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溶接めっき鋼管
説明

溶接めっき鋼管

【課題】耐候性、耐水性、耐変色性および皮膜密着性のすべてに優れる化成処理皮膜を有する溶接めっき鋼管を提供すること。
【解決手段】Alを0.05〜60質量%含むAl含有Zn系合金めっき鋼板を原板として溶接めっき鋼管を作製した後に、溶接めっき鋼管の外側の表面に膜厚0.5〜10μmの化成処理皮膜を形成する。この化成処理皮膜は、カルボキシル基、スルホン酸基およびこれらの塩からなる群から選ばれる親水性官能基0.05〜5質量%とF原子7〜20質量%とを含有するフッ素含有樹脂と、前記フッ素含有樹脂に対して金属換算で0.1〜5質量%の4A族金属化合物とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性、耐食性および耐変色性に優れる溶接めっき鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、農業用ビニールハウスの躯体(骨組み)や地中埋設管などの様々な用途において、Zn系合金めっき鋼板から造管された溶接めっき鋼管が使用されている。このような溶接めっき鋼管は、そのままでは耐食性や耐変色性などが不十分な場合があるため、有機樹脂を含む化成処理皮膜をその表面に形成されることがある。たとえば、特許文献1には、Zn系合金めっき鋼板から造管された溶接めっき鋼管の外側の表面に、ウレタン樹脂などの有機樹脂を含む化成処理皮膜(有機樹脂皮膜)をポストコート方式で形成することが記載されている。
【0003】
ところで、化成処理皮膜の耐候性を向上させるために、化成処理皮膜を構成する有機樹脂として耐候性に優れるフッ素含有樹脂を使用することがある。フッ素含有樹脂組成物は、溶剤系フッ素含有樹脂組成物と水系フッ素含有樹脂組成物とに大別される。従来、耐候性の向上を目的としてフッ素含有樹脂を使用する場合、有機溶剤系フッ素含有樹脂組成物を使用するのが一般的であった。しかしながら、有機溶剤系フッ素含有樹脂組成物には、火災の危険性や有害性、大気汚染などの問題がある。
【0004】
一方、水系フッ素含有樹脂組成物は、有機溶剤系フッ素含有樹脂組成物に比べて取り扱いが容易であり、様々なものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、多くの水系フッ素含有樹脂組成物は、高温での焼き付けを必要とすることが多い(例えば180〜230℃、特許文献2参照)。たとえば、ポストコート方式で溶接めっき鋼管の表面に化成処理皮膜を形成する場合、成形加工後の現場では設備の面からこのような高温での焼き付けを行うことが難しいことがある。
【0005】
そこで、低温での焼き付けでも造膜できるように、硬化性部位(有機官能基)を導入した水系フッ素含有樹脂組成物も提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、有機官能基を利用して硬化させた化成処理皮膜は、硬化部から優先的に耐候劣化してしまうため、屋外で使用すると多孔質状になり、耐水性が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−293165号公報
【特許文献2】特開昭57−38845号公報
【特許文献3】特開平5−202260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、溶接めっき鋼管の表面に有機樹脂を含む化成処理皮膜を形成することで、耐食性や耐変色性などを向上させることができる。しかしながら、有機樹脂を含む化成処理皮膜を形成された溶接めっき鋼管は、屋外で使用した場合に耐候性が不十分である場合があった。すなわち、ウレタン樹脂などの多くの有機樹脂は紫外線により劣化してしまうため、化成処理皮膜を形成された溶接めっき鋼管を屋外で使用した場合、表面を被覆する化成処理皮膜が時間の経過とともに失われてしまうおそれがある。このように化成処理皮膜が失われてしまうと、溶接めっき鋼管の表面に腐食や変色などが発生してしまい、美観が損なわれるおそれがある。
【0008】
化成処理皮膜の耐候性を向上させる手段として、耐候性に優れるフッ素含有樹脂を使用することが考えられる。そこで、本発明者は取り扱いが容易な水系フッ素含有樹脂のエマルションを用いて溶接めっき鋼管の表面に化成処理皮膜を形成する予備実験を行った。その結果、水系フッ素含有樹脂のエマルションを使用することで耐紫外線性を向上させることはできたが、その一方で造膜性、耐水性および皮膜密着性が低下してしまった。
【0009】
本発明者によるさらなる検討の結果、これらの品質の低下は、水系フッ素含有樹脂のエマルションを製造する際に使用される乳化剤(例えば、ペルフルオロオクタン酸アンモニウム塩)が化成処理皮膜中に残存するためであることが推察された(後述の参考実験参照)。このような乳化剤の残存は、低温で焼き付けた場合に特に顕著となる。したがって、高温での焼き付けが困難な場合があるポストコート方式で化成処理皮膜を形成するときに、上記品質の低下が特に問題となる。
【0010】
以上のように、フッ素含有樹脂以外の有機樹脂を含む化成処理皮膜を形成された溶接めっき鋼管は、耐候性が不十分である場合があった。また、有機樹脂として水系フッ素含有樹脂を使用することで、化成処理皮膜の耐候性(耐紫外線性)を向上させることはできるが、その一方で造膜性、耐水性および皮膜密着性が低下してしまうことがあった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、耐候性、耐水性、耐変色性および皮膜密着性のすべてに優れる化成処理皮膜を有する溶接めっき鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、有機樹脂として親水性官能基を導入した高分子量のフッ素含有樹脂を使用し、かつこれらのフッ素含有樹脂を4A族金属化合物で架橋することで、化成処理皮膜の耐候性、耐水性、耐変色性および皮膜密着性のすべてを向上させうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の溶接めっき鋼管に関する。
[1]Alを0.05〜60質量%含むAl含有Zn系合金めっき鋼板から造管された溶接めっき鋼管であって:前記Al含有Zn系合金めっき鋼板の外側の表面に形成された、膜厚0.5〜10μmの化成処理皮膜を有し;前記化成処理皮膜は、カルボキシル基、スルホン酸基およびこれらの塩からなる群から選ばれる親水性官能基0.05〜5質量%とF原子7〜20質量%とを含有するフッ素含有樹脂と、前記フッ素含有樹脂に対して金属換算で0.1〜5質量%の4A族金属化合物とを含有する、溶接めっき鋼管。
[2]前記フッ素含有樹脂が有するカルボキシル基とスルホン酸基との比率は、カルボキシル基/スルホン酸基のモル比で5〜60の範囲内である、[1]に記載の溶接めっき鋼管。
[3]前記化成処理皮膜は、前記フッ素含有樹脂に対してP換算で0.05〜3質量%のリン酸塩をさらに含有する、[1]または[2]に記載の溶接めっき鋼管。
[4]前記化成処理皮膜は、前記フッ素含有樹脂に対して0.5〜5質量%のシランカップリング剤をさらに含有する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の溶接めっき鋼管。
[5]前記4A族金属は、Ti、Zr、Hfおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の溶接めっき鋼管。
[6]バルブメタルの酸化物または水酸化物、およびバルブメタルのフッ化物を含有する下地化成処理皮膜を、前記Al含有Zn系合金めっき鋼板と前記化成処理皮膜との間にさらに有する、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の溶接めっき鋼管。
[7]溶接後のビードカットによりめっき層が除去された溶接部およびその近傍に溶射補修層が形成されており;前記溶射補修層の最表層におけるAlの濃度は、0.05原子%以上である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の溶接めっき鋼管。
[8]農業用ビニールハウスの躯体用の鋼管である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の溶接めっき鋼管。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐候性、耐水性、耐変色性および皮膜密着性のすべてに優れる化成処理皮膜を有する溶接めっき鋼管を提供することができる。本発明の溶接めっき鋼管は、耐候性、耐食性および耐変色性に優れているため、例えば農業用ビニールハウスの躯体用の鋼管として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の溶接めっき鋼板の溶接部周辺の拡大断面図
【図2】フッ素含有樹脂皮膜における4A族金属の量と透湿度との関係を示すグラフ
【図3】フッ素含有樹脂のエマルション中の乳化剤の濃度とフッ素含有樹脂皮膜の透湿度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.溶接めっき鋼管
本発明の溶接めっき鋼管は、Al含有Zn系合金めっき鋼板を原板として造管された溶接めっき鋼管であって、その外側の表面にフッ素含有樹脂を含む化成処理皮膜を有する。本発明の溶接めっき鋼管は、特に限定されないが、例えば丸管や角管などである。
【0017】
本発明の溶接めっき鋼管は、化成処理皮膜が親水性官能基(カルボキシル基やスルホン酸基など)を導入した高分子量のフッ素含有樹脂および4A族金属化合物を含むことを一つの特徴とする。以下、本発明の溶接めっき鋼管の各構成要素について説明する。
【0018】
[Al含有Zn系合金めっき鋼板]
原板としては、耐食性および意匠性に優れるAl含有Zn系合金めっき鋼板が使用される。ここで「Al含有Zn系合金めっき鋼板」とは、Alを0.05〜60質量%含むZn系合金めっき層を有する鋼板を意味する。Al含有Zn系合金めっき鋼板の例には、溶融Al−Znめっき鋼板(溶融Zn−0.1%Alめっき、溶融Zn−55%Alめっき、溶融Zn−6%Al−3%Mgめっき、溶融Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si、溶融Zn−5%Al−0.75%Mg)、合金化Znめっき鋼板(溶融0.1%Al−Znめっき後に合金化処理した合金化溶融Al−Znめっき)などが含まれる。
【0019】
Al含有Zn系合金めっき鋼板の下地鋼としては、低炭素鋼や中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼などが使用される。加工性が必要とされる場合は、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼などの深絞り用鋼板が下地鋼として好ましい。
【0020】
Al含有Zn系合金めっき鋼板の板厚は、特に限定されないが、0.8〜3.5mmの範囲内が好ましい。また、Zn系合金めっき層の付着量も、特に限定されないが、90〜190g/mの範囲内が好ましい。
【0021】
Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面には、耐食性および皮膜密着性を向上させる下地化成処理皮膜が形成されていてもよい。下地化成処理皮膜を形成することで、Al含有Zn系合金めっき鋼板の耐食性および皮膜密着性を向上させることができる。たとえば、Al含有Zn系合金めっき鋼板を製造してから造管するまでの間に輸送または保存しなければならない場合、Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面に腐食が発生するおそれがある。このような場合、予めAl含有Zn系合金めっき鋼板の表面に下地化成処理皮膜を形成しておくと、Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面における腐食の発生を確実に防止することができる。
【0022】
耐候性の観点からは、下地化成処理皮膜は、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂などをベースとする有機系皮膜ではなく、無機系皮膜が好ましい。ウレタン樹脂やエポキシ樹脂などをベースとする有機系皮膜は、有機樹脂が優先的に耐候劣化してしまい、時間の経過とともに耐食性および皮膜密着性が急激に低下してしまうおそれがあるからである。具体的には、無機系の下地化成処理皮膜としては、バルブメタルの酸化物または水酸化物と、バルブメタルのフッ化物とを含有するものが好ましい(特許文献1参照)。ここで「バルブメタル」とは、その酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属をいう。バルブメタル元素としては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、MoおよびWから選ばれる1種または2種以上の元素が好ましい。
【0023】
バルブメタルの酸化物または水酸化物を配合することで、環境負荷を小さくしつつ(クロムフリー)、優れた腐食抑制作用を付与することができる。下地化成処理皮膜にバルブメタルの酸化物または水酸化物を含ませるには、下地化成処理液にバルブメタル塩を添加すればよい。バルブメタル塩を含む下地化成処理液を乾燥させることで、バルブメタル塩がバルブメタルの酸化物または水酸化物になる。バルブメタル塩は、例えばバルブメタルのハロゲン化物や酸素酸塩などである。たとえば、チタン塩の例には、KTiF(K:アルカリ金属またはアルカリ土類金属、n:1または2)やK[TiO(COO)]、(NHTiF、TiCl、TiOSO、Ti(SO、Ti(OH)などが含まれる。
【0024】
また、バルブメタルのフッ化物を配合することで、優れた自己修復作用を付与することができる。バルブメタルのフッ化物は、雰囲気中の水分に溶け出した後、皮膜欠陥部において露出している基材(Al含有Zn系合金めっき鋼板)の表面に難溶性の酸化物または水酸化物となって再析出し、皮膜欠陥部を埋める。下地化成処理皮膜にバルブメタルの可溶性フッ化物を含ませるには、下地化成処理液にバルブメタルの可溶性フッ化物を添加してもよいし、バルブメタル塩と可溶性フッ化物(例えば(NH)Fなど)とを組み合わせて添加してもよい。
【0025】
下地化成処理皮膜は、可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩を含んでいてもよい。可溶性のリン酸塩は、下地化成処理皮膜から皮膜欠陥部に溶出し、基材(Al含有Zn系合金めっき鋼板)のめっき成分(ZnやAlなど)と反応して不溶性リン酸塩となることで、バルブメタルの可溶性フッ化物による自己修復作用を補完する。また、難溶性のリン酸塩は、下地化成処理皮膜中に分散して皮膜強度を向上させる。可溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩に含まれる金属の例には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mnが含まれる。難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩に含まれる金属の例には、Al、Ti、Zr、Hf、Znが含まれる。下地化成処理皮膜に可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩を含ませるには、下地化成処理液に各種金属リン酸塩を添加してもよいし、各種金属塩とリン酸、ポリリン酸またはリン酸塩とを組み合わせて添加してもよい。
【0026】
また、下地化成処理皮膜は、フッ素系、ポリエチレン系、スチレン系などの有機ワックスや、シリカ、二硫化モリブデン、タルクなどの無機質潤滑剤などを含んでいてもよい。有機ワックスまたは無機質潤滑剤は、下地化成処理皮膜の潤滑性を向上させる。低融点の有機ワックスは、下地化成処理液を乾燥させるときに皮膜表面にブリードし、潤滑性を発現する。一方、高融点の有機ワックスおよび無機系潤滑剤は、下地化成処理皮膜の内部では分散して存在するが、最表層では島状に分布することによって潤滑性を発現する。
【0027】
下地化成処理皮膜の膜厚は、3〜1000nmの範囲内であることが好ましい。また、バルブメタルの付着量は、1mg/m以上であることが好ましい。下地化成処理皮膜の膜厚が3nm未満の場合、またはバルブメタルの付着量が1mg/m未満の場合、耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、下地化成処理皮膜の膜厚が1000nmを超える場合、Al含有Zn系合金めっき鋼板を成形加工する際にクラックが発生するおそれがある。
【0028】
下地化成処理皮膜を蛍光X線やESCAなどで元素分析すると、下地化成処理皮膜中のO濃度およびF濃度を測定することができる。これらの測定値から算出される元素濃度比F/O(原子比率)は、耐食性の観点から1/100以上であることが好ましい。元素濃度比F/O(原子比率)が1/100以上の場合、皮膜欠陥部を起点とする腐食の発生が顕著に抑制される。これは、十分な量のバルブメタルのフッ化物が下地化成処理皮膜中に含まれており、自己修復作用を発揮しているためと考えられる。
【0029】
[溶射補修層]
本発明の溶接めっき鋼管の溶接部およびその近傍には、溶射補修層が形成されていることが好ましい。溶接めっき鋼管の製造工程では、多くの場合、溶接部から突出したビード突出部が切削され、溶接めっき鋼管の外周面が平滑化される(ビードカット)。ビードカットをする際には、ビード突出部だけでなく、その周囲のめっき層も除去されるため、下地鋼が露出してしまい、耐食性の低下の原因となる。そこで、溶接部およびその近傍の耐食性を回復させるため、下地鋼が露出した部位に溶射補修層を形成することが好ましい。
【0030】
図1は、本発明の一実施の形態に係る溶接めっき鋼管100の溶接部周辺の拡大断面図である。図1に示されるように、下地鋼板110の表面にAl含有Zn系合金めっき層120が形成されたAl含有Zn系合金めっき鋼板(原板)の表面には、バルブメタルの酸化物などを含む下地化成処理皮膜130が形成されている。この下地化成処理皮膜130が形成されたAl含有Zn系合金めっき鋼板は、溶接金属140により溶接されている。溶接部およびその周辺は、ビードカットされており、溶接金属140だけでなく、Al含有Zn系合金めっき層120および下地化成処理皮膜130も除去されている。その結果、ビードカット部150では、下地鋼板110が露出している。溶射補修層160は、このビードカット部150に形成されており、下地鋼板110の露出している部分を被覆している。
【0031】
図1に示されるように、本発明の一つの特徴であるフッ素含有樹脂などを含む化成処理皮膜170は、Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面(より正確には、下地化成処理皮膜130の上)だけでなく、溶射補修層160の表面にも連続して形成されている。
【0032】
このように溶射補修層を形成する場合、溶射方法および溶射材の種類は特に限定されないが、溶射補修層の最表層にAlが0.05原子%以上含まれるようにすることが好ましい。後述するように、溶射補修層の表面にAlが含まれていると、溶射補修層に対する化成処理皮膜の皮膜密着性などが向上するからである。たとえば、Al、ZnおよびAlの三連溶射とすることで、溶射補修層の最表層のAl濃度を約100原子%とすることができる。溶射補修層の最表層のAl濃度は、XPS装置による元素分析で測定することができる。
【0033】
溶射補修層の最表層のAl濃度が0.05原子%以上であれば、Al以外の溶射成分は特に限定されない。Al以外の溶射成分としては、MgやZnなどが挙げられる。Mgを含有させる場合(Al−Mg)、溶接めっき鋼管の加工性を確保する観点から、Mgの含有量は5〜20質量%の範囲内が好ましい。また、Znを含有させる場合(Al−Zn)、ピンホール部における犠牲防食効果を発揮させる観点および溶接めっき鋼管の加工性を確保する観点から、Znの含有量は0.05〜30質量%の範囲内が好ましい。
【0034】
溶射補修層の最表層のAl濃度が0.05原子%以上であれば、溶射方法は、単発溶射、二連溶射および三連溶射のいずれの方法でもよいが、Al−Zn−Alの三連溶射が好ましい。Alは溶接部の露出下地鋼やめっき層表面にある酸化皮膜に対する親和性が高いことから、一層目のAlは、溶接部に対する溶射補修層の密着性を向上させる。また、二層目のZnは、鉄に対する犠牲防食作用により下地鋼の腐食を抑制する効果を発揮する。さらに、三層目のAlは、白錆の発生も抑制して、溶射補修層のバリア機能をさらに向上させる。
【0035】
溶射補修層の膜厚は、特に限定されないが、10〜30μmの範囲内が好ましい。膜厚が10μm未満の場合、溶接部の耐食性を十分に回復させることができないおそれがある。一方、膜厚が30μm超の場合、製造コストの観点から好ましくないだけでなく、下地鋼に対する溶射補修層の密着性に悪影響が出るおそれがある。
【0036】
[化成処理皮膜]
化成処理皮膜は、上述のAl含有Zn系合金めっき鋼板から造管された溶接めっき鋼管の外側の表面に形成される。より具体的には、化成処理皮膜は、Al含有Zn系合金めっき鋼板の外側の表面に形成される。前述の通り、Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面には、下地化成処理皮膜が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。下地化成処理皮膜が形成されていない場合は、Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面に化成処理皮膜が直接形成される。一方、下地化成処理皮膜が形成されている場合は、下地化成処理皮膜の上に化成処理皮膜が形成される。また、溶射補修層が形成されている場合は、化成処理皮膜は溶射補修層の表面に直接形成される(図1参照)。
【0037】
本発明は、化成処理皮膜の耐候性、耐水性および皮膜密着性のすべてを向上させることを目的としている。前述の通り、化成処理皮膜の耐候性(耐紫外線性)を向上させるためには、有機樹脂としてフッ素含有樹脂を使用すればよい。フッ素含有樹脂は、溶剤系フッ素含有樹脂と水系フッ素含有樹脂に大別される。溶剤系フッ素含有樹脂を用いて化成処理皮膜を形成する場合は、揮発した溶剤の回収が問題となるが、水系フッ素含有樹脂を用いた場合は、このような問題は生じない。そこで、本発明者は、取り扱いが容易な水系フッ素含有樹脂を使用して耐候性、耐水性および皮膜密着性のすべてに優れた化成処理皮膜を形成することを試みた。
【0038】
前述の通り、本発明者の予備実験によれば、水系フッ素含有樹脂のエマルションを用いて化成処理皮膜を形成した場合に耐水性が低下するのは、水系フッ素含有樹脂のエマルションを製造する際に使用される乳化剤が化成処理皮膜中に残存するためと考えられた(後述の参考実験参照)。そこで、本発明者は、乳化剤をほとんど使用せずに水系フッ素含有樹脂のエマルションを製造することができれば、化成処理皮膜の耐水性の低下を抑制できると考えた。そして、本発明者は、様々な水系フッ素含有樹脂について検討した結果、一定量の親水性官能基を導入したフッ素含有樹脂は、乳化剤をほとんど使用せずに水系エマルションを製造することができ、乳化剤をほとんど含まない化成処理皮膜を容易に形成できることを見出した。
【0039】
また、本発明者は、化成処理皮膜の耐水性の低下を抑制するだけでなく、耐水性を向上させることについても検討した。そして、様々な観点から検討した結果、水系フッ素含有樹脂の分子量を大きくし、かつ水系フッ素含有樹脂を4A族金属化合物で架橋することで、化成処理皮膜の耐水性を顕著に向上させうることを見出した。
【0040】
そして、本発明者は、親水性官能基を導入した高分子量のフッ素含有樹脂をベースとする化成処理液に、さらに4A族金属化合物を配合することで、耐候性、耐水性および皮膜密着性のすべてに優れる化成処理皮膜を形成できることを見出したのである。
【0041】
本発明の溶接めっき鋼管の化成処理皮膜では、1)フッ素含有樹脂(好ましくはフッ素含有オレフィン樹脂)を配合することで、耐候性(耐紫外線性)を向上させている。また、2)親水性官能基を導入したフッ素含有樹脂を使用することでエマルション製造時の乳化剤の使用を極力減らし、かつ3)フッ素含有樹脂の分子量を大きくし、かつ4)フッ素含有樹脂を4A族金属化合物で架橋させることで、耐候性(耐紫外線性)および耐水性を向上させている。
【0042】
以下、化成処理皮膜に含まれる各成分について説明する。
【0043】
1)水系フッ素含有樹脂
化成処理皮膜は、フッ素含有樹脂、より具体的にはフッ素含有オレフィン樹脂を主成分として含む。化成処理皮膜に主成分として含まれるフッ素含有樹脂の量は、70〜99質量%の範囲内が好ましい。前述の通り、化成処理皮膜を構成する有機樹脂としてフッ素含有樹脂を用いることで、化成処理皮膜の耐候性(耐紫外線性)を向上させることができる。
【0044】
フッ素含有樹脂は、有機溶剤系フッ素含有樹脂よりも、取り扱いが容易な水系フッ素含有樹脂であることが好ましい。「水系フッ素含有樹脂」とは、親水性官能基を有するフッ素含有樹脂をいう。親水性官能基の好ましい例には、カルボキシル基、スルホン酸基およびこれらの塩が含まれる。カルボキシル基またはスルホン酸基の塩の例としては、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩などが含まれる。
【0045】
好ましい水系フッ素含有樹脂(好ましくはフッ素含有オレフィン樹脂)は、親水性官能基を0.05〜5質量%有する。親水性官能基を0.05〜5質量%有するフッ素含有樹脂は、乳化剤をほとんど使用せずとも、水系エマルションとすることができる。乳化剤をほとんど含まない化成処理皮膜は、耐水性に優れた化成処理皮膜とすることができる。
【0046】
水系フッ素含有樹脂中の親水性官能基の含有量は、水系フッ素含有樹脂に含まれる親水性官能基の総モル質量を、水系フッ素含有樹脂の数平均分子量で除して求めればよい。カルボキシル基のモル質量は45であり、スルホン酸基のモル質量は81であるので、水系フッ素含有樹脂に含まれるカルボキシル基およびスルホン酸基それぞれの数を求め、それぞれにモル質量を乗じることで、水系フッ素含有樹脂に含まれる親水性官能基の総モル質量が求まる。水系フッ素含有樹脂の数平均分子量はGPCで測定される。
【0047】
水系フッ素含有樹脂におけるカルボキシル基は、めっき層(もしくは下地化成処理皮膜)の表面または溶射補修層の表面と水素結合などを形成して化成処理皮膜の密着性の向上に寄与するが、Hが解離しにくいため4A族金属化合物との架橋反応が生じにくい。一方、水系フッ素含有樹脂におけるスルホン酸基は、Hが解離しやすいものの、4A族金属化合物と架橋反応せずに未反応のまま皮膜中に残存すると、水分子の吸着作用が強いため化成処理皮膜の耐水性を著しく低下させてしまうおそれがある。したがって、それぞれの特徴を活かすべく、水系フッ素含有樹脂には、カルボキシル基およびスルホン酸基の両方を含むことが好ましい。この場合、カルボキシル基とスルホン酸基との比率は、カルボキシル基/スルホン酸基のモル比で5〜60の範囲内が好ましい。
【0048】
水系フッ素含有樹脂(好ましくはフッ素含有オレフィン樹脂)の数平均分子量は、1000以上が好ましく、1万以上がより好ましく、20万以上が特に好ましい。
【0049】
水系フッ素含有樹脂の分子量が小さすぎると、化成処理皮膜の透水性および耐水性を十分に向上させることができない。このような場合、湿気や腐食性ガスなどが化成処理皮膜を容易に貫通してAl含有Zn系合金めっき鋼板に達するため、Al含有Zn系合金めっき鋼板は容易に腐食してしまうおそれがある。また、分子量が小さい水系フッ素含有樹脂を使用した場合は、光エネルギーなどの作用により発生したラジカルがポリマー鎖の末端に作用しやすいため、水などの相乗作用により水系フッ素含有樹脂が容易に加水分解されてしまうおそれもある。これらの問題を防ぐためには、水系フッ素含有樹脂の分子量をある程度大きくしたり、水系フッ素含有樹脂間に架橋構造を形成したりすればよい。水系フッ素含有樹脂の分子量を大きくすることにより、分子間力が強くなり、化成処理皮膜の凝集力が高まるため、耐水性が向上する。また、水系フッ素含有樹脂の主鎖における原子間の結合が安定化されるため、加水分解も生じにくくなる。
【0050】
一方で、水系フッ素含有樹脂の数平均分子量は、200万以下が好ましい。数平均分子量が200万超の場合、ゲル化など化成処理液の安定性に問題が生じるおそれがある。
【0051】
水系フッ素含有樹脂中のF原子の含有量は、7〜20質量%の範囲内が好ましい。F原子の含有量が7質量%未満の場合、化成処理皮膜の耐候性を十分に向上させることができない。一方、F原子の含有量が20質量%超の場合、塗料化が困難であり、かつ密着性および乾燥性が低下するおそれがある。水系フッ素含有樹脂中のF原子の含有量は、蛍光X線分析装置を用いることで測定することができる。
【0052】
水系フッ素含有樹脂としては、フルオロオレフィンと親水性官能基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。親水性官能基含有モノマーとは、カルボキシル基含有モノマーやスルホン酸基含有モノマーである。
【0053】
フルオロオレフィンの例には、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ペンタフルオロプロピレン、2,2,3,3−テトラフルオロプロピレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン、ブロモトリフルオロエチレン、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン、1,1−ジクロロ−2,2−ジフルオロエチレンなどが含まれる。これらのフルオロオレフィンは、単独で使用されてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用されてもよい。耐候性(耐紫外線性)の観点からは、これらのフルオロオレフィンの中でも、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのパーフルオロオレフィンや、フッ化ビニリデンなどが好ましい。クロロトリフルオロエチレンなどの塩素を含むフルオロオレフィンは、塩素イオンによる腐食が生じるおそれがあるため好ましくない。
【0054】
カルボキシル基含有モノマーの一例としては、以下の式(1)に示される不飽和カルボン酸や、これらのエステルまたは酸無水物などの不飽和カルボン酸類が挙げられる。
【化1】

(式中、R、RおよびRは同じかまたは異なり、いずれも水素原子、アルキル基、カルボキシル基またはエステル基である。nは0〜20の範囲内である。)
【0055】
上記式(1)に示される不飽和カルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、5−ヘキセン酸、5−ヘプテン酸、6−ヘプテン酸、7−オクテン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸、10−ウンデシレン酸、11−ドデシレン酸、17−オクタデシレン酸、オレイン酸などが含まれる。
【0056】
カルボキシル基含有モノマーの別の例としては、以下の式(2)に示されるカルボキシル基含有ビニルエーテルモノマーが挙げられる。
【化2】

(式中、RおよびRは同じかまたは異なり、いずれも飽和または不飽和の直鎖または環状アルキル基である。nは0または1である。mは0または1である。)
【0057】
上記式(2)に示されるカルボキシル基含有ビニルエーテルモノマーの例には、3−(2−アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−アリロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−ビニロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−ビニロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸などが含まれる。
【0058】
スルホン酸基含有モノマーの例としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、3−アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホイン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0059】
フルオロオレフィンと親水性官能基含有モノマーとの共重合体には、必要に応じてさらに共重合可能な他のモノマーを共重合されていてもよい。共重合可能な他のモノマーとしては、カルボン酸ビニルエステル類、アルキルビニルエーテル類、非フッ素系オレフィン類などが挙げられる。
【0060】
カルボン酸ビニルエステル類は、相溶性および光沢を向上させたり、ガラス転移温度を上昇させたりすることができる。カルボン酸ビニルエステル類の例には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニルなどが含まれる。
【0061】
アルキルビニルエーテル類は、光沢および柔軟性を向上させることができる。アルキルビニルエーテル類の例には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが含まれる。
【0062】
非フッ素系オレフィン類は、可撓性を向上させることができる。非フッ素系オレフィン類の例には、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンなどが含まれる。
【0063】
たとえば、上記モノマーを乳化重合法で共重合させることで、親水性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体のエマルションを得ることができる。このとき、フルオロオレフィン共重合体が親水性官能基を0.05〜5質量%有するように、原料モノマー組成物におけるフルオロオレフィンの量を調整することで、乳化剤をほとんど使用せずにフルオロオレフィン共重合体の水系エマルションを製造することができる。乳化剤をほとんど含有しない(1質量%以下)フルオロオレフィン共重合体のエマルションを用いて形成された化成処理皮膜には、乳化剤がほとんど含まれない。
【0064】
このように、化成処理皮膜を構成する水系フッ素含有樹脂として、親水性官能基を有するフッ素含有樹脂を用いることで、乳化剤をほとんど含まない化成処理皮膜を容易に形成することができる。このようにして形成された化成処理皮膜は、乳化剤の残留による耐水性の劣化がほとんど見られず、優れた耐水性を発揮する。
【0065】
2)4A族金属化合物
化成処理皮膜は、4A族金属化合物を含む。4A族金属化合物は、水系フッ素含有樹脂中のカルボキシル基やスルホン酸基などの官能基と反応しやすく、水系フッ素含有樹脂の硬化または架橋反応を促進する。そのため、低温乾燥でも化成処理皮膜の耐水性を向上させることができる。
【0066】
フッ素含有樹脂の架橋に、メラミン樹脂やイソシアネート樹脂などを使用した場合、耐候劣化しやすいという問題がある。たとえば、メラミン樹脂を使用して硬化させた化成処理皮膜では、エステル結合やホルムエーテル結合などが酸化、加水分解することによりすぐに耐候劣化してしまう。また、酸性雨に含まれる硫酸イオンや硝酸イオンなどの酸性物質によって架橋構造が切断されることによっても、耐候劣化が進行する。イソシアネート樹脂を使用して硬化させた化成処理皮膜では、架橋部分に形成されるウレタン結合はF結合よりも弱いため、架橋構造が優先的に切断されてしまい、耐候劣化が進行する。
【0067】
これに対し、フッ素含有樹脂の架橋に4A族金属化合物を使用することで、このような問題を回避することが可能であり、耐候性を向上させることもできる。
【0068】
また、4A族金属化合物は、皮膜密着性、耐水性および耐変色性も向上させる。すなわち、Al含有Zn系合金めっき鋼板(または溶射補修層)の表面に存在する強固なAl酸化物は、化成処理皮膜の密着性を低下させるが、化成処理皮膜に4A族金属化合物を含ませることにより、このAl酸化物による皮膜密着性の低下を抑制することができる。また、4A族金属化合物は、エッチング反応により溶出したAlイオンと反応する4A族金属イオンの供給源ともなる。反応生成物は、めっき層(または溶射補修層)と化成処理皮膜の界面に濃化して、初期の耐食性および耐変色性を向上させる。4A族金属の例には、TiやZr、Hfなどが含まれる。
【0069】
化成処理皮膜中の4A族金属化合物の含有量は、フッ素含有樹脂に対して金属換算で0.1〜5質量%の範囲内が好ましい。含有量が金属換算で0.1質量%未満の場合、Al酸化物の濃化に起因する悪影響を十分に抑制することができず、また水系フッ素含有樹脂脂を十分に架橋させることができず、結果として化成処理皮膜の耐水性を十分に向上させることができない。一方、含有量が金属換算で5質量%超の場合、化成処理皮膜が多孔質状となり、加工性および耐候性が低下するおそれがある。
【0070】
化成処理皮膜中の4A族金属化合物の金属換算量は、蛍光X線分析装置を用いることで測定することができる。
【0071】
上述のように化成処理皮膜中にはめっき層(または溶射補修層)から溶出したAlが存在する。このAlは、耐食性の向上に寄与する。Alの存在により耐食性が向上するのは、以下のメカニズムによるものと推察される。すなわち、1)化成処理液が弱アルカリ性であるため、化成処理液を塗布した際に、めっき層(または溶射補修層)に含まれるAlの酸化物および金属Alが選択的に化成処理液に溶出する(Znはほとんど溶出しない)。2)化成処理液のpH域では、AlはAl(OH)の状態で化成処理液に溶解する。3)化成処理液を乾燥させて化成処理皮膜を形成する際に、化成処理液中のAlは脱水縮合などにより化成処理皮膜中に取り込まれる。4)その結果として、化成処理皮膜の絶縁性や緻密度などが向上し、耐食性が向上する。
【0072】
前述の通り、Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面には、下地化成処理皮膜が形成されていてもよい。下地化成処理皮膜は、Al含有Zn系合金めっき鋼板に対する化成処理皮膜の皮膜密着性を向上させる効果を有する。したがって、輸送または成形加工(溶接やビードカット、溶射などを含む)などにより下地化成処理皮膜が剥離、欠損または欠落した場合、その領域における化成処理皮膜の皮膜密着性が低下するとも考えられる。しかしながら、下地化成処理皮膜が無い領域では、フッ素含有樹脂および4A族金属化合物を含む化成処理皮膜がAl含有Zn系合金めっき鋼板の表面(またはAlを含む溶射補修層の表面)に直接接触することになり、化成処理皮膜に溶出したAlによって、化成処理皮膜の皮膜密着性が向上する。したがって、下地化成処理皮膜が剥離した箇所においても、化成処理皮膜とAl含有Zn系合金めっき鋼板(またはAlを含む溶射補修層の表面)との密着性は高く、化成処理皮膜の耐食性も高い。
【0073】
3)リン酸塩
化成処理皮膜は、さらにリン酸塩を含むことが好ましい。リン酸塩は、Al含有Zn系合金めっき鋼板のめっき層表面と反応して、化成処理皮膜のAl含有Zn系合金めっき鋼板への密着性を向上させる。
【0074】
リン酸塩の種類は、リン酸アニオンを有する化合物であって、水溶性のものであれば特に限定されない。リン酸塩の例には、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸(二リン酸)、三リン酸、四リン酸などが含まれる。これらのリン酸塩は、単独で使用されてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0075】
化成処理皮膜中のリン酸塩の含有量は、フッ素含有樹脂に対してP換算量として0.05〜3質量%の範囲内が好ましい。P換算量が0.05質量%未満の場合、めっき層表面との反応が不足して、化成処理皮膜の密着性を十分に向上させることができない。一方、P換算量が3質量%超の場合、4A族金属化合物との反応が過剰に進行して、4A族金属化合物による架橋効果が損なわれてしまう。
【0076】
化成処理皮膜中のリン酸塩のP換算量は、蛍光X線分析装置を用いることで測定することができる。
【0077】
4)シランカップリング剤
化成処理皮膜は、さらにシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤を配合することで、化成処理皮膜の密着性をより向上させることができる。シランカップリング剤としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、アルコキシ基、ビニル基、スチリル基、イソシアネート基、クロロプロピル基などの官能基を1種類または2種類以上含むシラン化合物が使用される。
【0078】
化成処理皮膜中のシランカップリング剤の含有量は、フッ素含有樹脂に対して0.5〜5質量%の範囲内が好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.5質量%未満の場合、化成処理皮膜の密着性を十分に向上させることができない。一方、シランカップリング剤の含有量が5質量%超の場合、皮膜密着性は飽和し、それ以上の向上は認められない。
【0079】
化成処理皮膜中のシランカップリング剤の含有量は、蛍光X線分析装置を用いることで測定することができる。
【0080】
化成処理皮膜の膜厚は、0.5〜10μmの範囲内が好ましい。膜厚が0.5μm未満の場合、耐食性や耐変色性などを十分に付与することができない。一方、膜厚を10μm超としても、膜厚の増加に伴う性能向上を期待することはできない。
【0081】
以上のように、本発明の溶接めっき鋼管は、耐候性、耐水性、耐変色性および皮膜密着性のすべてに優れる化成処理皮膜を有するため、耐候性、耐食性および耐変色性に優れている。たとえば、本発明の溶接めっき鋼管は、農業用ビニールハウスの躯体用の鋼管として有用である。
【0082】
本発明の溶接めっき鋼管の製造方法は、特に限定されない。たとえば、本発明の溶接めっき鋼管は、以下の方法により製造されうる。
【0083】
2.溶接めっき鋼管の製造方法
本発明の溶接めっき鋼管の製造方法は、1)Al含有Zn系合金めっき鋼板を準備する第1のステップと、2)Al含有Zn系合金めっき鋼板を成形加工して溶接めっき鋼管を作製する第2のステップと、3)溶接めっき鋼管の表面に化成処理皮膜を形成する第3のステップとを含む。
【0084】
本発明の溶接めっき鋼管の製造方法は、第3のステップにおいて、親水性官能基を導入した高分子量のフッ素含有樹脂のエマルション(平均粒径:50〜300nm)および4A族金属化合物を含む化成処理液を用いて化成処理皮膜を形成することを一つの特徴とする。以下、各ステップについて説明する。
【0085】
1)第1のステップ
第1のステップでは、原板として前述のAl含有Zn系合金めっき鋼板を準備する。前述の通り、Al含有Zn系合金めっき鋼板の表面には、耐食性および皮膜密着性を向上させるための下地化成処理皮膜が形成されていてもよい。
【0086】
下地化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、バルブメタル塩やフッ化物イオンなどを含む下地化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法でAl含有Zn系合金めっき鋼板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。
【0087】
下地化成処理皮膜を形成する際には、下地化成処理液中においてバルブメタル塩が安定して存在できるように、キレート作用のある有機酸を下地化成処理液に添加してもよい。有機酸の例には、タンニン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸、酢酸が含まれる。これらのなかでも、酒石酸などのオキシカルボン酸およびタンニン酸などの多価フェノール類は、下地化成処理液を安定化させるとともに、バルブメタルのフッ化物による自己修復作用を補完する作用も有するため、皮膜密着性の向上にも有効である。有機酸の添加量は、有機酸/金属イオンのモル比で0.02以上であることが好ましい。
【0088】
下地化成処理液の塗布量は、特に限定されないが、バルブメタルの付着量が1mg/m以上となるように、かつ下地化成処理皮膜の膜厚が3〜1000nmの範囲内となるように調整されることが好ましい。バルブメタルの付着量が1mg/m未満の場合、または下地化成処理皮膜の膜厚が3nm未満の場合、耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、下地化成処理皮膜の膜厚が1000nmを超える場合、第2のステップにおいて成形加工する際にクラックが発生するおそれがある。
【0089】
下地化成処理液の乾燥は、常温乾燥であってもよいが、連続操業を考慮すると50℃以上に保持して乾燥時間を短縮することが好ましい。しかし、200℃超に保持した場合、有機成分が熱分解して下地化成処理皮膜の効果が低下するおそれがある。
【0090】
2)第2のステップ
第2のステップでは、第1のステップで準備したAl含有Zn系合金めっき鋼板を成形加工して溶接めっき鋼管を作製する。造管方法は、特に限定されず、溶接めっき鋼管の形状や大きさなどに応じて公知の方法から適宜選択すればよい。たとえば、Al含有Zn系合金めっき鋼板をロールフォーミング加工またはロールレスフォーミング加工によりオープンパイプ状に成形した後、Al含有Zn系合金めっき鋼板の幅方向の端部を溶接する(例えば、高周波溶接)。次いで、溶接めっき鋼管から突出したビード突出部を切削した後、ビードカットされた溶接部およびその近傍に溶射補修層を形成すればよい。
【0091】
上記のようにビード突出部を切削する場合、ビードカットされた溶接部およびその近傍では、めっき層が除去されるため、下地鋼が露出してしまう。そこで、溶接部の耐食性を回復させるため、下地鋼が露出している溶接部およびその近傍に溶射補修層を形成することが好ましい。前述の通り、溶射補修層を形成する場合、溶射方法および溶射材の種類は特に限定されないが、溶射補修層の最表層にAlが0.05原子%以上含まれるようにすることが好ましい。たとえば、Al、ZnおよびAlの三連溶射とすることで、溶射補修層の最表層のAl濃度を約100原子%とすることができる。
【0092】
3)第3のステップ
第3のステップでは、前述の親水性官能基を有するフッ素含有樹脂(好ましくは、フッ素含有オレフィン樹脂)のエマルションと4A族金属化合物とを含む化成処理液を、第2のステップで作製した溶接めっき鋼管の表面に塗布し、乾燥させて、化成処理皮膜を形成する。
【0093】
化成処理液は、前述の親水性官能基を有するフッ素含有樹脂(好ましくは、フッ素含有オレフィン樹脂)のエマルションに、4A族金属化合物を添加することで調製されうる。化成処理液には、さらに必要に応じてリン酸塩やシランカップリング剤などを添加してもよい。
【0094】
前述の通り、水系エマルションに含まれるフッ素含有樹脂は、親水性官能基0.05〜5質量%と、F原子7〜20質量%とを含有し、かつ数平均分子量が1000〜200万の範囲内である。
【0095】
フッ素含有樹脂のエマルションの平均粒径は、50〜300nmの範囲内であることが好ましい。エマルションの平均粒径を300nm以下とすることで、エマルションの表面積が増加して互いに融着しやすくなり、低温(例えば55℃)で焼き付けても造膜することができるようになる。一方、エマルションの平均粒径を50nm未満としてしまうと、化成処理液の保存安定性が低下するおそれがある。たとえば、乳化重合法でエマルションを調製する際に、せん断速度や攪拌時間を最適化することで、エマルションの平均粒径を上記範囲内とすることができる。
【0096】
フッ素含有樹脂のエマルション中の乳化剤の含有量は、1質量%以下が好ましい。乳化剤が1質量%超の場合、焼き付け温度によっては化成処理皮膜中に乳化剤が残存してしまうおそれがある。このように化成処理皮膜中に乳化剤が残存してしまうと、化成処理皮膜の耐水性が顕著に低下してしまうため、好ましくない。前述の通り、親水性官能基を有するフッ素含有樹脂であれば、乳化剤の量を1質量%以下としても、水系エマルションを調製することができる。フッ素含有樹脂のエマルション中に含まれてもよい乳化剤としては、耐候性および耐水性の観点から、パーフルオロオクタン酸のアンモニウム塩、パーフルオロノナン酸のアンモニウム塩などのフッ素系乳化剤が好ましい。その他、公知のフッ素系界面活性剤も乳化剤として使用することができる。
【0097】
化成処理液中のフッ素含有樹脂の含有量は、水100質量部に対して、10〜70質量部の範囲内が好ましい。フッ素含有樹脂の含有量が10質量部未満の場合、乾燥過程において水の蒸発量が多くなり、化成処理皮膜の成膜性および緻密性が低下するおそれがある。一方、フッ素含有樹脂の含有量が70質量部超の場合、化成処理液の保存安定性が低下するおそれがある。
【0098】
化成処理液に添加する4A族金属化合物としては、4A族金属の酸素酸塩やフッ化物、水酸化物、有機酸塩、炭酸塩、過酸化塩などが用いられる。酸素酸塩の例には、水素酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが含まれる。
【0099】
化成処理液中の4A族金属の酸素酸塩、フッ化物、水酸化物、有機酸塩、炭酸塩または過酸化塩の含有量は、フッ素含有樹脂100質量部に対して、金属換算で0.1〜5質量部の範囲内が好ましい。これらの塩の含有量が0.1質量部未満の場合、架橋反応およびめっき層表面(または溶射補修層表面)との反応が不足して、化成処理皮膜の耐水性および皮膜密着性を十分に向上させることができない。一方、これらの塩の含有量が5質量部超の場合、架橋反応が進行して、化成処理液の保存安定性が低下するおそれがある。
【0100】
化成処理液にリン酸塩を添加する場合、化成処理液中のリン酸塩の含有量は、フッ素含有樹脂100質量部に対して、P換算で0.05〜3質量部の範囲内が好ましい。リン酸塩の含有量が0.05質量部未満の場合、化成処理皮膜の密着性を十分に向上させることができない。一方、リン酸塩の含有量が3質量部超の場合、4A族金属化合物との反応が過剰に進行して、4A族金属化合物による架橋効果が損なわれてしまうおそれがある。
【0101】
化成処理液にシランカップリング剤を添加する場合、化成処理液中のシランカップリング剤の含有量は、フッ素含有樹脂100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲内が好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.5質量部未満の場合、化成処理皮膜の密着性を十分に向上させることができない。一方、シランカップリング剤の含有量が5質量部超の場合、皮膜密着性は飽和し、それ以上の向上は認められない。また、化成処理液の保存安定性が低下してしまうおそれもある。
【0102】
化成処理液には、その他の成分として、エッチング剤や無機化合物、潤滑剤、着色顔料、染料などを必要に応じて添加してもよい。エッチング剤としては、フッ化物などが使用される。エッチング剤は、めっき層表面を活性化することにより化成処理皮膜の密着性をより高める。MgやCa、Sr、V、W、Mn、B、Si、Snなどの無機化合物(酸化物、リン酸塩など)は、化成処理皮膜を緻密化して耐水性を向上させる。フッ素系やポリエチレン系、スチレン系などの有機潤滑剤、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤は、化成処理皮膜の潤滑性を向上させる。また、無機顔料や有機顔料、有機染料などを配合することで、化成処理皮膜に所定の色調を付与することができる。
【0103】
化成処理液の塗布方法は、特に限定されず、第2のステップで作製した溶接めっき鋼管の形状などに応じて適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、浸漬引き上げ法、滴下法などが含まれる。化成処理液の液膜の厚さは、フェルト絞りやエアワイパーなどにより調整することができる。
【0104】
化成処理液の塗布量は、特に限定されないが、化成処理皮膜の膜厚が0.5〜10μmの範囲内となるように調整されることが好ましい。前述の通り、化成処理皮膜の膜厚が0.5μm未満の場合、耐食性や耐変色性などを十分に付与することができない。一方、膜厚を10μm超としても、膜厚の増加に伴う性能向上を期待することはできない。
【0105】
化成処理液の乾燥は、常温乾燥であってもよいが、連続操業を考慮すると50℃以上に保持して乾燥時間を短縮することが好ましい。しかし、300℃超に保持した場合、有機成分が熱分解して化成処理皮膜の性能が低下するおそれがある。本発明の製造方法では、化成処理液中に含まれる乳化剤の含有量が少ないため、乾燥温度を50℃程度としても乳化剤がほとんど含まれず、耐水性に優れた化成処理皮膜を形成することができる。
【0106】
以上の手順により、低温で焼き付ける場合があるポストコート方式であっても、耐候性、耐水性および皮膜密着性のすべてに優れる化成処理皮膜を有する溶接めっき鋼管を製造することができる。本発明の製造方法により製造された溶接めっき鋼管は、耐候性、耐食性および耐変色性に優れているため、例えば農業用ビニールハウスの躯体用の鋼管として有用である。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0108】
1.化成処理溶接めっき鋼管の作製
表1に示す有機樹脂の水系エマルション(いずれも不揮発分25質量%)を調製した。フッ素含有オレフィン樹脂および乳化剤を含む水系エマルション(エマルションNo.1〜9)は、水溶媒に、所定量のフルオロオレフィン、カルボキシル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマーおよび乳化剤を添加して、それらを共重合反応させることで調製した。一方、ウレタン樹脂および乳化剤を含む水系エマルション(エマルションNo.10)は、PR135(住化バイエルンウレタン株式会社)を使用した。
【0109】
なお、No.6のエマルションについては、樹脂中の親水性官能基量が不足していたため(0.05質量%未満)、安定したエマルションを得られなかった。また、No.9のエマルションについても、樹脂中のF原子量が過剰であったため(20質量%超)、安定したエマルションを得られなかった。
【0110】
【表1】

【0111】
得られた有機樹脂の水系エマルションを用いて、表2に示す化成処理液を調製した。表2に示されるNo.1〜13の化成処理液は、フッ素樹脂含有樹脂および乳化剤を含む水系エマルションに4A族金属化合物などを添加して調製した。一方、No.14の化成処理液は、ウレタン樹脂および乳化剤を含む水系エマルションに、4A族金属化合物などを添加して調製した。シランカップリング剤は、A−1891(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)を使用した。
【0112】
【表2】

【0113】
板厚1.2mm、片面めっき付着量90g/mの溶融Zn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板の表面に、表3に示す組成の下地化成処理液を塗布し、到達板温140℃で加熱乾燥して下地化成処理皮膜を形成した。形成された下地化成処理皮膜の付着量および組成を表4に示す。
【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
下地化成処理皮膜を形成しためっき鋼板をオープンパイプ状に成形した後、幅方向の両端部を高周波溶接して直径25.4mmの溶接めっき鋼管を作製した。次いで、溶接部をビードカットした後、表5に示す溶射条件で幅10mmの溶射補修層を形成した。
【0117】
【表5】

【0118】
作製した溶接めっき鋼管を温水で洗浄した後、表2に示す化成処理液を溶接めっき鋼管の表面に滴下により塗布し、スポンジで扱いた後、ドライヤを用いて到達板温55℃で加熱乾燥して、化成処理皮膜を形成した。
【0119】
各化成処理溶接めっき鋼管について、化成処理皮膜における有機樹脂に対する4A族金属、リン酸塩およびシランカップリング剤の量を蛍光X線分析装置を用いて測定した。リン酸塩およびシランカップリング剤の含有量は、PおよびSiの測定値から算出した。各化成処理溶接めっき鋼管について、形成された化成処理皮膜の膜厚および組成を表6に示す。
【0120】
【表6】

【0121】
2.化成処理溶接めっき鋼管および化成処理液の評価
(1)促進耐候性試験
各化成処理溶接めっき鋼管から溶射補修部を含む試験片を切り出し、JIS K5600−7−7:2008に準拠して促進耐候性試験(キセノンランプ法)を実施した。本試験では、キセノンアーク灯の光を120分間照射する間に18分間水を噴射する工程を1サイクル(2時間)とし、この工程を500サイクルまたは1000サイクル繰り返した。
【0122】
(2)耐候性の評価
各化成処理溶接めっき鋼管について、促進耐候試験前後の化成処理皮膜の厚さを断面検鏡により測定し、塗膜残存率を求めた。各化成処理溶接めっき鋼管について、塗膜残存率が95%以上の場合は「◎」、80%以上95%未満の場合は「○」、60%以上80%未満の場合は「△」、30%以上60%未満の場合は「▲」、30%未満の場合は「×」と評価した。
【0123】
(3)耐黒変性の評価
各化成処理溶接めっき鋼管について、促進耐候試験前後の化成処理皮膜の表面の明度差(ΔL値)を測定し、耐黒変性を評価した。各化成処理溶接めっき鋼管について、明度差(ΔL値)が1以下の場合は「◎」、1を超え2以下の場合は「○」、2を超え5以下の場合は「△」、5を超え10以下の場合は「▲」、10を超える場合は「×」と評価した。
【0124】
(4)耐食性の評価
各化成処理溶接めっき鋼管について、促進耐候試験後(1000サイクル)の試験片を用いて塩水噴霧試験(JIS Z2371に準拠;120時間または240時間)を行い、白錆発生面積率を評価した。各化成処理溶接めっき鋼管について、白錆発生面積率が5%以下の場合は「◎」、5%を超え10%以下の場合は「○」、10%を超え30%以下の場合は「△」、30%を超え50%以下の場合は「▲」、50%を超える場合は「×」と評価した。
【0125】
(5)化成処理液の保存安定性の評価
表2の各化成処理液を液温40℃で30日間保管した。各化成処理液の保管前後の粘度変化量(保管後粘度から保管前粘度を差し引いた値)をフォードカップNo.4により測定し、保存安定性を評価した。各化成処理液について、粘度変化量が3秒未満の場合は「◎」、3秒以上10秒未満の場合は「○」、10秒以上30秒未満の場合は「△」、30秒以上の場合は「×」と評価した。
【0126】
(6)評価結果
各化成処理溶接めっき鋼管(実施例1〜8、比較例1〜6)についての、使用した処理液の種類およびその保存安定性、ならびに耐候性試験、耐黒変性試験および耐食性試験の評価結果を表7に示す。
【0127】
【表7】

【0128】
表7に示されるように、化成処理皮膜の膜厚が0.5μm未満の比較例1の溶接めっき鋼管は、化成処理皮膜の耐透水性が不十分なため、耐黒変性および耐食性が劣っていた。
【0129】
フッ素含有樹脂中の親水性官能基量を0.05質量%未満とすると、フッ素含有樹脂のエマルションを調製することができなかった(表1;エマルションNo.6)。一方、フッ素含有樹脂中の親水性官能基量が5質量%超のエマルションを含む化成処理液を用いた比較例2の溶接めっき鋼管は、フッ素含有樹脂の親水性官能基量が過剰なため、化成処理皮膜の耐透水性が低下し、耐候性、耐黒変性および耐食性が劣っていた。
【0130】
フッ素含有樹脂中のF原子量が7質量%未満のエマルションを含む化成処理液を用いた比較例3の溶接めっき鋼管は、化成処理皮膜の耐候性が不十分なため、耐候性、耐黒変性および耐食性が劣っていた。一方、フッ素含有樹脂中のF原子量を20質量%超とすると、フッ素含有樹脂のエマルションを調製することができなかった(表1;エマルションNo.9)。
【0131】
フッ素含有樹脂に対する4A族金属の量が0.1質量%未満の化成処理液を用いた比較例4の溶接めっき鋼管は、化成処理皮膜の耐水性が不十分なため、耐候性、耐黒変性および耐食性が劣っていた。一方、フッ素含有樹脂に対する4A族金属の量が5質量%超の化成処理液を用いた比較例5の溶接めっき鋼管は、化成処理皮膜が多孔質状になったため、耐候性、耐黒変性および耐食性が劣っていた。
【0132】
有機樹脂としてウレタン樹脂を含む化成処理液を用いた比較例6の溶接めっき鋼管は、促進耐候性試験500サイクル(屋外暴露5年相当)で化成処理皮膜が消失してしまうため、耐候性、耐黒変性および耐食性が劣っていた。
【0133】
これに対し、本発明の製造方法で製造した実施例1〜8の溶接めっき鋼管は、耐候性、耐黒変性および耐食性が優れていた。また、化成処理液の保存安定性も良好であった。
【0134】
なお、リン酸およびシランカップリング剤を添加していない化成処理液を用いた実施例1の溶接めっき鋼管は、促進耐候性試験を長時間(1000サイクル;屋外暴露10年相当)行った後の耐黒変性および耐食性に若干の低下が見られたものの、耐候性、耐黒変性および耐食性はいずれも十分に満足できるレベルを維持していた。
【0135】
また、溶射条件がBまたはCの実施例4,5の溶接めっき鋼管は、溶射補修層最表層のAl濃度が低いため、促進耐候性試験を長時間(1000サイクル;屋外暴露10年相当)行った後の耐黒変性および耐食性に若干の低下が見られたものの、耐候性、耐黒変性および耐食性はいずれも十分に満足できるレベルを維持していた。
【0136】
また、フッ素含有樹脂のカルボキシル基/スルホン酸基のモル比が5未満または60超の化成処理液を用いた実施例7,8の溶接めっき鋼管は、促進耐候性試験を長時間(1000サイクル;屋外暴露10年相当)行った後の耐黒変性および耐食性に若干の低下が見られたものの、耐候性、耐黒変性および耐食性はいずれも十分に満足できるレベルを維持していた。
【0137】
[参考実験]
参考実験として、フッ素含有樹脂皮膜中の4A族金属化合物の量および乳化剤の量と、透湿度との関係を調べた結果を示す。
【0138】
親水性官能基含有モノマーを1質量%となるように添加し、乳化剤を1質量%となるように添加して作製した親水性官能基を有するフッ素含有樹脂の水系エマルションに、所定量の4A族金属化合物を添加して調製した化成処理液を、めっき鋼板の表面にバーコーターで塗布し、到達板温140℃で加熱乾燥して、膜厚30μmのフッ素含有樹脂皮膜を形成した。このフッ素含有樹脂皮膜をめっき鋼板から剥がし、所定の大きさに切り出して試験片とした。各試験片(遊離フッ素含有樹脂皮膜)について、JIS Z0208に準拠して透湿度を測定した(測定条件、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%、24時間)。
【0139】
図2は、フッ素含有樹脂皮膜における4A族金属の量と透湿度との関係を示すグラフである。このグラフから、フッ素含有樹脂皮膜中の4A族金属の量を0.1質量%以上とすることで、フッ素含有樹脂皮膜の透湿度を顕著に低下させうることがわかる。
【0140】
親水性官能基含有モノマーを1質量%となるように添加し、所定量の乳化剤を添加して作製した親水性官能基を有するフッ素含有樹脂の水系エマルションに、4A族金属化合物を終濃度が金属換算で1質量%となるように添加して調製した化成処理液を、めっき鋼板の表面にバーコーターで塗布し、到達板温140℃で加熱乾燥して、膜厚30μmのフッ素含有樹脂皮膜を形成した。このフッ素含有樹脂皮膜をめっき鋼板から剥がし、所定の大きさに切り出して試験片とした。各試験片(遊離フッ素含有樹脂皮膜)について、JIS Z0208に準拠して透湿度を測定した(測定条件、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%、24時間)。
【0141】
図3は、フッ素含有樹脂の水系エマルション中の乳化剤の濃度とフッ素含有樹脂皮膜の透湿度との関係を示すグラフである。このグラフから、エマルション中の乳化剤の濃度を1質量%以下とすることで、フッ素含有樹脂皮膜の透湿度を顕著に低下させうることがわかる。
【0142】
以上の結果から、4A族金属化合物の量が多く、乳化剤の残存量が少ないフッ素含有樹脂皮膜は、耐水性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の溶接めっき鋼管は、耐候性、耐食性および耐変色性に優れているため、農業用ビニールハウスの躯体用の鋼管や地中埋設管などの様々な用途において有用である。
【符号の説明】
【0144】
100 溶接めっき鋼管
110 下地鋼板
120 Al含有Zn系合金めっき層
130 下地化成処理皮膜
140 溶接金属
150 ビードカット部
160 溶射補修層
170 化成処理皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを0.05〜60質量%含むAl含有Zn系合金めっき鋼板から造管された溶接めっき鋼管であって、
前記Al含有Zn系合金めっき鋼板の外側の表面に形成された、膜厚0.5〜10μmの化成処理皮膜を有し、
前記化成処理皮膜は、カルボキシル基、スルホン酸基およびこれらの塩からなる群から選ばれる親水性官能基0.05〜5質量%とF原子7〜20質量%とを含有するフッ素含有樹脂と、前記フッ素含有樹脂に対して金属換算で0.1〜5質量%の4A族金属化合物とを含有する、
溶接めっき鋼管。
【請求項2】
前記フッ素含有樹脂が有するカルボキシル基とスルホン酸基との比率は、カルボキシル基/スルホン酸基のモル比で5〜60の範囲内である、請求項1に記載の溶接めっき鋼管。
【請求項3】
前記化成処理皮膜は、前記フッ素含有樹脂に対してP換算で0.05〜3質量%のリン酸塩をさらに含有する、請求項1に記載の溶接めっき鋼管。
【請求項4】
前記化成処理皮膜は、前記フッ素含有樹脂に対して0.5〜5質量%のシランカップリング剤をさらに含有する、請求項1に記載の溶接めっき鋼管。
【請求項5】
前記4A族金属は、Ti、Zr、Hfおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項1に記載の溶接めっき鋼管。
【請求項6】
バルブメタルの酸化物または水酸化物、およびバルブメタルのフッ化物を含有する下地化成処理皮膜を、前記Al含有Zn系合金めっき鋼板と前記化成処理皮膜との間にさらに有する、請求項1に記載の溶接めっき鋼管。
【請求項7】
溶接後のビードカットによりめっき層が除去された溶接部およびその近傍に溶射補修層が形成されており、
前記溶射補修層の最表層におけるAlの濃度は、0.05原子%以上である、
請求項1に記載の溶接めっき鋼管。
【請求項8】
農業用ビニールハウスの躯体用の鋼管である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の溶接めっき鋼管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−177147(P2012−177147A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39835(P2011−39835)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】