説明

水晶振動子及び水晶発振器

【課題】複数の振動領域を有する水晶振動子において、一方の振動領域が他方の振動領域に与える影響を抑えると共に簡素な構成の水晶発振器を構成することができる技術を提供すること。
【解決手段】水晶片に設けられる第1の振動領域と、前記水晶片に設けられ、第1の振動領域とはその厚さ及びX軸の正負の向きが異なる第2の振動領域と、第1の振動領域、第2の振動領域に夫々設けられ、各振動領域を独立して振動させるための励振電極と、を備えるように水晶振動子を構成する。一方の振動領域と他方の振動領域とから夫々温度変化に対して互いに異なる大きさで変化する周波数を取り出すことができるので、温度に対して明確に周波数変化が起きる方の振動領域の発振周波数に基づいて、他の振動領域からの発振周波数を制御することができる。これにより、水晶発振器の複雑化を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その面内でX軸の正負の方向が互いに異なる振動領域を有する水晶振動子及びこの水晶振動子を含む水晶発振器を提供する。
【背景技術】
【0002】
発振回路などの電子部品に用いられる水晶振動子は、温度に応じて発振周波数が変化する周波数温度特性を持っている。この周波数温度特性は、水晶振動子を構成する水晶片の切断角度や厚さなどにより水晶振動子毎に異なっている。
【0003】
従って、雰囲気温度にかかわらず安定した周波数出力を得る工夫が種々行われている。例えば、共通の水晶片に互いに対となる励振電極の組を2つ形成して第1の水晶振動子、第2の水晶振動子を構成し、第1の水晶振動子、第2の水晶振動子の出力の差分を演算し、その出力を利用することが検討されている。このように共通の水晶片により構成される第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子は、周囲温度の影響を同様に受けるため、前記差分の周波数出力は前記周囲温度の影響が抑えられる。しかし、そのように周波数の差分を演算することは、装置の構成が複雑になる。
【0004】
ところで同じ水晶片に振動領域を複数形成する場合、一の振動領域が他の振動領域に与える影響が抑えられるように水晶片を構成する必要がある。例えば特許文献1には水晶片に凹部が形成され、当該凹部により互いの振動領域が区画されている。しかし、この水晶片は凹部に区画される領域が共にATカットされているため上記の装置構成が簡素な発振装置を得るという課題を解決することが困難である。また、特許文献2には、ATカットされた水晶片の周縁部にレーザーを照射して結晶軸の正負を反転させることにより、水晶片を双晶化する技術が記載されている。しかし、レーザーを照射した前記周縁部は、振動せずにATカットされた領域である中央部を支持する領域として構成されており、上記の問題を解決できるものではない。
また、水晶発振器においては、サーミスタなどを用いた温度センサとして用いたものが知られている。温度センサにより検出した温度に基づいて発振出力が制御されるが、より簡単な構成で安定した発振を得ることができる水晶発振器が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−108170
【特許文献2】特開2003−69374号公報(段落0011)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、複数の振動領域を有する水晶振動子において、一方の振動領域が他方の振動領域に与える影響を抑えると共に簡素な構成の水晶発振器を構成することができる技術を提供することである。さらに水晶発振器において、簡単な構成で安定した発振出力が得られる技術を提供する異である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水晶振動子は、水晶片に設けられる第1の振動領域と、
前記水晶片に設けられ、第1の振動領域とはその厚さ及びX軸の正負の向きが異なる第2の振動領域と、
第1の振動領域、第2の振動領域に夫々設けられ、各振動領域を独立して振動させるための励振電極と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の水晶振動子の具体的な態様としては例えば以下の通りである。
(1)前記水晶片において、第1の振動領域と第2の振動領域との間に凹部が形成される。
(2)第1の振動領域及び第2の振動領域のうちの一方はATカットされた領域である。
【0009】
本発明の水晶発振器は上記の水晶振動子を含むことを特徴とする。この水晶発振器の具体的な態様としては例えば、第2の振動領域の発振周波数に基づいて第1の振動領域を発振させるための制御電圧を制御することにより、当該第1の振動領域の発振周波数を制御する制御手段を備える。
【0010】
また、本発明の水晶発振器は、水晶片に設けられる第1の振動領域と、
前記水晶片に設けられ、第1の振動領域とはX軸の正負の向きが異なる第2の振動領域と、
第1の振動領域、第2の振動領域に夫々設けられ、各振動領域を独立して振動させるための励振電極と、
第1の振動領域を発振させるための第1の発振回路と、
第2の振動領域を発振させるための第2の発振回路と、
第2の振動領域の発振周波数に基づいて前記水晶片の温度を推定し、この推定された温度に基づいて第1の発振回路からの発振周波数を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
この水晶発振器の具体的な態様は、例えば下記の通りである。
(3)前記水晶片において第1の振動領域と第2の振動領域とは異なる領域に、第1の発振回路からの信号が入力されるフィルタを構成するフィルタ形成領域が設けられる。
(4)前記第1の振動領域と前記フィルタ形成領域とは、第2の振動領域により区画される。
(5)前記励振電極は、第1の振動領域及び第2の振動領域に跨って形成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水晶振動子は、X軸の正負が反転し、夫々独立して振動する各領域の厚さが互いに異なるように形成されている。従って、第1の振動領域の振動が、第2の振動領域の振動に与える影響を抑えることができ、また各振動領域が略同じ温度雰囲気に置かれた状態で、一方の振動領域と他方の振動領域とから所定の温度変化に対して互いに異なる大きさで変化する発振周波数を取り出すことができる。従って、温度に対して明確に周波数変化が起きる方の振動領域の発振周波数に基づいて、他の振動領域の発振を制御することができる。これにより、各領域からの発振周波数の差分を演算しなくてもよくなるため、当該水晶振動子により構成される水晶発振器の構成が複雑化し、コストが高くなることを抑えることができる。
また、本発明の水晶発振器は、水晶片に設けられた第2の振動領域の振動に基づいて前記水晶片の温度が推定され、第2の振動領域とはX軸の正負の向きが反転された第1の振動領域による発振周波数が制御される。従って、装置のコストを抑え、安定した出力を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態の水晶振動子の平面図及び縦断側面図である。
【図2】前記水晶振動子の製造方法を示す工程図である。
【図3】前記水晶振動子の他の製造方法を示す説明図である。
【図4】前記水晶振動子を含む温度補償発振器の回路図である。
【図5】前記水晶片をなすATカット領域の温度特性を示すグラフ図である。
【図6】制御電圧と発振周波数との関係を示すグラフ図である。
【図7】前記水晶片をなす一の領域の温度特性を示すグラフ図である。
【図8】第2の実施形態の水晶振動子の平面図及び縦断側面図である。
【図9】前記水晶振動子を含む温度補償発振器の回路図である。
【図10】第3の実施形態の水晶振動子を含む温度補償発振器の構成図である。
【図11】第4の実施形態の水晶発振器を構成する水晶振動子の平面図である。
【図12】前記水晶振動子の縦断側面図である。
【図13】比較例であるTCXOの温度特性を示すグラフ図である。
【図14】第4の実施形態のTCXOの温度特性を示すグラフ図である。
【図15】第5の実施形態のTCXOを構成する水晶振動子の平面図である。
【図16】前記水晶振動子の縦断側面図である。
【図17】前記第5の実施形態のTCXOの回路図である。
【図18】前記TCXOの水晶振動子の等価回路図である。
【図19】第5の実施形態のTCXOの温度特性を示すグラフ図である。
【図20】第3の実施形態のTCXOの温度特性を示すグラフ図である。
【図21】第6の実施形態のTCXOを構成するための水晶振動子の平面図である。
【図22】前記水晶振動子の縦断側面図である。
【図23】前記第6の実施形態のTCXOの回路図である。
【図24】前記TCXOの水晶振動子の等価回路図である。
【図25】前記TCXOの温度特性を示すグラフ図である。
【図26】第7の実施形態のTCXOを構成するための水晶振動子の平面図である。
【図27】前記水晶振動子の縦断側面図である。
【図28】前記第7の実施形態のTCXOの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態である水晶振動子について図面を参照しながら説明する。図1(a)(b)は、水晶振動子1の平面図、側面図である。この水晶振動子1は矩形状の水晶片11を備えており、この水晶片11の長さ方向に沿って第1の振動領域12、第2の振動領域13が各々形成されている。第1の振動領域12は、その表面及び裏面が水晶の結晶軸であるZ軸に対して、X軸の+方向から見て反時計回りに約35°傾いたZ’軸と当該X軸とに平行している。つまり、第1の振動領域12はATカットされた領域である。
【0015】
第2の振動領域13は、その表面及び裏面が前記Z’軸と前記X軸とに平行しており、このX軸の正負の向きは第1の振動領域12のX軸の正負の向きと逆になるように構成されている。即ち、この水晶片11は電気的双晶として構成されている。そして、第2の振動領域13は概ねDTカットされた領域として構成されている。また、図1(b)に示すように第1の振動領域12は第2の振動領域13に比べてその厚さが小さく形成されている。
【0016】
水晶片11の表面、裏面には、第1の振動領域12と第2の振動領域13とを区画するように夫々凹部14、15が形成されている。各凹部14、15は水晶片11の幅方向に沿って筋状に形成され、互いに対向している。また、第1の振動領域12の表裏面には、第1の振動領域12を励振させるための励振電極16A、16Bが形成されており、これら励振電極16A、16Bは互いに対向して形成されている。第2の振動領域13の表裏面には第1の振動領域12と同様に励振電極17A、17Bが互いに対向して設けられている。これら励振電極16、17によって第1の振動領域12、第2の振動領域13は互いに独立して振動する。
【0017】
各励振電極16(16A、16B)、17(17A、17B)から水晶片11の端部へ向けて電極18が引き出されるように形成されている。電極18は励振電極16、17を発振回路に接続するための導電路の役割を有する。図1(b)においてはこの引き出し電極18の図示を便宜上省略している。
【0018】
続いて、上記の水晶振動子の製造方法について水晶片の側面が変化する様子を示した図2を参照しながら説明する。図2(a)はATカットされた矩形状の水晶片21を示している。この図2(a)に示す状態では水晶片21は単晶である。この水晶片21の寸法としては例えば長さが5mm、幅が2mm、厚さが0.06mmである。
【0019】
この水晶片21にエッチングにより凹部14を形成し、第1の振動領域12、第2の振動領域13に水晶片21を区画する(図2(b))。続いて第2の振動領域13に図示しないレーザー照射部により炭酸ガスレーザーを照射し、第2の振動領域13が加熱される。図2(b)の矢印はこのレーザー光を示している。このレーザー照射によって第2の振動領域13が加熱され、当該第2の振動領域13のX軸の正負が反転し、上記のように第2の振動領域13が概ねDTカットされた領域(便宜上、DTカット領域として説明する)となり、水晶片21が双晶である水晶片11に変化する(図2(c))。
【0020】
図2(c)〜図2(e)ではそのように結晶軸が反転した領域に多数の点を付して示している。このようにレーザー照射の前に凹部14を形成することで、X軸の正負が反転する領域が第1の振動領域12に及ぶことが防がれることについて、発明者が実験により確認している。ATカット領域を符号22で、DTカット領域を符号23で夫々示している。この第1の実施形態ではATカット領域22は第1の振動領域12、DTカット領域23は第2の振動領域13である。
【0021】
続いて、水晶片11をエッチング液に浸漬する。水晶の異方性により、第1の振動領域12の表裏面は、第2の振動領域13の表裏面に比べてエッチング速度が大きい。従って図2(c)に示すように第1の振動領域12の厚さが第2の振動領域13の厚さよりも小さくなる。また、第1の振動領域12と第2の振動領域13との境界部分は第1の振動領域12及び第2の振動領域13の各表裏面よりもエッチング速度が大きい。従って凹部14の深さが大きくなると共に水晶片11の裏面に凹部15が形成される(図2(d))。このように水晶片11をエッチングした後、水晶片11の表面及び裏面に金属膜を形成し、この金属膜をエッチングして、励振電極16、17及び引き出し電極18を形成する(図2(e))。
【0022】
この水晶振動子1においては、ATカットされた領域である第1の振動領域12と、DTカットされた第2の振動領域13との間においてこれら振動領域12、13の厚さが互いに異なり、これら振動領域12、13間に段差が形成されて一方の振動領域の弾性波が他方の振動領域に伝播することが抑えられるので、一方の振動領域の振動が他方の振動領域の振動に与える影響が抑えられる。従って、後述のようにこの水晶振動子1を水晶発振器に組み込んだときに、各振動領域から安定した出力周波数を取り出すことができる。さらに、この水晶振動子1については凹部14、15が形成されている。この凹部14、15により弾性波の伝搬がさらに抑えられ、一方の振動領域の振動が他方の振動領域の振動に与える影響がより確実に抑えられる。
【0023】
ところで、図3(a)(b)は夫々水晶片21の平面図、縦断側面図である。上記の例ではレーザーを照射して双晶を形成するにあたり、水晶片21に凹部14を形成しているが、この凹部14には図3(a)(b)に示すような貫通孔24も含まれる。この貫通孔24は水晶片21の幅方向に線状に形成されている。このような貫通孔24を形成して第2の振動領域13にレーザーを照射しても、第2の振動領域13でX軸の正負の反転が起こり、第1の振動領域12にはX軸の正負の反転が起こらなかったことを発明者は確認している。つまり、振動領域を区画するように凹部を水晶片に形成しておくことでX軸の正負を反転させる領域の大きさを精度高く制御することができる。また、このようにレーザーを照射してX軸の正負を反転させることに限られず、例えば水晶片を金属膜で覆い、水晶片を加熱することにより、金属膜で覆った箇所のX軸の正負を反転させてもよい。
【0024】
(第1の実施形態のTCXO)
続いて、上記の水晶振動子1を用いて構成される温度補償水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated crystal Oscillator)3について図4の回路構成図を参照しながら説明する。上記のように水晶振動子1は独立して振動する2つの振動領域を備えているため、この説明では、便宜上水晶振動子1は2つの水晶振動子であるものと見て説明する。第1の振動領域12(ATカット領域22)を含む水晶振動子を1A、第2の振動領域13(DTカット領域23)を含む水晶振動子を1Bとする。
【0025】
このTCXO3は外部に設定周波数fの信号を出力するための主発振部41と、温度補償用の信号を発振させるための補助発振部51と、補助発振部51から出力される温度補償用の信号に基づいて主発振部41に入力する制御電圧Vを算出するために、これらの主発振部41及び補助発振部51の間に設けられた制御電圧供給部61と、を備えている。図4中50は、補助発振部51の制御電圧V10の入力端であり、40はTCXO3の出力端である。
【0026】
主発振部41は、水晶振動子1Aとこの水晶振動子1Aに接続された主発振回路42と、を備えている。補助発振部51は水晶振動子1Bとこの水晶振動子1Bに接続された補助発振回路52と、を備えている。上記の主発振部41の前段側(入力側)には、既述の制御電圧供給部61が接続されており、この制御電圧供給部61からバリキャップダイオード43を介して、主発振部41に制御電圧Vが印加されるように構成されている。この制御電圧供給部61は、(1)式に示すように、主発振部41の基準電圧Vから温度補償電圧ΔVを減算(ΔVの符号の取り方によっては加算とも言える)することにより、上記の制御電圧Vが生成されるように構成されている。
【0027】
=V−ΔV ・・・(1)
この基準電圧Vとは、基準温度T例えば29℃において、主発振部41から設定周波数fが出力される時の制御電圧である。また、温度補償電圧ΔVは、次のように表される。即ち、制御電圧Vと発振周波数fとが比例関係にあることから、ΔVは(2)式のように表される。また、ATカットの水晶片を用いて厚み滑り振動モードで発振させる場合には、(3)式が成り立つことからΔVは(4)式として表される。尚、Tは後述の温度推定部63において検出された温度、Δf=f−fである。α、β及びγはこの主発振部41に固有の定数である。
【0028】
ΔV=V(Δf/f) ・・・(2)
Δf/f=α(T−T)3+β(T−T)+γ ・・・(3)
ΔV=V{α(T−T)3+β(T−T)+γ}・・・(4)
10は、入力端50からバリキャップダイオード53を介してDTカット領域23に印加される制御電圧である。制御電圧供給部61は、補助発振部51から入力される周波数信号から発振周波数fを計測するための例えば周波数カウンターなどからなる周波数検出部62と、この周波数検出部62において計測した発振周波数fに基づいて温度Tを推定する温度推定部63と、温度推定部63において推定した温度Tに基づいて既述の補償電圧ΔVを演算するための補償電圧演算部64と、補償電圧演算部64にて演算された補償電圧ΔVを基準電圧Vから減算した制御電圧Vを主発振部41に出力するための加算部65と、を備えている。なお、補償電圧ΔVの符号を正、負のいずれに決めるかによって、加算部65における演算は、(V−ΔV)、(V+ΔV)のいずれかに決まってくるが、この実施の形態では先の(4)式で求めたΔVを補償電圧として取り扱っているので、(V−ΔV)として表現している。要は、周波数温度特性に応じて発振周波数fが設定周波数fから変動する分だけ、ΔVによりVを補償する演算を行えば良い。
【0029】
温度推定部63には、補助発振部51の周波数温度特性が記憶されており、この温度特性と補助発振部51の発振周波数fとに基づいて(fとTとは予め設定されている)、TCXO3の周囲の温度Tが求められる。また、補償電圧演算部64は、例えば主発振部41の温度特性である3次関数発生器を備え、既述の(4)式及び温度Tにより、補償電圧ΔVが求められる。
【0030】
次に、TCXO3の作用について説明する。主発振部41において基準温度T例えば29℃で設定周波数fが出力される基準電圧Vから、後述する温度補償電圧ΔVを減算した電圧Vをバリキャップダイオード43を介して主発振回路42に供給し、主発振回路42が周波数fで発振する。この時、水晶振動子1Aが例えば温度T(T>T)であり、制御電圧Vが基準電圧Vであるとした場合には、図5に示すようにこの主発振部41にて発振する周波数fは、基準温度Tに対応する設定周波数fから温度特性曲線である3次曲線に沿って、温度Tに対応する周波数fにずれようとする。しかし、上記のように主発振部41に供給される制御電圧Vは、基準電圧Vを温度補償電圧ΔVにより補償した値となっているので、出力端40からは設定周波数fが出力されることになる。このような温度補償電圧ΔVは、次のようにして制御電圧供給部61において計算される。
【0031】
既述のように、主発振部41における発振周波数fは、図6に示すように、制御電圧Vに比例する。従って、制御電圧供給部61において、周波数fと設定周波数fとの差分であるΔfを補償するために、Δfに相当する補償電圧ΔVだけ制御電圧Vを高くするようにコントロールされる。補償電圧ΔVは、上記の(4)式の温度Tに温度Tを代入することにより求められる。
【0032】
温度Tは、次のようにして補助発振部51の発振周波数fに基づいて算出される。即ち、入力端50に制御電圧V10を入力することにより、補助発振部51が発振する。以下、T10は基準温度例えば29℃であり、f10は基準電圧V10を制御電圧として補助発振回路52に供給した時に得られる周波数である。
【0033】
この補助発振部51における発振は上記のDTカット領域23(水晶振動子1B)の発振である。ここで、DTカットされた水晶片において、温度Tと周波数偏差(周波数変化率)f/f10との関係は2次関数に近似されることが知られているが、通常TCXO3を用いる範囲例えば0℃〜30℃の範囲では図7に示すように概ね比例関係となり、温度Tと補助発振部51からの発振周波数fとの間には(5)式の関係が成り立つ。
【0034】
f=f10(T−T10)+β}・・・(5)
周波数検出部62は、前記発振周波数fとこの(5)式を用いて温度Tを推定する。このように温度Tと発振周波数fとが比例関係となり、温度Tに対して周波数fが明確に変化する。さらに温度Tの変化に対して発振周波数fが比較的急峻に変化することから、このTCXO3では感度高く温度変化を検出することができる。なお、α、βは予め設定した補助発振部51に固有の定数であり、様々な値の制御電圧Vにおいて異なるので、上記の入力端50に入力される制御電圧Vは、これらの定数を求めた時と同じ電圧例えばV10となる。
【0035】
補償電圧演算部64は、こうして求められた温度T及び既述の(5)式に基づいて、補償電圧ΔVを算出する。これにより、主発振部41の発振周波数fがΔfだけ高くなろうとし、温度Tになっていることにより発振周波数fがΔfだけ低くなろうとする作用を打ち消すため、出力端40から出力される発振周波数fが設定周波数fに維持されることになる。
【0036】
このようなTCXO3では、上記の水晶振動子1を用いることで、主発振部41及び補助発振部51から安定した出力を得られ、補助発振部51からの出力を制御電圧として主発振部41の出力を制御している。それによって各水晶振動子1A、1Bの出力の差分を演算しなくても安定した出力を得ることができるので、装置が大型化したり、製造コストが高くなることを抑えることができる。
【0037】
(第2の実施形態)
他のTCXO70について説明する。図8(a)(b)はこのTCXO70に用いる水晶振動子7の平面図及び縦断側面図である。この水晶振動子7は、水晶振動子1と同様にATカット領域22及びDTカット領域23からなるが、ATカット領域22には励振電極71A、71Bと、励振電極72A、72Bとが形成されており、これら励振電極71(71A,71B)、72(72A,72B)の周囲が夫々独立して振動する。励振電極71により振動する領域を73、励振電極72により振動する領域を74とする。振動領域73、74間で互いの振動の影響が抑えられるように励振電極71、72間の寸法lは例えば1mmに設定している。各振動領域73、74から出力される周波数を若干ずらすために励振電極71、72の厚さは互いに異なっている。
【0038】
図9はTCXO70の回路図である。水晶振動子7について、各振動領域が独立して振動することから便宜上水晶振動子が3つ含まれているものとして説明する。振動領域73により構成される水晶振動子を7A、振動領域74により構成される水晶振動子を7Bとする。振動領域13により構成される水晶振動子はTCXO3と同様に1Bとする。このTCXO70では水晶振動子7Aからの出力(f21とする)と、水晶振動子7Bからの出力(f22とする)との差分f21−f22を取り出す。水晶振動子7A、7Bは同じ水晶片11により構成されているため略同様の温度雰囲気に置かれるが、水晶振動子7A、7Bの位置の違いにより若干温度が異なるためf21−f22は周囲温度の変化に対してわずかに変動する。このTCXO70はこの変動を、より小さく抑えることを目的とする。
【0039】
この例では、TCXO3と同様に水晶振動子1Bの出力に基づいて各水晶振動子の周囲温度Tを検出し、その温度に応じて水晶振動子7A、7Bについて夫々設けられた補償電圧演算部64A、64Bにより、上記(4)式よりΔVを演算する。(4)式において各補償電圧演算部64A、64Bで用いられるα、β及びγの各定数は水晶振動子7A、7Bに固有の値である。
【0040】
TCXO70において、TCXO3で説明したものと同様に構成される部分については同じ符号を付して説明を省略する。TCXO70の制御電圧供給部76は、TCXO3の制御電圧供給部61に相当する箇所であり、上記のように補償電圧演算部64A、64Bを備え、温度推定部63からの信号が出力される。
この補償電圧演算部64A、64BではTCXO3の補償電圧演算部と同様に(4)式によりΔVが演算されるが、水晶振動子7A、7Bに応じて夫々設定された夫々固有の定数α、β及びγを用いてΔVの演算が行われる。
【0041】
また、補償電圧演算部64A、64Bは各水晶振動子7A、7Bについて設けられた加算部65に接続され、各加算部65で制御電圧Vcが演算される。この制御電圧Vcがバリキャップダイオード43を介して、水晶振動子7A、7Bに夫々接続される発振回路77A、77Bに出力され、f21、f22が各々安定した出力となるように制御される。図中補償電圧演算部64A、64Bから出力される各ΔVをΔV1、ΔV2、発振回路77A、77Bに印加される制御電圧Vcを夫々Vc1、Vc2としている。Vc1=V0−ΔV1、Vc2=V0−ΔV2である。
【0042】
発振回路77A、77Bの後段には加算部77が設けられ、上記の水晶振動子7Aの出力f21と水晶振動子7Bの出力f22との差分f21−f22が演算されて、出力端40に出力される。この例においても振動領域73、74の振動と、振動領域13の振動との分離性が高く、各振動領域は安定して発振する。そして、振動領域13からの発振周波数fに基づいて上記のようにf21、f22は夫々温度に対する影響が抑えられるように制御され、さらにその差分を演算することで温度による各水晶振動子の変化量がキャンセルされるので、このTCXO70からはより高い安定性を持った出力を得ることができる。
【0043】
(第3の実施形態)
TCXOとしては図10に示すTCXO80のように構成してもよい。このTCXO80に用いる水晶振動子8について、水晶振動子1、7との差異点を中心に説明する。この例では第1の実施形態と同様に第1の振動領域12がATカット領域22であり、第2の振動領域13がDTカット領域23である。ATカット領域22の表面には励振電極81Aと、励振電極81Aを挟む電極81B、81Cとが設けられ、これら電極81A〜81CはZ’軸方向に配列されている。電極81B、81Cは導電路により互いに接続され、同電位に構成されている。ATカット領域22の裏面にはこれら励振電極81A、81B、81Cに対向するように接地された励振電極81Dが設けられている。このような電極配置とすることでATカット領域22の表裏面の電荷の分布を制御し、出力信号中のノイズを抑えている。なお、励振電極81Dは、各電極81A〜81Cに対向すると共に互いに離れるように分割されて構成されていてもよい。
【0044】
電極81B、81Cは接地された容量可変コンデンサ82に接続されている。この容量可変コンデンサ82の容量を調整して、基準温度Tにおける設定周波数fを所望の値に合わせ込む。ところでTCXOはエージングにより温度に対する周波数特性が変動し、このTCXO80も同様にその変動が起こる。ただし、このTCXO80のように水晶片の表裏面に電極を設け、一方の電極の組を発振回路に接続し、他方の組をこの容量可変コンデンサなどの発振周波数を調整できる素子に接続することで、前記温度に対する周波数特性の変化をグラフで表したときに、このグラフが基準温度Tにおける設定周波数fを中心に回転するように変動することが抑えられる。そして、前記エージングや容量可変コンデンサ82の容量の変更などによりこの前記グラフがその形を維持した状態で周波数が高い方または低い方へとずれるように変動する。つまり、エージングによる周波数特性の変動に対して、(4)式の各定数α、β及びγの再設定が不要であり、上記のように容量可変コンデンサ82により設定周波数fの調整を行えばよい。従って、TCXO80においてはエージングによる前記周波数特性の変動に対して容易に補正を行うことができる。
【0045】
このTCXO80では、既述の各TCXOと同様に温度に応じて補償電圧演算部64から制御電圧ΔVが出力され、この制御電圧ΔVに対応する電圧例えば第1の実施形態と同様にV0−ΔVが加算部65から出力されてバリキャップダイオード43に印加されて、当該バリキャップダイオード43の容量が変化する。それによって、主発振回路42からの出力は設定周波数fに維持されることになる。なお図中83は主発振回路42の電圧供給端子である。このTCXO80においても第1の実施形態と同様各振動領域から安定した出力が得られるため、TCXO80の出力を安定させることができる。
【0046】
上記の各実施の形態では、ATカットされた領域と、DTカットされた領域とにより水晶片を構成しているが、X軸の正負が反転していればよく、例えばDTカットされた領域の代わりにYカットされた領域を用いてもよい。また、ATカット領域の代わりにBTカット領域を使用してもよい。また、熱処理により水晶片の所定の領域の極性を変更する代わりに、夫々極性の異なる水晶片をシロキサン結合などにより接合して双晶を形成してもよい。
【0047】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。この第4の実施形態は、第1の実施形態のTCXO3の変形例であり、水晶振動子の構成が異なることを除いて前記TCXO3と同様の構成である。図11、図12はこの水晶振動子9A、9Bの上面、縦断側面を夫々示している。第1の実施形態と同様に構成された箇所については同じ符号を付し、説明を省略する。水晶振動子1A、1Bとの差異点としては、水晶片21の代わりに水晶片91が用いられることである。この水晶片91においては、ATカット領域である第1の振動領域12及び前記ATカット領域に対してX軸の正負が反転された第2の振動領域13が、互いに同じ厚さになるように形成されている。振動領域12、13により夫々水晶振動子9A、9Bが構成される。また水晶片91においては、振動領域12、13間に凹部14、15が形成されていない。
【0048】
この水晶片91は、例えばATカットされた水晶片11の一部に約600℃の熱を与えて結晶軸の正負を反転させ、上記のように振動領域12、13を有するように製造される。そして、図4に示したTCXO3において水晶振動子1Aの代わりに9Aを、1Bの代わりに9Bを夫々用いてTCXO3を構成する。このようにTCXO3を構成しても上記の効果が得られる。
【0049】
ところで上記のTCXO3では水晶振動子9Bを用いた補助発振部51の発振出力を温度センサとしている。温度センサとしてこのように補助発振部51を用いる代わりに、サーミスタを含む温度補償回路を用いることが考えられる。つまり、TCXO3において補助発振部51の代わりに前記温度補償回路を設ける。そして、温度変化による前記サーミスタの抵抗値の変化により前記温度補償回路からの出力が変化し、それによってバリキャップダイオード43の容量成分が調整され、補償電圧が演算されるTCXOを構成することが考えられる。このようなTCXO(参照TCXOとする)に対して、TCXO3の利点を説明しておく。
【0050】
前記温度補償回路を用いる場合、この温度補償回路は参照TCXOの発振出力を取り出すための水晶振動子1Aから離れた場所に設けられることになる。従ってサーミスタの検出温度が水晶振動子1Aの温度に対してずれたり、水晶振動子1Aの温度変化に対して温度補償回路の出力の変化が遅れたりする場合があり、それによって参照TCXOの出力の安定性が低下する懸念がある。しかし、上記のTCXO3では、前記温度センサが水晶振動子9Aを構成する水晶片91と同じ水晶片91を用いて形成される。即ち、温度センサを構成する水晶振動子9Bが前記水晶振動子9Aに隣接しているため、水晶振動子9Aの温度変化に対して水晶振動子9Bの出力は高い精度で追従し、温度センサによる検出温度と水晶振動子9Aの実際の温度のずれや、水晶振動子9Aの温度変化に対する補助発振部51の出力変化の遅れが抑えられる。従って水晶振動子9Aの発振出力を高い精度で制御することができ、当該発振出力の安定性の低下を抑えることができる。
【0051】
また、TCXO3において水晶振動子9Bが接続される発振回路52の温度に対する出力の分解能は例えば1/109℃以上である。つまり、10-9℃以下の温度変化によって発振回路52の出力周波数が変動する。それに対して前記サーミスタを用いた温度補償回路は10-6℃程度の温度変化によって出力を変化させることができるが、それ以上の分解能にすることは技術的に困難である。つまり発振回路52の出力の分解能は、前記温度補償回路の出力の分解能よりも高くすることが可能なので、参照TCXOに比べて、TCXO3は出力の安定性を高くすることができる。
【0052】
また、TCXO3は共通の水晶片91から形成された水晶振動子9A、9Bにより構成されるため、装置の部品点数が抑えられると共に装置の小型化を図ることができる。また、製造コストの上昇を抑えることができる。なお、MCXO(Microcomputer Compensate Crystal Oscillator)と比較した場合にもTCXO3は、このような大型化、部品点数の増加、回路の複雑化を防ぐことができるという利点がある。
【0053】
ところで、公称周波数(メーカーが指定する中心周波数)が38.4MHzであり、その一辺が2.0mm、他辺が5.0mmの矩形のATカットされた水晶片11から上記のように水晶片91を形成し、その水晶片91から水晶振動子9A、9Bを作成した。水晶振動子9Aの発振周波数定数は、水晶振動子9Bの発振周波数定数の約63%であり、互いの振動領域12、13の弾性的な結合が小さいことが確認された。また、この結晶軸の正負が反転された第2の振動領域13は、結晶軸の正負が反転されたことによりその厚さは第1の振動領域12の厚さと変わらないが、その弾性定数が変化する。このように振動領域12、13においては互いに弾性定数が異なるので、熱反応速度、すなわち温度変化後に周波数が変化するまでの時間(応答速度)が互いに異なることが予想されたが、実験の結果、応答速度の差を検出することはできず、この差が無視できるほど小さいことが確認された。つまり、このことからもTCXO3においては温度に対して精度高く周波数を制御することができる。なお、結晶軸の正負が反転することにより、振動領域の周波数温度特性が変化する。振動領域13は、温度が1℃変化するごとに、30ppm出力周波数が変化する温度特性となる。
【0054】
図13は上記の参照TCXOの温度特性のグラフを示し、図14はTCXO3の温度特性のグラフを示している。各グラフとも横軸がTCXOの周囲の温度(単位:℃)、縦軸が周波数偏差(単位:ppm)を示している。TCXO3の方が温度による周波数偏差の変動が抑えられている。
【0055】
(第5の実施形態)
第5の実施形態であるTCXO100について説明する。図15はこのTCXO100を構成する水晶振動子9A〜9Cの上面を示し、図16は前記水晶振動子9A〜9Cの側面を示している。第4の実施形態と異なり、1枚の水晶片91に当該水晶片91のZ’方向に沿って、第1の振動領域12、第2の振動領域13、第1の振動領域12がこの順に形成されており、これら振動領域12、13、12が夫々水晶振動子9A、9B、9Cを構成している。水晶振動子9Cは、水晶振動子9Aと同様に構成されている。
【0056】
第2の振動領域13により2つの第1の振動領域12、12が区画され、これら第1の振動領域12、12の間の弾性的な結合が抑えられている。このため、2つの第1の振動領域12、12の特性が同一であったとしても、独立した水晶振動子9A、9Cとして扱うことができる。シミュレーションにより、第1の振動領域12、12間には前記弾性結合が起こらないことを本発明者は確認している。
【0057】
図17にTCXO100の構成を示している。このTCXO100の概略を説明すると、第4の実施形態のTCXO3の後段に水晶振動子9Cからなるフィルタ回路101が設けられており、このフィルタ回路90の後段に設けられる出力端40から出力が取り出される構成となっている。発振回路42、52はトランジスタを含むコルピッツ発振回路である。このようにフィルタ回路を設ける理由を説明する。水晶振動子の振動波形に対応する電圧波形は正弦波であるが、この正弦波は前記発振回路部分を通るときに波形が乱れる。つまり、発振回路42から出力される電圧波形は歪んでいる。前記フィルタ回路101はこの歪みが除去されるように波形を整形し、純度の高い正弦波(乱れが抑えられた正弦波)を出力させる役割を有する。発振出力における正弦波の純度が高い場合は、低い場合よりもノイズが少なくなる。
【0058】
ところで、位相雑音を抑えるためには、発振回路の負荷容量を適切に選定したり、TCXOの駆動電流を可能な限り低くできるように構成することが考えられる。しかし、これらの対応は装置の製造コストを上昇させたり、装置を大型化させる懸念がある。フィルタ回路101を設けることでこのようなコストの上昇や装置の大型化を抑えることができる。
【0059】
このフィルタ回路101は、コンデンサ102、103、水晶振動子9C及びコンデンサ104の直列回路を備えている。また、コンデンサ103と水晶振動子9Cとの直列回路の両端には、夫々抵抗105、106の各一端が接続され、これら抵抗105、106の他端側は接地されている。コンデンサ102は直流をカットするために設けられ、コンデンサ103、104及び抵抗105、106は目的とする周波数以外の周波数信号を減衰させるフィルタを構成している。
【0060】
水晶振動子9Cに対して並列にインダクタ107が設けられている。図18は水晶振動子9Cの等価回路を示しており、L1は等価直列インダクタンス、C1は等価直列容量、R1は等価直列抵抗、C0は並列容量である。インダクタ107は並列容量C0と共に目的とする発振周波数(f0とする)において並列共振を起こす値に設定されている。即ち、インダクタ107のインダクタンスの値をLとすると、次式が成り立つようにLが設定される。
f0=1/{2π・√(L・C0)}
等価直列容量C1は並列容量C0に比べてかなり小さいため、C0とLとにより並列共振を起こすことができる。
【0061】
このTCXO100の動作について説明する。図4のTCXO3と同様に水晶振動子9Bの温度に応じて制御電圧供給部61から制御電圧Vがバリキャップダイオード43を介して発振回路42に印加され、その制御電圧Vに応じた周波数で水晶振動子9Aが発振し、発振回路42から周波数信号が出力される。なお、各図では省略しているが、制御電圧供給部61は、A/D変換器及びD/A変換器を備えている。前記水晶振動子9Bを含む補助発振部51の出力をA/D変換器によりディジタル変換し、その出力に基づいて制御電圧供給部61で算出される出力は、D/A変換器によりアナログ変換されてバリキャップダイオード43に印加される。
【0062】
上記のように水晶振動子9Aから出力された正弦波は発振回路42を通過することで歪みが生じる。水晶振動子は励振されると正弦波を出力することから、歪みが生じた前記正弦波は、波形整形用の水晶振動子9Cを通過することによりその歪みが除去される。また、波形整形用の水晶振動子9Cの並列容量C0は、インダクタ107と共に並列共振を起こすので、目的とする周波数(f0)信号について並列容量C0側の通過が阻止される。このため当該周波数信号が殆ど機械的振動部分を通過するので、当該周波数信号に含まれるノイズの通過が阻止され、位相雑音が低減される。TCXO100では、このように位相雑音が低減できる他、TCXO3と同様の効果が得られる。また、フィルタを構成するための水晶振動子9Cを、発振出力を得るための水晶振動子9A及び温度センサを構成するための水晶振動子9Bを構成する水晶片91に形成しているため、装置の小型化を図ることができる。
【0063】
TCXO100及びTCXO3の出力の位相雑音特性を調べる実験を行った。図19は、TCXO100の位相雑音特性を示すグラフであり、図20はTCXO3の位相雑音特性を示すグラフである。横軸には各TCXOの中心周波数からのずれ量(オフセット 単位:Hz)、縦軸には中心周波数の出力との差分、つまり位相雑音(単位dBc/Hz)を示している。オフセットが小さい1〜10Hz付近の各特性を比較すると、TCXO100の位相雑音の方が低い。従ってフィルタ回路90を設けることにより、位相雑音を低下させることができ、Q値を高くできることが示された。
【0064】
(第6の実施形態)
第6の実施形態であるTCXO110はTCXO100と同様にフィルタを備えているが、このフィルタはMCF(モノリシッククリスタルフィルタ)として構成されている。MCFを設ける理由を説明すると、例えばTCXOを組み込んだPLL装置などを構成し、このTCXOの出力に基づいてディジタル信号を出力する場合に、TCXOの主振動から比較的離れた周波数において位相雑音レベルが高いと、前記ディジタル信号のパルスの波形が乱れてしまう。MCFを設けることで前記位相雑音を低減させる。
【0065】
図21、図22は夫々TCXO110に用いられる水晶片91の上面図、側面図である。第4の実施形態との差異点としては、水晶片91に水晶振動子9Cの代わりにMCF111が形成されている。MCF111は水晶振動子9C同様に第1の振動領域12を備えるが、電極の構成が異なっている。その表面側にZ’方向に間隔をおいて電極112、113が設けられている。また、裏面側にZ’方向に間隔をおいて電極114、115が設けられている。電極112、114は互いに対向し、電極113、115は互いに対向する。電極112はフィルタの入力電極、電極114はフィルタの出力電極であり、電極113、115は接地用電極である。既述の各励振電極と同様に、電極112〜115からは水晶片91の縁部に向かって、水晶片91を保持する保持器(不図示)に接続するための引出し電極18が延び出している。
【0066】
図23にはTCXO110の構成を示している。発振回路42の後段側にMCF111が設けられ、MCF111の後段は出力端40に接続され、位相雑音が除去された出力が取り出される。MCF111を構成する第1の振動領域(フィルタ形成領域)12は、第2の振動領域13により水晶振動子9Aを構成する第1の振動領域12から区画されているので、これら振動領域12間の弾性的な結合が抑えられる。従って、位相雑音を除去する特性が劣化することが抑えられる。また、水晶振動子9Cと同様にMCF111は水晶振動子9A、9Bを構成する水晶片91に形成されているので、第4の実施形態と同様に装置の大型化及び製造コストの増加を防ぐことができる。
【0067】
TCXO110及びTCXO3の出力の位相雑音特性を調べる実験を行った。図24はTCXO110の位相雑音特性を、図25はTCXO3の位相雑音特性を、夫々図19、20と同様にグラフで示したものである。これら図24、25のグラフを比較すると、オフセット周波数が1から100000Hz付近までは位相雑音レベルが略同一であるが、100000Hz以上になるとTCXO110の方が、位相雑音レベルが低い。従ってMCF111を設ける効果が示された。
【0068】
上記の第4〜第6の実施形態における水晶片91の振動領域12、13は互いに同じ厚さであるが、第1〜第3の実施形態と同様に互いに異なる厚さにしてもよい。また、振動領域12、13を区画する凹部14、15を形成してもよい。また、第1〜第3の実施形態の各TCXOに用いられる水晶片11の各振動領域について、第4〜第6の実施形態の水晶片91の各振動領域と同様に、互いに同じ厚さにしてもよい。そして、振動領域間に凹部14、15が形成されていなくてもよい。
【0069】
(第7の実施形態)
続いて第7の実施形態のTCXO120について説明する。図26、27は、このTCXO120に用いられる水晶振動子9A、9Bについて示している。第4〜第6の実施形態との差異点として、水晶片91の表面及び裏面に励振電極16A、16B、17A、17Bが設けられておらず、その代りに、励振電極121、122が設けられている。励振電極121、122は互いに対向し、振動領域12、13に跨るように形成されている。第1の振動領域12の周波数定数は例えば約1.67MHz・mmであり、第2の振動領域13の周波数定数は約2.45MHz・mmである。振動領域12、13の厚みは互いに同一である。
【0070】
図28にTCXO120について示している。このTCXO120はTCXO3と略同様に構成されているので差異点を中心に説明すると、水晶振動子9A、9Bと発振回路42、52との間にスイッチ123が設けられ、励振電極122は発振回路42または52のいずれかに接続される。励振電極121は、発振回路42、52に接続される。つまり、スイッチ123により水晶振動子9A、9Bのいずれか一方が発振回路42、52に接続されるが、スイッチ123は高速で切り替わり、水晶振動子9A、9Bは実質同時に発振する。図中124、124は、励振電極121と発振回路42、52間に設けられたフィルタである。
【0071】
上記のように振動領域12、13間で周波数定数の差が比較的大きいので、このように実質同時に振動領域12、13が発振しても一方の領域の振動が他方の領域の振動に影響することが抑えられる。従って第1及び第4の実施形態のTCXO3と同様の効果が得られる。ところで、振動領域12、13は目視により互いに判別することができず、また、他の光学的な検出手法によっても検出することができない。誘電率の測定やX線検査によりこれら領域を判別することができるが、これらの検査には比較的長い時間を要する欠点がある。特に小型化が進んだ水晶片を検査するX線検査装置は高価なものになる。しかし、この実施形態では振動領域12、13に跨るように励振電極を形成することで振動領域12、13の境界を特定する必要が無い。そのため、振動領域12、13の境界を特定して各振動領域に個別に励振電極を形成するよりも装置の製造が容易であり、製造コストも抑えられるという利点がある。
【0072】
この実施形態のように水晶振動子を形成したときの各発振出力を確認する実験を行った。Z’方向の長さ、X’方向の長さが夫々5mm、2.5mmの矩形状のATカットされた水晶片91を用意した。この水晶片91は基本波振動モードにおける発振が26MHzである。この水晶片91に対して加熱処理を行い、振動領域13を形成した。続いて、水晶片91に励振電極121、122を形成した。各励振電極121、122はCr(クロム)膜の上層側にAu(金)膜が積層されて構成されている。Au膜の厚さは約100nmである。励振電極121、122は縦横が共に1.8mmの矩形状であり、垂直電界励振を起こすために上記のように対向している。発振回路42、52はコルピッツ発振回路で負荷容量は7pFであった。励振電極121、122に発振回路42、52を接続し、各発振回路42、52からの出力周波数を調べた。
【0073】
その結果、発振回路42からの出力周波数は27.104452MHz、発振回路52からの出力周波数は55.755391MHzであり、その差が約28MHzであった。このように互いの発振周波数が大きく異なる。従って、一方の領域の振動が他方の領域の振動に影響されずに振動することが確認された。
【0074】
上記の実験における水晶片91の大きさや電極の大きさなどの各種パラメータを有するようにTCXO120を製造することができる。励振電極によるエネルギー閉じ込めの原理はこの実施形態の水晶振動子9A、9Bでも成立し、適切なエネルギー閉じ込めができるように励振電極の面積は適宜調整してよい。基本波振動モードに限られず、高次オーバトーン振動モードで各振動領域を発振させてもよい。この第7の実施形態の水晶振動子9A、9Bは他の各実施形態にも適用することができる。
【0075】
ところで各実施形態において発振回路42、52はコルピッツ発振回路により構成しているが、Pierce、Clapp、Butlerなど任意の発振回路を用いることができる。また、水晶発振器(発振装置)としてTCXOの構成例を示したが、例えばOCXO(Oven Controlled crystal Oscillator)として構成することもできる。具体的には、上記の各水晶振動子を構成する水晶片をその内部に含み、ヒータによりこの内部の温度調整が可能なオーブンを構成する。TCXOの補償電圧演算部の代わりに、前記ヒータに供給する電力を調整する電力調整部を設ける。そして、TCXO3などと同様に水晶振動子1B(9B)の発振出力について、周波数検出部が周波数検出し、温度推定部が前記周波数に基づいてオーブン内の温度を推定し、この推定温度に従って前記電力調整部からヒータへの電力が制御され、オーブン内の温度が設定温度に維持される。
【0076】
また、発振回路42の後段に設けるフィルタとしては上記のMCF111やフィルタ回路101に限られず、水晶片11(91)によりSAWフィルタを構成してもよい。また発振回路42の後段に誘電体フィルタを設けてもよい。また、発振回路42とMCF111やフィルタ回路101との間にアンプやバッファ回路を設けて、MCF111及びフィルタ回路101では、これらアンプ及びバッファ回路の電子雑音の除去を行うようにしてもよい。また、各振動領域12、13及び各励振電極16、17の面積は互いに同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1、1A、1B、9A、9B、9C 水晶振動子
11、91 水晶片
12 第1の振動領域
13 第2の振動領域
14、15 凹部
16、17 励振電極
22 ATカット領域
23 DTカット領域
3、100、110、120 温度補償水晶発振器(TCXO)
41 主発振部
51 補助発振部
61 制御電圧供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶片に設けられる第1の振動領域と、
前記水晶片に設けられ、第1の振動領域とはその厚さ及びX軸の正負の向きが異なる第2の振動領域と、
第1の振動領域、第2の振動領域に夫々設けられ、各振動領域を独立して振動させるための励振電極と、
を備えたことを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記水晶片において、第1の振動領域と第2の振動領域との間に凹部が形成されることを特徴とする請求項1記載の水晶振動子。
【請求項3】
第1の振動領域及び第2の振動領域のうちの一方はATカットされた領域であることを特徴とする請求項1または2記載の水晶振動子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の水晶振動子を含むことを特徴とする水晶発振器。
【請求項5】
第2の振動領域の発振周波数に基づいて第1の振動領域を発振させるための制御電圧を制御することにより、当該第1の振動領域の発振周波数を制御する制御手段を備えたことを特徴とする請求項4記載の水晶発振器。
【請求項6】
水晶片に設けられる第1の振動領域と、
前記水晶片に設けられ、第1の振動領域とはX軸の正負の向きが異なる第2の振動領域と、
第1の振動領域、第2の振動領域に夫々設けられ、各振動領域を独立して振動させるための励振電極と、
第1の振動領域を発振させるための第1の発振回路と、
第2の振動領域を発振させるための第2の発振回路と、
第2の振動領域の発振周波数に基づいて前記水晶片の温度を推定し、この推定された温度に基づいて第1の発振回路からの発振周波数を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする水晶発振器
【請求項7】
前記水晶片において第1の振動領域と第2の振動領域とは異なる領域に、第1の発振回路からの信号が入力されるフィルタを構成するフィルタ形成領域が設けられることを特徴とする請求項6記載の水晶発振器。
【請求項8】
前記第1の振動領域と前記フィルタ形成領域とは、第2の振動領域により区画されることを特徴とする請求項7記載の水晶発振器。
【請求項9】
前記励振電極は、第1の振動領域及び第2の振動領域に跨って形成されることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか一つに記載の水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2013−51673(P2013−51673A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151522(P2012−151522)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】