説明

灌注用溶液並びに疼痛、炎症及びけいれんの抑制法

【課題】創傷における疼痛および炎症、またはけいれん、または疼痛および炎症およびけいれんの術中抑制法の提供
【解決手段】疼痛/炎症抑制薬およびけいれん抑制薬から選ばれた複数の抑制薬剤の生理学的液体担体中稀薄溶液を、医学的処置中創傷に灌注することを含む、創傷における疼痛および炎症、またはけいれん、または疼痛および炎症およびけいれんの術中抑制法であって、複数の薬剤が、疼痛および炎症またはけいれんを仲介する複数のレセプターまたは酵素において異なった分子的作用機構により作用する複数の薬剤群から選ばれ、これら薬剤が集合的に創傷における疼痛および炎症、またはけいれん、または疼痛および炎症およびけいれんの抑制に有効なものである方法が、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.発明の分野
この発明は、外科用灌注用溶液及び方法、特に抗炎症性及び抗疼痛性並びに抗けいれん性外科用灌注用溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
II.発明の背景
関節鏡検査法は、遠隔光源とビデオモニターに連結したカメラを、上を覆う皮膚と関節包に設けた小さな切開口を通して解剖学的関節(例えば膝、肩など)に挿入する外科的処置である。同様な切開口を通して、外科用機器を関節内に位置させることができ、その使用は関節鏡による映像化によって誘導することができる。関節鏡施術者の技術が進歩したので、かつて「開放」外科的技術によって実施されていた外科的処置で、現在関節鏡によりできるものの数が増加している。
【0003】
このような処置には、例えば、膝の部分的半月板切除術および靭帯再建術、肩の肩峰形成術および回旋筋腱板創縁切除術並びに肘の滑膜切除術がある。外科適応の拡大および小径関節鏡の発達の結果、手首およびくるぶしの関節鏡も日常的になった。
【0004】
各関節鏡検査法すべてにおいて、生理的灌注液(例えば通常の食塩水または乳酸加リンゲル液)が継続的に関節に導通され、関節包を拡張すると共に手術による屑を除去し、それによって明瞭な関節内の映像をもたらす。マーシャルの特許文献1は、関節鏡検査法用の非伝導性で光学的に透明な灌注液のための、水中グリセリンの等モル溶液を開示している。
【0005】
また灌注は、診断および治療用静脈内処置、泌尿器科処置並びに熱傷およびすべての手術創の治療のような他の処置にも使用されている。それぞれの場合、生理学的液体が創傷または体腔または通路の灌注に使用されている。従来の生理学的灌注液は、鎮痛または抗炎症効果をもたらさない。
【0006】
術後患者の疼痛および苦痛の軽減は、特に毎年実施される外来患者の手術の数の増加により、臨床用医薬において特別な関心がもたれる分野である。最も広く使用される薬剤であるシクロオキシゲナーゼ阻害剤(例えばイブプロフェン)およびオピオイド(例えばモルヒネ、フェンタニール)は、胃腸管刺激/出血および呼吸抑制を含む顕著な副作用を有する。オピオイドに関連する悪心および嘔吐の高率発生は、術後期間において特に問題である。有害な副作用を回避しつつ術後の疼痛を処置することを目的とする治療薬は、これらの薬剤の分子標的が体内に広く分布し多様な生理作用を仲介するため、容易に開発されない。疼痛および炎症並びに血管けいれんおよび平滑筋けいれんを抑制することが大きな臨床的必要性をもつにもかかわらず、全身性副作用を減少させつつ有効量の疼痛、炎症およびけいれん抑制薬を送達する方法は、まだ開発されない。一例を挙げると、治療用量のオピエート作用薬を頻繁に投与する従来の(すなわち静脈内、経口または筋肉内)方法は、重症呼吸抑制、気分の変化および意識混濁並びに強い悪心および嘔吐を含む顕著な副作用を伴う。
【0007】
従来の研究は、セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン、本書中では時により「5−HT」と称する)、ブラジキニンおよびヒスタミンのような内因性因子の疼痛および炎症発生能力を示した。非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5。
【0008】
例えば、ひとの水疱基底(剥離皮膚)に適用した5−HTは、5−HT3レセプター拮
抗薬により阻害しうる疼痛を生ずる。リチャードソンら、1985年。
【0009】
同様に、末梢的に適用したブラジキニンは、ブラジキニンレセプタ拮抗薬で遮断しうる疼痛を生ずる。非特許文献1;非特許文献4;非特許文献6。末梢に適用したヒスタミンは、ヒスタミンレセプター拮抗薬により抑制しうる血管拡張、掻痒および疼痛を生ずる。非特許文献2;非特許文献7、非特許文献8;非特許文献9。一緒に適用したこれら3種の作用薬(5−HT、ブラジキニンおよびヒスタミン)の組み合わせは、相乗的疼痛発生作用を示し、長期の強い疼痛シグナルを生ずることが示された。非特許文献1;非特許文献3;非特許文献10。
【0010】
身体中では、5−HTは血小板および中枢神経中に存在し、ヒスタミンはマスト細胞に認められ、ブラジキニンは、組織外傷、pH変化、温度変化などの間に大きな前駆体分子から産生される。5−HTは組織傷害部位の血小板から大量に放出され得るため、産生中の血漿中濃度は休止中濃度の20倍高い(非特許文献11)ので、内因性5−HTが術後疼痛、痛覚過敏および炎症の発生に役割をもつ可能性がある。事実、活性化した血小板は、インビトロで末梢侵害受容器を興奮させることが示された。非特許文献12。同様に、ヒスタミンおよびブラジキニンも傷害組織中で放出される。非特許文献13;非特許文献8;非特許文献6。
【0011】
さらに、プロスタグランジン類も、疼痛および炎症を起こすことが知られている。シクロオキゲナーゼ阻害剤、例えばイブプロフェンは、プロスタグランジン産生を阻害し、それによりプロスタグランジン仲介疼痛および炎症を減少させるために広く使用されている。非特許文献14、非特許文献15;通風の処置に使用する医薬。シクロオキシゲナーゼ阻害剤は、従来の方法で適用するとある種の全身性副作用を伴う。例えば、インドメタシンまたはケテロラックは、よく知られた胃腸管および腎性副作用を有する。
【0012】
上述のように、5−HT、ヒスタミン、ブラジキニンおよびプロスタグランジン類は、疼痛と炎症を起こす。これらの薬剤が末梢組織にその作用を伝達する際の種々のレセプターは、過去20年間に知られおよび/または検討された。多くの研究は、ラットまたは他の動物モデルで実施された。しかし、ひとと動物種の間には薬理およびレセプター配列に相違がある。ひとにおいて、術後疼痛の発生における5−HT、ブラジキニンまたはヒスタミンの重要性を決定的に示す研究はなかった。
【0013】
さらに、これらのメディエーターの拮抗薬は、現在術後疼痛の処置に使用されていない。アミトリプチリンを含む、5−HTおよびノルエピネフリン取り込み拮抗薬と称される一群の医薬が経口的に使用され、慢性疼痛症状において一応の成果をあげた。しかし、慢性と急性疼痛状態の機構は著しく異なると考えられる。事実、アミトリプチリンを術中に使用する急性疼痛環境の2種の研究は、アミトリプチリンの疼痛軽減作用を全く示さなかった。非特許文献16;非特許文献17。双方の研究において、薬剤は経口投与された。第2の研究は、経口投与のアミトリプチリンが実際に術後患者の総安寧感覚を低くすることが、脳の多重アミンレセプターに対するその薬剤の親和性による可能性があることに注目した。
アミトリプチリンは、5−HTおよびノルエピネフリンの取り込み遮断に加えて、強力な5−HTレセプター拮抗薬である。それ故、上述の研究における術後疼痛軽減効果の欠如は、急性疼痛における内因性5−HTの役割に関する提案に矛盾するように見える。これらの2種の研究においてアミトリプチリンに見られる急性疼痛軽減の欠如には数多くの理由が存在する。(1)第1の研究は、アミトリプチリンを術前1週間から手術前夜まで使用し、一方第2の研究は、アミトリプチリンを術後にのみ使用した。したがって、5−HTの放出がもくろまれる時である実際の組織傷害相の間、手術部位にアミトリプチリンは存在しなかった。(2)アミトリプチリンは、肝臓で大規模に代謝されることが知られている。第2の研究において、経口投与では、手術部位の組織におけるアミトリプチリンの濃度が、術後放出5−HTの活性を阻害するに充分なほど長い期間に亘り、充分高くなかった可能性がある。(3)多重の炎症メディエーターが存在するので、研究は、炎症メディエーター間の相乗作用を示し、一つの薬剤(5−HT)のみの遮断では組織傷害に対する炎症応答を充分抑制しない可能性がある。
ヒスタミン1(H1)レセプター拮抗薬の著しい高濃度(1%−3%溶液、すなわち1mg当たり10−30mg)が外科処置に際して局所麻酔薬として働く能力を示す研究が少数ある。この麻酔作用は、H1レセプターによって伝達されるとは考えられず、むしろ(
リドカインの作用と同様)神経膜のナトリウムチャンネルに対する非特異的相互作用によると考えられる。このヒスタミンレセプター拮抗薬の高「麻酔」濃度に伴う副作用(例えば鎮静)により、ヒスタミンレセプター拮抗薬の局所投与は現在術中環境において使用されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,504,493号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】エフ・シキュテリら、「ひとの疼痛レセプターにおけるセロトニン・ブラジキニン増強」、ライフ・サイエンス、4巻、309−316頁(1965年)
【非特許文献2】エス・アール・ローゼンタール、「皮膚疼痛の化学メディエーターとしてのヒスタミン」、ジャーナル・オブ・インベスティゲイティブ・ダーマトロジー、69巻、98−105頁(1977年)
【非特許文献3】ビー・ピー・リチャードソンら、「セロトニンMレセプターサブタイプの同定および新規医薬群による特異的遮断」、ネイチャー、316巻、126−131頁(1985年)
【非特許文献4】イー・ティー・ウオーリーら、「キニン作用薬および拮抗薬の効果」、ナウニン・シュミーデブアーカイブス・オブ・ファーマコロジー、36巻、652−57頁(1987年)
【非特許文献5】イー・ラングら、「インビトロにおけるラット皮膚の微細求心系の化学感受性」、ジャーナル・オブ・ニューロフィジオロジー、63巻、887−901頁(1990年)
【非特許文献6】エイ・ドレイら、「ブラジキニンおよび炎症性疼痛」、トレンズ・イン・ニューロサイエンシズ、16巻、99−104頁(1993年)
【非特許文献7】エル・エス・グッドマンら編、ニューヨーク、マクミラン・パブリッシング・カンパニー発行、「治療の薬理学的基礎」、605−638頁(1985年)
【非特許文献8】ダブリュー・ダブリュー・ダグラス、「ヒスタミンおよび5−ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)並びにそれらの拮抗薬」1985年
【非特許文献9】エム・エム・ルモアら、「抗ヒスタミン薬の鎮痛効果、ライフ・サイエンス」、36巻、403−416頁(1985年)
【非特許文献10】ダブリュー・ケスラーら、「炎症メディエーターの組み合わせによるインビトロの皮膚求心神経末端の興奮およびサブスタンスPによる条件づけ作用」、エクスペリメンタル・ブレイン・リサーチ、91巻、467−476頁(1992年)
【非特許文献11】ジェイ・エイチ・アシュトンら、「狭窄したいぬ冠動脈における環流動変化のメディエーターとしてのセロトニン」、サーキュレーション、73巻、572−578頁(1986年)
【非特許文献12】エム・リングカンプら、「インビトロで血漿中の活性化ひと血小板がラット皮膚の侵害受容器を興奮させる」、ニューロサイエンス・レタース、170巻、103−106頁(1994年)
【非特許文献13】イー・キムラら、「冠動脈の実験的閉塞後の冠洞血液中ブラジキニン濃度の変化」、アメリカン・ハート・ジャーナル、85巻、635−647頁(1973年)
【非特許文献14】エル・エス・グッドマンら編、「ニューヨーク、マクミラン・パブリッシング・カンパニー発行、「治療の薬理学的基礎」、674−715頁(1985年)
【非特許文献15】アール・ジェイ・フラワーら、鎮痛解熱薬及び抗炎症薬
【非特許文献16】ジェイ・ディー・レビンら、「デシプラミンはオピエートの術後鎮痛を増強する」、ペイン、27巻、45−49頁(1986年)
【非特許文献17】ジェイ・エム・ケリックら、「術後の整形科疼痛用オピオイドの助剤としての低用量アミトリプチリン:プラセボ対照実験期間」、ペイン、52巻、325−30頁(1993年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
III.発明の要約
この発明は、生理学的電解質担体流体中に入れた、局所的に疼痛および炎症メディエーターを阻害するための多数の薬剤混合物で構成される低用量(すなわち希薄)溶液を提供する。またこの発明は、これらの薬剤を含む灌注用溶液を、それがニューロレセプターレベルで局所的に作用してその部位で疼痛および炎症を先制的に制限する、手術部位に直接術中送達する方法を提供する。溶液中の抗疼痛/抗炎症薬は、下記分類群のレセプター拮抗薬、レセプター作用薬および酵素阻害剤から選ばれた薬剤を含有し、各群は異なった分子的作用機構により疼痛および炎症抑制の作用をする:(1)セロトニンレセプター拮抗薬;(2)セロトニンレセプター作用薬;(3)ヒスタミンレセプター拮抗薬;(4)ブラジキニンレセプター拮抗薬;(5)カリクレイン阻害剤;(6)ニューロキニン1およびニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬を含むタチキニンレセプター拮抗薬;(7)カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)レセプター拮抗薬;(8)インターロイキンレセプター拮抗薬;(9)(a)PLA2イソ型阻害剤およびPLCγイソ型阻害剤を含むホスホリパーゼ阻害剤、(b)シクロオキシゲナーゼ阻害剤、および(c)リポオキシゲナーゼ阻害剤を含むアラキドン酸代謝物合成経路で活性を示す酵素の阻害剤;(10)エイコサノイドEP−1およびEP−4レセプターサブタイプ拮抗薬並びにトロンボキサンレセプターサブタイプ拮抗薬を含むプロスタノイドレセプター拮抗薬;(11)ロイコトリエンB4レセプターサブタイプ拮抗薬およびロイコトリエンD4レセプターサブタイプ拮抗薬を含むロイコトリエンレセプター拮抗薬;(12)ミューオピエート、デルタオピエートおよびカッパーオピエートレセプターサブタイプ作用薬を含むオピオイドレセプター作用薬;(13)P2Xレセプター拮抗薬およびP2Yレセプター作用薬を含むプリノセプター作用薬および拮抗薬;(14)アデノシン3燐酸(ATP)感受性カリウムチャンネル解放薬;および(15)カルシウムチャンネル拮抗薬。上記薬剤はそれぞれ抗炎症薬および抗侵害受容薬すなわち抗疼痛または鎮痛薬の両者として機能する。これらの化合物群からの薬剤の選択は具体的用途に応じて調整される。
【0017】
またこの発明の溶液の数種の好ましい実施態様は、具体的用途に応じた抗けいれん薬を含有する。例えば、抗けいれん薬は、血管けいれんを制限するため血管処置に用いる溶液に、また尿路および膀胱壁のけいれんを制限するため尿路処置用溶液に、含有させることができる。このような用途の場合、抗けいれん薬が溶液中に用いられる。例えば、抗けいれん薬としても役立つ抗疼痛/抗炎症薬を含有させることができる。抗けいれん薬としても役立つ適当な抗炎症/抗疼痛薬は、セロトニンレセプター拮抗薬、タチキニンレセプター拮抗薬、ATP感受性カリウムチャンネル解放薬、およびカルシウムチャンネル拮抗薬を含む。抗けいれん性があるため特に溶液中に用いることができるそのほかの薬剤には、エンドセリンレセプター拮抗薬および酸化窒素供与薬(酵素活性化剤)が含まれる。
【0018】
またこの発明は、手術処置中に手術部位または創傷に連続灌注するために用いる希薄灌注用溶液として配合された医薬の製造方法を提供する。この方法は、生理学的電解質担体流体中に複数の抗疼痛/抗炎症薬およびある種の用途の場合抗けいれん薬を溶解することを必要とし、各薬剤は好ましくは100,000ナノモル以下、さらに好ましくは10,000ナノモル以下の濃度で含有される。
【0019】
この発明の方法は、疼痛、炎症およびけいれんメディエーターに対する多数の拮抗薬および阻害的レセプター作用薬希薄配合物を、関節鏡処置中に関節組織のような創傷に直接送達することに役立つ。溶液中の有効成分が直接手術組織に連続的な態様で適用されるので、医薬が、同じ医薬が経口、筋肉内または静脈内に送達される場合の治療効果に必要な用量に比較して著しく低用量で有効に使用され得る。薬剤の低用量による利点は3重になる。最も重要なのは、しばしばこれらの薬剤の有用性を制限する全身性副作用が存在しないことである。この発明の溶液で使用する低い治療用量は、含有される薬剤の筋肉内吸収を低下させ、それにより全身性作用をも低下させる。さらに、この発明の溶液において特定の用途に関して選択される薬剤は、それが作用するメディエーターに関して極めて特異的である。この特異性は、使用する低用量によって維持される。最後に、1リットル当たりの有効成分の費用が極めて少ない。
【0020】
また灌注による薬剤の局所投与は、患者間の代謝、血流などの変化に無関係に、末梢標的部位における既知濃度を保証する。直接送達法をとるため、治療濃度が即時に得られる。それ故、用量調節の改善がもたらされる。また創傷または手術部位への有効成分の直接局所投与は、もし薬剤が経口、静脈内または筋肉内投与された場合に生ずる細胞外過程による薬剤の分解、すなわち初回および次回通過代謝を減少させる。このことは、特に、急速に代謝されるペプチドである有効成分について正しい。例えば、以下に述べる群の薬剤はペプチド性である:ブラジキニンレセプター拮抗薬、タチキニンレセプター拮抗薬、オピオイドレセプター作用薬、CGRPレセプター拮抗薬、およびインターロイキンレセプター拮抗薬。創傷または手術部位への局所的連続送達は、分解を減少すると共に、分解された可能性がある薬剤部分の連続的置換をもたらし、レセプターの占有を維持するに充分な局所的治療濃度が手術処置の期間中維持されることを保証する。
【0021】
この発明による、外科的処置中の溶液の局所投与は、「先制的鎮痛」効果を生ずる。顕著な手術創が局所的に始まる前に標的レセプターを占有しまたは標的酵素を不活性化することにより、この発明の溶液の薬剤は、シグナル伝達を調節して標的病理学的過程を先制的に抑制する。もし炎症メディエーターおよび過程が、それらが組織障害を起こす前に阻害されるならば、障害が始まった後に投与される場合よりも利益が実質的に大きい。
【0022】
この発明の多重薬剤溶液を適用することによる一種より多い炎症メディエーターの阻害は、炎症および疼痛を劇的に減少すると考えられる。この発明の灌注用溶液は、それぞれが多数の解剖学的レセプターまたは酵素に対して有効な薬剤の組み合わせを含有する。従って、薬剤類は、疼痛および炎症、血管けいれんおよび平滑筋けいれんを含む病理学的過程の組み合わせに対して有効である。このようなメディエーターの作用は、この発明の多数のレセプター拮抗薬および拮抗的作用薬が、個々の薬剤の効果に対して組み合わせが不均衡に増加した効果をもたらす点で、相乗的と考えられている。この発明の数種の薬剤の相乗作用は、以下に示すこれらの薬剤の詳細な説明中で実施例として検討されている。
【0023】
関節鏡検査法に加えて、この発明の溶液は、あらゆるひとの体腔または通路、手術創、外傷(例えば熱傷)または灌注をなし得るあらゆる手術/介入処置中に局所的に適用することができる。このような処置には、泌尿器科処置、介入的心血管診断および/または治療処置、並びに経口、歯科および歯根膜処置を含むが、これらに限定されるわけではない。本明細書を通じて、「創傷」の語は、特に断らない限り、外科的創傷、手術/介入部位、外傷および熱症を包含するものとする。
【0024】
手術中に使用すると、この溶液は現在使用されている灌注液に較べて臨床的に顕著な手術部位疼痛および炎症の減少をもたらし、それにより患者の術後鎮痛薬(すなわちオピエート)の必要性を減少し、適当な場合には、患者の手術部位の早期の可動化を可能にする。外科医および手術室要員の側には、この発明の溶液を使用するために、従来の灌注液に比較して余分な努力を全く必要としない。
本発明はさらに、以下の項目を提供する。
項目1.疼痛/炎症抑制薬およびけいれん抑制薬から選ばれた複数の抑制薬剤の生理学的液体担体中稀薄溶液を、医学的処置中創傷に灌注することを含む、創傷における疼痛および炎症、またはけいれん、または疼痛および炎症およびけいれんの術中抑制法であって、複数の薬剤が、疼痛および炎症またはけいれんを仲介する複数のレセプターまたは酵素において異なった分子的作用機構により作用する複数の薬剤群から選ばれ、これら薬剤が集合的に創傷における疼痛および炎症、またはけいれん、または疼痛および炎症およびけいれんの抑制に有効なものである、方法。
項目2.医学的処置中、溶液を創傷に連続的に灌注することを含む、項目1記載の方法。
項目3.各薬剤が、100,000ナノモル以下の濃度で含有される、項目1記載の方法。
項目4.各薬剤が、10,000ナノモル以下の濃度で含有される、項目3記載の方法。
項目5.薬剤群が、セロトニンレセプター拮抗薬;セロトニンレセプター作用薬;
ヒスタミンレセプター拮抗薬;ブラジキニンレセプター拮抗薬;カリクレイン阻害剤;ニューロキニン1レセプターサブタイプ桔抗薬およびニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬を含むニューロキニンレセプター拮抗薬;カルシトニン遺伝子関連ペプチドレセプター拮抗薬;インターロイキンレセプター拮抗薬;PLA2イソ型およびPLCγイソ型阻害剤を含むホスホリパーゼ阻害剤;シクロオキシゲナーゼ阻害剤;リポオキシゲナーゼ阻害剤;エイコサノイドEP−1およびEP−4レセプターサブタイプ拮抗薬並びにトロンボキサンレセプターサブタイプ拮抗薬を含むプロスタノイドレセプター拮抗薬;ロイコトリエンB4およびD4レセプターサブタイプ拮抗薬を含むロイコトリエンレセプター拮抗薬;ミューオピエートレセプターサブタイプ作用薬、デルタオピエートレセプターサブタイプ作用薬およびカッパーオピエートレセプターサブタイプ作用薬を含むオピオイドレセプター作用薬;P2Yレセプター作用薬およびP2Xレセプター拮抗薬を含むプリノセプター作用薬および拮抗薬;ATP感受性カリウムチャンネル解放薬;およびカルシウムチャンネル拮抗薬からなる群から選ばれた疼痛/炎症抑制薬群を含む、項目1記載の方法。
項目6.選択した疼痛/炎症抑制薬が、セロトニンレセプター拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル;セロトニンレセプター作用薬について0.1ないし2,000ナノモル;ヒスタミンレセプター拮抗薬について0.1ないし1,000ナノモル;ブラジキニンレセプター拮抗薬について1ないし10,000ナノモル;カリクレイン阻害剤について0.1ないし1,000ナノモル;ニューロキニン1レセプターサブタイプ拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル;ニューロキニン2レセプターサブタイプ桔抗薬について1.0ないし10,000ナノモル;カルシトニン遺伝子関連ペプチド桔抗薬について1ないし1,000ナノモル;インターロイキン拮抗薬について1ないし1,000ナノモル;PLA2イソ型阻害剤について100ないし100,000ナノモル;シクロオキシゲナーゼ阻害剤について100ないし200,000ナノモル;リポオキシゲナーゼ阻害剤について100ないし10,000ナノモル;エイコサノイドEP−1レセプターサブタイプ拮抗薬について100ないし10,000ナノモル;ロイコトリエンB4レセプターサブタイプ拮抗薬について100ないし10,000ナノモル;ミューオピエートレセプターサブタイプ作用薬について0.1ないし100ナノモル;デルタオピエートレセプターサブタイプ作用薬について0.1ないし500ナノモル;カッパーオピエートレセプターサブタイプ作用薬について0.1ないし500ナノモル;プリノセプター拮抗薬について100ないし100,000ナノモル;ATP感受性カリウムチャンネル解放薬について0.1ないし10,000ナノモル;およびカルシウムチャンネル拮抗薬について1.0ないし10,000ナノモルの濃度で含有される、項目5記載の方法。
項目7.溶液が血管または平滑筋けいれん抑制のための抗けいれん薬を含む、項目1記載の方法。
項目8.抗けいれん薬または薬類が、セロトニン2レセプターサブタイプ拮抗薬、タチキニンレセプター拮抗薬、酸化窒素供与薬、ATP感受性カリウムチャンネル解放薬、カルシウムチャンネル拮抗薬、およびエンドセリンレセプター拮抗薬からなる群から選ばれる、項目7記載の方法。
項目9.選択した抗けいれん薬または薬類が、セロトニン2レセプターサブタイプ拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル、タチキニンレセプター拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル、酸化窒素供与薬について1.0ないし10,000ナノモル、ATP感受性カリウムチャンネル解放薬について0.1ないし10,000ナノモル、カルシウムチャンネル拮抗薬について1.0ないし10,000ナノモル、およびエンドセリンレセプター拮抗薬について0.01ないし100,000ナノモルの濃度で含有される、項目8記載の方法。
項目10.灌注が、血管内医学的処置中に血管構造に灌注することを含む、項目1記載の方法。
項目11.使用する灌注用溶液が少なくとも一種の選択した抗けいれん薬および少なくとも一種の選択した疼痛/炎症抑制薬を含有し、選択した薬類が、50ないし500ナノモルの濃度で含まれるセロトニン2レセプターサブタイプ拮抗薬、800ないし5,000ナノモルの濃度で含まれるシクロオキシゲナーゼ阻害剤、10ないし1,000ナノモルの濃度で含まれるエンドセリンレセプター拮抗薬、100ないし1,000ナノモルの濃度で含まれるATP感受性カリウムチャンネル解放薬、100ないし1,000ナノモルの濃度で含まれるカルシウムチャンネル拮抗薬、および100ないし1,000ナノモルの濃度で含まれる酸化窒素供与薬を含むものである、項目10記載の方法。
項目12.灌注段階が、手術創、熱傷、または関節鏡手術中の解剖学的関節を灌注することを含む、項目1記載の方法。
項目13.溶液が、50ないし500ナノモルの濃度で含まれるセロトニン2レセプター拮抗薬、200ないし2,000ナノモルの濃度で含まれるセロトニン3レセプターサブタイプ拮抗薬、50ないし500ナノモルの濃度で含まれるヒスタミン1レセプター拮抗薬、10ないし200ナノモルの濃度で含まれるセロトニンレセプター作用薬、800ないし5,000ナノモルの濃度で含まれるシクロオキシゲナーゼ阻害剤、10ないし500ナノモルの濃度で含まれるニューロキニン1レセプターサブタイプ拮抗薬、10ないし500ナノモルの濃度で含まれるニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬、10,000ないし100,000ナノモルの濃度で含まれるプリノセプター拮抗薬、100ないし1,000ナノモルの濃度で含まれるATP感受性カリウムチャンネル解放薬、100ないし5,000ナノモルの濃度で含まれるカルシウムチャンネル拮抗薬、および50ないし500ナノモルの濃度で含まれるカリクレイン阻害剤を含む選択した疼痛/炎症抑制薬を含有する、項目12記載の方法。
項目14.灌注段階が、少なくとも泌尿器科処置中尿路の一部を灌注することを含む、項目1記載の方法。
項目15.使用する灌注用溶液が少なくとも一種の選択した抗けいれん薬および少なくとも一種の選択した疼痛/炎症抑制薬を含有し、選択した薬類が、1ないし100ナノモルの濃度で含まれるセロトニン2レセプターサブタイプ拮抗薬、50ないし500ナノモルの濃度で含まれるヒスタミン1レセプターサブタイプ拮抗薬、800ないし5,000ナノモルの濃度で含まれるシクロオキシゲナーゼ阻害剤、10ないし500ナノモルの濃度で含まれるニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬、10,000ないし100,000ナノモルの濃度で含まれるプリノセプター拮抗薬、100ないし1,000ナノモルの濃度で含まれるATP感受性カリウムチャンネル解放薬、100ないし5,000ナノモルの濃度で含まれるカルシウムチャンネル拮抗薬、50ないし500ナノモルの濃度で含まれるカリクレイン阻害剤、および100ないし1,000ナノモルの濃度で含まれる酸化窒素供与薬を含むものである、項目14記載の方法。
項目16.溶液がセロトニンレセプター拮抗薬を含有する、項目1記載の方法。
項目17.溶液がATP感受性カリウムチャンネル作用剤を含有する、項目1記載の方法。
項目18.溶液が100,000ナノモル以下の濃度でカルシウムチャンネル拮抗薬を含有する、項目1記載の方法。
項目19.疼痛/炎症抑制薬およびけいれん抑制薬から選ばれた複数の抑制薬剤の生理学的液体担体中稀薄溶液を含み、複数の薬剤が、疼痛および炎症またはけいれんを仲介する複数のレセプターまたは酵素において異なった分子的作用機構により作用する複数の薬剤群から選ばれ、これら薬剤が集合的に創傷における疼痛および炎症、またはけいれん、または疼痛および炎症およびけいれんの抑制に有効なものである、医学的処置中創傷に灌注するために使用する、疼痛および炎症、またはけいれん、または疼痛および炎症およびけいれんの術中抑制用溶液。
項目20.薬剤群が、セロトニンレセプター拮抗薬;セロトニンレセプター作用薬;ヒスタミンレセプター拮抗薬;ブラジキニンレセプター拮抗薬;カリクレイン阻害剤;ニューロキニン1レセプターサブタイプ拮抗薬およびニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬を含むニューロキニンレセプター拮抗薬;カルシトニン遺伝子関連ペプチド拮抗薬;インターロイキン拮抗薬;PLA2イソ型およびPLCγイソ型阻害剤を含むホスホリパーゼ阻害剤;シクロオキシゲナーゼ阻害剤;リポオキシゲナーゼ阻害剤;エイコサノイドEP−1およびEP−4レセプターサブタイプ拮抗薬並びにトロンボキサンレセプターサブタイプ拮抗薬を含むプロスタノイドレセプター拮抗薬;ロイコトリエンB4およびD4レセプターサブタイプ拮抗薬を含むロイコトリエンレセプター拮抗薬;ミューオピエートレセプターサブタイプ作用薬、デルタオピエートレセプターサブタイプ作用薬およびカッパーオピエートレセプターサブタイプ作用薬を含むオピオイドレセプター作用薬;P2Yレセプター作用薬およびP2Xレセプター拮抗薬を含むプリノセプター作用薬および拮抗薬;ATP感受性カリウムチャンネル解放薬;およびカルシウムチャンネル拮抗薬からなる群から選ばれた疼痛/炎症抑制薬群を含む、項目19記載の溶液。
項目21.灌注用溶液中の疼痛/炎症抑制薬が、セロトニンレセプター拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル;セロトニンレセプター作用薬について0.1ないし2,000ナノモル;ヒスタミンレセプター拮抗薬について0.1ないし1,000ナノモル;ブラジキニンレセプター拮抗薬について1ないし10,000ナノモル;カリクレイン阻害剤について0.1ないし1,000ナノモル;ニューロキニン1レセプターサブタイプ拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル;ニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬について1.0ないし10,000ナノモル;カルシトニン遺伝子関連ペプチドレセプター拮抗薬について1ないし1,000ナノモル;インターロイキンレセプター拮抗薬について1ないし1,000ナノモル;ホスホリパーゼ阻害剤について100ないし100,000ナノモル;シクロオキシゲナーゼ阻害剤について100ないし200,000ナノモル;リポオキシゲナーゼ阻害剤について100ないし10,000ナノモル;エイコサノイドEP−1レセプター拮抗薬について100ないし10,000ナノモル;ロイコトリエンB4レセプター拮抗薬について100ないし10,000ナノモル;ミューオピエートレセプターサブタイプ作用薬について0.1ないし100ナノモル;デルタオピエートレセプターサブタイプ作用薬について0.1ないし500ナノモル;カッパーオピエートレセプターサブタイプ作用薬について0.1ないし500ナノモル;プリノセプター拮抗薬について100ないし100,000ナノモル;ATP感受性カリウムチャンネル解放薬について0.1ないし10,000ナノモル;およびカルシウムチャンネル拮抗薬について1.0ないし10,000ナノモルの濃度で含有される、項目20記載の溶液。
項目22.灌注用溶液中の少なくとも一種の選択した薬類が血管または平滑筋けいれん抑制のための抗けいれん薬の群を含む、項目19記載の溶液。
項目23.抗けいれん薬が、セロトニン2レセプターサブタイプ拮抗薬、タチキニンレセプター拮抗薬、酸化窒素供与薬、ATP感受性カリウムチャンネル解放薬、カルシウムチャンネル拮抗薬、およびエンドセリンレセプター拮抗薬からなる群から選ばれる、項目21記載の溶液。
項目24.抗けいれん薬が、セロトニン2レセプターサブタイプ拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル、タチキニンレセプター拮抗薬について0.1ないし10,000ナノモル、酸化窒素供与薬について1.0ないし10,000ナノモル、ATP感受性カリウムチャンネル解放薬について0.1ないし10,000ナノモル、カルシウムチャンネル拮抗薬について1.0ないし10,000ナノモル、およびエンドセリンレセプター拮抗薬について0.01ないし100,000ナノモルの濃度で含有される、項目23記載の溶液。
項目25.各薬剤が、100,000ナノモル以下の濃度で含有される、項目19記載の溶液。
項目26.各薬剤が、10,000ナノモル以下の濃度で含有される、項目25記載の溶液。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下、この発明を、添付図面に基づいて実施例によりさらに詳細に説明する。
【図1】図1は、バルーン血管形成術中にこの発明の溶液中に用いたヒスタミンおよびセロトニン拮抗薬の注入による血管狭窄に対する効果を示す、本明細書実施例VIIに記載した動物実験についてそれぞれ対照動脈、患者動脈の近位切片および患者動脈の遠位切片における時間と血管狭窄のパーセントの関係を示す図である。
【図2】図2Aおよび2Bは、バルーン血管形成術中にこの発明の溶液中に用いたヒスタミンおよびセロトニン拮抗薬の注入による血管狭窄に対する効果を示す、本明細書実施例VIIに記載した動物実験についてそれぞれ対照動脈、患者動脈の近位切片および患者動脈の遠位切片における時間と血管狭窄のパーセントの関係を示す図である。
【図3】図3は、本明細書実施例VIIIに記載した動物実験において、5−ヒドロキシトリプタミンの導入により溢血を誘導した膝関節にそれぞれ静脈内および関節内送達したこの発明の溶液中のアミトリプチリンの用量と血漿溢血の関係を示す図である。
【図4】図4は、本明細書実施例VIIIに記載した動物実験において、5−ヒドロキシトリプタミンの導入により溢血を誘導した膝関節にそれぞれ静脈内および関節内送達したこの発明の溶液中のアミトリプチリンの用量と血漿溢血の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
V.好ましい態様の詳細な説明
この発明の灌注用溶液は、生理学的担体中に疼痛/炎症抑制薬および抗けいれん薬を多重に含む稀薄溶液である。担体は、通常の食塩水または乳酸加リンゲル液のような、生理学的電解質を含む流体である。担体は液体が好ましいが、ある種の用途、例えば熱傷では、パスタ剤または軟膏剤として配合することができる。
【0027】
抗炎症/抗疼痛薬は、(1)セロトニンレセプター拮抗薬;(2)セロトニンレセプター作用薬;(3)ヒスタミンレセプター拮抗薬;(4)ブラジキニンレセプター拮抗薬;(5)カリクレイン阻害剤;(6)ニューロキニン1およびニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬を含むタチキニンレセプター拮抗薬;(7)カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)レセプター拮抗薬;(8)インターロイキンレセプター拮抗薬;(9)(a)PLA2イソ型阻害剤およびPLCγイソ型阻害剤を含むホスホリパーゼ阻害剤、(b)シクロオキシゲナーゼ阻害剤、および(c)リポオキシゲナーゼ阻害剤を含むアラキドン酸代謝物合成経路で活性を示す酵素の阻害剤;(10)エイコサノイドEP−1およびEP−4レセプターサブタイプ拮抗薬並びにトロンボキサンレセプターサブタイプ拮抗薬を含むプロスタノイドレセプター拮抗薬;(11)ロイコトリエンB4レセプターサブタイプ拮抗薬およびロイコトリエンD4レセプターサブタイプ拮抗薬を含むロイコトリエンレセプター拮抗薬;(12)ミューオピエート、デルタオピエートおよびカッパーオピエートレセプターサブタイプ作用薬を含むオピオイドレセプター作用薬;(13)P2Xレセプター拮抗薬およびP2Yレセプター作用薬を含むプリノセプター作用薬および拮抗薬;(14)アデノシン3燐酸(ATP)感受性カリウムチャンネル解放薬;および(15)カルシウムチャンネル拮抗薬からなる群から選ばれる。抗けいれん薬としても作用する適当な抗炎症/抗疼痛薬は、セロトニンレセプター拮抗薬、タチキニンレセプター拮抗薬、ATP感受性カリウムチャンネル解放薬、およびカルシウムチャンネル拮抗薬を含む。抗けいれん性があるため特に溶液中に用いることができるそのほかの薬剤には、エンドセリンレセプター拮抗薬および酸化窒素供与薬(酵素活性化剤)が含まれる。
【0028】
この発明の各外科用溶液において、薬剤は、従来の医薬投与法で目的とする治療効果を達成するために必要とされた濃度及び用量に比較して低濃度で含有され低用量で局所的に送達される。全身投与された医薬は初回および次回通過代謝を受けるため、同様に処方された薬剤を他の医薬投与経路(すなわち静脈内、筋肉内または経口)で送達して同じ効果を得るのは不可能である。各薬剤は、選択した具体的阻害剤に応じて大きな濃度が必要となり得るシクロオキシゲナーゼ阻害剤を除いて、好ましくは0.1ないし10,000ナノモルの低濃度で含有される。溶液に使用するため選択する正しい薬剤および薬剤濃度は、下記のように、具体的用途により異なる。
【0029】
この発明の溶液は、列挙した分類の中から単一もしくは多重疼痛/炎症抑制剤(類)、単一もしくは多重抗けいれん薬(類)、または抗けいれんおよび疼痛/炎症薬の両者の組み合わせを、低濃度で含有することができる。しかし、前記した多重薬剤の相乗作用並びに広範囲に疼痛および炎症を遮断する目的のため、多重薬剤を使用するのが好ましい。
【0030】
この灌注用溶液は、明確なレセプターおよび酵素分子である標的に作用する多重薬理作用剤の送達に関するする新規な治療的アプローチを構成するものである。今日まで、薬理学的な方策は、個々のシグナルを送る神経伝達物質およびホルモンに対する応答を仲介する個々のレセプターサブタイプおよび酵素イソ型に対して選択的な高特異性医薬の開発に、焦点を合わせてきた。一例を挙げると、エンドセリンペプチド類は、既知の最強力血管収縮薬に属する。エンドセリン(ET)レセプターサブタイプ類に特異的な選択的拮抗薬を、体内エンドセリン濃度の増加が関係する数々の障害の処置に使用するために、若干の製薬会社が探索している。高血圧におけるレセプターサブタイプETAの大きな役割を認
識して、これらの製薬会社は、冠動脈の血管けいれんの処置を期待してETAレセプター
サブタイプに選択的な拮抗薬の開発に特に的を絞っている。充分承認されているものではあるが、この標準的薬理学的方策は、同時に他の血管収縮薬(例えば、セロトニン、プロスタグランジン、エイコサノイドなど)が血管けいれんエピソードの開始と維持の原因であるため、最適とはいえない。さらに、単一のレセプターサブタイプまたは酵素の不活性化にもかかわらず、他のレセプターサブタイプまたは酵素の活性化およびそれによって生ずるシグナルの伝達がしばしばカスケード効果の引き金になり得る。このことは、多重伝達物質が役割を演ずる病理学的過程の遮断に対する単一レセプター特異性医薬の使用に大きな困難が存在することの説明になる。それ故、ETAのような特異的な個々のレセプターサブタイプのみを標的とすることは、効果的でないようである。
【0031】
標準的薬理学的処置法と異なり、この発明の外科用溶液の処置法は、明確な分子標的に同時に作用する医薬の組み合わせが、病理学的状態の発展の裏にある事象の全スペクトルを阻害するために必要であるとの論拠に基づく。さらに、特異的レセプターサブタイプのみを標的とする代わりに、この外科用溶液は、疼痛、炎症、血管けいれんおよび平滑筋けいれんの発展に関係する異なった細胞生理学的過程で機能する共通の分子機構を標的とする医薬類から構成されている。このように、侵害性、炎症性、および痙性の経路におけるさらなるレセプターおよび酵素のカスケードは、外科用溶液により最小化される。これらの病態生理学的経路において、この外科用溶液は、「上流」および「下流」の両方のカスケード効果を阻害する。
【0032】
「上流」阻害の例は、疼痛および炎症環境におけるシクロオキシゲナーゼ拮抗薬である。シクロオキシゲナーゼ酵素(COX1およびCOX2)は、アラキドン酸からプロスタグランジン類、ロイコトリエン類およびトロンボキサン類を含む炎症および侵害受容メディエーターの生合成の中間体であるプロスタグランジンHへの変換を触媒する。シクロオキシゲナーゼ阻害剤は、これらの炎症および侵害受容メディエーターの生成の「上流」を遮断する。この方策は、7種のプロスタノイドレセプター既知サブタイプとその天然リガンドの相互作用の遮断の必要性を排除する。この外科用溶液に含まれる同様な「上流」阻害剤は、カリクレイン阻害剤であるアプロチニンである。セリンプロテアーゼである酵素カリクレインは、血漿中の高分子量キニノーゲンを切断して疼痛および炎症の重要なメディエーターであるブラジキニンを生成する。カリクレインを阻害することにより、アプロチニンは効果的にブラジキニンの合成を阻害し、それによりこれらの炎症メディエーターの効果的な「上流」阻害をもたらす。
【0033】
またこの外科用溶液は、病態生理学的経路の制御に「下流」阻害剤を利用する。冠状血管けいれんに関係する種々の神経伝達物質(例えば、セロトニン、ヒスタミン、エンドセリンおよびトロンボキサン)であらかじめ収縮した血管平滑筋標本において、ATP感受性カリウムチャンネル解放薬(KCO類)は、濃度に依存した平滑筋弛緩をもたらす(クアストら、1994年;カシワバラら、1994年)。それ故、KCO類は、この外科用溶液に、けいれん事象を開始する作用薬の生理的組み合わせに無関係な「下流」抗けいれん作用をもたらすことにより、血管けいれんおよび平滑筋けいれん環境において顕著な利益を与える。同様に、NO供与薬および電圧ゲートカルシウムチャンネル拮抗薬は、けいれん経路の初期に作用することが知られた多重メディエーターにより開始される血管けいれんおよび平滑筋けいれんを制限することができる。またこれらの同じカルシウムチャンネル拮抗薬は、炎症の「下流」遮断をもたらすことができる。エス・モンカダ、アール・フラワーおよびジェイ・ベイン、マクミラン・パブリッシャー・インコーポレイテッド発行、グッドマン・ギルマン治療の薬理学的基礎、(7版)、660−5頁(1995年)。
【0034】
以下は、上記抗炎症/抗疼痛薬群に含まれる適当な医薬およびこの発明の溶液に使用するのに適当な濃度の記載である。理論的に限定されることを望むわけではないが、薬剤を実施可能にすると思われる種々の薬剤群の選択を支える理由も述べている。
【0035】
A.セロトニンレセプター拮抗薬
セロトニンは、末梢における侵害受容ニューロン上のセロトニン2(5−HT2)および/またはセロトニン3(5−HT3)レセプターを刺激することにより疼痛を生ずると考えられる。多くの研究者は、末梢侵害受容器上の5−HT3レセプターが5−HTにより生ずる疼痛の感覚を伝達することを承認している(リチャードソンら、1985年)。5−HT3レセプター拮抗薬は、5−HT誘導疼痛の阻害に加えて、侵害受容器の活性化を阻害することにより、神経原性の炎症をも阻害することがあり得る。ピー・ジェイ・バーンズら、神経原性炎症の変調:炎症性疾患に対する新しいアプローチ、トレンズ・イン・ファーマコロジカル・サイエンス、11巻、185−189頁(1990年)。しかし、ラット足根関節における研究は、5−HTによる侵害受容器の活性化に5−HT2レセプターが関係することを主張する。ビー・ディー・グラッブら、正常および炎症ラット足根関節に位置する求心性神経に付随する5−HTレセプターの研究、エイジェンツ・アクションズ、25巻、216−18頁(1988年)。それ故、5−HT2レセプターの活性化はまた末梢の疼痛および神経原性炎症において役割を演ずる可能性がある。
【0036】
この発明の溶液の一つの目的は、疼痛およびいろいろな炎症過程を遮断することである。すなわち、以下に述べるように、5−HT2および5−HT3レセプター拮抗薬は共に、独立してまたは一緒に、この発明の溶液に使用することができる。アミトリプチリン(エラビル、商標)は、この発明で使用するのに適した5−HT2レセプター拮抗薬である。アミトリプチリンは、多年にわたり抗うつ薬として臨床的に使用され、ある種の慢性疼痛患者で有用な効果をもつことが見出されている。メトクロプラミド(レグラン、商標)は、鎮吐薬として臨床的に使用されているが、緩和な5−HT3レセプター親和性を示し、このレセプターに対する5−HTの作用を阻害することができ、おそらく血小板からの5−HT放出による疼痛を阻害する。したがって、これもまたこの発明で使用するに適する。
【0037】
その他の適当な5−HT2レセプター拮抗薬には、イミプラミン、トラザドン、デシプ
ラミンおよびケタンセリンが含まれる。ケタンセリンは、その抗高血圧作用により臨床的に使用されてきた。ティー・ヘンダーら、実験的及び臨床的高血圧における新規セロトニン拮抗薬ケタンセリンの作用、アメリカン・ジャーナル・オブ・ハイパーテンション、317s−23s頁(1988年7月)。その他の適当な5−HT3レセプター拮抗薬には、シサプリドおよびオンダンセトロンが含まれる。適当なセロトニン1Bレセプター拮抗薬には、ヨヒンビン、N−[メトキシ−3−(4−メチル−1−ピペラジニル)フェニル]−2’−メチル−4’−(5−メチル−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル[1,1−ビフェニル]−4−カルボキシアミド(「GR127935」)およびメチオテピンが含まれる。これらの医薬をこの発明の溶液に使用するための治療用のおよび好ましい濃度を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
B.セロトニンレセプター作用薬
5−HT1A、5−HT1Bおよび5−HT1Dレセプターが、アデニレートシクラーゼ活性を阻害することが知られている。それ故、溶液にこれらのセロトニン1A、セロトニン1Bおよびセロトニン1Dレセプター作用薬を含有させると、疼痛および炎症を伝達するニューロンを阻害する筈である。セロトニン1Eおよびセロトニン1Fレセプター作用薬についても、これらのレセプターもアデニレートシクラーゼを阻害するため、同じ作用が期待される。ブスピロンは、この発明で使用するのに適した1Aレセプター作用薬である。スマトリプタンも、適当な1A、1B、1Dおよび1Fレセプター作用薬である。適当な1Bおよび1Dレセプター作用薬は、ジヒドロエルゴタミンである。適当な1Eレセプター作用薬は、エルゴノビンである。これらのレセプター作用薬の治療用のおよび好ましい濃度を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
C.ヒスタミンレセプター拮抗薬
一般にヒスタミンレセプターはヒスタミン1(H1)およびヒスタミン2(H2
サブタイプに分類される。ヒスタミンの末梢投与に対する古典的炎症応答は、H1レセプターにより伝達される。ダグラス、1985年。それ故、この発明の溶液は、ヒスタミンH1レセプター拮抗薬を含有することが好ましい。プロメタジン(フェネルガン、商標)は、H1レセプターを強力に遮断する、広く使用される鎮吐薬であり、この発明で使用するに適したものである。面白いことに、この医薬はまた局所麻酔作用をも有することが示されたが、この作用に必要な濃度はH1レセプターの遮断に必要な濃度より数オーダー高く、したがってその作用は別の機構により生ずると考えられる。溶液中のヒスタミンレセプター拮抗薬の濃度は、侵害受容器の活性化に関係するH1レセプターを阻害するに充分であるが、「局所麻酔」作用は達成せず、それにより全身的副作用の心配を除外する。
【0042】
またヒスタミンレセプターは、冠動脈における血管運動の緊張を仲介することが知られている。ひとの心臓におけるインビトロ実験は、ヒスタミン1レセプターサブタイプが冠
平滑筋の収縮を仲介することを示した。アール・ギンスバーグら、臨床的冠動脈けいれんのヒスタミンによる挑発:種々の狭心症の病因に関する相互関連、アメリカン・ハート・ジャーナル、102巻、819−822頁(1980年)。ある種の研究は、ひとの冠血管系におけるヒスタミン誘導高収縮が、アテローム性硬化環境およびそれに伴う動脈内皮の表皮剥離において近位動脈で最も強いことを示唆している。エム・ケイトクら、インビトロの近位および遠位ひと冠動脈における種々のヒスタミン作用、カーディオバスキュラー・リサーチ、24巻、614ー622頁(1990年)。それ故、ヒスタミンレセプター拮抗薬は、心臓血管灌注用溶液に含有させることができる。
【0043】
その他の適当なH1レセプター拮抗薬には、テルフェナジン、ジフェンヒドラミンおよ
びアミトリプチリンが含まれる。アミトリプチリンはセロトニン2レセプター拮抗薬とし
ても有効であるため、この発明で使用するとき2重の機能を有する。これらのH1レセプ
ター拮抗薬それぞれの治療用のおよび好ましい濃度を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
D.ブラジキニンレセプター拮抗薬
一般にブラジキニンレセプターはブラジキニン1(B1)およびブラジキニン2(B2)サブタイプに分類される。研究は、ブラジキニンによって生ずる急性の末梢の疼痛と炎症はB2サブタイプにより伝達され、一方慢性炎症環境におけるブラジキニン誘導疼痛はB1サブタイプを介して伝達されることを示した。エム・エヌ・パーキンスら、ラット持続性痛覚過敏の2種モデルにおけるブラジキニンB1およびB2レセプター拮抗薬des−Arg9、[Leu8]−BKおよびHOE140の抗侵害受容活性、ペイン、53巻、191−97頁(1993年);エイ・ドレイら、ブラジキニンおよび炎症性疼痛、トレンズ・イン・ニューロサイエンシズ、16巻、99−104頁(1993年)。これらの文献それぞれをここに引用して積極的に本書に包含させる。
【0046】
現在、ブラジキニンレセプター拮抗薬は臨床的に使用されていない。これらの医薬はペプチド(小蛋白)であり、したがって、消化されるため経口摂取できない。B2レセプタ
ー拮抗薬は、ブラジキニン誘導急性疼痛および炎症を抑制する。ドレイら、1993年。B1レセプター拮抗薬は、慢性炎症症状における疼痛を抑制する。パーキンスら、199
3年。それ故、用途により異なるが、この発明の溶液はブラジキニンB1およびB2レセプター拮抗薬の一方または両方を含有するのが好ましい。例えば、関節鏡検査法は急性および慢性症状の両者で実施されるので、関節鏡検査法用の灌注用溶液はB1およびB2レセプター拮抗薬の両者を含有しうる。
【0047】
この発明で使用するに適したブラジキニンレセプター拮抗薬には、下記のブラジキニン1レセプター拮抗薬が含まれる:D−Arg−(Hyp3−Thi5−D−Tic7−Oic8)−BKの[des−Arg10]誘導体(「HOE140の[des−Arg10]誘導
体」、ヘキスト・ファーマシューティカルス販売);および[Leu8]des−Arg9−BK。適当なブラジキニン2レセプター拮抗薬には、[D−Phe7]BK;D−Arg−(Hyp3−Thi5、8−D−Phe7)−BK(「NPC349」);D−Arg−(Hyp3−D−Phe7)−BK(「NPC567」);およびD−Arg−(Hyp3
Thi5−D−Tic7−Oic8)−BK(「HOE149」)が含まれる。これらの化
合物は、前に包含させたパーキンスら、1993年およびドレイら、1993年の文献にさらに詳細に記載されている。適当な治療用および好ましい濃度を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
E.カリクレイン阻害剤
前記のように、ペプチドであるブラジキニンは、重要な疼痛および炎症メディエーターである。ブラジキニンは、血漿中の高分子量物質キニノーゲンに対するカリクレインの作用により切断生成物として産生される。それ故、カリクレイン阻害剤は、ブラジキニンの産生並びにそれによって生ずる疼痛および炎症を阻害することにより治療作用をもつと考えられる。この発明で使用するに適したカリクレイン阻害剤は、アプロチニンである。この発明の溶液で使用するに適した濃度を、表5として下に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
F.タチキニンレセプター拮抗薬
タチキニン(TK類)は、サブスタンスP、ニューロキニンA(NKA)およびニューロキニンB(NKB)を含む一群の構造的に関連したペプチドである。ニューロンは、末梢における主要なTK類源である。TK類の重要な一般的作用は神経刺激であるが、その他の作用には、内皮依存性血管拡張、血漿蛋白質溢出、マスト細胞脱顆粒並びに炎症細胞の動員および刺激が含まれる。シー・エイ・マッギ、ゼネラル・ファーマコロジー、22巻、1−24頁(1991年)。TKレセプターの活性化により仲介される上記の生理学的作用の組み合わせのため、無痛覚の促進と神経原性炎症の処置のためのTKレセプターの標的化がある。
【0052】
1.ニューロキニン1レセプターサブタイプ拮抗薬
サブスタンスPは、NK−1と称されるニューロキニンレセプターサブタイプを活性化する。サブスタンスPは、感覚神経の末端に存在するウンデカペプチドである。サブスタンスPは、血管拡張、血漿溢出およびマスト細胞脱顆粒を含む、C−繊維の活性化後末梢において炎症および疼痛を生ずる多数の作用を有することが知られている。ジェイ・ディー・レビンら、ペプチドおよび一次求心性侵害受容器、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス、13巻、2273頁(1993年)。適当なサブスタンスP拮抗薬は、([D−Pro9[スピロ−ガンマ−ラクタム]Leu10,Trp11]フィザレミン−(1−11
))(「GR82334」)である。NK−1レセプターに作用しこの発明で使用できるその他の適当な拮抗薬は、1−イミノ−2−(2−メトキシフェニル)エチル)−7,7−ジフェニル−4−ペルヒドロイソインドロン(3aR,7aR)(「RP67580」);および2s,3s−シス−3−(2−メトキシベンジルアミノ)−2−ベンズヒドリルキヌクリジン(CP96,345])である。これらの薬剤に関する適当な濃度を表6に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
2.ニューロキニン2レセプターサブタイプ拮抗薬
ニューロキニンAは、サブスタンスPと共に感覚ニューロンに位置し、また炎症と疼痛を促進するペプチドである。ニューロキニンAは、NK2と称される特異的ニューロキニンレセプターを活性化する。エス・エドモンズ−アルトら、ニューロキニンA(NK2
レセプターの強力かつ選択的非ペプチド拮抗薬、ライフ・サイエンス、50巻、PL101(1992年)。尿路において、TK類はひとの膀胱並びにひとの尿道および尿管におけるNK−2レセプターのみを通して働く強力なけいれん薬である。シー・エイ・マッギ、ジェネラル・ファーマコロジー、22巻、1−24頁(1991年)。すなわち、泌尿器科処置で用いる灌注用溶液に含有させるための医薬には、けいれんを減少させるためのNK−2レセプター拮抗薬を含むことがあり得る。適当なNK2拮抗薬の例には、((S)−N−メチル−N−[4−(4−アセチルアミノ−4−フェニルピペリジノ)−2−(3,4−ジクロロフェニル)ブチル]ベンズアミド(「(±)−SR48968」);Met−Asp−Trp−Phe−Dap−Leu(「MEN10,627」);およびcyc(Gln−Trp−Phe−Gly−Leu−Met)(「L659,877」))が含まれる。これらの薬剤の適当な濃度を表7に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
G.CGRPレセプター拮抗薬
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)もまた、サブスタンスPと共に感覚ニューロンに位置し、血管拡張薬として作用しサブスタンスPの作用を強化するペプチドである。エス・ディー・ブレインら、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)と血管透過性増強メディエーターの相乗作用により誘導される炎症性浮腫、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー、99巻、202頁(1985年)。適当なCGRPレセプター拮抗薬の例は、CGRPの中途切断物であるアルファ−CGRP−(8−37)である。このポリペプチドは、CGRPレセプターの活性化を阻害する。この薬剤の適当な濃度を表8に示す。
【0057】
【表8】

【0058】
H.インターロイキンレセプター拮抗薬
インターロイキンは、サイトカインに分類され、炎症性メディエーターに応答して白血球およびその他の細胞が産生するペプチドである。インターロイキン(IL)は、強力な末梢性痛覚過敏薬であり得る。エス・エイチ・フェリーラら、トリペプチド類似体により拮抗される強力な痛覚過敏薬としてのインターロイキン−1ベータ、ネイチャー、334巻、698頁(1988年)。適当なIL−1ベータレセプター拮抗薬の例は、IL−1ベータの中途切断物であるLys−D−Pro−Thrである。このトリペプチドは、IL−1ベータレセプターの活性化を阻害する。この薬剤の適当な濃度を表9に示す。
【0059】
【表9】

【0060】
1.アラキドン酸代謝物合成経路で活性を示す酵素の阻害剤
1.ホスホリパーゼ阻害剤
ホスホリパーゼA2(PLA2)によるアラキドン酸の産生は、エイコサノイドとして知られる数々の炎症メディエーターを産生する反応のカスケードをもたらす。この経路全体に亘って、阻害することができ、それによりこれら炎症メディエーターの産生を減少しうる数多くの段階が存在する。これら種々の段階における阻害の例は下に示す通りである。
【0061】
PLA2イソ型の阻害は、細胞膜からのアラキドン酸の放出阻害を起こし、それ故プロ
スタグランジン類及びロイコトリエン類の産生を阻害しこれらの化合物の抗炎症および鎮痛性をもたらす。ケイ・ビー・グラーザー、ホスホリパーゼA2酵素の調節:選択的阻害剤およびその薬理学的能力、アドバンシズ・イン・ファーマコロジー、32巻、31頁(1995年)。適当なPLA2イソ型作用薬の例はマノアリドである。この薬剤の適当な
濃度を表10に記載する。PLCγイソ型の阻害もまたプロスタノイド類およびロイコトリエン類の産生減少をもたらし、したがって疼痛および炎症の減少をもたらす。PLCγイソ型阻害剤の例は、1−[6−((17β−3−メトキシエストラ−1,3,5(10)−トリエン−17−イル)アミノ)ヘキシル]−1H−ピロール−2,5−ジオンである。
【0062】
【表10】

【0063】
2.シクロオキシゲナーゼ阻害剤
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID類)は、抗炎症、解熱、抗血栓および鎮痛薬として広く使用されている。アール・エイ・ルイス、プロスタグランジンおよびロイコトリエン、テキストブック・オブ・リューマトロジー、3版(ダブリュー・エヌ・ケリーら編)、258頁(1989年)。これらの医薬の分子標的は、I型およびII型のシクロオキシゲナーゼ(COX−1およびCOX−2)である。これらの酵素はまた、プロスタグランジンHシンターゼ1(構成酵素)および2(誘導酵素)(PGHS)とも呼ばれ、アラキドン酸からプロスタグランジン類およびトロンボキサン類の生合成中間体であるプロスタグランジンHへの変換を触媒する。COX−2酵素は、内皮細胞、マクロファージおよび線維芽細胞で同定された。この酵素は、IL−1およびエンドトキシンにより誘導され、その発現は炎症部位で上方調節される。COX−1の構成活性およびCOX−2の誘導活性は、共に疼痛および炎症に寄与するプロスタグランジン類の合成に導く。
【0064】
現在市販されているNSAID類(ジコロフェナック、ナプロキセンおよびインドメタシン、イブプロフェン等)は、一般に両イソ型のCOXの非選択的阻害剤であり、比率は化合物が異なれば変化するがCOX−2よりCOX−1に対して大きな選択性を示すことがある。プロスタグランジン生成の遮断にCOX−1および2阻害剤を使用することは、天然リガンドとプロスタノイドレセプターの7種の既知サブタイプとの相互作用の遮断を試みるよりは、良好な治療方策を提示する。報告されているエイコサノイドレセプター(EP1、EP2、EP3)の拮抗薬は全くまれであり、トロンボキサンA2レセプターの特異的高親和性桔抗薬が報告されているに過ぎない。ジェイ・ワラスおよびジー・チリノ、トレンズ・イン・ファーマコロジカル・サイエンス、15巻、405−406頁(1994年)。
【0065】
シクロオキシゲナーゼ阻害剤の使用は、潰瘍性疾患、胃炎および腎機能障害の患者には禁忌である。米国では、ただ一つ入手できるこの類の医薬の注射用形態は、シンテックス・ファーマシューティカルスが販売するケトロラック(トラドール、商標)であり、これは従来術後患者に筋肉内または静脈内投与されていたが、ここでも上記の範疇の患者には禁忌である。現在術中使用されているより実質的低濃度の溶液におけるケトロラックまたはすべての他のシクロオキシゲナーゼ阻害剤(類)の使用は、そうでなければ禁忌となる患者に対するこの医薬の使用を可能にするかも知れない。この発明の溶液に対するシクロオキシゲナーゼ阻害剤の添加は、関節鏡検査法またはその他の手術/介入処置中の疼痛および炎症の発生の抑制に関して独特の機構を追加するものである。
【0066】
この発明で使用するに適したシクロオキシゲナーゼ阻害剤は、ケテロラックおよびインドメタシンである。これら2種の薬剤中で、インドメタシンは、比較的高用量を必要とするため好ましさが低い。溶液で使用するための治療用および好適な濃度を表11に示す。
【0067】
【表11】

【0068】
3.リポキシゲナーゼ阻害剤
酵素リポキシゲナーゼの阻害は、炎症および疼痛の重要なメディエーターとして知られるロイコトリエンB4のようなロイコトリエン類の産生阻害を起こす。アール・エイ・ル
イス、プロスタグランジンおよびロイコトリエン、テキストブック・オブ・リューマトロジー、3版(ダブリュー・エヌ・ケリーら編)、258頁(1989年)。5−リポキシゲナーゼ阻害剤の例は、2,3,5−トリメチル−6−(12−ヒドロキシ−5,10−ドデカジイニイル)−1,4−ベンゾキノン([AA861])であり、その適当な濃度を表12に記載する。
【0069】
【表12】

【0070】
J.プロスタノイドレセプター拮抗薬
アラキドン酸代謝物として産生される個々のプロスタノイド類は、その炎症効果をプロスタノイドレセプターの活性化により仲介する。特異的プロスタノイド拮抗薬の群の例は、エイコサノイドEP−1およびEP−4レセプターサブタイプ拮抗薬類およびトロンボキサンレセプターサブタイプ拮抗薬類である。適当なプロスタグランジンE2レセプター
拮抗薬は、8−クロロジベンズ[b,f][1,4]オキサゼピン−10(11H)−カルボン酸・2−アセチルヒドラジド(「SC19220」)である。適当なトロンボキサンレセプターサブタイプ拮抗薬は、[15−[1α,2β(5Z),3β,4α]−7−[3−[2−(フェニルアミノ)カルボニル]ピドラジノ]メチル]−7−オキソビシクロ−[2,2,1]−ヘプタ−2−イル]−5−ヘプタン酸(「SQ29548」)である。これらの薬剤に関する適当な濃度を表13に示す。
【0071】
【表13】

【0072】
K.ロイコトリエンレセプター拮抗薬
ロイコトリエン類(LTB4、LTC4およびLTD4)は、酵素により生成し重要な生
物学的性質を有する、アラキドン酸代謝における5−リポキシゲナーゼ経路の産生物である。ロイコトリエン類は、炎症を含む数々の病理学的症状に関与する。個々の拮抗薬は、これらの病理に対する治療的介入の可能性のために現在多数の製薬会社が探求している。ピー・ブイ・ハルシュカら、アニュアル・レビユー・オブ・ファーマコロジー・アンド・トキシコロジー、29巻、213−239頁(1989年);エイ・フォード−ハッチンソン、クリティカル・レビユー・オブ・イムノロジー、10巻,1−12頁(1990年)。LTB4レセプターは、好酸球および好中球を含むある種の免疫細胞に見出される。
これらのレセプターに結合しているLTB4は化学走性とリソソームによる酵素放出を起
こし、それにより炎症過程に関与する。LTB4の活性化に伴うシグナル導入過程は、ホ
スホチド(P1)代謝のG蛋白仲介刺激と細胞内カルシウム増加を含む。
【0073】
適当なロイコトリエンB4レセプター拮抗薬の例は、SC(+)−(S)−7−(3−
(2−(シクロプロピルメチル)−3−メトキシ−4−[(メチルアミノ)カルボニル]フェノキシ)プロポキシ)−3,4−ジヒドロ−8−プロピル−2H−1−ベンゾピラン−2−プロパン酸(「SC53228」)である。この発明の実施に適当なこの薬剤の濃度を表14に示す。その他の適当なロイコトリエンB4レセプター拮抗薬には、[3−[2−(7−クロロ−2−キノリニル)エチル]フェニル][[3−(ジメチルアミノ−3−オキソプロピル)チオ[メチル]チオプロパン酸(「MK0571)並びに医薬LY66,071およびICI20,3219が含まれる。MK0571はLTD4レセプター
サブタイプ拮抗薬としても作用する。
【0074】
【表14】

【0075】
L.オピオイドレセプター作用薬
オピエートレセプターは抗侵害受容的であり、それ故これらのレセプターに対する作用薬は目的に合致する。オピエートレセプターは、ミュー、デルタおよびカッパオピエートレセプターサブタイプを含む。ミューレセプターは、末梢における感覚ニューロン末端にあって、これらのレセプターの活性化は感覚ニューロンの活性を阻害する。エイ・アイ・バスバウムら、オピエート無痛:なぜ末梢の標的が中枢か?ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン、325巻、1168頁(1991年)。デルタおよびカッパレセプターは交感神経の遠心性末端にあって、プロスタグランジンの放出を阻害し、それにより疼痛と炎症を阻害する。ワイ・オウ・タイヲら、カッパおよびデルタオピオイドは交感神経依存性痛覚過敏を遮断する、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス、11巻、928頁(1991年)。適当なミューオピエートレセプター作用薬の例は、フェンタニルおよびTry−D−Ala−Gly−[N−MePhe]−NH(CH22(「DAMGO」)である。適当なデルタオピエートレセプター作用薬の例は、[D−Pen2,D
−Pen5]エンケファリン(「DPDPE」)である。適当なカッパオピエートレセプ
ター作用薬の例は、(トランス)−3,4−ジクロロ−N−メチル−N−[2−(1−ピロリジニル)シクロヘキシル]ベンゼンアセトアミド(「U50,488」)である。これらの薬剤に関する適当な濃度を表15に示す。
【0076】
【表15】

【0077】
M.プリノセプター拮抗薬および作用薬
細胞外ATPは、P2プリノセプターとの相互作用を通してシグナル伝達分子として作
用する。プリノセプターの一つの主要な群は、Na+、K+およびCa+を透過させる固有
のイオンチャンネルをもつリガンドゲートイオンチャンネルであるP2Xプリノセプターである。感覚ニューロンに書き込まれているP2Xプリノセプターは一次求心性神経伝達および侵害受容に重要である。ATPは、感覚ニューロンを脱分極することが知られ、障害細胞から放出されたATPはP2Xレセプターを刺激して侵害受容神経線維末端の脱分極に導くので、侵害受容活性化に役割をもつ。P2X3レセプターは、脊髄に入る感覚C−線維神
経に選択的に発現されるので、著しく限定された分布をもち(シー・シー・チェンら、ネイチャー、377巻、428−431頁(1995年))、多数のこのようなC−線維が痛覚刺激に対するレセプターを有することが知られている。すなわち、P2X2レセプター
サブユニットの著しく限定された発現局在が、これらのサブタイプを鎮痛作用の優れた標的にしている。
【0078】
この発明で使用するに適当なP2X/ATPプリノセプターは、例として、スラミンおよびピリドキシルホスフェート−6−アゾフェニル−2,4−ジスルホン酸(「PPADS」)を含む。これらの薬剤に関する適当な濃度を表16に示す。
【0079】
G蛋白結合レセプターであるP2Yレセプター作用薬は、IP3濃度を上昇させ続いて細胞内カルシウムを増加させることにより、平滑筋弛緩を起こすことが知られている。P2Yレセプター作用薬の例は、2−Me−S−ATPである。
【0080】
【表16】

【0081】
N.アデノシン3燐酸(ATP)感受性カリウムチャンネル解放薬
ATP感受性カリウムチャンネルは、脳を含む数々の組織で見出され、放射能標識リガンドを用いる結合研究によりその存在が確認された。これらのチャンネルの解放は、カリウム(K+)の流出および細胞膜の過分極を起こす。この過分極は、電圧依存性カルシウ
ム(Ca2+)チャンネルおよびレセプター操作Ca2+チャンネルの阻害を通して細胞内遊離カルシウムの減少を誘導する。この作用の組み合わせは、細胞を弛緩状態すなわち活性化に抵抗が強い状態に導く。K+チャンネル解放薬(KCO類)は、刺激結合分泌を防止
することが示され、結合前ニューロンレセプターに作用すると考えられ、したがって神経刺激による作用および炎症メディエーターの放出を阻害する。ユー・クアストら、血管平滑筋におけるカリウムチャンネル解放薬の細胞薬理学、カーディオバスキュラー・リサーチ、28巻、805−810頁(1994年)。
【0082】
ATP感受性カリウムチャンネルは、血管および血管以外の平滑筋で発見され、放射能標識したリガンドとの結合実験でその存在が確認された。これらのチャンネルの解放は細胞膜を過分極し、それにより、平滑筋細胞を弛緩状態または活性化に抵抗が強い状態に導き、したがって血管弛緩を達成する。K+チャンネル解放薬(KCO類)は、インビボで
強力な抗高血圧作用をもちインビトロで血管弛緩作用をもつものとして特徴づけられる。医学文献には、これらの薬剤を抗炎症、抗侵害受容および膀胱の抗けいれん薬として治療的に使用した前例は知られていない。
【0083】
エンドセリン(ETA)拮抗薬とATP感受性カリウムチャンネル解放薬(KCO類)
の相乗的相互作用が、血管弛緩または平滑筋弛緩を達成することを期待される。2重使用の理論的根拠は、これらの医薬が平滑筋弛緩の促進と血管けいれんの防止において異なった分子的作用機構を有することに基づく。ETAレセプターにより誘導される最初の平滑
筋内の細胞内カルシウム上昇が、収縮に必要な電圧依存性チャンネルの活性化と細胞外カルシウムの流入の引き金になる。ETAレセプターの拮抗薬は特異的にこのレセプター仲
介作用を遮断するが、筋肉細胞上のその他のG蛋白結合レセプターの活性化が引き金になったカルシウム上昇は遮断しない。
【0084】
ピナシジルのようなカリウムチャンネル解放薬は、これらのチャンネルを解放してKの流出および細胞膜の過分極を起こす。この過分極は、下記の機構により他のレセプターにより仲介される収縮を減少するように作用する:(1)L型およびT型カルシウムチャンネルの両者の解放可能性を減少することにより電圧依存性Caチャンネルを阻害して細胞内遊離カルシウムの減少を起こす、(2)IP3生成の阻害により細胞内資源からの作用薬誘導(レセプター操作チャンネル)Ca放出を制限する、および(3)収縮蛋白の活性化剤としてのカルシウムの効率を低下させる。したがって、これら2群の医薬の結合作用は、標的細胞を弛緩状態または活性化に抵抗が強い状態に押し留めることになる。
【0085】
この発明の実施に適当なATP感受性K+チャンネル解放薬は、(−)ピナシジル;ク
ロマカリン;ニコランジル;ミノキシジル;N−シアノ−N’−[1,1−ジメチル−[2,2,3,3−3H]プロピル]−N”−(3−ピリジニル)グアニジン([P107
5]);およびN−シアノ−N’−(2−ニトロキシエチル)−3−ピリジンカルボキシイミドアミドモノメタンスルホネート(「KRN2391」)を含む。これらの薬剤の濃度を表17に示す。
【0086】
【表17】

【0087】
O.カルシウムチャンネル拮抗薬
カルシウムチャンネル拮抗薬は、神経炎症を仲介する細胞応答の活性化に必要なカルシウムイオンの膜内外流動を妨げる別群の医薬である。血小板および白血球へのカルシウム流入は、これらの細胞における応答の活性化の仲介に重要な事象である。さらに、神経炎症、シグナル導入経路の仲介におけるブラジキニンレセプターおよびニューロキニンレセプター(NK1およびNK2)の役割は、細胞内カルシウムの増加を含み、プラスマ膜上のカルシウムチャンネルの活性化を導く。多くの組織において、ニフェジピンのようなカルシウムチャンネル拮抗薬は、種々の刺激により引き起こされるアラキドン酸、プロスタグランジンおよびロイコトリエンの放出を減少することができる。エス・モンカダ、アール・フラワーおよびジェイ・ベイン、グッドマン・ギルマン治療の薬理学的基礎、(7版)、マクミラン・パブリッシャー・インコーポレイテッド発行、660−5頁(1995年)。
【0088】
カルシウムチャンネル拮抗薬はまた、血管平滑筋の収縮に必要なカルシウムイオンの膜内外流動をも妨げる。この作用は、血管けいれんの軽減と平滑筋の弛緩を目的とする術中処置における使用計画においてカルシウム拮抗薬を使用することに根拠を提供する。ニソルジピンを含むジヒドロピリジン類は、カルシウムチャンネルのL型サブタイプの電圧依存性ゲートに対する特異的阻害剤(拮抗薬)として作用する。心臓手術中におけるカルシウムチャンネル拮抗薬ニフェジピンの全身投与は、以前冠動脈けいれんの予防または軽減のために使用された。アール・ザイテルバーガーら、サーキュレーション、83巻、460−468頁(1991年)。ここでも、医学文献でこれらの薬剤を抗炎症、抗侵害受容および膀胱の抗けいれん薬として使用した前例は知られていない。
【0089】
この発明で有用な抗疼痛/炎症/けいれん薬に含まれるカルシウムチャンネル拮抗薬は、この発明の他の薬剤と併用すると相乗作用を現す。カルシウム(Ca+2)チャンネル拮抗薬と酸化窒素(NO)供与薬は、血管弛緩または平滑筋弛緩の達成すなわちけいれん作用の阻害に際し相互作用する。2重使用の根拠は、これらの医薬が異なった分子的作用機構を有し、単独の使用では弛緩の達成に完全には有効でないかも知れず、異なる有効期間をもつかも知れないということに基づく。事実、カルシウムチャンネル拮抗薬単独では、レセプター作用薬によりあらかじめ収縮させた血管筋の完全な弛緩を達成できないことを示す研究が多数存在する。
【0090】
内胸動脈(IMA)のけいれんに対する単独使用またはニトログリセリンと併用したニソルジピンの効果は、2種の医薬の併用が収縮を防止するのに大きな正の相乗作用を生成したことを示した(リューら、1994年)。これらの研究は、最も効果的な血管けいれんの防止および平滑筋弛緩に対するカルシウムチャンネル拮抗薬および酸化窒素(NO)供与薬の併用に関して科学的根拠を提供する。心筋虚血または冠動脈血管けいれんの予防および処置のための、心臓手術中のニトログリセリンとニフェジピンの全身投与の例が報告されている(コーエンら、1983年;ザイテルバーガーら、1991年)。
【0091】
カルシウムチャンネル拮抗薬はまた、エンドセリンレセプターサブタイプA(ETA
拮抗薬と相乗作用を示す。ヤナギサワおよび共同研究者は、カルシウムチャンネル拮抗薬であるジヒドロピリジン拮抗薬が、冠動脈平滑筋のETAレセプターにおける内因性作用
薬ET−11の作用を遮断することを観察し、したがってET−1が電圧感受性カルシウ
ムチャンネルの内因性作用薬であると推論した。ETAレセプターの活性化により誘導さ
れる平滑筋中の細胞内カルシウム上昇の持続相に細胞外カルシウムが必要であり、ニカルジピンにより少なくとも部分的に遮断されることが見出された。すなわち、カルシウムチャンネル拮抗薬の含有は、外科用溶液に配合したときETA拮抗薬の作用を相乗的に増強
することが期待される。
【0092】
同様に、カルシウムチャンネル拮抗薬とATP感受性カリウムチャンネル解放薬は相乗作用を示す。ATP感受性(KATP)であるカリウムチャンネルは、アデノシンヌクレオチドに対する感受性を通して細胞の膜電位と細胞代謝状態を結びつける。KATPチャンネ
ルは、細胞内ATPにより阻害されるが、細胞内ヌクレオチド2燐酸により刺激される。これらのチャンネルの活性は、カリウムと細胞内シグナル(例えばATPまたはG蛋白)に対する電気化学的駆動力により制御されるが、膜電位自体によってはゲート制御されない。KATPチャンネルは膜を過分極し、したがってそれによる細胞の残余電位の制御を可
能にする。ATP感受性カリウム電流は、骨格筋、脳並びに血管および非血管平滑筋で見出され、放射能標識したリガンドとの結合実験から、ピナシジルのようなカリウムチャンネル解放薬のレセプター標的であるこれらのチャンネルの存在が確認された。これらのチャンネルの解放は、カリウムの流出を起こし、細胞膜を過分極させる。この過分極は、(1)L型およびT型カルシウムチャンネルの両者の解放可能性を減少することにより電圧依存性Ca2+チャンネルを阻害して細胞内遊離カルシウムの減少を起こす、(2)イノシトール3燐酸(IP3)生成の阻害により細胞内資源からの作用薬誘導(レセプター操作チャンネル)Ca2+放出を制限する、および(3)収縮蛋白の活性化剤としてのカルシウムの効率を低下させる。したがって、これら2群の医薬の結合作用は、標的細胞を弛緩状態または活性化に抵抗が強い状態に押し留めることになる。
【0093】
最後に、カルシウムチャンネル拮抗薬とタチキニン及びブラジキニン拮抗薬は神経炎症の仲介に相乗作用を示す。神経炎症の仲介におけるニューロキニンレセプターの役割は確認されている。ニーロキニン1(NK1)およびニューロキニン2(NK2)レセプター(G蛋白結合スーパーファミリーの構成員)シグナル導入経路は、細胞内カルシウムの増加を含み、したがってプラスマ膜上のカルシウムチャンネルの活性化を導く。同様に、ブラジキニン2(BK2)レセプターの活性化は、細胞内カルシウムの増加と結びつく。すな
わち、カルシウムチャンネル拮抗薬は、一部がL型チャンネルから流入する細胞内カルシウムの増加を含む共通の機構を妨げる。これが、カルシウムチャンネル拮抗薬とこれらのレセプターの拮抗薬間の相乗的相互作用の根拠である。
【0094】
この発明の実施に適当なカルシウムチャンネル拮抗薬は、ニソルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ラシジピンおよびイスラジピンを含む。これらの薬剤の適当な濃度を表18に示す。
【0095】
【表18】

【0096】
P.抗けいれん薬
1.多機能薬
上記抗疼痛/抗炎症薬の数種は、血管狭窄または平滑筋けいれんを抑制する作用をもつ。すなわち、これらの薬剤はまた抗けいれん薬の機能をも果たし、したがって血管および尿路適用において有利に使用される。抗けいれん薬の作用を果たす抗疼痛/抗炎症薬は、セロトニンレセプター拮抗薬、特にセロトニン2拮抗薬;タチキニンレセプター拮抗薬;
ATP感受性カリウムチャンネル解放薬およびカルシウムチャンネル桔抗薬を含む。
【0097】
2.酸化窒素供与薬
酸化窒素供与薬は、特にその抗けいれん作用のためこの発明の溶液に含有させることができる。酸化窒素(NO)は、血管拡張および正常血管緊張の調節を含む多数の生理学的過程の分子メディエーターとして重要な役割を果たす。内皮細胞において、NOシンターゼ(NOS)として知られる酵素は、L−アルギニンから拡散性第2メッセンジャーとして作用し隣接平滑筋細胞の応答を仲介するNOへの変換を触媒する。NOは、収縮を抑制し基底冠動脈緊張を制御する基底状態下の血管内皮により連続生成および放出され、(アセチルコリンのような)種々の拮抗薬およびその他の内皮依存性血管拡張薬に応答して内皮で産生される。すなわち、NOシンターゼ活性の調節およびそれによりもたらされるNO濃度は、血管緊張を制御する重要な分子標的である。ケイ・ムラマツら、コロナリー・アーテリー・ディジーズ、5巻、815−820頁(1994年)。
【0098】
NO供与薬とATP感受性カリウムチャンネル(KCO類)解放薬の相乗的相互作用は、血管弛緩または平滑筋弛緩を達成することが期待される。2重使用の根拠は、これらの医薬が平滑筋弛緩の促進とけいれんの防止において異なった分子的作用機構を有することに基づく。血管収縮薬であるバソプレシン、アンギオテンシンIIおよびエンドセリンすべてが、プロテインキナーゼAの阻害を通してKATP電流を阻害することについての培養
冠動脈平滑筋細胞からの証拠が存在する。さらに、膀胱平滑筋におけるKATP電流が、ム
スカリン様作用薬により阻害されることが報告された。NOの平滑筋弛緩仲介作用はプロテインキナーゼGが関与する(上記)独立の分子経路を経て起こる。このことは、2種の医薬の組み合わせが平滑筋弛緩において単独医薬の使用より効果的であることを示唆する。
【0099】
この発明の実施に適当な酸化窒素供与薬は、ニトログリセリン、ニトロプルシッドナトリウム、医薬FK409、3−モルホリノシドノンイミンまたはリンシドミン塩酸塩、(「SIN−1」);およびS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン(「SNAP」)を含む。これらの薬剤の濃度を表19に示す。
【0100】
【表19】

【0101】
3.エンドセリンレセプター拮抗薬
エンドセリンは、既知の最も強力な血管収縮薬の一つであって、アミノ酸21個のペプチドである。ETAおよびETBと称される少なくとも2種のレセプターサブタイプを通して生理学的作用を伝達するET1、ET2およびET3と称される3種の異なるひとエンドセリンペプチドが報告されている。心臓および血管平滑筋は優越的にETAレセプター
を含み、このサブタイプはこれらの組織における収縮をつかさどる。さらに、ETAレセ
プターは、しばしば分離平滑筋標本において収縮応答を仲介することが見出されている。ETAレセプター拮抗薬は、ひと冠動脈の収縮に対する強力な拮抗薬であることが見出さ
れている。すなわち、ETAレセプター拮抗薬は、冠血管けいれんの術中抑制において治
療的に有利であると思われ、さらに泌尿器科適用において平滑筋収縮の抑制に有用である可能性がある。アール・シー・ミラーら、トレンズ・イン・ファーマコロジカル・サイエンス、14巻、54−60頁(1993年)。
【0102】
適当なエンドセリンレセプター拮抗薬は、シクロ(D−Asp−Pro−D−Val−Leu−D−Trp)(「BQ123」);(N,N−ヘキサメチレン)カルバモイル−Leu−D−Trp−(CHO)−D−Trp−OH(BQ610);(R)2−([R−2−[(s)−2−([1−ヘキサビドロ−1H−アゼピニル]カルボニル]アミノ−4−メチルペンタノイル)アミノ−3−(3−[1−メチル−1H−インドリル)プロピオニルアミノ−3−(2−ピリジル)プロピオン酸(「FR139317」);シクロ(D−Asp−Pro−D−Ile−Leu−D−Trp)(「JKC301」);シクロ(D−Ser−Pro−D−Val−Leu−D−Trp)(「JKC302」);および5−(ジメチルアミノ)−N−(3,4−ジメチル−5−イソキサゾリル)−1−ナフタレンスルホンアミド(「BMS182874」)を含む。これらの薬剤中代表的な2種の濃度を表20に示す。
【0103】
【表20】

【0104】
VI.適用法
この発明の溶液は、外科および診断および治療技術を含む多様な手術/介入処置に用途を有する。用途は、解剖学的関節の関節鏡手術、泌尿器科処置および血管内診断および治療的処置の間に術中適用する灌注用溶液としての使用を含む。この明細書を通じて、「術中」の語は、手術および介入的医学処置の経過中における溶液の適用を含むものとし、好ましくは多くの処置に対して処置の開始前に溶液を適用することを内包する。このような処置は、従来、当業者に周知の技術により手術部位に適用される通常の食塩水または乳酸加リンゲルのような生理学的灌注液を使用していた。この発明の方法は、従来適用された灌注液をこの発明の抗疼痛/抗炎症/抗けいれん灌注用溶液で置き換えることを含む。この灌注用溶液は、先制的に疼痛および炎症および/またはけいれんを遮断するために、処置の開始前、好ましくは組織の傷害前に、創傷または手術部位に、処置の期間を通して連続的に適用する。この明細書を通じて、「灌注」の語は、創傷又は解剖学的構造に液体流を走らせることを含むものとする。この明細書を通じて、「連続的」の語は、適用薬剤について所定の治療的局所濃度を維持するに充分な頻度で創傷の反復的および頻繁な灌注を行う状況、および手術方法に必要な場合には間欠的な灌注溶液流の中断が存在しうる適用を含むものとする。
【0105】
この溶液を使用し得る関節鏡技術は、限定を目的としない例として、膝の部分的半月切除および靭帯再建、肩峰形成、回旋腱板壊死組織切除、肘の滑膜切除、並びに手首およびくるぶしの関節鏡検査を含む。灌注用溶液は、関節包を膨張させ、手術屑を除去し、関節内を障害なく目視するに充分な流速で関節に術中連続供給する。
【0106】
このような関節鏡技術中の疼痛および浮腫を抑制するために適当な灌注用溶液を、下記実施例Iに記載する。関節鏡検査については、溶液が下記のものの組み合わせ、好適には全部、または何れかを含有するのが好ましい。セロトニン2レセプター拮抗薬、セロトニ
3レセプター拮抗薬、ヒスタミン1レセプター拮抗薬、1A、1B、1D、1Fおよび/または1Eレセプターに作用するセロトニンレセプター作用薬、ブラジキニン1レセプタ
ー拮抗薬、ブラジキニン2レセプター拮抗薬およびシクロオキシゲナーゼ阻害剤並びに好
ましくは上記薬剤全部。
【0107】
この溶液は、薬剤を術中に直接手術部位に局所適用するので、これらの疼痛および炎症抑制薬を極めて低い用量で使用する。例えば、5−HT2およびH1レセプターを阻害する実質的局所組織濃度を供給するために、灌注液1リットル当たり0.05mg未満のアミトリプチリン(適当なセロトニン2およびヒスタミン1「2重」レセプター拮抗薬)しか必要としない。この用量は、この医薬の通常の出発用量である10−25mgの経口アミトリプチリンに比較して極めて低い。
【0108】
この発明の各外科用溶液において、薬剤は、従来の医薬投与法で目的とする治療効果を達成するために必要とされた濃度及び用量に比較して低濃度で含有され低用量で局所的に送達される。全身投与された医薬は初回および次回通過代謝を受けるため、同様に処方された薬剤を他の医薬投与経路(すなわち静脈内、筋肉内または経口)で送達して同じ治療効果を得るのは不可能である。
【0109】
例えば、この発明者らは、関節鏡検査法のラットモデルを使用して、この発明により5−HT2拮抗薬であるアミトリプチリンのラット膝5−HT−誘導血漿溢出抑制能力を試
験した。実施例VIIIに詳しく記載するが、この研究は、膝局所(すなわち関節内)および血管内送達したアミトリプチリンの治療用量を比較した。結果は、アミトリプチリンの関節内投与では、同じ治療効果を得るに必要な静脈内経路に比較して約200倍低い総容量レベルしか必要でないことを示した。関節内投与した医薬の小部分のみしか局所的滑膜組織に吸収されないことを考慮すれば、2種の投与経路間の血漿医薬レベルの相違は総アミトリプチリン投与レベルの相違よりさらに大きい。
【0110】
この発明の実施は、従来のオピエート関節内注射および/または関節鏡もしくは関節(例えば膝、肩等)「解放」処置終了時の局所麻酔と明確に区別される。この発明の溶液は、疼痛および炎症の先制的抑制を供給するために外科処置中を通して連続的注入に使用される。対照的に、リドカイン(0.5−2%溶液)のような局所麻酔薬の連続注入による治療効果達成に必要な高濃度は、大きな全身毒性をもたらす。
【0111】
この発明の処置の終了後、オピエートの代わりまたは補助として、手術部位に、灌注用溶液に使用したのと同じ疼痛および炎症抑制薬を高濃度で注射または他の方法で適用することが望ましい。
【0112】
この発明の溶液はまた、血管壁のけいれん、血管の処置により生ずる血小板凝集および侵害受容活性化を潜在的に減少するための血管内診断および治療処置に用途を有する。このような技術に適する溶液は、下記実施例IIに記載する。血管内用溶液は、下記のもののあらゆる組み合わせ、好適には全部を含有するのが好ましい。5−HT2レセプター拮
抗薬(ピー・アール・サキセナら、セロトニン阻害作用薬および拮抗薬の心血管作用、ジャーナル・オブ・カーディオバスキュラー・ファーマコロジー、15巻(補遺7)、S17−S34頁(1990年);ダグラス、1985年);徐脈および頻脈を起こすことが知られている(サキセナら、1990年)、血管壁の交感神経性ニューロンおよびC−線維侵害受容性ニューロン上のこれらのレセプターの活性化を遮断するための5−HT3
セプター拮抗薬;ブラジキニン1レセプター拮抗薬;および疼痛および炎症を減少させる
、組織傷害部位でのプロスタグランジン産生を防止するためのシクロオキシゲナーゼ阻害剤。さらに、セロトニンがひとセロトニン1Bレセプターの活性化を通して顕著な血管けいれんを生ずることが示されているので(エイ・ジェイ・カウマンら、ひと分離冠動脈のセロトニン誘導収縮における5−HT1様レセプターおよび5−HT2レセプターの変動する関与、サーキュレーション、90巻、1141−53頁(1994年))、血管内用溶液はまた、セロトニン1B(セロトニン1Dβとしても知られる)拮抗薬を含むのが好ましい。血管狭窄をもたらす、血管壁に対するセロトニン1Bレセプターのこの興奮作用は、前に検討したニューロンにおけるセロトニン1Bレセプターの抑制作用と対照的である。血管内用溶液の目的に関しては、「疼痛/炎症抑制薬」の語は血管壁けいれんおよび血小板凝集抑制薬をも含むものとする。
【0113】
この発明の溶液はまた、経尿道的前立腺切除および同様なレーザー使用泌尿器科処置のような泌尿器科処置に伴う疼痛および炎症の減少にも用途を有する。研究は、セロトニン、ヒスタミンおよびブラジキニンが尿路下部組織において炎症を生ずることを示した。エム・エム・シュバルツら、腎臓および尿路下部における血管漏出:ヒスタミン、セロトニンおよびブラジキニンの作用、プロシーディングス・オブ・ソサイエティー・フォー・エクスペリメンタル・バイオロジー・アンド・メディシン、140巻、535−539頁(1972年)。泌尿器科処置に適する灌注用溶液は、下記実施例IIIに記載する。溶液は、下記のものの組み合わせ、好適には全部を含有するのが好ましい。ヒスタミン誘導疼痛および炎症を抑制するためのヒスタミン1レセプター拮抗薬、末梢C−線維侵害受容性
ニューロン上のこれらのレセプターの活性化を遮断するための5−HT3レセプター拮抗
薬;ブラジキニン1拮抗薬;ブラジキニン2拮抗薬;および組織傷害部位でプロスタグランジンにより生ずる疼痛および炎症を減少させるためのシクロオキシゲナーゼ阻害剤。尿道のけいれんおよび膀胱壁けいれんを防ぐために抗けいれん薬を含有させるのが好ましい。
【0114】
この発明の溶液はまた、手術創の疼痛および炎症抑制並びに熱傷に伴う疼痛および炎症を減少するために術中に使用することができる。熱傷は、疼痛および炎症を生ずるだけでなく、しばしば重症熱傷の生命窮迫要素である深刻な血漿溢出(体液喪失)をももたらす、顕著な量の生体アミンの放出を生ずる。シー・ジェイ・ホリマンら、ぶた熱傷モデルにおける熱傷ショック血液力学的パラメーターに対する特異的セロトニン拮抗薬ケタンセリンの効果、ジャーナル・オブ・トラウマ、23巻、867−871頁(1983年)。実施例I記載の関節鏡検査用の溶液を、疼痛および炎症制御のために創傷または熱傷に好適に適用することができる。実施例Iの溶液の薬剤は、熱傷または創傷に適用するために、同一濃度でパスタまたは軟膏基材に交互に含有させることができる。
【実施例】
【0115】
VII.実施例
以下に示すのは、ある種の手術的処置に適当なこの発明による数種の処方と、それに続く、この発明の薬剤を用いた2種の臨床研究の要約である。
【0116】
A.実施例1
関節鏡検査用灌注用溶液
下記の組成物は、関節鏡処置中に解剖学的関節の灌注に使用するのに適当な組成物である。各医薬は、通常の食塩水または乳酸加リンゲルのような、以下の実施例に記載する残りの溶液である生理学的電解質を含有する担体用流体に溶解されている。
【0117】
【表20A】

【0118】
B.実施例II
血管内治療処置用灌注用溶液
生理学的担体流体溶液中の下記の医薬および濃度範囲は、血管内処置中の手術部位灌注用に適当である。
【0119】
【表20B】

【0120】
C.実施例III
泌尿器科処置用灌注用溶液
生理学的担体流体溶液中の下記の医薬および濃度範囲は、泌尿器科処置中の手術部位灌注用に適当である。
【0121】
【表20C】

【0122】
D.実施例IV
関節鏡検査、熱傷、一般的手術創および口腔科/歯科用途用灌注用溶液
下記の組成物は、関節鏡検査および口腔科/外科処置中の解剖学的灌注用並びに熱傷および一般的手術創の管理用に好ましい。実施例Iで述べた溶液がこの発明による使用に適当であるが、下記溶液はより高い効果が期待されるのでさらに好ましい。
【0123】
【表20D】

【0124】
E.実施例V 血管内治療処置用灌注用溶液
生理学的担体流体溶液中の下記の医薬および濃度範囲は、血管内処置中の手術部位灌注用に適当である。この場合も、この溶液は効果が高いので上記実施例IIで述べた溶液より好ましい。
【0125】
【表20E】

【0126】
F.実施例VI
泌尿器科処置用灌注用溶液
生理学的担体流体溶液中の下記の医薬および濃度範囲は、泌尿器科処置中の手術部位灌注用に適当である。この溶液は、上記実施例IIIで述べた溶液より効果が高いと考えられる。
【0127】
【表20F】

【0128】
G.実施例VII
ニュージーランド系しろうさぎの正常腸骨動脈のバルーン拡張および応答に対するヒスタミン/セロトニンレセプター遮断の影響
この研究の目的は2つあった。第1は、動脈緊張の研究のための新規なインビボモデルを使用した。バルーン血管形成術の前および後の動脈寸法の経時変化を下に記載する。第2は、この環境下の動脈緊張制御におけるヒスタミンおよびセロトニン共同の役割を、血管形成術の外傷前および後に動脈にヒスタミンおよびセロトニンレセプター遮断薬を選択的に注入することにより研究した。
【0129】
1.デザインの考察
この研究は、1動脈グループにおける動脈腔寸法の経時変化を記述し、同様な動脈をもつ第2グループにおけるこのような変化に対するヒスタミン/セロトニンレセプター遮断の効果を評価しようとするものであった。2つの異なるグループの比較を容易にするため、両グループを、実験中に実施した注入の内容を除いて、同一の方法で処理した。対照動物(動脈)では、注入は通常の食塩水(試験液の媒質)で行った。ヒスタミン/セロトニンレセプター遮断処理動脈は、対照動物と同一のプロトコル部分、同一の速度で、遮断薬を含む食塩水を投与した。具体的には、試験液は、(a)16.0μMの濃度のセロトニン3拮抗薬メトクロプラミド;(b)1.6μMの濃度のセロトニン2拮抗薬トラゾドン;および(c)1.0μMの濃度のヒスタミン拮抗薬プロメタジンを、すべて通常の食塩水中に含有させた。この研究は、計画的、ランダム化、盲験方式で行った。特定のグループに対する割り当てはランダムであり、研究者は注入液の内容(食塩水のみまたはヒスタミン/セロトニンレセプター拮抗薬を含む食塩水)について、血管造影の画像解析前は知らされなかった。
【0130】
2.動物プロトコル
プロトコルは、シアトル・ベテラン・アフェアーズ・メディカル・センター・コミッティー・オン・アニマル・ユースで承認され、設備は、アメリカン・アソシエーション・フォー・アクレディエーション・オブ・ラボラトリー・アニマル・ケアにより完全に認可された。通常のうさぎ用食餌で飼育した3−4kgの雄性ニュージーランド系しろうさぎの腸骨動脈を研究した。動物は、実施のために処方したキシラジン(5mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)で鎮静し、首の腹側正中線で切開を実施して頚動脈を分離した。動脈を遠位で結紮し、動脈切開を実施し、下行大動脈に5フレンチのシースを導入した。ベースライン血圧および心拍を記録し、次いで遠位大動脈および両側腸骨動脈の血管造影画像を、下行大動脈にイオパミドール76%(スキッブ・ディアグノスチックス、ニュージャージー州、プリンストン)の手動注入を使用しながら35mmシネフィルム(駒速度毎秒15)に記録した。各血管造影画像について、校正用対象物を放射線野に設置して、直径測定時の拡大率の補正に備えた。2.5フレンチの注入カテーテル(アドバンスド・カーディオバスキュラー・システムズ、カリフォルニア州、サンタクララ)を、頚動脈シースを通して設置し、大動脈分岐の1−2cm上に位置させた。試験液−食塩水単独またはヒスタミン/セロトニンレセプター拮抗薬含有食塩水−の注入を、毎分5ccで開始し、15分間続けた。注入5分目に、前記の技術を用いて2回目の血管造影を実施し、次いで2.5mmのバルーン血管形成用カテーテル(ザ・ライトニング・コーディス・コーポレイション、フロリダ州、マイアミ)を、X線透視誘導下に手早く左次いで右腸骨動脈に進めた。各腸骨において、骨標識点を使用してカテーテルを近位および遠位深部大腿動脈枝間に位置させ、バルーンを30秒間12気圧で膨張させた。バルーンカテーテルをX線撮影用造影剤の稀薄溶液で膨張させて膨張したバルーンの直径がシネフィルムに記録できるようにした。血管形成用カテーテルを手早く取り出し、さらに血管造影画像を、注入開始後平均8分にシネフィルム上に記録した。注入を15分の時点まで続け、さらに血管造影(4回目)を実施した。次いで注入を停止し(総計75ccの溶液を注入)注入カテーテルを取り出した。30分の時点(注入停止後15分)で、最後の血管造影画像を前と同様に記録した。血圧と心拍は、血管造影の直前15および30分に記録した。最後の血管造影後、動物を、過剰用量の鎮静薬の静注により安楽死させ、腸骨動脈を回収し組織分析用の形態に固定した。
【0131】
3.血管造影画像の解析
血管造影の画像は、35mmシネフィルム上に毎秒15駒の速度で記録した。解析に際し、血管造影画像を5.5フィートの距離からバンガードプロジェクターで投影した。バルーン血管形成部位に関連してあらかじめ指定した位置の腸骨動脈の直径を、校正用対象物の測定により倍率を補正後に手持ちの両脚器による測定に基づいて記録した。測定を、ベースライン(試験溶液注入開始前)、注入5分後、バルーン血管形成直後(試験溶液開始後平均8分)、15分(注入停止直前)および30分(注入停止15分後)に行った。直径測定は、各腸骨動脈の3部位すなわちバルーン拡張部位の近位、バルーン拡張部位およびバルーン拡張部位の直遠位で行った。
次いで直径測定値を下式により面積測定値に変換した。
【0132】
面積=(Pi)(直径2)/4
血管収縮の計算には、動脈の最高面積を表すものとしてベースライン値を用い、血管収縮パーセントを下記のように計算した。
【0133】
血管収縮%={(ベースライン面積−後の時点の面積)/ベースライン面積}×100。
【0134】
4.統計学的方法
すべての値を、平均値±1平均値の標準誤差として表した。対照動脈における経時的血管運動応答を、反復測定で補正した分散の一元分析で評価した。事後の特定時点間のデータの比較をシェッフェ検定で行った。顕著な血管収縮が起こった時点が対照動脈で決定されると、対照およびヒスタミン/セロトニンレセプター拮抗薬処理動脈を、対照動脈で血管収縮が起こった時点で、独立変数としての処理群の分散の多重分析で比較した。単一の先験的に記述した仮説の不存在について評定するため、p値<0.01の場合を有意と考えた。統計処理は、スタティスティカ・フォー・ウインドウズ、バージョン4.5(スタトソフト、オクラホマ州、タルサ)を用いて実施した。
【0135】
5.結果
食塩水の注入を受けた正常動脈のバルーン血管形成前および後の動脈寸法の経時変化を、8頭の動物の16個の動脈で評価した(表21)。各動脈からの3切片すなわちバルーン拡張切片の直上流の近位切片、バルーン拡張切片およびバルーン拡張切片の直下流の遠位切片を検討した。近位および遠位切片は、動脈寸法変化で類似したパターンを示した。それぞれ、すべての時点を比較すると動脈直径に有意の変化があった(近位切片:p=0.0002、遠位切片:p<0.001、共変法)。事後検定は、これらの切片について、血管形成時点直後の直径はベースラインまたは30分時点直径より有意に少ないことを示した。他方、5分、15分および30分時点の各切片の動脈直径はベースライン直径と同様であった。バルーン拡張切片は、近位および遠位切片より小さい動脈寸法変化を示した。この切片のベースライン直径は1.82±0.05mm;血管形成に使用したバルーンの公称膨張直径は2.5mm、バルーンの実測膨張直径は2.20±0.03mm(バルーン処理切片のベースライン直径に対してp<0.0001)であった。すなわち、膨張バルーンはバルーン拡張切片の円周方向伸展を起こしたが、ベースラインから30分時点までに管腔には僅かな増加しかなかった(1.82±0.05mmから1.94±0.07mm、事後検定でp=非有意)。
【0136】
【表21】

【0137】
動脈管腔の直径を、管腔面積の計算に使用し、次いで面積測定値を、5分、血管形成直後、15および30分データとベースライン測定値の比較により血管収縮パーセントの計算に使用した。血管収縮パーセントとして表した近位および遠位切片のデータを図1に示す。時間に対する血管収縮量の変化は有意(近位切片でp=0.0008、遠位切片でp=0.0001、共変法)であった。事後検定は、血管形成直後時点の血管収縮を、30分時点のものと有意に異なるとした(両切片でp<0.001)。遠位切片では、血管形成直後の血管収縮も5分のものより有意に小さかった(p<0.01)。時点内比較では他の相違は事後検定で有意でなかった。
【0138】
対照動脈における管腔の変化は次のように要約される。1)ベースライン管腔面積の約30%減少に当たる血管収縮がバルーン拡張の直後にバルーン拡張切片の近位および遠位動脈切片で起こった。拡張前および15分時点(拡張後約7分)で近位および遠位切片で少量の血管収縮の傾向があったが、30分時点(拡張後約22分)までには、血管拡張への傾向が先の血管収縮に置き換わった。2)バルーン拡張切片では、管腔に僅かな変化しかなく、ベースライン切片に見られたよりかなり大きく膨張したバルーンを使用したにもかかわらず、拡張切片の管腔には顕著な増加がなかった。これらの知見から、推定されるヒスタミン/セロトニン処理による効果があっても血管収縮がある時点の近位および遠位切片でのみ検出できるとの結論が導かれた。
【0139】
ヒスタミン/セロトニンレセプター遮断溶液を、16個の動脈(動物8頭)に注入した。血管造影データは、12個の動脈において全時点で得られた。心拍および収縮期血圧測定値が、動物の部分集団で得られた(表22)。特定時点で2群の動物を比較したが、心拍および収縮期血圧に差はなかった。ヒスタミン/セロトニン処理動物は、ベースラインから30分まで収縮期血圧の減少(−14±5mmHg、p=0.04)および低心拍(−26±10、p=0.05)傾向を示した。対照動物には、実験期間中心拍および収縮期血圧に変化がなかった。
【0140】
【表22】

【0141】
ヒスタミン/セロトニン処理動脈の近位および遠位切片を、血管収縮パーセント測定値を用いて対照動脈と比較した。図2Aは、対照動脈の血管収縮に比較した近位切片の血管収縮に対するヒスタミン/セロトニン注入の効果を示す。2種処理群における知見を、ベースライン、血管形成直後、および15分時点で比較すると、ヒスタミン/セロトニンの注入は対照食塩水注入に比較して有意に低い血管収縮をもたらした(p=0.003、2元共変法)。遠位切片における2種処理群の比較を図2Bに示す。遠位切片における平均直径測定値に差が見られ、ベースライン、血管形成直後および15分時点で溶液処理血管は食塩水処理対照血管より少ない血管収縮を示したにもかかわらず、このパターンは統計的有意にならなかった(p=0.32、2元共変法)。統計的有意性が欠けているのは、対照血管における予想より小さい血管収縮値によるものと思われる。
【0142】
H.実施例VIII
5−ヒドロキシトリプタミン−誘導膝関節血漿溢出のアミトリプチリンによる抑制−関節内対静脈内投与経路の比較
下記の研究は、5−HT2レセプター拮抗薬であるアミトリプチリンのラット膝滑膜炎
症モデルにおける2種の投与経路、すなわち1)連続的関節内注入、および2)静脈注射を比較するために行った。各経路を経て送達されたアミトリプチリンの効果と総用量の両者を比較することにより、アミトリプチリンの5−HT−誘導関節血漿溢出抑制能力を測定した。
【0143】
1.動物
これらの研究について、サンフランシスコ、カリフォルニア大学のインスティチューショナル・アニマル・ケア・コミッティーの承認を得た。体重300−450gの雄性スプラーグーダウリーラット(バンティン・アンド・キングマン、カリフォルニア州、フレモント)をこれらの研究に使用した。ラットを照明調節条件(午前6時から午後6時まで点灯)下、自由に餌および水を摂らせて飼育した。
【0144】
2.血漿溢出
ラットをペントバルビタールナトリウム(65mg/kg)で麻酔し、次いで血漿蛋白溢出のマーカーとして用いるエバンス・ブルー染料(2.5ml/kgの容量中50mg/kg)を尾静脈注射により与えた。被覆する皮膚を切り取ることにより膝関節包を露出し、関節に30ゲージの針を刺して流体の注入に用いた。注入速度(250μl/分)は、セイジ・インスツルメンツ・シリンジ・ポンプ(モデル341B、オリオン・リサーチ・インコーポレイテッド、マサチューセッツ州、ボストン)により調節した。また25ゲージの針を関節腔に刺し、セイジ・インスツルメンツ・シリンジ・ポンプ(モデル351)で調節して潅流液を250μl/分で抽出した。
【0145】
ラットをランダムに3群、すなわち1)関節内(IA)5−HT(1μM)のみを受ける群、2)アミトリプチリンを静脈(IV)から(用量は0.01ないし1.0mg/kgに亘る)、次いでIAで5−HT(1mM)を受ける群、および3)アミトリプチリンを関節内(IA)(濃度は1ないし100nMに亘る)で、次いでIAで5−HT(1μM)およびIAでアミトリプチリンを受ける群の3群に分けた。すべての群において、ベースライン血漿溢出レベルは、0.9%食塩水を関節内潅流し3つの潅流液試料を15分間に亘って(5分毎に1回)採取することにより、各実験のはじめに得た。次いで、第1群に5−HTをIAで合計25分間投与した。潅流試料を5分毎に合計25分間採取した。次いで、直線的に濃度に関連する(カーおよびウイルヘルム、1964年)620nmの吸収を分光法で測定することにより、エバンス・ブルー染料の濃度について試料を分析した。IVアミトリプチリン群には、エバンス・ブルー染料の尾静脈注射中に薬剤を投与した。次いで、膝関節に15分間食塩水を還流し(ベースライン)、その後5−HT(1μM)を25分間還流した。潅流液試料を5分毎に合計25分間採取した。次いで、試料を、分光測光法を用いて分析した。IAアミトリプチリン群では、アミトリプチリンを、15分間の食塩水潅流後関節内に10分間還流し、次いでアミトリプチリンを5−HTと組み合わせてさらに25分間潅流した。潅流液を5分毎に採取して上記のように分析した。
【0146】
若干のラットの膝は、膝関節の物理的損傷または流入と流出の不釣り合い(潅流液中の血液の存在および高ベースライン血漿溢出または不適当な針の設置のための膝関節膨張で検出できる)のため、研究から除外した。
【0147】
a.5−HT−誘導血漿溢出
ベースライン血漿溢出は、試験したすべての膝関節で測定した(総n=22)
。ベースライン血漿溢出レベルは低く、620nmで平均0.022±0.003吸収単位であった(平均値±平均値からの標準誤差)。このベースライン溢出レベルを、図1および2に破線で示す。
【0148】
ラットの膝関節に還流した5−HT(1μM)は、ベースラインより上の時間依存性血漿溢出増加を生じた。25分間の5−HT関節内潅流中、最高血漿溢出レベルは15分までに達成され25分に潅流が終わるまで続いた(データは図示せず)。それ故、報告された5−HT−誘導血漿溢出レベルは、各実験中15、20および25分時点の平均値である。5−HT−誘導血漿溢出は平均0.192±0.011となり、ベースラインより約8倍の高揚であった。このデータは、図3および4中に、それぞれIVアミトリプチリンの「0」用量およびIAアミトリプチリンの「0」濃度として図示する。
【0149】
b.5−HT−誘導血漿溢出に対する静脈内アミトリプチリンの効果
尾静脈注射で投与したアミトリプチリンは、図3に示すように、5−HT−誘導血漿溢出の用量依存性減少を示した。5−HT−誘導血漿溢出のIVアミトリプチリン抑制に関するIC50は約0.025mg/kgである。5−HT−誘導血漿溢出は、1mg/kgのIVアミトリプチリン用量で完全に抑制され、血漿溢出は平均0.034±0.010である。
【0150】
c.5−HT−誘導血漿溢出に対する関節内アミトリプチリンの効果
濃度を増やしながら関節内単独投与したアミトリプチリンは、ベースラインとの関係で血漿溢出レベルに影響を及ぼさず、血漿溢出の平均は0.018±0.002であった(データは図示せず)。濃度を増やしながら5−HTと同時還流したアミトリプチリンは、図4に示すように、5−HT−誘導血漿溢出の濃度依存性減少を生じた。3nMのIAアミトリプチリン存在下の5−HT−誘導血漿溢出は、5−HT単独で生じたものと有意に違わなかったが、5−HTと同時投与した30nMのアミトリプチリンは50%より大きな抑制を生じ、100nMのアミトリプチリンでは5−HT−誘導血漿溢出の完全抑制を生じた。5−HT−誘導血漿溢出のIAアミトリプチリン抑制に関するIC50は、約20nMである。
【0151】
この研究の主要な知見は、ラットの膝関節に関節内潅流した5−HT(1μM)は、ベースラインレベルより約8倍高い血漿溢出の高揚を生じること、および5−HT2レセプ
ター拮抗薬アミトリプチリンの静脈内または関節内投与は5−HT−誘導血漿溢出を抑制し得ることである。しかし、投与したアミトリプチリンの総容量は、2種の医薬送達法で劇的に異なる。5−HT−誘導血漿溢出のIVアミトリプチリン抑制に関するIC50は0.025mg/kg即ち300gの成熟ラットで7.5×10−3mgである。5−HT
−誘導血漿溢出のIAアミトリプチリン抑制に関するIC50は約20nMである。この溶液1mlが実験中5分毎に合計35分送達されたので、膝に潅流された総用量は7mlであり、膝に潅流された総容量は4.4×10-5mgとなる。このIAアミトリプチリン用量は、IVアミトリプチリン用量より約200倍低い。さらに、IA潅流医薬の僅かな部分しか全身に吸収されず、医薬の総送達量にはもっと大きな差異をもたらすと思われる。
【0152】
前述のように、5−HTは外科的疼痛および炎症に大きな役割を演ずる可能性があるので、アミトリプチリンのような5−HT拮抗薬は術中に使用されるとき利益をもたらす可能性がある。最近の研究で、術後整形科疼痛に対する経口アミトリプチリンの効果を調べようとする試みがなされた(ケリックら、1993年)。50mgという低さの経口用量で、「幸福感の減少」のような望ましくない中枢神経系副作用が生じた。さらにこの研究は、術後患者において、経口アミトリプチリンがプラセボより高い(p0.05)疼痛尺度の評点を示した。これが経口アミトリプチリンにより生ずる総不快感によるものであるか否かは不明である。対照的に、関節内投与経路は、炎症部位に対して局所送達する医薬が極めて低濃度であることを可能にし、おそらく最高の利益と最低の副作用をもたらす。
【0153】
この発明の好ましい実施態様について説明し記載したが、開示した溶液および方法に対する種々の変更を、この発明の精神と範囲から逸脱することなくなし得ることが明らかであろう。例えば、本明細書の開示に従って、開示された薬剤を増加し置換する代わりの疼痛抑制薬並びに抗炎症および抗けいれん薬が見つかるかも知れない。したがって、付与される特許の範囲は請求の範囲の規定によってのみ限定されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−184274(P2012−184274A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152853(P2012−152853)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2008−230339(P2008−230339)の分割
【原出願日】平成7年12月12日(1995.12.12)
【出願人】(501472607)オメロス コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】