説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及びノズル基板の製造方法

【課題】液滴吐出ヘッドにおけるドット抜け及び温度変化を容易かつリアルタイムに検出することを可能とする液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及びノズル基板の製造方法を提供する。
【解決手段】液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズル孔10及びノズル孔10のそれぞれを中心として各ノズル孔10の縁に形成された温度センサー28を少なくとも有するノズル基板12と、底壁が振動板22を構成し、ノズル基板12の複数のノズル孔10に連通して吐出液を収容する複数の圧力室26を有し、ノズル基板12に積層されるキャビティ基板14と、振動板22を駆動する個別電極18を有し、キャビティ基板14に積層される電極基板16と、ノズル孔10に存在する吐出液の量により変化する温度によって液滴吐出状況の良否を判断する吐出検出回路34と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及びノズル基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置の代表例として、画像記録用のインクジェットヘッドを備えたインクジェット式記録装置がある。インクジェット式記録装置は、印刷時の騒音が比較的小さく、しかも小さなドットを高い密度で形成できるため、昨今においてはカラー印刷を含めた多くの印刷に使用されている。このようなインクジェット式記録装置は、インクカートリッジからのインク(吐出液)の供給を受けるインクジェットヘッドと、記録媒体をインクジェットヘッドの走査方向と垂直に移動させる紙送り機構を備え、インクジェットヘッドをキャリッジ上で記録媒体の幅方向(主走査方向)に移動させながらインクジェットヘッドに対して機械的圧力や熱エネルギーを発生させることで記録媒体に対してインク滴(液滴)を吐出させることで記録が行われる。
【0003】
このようなインクジェット式記録装置に用いられるインクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズルが形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズルに連通する圧力室(キャビティ)、リザーバー等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により圧力室に圧力を加え、圧力室の一部を構成する振動板を変位させることにより、インク滴を、選択されたノズルより吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
【0004】
この種のインクジェットヘッドでは、インクジェットヘッドの圧力室内に気泡が発生したり、浮遊する紙粉やゴミなどがノズル近傍に付着したり、ノズル(内のインク)が乾燥したりすると、ノズルからインク滴が吐出されず、記録媒体にドットが形成されないことがある。インク滴の吐出不良を、一般に「ドット抜け」と呼んでいる。ドット抜けの現象が生じた場合には、クリーニング装置によって回復を図る。例えば、気泡の発生によってドット抜け現象が生じた場合には、ポンプでノズル内のインクを吸引して圧力室内部の気泡を排出し、その後、ワイパーと呼ばれる拭い取り部材で吐出面に付着したインクを拭い去り、さらにフラッシングと呼ばれるインク滴の無印字吐出を行って混色したインクを放出する。この一連のクリーニング工程によって、気泡によるドット抜け現象が回復する。
【0005】
上記のようなドット抜けを検出する方法としては、「記録ヘッドの往復走査中にリアルタイムに動作不良の記録要素をフォトセンサーで検知することにより、記録速度を低下させることなく、例えば、その動作不良の記録要素による記録不良の補完記録などの適切な記録制御が可能な記録装置」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、「記録ヘッドの温度に関するデータを、記録ヘッド内に設けられた検温素子と検温素子制御回路によって求め、記録の前後における上昇温度データを吐出不良がない場合の通常の上昇温度データと比較して、インク吐出不良を検出する」が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、「複数のノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記ノズルの近傍に設けられた第一の電極及び第二の電極と、前記ノズル近傍にインク滴が付着したときに、前記第一の電極と前記第二の電極間の静電容量の変化を検出する静電容量検知手段と、を備えたインクジェット式記録装置」が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この技術は、ヘッド表面のノズル近傍に対向電極を設け、電極間の静電容量変化を検出することでノズル周辺のインク滴残留を検知している。この技術では、クリーニング不良及び吐出中のインク滴付着を対象としてドット抜けを検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−179884号公報
【特許文献2】特開2000−289218号公報
【特許文献3】特開2007−230008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術は、記録媒体の表面状態や記録要素により検出感度が異なるので、都度調整をする必要がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の技術は、検出原理と回路及び制御方法に関する記述のみで、各ノズルに検温素子を設ける具体的な構造に関して触れられていない。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の技術は、インク滴の吐出不良を未然に防ぐ、又は、インク滴の吐出不良の発生を早期に発見できるようにしたものである。しかしながら、ヘッド表面のノズル近傍にインク滴が付着しないと、つまりインク滴による液溜まりができないとインク滴の吐出不良を検出することができない。したがって、特許文献1に記載の技術では、非吐出ノズルの検出、つまりドット抜けの検出には利用することができなかった。また、特許文献1に記載の技術では、インク滴の吐出量の検出にも利用することができなかった。
【0012】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、液滴吐出ヘッドにおけるドット抜け及び温度変化を容易かつリアルタイムに検出することを可能とする液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及びノズル基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0014】
[適用例1]液滴を吐出する複数のノズル孔及び該ノズル孔のそれぞれを中心として該各ノズル孔の縁に形成された温度センサーを少なくとも有するノズル基板と、底壁が振動板を構成し、前記ノズル基板の前記複数のノズル孔に連通して吐出液を収容する複数の圧力室を有し、前記ノズル基板に積層されるキャビティ基板と、前記振動板を駆動する個別電極を有し、前記キャビティ基板に積層される電極基板と、前記ノズル孔に存在する吐出液の量により変化する温度によって液滴吐出状況の良否を判断する吐出検出回路と、を有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0015】
これによれば、液滴吐出状況を温度センサーの温度の変化により検知することができる。したがって、液滴吐出動作を中断することなく直接確認することができ、吐出不良ノズルを容易に特定できる。吐出不良ノズルを特定した場合には、別のノズル孔からの吐出液滴により、被対象物の品質を補完することができることになる。
【0016】
[適用例2]上記液滴吐出ヘッドであって、前記吐出検出回路は、吐出液の有無により前記温度センサーの温度が変化することで発生する微弱電流を検知して液滴吐出状況の良否を判断することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0017】
これによれば、ノズル孔に存在する液滴が温度を変化させる物質として作用することになり、ドット抜けだけでなく、液滴の吐出量の異常検出ができることになる。
【0018】
[適用例3]上記液滴吐出ヘッドであって、前記温度センサーに定電流を流すことで、前記温度センサーの温度を吐出液よりも高温で保持することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0019】
これによれば、吐出液が通過することで温度センサーの温度が確実に低下し、確実に微弱電流を発生させることができることになる。
【0020】
[適用例4]上記液滴吐出ヘッドであって、前記温度センサーの保持温度は、吐出液より5度以上高いことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0021】
これによれば、吐出液の通過により発生する温度センサーの温度低下量が温度センサーの検出感度を十分に上回るので、確実に温度低下を検出できることになる。
【0022】
[適用例5]上記液滴吐出ヘッドであって、前記温度センサーと前記ノズル基板を形成する基材との間には、該基材の材料よりも熱伝導率の低い絶縁材料で形成された絶縁膜を有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0023】
これによれば、温度センサーで保持している熱が基材へ伝達されるのをより確実に防止しつつ、ノズル孔の温度変化を測定できる。
【0024】
[適用例6]上記液滴吐出ヘッドであって、前記絶縁材料は、SIO等であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0025】
これによれば、基材と温度センサーとの間に熱伝導性の低いSiO2等が介在するため、温度センサーで保持している熱が基材へ伝達されるのをより確実に防止しつつ、ノズル孔の温度変化を測定できる。また、成膜手段が豊富に存在するため、液滴吐出ヘッドの仕様に合わせて高品質かつ低コストである成膜手段を選択することができる。
【0026】
[適用例7]上記液滴吐出ヘッドであって、前記温度センサーは、その一部が前記ノズル孔の内壁にまで及んでいることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0027】
これによれば、吐出液の通過を確実に温度の変化として検知することが可能になる。
【0028】
[適用例8]上記液滴吐出ヘッドであって、前記温度センサーは、耐擦性及び耐薬品性を有する導電性材料で構成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0029】
これによれば、ヘッドクリーニング時の機械的接触、及び吐出液に対する耐久性を確保でき、長期間の使用に渡って信頼性を確保することができる。
【0030】
[適用例9]上記液滴吐出ヘッドであって、前記温度センサーは、熱電対又はサーミスターであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0031】
これによれば、複数のノズル孔の各温度をより精度高く制御することができる。
【0032】
[適用例10]上記液滴吐出ヘッドであって、前記熱電対は、該熱電対の接点が少なくとも前記各ノズル孔の縁に形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0033】
これによれば、前記熱電対の温度検出部が液滴吐出部に配置されるために、液滴吐出による温度低下を確実に検出することができる。
【0034】
[適用例11]上記液滴吐出ヘッドであって、前記熱電対は、Pt、Au、Mo、Ta、これらの合金又はこれらの化合物のいずれかであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0035】
これによれば、耐擦性及び耐薬品性(耐アルカリ性)が向上する。
【0036】
[適用例12]上記のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【0037】
これによれば、液滴吐出装置は、上述の液滴吐出ヘッドが有している効果と同じ効果を有している。
【0038】
[適用例13]シリコン基板にノズル孔となる凹部を形成する工程と、前記シリコン基板に熱酸化膜を熱酸化により形成する工程と、前記シリコン基板の凹部形成面にサポート基板を貼り合わせる工程と、前記シリコン基板の前記凹部形成面とは反対側面を薄板化し前記凹部を開口する工程と、開口させた各ノズル孔の縁に温度センサーを形成する工程と、前記シリコン基板の薄板化した面及び前記凹部内部に液滴保護膜を形成する工程と、前記液滴保護膜の上に撥液膜を形成する工程と、前記シリコン基板の前記凹部形成面とは反対側面にサポートテープを貼り合わせた後、前記シリコン基板から前記サポート基板を剥離し、前記シリコン基板に形成した前記撥液膜を前記サポート基板を剥離した側から親水化処理する工程と、前記シリコン基板から前記サポートテープを剥離する工程と、前記温度センサーの配線接続部を露出させる工程と、を有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【0039】
これによれば、液滴吐出状況を温度センサーの温度の変化により検知するノズル基板を製造することができる。したがって、液滴吐出動作を中断することなく直接確認することができ、吐出不良ノズルを容易に特定できる。吐出不良ノズルを特定した場合には、別のノズル孔からの吐出液滴により、被対象物の品質を補完するノズル基板を製造することができる。
【0040】
[適用例14]上記ノズル基板の製造方法であって、前記温度センサーを形成する工程は、開口させた各ノズル孔の縁に斜方スパッタ又は斜方蒸着によって第2の電極を形成する工程と、少なくとも前記第2の電極の上であって、開口させた各ノズル孔の縁に斜方スパッタ又は斜方蒸着によって第1の電極を形成する工程と、を有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【0041】
これによれば、第1の電極と第2の電極とを別工程で形成するので、第1の電極と第2の電極とを確実に接合することができる。また、斜めから成膜することにより、前記第1の電極及び第2の電極をノズル孔の内壁に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッドを分解した状態を示す分解斜視図。
【図2】液滴吐出ヘッドの長手方向の断面を示す縦断面図。
【図3】液滴吐出ヘッドを上から見た状態を示す平面図。
【図4】ノズル孔と熱電対との関係を説明するための説明図。
【図5】吐出検出の際の動作原理を模式的に示す概念図。
【図6】ノズル基板の製造工程例の一部を示す縦断面図。
【図7】ノズル基板の製造工程例の一部を示す縦断面図。
【図8】ノズル基板の製造工程例の一部を示す縦断面図。
【図9】第1の実施形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一例を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、図面を参照して、本実施形態を説明する。なお、以下の説明で参照する図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならしめてある。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド2を分解した状態を示す分解斜視図である。図2は、液滴吐出ヘッド2の長手方向の断面を示す縦断面図である。図3は、液滴吐出ヘッド2を上から見た状態を示す平面図である。図1〜図3に基づいて、液滴吐出ヘッド2の構成及び動作を説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下とし、ノズル孔10が並んでいる方向を短手方向、短手方向と垂直な方向を長手方向として説明する。なお、図2において外側の撥液膜を、図3において外側の撥液膜及び液滴保護膜を省略している。
【0044】
この液滴吐出ヘッド2は、静電気力により駆動される静電駆動方式の静電アクチュエーターの代表として、ノズル基板の表面側に設けられたノズル孔から液滴を吐出するフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを表している。この液滴吐出ヘッド2は、ノズル基板12、キャビティ基板14、及び電極基板16の3つの基板が順に積層されるように接合された3層構造となっている。つまり、液滴吐出ヘッド2は、キャビティ基板14の一方の面(上面)にはノズル基板12が接合されており、他方の面(下面)には電極基板16が接合され、キャビティ基板14を電極基板16とノズル基板12とが上下から挟む構造となっている。
【0045】
この液滴吐出ヘッド2には、電極基板16上に形成された個別電極18と、この個別電極18に所定の駆動ギャップ20を介して対向配置されたキャビティ基板14の振動板22とから構成される静電アクチュエーターを備えている。この実施形態に係る液滴吐出ヘッド2は、電極基板16とキャビティ基板14とを陽極接合により接合するものとし、キャビティ基板14とノズル基板12とをエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合するものとして説明する。また、液滴吐出ヘッド2の電極基板16に形成する個別電極18には、図2で示すドライバーIC等の電力供給手段である駆動回路24によって駆動信号(パルス電圧)が供給されるようになっている。
【0046】
[ノズル基板]
ノズル基板12は、例えば厚さ約65μm(マイクロメートル)の(100)面方位のシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板という)を主要な材料として構成されている。そして、キャビティ基板14の上面(電極基板16を接合する面の反対面)と接合している。ノズル基板12には、キャビティ(吐出室)26のそれぞれと連通している複数のノズル孔10が所定のピッチで貫通形成されている。各ノズル孔10は、キャビティ26から移送されたインク滴等の液滴を外部に吐出するようになっている。なお、ノズル基板12における液滴が吐出される面を液滴吐出面12aとし、液滴吐出面12aの反対側面を接着面12bとして説明するものとする。
【0047】
各ノズル孔10は、吐出方向の先端側の円筒状の第1ノズル孔10aと、第1ノズル孔10aよりも径の大きい円筒状の第2ノズル孔10bとから構成され、第1ノズル孔10aと第2ノズル孔10bとは同軸上に設けられている。かかる構成により、液滴の吐出方向をノズル孔10の中心軸方向に揃えることができ、安定した液滴吐出特性を発揮させることができる。すなわち、ノズル孔10を複数段で形成することによって、液滴の飛翔方向のばらつきがなくなり、また液滴の飛び散りがなく、液滴の吐出量のばらつきを抑制することが可能となっている。
【0048】
ノズル基板12の液滴吐出面12a上には、ドット抜け検出を行う際に使用する温度センサーとしての熱電対28が設けられている(ドット抜け検出については図4以下で詳細に説明する)。熱電対28は、2種類の異なる材料からなる金属電極28a,28bを接続して1つの回路(熱電対)をつくり、ふたつの接点部に温度差を与えると、回路に電圧が発生する現象を利用している。その際に発生する電荷の流れを測定することで、接点部30aの温度を求めるものである。
【0049】
そして、2種類の異なる金属電極28a,28bの1つ目の接点部30a、すなわち温度を測定する部分は、各ノズル孔10の縁に形成されている。また、2つ目の接点部30bは共通電極28Aと金属電極28bの接続部に形成されている。これにより、ノズル孔10の温度、特にノズル孔10に吐出液(図5で示す吐出液32)が存在する際の温度を測定し、この温度情報に基づいて、吐出検出回路34で液滴吐出状況の良否の判断が行われるようになっている。
【0050】
上述したように、熱電対28は、異なる材料からなる2種類の金属電極28a,28bから構成される。2種類の金属線材料の組合せとしては、クロメル(ニッケル及びクロムを主とした合金)とアルメル(ニッケルを主とした合金)が代表的であるが、その他に、鉄とコンスタンタン(銅及びニッケルを主とした合金)、銅とコンスタンタン、クロメルとコンスタンタン等が知られている。これらのいずれの組合せであってもよい。また、熱電対28は、耐擦性及び耐薬品性(耐アルカリ性)に優れた導電性材料(例えばPt(プラチナ)、Au(金)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、これらの合金又はこれらの化合物等)で構成されていてもよい。
【0051】
なお、熱電対28の接点部30aは、吐出液に密着させることが好ましい。これは、吐出液の温度をより正確に測定するためである。ただし、熱電対28の接点部30aと吐出液との電気的絶縁及び耐薬品性を確保するために、接点部30aに絶縁性被膜を形成しておく必要がある。
【0052】
熱電対28上には、液滴保護膜36が設けられる。液滴保護膜36は、凹凸状に形成された熱電対28の凹凸部分を埋めるように配置され、さらに、その上面は略平坦に形成されている。
【0053】
熱電対28(便宜的に、紙面右側の電極を金属電極28a、紙面左側の電極を金属電極28bと称する)が各ノズル孔10を中心として、各ノズル孔10の縁に形成されている。熱電対28は、各ノズル孔10の縁から各ノズル孔10の内壁上部に至るように形成されている。
【0054】
金属電極28aは、配線38又は配線40を介して吐出検出回路34へと接続されるようになっている。なお、ノズル基板12の基材と熱電対28とは、ノズル基板12を形成する基材の材料よりも熱伝導率の低い絶縁材料による絶縁膜68,69によって絶縁されている。絶縁膜68,69は例えばSiO2等からなる。
【0055】
また、ノズル基板12の液滴吐出面12a及びノズル孔10の内壁には、これらの面を吐出液から保護する液滴保護膜36が形成されている。したがって、熱電対28上に液滴保護膜36が形成されることになる。この液滴保護膜36は、耐薬品性(特に耐アルカリ性)、耐擦性に優れた絶縁材料(例えば、SiO2、Al23、Ta25、Nb25等)で構成されている。よって、液滴吐出動作、例えば印刷動作中における紙等の媒体送りの際に熱電対28の表面が媒体に接触して摩耗する等の不都合を防止できる。
【0056】
さらに、液滴吐出面12aの液滴保護膜36上には、撥液膜(図8で示す撥液膜42)を形成するとよい。液滴吐出面12aに撥液膜を形成する場合、ノズル孔10の吐出口縁部を境界にしてノズル孔10の内壁及び接着面12bには撥液膜を形成しないようにする。これにより、吐出液に対する耐久性向上及び液滴吐出面12a上の液滴残留防止を図ることが可能になる。
【0057】
なお、ノズル基板12の接着面12bに、後述するオリフィスや振動板22によりリザーバー44側の吐出液に加わる圧力を緩衝するダイアフラムを形成してもよい。また、ここでは、ノズル基板12を上面とし、電極基板16を下面として説明しているが、実際に用いられる場合には、ノズル基板12の方が電極基板16よりも下面となることが多い。
【0058】
ヒーター62は、ノズル基板12を加温するためのものである。特に、熱電対28を加温するためのものである。
【0059】
なお、本実施形態に係る温度センサーは、熱電対に限定されるものではなく、他の温度センサーであってもよい。例えば、サーミスターであってもよい。
【0060】
[キャビティ基板]
キャビティ基板14は、例えば厚さ約50μmのシリコン基板を主要な材料として構成されている。このシリコン基板にドライエッチング又は異方性ウエットエッチングのいずれかあるいは双方を行い、吐出液の流路となる各部材(キャビティ26、オリフィス46、リザーバー44等)が形成されている。キャビティ基板14の各部材の一つであるキャビティ26は、底壁が可撓性を有する振動板22となっており、吐出室(圧力室)として作用し、ノズル孔10に対応する位置に独立に複数個形成されている。したがって、ノズル基板12とキャビティ基板14とを接合すると、キャビティ26は、ノズル孔10及びオリフィス46を介してリザーバー44と連通することになる。
【0061】
キャビティ26は、個別電極18の電極列に対応して形成されており、吐出液が保持されて吐出圧が加えられるようになっている。また、キャビティ26は、紙面手前側から奥側にかけて平行に並んで形成されているものとする。リザーバー44は、液滴供給口48を介して供給される吐出液を貯留し、各キャビティ26に吐出液を供給するための共通インク室として機能している。つまり、リザーバー44は、各オリフィス46を介して全てのキャビティ26に連通している。
【0062】
このリザーバー44の底面には、リザーバー44の底面を貫通する液滴供給口48が形成されている。この液滴供給口48は、電極基板16の液滴供給口50と連通するようになっている。そして、液滴供給口48及び液滴供給口50を介して外部からリザーバー44に吐出液が供給されるようになっている。オリフィス46は、細溝状に形成されており、リザーバー44とキャビティ26とを連通する液滴供給口として作用している。なお、オリフィス46は、ノズル基板12の接着面12bに形成してもよい。
【0063】
振動板22は、高濃度のボロンドープ層で構成されている。所望の厚さの振動板22を形成するために、同じだけの厚さのボロンドープ層を形成する。水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液による単結晶シリコンのエッチングにおけるエッチングレートは、ドーパントがボロンの場合、約5×1019atoms/cm3以上の高濃度の領域において、非常に小さくなる。このため、振動板22の部分を高濃度のボロンドープ層とし、アルカリ溶液による異方性エッチングによってキャビティ26を形成する際に、ボロンドープ層が露出してエッチングレートが極端に小さくなる、いわゆるエッチングストップ技術を用いることにより、振動板22の厚さ及び吐出室の容積を高精度に形成することができる。
【0064】
キャビティ基板14の下面(電極基板16と対向する面、振動板22の下面)には、振動板22と個別電極18との間を電気的に絶縁するためのTEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン(珪酸エチル)を用いてできるSiO2膜をいう)である絶縁膜52をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:TEOS−pCVDともいう)法を用いて、例えば0.1μm程の膜厚で成膜している。この絶縁膜52は、振動板22の駆動時における絶縁破壊及びショートを防止するためと、吐出液によるキャビティ基板14のエッチングを防止するためのものである。
【0065】
ここでは、絶縁膜52がTEOS膜である場合を例に説明するが、これに限定するものではなく、絶縁性能が向上する物質であればよい。例えば、Al23(酸化アルミニウム(アルミナ))や酸窒化シリコン等の酸化シリコンよりも比誘電率が高い誘電材料を用いてもよい。また、プラズマCVDで成膜する場合に限らず、ALD(Atomic Layer Deposition)法やECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ等で絶縁膜を成膜してもよい。
【0066】
さらに、キャビティ基板14の上面にも、図示省略の液体保護膜となるSiO2膜(TEOS膜を含む)を、プラズマCVD法又はスパッタリング法により成膜するとよい。このような液体保護膜を成膜することによって、吐出液で流路が腐食されるのを防止できるからである。この液体保護膜の応力と絶縁膜52の応力とを相殺させ、振動板22の反りを小さくできるという効果もある。また、絶縁膜52の表面(絶縁膜52の電極基板16側の表面)であって、個別電極18との当接部分には、DLC等で構成されている高潤滑硬質膜を形成するとよい。
【0067】
また、キャビティ基板14には、外部電極端子としての共通電極54が形成されている。この共通電極54は、駆動回路24から図示省略のFPC(Flexible Printed Circuit)を介して振動板22に個別電極18と反対の極性の電荷が供給する際の端子となるものである。
【0068】
[電極基板]
電極基板16は、例えば厚さ1mmのホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス等のガラスを主要な材料として形成するとよい。これは、電極基板16とキャビティ基板14とを陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板16とキャビティ基板14との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板16とキャビティ基板14を強固に接合することができるからである。電極基板16のキャビティ基板14側表面における各振動板22に対向する位置には、キャビティ基板14のキャビティ26の形状に合わせた凹部(ガラス溝)20aが、例えばエッチングにより深さ0.3μm程度で形成されている。
【0069】
また、この凹部20aの内部(特に底部)には、固定電極となる個別電極18が、例えばスパッタ法により0.1μmの厚さで作製されている。そして、この凹部20aは、その内部に個別電極18、FPCに接続される端子部18b、及び端子部18bと個別電極18とを接続する個別電極リード部18a(特に区別する必要がない限り、個別電極18は、個別電極リード部18a及び端子部18bを含んだものとして説明する)を装着できるように、これらの形状に類似したやや大きめの形状にパターン形成するとよい。また、凹部20aの深さが約0.2μmである場合を例に示しているが、凹部20a内に作製する個別電極18の厚さに応じて、変更可能になっている。
【0070】
個別電極18は、例えば酸化錫を不純物としてドープした透明のITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を0.1μmの厚さでスパッタして作製するとよい。このように、ITOで個別電極18を作製すると、透明なので放電したかどうかの確認が行いやすいという利点がある。なお、個別電極18の材料をITOに限定するものではなく、クロム等の金属材料を用いてもよい。また、電極基板16には、リザーバー44の液滴供給口48と連通し、外部のインクタンクから供給される吐出液を取り入れる流路となる液滴供給口50が貫通形成されている。
【0071】
さらに、電極基板16には、FPC実装部56が凹部20aとともに形成されている。FPC実装部56には、端子部18bが形成されている。つまり、端子部18bは、配線のためにキャビティ基板14の末端部が開口された電極取り出し部58内に露出しているのである。このFPC実装部56に図示省略のFPCを実装して、個別電極18の一端(端子部18b)と駆動回路24とを接続するようにしている。したがって、個別電極18には、駆動回路24からFPCを介して駆動信号が供給されるようになっている。
【0072】
電極基板16とキャビティ基板14とを陽極接合して積層体を形成すると、振動板22と個別電極18との間には、振動板22を撓ませる(変位させる)ことができる一定の駆動ギャップ(空隙)20が、電極基板16の凹部20aにより形成されるようになっている。この駆動ギャップ20は、凹部20aの深さ、及び個別電極18の厚さにより決まることになる。この駆動ギャップ20は、液滴吐出ヘッド2の吐出特性に大きく影響するため、厳格な精度管理が要求される。駆動ギャップ20は、各振動板22に対向する位置に細長く所定の深さを有するように形成されている。この駆動ギャップ20の開放端部は、内部に湿気や埃等が侵入しないようにエポキシ等の樹脂による封止部60で気密封止される。
【0073】
なお、FPC実装部56の深さが約0.3μmである場合を例に示しているが、これに限定するものではなく、凹部20aの深さに応じて変更するとよい。なお、駆動ギャップ20は、気相処理を行った後、封止部60で気密封止するとよい。気相処理は、駆動ギャップ20内の水分除去を行った後に、疎水処理をするように実行される。また、駆動ギャップ20は、キャビティ基板14となるシリコン基板に凹部を形成したり、スペーサーを挟むことによって形成することも可能である。
【0074】
この液滴吐出ヘッド2は、複数の個別電極18が長辺及び短辺を有する長方形状に形成されており、この個別電極18が、互いの長辺が平行になるように配置されている。そして、図1では、個別電極18の短辺方向に伸びる1つの電極列を示している。なお、個別電極18の短辺が長辺に対して斜めに形成されており、個別電極18が細長い平行四辺形状になっている場合には、長辺方向に直角方向に伸びる電極列を形成するようにすればよい。なお、電極基板16とキャビティ基板14とは陽極接合により、キャビティ基板14とノズル基板12とは接着剤を用いての接合又は直接接合により接合することができる。
【0075】
液滴吐出ヘッド2の動作について簡単に説明する。
キャビティ基板14のリザーバー44には、液滴供給口50及び液滴供給口48を介して外部からインク等の吐出液が供給されている。また、キャビティ基板14のキャビティ26には、オリフィス46を介してリザーバー44から吐出液が供給されている。駆動回路24は、FPCを介して個別電極18と接続されており、個別電極18への電荷の供給及び停止を制御するようになっている。この駆動回路24は、例えば24kHzで発振し、選択された個別電極18に0V〜30V程度のパルス電位を印加して電荷供給を行い、その個別電極18を正に帯電させる。
【0076】
このとき、共通電極54を介してキャビティ基板14には負の極性を有する電荷が供給され、正に帯電された個別電極18に対応する振動板22を相対的に負に帯電させる。そのため、選択された個別電極18と振動板22との間では静電気力(クーロン力)が発生することになる。そうすると、振動板22は、静電気力によって個別電極18側に引き寄せられて撓む(変位する)ことになる。つまり、振動板22は、個別電極18に引き寄せられて当接することになる。これによってキャビティ26の容積が増大する。
【0077】
その後、個別電極18への電荷の供給を止めると、振動板22と個別電極18との間の静電気力がなくなり、振動板22はその弾性力により元の状態に復元する。このとき、キャビティ26の容積が急激に減少するため、キャビティ26内部の圧力が急激に上昇する。これにより、キャビティ26内の吐出液の一部が液滴としてノズル孔10より吐出されることになる。この液滴が、例えば記録紙に着弾することによって印刷等が行われるようになっている。その後、吐出液がリザーバー44からオリフィス46を通じてキャビティ26内に補給され、初期状態に戻る。このような方法は、引き打ちと呼ばれるものであるが、バネ等を用いて液滴を吐出する押し打ちと呼ばれる方法もある。
【0078】
ここから、本実施形態の特徴事項であるドット抜け検出について詳細に説明する。
図4は、ノズル孔10と熱電対28との関係を説明するための説明図である。図5は、吐出検出の際の動作原理を模式的に示す概念図である。図4(A)が液滴吐出面12aの一部分を示す拡大平面図を、図4(B)が図4(A)のA−A’断面を示す拡大断面図を、それぞれ示している。また、図5(A)が液滴吐出前の状態を示す模式図を、図5(B)が液滴吐出時の状態を示す模式図を、それぞれ示している。なお、図5には、熱電対28と吐出検出回路34で構成される回路図を併せて図示している。
【0079】
図4(A)に示すように、各ノズル孔10の縁には、熱電対28がノズル孔10を中心として形成されている。このような状態において、ノズル孔10に存在する吐出液の位置、つまり吐出液の量によって、接点部30aにおける温度が変化することになる。
【0080】
熱電対28と吐出検出回路34で構成される回路において、接点部30aの温度が変化することにより接点部30aと接点部30bとの温度差で微弱電流が発生することになる。例えば、液滴吐出前において熱電対28に定電流を流して熱電対28自体を加温し、熱電対28の温度を吐出液32の液温より高くなるように設定する。もしくは、ヒーター62(図2参照)を用いて熱電対28を加温し、熱電対28の温度を吐出液32の液温より高くなるように設定しても良い。また、この加温により、接点部30aと接点部30bとの温度は同じになる。つまり、熱電対28は電圧が発生していない(微弱電流が全く発生していない)状態である。もしくは、接点部30aと接点部30bとの温度差を一定に保つようにして、熱電対28に一定の起電力が発生している(一定電流が流れている)状態にしても良い。これにより、液滴吐出前における熱電対28の接点部30aの温度(図5(A)に示すt0)が、液滴吐出時における熱電対28の接点部30aの温度(図5(B)に示すt1)に変化することによって微弱電流が発生することになる。もしくは、接点部30aと接点部30bとの温度差が変化し、一定電流が変化することになる。つまり、吐出液32が接点部30aにおける温度を変化させる物質として作用することになる。なお、熱電対28の温度は吐出液32の温度と異なるものであればよいので、熱電対28の温度は吐出液32の温度より低い状態であってもよい。
【0081】
この原理を利用することによって、本実施形態では、ドット抜け検出及び吐出量の異常検出をリアルタイムで実行可能にしている。したがって、液滴吐出ヘッド2では、発生した微弱電流の有無を検知することで、液滴吐出状況(ドット抜け検出及び吐出量の異常検出)をリアルタイムにモニタリングすることができる。つまり、回路状態に何の変化も起きない場合(微弱電流が全く発生していない場合)にはドット抜けが発生していると判断でき、回路状態に変化があった場合(微弱電流が発生している場合)にはその電流値により吐出液32の吐出量を判断できる。なお、微弱電流の検知は、回路に電流検知器を接続して実行すればよい。
【0082】
液滴吐出ヘッド2のドット抜け検出動作は、ノズル基板12に形成されたすべてのノズル孔10のドット抜けを検査する動作である。したがって、液滴吐出ヘッド2では、ノズル孔10から吐出液32が吐出されたかどうか、つまりドット抜けが発生している吐出不良ノズルがあるかどうかを接点部30aの温度の変化により検知することができる。よって、液滴吐出動作、例えば記録紙等の被対象物の印字品質を印刷動作を中断することなく直接確認することができ、吐出不良ノズルを容易に特定できる。さらに、吐出不良ノズルを特定した場合には、別のノズル孔10からの吐出液32により、被対象物の品質を補完することができる。
【0083】
なお、ドット抜け検出動作で吐出不良ノズルが発見されると、吐出不良ノズルの数や状態によって自動的に回復処理を実行するか、回復処理を実行せずにオペレーターに報知するか、回復処理や報知を行わずにそのまま印刷処理を再開するかの処置を選択するとよい。すなわち、吐出不良ノズル数や分布状態が許容できない状態であるときには、吐出不良ノズルの吐出特性を回復する回復手段による回復動作を自動的に実行し、吐出不良ノズル数や分布状態が所定の許容範囲内である場合には、回復動作を実行せずにオペレーターに報知し、吐出不良ノズル数や状態が吐出品質すなわち印刷品質への影響が小さい許容範囲以内である場合には、そのままつぎの印刷動作を開始する。
【0084】
このときの判断基準としては、例えば、検出された吐出不良ノズルの数が、ノズル群を構成するノズル数に対して印刷品質にほとんど影響を及ぼさない程度の少ない数である場合にはそのままつぎの印刷動作を開始することができる。また、検出された吐出不良ノズルの数が、ノズル群を構成するノズル数に対して印刷品質に無視はできないがある程度許容できそうな範囲の数である場合は、オペレーターに報知してオペレーターの判断により無視してもよい状態であれば印刷を開始し、無視できないレベルであれば回復動作を行なう。さらに、検出された吐出不良ノズルの数が、ノズル群を構成するノズル数に対して印刷品質に影響するくらい多い数である場合は、自動的に回復動作を実行する。
【0085】
また、吐出不良ノズルの分布状態として、例えば隣接したノズル孔10が複数吐出不良であると検出されたような場合は、印刷品質に影響する可能性が高いので、吐出不良ノズルの数に係わらず自動的に回復動作を行なうとよい。なお、上記判断基準となる、吐出不良ノズル数等は、予め設定してRAM等の記憶手段に記憶させておくとよい。そうすれば、記憶させた設定値を用いて判断するよう制御されることになる。例えば、1色ベタの面積が多いデザインだと吐出不良ノズルによる印刷不良が目立ちやすく、細かい柄だと多少吐出不良ノズルがあっても目立ちにくいため、印刷するデザインや記録媒体の種類等に応じてオペレーターが設定できるようにしている。
【0086】
以上より、液滴吐出ヘッド2は、ノズル孔10内に存在する吐出液32の量により接点部30aにおける温度が変化し、そのとき発生する微弱電流を検出することで、各ノズル孔10のドット抜けと吐出量を検出できる。したがって、液滴吐出ヘッド2では、吐出液32の吐出状況をリアルタイムにモニタリングすることが可能となる。よって、吐出不良ノズルを迅速に発見することができ、被対象物の品質が悪化するのを未然に防止することができる。
【0087】
また、熱電対28上に液滴保護膜36を形成する構造であるため、液滴保護膜36によって熱電対28も保護することが可能である。また、熱電対28に使用する導電性材料は、耐擦性及び吐出液に対する耐インク性(耐薬品性)を有する材料としたので、実用上、電圧制御しやすく、また、熱電対28の耐久性を確保でき、長期間の使用に渡って信頼性を確保することができる。
【0088】
次に、液滴吐出ヘッド2のノズル基板12の製造工程について説明する。図6〜図8は、ノズル基板12の製造工程例の一部を示す縦断面図である。図6〜図8に基づいて、ノズル基板12の製造工程についてその特徴事項を中心に説明する。
【0089】
先ず、図6(A)に示すように、厚み725μmで導電性を有する単結晶シリコン基板12’を用意し、図示省略の熱酸化装置にセットして酸化温度1075℃、酸化時間90分、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理し、シリコン基板12’の表面に膜厚0.5μmの熱酸化膜(SiO2膜)64を均一に成膜する。そして、シリコン基板12’の接着面12bの熱酸化膜64に第2ノズル孔10bとなる凹部64aをパターニングする。
【0090】
次に、図6(B)に示すように、シリコン基板12’の接着面12b上に、厚さ1.0μmのレジスト膜66を形成し、フォトリソグラフィにより第1ノズル孔10aとなる凹部66aをパターニングする。
【0091】
次に、図6(C)に示すように、図示省略のICPドライエッチング装置により、レジスト膜66の第1ノズル孔10aとなる凹部66aを、例えば深さ40μmで垂直に異方性ドライエッチングし、第1ノズル孔10aを形成する。この場合のエッチングガスとしては、C48、SF6を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで、C48は形成される溝の側面にエッチングが進行しないように溝側面を保護するために使用し、SF6はシリコン基板12’の垂直方向のエッチングを促進させるために使用する。
【0092】
次に、図6(D)に示すように、レジスト膜66を除去した後、ICPドライエッチング装置により熱酸化膜64の第2ノズル孔10bとなる凹部64aを、深さ40μmで垂直に異方性ドライエッチングし、第2ノズル孔10bを形成する。この際に、第1ノズル孔10aも深さが70〜80μm程度までエッチングされ、ノズル孔10が完成する。
【0093】
次に、図7(A)に示すように、シリコン基板12’の表面に残る熱酸化膜64を剥離した後、シリコン基板12’の液滴吐出面12a、接着面12b、及びノズル孔10の内壁に、膜厚0.1μmの絶縁膜68をドライ酸化で形成する。
【0094】
次に、図7(B)に示すように、シリコン基板12’の接着面12bにサポート基板70を貼り付け、液滴吐出面12a側から板厚が65μmになるまで薄板化する。続いて、露出したシリコン基板12’の液滴吐出面12aの表面に、絶縁膜69となる厚さ0.2μmのシリコーン重合膜をシロキサン原料のプラズマCVDで形成する。そして、空気中でUVを照射して脱水縮合させ、絶縁膜69の表面をSiO2化する。
【0095】
次に、図7(C)に示すように、液滴吐出面12aにメタルマスク72を設置し、厚さ0.1μmの熱電対28の片側(金属電極28b)を斜方スパッタ又は斜方蒸着によって形成する。このとき、斜方スパッタ又は斜方蒸着の角度を制御するか、基板を回転させて、金属電極28bをノズル孔10の内壁上部にまで形成する。
【0096】
次に、図7(D)に示すように、メタルマスク72を取り外し、メタルマスク74を設置し、厚さ0.1μmの熱電対28のもう片側(金属電極28a)を斜方スパッタ又は斜方蒸着によって形成する。このとき、斜方スパッタ又は斜方蒸着の角度を制御するか、基板を回転させて、金属電極28aをノズル孔10の内壁上部にまで形成する。このように、金属電極28aと金属電極28bとを別工程で形成するので、これらを確実に接合することができる。
【0097】
次に、図7(E)に示すように、メタルマスク74を取り外し、シリコン基板12’の液滴吐出面12aの表面に、液滴保護膜36となる厚さ0.2μmのシリコーン重合膜をシロキサン原料のプラズマCVDで形成する。そして、空気中でUVを照射して脱水縮合させ、液滴保護膜36の表面をSiO2化する。
【0098】
次に、図8(A)に示すように、シリコン基板12’の液滴吐出面12aにさらに撥液処理を施す。この場合、シランカップリング材をディップコートし、液滴吐出面12aに撥液膜42を形成する。このとき、第1ノズル孔10a及び第2ノズル孔10bの内壁にも、撥液膜42が形成される。
【0099】
次に、図8(B)に示すように、液滴吐出面12aに、サポートテープ76を貼り付け、その状態で接着面12b側のサポート基板70を剥離する。そして、接着面12b側から酸素又はアルゴンのプラズマ処理を行い、ノズル孔10の内壁に形成された撥液膜42を破壊して親水化する。
【0100】
次に、図8(C)に示すように、サポートテープ76を剥離する。
【0101】
次に、図8(D)に示すように、熱電対28の配線接続部分の液滴保護膜36及び撥液膜42を、レーザー照射により選択的に破壊する。そして、熱電対28の配線接続部を露出させる。
以上の製造工程により、ノズル基板12を容易に製造することができる。
【0102】
このようにして作製したノズル基板12を用いて液滴吐出ヘッド2を作製する際には、ノズル基板12の接着面12bに、キャビティ基板14の接合面を貼り合せて、ノズル基板12とキャビティ基板14の接合体を形成する。その後、ノズル基板12とキャビティ基板14からなる接合体において、キャビティ基板14の他の接合面に電極基板16の接合面を貼り付ける。以上の工程を経ることにより、ノズル基板12、キャビティ基板14、及び電極基板16の接合体を形成し、液滴吐出ヘッド2を完成する。
【0103】
(第2の実施形態)
図9は、第1の実施形態で作製した液滴吐出ヘッド2を搭載した液滴吐出装置100の一例を示した斜視図である。図9に示す液滴吐出装置100は、一般的なインクジェットプリンターである。なお、この液滴吐出装置100は、周知の製造方法によって製造することができる。なお、液滴吐出ヘッド2は、図9に示す液滴吐出装置100の他に、吐出液32を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルターの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、生体液体の吐出等にも適用することができる。また、配線基板をインクジェット法により作成するプリント配線基板製造装置の液滴吐出装置としても適用することができる。
【0104】
また、液滴吐出ヘッド2は、圧電駆動方式の液滴吐出装置や、バブルジェット(登録商標)方式の液滴吐出装置にも使用できる。例えば、液滴吐出ヘッド2をディスペンサーとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids:デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。
【0105】
なお、第1の実施形態に係る液滴吐出ヘッド2が電極基板16、キャビティ基板14、及びノズル基板12からなる3層構造である場合を例に説明したが、ガラス基板、キャビティ基板、リザーバー基板、及びノズルプレートからなる4層構造であってもよい。
【0106】
また、本実施形態に係る液滴吐出装置は、プロテインチップやDNAチップの作成のための液滴吐出装置、有機EL製造装置や液晶表示装置のカラーフィルター製造装置の液滴吐出装置、及び配線基板をインクジェット法により作成するプリント配線基板製造装置の液滴吐出装置等に対応することが可能である。
【符号の説明】
【0107】
2…液滴吐出ヘッド 10…ノズル孔 10a…第1ノズル孔 10b…第2ノズル孔 12…ノズル基板 12’…シリコン基板 12a…液滴吐出面 12b…接着面 14…キャビティ基板 16…電極基板 18…個別電極 18a…個別電極リード部 18b…端子部 20…駆動ギャップ 20a…凹部 22…振動板 24…駆動回路 26…キャビティ(圧力室) 28…熱電対(温度センサー) 28A…共通電極 28a…金属電極(第1の電極) 28b…金属電極(第2の電極) 30a…接点部 30b…接点部 32…吐出液 34…吐出検出回路 36…液滴保護膜 38…配線 40…配線 42…撥液膜 44…リザーバー 46…オリフィス 48…液滴供給口 50…液滴供給口 52…絶縁膜 54…共通電極 56…FPC実装部 58…電極取り出し部 60…封止部 62…ヒーター 64…熱酸化膜 64a…凹部 66…レジスト膜 66a…凹部 68,69…絶縁膜 70…サポート基板 72…メタルマスク 74…メタルマスク 76…サポートテープ 100…液滴吐出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズル孔及び該ノズル孔のそれぞれを中心として該各ノズル孔の縁に形成された温度センサーを少なくとも有するノズル基板と、
底壁が振動板を構成し、前記ノズル基板の前記複数のノズル孔に連通して吐出液を収容する複数の圧力室を有し、前記ノズル基板に積層されるキャビティ基板と、
前記振動板を駆動する個別電極を有し、前記キャビティ基板に積層される電極基板と、
前記ノズル孔に存在する吐出液の量により変化する温度によって液滴吐出状況の良否を判断する吐出検出回路と、
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記吐出検出回路は、吐出液の有無により前記温度センサーの温度が変化することで発生する微弱電流を検知して液滴吐出状況の良否を判断することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記温度センサーに定電流を流すことで、前記温度センサーの温度を吐出液よりも高温で保持することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記温度センサーの保持温度は、吐出液より5度以上高いことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記温度センサーと前記ノズル基板を形成する基材との間には、該基材の材料よりも熱伝導率の低い絶縁材料で形成された絶縁膜を有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記絶縁材料は、SIO2等であることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記温度センサーは、その一部が前記ノズル孔の内壁にまで及んでいることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記温度センサーは、耐擦性及び耐薬品性を有する導電性材料で構成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記温度センサーは、熱電対又はサーミスターであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記熱電対は、該熱電対の接点が少なくとも前記各ノズル孔の縁に形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記熱電対は、Pt、Au、Mo、Ta、これらの合金又はこれらの化合物のいずれかであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項13】
シリコン基板にノズル孔となる凹部を形成する工程と、
前記シリコン基板に熱酸化膜を熱酸化により形成する工程と、
前記シリコン基板の凹部形成面にサポート基板を貼り合わせる工程と、
前記シリコン基板の前記凹部形成面とは反対側面を薄板化し前記凹部を開口する工程と、
開口させた各ノズル孔の縁に温度センサーを形成する工程と、
前記シリコン基板の薄板化した面及び前記凹部内部に液滴保護膜を形成する工程と、
前記液滴保護膜の上に撥液膜を形成する工程と、
前記シリコン基板の前記凹部形成面とは反対側面にサポートテープを貼り合わせた後、前記シリコン基板から前記サポート基板を剥離し、前記シリコン基板に形成した前記撥液膜を前記サポート基板を剥離した側から親水化処理する工程と、
前記シリコン基板から前記サポートテープを剥離する工程と、
前記温度センサーの配線接続部を露出させる工程と、
を有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のノズル基板の製造方法において、
前記温度センサーを形成する工程は、
開口させた各ノズル孔の縁に斜方スパッタ又は斜方蒸着によって第2の電極を形成する工程と、
少なくとも前記第2の電極の上であって、開口させた各ノズル孔の縁に斜方スパッタ又は斜方蒸着によって第1の電極を形成する工程と、
を有することを特徴とするノズル基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−131387(P2011−131387A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290170(P2009−290170)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】