説明

流体ポート構造

【課題】流入ポートと流出ポートの間での不用意な流体の漏出を確実に抑制可能な流体ポート構造を得る。
【解決手段】流入ポート部材14の保持爪40により、流出ポート部材16は接続部30が垂直となる連通位置で維持され、流入ポート18から流出ポート20への燃料の移動が許容されるが、所定値以上の外力では保持爪40が屈曲されて接続部30が傾斜し流入ポート18と流出ポート20とが連通しなくなる。この状態で、流入ポート18の流出ポート側開口部分18Hは小径シールリング48によってシールされ、流出ポート20の流入ポート側開口部分20Hは小径シールリング48と大径シールリング50の間に位置して、これら2つのシールリング48、50とボール部28とでシールされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流入ポートから流出ポートへの流体移動を許容あるいは遮断する流体ポート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を流入ポートから流出ポートへ移動させたり、この移動を遮断したりするための構造(流体ポート構造)として、特許文献1には、ボールバルブの位置に応じて、貫通孔と流体通路とを閉鎖あるいは連通する構成の管継手が記載されている。
【0003】
ところで、このような管継手(流体ポート構造)においては、通路の閉鎖状態(連通していない状態)において、流入ポートと流出ポートの間からの不用意な流体の漏出を確実に抑制することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−211739号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、流入ポートと流出ポートの間での不用意な流体の漏出を抑制可能な流体ポート構造を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、流体の流入ポートを備えた流入ポート部材と、流体の流出ポートを備え、前記流入ポートと前記流出ポートとを連通させて流体移動を許容する連通位置と、流入ポートと流出ポートとを非連通として流体移動を遮断可能な非連通位置との間で流入ポート部材に対し相対移動可能に接続された流出ポート部材と、前記流出ポート部材と前記流入ポート部材とを前記連通位置に保持すると共に、流出ポート部材と流入ポート部材の少なくとも一方に所定値以上の外力が作用すると流出ポート部材と流入ポート部材との前記非連通位置への相対移動を許容する保持部材と、前記流入ポート部材と前記流出ポート部材とが前記非連通位置にあるときに、前記流入ポートの流出ポート側開口部分と前記流出ポートの流入ポート側開口部分の双方を外部に対しシールするシール手段と、を有する。
【0007】
この流体ポート構造では、外力が作用していない状態では、保持部材によって流入ポート部材と流出ポート部材とが連通位置に保持されるので、流体移動が許容される。流出ポート部材と流入ポート部材の少なくとも一方に所定値以上の外力が作用すると、流入ポート部材と流出ポート部材との非連通位置への相対移動が許容されるので、流入ポート部材と流出ポート部材の破損等が防止され、燃料の漏出も抑制される。
【0008】
流入ポート部材と流出ポート部材とが非連通位置にあるときには、シール部材が、流入ポートの流出ポート側開口部分と流出ポートの流入ポート側開口部分の双方を外部に対しシールする。これにより、流入ポート部材と流出ポート部材が遮断されると共に、流入ポートと流出ポートの間からの流体の漏出が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記構成としたので、流入ポートと流出ポートの間での不用意な流体の漏出を確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態の流体ポート構造が適用された燃料フィルタ部材を部分的に示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態の流体ポート構造を通常状態で示す図1のII−II線断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の流体ポート構造を部分的に示す分解斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態の流体ポート構造を流出ポート部材が傾斜した状態で示す断面図である。
【図5】本発明の変形例の流体ポート構造を部分的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1には、本発明の一実施形態の流体ポート構造12を備えた燃料フィルタ部材10が部分的に示されている。また、図2には、この流体ポート構造12が図1のII−II線断面図にて示されている。燃料フィルタ部材10は、一例としてディーゼルエンジン用に備えられるものであり、燃料タンクからエンジンに送られる燃料や、エンジンからの還流燃料の中の異物を除去するために用いられる。また、燃料フィルタ構造10は、たとえば、エンジンルーム等に備えられることが多い。
【0012】
燃料フィルタ部材10は、流入ポート部材14と、この流入ポート部材14に接続された流出ポート部材16とを備えており、いわゆるボールジョイント構造とされている。流入ポート部材14は略円柱状に形成されており、その中心軸に沿った中央に、下面から燃料が流入する流入ポート18が形成されている。流入ポート部材14には、少なくとも流入ポート18を包囲するようにして図示しないフィルタが取り付けられており、前述のように、燃料から異物を除去する。
【0013】
流入ポート部材14の中央には略半球状に凹まされたボール収容部22が形成されており、その下部で流入ポート18と連通されている。また、ボール収容部22を挟んで流入ポート18と反対側(上側)では、ボール収容部22と同心且つ同半径とされ、ボール収容部22の外周側に連なる抜け止め部24と、この抜け止め部24の上端から上方に向かって拡径された形状(内面が逆円錐台状)の拡径部26が形成されている。
【0014】
これに対し、流出ポート部材16は、略球状に形成されたボール部28と、このボール部28から径方向外側に延出された接続部30と、を有しており、ボール部28から接続部30へと貫通する流出ポート20が形成されている。
【0015】
接続部30には、燃料をディーゼルエンジンに送るための燃料配管32(図1では図示省略、図2参照)が接続されている。
【0016】
図2に示すように、ボール部28は、ボール収容部22に対し所定の間隙D1をあけて収容されている。この状態で抜け止め部24は、上方から見てボール部28の外周部分を覆っており、ボール収容部22から不用意に抜けないようにボール部28を抜け止めする作用を有している(ボール部28が矢印A1方向に移動しようとすると、抜け止め部24に接触する)。なお、図2では図示の便宜上、間隙D1を実際よりも広くしているが、実際には間隙D1はこれよりも狭くされる。
【0017】
また、接続部30は拡径部26の内側に位置しており、流出ポート部材16は、図4に示すように、接続部30が拡径部26の内面に接触しない範囲で、ボール部28を中心として任意の方向に回転(接続部30は傾斜)可能とされる。
【0018】
なお、本実施形態では、流入ポート部材14を、ボール収容部22と抜け止め部24の境界部分において、上ポート部材14Uと下ポート部材14Lとに分割している。分割状態では略半球状のボール収容部22が上側から露出されるので、ボール部28をボール収容部22に容易に収容できる。上ポート部材14Uには係合爪34が形成されており、係合爪34を下ポート部材14Lの係合凹部36に係合させて一体化し、流入ポート部材14を構成できると共に、流出ポート部材16を流入ポート部材14に接続できるようになっている。
【0019】
図1及び図3に詳細に示すように、流入ポート部材14の上面には、拡径部26を取り囲むように周方向に所定間隔を空けて、複数(本実施形態では4つ)の保持爪40が形成されている。それぞれの保持爪40の先端は、流出ポート部材16の接続部30の外周面に接触するか、若しくは所定の僅かな隙間をあけて接続部30の外周面と対向している。以下では、これら双方を含めて「接触」しているとして説明する。
【0020】
保持爪40はいずれも、たとえば接続部30に燃料配管32を抜き差しする程度の外力(以下、これを「小入力」という)では屈曲や変形を起こさず、図1及び図2に示すように接続部30が垂直となるよう流出ポート部材16を周囲で保持している。このように接続部30が垂直になった状態では、流入ポート部材14と流出ポート部材16との相対的な位置関係が、本発明における「連通位置」となっている。すなわち、流入ポート18の流出ポート側開口部分18Hと、流出ポート20の流入ポート側開口部分20Hとが対向し、流入ポート18から流出ポート20への燃料の移動が許容される。
【0021】
また、保持爪40はいずれも、その先端側から所定値以上の外力(以下、これを「大入力」という)が作用すると、図4に示すように屈曲されるようになっている。この屈曲により、流出ポート部材16に所定値以上の外力が作用した場合に、この外力の方向への接続部30の傾斜(ボール部28は回転する)が許容され、流体ポート構造12の破損が防止される。このように接続部30が傾斜した状態では、流入ポート18と流出ポート20とが連通しない位置となっており、これらの相対的な位置関係が、本発明における「非連通位置」となっている。
【0022】
流出ポート部材16の接続部30の外周面からは、接続部30の軸方向に見て、保持爪40の間に位置するように複数のリブ42が形成されている。それぞれのリブ42は、接続部30の周方向では、隣接する保持爪40に接触している。これにより、流出ポート部材16の周方向(矢印R1方向)への回転が阻止されている。
【0023】
図2及び図4から分かるように、ボール収容部22の内面には、2つのシール収容溝44、46が形成されている。一方のシール収容溝44は、ボール収容部22の下端部分において、流入ポート18を取り囲む環状に形成されており、同じく環状の小径シールリング48が収容されている。小径シールリング48は、図2に示すように、流入ポート部材14と流出ポート部材16とが連通位置となっているときにボール部28に密着している。そして、小径シールリング48とボール部28とで、流入ポート18の流出ポート側開口部分18Hを外部に対しシールしている。
【0024】
他方のシール収容溝46は、ボール収容部22の上端部分においてボール収容部22を取り囲む環状に形成されており、小径シールリング48よりも大径の大径シールリング50が収容されている。図4に示すように、流入ポート部材14と流出ポート部材16とが非連通位置となっているときに、流出ポート20の流入ポート側開口部分20Hは大径シールリング50と小径シールリング48の間に位置しており、しかも、大径シールリング50と小径シールリング48のいずれもが、ボール部28の外面に密着している。これにより、大径シールリング50、小径シールリング48及びボール部28で、流出ポート20の流入ポート側開口部分20Hを外部に対しシールしている。したがって、大径シールリング50、小径シールリング48及びボール部28によって、本発明におけるシール手段が構成されている。
【0025】
次に、本実施形態の流体ポート構造12(及び燃料フィルタ部材10)の作用を説明する。
【0026】
通常状態では、図1及び図2に示すように、保持爪40の先端が流出ポート部材16の接続部30の外周面に接触しており、流入ポート部材14と流出ポート部材16とが連通位置に維持されている。流入ポート部材14と流出ポート部材16とが連通しているので、フィルタ(図示省略)から流入ポート18、流出ポート20、燃料配管32を経てエンジンへ燃料が流れる。ここで、小径シールリング48は、ボール部28の外面に密着しており、小径シールリング48とボール部28とで、流入ポート18の流出ポート側開口部分18Hを外部に対しシールしている。このため、流入ポート18から流出ポート20へ流れる燃料の不用意な漏出が抑制される。
【0027】
また、メンテナンス時等には、燃料配管32を接続部30に抜き差しする場合がある。このときに、燃料配管32から接続部30に、上記した「小入力」が作用することがあるが、すべての保持爪40の先端が流出ポート部材16の接続部30の外周面に接触しており、接続部30が不用意に傾斜しないので、作業性が向上する。
【0028】
さらに、保持爪40の間にはリブ42が位置しており、保持爪40とリブ42とが噛合っているので、流出ポート部材16の周方向(矢印R1方向)への回転が阻止される。これにより、燃料配管32を接続部30に抜き差しする場合の小入力が周方向(矢印R1方向)に回転力として作用した場合でも接続部30が不用意に回転ぜず、作業性が向上する。接続部の形状として、たとえば図5に示す変形例のように、中間部分で略直角に屈曲した接続部60を有する流出ポート部材56が用いられることがあるが、このような接続部60の場合は特に、その回転が阻止されることで、燃料配管32の接続作業が容易になる。
【0029】
しかも、通常状態において接続部30が不用意に傾斜及び回転しないので、たとえば、接続部30の向きが変わって燃料配管32が他の部材と干渉してしまう、という不都合も回避できる。
【0030】
流出ポート部材16と流入ポート部材14とに、たとえば車両衝突時などにおいて、接続部30を傾斜させる方向(矢印F1方向)の所定値以上の外力(大入力)が作用することがある。このとき、接続部30は外力の方向にある保持爪40の先端を押すので、保持爪40は屈曲され、図4に示すように接続部30がこの外力の方向に傾斜する。そして、流入ポート部材14と流出ポート部材16とが非連通位置となる。この外力は、たとえば流出ポート部材16に直接的に作用する場合の他に、燃料配管32が外力を受け、これによって接続部30にも外力が作用する場合もある。いずれの場合でも、接続部30を傾斜させることで外力をいなすことができ、流出ポート部材16や燃料配管32等の破損、及び燃料配管32の接続部30からの抜けを防止し、燃料漏れを生じさせないようにすることができる。
【0031】
また、このように非連通位置となった状態においても、流入ポート18の流出ポート側開口部分18Hが、小径シールリング48とボール部28とにより、外部に対しシールされている。また、流出ポート20の流入ポート側開口部分20Hは、小径シールリング48と大径シールリング50の間に位置しており、大径シールリング50、小径シールリング48及びボール部28によって、外部に対しシールされている。
【0032】
したがって、流入ポート18から流出ポート20への燃料移動が確実に遮断され、さらに、流入ポート18や流出ポート20からの燃料の漏出も抑制される。たとえば、流入ポート部材14や流出ポート部材16が破損した場合や、燃料配管32が接続部30から抜けた場合でも、燃料フィルタ部材10、すなわち図示しないフィルタから流体ポート構造12までの燃料の移動経路における燃料漏出を抑制できる。
【符号の説明】
【0033】
10 燃料フィルタ部材
12 流体ポート構造
14 流入ポート部材
14L 下ポート部材
14U 上ポート部材
16 流出ポート部材
18 流入ポート
18H 流出ポート側開口部分
20 流出ポート
20H 流入ポート側開口部分
22 ボール収容部
24 抜け止め部
26 拡径部
28 ボール部(シール手段)
30 接続部
32 燃料配管
34 係合爪
36 係合凹部
40 保持爪
42 リブ
44 シール収容溝
46 シール収容溝
48 小径シールリング(シール手段)
50 大径シールリング(シール手段)
60 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流入ポートを備えた流入ポート部材と、
流体の流出ポートを備え、前記流入ポートと前記流出ポートとを連通させて流体移動を許容する連通位置と、流入ポートと流出ポートとを非連通として流体移動を遮断可能な非連通位置との間で流入ポート部材に対し相対移動可能に接続された流出ポート部材と、
前記流出ポート部材と前記流入ポート部材とを前記連通位置に保持すると共に、流出ポート部材と流入ポート部材の少なくとも一方に所定値以上の外力が作用すると流出ポート部材と流入ポート部材との前記非連通位置への相対移動を許容する保持部材と、
前記流入ポート部材と前記流出ポート部材とが前記非連通位置にあるときに、前記流入ポートの流出ポート側開口部分と前記流出ポートの流入ポート側開口部分の双方を外部に対しシールするシール手段と、
を有する流体ポート構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−261526(P2010−261526A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113535(P2009−113535)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】