説明

液膜厚さ計測装置及び内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関に好適に用いられ、液膜の蛍光現象を用いて液膜の厚さを高精度に計測することが可能な液膜厚さ計測装置を提供する。
【解決手段】液膜厚さ計測装置は、紫外光を発光する発光素子と、発光素子からの紫外光を透過させると共に液膜側からの蛍光を含む光を反射させるハーフミラーと、ハーフミラーを透過した発光素子からの紫外光を液膜に向けて伝送すると共に液膜から発せられた蛍光を含む光をハーフミラー側に伝送する光ファイバと、ハーフミラーにて反射された蛍光を含む光から紫外光をカットして蛍光のみを透過させる紫外光カットフィルタと、紫外光カットフィルタを透過した蛍光を受光して液膜の蛍光強度を検出すると共に液膜の蛍光強度に応じた電圧値を出力する光センサとを含む。それらの各構成要素は1つの筐体内に収容されている。これにより、光センサの出力電圧値に基づき液膜の厚さを算出することが可能な液膜厚さ計測装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液膜の蛍光現象を用いて液膜の厚さを計測する液膜厚さ計測装置、及びかかる液膜厚さ計測装置を用いた内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光物質が混入された油膜に対してレーザ光等を照射し、これにより励起された蛍光物質から発せられる蛍光の強度に基づいて油膜の厚さを計測する手法が着目されている。ここで、蛍光の強度は、油膜の厚さに比例することが知られている。
【0003】
このような手法を用いて油膜の厚さを計測する技術及びこれに関連する技術が、例えば特許文献1乃至4に記載されている。
【0004】
特許文献1には、光透過性素材で構成される透光部を備えるシリンダと、そのシリンダ内に配設されたピストンとの間に介在する潤滑油に対してレーザ光を照射することにより、そのレーザ光により励起された潤滑油中の蛍光物質による蛍光強度に基づいて潤滑油の厚さを2次元的に計測することが可能な油膜厚さ計測装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、上記のような手法を用い、軸受本体のすべり面に形成された油膜の厚さを測定することが可能な油膜厚さ測定装置が記載されている。また、特許文献3には、ピストリングとシリンダ壁との間に形成される油膜の厚さを測定することが可能な油膜厚さ測定方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、蛍光現象を用いた油膜厚さ計測における蛍光と油膜厚さとの較正時に、油膜厚さの計測をより正確に行うことが可能な油膜厚さ較正装置が開示されている。
【0007】
なお、特許文献5には、吸気管の内壁面に配設された複数の燃料検出手段からの各検出値に基づき、その内壁面に付着する燃料付着量を算出すると共に、各燃料検出手段の各検出値に基づき算出された今回の燃料付着量及び前回の燃料付着量から今回の燃料付着変化量を算出し、さらに、エンジンの運転状態に応じて決定される基本燃料噴射量を今回の燃料付着変化量を基に補正することによって次回の燃料噴射量を決定する内燃機関の燃料噴射制御装置が記載されている。ここで、各燃料検出手段は、吸気管の内壁面に配設され互いに所定距離離間するよう設定された一対の電極間を有し、各燃料検出手段からの各検出値は、各電極間に介在する燃料付着量に応じて変化する。
【0008】
【特許文献1】特開平6−174431号公報
【特許文献2】特開2003−247812号公報
【特許文献3】特開2006−337179号公報
【特許文献4】特開2004−101209号公報
【特許文献5】特開2003−322051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したような油膜厚さ計測手法を用いれば、内燃機関の壁面(例えば、吸気管の内壁面など)に付着した燃料の厚さを計測し、その計測結果に基づき燃料の付着量を算出して、さらに算出された燃料の付着量に基づき、内燃機関の燃料噴射量を制御することが可能である。
【0010】
しかしながら、上記した特許文献に記載の油膜厚さ計測装置などを内燃機関に搭載することを考えた場合、次のような課題が一例として考えられる。
【0011】
例えば、上記した特許文献1及び2に記載の油膜厚さ計測(測定)装置は、計測システムとして大掛かりなシステム構成を有するため、その分、油膜厚さ計測(測定)装置のコストが高くなってしまうといった課題がある。
【0012】
また、上記の特許文献1の油膜厚さ計測装置は、シリンダを光透過性素材にて構成するなど試験用装置としての色彩が濃く、内燃機関(実機)へ搭載するための実現性が低いといった課題がある。即ち、特許文献1では、実機への搭載を考慮した油膜厚さ計測装置のシステム構成が検討されていない。
【0013】
さらに、上記の特許文献1及び2に記載の油膜厚さ計測(測定)装置では、潤滑油に蛍光物質(蛍光剤)を混入するようにしているため、これによって計測対象物たる潤滑油(媒体)の物性を変えてしまう虞があるといった課題がある。
【0014】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、液膜の蛍光現象を用いて液膜の厚さを高精度に計測する液膜厚さ計測装置、及びかかる液膜厚さ計測装置を適用した内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの観点では、液膜に対する紫外光の照射によって前記液膜から発せられる蛍光の強度に基づいて前記液膜の厚さを計測する液膜厚さ計測装置は、前記紫外光を発光する発光素子と、前記発光素子からの前記紫外光を透過させると共に、前記液膜からの前記蛍光を含む光を反射させるハーフミラーと、前記ハーフミラーを透過した前記紫外光を前記液膜に向けて伝送すると共に、前記液膜から発せられた前記蛍光を含む光を前記ハーフミラーに向けて伝送する光ファイバと、前記ハーフミラーにて反射された前記蛍光を含む光から紫外光をカットして前記蛍光のみを透過させる紫外光カットフィルタと、前記紫外光カットフィルタを透過した前記蛍光を受光して前記液膜の前記蛍光の強度を検出すると共に、検出した蛍光の強度に応じた電圧値を出力する光センサと、を備える。
【0016】
上記の液膜厚さ計測装置は、液膜に対する紫外光の照射によって液膜から発せられる蛍光の強度に基づいて液膜の厚さを計測する。この液膜厚さ計測装置は、発光素子と、ハーフミラーと、光ファイバと、紫外光カットフィルタと、光センサと、を備える。
【0017】
発光素子は、例えば発光ダイオード素子であり、紫外光を発光する。ハーフミラーは、発光素子から出射された紫外光を透過させると共に、液膜側から発光された蛍光を含む光を反射させる。光ファイバは、紫外光及び蛍光を含む光を伝送するための光路を有し、ハーフミラーを透過した発光素子からの紫外光を液膜に向けて伝送及び照射すると共に、液膜から発せられた蛍光を含む光をハーフミラーに向けて伝送及び照射する。好適な例では、前記光ファイバの一端は、前記ハーフミラーを透過した前記発光素子からの紫外光を受光することが可能な位置に配置されていると共に、前記光ファイバの他端は、前記受光した前記紫外光を前記液膜に向けて伝送することが可能な位置に配置されている。紫外光カットフィルタは、ハーフミラーにて反射された蛍光を含む光から紫外光をカットして蛍光のみを透過させる。光センサは、紫外光カットフィルタを透過した蛍光を受光して、その受光量を基に液膜の蛍光の強度を検出すると共に、検出した液膜の蛍光の強度に応じた電圧値を出力する。ここで、光センサからの出力電圧値と液膜の厚さとの関係は一般的に比例関係を有する。したがって、光センサからの出力電圧値に基づいて液膜の厚さを算出することが可能となる。
【0018】
上記の液膜厚さ計測装置の一つの態様では、前記光ファイバは1であり、前記発光素子からの紫外光を前記液膜に向けて伝送するための光路と、前記液膜から発せられた前記蛍光を含む光を前記ハーフミラーに向けて伝送するための光路とは、前記1つの前記光ファイバの1つの光路により構成されている。この態様によれば、複数の光ファイバを用いて紫外光及び蛍光を含む光を伝送する構成と比較して、液膜厚さ計測装置をよりコンパクトにすることができ、その分、液膜厚さ計測装置のコストを下げることができる。
【0019】
上記の液膜厚さ計測装置の他の態様では、前記発光素子、前記ハーフミラー、前記紫外光カットフィルタ及び前記光センサは、1つの筐体内に収容されている。これにより、液膜厚さ計測装置をコンパクトにすることができる。よって、その分、液膜厚さ計測装置のコストが増加することを防止できるのに加えて、内燃機関(実機)などへの搭載度を高めることができる。
【0020】
上記の液膜厚さ計測装置の他の態様では、受けた光を反射させる反射面を含むミラーと、前記ミラーの回転角度を制御するモータと、を有する光路切替装置を更に備え、前記ミラーの周囲には、複数の前記光ファイバの一端が適宜の間隔をおいて配置されていると共に、前記液膜の複数の計測部分には、前記複数の前記光ファイバの他端が夫々配置され、前記モータは、前記ハーフミラーを透過した前記発光素子側からの前記紫外光が前記ミラーの前記反射面によって前記複数の前記光ファイバのうちいずれかの前記光ファイバの前記一端側の光路に向けて反射されるように、且つ、前記液膜側から当該いずれかの前記光ファイバの前記他端の光路を通じて出射された前記蛍光を含む光が前記ミラーの前記反射面によって前記ハーフミラー側に反射されるように前記ミラーの前記回転角度を制御する。
【0021】
この態様では、受けた光を反射させる反射面を含むミラーと、ミラーの回転角度を制御するモータとを有する光路切替装置を更に備える。そして、ミラーの周囲には、複数の光ファイバの一端が適宜の間隔をおいて配置されていると共に、液膜の複数の計測部分には、複数の光ファイバの他端(先端)が夫々配置されている。モータは、ハーフミラーを透過した発光素子側からの紫外光がミラーの反射面によって複数の光ファイバのうちいずれかの光ファイバの一端側の光路に向けて反射されるように、且つ、液膜側から当該いずれかの光ファイバの一端の光路を通じて出射された蛍光を含む光がミラーの反射面によってハーフミラー側に反射されるように、ミラーの回転角度を制御する。つまり、この態様では、光路切替装置のモータを通じてミラーの回転角度を制御することによって、複数の光ファイバのうち、計測対象となる光ファイバの光路に切り替える。これにより、複数箇所の液膜の厚さの計測をすることが可能となる。
【0022】
本発明の他の観点では、上記の液膜厚さ計測装置を備える内燃機関の制御装置を構成することができる。これにより、内燃機関の壁面に付着する液膜(例えば、薄膜状の燃料又は燃料薄膜;以下同様)の厚さを計測することが可能となる。また、かかる液膜厚さ計測装置は、上記したようにコンパクトな構成を有するので、内燃機関の省スペース化に貢献するフィードバック用のセンサとして用いることが可能となる。
【0023】
上記の内燃機関の制御装置の一つの態様では、前記液膜厚さ計測装置は、前記内燃機関のクランキング時の燃料噴射前における基準状態の時に得られた前記光センサからの電圧値を前記液膜の厚さがゼロとなる基準電圧値とする。この基準電圧値を基にすれば、内燃機関内に外乱が生じた場合でも、より正確に液膜の厚さを算出することが可能となる。
【0024】
上記の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記液膜の成分たる燃料が導入される燃料導入経路と、単位蛍光強度当たりの前記液膜の厚さを算出する液膜厚さ換算手段と、を備え、前記燃料導入経路は規定の厚さを有する規定厚さ部分を有し、前記紫外光の照射によって前記規定厚さ部分の前記燃料から発せられる前記蛍光の強度は、前記規定厚さ部分に設けられた前記光ファイバを通じて前記光センサによって検出され、前記液膜厚さ換算手段は、前記規定厚さ部分における前記規定の厚さと、前記光センサによって検出された前記規定厚さ部分の前記蛍光の強度とに基づいて、前記単位蛍光強度当たりの前記液膜の厚さを算出する。
【0025】
この態様では、液膜の成分たる燃料が導入される燃料導入経路と、単位蛍光強度当たりの液膜の厚さを算出する液膜厚さ換算手段と、を備える。燃料導入経路は規定の厚さを有する規定厚さ部分を有する。紫外光の照射によって規定厚さ部分の燃料から発せられる蛍光の強度は、規定厚さ部分に設けられた光ファイバを通じて光センサによって検出される。液膜厚さ換算手段は、規定厚さ部分における規定の厚さと、光センサによって検出された規定厚さ部分の蛍光の強度とに基づいて、単位蛍光強度当たりの液膜の厚さを算出する。こうして算出された位蛍光強度当たりの液膜の厚さを用いて内燃機関の壁面に付着する液膜の厚さをより正確に算出することが可能となる。
【0026】
上記の内燃機関の制御装置の他の態様では、気筒と、前記気筒に対応して設けられた吸気弁及び排気弁と、を備え、前記液膜厚さ計測装置は、前記気筒における吸気行程の終了後の前記吸気弁及び前記排気弁が閉じられている期間中に、当該吸気行程から排気行程に至るサイクルでの前記内燃機関の壁面に付着する前記液膜の厚さを計測する。
【0027】
この態様では、気筒(シリンダ)と、気筒に対応して設けられた吸気弁及び排気弁と、を備える。液膜厚さ計測装置は、気筒における吸気行程の終了後の吸気弁及び排気弁が閉じられている期間中に、当該吸気行程から排気行程に至るサイクルでの内燃機関の壁面に付着する液膜の厚さを算出する。これにより、サイクル毎に液膜の厚さを算出することができる。
【0028】
上記の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記液膜の厚さから前記液膜の付着量に換算するための液膜厚さ−液膜付着量換算マップと、前記内燃機関の前記壁面に付着する前記液膜の付着量を算出するための液膜付着量算出手段と、を備え、前記液膜付着量算出手段は、前記内燃機関の前記壁面に付着する前記液膜の厚さと、前記液膜厚さ−液膜付着量換算マップとに基づいて、当該液膜の付着量を算出する。
【0029】
この態様では、液膜の厚さから液膜の付着量に換算するための液膜厚さ−液膜付着量換算マップと、内燃機関の壁面に付着する液膜の付着量を算出するための液膜付着量算出手段と、を備える。液膜付着量算出手段は、内燃機関の壁面に付着する液膜の厚さと、液膜厚さ−液膜付着量換算マップとに基づいて、当該液膜の付着量を算出する。こうして液膜の付着量が算出されることにより、内燃機関の燃料噴射制御を高精度に行うことが可能となる。
【0030】
上記の内燃機関の制御装置の他の態様では、筒内に対する前記燃料の基準噴射量増量係数と補正係数とに基づいて、前記筒内に対する前記燃料の噴射量増量係数を決定するための噴射量増量係数決定手段と、前記筒内に対する1回の燃料噴射当たりの前記燃料の流入量を算出するための1噴射当たりの筒内流入量算出手段と、前記補正係数を算出するための補正係数算出手段と、を備え、前記内燃機関の過渡時において、前記1噴射当たりの筒内流入量算出手段は、前記液膜付着量算出手段により算出された今回のサイクルに対応する前記液膜の付着量と、前記液膜付着量算出手段により算出された前回のサイクルに対応する前記液膜の付着量との差分に基づいて、前記1回の燃料噴射当たりの前記燃料の流入量を算出し、前記補正係数算出手段は、前記算出された前記1回の燃料噴射当たりの前記燃料の流入量が、前記筒内に対する前記燃料の基準流入量となるように前記補正係数を算出し、前記噴射量増量係数決定手段は、前記算出された前記補正係数と前記基準噴射量増量係数とに基づいて、次回のサイクルの前記燃料の噴射量増量係数を決定する。
【0031】
この態様では、筒内に対する燃料の基準噴射量増量係数と補正係数とに基づいて、筒内に対する燃料の噴射量増量係数を決定するための噴射量増量係数決定手段と、筒内に対する1回の燃料噴射当たりの燃料の流入量を算出するための1噴射当たりの筒内流入量算出手段と、補正係数を算出するための補正係数算出手段と、を備える。そして、内燃機関の過渡時において、1噴射当たりの筒内流入量算出手段は、液膜付着量算出手段により算出された今回のサイクルに対応する液膜の付着量と、液膜付着量算出手段により算出された前回のサイクルに対応する液膜の付着量との差分に基づいて、1回の燃料噴射当たりの前記燃料の流入量を算出し、補正係数算出手段は、算出された1回の燃料噴射当たりの燃料の流入量が、筒内に対する燃料の基準流入量となるように補正係数を算出し、噴射量増量係数決定手段は、算出された補正係数と基準噴射量増量係数とに基づいて、次回のサイクルの燃料の噴射量増量係数を決定する。これにより、内燃機関の過渡運転時(特に内燃機関の冷間時における過渡運転時)において、高精度な燃料噴射が行われると同時に、粒子状物質(スモーク)、窒素酸化物(NOx)および炭化水素(HC)などが大気中に大量に排出されてしまうことを抑制でき、エミッションを低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の好適な各種の実施形態について説明する。
【0033】
[第1実施形態]
(液膜厚さ計測装置の構成)
まず、図1等を参照して、本発明の第1実施形態に係る液膜厚さ計測装置の構成について説明する。
【0034】
図1は、第1実施形態に係る液膜厚さ計測装置20の構成を概略的に示す断面図である。
【0035】
第1実施形態に係る液膜厚さ計測装置20は、液膜12に対する紫外光8の照射によって液膜12から発せられる蛍光11の強度に基づいて液膜12の厚さFを計測する装置であり、主に、光学系本体20xと、光学系本体20xに対して接合又は接続される光ファイバ5と、を備える。なお、本明細書において、液膜12とは、紫外光が照射されることにより励起して蛍光を発光する薄膜状の液体(例えば、添加剤を含む燃料など)をいう。 光学系本体20xは、筐体1と、発光素子2と、ハーフミラー3と、カップリング(接合部材)4と、光ファイバ5と、紫外光カットフィルタ(紫外光吸収フィルタ)6と、光センサ7と、を備える。
【0036】
筐体1は、例えば筒状の形状を有する第1の筐体1aと筒状の形状を有する第2の筐体1bとをT字状に結合させた形状を有し、発光素子2、ハーフミラー3、紫外光カットフィルタ6及び光センサ7を収容している。
【0037】
発光素子2は、第1の筐体1a内の一端側に配置されている。発光素子2は、外部から電力Pが供給されることにより、ハーフミラー3に向けて紫外光8を発光する。発光素子2としては、例えば紫外光8を発光する発光ダイオード素子などが挙げられる。
【0038】
ハーフミラー3は、発光素子2の発光面2aに対して所定の傾斜(例えば、45度)を以って第1の筐体1a内の略中央に配置されており、発光素子2から照射された紫外光8を透過(又は通過)させると共に、液膜12側から光ファイバ5を通じて伝送された蛍光11を含む光9を紫外光8と蛍光11とに分離して、その分離した蛍光11を含む光9を紫外光カットフィルタ6側に反射させる。
【0039】
カップリング4は、第1の筐体1aの発光素子2側とは逆側となる第1の筐体1aの外壁に配置されており、光ファイバ5の一端5aと第1の筐体1aとを接合している。
【0040】
光ファイバ5は、光を伝送するコア5cと、コア5cを包むクラッド5kと、クラッド5kを被覆する被覆部材5hと、を有する。コア5cは、ガラス繊維などの透光性素材にて形成されている。クラッド5kは、コア5cより屈折率の高いガラスなどの透光性素材にて形成されている。被覆部材5hは、ナイロンなどの素材にて形成されている。光ファイバ5の一端5aは、ハーフミラー3を透過した発光素子2からの紫外光8を受光することが可能な位置に配置されており、さらにカップリング4によって第1の筐体1aの発光素子2側とは逆側となる第1の筐体5aの外壁に接合されている。一方、光ファイバ5の他端(先端)5b側は、基材10の貫通孔10hに挿入されており、さらに光ファイバ5の先端5bは、液膜12が付着する基材10の面10aと同一面上に位置していると共に、ハーフミラー3側から受光した紫外光8を液膜12に向けて伝送することが可能な位置に配置されている。ここで、本例では、光ファイバ5は1つだけ設けられており、ハーフミラー3を透過した発光素子2からの紫外光8を液膜12に向けて伝送するための光路(コア)と、液膜12から発せられた蛍光11を含む光9をハーフミラー3に向けて伝送するための光路(コア)とは、1つの光ファイバ5の1つの光路(コア5c)により構成されている。但し、本発明では、光ファイバ5の光路の数や、光ファイバの構成や、光ファイバを設ける本数に限定はない。
【0041】
紫外光カットフィルタ6は、第2の筐体1bの略中央に配置されていると共に、ハーフミラー3にて反射された液膜12側からの蛍光11を含む光9を受光することが可能な位置に配置されている。紫外光カットフィルタ6は、ハーフミラー3にて反射された蛍光11を含む光9から紫外光8をカット(吸収又は遮断)して蛍光11のみを光センサ7側へ透過させる。
【0042】
光センサ7は、紫外光カットフィルタ6を透過した蛍光11を受光して液膜12の蛍光の強度を検出すると共に、検出した液膜12の蛍光の強度に応じた電圧値V(以下、「出力電圧値V」とも称する)を出力する。
【0043】
次に、液膜厚さ計測装置20を用いた液膜12の厚さFの計測方法について述べる。
【0044】
まず、液膜12の厚さFを計測するタイミングで発光素子2に対して電力Pを供給して、発光素子2の発光面2aより紫外光8を発光させる。発光素子2より発光された紫外光8は、ハーフミラー3を透過して光ファイバ5の一端5aに入射し、さらに光ファイバ5のコア5cを通じて基材10の面10a上に付着する液膜12まで伝送される。これにより、光ファイバ5の先端5bに対面する、液膜12の部分A1(以下、「蛍光部分A1」と称する)は紫外光8により励起されて蛍光11を含む光9を発光する。その発光した蛍光11を含む光9は、光ファイバ5の先端5bに入射して、さらに光ファイバ5のコア5cを通じて光ファイバ5の一端5aまで伝送され、さらに光ファイバ5の一端5aからハーフミラー3に向けて出射する。ハーフミラー3に到達した蛍光11を含む光9は、ハーフミラー3によって紫外光8と蛍光11とに分離されると共に、その分離された蛍光11を含む光9はハーフミラー3にて紫外光カットフィルタ6に向けて反射され、その反射された蛍光11を含む光9は紫外光カットフィルタ6に到達する。ここで、図2(a)は、紫外光カット前の蛍光11を含む光9の波長特性を示す。図2(a)において、縦軸は蛍光11を含む光9の強度を、また、横軸は波長(nm)を示す。かかる蛍光11を含む光9は、図2(a)に示すように、紫外光の波長域と蛍光の波長域の双方にピークを持つ波長特性を有していることが分かる。
【0045】
次に、紫外光カットフィルタ6に到達した蛍光11を含む光9は、紫外光カットフィルタ6によって蛍光11のみが取り出される。ここで、図2(b)は、紫外光カットフィルタ6の透過率特性を示す。図2(b)において、縦軸は紫外光カットフィルタ6の透過率(%)を、また、横軸は波長(nm)を示す。紫外光カットフィルタ6は、図2(b)に示すように、約400nm未満の波長域の光を吸収して、約400nm以上の波長域の光を透過させる特性を有する。よって、この紫外光カットフィルタ6は、ハーフミラー3にて反射された蛍光11を含む光9から紫外光8をカット(吸収)して蛍光11のみを光センサ7側へ透過させる。ここで、図2(c)は、紫外光カットフィルタ6によって紫外光がカットされた後の蛍光11の波長特性を示す。なお、図2(c)において、縦軸は蛍光11の強度を、また、横軸は波長(nm)を示す。
【0046】
次に、紫外光カットフィルタ6を透過した蛍光11は、光センサ7によって受光される。光センサ7は、受光した蛍光11の受光量に基づき液膜12の蛍光部分A1の蛍光11の強度を検出すると共に、検出した液膜12の蛍光11の強度に応じた電圧値Vを出力する。ここで、図2(d)は、光センサ7からの出力電圧値(V)と液膜12の厚さとの関係を示すグラフの一例である。図2(d)に示すように、光センサ7からの出力電圧値Vと液膜12の厚さFとの関係は比例関係を有している。したがって、第1実施形態では、光センサ7からの出力電圧値Vに基づいて液膜12の蛍光部分A1の厚さFを算出することが可能となる。
【0047】
また、この液膜厚さ計測装置20では、発光素子2、ハーフミラー3、紫外光カットフィルタ6及び光センサ7は、1つの筐体1内に収容されており、当該液膜厚さ計測装置20はコンパクトなシステム構成を有する。よって、その分、液膜厚さ計測装置20のコストが増加することを防止できるのに加えて、内燃機関(実機)などへの搭載が容易となる。
【0048】
また、この液膜厚さ計測装置20では、ハーフミラー3を透過した発光素子2からの紫外光8を液膜12に向けて伝送するための光路(コア)と、液膜12から発せられた蛍光11を含む光9をハーフミラー3に向けて伝送するための光路(コア)とは、1つの光ファイバ5の1つの光路(コア5c)により構成されている。よって、複数の光ファイバを用いて紫外光8及び蛍光11を含む光9を伝送する構成と比較して、液膜厚さ計測装置20をよりコンパクトにすることができ、その分、液膜厚さ計測装置20のコストを下げることができる。
【0049】
[第2実施形態]
(液膜厚さ計測装置の構成)
次に、図3を参照して、本発明の第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置の構成について説明する。なお、以下では、第1実施形態と共通する要素については同一の符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0050】
図3(a)は、第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置20zの構成を概略的に示す断面図である。図3(b)は、光路切替装置30付近の要部断面図であり、2つの光ファイバ5x及び5yのうち、光ファイバ5yを用いて光ファイバ5yの一端5yaに対し逆側となる他端(先端;図示略)に対面する液膜12(図示略)の厚さFを計測するときの光路切替装置30の動作説明図を示す。図3(c)は、光路切替装置30付近の要部断面図であり、2つの光ファイバ5x及び5yのうち、光ファイバ5xを用いて光ファイバ5xの一端5xaに対し逆側となる他端(先端;図示略)に対面する液膜12(図示略)の厚さFを計測するときの光路切替装置30の動作説明図を示す。
【0051】
第1実施形態に係る液膜厚さ計測装置20は、1つの光ファイバ5を用いて1箇所の液膜12の厚さを計測する構成であった。
【0052】
これに対して、第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置20zは、複数の光ファイバを用いて複数箇所の液膜12の厚さを計測する構成を有する。具体的には、第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置20zは、第1実施形態と同様の構成を有する光学系本体20xと、光学系本体20xに対して接合される光路切替装置30と、光路切替装置30に対して接合される、2つの光ファイバ(光ファイバ5x及び光ファイバ5y)と、を備える。
【0053】
光路切替装置30は、筐体21と、ミラー22と、モータ23と、複数のカップリング4と、を備える。
【0054】
筐体21は、例えば箱状の形状を有し、カップリング4を介して光学系本体20xに接合されている。
【0055】
ミラー22は、受けた光を反射させる反射面22aを含んで構成される。ミラー22は、ハーフミラー3を透過した発光素子2側からの紫外光8がミラー22の反射面22aに対して所定の傾斜角(例えば、45度)で入射するように、且つ、液膜12側から光ファイバ5x又は光ファイバ5yの光路(コア5c)を通じて出射された蛍光11を含む光9がミラー22の反射面22aに対して所定の傾斜角(例えば、45度)で入射するような状態にて筐体21内に収容されている。
【0056】
モータ23は、ミラー22に接続され、ミラー22を回転させる。モータ23としては、例えばステッピングモータなどが挙げられる。
【0057】
光ファイバ5xは、上記した光ファイバ5と同様の構成を有する。光ファイバ5xの一端5xa側は、筐体21の外壁に配置されたカップリング4に接合されている。一方、光ファイバ5xの一端5xaに対し逆側となる他端側(先端側;図示略)は、図示しない基材10の貫通孔10hに挿入されており、さらに当該光ファイバ5xの先端は、図示を省略するが、液膜12が付着する基材10の面10aと同一面上に位置していると共に、光ファイバ5xの一端5xa側から入射した紫外光8を液膜12の計測部分に向けて伝送することが可能な位置に配置されている。
【0058】
光ファイバ5yも、上記した光ファイバ5と同様の構成を有する。光ファイバ5yの一端5yaは、筐体21の外壁に且つ光ファイバ5xの一端5xaと逆側に配置されたカップリング4に接合されている。一方、光ファイバ5yの一端5yaに対し逆側となる他端側(先端側;図示略)は、図示しない基材10の貫通孔10hに挿入されており、さらに当該光ファイバ5yの先端は、図示を省略するが、液膜12が付着する基材10の面10aと同一面上に位置していると共に、光ファイバ5yの一端5ya側から入射した紫外光8を液膜12(上記した光ファイバ5xの先端が対面する液膜12の計測部分と異なる他の計測部分)に向けて伝送することが可能な位置に配置されている。
【0059】
次に、液膜厚さ計測装置20zを用いた液膜12の厚さFの計測方法について述べる。
【0060】
この光路切替装置30において、モータ23は、ハーフミラー3を透過した発光素子2側からの紫外光8がミラー22の反射面22aによって2つの光ファイバ(光ファイバ5x及び光ファイバ5y)のうち、いずれかの光ファイバの一端の光路(コア5c)に向けて反射されるように、且つ、液膜12側から当該いずれかの光ファイバを通じて出射された蛍光11を含む光9がミラー22の反射面22aによってハーフミラー3に向けて反射されるように、ミラー22の回転角度を制御する。例えば、2つの光ファイバ(光ファイバ5x及び光ファイバ5y)のうち光ファイバ5yを用いて液膜12の厚さFを計測する場合には、モータ23は、図3(b)に示すように、ミラー22の反射面22aを光ファイバ5yの一端5yaの光路(コア5c)に対して対面させるようにミラー22の回転角度を制御する。一方、2つの光ファイバ(光ファイバ5x及び光ファイバ5y)のうち光ファイバ5xを用いて液膜12の厚さFを計測する場合には、モータ23は、図3(c)に示すように、ミラー22の反射面22aを光ファイバ5xの一端5xaの光路(コア5c)に対して対面させるようにミラー22の回転角度を制御する。
【0061】
このように、この光路切替装置30では、モータ23を通じてミラー22の回転角度を制御することによって、光ファイバ5x及び光ファイバ5yのうち、計測対象となる光ファイバの光路に切り替える。これにより、光学系本体20xから出射される紫外光8の伝送、及び液膜12側から発せられる蛍光11を含む光9の伝送が当該計測対象となる光ファイバの光路によって行われることになる。その結果、複数箇所の液膜12の厚さ(本例では、上記した液膜12の計測部分及び他の計測部分の各厚さ)Fの計測をすることが可能となる。
【0062】
なお、上記の第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置20zでは、2つの光ファイバ(光ファイバ5x及び光ファイバ5y)を用いて液膜12の厚さFを計測するようにしたが、これに限らず、本発明に係る液膜厚さ計測装置では、2つ以上の光ファイバを用いて液膜12の厚さFを計測するようにしてもよい。例えば、図4(a)は、図3(a)の切断線A−A’に沿った他の形態例に係る光路切替装置31の要部断面図であり、光路切替装置31において4つの光ファイバ5を用いた例を示す。同様に、図4(b)は、図4(a)に対応する他の形態例に係る光路切替装置32の要部断面図であり、光路切替装置32において6つの光ファイバ5を用いた例を示す。同様に、図4(c)は、図4(a)に対応する他の形態例に係る光路切替装置33の要部断面図であり、光路切替装置33において8つの光ファイバ5を用いた例を示す。なお、図4(a)乃至図4(c)では、光路切替装置30と同一の要素については同一の符号を付している。また、光路切替装置31〜33の作動原理は、光路切替装置30と同様であり、その説明は省略する。
【0063】
[内燃機関への適用例]
本発明に係る液膜厚さ計測装置を内燃機関に適用すれば、液膜(例えば、紫外光を照射することにより励起されて蛍光を発光する添加剤を有する燃料の薄膜;以下同様の意味で用いる)の厚さFを計測することができ、また、この計測結果に基づいて内燃機関における燃料噴射の適切な制御を行うことができるといった利点を有する。そこで、以下では、図5を参照して、本発明に係る液膜厚さ計測装置の一例としての第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置20zを内燃機関に適用した例について説明する。
【0064】
(内燃機関の制御装置の構成)
図5は、第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置20zを適用した内燃機関の制御装置の構成を概略的に示す断面図である。なお、図5では、破線矢印がガスの流れを示し、実線矢印が信号の入出力を示している。
【0065】
内燃機関(エンジン)80の制御装置100は、電子式車両運転制御装置の一例としてのECU(Engine Control Unit)112によって内燃機関80を制御する装置であり、主に、シリンダ(気筒)121、シリンダヘッド119、燃料タンク115及び液膜厚さ計測装置20zなどを備える。なお、この他にも内燃機関80の制御装置100には、内燃機関80や電装部品などの始動・停止等を行うためのキースイッチ、内燃機関80の始動時にクランキングによって回転力を付与するためのスタータ、スタータのオン・オフ動作を検知するスタータスイッチなどが設けられるが、図5ではそれらの図示を省略している。
【0066】
シリンダ121は、シリンダヘッド119の下方に配置されている。なお、本実施形態では、内燃機関80においてシリンダ121の数に制限はない。シリンダ121の内部などには、内燃機関80の各部を冷却するための冷却水が流通するウォータージャケット122が設けられている。ウォータージャケット122内を流通する冷却水の温度は、シリンダ121に取り付けられた水温センサ110によって検出される。シリンダ121の内側には、ピストン123が当該シリンダ121の内壁に沿って往復運動可能な状態で配置されている。ピストン123はコネクティングロッド124を介しクランクシャフト125に連結されている。ピストン123の往復運動はコネクティングロッド124によって回転運動に変換された後、クランクシャフト125に伝達される。シリンダ121内におけるピストン123の行程位置の判別、つまり気筒判別は、クランク角度センサ111によってクランクシャフト125の回転位置(クランク角度)を検出することによって行われる。また、内燃機関80における点火時期制御及び燃料噴射時期制御等を含む各種の制御は、クランク角度の検出に基づいて行われる。ピストン123とシリンダ121とシリンダヘッド119の間には燃焼室106が形成されている。
【0067】
シリンダヘッド119には、主に、吸気通路128、スロットル弁101、サージタンク102、吸気ポート105及び吸気弁107を含む吸気系、排気弁109及び排気通路120を含む排気系、点火装置118などが設けられている。外部から導入された空気(吸気)は吸気通路128を通過し、その通過した空気はスロットル弁101によってその吸入量が調整され、さらに吸入量が調整された空気はサージタンク102及び吸気ポート105を介して燃焼室(気筒内)106へ供給される。サージタンク102には、当該サージタンク102内の吸気の圧力を検出するための吸気圧センサ103が設けられている。 吸気弁107は、ECU112によって開閉制御されることにより、吸気ポート105と燃焼室106との連通/遮断を行う。吸気弁107の近くには、吸気弁107を駆動するカム(図示略)の角度を検出するためのカム角度センサ108が設けられている。吸気ポート105には、燃料噴射装置(インジェクタ)104が設けられている。燃焼噴射装置104は、燃料導入経路(燃料配管)126を介して、適量の燃料(液膜の成分)127を保持する燃料タンク115に接続されている。燃焼噴射装置104は、ECU50から出力される信号Sig8に基づいて燃料噴射量や燃料噴射時期などが制御され、吸気ポート105に向けて燃料(液膜の成分)を噴射する。吸気ポート105に向けて噴射された燃料は、さらに燃焼室106内へ供給される。
【0068】
燃焼室106内では、点火装置118による点火によって、供給された空気と燃料との混合気が燃焼される。この場合、燃焼によってピストン123がシリンダ121の内壁に沿って往復運動し、この往復運動がコネクティングロッド124を介してクランクシャフト125に伝達され、クランクシャフトが回転する。また、燃焼室106内の混合気の燃焼によって生じた排気は排気通路120へ排出され、さらに図示しない触媒及びマフラーなどを通じて外部へ排出される。排気弁109は、排気通路120側から燃焼室106側にかけて設けられ、ECU112によって開閉制御されることにより、排気通路120と燃焼室106の連通/遮断を行う。
【0069】
液膜厚さ計測装置20zは、ECU112から所定のタイミングで供給される計測指令に係る信号Sig1に基づいて計測を開始し、本例では吸気ポート105の壁面105aに付着した燃料の液膜の厚さFを計測する役割を果たす。液膜厚さ計測装置20zにおける2つの光ファイバ5x及び5yのうち、一方の光ファイバ5xの先端5xbは、吸気ポート105の壁面105aと同一面上に配置されており、吸気ポート105の壁面105aに付着した液膜の厚さFを計測する光ファイバとして用いられ、他方の光ファイバ5yは、後述する単位蛍光強度当たりの液膜の厚さFを計測するための光ファイバとして用いられる。
【0070】
ECU112は、図示を省略するが、CPU(Central Processing Unit)を含む演算手段と、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含む記憶手段と、を備える。ECU112には、液膜厚さ計測装置20zの光センサ7から液膜の厚さFに係る信号(即ち、液膜の蛍光部分の蛍光の強度に応じた出力電圧値Vに係る信号)Sig2、クランク角度センサ111からクランク角度に係る信号Sig3、水温センサ110から冷却水の温度に係る信号Sig4、カム角度センサ108からカム角度に係る信号Sig5、吸気圧センサ103からサージタンク102内の吸気の圧力に係る信号Sig6、キースイッチのイグニション端子からキースイッチのオン・オフ動作に係る信号IG、スタータスイッチからスタータのオン・オフ動作に係る信号STなど各種センサや各種装置からの信号が入力され、これに基づいてECU112は内燃機関80に対する制御を行う。
【0071】
本発明では、ECU112は、後述において、単位蛍光強度当たりの液膜の厚さを算出する液膜厚さ換算手段、液膜の厚さFから液膜の付着量Mを算出する液膜付着量算出手段、過渡運転時における噴射量増量係数Yを決定する噴射量増量係数決定手段、燃焼室内(筒内)106に対する流入量Ciを算出する筒内流入量算出手段、噴射量増量係数Yに対する補正係数xを算出する補正係数算出手段として機能する。
【0072】
以上の内燃機関80の制御装置100に適用される液膜厚さ計測装置20zはコンパクトな構成を有するので、内燃機関80の省スペース化に貢献するフィードバック用のセンサとして用いることが可能となる。
【0073】
(液膜厚さの基準点算出方法)
次に、図6を参照して、液膜の厚さFの基準点(液膜の厚さFが0となる点であり、以下同様の意味で用いる)の算出方法について説明する。
【0074】
図6(a)は、液膜の厚さFの基準点算出方法に係るタイムチャートを示す。図6(a)において、縦軸には、燃料噴射装置104を動作させるためのON・OFF信号の出力状態、及び発光素子2を発光(駆動)するためのON・OFF信号の出力状態を示し、また、横軸には時間を示している。図6(b)は、図6(a)における液膜の厚さFの基準点に対応する光センサ7の出力電圧値V0を示し、図6(c)は、図6(a)における1回目の液膜の厚さFに対応する光センサ7の出力電圧値V1を示す。
【0075】
内燃機関80内は外乱が大きいため、液膜の厚さFの基準点を取ることは難しい。本実施形態では、内燃機関80のクランキング時(スタータによる内燃機関80の始動時)の燃料噴射前を基準状態としたときに、当該基準状態の時に、発光素子2側から内燃機関80の壁面、例えば吸気ポート105の壁面105aに付着した液膜に対し光ファイバ5xを通じて紫外光8を照射し、その照射によって液膜から発せられた蛍光11の強度を光センサ7によって検出し、その検出した蛍光11の強度に対応する光センサ7からの出力電圧値V0を液膜の厚さFの基準点とする。
【0076】
より具体的には、まず、キースイッチのイグニション端子からキースイッチのON動作に係る信号IG、及びスタータスイッチからスタータのON動作に係る信号STがそれぞれECU112に入力されると、ECU112は、内燃機関80のクランキング時であって、燃料噴射装置104により吸気ポート105に向けて燃料噴射を行う(燃料噴射信号Sig8の出力がONとなる)前に、液膜厚さ計測装置20zに対して液膜の厚さFを計測するための信号(発光素子2を駆動するための基準点補正用信号)Sig1を出力する。
【0077】
これにより、発光素子2より紫外光8が発光され、その発光された紫外光8は、上記した原理に基づき光ファイバ5xの先端5xbから吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜に向けて照射される。ここで、液膜には、通常、様々な添加剤が混入されており、その液膜に含まれる添加剤に対して紫外光8を照射すると当該添加剤の蛍光部分は励起し蛍光11を含む光9を発光する。この蛍光11を含む光9を光ファイバ5xの先端5xbが受光すると、その受光した蛍光11を含む光9は、上記した原理に基づき紫外光カットフィルタ6によって蛍光11のみが取り出され、その取り出された蛍光11は光センサ7によって受光される。光センサ7は、その受光した液膜の蛍光部分の強度を検出すると共に、その検出した液膜の蛍光11の強度に応じた出力電圧値V0に係る信号Sig2をECU112に出力する。ECU112は、その出力電圧値V0を受け取ると、その出力電圧値V0を液膜の厚さFが0となる基準点とする。この基準点を元にして、光センサ7からの出力電圧値Vから、液膜の厚さFを換算する。
【0078】
なお、内燃機関80の壁面にはデポジットなどが堆積し易く、このため光ファイバ5xの先端5xb及び光ファイバ5yの先端5ybに対してデポジットなどが付着し易い。もし、光ファイバ5xの先端5xb及び光ファイバ5yの先端5ybにデポジットなどが付着してしまうと、液膜厚さ計測装置20zによる液膜の厚さFの計測感度が低下してしまう虞がある。
【0079】
そこで、本発明では、光ファイバ5xの先端5xb及び光ファイバ5yの先端5ybの各々に対して、デポジットなどを分解する光触媒などを塗布しておくことが好ましい。これにより、光ファイバ5xの先端5xb及び光ファイバ5yの先端5ybに対するデポジットなどの付着を抑制でき、液膜厚さ計測装置20zによる液膜の厚さFの計測感度が低下してしまうことを抑制できる。
【0080】
(光センサの出力電圧値から液膜厚さへの換算方法)
次に、光センサ7の出力電圧値Vから液膜の厚さFへ換算するための方法について説明する。
【0081】
本実施形態では、液膜厚さ計測装置20zは、ECU112からの計測指令に係る信号Sig1に基づき、上記した液膜厚さの基準点算出方法によって算出された基準電圧値V0と、1サイクル毎に算出された光センサ7の出力電圧値Vi(iは自然数;例えば、「V1」は図6(c)に示す1回目のサイクルに係る出力電圧値を、「V2」は2回目のサイクルに係る出力電圧値を、・・・、「Vi」はi回目のサイクルに係る出力電圧値を夫々示している)とに基づいて、1サイクル毎の液膜の厚さFを算出する。なお、「1サイクル」とは、例えば、内燃機関が4気筒の場合、吸気行程、圧縮行程、燃焼・膨張行程、排気行程に至る一連の行程をいう。
【0082】
より具体的には、ECU112は、液膜厚さ計測装置20zによる基準電圧値V0の計測後であって、吸気行程の終了後の吸気弁107及び排気弁109が閉じられている期間中に、以下の式1に基づいて、内燃機関80の吸気ポート105の壁面105aに付着する1サイクル毎の液膜の厚さFを算出する。
【0083】
Fi=Vi−V0 (添え字の「i」はサイクル数を示す) (式1)
ここで、内燃機関80の液膜には、通常、蛍光物質(例えば、ガソリンやディーゼルの添加剤に含まれる)が混入されているが、同一の燃料(液膜)であっても製造ロット毎に蛍光物質の含有量は異なるものである。このため、液膜の蛍光11の強度は燃料の製造ロット毎に異なるものであり、それ故、液膜の厚さFも燃料の製造ロット毎に異なってしまうことになる。このような弊害を除去する為には、絶えず液膜の蛍光強度の校正を行う必要がある。
【0084】
そこで、本実施形態では、燃料導入経路126に規定厚さ部分を設けて、その規定厚さ部分に流入する燃料を蛍光させて、その蛍光の強度などに基づき単位蛍光強度当たりの液膜の厚さを算出して、この算出値を上記の式1に反映させることで、絶えず液膜の蛍光強度の校正を行う。
【0085】
以下、この点について、図5及び図7(a)を参照して説明する。
【0086】
図7(a)は、図5の燃料導入経路126の領域A10付近に対応する拡大断面図であり、燃料導入経路126の途中に設けられた絞り方式に係る規定厚さ部分を模式的に示す。なお、図7(a)中の矢印方向は、燃料の流れる方向を示している。
【0087】
図7(a)に示すように、燃料導入経路126の途中には、燃料タンク115と燃料噴射装置104とを繋ぐ本管126aから細くなるように絞り込まれた形状を有し、且つ規定の厚さ(燃料の流れる方向に対して直交する方向の長さ又は直径)Lを有する規定厚さ部分(矩形状の一点鎖線部分)116が設けられている。また、光ファイバ5yの先端5ybは、規定厚さ部分116に紫外光を照射する位置に配置されている。
【0088】
以上の構成の下、液膜厚さ計測装置20zは、ECU112からの計測指令に係る信号Sig1に基づき、発光素子2より発光された紫外光8を、上記した原理に基づき光ファイバ5yの先端5ybから規定厚さ部分116内を流れる燃料に向けて照射する。これにより、燃料に含まれる添加剤の蛍光部分A11から蛍光11を含む光9が発せられる。この蛍光11を含む光9を光ファイバ5yの先端5ybが受光すると、その受光した蛍光11を含む光9は、上記した原理に基づき紫外光カットフィルタ6によって蛍光11のみが取り出され、その取り出された蛍光11は光センサ7によって受光される。光センサ7は、その受光した燃料の蛍光部分A11の強度を検出すると共に、その検出した燃料の蛍光の強度に応じた出力電圧値Vbaseに係る信号Sig2をECU112に出力する。
【0089】
ECU112は、単位蛍光強度当たりの液膜の厚さを算出する液膜厚さ換算手段として機能し、規定厚さ部分116における規定の厚さLと、光センサ7によって検出された規定厚さ部分116の蛍光11の強度に応じた出力電圧値Vbaseとに基づいて、単位蛍光強度当たりの液膜の厚さkを算出する。例えば、ECU112は、単位蛍光強度当たりの液膜の厚さkを以下の式2に基づいて算出する。
【0090】
k=L/Vbase (式2)
ここで、上記の式2の右項において、「L」は規定厚さ部分116の厚さ(直径)であり、また、「Vbase」は規定厚さ部分116の蛍光11の強度に応じた出力電圧値である。
【0091】
次に、ECU112は、当該単位蛍光強度当たりの液膜(液膜)の厚さkと、上記した基準電圧値V0と、1サイクル毎に算出された光センサ7からの出力電圧値Viとに基づいて、1サイクル毎の液膜の厚さFiを算出する。
【0092】
例えば、ECU112は、以下の式3に基づき液膜の厚さFiを算出する。
【0093】
Fi=k×(Vi−V0) (添え字の「i」はサイクル数を示す) (式3)
このように、内燃機関80の壁面、例えば吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の厚さFは、出力電圧値Viの基準電圧値V0に対する差と、単位蛍光強度当たりの厚さkとにより算出される。
【0094】
また、本発明において、液膜の厚さFをより精度良く算出するためには、液膜厚さ計測装置20z等に起因する計測ノイズを除去することが望ましい。この場合、ある規定のクランク間隔毎に液膜の厚さFを平均化(例えば、液膜の厚さFを所定のクランク角毎に複数回計測し、それらを平均化した値を、そのサイクルにおける測定値とする)する処理をECU112に行わせることにより、液膜厚さ計測装置20z等に起因する計測ノイズを除去することができる。
【0095】
なお、本発明では、規定厚さ部分116の構成は上記した絞り方式に限定されることなく、様々な方式を採用することができる。例えば、図7(b)は、図5の燃料導入経路126の領域A10付近に対応する拡大断面図であり、燃料導入経路126の途中に設けられたバイパス方式の規定厚さ部分を模式的に示す。なお、以下では、図7(a)と共通する要素については同一の符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0096】
この例では、燃料導入経路126の途中に、燃料タンク115と燃料噴射装置104とを繋ぐ本管126aと、本管126aの上流とその下流126aとを繋ぐバイパス管126bとが設けられている。バイパス管126bには、規定の厚さ(燃料の流れる方向に対して直交する方向の長さ又は直径)Lを有する規定厚さ部分116(矩形状の一点鎖線部分)が設けられている。本発明では、このようなバイパス方式に係る規定厚さ部分116を用いて、上記の式2に基づき、単位蛍光強度当たりの液膜の厚さkを算出するようにしてもよい。
【0097】
(液膜の厚さから液膜の付着量への換算方法)
次に、図8を参照して、液膜の厚さから液膜の付着量への換算方法について説明する。
【0098】
図8(a)は、内燃機関80の壁面、例えば吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の厚さFから液膜の付着量Mに換算する液膜厚さ−液膜付着量換算マップを示す。図8(a)において、横軸は吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の厚さを示し、縦軸は吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の付着量を示す。図8(a)におけるグラフgxは、液膜の厚さFと液膜の付着量との関係を示す勾配(傾き)αを有するグラフである。
【0099】
ECU112は、図示しない内燃機関80の吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の付着量Mを算出するための液膜付着量算出手段として機能する。ECU112は、上記において算出された内燃機関80の吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の厚さFと、ECU112の記憶手段に記憶された図8(a)に示す液膜厚さ−液膜付着量換算マップとに基づいて、吸気ポート105の壁面105aに対する液膜の付着量Mを算出する。例えば、液膜付着量算出手段は、液膜の付着量Mを以下の式4に基づいて算出する。
【0100】
Mi=α×{k×(Vi−V0)} (「i」はサイクル数を示す) (式4)
ここで、上記の式4において、「α」は図8(a)の液膜厚さ−液膜付着量換算マップに示されるグラフの勾配(傾き)を示す。
【0101】
なお、本発明では、内燃機関80の壁面、例えば吸気ポート105の壁面105aの複数箇所に対して複数の光ファイバ5の先端を各々配置することで、その複数箇所の各々に対応した液膜の厚さFを算出することが可能となる。しかしながら、この場合、吸気ポート105の壁面105aの複数箇所の各々に付着する液膜の厚さFは、吸気ポート105の壁面105aの複数箇所の各々の形状等により通常異なるものであり、吸気ポート105の壁面105aの複数箇所の各々に対応する液膜厚さ−液膜付着量換算マップを用いなければ、吸気ポート105の壁面105aの複数箇所の各々の液膜の付着量Mを算出することはできない。
【0102】
そこで、このような構成の下では、内燃機関80の壁面の複数箇所(複数の計測点)の液膜の厚さFを、その計測点の液膜の付着量Mに換算するための液膜厚さ−液膜付着量換算マップをECU112の記憶手段に記憶させておく。例えば、図8(b)は、内燃機関80の壁面の各箇所(計測点1乃至4)における液膜の厚さFから、その各々に対応する液膜の付着量Mを算出するための液膜厚さ−液膜付着量換算マップを示す。図8(b)において、「α」は計測点1に係るグラフの勾配(傾き)を示し、「β」は計測点2に係るグラフの勾配(傾き)を示し、「γ」は計測点3に係るグラフの勾配(傾き)を示し、「ζ」は計測点4に係るグラフの勾配(傾き)を示す。かかる液膜厚さ−液膜付着量換算マップを用いることにより、内燃機関80の壁面の各箇所(計測点1乃至4)における液膜の厚さFから、その各々に対応する液膜の付着量Mを算出することが可能となる。また、液膜の付着量Mを算出することができるので、これに基づき内燃機関80の燃料噴射装置104による燃料噴射制御を高精度に行うことが可能となる。
【0103】
(過渡運転時における燃料噴射制御処理)
車両の加速時や減速時など、内燃機関80の運転状態が変動する過渡運転時(特に内燃機関80の冷間時における過渡運転時)において、燃料噴射装置104を通じた適切な燃料噴射制御が行われないと、粒子状物質(スモーク)、窒素酸化物(NOx)および炭化水素(HC)などが大気中に大量に排出されてしまい、エミッションの悪化をもたらすといった課題がある。
【0104】
そこで、本実施形態では、内燃機関80の過渡運転時において、液膜厚さ計測装置20zを用いて内燃機関80の壁面に付着した液膜の厚さFを計測することで、上記した各式に基づいて液膜の厚さFから液膜の付着量Mを算出し、これに基づいて燃料噴射装置104を通じた燃料噴射の適切な制御を行うと同時にエミッションを低減させる。
【0105】
以下、図9等を参照して、本発明の実施形態に係る過渡運転時における燃料噴射制御処理について説明する。
【0106】
図9は、内燃機関の過渡運転時における燃料噴射制御処理に係るフローチャートを示す。この過渡運転時における燃料噴射制御処理は、内燃機関80の過渡運転開始と同時に実行され、過渡運転が終了するまで1サイクル毎に繰り返し実行される。なお、図9の各処理における各変数の添え字の「i」は1、2、・・・、iサイクル数を表している。
【0107】
ECU112は、噴射量増量係数決定手段として機能し、まず、過渡運転時における噴射量増量係数Yを決定する(ステップS1)。ここで、噴射量増量係数Yは、以下の式5に基づいて算出される。
【0108】
Y=y×x (式5)
ここで、上記の式5において、「y」は内燃機関80の運転状態に基づいて決定される基準噴射量増量係数であり、「x」は基準噴射量増量係数yに対する補正係数である。なお、過渡運転時における1サイクル目は、x=1(初期値)に設定される。
【0109】
次に、ECU112は、ステップS1において算出された噴射量増量係数Yに基づいて燃料噴射期間を算出し(ステップS2)、燃料噴射装置104は、ECU112から出力される信号Sig8に基づき、算出された燃料噴射期間だけ吸気ポート105に向けて所定の噴射量(燃料噴射量=Qi)の燃料を噴射する。
【0110】
次に、ECU112は、吸気行程の終了後に、液膜厚さ計測装置20zに対して計測指令に係る信号Sig1を出力して、液膜厚さ計測装置20zの光センサ7から出力される出力電圧値Viを取得する。ECU112は、上記の式3に基づいて、吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の厚さFi{=k×(Vi−V0)}を算出する(ステップS5)。
【0111】
次に、ECU112は液膜付着量算出手段として機能し、上記した式4に基づき、算出した吸気ポート105の壁面105aに付着する液膜の厚さFiを液膜の付着量Mi[=α×{k×(Vi−V0)}]に換算する(ステップS6)。
【0112】
次に、ECU112は、今回のサイクルに対応する液膜の付着量Miと前回のサイクルに対応する液膜の付着量Mi−1との差分ΔMを算出する(ステップS7)。
【0113】
次に、ECU112は、ステップS7において算出されたΔMがほぼ0(ΔM≒0)であるか否かにつき判定する(ステップS8)。このステップS8において、ΔMがほぼ0である場合には、ECU112は、吸気ポート105の壁面105aに対する液膜の付着量Miがほぼ一定になったものと判断して、本過渡運転時における燃料噴射制御処理の実行を終了する(ステップS8;Yes)。一方、ΔMがほぼ0でない場合(ステップS8;No)には、ECU112は筒内流入量算出手段として機能し、今回のサイクル(iサイクル)での燃料噴射量Qiと、今回のサイクル(iサイクル)での液膜の付着量Miとに基づいて、燃焼室内(筒内)106に対する今回の燃料の流入量Ciを算出する(ステップS9)。ここで、「Mi」が吸気ポート105の壁面105aに対する液膜の付着量の場合には、筒内燃料流入量Ciは、以下の式6に基づいて算出される。
【0114】
Ci=Qi−Mi (式6)
次に、ECU112は補正係数算出手段として機能し、ステップS9において算出された今回の筒内燃料流入量Ciと、過渡運転開始からの経過サイクル数に基づき決定される筒内流入量の基準値(基準流入量;以下同様)Cbaseとに基づいて、今回の筒内燃料流入量Ciが基準値(基準流入量)Cbaseとなるように、噴射量増量係数Yを決定するための補正係数xを算出する(ステップS10)。具体的には、補正係数算出手段は、図10に示す過渡運転開始からの経過サイクル数−筒内燃料流入量マップを参照して、以下の式7に基づいて算出する。
【0115】
x=Cbase/Ci (式7)
なお、図10において、縦軸は筒内燃料流入量Cを示し、また、横軸は過渡運転開始からの経過サイクル数を、またグラフは過渡運転開始からの経過サイクル数に基づき決定される筒内流入量の基準値Cbaseを夫々示す。
【0116】
ここで、iサイクル目において、筒内燃料流入量Ciが基準値(三角印)Cbaseより少ない場合(丸印)は補正係数xの値が大きくなるため、これに伴って、次回のサイクルに係る噴射量増量係数Yの値も大きくなる。一方、iサイクル目において、筒内燃料流入量Ciが基準値(三角印)Cbaseより多い場合(四角印)は補正係数xの値が小さくなるため、これに伴って、次回のサイクルに係る噴射量増量係数Yの値も小さくなる。
【0117】
以上に述べた過渡運転時における燃料噴射制御処理が所定の条件(ΔMがほぼ0)を満たすまで行われる。これにより、内燃機関80の過渡運転時(特に内燃機関80の冷間時における過渡運転時)において、燃料噴射装置104を通じた高精度な燃料噴射が行われるので、粒子状物質(スモーク)、窒素酸化物(NOx)および炭化水素(HC)などが大気中に大量に排出されてしまうことを抑制でき、エミッションを低減させることが可能となる。
【0118】
[変形例]
上記の内燃機関80では、第2実施形態に係る液膜厚さ計測装置20zを適用することにしたが、これに限らず、本発明では、第1実施形態に係る液膜厚さ計測装置100を適用することにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液膜厚さ計測装置の構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態の液膜厚さ計測装置に係る蛍光を含む光の波長特性、蛍光の波長特性、紫外光カットフィルタの透過率特性及び光センサの出力電圧と液膜厚さとの関係を示すグラフである。
【図3】本発明の第2実施形態に係る光路切替装置を備える液膜厚さ計測装置の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の各種形態例に係る光路切替装置の構成を示す要部断面図である。
【図5】本発明の液膜厚さ計測装置を適用した内燃機関の全体構成を示す断面図である。
【図6】液膜厚さ計測装置を用いた液膜厚さ計測時における蛍光強度のゼロ点補正方法に係るタイムチャートを示す。
【図7】図5の領域A10に対応する内燃機関の要部断面図であり、光センサの出力電圧値から液膜厚さへの換算方法の一例についての説明図である。
【図8】液膜の厚さから液膜の付着量に換算するための液膜厚さ−液膜付着量換算マップを示す。
【図9】本実施形態に係る過渡運転時における燃料噴射制御処理に係るフローチャートを示す。
【図10】噴射量増量係数Yを決定するための補正係数xを算出する際に用いられる過渡運転開始からの経過サイクル数−燃料の筒内流入量マップを示す。
【符号の説明】
【0120】
1 筐体
2 発光素子
3 ハーフミラー
4 カップリング
5、5x、5y 光ファイバ
6 紫外光カットフィルタ
7 光センサ
8 紫外光
9 蛍光を含む光
10 基材
11 蛍光
12 液膜
20、20z 液膜厚さ計測装置
20x 光学系本体
22 ミラー
22a 反射面
23 モータ
30、31、32、33 光路切替装置
80 内燃機関
100 内燃機関の制御装置
104 燃料噴射装置
105 吸気ポート
105a 壁面
107 吸気弁
109 排気弁
112 ECU
115 燃料タンク
116 規定厚さ部分
126 燃料導入経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液膜に対する紫外光の照射によって前記液膜から発せられる蛍光の強度に基づいて前記液膜の厚さを計測する液膜厚さ計測装置であって、
前記紫外光を発光する発光素子と、
前記発光素子からの前記紫外光を透過させると共に、前記液膜からの前記蛍光を含む光を反射させるハーフミラーと、
前記ハーフミラーを透過した前記紫外光を前記液膜に向けて伝送すると共に、前記液膜から発せられた前記蛍光を含む光を前記ハーフミラーに向けて伝送する光ファイバと、
前記ハーフミラーにて反射された前記蛍光を含む光から紫外光をカットして前記蛍光のみを透過させる紫外光カットフィルタと、
前記紫外光カットフィルタを透過した前記蛍光を受光して前記液膜の前記蛍光の強度を検出すると共に、検出した蛍光の強度に応じた電圧値を出力する光センサと、を備えることを特徴とする液膜厚さ計測装置。
【請求項2】
前記光ファイバは1つであり、
前記光ファイバは、単一の光路により、前記ハーフミラーを透過した前記発光素子からの前記紫外光を前記液膜に向けて伝送するとともに、前記液膜から発せられた前記蛍光を含む光を前記ハーフミラーに向けて伝送することを特徴とする請求項1に記載の液膜厚さ計測装置。
【請求項3】
前記発光素子、前記ハーフミラー、前記紫外光カットフィルタ及び前記光センサは、1つの筐体内に収容されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液膜厚さ計測装置。
【請求項4】
前記光ファイバの一端は、前記ハーフミラーを透過した前記紫外光を受光することが可能な位置に配置されていると共に、
前記光ファイバの他端は、前記受光した前記紫外光を前記液膜に向けて伝送することが可能な位置に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液膜厚さ計測装置。
【請求項5】
受けた光を反射させる反射面を含むミラーと、前記ミラーの回転角度を制御するモータと、を有する光路切替装置を更に備え、
前記ミラーの周囲には、複数の前記光ファイバの一端が適宜の間隔をおいて配置されていると共に、前記液膜の複数の計測部分には、前記複数の前記光ファイバの他端が夫々配置され、
前記モータは、前記ハーフミラーを透過した前記発光素子側からの前記紫外光が前記ミラーの前記反射面によって前記複数の前記光ファイバのうちいずれかの前記光ファイバの前記一端側の光路に向けて反射されるように、且つ、前記液膜側から当該いずれかの前記光ファイバの前記一端の光路を通じて出射された前記蛍光を含む光が前記ミラーの前記反射面によって前記ハーフミラー側に反射されるように前記ミラーの前記回転角度を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液膜厚さ計測装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液膜厚さ計測装置を備え、
前記液膜厚さ計測装置は、内燃機関の壁面に付着する前記液膜の厚さを算出することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記液膜厚さ計測装置は、前記内燃機関のクランキング時の燃料噴射前における基準状態の時に得られた前記光センサからの電圧値を、前記液膜の厚さがゼロとなる基準電圧値とすることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記液膜の成分たる燃料が導入される燃料導入経路と、単位蛍光強度当たりの前記液膜の厚さを算出する液膜厚さ換算手段と、を備え、
前記燃料導入経路は規定の厚さを有する規定厚さ部分を有し、
前記紫外光の照射によって前記規定厚さ部分の前記燃料から発せられる前記蛍光の強度は、前記規定厚さ部分に設けられた前記光ファイバを通じて前記光センサによって検出され、
前記液膜厚さ換算手段は、前記規定厚さ部分における前記規定の厚さと、前記光センサによって検出された前記規定厚さ部分の前記蛍光の強度とに基づいて、前記単位蛍光強度当たりの前記液膜の厚さを算出することを特徴とする請求項6又は7に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
気筒と、前記気筒に対応して設けられた吸気弁及び排気弁と、を備え、
前記液膜厚さ計測装置は、前記気筒における吸気行程の終了後の前記吸気弁及び前記排気弁が閉じられている期間中に、当該吸気行程から排気行程に至るサイクルでの前記内燃機関の壁面に付着する前記液膜の厚さを計測することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記液膜の厚さを前記液膜の付着量に換算するための液膜厚さ−液膜付着量換算マップと、前記内燃機関の前記壁面に付着する前記液膜の付着量を算出するための液膜付着量算出手段と、を備え、
前記液膜付着量算出手段は、前記内燃機関の前記壁面に付着する前記液膜の厚さと、前記液膜厚さ−液膜付着量換算マップとに基づいて、当該液膜の付着量を算出することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
筒内に対する前記燃料の基準噴射量増量係数と補正係数とに基づいて、前記筒内に対する前記燃料の噴射量増量係数を決定するための噴射量増量係数決定手段と、
前記筒内に対する1回の燃料噴射当たりの前記燃料の流入量を算出するための1噴射当たりの筒内流入量算出手段と、
前記補正係数を算出するための補正係数算出手段と、を備え、
前記内燃機関の過渡時において、
前記1噴射当たりの筒内流入量算出手段は、前記液膜付着量算出手段により算出された今回のサイクルに対応する前記液膜の付着量と、前記液膜付着量算出手段により算出された前回のサイクルに対応する前記液膜の付着量との差分に基づいて、前記1回の燃料噴射当たりの前記燃料の流入量を算出し、
前記補正係数算出手段は、前記算出された前記1回の燃料噴射当たりの前記燃料の流入量が、前記筒内に対する前記燃料の基準流入量となるように前記補正係数を算出し、
前記噴射量増量係数決定手段は、前記算出された前記補正係数と前記基準噴射量増量係数とに基づいて、次回のサイクルの前記燃料の噴射量増量係数を決定することを特徴とする請求項10に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−103630(P2009−103630A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277154(P2007−277154)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】