説明

溶融炉

【課題】下地基板を融液に浸漬させることにより下地基板の表面上に形成される結晶薄板の生産を停止することなく安定した原料の追加供給を行なうことができ、また品質の劣化やばらつきを低減するとともに結晶薄板の製造歩留まりを向上することによって、結晶薄板の生産性を向上させることができる溶融炉を提供する。
【解決手段】融液1102を保持するための主坩堝1101と、融液1102を加熱するための主坩堝加熱装置1104と、融液1202を保持するための副坩堝1201と、融液1202を加熱するための副坩堝加熱装置1204と、固体原料1402を投入するための固体原料投入装置1401と、副坩堝1201から主坩堝1101に融液1202を供給するための融液搬送部1301と、固体原料投入装置1401から副坩堝1201への固体原料1402の投入の有無を決定する固体原料投入制御装置1506とを備えた溶融炉1000である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉に関し、特に、下地基板を融液に浸漬させることにより下地基板の表面上に形成される結晶薄板の生産を停止することなく安定した原料の追加供給を行なうことができ、また品質の劣化やばらつきを低減するとともに結晶薄板の製造歩留まりを向上することによって、結晶薄板の生産性を向上させることができる溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
下地基板の表面上に結晶薄板を製造するのに用いられる従来の溶融炉には、結晶薄板の原料となる融液を保持するための主坩堝が備えられている。しかしながら、結晶薄板の製造が進行するにつれて、主坩堝内の融液量が減少するため主坩堝に融液を追加する必要がある。
【0003】
図6に、結晶薄板の製造に用いられる従来の溶融炉の構成を模式的に示す。この従来の溶融炉3000には、結晶薄板の製造が行なわれる主室3001と、主室3001の一方の側部に隣接して配置されている第1の副室3002と、主室3001の他方の側部に隣接して配置されている第2の副室3003とが備えられている。
【0004】
また、主室3001の中央部には、第1の坩堝3100と、下地基板1001を第1の坩堝3100内のたとえばシリコン融液等の融液に浸漬させるための下地基板把持装置3004とが備え付けられており、主室3001の外周には第1の坩堝準備室3101、第2の坩堝準備室3201および第3の坩堝準備室3301が設置されている。
【0005】
また、第1の坩堝準備室3101には、第1の坩堝3100に固体原料3103を供給するための第1の固体原料供給装置3102が備え付けられている。また、第2の坩堝準備室3201には、第2の坩堝3200と第2の坩堝3200に固体原料3203を供給するための第2の固体原料供給装置3202が備え付けられている。また、第3の坩堝準備室3301には、第3の坩堝3300と第3の坩堝3300に固体原料3303を供給するための第3の固体原料供給装置3302が備え付けられている。
【0006】
また、第1の坩堝3100、第2の坩堝3200および第3の坩堝3300は、それぞれ側面が断熱材によって保護されており、それぞれの断熱材の周囲には誘導加熱方式の加熱装置が設置されている。
【0007】
以上のような構成を有する溶融炉3000において、第1の副室3002から主室3001に下地基板1001が搬送された後に、下地基板1001は下地基板把持装置3004に把持され、第1の坩堝3100内の融液に浸漬させられる。そして、下地基板1001の表面に融液が付着し、下地基板1001が第1の坩堝3100内の融液から取り出された後にそれが凝固することによって、下地基板1001の表面上に結晶薄板1002が形成される。その後、結晶薄板1002が形成された下地基板1001は、第2の副室3003から外部に搬出される。以上の工程を繰り返すことによって、結晶薄板1002を連続して製造することが可能となる。
【0008】
上記構成の従来の溶融炉3000においても、結晶薄板1002の製造が進行するにつれて、第1の坩堝3100に保持されている融液の量は減少し、融液の液面の高さが低下する。
【0009】
そこで、融液の原料となる固体原料を第1の坩堝3100に添加し、第1の坩堝3100の温度を誘導加熱方式の加熱装置によって上昇させることによって、固体原料を溶融して融液とする必要がある。
【0010】
しかしながら、固体原料を溶融させるためには第1の坩堝3100の温度を固体原料の融点近傍まで上昇させる必要があるため、固体原料を投入した後には第1の坩堝3100の温度を一旦上昇させ、その後第1の坩堝3100の温度を低下させてから結晶薄板1002の製造を再開する必要がある。
【0011】
そこで、図6に示す溶融炉3000においては、結晶薄板1002の生産量を向上させるために、第1の坩堝3100、第2の坩堝3200または第3の坩堝3300の坩堝のうちいずれか1つの坩堝を用いて結晶薄板1002を製造している間に残りの坩堝に固体原料を追加するとともに坩堝の温度を上昇させて固体原料を溶融して融液を形成し、融液の形成後には坩堝の温度を低下させる工程を並行して実施している。
【0012】
すなわち、第1の坩堝3100を用いて結晶薄板1002を製造している間に、第2の坩堝3200を第2の坩堝準備室3201内に設置するとともに、第3の坩堝3300についても第3の坩堝準備室3301内に設置しておく。そして、第2の固体原料供給装置3202から固体原料3203を第2の坩堝3200に投入した後に、第2の坩堝3200の温度を上昇させ、その後低下させることによって第2の坩堝3200内の融液を作製しておく。その一方で、第3の固体原料供給装置3302から固体原料3303を第3の坩堝3300に投入した後に、第3の坩堝3300の温度を上昇させ、その後第3の坩堝3300の温度を低下させることによって固体原料を溶融し融液を作製しておく。
【0013】
そして、第1の坩堝3100内の融液量が規定量以下に低下したら、結晶薄板1002の製造を一旦中断し、第1の坩堝3100を第1の坩堝準備室3101に移動させる。そして、融液が十分に作製されている第2の坩堝3200または第3の坩堝3300を第1の坩堝3100に代えて主室3001に設置して結晶薄板1002の製造を進行させる。
【0014】
一方、融液量が規定量以下となった第1の坩堝3100には固体原料3103を投入して上記で説明した第2の坩堝3200と第3の坩堝3300のときと同様にして融液を作製して融液の補給を行なう。
【0015】
このように、図6に示す溶融炉3000においては、坩堝への固体原料の追加の伴う結晶薄板1002の製造の中断を極力少なくすることができる。このように、坩堝の数を増やすことによって、結晶薄板1002の製造の中断時間は坩堝の移動時間のみとすることができる。このような溶融炉はたとえば国際公開WO2004/025000号パンフレットにおいて開示されている。
【0016】
また、図7に、結晶薄板の製造に用いられる従来の溶融炉の他の構成を示す。この溶融炉4000は、主坩堝4101に直接融液を追加する形態の溶融炉であって、このような構成の溶融炉4000は特開2007−290914号公報に開示されている。
【0017】
ここで、図7に示す溶融炉4000は、主坩堝4101と、副坩堝4201とを備えており、主坩堝4101の側面には断熱材4103が備え付けられており、主坩堝4101の底面には耐火煉瓦4105が備え付けられている。
【0018】
また、主坩堝4101の側面に備え付けられた断熱材4103を取り囲むようにして誘導加熱方式の主坩堝加熱装置4104が備え付けられている。また、副坩堝4201の側面および副坩堝4201から所定の隙間4207を隔てた位置に断熱材4203が備え付けられている。また、断熱材4203の外周を取り巻くように副坩堝加熱装置4204が備え付けられている。副坩堝4201の底面には耐火煉瓦4205が備え付けられており、耐火煉瓦4205は坩堝受け4206の表面上に取り付けられている。
【0019】
以上のような構成の溶融炉4000において、主坩堝4101には融液4102が保持されており、副坩堝4201の内部には融液4202が保持されている。そして、副坩堝4201内の融液4202に固体原料を投入した場合には、融液4202が副坩堝4201から溢れ出て隙間4207を通って主坩堝4101内に供給される。これにより、副坩堝4201から主坩堝4101に融液が供給されることになるため、主坩堝4101を取り替えることなく、結晶薄板1002の作製が可能となる。
【特許文献1】国際公開WO2004/025000号パンフレット
【特許文献2】特開2007−290914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
図6に示す構成の従来の溶融炉3000において、結晶薄板1002を一定期間連続して製造することによって坩堝内の融液の液面の高さが大幅に減少した場合には、坩堝の高さ若しくは下地基板1001の高さを調整することによって、下地基板1001の任意の浸漬深さを維持することは可能であるため、結晶薄板1002の製造を継続することも可能であるように考えられる。
【0021】
しかしながら、図6に示す溶融炉3000において、結晶薄板1002の製造に用いられている坩堝内の融液の液面の高さが大きく低下した場合には、坩堝の加熱装置として誘導加熱方式を用いているため、坩堝の側壁上部から坩堝内の融液の融液面に入り込む磁力が変化したり、坩堝の内壁面の露出が大きくなって坩堝からの輻射損失が増大することがある。これにより、坩堝内の融液の温度若しくは温度分布が変化し、坩堝内の融液の融液面が高い位置で作製された結晶薄板1002と、低い位置で作製された結晶薄板1002の品質(板厚、板厚分布)が安定しなかったり、結晶薄板1002の製造歩留まりが低下したりすることがある。
【0022】
また、図7に示す構成の溶融炉4000のように、副坩堝4201から主坩堝4101に融液4202を随時供給する場合には、結晶薄板1002の製造を中断することなく、副坩堝4201に固体原料の投入が可能となる。しかしながら、副坩堝4201の側面の隙間4207にシリコン融液などの融液4202を流す場合に、シリコン融液などの融液4202が副坩堝4201の側面の断熱材4203に接触することによって断熱材4203が劣化することがある。
【0023】
副坩堝4201の側面の断熱材4203が劣化した場合には、副坩堝4201やシリコン融液などの融液4202からの輻射によってコイルなどの副坩堝加熱装置4204が加熱されて破損する可能性がある。
【0024】
また、断熱材4203と接したシリコン融液などの融液4202は断熱材4203によって汚染された状態で主坩堝4101に流れ込むため、主坩堝4101内の融液4102も汚染されて結晶薄板1002が製造される。一般的に、このような方法で製造された結晶薄板1002は、半導体材料若しくは太陽電池材料として用いられるため、汚染物が混入した場合には特性劣化を引き起こす。
【0025】
したがって、結晶薄板1002の品質を安定させ、結晶薄板1002の製造歩留まりを向上して結晶薄板1002の生産性を向上するためには、副坩堝4201から主坩堝4101に供給される融液4202が断熱材4203に接触しないようにする必要がある。
【0026】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、下地基板を融液に浸漬させることにより下地基板の表面上に形成される結晶薄板の生産を停止することなく安定した原料の追加供給を行なうことができ、また品質の劣化やばらつきを低減するとともに結晶薄板の製造歩留まりを向上することによって、結晶薄板の生産性を向上させることができる溶融炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、金属材料および半導体材料の少なくとも一方を含む物質の融液を保持するための主坩堝と、主坩堝に保持された融液を加熱するための主坩堝加熱装置と、主坩堝に供給される融液を保持するための副坩堝と、副坩堝に保持された融液を加熱するための副坩堝加熱装置と、副坩堝に融液の原料となる固体原料を投入するための固体原料投入装置と、副坩堝から主坩堝に融液を供給するための融液搬送部とを備え、融液搬送部は副坩堝に接合されており、固体原料投入装置から副坩堝に固体原料を投入することによって副坩堝から溢れ出した融液が融液搬送部を通って主坩堝に供給される溶融炉である。
【0028】
ここで、本発明の溶融炉においては、融液搬送部を加熱するための融液搬送部加熱装置をさらに備え、融液搬送部は融液搬送部加熱装置によって加熱される中空部材からなることが好ましい。
【0029】
また、本発明の溶融炉は、主坩堝に保持された融液に浸漬させることにより下地基板の表面に融液が凝固してなる結晶薄板を形成するための下地基板浸漬装置をさらに備えていることが好ましい。
【0030】
また、本発明の溶融炉は、主坩堝に保持された融液の液面の高さを検知する融液高さ検知器と、固体原料投入装置から副坩堝への固体原料の投入の有無を決定する固体原料投入制御装置とをさらに備え、融液高さ検知器によって検知された主坩堝に保持された融液の液面の高さに基づいて固体原料投入制御装置が副坩堝に固体原料を投入するか否かを決定することが好ましい。
【0031】
また、本発明の溶融炉においては、固体原料投入制御装置が副坩堝に投入される固体原料の投入量も決定することが好ましい。
【0032】
また、本発明の溶融炉は、主坩堝に保持された融液に浸漬させることにより下地基板の表面に融液が凝固してなる結晶薄板を形成するための下地基板浸漬装置をさらに備えていることが好ましい。
【0033】
また、本発明の溶融炉は、融液高さ検知器によって検知された主坩堝に保持された融液の液面の高さに基づいて主坩堝を鉛直方向に移動させるための坩堝昇降装置をさらに備え、坩堝昇降装置による主坩堝の高さを制御することにより、下地基板の融液に対する浸漬深さを調整することが好ましい。
【0034】
また、本発明の溶融炉においては、融液高さ検知器によって検知された主坩堝に保持された融液の液面の高さに基づいて下地基板浸漬装置が下地基板の軌道の高さを制御することにより、下地基板の融液に対する浸漬深さが調整されることが好ましい。
【0035】
また、本発明の溶融炉は、主坩堝に保持された融液の液面の高さを検知する融液高さ検知器と、固体原料投入装置から副坩堝への固体原料の投入の有無を決定する固体原料投入制御装置と、主坩堝に保持された融液に浸漬させることにより下地基板の表面に融液が凝固してなる結晶薄板を形成するための下地基板浸漬装置と、融液高さ検知器によって検知された主坩堝に保持された融液の液面の高さに基づいて主坩堝を鉛直方向に移動させるための坩堝昇降装置とを備え、坩堝昇降装置によって制御された主坩堝の高さおよび下地基板浸漬装置によって制御された下地基板の軌道の高さの少なくとも一方に基づいて固体原料投入制御装置が副坩堝に固体原料を投入するか否かを決定することが好ましい。
【0036】
また、本発明の溶融炉においては、主坩堝の高さおよび下地基板の軌道の高さの少なくとも一方に基づいて固体原料投入制御装置が副坩堝に投入される固体原料の投入量も決定することが好ましい。
【0037】
また、本発明の溶融炉においては、坩堝昇降装置による主坩堝の高さを制御することにより、下地基板の融液に対する浸漬深さが調整されることが好ましい。
【0038】
また、本発明の溶融炉においては、下地基板浸漬装置が下地基板の軌道の高さを制御することにより、下地基板の融液に対する浸漬深さを調整することが好ましい。
【0039】
また、本発明の溶融炉においては、融液高さ検知器は、主坩堝に保持された融液と下地基板とが接触したときの電気信号を用いて融液の液面の高さを検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、下地基板を融液に浸漬させることにより下地基板の表面上に形成される結晶薄板の生産を停止することなく安定した原料の追加供給を行なうことができ、また品質の劣化やばらつきを低減するとともに結晶薄板の製造歩留まりを向上することによって、結晶薄板の生産性を向上させることができる溶融炉を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0042】
<溶融炉の構成>
図1に、本発明の溶融炉の好ましい一例の模式的な構成を示す。ここで、溶融炉1000は、主坩堝1101と、副坩堝1201とを有している。主坩堝1101の側面には断熱材1103が備え付けられており、断熱材1103の外周を取り囲むように主坩堝加熱装置1104が備え付けられている。また、主坩堝1101の底面には耐火煉瓦1105が取り付けられており、耐火煉瓦1105は主坩堝受け1106上に設置されている。
【0043】
また、副坩堝1201の側面にも断熱材1203が備え付けられており、断熱材1203の外周を取り囲むように副坩堝加熱装置1204が備え付けられている。また、副坩堝1201の底面には耐火煉瓦1205が取り付けられており、耐火煉瓦1205は副坩堝受け1206上に設置されている。
【0044】
また、副坩堝1201には融液搬送部1301が接続されており、融液搬送部1301は副坩堝1201から溢れ出した融液1202を主坩堝1101に搬送するために設けられている。また、融液搬送部1301の外周には断熱材1303が取り付けられており、断熱材1303の外周を取り囲むようにして融液搬送部加熱装置1304が取り付けられている。さらに、副坩堝1201の上方には固体原料投入装置1401が設置されており、固体原料投入装置1401によって固体原料1402が副坩堝1201内に投入される。
【0045】
また、主坩堝受け1106および副坩堝受け1206はともに坩堝昇降装置1107上に設置されており、坩堝昇降装置1107は主坩堝1101および副坩堝1201の位置を上下に移動(鉛直方向に移動)させる機能を有している。
【0046】
また、融液高さ検知器1503は、主坩堝1101に電気配線1052を通じて接続されているとともに、後述する下地基板浸漬装置に電気配線1051を通じて接続されている。ここで、融液高さ検知器1503は、経路1504を通して坩堝昇降装置1107の昇降移動を制御することができ、経路1505を通して固体原料投入制御装置1506に主坩堝1101の融液1102の液面の高さを伝達することができる。
【0047】
また、固体原料投入制御装置1506は、経路1507を通して固体原料投入装置1401の固体原料1402の投入の有無および投入量を決定することができる。
【0048】
ここで、主坩堝1101および副坩堝1201には予め固体原料が充填されており、主坩堝加熱装置1104によって主坩堝1101を加熱し、副坩堝加熱装置1204によって副坩堝1201を加熱する。これにより、主坩堝1101内の固体原料が溶融して融液1102となり、副坩堝1201内の固体原料が溶融して融液1202となる。
【0049】
そして、固体原料投入装置1401から固体原料1402を副坩堝1201に投入することによって、副坩堝1201に保持されていた融液1202が副坩堝1201から溢れ出し、融液搬送部1301に流れ込む。そして、融液搬送部1301に流れ込んだ融液1202は、主坩堝1101に供給される。これにより、主坩堝1101に保持されている融液1102の量を増加させることができる。
【0050】
固体原料投入装置1401から副坩堝1201への固体原料1402の投入を繰り返すことにより、副坩堝1201に保持された融液1202の量が増加し、ある一定以上の量になった場合には、副坩堝1201に設けられた開口から融液1202が融液搬送部1301に流れ込むこととなる。
【0051】
このように、副坩堝1201に接続された融液搬送部1301を設けることによって、副坩堝1201が破損した際に漏れ出す融液1202を受け止める副坩堝受け1206を副坩堝1201の下方に設置することが可能となり、溶融炉1000を構成する他の部材にダメージを与えることを有効に防止することができる。
【0052】
また、副坩堝1201に接続された融液搬送部1301を設けることによって、副坩堝1201を主坩堝1101に保持されている融液1102の上方から外れた位置に設置することができるため、仮に副坩堝受け1206から外に融液1202が漏れ出したとしても、溶融炉1000を構成する他の部材にダメージを与えることを有効に防止することができる。
【0053】
また、融液搬送部1301を設けることによって、副坩堝1201から溢れ出した融液1202が断熱材1303と接触することによる断熱材1303の劣化および断熱材1303による融液の汚染を抑止することができる。また、融液搬送部1301に融液搬送部加熱装置1304を設けることによって融液搬送部1301の温度低下を抑制することができる。
【0054】
また、融液搬送部1301を中空部材とすることによって、副坩堝1201から溢れ出した融液1202が断熱材1303と接触することを確実に防止することができ、断熱材1303の劣化により融液搬送部1301の温度低下による融液1202の融液搬送部1301内部における凝固および融液搬送部加熱装置1304への熱による損傷を抑制することが可能となる。
【0055】
なお、主坩堝加熱装置1104、副坩堝加熱装置1204および融液搬送部加熱装置1304はそれぞれ誘導加熱方式であることが好ましい。主坩堝加熱装置1104、副坩堝加熱装置1204および融液搬送部加熱装置1304がそれぞれ誘導加熱方式である場合には、主坩堝1101、副坩堝1201および融液搬送部1301は誘導加熱によって加熱される材料によって形成する必要があるが、たとえばシリコン等の融液を汚染しない高融点材料で形成されることが好ましい。
【0056】
たとえば、主坩堝1101内に保持されている融液1102および副坩堝1201内に保持されている融液1202がそれぞれシリコン融液である場合には、主坩堝1101、副坩堝1201および融液搬送部1301のシリコン融液と接触する面は黒鉛から形成されていることが好ましいが、黒鉛以外の物質から形成されていてもよい。
【0057】
また、主坩堝1101、副坩堝1201および融液搬送部1301のシリコン融液と接触する面に、たとえば、SiC(炭化ケイ素)および/またはSiN(窒化ケイ素)をコーティングすることによって、主坩堝1101、副坩堝1201および融液搬送部1301の耐久性を向上させることもできる。
【0058】
また、固体原料投入装置1401は、本実施の形態においては柄杓形状とされているがこの形状に限定されないことは言うまでもない。固体原料投入装置1401には溶融炉1000の外部において固体原料1402が充填され、その後固体原料投入装置1401が副坩堝1201の上方まで移動させられ、固体原料投入装置1401の開口部を副坩堝1201の方向に回転させることによって、任意量の固体原料1402を副坩堝1201に投入することができる。
【0059】
なお、溶融炉1000の外部において、固体原料1402を固体原料投入装置1401に充填する方法については特に限定されない。また、固体原料投入装置1401は、たとえば固体原料投入制御装置1506によって副坩堝1201への固体原料1402の投入量を制御されるように構成されていることが好ましい。また、固体原料投入装置1401は、任意のタイミングで固体原料1402を副坩堝1201に投入できるように構成されていることが好ましい。
【0060】
<結晶薄板の製造>
以上のような構成の溶融炉1000を用いて結晶薄板1002を製造する場合には、まず主坩堝1101に融液1102を保持させるとともに副坩堝1201内に融液1202を保持させる。
【0061】
ここで、融液1102および融液1202はそれぞれ金属材料および半導体材料の少なくとも一方を含む物質の融液とすることができ、たとえばシリコン等の融液とすることができるが、シリコン以外の金属材料および半導体材料(特に高い融点の半導体材料)の少なくとも一方の融液を用いてもよい。
【0062】
そして、後述する下地基板浸漬装置に下地基板1001を設置し、下地基板1001を主坩堝1101に保持された融液1102に浸漬させることによって、下地基板1001の表面上に融液1102を付着させ、その付着した融液1102が凝固することによって下地基板1001の表面上に結晶薄板1002が形成される。
【0063】
図2に、本発明に用いられる下地基板浸漬装置の一例の模式的な構成を示す。ここで、下地基板浸漬装置2000は、水平動作モータ(図示せず)によって水平方向に動作する水平動作軸2101と、水平動作軸2101に固定されて水平動作軸2101の水平方向への移動に伴って水平方向に移動する水平軸台座2102と、水平軸台座2102に取り付けられている昇降動作モータ2103と、昇降動作モータ2103に取り付けられて鉛直方向に伸びる懸垂支柱2104と、懸垂支柱2104に取り付けられて懸垂支柱2104とは独立に回転運動を行なう回転機構2105と、回転機構2105に固定されて回転機構2105の回転運動に伴って回転運動を行なう回転支柱2106と、回転支柱2106の一端に取り付けられて鉛直方向に伸びる補助支柱2107と、回転支柱2106および補助支柱2107によって支持されて下地基板1001を装着するための固定台座2108とを備えている。
【0064】
ここで、水平動作軸2101の水平方向への移動によって固定台座2108に装着された下地基板1001の水平方向の位置の制御が可能である。また、昇降動作モータ2103によって懸垂支柱2104が鉛直方向に昇降することによって下地基板1001の鉛直方向の位置を制御することが可能である。また、回転機構2105を回転させて回転支柱2106を水平方向に対して傾斜させることによって、固定台座2108に装着された下地基板1001の表面の水平方向に対する傾きを制御することが可能である。
【0065】
すなわち、下地基板浸漬装置2000は、昇降動作モータ2103、水平動作モータ(図示せず)および回転機構2105によって、固定台座2108に装着された下地基板1001の水平方向の位置、鉛直方向の位置および下地基板1001の表面の水平方向に対する傾きをそれぞれ独立に制御することができる構成となっている。
【0066】
以上のような構成の下地基板浸漬装置2000を用いて結晶薄板1002を製造する場合には、まず固定台座2108に下地基板1001を嵌め込んで装着した後、下地基板1001を水平方向への移動(水平移動)、鉛直方向への移動(鉛直移動)および回転移動させることによって、主坩堝1101に保持された融液1102の直上に移動させ、下地基板1001の表面が主坩堝1101内の融液1102に向かい合う位置まで搬送する。そして、下地基板1001の表面を主坩堝1101に保持された融液1102に浸漬させた後に、下地基板1001を融液1102から取り出される。
【0067】
上述した下地基板浸漬装置2000の下地基板1001の制御によって、たとえば矢印2120に示される軌道のように下地基板1001を移動させ、下地基板1001の表面上に融液1102が凝固して形成された結晶薄板1002を得ることができる。その後、結晶薄板1002が形成された下地基板1001を水平移動、鉛直移動および回転移動させることによって元の位置まで戻し、結晶薄板1002が形成された後の下地基板1001を固定台座2108から取り外す。そして、新たな下地基板1001を固定台座2108に嵌め込んで装着し、次の結晶薄板1002の製造工程に移ることができる。
【0068】
なお、下地基板1001の動作は、たとえば、通常のパソコン等により下地基板1001の水平移動指令、鉛直移動指令および回転動作指令をそれぞれプログラミングし、それをコントローラ(図示せず)に送信しておくことによって、下地基板1001がプログラム通りの軌道を描いて移動することになる。また、下地基板浸漬装置2000は、下地基板1001の高さ(すなわち、下地基板1001の鉛直方向の位置)を制御することによって、下地基板1001の融液1102への浸漬深さ(下地基板1001の浸漬側の表面の中心部が最下点に到達したときの、下地基板1001の融液1102への浸漬側の表面の中心部と融液1102の液面との間の鉛直方向の最短距離)が一定の範囲(たとえば、当該浸漬深さの最大値と最小値との差の絶対値が1mmの範囲内)となるように調整しながら、結晶薄板1002を製造することができるため、品質的にばらつきの少ない結晶薄板1002を得ることができる。
【0069】
<融液の液面高さの検知>
図3を参照して、主坩堝1101に保持された融液1102の液面の高さの検知する方法の一例について説明する。
【0070】
ここで、下地基板浸漬装置2000には電気配線1051が接続されており、主坩堝1101には電気配線1052が接続されている。そして、電気配線1052は電源装置1508に接続されている。そして、電気配線1051および電気配線1052はリレー1509を介して融液高さ検知器1503に接続されている。これにより、下地基板浸漬装置2000、主坩堝1101、電源装置1508、リレー1509および融液高さ検知器1503が接続されている。
【0071】
また、下地基板浸漬装置2000と主坩堝1101とは電気的に絶縁されており、下地基板1001と下地基板浸漬装置2000とは電気的に導通している。たとえば、下地基板1001および下地基板浸漬装置2000をともに黒鉛から形成することによってこれらを電気的に導通させることが可能である。
【0072】
以上のような構成において、まず図2に示す下地基板浸漬装置2000の固定台座2108に下地基板1001を装着する。次に、図1に示す坩堝昇降装置1107を動作させて、主坩堝1101の高さを規定の高さに合わせる。
【0073】
そして、下地基板浸漬装置2000により、下地基板1001をたとえば図2に示す矢印2120の軌道のように移動させて、下地基板1001を主坩堝1101に保持された融液1102に浸漬させる。
【0074】
この下地基板1001と融液1102とが接触した瞬間に下地基板浸漬装置2000と主坩堝1101とが電気的に導通して開放状態から短絡状態となるため、図3に示す電気回路は閉回路となる。これは、下地基板浸漬装置2000と下地基板1001とが電気的に導通し、融液1102と主坩堝1101とが電気的に導通しているためである。
【0075】
図3に示す電気回路が閉回路となった場合には、直流の電源装置1508とリレー1509とが接続されているため、下地基板1001と融液1102とが接触した瞬間に電源装置1508によりリレー1509に電圧が印加され、リレー1509が動作する。これにより、融液高さ検知器1503が電気抵抗の変化を検知して、下地基板1001が融液1102の液面に接触した瞬間を把握することが可能となる。すなわち、主坩堝1101に保持された融液1102と下地基板1001とが接触したときの電気信号を用いて主坩堝1101の融液1102の液面の高さを検出することが可能となる。
【0076】
なお、電気抵抗測定用のリレー1509の代わりに、電圧、電流、および抵抗を測定し得るどのような機器を用いてもよいことは言うまでもない。
【0077】
そして、下地基板1001が融液1102に接触した瞬間、すなわち、リレー1509が動作した瞬間における下地基板1001の座標を読み込む。たとえばサーボモータを使用して下地基板1001を動作させる場合には、動作中の下地基板1001の位置はサーボモータコントローラやそれの上位のパソコンによって随時把握することが可能であるため、下地基板1001が融液1102に接触した瞬間の下地基板1001の座標の認識が可能である。また、融液1102に接触した瞬間の下地基板1001の座標は、たとえば、水平軸台座2102の位置、懸垂支柱2104の位置および回転機構2105の回転角度等から幾何学計算することによっても認識することが可能である。
【0078】
そこで、下地基板1001が融液1102に接触した瞬間の下地基板1001の座標に基づいて、下地基板1001が融液1102に接触した瞬間の下地基板1001の水平方向の位置および鉛直方向の位置を把握するとともに、下地基板1001の回転角度についても把握する。そして、下地基板1001が融液1102に接触した瞬間の下地基板1001の水平方向の位置、鉛直方向の位置および回転角度からたとえば以下のように算出することによって融液1102の液面の高さの検出が可能となる。
【0079】
図4に、本発明において下地基板1001を融液1102に浸漬させる瞬間の一例を模式的に図解する。以下、図4を用いて、融液1102の液面高さの算出方法の一例について説明する。図4において、H21は水平軸台座2102に対する融液1102の液面の相対的な高さを示しており、H22は水平軸台座2102に対する懸垂支柱2104の下端2104aの相対的な高さを示している。また、R2は下地基板1001が融液1102に接触した瞬間の接触点1001aと懸垂支柱2104の下端2104aとの最短距離を示しており、A2は接触点1001aと懸垂支柱2104の下端2104aとを結ぶ直線の水平方向に対する傾斜角度を示している。
【0080】
ここで、主坩堝1101に保持された融液1102の液面の高さH21は下記の式(1)によって算出することができる。
【0081】
H21=R2×sin(A2)+H22 …(1)
また、下地基板1001の表面が融液1102中で水平になったとき(下地基板1001の浸漬側の表面の中心部が最下点に到達したとき)の水平軸台座2102に対する懸垂支柱2104の下端2104aの相対的な高さをH23とし、懸垂支柱2104の下端2104aから下地基板1001の面中心までの距離をR23としたとき、下地基板1001の表面が融液1102の液面から浸漬している深さを浸漬深さDとすると、下記の式(2)によって浸漬深さDを算出することができる。
【0082】
D=R23+H23−H21 …(2)
この浸漬深さDが、目標の浸漬深さDとずれている場合は、たとえば、次回の結晶薄板1002の製造における下地基板1001の浸漬までにその差分だけ下地基板1001の鉛直方向における高さおよび/または主坩堝1101の鉛直方向における高さを調整する。これを続けることによって、下地基板1001の融液1102への浸漬深さDが規定の範囲内に収まるように制御することが可能となる。
【0083】
なお、浸漬深さDのずれを主坩堝1101の鉛直方向における高さによって調整する場合には、急激な下地基板1001の軌道の変動を抑制することが好ましい。また、融液1102の正しい液面の高さを検出できない場合等のために、適切な安全対策を施しておくことが好ましい。
【0084】
<固体原料の投入>
一般的に、結晶薄板1002の製造時において、主坩堝1101の温度は、結晶薄板1002の製造に適した融液1102の融点近傍に近い温度に設定されることが好適である。一方、副坩堝1201に保持されている融液1202の温度は固体原料投入装置1401から投入された固体原料1402を溶融させるために融液1102の融点よりも高い温度に調整するのが通常である。それゆえ、副坩堝1201から融液1202を主坩堝1101に供給する量が多い場合には主坩堝1101の温度が上昇してしまう。また、主坩堝1101の融液1102の量が大幅に減少してから大量の融液を供給した場合には、主坩堝1101中の融液1102の温度や温度分布が変化してしまう。
【0085】
したがって、副坩堝1201から主坩堝1101への融液の供給は、主坩堝1101の融液1102の液面の高さがなるべく変化しないようになるべく小分けにして行なわれることが好ましい。
【0086】
そのためには、副坩堝1201を傾けて一度に融液1202を主坩堝1101に供給するよりは、本発明のように、固体原料1402を副坩堝1201に供給した分だけ溢れ出た融液1202が融液搬送部1301を通って主坩堝1101に供給される方法を用いて小分けに主坩堝1101に融液を供給することが好ましい。
【0087】
しかしながら、副坩堝1201から供給される融液1202の量が結晶薄板1002の製造量よりも多い場合には、主坩堝1101内の融液1102が溢れてしまう。また、逆に副坩堝1201から供給される融液1202の量が結晶薄板1002の製造量よりも少ない場合には主坩堝1101内の融液1102の量が減少してしまう。
【0088】
したがって、結晶薄板1002の品質のばらつきを低減するためには、一定量の固体原料1402を一定のタイミングで投入するだけでは、いずれ供給不足もしくは供給過多となってしまうことがあるため、これを防止する必要がある。
【0089】
以下に、本発明における固体原料1402の投入の有無と固体原料1402の投入量の決定方法の一例について説明する。
【0090】
まずは、浸漬深さを坩堝昇降によって調整する場合について説明する。この場合、下地基板は一定の軌道を通過することを想定している。
【0091】
主坩堝1101内の融液1102の液面の高さ(主坩堝1101の底面から融液1102の液面までの距離)は次のように調整される。
【0092】
まず、下地基板1001の浸漬深さが規定値付近となるように、主坩堝1101の鉛直方向における高さ(以下、「坩堝高さ」という。)を調整することで適切な浸漬深さを維持することができる。
【0093】
このとき、坩堝高さが規定値付近にある場合には、主坩堝1101の融液1102の高さが規定値に近いと判断することができる。また、坩堝高さが規定値よりも低い場合には主坩堝1101内の融液1102の量は規定値よりも多いと判断することができる。また、坩堝高さが規定値よりも高い場合には、主坩堝1101内の融液1102の量は規定値よりも少ないと判断することができる。これを利用して、主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを判断し、固体原料1402の投入の有無と固体原料1402の投入量を決定することができる。
【0094】
したがって、固体原料1402の投入の有無および固体原料1402の投入量を決定する方法としては、坩堝高さをもとに主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを判断して決定する方法が有効である。
【0095】
すなわち、坩堝高さが規定値以下となった場合には、主坩堝1101内の融液1102の量が多すぎると判断し、固定原料1402の投入を停止する。逆に、坩堝高さが規定値以上となった場合には、主坩堝1101内の融液1102の量が少なすぎると判断して固体原料1402の投入を継続する。
【0096】
このような方法によれば、結晶薄板1002を製造しながら坩堝高さを調整しつつ、適切なタイミングで固体原料1402を投入することができる。また、結晶薄板1002の製造を中断して主坩堝1101内の融液1102の高さを調整する必要がないため、結晶薄板1002の製造の生産性を向上することができる。
【0097】
また、さらに望ましい方法としては、坩堝高さから主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを判断して、主坩堝1101内の融液1102の不足量を計算し、不足している分だけ固体原料1402を追加する方法である。
【0098】
このように、固体原料1402の投入の有無、投入量またはこれらの双方を主坩堝1101に保持された融液1102の液面の高さをもとに決定することによって、結晶薄板1002の製造を中断せずに坩堝高さを調整し、適切な基板高さを維持しつつ適切なタイミングで固体原料1402を投入することができる。
【0099】
次に、浸漬深さを下地基板高さによって調整する場合について説明する。この場合、坩堝高さは常に一定の高さに固定することを想定している。
【0100】
主坩堝1101内の融液1102の液面の高さ(主坩堝1101の底面から融液1102の液面までの距離)は次のように調整される。
【0101】
まず、下地基板1001の浸漬深さが規定値付近となるように下地基板1001の鉛直方向における軌道の高さ(以下、「基板高さ」という。融液1102の液面の位置によって下地基板1001を深く移動させるか、浅く移動させるかを調整することができる)を調整することで適切な浸漬深さを維持することができる。
【0102】
このとき、基板高さが規定値付近にある場合には、主坩堝1101の融液1102の液面の高さが規定値に近いと判断することができる。また、基板高さが規定値よりも高い位置にある場合には、主坩堝1101内の融液1102の量は規定値よりも多いと判断することができる。また、基板高さが規定値よりも低い位置にある場合には、主坩堝1101に保持される融液1102の量は規定値より少ないと判断することができる。これを利用して、主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを判断し、固体原料1402の投入の有無と固体原料1402の投入量を決定することができる。
【0103】
したがって、固体原料1402の投入の有無および固体原料1402の投入量を決定する方法としては、基板高さをもとに主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを判断して決定する方法が有効である。
【0104】
すなわち、基板高さが規定値以上となった場合には、主坩堝1101内の融液1102の量が多すぎると判断し、固定原料1402の投入を停止する。逆に、基板高さが規定値以下となった場合には、主坩堝1101内の融液1102の量が少なすぎると判断して固体原料1402の投入を継続する。
【0105】
このような方法によれば、結晶薄板1002を製造しながら基板高さを調整しつつ、適切なタイミングで固体原料1402を投入することができる。また、結晶薄板1002の製造を中断して主坩堝1101内の融液1102の高さを調整する必要がないため、結晶薄板1002の製造の生産性を向上することができる。
【0106】
また、さらに望ましい方法としては、基板高さから主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを判断して、主坩堝1101内の融液1102の不足量を計算し、不足している分だけ固体原料1402を追加する方法である。
【0107】
このように、固体原料1402の投入の有無、投入量またはこれらの双方を主坩堝1101に保持された融液1102の液面の高さをもとに決定することによって、結晶薄板1002の製造を中断せずに坩堝高さおよび/または基板高さを調整し、適切な基板高さを維持しつつ適切なタイミングで固体原料1402を投入することができる。
【0108】
本実施の形態では、主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを下地基板1001が融液1102に接触する際の電気的接触による抵抗変化から判断する方法について説明したが、他の方法を用いてもよい。たとえば、主坩堝1101内の融液1102の液面に直接確認部材を接触させる方法、または融液1102の液面にレーザ光を当てることで高さを検知する方法等を用いることもできる。ただし、結晶薄板1002の製造を中断することなく、主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを検知する方法を用いることが好ましい。
【0109】
また、本実施の形態においては、下地基板1001の表面上に結晶薄板1002を製造する場合について説明したが、主坩堝1101の融液1102から固体を作製して取り出す方法のいずれにも適用することができる。たとえば、単結晶インゴットを鉛直方向に引き上げる方法や多結晶薄板を鉛直方向に引き上げる方法等のシリコン融液のような高融点融液から固体を製造する方法にも適用することができる。また、主坩堝1101の融液1102の液面の高さが一定となるように融液1102の液面の高さを制御しながら、副坩堝1201から融液1202を供給することで主坩堝1101の融液1102の温度を大きく変化させることなく連続した固体製造が可能となる。
【実施例】
【0110】
図1に示す構成の溶融炉1000および図2に示す下地基板浸漬装置2000を用いて黒鉛からなる下地基板1001の表面上にシリコンの結晶薄板1002の製造を行なった。ここで、主坩堝1101の材質には黒鉛を用い、主坩堝1101内の融液1102の液面の高さを判断する方法としては、図3に示す電気回路を用いる方法を採用した。
【0111】
本実施例においては、上記の実施の形態で説明した方法により、シリコンの結晶薄板1002を100回製造しながら、毎回の結晶薄板1002の製造ごとに下地基板1001と融液1102との接触タイミングから上記の式(2)により浸漬深さDを測定した。その浸漬深さDと規定値との差を計算し、坩堝昇降装置1107によって坩堝高さを常に調整し、浸漬深さDが規定値に近づくようにした。また、固体原料1402の追加量は1回に付き500gとし、坩堝高さが基準値(0mm)以上のときは追加しないこととした。
【0112】
また、本実施例においては、融液高さ検知器1503と固体原料投入制御装置1506による自動判断とすることによって完全自動化でシリコンの結晶薄板1002の製造を行なった。図5に、本実施例におけるシリコンの結晶薄板1002の製造時の浸漬深さDの規定値からのずれ量と坩堝高さの基準値からのずれ量との関係を示す。
【0113】
図5に示すように、浸漬深さDは概ね規定値±0.5mm程度に抑えることが可能であった。また坩堝高さも概ね基準値±0.5mm以内に収まっており、固体原料1402の供給過多や供給不足を生じることなく、シリコンの結晶薄板1002の連続製造を実施できることが確認された。
【0114】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、下地基板を融液に浸漬させることにより下地基板の表面上に形成される結晶薄板の生産を停止することなく安定した原料の追加供給を行なうことができ、また品質の劣化やばらつきを低減するとともに結晶薄板の製造歩留まりを向上することによって、結晶薄板の生産性を向上させることができる溶融炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の溶融炉の一例の模式的な構成図である。
【図2】本発明に用いられる下地基板浸漬装置の一例の模式的な構成図である。
【図3】本発明において融液の液面の高さを検知する方法の一例に用いられる電気回路を示す図である。
【図4】本発明において下地基板を融液に浸漬させる瞬間の一例を図解する模式図である。
【図5】本発明の実施例におけるシリコンの結晶薄板の製造時の浸漬深さDの規定値からのずれ量と坩堝高さの基準値からのずれ量との関係を示す図である。
【図6】従来の溶融炉の一例の模式的な構成図である。
【図7】従来の溶融炉の他の一例の模式的な構成図である。
【符号の説明】
【0117】
1000,3000,4000 溶融炉、1001 下地基板、1001a 接触点、1002 結晶薄板、1051,1052 電気配線、1102,1202,4102,4202 融液、1103,1203,1303,4103,4203 断熱材、1104,4104 主坩堝加熱装置、1105,1205,4105 耐火煉瓦、1106 主坩堝受け、1107 坩堝昇降装置、1201,4201 副坩堝、1204,4204 副坩堝加熱装置、1206 副坩堝受け、1301 融液搬送部、1304 融液搬送部加熱装置、1401 固体原料投入装置、1402 固体原料、1503 融液高さ検知器、1504,1505,1507 経路、1506 固体原料投入制御装置、1508 電源装置、1509 リレー、2000 下地基板浸漬装置、2101 水平動作軸、2102 水平軸台座、2103 昇降動作モータ、2104 懸垂支柱、2104a 下端、2105 回転機構、2106 回転支柱、2107 補助支柱、2108 固定台座、2120 矢印、3001 主室、3002 第1の副室、3003 第2の副室、3004 下地基板把持装置、3100 第1の坩堝、3101 第1の坩堝準備室、3102 第1の固体原料供給装置、3103,3203,3303 固体原料、3200 第2の坩堝、3201 第2の坩堝準備室、3202 第2の固体原料供給装置、3300 第3の坩堝、3301 第3の坩堝準備室、3302 第3の固体原料供給装置、1101,4101 主坩堝、4205 耐火煉瓦、4206 坩堝受け、4207 隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料および半導体材料の少なくとも一方を含む物質の融液を保持するための主坩堝と、
前記主坩堝に保持された前記融液を加熱するための主坩堝加熱装置と、
前記主坩堝に供給される前記融液を保持するための副坩堝と、
前記副坩堝に保持された前記融液を加熱するための副坩堝加熱装置と、
前記副坩堝に前記融液の原料となる固体原料を投入するための固体原料投入装置と、
前記副坩堝から前記主坩堝に前記融液を供給するための融液搬送部とを備え、
前記融液搬送部は前記副坩堝に接合されており、
前記固体原料投入装置から前記副坩堝に前記固体原料を投入することによって前記副坩堝から溢れ出した前記融液が前記融液搬送部を通って前記主坩堝に供給されることを特徴とする、溶融炉。
【請求項2】
前記融液搬送部を加熱するための融液搬送部加熱装置をさらに備え、
前記融液搬送部は前記融液搬送部加熱装置によって加熱される中空部材からなることを特徴とする、請求項1に記載の溶融炉。
【請求項3】
前記主坩堝に保持された前記融液に浸漬させることにより下地基板の表面に前記融液が凝固してなる結晶薄板を形成するための下地基板浸漬装置をさらに備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶融炉。
【請求項4】
前記主坩堝に保持された前記融液の液面の高さを検知する融液高さ検知器と、
前記固体原料投入装置から前記副坩堝への前記固体原料の投入の有無を決定する固体原料投入制御装置とをさらに備え、
前記融液高さ検知器によって検知された前記主坩堝に保持された前記融液の液面の高さに基づいて前記固体原料投入制御装置が前記副坩堝に前記固体原料を投入するか否かを決定することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶融炉。
【請求項5】
前記固体原料投入制御装置は、前記副坩堝に投入される前記固体原料の投入量も決定することを特徴とする、請求項4に記載の溶融炉。
【請求項6】
前記主坩堝に保持された前記融液に浸漬させることにより下地基板の表面に前記融液が凝固してなる結晶薄板を形成するための下地基板浸漬装置をさらに備えていることを特徴とする、請求項4または5に記載の溶融炉。
【請求項7】
前記融液高さ検知器によって検知された前記主坩堝に保持された前記融液の液面の高さに基づいて前記主坩堝を鉛直方向に移動させるための坩堝昇降装置をさらに備え、
前記坩堝昇降装置による前記主坩堝の高さを制御することにより、前記下地基板の前記融液に対する浸漬深さを調整することを特徴とする、請求項6に記載の溶融炉。
【請求項8】
前記融液高さ検知器によって検知された前記主坩堝に保持された前記融液の液面の高さに基づいて前記下地基板浸漬装置が前記下地基板の軌道の高さを制御することにより、前記下地基板の前記融液に対する浸漬深さを調整することを特徴とする、請求項6または7に記載の溶融炉。
【請求項9】
前記主坩堝に保持された前記融液の液面の高さを検知する融液高さ検知器と、
前記固体原料投入装置から前記副坩堝への前記固体原料の投入の有無を決定する固体原料投入制御装置と、
前記主坩堝に保持された前記融液に浸漬させることにより下地基板の表面に前記融液が凝固してなる結晶薄板を形成するための下地基板浸漬装置と、
前記融液高さ検知器によって検知された前記主坩堝に保持された前記融液の液面の高さに基づいて前記主坩堝を鉛直方向に移動させるための坩堝昇降装置とを備え、
前記坩堝昇降装置によって制御された前記主坩堝の高さおよび前記下地基板浸漬装置によって制御された前記下地基板の軌道の高さの少なくとも一方に基づいて前記固体原料投入制御装置が前記副坩堝に前記固体原料を投入するか否かを決定することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶融炉。
【請求項10】
前記主坩堝の高さおよび前記下地基板の軌道の高さの少なくとも一方に基づいて前記固体原料投入制御装置が前記副坩堝に投入される前記固体原料の投入量も決定することを特徴とする、請求項9に記載の溶融炉。
【請求項11】
前記坩堝昇降装置による前記主坩堝の高さを制御することにより、前記下地基板の前記融液に対する浸漬深さを調整することを特徴とする、請求項9または10に記載の溶融炉。
【請求項12】
前記下地基板浸漬装置が前記下地基板の軌道の高さを制御することにより、前記下地基板の前記融液に対する浸漬深さを調整することを特徴とする、請求項9から11のいずれかに記載の溶融炉。
【請求項13】
前記融液高さ検知器は、前記主坩堝に保持された前記融液と前記下地基板とが接触したときの電気信号を用いて前記融液の液面の高さを検出することを特徴とする、請求項4から12のいずれかに記載の溶融炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−263174(P2009−263174A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115766(P2008−115766)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】