説明

液圧ブレーキシステム

【課題】液圧ブレーキシステムの制御系の異常時の走行安全性の向上を図る。
【解決手段】車両の重心G1が左右方向の中心から右側にある場合には、重心G1から右側の前後輪の接地点までのアームが、左側の前後輪の接地点までのアームより短くなる。それに対して、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96の出力液圧が右前輪4,右後輪48,左前輪2のブレーキシリンダに供給されるため、右側の前後輪4,48に加えられる制動力の合計が左側の前後輪2,46に加えられる制動力の合計より大きくなる。その結果、車両にヨーモーメントが生じ難くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシリンダの液圧により車輪の回転を抑制する液圧ブレーキを備えた液圧ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)マスタシリンダと、(c)アキュムレータと、(d)そのアキュムレータの液圧を利用して、電気アクチュエータの駆動により作動させられる増圧機構と、(e)その増圧機構の液圧とマスタシリンダの液圧とのうち高い方を選択して液圧ブレーキのブレーキシリンダに供給する選択バルブとを備えた液圧ブレーキシステムが記載されている。
特許文献2には、(a)車両の前後左右の車輪に設けられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)マスタシリンダと、(c)マスタシリンダと前輪の液圧ブレーキのブレーキシリンダとの間に設けられたメカ式倍力機構と、(d)高圧源およびその高圧源の液圧を制御する電磁弁とを備えた液圧ブレーキシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−502645号公報
【特許文献2】特開平10−287227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、液圧ブレーキシステムの改良を図ることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明の液圧ブレーキシステムは、動力液圧系の異常時に、左側車輪に作用する制動力と右側車輪に作用する制動力とが異なる大きさとなるように、2輪あるいは3輪のブレーキシリンダにマニュアル液圧を供給するものである。
動力液圧系が正常である場合には、前後左右の4輪のブレーキシリンダに動力制御圧(動力制御圧とは、動力液圧系において、動力式液圧源の液圧を利用して制御された液圧である)が供給されるが、動力液圧系が異常である場合には、マニュアル液圧が、2輪あるいは3輪のブレーキシリンダに分配される。
例えば、マニュアル液圧が2輪(対角車輪)あるいは3輪に供給される場合には、左側の前後輪に作用する制動力の和と右側の前後輪に作用する制動力の和とが異なる大きさとなる場合がある。一方、車両によっては、重心が左右方向の中心にない場合がある。その車両においては、左側の前後輪に作用する制動力の和と右側の前後輪に作用する制動力の和とが異なる場合に、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。また、重心が左右方向の中心にある場合において、動力液圧系の異常時にマニュアル液圧が供給される先のブレーキシリンダの車輪の位置を予め決めておけば、動力液圧系の異常時に生じ易いヨーモーメントの方向を予め決めておくことができる。異常時に生じ易いヨーモーメントの方向が決まっていない場合より、予め決まっている方が望ましい。
また、マニュアル液圧が3輪に供給されるようにすることにより、左側の前後輪に作用する制動力の和と右側の前後輪に作用する制動力の和とがほぼ同じになる場合がある。
このように、本願発明に係る液圧ブレーキシステムにおいては、制御系の異常時の走行安全性の向上を図ることができる。
なお、マニュアル液圧系は、(x)互いに対角位置にある2つの車輪のブレーキシリンダにマニュアル液圧を供給するものとしたり、(y)3輪のブレーキシリンダにマニュアル液圧を供給するものとしたりすることができる。3輪のブレーキシリンダは、(y-1)左右前輪のブレーキシリンダと、左右後輪のいずれか一方のブレーキシリンダとを含む場合や、(y-2)左右後輪のブレーキシリンダと、左右前輪のいずれか一方のブレーキシリンダとを含む場合がある。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付する形式で記載する。請求可能発明を構成する構成要素は、以下の各項に記載されたもの、各項の2つ以上の組に記載されたものとすることができる。また、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得る。
【0007】
(1)車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記4つの車輪のうちの3輪のブレーキシリンダに、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
動力液圧系は、電気エネルギの供給により液圧を発生させる動力式液圧源、動力式液圧源の液圧を利用して液圧を制御する動力液圧制御装置、液通路等を含む。動力液圧制御装置は、(i)動力式液圧源を制御して(例えば、ポンプモータを制御して)、動力液圧系の出力液圧を制御するものであっても、(ii)動力式液圧源の出力側とブレーキシリンダとの間に設けられた電磁制御弁を含み(さらに、ブレーキシリンダと低圧源との間に設けられた電磁制御弁を含むものとすることもできる)、1つ以上の電磁制御弁の制御により、動力式液圧源の出力液圧を制御するものであってもよい。
マニュアル液圧系は、運転者のブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル式液圧源、液通路等を含む。互いに独立に液圧を発生させるマニュアル式液圧源を2つ以上含むものとすることができる。
(2)前記マニュアル系が、(a)運転者のブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧を発生させる2つの第1マニュアル式液圧源と、(b)少なくとも、前記2つの第1マニュアル式液圧源のうちの一方の液圧により作動可能であって、前記一方の第1マニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を発生させる第2マニュアル式液圧源と、(c)前記3輪のブレーキシリンダのうちの一部に、前記2つの第1マニュアル式液圧源のうちの他方の液圧を供給し、前記3輪のブレーキシリンダのうちの残りのものに、前記第2マニュアル式液圧源の液圧を供給する混合型液圧分配部とを含むものとすることができる。
例えば、第1マニュアル式液圧源をマスタシリンダの加圧室として、第2マニュアル式液圧源を、マスタシリンダの加圧室の液圧により作動させられる増圧装置とすることができる。また、3輪のうちの1輪あるいは2輪のブレーキシリンダに他方の第1マニュアル式液圧源の液圧が供給され、残りの2輪あるいは1輪のブレーキシリンダに第2マニュアル式液圧源の液圧が供給されるようにすることができる。
例えば、左右前輪のブレーキシリンダのうちの一方(例えば、左前輪)のブレーキシリンダに第1マニュアル式液圧源の液圧が供給され、他方(例えば、右前輪)のブレーキシリンダに第2マニュアル式液圧源の液圧が供給される場合(すなわち、右前輪に加えられる制動力FFRが左前輪に加えられる制動力FFLより大きい場合:FFR>FFL)において、左後輪のブレーキシリンダに第2マニュアル式液圧源の液圧が供給されるようにすることができる。その場合には、左側の車輪に加えられる制動力の和と右側の車輪に加えられる制動力の和とをほぼ同じにすることが可能である(FFR+0≒FFL+FRL)。
なお、一方の第1マニュアル式液圧源を増圧装置接続マニュアル式液圧源と称することができる。
(3)前記マニュアル系が、(a)運転者のブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧を発生させる少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源と、(b)少なくとも、前記少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源のうちの1つの液圧により作動可能であって、前記1つの第1マニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を発生させる第2マニュアル式液圧源と、(c)前記3輪のブレーキシリンダに、前記第2マニュアル式液圧源と前記少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源とのいずれか一方の液圧を供給する単一型液圧分配部とを含むものとすることができる。
3輪のブレーキシリンダすべてに第2マニュアル式液圧源の液圧が供給される場合と、少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源の液圧が供給される場合とがある。後者の場合には、第2マニュアル式液圧源に接続された第1マニュアル式液圧源から供給されるようにしても、第2マニュアル式液圧源に接続されていない第1マニュアル式液圧源から供給されるようにしてもよく、3輪のうちの1輪または2輪のブレーキシリンダに、第2マニュアル式液圧源に接続された第1マニュアル式液圧源から供給され、3輪のうちの2輪または1輪のブレーキシリンダに、第2マニュアル式液圧源に接続されていない第1マニュアル式液圧源から供給されるようにすることができる。
(4)車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記車両の重心から右側車輪の接地点までのアームの長さと左側車輪の接地点までのアームの長さとを比較して、長い側の前後の車輪に加えられる制動力の和が短い側の前後の車輪に加えられる制動力の和より小さくなるように、前記前後左右の4つの車輪のうちの3つの車輪のブレーキシリンダに、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項には、(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
例えば、車両の重心から右側車輪の接地点までのアームrRの長さと左側車輪の接地点までのアームrLの長さとを比較して、右側車輪の接地点までのアームrRの方が長い場合(rR>rL)には、右側前後車輪に加えられる制動力の和(ΣFR=FFR+FRR)が左側の前後車輪に加えられる制動力の和(ΣFL=FFL+FRL)より小さくなるように(ΣFR<ΣFL)、前後左右の4つの車輪のうちの3輪のブレーキシリンダにマニュアル液圧が供給される。例えば、左前輪、左後輪、右前輪の3輪のブレーキシリンダに供給されるようにすることができる。
また、右側車輪の接地点までのアームの方が短い場合(rR<rL)には、右側前後車輪に加えられる制動力の和ΣFRが左側の前後車輪に加えられる制動力の和ΣFLより大きくなるように(ΣFR>ΣFL)、例えば、左前輪、右前輪、右後輪のブレーキシリンダに供給されるようにすることができる。
このように、本項に記載の液圧ブレーキシステムにおいては、車両の重心が左右方向の中心から外れた位置にある場合に、動力液圧系の異常時に生じるヨーモーメントを小さくすることができる。
(5)運転席が前進方向の右側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給可能な動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記車両が左方向に旋回する向きのヨーモーメントが作用するように、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を前記前後左右の4つのブレーキシリンダのうちの3つに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項には、(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
いわゆる右ハンドルの車両が、法規により左側走行をする地域において、左方向に旋回する向きは、車両の前部が対向車線から離れる方向である。そのため、動力液圧系の異常時に、左旋回方向のモーメントが作用した場合には、右旋回方向のモーメントが作用する場合に比較して、走行安全性を向上させることができる。
例えば、右前輪、左後輪のブレーキシリンダにサーボ圧を供給し、左前輪のブレーキシリンダにマニュアル液圧を供給することができる。
(6)運転席が前進方向の右側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、それの制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給可能な動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を右前輪、左前輪、右後輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項には、(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
(7)運転席が前進方向の左側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給可能な動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記車両が右方向に旋回する向きのヨーモーメントが作用するように、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を前記前後左右の4つのブレーキシリンダのうちの3つに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項には、(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
いわゆる左ハンドルの車両が、法規により右側走行をする地域において、右方向に旋回する向きのモーメントは、車両の前部が対向車線から離れる方向である。このように、右方向に旋回する向きのモーメントが作用する場合には左方向に旋回する向きのモーメントが作用する場合より、走行安全性を向上させることができる。
(8)運転席が前進方向の左側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、それの制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給可能な動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を右前輪、左前輪、左後輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
本項には、(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
(9)液圧ブレーキシステムが、前記第2マニュアル式液圧源が接続されるとともに前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダが接続された共通通路と、前記共通通路と前記前後左右の4つのブレーキシリンダとの間にそれぞれ設けられた個別制御弁とを含み、それら個別制御弁のうち前記3輪のブレーキシリンダに対応する個別制御弁をソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開弁とすることができる。
個別制御弁は、少なくとも、開状態と閉状態とをとり得る電磁開閉弁である。電磁開閉弁は、ソレノイドに供給される電流量を連続的に制御することにより、前後の差圧(および/または開度)が連続的に制御可能とされるリニア制御弁としても、供給電流のON/OFF制御により、開状態と閉状態とのいずれかに切り換えられる単なる開閉弁としてもよい。以下、本明細書において、「リニア制御弁」、「単なる開閉弁」と記載しない限り、電磁開閉弁、電磁制御弁、液圧制御弁等の「弁」は、「リニア制御弁」であっても、「単なる開閉弁」であってもよいものとする。
(10)車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記4つの車輪のうちの互いに対角位置にある2輪のブレーキシリンダに、右側の車輪に加えられる制動力と左側の車輪に加えられる制動力とが異なる大きさとなるように、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を供給するマニュアル液圧系と
を含むとともに、
前記マニュアル液圧系が、(i)運転者のブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧を発生させる少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源と、(ii)少なくとも、前記少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源のうちの1つの液圧により作動可能であって、前記1つの第1マニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を発生させる第2マニュアル式液圧源と、(iii)前記対角位置にある2輪のブレーキシリンダに、前記第2マニュアル式液圧源の液圧を供給する第2液圧供給部とを含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
例えば、車両の重心が左右方向の中心にない車両に適用することにより、ヨーモーメントが生じ難くしたり、決まった方向のヨーモーメントが作用するようにしたりすること等ができる。
本項に記載の液圧ブレーキシステムには、(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の共通の実施例である液圧ブレーキシステムが搭載された車両全体を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路を表す回路図である。
【図3】上記液圧ブレーキ回路に含まれる増圧リニア制御弁の断面図である。
【図4】上記液圧ブレーキ回路に含まれる入力側逆止弁を示す図である。(a)はカップシート式の逆止弁の断面図であり、(b-i)はボール式の逆止弁の断面図であり、(b-ii)は、(b-i)のAA断面図であり、(c)は、磁力式の逆止弁を概念的に示す図である。
【図5】上記液圧ブレーキシステムに含まれるブレーキECUの記憶部に記憶された液圧供給状態制御プログラムを表すフローチャートである。
【図6】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の状態を示す図である(正常な場合)。
【図7】上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の状態を示す図である(制御系が異常である場合1)
【図8】(a)上記液圧ブレーキシステムにおいて、供給状態制御プログラムが実行された場合の状態を示す図である(制御系が異常である場合2)(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された右ハンドルの車両である。
【図9】上記液圧ブレーキシステムにおいて、イグニッションスイッチがOFFの状態を示す図である(液漏れの可能性がある場合)。
【図10】(a)本発明の実施例2に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された左ハンドルの車両である。
【図11】(a)本発明の実施例3に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された左ハンドルの車両である。
【図12】(a)本発明の実施例4に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された右ハンドルの車両である。
【図13】(a)本発明の実施例5に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された左ハンドルの車両である。
【図14】(a)本発明の実施例6に係る液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路図である、(b)上記液圧ブレーキシステムが搭載された右ハンドルの車両である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の複数の実施例である液圧ブレーキシステムについて図面に基づいて詳細に説明する。
最初に、本発明の複数の実施例である液圧ブレーキシステムである液圧ブレーキシステムが搭載された車両について説明する。
本車両は、図1に示すように、駆動装置として電動モータとエンジンとを含むハイブリッド車両である。ハイブリッド車両において、駆動輪としての左右前輪2,4は、電気的駆動装置6と内燃的駆動装置8とを含む駆動装置10によって駆動される。駆動装置10の駆動力はドライブシャフト12,14を介して左右前輪2,4に伝達される。内燃的駆動装置8は、エンジン16,エンジン16の作動状態を制御するエンジンECU18等を含むものであり、電気的駆動装置6は電動モータ20,蓄電装置22,モータジェネレータ24,電力変換装置26,モータECU28、動力分割機構30等を含む。動力分割機構30には、電動モータ20、モータジェネレータ24、エンジン16が連結され、これらの制御により、出力部材32に電動モータ20の駆動トルクのみが伝達される場合、エンジン16の駆動トルクと電動モータ20の駆動トルクとの両方が伝達される場合、エンジン16の出力がモータジェネレータ24と出力部材32とに出力される場合等に切り換えられる。出力部材32に伝達された駆動力は、減速機、差動装置を介してドライブシャフト12,14に伝達される。
電力変換装置26は、インバータ等を含むものであり、モータECU28によって制御される。インバータの電流制御により、少なくとも、電動モータ20に蓄電装置22から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態と、回生制動により発電器として機能することにより蓄電装置22に電気エネルギを充電する充電状態とに切り換えられる。充電状態においては、左右前輪2,4に回生制動トルクが加えられる。その意味において、電気的駆動装置6は回生ブレーキ装置であると考えることができる。
【0010】
液圧ブレーキシステムは、左右前輪2,4に設けられた液圧ブレーキ40のブレーキシリンダ42,左右後輪46,48(図2等参照)に設けられた液圧ブレーキ50のブレーキシリンダ52と、これらブレーキシリンダ42,52の液圧を制御可能な液圧制御部54等を含む。液圧制御部54は、コンピュータを主体とするブレーキECU56によって制御される。
また、車両には、ハイブリッドECU58が設けられ、これらハイブリッドECU58,ブレーキECU56,エンジンECU18,モータECU28は、CAN(Car area Network)59を介して接続されている。これらは、互いに通信可能とされており、適宜必要な情報が通信される。
【0011】
なお、本液圧ブレーキシステムは、ハイブリッド車輪に限らず、プラグインハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両に搭載することもできる。電気自動車においては、内燃的駆動装置8が不要となる。燃料電池車両においては、駆動用モータが燃料電池スタック等によって駆動される。
また、本液圧ブレーキシステムは、内燃駆動車両に搭載することもできる。電気的駆動装置6が設けられていない車両においては、駆動輪2,4に回生制動トルクが加えられることがないため、回生協調制御が行われることはない。
【0012】
以下、液圧ブレーキシステムについて説明するが、ブレーキシリンダ、液圧ブレーキ、後述する種々の電磁開閉弁等を、前後左右の車輪の位置に対応して区別する必要がある場合には、車輪位置を表す符号(FL,FR,RL,RR)を付して記載し、代表して、あるいは、区別する必要がない場合には、符号を付さないで記載する。
【実施例1】
【0013】
実施例1に係る液圧ブレーキシステムは、図2に示すブレーキ回路を含む。
60はブレーキ操作部材としてのブレーキペダルであり、62はブレーキペダル60の操作により液圧を発生させるマスタシリンダである。64はポンプ装置65とアキュムレータ66とを含む動力式液圧源である。液圧ブレーキ40,50は、ブレーキシリンダ42,52の液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制するものであり、本実施例においては、ディスクブレーキである。
なお、液圧ブレーキ40,50は、ドラムブレーキとすることができる。また、前輪2,4の液圧ブレーキ40をディスクブレーキとし、後輪46,48の液圧ブレーキ50をドラムブレーキとすることもできる。
マスタシリンダ62は、2つの加圧ピストン68,69を備えたタンデム式のものであり、加圧ピストン68,69のそれぞれの前方が加圧室70,72とされる。本実施例においては、加圧室70,72がそれぞれマニュアル式液圧源に該当する。また、加圧室72,70には、それぞれ、マニュアル通路としてのマスタ通路74,76を介して、左前輪2の液圧ブレーキ40FLのブレーキシリンダ42FL、右前輪4の液圧ブレーキ40FRのブレーキシリンダ42FRが接続される。
また、加圧室70,72は、加圧ピストン68,69が後退端に達した場合に、それぞれ、リザーバ78に連通させられる。リザーバ78の内部は、作動液を収容する複数の収容室80,82,84に仕切られている。収容室80,82は、それぞれ、加圧室70,72に対応して設けられ、収容室84はポンプ装置65に対応して設けられたものである。
【0014】
動力式液圧源64において、ポンプ装置65は、ポンプ90およびポンプモータ92を含み、ポンプ90によりリザーバ78の収容室84から作動液が汲み上げられて吐出されて、アキュムレータ66に蓄えられる。ポンプモータ92は、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の圧力が予め定められた設定範囲内にあるように制御される。また、リリーフ弁93により、ポンプ90の吐出圧が過大になることが防止される。
【0015】
動力式液圧源64とマスタシリンダ62とブレーキシリンダ42,52との間には増圧装置としてのメカ式増圧装置96が設けられる。
メカ式増圧装置96は、可動部としてのメカ式可動部98と、入力側逆止弁99と、高圧側逆止弁100とを含む。メカ式可動部98は、ハウジング102と、ハウジング102に液密かつ摺動可能に嵌合された段付きピストン104とを含み、段付きピストン104の大径側に大径側室110が設けられ、小径側に小径側室112が設けられる。大径側室110には加圧室72が接続されるのであり、本実施例においては、加圧室72が増圧装置接続マニュアル式液圧源(1つのマニュアル式液圧源)に対応する。
小径側室112には、動力式液圧源64に接続された高圧室114が連通させられ、小径側室112と高圧室114との間に、高圧供給弁116が設けられる。高圧供給弁116は、ハウジング102に形成された弁座122と、弁座122に対して接近、離間可能に設けられた弁子120と、スプリング124とを含み、スプリング124の付勢力が、弁子120を弁座122に押し付ける向きに作用する。高圧供給弁116は常閉弁である。
小径側室112には、弁子120に対向して開弁部材125が設けられ、開弁部材125と段付きピストン104との間にスプリング126が設けられる。スプリング126の付勢力は、開弁部材125と段付きピストン104とを互いに離間させる向きに作用する。開弁部材125は、高圧供給弁116の構成要素であると考えることもできる。
段付きピストン104の段部とハウジング102との間には、スプリング128(リターンスプリング)が設けられ、段付きピストン104を後退方向に付勢する。なお、段付きピストン104とハウジング102との間には図示しないストッパが設けられ、段付きピストン104の前進端位置を規制する。
また、段付きピストン104の内部には、大径側室110と小径側室112とを連通させるピストン内連通路129が形成され、ピストン内連通路129の途中にピストン内逆止弁130が設けられる。ピストン内逆止弁130は、大径側室110から小径側室112へ向かう作動液の流れを阻止し、小径側室112から大径側室110へ向かう作動液の流れを許容する。
【0016】
高圧側逆止弁100は、高圧室114と動力式液圧源64とを接続する高圧供給通路132の途中に設けられる。高圧側逆止弁100は、動力式液圧源64の液圧が高圧室114の液圧より高い場合には、動力式液圧源64から高圧室114への作動液の流れを許容するが、動力式液圧源64の液圧が高圧室114の液圧以下の場合には閉状態にあり、双方向の流れを阻止する。そのため、仮に、電気系統の異常により、動力液圧源64の液圧が低くなっても、小径側室112の液圧の低下が防止される。
【0017】
入力側逆止弁99は、マスタ通路74とメカ式可動部98の出力側(小径側室112でもよい)とを、メカ式可動部98をバイパスして接続する可動部バイパス通路としてのバイパス通路136の途中に設けられる。バイパス通路136は、マスタ通路74と共通通路94とを、メカ式可動部98をバイパスして接続する通路であると考えることもできる。
入力側逆止弁99は、マスタ通路74からメカ式可動部98の出力側への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止するものであり、開弁圧が設定圧のものである。設定圧は、マスタリザーバ78とブレーキシリンダ42、52との間の高低差に起因する液圧差に基づいて決まる値である(マスタリザーバ78がブレーキシリンダ42、52より鉛直方向の上方にある)。設定圧は、高低差対応設定圧と称することができる。
ブレーキペダル60の非操作状態において、マスタシリンダ62の加圧室72はマスタリザーバ78に連通させられ、ほぼ大気圧である。また、ブレーキシリンダ42の液圧もほぼ大気圧であるが、これらの間には、高低差に起因する液圧差がある。
それに対して、入力側逆止弁99の開弁圧を高低差に起因する液圧差に基づいて決まる大きさとすれば、ブレーキペダル60の非操作状態におけるマスタリザーバ78からの作動液の流出を阻止することができるのであり、仮に、ブレーキシリンダ42FL、FR、52RRの周辺に漏れがあったとしても、マスタリザーバ78からブレーキシリンダ42FL、FR、52RRに向かう作動液の流れを阻止することができる。
また、ブレーキペダル60が作用操作(液圧ブレーキ40,50が作用状態になるように行われる操作であり、通常は、踏み込み操作である)され、加圧室72の液圧が高くなると、入力側逆止弁99の前後の差圧(マスタシリンダ側の液圧から共通通路側の液圧を引いた値)は高低差対応設定圧より大きくなり、入力側逆止弁99は開状態に切り換えられる。それにより、マスタシリンダ62からブレーキシリンダへ向かう作動液の流れが許容される。
【0018】
入力側逆止弁99は、例えば、図4に示す構造を成したものとすることができる。例えば、図4(a)に示すように、カップシール式の逆止弁99xとしたり、図4(b)に示すように、ボール式の逆止弁99yとしたり、図4(c)に示すように、磁力式の逆止弁99zとしたりすること等ができる。
図4(a)において、逆止弁99xは、バイパス通路136に固定的に設けられたハウジング140と、ハウジング140に支持された環状のシール部材142とを含む。シール部材142はゴム等の弾性変形し易い材料により成形されたものであり、矢印Xの方向に撓み易く、逆方向に撓み難い形状を成したものである。本実施例においては、矢印Xの上流側にマスタ通路74が接続され、下流側に共通通路94が接続される。シール部材142は、前後の差圧(マスタ通路74の液圧から共通通路94の液圧を引いた値)が高低差対応設定圧以下である場合には撓むことがない。逆止弁99xは閉状態にあり、マスタリザーバ78からの作動液の流出が阻止される。前後の差圧が高低差対応設定圧より大きくなるとシール部材142が撓む。逆止弁99xは開状態に切り換えられ、マスタシリンダ62からの流出が許容される。なお、逆向き、すなわち、共通通路94からマスタ通路74へ向かう作動液の流れは阻止される。
【0019】
逆止弁99yは、図4(b)-(i)が示すように、(a)ハウジング142と、(b)ハウジング142に形成された弁座143と、(c)弁座143に対して接近・離間可能な弁子144とを含むシーティング弁である。
逆止弁99yにおいて、弁子144が球状を成したものであり、スプリングが設けられていない。また、図4(b)-(ii)に示すように、ハウジング142の弁座143が設けられた側との反対側には、抜け止め部145が設けられる。
本実施例において逆止弁99yは、図4(b)-(i)に示すように、逆止弁99yの軸線Lが水平線Hに対して角度θだけ傾いた姿勢で配設される。また、弁子144に作用する重力G(=mg)の軸線方向の成分Ga(=mgsinθ)の下流側にマスタ通路74が接続され、上流側に共通通路94が接続される。
【0020】
逆止弁99yにおいて、前後の差圧(マスタリザーバ78の液圧から小径側室112の液圧を引いた値)が、成分Gaに対応する大きさ以下の場合には、弁子144は弁座143に着座した状態にある。逆止弁99yは閉状態にあり、マスタリザーバ78から増圧装置98の出力側への作動液の流れは阻止される。前後の差圧が、成分Gaに対応する大きさより大きくなると、弁子144が弁座143から離間させられ、逆止弁99yが開状態とされ、マスタ通路74から共通通路94へ向かう作動液の流れが許容される。この場合に、抜け止め部145が設けられるため、弁子144が逆止弁99yから抜け出すことが防止される。また、共通通路94からマスタ通路74に向かう作動液の流れが生じると、吸引力が作用し、弁子144は弁座143に向かって移動させられ、着座させられる。換言すれば、成分Gaが高低差対応設定圧に対応する力となる姿勢で(角度θだけ傾いた姿勢で)逆止弁99yが設けられる。
【0021】
図4(c)において、逆止弁99zは、弁子146と弁座147とを含むものであるが、スプリングを有していない。また、弁子146,弁座147のうち少なくとも一方は強磁性材料から製造された永久磁石であり、磁力によって互いに接近するようにされている。弁子146と弁座147との間に作用する磁力(吸引力)は、高低差対応設定圧に対応する大きさとされる。
磁力に対向する方向に、マスタ通路74の液圧と共通通路94の液圧との差圧が作用するように、すなわち、矢印Zの上流側にマスタ通路74が接続され、反対側に共通通路94が接続される。前後の差圧が高低差対応設定圧以下である場合には、逆止弁99zは閉状態にあり、マスタリザーバ78からの作動液の流出が阻止される。前後の差圧が、高低差対応設定圧より大きくなると、弁子146が磁力に抗して弁座147から離間し、逆止弁99zが開状態に切り換えられる。それにより、マスタ通路74から共通通路96に向かう作動液の流れが許容される。
なお、逆止弁99zにおいても、図示を省略する抜け止め部を設けることができる。
本実施例においては、バイパス通路136,ピストン内連通路129により増圧装置内連通路が構成され、入力側逆止弁99x,99y,99z等により第1逆止弁が構成され、ピストン内逆止弁130により第2逆止弁が構成される。
【0022】
なお、マスタ通路74とメカ式増圧装置96との間には、入力側遮断弁148が設けられる。入力側遮断弁148は、ソレノイドのコイルに電流(以下、ソレノイドに電流と略称する)が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁である。
【0023】
一方、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FR、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRは、それぞれ、ブレーキ側通路、個別ブレーキ側通路としての個別通路150FL,FR,RL,RRを介して共通通路94に接続される。
個別通路150FL,FR,RL,RRには、それぞれ、保持弁(SHij:i=F,R、j=L,R)153FL,FR,RL,RR1が設けられるとともに、ブレーキシリンダ42FL,FR、52RL,52RRとリザーバ78との間には、それぞれ、減圧弁(SRij:i=F,R、j=L,R)156FL,FR,RL,RR1が設けられる。
本実施例においては、左右前輪2,4,右後輪48に対応して設けられた保持弁153FL,FR,153RR1が、ソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁であり、左後輪46に対応して設けられた保持弁153RLがソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁である。
また、左右前輪2,4、右後輪48に対応して設けられた減圧弁156FL,FR、156RR1が、ソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁であり、左後輪46に対応して設けられた減圧弁156RLがソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁である。
【0024】
共通通路94には、ブレーキシリンダ42,52に加えて、動力式液圧源64、メカ式増圧装置96も接続される。
動力式液圧源64は、動力液圧通路170を介して共通通路94に接続される。動力液圧通路170に増圧リニア制御弁(SLA)172が設けられる。増圧リニア制御弁172は、ソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁であり、ソレノイドへの供給電流の大きさの連続的な制御により、共通通路94の液圧の大きさを連続的に制御可能なものである。
図3に示すように、増圧リニア制御弁172は、弁子180と弁座182とを含むシーティング弁と、スプリング184と、ソレノイド(コイルとプランジャとを含む)186とを含み、スプリング184の付勢力F2は、弁子180を弁座182に接近させる向きに作用し、ソレノイド186に電流が供給されることにより電磁駆動力F1が弁子180を弁座182から離間させる向きに作用する。また、増圧リニア制御弁172において、動力式液圧源64と共通通路94との差圧に応じた差圧作用力F3が弁子180を弁座182から離間させる向きに作用する(F1+F3:F2)。ソレノイド186への供給電流の制御により、差圧作用力F3が制御され、動力液圧通路170の液圧が制御される。また、増圧リニア制御弁172は、動力式液圧源64の出力液圧を制御する出力液圧制御弁と称することもできる。なお、共通通路94の減圧制御を行う場合には、保持弁153の開状態において、少なくとも1つの減圧弁156が開閉させられる。
本実施例においては、増圧リニア制御弁172、減圧弁156のうちの少なくとも1つ等により動力液圧制御装置が構成される。
【0025】
メカ式増圧装置96はサーボ圧通路190を介して共通通路94に接続される。サーボ圧通路190には、増圧装置遮断弁としての出力側遮断弁(SREG)192が設けられる。出力側遮断弁192はソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁である。
【0026】
一方、マスタ通路74,76が、それぞれ、左右前輪2,4の個別通路150FL,FRの保持弁153FL,FRの下流側に接続される。すなわち、マスタ通路74,76は、メカ式増圧装置96、共通通路94をバイパスして、加圧室72,70と、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42とを直接接続するものである(マスタ通路74,76は直結型マニュアル通路と称することができる)。マスタ通路74,76の途中にそれぞれマニュアル遮断弁としてのマスタ遮断弁(SMCFL,FR)194FL,FRが設けられる。マスタ遮断弁194FL,FRはソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁である。
さらに、マスタ通路74には、ストロークシミュレータ200がシミュレータ制御弁202を介して接続される。シミュレータ制御弁202は常閉の電磁開閉弁である。
【0027】
以上のように、本実施例においては、ポンプ装置65,増圧リニア制御弁172,マスタ遮断弁194,保持弁153,減圧弁156,入力側遮断弁148,出力側遮断弁192等により液圧制御部54が構成される。
液圧制御部54はブレーキECU56の指令に基づいて制御される。ブレーキECU56は、図1に示すように、実行部、入出力部、記憶部等を含むコンピュータを主体とするものであり、入出力部には、ブレーキスイッチ218,ストロークセンサ220,マスタシリンダ圧センサ222,アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ圧センサ226,レベルウォーニング228,車輪速度センサ230、イグニッションスイッチ234等が接続されるとともに液圧制御部54等が接続される。
ブレーキスイッチ218は、ブレーキペダル60が操作されるとOFFからONになるスイッチである。
ストロークセンサ220は、ブレーキペダル60の操作ストローク(STK)を検出するものであり、本実施例においては、2つのセンサが設けられ、同様に、ブレーキペダル60の操作ストロークが検出される。このように、ストロークセンサ220が2つ設けられるため、一方が故障しても他方により操作ストロークを検出することができる。
マスタシリンダ圧センサ222は、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧(PMCFL)を検出するものであり、本実施例においては、マスタ通路74に設けられる。
【0028】
アキュムレータ圧センサ224は、アキュムレータ66に蓄えられている作動液の圧力(PACC)を検出するものである。
ブレーキシリンダ圧センサ226は、ブレーキシリンダ42,52の液圧(PWC)を検出するものであり、共通通路94に設けられる。保持弁153の開状態において、ブレーキシリンダ42,52と共通通路94とは連通させられるため、共通通路94の液圧をブレーキシリンダ42,52の液圧とすることができる。
レベルウォーニング228は、マスタリザーバ78に収容された作動液が予め定められた設定量以下になるとONとなるスイッチである。本実施例においては、3つの収容室80、82,84のいずれか1つに収容された作動液量が設定量以下になると、ONとなる。
車輪速度センサ230は、左右前輪2,4、左右後輪46,48に対応してそれぞれ設けられ、車輪の回転速度を検出する。また、4輪の回転速度に基づいて車両の走行速度が取得される。
イグニッションスイッチ(IGSW)234は、車両のメインスイッチである。
記憶部には、種々のプログラム、テーブル等が記憶されている。
【0029】
<液圧ブレーキシステムにおける作動>
本実施例において、正常である場合、漏れの可能性がある場合、制御系が異常である場合の各々において、ブレーキシリンダ42,52への液圧の供給状態が制御される。
図5のフローチャートで表される供給状態制御プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、制動要求があるか否かが判定される。ブレーキスイッチ218がONである場合、あるいは、自動ブレーキを作動させる要求がある場合等には制動要求があるとされて、判定がYESとなる。自動ブレーキは、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御、車間距離制御、衝突回避制御において作動させられる場合があり、これらの制御開始条件が満たされた場合に、制動要求があるとされることがある。
制動要求がある場合には、S2、3において、液漏れの可能性があるか否か、制御系が異常であるか否かの判定結果が読み込まれる。
【0030】
液漏れの可能性の有無とは、液漏れの可能性の高低、液漏れの量の多少を問わない。そのため、液漏れの可能性が非常に低い場合、あるいは、漏れ量が非常に少ない場合であっても、液漏れでないと断定できない場合には可能性が有るとする。そのため、液漏れの可能性が有ると検出された場合であっても、液漏れが実際に生じていない場合がある{液漏れ以外の原因によって、後述する(b)〜(e)の条件が満たされる場合があり得る}。
例えば、(a)レベルウォーニングスイッチ228がONである場合、(b)ブレーキ操作が行われた場合において、ブレーキペダル60のストロークとマスタシリンダ62の液圧との間に予め定められた関係が成立する場合には液漏れがないとされるが、マスタシリンダ62の液圧がストロークに対して小さい場合には液漏れの可能性が有るとされる。また、(c)ポンプ92が予め定められた設定時間以上継続して作動してもアキュムレータ圧センサ224の検出値が液漏れ判定しきい値以上にならない場合、(d)回生協調制御が行われていない場合において、マスタシリンダ圧センサ222の検出値に対してブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が小さい場合、(e)前回のブレーキ作動時に、液漏れの可能性が有ると検出された場合(左右前輪2,4のブレーキシリンダ42にマスタシリンダ62の液圧が供給され、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52にポンプ圧が供給された場合)等には、液漏れの可能性が有るとされる。
【0031】
制御系の異常とは、ブレーキシリンダ42,52の液圧あるいは共通通路94の液圧を、動力式液圧源64の液圧を利用して制御できない状態をいう。
例えば、(i)電磁開閉弁等を指令通りに作動させることができない場合{増圧リニア制御弁172等の電磁開閉弁(例えば、保持弁153,減圧弁156,マスタ遮断弁194,出力側遮断弁192等)において断線が生じている場合等}、(ii)ブレーキシリンダ42,52の液圧の制御に必要な検出値が得られない場合(正確に得られない場合も含む)[
各センサ(ブレーキスイッチ218,ストロークセンサ220、マスタシリンダ圧センサ222、アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ圧センサ226,車輪速度センサ230等)において断線が生じている場合等]、(iii)各電磁開閉弁、センサ等に電力(電気エネルギ、電流と称することもできる)を供給できない場合(蓄電装置22等の電源の異常、あるいは、配線の断線が生じている場合等)、(iv)動力式液圧源64から高圧の作動液を供給できない場合{例えば、ポンプモータ92の異常、ポンプモータ92に電力を供給できない場合(電源の異常に起因する場合を含む)等}が該当する。
【0032】
S2,3のいずれの判定もNOであり、当該液圧ブレーキシステムが正常である場合(本実施例においては、制御系が正常で、かつ、液漏れの可能性が無いとされた場合)には、S4において、正常時制御が行われる。動力式液圧源64の出力液圧が増圧リニア制御弁172によって制御されて、その動力制御圧が共通通路94に供給され、ブレーキシリンダ42,52に供給される。
制御系が異常である場合には、S3の判定がYESとなり、S5において、すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなくなることにより、原位置に戻される。また、ポンプモータ92は停止状態に保たれる。
液漏れの可能性が有ると検出された場合には、S2の判定がNOとなり、S6において、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42にマスタシリンダ62の液圧が供給され、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52に動力式液圧源64の出力液圧が制御されて供給される。制御系の異常と液漏れの可能性との両方が生じることは稀であるため、液漏れの可能性が有るとされても制御系は正常であり、各バルブの制御、ポンプモータ92の駆動は可能であると考えられる。
また、本実施例においては、制御系が異常であるとされた場合、液漏れの可能性が有るとされた場合には自動ブレーキは作動させられないようにされている。
【0033】
1)システムが正常な場合
図6に示すように、前後左右の4輪2,4,46,48のブレーキシリンダ42,52には、動力式液圧源64の液圧が制御されて(制御された液圧を動力制御圧と称する)供給されるのであり、原則として回生協調制御が行われる。
回生協調制御は、駆動輪2,4に加わる回生制動トルクと、駆動輪2,4と従動輪46,48との両方に加わる摩擦制動トルクとの和である総制動トルクが総要求制動トルクとなるように行われる制御である。
総要求制動トルクは、ストロークセンサ220,マスタシリンダ圧センサ222の検出値等に基づいて取得される場合(運転者が要求する制動トルク)、車両の走行状態に基づいて取得される場合(トラクション制御、ビークルスタビリティ制御において必要な制動トルク)等がある。そして、ハイブリッドECU58から供給された情報(電動モータ20の回転数等に基づいて決まる回生制動トルクの上限値である発電側上限値、蓄電装置22の充電容量等に基づいて決まる上限値である蓄電側上限値)と、上述の総要求制動トルク(要求値)とのうちの最小値が要求回生制動トルクとして決定され、この要求回生制動トルクを表す情報がハイブリッドECU58に供給される。
ハイブリッドECU58は要求回生制動トルクを表す情報をモータECU28に出力する。モータECU28は、電動モータ20によって左右前輪2,4に加えられる制動トルクが要求回生制動トルクとなるように、電力変換装置26に制御指令を出力する。電動モータ20は、電力変換装置26によって制御される。
電動モータ20の実際の回転数等の作動状態を表す情報がモータECU28からハイブリッドECU58に供給される。ハイブリッドECU58において、電動モータ20の実際の作動状態に基づいて実際に得られた実回生制動トルクが求められ、その実回生制動トルク値を表す情報をブレーキECU56に出力する。
ブレーキECU56は、総要求制動トルクから実回生制動トルクを引いた値等に基づいて要求液圧制動トルクを決定し、ブレーキシリンダ液圧が要求液圧制動トルクに対応する目標液圧に近づくように、増圧リニア制御弁172、減圧弁156等を制御する。
【0034】
回生協調制御においては、原則として、前後左右の各輪2,4,46,48の保持弁153FL,FR,RL,RR1がすべて開状態とされ、減圧弁156FL,FR,RL,RR1がすべて閉状態とされる。また、マスタ遮断弁194FL,FRは閉状態とされ、シミュレータ制御弁202が開状態とされ、入力側遮断弁148が閉状態とされ、出力側遮断弁192が閉状態とされる。共通通路94がメカ式増圧装置96から遮断され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL、FRがマスタシリンダ62から遮断された状態で、増圧リニア制御弁172の制御により、動力式液圧源64の出力液圧が制御され、その動力制御圧が共通通路94に供給され、4輪のブレーキシリンダ42,52に共通に供給される。なお、共通通路94の液圧を減少させる場合には、減圧弁156FL,FR,RL,RR1のうちの1つ以上が制御される。
【0035】
このように、本実施例においては、正常作動時に、入力側遮断弁148が閉状態とされる。
仮に、入力側遮断弁148が開状態にある場合を想定する。
出力側遮断弁192は閉状態にあるため、メカ式増圧装置96は非作動状態にあるのが原則である。しかし、高圧室114の容積と、小径側室112の容積と、大径側室110の容積との和がほぼ一定に保たれる範囲内で、段付きピストン104の前進は許容される。一方、シミュレータ制御弁202は開状態にあるため、マスタ通路74の液圧がストロークシミュレータ200の作動開始圧より大きくなると、ストロークシミュレータ200が作動させられるが、本実施例において、ストロークシミュレータ200の作動開始圧は、メカ式可動部98の作動開始圧より小さい。
ブレーキペダル60が作用操作され、マスタ通路74の液圧が、ストロークシミュレータ200の作動開始圧より大きくなると、ストロークシミュレータ200が作動させられ、ブレーキペダル60の前進が許容される。その後、メカ式可動部98の作動開始圧より大きくなると、段付きピストン104が前進させられ、それにより、ブレーキペダル60の入り込みが生じるのであり、運転者は違和感を感じる。
それに対して、本実施例においては、入力側遮断弁148が閉状態とされる。その結果、ブレーキペダル60はストロークシミュレータ200の作動に伴って前進が許容される。急激な入り込みが抑制されるのであり、運転者の違和感を軽減することができる。
また、入力側遮断弁148を閉状態とすることにより、振動を軽減したり、作動音を軽減したりすること等ができる。
ストロークシミュレータ200の作動開始圧は、スプリングのセット荷重、ピストンとハウジングとの間の摩擦等の摺動抵抗等で決まる値であり、ピストンに作用する液圧が作動開始圧より大きくなると、ピストンの移動が許容される。作動開始圧は、スプリングのセット荷重、摩擦力等で決まる。
メカ式可動部98の作動開始圧も同様であり、スプリング126のセット荷重、段付きピストン104とハウジング102との間に作用する摩擦力等の摺動抵抗等で決まる値である。
【0036】
なお、この状態で、車輪2,4,46,48のスリップが過大となり、アンチロック制御開始条件が満たされると、保持弁153、減圧弁156が別個独立にそれぞれ開閉させられ、各ブレーキシリンダ42,52の液圧が制御される。前後左右の各輪2,4,46,48のスリップ状態が適正な状態とされる。
また、液圧ブレーキシステムが電気的駆動装置8を備えていない車両に搭載された場合等回生協調制御が行われない車両においては、システムが正常である場合に、総要求制動トルクと液圧制動トルクとが等しくなるように、増圧リニア制御弁172等が制御される。
なお、ブレーキECU56の液圧供給状態制御プログラムのS4を記憶する部分、実行する部分等により、第1入力側遮断弁制御装置、第2入力側遮断弁制御装置が構成される。また、これらは、動力制御圧供給部と称することもできる。
また、ブレーキECU56のS4を記憶する部分、実行する部分、動力式液圧源64,増圧リニア制御弁172,共通通路94,個別通路150、ブレーキシリンダ42,52等により動力液圧系が構成される。
【0037】
2)制御系が異常である場合
図7,8に示すように、原位置に戻される。増圧リニア制御弁172は、ソレノイド186に電流が供給されないことにより閉状態とされて、動力式液圧源64が共通通路94から遮断される。
また、マスタ遮断弁194は閉状態とされるため、ブレーキシリンダ42は、マスタシリンダ62から遮断される。
さらに、入力側遮断弁148、出力側遮断弁192は開状態とされるため、メカ式増圧装置96が、マスタ通路74,共通通路94に連通させられる。
さらに、保持弁153RLは閉状態にあり、保持弁153FL,FR、153RR1は開状態にあるため、共通通路94に左右前輪2,4、右後輪48のブレーキシリンダ42FL,FR、52RRが連通させられ、左後輪46のブレーキシリンダ52RLが遮断される。
2−1)大径側室110の液圧がメカ式可動部98の作動開始圧以下の場合
図7に示すように、大径側室110の液圧が、メカ式可動部98の作動開始圧以下の場合には、加圧室72の液圧(マニュアル液圧としてのマスタ液圧と称する)は、マスタ通路74,バイパス通路136、サーボ圧通路190を経て共通通路94に供給され、左右前輪2,4、右後輪48のブレーキシリンダ42FL,FR,52RRに供給される。
入力側逆止弁99の開弁圧は非常に小さいため、ブレーキペダル60の操作に伴って速やかにブレーキシリンダ42に作動液を供給することが可能となり、液圧ブレーキ40の効き遅れを小さくすることができる。
【0038】
2−2)大径側室110の液圧がメカ式可動部98の作動開始圧より大きい場合
2−2−1)アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作用許可圧より大きい場合
ポンプ装置65の作動が停止させられても、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が設定圧より大きい場合には、メカ式可動部98の作動が許可される。設定圧は、メカ式可能部98を作動させ得る大きさであり、換言すれば、メカ式可動部98の高圧室114に液圧を供給し得る大きさであり、高圧室114(小径側室112)の液圧より大きい値であると考えることができる。設定圧を作動許可圧と称することができる。
図8(a)の実線が示すように、大径側室110の液圧によって段付きピストン104が前進させられ、開弁部材125に当接し、高圧供給弁116が開状態に切り換えられる。小径側室112が大径側室110から遮断され、アキュムレータ66から高圧側逆止弁100を経て高圧室114に高圧の作動液が供給され、小径側室112に供給される。小径側室112の液圧は、マスタシリンダ62の液圧より高くされ、開状態にある出力側遮断弁192を経て共通通路94に供給され、保持弁153FL,FR,153RR1を経て左右前輪2,4,右後輪48のブレーキシリンダ42FL,42RR、52RRに供給される。
小径側室112の液圧Poutは、仮に、作動開始圧が0であるとした場合に、マスタシリンダ62の液圧(大径側室110の液圧)Pinに、段付きピストン104の大径部側の受圧面積Sinと小径部側の受圧面積Soutとの比率(Sin/Sout)を掛けた値
Pout=Pin・(Sin/Sout)
となる。この液圧Poutをサーボ圧と称する。また、このことから、小径側室112は制御圧室と称することができる。
なお、メカ式増圧装置96は加圧室72の液圧により作動させられるため、広義のマニュアル液圧源であると考えることができる。本実施例においては、加圧室72が第1マニュアル式液圧源としての増圧装置接続マニュアル式液圧源に対応し、メカ式増圧装置96が第2マニュアル式液圧源に対応する。
【0039】
図8(b)に示すように、運転席が前進方向の右側にある(操舵部材300が、前進方向の右側にある)車両、いわゆる、右ハンドルの車両であって、比較的小形の車両においては、運転者等を含む車両全体の重心G1が、左右方向の中心より右側に位置することがある。この車両においては、重心G1から左側車輪2,46の路面との接地点までのアームの長さrLは右側車輪4,48の路面との接地点までのアームの長さrRより長くなる(rL>rR)。
この場合において、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96の液圧が左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRに液圧が供給される場合には、左旋回方向のヨーモーメントγが作用する。
γ=rR・(FFR)−rL・(FFL)<0
【0040】
それに対して、本実施例においては、図8(a)に示すように、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96の液圧であるサーボ圧が、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRおよび右後輪48のブレーキシリンダ52RRに供給されるのであり、これら3輪のブレーキシリンダ42FL,FR,RRの液圧はほぼ同じになる(PFL=PFR=PRR)。そのため、左側車輪2,46のブレーキシリンダ42FL,52RLに供給される液圧に起因する制動力(路面とタイヤとの間に作用する力)の和(左後輪46のブレーキシリンダ52RLには液圧は供給されない)が右側車輪4,48のブレーキシリンダ42FR,RRに供給される液圧に起因する制動力の和より小さくなる(FFL<FFR+FRR)。
そして、この車両に作用するヨーモーメントγの絶対値は、
|γ|=|rR・(FFR+FRR)−rL・(FFL)|
となるが、上述のように、アームrLはアームrRより長いため、作用するヨーモーメントγの絶対値を小さくすることができる。
【0041】
このように、本実施例においては、制御系の異常時に、前後左右の4輪のうちの3輪のブレーキシリンダにメカ式増圧装置96のサーボ圧が供給されるのであり、左側車輪2,46に作用する制動力の和と右側車輪4,48に作用する制動力の和とが等しくならない。しかし、メカ式増圧装置96のサーボ圧が、重心G1が車両の左右方向の中心から外れた位置にある場合に、重心G1からのアームが短い側の制動力の和がアームが長い側の制動力の和より大きくなるように配分される。そのため、制御系の異常時に、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。
本実施例においては、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FL,FR,RR、常開の保持弁153FL,FR,RR1、ブレーキシリンダ42FL,FR,52RR等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、単一型液圧分配部を含む。
【0042】
2−2−2)アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧以下である場合
アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧以下である場合には、図7に示す状態と同様に、マスタシリンダ62の加圧室72のマスタ液圧が、マスタ通路74,バイパス通路136,サーボ圧通路190,共通通路94を経て左右前輪2,4、右後輪48のブレーキシリンダ42、52RRに供給される。
一方、メカ式可動部98の作動によりアキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が低下して作動許可圧より低くなると、アキュムレータ66から高圧室114に作動液が供給されなくなる。それにより、メカ式可動部98が作動し難くなる。例えば、ポンピングブレーキ操作が行われた場合には、アキュムレータ66の作動液の消費量が多くなり、アキュムレータ圧が作動許可圧より低くなる。段付きピストン104の前進が阻止され(ストッパに当接するまで前進させられ、その後、前進が阻止されると考えられる)、小径側室112の液圧はそれ以上高くなることがないのであり、メカ式可動部98は倍力機能を発揮できなくなる。そして、小径側室112の液圧より加圧室72の液圧の方が高くなると、図8(a)の破線が示すように、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧が、バイパス通路136,サーボ圧通路190を経て共通通路94に供給される。マスタシリンダ62の加圧室72の液圧は、倍力されることなく、左右前輪2,4,右後輪48のブレーキシリンダ42FL,42FR,52RRに供給される。
【0043】
なお、マスタシリンダ62において加圧室72の容積を大きくすることができる。加圧室72の容積を大きくすれば、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRの両方に作動液が供給される場合であっても、液量不足が生じることを回避することができる。この場合には、運転者のブレーキペダル60のストロークが大きくなることもある。
【0044】
3)液漏れの可能性が有ると検出された場合
図9に示すように、左右前輪2,4の保持弁153FL,FRが閉状態とされ、左右後輪46,48の保持弁153RL,RR1が開状態とされる。また、マスタ遮断弁194FL,FRは開状態とされ、入力側遮断弁148,出力側遮断弁192,シミュレータ制御弁202は閉状態とされる。さらに、すべての減圧弁156は閉状態とされる。
左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRには、それぞれ、マスタシリンダ62の加圧室72,70の液圧が供給され、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRには、ポンプ装置65の液圧が制御されて供給される。
このように、左右前輪2,4の保持弁153FL,FRが遮断状態とされるため、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRが互いに独立とされる。また、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRと左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRとが遮断される。前輪2,4、後輪46,48のブレーキシリンダ同士が互いに遮断されるとともに、前輪側において、左前輪2、右前輪4のブレーキシリンダ同士が遮断される。すなわち、(左前輪2のブレーキシリンダ42FLを含むブレーキ系統250FL)、(右前輪4のブレーキシリンダ42FRを含むブレーキ系統250FR)、(左右後輪46,48のブレーキシリンダ52FL,RRを含むブレーキ系統250R)の3つのブレーキ系統が互いに遮断される。その結果、たとえ、これら3つのブレーキ系統のうちの1つに液漏れが生じた場合であっても、他のブレーキ系統に影響が及ばないようにすることができる。
この意味において、保持弁153FL、FRが、ブレーキ系統250FR,FL,Rを分離する分離弁としての機能を有する。
【0045】
本実施例において、ブレーキ系統250FRは、ブレーキシリンダ42FR、マスタ通路76,加圧室70,収容室80等を含むものであり、ブレーキ系統250FLは、ブレーキシリンダ42FL、マスタ通路74,加圧室72,収容室82等を含むものであり、ブレーキ系統250Rは、ブレーキシリンダ52RL,RR,個別通路150RL、RR,動力式液圧源64,収容室84等を含むものである。したがって、ブレーキ系統250FR,FL,Rが互いに独立にされるということは、リザーバ78の収容室80,82,84も互いに独立にされるということである。
本実施例においては、ブレーキECU56のS6を記憶する部分、実行する部分等によりマニュアル液圧・動力制御圧供給部が構成される。
【0046】
また、液漏れの可能性がない場合であっても、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧より低い場合には、図9の状態とすることができる。アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が作動許可圧より低くなるのは、ポンプ装置65の異常等に起因すると考えられる(電磁開閉弁の制御は可能である)が、この場合には、制御系の異常であるとされて、図7,8の状態に切り換えられることになる。しかし、図7,8の状態とされても、メカ式可動部98は作動不能な状態となり、図8の破線が示すように、ブレーキシリンダ42FL,FR,52RRには、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧が供給される。それに対して、図9の状態に切り換えられれば、ブレーキシリンダ42FL、FRにそれぞれ加圧室72,70が連通させられるため、液圧不足を抑制することができる。なお、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の液圧が低いことに起因して、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRの液圧を効果的に制御できない場合には、増圧リニア制御弁172を閉状態として、保持弁153RL,RR1を閉状態とすることが望ましい。
【0047】
4)液圧ブレーキが解除される場合
ブレーキ操作が解除されると、すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなくなることにより、図2の原位置に戻される。メカ式増圧装置96において、段付きピストン104は後退端にある(あるいは、後退端に戻される)。段付きピストン104は開弁部材125から離間させられ、ピストン内連通路129は開放される。左右前輪2,4、右後輪48のブレーキシリンダ42FL,FR、52RRの液圧はピストン内連通路129,ピストン内逆止弁130を経てマスタシリンダ62(マスタリザーバ78)に戻される。また、左後輪46のブレーキシリンダ52RLの液圧は、減圧弁156RLを経てリザーバ78に戻される。
【0048】
5)イグニッションスイッチ234のOFF状態
すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなるなることにより図2の原位置とされる。
a)図2に示すように、増圧リニア制御弁172が閉状態にあるため、動力式液圧源64が共通通路94から遮断される。そのため、たとえ、共通通路94より下流側(ブレーキシリンダ42FL,FR、52RR)において液漏れがあったとしても、リザーバ78の収容室84から動力液圧通路170を経て作動液が流出させられることは防止される。
b)マスタ遮断弁194が閉状態にあるため、仮に、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FR周辺において液漏れがあったとしても、リザーバ収容室80,82からマスタ通路74,76を経て作動液が流出させられることは防止される。
c)入力側逆止弁99、ピストン内逆止弁130が設けられるため、仮に、共通通路94の下流側に液漏れがあったとしても、マスタリザーバ78の収容室82からメカ式増圧装置96を通る作動液の流出を防止することができる。仮に、共通通路94の下流側に液漏れがあったとしても、マスタリザーバ78の収容室82からピストン内連通路129を通る作動液の流出が阻止されるのであり、入力側逆止弁99,ピストン内逆止弁130等により流出防止装置260が構成される。
【実施例2】
【0049】
液圧ブレーキ回路,液圧ブレーキ回路が搭載された車両は、実施例1におけるそれに限らない。その一例を図10(a),(b)に示す。
図10(a)に示す液圧ブレーキ回路においては、右後輪48のブレーキシリンダ52RRに対応する保持弁153RRが常閉弁とされ、減圧弁156RRが常開弁とされる。また、左後輪46のブレーキシリンダ52RLに対応する保持弁153RL2が常開弁とされ、減圧弁156RL2が常閉弁とされる。本実施例においては、制御系の異常時に、メカ式増圧装置96のサーボ圧が、左右前輪2,4,左後輪46のブレーキシリンダ42FL,FR,52RLに供給される。それ以外の部分については、実施例1における場合と同様である。
図10(b)に示すように、運転席が前進方向の左側にある(操舵部材302が前進方向の左側にある)車両(左ハンドルの車両)であって、運転者等を含む車両全体の重心G2が、左右方向の中心より左側に位置する場合に、制御系の異常時に、車両に作用するヨーモーメントγの絶対値は、
|γ|=|rR(FFR)−rL(FFL+FRL)|
となる。
この場合において、右側車輪4,48に作用する制動力の和が左側車輪2,46に作用する制動力の和より小さく{(FFR)<(FFL+FRL)}、重心G2から右側車輪4,48の路面に対する接地点までのアームrRが左側車輪2,46の接地点までのアームrLより長い(rR>rL)ため、作用するヨーモーメントγの絶対値を小さくすることができる。
本実施例においては、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FL,FR,RL、常開の保持弁153FL,FR,RL2,ブレーキシリンダ42FL,FR,52RR等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、単一型液圧分配部を含む。また、加圧室72が第1マニュアル式液圧源に対応し、メカ式増圧装置96が第2マニュアル式液圧源に対応する。
【実施例3】
【0050】
図11(a)の液圧ブレーキ回路においては、右前輪4のブレーキシリンダ42FRに対応するマスタ遮断弁194FR3が常開弁であり、保持弁153FR3が常閉弁である。また、右後輪48のブレーキシリンダ52RRに対応する保持弁153RR3が常開弁であり、減圧弁153RR3が常閉弁である。それ以外の部分については、実施例1における場合と同様である。
制御系の異常時には、右前輪4のブレーキシリンダ42FRにはマスタ圧が供給され、対角輪(左前輪2、右後輪48)のブレーキシリンダ42FL,52RRにはメカ式増圧装置96のサーボ圧が供給される。
運転席が前進方向の左側にある車両(ステアリングホイール302が左側にある車両)に作用する右旋回方向のヨーモーメントγは、
γ=rR(FFR+FRR)−rL(FFL
となる。
上式において、マスタシリンダ62の液圧Pmがメカ式増圧装置96のサーボ圧Pbより小さい(Pm<Pb)。また、ブレーキシリンダ液圧が同じ場合に、後輪に作用する制動力は前輪に作用する制動力より小さい。そのため、左側車輪2,46に作用する制動力の和と右側車輪4,8に作用する制動力の和とはほぼ同じとなる。
(FFL)≒(FFR+FRR
一方、アームrRの長さはアームrLの長さより長い(rR>rL)ため、本実施例において、ヨーモーメントγは正の値となる(γ>0)。したがって、図11(b)に示すように、制御系の異常時に、左ハンドルの車両には、右旋回方向のヨーモーメントが作用する。
この制御系の異常時に作用するヨーモーメントは、左ハンドルの車両が法規により右側を走行する地域において、車両が対向車線から外れる方向となる。その結果、例えば、運転者が修正操作を行う場合において、対向車線に近づく方向のヨーモーメントが作用する場合より、車両の安全性を向上させることができる。
本実施例においては、動力式液圧源64,増圧リニア制御弁172、共通通路94.個別通路150,保持弁153、ブレーキシリンダ42,52等により動力液圧系が構成され、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FL,RR、常開の保持弁153FL3,RR3,マスタ通路76,常開のマスタ遮断弁194FL3,ブレーキシリンダ42FL,FR,52RR等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、混合型液圧分配部を含む。また、加圧室72が第1マニュアル式液圧源に対応し、メカ式増圧装置96が第2マニュアル式液圧源に対応する。
【実施例4】
【0051】
図12(a)に示す液圧ブレーキ回路においては、左前輪2のブレーキシリンダ42FLに対応するマスタ遮断弁194FL4が常開弁であり、保持弁153FL4が常閉弁である。また、左後輪46に対応する保持弁153RL4が常開弁であり、減圧弁153RL4が常閉弁である。それ以外の部分については、実施例1における場合と同様である。
制御系の異常時には、左前輪2のブレーキシリンダ42FLにマスタ圧が供給され、対角輪(右前輪4,左後輪46)のブレーキシリンダ42FR,52RLにはメカ式増圧装置96のサーボ圧が供給される。
運転席が前進方向の右側にある車両(ステアリングホイール300が右側にある車両)に作用する右旋回方向のヨーモーメントγは、
γ=rR(FFR)−rL(FFL+FRL
となる。上式において、左側車輪2,46に作用する制動力の和と右側車輪4,8に作用する制動力の和とはほぼ同じとなる。
(FFR)≒(FFL+FRL
一方、アームrLはアームrRより長いため(rL>rR)、図12(b)に示すように、ヨーモーメントγは負の値となり(γ<0)、左旋回方向のヨーモーメントとなる。
このヨーモーメントは、右ハンドルの車両が法規により左側車線を走行する地域において、車両は対向車線から外れる方向となる。その結果、制御系の異常時の走行安全性を向上させることができる。
本実施例においては、マスタシリンダ62,メカ式増圧装置96,共通通路94,個別通路150FR,RL、常開の保持弁153FR4,RL4,マスタ通路76,常開のマスタ遮断弁194FR4,ブレーキシリンダ42FL,FR,52RL等によりマニュアル液圧系が構成される。マニュアル液圧系は、単一型液圧分配部を含む。また、加圧室72が第1マニュアル式液圧源に対応し、メカ式増圧装置96が第2マニュアル式液圧源に対応する。
【実施例5】
【0052】
また、制御系の異常時に、互いに対角位置にある車輪のブレーキシリンダにサーボ圧が供給されるようにすることができる。例えば、図13(a)に示すように、図11(a)に示すブレーキ回路においてマスタ遮断弁194FR3を常閉弁とすることができる(マスタ遮断弁194FRb)。本実施例においては、左前輪2,右後輪48のブレーキシリンダ42FL,52RRにサーボ圧が供給される。図13(b)に示すように、ステアリングホイール302が左側に設けられた車両において、右側車輪(アームが長い方)に加えられる制動力が左側車輪(アームが短い方)に加えられる制動力より小さくなるため、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。本実施例においては、ブレーキECU56のS5を記憶する部分、実行する部分等により第2液圧供給部が構成される。また、加圧室72が第1マニュアル式液圧源、メカ式増圧装置96が第2マニュアル式液圧源に対応する。
【実施例6】
【0053】
図14(a)に示すように、図12(a)に示すブレーキ回路において、マスタ遮断弁194FL4を常閉弁とすることができる(マスタ遮断弁194FLc)。本実施例においては、右前輪4,左後輪46のブレーキシリンダ42FR,52RLにサーボ圧が供給される。図14(b)に示すように、ステアリングホイール300が右側に設けられた車両において、左側車輪(アームが長い方)に加えられる制動力が右側車輪(アームが短い方)に加えられる制動力より小さくなるため、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。本実施例においては、ブレーキECU56のS5を記憶する部分、実行する部分等により第2液圧供給部が構成される。また、加圧室72が第1マニュアル式液圧源、メカ式増圧装置96が第2マニュアル式液圧源に対応する。
【その他の実施例】
【0054】
なお、ブレーキ回路の構造は問わない。
また、マスタ通路74にメカ式増圧装置96を直接接続することもできる。換言すれば、入力側遮断弁148は不可欠ではないのである。
さらに、流出防止装置260を設けることも不可欠ではない。
また、本実施例において、入力側遮断弁148は不可欠ではない。
さらに、共通通路94とリザーバ78との間に減圧リニア制御弁を設け、減圧リニア制御弁により共通通路94の液圧の減圧制御が行われるようにすることができる。
【0055】
以上、複数の実施例について説明したが、これら複数の実施例のうちの2つ以上を互いに組み合わせて実施することもできる。
その他、本発明は、複数の実施例を組み合わせた態様で実施することができる等、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
40,50:液圧ブレーキ 42,52:ブレーキシリンダ 54:液圧制御部 56:ブレーキECU 60:ブレーキペダル 62:マスタシリンダ 64:動力式液圧源 66:アキュムレータ 70,72:加圧室 74,76:マスタ通路 94:共通通路 96:メカ式増圧装置 98:メカ式可動部 99:入力側逆止弁 100:高圧側逆止弁 104:段付きピストン 110:大径側室 112:小径側室 116:高圧供給弁 132:高圧側逆止弁 136:バイパス通路 148:入力側遮断弁 150:個別通路 153:保持弁 156;減圧弁 170:動力液圧通路 172:増圧リニア制御弁 190:サーボ圧通路 192:出力側遮断弁 218:ブレーキスイッチ 220:ストロークセンサ 222:マスタシリンダ圧センサ 226:ブレーキシリンダ圧センサ 228:レベルウォーニング 250FL,FR,R:ブレーキ液圧系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記4つの車輪のうちの3輪のブレーキシリンダに、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記マニュアル系が、(i)運転者のブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧を発生させる少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源と、(ii)少なくとも、前記少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源のうちの1つの液圧により作動可能であって、前記1つの第1マニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を発生させる第2マニュアル式液圧源と、(iii)前記3輪のブレーキシリンダに、前記少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源の液圧と前記第2マニュアル式液圧源の液圧とのいずれか一方を供給する単一型液圧供給部とを含む請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記マニュアル系が、(i)運転者のブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧を発生させる2つの第1マニュアル式液圧源と、(ii)少なくとも、前記2つの第1マニュアル式液圧源のうちの一方の液圧により作動可能であって、前記一方の第1マニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を発生させる第2マニュアル式液圧源と、(iii)前記3輪のブレーキシリンダのうちの一部に、前記第1マニュアル式液圧源の他方の液圧を供給し、前記3輪のブレーキシリンダのうちの残りのものに、前記第2マニュアル式液圧源の液圧を供給する混合型液圧供給部とを含む請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記マニュアル液圧系が、前記動力液圧系の異常時に、前記車両の重心から右側車輪の接地点までのアームの長さと左側車輪の接地点までのアームの長さとを比較して、長い側の前後の車輪に加えられる制動力の和が短い側の前後の車輪に加えられる制動力の和より小さくなるように、前記前後左右の4つの車輪のうちの3つの車輪のブレーキシリンダに、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を供給する供給部を含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
運転席が前進方向の右側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記車両が左方向に旋回する向きのヨーモーメントが生じるように、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を前記前後左右の4つのブレーキシリンダのうちの3つに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項6】
運転席が前進方向の右側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、それの制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を右前輪、左前輪、右後輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項7】
運転席が前進方向の左側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記車両が右方向に旋回する向きのヨーモーメントが生じるように、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を前記前後左右の4つのブレーキシリンダのうちの3つに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項8】
運転席が前進方向の左側に設けられた車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、それの制御した液圧を、前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を右前輪、左前輪、左後輪のブレーキシリンダに供給するマニュアル液圧系と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。
【請求項9】
車両の前後左右の4つの車輪の各々に設けられ、それぞれ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させるとともに制御し、その制御した液圧を前記前後左右の4つの車輪のブレーキシリンダに供給する動力液圧系と、
その動力液圧系の異常時に、前記4つの車輪のうちの互いに対角位置にある2輪のブレーキシリンダに、右側車輪に加えられる制動力と左側車輪に加えられる制動力とが異なる大きさとなるように、運転者のブレーキ操作に起因して発生させられるマニュアル液圧を供給するマニュアル液圧系と
を含むとともに、前記マニュアル液圧系が、(i)運転者のブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧を発生させる少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源と、(ii)少なくとも、前記少なくとも1つの第1マニュアル式液圧源のうちの1つの液圧により作動可能であって、前記1つの第1マニュアル式液圧源の液圧より高い液圧を発生させる第2マニュアル式液圧源と、(iii)前記対角位置にある2輪のブレーキシリンダに、前記第2マニュアル式液圧源の液圧を供給する第2液圧供給部とを含むことを特徴とする液圧ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−116343(P2012−116343A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268322(P2010−268322)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】