説明

測長装置

【課題】干渉計を利用した測長において、環境変動により測定光路上の光学窓の厚みが変動しても影響の小さい測長装置を提供する。
【解決手段】測定光路上に、内部が真空で両端に光学窓10b、10cを有する真空管10を配置する。各光学窓10b、10cは、厚みが異なる2つの部分を有する構成とする。各光学窓10b、10cの厚みが異なる部位へ2本の測長レーザ2a、2bの測定光を入射させ、測定ミラー5でそれぞれ反射させて、参照ミラー6による参照光と干渉させる。測長レーザ2a、2bによる2つの測長値を用いて、環境変動に起因する光学窓10b、10cの厚み変化による光路長変動の影響を除去した測長を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密加工機や計測装置などに用いる高精度な測長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密加工機や計測装置において、加工精度、計測精度を向上させるためレーザ干渉計を利用した測長装置が用いられている。レーザ干渉計は、高分解能な測長が可能であるが、環境変動によって測定光路の光路長が変動し、測長精度が悪化してしまう課題がある。
【0003】
この問題に対して、例えば特許文献1、特許文献2では、測定光路に真空管を設置し、測定光路の大部分を真空にすることにより環境変化の影響を受けにくい測長装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−313002号公報
【特許文献2】特開平7−174510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献に開示された構成は、図4に示すように、レーザ光源101、偏光ビームスプリッター104、測定ミラー105、参照ミラー106、1/4波長板107、108、受光素子109等を備える。偏光ビームスプリッター104は偏光膜104Aを有し、偏光ビームスプリッター104と測定ミラー105の間が測定光路となる。真空管110は、測定光路の大気部分をできるだけ無くすように設置されている。真空管110は、筒部110aを有し、その内部は真空であり、気圧変化、温度変化の影響を受けないが、密閉した真空管110には、測長レーザ102を透過させる光学窓110b、110cが必要である。光学窓110b、110cは、ガラス材で製作されているのが一般的である。
【0006】
ガラス材は、屈折率が1.4〜2であり、大気の屈折率(1.000276)や真空の屈折率(1)と大きく異なる。そのため、光学窓の厚みが温度変化により変化すると光路長が変動する。さらに、ガラス材は、温度変化による屈折率の変化も大きい。つまり、真空を用いることにより気圧変化による大気の光路長変化を低減しても、温度変化に起因する光学窓の厚み変化のために光路長が変化してしまう課題がある。
【0007】
本発明は、干渉計を利用した測長において、環境変化により測定光路の光路長が変動しても影響の小さい測長装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の測長装置は、分割手段によって測長レーザを分割し、測定ミラーによって反射させた測定光と参照ミラーによって反射させた参照光とを干渉させて得られる測長値により、前記測定ミラーの位置を検出する測長装置において、前記測定光の光路を真空に保つための真空管と、前記真空管の端部に配置された光透過部材と、前記光透過部材に配置された第1の光透過部と、前記光透過部材に配置された、前記第1の光透過部とは厚みの異なる第2の光透過部と、互いに平行な第1および第2の測長レーザを発生させる手段と、前記分割手段によって前記第1の測長レーザを分割し、前記真空管および前記光透過部材の前記第1の光透過部を透過させて前記測定ミラーによって反射させた測定光と前記参照ミラーによって反射させた参照光とを干渉させて第1の測長値を得るための第1の光学手段と、前記分割手段によって前記第2の測長レーザを分割し、前記真空管および前記光透過部材の前記第2の光透過部を透過させて前記測定ミラーによって反射させた測定光と前記参照ミラーによって反射させた参照光とを干渉させて第2の測長値を得るための第2の光学手段と、前記第1および前記第2の測長値を用いて、前記光透過部材の厚み変化による測長誤差を補正する演算手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
測定光路上に設置された真空管の両端における光路長変動を厚みの違う光透過部ごとに測長し、測定光路ごとの厚み変化の比率と測長結果から演算を行い、環境変動による測長誤差を補正することができる。
【0010】
工作機械の回転軸の中空部に真空管を設置すれば、回転駆動によって発熱することによる温度変化に対して測長誤差を低減し、高精度に回転軸変位を測長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1による測長装置の構成を示す図である。
【図2】実施例1の測長装置を工作機械の回転軸に搭載した例を示す模式断面図である。
【図3】図2の装置の変形例を示す模式断面図である。
【図4】従来例による測長装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1による測長装置の構成を示す。レーザ光源1は、レーザ2を出射している。台形型無偏光ビームスプリッター3は、レーザ2を分割して、互いに平行な第1および第2の測長レーザ2a、2bを発生させる手段である。測長レーザ2a、2bは、分割手段である偏光ビームスプリッター4に入射する。偏光ビームスプリッター4には、偏光膜4Aがコーティングされている。測定ミラー5は、測長レーザ2a、2bの進行方向に設置されている。参照ミラー6は、測長レーザ2a、2bが偏光膜4Aにより反射していく方向に設置されている。偏光ビームスプリッター4には、測定ミラー5および参照ミラー6の方向に、1/4波長板7、8が固定されている。第1の光学手段である受光素子9aおよび第2の光学手段である受光素子9bは、偏光ビームスプリッター4を挟んで参照光を反射させる参照ミラー6の反対側に設置されている。真空管10は、内部を真空にしてあり、1/4波長板7と測定ミラー5の間に設置されている。真空管10は、筒部10aと、その端部に配置された、レーザを透過する光透過部材である光学窓10b、10cとで構成されている。各光学窓10b、10cは、第1の測長レーザ2aの測定光と、第2の測長レーザ2bの測定光が透過する場所で厚みの異なる第1および第2の光透過部を有する。光学窓10bの測長レーザ2aが透過する場所に配置された第1の光透過部の厚みはt1a、測長レーザ2bが透過する場所である第2の光透過部の厚みはt1bである。また、光学窓10cの、測長レーザ2aが透過する第1の光透過部の厚みはt2a、測長レーザ2bが透過する第2の光透過部の厚みはt2bである。光学窓10b、10cの各厚みは次式を満たすようにしてある。
【0013】
【数1】

【0014】
次に測長方法について説明する。環境変動として、光学窓10b、10c近傍の温度変化をそれぞれΔT11、ΔT12とする。また、大気光路は、真空管10と測定ミラー5および1/4波長板7の隙間と偏光ビームスプリッター4と参照ミラー6の隙間とを揃えているので測長誤差は小さい。そこで、式上は大気光路に関係した項目を省略する。
【0015】
測長レーザ2aを分割した測定光と参照光を干渉させて得られる、測定ミラー5の位置を検出するための第1の測長値Laは次式で表される。
【0016】
【数2】

【0017】
ここで、ΔXは、偏光ビームスプリッター4に対する測定ミラー5の相対位置の変化量であり、測定したい値である。αは光学窓10b、10cの温度変動に対する測長光路の変化率である。
【0018】
式(2)に示されるように、測定したい値ΔXに対して、測長値Laには、光学窓10b、10cの厚みが温度変化することによる測長誤差が入っている。そこで、本発明では、光学窓10b、10cの温度変化による光路長の変化を補正するために、2系統の測長を行っている。測長レーザ2bにより測長される第2の測長値Lbは次式で表される。
【0019】
【数3】

【0020】
式(1)、(2)、(3)より次式を得る。
【0021】
【数4】

【0022】
式(4)より、光学窓10bの厚みt1a、t1bの比率と測長値La、Lbを用いてΔXを算出する。
【0023】
このような測長誤差を補正する演算を行う演算手段を設けることで、光学窓10b、10cの厚み変化によって光路長が変動しても、高精度な測長を行うことができる。例えば、工作機械の回転軸変位を、環境変動の影響を低減して高精度に測長(検出)することができる。
【0024】
測長対象である工作機械の回転軸構成を図2に示す。回転軸11は、ハウジング12より静圧軸受13、14、15、16を介して支持されている。回転モータ17は、回転軸11を回転駆動させる。回転軸11は中空であり、先端の裏面に測定ミラー5が設置されている。回転軸11の中空部には、真空管保持冶具18により保持された真空管10が設置されている。真空管保持冶具18は、回転駆動する回転軸11ではなく、回転駆動しない偏光ビームスプリッター4と同一の場所に固定されている。真空管10と真空管保持冶具18は回転軸11と非接触である。真空管10と測定ミラー5および1/4波長板7は非接触であり、大気圧の変動による測定への影響を小さくするために隙間が0.3mm以下となる位置に固定されている。また、真空管10と測定ミラー5および1/4波長板7の隙間は、偏光ビームスプリッター4と参照ミラー6の隙間と揃えるように配置されている。
【0025】
回転駆動をする工作機械では、回転軸11が回転駆動を行うと、回転軸11と静圧軸受13、14、15、16との間の空気膜で摩擦による発熱が生じる。それにより、回転軸11が熱変位し、先端位置が変化することにより加工精度が悪化してしまう。
【0026】
ここで、図4に示す従来の構成により測定を行うと、真空管110は発熱源が近くにあるために温度が上昇してしまう。それにより、光学窓110b、110cの光路長が変動してしまうので高精度な測長が行うことができない。本実施例では、光学窓10b、10cの光路長の変動を補正した測長を行うことにより、基準となる位置に設置されている偏光ビームスプリッター4から回転軸11の先端裏面に設置されている測定ミラー5までの距離を高精度に測長することができる。
【0027】
なお、本実施例では、真空管10を回転駆動しない偏光ビームスプリッター4と同一の場所に固定したが、回転軸11に固定してもよい。回転軸11に真空管10を固定した場合の構成を図3に示す。真空管保持冶具19、20は、回転駆動する回転軸11に固定されており、真空管10と共に回転駆動する。ここで、真空管10と回転軸11の熱変位量が違うので、真空管保持冶具19、20のどちらかは、例えば板バネで、測長方向のみに自由度を持たすことが好ましい。
【符号の説明】
【0028】
1 レーザ光源
5 測定ミラー
6 参照ミラー
9 受光素子
10 真空管
10a、10b 光学窓
11 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割手段によって測長レーザを分割し、測定ミラーによって反射させた測定光と参照ミラーによって反射させた参照光とを干渉させて得られる測長値により、前記測定ミラーの位置を検出する測長装置において、
前記測定光の光路を真空に保つための真空管と、
前記真空管の端部に配置された光透過部材と、
前記光透過部材に配置された第1の光透過部と、
前記光透過部材に配置された、前記第1の光透過部とは厚みの異なる第2の光透過部と、
互いに平行な第1および第2の測長レーザを発生させる手段と、
前記分割手段によって前記第1の測長レーザを分割し、前記真空管および前記光透過部材の前記第1の光透過部を透過させて前記測定ミラーによって反射させた測定光と前記参照ミラーによって反射させた参照光とを干渉させて第1の測長値を得るための第1の光学手段と、
前記分割手段によって前記第2の測長レーザを分割し、前記真空管および前記光透過部材の前記第2の光透過部を透過させて前記測定ミラーによって反射させた測定光と前記参照ミラーによって反射させた参照光とを干渉させて第2の測長値を得るための第2の光学手段と、
前記第1および前記第2の測長値を用いて、前記光透過部材の厚み変化による測長誤差を補正する演算手段と、を有することを特徴とする測長装置。
【請求項2】
前記測定ミラーは、工作機械の回転軸の先端に配置されており、前記回転軸は中空部を有し、前記中空部に前記真空管を設置したことを特徴とする請求項1に記載の測長装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−98092(P2012−98092A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244589(P2010−244589)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】