参照して、本比較例では、気相成長面90aとサセプタ21の頂面21aとが同じ高さに配置されている。
【0054】
図5中に示すように、原料ガスがサセプタ21上で中心線101を中心とする半径方向外側に向けて流れる間、原料ガスの一部が成膜に寄与する一方で、各ガス吐出口44,49から供給された新たな原料ガスがサセプタ21上の流れに加わっていく。このため、サセプタ21上の各位置で原料ガスの濃度が一定に維持されつつ、サセプタ21の頂面21aに一定の膜厚で成膜が施されることとなる。
【0055】
図6中に示すように、基板90と凹部22の内壁との間には、隙間61が形成される。原料ガスがこの隙間61を通過する間、成膜による原料ガスの消費量が小さくなるため、原料ガスの濃度が、原料ガス流れの上流側に位置決めされた基板90の端部(基板90の上流側端部)で高くなる。この場合、その高濃度の原料ガスによって成膜された基板90の上流側端部で、膜厚が局所的に大きくなる現象が生じる。
【0056】
図7は、比較のためのMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示す別の図である。図中では、各断面位置に対応させて、サセプタ21が高速回転する場合の原料ガスの濃度の変化がライン126によって示され、サセプタ21が低速回転する場合の原料ガスの濃度の変化がライン127によって示されている。
【0057】
図7を参照して、サセプタ21が800rpm以上の速度で高速回転する場合(隙間61に記載された曲線121)、サセプタ21が低速回転する場合(隙間61に記載された曲線122)と比較して、原料ガスは、頂面21a上から気相成長面90a上に向かう間に隙間61の浅い範囲までしか拡散せず、その結果、気相成長面90aに到達する原料ガスの量が大きくなる。原料ガスの濃度と膜厚とは比例関係にあるため、特にサセプタ21が800rpm以上の速度で高速回転する場合に、基板90の上流側端部で膜厚が局所的に大きくなる現象が顕著となる。
【0058】
図8は、この発明の実施の形態におけるMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示す図である。図中には、各断面位置に対応させて原料ガスの濃度および化合物半導体膜の膜厚の変化を示したグラフが示されている。
【0059】
図8を参照して、これに対して、本実施の形態におけるMOCVD装置10においては、基板90の気相成長面90aがサセプタ21の頂面21aよりも高い位置に配置される。このような構成によれば、サセプタ21上を流れる原料ガスは、気相成長面90aに到達する前に基板90の側面90bと衝突することによって部分的に消費される。これにより、気相成長面90aに到達する原料ガスの濃度を適切に制御し、基板90の上流側端部で膜厚が局所的に大きくなる現象を回避することができる。
【0060】
図9は、比較のためのMOCVD装置において、基板が載置されたサセプタの断面を示すさらに別の図である。図中では、各断面位置に対応させて、基板および凹部間の隙間の幅が小さい場合の原料ガスの濃度の変化がライン141によって示され、基板および凹部間の隙間の幅が大きい場合の原料ガスの濃度の変化がライン142によって示されている。
【0061】
図9中に示すように、基板90の凹部22の内壁との間の隙間61の幅が大きい場合、隙間61の幅が小さい場合と比較して、基板90の上流側端部における原料ガス濃度の上昇が大きくなる。基板90の上流側端部における原料ガス濃度の上昇を抑えた上で、原料ガスと基板90の側面90bとの衝突により原料ガス濃度を適切に制御するという観点から、基板90と凹部22の内壁との間の隙間61を、d<D≦d+10mm(d:基板90の直径,D:凹部22の直径)の関係を満たす幅に設定することが好ましい。
【0062】
以上に説明した、この発明の実施の形態におけるMOCVD装置10の構造についてまとめて説明すると、本実施の形態における気相成長装置としてのMOCVD装置10は、基板90が設置された処理室12に原料ガスを供給することにより、基板90の気相成長面90aに成膜する。MOCVD装置10は、処理室12に配置される頂面21aを有し、800rpm以上の速度で回転する基台としてのサセプタ21と、サセプタ21の頂面21aに向かい合う位置に複数のガス吐出口44,49を有し、複数のガス吐出口44,49を通じて処理室12に原料ガスを供給するガス供給部としてのシャワーヘッド31とを備える。サセプタ21には、頂面21aから凹み、基板90が載置される凹部22が形成される。基板90は、基板90と凹部22の内壁との間に隙間61が形成されるように配置され、かつ、基板90の気相成長面90aは、サセプタ21の頂面21aよりも高い位置に配置される。
【0063】
このように構成された、この発明の実施の形態におけるMOCVD装置10によれば、基板90の気相成長面90aがサセプタ21の頂面21aよりも高い位置に配置されるため、基板90の上流側端部で膜厚が局所的に大きくなる現象を回避できる。これにより、基板90により均一な膜厚で化合物半導体膜を成膜することができる。
【0064】
続いて、本実施の形態におけるMOCVD装置10によって奏される上記作用、効果を確認するため行なった実施例について説明する。
【0065】
図10は、第1実施例において、基板の上流側端部からの距離Xと、化合物半導体膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【0066】
図10を参照して、本実施例では、MOCVD装置10を用いて、基板90の気相成長面90aにIII−V族化合物半導体結晶を成長させた。この際、基板90の直径dを100mmとし、凹部22の直径Dを105mmとし、基板90の気相成長面90aをサセプタ21の頂面21aよりも0.2mm高く設定した。化合物半導体膜の成長条件に関して、基板温度を1100℃とし、成長圧力を100Torrとし、原料ガスの総流量を20L/minとし、サセプタ21の回転速度を800rpmとした。原料ガスのキャリアガスとして、水素ガスを用いた。
【0067】
成膜工程の後、基板90に形成された化合物半導体膜の膜厚を、基板90の上流側端部からの距離X(図4を参照のこと)ごとに測定し、その結果を図10中に示した。X=50mmのときが基板90の中心である。また、比較のため、基板90の気相成長面90aをサセプタ21の頂面21aと同じ高さとした場合と、基板90の気相成長面90aをサセプタ21の頂面21aよりも0.2mm低く設定した場合とについても、同様の成膜工程および測定工程を実施し、その結果を図10中に示した。
【0068】
図10中に示す結果から分かるように、基板90の気相成長面90aをサセプタ21の頂面21aよりも0.2mm高く設定した実施例では、他の2つの比較例と較べて、基板90の上流側端部における化合物半導体膜の膜厚を小さく抑えることができた。
【0069】
また、追加の実施例として、原料ガスのキャリアガスとして窒素ガスを用いた場合について上記の成膜工程および測定工程を実施した。その結果、キャリアガスとして水素ガスを用いた場合と窒素ガスを用いた場合とを比較すると、水素ガスを用いた場合に(キャリアガスとして窒素ガスを含まない場合)に、基板90の上流側端部における化合物半導体膜の膜厚がより小さくなることを確認できた。
【0070】
図11は、第2実施例において、基板の上流側端部からの距離Xと、化合物半導体膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【0071】
図11を参照して、本実施例においても、第1実施例と同様の成長条件で基板90に成膜工程を実施した。この際、基板90の直径dを100mmとし、基板90の気相成長面90aをサセプタ21の頂面21aよりも0.2mm高く設定するとともに、凹部22の直径Dを105mm(B=(D−d)=5mm)、107.5mm(B=7.5mm)、110mm(B=10mm)、111mm(B=11mm)、112mm(B=12mm)と変化させた。
【0072】
図12は、第2実施例において、基板および凹部間の隙間の大きさと、基板の上流側端部における化合物半導体膜の厚みとの関係を示すグラフである。成膜工程の後、基板90に形成された化合物半導体膜の膜厚を、基板90の上流側端部からの距離Xごとに測定し、その結果を図11中に示した。また、基板および凹部の直径の差Bを5mm、7.5mm、10mm、11mm、12mmとした場合の基板の上流側端部における化合物半導体膜の厚みを図12中に示した。
【0073】
図11および図12中に示す結果から分かるように、B≦10mm、すなわち、基板90と凹部22の内壁との間の隙間61が、D≦d+10mmの関係を満たす幅に設定されている時に、基板の上流側端部における化合物半導体膜の厚みをより小さく抑えることができた。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
この発明は、たとえば、縦型シャワーヘッド型のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置に適用される。
【符号の説明】
【0076】
10 MOCVD装置、11 反応炉、12 処理室、13 回転軸、15 ヒータ、21 サセプタ、21a 頂面、22 凹部、31 シャワーヘッド、32 ガス導入部、33 水冷部、34 プレート、41 III族系ガス供給源、42,47マスフローコントローラ、43 III族系ガス配管、44,49 ガス吐出口、46 V族系ガス供給源、48 V族系ガス配管、51 冷却装置、52 水冷系配管、55 パージライン、56 ガス処理装置、57 ガス排気部、58 被覆板、61 隙間、90 基板、90a 気相成長面、90b 側面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が設置された処理室に原料ガスを供給することにより、基板の気相成長面に成膜する気相成長装置であって、
処理室に配置される頂面を有し、800rpm以上の速度で回転する基台と、
前記頂面に向かい合う位置に複数のガス吐出口を有し、複数の前記ガス吐出口を通じて処理室に原料ガスを供給するガス供給部とを備え、
前記基台には、前記頂面から凹み、基板が載置される凹部が形成され、
基板は、基板と前記凹部の内壁との間に隙間が形成されるように配置され、かつ、基板の気相成長面は、前記頂面よりも高い位置に配置される、気相成長装置。
【請求項2】
前記凹部の直径をDとし、基板の直径をdとする場合に、前記凹部は、d<D≦d+10mmの関係を満たすように形成される、請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記ガス供給部により供給される原料ガスは、キャリアガスとして窒素を含まない、請求項1または2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
基板が設置された処理室に原料ガスを供給することにより、基板の気相成長面に成膜する気相成長方法であって、
処理室に配置される頂面を有する基台に基板を設置する工程と、
前記基台を800rpm以上の速度で回転させるとともに、前記頂面に向かい合う位置から処理室に原料ガスを供給する工程とを備え、
前記基台には、前記頂面から凹み、基板が載置される凹部が形成され、
前記基板を設置する工程は、基板と前記凹部の内壁との間に隙間が形成され、かつ、基板の気相成長面が前記頂面よりも高い位置に配置されるように、前記基台に基板を設置する工程を含む、気相成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−248818(P2012−248818A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121977(P2011−121977)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】