説明

液晶ポリエステル組成物の製造方法

【課題】耐熱性の低下を抑制した液晶ポリエステル組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】二軸押出機のシリンダーが、液晶ポリエステルを供給する供給部4と、供給部の下流に設けられ繊維状フィラーを除くフィラーを追加する第1追加部61と、繊維状フィラーを追加する第2追加部62と、を有し、スクリューが、第1追加部を挟んで上流側および下流側にそれぞれ混練部81,82を有しており、混練部81直近上流での樹脂温度が下記式(1)を満たし、直近下流での樹脂温度が下記式(2)を満たす。[数1]


(T1:混錬後の樹脂温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)[数2]


(T2:混錬後の樹脂温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・電気製品の小型化・軽薄化に伴い、これらに用いられる集積回路も合わせて小型化され、該集積回路のコネクターの狭ピッチ化が進んでいる。このようなコネクターの成形材料として、溶融流動性が良好であり、さらに耐熱性、機械的性質が優れる液晶ポリエステルが好ましく用いられている。
【0003】
液晶ポリエステルは、成形時に分子鎖が流動方向に配向し易く、流動方向とその垂直方向とで成形収縮率や機械的性質に異方性が生じ易い。そのため、これを低減すべく、繊維状や板状など種々の形状の充填材(フィラー)を配合して用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−294038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液晶ポリエステルは、水分や塩基性の成分によって加水分解しやすい性質を有している。そのため、押出機を用いて液晶ポリエステルをフィラーと溶融混練すると、フィラーに含まれる水分等により加水分解を生じ、耐熱温度が低下するおそれがあった。また、液晶ポリエステルの加水分解の結果、揮発性成分(ガス)が発生し、このガスが押出機のホッパー(供給部)に流入すると、ホッパーの樹脂が吹き上がり(以下、このような現象のことを「シュートアップ」と称することがある)、押出機への樹脂の供給が滞って、吐出量が低下することにより生産性が低下してしまうおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、液晶ポリエステルの加水分解を抑制することで、耐熱性の低下を抑制した液晶ポリエステル組成物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステル組成物の製造方法は、二軸押出機を用いて液晶ポリエステルをフィラーと溶融混練して押し出す液晶ポリエステル組成物の製造方法であって、前記二軸押出機として、シリンダーが、少なくとも液晶ポリエステルを供給する供給部と、前記供給部の下流に設けられフィラーを追加する追加部と、を有し、前記追加部は、フィラー(ただし繊維状フィラーを除く)を追加する第1追加部と、繊維状フィラーを追加する第2追加部と、を含み、スクリューが、前記第1追加部を挟んで上流側および下流側にそれぞれ混練部を有しており、前記第1追加部の直近上流に設けられた混練部で混練した後の前記液晶ポリエステルの樹脂温度が下記式(1)を満たし、前記第1追加部の直近下流に設けられた混練部で混練した後の前記液晶ポリエステルの樹脂温度が下記式(2)を満たすことを特徴とする。
【数1】

(T1:混錬後の液晶ポリエステルの温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)
【数2】

(T2:混錬後の液晶ポリエステルの温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)
【0008】
本発明においては、前記第1追加部の直近下流に設けられた混練部が、逆ニーディングディスクを用いないスクリュー構成であることが望ましい。
【0009】
本発明においては、前記第1追加部が、前記第2追加部より上流側に設けられていることが望ましい。
【0010】
本発明においては、前記シリンダーが、前記第1追加部の直近下流に設けられた混練部の下流側に、ベント部を有することが望ましい。
【0011】
本発明においては、前記シリンダーがベント部を有し、最下流に設けられた前記ベント部が真空ベント部であり、前記真空ベント部のゲージ圧が−0.05MPa以下であることが望ましい。
【0012】
本発明においては、前記繊維状フィラー以外のフィラーが、タルクまたはマイカであることが望ましい。
【0013】
本発明においては、前記組成物が、前記液晶ポリエステル100重量部、前記繊維状フィラー以外のフィラー20重量部以上200重量部以下、前記繊維状フィラー20重量部以上200重量部以下を含有することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液晶ポリエステルの加水分解を抑制することで、耐熱性の低下を抑制した液晶ポリエステル組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製造方法で用いる押出機の一例を示す概略断面図である。
【図2】実施例の説明図である。
【図3】実施例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態に係る液晶ポリエステル組成物の製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0017】
図1は、本実施形態の液晶ポリエステル組成物の製造方法で用いる押出機の概略断面図である。以下、本実施形態の製造方法では、図1に示す押出機を用いて、液晶ポリエステルおよび必要に応じて添加するその他の成分を溶融混練し、液晶ポリエステルを含有するペレットを製造することとして説明を行う。
【0018】
図に示すように、本実施形態で用いる押出機10は、モーターボックス1aに収容されたモーター1と、モーターボックス1aに隣接して設けられたシリンダー2と、シリンダー2内に挿入され、モーター1と接続されたスクリュー3と、を有している。
【0019】
シリンダー2は、シリンダー2内に液晶ポリエステルや液晶ポリエステルに混練するその他の成分を供給する供給部4および追加部6(第1追加部61、第2追加部62)、と、シリンダー2内で生じる揮発性成分(ガス)を排出する2つのベント部5(第1ベント部51、第2ベント部52、第3ベント部53)と、溶融した樹脂を成形するストランドダイ9と、を有している。
【0020】
また、スクリュー3は、樹脂搬送を行うための搬送部7と、樹脂混練を行うための混練部8(第1混練部81、第2混練部82、第3混練部83)と、を有している。
【0021】
以下、本実施形態の製造方法に用いる液晶ポリエステル等について説明した後、図1を参照しながら押出機10について詳細に説明する。
【0022】
(液晶ポリエステル)
本実施形態の製造方法で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0023】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0024】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
【0025】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0026】
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
上記式(1)において、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。また、上記式(2)(3)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0032】
【化4】

(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0033】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ペプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個以下である。
【0034】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は好ましくは1〜10である。
【0035】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0036】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0037】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0038】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30%以上80モル%以下、さらに好ましくは40%以上70モル%以下、よりさらに好ましくは45%以上65モル%以下である。
【0039】
繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10%以上35モル%以下、さらに好ましくは15%以上30モル%以下、よりさらに好ましくは17.5%以上27.5モル%以下である。
【0040】
繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10%以上35モル%以下、さらに好ましくは15%以上30モル%以下、よりさらに好ましくは17.5%以上27.5モル%以下である。
【0041】
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0042】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0043】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0044】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0045】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0046】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは270℃以上、より好ましくは270℃以上400℃以下、さらに好ましくは280℃以上380℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0047】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0048】
液晶ポリエステル組成物は、必要に応じて、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を1種以上含んでもよい。
【0049】
充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよいし、繊維状及び板状以外で、球状その他の粒状充填材であってもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
【0050】
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
【0051】
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
【0052】
繊維状フィラーの含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して、20重量部以上200重量部以下である。
【0053】
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
【0054】
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。充填材の含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して、好ましくは0重量部以上100重量部以下である。
【0055】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤が挙げられる。添加剤の含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して、好ましくは0重量部以上5重量部以下である。
【0056】
液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。液晶ポリエステル以外の樹脂の含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して、好ましくは0重量部以上20重量部以下である。
【0057】
繊維状フィラー以外のフィラーの含有量は、液晶ポリエステル100重量部に対して、20重量部以上200重量部以下である。
【0058】
(押出機)
次に、本実施形態の製造方法で用いる押出機10について、図1を参照しながら詳細に説明する。
【0059】
本実施形態の押出機10は、シリンダー2内に2本のスクリュー3が挿入された二軸押出機である。二軸押出機としては、同方向回転の1条ネジのものから3条ネジのもの、異方向回転の平行軸型、斜軸型又は不完全噛み合い型のもの等が挙げられるが、同方向回転の二軸押出機が好ましい。
【0060】
シリンダー2には、最上流の位置に、シリンダー2内に樹脂を供給する供給部4が設けられ、供給部4から下流側に向けて、第1ベント部51、第1追加部61、第2ベント部52、第2追加部62、第3ベント部53、がこの順に設けられている。
【0061】
供給部4は、シリンダー2の内部と接続するホッパーと、樹脂を定質量又は定容量で供給する供給装置と、を有している。供給装置の供給方式としては、例えば、ベルト式、スクリュー式、振動式、テーブル式が挙げられる。
【0062】
第1ベント部51は、第1混練部81の下流に設けられている。同様に、第2ベント部52は、第2混練部82の下流側に設けられており、第3ベント部53は、第3混練部83の下流側に設けられている。すなわち、第1ベント部51は第1混練部81と1対1に対応して設けられ、第2ベント部52は第2混練部82と1対1に対応して設けられ、第3ベント部53は第3混練部83と1対1に対応して設けられている。このように、ベント部5を混練部8の下流側に設けることで、各混練部8で発生したガスが対応するベント部5から排気され、ストランドを安定的に製造することが可能となる。なお、1つの混練部8に対し、下流側に2つ以上のベント部5を設けてもよい。
【0063】
ベント部5の長さ(外部とシリンダー2内部とを接続する開口のスクリュー長さ方向における長さ)は、スクリュー3のスクリュー径(D)の0.5倍以上5倍以下であることが好ましい。ベント部5の長さがあまり短いと、脱気効果が不十分であり、あまり長いと、ベント部5から異物が混入したり、ベントアップ(溶融樹脂がベント部より上昇すること)が起こったりするおそれがある。
【0064】
ベント部5の開口幅は、スクリュー3のスクリュー径(D)の0.3倍以上1.5倍以下であることが好ましい。ベント部5の開口幅があまり小さいと、脱気効果が不十分であり、あまり大きいと、ベント部5から異物が混入したり、ベントアップが起こったりするおそれがある。
【0065】
ベント部5は、大気に開放されたオープンベント方式であっても、水封式ポンプ、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、ターボポンプ等に接続して真空に保持する真空ベント方式であってもよい。
【0066】
スクリュー3は、樹脂搬送を行うための搬送部7と、樹脂混練を行うための混練部8と、を有している。混練部8は、上流側から3箇所(上流側から第1混練部81、第2混練部82、第3混練部83)に設けられている。
【0067】
このようなスクリュー3は、スクリューエレメントを組み合わせて構成される。搬送部7は順フライト(フルフライト)のスクリューエレメント、混練部8はフルフライト、逆フライト、シールリング、順ニーディングディスク、ニュートラルニーディングディスク、逆ニーディングディスク等のスクリューエレメントが組み合わされて構成されるのが一般的である。
【0068】
(第1混練部)
本実施形態の第1混練部81は、スクリュー構成に制限はなく、溶融していない部分が残る程度に液晶ポリエステルの溶融を促進させる構成であれば、種々の構成を採用することができる。例えば、第1混練部81のスクリュー構成として、順ニーディングディスク(3R)と、ニュートラルニーディングディスク(3N)と、逆ニーディングディスク(3L)と、を、上流側から、3R,3N,3N,3N,3L,3Lで組み合わせたものを例示することができる。
【0069】
ここで、各ニーディングディスクを表す記号「3R」「3N」「3L」に含まれる「3」とは、1つのスクリューエレメントが3枚のニーディングディスクで構成されていることを表している。同様に、例えば順ニーディングディスク(5R)と示した場合、「5」は、1つのスクリューエレメントが5枚のニーディングディスクで構成されていることを表している。
【0070】
(第1追加部)
第1追加部61は、供給部4と同様に、シリンダー2の内部と接続するホッパーと、樹脂を定質量又は定容量で供給する供給装置と、を有している。供給装置の供給方式としては、例えば、ベルト式、スクリュー式、振動式、テーブル式が挙げられる。
【0071】
第1追加部61からは、上述した充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分のうち、繊維状フィラー以外のフィラーを追加する。例えば、上述した板状無機充填材であるタルクやマイカを追加する。
【0072】
ここで、本発明者らは、液晶ポリエステルを溶融押出してペレットを製造するに際して、繊維状フィラー以外のフィラーを追加する第1追加部61に対し、直近上流に設けられた第1混練部81での混練後の液晶ポリエステルの樹脂温度(T1)と、直近下流に設けられた第2混練部82での混練後の液晶ポリエステルの樹脂温度(T2)と、が、以下の式を満たすことにより、加工中の液晶ポリエステルの加水分解を抑制することができることを見出した。
【0073】
【数3】

(T1:混錬後の液晶ポリエステルの温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)
【0074】
【数4】

(T2:混錬後の液晶ポリエステルの温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)
【0075】
(第2混練部)
上記関係式を満たすため、第2混練部82のスクリュー構成が逆ニーディングディスクを有していないスクリューを用いて押出成形を行うとよい。逆ニーディングディスクを用いないスクリュー構成では、弱い混練となるため、繊維状フィラー以外のフィラーに起因した液晶ポリエステルの加水分解が生じにくくなる。
【0076】
また、加水分解による揮発性成分(ガス)の発生が抑制されるため、ガスに起因する種々の不具合、具体的には、液晶ポリエステルがスクリューのフライトに噛み込まない不具合や、第2混練部82で発生したガスが第1追加部61に流入することによるシュートアップを抑制することが可能となる。
【0077】
さらに、本実施形態の製造方法で用いる押出機10には、第2混練部82の下流側に第2ベント部52が設けられているため、第2混練部82でガスが生じたとしても良好に脱気することができる。
【0078】
(第2追加部)
第2追加部62は、供給部4と同様に、シリンダー2の内部と接続するホッパーと、樹脂を定質量又は定容量で供給する供給装置と、を有している。供給装置の供給方式としては、例えば、ベルト式、スクリュー式、振動式、テーブル式が挙げられる。
【0079】
第2追加部62からは、上述した繊維状フィラーを追加する。充填剤として繊維状フィラーを使用する場合は、混練時に繊維状フィラーが折れて機械的強度等の物性が低下する可能性がある。そのため、繊維状フィラーを第2追加部62から供給し、液晶ポリエステルと繊維状フィラーとの混練を主として第3混練部83で行うことで、繊維状フィラーを混練する時間を短くし、物性低下を抑制することができる。
【0080】
(第3混練部)
第3混練部83は、スクリュー構成に制限はなく、液晶ポリエステルの溶融を促進し完全に溶融させる構成であれば、種々の構成を採用することができる。これにより、溶融状態の液晶ポリエステルに、追加部6から供給される充填材等を良好に混練することができる。
【0081】
さらに、本実施形態の製造方法で用いる押出機10には、第3混練部83の下流側に第3ベント部53が設けられているため、第3混練部83でガスが生じたとしても良好に脱気することができる。第3ベント部53は、真空ベント方式を採用することが好ましく、減圧度がゲージ圧で−0.05MPa以下であることが好ましい。これにより、良好にガスを除去し、生産性を向上させることができる。
【0082】
そして、シリンダー2の下流側端部には、シリンダー2と連通するノズル穴9aを有するストランドダイ9が設けられている。
【0083】
本実施形態の液晶ポリエステル組成物の製造方法では、以上のような二軸押出機を用いてペレット化を行う。
【0084】
以上のような液晶ポリエステル組成物の製造方法によれば、第1追加部61からタルクを追加供給した後、第2混練部82にて強混練しないため、タルクに起因した液晶ポリエステルの加水分解を抑制することができ、耐熱性の低下を抑制した液晶ポリエステル組成物を製造することができる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0086】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
[流動開始温度の測定方法]
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用いて測定した。液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を、流動開始温度として測定した。
【0088】
[半田耐熱温度の測定方法]
下記実施例および比較例で作成したペレットを130℃で5時間乾燥させた後、射出成形することにより作製したミニダンベル(JIS−K7113 1(1/2))の試験片を、加熱したハンダ浴に1分間浸漬し、試験片の変形またはブリスター(膨れ異常)の発生が見られなかった最高温度を、半田耐熱温度として測定した。昇温は5℃刻みで行った。測定値に基づいて、半田耐熱温度が高いものほど、高い耐熱性を有するものとして判断した。
【0089】
[第1混練部および第2混練部の混練後の樹脂温度測定]
混練後の液晶ポリエステルの樹脂温度は、非接触型温度計(HORIBA社製、IT−550S)を用い、放射率を0.86に設定して、第1ベント部51および第2ベント部52からシリンダー2内を搬送される樹脂について測定した値を採用した。
【0090】
(実施例1)
図2は、実施例1で用いた押出機について、シリンダー2に設けられたヒーターを示す模式図である。なお、図2には、ヒーターに対する押出機が有する各構成の位置を、図1と共通した符号を用いて示している。
【0091】
押出機は、C0〜C11まで各々独立に設定可能なヒーターが設けられたシリンダー2内に、モーターにて同方向に回転する2本のスクリュー(スクリュー径D:30mm、L2/D=42.6)が挿入され、上流側から、供給部4、第1ベント部51、第1追加部61、第2ベント部52、第2追加部62、第3ベント部53、が設けられた2軸押出機(池貝鉄工(株)製PCM30型)を用いた。
【0092】
スクリューは、第1混練部81のスクリュー構成が、上流側から3R,3N,3N,3N,3L,3Lで組み合わせたもの、第2混練部82のスクリュー構成が、上流側から5R、5Nで組み合わせたもの、第3混練部83のスクリュー構成が、上流側から3R,5N,5N,5L,3N,3Lで組み合わせたもの、を用いた。
【0093】
スクリューの第1混練部81は、ヒーターC4と重なる位置に配置され、第2混練部82は、ヒーターC6と重なる位置に配置され、第3混練部83は、ヒーターC9と重なる位置に配置されている。図では、各混練部の位置を網掛けで示す。
【0094】
このような押出機を用い、液晶ポリエステル(スミカスーパーE6000HF、住友化学製、流動開始温度305℃)65重量部を供給部4から、タルク(X−50、日本タルク製)13重量部を第1追加部61から、ガラス繊維(CS03JAPx−1、オーウエンスコーニング製)22重量部を第2追加部62から、それぞれ供給して溶融混練を行い、吐出量30kg/hrにてペレットを作成した。
【0095】
押出条件は、シリンダーの各設定温度が、C0:280℃、C1〜C4:330℃、C5〜C11:340℃、ダイス:360℃、スクリュー回転数が200rpmであった。また、第3ベント部53の真空度が、ゲージ圧で−0.09MPa(大気圧を0MPaとする)となるように保持した。第1ベント部51,第2ベント部52は、大気圧(オープンベント)であった。
【0096】
(実施例2)
第2混練部82と対応する位置のスクリュー構成をフルフライトにし、第2混練部82を無くしたこと以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステルを含有するペレットを作製した。
【0097】
(実施例3)
ヒーターC6の設定温度を250℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステルを含有するペレットを作製した。
【0098】
(比較例1)
第2混練部82のスクリュー構成を、上流側から5N、5Lで組み合わせたものにしたこと以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステルを含有するペレットを作製した。
【0099】
(比較例2)
第2混練部82のスクリュー構成を、上流側から5R、5N、5Lで組み合わせたものにしたこと以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステルを含有するペレットを作製した。
【0100】
実施例1〜3および比較例1、2について、第1混練部81での混練後、および第2混練部82での混練後の液晶ポリエステルの樹脂温度、半田耐熱温度を下表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
測定の結果、本発明の製造方法によれば、成型体の耐熱性が向上することが分かり、本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0103】
1…モーター、1a…モーターボックス、2…シリンダー、3…スクリュー、4…供給部、5…ベント部、6…追加部、7…搬送部、8…混練部、9…ストランドダイ、10…押出機、51…第1ベント部、52…第2ベント部、53…第3ベント部、61…第1追加部、62…第2追加部、81…第1混練部、82…第2混練部、83…第3混練部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸押出機を用いて液晶ポリエステルをフィラーと溶融混練して押し出す液晶ポリエステル組成物の製造方法であって、
前記二軸押出機として、シリンダーが、少なくとも液晶ポリエステルを供給する供給部と、前記供給部の下流に設けられフィラーを追加する追加部と、を有し、
前記追加部は、フィラー(ただし繊維状フィラーを除く)を追加する第1追加部と、繊維状フィラーを追加する第2追加部と、を含み、
スクリューが、前記第1追加部を挟んで上流側および下流側にそれぞれ混練部を有しており、
前記第1追加部の直近上流に設けられた混練部で混練した後の前記液晶ポリエステルの樹脂温度が下記式(1)を満たし、
前記第1追加部の直近下流に設けられた混練部で混練した後の前記液晶ポリエステルの樹脂温度が下記式(2)を満たすことを特徴とする液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【数1】

(T1:混錬後の液晶ポリエステルの温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)
【数2】

(T2:混錬後の液晶ポリエステルの温度、FT:液晶ポリエステルの流動開始温度)
【請求項2】
前記第1追加部の直近下流に設けられた混練部が、逆ニーディングディスクを用いないスクリュー構成であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1追加部が、前記第2追加部より上流側に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項4】
前記シリンダーが、前記第1追加部の直近下流に設けられた混練部の下流側に、ベント部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項5】
前記シリンダーがベント部を有し、最下流に設けられた前記ベント部が真空ベント部であり、前記真空ベント部のゲージ圧が−0.05MPa以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項6】
前記繊維状フィラー以外のフィラーが、タルクまたはマイカであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項7】
前記組成物が、前記液晶ポリエステル100重量部、前記繊維状フィラー以外のフィラー20重量部以上200重量部以下、前記繊維状フィラー20重量部以上200重量部以下を含有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192678(P2012−192678A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59474(P2011−59474)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】