油圧パワーステアリング
【課題】スネーキング現象の振動モードに陥ることを抑制する油圧パワーステアリングを提供する。
【解決手段】2つのシリンダ室23b、23cを有し、車両の前輪を操舵するハンドルの操舵力を補助する油圧シリンダ23と、2つシリンダ室23b、23cへのオイルの供給、排出を制御するロータリバルブ27とを有し、シリンダ室23bとロータリバルブ27との間を接続する配管Lに、通過するオイルの流量を制限可能な流量可変バルブ24を設け、車両が被牽引車を牽引しているときには、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を調整し、油圧シリンダ23の動きを抑制している。
【解決手段】2つのシリンダ室23b、23cを有し、車両の前輪を操舵するハンドルの操舵力を補助する油圧シリンダ23と、2つシリンダ室23b、23cへのオイルの供給、排出を制御するロータリバルブ27とを有し、シリンダ室23bとロータリバルブ27との間を接続する配管Lに、通過するオイルの流量を制限可能な流量可変バルブ24を設け、車両が被牽引車を牽引しているときには、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を調整し、油圧シリンダ23の動きを抑制している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧パワーステアリングに関し、特に、被牽引車を牽引する車両に適用するものである。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、トラクタ51(牽引車)がトレーラ52(被牽引車)を牽引して走行しているときに、レーンチェンジを行うと、トレーラ52が左右に振られ、条件によっては、スネーキング現象と呼ばれる振動が減衰しにくい現象が発生する。スネーキング現象における振動は、車速が上がれば上がるほど激しくなる。又、スネーキング状態においては、図4(a)の操舵角の変動、図4(b)のヨーレートの変動からわかるように、車体がゆすられ、ステアリングも振られている状態に陥ってしまう。なお、図4(a)、(b)は、車速100km/hにおいて、インパルス状の操舵入力後、ステアリングをフリーの状態として実測したものである。
【0003】
【特許文献1】特開2006−111179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、牽引車の進行方向、車速、ヨーレートを検出することにより、スネーキング現象による振り子振動が発生しているかどうかを判断しており、スネーキング現象による振り子振動が発生していると判断した場合、ヨーレートが小さいときには、ステアリング操作に負荷をかけ、ヨーレートが大きいときには、牽引車に制動をかけることにより、スネーキング現象による振動を抑制するように制御している。
【0005】
ところが、現実的には、スネーキング現象が発生しているかどうかの判断は難しく、その応答制御が遅れてしまい、その振動モードに陥るおそれがあった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、スネーキング現象の振動モードに陥ることを抑制する油圧パワーステアリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する第1の発明に係る油圧パワーステアリングは、
2つのシリンダ室を有し、車両の前輪を操舵するハンドルの操舵力を補助する油圧シリンダと、
前記2つシリンダ室へのオイルの供給、排出を制御する制御弁とを有し、
前記2つシリンダ室と前記制御弁との間を接続する2つの配管の少なくとも一方に、通過するオイルの流量を制御する流量制御手段を設け、
前記車両が被牽引車を牽引しているときには、前記流量制御手段を通過するオイルの流量を調整し、前記油圧シリンダの動きを抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油圧パワーステアリングの油圧シリンダと制御弁との間の配管に流量制御手段を設け、被牽引車を牽引しているときには、流量制御手段を通過するオイルの流量を調整するので、被牽引車の牽引時には、油圧パワーステアリングにより、ダンピングを増やし、油圧シリンダの動きを抑制して、運転者が急操舵をしづらくなるため、スネーキング現象に陥ることを防ぎ、仮に、スネーキング現象が発生したとしても、その振動モードを抑制して、操舵の安心感を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明に係る油圧パワーステアリングを詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
最初に、本実施例に係る油圧パワーステアリングが用いられる車両について、図1に示す概略構成図を用いて説明する。
【0011】
トラクタ1(車両)は、トレーラ(被牽引車)を、ヒッチボール(牽引具)を用いて牽引可能なものである。トラクタ1には、トラクタ1の前輪14の操舵を行うためのハンドル11が備えられており、このハンドル11は、ステアリングシャフト11aを介して、油圧パワーステアリング13に連結されている。従って、ハンドル11に付与された操舵力は、油圧パワーステアリング13により補助されて、前輪14に伝達される。
【0012】
トラクタ1において、ステアリングシャフト11aには、ハンドル11の操舵角を検出する操舵角センサ12が設けられている。又、前輪14には、車速に比例する車輪速を検出する車輪速センサ15が設けられている。又、トラクタ1の中央部には、トラクタ1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ20が設けられている。又、ヒッチボールにおいては、トレーラのブレーキハーネスへの結線を行っており、その有無により、トレーラの牽引を検知している(牽引検知手段)。そして、操舵角センサ12、車輪速センサ15、ヨーレートセンサ20、牽引検知手段等による検出値に基づいて、図示していないECU(Electronics Control Unit;制御手段)により、油圧パワーステアリング13が制御されている。なお、牽引検知手段としては、例えば、トラクタ1の変速機におけるシフトアップ前後の重量勾配、抵抗偏差等に基づいて、ECUにより、トレーラの牽引を検知するようにしてもよい。
【0013】
又、トラクタ1において、前輪14と後輪18は、プロペラシャフト16、電動制御カップリング17を介して連結されて、所謂、4WD(4 Wheels Drive)の構成となっており、更に、後輪18の操舵を行うアクチュエータ19も設けられて、所謂、4WS(4 Wheels Steering)の構成となっている。これらも、ECUにより制御される。
【0014】
なお、図1に示したトラクタ1は、適用例の一つであり、本発明において、4WD、4WSの構成は必ずしも必要なものではない。
【0015】
次に、図1も参照しながら、本実施例に係る油圧パワーステアリングの一例を示す図2の模式図を用いて説明する。
【0016】
本実施例に係る油圧パワーステアリング13は、トレーラを牽引可能なトラクタ1に備えられる。この油圧パワーステアリング13は、配管Tを介して回収されるオイルを貯留しておくリザーブタンク25と、配管Pを介して、リザーブタンク25に貯留したオイルを加圧し供給するオイルポンプ26と、ハンドル11に加わる操舵力の方向及び大きさに応じて、オイルポンプ26から供給されたオイルのパワーシリンダ23への給排動作を行うロータリバルブ27(制御弁)と、ピストン23aの両側にシリンダ室23b、23cを備える複動式のパワーシリンダ23とを有するものであり、更に、パワーシリンダ23とロータリバルブ27との間を接続する配管L、Rの少なくとも一方に、通過するオイルの流量を制御する流量可変バルブ24(流量制御手段)を設けている。なお、流量可変バルブ24としては、例えば、ソレノイド、スプリング、可動鉄心等からなるソレノイドバルブ等が適用可能である。
【0017】
ロータリバルブ27は、ハンドル11の操作を伝えるステアリングシャフト11aの回転を利用するロータリ式の制御弁である。具体的には、ロータリバルブ27では、ステアリングシャフト11a側に連なる入力軸(図示省略)とラックシャフト21側に連なる出力軸29とに分割し、トーションバー28を介して同軸に連結しており、一方の連結端に係合された筒形のアウターバルブ27aの内側に、他方の連結端に一体に形成されたインプットシャフト(インナーバルブ)27bを相対回転自在に嵌め合わせた構造である。
【0018】
又、出力軸29には、ピニオンギヤ22が設けられており、ピストン23aと接続されたラックシャフト21と交差するように配置されて、ピニオンギヤ22とラックシャフト21のラックギヤ21aとが噛合するように構成されている。従って、ハンドル11が操舵される際には、その操舵力がトーションバー28を介して、出力軸29、ピニオンギヤ22へ伝達され、ピニオンギヤ22の回転に伴って、ラックシャフト21が軸方向に移動されると共に、パワーシリンダ23により操舵力が補助されて、ラックシャフト21の端部に設けたタイロッド30を介して、前輪14を操舵することになる。
【0019】
ロータリバルブ27において、アウターバルブ27aの内周側及びインナーバルブ27bの外周側には、各々、軸方向に延びる複数の溝が周方向に設けられ、アウターバルブ27aの複数の溝は、周方向に交互にシリンダ室23b又はシリンダ室23cと連通され、インナーバルブ27bの複数の溝は、周方向に交互に配管P又は配管Tと連通されている。つまり、アウターバルブ27aにおいては、シリンダ室23bに連通する溝(以降、LH溝と呼ぶ。)とシリンダ室23cに連通する溝(以降、RH溝と呼ぶ。)が周方向に交互に配置され、インナーバルブ27bにおいては、配管Pに連通する溝(以降、供給溝と呼ぶ。)と配管Tに連通する溝(以降、回収溝と呼ぶ。)が周方向に交互に配置されている。
【0020】
そして、ロータリバルブ27では、ステアリングシャフト11aに操舵力が加えられたとき、その操舵力の方向に伴って、アウターバルブ27aの任意の1つの溝に対して、両隣のインナーバルブ27bの溝から連通する1つの溝が選択されて、シリンダ室23b又はシリンダ室23cのいずれか一方にオイルを供給し、いずれか他方からオイルを回収することになる。又、ステアリングシャフト11aに操舵力が加えられたときには、トーションバー28の捩れに伴って、アウターバルブ27aとインナーバルブ27bとの間に相対角変位が生じ、その相対角変位に応じて、連通するアウターバルブ27aの溝とインナーバルブ27bの溝との間の絞り部分において、その絞り面積が変更されて、通過するオイルの流量が制御されることになる。
【0021】
例えば、ハンドル11に操舵力が加えられておらず、トーションバー28に捩れが生じていない中立状態においては、アウターバルブ27aの任意の1つの溝に対して、両隣のインナーバルブ27bの溝が同時に連通する。このため、ロータリバルブ27に供給されたオイルは、インナーバルブ27bの供給溝に供給された後、連通するアウターバルブ27aの溝を介して、インナーバルブ27bの回収溝へ流入するので、配管Tを通って、リザーブタンク25に回収されることになる。その結果、アウターバルブ27aの各溝に各々連通するシリンダ室23bとシリンダ室23cとの間に圧力差は生じず、パワーシリンダ23は何の力も発生しないことになる。
【0022】
一方、ハンドル11に操舵力が加えられた場合、トーションバー28の捩れに伴って、アウターバルブ27aとインナーバルブ27bとの間に相対角変位が生じ、アウターバルブ27aの任意の1つの溝に対して、両隣のインナーバルブ27bの溝から連通する1つの溝が選択されると共に、連通するアウターバルブ27aの溝とインナーバルブ27bの溝との間の絞り部分の絞り面積が変化することとなる。
【0023】
例えば、図2では、アウターバルブ27aのLH溝に対して、インナーバルブ27bの供給溝が選択され、アウターバルブ27aのRH溝に対して、インナーバルブ27bの回収溝が選択されている。このとき、ロータリバルブ27に供給されたオイルは、インナーバルブ27bの供給溝に供給された後、絞り面積を増した側の絞り部分を経て、アウターバルブ27aのLH溝に導入され、配管L、流量可変バルブ24を通過して、シリンダ室23bへ供給される。一方、配管Tと連通するインナーバルブ27bの回収溝は、配管Rと連通するアウターバルブ27aのRH溝と連通しているので、シリンダ室23c内のオイルは、配管R、アウターバルブ27aのRH溝、インナーバルブ27bの回収溝、配管Tを順次通過して、リザーブタンク25に戻される。この結果、シリンダ室23b、シリンダ室23cとの間に圧力差が生じ、この圧力差がピストン23aに接続されたラックシャフト21に加えられて、操舵力が補助されることになる。
【0024】
そして、本実施例においては、パワーシリンダ23とロータリバルブ27との間を接続する配管L、Rの少なくとも一方(図2では配管L)に流量可変バルブ24を設けており、ECUによりトラクタ1がトレーラを牽引していると検出したときには、ECUから制御信号を流量可変バルブ24に付与し、この流量可変バルブ24のバルブ開度を電気的に制御して、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を調整するようにしている。このことにより、油圧パワーステアリング13により、ダンピングを増やし、パワーシリンダ23(ステアリング系)の動きを抑制して、ラックシャフト21の作動抵抗を増やしている。一方、ECUがトレーラの牽引を検出していないときには、流量可変バルブ24を作動させない、若しくは、バルブ開度を牽引しているときより大きくして、オイルを通過させている。
【0025】
このように、油圧パワーステアリング13においては、そのパワーシリンダ23とロータリバルブ27との間の配管L、Rの少なくとも一方に流量可変バルブ24を設け、トレーラを牽引しているときには、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を調整するので、トレーラの牽引時には、油圧パワーステアリング13により、ダンピングを増やし、パワーシリンダ23(ステアリング系)の動きを抑制している。このため、運転者が急操舵をしづらくなるため、スネーキング現象に陥ることを防ぎ、仮に、後輪操舵装置による制御限界を超えて、スネーキング現象が発生したとしても、その振動を減衰させて、その挙動の変化をなるべく緩やかにすることができる。その結果、走行安定性を向上させて、操舵の安心感を向上させることができる。一方、トレーラを牽引していないときには、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を制限しないので、トレーラの無牽引時には、操舵に違和感を与えることなく、その安定性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る油圧パワーステアリングは、トレーラ等の被牽引車を牽引するときに好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る油圧パワーステアリングが用いられる車両を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る油圧パワーステアリングの一例を示す模式図である。
【図3】スネーキング現象を説明する図である。
【図4】(a)は、スネーキング状態における操舵角の実測値のグラフであり、(b)は、スネーキング状態におけるヨーレートの実測値のグラフである。
【符号の説明】
【0028】
13 油圧パワーステアリング
21 ラックシャフト
21a ラックギヤ
22 ピニオンギヤ
23 パワーシリンダ
23a ピストン
23b、23c シリンダ室
24 流量可変バルブ
25 リザーブタンク
26 オイルポンプ
27 ロータリバルブ
28 トーションバー
29 出力軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧パワーステアリングに関し、特に、被牽引車を牽引する車両に適用するものである。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、トラクタ51(牽引車)がトレーラ52(被牽引車)を牽引して走行しているときに、レーンチェンジを行うと、トレーラ52が左右に振られ、条件によっては、スネーキング現象と呼ばれる振動が減衰しにくい現象が発生する。スネーキング現象における振動は、車速が上がれば上がるほど激しくなる。又、スネーキング状態においては、図4(a)の操舵角の変動、図4(b)のヨーレートの変動からわかるように、車体がゆすられ、ステアリングも振られている状態に陥ってしまう。なお、図4(a)、(b)は、車速100km/hにおいて、インパルス状の操舵入力後、ステアリングをフリーの状態として実測したものである。
【0003】
【特許文献1】特開2006−111179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、牽引車の進行方向、車速、ヨーレートを検出することにより、スネーキング現象による振り子振動が発生しているかどうかを判断しており、スネーキング現象による振り子振動が発生していると判断した場合、ヨーレートが小さいときには、ステアリング操作に負荷をかけ、ヨーレートが大きいときには、牽引車に制動をかけることにより、スネーキング現象による振動を抑制するように制御している。
【0005】
ところが、現実的には、スネーキング現象が発生しているかどうかの判断は難しく、その応答制御が遅れてしまい、その振動モードに陥るおそれがあった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、スネーキング現象の振動モードに陥ることを抑制する油圧パワーステアリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する第1の発明に係る油圧パワーステアリングは、
2つのシリンダ室を有し、車両の前輪を操舵するハンドルの操舵力を補助する油圧シリンダと、
前記2つシリンダ室へのオイルの供給、排出を制御する制御弁とを有し、
前記2つシリンダ室と前記制御弁との間を接続する2つの配管の少なくとも一方に、通過するオイルの流量を制御する流量制御手段を設け、
前記車両が被牽引車を牽引しているときには、前記流量制御手段を通過するオイルの流量を調整し、前記油圧シリンダの動きを抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油圧パワーステアリングの油圧シリンダと制御弁との間の配管に流量制御手段を設け、被牽引車を牽引しているときには、流量制御手段を通過するオイルの流量を調整するので、被牽引車の牽引時には、油圧パワーステアリングにより、ダンピングを増やし、油圧シリンダの動きを抑制して、運転者が急操舵をしづらくなるため、スネーキング現象に陥ることを防ぎ、仮に、スネーキング現象が発生したとしても、その振動モードを抑制して、操舵の安心感を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明に係る油圧パワーステアリングを詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
最初に、本実施例に係る油圧パワーステアリングが用いられる車両について、図1に示す概略構成図を用いて説明する。
【0011】
トラクタ1(車両)は、トレーラ(被牽引車)を、ヒッチボール(牽引具)を用いて牽引可能なものである。トラクタ1には、トラクタ1の前輪14の操舵を行うためのハンドル11が備えられており、このハンドル11は、ステアリングシャフト11aを介して、油圧パワーステアリング13に連結されている。従って、ハンドル11に付与された操舵力は、油圧パワーステアリング13により補助されて、前輪14に伝達される。
【0012】
トラクタ1において、ステアリングシャフト11aには、ハンドル11の操舵角を検出する操舵角センサ12が設けられている。又、前輪14には、車速に比例する車輪速を検出する車輪速センサ15が設けられている。又、トラクタ1の中央部には、トラクタ1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ20が設けられている。又、ヒッチボールにおいては、トレーラのブレーキハーネスへの結線を行っており、その有無により、トレーラの牽引を検知している(牽引検知手段)。そして、操舵角センサ12、車輪速センサ15、ヨーレートセンサ20、牽引検知手段等による検出値に基づいて、図示していないECU(Electronics Control Unit;制御手段)により、油圧パワーステアリング13が制御されている。なお、牽引検知手段としては、例えば、トラクタ1の変速機におけるシフトアップ前後の重量勾配、抵抗偏差等に基づいて、ECUにより、トレーラの牽引を検知するようにしてもよい。
【0013】
又、トラクタ1において、前輪14と後輪18は、プロペラシャフト16、電動制御カップリング17を介して連結されて、所謂、4WD(4 Wheels Drive)の構成となっており、更に、後輪18の操舵を行うアクチュエータ19も設けられて、所謂、4WS(4 Wheels Steering)の構成となっている。これらも、ECUにより制御される。
【0014】
なお、図1に示したトラクタ1は、適用例の一つであり、本発明において、4WD、4WSの構成は必ずしも必要なものではない。
【0015】
次に、図1も参照しながら、本実施例に係る油圧パワーステアリングの一例を示す図2の模式図を用いて説明する。
【0016】
本実施例に係る油圧パワーステアリング13は、トレーラを牽引可能なトラクタ1に備えられる。この油圧パワーステアリング13は、配管Tを介して回収されるオイルを貯留しておくリザーブタンク25と、配管Pを介して、リザーブタンク25に貯留したオイルを加圧し供給するオイルポンプ26と、ハンドル11に加わる操舵力の方向及び大きさに応じて、オイルポンプ26から供給されたオイルのパワーシリンダ23への給排動作を行うロータリバルブ27(制御弁)と、ピストン23aの両側にシリンダ室23b、23cを備える複動式のパワーシリンダ23とを有するものであり、更に、パワーシリンダ23とロータリバルブ27との間を接続する配管L、Rの少なくとも一方に、通過するオイルの流量を制御する流量可変バルブ24(流量制御手段)を設けている。なお、流量可変バルブ24としては、例えば、ソレノイド、スプリング、可動鉄心等からなるソレノイドバルブ等が適用可能である。
【0017】
ロータリバルブ27は、ハンドル11の操作を伝えるステアリングシャフト11aの回転を利用するロータリ式の制御弁である。具体的には、ロータリバルブ27では、ステアリングシャフト11a側に連なる入力軸(図示省略)とラックシャフト21側に連なる出力軸29とに分割し、トーションバー28を介して同軸に連結しており、一方の連結端に係合された筒形のアウターバルブ27aの内側に、他方の連結端に一体に形成されたインプットシャフト(インナーバルブ)27bを相対回転自在に嵌め合わせた構造である。
【0018】
又、出力軸29には、ピニオンギヤ22が設けられており、ピストン23aと接続されたラックシャフト21と交差するように配置されて、ピニオンギヤ22とラックシャフト21のラックギヤ21aとが噛合するように構成されている。従って、ハンドル11が操舵される際には、その操舵力がトーションバー28を介して、出力軸29、ピニオンギヤ22へ伝達され、ピニオンギヤ22の回転に伴って、ラックシャフト21が軸方向に移動されると共に、パワーシリンダ23により操舵力が補助されて、ラックシャフト21の端部に設けたタイロッド30を介して、前輪14を操舵することになる。
【0019】
ロータリバルブ27において、アウターバルブ27aの内周側及びインナーバルブ27bの外周側には、各々、軸方向に延びる複数の溝が周方向に設けられ、アウターバルブ27aの複数の溝は、周方向に交互にシリンダ室23b又はシリンダ室23cと連通され、インナーバルブ27bの複数の溝は、周方向に交互に配管P又は配管Tと連通されている。つまり、アウターバルブ27aにおいては、シリンダ室23bに連通する溝(以降、LH溝と呼ぶ。)とシリンダ室23cに連通する溝(以降、RH溝と呼ぶ。)が周方向に交互に配置され、インナーバルブ27bにおいては、配管Pに連通する溝(以降、供給溝と呼ぶ。)と配管Tに連通する溝(以降、回収溝と呼ぶ。)が周方向に交互に配置されている。
【0020】
そして、ロータリバルブ27では、ステアリングシャフト11aに操舵力が加えられたとき、その操舵力の方向に伴って、アウターバルブ27aの任意の1つの溝に対して、両隣のインナーバルブ27bの溝から連通する1つの溝が選択されて、シリンダ室23b又はシリンダ室23cのいずれか一方にオイルを供給し、いずれか他方からオイルを回収することになる。又、ステアリングシャフト11aに操舵力が加えられたときには、トーションバー28の捩れに伴って、アウターバルブ27aとインナーバルブ27bとの間に相対角変位が生じ、その相対角変位に応じて、連通するアウターバルブ27aの溝とインナーバルブ27bの溝との間の絞り部分において、その絞り面積が変更されて、通過するオイルの流量が制御されることになる。
【0021】
例えば、ハンドル11に操舵力が加えられておらず、トーションバー28に捩れが生じていない中立状態においては、アウターバルブ27aの任意の1つの溝に対して、両隣のインナーバルブ27bの溝が同時に連通する。このため、ロータリバルブ27に供給されたオイルは、インナーバルブ27bの供給溝に供給された後、連通するアウターバルブ27aの溝を介して、インナーバルブ27bの回収溝へ流入するので、配管Tを通って、リザーブタンク25に回収されることになる。その結果、アウターバルブ27aの各溝に各々連通するシリンダ室23bとシリンダ室23cとの間に圧力差は生じず、パワーシリンダ23は何の力も発生しないことになる。
【0022】
一方、ハンドル11に操舵力が加えられた場合、トーションバー28の捩れに伴って、アウターバルブ27aとインナーバルブ27bとの間に相対角変位が生じ、アウターバルブ27aの任意の1つの溝に対して、両隣のインナーバルブ27bの溝から連通する1つの溝が選択されると共に、連通するアウターバルブ27aの溝とインナーバルブ27bの溝との間の絞り部分の絞り面積が変化することとなる。
【0023】
例えば、図2では、アウターバルブ27aのLH溝に対して、インナーバルブ27bの供給溝が選択され、アウターバルブ27aのRH溝に対して、インナーバルブ27bの回収溝が選択されている。このとき、ロータリバルブ27に供給されたオイルは、インナーバルブ27bの供給溝に供給された後、絞り面積を増した側の絞り部分を経て、アウターバルブ27aのLH溝に導入され、配管L、流量可変バルブ24を通過して、シリンダ室23bへ供給される。一方、配管Tと連通するインナーバルブ27bの回収溝は、配管Rと連通するアウターバルブ27aのRH溝と連通しているので、シリンダ室23c内のオイルは、配管R、アウターバルブ27aのRH溝、インナーバルブ27bの回収溝、配管Tを順次通過して、リザーブタンク25に戻される。この結果、シリンダ室23b、シリンダ室23cとの間に圧力差が生じ、この圧力差がピストン23aに接続されたラックシャフト21に加えられて、操舵力が補助されることになる。
【0024】
そして、本実施例においては、パワーシリンダ23とロータリバルブ27との間を接続する配管L、Rの少なくとも一方(図2では配管L)に流量可変バルブ24を設けており、ECUによりトラクタ1がトレーラを牽引していると検出したときには、ECUから制御信号を流量可変バルブ24に付与し、この流量可変バルブ24のバルブ開度を電気的に制御して、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を調整するようにしている。このことにより、油圧パワーステアリング13により、ダンピングを増やし、パワーシリンダ23(ステアリング系)の動きを抑制して、ラックシャフト21の作動抵抗を増やしている。一方、ECUがトレーラの牽引を検出していないときには、流量可変バルブ24を作動させない、若しくは、バルブ開度を牽引しているときより大きくして、オイルを通過させている。
【0025】
このように、油圧パワーステアリング13においては、そのパワーシリンダ23とロータリバルブ27との間の配管L、Rの少なくとも一方に流量可変バルブ24を設け、トレーラを牽引しているときには、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を調整するので、トレーラの牽引時には、油圧パワーステアリング13により、ダンピングを増やし、パワーシリンダ23(ステアリング系)の動きを抑制している。このため、運転者が急操舵をしづらくなるため、スネーキング現象に陥ることを防ぎ、仮に、後輪操舵装置による制御限界を超えて、スネーキング現象が発生したとしても、その振動を減衰させて、その挙動の変化をなるべく緩やかにすることができる。その結果、走行安定性を向上させて、操舵の安心感を向上させることができる。一方、トレーラを牽引していないときには、流量可変バルブ24を通過するオイルの流量を制限しないので、トレーラの無牽引時には、操舵に違和感を与えることなく、その安定性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る油圧パワーステアリングは、トレーラ等の被牽引車を牽引するときに好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る油圧パワーステアリングが用いられる車両を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る油圧パワーステアリングの一例を示す模式図である。
【図3】スネーキング現象を説明する図である。
【図4】(a)は、スネーキング状態における操舵角の実測値のグラフであり、(b)は、スネーキング状態におけるヨーレートの実測値のグラフである。
【符号の説明】
【0028】
13 油圧パワーステアリング
21 ラックシャフト
21a ラックギヤ
22 ピニオンギヤ
23 パワーシリンダ
23a ピストン
23b、23c シリンダ室
24 流量可変バルブ
25 リザーブタンク
26 オイルポンプ
27 ロータリバルブ
28 トーションバー
29 出力軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのシリンダ室を有し、車両の前輪を操舵するハンドルの操舵力を補助する油圧シリンダと、
前記2つシリンダ室へのオイルの供給、排出を制御する制御弁とを有し、
前記2つシリンダ室と前記制御弁との間を接続する2つの配管の少なくとも一方に、通過するオイルの流量を制御する流量制御手段を設け、
前記車両が被牽引車を牽引しているときには、前記流量制御手段を通過するオイルの流量を調整し、前記油圧シリンダの動きを抑制することを特徴とする油圧パワーステアリング。
【請求項1】
2つのシリンダ室を有し、車両の前輪を操舵するハンドルの操舵力を補助する油圧シリンダと、
前記2つシリンダ室へのオイルの供給、排出を制御する制御弁とを有し、
前記2つシリンダ室と前記制御弁との間を接続する2つの配管の少なくとも一方に、通過するオイルの流量を制御する流量制御手段を設け、
前記車両が被牽引車を牽引しているときには、前記流量制御手段を通過するオイルの流量を調整し、前記油圧シリンダの動きを抑制することを特徴とする油圧パワーステアリング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2009−262885(P2009−262885A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117984(P2008−117984)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
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