説明

液体加熱方法および液体加熱装置、ならびに電子材料の洗浄方法および洗浄システム。

【課題】過硫酸含有濃硫酸溶液などの流体を短時間で高温に加熱できる流体加熱方法、液体加熱装置、ならびに電子材料の洗浄方法および洗浄システムを提供する。
【解決手段】流路厚みまたは流路径が10mm以下の流路に液体を通液し、該流路の厚み方向または周囲の一方向から流路面に向けてマイクロ波を照射し、流路厚みまたは流路径が25mm以下の流路には厚み方向両側または全周囲から流路面に向けてマイクロ波を照射することで、流路内を通液される液体を瞬時に均一に加熱でき、液体を加熱することによる化学変化などを抑制することができ、過硫酸を洗浄液として用いる電子材料の洗浄システムなどに好適に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を高効率かつ短時間で昇温することができる液体加熱方法および加熱装置に関するものであり、特に半導体製造工程のひとつであるレジスト剥離工程などにおける洗浄に好適に用いることができる電子材料の洗浄方法および洗浄システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるレジスト剥離工程において、硫酸溶液を電気分解して過硫酸(ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸;分子状過硫酸およびイオン状過硫酸)を生成し、過硫酸溶液を洗浄液として洗浄を行う硫酸電解法が知られている。レジスト剥離工程では洗浄液が高温(120〜190℃程度)であるほどレジスト剥離が効率的に進行する。これは硫酸電解法によって製造した洗浄液が所定の高温になると洗浄液中の過硫酸が自己分解して極めて酸化力の強い硫酸ラジカルを生成して洗浄に寄与するためであると考えられる。
ラジカルは寿命が短いため、洗浄液を早い段階で昇温してしまうと、洗浄液に含まれる過硫酸の自己分解が早すぎて洗浄に寄与することなく消費されてしまう。過硫酸溶液を高温化すると過硫酸が自己分解して硫酸ラジカルを生じて硫酸ラジカル濃度が上がり、同時に生じた硫酸ラジカルが分解して硫酸ラジカル濃度を下げる。液温にもよるが過硫酸溶液の高温化から0.数秒から数秒後に硫酸ラジカル濃度がピークとなる。従って硫酸ラジカル濃度がピークとなった時にちょうど洗浄に寄与させるような高温化のタイミングにするのがもっとも効率が良く、最適なタイミングを適宜設定する必要がある。
また、洗浄液を長時間(例えば数分程度)かけてゆっくり加熱した場合、高温化の途中で過硫酸の自己分解とそれに伴う硫酸ラジカルの分解が進行してしまい、高温化した時点では既に過硫酸濃度が低くなってしまうという問題がある。反応速度論とアレニウスの式に基づいて理論計算すると、図6のような結果となり、高温になると過硫酸の寿命は極めて短いことが分かる。
【0003】
以上のことから洗浄液の昇温は洗浄直前にごく短時間(数秒程度)で行う必要がある。 一方、硫酸溶液の電解効率は低温ほど高く、過硫酸の自己分解速度は低温ほど小さいため、低温(20〜60℃程度)で硫酸溶液を電解することが望ましい。低温で電解した硫酸溶液をレジスト剥離工程における洗浄液として用いるためには洗浄直前に低温から高温まで瞬時に昇温する必要がある。
液体を加熱する加熱器として種々のものが提案されている。
例えば、半導体製造における純水等の加熱工程では、従来、図7に示すような流体加熱器が用いられている。該流体加熱器は筒状に形成された密閉型石英槽の側壁に液入口と液出口とが斜交いの位置に設けられ、内部に赤外線ヒータが設置されており、密閉型石英槽内に液入口を通して流入した純水等は、赤外線ヒータの外周部に接触して昇温しつつ液出口から排液される。
また、この他に、図8に示すように、流体加熱器を二重管で構成し、内管に設けた被加熱液体入口、被加熱液体出口を通して、被加熱液体を流し、一方、内管と外管との間には、外管に設けた熱媒油入口、熱媒油出口を通して熱媒油を流し、内管の壁部を通してこれら流体間で熱交換することで被加熱液体を加熱するものが知られている。
また、筒状としたセラミックヒータの内外周に被加熱流体の流路を設けて加熱効率を高めた流体加熱器も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−79695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、前記した流体加熱器のように、熱媒油などの高温流体を加熱源とすると、油→石英壁→溶液という順序で伝導伝熱および強制対流伝熱により熱が伝わる。この伝熱方式で短時間に大量の熱を伝えるためには熱媒油をできるだけ高温(例えば1000℃以上)にすることが望ましいが、工業的に用いられる熱媒油の最高使用温度は350℃から400℃程度である。熱媒油などを使う方法では加熱源の熱容量が大きいので急速加熱の開始・停止を瞬時に行うことが難しい。
【0006】
これに対して、ハロゲンランプヒーターのように近赤外線を発する近赤外線ヒーターを用いた場合、光の輻射熱によって熱エネルギーが直接流体に伝わる。波長0.8μm〜数μmの近赤外線は石英を透過し、数mm〜数10mmの厚さの水層には99%以上吸収されるという性質がある。また、ランプヒーターはスイッチの開閉で加熱を瞬時に開始・停止することができるし、ランプ出力によって加熱温度も自在に調節可能である。従って高濃度硫酸水溶液の加熱には、従来から近赤外ランプヒーターが使われている。
【0007】
しかし、近赤外ランプヒーターを用いた流体加熱器では、超純水や化学薬品溶液の加熱速度は数L/minと遅い。よって、ランプ出力とその寸法から石英槽の容量は数Lになり、液の滞留時間は1〜2分と長時間になってしまう。ここで過硫酸をこのような装置で加熱すると過硫酸の自己分解が進み過硫酸の浪費につながる。
従って上記流体加熱器を用いるときは、伝熱面温度を著しく高温(構成部材の耐熱性にもよるが300〜500℃)に設定することが必要である。しかし伝熱面を著しく高温に設定すると、伝熱面において局所的に過硫酸の自己分解速度が著しく大きくなり過硫酸の浪費につながるため、昇温後に過硫酸濃度が下がる原因となってしまう。そこで、伝熱面を高温に設定しないことにより加熱器内での過硫酸の自己分解をできるだけ抑えつつ硫酸溶液を昇温し、硫酸溶液の温度が高温になることによって過硫酸の自己分解が活性化するようにする必要がある。
ところが前記したいずれの流体加熱器で加熱しても、過硫酸濃度を高濃度に維持したまま硫酸溶液を短時間で高温まで加熱することは困難である。つまり、液流路の流路厚みが大きすぎると熱媒体を用いる場合はもちろんのこと、ランプを加熱器として用いる場合も光の輻射熱が奥のほうの液に伝わらず液全体を均等に昇温できないからである。
【0008】
以上のことから本発明では、伝熱面を高温に設定することなく低温の被加熱液体を短時間で高温まで加熱することが可能な液体加熱方法および液体加熱装置、ならびにこれらを利用した電子材料の洗浄方法および洗浄システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のうち、第1の本発明の液体加熱方法は、流路厚みが10mm以下である扁平な流路に液体を通液するとともに、該流路外部の厚み方向片側から該流路面に向けてマイクロ波を照射することを特徴とする。
また、流路径が10mm以下である管状流路では、該流路外部の一方向から該流路面に向けてマイクロ波を照射することを特徴とする。
【0010】
また、流路厚みが25mm以下の扁平な流路である場合には流路外部の厚み方向両側から、また流路径が25mm以下の管状流路である場合には流路外部の周囲複数箇所または全周囲から、マイクロ波を流路面に向けて照射することで、流路内を通液している液体を短時間で昇温させることができる。なお、管状流路では、複数箇所照射では、略等角度間隔の位置から照射するのが望ましく、さらには、全周囲から照射するのが一層望ましい。
なお、扁平な流路は、厚み方向が幅方向よりも小さい流路形状を有しているものであればよい。また、管状流路は、円筒そのものの他、楕円筒形状、多角筒形状であってもよい。円筒以外の流路径は、最長の流路断面長さで示すことができる。
【0011】
水分子を含む物体をマイクロ波で照射することにより加熱できることは公知である。水分子のH原子には正の電荷、O原子には負の電荷が局在化しており、マイクロ波の正負が入れ替わるのに合わせて吸引・反発されるので水分子が振動し、加熱されるのである。85質量%硫酸溶液であっても、モル分率で言えば水分子は49mol%含まれる。従って通常の水分子を含む物質と同様にマイクロ波で加熱することが可能である。水分子に限らず、誘電体であればマイクロ波により分子に振動を与え、加熱することができ、硫酸もマイクロ波による加熱が可能である。但し、その吸収効率(マイクロ波が物質に吸収され、熱に変換される割合)は物質ごとに異なる。
【0012】
加熱方法によらず、物質によっては加熱時間が長いとその成分が分解してしまい、利用価値を失ってしまうことがある。このような場合には、短時間で加熱することが重要である。家庭用電子レンジでは、一般に食品を常温から100数十℃まで数分間で加熱するように設計されている。電解硫酸の場合、貯留槽温度が約65℃であり、枚葉式洗浄機での該溶液の使用温度は180℃程度である。過硫酸の熱分解を極力抑えるためには、このΔ115℃の昇温を5秒あるいはそれ以下で行う必要がある。短時間に、かつ局部過熱することなく加熱するためには、マイクロ波の進行方向における流体の厚みを極力薄くして、マイクロ波の到達深度が浅くても流体全体を加熱できるようにすることが重要である。
一般にマイクロ波の到達深度は次の式(1)で表される。
【0013】
【数1】

【0014】
日本で家庭用電子レンジや一般工業用加熱装置に用いられるマイクロ波の周波数fは2450MHzである。水の比誘電率ε’は88.15であり、水のマイクロ波帯域における誘電正接tanδは約0.14であるから、マイクロ波の到達深度Dは10mm程度である(参考文献1)。純粋な硫酸の比誘電率は100であり、従ってDは10mmよりやや小さくなるが、水と比べて大差が無い。よって、硫酸水溶液の流路の片側からマイクロ波を照射した場合には、流路厚が10mm以下であれば流体はほぼ均一に加熱される。マイクロ波を流路の両面または全周囲から照射した場合には、その流路幅あるいは流路直径は概ね25mm以下であれば均一に加熱されることになる。
参考文献1:R. Von Hippel, Dielectric Materials and Application, The MIT Press (1966)
【0015】
上記のように、液体に対するマイクロ波の到達深度はほぼ10mmであるので、流路厚みまたは流路径が10mm以下の扁平な流路または管状流路である場合には、流路外の厚み方向片側や一方向からマイクロ波を流路面に向けて照射することで、流路内を通液している液体を短時間で昇温させることができる。
但し、扁平な流路の片面側流路の厚みや流路径が10mmを超えると、マイクロ波が到達しない部分ができてしまい、均一に加熱できなくなる。したがって、流路厚みが25mm以下である扁平な流路に対しては、厚み方向両側から流路面に向けてマイクロ波を照射し、管状の流路に対しては流路外部の複数箇所または全周囲から流路面に向けてマイクロ波を照射することによって、液体を短時間で確実に加熱することができる。
【0016】
また、本発明の加熱装置では、液体が通液される上記流路と、該流路内に液体を導入する液体導入部と、前記流路を通液した前記液体を前記流路外に排出する液体排出部と、前記流路外部から該流路面に向けてマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、を有する。 マイクロ波照射部は、上記したように流路厚み、流路径に従って、照射方向数が異なっている。マイクロ波照射では、2450±50MHzの周波数域の範囲内にあるマイクロ波を好適に用いることができる。
上記流路では、マイクロ波の照射によって短時間で昇温するが、好適には、流路内を通液される液体を10℃/秒以上、さらに望ましくは20℃/秒以上の速度で昇温させる。
マイクロ波の照射によって、流路内を通液される50〜80℃の液温を有する液体を150〜190℃の液温に昇温させることができる。
上記液体には、過硫酸含有硫酸溶液を用いることができ、該過硫酸含有硫酸溶液としては、70質量%以上の濃硫酸を電解して得られた硫酸溶液、あるいは70質量%以上の濃硫酸に過酸化水素水を混合した硫酸溶液を用いることができる。
【0017】
また、上記流路の材質としては、ポリテトラフルオロエチレンを好適に用いることができる。該材質は、酸化性の強い液体に対する耐性も高く、また、マイクロ波の透過性が良好で、流路内液体を効果的に昇温させることができる。
【0018】
上記流路で加熱し、昇温した過硫酸含有硫酸溶液は電子材料の洗浄液として使用することができる。そして、洗浄システムとして、上記液体加熱装置と、該液体加熱装置の通液方向下流側に位置して、液体加熱装置によって昇温した過硫酸含有硫酸溶液を洗浄液として電子材料を洗浄する洗浄部とを備えるものを構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
すなわち、本発明の液体加熱方法によれば、流路厚み、または流路径を制限した流路に液体を通液して、流路外部から流路面に向けてマイクロ波を照射することにより、流路内を通液する液体を短時間、かつ均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の液体加熱器を示す正面断面図(図a)および側面断面図(図b)である。
【図2】同じく、他の実施形態の各液体加熱器を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の枚葉式洗浄システムを示す図である。
【図4】同じく、加熱器の温度上昇・降温プロファイルを示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態の液体加熱器を示す断面図である。
【図6】過硫酸溶液の温度(120〜170℃)と寿命の関係を示す図である。
【図7】従来の液体加熱器の例を示す概略図である。
【図8】同じく、他例の液体加熱器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態1)
以下に、本発明の一実施形態の液体加熱器を説明する。
図1(a)(b)は、該液体加熱器1を概略的に示すものである。
液体加熱器1では、ポリテトラフルオロエチレン製の管状の流路2が縦面上で蛇行して、金属板を内張した加熱室3内に配置されている。流路2は、10mm以下の流路径で構成されており、その一端には、液体導入部2aが設けられ、他端に液体排出部2bが設けられてそれぞれ外部の配管に接続されている。
加熱室3の前記流路2を長手方向に沿って挟む側壁の一面には、放射開口部5が設けられており、該放射開口部5には、2450±50MHzのマイクロ波を発信するマイクロ波発信器7が設けられた導波管6が接続されている。上記マイクロ波発信器7、導波管6、放射開口部5によって本発明のマイクロ波照射部が構成されている。
【0022】
上記液体加熱器1では、マイクロ波発信器7から出力されたマイクロ波が導波管6内を移動して放射開口部5から加熱室3内に放射される。放射開口部5から放射されたマイクロ波は加熱室3内を移動して、流路2の長手方向全体に亘って片面側から照射される。また放射されたマイクロ波は、加熱室3の金属板で反射されて、さらに流路2に照射される作用も得られる。この際に液体導入部2aから流路2内に過硫酸含有硫酸溶液などの液体が導入される、液体は流路2内を通り、上記マイクロ波の照射を受けつつ液体排出部2bに至り、さらに下流側に送液される。流路2内では、マイクロ波の照射によって液体が短時間で昇温する(例えば10〜20℃/秒)。例えば、50〜80℃の液温を有する状態で流路2に導入された過硫酸含有硫酸溶液は、流路2を通液されることで、排出される際には150〜190℃に昇温している。
【0023】
なお、上記加熱器において、マイクロ波が平面波ではなく、ある角度をもって拡がる場合には、図2(a)に示すようにマイクロ波が均一に照射されるように複数の流路2を弧状の位置に配置し、その内周側からマイクロ波を照射するとともに、流路2の外周側に凹面とした金属反射板8を配置してもよい。流路全体を反射板で覆えば熱効率を高めることができる。
また、上記では、液体加熱器として管状の流路を有するものについて説明した。
流路を扁平な流路によって構成することもできる。
図2(b)は、流路厚みが10mm以下である扁平な流路10の外部片側から流路面に向けてマイクロ波を照射するマイクロ波発信器12を設けたものである。この液体加熱器では、片側からのマイクロ波照射によっても流路内を通液される液体を速やかに加熱することができる。
図2(c)は、流路厚みが25mm以下である扁平な流路11の外部両側から流路面に向けてマイクロ波を照射するマイクロ波発信器12、12を設けたものである。この液体加熱器では、両側からのマイクロ波照射によっても、25mm以下、特に10mm超25mm以下の厚みの流路内を通液される液体を速やかに加熱することができる。
【0024】
上記液体加熱器1を洗浄システムの用途に用いる場合は、例えば図3のような枚葉式洗浄システムに組み込むことができる。
該システムは、過硫酸(ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ一硫酸)を含む濃硫酸溶液(以下、過硫酸含有濃硫酸溶液という)を収容する貯留槽20と硫酸イオンを電解して過硫酸イオンを生成する電解装置23と洗浄部25とを備えている。貯留槽20では、当初は70質量%以上の濃硫酸が用意されて50〜80℃に保持され、ポンプ21で送液されつつ熱交換器22で電解に好適な液温(40〜60℃)に冷却されて電解装置23に供給される。電解装置23では、電解によって硫酸イオンから過硫酸イオンを生成し、例えば5〜10L/minの流量で貯留槽20との間で循環させて過硫酸含有濃硫酸溶液が得られる。貯留槽20内の過硫酸含有濃硫酸溶液はポンプ24で例えば1〜2L/minの流量で抜き出され、上記した液体加熱器1で短時間で高温(好適には150〜190℃、さらに好適には150〜180℃)に加熱され、洗浄部25に収めた電子材料である半導体ウェハ100に流下して該半導体ウェハの洗浄に供される。この際に、過硫酸含有濃硫酸溶液は、液体加熱器1で速やかに高温に加熱されており、過硫酸が過剰に自己分解することなく高い洗浄力を維持したままで洗浄部25に供給される。洗浄部25で使用された溶液は、ポンプ26で抜き出され、熱交換器27で冷却されて貯留槽20に返送される。
【0025】
本発明の液体加熱器を用いて過硫酸含有濃硫酸溶液による枚葉式洗浄をする場合、液体加熱器1によって過硫酸を含む硫酸水溶液を瞬時に150℃程度にまで加熱しなければならない。従って、前段において適切な液温を保持しておくことが必要である。そこで図3に示すシステムのように、システムにおいて液体加熱器1の前段に貯留槽20を設けて槽内温度が50〜80℃に保持されるようにすることが好ましい。槽内温度が50℃未満では本発明の液体加熱器1への負荷が大きくなりすぎ、逆に80℃を超過すると過硫酸の自己分解速度が大きすぎるため貯留槽20の過硫酸濃度を高い状態で維持できないからである。
ここで図3に示すシステムでは貯留槽20から引き抜いた硫酸溶液を冷却して電解した後に貯留槽20に返送している。電解に適した温度は40〜60℃であり、電解すると温度が20℃程度上昇して60〜80℃となるので、電解前に硫酸溶液を40〜60℃に冷却すれば貯留槽20内の硫酸溶液の温度を別途調整する必要がないため当該構成となっている。
特に本システムにおいて電解に供される硫酸溶液は、70〜96質量%の濃度が望ましい。レジスト剥離には、レジストとシリコン基板との間に浸透する力(浸透力)と、レジストを酸化する力(酸化力)の両者が必要である。硫酸濃度が低い方が、酸化力を有する過硫酸の生成効率が高く、また、硫酸濃度が高い方が、浸透力が高い。このため、レジストの種類やシリコン基板上に形成されたパターン形状などにより、上記の範囲内で最適な硫酸濃度を選択する。
【0026】
急速加熱器を枚葉式の洗浄装置に用いる場合、加熱器内部での液の保有量が小さく、図4のように昇温・降温が迅速であることが望ましい。保有量が多いと、昇温・降温が迅速でなくなり、ウエハ処理に対して有効ではない中間温度の液を大量に廃棄することになるからである。また、過硫酸溶液を高温のまま長時間保有することは、過硫酸の分解に繋がるので好ましくない。
【0027】
なお、上記では、洗浄システムとして枚葉式のものを説明したが、洗浄部として洗浄槽を有し、該洗浄槽内に上記洗浄液を貯液して、洗浄液に電子材料を浸漬し洗浄を行うバッチ式のものとすることも可能である。
【0028】
(実施形態2)
上記実施形態1の液体加熱器は、流路外部の一方側からマイクロ波を照射する構造である。流路外の全周囲から流路面に向けてマイクロ波が照射される構造としてもよい。
図5に示すように、この実施形態の液体加熱器30では、流路31の長手方向に沿って扁平状とした導波管32の先端に、前方に向けて流路断面方向に次第に拡がるテーパー状の導波管33を連結し、該テーパー状導波管33の前端に、該導波管33の前端を覆うように凹面形状の反射板34を設ける。前記流路31は上記テーパー状の導波管33内に位置しており、導波管33の両側に設けられて前記反射板34に接続された側板を貫通して外部に伸張する配管に接続されている。これら接続箇所の一方が液体導入部31aに相当し、他方が液体排出部31bに相当する。また、反射板34の反射角は、反射したマイクロ波が流路31に向かうような角度とする。流路には低誘電率、耐薬品性のポリテトラフルオロエチレンを用いている。尚、図には示していないが、マイクロ波が反射されて導波管を逆に遡ることを防ぐため、導波管32の途中にアイソレーターを設ける。
【0029】
上記液体加熱器30では、導波管32に導入されたマイクロ波が導波管32内を進み、さらに導波管33内で放射され、導波管33内面および反射板34内面で反射される。この結果、流路31には、外部全周囲からマイクロ波が照射され、通液される液体が速やかに加熱される。
この場合、マイクロ波が流路の全周囲から照射される構造となるため、流路の厚みは、25mm以下であればよい。
【0030】
以上、本発明の液体加熱器について上記実施形態のように例を挙げて説明をしたが、本発明は、上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【実施例1】
【0031】
硫酸濃度85質量%の水溶液を電気分解して得られた過硫酸含有硫酸溶液を内径10mm、長さ2.1mの管状のポリテトラフルオロエチレン製流路に2L/minの通液速度で流し、マイクロ波を流路の厚さ方向に対して一方の側より照射した。流路入口における液温度は65℃であり、流路内での液の滞留時間は5秒であった。マイクロ波発振器はマグネトロン真空管であり、その周波数は2450MHzである。マイクロ波出力を17.2kWにしたところ、過硫酸含有硫酸溶液の流路出口の温度は180℃になった。したがって、昇温速度は23℃/秒であり、熱効率は70%と計算される。上記過硫酸含有濃硫酸溶液における過硫酸濃度は流路入口で20g/L、流路出口で16g/Lであり、過硫酸の活性は十分に保たれていることが分かった。
【実施例2】
【0032】
実施例1と同様の装置構成で、硫酸濃度75質量%の水溶液を電気分解して得られた過硫酸含有濃硫酸溶液を2L/minの通液速度で流して加熱したところ、180℃に達するマイクロ波出力は15kWであり、熱効率は80%であった。次いで、硫酸濃度96質量%の液を用いて同様の試験を行ったところ、マイクロ波出力として18.3kWを要し、熱効率は60%であった。硫酸濃度が薄い方が水分子を多く含むので、マイクロ波の吸収効率が良くなったと考えられる。
【実施例3】
【0033】
図3に示す装置構成からなるマイクロ波加熱装置を用い、流路は内径25mm、長さ340mmのポリテトラフルオロエチレン製チューブとした。これに85質量%過硫酸含有濃硫酸水溶液を2L/minの通液速度で通した。この場合の流路内滞留時間は5秒である。マグネトロン真空管から発した周波数2450MHzのマイクロ波を上記流路に照射した。流路の液体入口温度65℃のとき、出口温度を180℃にするのにマイクロ波出力17kWを要した。したがって、昇温速度は23℃/秒であり、熱効率は71%と計算される。過硫酸濃度は入口で20g/L、出口で16g/Lであった。加熱後も実用上十分な過硫酸濃度を確保できることが分かった。
【0034】
(比較例1)
硫酸濃度85質量%の水溶液を電気分解して得られた過硫酸含有濃硫酸溶液2Lを口径130mmのビーカーに入れ、マイクロ波をビーカー側面の1方向から1分間照射した。照射前の過硫酸溶液の温度は60℃であった。マイクロ波発振器はマグネトロン真空管であり、その周波数は2450MHzである。マイクロ波出力を15kWにしたところ、1分間加熱後の過硫酸溶液の温度は130℃であった。従って、昇温速度は1.17℃/秒であり、熱効率は50%と計算される。過硫酸濃度は加熱初期には20g/Lであったが、加熱終了後には11g/Lに低下していた。温度は比較的低いものの、加熱時間が長かったため、過硫酸の分解が進んだものと考えられる。
【0035】
(比較例2)
比較例1と同じ構成で、1分間で180℃まで昇温するようにマイクロ波出力を高めていったところ、30kWを要した。昇温速度は2℃/秒であり、この時の熱効率は42%である。過硫酸濃度は加熱初期には20g/Lであったが、加熱終了後には6g/Lに低下していた。これは過硫酸が高温下に長時間曝されたためと考えられる
【符号の説明】
【0036】
1 液体加熱器
2 流路
2a 液体導入部
2b 液体排出部
3 加熱室
6 導波管
7 マイクロ波発信器
8 金属反射板
10 流路
11 流路
12 マイクロ波発信器
23 電解装置
25 洗浄部
30 液体加熱器
31 流路
32 導波管
33 導波管
34 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路厚みが10mm以下である扁平な流路に液体を通液するとともに、該流路外部の厚み方向片側から該流路面に向けてマイクロ波を照射することを特徴とする液体加熱方法。
【請求項2】
流路径が10mm以下である管状流路に液体を通液するとともに、該流路外部の一方向から該流路面に向けてマイクロ波を照射することを特徴とする液体加熱方法。
【請求項3】
流路厚みが25mm以下である扁平な流路に液体を通液するとともに、該流路外部の厚み方向両側から該流路面に向けてマイクロ波を照射することを特徴とする液体加熱方法。
【請求項4】
流路径が25mm以下である管状流路に液体を通液するとともに、該流路外部の周囲複数箇所または全周囲から該流路面に向けてマイクロ波を照射することを特徴とする液体加熱方法。
【請求項5】
前記マイクロ波の照射によって、前記流路内を通液される前記液体を10℃/秒以上の速度で昇温させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液体加熱方法。
【請求項6】
前記マイクロ波の周波数域が、2450±50MHzの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液体加熱方法。
【請求項7】
前記マイクロ波の照射によって、前記流路内を通液される50〜80℃の液温を有する前記液体を150〜190℃の液温に昇温させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液体加熱方法。
【請求項8】
前記液体が、過硫酸含有硫酸溶液であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液体加熱方法。
【請求項9】
前記過硫酸含有硫酸溶液が、70質量%以上の濃硫酸を電解して得られた硫酸溶液、あるいは70質量%以上の濃硫酸に過酸化水素水を混合した硫酸溶液であることを特徴とする請求項8に記載の液体加熱方法。
【請求項10】
前記請求項6、7のいずれかに記載の液体加熱方法によって昇温された過硫酸含有硫酸溶液を電子材料の洗浄液として使用することを特徴とする電子材料の洗浄方法。
【請求項11】
流路厚みが10mm以下で、液体が通液される扁平な流路と、該流路内に前記液体を導入する液体導入部と、前記流路を通液した前記液体を前記流路外に排出する液体排出部と、前記流路外部の厚み方向片側から該流路面に向けてマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、を有することを特徴とする液体加熱装置。
【請求項12】
流路径が10mm以下で、液体が通液される管状流路と、該流路内に液体を導入する液体導入部と、前記流路を通液した前記液体を前記流路外に排出する液体排出部と、前記流路外部の一方向から該流路面に向けてマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、を有することを特徴とする液体加熱装置。
【請求項13】
流路厚みが25mm以下で、液体が通液される扁平な流路と、該流路内に液体を導入する液体導入部と、前記流路を通液した前記液体を前記流路外に排出する液体排出部と、前記流路外部の厚み方向両側から該流路面に向けてマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、を有することを特徴とする液体加熱装置。
【請求項14】
流路径が25mm以下で、液体が通液される扁平な流路と、該流路内に液体を導入する液体導入部と、前記流路を通液した前記液体を前記流路外に排出する液体排出部と、前記流路外部の全周囲から該流路面に向けてマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、を有することを特徴とする液体加熱装置。
【請求項15】
前記マイクロ波照射部は、周波数域が2450±50MHzの範囲にあるマイクロ波を照射するものであることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の液体加熱装置。
【請求項16】
前記流路の材質がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の液体加熱装置。
【請求項17】
前記流路は、通液される前記液体が過硫酸含有硫酸溶液であることを特徴とする請求項11〜16のいずれかに記載の液体加熱装置。
【請求項18】
前記過硫酸含有硫酸溶液は、70質量%以上の濃硫酸を電解して得られた硫酸溶液、あるいは70質量%以上の濃硫酸に過酸化水素水を混合した硫酸溶液であることを特徴とする請求項17に記載の液体加熱装置。
【請求項19】
前記請求項11〜18のいずれかに記載の液体加熱装置と、該液体加熱装置の通液方向下流側に位置して、該液体加熱装置によって昇温した過硫酸含有硫酸溶液を洗浄液として電子材料を洗浄する洗浄部とを備えることを特徴とする電子材料の洗浄システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−198956(P2011−198956A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63155(P2010−63155)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】