説明

気相成長装置

【課題】気相成長装置において、基板面内の温度差を低減する。
【解決手段】シャフト8には突起部であるガイド板14を設け、ガイド板14に電磁波が照射される位置にヒーター7を配置する。ガイド板14がヒーター7からの電磁波によって加熱される。ガイド板14はシャフト8に取付けられているので、ガイド板14からシャフト8に熱が移動しシャフト8は高温となる。シャフト8が高温となるので、サセプター6からシャフト8に移動する熱が少なくなり、サセプター6のシャフト8との取付部の温度が低下することが無く、サセプターの温度が均一となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気相成長法(MOCVD法)は、原料ガスをキャリアガスとともに成膜室内に導入して加熱し、所定の被処理基板上で気相反応させることにより、その被処理基板上に化合物半導体結晶を成長させる方法である。
【0003】
図7に、気相成長法に用いられる従来の縦型シャワーヘッド型気相成長装置の一例の模式的な構成を示す。この気相成長装置においては、ガス供給源から、反応炉2の内部の成膜室4に、ガス供給部9から原料ガスおよびキャリアガスを導入するためのガス配管10が接続されており、反応炉2の内部の成膜室4の上部には成膜室4に原料ガスおよびキャリアガスを導入するための複数のノズルを有するシャワーヘッドがガス導入部3として設置されている。また、反応炉2の成膜室4の下部中央にはアクチュエータ(図示せず)によって回転自在のシャフト8が設置され、シャフト8の先端にはシャワーヘッド(ガス導入部3)と対向するようにしてサセプター6が取り付けられており、サセプター6の下方にはサセプター6を加熱するためのヒーター7が取り付けられている。また、反応炉2の下部には成膜室4内のガスを外部に排気するためのガス排出部11が設置されており、ガス排出部11は、パージライン13を介して、排気されたガスを無害化するための排ガス処理装置12に接続されている。
【0004】
上記のような構成の気相成長装置において、化合物半導体結晶の成長の際には、サセプター6に被処理基板5が1つ以上複数設置され、その後、シャフト8の回転によりサセプター6が回転させられる。そして、ヒーター加熱によりサセプター6を介して被処理基板5が所定の温度に加熱される。シャワーヘッドに形成されている複数のノズルから成膜室4に原料ガスおよびキャリアガスが導入されると、導入された原料ガスは、被処理基板5からの熱により加熱され、化学反応が起こり、被処理基板5上に半導体結晶が成長し、成膜される。
【0005】
サセプター6を回転させる理由は、結晶を均一に成長させるためである。気相成長装置による成膜は、原料ガスによって基板表面で生起される極めて複雑な反応メカニズムを有することが知られている。すなわち、被処理基板5の温度、原料ガスの温度、流速、圧力、原料ガスに含まれる活性化ガス種の種類、及び反応系における残留ガス成分等の多数のパラメータが、前記化学反応に寄与する。成膜室4内のガスの組成や温度は必ずしも均一でなく、その所在によりバラツキがある。そのため、成膜室4内で被処理基板5を移動させずに反応させると、各被処理基板5および各被処理基板5の各所はそれぞれが触れている各所在のガスの組成や温度により結晶成長する。その結果、薄膜の品質もまた不均一なものになる。これを解決するため、多くの気相成長装置では、前記のようにサセプター6を回転させ、サセプター6上の各被処理基板5および各被処理基板5上の各所が異なる所在のガスに次々と触れるようにすることにより、各被処理基板5の反応が平均的に進むようにする機構を備えている。具体的には、被処理基板5をサセプター6の中心を中心とした回転(被処理基板5にとっては公転運動)、さらには各被処理基板5の中心を中心とした回転(被処理基板5にとっては自転運動)をさせながら結晶成長を行うことで、高品質の結晶を得ることができる。
【0006】
また、前記化学反応には被処理基板5の加熱が必要であるのは前述した通りであるが、各被処理基板5および各被処理基板5の各所での反応を一様とするためは、被処理基板5の温度もまた一様とすることが必要である。被処理基板5加熱の方法にはヒーター7が用いられるが、ヒーター7はサセプター6やシャフト8には取付けずに、反応炉2外壁側に固定し、輻射熱によって間接的にサセプター6、シャフト8、または被処理基板5を熱する形態とすることが望ましい。もし仮にサセプター6やシャフト8にヒーター7を取付けた場合、サセプター6やシャフト8の回転に連動してヒーター7もまた回転することとなる。この場合、ヒーター7の放射分布に局所的なムラがあると、被処理基板5上の温度ムラの原因となる。ヒーター7を反応炉2側に固定し、回転するサセプター6を輻射熱によって温める形態であるならば、ヒーター7の放射分布に多少のムラがあったとしても、サセプター6の回転によって(少なくとも回転方向については)その温度を平均化することができる。また、気相成長装置の機構上、回転するサセプター6やシャフト8にヒーター7を取付けるより動かない反応炉2側に取付ける方が容易かつ低コストである。
【0007】
ただし、上記に説明した気相成長装置には欠点がある。サセプター6はヒーター7により高温に保たれている。それに対して、シャフト8はベアリング等によって反応炉2外壁側に回転自在に支持されており、それらの支持部から熱伝導によって熱が移動しやすい。また、シャフト8はシャフト8を回転させるための(図示しない)回転機構に固定されており、そこでも熱が移動しやすい。シャフト8や反応炉外壁や回転機構を直接加熱する手段は特に存在しないので、それらの温度はサセプター6と比較して低いものとなっている。上記の気相成長装置は、高温のサセプター6と低温のシャフト8とが取付けられているので、熱はサセプター6側からシャフト8側へと逃げる。そのため、サセプター6のシャフト8との取付部周辺(通常はサセプター6の中心付近)は他より温度が低くなりやすく、サセプター6のシャフト8との取付部周辺では、均一な薄膜を作成することが難しかった。
【0008】
図8は、従来技術の気相成長装置のシャフト8周辺構造を示す断面図である。円筒形状のシャフト8の一端に円盤形状のサセプター6の裏面がその中心軸を一致するように取付けられ、さらにサセプター6のおもて面中央に基板5を載置する窪みがあり、窪みの中に基板5が載置されている。ヒーター7は環形であり、シャフト8が環の孔を通過するように配置されている。ヒーター7は2つあり、環径の大きいものがヒーター7b、環径の小きいものがヒーター7aである。ヒーター7aから放射された電磁波は主としてサセプター6裏面に照射される。シャフト8にも一部の電磁波が照射されるが、シャフト8の表面積はサセプター6の表面積と比較し狭いうえ、回転機構や反応炉2に伝導により熱が逃げるので、サセプター6と比較してシャフト8の温度は低くなる。サセプター6の中央部はシャフト8に取付けられているので、サセプター6中央部からシャフト8に向かって熱伝導により熱が移動するため、サセプター6中央部は、その周辺と比較して温度が低い状態となる。
【0009】
上記に説明した従来技術の気相成長装置の熱移動をシュミレーションした結果を図9に示す。図9は図8に示す反応炉2を、サセプター6中心を中心軸として、片断面を回転させた3次元モデルについてヒーター7投入電力およびガス流量などプロセス条件を入力した時の、熱流動解析結果である。
【0010】
図9のシミュレーションに用いたサセプター6と基板5とのモデルの模式図を図10に示す。図10は円盤状のサセプター6のおもて面中央に円形の基板5aが載置され、その周囲にサセプター6中心から60度ずつ離れて6つの円形の基板5bが回転対称に載置されていることを表している。図9はサセプター6中心からの距離をX軸、温度をY軸とし、基板5ないしサセプター6の表面温度をプロットしたグラフである。図9のグラフから、サセプター6の中心で温度が低く、そこから距離0.04まで温度が上昇してピークをとなり、そこより距離が遠くなると逆に温度が低下するのが見てとれる。この傾向はサセプター6の表面、基板5の表面のいずれでも同じである。基板5の表面の場合、面内温度差は約8℃である。サセプター6の中心温度が距離0.04の温度と比較して低いのは、前述した通りシャフト8に熱が逃げるからである。また、距離0.04が温度のピークとなるのは、サセプター6の中心の温度を上昇させるためサセプター6の中心付近により強く放射を当てるようにヒーター7aを配置したためである。これにより、サセプター6のシャフト8との取付部付近の温度の低下はある程度緩和されるものの、逆にその周辺の距離0.04付近の温度が高くなりすぎるという結果になる。以上、説明した通り、基板5の表面の温度を均一に保つことは難しい。
【0011】
そのため、上記の問題を解決するために様々な工夫がなされている。
特開2008−252106号公報(特許文献1)では、図11に示すようにシャフト8に接近した位置にヒーター7cを配置し、シャフト8を高温に保つことで、サセプター6のシャフト8との取付部の温度低下を防いでいる。
【0012】
また、特開2000−323556号公報(特許文献2)では、サセプターと接触部材の熱伝導率をサセプターより低くすることで、サセプターに接触する部材からの熱の移動を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−252106号公報(出願人/ビーコ)
【特許文献2】特開2000−323556号公報(出願人/コマツ電子金属株式会社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特開2008−252106号公報(特許文献1)では、サセプター加熱用ヒーターとは別に、シャフト加熱用ヒーターを必要とするため、構造が複雑になり、高コストになりやすく、信頼性の低下の原因ともなる。また、シャフトは回転半径が小さく表面積が狭いため、サセプターのシャフトとの取付部の温度低下を十分に防止するためには、シャフト上での放射照度を十分に大きくする必要がある。そのためにはシャフト加熱用ヒーターとして放射輝度/放射強度の高いヒーターを採用し、かつシャフトに近接させてヒーターを配置したり、ヒーターからの放射がシャフト上で集光し、シャフト上で高い放射照度となるよう配置したりする必要がある。そのため、サセプター加熱用ヒーターとシャフト加熱用ヒーターとでは配置すべき位置や要求される放射輝度/強度が全く異なるため、兼用することが困難であった。
【0015】
また、特開2000−323556号公報(特許文献2)では、部材同士が接触している限り、接触部の温度低下が全くなくなるとは考え難く、結局接触部付近では所望の結晶を得ることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、被処理基板を保持するサセプターと、サセプターを支持しサセプターと一体して回転するシャフトと、前記被処理基板にガスを導入するガス導入部と、電磁波を放射しサセプターまたは被処理基板を加熱するヒーターと、を備えた気相成長装置において、シャフトには突起部であるガイド板が取付けられ、前記ガイド板に電磁波が照射される位置にヒーターが配置されていることを特徴とする。
【0017】
本発明は、前記ガイド板に電磁波が照射される位置に配置された前記ヒーターが前記サセプターまたは前記被処理基板に電磁波が照射される位置に設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガイド板に電磁波が照射される位置にヒーターが配置されているので、ガイド板がヒーターからの電磁波によって加熱される。また、ガイド板はシャフトに取付けられているので、ガイド板からシャフトに熱が移動しシャフトは高温となる。ガイド板はシャフトから突出する突起部であるので、その表面積をシャフトより広くすることができる。ヒーターからより広範囲の放射を受けることができるため、ヒーターによって直接シャフトを加熱する場合より放射照度を低くするこができ、放射強度または放射輝度の低いヒーターを使用することができる。シャフトが高温となるので、サセプターからシャフトに移動する熱が少なくなり、サセプターのシャフトとの取付部の温度が低下することが無く、サセプターの温度が均一となる。そのため、サセプターに保持された基板もまた表面温度が均一となる。表面温度が均一である基板に対しガス導入部から気相成長に必要なガスを導入すると、均一な品質の結晶が成長するので、均一な品質の薄膜を生成することができる。
【0019】
本発明によれば、サセプターの加熱とシャフトの加熱とが1つのヒーターによって可能となる。気相成長装置の構造を単純にすることができるため、本発明の気相成長装置は製造コストを削減することができ、かつ故障率を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例に係る反応炉の構成を模式的に示す断面図
【図2】実施例に係るサセプター、ガイド板、ヒーター周辺の構成を示す断面図
【図3】実施例のシミュレーション結果
【図4】シミュレーションに用いたサセプターと基板とのモデルの模式図
【図5】実施例に係るサセプター、ガイド板、ヒーター周辺の構成を示す断面図
【図6】本実施例に係る反応炉の構成を模式的に示す断面図
【図7】従来の気相成長装置の構成を模式的に示す断面図
【図8】従来技術の気相成長装置に係るサセプター、ガイド板、ヒーター周辺の構成を示す断面図
【図9】従来技術の気相成長装置のシミュレーション結果
【図10】シミュレーションに用いたサセプターと基板とのモデルの模式図
【図11】従来の反応炉の構成を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図1ないし図6に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明の気相成長装置1の実施の形態である縦型シャワーヘッド型気相成長装置の反応炉2の断面の模式図である。
【0023】
この気相成長装置1においては、反応炉外壁15によって大気と隔離され気密状態を保持され成膜室4と、被処理基板5(以後、単に「基板」とも言う)を載置することによって基板5を保持するサセプター6と、前記基板5を加熱するヒーター7と、成膜室4内において基板5に向けて複数の原料ガスを供給するガス導入部3(シャワーへッド)と、によって、反応炉2を構成している。
【0024】
ガス導入部には3には、(図示しない)ガス供給部9から原料ガスおよびキャリアガスを導入するための(図示しない)ガス配管10が接続されており、反応炉2の下部には成膜室4内のガスを外部に排気するためのガス排出部11が設置されており、ガス排出部11は、(図示しない)パージライン13を介して、排気されたガスを無害化するための(図示しない)排ガス処理装置12に接続されている。
【0025】
サセプター6は、基板5を保持する台である。一つのサセプター6に複数枚の基板5を載置して保持しても良い。図1においては、サセプター6は平面である基板5を載置する関係上、上面が平面であるものが望ましい。また、安定して回転させるためには、回転軸に対し回転対称であることが望ましく、一般的には円である。従って、サセプター6は円盤形状とすることが多い。基板5を複数枚、載置する場合は、サセプター6の回転運動の安定と成膜の均一性のため、前記回転軸に対し、回転対称に載置することが望ましい。また、上面に基板5を安定的に載置し固定するための窪み、ツメ、吸盤等の固定機構を設けてもよい。本実施の形態においては、サセプター6の基板5を載置する側の面をサセプター6の「おもて面」、その反対側の面を「裏面」と呼ぶ。
【0026】
ガス導入部3は、サセプター6のおもて面に対向する位置に配置されている。これは、サセプター6のおもて面に載置された基板5に対しガスを供給するためである。
【0027】
シャフト8はサセプター6を支持する部位である。また、サセプター6と一体として回転する部位であり、その回転半径はサセプター6より小さい。安定して回転させるためには、回転軸に対し回転対称であることが望ましく、一般的には円柱形状であり、その中心軸を回転軸とする。円柱の一端が、サセプター6の裏面の中心にその回転軸を一致するように取付けられ、他端は、図示しない回転機構に固定されている。なお、サセプター6とシャフト8との取付部に関しては熱伝導の低い素材を用いたり、必要とされる強度を確保しつつ可能なかぎり接触面積を小さくしたりする等の方法によってサセプター6とシャフト8との間の熱の移動量を少なくする取付方法を用いる方が望ましい。シャフト8には、回転機構から前記円柱形状の中心軸を中心とする回転運動が伝達され、回転可能する。さらに、前記回転運動をサセプター6に伝達することによってサセプター6を回転させることができる。
【0028】
ガイド板14とはシャフト8の両端の間(すなわち、回転機構とサセプター6との間)にあるシャフト8の周囲に取付けられた突起部である。ガイド板14の回転半径はシャフト8の回転半径より大きく、ガイド板14とサセプター6との間にあるシャフト8の部分は、その両側にあるガイド板14、サセプター6のいずれよりも回転半径が小さい。ガイド板14はシャフト8を安定して回転させるため、回転軸に対し回転対称の形状および配置位置であることが望ましく、図1においては円盤状の形状であるが、これのみならず、例えば、傘状、茶碗形状、星型、プロペラ形状等であっても良い。図1においては、ガイド板14はヒーター7の上側にあるが、これに限定されず、ヒーター7の下側にあっても良い。また、ガイド板14とサセプター6とを一体として構成し、ガイド板14にシャフトを取付ける構成であっても良い。
【0029】
本発明のヒーター7は、電磁波を放射する手段であって、前記電磁波が加熱対象に照射されることによって加熱対象を加熱するものである。電磁波としては、マイクロ波、赤外線、可視光線、紫外線等、様々は波長分布のものが考えられるが、加熱対象を適切に加熱できるものであればどのような電磁波であってもよく、また電磁波の発生方法としてもマグネトロン、電熱線、蛍光管、プラズマ発生器、LED、レーザ発振器等、どのようなものであっても良い。また、ヒーター7の形状としては、本実施の形態ではドーナツ形状を採用しているが、これに限定されるものではない。ヒーター7は1つだけでなく、複数であっても良い。ヒーター7からの放射が主としてサセプター6の裏面とガイド板14とに対し照射する位置にヒーター7を配置する。ヒーター7は、基板5を加熱することを目的としているが、基板5のあるサセプター6のおもて面と対向する位置にはガス導入部3があるため、サセプター6のおもて面に対向する位置にヒーター7を設置することは難しい。そのため、サセプター6の裏面に対向する位置にヒーター7を設け、サセプター6に対し電磁波を放射し加熱する。基板5はサセプター6の上に載置されているので、伝導によってサセプター6から基板5に熱が伝わり、基板5は高温に保たれる。効率的にヒーター7からサセプター6に熱を伝えるため、ヒーター7からの電磁波を主に受けるサセプター6の表面については、前記電磁波を吸収しやすい素材ないし表面加工されたものを用いることが望ましい。また、サセプター6におもて面から裏面に通じる貫通孔を空け、サセプター6のおもて面側の貫通孔上に基板5を置き、サセプター6の裏面側からヒーター7で孔を通して基板5裏面に直接電磁波を当てることにより、基板5を直接加熱しても良い。
【0030】
ヒーター7から放射される電磁波の一部はガイド板14にも照射される。ヒーター7から放射される電磁波によってガイド板14は加熱され、その熱がガイド板14からシャフト8に伝導することにより、シャフト8の温度が高く保たれるので、サセプター6からシャフト8へと逃げる熱量を小さくなり、サセプター6のシャフト8との取付部(すなわちサセプター6の中央部)付近の温度の低下を防ぐことができる。効率的にヒーター7からガイド板14に熱を伝えるため、ヒーター7からの電磁波を主に受けるガイド板14の表面については、前記電磁波を吸収しやすい素材ないし表面加工されたものを用いることが望ましい。
【0031】
基板5の主表面に薄膜を形成するときは、原料ガスを、ガス導入部3を介して、反応室へ導入する。基板5はヒーター7によって加熱されているので、被処理基板5上での成膜化学反応が促進されることになり、被処理基板5上に薄膜が形成される。被処理基板5上を通過したガスは、ガス排出部11より排出される。
【実施例1】
【0032】
本実施例の第一の特徴は、シャフト8からヒーター8とサセプター6との間にある空間に向かって突起部であるガイド板14を設けたことにある。
【0033】
本実施例の構造および熱移動を、本実施例のシャフト8周辺構造を示す断面図である図2を用いて説明する。図2に示すように本実施例の構造は、従来技術である図8の構成に対し、ガイド板14を追加したものである。円筒形状のシャフト8の一端に円盤形状のサセプター6の裏面がその中心軸を一致するように取付けられ、さらにサセプター6のおもて面中央に基板5を載置する窪みがあり、窪みの中に基板5が載置されている。ヒーター7は環形であり、シャフト8が環の孔を通過するように配置されている。ヒーター7は2つあり、環径の大きいものがヒーター7b、環径の小きいものがヒーター7aである。ヒーター7aから放射された電磁波は主としてサセプター6裏面とガイド板14とに照射される。
【0034】
ガイド板14は、シャフト8の両端の間(すなわち、サセプター6に取付けられている一端と図示されない回転機構に固定されている他端との間)にあり、シャフト8の周囲に取付けられた突起である。図2の例では、ガイド板14は円盤状である。ヒーター7aから放射される電磁波の一部はガイド板14に照射されるためのガイド板14は加熱され、高温となる。ガイド板14はシャフト8に取付けられているため、ガイド板14からシャフト8に向けて熱伝導により熱が移動し、シャフト8の温度もまた図8の従来例と比較して高く保たれる。以上の作用は、ガイド板14がシャフト8と比較して、表面積が広い、またはヒーター7aにより近い、またはヒーターからの放射方向に対しその表面の法線が垂直に近いためである。そのため、ガイド板14はシャフト8に比べてより多くの電磁波を吸収し、高温となることができる。なお、ガイド板14の表面に前記電磁波をより吸収しやすくする表面加工ないし素材を用いることにより前記の作用はより大きくすることができる。以上の作用により、シャフト8の温度は高く保たれるため、サセプター6からシャフト8に移動する熱は少なくなり、サセプター6のシャフト8取付部付近の温度の低下がより小さくなり、サセプター6のおもて面および基板5表面の温度をより均一にすることができるようになる。
【0035】
また、ガイド板14をヒーターとサセプター6との間に配置することによって、ヒーターから放射された電磁波がガイド板14に当たる分、サセプター6には当たらなくなる。そのため、サセプター6に当たる電磁波を減少させることができ、サセプター6のシャフト8との取付部付近の周囲の温度が高くなりすぎるのを防ぐことができる。
【0036】
図2の構成の熱移動をシュミレーションした結果を図3に示す。図3のシミュレーションに用いたサセプター6と基板5とのモデルの模式図を図4に示す。図4は円盤状のサセプター6のおもて面中央に円形の基板5aが載置され、その周囲にサセプター6中心軸から60度ずつ離れて6つの円形の基板5bが回転対称に載置されていることを表している。図3はサセプター6の中心軸からの距離をX軸、温度をY軸とし、基板5ないしサセプター6の表面温度をプロットしたグラフである。図9と比較し、サセプター6の中心からの距離が0から0.08までの温度の変化が小さくなっていることが判る。この傾向はサセプター6の表面、基板5の表面のいずれでも同じである。基板5の表面の場合、面内温度差が4℃以内であり、図9に示した従来技術温度と比較して温度が一定に近い状態となっているのが判る。
【0037】
なお、ガイド板14とシャフト8との取付部に関しては熱伝導の高い素材を用いたり、接触面積を大さくしたりする等の方法によってガイド板14とシャフト8との間の熱の移動量を大きくする取付方法を用いる方が望ましい。
【0038】
また、ガイド板14はその形状や大きさが容易に変更可能なよう構成される方が望ましい。そのための方法としては、ネジ等の取り外し可能な締結手段によって形状や大きさの異なる他のガイド板14と交換可能なように構成したり、ガイド板14にさらに他のガイド板14を取付けられるよう構成したり、ガイド板14をあらかじめ切断ないし切削容易な素材または形状とする等の方法がある。その理由の1つは、ガイド板14の最適な大きさや形状を、気相成長装置の稼動前に予測することが困難であるためである。ガス、サセプター6、ヒーター、ガイド板14、サセプター6の回転速度、基板5などの様々な条件によって基板5の温度は変化する。そのため、設計時点で装置稼動時の基板5の表面温度を正確に予測することは困難であり、装置を稼動しながら現物合せでの試行錯誤が必要となる。ガイド板14をその形状や大きさが容易に変更可能なよう構成しておけば、実際の稼動状態での基板5表面温度や本装置の生産物(化合物半導体結晶)を 観察した後に、ガイド板14を容易に修正することができるので、ガイド板14の最適な形状やサイズを容易に見つけることができ、最適な条件での実施が可能となる。
【0039】
2つ目の理由は、1つの気相成長装置で様々な製品を生産するためである。成長させる結晶の組成、特性、厚さや、基板5のサイズや形状といった生産物に関する仕様や、基板5の配置位置、成膜室4に導入するガスの組成、求められる結晶成長速度、サセプター6の回転速度などの生産上の条件が変れば、それに伴い、上記結晶を均一に成長させるのに適切な基板5の温度や温度を一定に保たなければならない領域の形状や面積も異なる。従って、適切なガイド板14の形状やサイズも製品毎に異なる。ガイド板14を容易に変更可能なよう構成すると、1つの気相成長装置で各製品を生産するために最適なガイド板14を適時選択できるようになるため、1つの気相成長装置で様々な種類の製品を均一な品質で生産可能となる。
【0040】
サセプター6、シャフト8、ガイド板14の熱伝導率について検討する。温度を一定に保ちたい場合、熱伝導率の高い素材、形態を用いることが好適である。本発明においては、基板5の温度を一定に保つため、少なくもとサセプター6の基板5と接触する部位の温度は可能なかぎり一定に保つ方が望ましい。従って、少なくもとサセプター6の基板5と接触する部位、通常はサセプター6全体について、熱伝導率の高い素材を用いるべきである。具体的には、80W/(m・K)以上であることが好ましく、 素材の例としてはカーボン等を用いればよい。なお、カーボンの熱伝導率は一般的には100W/(m・K)程度である。
【0041】
また、熱の移動を抑えて意図時に温度差を大きくしたい場合は、熱伝導率の低い素材を用いるべきである。本発明においては、サセプター6の熱がシャフト8を介して他に熱が移動することを防止するため、シャフト8や、シャフト8とサセプター6との取付部については熱伝導率の低い素材を用いるべきである。具体的には30W/(m・K)以下であることが好ましく、 素材の例としては石英等を用いればよく、少なくともサセプター6より熱伝導率の低い素材を用いる方が望ましい。なお、石英の熱伝導率は一般的には10W/(m・K)程度である。
【0042】
また、ガイド板14の熱伝導率は高い方が望ましい。ガイド板14の熱伝導率が低いとガイド板14から他に(主にシャフト8に)熱が逃げにくいので、ガイド板、特にシャフトから遠いガイド板の外周部は高温となる。この場合、ガイド板14が接しているガスに対し移動する熱量と輻射で周囲に移動する熱量とが増え、結果としてガイド板14からシャフト8に伝導で移動する熱量が減少する。このため、ガイド板14の効果が小さくなる。従って、ガイド板14の熱伝導率は高い方が望ましい。具体的には80W/(m・K)以上であることが好ましく、 素材の例としてはカーボン等を用いればよい。なお、カーボンの熱伝導率は一般的には100W/(m・K)程度である。
【実施例2】
【0043】
シャフト上部8a(ガイド板14とサセプター6との間にあるシャフト8の部位)とガイド板14とサセプター6とを一体として構成し、ガイド板14にシャフト下部8a(ガイド板14と回転機構との間にあるシャフト8の部位)を取付ける構成であっても良い。本実施の形態の断面図を図5に示す。図5に示す形状とすることによって、ヒーター7aから放射される電磁波の一部はガイド板14に照射されるためのガイド板14は加熱され、高温となる。ガイド板14はシャフト8に取付けられているため、ガイド板14からシャフト8に向けて熱伝導により熱が移動し、シャフト8の温度もまた図8の従来例と比較して高く保たれる。以上の作用は、ガイド板14がシャフト8と比較して、表面積が広い、またはヒーター7aにより近い、またはヒーターからの電磁放射方向に対しその表面の法線が垂直に近いためである。そのため、ガイド板14はシャフト8に比べてより多くの電磁波を吸収し、高温となることができる。なお、ガイド板14の表面に前記電磁波をより吸収しやすくする表面加工ないし素材を用いることにより前記の作用はより大きくすることができる。以上の作用により、シャフト8の温度は高く保たれるため、サセプター6からシャフト8に移動する熱は少なくなり、サセプター6のシャフト8取付部付近の温度の低下がより小さくなり、サセプター6のおもて面および基板5の表面の温度をより均一にすることができるようになる。また、本実施例の場合、ガイド板14をサセプター6と一体として構成しているので、部品点数を減らすことができ、本発明の装置の製造コストの削減が可能である。
【実施例3】
【0044】
図6に本実施例に係る反応炉の構成を模式的に示す断面図を示す。図6に示した反応炉
は、ガイド板の取付け位置が実施例1と異なること以外は実施例1と同じである。ガイド板14をヒーター7の下側に(すなわち、サセプター14の反対側に)配置されている。この場合、をヒーター7から上方に放射される電磁波がガイド板14に遮蔽されることなくサセプター6に照射され、また、ヒーター7から下方に照射される電磁波がガイド板14に照射されるので、下方に照射される電磁波を無駄なくサセプターおよびシャフトの加熱に用いることができるので、エネルギー効率が良い。
【符号の説明】
【0045】
1 気相成長装置
2 反応炉
3 ガス導入部
4 成膜室
5 被処理基板
6 サセプター
7 ヒーター
8 シャフト
9 ガス供給部
10 ガス配管
11 ガス排出部
12 排ガス処理装置
13 パージライン
14 ガイド板
15 反応炉外壁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を保持するサセプターと、サセプターを支持しサセプターと一体して回転するシャフトと、前記被処理基板にガスを導入するガス導入部と、電磁波を放射してサセプターまたは被処理基板を加熱するヒーターと、を備えた気相成長装置において、
シャフトには突起部であるガイド板が設けられ、前記ガイド板に電磁波が照射される位置にヒーターが配置されていることを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
前記ガイド板に電磁波が照射される位置に配置された前記ヒーターは前記サセプターまたは前記被処理基板に電磁波が照射される位置に設置されていることを特徴とする請求項1記載の気相成長装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−3816(P2011−3816A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147291(P2009−147291)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】