説明

無段変速装置の制御装置、無段変速装置、およびそれを備えた車両

【課題】発進時におけるプライマリシーブのベルトに対する空回りに起因する乗り心地の低下を抑制する。
【解決手段】変速装置20は、入力軸12と、出力軸13と、入力軸12と共に回転するプライマリシーブ23と、出力軸13と共に回転するセカンダリシーブ24と、プライマリシーブ23とセカンダリシーブ24とに巻掛けられたベルト25とを備えている。変速装置20は、プライマリシーブ23の可動シーブ23aを駆動することで変速比を変化させるモータ22を備えている。変速装置20の制御装置(ECU5)は、ベルト25の回転を検出するセカンダリシーブ回転速度センサ28を備え、ECU5の制御部55は、起動後、ベルト25の回転が検出された後にシーブ位置制御(変速比の通常制御)を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置の制御装置、無段変速装置、およびそれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速比が連続的に変更可能な電子制御式の無段変速装置(以下、「ECVT(Electronically-controlled Continuously Variable Transmission)」とする。)が、スクータータイプの自動二輪車や、所謂四輪バギー等の車両に用いられている。
【0003】
通常、ECVTは、入力軸と共に回転するプライマリシーブと、出力軸と共に回転するセカンダリシーブと、プライマリシーブとセカンダリシーブとに巻掛けられたベルトと、プライマリシーブのベルト溝の幅を変化させるアクチュエータと、を備えている。また、上記車両は、ECVTのアクチュエータを制御する制御装置を備えており、当該制御装置は、車速、エンジン回転速度およびスロットル開度等の車両の運転状態と、変速比との関係を表す変速比マップに基づいてアクチュエータを制御し、変速比を変更する。したがって、ECVTを搭載した車両(以下、「ECVT搭載車」とする。)では、ライダーの変速操作やクラッチ操作を要さない。
【0004】
具体的には、通常、プライマリシーブは、入力軸の軸方向に摺動自在に設けられた可動シーブと、入力軸の軸方向に固定された固定シーブとを有している。プライマリシーブの可動シーブには、アクチュエータが接続されている。プライマリシーブの可動シーブは、アクチュエータに駆動されて、入力軸の軸方向に摺動する。これにより、プライマリシーブのベルト溝の幅が変更される。
【0005】
一方、セカンダリシーブは、出力軸の軸方向に摺動自在に設けられた可動シーブと、出力軸の軸方向に固定された固定シーブとを有している。セカンダリシーブの可動シーブには、可動シーブを固定シーブ側に付勢するスプリングが接続されている。セカンダリシーブの可動シーブは、スプリングによって常に固定シーブ側へ付勢される。そのため、セカンダリシーブには、常にベルト溝の幅を狭める方向(ベルト巻掛け径が大きくなる方向)に荷重が付加されることとなる。これにより、プライマリシーブは、常に、セカンダリシーブ側からベルト溝の幅が拡がる方向(ベルト巻掛け径が小さくなる方向)に荷重を受けることとなる。
【0006】
このような構成により、プライマリシーブの可動シーブが固定シーブ方向に摺動させられると、プライマリシーブのベルト溝の幅が狭まり、ベルト巻掛け径が大きくなる。これに伴い、セカンダリシーブのベルト溝内のベルトがセカンダリシーブの半径方向の内側へ移動すると共に、セカンダリシーブの可動シーブは、スプリングの付勢力に抗して固定シーブから離れる方向に移動する。このようにして変速比は小さくなり、可動シーブは、変速比が最小となる所謂Topの位置に近づいていくこととなる。
【0007】
一方、プライマリシーブの可動シーブが固定シーブから離れる方向に摺動させられると、プライマリシーブのベルト溝の幅が拡がり、ベルト巻掛け径が小さくなる。これに伴い、セカンダリシーブのベルト溝内のベルトがセカンダリシーブの半径方向の外側へ移動すると共に、セカンダリシーブの可動シーブは、スプリングの付勢力によって固定シーブ方向に移動する。このようにして変速比が大きくなり、可動シーブは、変速比が最大となる所謂Lowの位置に近づいていくこととなる。
【0008】
ところで、通常、制御装置は、車両停止時(アイドリング時も含む)には、プライマリシーブの可動シーブを、ベルト溝の幅が最も拡がり変速比が最大となるLowの位置に戻す様にアクチュエータを制御する。また、制御装置は、電源ON時には必ずプライマリシーブの可動シーブをLowの位置に戻す様にアクチュエータを制御する。
【0009】
ところが、例えば、急制動によって走行を停止した直後に電源をOFFしたようなときに、プライマリシーブがLowの位置に十分に戻りきらないままアクチュエータが停止してしまう場合がある。そして、このような状態のまま再び電源をONすると、ベルトが回転しない状態でプライマリシーブの可動シーブだけがLowの位置に移動する。つまり、ベルトが回転していない状態にも拘わらず、プライマリシーブ側のベルト溝の幅が拡がる。これにより、ベルトがプライマリシーブから浮いてしまうことがある。
【0010】
しかし、ベルトがプライマリシーブから浮くと、プライマリシーブがベルトに対して空回りし、ベルトには動力が伝達されない。そして、このような状態で変速比を変更するためにプライマリシーブの可動シーブを摺動させるシーブ位置制御が開始されると、プライマリシーブから浮いて動力が伝達されていなかったベルトが、ある程度回転速度が上昇した状態のプライマリシーブによって挟み込まれ、ベルトに急激に動力が伝達されることとなる。そのため、発進がスムーズでなく、乗り心地が悪くなるという課題があった。
【0011】
そこで、エンジン始動時のプライマリシーブの溝幅が予め設定した所定の溝幅よりも狭い場合には、エンジン回転数が所定の変速許容回転数を超えるまでは変速比制御(言い換えると、シーブ位置制御)を行わず、エンジン回転数が変速許容回転数を超えた後に、変速比制御を開始するようにすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3375362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のECVTの制御装置では、エンジン回転数が変速許容回転数を超えるとベルトがプライマリシーブと共に回転するということを前提としているが、実際には、プライマリシーブが空回りしていないことを確実に判断することはできない。すなわち、プライマリシーブがベルトに対して空回りしていない場合には、エンジン回転数からベルトが回転していることを確実に判断することができるが、プライマリシーブが空回りしている場合には、エンジン回転数からではベルトの回転を確認することはできない。そのため、上記制御装置では、実際にはプライマリシーブがベルトに対して空回りしているにも拘わらず、エンジン回転数が変速許容回転数を超えたためにシーブ位置制御が開始されてしまうおそれがあった。したがって、特許文献1に記載のECVTの制御装置では、プライマリシーブの空回りの有無を確実に検知することはできず、結局のところ、プライマリシーブが空回りした場合にスムーズに発進できないという課題を根本的に解決することは難しかった。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アクチュエータを用いて変速比を制御する無段変速装置において、発進時におけるプライマリシーブのベルトに対する空回りに起因する乗り心地の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る無段変速装置の制御装置は、車両の駆動源と駆動輪との間に配置され、連続的に変速比を変更することができる電子制御式の無段変速装置の制御装置であって、前記無段変速装置は、入力軸と、出力軸と、前記入力軸と共に回転するプライマリ固定シーブ体と、前記プライマリ固定シーブ体に対して、前記入力軸の軸方向に変位可能に対向し、前記プライマリ固定シーブ体と共に、半径方向外側に向かって拡幅するプライマリ側ベルト溝を構成し、前記入力軸と共に回転するプライマリ可動シーブ体と、を有するプライマリシーブと、前記出力軸と共に回転するセカンダリ固定シーブ体と、前記セカンダリ固定シーブ体に対して、前記出力軸の軸方向に変位可能に対向し、前記セカンダリ固定シーブ体と共に、半径方向外側に向かって拡幅するセカンダリ側ベルト溝を構成し、前記出力軸と共に回転するセカンダリ可動シーブ体と、を有するセカンダリシーブと、前記プライマリ側ベルト溝と前記セカンダリ側ベルト溝とに巻き掛けられたベルトと、前記プライマリ側ベルト溝の幅と前記セカンダリ側ベルト溝の幅との少なくとも一方を変化させることで、前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとの間の変速比を変化させるアクチュエータと、を有し、前記ベルトの回転を直接又は間接的に検出するベルト回転検出センサと、前記アクチュエータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、起動後、前記ベルトの回転が検出された後に前記アクチュエータの制御を開始するものである。
【0015】
上記制御装置によれば、起動後、ベルトの回転が検出された後に変速比を変化させるアクチュエータの制御が開始される。そのため、プライマリシーブがベルトに対して空回りしている間は、アクチュエータの制御が行われない。これにより、プライマリシーブが空回りした状態で変速比を変化させるアクチュエータの制御が開始されることによる発進時の衝撃を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アクチュエータを用いて変速比を制御する無段変速装置において、発進時におけるプライマリシーブのベルトに対する空回りに起因する乗り心地の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
−実施形態1−
《自動二輪車1の構成》
本実施形態では、所謂スクータータイプの自動二輪車1を例に挙げて本発明の実施形態の一例について説明する。図1に示すように、自動二輪車1は、ハンドル4と、パワーユニット2と、駆動輪としての後輪3とを備えている。パワーユニット2と後輪3とは、動力伝達機構6により接続されている。
【0018】
(ハンドル4)
図2は、ハンドル4の概略構成図である。ハンドル4は、図示しないステアリングヘッドパイプに接続されたハンドルバー4dを備えている。ハンドル4は、ハンドルバー4dの左端部に位置する左グリップ部4aと、ハンドルバー4dの右端部に位置する右グリップ部4bとを備えている。右グリップ部4bは、ハンドルバー4dに対して回転可能である。ライダーが、右グリップ部4bを回転させることで、図3に示すスロットル70が操作され、スロットル開度が調整される。
【0019】
各グリップ部4a、4b近傍には、ブレーキレバー4cが配置されている。ライダーがこのブレーキレバー4cを操作することで自動二輪車1のブレーキ(図示せず)が駆動されると共に、後述するように、ECU5に対してブレーキ信号102が出力される。
【0020】
左グリップ部4aの右側部分には、スイッチボックス40が配置されている。スイッチボックス40には、各種操作スイッチが配置されている。
【0021】
また、ハンドル4の中央部には、車速や燃料の残量を表示する表示パネル7が設けられている。
【0022】
(パワーユニット2)
図3に示すように、パワーユニット2は、駆動源としてのエンジン10と、電子制御式の変速装置20と、遠心クラッチ30と、減速機構31とを備えている。変速装置20は、無段式の変速機構21と、変速機構21の変速比を変更させるアクチュエータとしてのモータ22とを備えている。
【0023】
変速機構21は、変速比を連続的に変更可能な様に構成されている。具体的には、図4に示すように、変速機構21は、入力軸12と、出力軸13と、プライマリシーブ23と、セカンダリシーブ24とを備えている。プライマリシーブ23とセカンダリシーブ24とには、断面略V字状のベルト25が巻き掛けられている。ベルト25は、本実施形態では、ゴム製のゴムベルトにより構成されている。
【0024】
図4に示すように、プライマリシーブ23は、可動シーブ23aと、固定シーブ23bとを備えている。可動シーブ23aは、入力軸12に対し軸方向に摺動自在に設けられている。一方、固定シーブ23bは、入力軸12に対し軸方向に摺動不能に設けられている。なお、可動シーブ23aおよび固定シーブ23bは共に、入力軸12に対し相対回転不能に取り付けられており、入力軸12と共に回転する。また、可動シーブ23aおよび固定シーブ23bによって、半径方向外側に向かって拡幅するベルト溝23cが形成される。
【0025】
プライマリシーブ23には、前述のモータ22が取り付けられている。モータ22は、可動シーブ23aを駆動し、可動シーブ23aを入力軸12の軸方向に摺動させる。可動シーブ23aが摺動すると、プライマリシーブ23のベルト溝23cの幅が変化する。これにより、プライマリシーブ23に挟持されたベルト25は、プライマリシーブ23の半径方向内側または外側へ移動することとなる。
【0026】
また、セカンダリシーブ24も、可動シーブ24aと、固定シーブ24bとを備えている。可動シーブ24aは、出力軸13に対し軸方向に摺動自在に設けられている。一方、固定シーブ24bは、出力軸13に対し軸方向に摺動不能に設けられている。なお、可動シーブ24aおよび固定シーブ23bは共に、出力軸13に対し相対回転不能に取り付けられており、出力軸13と共に回転する。可動シーブ24aは、スプリング24dによってベルト溝24cの幅を狭める方向に付勢されている。また、可動シーブ24aおよび固定シーブ24bによって、半径方向外側に向かって拡幅するベルト溝24cが形成される。
【0027】
このような構成により、図4に示すように、モータ22がプライマリシーブ23の可動シーブ23aを固定シーブ23b方向に摺動させると、プライマリシーブ23のベルト溝23cの幅が狭まり、ベルト25のプライマリシーブ23側の巻掛け径が大きくなる。これに伴い、セカンダリシーブ24のベルト溝24c内のベルト25がセカンダリシーブ24の半径方向の内側へ移動すると共に、セカンダリシーブ24の可動シーブ24aは、スプリング24dの付勢力に抗して固定シーブ24bから離れる方向に移動する。これにより、ベルト25のセカンダリシーブ24側の巻掛け径が小さくなる。このようにして変速比は小さくなり、可動シーブ23a,24aは、変速比が最小となる所謂Topの位置に近づいていくこととなる。
【0028】
一方、図5に示すように、モータ22がプライマリシーブ23の可動シーブ23aを固定シーブ23bから離れる方向に摺動させると、プライマリシーブ23のベルト溝23cの幅が拡がり、ベルト25のプライマリシーブ23側の巻掛け径が小さくなる。これに伴い、セカンダリシーブ24のベルト溝24c内のベルト25がセカンダリシーブ24の半径方向の外側へ移動すると共に、セカンダリシーブ24の可動シーブ24aは、スプリング24dの付勢力によって固定シーブ24b方向に移動する。これにより、ベルト25のセカンダリシーブ24側の巻掛け径が大きくなる。このようにして変速比が大きくなり、可動シーブ23a,24aは、変速比が最大となる所謂Lowの位置に近づいていくこととなる。
【0029】
また、図3に示すように、出力軸13は、遠心クラッチ30を介して減速機構31に接続されている。そして、減速機構31は、ベルトやチェーン、ドライブシャフト等の動力伝達機構6を介して後輪3に接続されている。これにより、遠心クラッチ30は、変速機構21の出力軸13と、駆動輪である後輪3との間に配置されていることとなる。
【0030】
遠心クラッチ30は、セカンダリシーブ24の回転速度に応じて断続される。具体的には、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の回転速度未満である場合は、遠心クラッチ30は切断された状態にある。このため、セカンダリシーブ24の回転は、後輪3に伝達されない。一方、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の回転速度以上である場合は、遠心クラッチ30が接続状態となる。このため、セカンダリシーブ24の回転は、遠心クラッチ30、減速機構31および動力伝達機構6を介して後輪3に伝達される。これにより、後輪3が回転するようになっている。
【0031】
《自動二輪車1の制御システム》
次に、図3を参照しながら自動二輪車1の制御システムについて説明する。図3に示すように、自動二輪車1の制御は、主として、制御装置としてのECU(electronic control unit)5によって行われる。ECU5は、予め定められた変速比や各種設定等を記憶するメモリ57と、制御部55と、モータ22を駆動する駆動回路56とを備えている。制御部55は、変速比を変更するためにプライマリシーブ23の可動シーブ23aを摺動させるシーブ位置制御(本発明に係る変速比の通常制御)を行う。
【0032】
ECU5には、各種センサおよびスイッチ等が接続されている。具体的に、ECU5には、スロットル開度センサ33、ブレーキレバー4c、エンジン回転速度センサ11、シーブ位置センサ26、プライマリシーブ回転速度センサ27、セカンダリシーブ回転速度センサ28および車速センサ32が接続されている。
【0033】
スロットル開度センサ33は、自動二輪車1のスロットル開度を検出する。スロットル開度センサ33は、スロットル70に接続されている。スロットル開度センサ33は、検出したスロットル開度を、スロットル開度信号101としてECU5に対して出力する。ブレーキレバー4cは、ライダーによって操作されているときに、ブレーキ信号102をECU5に対して出力する。つまり、ブレーキレバー4cは、ライダーによってブレーキレバー4cが操作されたときからライダーがブレーキレバー4cの操作をやめるまでの間、ブレーキ信号102を出力し続ける。
【0034】
エンジン回転速度センサ11は、エンジン10の回転速度を検出する。エンジン回転速度センサ11は、検出したエンジン10の回転速度をエンジン回転速度信号103としてECU5に対して出力する。
【0035】
シーブ位置センサ26は、変速機構21の変速比を検出するためのセンサである。具体的には、シーブ位置センサ26は、プライマリシーブ23のベルト溝23c(図4、図5参照)の幅を検出する。例えば、本実施形態のように、プライマリシーブ23が、固定シーブ23bと、固定シーブ23bに対して相対的に変位可能な可動シーブ23aとにより構成されている場合は、シーブ位置センサ26は、固定シーブ23bに対する可動シーブ体の位置を検出する。そして、シーブ位置センサ26は、可動シーブ23aの位置をシーブ位置信号104としてECU5に対して出力する。
【0036】
プライマリシーブ回転速度センサ27は、プライマリシーブ23の回転速度を検出する。プライマリシーブ回転速度センサ27は、検出したプライマリシーブ23の回転速度をECU5に対してプライマリシーブ回転速度信号105として出力する。
【0037】
セカンダリシーブ回転速度センサ28は、セカンダリシーブ24の回転速度を検出する。セカンダリシーブ回転速度センサ28は、検出したセカンダリシーブ24の回転速度をECU5に対してセカンダリシーブ回転速度信号106として出力する。
【0038】
車速センサ32は、自動二輪車1の車速を検出する。車速センサ32は、検出した車速をECU5に対して車速信号107として出力する。なお、車速センサ32は、後輪3の回転速度を検出するものであってもよいが、例えば、車速センサ32は、減速機構31の出力軸の回転速度を検出することで車速を得るものであってもよい。また、車速センサ32は、前輪の回転速度を検出することで車速を得るものであってもよい。
【0039】
(ECU5の制御概要)
−エンジン制御−
ECU5は、エンジン10の制御を行っている。具体的には、ECU5は、スロットル開度信号101や車速信号107等に基づいて、目標となるエンジン回転速度を算出する。ECU5は、エンジン回転速度信号103をモニタしながら、エンジン10の点火装置(図示せず)の点火時期およびエンジン10への燃料供給量などを調節することにより、エンジン10の回転速度等を算出された目標エンジン回転速度に制御している。
【0040】
−変速制御−
また、ECU5は、変速装置20の制御も行っている。具体的には、ECU5は、電源がONされて起動されると、まずベルト25の回転を確認するための起動時制御を行う。そして、起動時制御により、ベルト25の回転が確認されると、変速比を変更するためのシーブ位置制御(本発明に係る変速比の通常制御)を行う。
【0041】
《起動時制御》
起動時制御では、変速機構21のベルト25の回転を検出し、ベルト25の回転が検出されると、シーブ位置制御を開始させる。なお、本実施形態では、本発明に係るベルト回転検出センサはセカンダリシーブ24の回転速度を検出するセカンダリシーブ回転速度センサ28により構成されている。そのため、ECU5の制御部55は、セカンダリシーブ回転速度センサ28によって検出されたセカンダリシーブ24の回転速度からベルト25の回転の有無を判断し、ベルト25が回転していると判断された場合、シーブ位置制御を開始する。以下、図6を用いて起動時制御のフローについて詳述する。
【0042】
図6に示すように、まず、セカンダリシーブ回転速度センサ28によって検出されたセカンダリシーブ24の回転速度が、セカンダリシーブ回転速度信号(図3のSe回転速度信号)106としてECU5に読み込まれる(ステップS1)。
【0043】
セカンダリシーブ回転速度信号106が読み込まれると、ECU5は、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の許容回転速度以上であるか否かを判断する(ステップS2)。ECU5によって、ステップS2における判断がYESである、言い換えると、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の許容回転速度以上であると判断されると、ステップS3に進む。
【0044】
ステップS3では、ECU5の制御部55が、変速比がLow側にシフトするまでモータ22を制御する。これにより、プライマリシーブ23の可動シーブ23aは、Lowの位置に向かって移動する。そして、シーブ位置センサ26から入力されるシーブ位置信号104から、プライマリシーブ23の可動シーブ23aがLowの位置まで移動したことが検出されると、ステップS4に進む。
【0045】
ステップS4では、制御部55がシーブ位置制御(言い換えると、通常の変速比制御)を開始する。そして、起動時制御は終了する。
【0046】
一方、ステップS2における判断がNOである、言い換えると、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の許容回転速度未満であると判断されると、ステップS5に進む。
【0047】
ステップS5では、まず、ステップS2における判断がNOとなった累積回数が所定の回数に至ったか否かが判断される。そして、ステップS5における判断がYESである、言い換えると、ステップS2における判断がNOとなった回数が所定の回数に至ったと判断されると、ステップS6に進む。
【0048】
ステップS6では、NG表示がなされる。ここで、NG表示とは、プライマリシーブ23がベルト25に対して空回りし続けていることをライダーに報知するための表示を指す。なお、本実施形態では、図2に示すように、表示パネル7に異常報知灯7aが設けられており、制御部55は、異常報知信号109を異常報知灯7aに送信し、当該異常報知灯7aを点灯させる。これによりNG表示を行う。そして、起動時制御は終了する。
【0049】
ステップS5における判断がNOである、言い換えると、ステップS2における判断がNOとなった累積回数が所定の回数に至っていないと判断されると、ステップS1に戻り、各ステップを繰り返す。なお、ステップS2における判断がNOとなった累積回数は、図示しないカウンタによってカウントされる。また、ステップS5からステップS1に戻る際、カウンタにカウントされた累積回数は1つ増やされる。なお、カウンタは、起動時制御が終了するとリセットされる。
【0050】
《シーブ位置制御》
起動時制御によってベルト25の回転が確認されると、ECU5は、変速装置20の変速比を変更するシーブ位置制御を行う。ECU5は、予め定められてメモリ57に記憶された変速比マップに基づいて、モータ22を駆動することによりシーブ位置を制御する。
【0051】
具体的には、ECU5内のメモリ57には、自動二輪車1の車速、エンジン回転速度、およびスロットル開度等の自動二輪車1の走行状態と、変速比との関係を規定した変速比マップが記憶されている。図3に示す制御部55は、この変速比マップと、車速信号107およびエンジン回転速度信号103等とに基づいて目標変速比を算出する。制御部55は、算出した目標変速比と、シーブ位置信号104と、セカンダリシーブ回転速度信号106とに基づいたPWM信号108を駆動回路56に出力する。駆動回路56は、PWM信号108に応じたパルス電圧をモータ22に印加する。これによりモータ22が駆動され、プライマリシーブ23のベルト溝の幅が調整される。その結果、変速装置20の変速比が目標の変速比にまで変更される。
【0052】
なお、本実施形態では、変速機構21の変速比を変更するアクチュエータとして、PWM制御されるモータ22を用いる例について説明する。ただし、本発明において、変速装置20の変速比を変更するアクチュエータの種類は特に限定されない。例えば、変速装置20の変速比を変更するアクチュエータは、PAM(pulse amplitude modulation)制御されるモータであってもよい。また、変速装置20の変速比を変更するアクチュエータは、ステップモータであってもよい。また、変速装置20の変速比を変更するアクチュエータは、油圧アクチュエータ等であってもよい。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る変速装置20の制御装置(ECU5)によれば、ベルト25の回転が検出された後にシーブ位置制御(通常制御)が行われる。そのため、ベルト25に対してプライマリシーブ23が空回りしている間は、シーブ位置制御が行われない。これにより、プライマリシーブ23が空回りした状態でシーブ位置制御が開始されることによる発進時の衝撃を防止することができる。そのため、本変速装置20の制御装置(ECU5)によれば、的確な変速比制御を実現することができ、ECVTの制御不良を未然に防止することができる。
【0054】
また、本実施形態では、変速装置20の制御装置(ECU5)には、セカンダリシーブ回転速度センサ28によりセカンダリシーブ回転速度信号106が入力され、制御装置(ECU5)は、セカンダリシーブ24の回転速度からベルト25の回転を検出することとしている。そのため、本実施形態によれば、本発明に係るベルト回転検出センサを、比較的安価なセカンダリシーブ回転速度センサ28により構成することができる。
【0055】
ところで、従来のECVTの制御装置のように、エンジン回転数に応じてシーブ位置制御が開始されることとすると、ベルト25に対するプライマリシーブ23の空回りを検出することができず、プライマリシーブ23が空回りした状態にも拘わらずシーブ位置制御を開始するおそれがある。それを解消するため、エンジン回転数に加えて車速を検出することによりプライマリシーブ23の空回りを検出することも可能である。具体的には、エンジン回転数が所定回転数を超えているにも拘わらず車速が零である場合に、プライマリシーブ23が空回りしていると判断することができる。そして、このようにしてプライマリシーブ23の空回りを検出し、シーブ位置制御が開始されない様にすることができる。
【0056】
しかしながら、本実施形態に係る変速装置20では、遠心クラッチ30が出力軸13と駆動輪である後輪3との間に配置されている。このような変速装置20においてエンジン回転数に加え、車速を検出することとした場合、ベルト25が回転していても、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の回転速度よりも小さい場合、遠心クラッチ30は非接続状態となる。これにより、駆動輪(後輪3)にはエンジン10からの動力が伝達されない。そのため、ベルト25が回転しているにも拘わらず、車速が零となるため、シーブ位置制御が開始されない事態が起こり得る。その結果、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の回転速度以上とならなければシーブ位置制御が開始されず、シーブ位置制御が開始されるまでに時間がかかるという問題が生じる。
【0057】
しかし、本変速装置20の制御装置(ECU5)では、ベルト25の回転を検出し、ベルト25が回転するとシーブ位置制御が開始される。そのため、プライマリシーブ23が空回りしているにも拘わらず、シーブ位置制御が開始されることを防止すると共に、ベルト25が回転しているにも拘わらずシーブ位置制御が開始されないことを防止することができる。これにより、本変速装置20によれば、的確な変速比制御を実現することができ、ECVTの制御不良を未然に防止することができる。
【0058】
ところで、急制動した直後に電源をOFFしてしまうと、プライマリシーブ23の可動シーブ23aがLowの位置まで戻りきらずに止まってしまうことがある。このような場合、再び電源をONすると、プライマリシーブ23の可動シーブ23aが一旦Lowの位置まで戻るため、ベルト溝23cの幅が拡張されることとなる。すると、ベルト25は回転していないにも拘わらず、プライマリシーブ23のベルト溝23cのみが拡張されるため、ベルト25が撓んでプライマリシーブ23が空回りしてしまうことがある。
【0059】
本実施形態では、ベルト25は、ゴム製のゴムベルトにより構成されている。また、ゴムベルトは、張力がかからなくなると、金属製のベルトに比して撓みやすい性質を有している。そのため、上記のように、急制動した直後に電源をOFFしてしまい、プライマリシーブ23の可動シーブ23aがLowの位置まで戻りきらずに止まってしまったような場合に、ゴム製のゴムベルトを用いた変速装置20では、金属製のベルトを用いた変速装置よりもプライマリシーブ23の空回りが起こる可能性が高くなる。しかしながら、本変速装置20の制御装置(ECU5)によれば、ベルト25の回転が検出された後にシーブ位置制御(通常制御)が行われる。そのため、ベルト25に対してプライマリシーブ23が空回りしている間は、シーブ位置制御(通常制御)が行われない。したがって、本実施形態のように、ゴムベルトを用いた変速装置20を、本発明に係る制御装置を用いて制御することは、特に有効であり、上記の効果をより一層奏することができる。
【0060】
また、本変速装置20の制御装置(ECU5)の制御部55は、ベルト25が回転していない際には、ベルト25が回転しているか否かの判断を所定回数に至るまで繰り返し行う。そして、制御部55は、ベルト25が回転していないとの判断が所定回数に至ったときに、プライマリシーブ23が空回りし続けていると判断し、異常報知灯7aを点灯させる。そのため、本変速装置20の制御装置(ECU5)によれば、プライマリシーブ23が空回りし続けていることを操作者(ライダー)に報知することができる。
【0061】
さらに、本変速装置20の制御装置(ECU5)の制御部55は、ベルト25が回転していることを検出すると、一旦、変速比がLow側にシフトするようにモータ22を制御した後、シーブ位置制御(通常制御)を開始する(図6のステップS3、ステップS4)。このことにより、本変速装置20の制御装置(ECU5)によれば、プライマリシーブ23がLowの位置まで戻りきらずに止まってしまった場合であっても、変速比が必ずLow側にシフトされるため、Low側から変速比を上げていくことが可能となる。したがって、本変速装置20の制御装置(ECU5)によれば、プライマリシーブ23の可動シーブ23aがLowの位置まで戻りきらないまま電源OFFしてしまった場合であっても、電源ON時にスムーズな発進が可能となる。
【0062】
<変形例1>
なお、上記実施形態では、制御部55は、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の許容回転速度未満であると判断された累積回数が所定回数に達すると、プライマリシーブ23が空転し続けていると判断し、NG表示を行うこととしていた。本変形例1の制御部55は、図7に示すように、ステップS5において、起動時制御が開始されてから現在までの累積時間が所定時間以上となると、プライマリシーブ23が空転し続けていると判断し、NG表示を行うものである。以下、変形例1に係る起動時制御について詳述する。なお、ステップS1からステップS4までは上記実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
変形例1では、起動時制御のステップS5において、起動時制御が開始されてから現在までの累積時間が所定時間以上であるか否かが判断される。そして、ステップS5における判断がYESである、言い換えると、起動時制御が開始されてから現在までの累積時間が所定時間以上であると判断されると、ステップS6に進む。ステップS6では、上記実施形態と同様のNG表示がなされる。そして、起動時制御は終了する。
【0064】
一方、ステップS5における判断がNOである、言い換えると、起動時制御が開始されてから現在までの累積時間が所定時間未満であると判断されると、ステップS1に戻り、各ステップを繰り返す。なお、起動時制御が開始されてからの時間は、図示しないカウンタによってカウントされる。また、カウンタは、起動時制御が終了するとリセットされる。
【0065】
このように、変形例1に係る制御装置(ECU5)の制御部55は、ベルト25が回転していない際には、ベルト25が回転しているか否かの判断を、起動時制御が開始されてから現在までの累積時間が所定時間に至るまで繰り返し行う。そして、制御部55は、ステップS2における判断がNOである(ベルト25が回転していないと判断された)状態が所定時間以上続いたときに、プライマリシーブ23が空回りし続けていると判断し、異常報知灯7aを点灯させる。これにより、本変形例1の制御装置(ECU5)によっても、上記実施形態と同様に、プライマリシーブ23が空回りし続けていることを操作者(ライダー)に報知することができる。
【0066】
<変形例2>
上記実施形態では、ECU5は、起動時制御において、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の許容回転速度以上か否かを判断することにより、ベルト25の回転の有無を検出することとしていた。本変形例2では、ECU5は、起動時制御において、セカンダリシーブ24の回転速度だけでなく、プライマリシーブ23の回転速度にも基づいてベルト25の回転を検出するものである。以下、図8を参照しながら、変形例2に係る起動時制御について詳述する。なお、ステップS3からステップS6までは上記実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0067】
変形例2では、起動時制御のステップS1において、セカンダリシーブ回転速度センサ28によって検出されたセカンダリシーブ24の回転速度が、セカンダリシーブ回転速度信号(図3のSe回転速度信号)106としてECU5に読み込まれる。また、これと共に、プライマリシーブ回転速度センサ27によって検出されたプライマリシーブ23の回転速度も、プライマリシーブ回転速度信号(図3のPr回転速度信号)105としてECU5に読み込まれる。
【0068】
プライマリシーブ回転速度信号105およびセカンダリシーブ回転速度信号106が読み込まれると、ECU5の制御部55は、プライマリシーブ23の回転速度が所定の第1回転速度以上であり、かつ、セカンダリシーブ24の回転速度が所定の第2回転速度以上であるか否かを判断する(ステップS2)。そして、制御部55によって、ステップS2における判断がYESであると判断されると、ステップS3に進む。一方、制御部55によって、ステップS2における判断がNOであると判断されると、ステップS5に進む。
【0069】
しかし、本変形例2に係る制御装置(ECU5)によれば、セカンダリシーブ24の回転速度だけでなく、プライマリシーブ23の回転速度にも基づいてベルト25の回転の有無を判断することとしている。そのため、変形例2に係る制御装置(ECU5)によれば、ベルト25の回転をより確実に検出することができる。したがって、変形例2の制御装置(ECU5)によれば、より的確な起動時制御を実現することができ、ECVTの制御不良を未然に防止することができる。
【0070】
なお、プライマリシーブ23の回転速度とセカンダリシーブ24の回転速度とに基づいてベルト25の回転を検出する方法は、プライマリシーブ23およびセカンダリシーブ24のそれぞれの回転速度自体を用いる方法に限定される訳ではない。プライマリシーブ23の回転速度とセカンダリシーブ24の回転速度とを含む各種の変数に基づいて、ベルト25の回転を検出するようにしてもよい。例えば、プライマリシーブ23の回転速度とセカンダリシーブ24の回転速度とから実際の変速比を算出し、この実際の変速比と予め定められた変速比とを比較することで、ベルトの回転を検出するようにしてもよい。
【0071】
<変形例3>
変形例3に係る制御装置(ECU5)は、ベルト回転検出センサとして、セカンダリシーブ回転速度センサ28の代わりに、ベルト25の凹凸を検出するギャップセンサ61を用いたものである。
【0072】
図9に示すように、ギャップセンサ61は、ギャップセンサ61からベルト25までの距離を測定し、その距離の違いにより、ギャップセンサ61と対向するベルト25の部分がベルト25の凹部25aであるか凸部25bであるかを検出する。そして、例えば、凹部25aがギャップセンサ61の前を通過するとECU5に検出信号が送信される様に、ギャップセンサ61を配置する。これにより、ECU5は、ギャップセンサ61からの検出信号が所定時間内に何回送信されたかを測定することにより、ベルト25の回転速度を算出することができる。
【0073】
このように、ベルト回転検出センサとして、ギャップセンサ61を用いた場合、より直接的にベルト25の回転の有無を検出することができる。そのため、変形例3に係る制御装置(ECU5)によれば、より的確な起動時制御を実現することができ、ECVTの制御不良を未然に防止することができる。
【0074】
<変形例4>
変形例4に係る制御装置(ECU5)は、ベルト回転検出センサとして、セカンダリシーブ回転速度センサ28の代わりに、ベルト25の縞模様を検出するセンサ62を用いたものである。
【0075】
図10(a)に示すように、本変形例4に係るベルト25には、予め光または磁気によって検出される模様25cを縞状に付しておく。そして、センサ62として光または磁気によって検出される模様25cを検知可能な光学センサまたは磁気センサを用いる。また、センサ62の前を縞状の模様25cが通過すると、センサ62からECU5に検出信号が送信される様にセンサ62を配置する。これにより、ECU5は、センサ62からの検出信号が所定時間内に何回送信されたかを測定することにより、ベルト25の回転速度を算出することができる。
【0076】
このように、ベルト回転検出センサとして、光学センサまたは磁気センサ62を用いた場合、より直接的にベルト25の回転の有無を検出することができる。そのため、変形例4に係る制御装置(ECU5)によれば、より的確な起動時制御を実現することができ、ECVTの制御不良を未然に防止することができる。
【0077】
−実施形態2−
図11は、実施形態2に係る自動二輪車の無段変速装置260および制御システムを表すブロック図である。実施形態2においても、変速装置260はベルト式のECVTである。ただし、実施形態2に係る変速装置260のベルトは、いわゆる金属ベルト264である。
【0078】
実施形態1では、ECVTのアクチュエータは、モータ22であった(図3参照)。しかし、ECVTのアクチュエータはモータ22に限定されるわけではない。以下に説明する実施形態2では、ECVTのアクチュエータは油圧アクチュエータである。
【0079】
また、図3に示すように、実施形態1に係るクラッチは、変速装置20の出力軸13と後輪3との間に配置された遠心クラッチ30であった。これに対し、実施形態2に係るクラッチは、エンジン10と変速装置260の入力軸271との間に配置された多板式摩擦クラッチ265である。
【0080】
詳しくは、図11に示すように、実施形態2に係る自動二輪車は、電子制御される多板式摩擦クラッチ265と、ECVTからなる変速装置260とを備えている。変速装置260は、プライマリシーブ262と、セカンダリシーブ263と、プライマリシーブ262とセカンダリシーブ263とに巻き掛けられた金属ベルト264とを備えている。プライマリシーブ262は、固定シーブ体262Aと可動シーブ体262Bとから構成されている。セカンダリシーブ263は、固定シーブ体263Aと可動シーブ体263Bとから構成されている。
【0081】
プライマリシーブ262には、プライマリシーブ回転数センサ27が設けられている。セカンダリシーブ263には、セカンダリシーブ回転数センサ28が設けられている。
【0082】
自動二輪車は、油圧アクチュエータとして、油圧シリンダ267Aと、油圧シリンダ267Bと、油圧シリンダ267A,267Bに接続された油圧制御弁267Cとを備えている。油圧シリンダ267Aは、プライマリシーブ262の可動シーブ体262Bを駆動することにより、プライマリシーブ262の溝幅を調整する。油圧シリンダ267Bは、セカンダリシーブ263の可動シーブ体263Bを駆動することにより、セカンダリシーブ263の溝幅を調整する。油圧制御弁267Cは、油圧シリンダ267A,267Bに付与する油圧を調整する弁である。油圧制御弁267Cは、両油圧シリンダ267A,267Bのうち、いずれか一方の油圧を高くするときには、他方の油圧が低くなるように制御を行う。この油圧制御弁267Cは、ECU5によって制御される。
【0083】
多板式摩擦クラッチ265は、エンジン10と変速装置260の入力軸271との間に設けられており、例えばエンジン10の回転速度に応じて断続制御される。例えば、多板式摩擦クラッチ265は、エンジン10の回転速度が所定値以上になると接続され、逆に、エンジン10の回転速度が所定値未満になると切断されるように制御される。
【0084】
ECU5の内部構成は、実施形態1とほぼ同様である。実施形態2においても、実施形態1と同様の制御が行われる。実施形態2においても、実施形態1の各変形例と同様の変形例を適用することができる。
【0085】
実施形態2においても、ECU5は、起動後、ベルト264の回転が検出された後にシーブ位置制御(通常制御)を行う。そのため、実施形態2においても、ベルト264に対してプライマリシーブ262が空回りしている間は、シーブ位置制御は行われない。これにより、プライマリシーブ23が空回りした状態でシーブ位置制御が開始されることによる発進時の衝撃を防止することができる。そのため、本実施形態においても、的確な変速比制御を実現することができ、ECVTの制御不良を未然に防止することができる。
【0086】
実施形態2においては、エンジン10と変速装置260の入力軸271との間に、エンジン10の回転速度に応じて断続制御される多板式摩擦クラッチ265が設けられている。このような構成によれば、ベルト264の回転が検出される前、つまり、クラッチ265が接続される前に変速制御が開始されると、発進がスムーズでなくなってしまうおそれがある。しかし、本実施形態によれば、ベルト264の回転が検出された後にシーブ位置制御(通常制御)を行うので、上述の構成を有しているにも拘わらず、常にスムーズな発進を行うことができる。
【0087】
なお、本実施形態では、プライマリシーブ262側の油圧シリンダ267Aおよびセカンダリシーブ263側の油圧シリンダ267Bには、常に油圧が加えられている。本実施形態では、「起動後のアクチュエータの制御の開始」とは、プライマリシーブ262の可動シーブ体262Bおよびセカンダリシーブ263の可動シーブ体263Bを駆動するように、油圧シリンダ267Aおよび油圧シリンダ267Bの少なくとも一方の油圧を、起動後に初めて変化させることをいう。したがって、単に油圧シリンダ267Aおよび油圧シリンダ267Bに一定の油圧を加えている状態は、ここでいうアクチュエータの制御の開始には含まれない。
【0088】
なお、上記各実施形態では、スクータータイプの自動二輪車1を例に挙げて本発明の実施形態の一例について説明した。ただし、本発明の車両は、上記自動二輪車1に限定されるものではない。本発明に係る車両は、自動二輪車1以外の他の鞍乗型車両であってもよく、また、所謂サイドバイサイドであってもよい。
【0089】
<用語等の定義>
「駆動源」とは、動力を発生させるものである。「駆動源」は、例えば、内燃機関や電動モータ等であってもよい。
【0090】
「電子制御式変速装置」は、電力を使用して変速比が変速される変速装置一般をいう。「電子制御式変速装置」には、電動モータにより変速比が変更される変速装置、電子制御式の油圧アクチュエータにより変速比が変更される変速装置が含まれる。すなわち、電子制御式である限りにおいて、変速比を変更するアクチュエータの種類は特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は電子制御式の無段変速装置の制御装置、無段変速装置、およびそれを備えた車両に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明を実施した自動二輪車の側面図である。
【図2】ハンドル部分の概略構成図である。
【図3】制御装置のブロック図である。
【図4】変速比がTopであるときの変速装置を示す図である。
【図5】変速比がLowであるときの変速装置を示す図である。
【図6】起動時制御の流れを示すフローチャートである。
【図7】変形例1に係る起動時制御の流れを示すフローチャートである。
【図8】変形例2に係る起動時制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】変形例3に係るベルト回転検出センサを示す図である。
【図10】変形例4に係るベルト回転検出センサを示す図である。
【図11】実施形態2に係る無段変速装置および制御装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0093】
1 自動二輪車
2 パワーユニット
3 後輪
5 ECU(制御装置)
6 動力伝達機構
7a 異常報知灯
10 エンジン
12 入力軸
13 出力軸
20 変速装置(無段変速装置)
21 変速機構
22 モータ
23 プライマリシーブ
23a 可動シーブ(プライマリ可動シーブ体)
23b 固定シーブ(プライマリ固定シーブ体)
23c ベルト溝
24 セカンダリシーブ
24a 可動シーブ(セカンダリ可動シーブ体)
24b 固定シーブ(セカンダリ固定シーブ体)
24c ベルト溝
24d スプリング
25 ベルト
27 プライマリシーブ回転速度センサ(ベルト回転検出センサ)
28 セカンダリシーブ回転速度センサ(ベルト回転検出センサ)
30 遠心クラッチ
31 減速機構
55 制御部
56 駆動回路
57 メモリ(記憶部)
61 ギャップセンサ(ベルト回転検出センサ)
62 センサ(ベルト回転検出センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源と駆動輪との間に配置され、連続的に変速比を変更することができる電子制御式の無段変速装置の制御装置であって、
前記無段変速装置は、
入力軸と、
出力軸と、
前記入力軸と共に回転するプライマリ固定シーブ体と、前記プライマリ固定シーブ体に対して、前記入力軸の軸方向に変位可能に対向し、前記プライマリ固定シーブ体と共に、半径方向外側に向かって拡幅するプライマリ側ベルト溝を構成し、前記入力軸と共に回転するプライマリ可動シーブ体と、を有するプライマリシーブと、
前記出力軸と共に回転するセカンダリ固定シーブ体と、前記セカンダリ固定シーブ体に対して、前記出力軸の軸方向に変位可能に対向し、前記セカンダリ固定シーブ体と共に、半径方向外側に向かって拡幅するセカンダリ側ベルト溝を構成し、前記出力軸と共に回転するセカンダリ可動シーブ体と、を有するセカンダリシーブと、
前記プライマリ側ベルト溝と前記セカンダリ側ベルト溝とに巻き掛けられたベルトと、
前記プライマリ側ベルト溝の幅と前記セカンダリ側ベルト溝の幅との少なくとも一方を変化させることで、前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとの間の変速比を変化させるアクチュエータと、
を有し、
前記ベルトの回転を直接又は間接的に検出するベルト回転検出センサと、
前記アクチュエータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、起動後、前記ベルトの回転が検出された後に前記アクチュエータの制御を開始する無段変速装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置において、
前記ベルト回転検出センサは、前記セカンダリシーブの回転速度を検出することで前記ベルトの回転を検出する無段変速装置の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置において、
前記無段変速装置は、前記出力軸と前記駆動輪との間に配置された遠心クラッチをさらに有する無段変速装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置において、
前記無段変速装置は、前記駆動源と前記入力軸との間に配置されたクラッチをさらに有する無段変速装置の制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置において、
前記ベルトは、ゴム製のゴムベルトである無段変速装置の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置において、
前記制御部は、異常を報知する異常報知灯をさらに備え、
前記制御部は、前記ベルト回転検出センサの検出結果に基づいて、前記ベルトが回転しているか否かを判断し、前記ベルトが回転していると判断した際には、前記変速比の通常の制御を行う一方、前記ベルトが回転していないと判断した際には、前記ベルトが回転しているか否かの判断を所定期間の間、又は所定回数に至るまで繰り返し行い、前記ベルトが回転していないと判断された状態が前記所定期間以上続いたとき、又は前記所定回数だけ前記ベルトが回転していないと判断したときに、前記異常報知灯を点灯させる無段変速装置の制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置において、
予め定められた変速比を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記アクチュエータを制御することで、前記無段変速装置の変速比を前記予め定められた変速比に向けて制御する変速比の通常制御を実行可能であり、
前記制御部は、起動後、前記ベルト回転検出センサが前記ベルトの回転を検出した後に、一旦、前記変速比がLOW側にシフトするように前記アクチュエータを制御した後、前記変速比の通常制御を開始する無段変速装置の制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置において、
前記ベルト回転検出センサは、
前記プライマリシーブの回転速度を検出するプライマリ側回転速度センサと、
前記セカンダリシーブの回転速度を検出するセカンダリ側回転速度センサと、
を有し、
前記制御部は、前記プライマリシーブの回転速度と前記セカンダリシーブの回転速度とに基づいて前記ベルトの回転を検出する無段変速装置の制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載された無段変速装置の制御装置において、
前記制御部は、前記プライマリ側回転速度センサにより検出された前記プライマリシーブの回転速度と、前記セカンダリ側回転速度センサにより検出された前記セカンダリシーブの回転速度とから実際の変速比を算出し、前記実際の変速比と、前記予め定められた変速比とを比較することで、前記ベルトの回転を検出する無段変速装置の制御装置。
【請求項10】
車両の駆動源と駆動輪との間に配置され、連続的に変速比を変更することができる電子制御式の無段変速装置であって、
入力軸と、
出力軸と、
前記入力軸と共に回転するプライマリ固定シーブ体と、前記プライマリ固定シーブ体に対して、前記入力軸の軸方向に変位可能に対向し、前記プライマリ固定シーブ体と共に、半径方向外側に向かって拡幅するプライマリ側ベルト溝を構成し、前記入力軸と共に回転するプライマリ可動シーブ体と、を有するプライマリシーブと、
前記出力軸と共に回転するセカンダリ固定シーブ体と、前記セカンダリ固定シーブ体に対して、前記出力軸の軸方向に変位可能に対向し、前記セカンダリ固定シーブ体と共に、半径方向外側に向かって拡幅するセカンダリ側ベルト溝を構成し、前記出力軸と共に回転するセカンダリ可動シーブ体と、を有するセカンダリシーブと、
前記プライマリ側ベルト溝と前記セカンダリ側ベルト溝とに巻き掛けられたベルトと、
前記プライマリ側ベルト溝の幅と前記セカンダリ側ベルト溝の幅との少なくとも一方を変化させることで、前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとの間の変速比を変化させるアクチュエータと、
前記ベルトの回転を直接又は間接的に検出するベルト回転検出センサと、
前記アクチュエータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、起動後、前記ベルトの回転が検出された後に前記アクチュエータの制御を開始する無段変速装置。
【請求項11】
請求項1に記載された無段変速装置の制御装置を備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−79754(P2009−79754A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305326(P2007−305326)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】