説明

無段変速機の変速制御装置

【課題】実アクセル開度と変速制御用アクセル開度との間のヒステリシスが、運転者の意図や車両の負荷状況等の運転状態に応じた最適な値となる無段変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】本発明は、実アクセル開度APO(a)に応じて変速制御用アクセル開度APO(c)を設定し、当該アクセル開度APO(c)に基づいた変速制御を行う無段変速機の変速制御装置において、実開度APO(a)と制御用開度APO(c)との間のヒステリシスhを、車速VSP、燃費性能及び動力性能の運転状態に応じて変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実アクセル開度に応じて変速制御用アクセル開度を設定し、当該変速制御用アクセル開度に基づいた変速制御を行う無段変速機の変速制御装置において、その比捨てリスを最適化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無段変速機は、アクセルペダル(以下、「アクセル」という)の踏み込みに対して無段階にダウンシフトするという特性を有し、アクセル開度の変化に応じて常に微小な変速を伴うため、アクセル操作後に微小な変動が生じると、実際に運転者が意図したアクセル操作に対するダイレクト感(応答性)が損なわれる。
【0003】
これに対し、従来の変速制御装置には、運転者の意図や車両の負荷状況等の運転状態に応じて変速制御(変速マップ)を切り替えつつ、実際のアクセル開度(以下、「実アクセル開度」という)に応じて変速制御用アクセル開度を設定し、実アクセル開度と変速制御用アクセル開度との間に不感帯(ヒステリシス)を設けることで、アクセル操作の頻度(アクセルの分解能)が所定以上のときには、アクセル操作に応じて実行される過度の変速制御を排除するものが存在する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−324842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の変速制御装置は、ヒステリシスの具体的な設定に関しては何ら考慮することなく、上述のような運転者の意図や車両の負荷状況等の運転状態とは無関係に設定している。このため、従来の変速制御装置では、燃費性能や動力性能等を重視して、かかる運転状態に応じて変速制御を切り替えても、変速に対する不感帯が一律に発生してしまう。
【0005】
即ち、従来の変速制御装置では、そのヒステリシスが或る運転領域(運転状態)では最適になるものの、他の運転領域では、変速応答性や燃費の悪化を招いてしまうという問題がある。
【0006】
本発明の目的とするところは、実アクセル開度と変速制御用アクセル開度との間のヒステリシスを、運転者の意図や車両の負荷状況等の運転状態に応じた最適な値とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の無段変速機の変速制御装置は、実アクセル開度に応じて変速制御用アクセル開度を設定し、当該変速制御用アクセル開度に基づいた変速制御を行うに際し、
実アクセル開度と変速制御用アクセル開度との間のヒステリシスを運転状態に応じて変更する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、実アクセル開度と変速制御用アクセル開度との間のヒステリシスが、運転スタイル(運転様式)、アクセルの分解能に代表される運転者の意図や、車速、路面勾配、曲線面の曲率半径、路面の摩擦抵抗等に代表される車両の負荷状況等の運転状態に応じた最適な値となる。
【0009】
従って、本発明によれば、運転者の意図や車両の負荷状況等の運転状態に応じて変速制御を切り替えても、その切り替えに応じてヒステリシスも最適化されるため、運転者が意図したアクセル操作に対するダイレクト感を損なうことなく、運転状態に応じた最適な変速制御を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明である無段変速機の変速制御装置を説明する。
【0011】
図1は、本発明の一形態である、ベルト式無段変速機の変速制御装置を搭載したパワートレーンを模式的に示すシステム図であり、また、図2は、本発明の基本概念を示すブロック図である。また、図3は、ヒステリシスの設定に用いられる本発明に従うヒステリシスマップを含むブロック図である。
【0012】
図1において、符号1は、駆動源であるエンジンであり、エンジン1の後方には、トーショナルダンパD/Pが繋がる。トーショナルダンパD/Pの後方には、オイルポンプO/Pが繋がると共に、入力回転伝達機構2が配置されている。入力回転伝達機構2は、トーショナルダンパD/Pに繋がる前進クラッチ2aと、前進クラッチ2aの出力に遊星歯車機構を介して繋がる後進クラッチ2bとを有する。
【0013】
符号3は、入力回転伝達機構2の後方に配置されたベルト式無段変速機(以下、「無段変速機」という)であり、更に、符号4は、プライマリプーリである。プライマリプーリ4は、入力回転伝達機構2に繋がる固定フランジ4aと、油圧によって制御される可動フランジ4bとを有する可変プーリである。
【0014】
符号5は、プライマリプーリ4に掛け渡されたVベルト6を介して繋がるセカンダリプーリである。セカンダリプーリ5は、プライマリプーリ4と同様、固定フランジ5aと、油圧によって制御される可動フランジ5bとを有する可変プーリである。固定フランジ5aには、ファイナルドライブギア組7からディファレンシャルギア装置8を経て車輪9L,9Rが繋がる。
【0015】
符号10は、CPU等を搭載したコントローラである。コントローラ10には、例えば、実アクセル開度APO(c)を検知するアクセル開度センサ11からの信号、スロットル開度センサ12からの信号、車速センサ13からの信号、エンジン回転数センサ14からの信号、変速機入力回転数(プライマリ回転数)センサ15からの信号及び変速機出力回転数(セカンダリ回転数)センサ16からの信号、運転者の運転スタイルを反映させた運転スタイル情報Iが入力される。
【0016】
運転スタイル情報Iには、例えば、燃費性能を重視した運転状態を選択するエコノミーモードスイッチ17からの信号、動力性能を重視した運転状態を選択するスポーツモードモードスイッチ18からの信号が含まれる。
【0017】
符号19は、前進クラッチ2a及び後進クラッチ2bの締結及び解放を司る前進走行レンジ圧PD、プライマリプーリ4の制御を司るプライマリプーリ圧PPRI及び、セカンダリプーリ5の制御を司るセカンダリプーリ圧PSECを供給する複数の油圧制御弁を備えたコントロールバルブユニットである。
【0018】
本形態では、コントローラ10は、最適な変速制御を実現すべく、従来の変速制御と同様、スロットル開度TVO及び車速VSPに基づいた目標変速機入力回転数Ni(o)を決定し、この目標変速機入力回転数Ni(o)を達成するようにコントロールバルブユニット19に内蔵された各油圧制御弁を制御する。
【0019】
即ち、本形態では、コントローラ10は、図2のブロック図に示すような流れに従い、アクセル開度センサ11からの実アクセル開度APO(a) に応じて変速制御用アクセル開度APO(c)を設定し、この変速制御用アクセル開度APO(c)に基づいて目標変速機入力回転数Ni(o)を決定する。
【0020】
コントローラ10では、同図に示すように、アクセル開度センサ11から実アクセル開度APO(a) が入力されると先ず、ヒステリシス設定手段101にて、実アクセル開度APO(a)と変速制御用アクセル開度APO(c)との間のヒステリシスhを、後述の運転状態に応じて設定する。
【0021】
ヒステリシス設定手段101は、図3に符号M1として示すヒステリシスマップに基いて運転状態に応じたヒステリシスhを設定する。ヒステリシスマップM1は、車速VSPと、運転者が燃費性能を重視しているか、動力性能を重視しているかの運転スタイルとに応じて予め設定された、複数のヒステリシス線L(本形態では、例示的に4つのヒステリシス線La〜Ld(La<Lb<Lc<Ld)を示す)を有する。
【0022】
本形態のヒステリシス線La〜Ldはそれぞれ、ヒステリシスマップM1に示すように、車速VSPが低い状態では、一定の大きな値を維持し、その後、車速VSPが増加するに従って徐々に減少する特性を示す。
【0023】
即ち、本形態では、個々のヒステリシス線La〜Ldを、車速VSPが高いほど、その増加に従ってヒステリシスhの値が小さくなるように設定している。こうした設定は、低車速時においては余裕駆動力が大きいため、ダウンシフトの必要がほとんどなくヒステリシスhを大きく設定しても問題がないのに対し、高車速時においては余裕駆動力が小さいため、ダウンシフトを行うことで駆動力を確保しなければならない状況が考えられるからである。
【0024】
また、ヒステリシスマップM1によれば、運転者の意図が動力性能への重み付けを高める方向に向かうに従って、個々のヒステリシス線Lの値は次第に小さくなっている(本形態では、動力性能を最も重視するときには、ヒステリシス線Laが選択される)のに対し、燃費性能への重み付けが高まるに従って、個々のヒステリシス線Lの値は次第に大きくなっている(本形態では、燃費性能を最も重視するときには、ヒステリシス線Ldが選択される)。
【0025】
即ち、本形態では、燃費性能を重視するときには、値の大きなヒステリシス線(ヒステリシス線Ld側のヒステリシス線L)を選択することで、ヒステリシスhの値が大きくなるように設定し、動力性能を重視するときには、値の小さなヒステリシス線(ヒステリシス線La側のヒステリシス線L)を選択することで、ヒステリシスhの値が小さくなるように設定している。こうした設定は、燃費性能を重視するときは微小な変速を抑制して燃費を向上させる必要があるため、ヒステリシスhを大きく設定することが好ましいのに対し、動力性能を重視するときには変速応答性を向上させる必要があるため、ヒステリシスhを小さく設定することが好ましいからである。
【0026】
本形態では、ヒステリシスhを最適化するに際し、車速センサ13からの信号と運転スタイル情報Iとを入力とし、燃費性能を重視するか動力性能を重視するかで、4つのヒステリシス線La〜Ldのうちから、最も好適なヒステリシス線Lを選択した後、このヒステリシス線Lを基に、車速VSPに応じたヒステリシスhを求めることで決定する。
【0027】
例えば、燃費性能を最重視しながら車速V1で走行するときには、ヒステリシスマップM1に示すように、4つのヒステリシス線La〜Ldのうちから、最も値の小さなヒステリシス線Ldを選択し、このヒステリシス線Ldに応じたヒステリシスh1を選択する。これにより、車速VSP及び運転スタイルに応じたヒステリシスh(=h1)が決定される。
【0028】
ヒステリシスhを決定した後、コントローラ10では、図2に示す変速制御用アクセル開度最適化手段102にて、変速制御用アクセル開度APO(c)の最適化が実行される。変速制御用アクセル開度APO(c)の最適化は、ヒステリシス設定手段101にて決定した最適化されたヒステリシスhに基づき、図4に示すように行われる。
【0029】
実アクセル開度APO(a)に応じて変速制御用アクセル開度APO(c)を設定するにあたり、ヒステリシスhが存在しない場合、変速制御用アクセル開度APO(c)は、実線L0に基いて決定される。例えば、実アクセル開度APO(a)が点Aで示すAPO(a)=a0の状態であるとき、変速制御用アクセル開度APO(c)はAPO(c)=A1となる。
【0030】
これに対し、本形態を適用せずに、実アクセル開度APO(a)に対してヒステリシスh(=h1)を一律に与えた場合、点Aからアクセルを踏み込んでも、変速制御用アクセル開度APO(c)は、車速VSPや運転スタイル等の運転状態を問わず、点Bに示す如く、実アクセル開度APO(a)がヒステリシスh1分だけ増加するまで、変速制御用アクセル開度APO(c)はAPO(c)=A1のままとなり、実アクセル開度APO(a)がa1となる点Bの状態に到達した後に始めて、実線L1に基いて決定される。
【0031】
即ち、本形態を適用しなかった場合には、車速VSPや運転スタイル等の運転状態を問わず、実アクセル開度APO(a)がアクセルの踏み込みによりa0からa1まで増加しても、変速制御用アクセル開度APO(c)はAPO(c)=A1のままであるが、実アクセル開度APO(a)が更なる踏み込みによってa1以上になると、車両の状態は、点Bから実線L1に沿って矢印d1の方向に移行するため、変速制御用アクセル開度APO(c)は、実線L1上の実アクセル開度APO(a)に対応する変速制御用アクセル開度APO(c)に決定される。
【0032】
これに対し、本形態のように、車速VSP及び運転スタイルに応じてヒステリシスhが設定される場合、ヒステリシスhが増大する方向に最適化されると、実アクセル開度APO(a)がアクセルの踏み込みによりa0からa2(>a1)まで増加するまでは、変速制御用アクセル開度APO(c)はAPO(c)=A1のままであるが、実アクセル開度APO(a)が更なる踏み込みによってa2以上になると、車両の状態は、点Cから二点鎖線L2に沿って矢印d2の方向に移行するため、変速制御用アクセル開度APO(c)は、二点鎖線L2上の実アクセル開度APO(a)に対応する変速制御用アクセル開度APO(c)に最適化される。
【0033】
また、本形態では、車速VSP及び運転スタイルに応じてヒステリシスhが減少する方向に最適化されると、実アクセル開度APO(a)がアクセルの踏み込みによりa0からa3(<a1)まで増加するまでは、変速制御用アクセル開度APO(c)はAPO(c)=A1のままであるが、実アクセル開度APO(a)が更なる踏み込みによってa3以上になると、車両の状態は、点Dから一点鎖線L3に沿って矢印d3の方向に移行するため、変速制御用アクセル開度APO(c)は、一点鎖線L3上の実アクセル開度APO(a)に対応する変速制御用アクセル開度APO(c)に最適化される。
【0034】
なお、運転者がアクセルの踏み込み量を減少させた場合、実線L0に至るまでは、現状の変速制御用アクセル開度APO(c)を維持し、実線L0に到達した後は、車両の状態は、実線L0に沿って矢印d0の方向に移行するため、変速制御用アクセル開度APO(c)は、実線L0上の実アクセル開度APO(a)に対応する変速制御用アクセル開度APO(c)に決定される。
【0035】
変速制御用アクセル開度APO(c)を最適化した後、コントローラ10では、図2の変速制御実行手段103にて、変速制御用アクセル開度APO(c)に基づいて目標変速機入力回転数Ni(o)を決定する。
【0036】
本形態では、コントローラ10に図2に示す変速マップM2を格納し、この変速マップM2を用いて目標変速機入力回転数Ni(o)を決定する。変速マップM2は、スロットル開度TVO及び車速VSPをパラメータとする既存の変速マップである。
【0037】
このため、本形態では、変速制御用アクセル開度最適化手段102にて最適化した変速制御用アクセル開度APO(c)から、当該変速制御用アクセル開度APO(c)に対応するスロットル開度TVOを算出し、このスロットル開度TVOと、車速センサ13で検出した車速VSPとに基づき、上記の変速マップM2から目標変速機入力回転数NI(o)を演算し、これを実現するよう、コントロールバルブユニット19内の各油圧制御弁を制御する。
【0038】
なお、本発明に従えば、変速マップM2として、アクセル開度APO及び車速VSPをパラメータとするものを利用することで、目標変速機入力回転数NI(o)を直接算出することもできる。また、変速マップM2は、アクセル開度APOを基に、目標変速機入力回転数NI(o)を演算することができるものであれば、その構成は限定されない。
【0039】
本形態の如く、車速VSPをヒステリシスhのパラメータとし、車速VSPが高いほど、ヒステリシスhが小さくなるよう設定にすれば、余裕駆動力が大きい低車速時では、運転者が意図したアクセル操作に対するダイレクト感が得られる変速制御を優先することができる一方、余裕駆動力が小さい高車速時では、運転状態に応じた最適な変速制御を優先することができる。
【0040】
また、本形態の如く、運転状態として運転スタイルに着目し、動力性能及び燃費性能という互いに相反する性能をヒステリシスhの評価基準とすることで、燃費性能を重視するときにはヒステリシスhを大きく設定し、動力性能を重視するときにはヒステリシスhを小さく設定すれば、運転スタイル別に応じた最適な値を得ることができる。
【0041】
なお、図5は、燃料消費率の分布をエンジン回転速度VEとエンジントルクTEとの関係からシュミレーションした解析図である。この解析図では、燃料消費率が低く燃費がよい領域を密な領域で表し、逆に、燃料消費率が高く燃費が良くない領域を粗な領域で表している。
【0042】
無段変速機は、無段階の変速が可能であるため、ある運転状況において、燃費が最適となるエンジン動作点(例えば、図5の点P)を狙った変速が可能である。
【0043】
しかしながら、ヒステリシスhを設けない場合は、燃費が最適となるエンジン動作点Pを狙って変速制御を行ったとしても、図5の矢印で示すように、アクセルの踏み代のばらつきで起きる微小な変速により、狙いとするエンジン動作点Pからずれてしまう。
【0044】
また、上述の如く、本形態を適用しなかった場合のように、ヒステリシスhの具体的な設定に関して何ら考慮することなく、ヒステリシスhを一律に設定してしまうときには、或る運転領域(運転状態)では最適になるものの、他の運転領域では、燃費の悪化を招いてしまう。
【0045】
このため、本形態の如く、燃費性能を重視するときにはヒステリシスhが大きくなるように設定することで、微小な変速を抑制すれば、狙いとするエンジン動作点Pからのずれも抑制されるため、本形態を適用しなかった場合と比較しても、燃費が向上することが明らかである。
【0046】
また、図6は、動力性能を重視したときの本形態の動作を示すタイムチャートである。本タイムチャートは、或る車速で走行中に、実アクセル開度APO(a)を一定の状態にした後、アクセルを踏み込んで加速する際の動作を時系列的に示している。
【0047】
上述の如く、本形態を適用することなく、ヒステリシスhの具体的な設定に関して何ら考慮しない場合には、時間T0において実アクセル開度APO(a)=a0から踏み込んでいくと、一律のヒステリシスh1だけ遅れた実アクセル開度APO(a)=a1に到達した時間T1から、破線で示すように、ダウンシフトが開始されることなる。
【0048】
これに対し、本形態では、時間T0において実アクセル開度APO(a)=a0から踏み込んでいくと、例えば、運転者が意図したアクセル操作に対するダイレクト感によりも運転状態に応じた最適な変速制御に重きをおいてヒステリシスhを設定したときには、同図の実線のように、最適化されたヒステリシスh=h2だけ前の実アクセル開度APO(a)=a3(a3<a1)に到達した時間T3からダウンシフトが開始されることなる。
【0049】
このため、本形態の如く、動力性能を重視するときにはヒステリシスhが小さくなるように設定することで、目標とする変速(目標変速機出力回転数NI(o))を達成すべく、エンジン回転数NEの上昇開始を早めて変速開始を早めれば、変速応答性が向上するため、本形態を適用しなかった場合と比較して、動力性能が向上することが明らかである。
【0050】
また、本発明によれば、運転状態として路面勾配を含めることも可能である。この場合、勾配角センサ等から路面勾配を検出し、路面勾配θが大きいほど、その増加に従ってヒステリシスh(ヒステリシス線L)を大きくなるように設定する。かかる構成によれば、勾配路に応じた最適な変速制御用アクセル開度APO(c)を設定することができる。このため、動力性能が重視される路面勾配が急勾配になる程、動力性能に重みをおくことができるので、快適な運転が実現できる。
【0051】
更に、本発明によれば、運転状態としてアクセル操作の頻度(アクセルの分解能)を含めることも可能である。この場合、アクセル開度センサ11からの信号よりアクセルの分解能を検出し、当該分解能が適切なとき(アクセル操作の頻度が低いとき)には、ヒステリシスh(ヒステリシス線L)を小さく設定し、当該分解能が小さいとき(アクセル操作の頻度が高いとき)には、ヒステリシスh(ヒステリシス線L)を大きく設定する。かかる構成によれば、運転者のアクセル操作の頻度に応じた最適な変速制御用アクセル開度APO(c)を設定することができる。このため、運転者が意図したアクセル操作に対するダイレクト感を重視した快適な運転が実現できる。
【0052】
加えて、本発明によれば、運転状態として曲線路(カーブ)の曲率半径Rを含めることも可能である。この場合、横加速度センサからの信号等を基に曲線路の曲率半径Rを検出し、当該曲率半径Rが大きいときには、ヒステリシスhを大きく設定し、当該曲率半径Rが小さいときには、ヒステリシスhが小さくなるように設定する。これは、曲率半径Rの小さい、所謂、Rのきついカーブ等では、スリップ(横滑り)を生じやすく、駆動力に対する感度(アクセル操作に対する感度)が小さいほうが安全なためである。かかる構成によれば、曲線路の曲率半径Rに応じた最適な変速制御用アクセル開度APO(c)を設定することができる。このため、動力性能が重視される曲線面が急カーブになる程、動力性能に重みをおくことができるので、快適な運転が実現できる。
【0053】
更に、本発明によれば、運転状態として路面の摩擦抵抗(摩擦係数μ)を含めることも可能である。この場合、車輪回転速度センサからの信号等を基に路面の摩擦係数μを検出し、当該摩擦係数μが小さいときにはヒステリシスhが大きくなるように設定し、当該摩擦係数μが大きいときにはヒステリシスhが小さくなるように設定する。これは、摩擦抵抗の小さい路面では、車輪回転のスリップを生じやすく、駆動力に対する感度(アクセル操作に対する感度)が小さいほうが安全なためである。かかる構成によれば、曲線路の曲率半径Rに応じた最適な変速制御用アクセル開度APO(c)を設定することができる。このため、動力性能が重視される曲線面が急カーブになる程、動力性能に重みをおくことができるので、快適な運転が実現できる。
【0054】
上述したように、本発明によれば、実アクセル開度APO(a)と変速制御用アクセル開度APO(c)との間のヒステリシスhが、運転スタイル(運転様式)、アクセルの分解能に代表される運転者の意図や、車速VSP、路面勾配θ、曲線面の曲率半径R、路面の摩擦抵抗(摩擦係数μ)等に代表される車両の負荷状況等の運転状態に応じた最適な値となる。
【0055】
従って、本発明によれば、運転者の意図や車両の負荷状況等の運転状態に応じて変速制御を切り替えても、その切り替えに応じてヒステリシスhも最適化されるため、運転者が意図したアクセル操作に対するダイレクト感を損なうことなく、運転状態に応じた最適な変速制御を実現することができる。
【0056】
上述したところは、本発明の好適な形態であるが、請求の範囲内において、種々の変更を加えることができる。例えば、上述した運転状態は、それぞれのうちから少なくとも1つを採用すればよい。更に、各形態に採用された各構成はそれぞれ、互いに適宜組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一形態である、ベルト式無段変速機の変速制御装置を搭載したパワートレーンを模式的に示すシステム図である。
【図2】本発明の基本概念を示すブロック図である。
【図3】ヒステリシスの設定に用いられる本発明に従うヒステリシスマップを含むブロック図である。
【図4】実アクセル開度からヒステリシスを用いて変速制御用アクセル開度を最適化するための設定マップである。
【図5】燃料消費率の分布を車速とエンジントルクとの関係からシュミレーションした解析図である。
【図6】動力性能を重視したときの本形態の動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1 エンジン
2 入力回転伝達機構
2a 前進クラッチ
2b 後進クラッチ
3 ベルト式無段変速機
4 プライマリプーリ
4a プライマリ側固定プーリ
4b プライマリ側可動プーリ
5 セカンダリプーリ
5a セカンダリ側固定プーリ
5b セカンダリ側可動プーリ
6 Vベルト
7 ファイナルドライブギア組
8 ディファレンシャルギア装置
9L,9R 車輪
10 コントローラ
11 アクセル開度センサ
12 スロットル開度センサ
13 車速センサ
14 エンジン回転センサ
15 変速機入力回転数(プライマリ回転数)センサ
16 変速機出力回転数(セカンダリ回転数)センサ
17 エコノミーモードスイッチ
18 スポーツモードスイッチ
19 コントロールバルブユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実アクセル開度に応じて変速制御用アクセル開度を設定し、当該変速制御用アクセル開度に基づいた変速制御を行う無段変速機の変速制御装置において、
実アクセル開度と変速制御用アクセル開度との間のヒステリシスを運転状態に応じて設定するヒステリシス設定手段を備えることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ヒステリシス設定手段は、運転状態として車速を検出し、当該車速が増加するほど、ヒステリシスを小さく設定するものであることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ヒステリシス設定手段は、運転状態として運転スタイルを検出し、当該運転スタイルが燃費性能を重視するときにはヒステリシスを大きく設定し、動力性能を重視するときにはヒステリシスを小さく設定するものであることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、前記ヒステリシス設定手段は、運転状態として路面勾配を検出し、当該路面勾配が大きいほど、ヒステリシスを大きく設定するものであることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、前記ヒステリシス設定手段は、運転状態としてアクセルの分解能を検出し、当該分解能が適切であるときにはヒステリシスを小さく設定し、当該分解能が小さいときにはヒステリシスを大きく設定するものであることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、前記ヒステリシス設定手段は、運転状態として曲線路の曲率半径を検出し、当該曲率半径が大きいときにはヒステリシスを大きく設定し、当該曲率半径が小さいときにはヒステリシスを小さく設定するものであることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、前記ヒステリシス設定手段は、運転状態として路面の摩擦抵抗を検出し、当該摩擦抵抗が小さいときには、ヒステリシスを大きく設定し、当該摩擦抵抗が大きいときには、ヒステリシスを小さく設定するものであることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−112397(P2010−112397A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283139(P2008−283139)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】