説明

熱伝導性シート、絶縁シートおよび放熱部材

【課題】簡易な操作によって得ることができ、厚み方向および面方向の熱伝導性に優れる熱伝導性シート、そのような熱伝導性シートを用いて得られる絶縁シートおよび放熱部材を提供する。
【解決手段】樹脂3と、フィラーとを含有する熱伝導性シート1において、フィラーとして、板状または鱗片状の第1フィラー2aと、塊状または球状の第2フィラー2bとを含有させ、熱伝導性シート1の面方向SDに対して、第1フィラー2aの平均配向角を28度以上として、最大配向角を60度以上とする。また、そのような熱伝導性シート1を用いて、絶縁シートおよび放熱部材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シート、絶縁シートおよび放熱部材、詳しくは、パワーエレクトロニクス技術などに用いられる熱伝導性シート、その熱伝導性シートを用いて得られる絶縁シートおよび放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドデバイス、高輝度LEDデバイス、電磁誘導加熱デバイスなどでは、半導体素子により電力を変換・制御するパワーエレクトロニクス技術が採用されている。パワーエレクトロニクス技術では、大電流を熱などに変換するため、半導体素子の近傍に配置される材料には、高い放熱性(高熱伝導性)および絶縁性が要求されている。
【0003】
例えば、熱伝導性および絶縁性を備える無機充填剤、例えば、鱗片状の窒化ホウ素などを、樹脂中に分散させて得られる熱伝導性シートが知られている。
【0004】
鱗片状の窒化ホウ素は、長手方向の熱伝導率が高く、また、短手方向の熱伝導率が低いため、例えば、窒化ホウ素の長手方向を、熱伝導性シートの厚み方向に沿わせれば、厚み方向の熱伝導性の向上を図ることができ、また、窒化ホウ素の長手方向を、熱伝導性シートの面方向に沿わせれば、面方向の熱伝導性の向上を図ることができる。
【0005】
しかるに、プレス成形やロール成形により熱伝導性シートを製造すると、窒化ホウ素が熱伝導性シートの面方向に沿いやすく、そのため、得られる熱伝導性シートは、面方向の熱伝導性に優れるが、厚み方向の熱伝導性に劣るという不具合がある。
【0006】
一方、熱伝導性シートとしては、その用途によって、面方向だけでなく、厚み方向の熱伝導性が要求される場合がある。
【0007】
そこで、例えば、窒化ホウ素の1次粒子を凝集させて得られる、気孔率50%以下、平均気孔径0.05〜3μmの2次凝集粒子を、熱硬化性樹脂中に分散させることにより得られる熱伝導性シートが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
この熱伝導シートでは、窒化ホウ素は、2次凝集粒子として含有される、つまり、熱伝導性シートの厚み方向または面方向に配向されることなく含有されるので、厚み方向および面方向の熱伝導性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−157563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、特許文献1に記載の熱伝導性シートを得るには、窒化ホウ素の2次凝集粒子を製造する必要があり、そのため、例えば、窒化ホウ素を高温で仮焼成および粉砕した後、スラリー化し、その後、焼成するなど、煩雑な処理を要するという不具合がある。
【0011】
本発明の目的は、簡易な操作によって得ることができ、厚み方向および面方向の熱伝導性に優れる熱伝導性シート、そのような熱伝導性シートを用いて得られる絶縁シートおよび放熱部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の熱伝導性シートは、樹脂と、フィラーとを含有する熱伝導性シートであって、前記フィラーが、板状または鱗片状の第1フィラーと、塊状または球状の第2フィラーとを含有し、前記熱伝導性シートの面方向に対して、前記第1フィラーの平均配向角が28度以上であり、最大配向角が60度以上であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の熱伝導性シートでは、前記熱伝導性シートの面方向に対する配向角が30度以上である前記第1フィラーの割合が、個数頻度換算において、前記第1フィラーの総量に対して、20%以上であることが好適である。
【0014】
また、本発明の熱伝導性シートでは、前記第1フィラーの平均粒子径が、30〜100μmであり、前記第2フィラーの平均粒子径が、20〜80μmであり、前記第1フィラーおよび前記第2フィラーの総量100質量部に対して、前記第1フィラーの含有量が30〜95質量部、前記第2フィラーの含有量が5〜70質量部であることが好適である。
【0015】
また、本発明の熱伝導性シートでは、前記フィラーの含有量が、前記熱伝導性シートの総量100質量部に対して、50〜95質量部であることが好適である。
【0016】
また、本発明の絶縁シートは、上記の熱伝導性シートを用いて得られることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の放熱部材は、上記の熱伝導性シートを用いて得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱伝導性シート、絶縁シートおよび放熱部材では、フィラーが、板状または鱗片状の第1フィラーと、塊状または球状の第2フィラーとを含有し、熱伝導性シートの面方向に対して、第1フィラーが、平均配向角が28度以上、最大配向角が60度以上となるように含有されているため、熱伝導性シートの厚み方向および面方向の熱伝導性を確保することができる。
【0019】
そのため、厚み方向および面方向の熱伝導性に優れる熱伝導性シート、絶縁シートおよび放熱部材として、種々の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の熱伝導性シートの一実施形態の斜視図を示す。
【図2】実施例1の熱伝導性シートのX線CT像を示す。
【図3】実施例1の熱伝導性シートのX線CT像を解析して得られた配向角の頻度分布図を示す。
【図4】実施例4の熱伝導性シートのX線CT像を示す。
【図5】実施例4の熱伝導性シートのX線CT像を解析して得られた配向角の頻度分布図を示す。
【図6】比較例1の熱伝導性シートのX線CT像を示す。
【図7】比較例1の熱伝導性シートのX線CT像を解析して得られた配向角の頻度分布図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の熱伝導性シートは、樹脂と、フィラーとを含有している。
【0022】
樹脂は、フィラーを分散できるもの、つまり、フィラーが分散される分散媒体(マトリックス)であって、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体など)、アクリル樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチルなど)、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルスルホン、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー、ポリアリレート、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。
【0025】
熱硬化性樹脂のうち、好ましくは、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0026】
エポキシ樹脂は、常温において、液状、半固形状および固形状のいずれかの形態である。
【0027】
具体的には、エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性ビスフェノール型エポキシ樹脂など)、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂など)、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂(例えば、ビスアリールフルオレン型エポキシ樹脂など)、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(例えば、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂など)などの芳香族系エポキシ樹脂、例えば、トリエポキシプロピルイソシアヌレート(トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒダントインエポキシ樹脂などの含窒素環エポキシ樹脂、例えば、脂肪族型エポキシ樹脂、例えば、脂環式エポキシ樹脂(例えば、ジシクロ環型エポキシ樹脂など)、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、例えば、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0028】
これらエポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0029】
エポキシ樹脂として、例えば、常温において液状のエポキシ樹脂と、常温において固形状のエポキシ樹脂との併用が挙げられる。
【0030】
また、エポキシ樹脂は、エポキシ当量が、例えば、100〜1000g/eqiv.、好ましくは、150〜700g/eqiv.であり、軟化温度(環球法)が、例えば、80℃以下(具体的には、20〜80℃)、好ましくは、70℃以下(具体的には、35〜70℃)である。
【0031】
また、エポキシ樹脂の80℃における溶融粘度は、例えば、10〜20000mPa・s、好ましくは、50〜10000mPa・sでもある。
【0032】
また、エポキシ樹脂には、例えば、硬化剤および硬化促進剤を含有させて、エポキシ樹脂組成物として調製することができる。
【0033】
硬化剤は、加熱によりエポキシ樹脂を硬化させることができる潜在性硬化剤(エポキシ樹脂硬化剤)であって、例えば、イミダゾール化合物、アミン化合物、酸無水物化合物、アミド化合物、ヒドラジド化合物、イミダゾリン化合物などが挙げられる。また、上記の他に、フェノール化合物、ユリア化合物、ポリスルフィド化合物なども挙げられる。
【0034】
イミダゾール化合物としては、例えば、2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0035】
アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン、例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
【0036】
酸無水物化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチル−ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ピロメリット酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ジクロロコハク酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、クロレンディック酸無水物などが挙げられる。
【0037】
アミド化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、ポリアミドなどが挙げられる。
【0038】
ヒドラジド化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
【0039】
イミダゾリン化合物としては、例えば、メチルイミダゾリン、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、エチルイミダゾリン、イソプロピルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、フェニルイミダゾリン、ウンデシルイミダゾリン、ヘプタデシルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0040】
これら硬化剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0041】
硬化剤として、好ましくは、イミダゾール化合物が挙げられる。
【0042】
硬化促進剤としては、例えば、トリエチレンジアミン、トリ−2,4,6−ジメチルアミノメチルフェノールなどの3級アミン化合物、例えば、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオエートなどのリン化合物、例えば、4級アンモニウム塩化合物、例えば、有機金属塩化合物、例えば、それらの誘導体などが挙げられる。これら硬化促進剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0043】
エポキシ樹脂組成物における硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば、0.5〜50質量部、好ましくは、1〜10質量部であり、硬化促進剤の配合割合は、例えば、0.1〜10質量部、好ましくは、0.2〜5質量部である。
【0044】
上記した硬化剤および/または硬化促進剤は、必要により、溶媒により溶解および/または分散された溶媒溶液および/または溶媒分散液として調製して用いることができる。
【0045】
溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどケトン類、例えば、酢酸エチルなどのエステル類、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド類などの有機溶媒などが挙げられる。また、溶媒として、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類などの水系溶媒も挙げられる。溶媒として、好ましくは、有機溶媒、さらに好ましくは、ケトン類、アミド類が挙げられる。
【0046】
熱可塑性樹脂のうち、好ましくは、ポリオレフィンが挙げられる。
【0047】
ポリオレフィンとして、好ましくは、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体が挙げられる。
【0048】
ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどが挙げられる。
【0049】
エチレン−プロピレン共重合体としては、例えば、エチレンおよびプロピレンの、ランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体などが挙げられる。
【0050】
これらポリオレフィンは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0051】
また、ポリオレフィンの重量平均分子量および/または数平均分子量は、例えば、1000〜10000である。
【0052】
また、ポリオレフィンは、単独使用または複数併用することができる。
【0053】
なお、樹脂には、上記した各成分(重合物)の他に、例えば、ポリマー前駆体(例えば、オリゴマーを含む低分子量ポリマーなど)、および/または、モノマーが含まれる。
【0054】
これら樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0055】
樹脂として、好ましくは、熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0056】
樹脂のJIS K 7233(泡粘度計法)(1986)に準拠する動粘度試験(温度:25℃±0.5℃、溶媒:ブチルカルビトール、樹脂(固形分)濃度:40質量%)によって測定される動粘度は、例えば、0.22×10−4〜2.00×10−4/s、好ましくは、0.3×10−4〜1.9×10−4/s、さらに好ましくは、0.4×10−4〜1.8×10−4/sである。また、上記の動粘度を、例えば、0.22×10−4〜1.00×10−4/s、好ましくは、0.3×10−4〜0.9×10−4/s、さらに好ましくは、0.4×10−4〜0.8×10−4/sに設定することもできる。
【0057】
なお、JIS K 7233(泡粘度計法)(1986)に準拠する動粘度試験では、樹脂サンプルにおける泡の上昇速度と、標準サンプル(動粘度が既知)における泡の上昇速度とを比較し、上昇速度が一致する標準サンプルの動粘度が、樹脂の動粘度であると判定することにより、樹脂の動粘度を測定する。
【0058】
フィラー(後述する第1フィラーおよび第2フィラーを含む。)としては、例えば、無機粒子などが挙げられ、そのような無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
【0059】
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
【0060】
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
【0061】
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)(酸化アルミニウムの水和物(ベーマイトなど)を含む。)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化チタン(チタニア)、酸化セリウム(セリア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)などが挙げられる。また、酸化物として、チタン酸バリウムなどの遷移金属酸化物などや、さらには、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズなどが挙げられる。
【0062】
水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0063】
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
【0064】
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノホーン、カーボンマイクロコイル、ナノコイルなどが挙げられる。
【0065】
また、無機粒子は、その流動性などの観点から、必要により、シランカップリング剤などによって、公知の方法により表面処理されていてもよい。
【0066】
フィラーの形状は、その製造方法や結晶構造などにより、板状、鱗片状、球状、塊状などである。本発明において、板状または鱗片状のフィラーを第1フィラーと定義し、また、球状または塊状のフィラーを第2フィラーと定義する。
【0067】
そして、フィラーは、板状または鱗片状の第1フィラーと、塊状または球状の第2フィラーとを含有している。
【0068】
第1フィラーとしては、例えば、板状または鱗片状の上記した無機粒子が挙げられ、具体的には、窒化ホウ素(板状)、酸化アルミニウム1水和物(ベーマイト)(板状)などが挙げられる。
【0069】
これら第1フィラーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0070】
第1フィラーの光散乱法によって測定される平均粒子径(長手方向長さ)は、例えば、1〜300μm、好ましくは、10〜200μm、より好ましくは、30〜100μmである。
【0071】
また、第1フィラーの短手方向長さは、例えば、1〜300μm、好ましくは、10〜200μmである。また、アスペクト比(長手方向長さ/短手方向長さ)は、例えば、1/100〜1/10、好ましくは、1/100〜1/20である。
【0072】
なお、光散乱法によって測定される平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置にて測定される体積平均粒子径である。
【0073】
また、第1フィラーは、市販品またはそれを加工した加工品を用いることができる。
【0074】
市販品としては、例えば、窒化ホウ素粒子の市販品などが挙げられ、窒化ホウ素粒子の市販品として、具体的には、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製の「PT」シリーズ(例えば、「PT−110」など)、昭和電工社製の「ショービーエヌUHP」シリーズ(例えば、「ショービーエヌUHP−1」など)などが挙げられる。
【0075】
第2フィラーとしては、例えば、塊状または球状の上記した無機粒子が挙げられ、具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ)(球状)、水酸化アルミニウム(塊状)、酸化ケイ素(シリカ)(球状)などが挙げられる。
【0076】
これら第2フィラーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0077】
第2フィラーの光散乱法によって測定される平均粒子径は、例えば、10〜100μm、好ましくは、20〜80μm、より好ましくは、20〜70μmである。
【0078】
また、第2フィラーは、市販品またはそれを加工した加工品を用いることができる。
【0079】
市販品としては、例えば、水酸化アルミニウムの市販品、酸化アルミニウムの市販品などが挙げられ、水酸化アルミニウムの市販品として、具体的には、例えば、昭和電工社製の「H」シリーズ(例えば、「H−10」、「H−10ME」など)などが挙げられ、また、酸化アルミニウムの市販品として、具体的には、例えば、昭和電工社製の「AS」シリーズ(例えば、「AS−10」など)などが挙げられる。
【0080】
フィラーの含有割合は、熱伝導性シートの総量100質量部に対して、例えば、30〜90質量部、好ましくは、50〜90質量部、より好ましくは、60〜90質量部である。
【0081】
フィラーの含有割合が上記範囲であれば、優れた熱伝導性を与えることができる。
【0082】
また、フィラーにおいて、第1フィラーおよび第2フィラーの含有割合は、第1フィラーおよび第2フィラーの総量100質量部に対して、第1フィラーが、例えば、10〜95質量部、好ましくは、30〜95質量部、より好ましくは、40〜90質量部であり、第2フィラーが、例えば、5〜90質量部、好ましくは、5〜70質量部、より好ましくは、10〜50質量部である。
【0083】
第1フィラーおよび第2フィラーの含有割合が上記範囲であれば、熱伝導性シートに、厚み方向および面方向の両方向における優れた熱伝導性を与えることができる。
【0084】
図1は、本発明の熱伝導性シートの一実施形態の斜視図を示す。
【0085】
次に、本発明の熱伝導性シートの一実施形態を製造する方法について、図1を参照して説明する。
【0086】
この方法では、まず、上記した各成分(第1フィラー2a、第2フィラー2bおよび樹脂3)を上記した配合割合で配合して、攪拌混合することにより、混合物を調製する。
【0087】
攪拌混合では、各成分を効率よく混合すべく、例えば、溶媒を上記した各成分とともに配合するか、または、例えば、加熱により樹脂(好ましくは、熱可塑性樹脂)を溶融させることができる。
【0088】
溶媒としては、上記と同様の有機溶媒が挙げられる。また、上記した硬化剤および/または硬化促進剤が溶媒溶液および/または溶媒分散液として調製されている場合には、攪拌混合において溶媒を追加することなく、溶媒溶液および/または溶媒分散液の溶媒をそのまま攪拌混合のための混合溶媒として供することができる。あるいは、攪拌混合において溶媒を混合溶媒としてさらに追加することもできる。
【0089】
溶媒を用いて攪拌混合する場合には、攪拌混合の後、溶媒を除去する。
【0090】
溶媒を除去するには、例えば、室温にて、1〜48時間放置するか、例えば、40〜100℃で、0.5〜3時間加熱するか、または、例えば、0.001〜50kPaの減圧雰囲気下で、20〜60℃で、0.5〜3時間加熱する。
【0091】
加熱により樹脂(好ましくは、熱可塑性樹脂)を溶融させる場合には、加熱温度が、例えば、樹脂の軟化温度付近またはそれを超過する温度であって、具体的には、40〜150℃、好ましくは、70〜150℃である。
【0092】
次いで、この方法では、得られた混合物を、熱プレスする。
【0093】
具体的には、混合物を、例えば、必要により、2枚の離型フィルム(図示せず)を介して熱プレスすることにより、プレスシート(熱伝導性シート1)を得る。熱プレスの条件は、温度が、例えば、50〜150℃、好ましくは、60〜150℃であり、圧力が、例えば、1〜100MPa、好ましくは、5〜50MPaであり、時間が、例えば、0.1〜100分間、好ましくは、1〜10分間である。
【0094】
さらに好ましくは、混合物を真空熱プレスする。真空熱プレスにおける真空度は、例えば、1〜100Pa、好ましくは、5〜50Paであり、温度、圧力および時間は、上記した熱プレスのそれらと同様である。
【0095】
また、樹脂3が熱硬化性樹脂である場合に、熱伝導性シート1を熱硬化させることができる。熱伝導性シート1を硬化させるには、上記した熱プレスまたは乾燥機が用いられる。かかる熱硬化の条件は、温度が、例えば、60〜250℃、好ましくは、80〜200℃であり、圧力が、例えば、100MPa以下、好ましくは、50MPa以下である。
【0096】
なお、この方法では、一度の熱プレスによって、第2樹脂の軟化温度まで昇温することができ、さらには、一度の熱プレスによって、熱伝導性シート1を硬化させることもできる。
【0097】
得られた熱伝導性シート1の厚みは、例えば、1mm以下、好ましくは、0.8mm以下、通常、例えば、0.05mm以上、好ましくは、0.1mm以上である。
【0098】
そして、このようにして得られた熱伝導性シート1において、図1およびその部分拡大模式図に示すように、第1フィラー2aは、その長手方向LDが、熱伝導性シート1の厚み方向TDに交差(直交)する面方向SD対して、所定の角度(配向角α)を成すように、含有されている。
【0099】
第1フィラー2aの長手方向LDが熱伝導性シート1の面方向SDに成す配向角αとしては、その算術平均(平均配向角α)が、28度以上、好ましくは、29度以上、より好ましくは、30度以上であり、通常、90度未満である。
【0100】
また、第1フィラー2aの長手方向LDが熱伝導性シート1の面方向SDに成す配向角αの最大値(最大配向角α)は、60度以上、好ましくは、70度以上、より好ましくは、74度以上であり、通常、90度未満である。
【0101】
熱伝導性シート1の面方向SDに対する第1フィラー2aの平均配向角αが上記範囲であり、かつ、最大配向角αが上記範囲であれば、熱伝導性シートに、厚み方向および面方向の両方向において優れた熱伝導性を与えることができる。
【0102】
また、熱伝導性シート1の面方向SDに対する配向角αが、30度以上である第1フィラー2aの割合は、個数頻度換算において、第1フィラー2aの総量に対して、例えば、17%以上、好ましくは、20%以上、より好ましくは、25%以上、通常、100%以下である。
【0103】
配向角αが30度以上である第1フィラー2aの割合が上記範囲であれば、熱伝導性シートに、厚み方向において優れた熱伝導性を与えることができる。
【0104】
なお、第1フィラー2aの熱伝導性シート1に対する配向角αは、熱伝導性シート1を切り出し、X線CTによって0〜180度において連続透過像を撮影し、全透過像を元に再構成して断層像を作成し、得られた画像を解析して3次元再構成像を作成し、得られた像をもとに計測する。
【0105】
そして、これにより得られる熱伝導性シート1の面方向SDの熱伝導率は、30〜50W/m・K、好ましくは、35〜50W/m・K、より好ましくは、36〜50W/m・K、である。
【0106】
なお、熱伝導性シート1の面方向SDの熱伝導率は、パルス加熱法により測定する。パルス加熱法では、キセノンフラッシュアナライザー「LFA−447型」(NETZSCH社製)が用いられる。
【0107】
また、熱伝導性シート1の厚み方向TDの熱伝導率は、4〜15W/m・K、好ましくは、7〜15W/m・K、より好ましくは、10〜15W/m・K、である。
【0108】
なお、熱伝導性シート1の厚み方向TDの熱伝導率は、パルス加熱法、レーザーフラッシュ法またはTWA法により測定する。パルス加熱法では、上記と同様のものが用いられ、レーザーフラッシュ法では、「TC−9000」(アルバック理工社製)が用いられ、TWA法では、「ai−Phase mobile」(アイフェイズ社製)が用いられる。
【0109】
そして、このような熱伝導性シート1では、フィラー2が、板状または鱗片状の第1フィラー2aと、塊状または球状の第2フィラー2bとを含有し、熱伝導性シート1の面方向SDに対して、第1フィラー2aが、平均配向角αが28度以上、最大配向角αが60度以上となるように含有されているため、熱伝導性シート1の厚み方向TDおよび面方向SDの熱伝導性を確保することができる。
【0110】
そのため、熱伝導性シート1は、厚み方向および面方向の熱伝導性に優れ、例えば、ハイブリッドデバイス、高輝度LEDデバイス、電磁誘導加熱デバイスなど、半導体素子により電力を変換・制御するパワーエレクトロニクス技術などにおいて、大電流を熱などに変換するための放熱部材や、絶縁シートとして用いることができ、具体的には、例えば、発光ダイオード装置に用いられる半導体素子、撮像装置に用いられる撮像素子、液晶表示装置のバックライトなど、さらには、その他の種々のパワーモジュールの近傍に配置され、部材から熱を発散させるための放熱部材や、また、それら各部材間に配置され、各部材を電気的に絶縁させるための絶縁シートとして、好適に用いることができる。
【0111】
このような熱伝導性シート1は、具体的には、例えば、発光ダイオード装置のヒートスプレッダやヒートシンク、例えば、液晶表示装置や撮像装置の筐体に貼着される放熱シート、例えば、電子回路基板を封止するための封止材などとして、好適に用いられる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例に限定されない。
【0113】
実施例1
PT−110(商品名、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)35〜60μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)5.75gと、H−10(商品名、塊状の水酸化アルミニウム粒子、平均粒子径(光散乱法)55μm、昭和電工製)0.96gを用意した。
【0114】
JER828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状、エポキシ当量184〜194g/eqiv.、軟化温度(環球法)25℃未満、溶融粘度(80℃)70mPa・s、ジャパンエポキシレジン社製)0.5gと、EPPN−501HY(商品名、フェノール性エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量163〜175g/eqiv.、軟化温度(環球法)57〜63℃、新日鉄化学社製)1.0gとを、溶媒(アセトン)2gに溶解させた。次いで、イミダゾール系硬化触媒(2P4MHZ−PW、四国化成社製)0.05を加えた後、上記のPT−110およびH−10を混合し、その後、60℃で1時間乾燥して溶媒を除去した。次いで、得られた粉末を、150℃のプレス機において10MPaで10分間加圧保持し、樹脂を硬化させ、熱伝導性シートを得た。
【0115】
実施例2
H−10に代えて、H−10ME(商品名、塊状の水酸化アルミニウム粒子、平均粒子径(光散乱法)100μm、昭和電工製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを得た。
【0116】
実施例3
PT−110を4.79g、H−10MEを1.92g用いた以外は、実施例2と同様にして、熱伝導性シートを得た。
【0117】
実施例4
PT−110を3.83g、H−10MEを2.88g用いた以外は、実施例2と同様にして、熱伝導性シートを得た。
【0118】
実施例5
JER828に代えて、YSLV−80XY(商品名、ナフタレン型エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量180〜210g/eqiv.、軟化温度(環球法)75〜85、溶融粘度(150℃)10mPa・s以下、新日鉄化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを得た。
【0119】
実施例6
H−10に代えて、AS−10(商品名、球状の酸化アルミニウム(アルミナ)粒子、平均粒子径(光散乱法)50μm、昭和電工製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを得た。
【0120】
比較例1
H−10を用いることなく、PT110を6.71g用いた以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを得た。
【0121】
評価
(1)熱伝導率
各実施例および各比較例において得られた熱伝導性シートの、厚み方向TDの熱伝導率、および、面方向SDの熱伝導率を、キセノンフラッシュアナライザー「LFA−447型」(NETZSCH社製)を用いるパルス加熱法により測定した。結果を表1に示す。
(2)配向角
各実施例および各比較例において得られた熱伝導性シートを、2mm幅に切り出し、試料台に固定し、X線CTによって、連続透過像を0〜180度にわたって0.2度毎に撮影し、次いで、全透過像を元に再構成して断層像を作成し、得られた画像を解析することにより、3次元再構成像を作成して、配向角(平均配向角、最高配向角)、さらに、配向角が30度以上である第1フィラーの割合を計測した。なお、解析ソフトとして、ImageJ.(開発元:アメリカ国立衛生研究所(NIH))を用いた。結果を表1に示す。
【0122】
また、実施例1の熱伝導性シートのX線CT像を図2に、X線CT像を解析して得られた配向角の頻度分布図を図3に示す。
【0123】
また、実施例4の熱伝導性シートのX線CT像を図4に、X線CT像を解析して得られた配向角の頻度分布図を図5に示す。
【0124】
また、比較例1の熱伝導性シートのX線CT像を図6に、X線CT像を解析して得られた配向角の頻度分布図を図7に示す。
【0125】
【表1】

また、表1に示す略号の詳細を、以下に示す。
PT−110:商品名、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)45μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製
H−10:商品名、塊状の水酸化アルミニウム粒子、平均粒子径(光散乱法)55μm、昭和電工製
H−10ME:商品名、塊状の水酸化アルミニウム粒子、平均粒子径(光散乱法)100μm、昭和電工製
AS−10:商品名、球状の酸化アルミニウム(アルミナ)粒子、平均粒子径(光散乱法)50μm、昭和電工製
【符号の説明】
【0126】
1 熱伝導性シート
2 フィラー
2a 第1フィラー
2b 第2フィラー
3 樹脂
TD 厚み方向
SD 面方向(直交方向)
LD 長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、フィラーとを含有する熱伝導性シートであって、
前記フィラーが、
板状または鱗片状の第1フィラーと、
塊状または球状の第2フィラーとを含有し、
前記熱伝導性シートの面方向に対して、前記第1フィラーの平均配向角が28度以上であり、最大配向角が60度以上であることを特徴とする、熱伝導性シート。
【請求項2】
前記熱伝導性シートの面方向に対する配向角が30度以上である前記第1フィラーの割合が、個数頻度換算において、前記第1フィラーの総量に対して、20%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記第1フィラーの平均粒子径が、30〜100μmであり、
前記第2フィラーの平均粒子径が、20〜80μmであり、
前記第1フィラーおよび前記第2フィラーの総量100質量部に対して、前記第1フィラーの含有量が30〜95質量部、前記第2フィラーの含有量が5〜70質量部であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記フィラーの含有量が、前記熱伝導性シートの総量100質量部に対して、50〜95質量部であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱伝導性シートを用いて得られることを特徴とする、絶縁シート。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱伝導性シートを用いて得られることを特徴とする、放熱部材。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−238820(P2012−238820A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108584(P2011−108584)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】