説明

熱可塑性樹脂成形体の製造方法

【課題】光沢ムラを生じさせにくい熱可塑性樹脂成形体を提供する。
【解決手段】金型のキャビティを形成するキャビティ面付近を加熱手段61により加熱する加熱工程と、前記キャビティ内に溶融状態の熱可塑性樹脂を供給する供給工程と、供給された前記熱可塑性樹脂を冷却する一次冷却工程と、この一次冷却工程における冷却速度よりも速い冷却速度で前記熱可塑性樹脂を冷却する二次冷却工程と、製造された成形体を前記キャビティ内から取出す取出工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂成形体は、軽量であり賦形性が良好であることから、自動車の内装部品や外装部品、家電製品、住設関連製品等の広い分野で使用されている。このような熱可塑性樹脂により得られる樹脂成形体は、射出成形や圧縮成形等の成形方法により製造できるが、開口部があるような複雑な形状を製造する場合や、複数の樹脂供給ゲートを有する金型を使用する場合には、得られる成形体にウェルド等の外観不良が発生することがある。
【0003】
このような外観不良を抑制するために、金型温度を制御して成形を行う手法が検討されている。例えば、特許文献1には、金型の型締途中の型開き状態で、金型内に高周波誘導加熱手段を挿入して、金型を急速に加熱し、加熱操作中に金型内に設けられた冷却媒体路内に、一定温度の冷却媒体を循環させるとともに、金型の温度を測るセンサーの温度検出に基づいて高周波加熱手段を取出し、型締めを再開させ、樹脂を射出させることにより成形品の成形サイクルを行い、成形サイクル中は冷却媒体の温度を一定に保つようにしたことを特徴とした成形品の成形方法が開示されている。
【特許文献1】特開平02−162007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこの方法では、冷却媒体の温度が一定に保たれているため、加熱された部分と冷却された部分でキャビティ表面に温度ムラが生じやすく、得られた樹脂成形体に光沢ムラが発生してしまうことがあった。
以上の課題に鑑み、本発明は光沢ムラを生じさせにくい熱可塑性樹脂成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、金型に注入された樹脂を冷却する工程において、冷却速度を変化させることにより、光沢ムラの発生を抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下のようなものを提供する。
【0006】
すなわち、本発明は、金型のキャビティを形成するキャビティ面付近を加熱手段により加熱する加熱工程と、前記キャビティ内に溶融状態の熱可塑性樹脂を供給する供給工程と、供給された前記熱可塑性樹脂を冷却する一次冷却工程と、この一次冷却工程における冷却速度よりも速い冷却速度で前記熱可塑性樹脂を冷却する二次冷却工程と、製造された成形体を前記キャビティ内から取出す取出工程と、を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光沢ムラを生じさせにくい熱可塑性樹脂成形体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る熱可塑性樹脂成形体(以下、単に成形体ともいう)の製造方法は、加熱工程と、供給工程と、一次冷却工程と、二次冷却工程と、取出工程と、を有する。以下、詳細に説明する。
【0009】
〔加熱工程〕
加熱工程は、金型のキャビティを形成するキャビティ面付近を加熱手段により加熱する工程をいう。
金型の加熱方法としては、ヒータが内部に組み込まれた金型を用いて加熱する方法や、金型の内側(金型キャビティを形成する側の面)にヒータを設けて加熱する方法等が挙げられる。このうち、成形品外観に転写されるキャビティ面を直接加熱できるという理由で金型の内側にヒータを設けて加熱する方法を用いることが好ましい。
加熱手段としては、電気ヒータ、高周波誘導加熱等が挙げられる。このうち高周波誘導加熱を用いることが好ましく、所望の位置を容易に加熱することが可能な加熱コイルを用いて高周波誘導加熱することがより好ましい。
【0010】
キャビティ面を加熱する温度は使用する熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、熱可塑性樹脂の熱変形温度より30℃〜60℃高い温度であることが好ましく、熱可塑性樹脂の熱変形温度より30℃〜50℃高い温度であることがより好ましい。なお本発明における「加熱温度」は、キャビティ表面の温度を基準としており、その測定は熱電対、側温抵抗体、放射温度計等、一般的な温度計を用いた測定法であれば特に限定されない。
また、加熱時間は使用する熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、1秒〜60秒であることが好ましく、1秒〜40秒であることがより好ましい。例えば熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合には1秒〜40秒であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る成形体の製造方法において使用する金型は、通常の射出成形に用いられる金型であれば、その形状は特に限定されるものではないが、キャビティを形成するキャビティ面に金属板を備えている金型を用いることが好ましい。この金属板は、鋼やSUS等の他、アルミ合金、亜鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等の金属であれば、特に限定されるものではないが、電鋳法により製造される金属板を用いることが好ましい。電鋳法は製品の意匠面の形状を忠実に再現でき、様々な模様を有する熱可塑性樹脂成形体を製造することができるためである。
【0012】
図1は、本発明に係る成形体の製造方法に好ましく使用される金型の一例を示した図である。図中、同じ部材は同じ符号を示し、その説明は省略する。金型10は、雌型(第1の金型)20及び雄型(第2の金型)30の雌雄一対からなり、雌型20と雄型30を閉じた状態で、その内部にキャビティ40が形成される。
【0013】
雌型20は、キャビティ40を形成するキャビティ面21に金属板210を備えている。そしてこの金属板210の裏面、即ちキャビティ面21と反対側の面には、複数の金属管220が金属板210と当接するように配接されている。これらの金属管220は配線を通じて熱交換媒体供給装置(図示せず)に接続されている。そして金属管220の管内部には、熱交換媒体供給装置から供給された熱媒体又は冷却媒体からなる熱交換媒体が流通する流路が形成されている。
なお、金属管220は、例えば銅のように熱伝導性の高い金属材料から形成されるものである。本実施形態に係る雌型20は、流路の形成に金属管220が用いられているので、取り回しの自由度があり、所望の位置に流路を容易に形成することができる。
【0014】
また、雌型20には、金属板210の裏面及び金属管220を覆うように、断熱部材22が設けられている。この断熱部材22は、例えば熱伝導性の低いエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂材料、セメント等のセラミックス等からなり、雌型20のキャビティ面21の加熱時においては、加熱手段からの熱が、雌型20全体に伝熱することを抑制し、効率的に金属板210(キャビティ面21)及びその付近を加熱することができる。また、冷却時においては、金属板210からの熱を効率的に金属管220に向けて伝熱等させることができ、効率的に金属板210(キャビティ面21)を冷却することができる。
【0015】
また、雌型20には、この断熱部材22を外側から覆うように枠部材23が設けられている。この枠部材23は、金属板210、金属管220及び断熱部材22を保持するものであり、その材質は、金属板210、金属管220及び断熱部材22を保持することができれば特に制限されない。
なお、金属板210の裏面側に配設した金属管220を用いて流路を形成する以外に、金属板や断熱部材を備えていない金属部材の雌型の内部に一体的に形成された温度調節通路を用いて流路を形成してもよい。
【0016】
雄型30も雌型20と同様に、キャビティ面31を有している。そしてそのキャビティ面31には、溶融状熱可塑性樹脂をキャビティ40内に供給するための樹脂供給ゲート320が設けられている。
なお、樹脂供給ゲート320は1つでもよく、2つ以上設けてられていてもよい。この樹脂供給ゲート320は、雄型30に形成された樹脂供給通路32に連通している。また、樹脂供給通路32には、熱可塑性樹脂を溶融し所定量だけ射出することのできる射出装置50の射出ノズルが接続されることで、キャビティ40内に溶融状熱可塑性樹脂を供給することができる。さらに、雄型30には、キャビティ面31を加熱又は冷却するための複数の温度調節通路310が形成され、この温度調節通路310には、熱交換媒体供給装置が接続されている。
なお、雄型30も雌型20と同様に、キャビティ面31に金属板を設け、金属板におけるキャビティ面の裏面側に金属管を配設し、さらに断熱部材を設けてもよい。
【0017】
以上の雌型20及び雄型30からなる一対の金型10は、雄型30をプレス装置(図示せず)の固定盤に固定し、雌型2を可動盤に固定し、駆動装置により可動盤を固定盤の方向に移動することで型締めをすることができる。なお、雌型20を固定盤に固定し、雄型30を可動盤に固定してもよく、また、固定盤を可動盤に変更して、雌型20及び雄型30を双方とも可動できるようにしてもよい。
【0018】
次に、上記の金型10を用いて加熱する手順について説明する。
図2は、金型10を加熱している様子を示した図である。まず、図2(a)に記載されているように、雌型20を、図に向かって上側に移動させることによりキャビティ40を開き、その間に加熱手段60を外部から挿入する。本実施形態における加熱手段60は、高周波電磁誘導加熱が可能な加熱コイル61と搬送装置62から構成されている。そして、図2(b)に記載されているように、加熱コイル61を雌型20のキャビティ面21に近づけるように移動させて、高周波電磁誘導により雌型20のキャビティ面21及びその付近を加熱する。
このように、加熱手段60を外部に配置することで、キャビティ面21及びその付近の所望の位置を容易に加熱することが可能となる。また、上記加熱コイル61を用いることで、効率的にキャビティ面21及びその付近を加熱することが可能となる。
【0019】
加熱されるキャビティ面21及びその付近の温度は、キャビティ40内に溶融状熱可塑性樹脂を供給する時点において、供給される熱可塑性樹脂の熱変形温度より30℃〜60℃高い温度であることが好ましい。キャビティ面21及びその付近の温度を、熱可塑性樹脂の熱変形温度より30℃〜60℃高い温度とすることで、得られる成形体の光沢ムラの発生を効果的に抑制することが可能となる。この熱変形温度は、JIS K7191−2のB法に従い測定することができる。
【0020】
なお、加熱コイル61は、キャビティ面21を均一に加熱するために、加熱コイル61を形成する銅管を、キャビティ面21の形状に対応する形状とすることが好ましい。また、加熱コイル61を電気ヒータ等の加熱手段に変更することも可能である。
【0021】
〔供給工程〕
供給工程とは、上記加熱工程により加熱されたキャビティ40内に、溶融状態の熱可塑性樹脂を供給する工程をいう。
熱可塑性樹脂の供給方法は、通常行われている供給方法を用いてもよい。例えば、図3(a)に示されるように、加熱された雌型20及び雄型30を閉じてキャビティ40を形成し、これら雌雄一対の金型10で形成するキャビティ40内に、雄型30に形成された樹脂供給通路32を介して、樹脂供給ゲート320から溶融状熱可塑性樹脂51を供給していく方法が挙げられる。
なお、各樹脂供給ゲート320から供給された溶融状熱可塑性樹脂51はキャビティ40内を流動し、各樹脂供給ゲート320中間点付近で合流する。この付近でウェルド等の不良が発生しやすい傾向にある。しかしながら、この合流部付近のキャビティ面21は予め加熱コイルで加熱されていたために、冷却する際に固化する速度が遅くなり、ウェルド等の外観不良の発生を抑制することができる。
【0022】
そして、溶融状熱可塑性樹脂51の供給を開始した時点でのキャビティ40は、目的の成形体厚さよりも大きなクリアランスとし、供給開始後にクリアランスが小さくなるように雌型20を下降させて、型締めを行う(図3の(b)参照)。
型締めを行うことにより、射出圧力や型締め圧力を低圧化することができ、装置の小型化や品質の優れた成形体を得ることができる。この型締めを行うタイミングは、溶融状熱可塑性樹脂51を供給中又は供給が完了した後のいずれでもよいが、供給完了後に型締めを行う場合には、供給完了後速やかに型締めを開始することが好ましい。なお、図中では図に向かって上方向(縦方向)に型締めする例を示しているが、型締め方向は縦方向であっても横方向であってもよい。また、熱可塑性樹脂成形体の用途や形状、大きさ等によっては、キャビティ40のクリアランスは、熱可塑性樹脂成形体の厚さと略同一寸法に調整した状態で溶融状熱可塑性樹脂を供給してもよい。
さらに、溶融状熱可塑性樹脂51の供給を開始した時点では、目的の成形体の厚さよりも小さなクリアランスとし、供給量に応じてクリアランスが大きくなるように雌型20を上昇させてもよい。
【0023】
〔一次冷却工程〕
一次冷却工程とは、供給された熱可塑性樹脂を冷却する工程をいう。この一次冷却工程を設けることにより、熱可塑性樹脂表面のみを冷却固化することが可能となる。
具体的な冷却方法としては、図3(b)に記載の雌型20内に設けられた金属管220及び雄型30内に形成された温度調節通路310内に、例えば水のような冷却媒体を流通させて、キャビティ面21,31をそれぞれ冷却する方法が挙げられる。
【0024】
一次冷却工程の冷却開始時におけるキャビティ面の表面温度の上限温度は、使用する熱可塑性樹脂の種類によって異なる。具体的には、使用する熱可塑性樹脂の熱変形温度を基準として、この熱変形温度よりも50℃高い温度であり、かつ、キャビティ表面温度の下限温度は、熱変形温度よりも35℃高い温度である。このような温度範囲とすることにより熱可塑性樹脂の表面を固化することが可能となる。なお上記上限温度は、熱変形温度よりも50℃高い温度であることが好ましく、40℃高い温度であることがより好ましい。そしてキャビティ表面温度の下限温度は、熱変形温度よりも35℃高い温度であることが好ましく、30℃高い温度であることがより好ましい。
そして冷却時間としては、1秒〜10秒であることが好ましく、1秒〜8秒であることがより好ましい。
例えば、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いた場合、一次冷却工程の冷却開始時におけるキャビティ面の表面温度の上限温度は、135℃であり、下限温度は120℃である。そして、冷却時間としては1秒〜10秒であることが好ましい。
【0025】
キャビティ面の表面温度は、熱電対、側温抵抗体、放射温度計等、一般的な温度計をキャビティ表面に設置し、熱可塑性樹脂を射出しない状態で一次冷却又は二次冷却を行っている間のキャビティ表面の温度を測定することで、キャビティ面の表面温度とする。
【0026】
〔二次冷却工程〕
二次冷却工程とは、上記一次冷却の後に一次冷却工程における冷却速度よりも速い冷却速度で前記熱可塑性樹脂を冷却する工程をいう。この二次冷却工程を設けることにより、成形体の光沢ムラの発生を抑制することが可能となる。また、二次冷却の冷却速度は一次冷却の冷却速度よりも速いため、製造工程のサイクルタイムを延ばすことなく効率的に成形体を製造することが可能となる。
【0027】
冷却方法は一次冷却と同様、温度調節通路内に、冷却媒体を流通させて冷却する方法が挙げられる。この二次冷却工程では、一次冷却工程の冷却速度よりも速い冷却速度で冷却が行われる。一次冷却工程における冷却速度と、二次冷却工程における冷却速度の比(二次冷却工程における冷却速度/一次冷却工程における冷却速度)は、1.1倍以上であり、1.2倍以上がより好ましく、1.3倍以上が最も好ましい。
一次冷却工程の冷却速度が二次冷却工程の冷却速度より速いと、キャビティ表面の加熱された部分と冷却された部分とで温度ムラが生じやすく、得られる成形体に光沢ムラが生じやすくなる。そのため、冷却速度の比を、1.1倍以上とすることにより、成形体の光沢ムラの発生を抑制することが可能となる。また、このような冷却速度とすることによってサイクルタイムを延ばすことなく効率よく製造することが可能となる。
例えば、熱可塑性樹脂としてポリプロプレンを使用する場合、冷却速度の比は、1.1倍〜1.3倍であることが好ましく、1.2倍〜1.3倍であることがより好ましい。
【0028】
二次冷却工程の冷却速度は、冷却媒体の流量を調整すること、又は流通させる冷媒の流量を大きくすること等により調節することが可能である。
冷媒の温度を変える手段としては、例えば雌型内に設けられた金属管に熱交換媒体供給装置を複数個連結させ、各々の冷却媒体の温度に差をつけておく。そして一次冷却工程では高い温度(例えば30℃〜60℃)の冷却媒体を流通させ、二次冷却工程では低い温度(例えば5℃〜30℃)の冷却媒体を流通させることで冷媒の温度に差をつけることが可能となる。なお、一次冷却工程では冷却媒体を流通させず二次冷却工程で冷却媒体を流通せることで冷却速度に差をつける方法でもよい。熱交換媒体供給装置は、手動もしくは自動で切り替えられ、射出成形機と連動して稼動するようにされたシステムであることが好ましい。
冷却速度は、冷却開始から冷却終了までにキャビティ面の温度が降下する速度のことをいい、その測定方法は熱電対、側温抵抗体、放射温度計等、一般的な温度計をキャビティ面に設置し、熱可塑性樹脂を射出しない状態で一次冷却又は二次冷却を行っている間の降下する温度を測定し、単位時間当たりの降下温度を求めることで冷却速度とする。例えば、冷却開始時に135℃であるキャビティ面温度を5秒間で110℃まで降下させた時の冷却速度は−300℃/分である。
【0029】
また、二次冷却工程の冷却開始時におけるキャビティ面の表面温度の上限温度は、一次冷却と同様に、使用する熱可塑性樹脂の種類によって異なる。具体的には熱可塑性樹脂の熱変形温度を基準として、この熱変形温度よりも35℃高い温度であり、かつ、前記キャビティ表面温度の下限温度は熱変形温度である。このような温度範囲とすることにより、光沢ムラの発生を抑制することが可能となる。
冷却時間としては、1秒〜60秒であることが好ましく、1秒〜40秒であることがより好ましい。このような範囲の冷却時間とすることにより、光沢ムラの発生をより抑制することが可能となる。
【0030】
なお、本発明において、二次冷却工程以降に二次冷却工程の冷却速度と同一又は、より速い冷却速度で冷却を行う三次、四次冷却工程等を設けてもよい。その場合の冷却速度は先の冷却工程での冷却速度よりも速いことが好ましい。また、二次冷却工程以降の冷却工程を設ける場合には、二次冷却の冷却時間は1秒〜40秒であることが好ましく、1秒〜30秒であることがより好ましい。これにより取出し工程までにかかる時間を延ばすことなく、より効率よく製造することが可能となる。
例えば、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンを用いた場合、二次冷却工程の冷却開始時におけるキャビティ面の表面温度の上限温度は、120℃であり、下限温度は85℃である。そして、冷却時間としては1秒〜30秒であることが好ましい。
【0031】
[取出し工程]
取出し工程とは、製造された成形体をキャビティ内から取出す工程をいう。具体的には装置の可動盤を動かしてキャビティを開き、中の成形体を取出す工程である。
以上の工程を経ることにより、成形体を得ることができる。
【0032】
ここで、本発明に係る製造方法において使用可能な熱可塑性樹脂としては、圧縮成形、射出成形、押出成形等で通常使用される熱可塑性樹脂が挙げられる。このような樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエンブロック共重合体、ポリスチレン、ナイロン等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等の一般的な熱可塑性樹脂、エチレン・プロピレンゴム(EPM、EPDM)等の熱可塑性エラストマー、これらの混合物、及びこれらを用いたポリマーアロイ等が挙げられる。
【0033】
また、これらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて通常使用されるガラス繊維、各種の無機、有機フィラー等の充填材等を含有していてもよい。また、通常使用される各種の顔料、滑材、帯電防止剤、安定剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
また、上記熱可塑性樹脂は、非発泡性であっても発泡性であってもよく、発泡剤を含有してもよい。発泡剤としては、化学発泡剤を添加してもよく、液状又はガス状の二酸化炭素や窒素を直接溶融状樹脂中に圧入させてもよい。
【0034】
化学発泡剤としては、熱可塑性樹脂の発泡体を製造する際に使用される公知の化学発泡剤を使用することができる。具体的には、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド類、p−トルエンスルホニルセミカルバジド等の発泡剤を使用することができる。さらに、必要に応じてサリチル酸、尿素又はこれらを含む発泡助剤を添加することが好ましい。
発泡剤の種類は、使用する熱可塑性樹脂の溶融温度や目的とする発泡倍率等を考慮して適宜選択する。その添加量は、目的とする成形品の強度、密度等を考慮して調整されるが、一般的に樹脂100質量部に対して0.1質量部〜5質量部程度である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として住友ノーブレンAZ864E4(住友化学社製、MFR=30g/10分)を用いて、600×800mm、厚み2.5mmの寸法の成形品を図1に示すように、キャビティ面に電鋳法により製造された金属板が設けられた金型(2点ゲート)を用いて成形した。雌型のキャビティ面の中央部付近(溶融状熱可塑性樹脂の合流部付近)を含む幅400mmの範囲を、高周波発信周波数20kHz、出力50kWの高周波誘導加熱装置を用いて、加熱コイルにより加熱した。金型を所定のキャビティクリアランスまで閉じ、金型キャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂を供給し冷却を行った。
ここでまず一次冷却でキャビティ表面温度122℃の状態に、5℃の冷却水を−84℃/分の冷却速度で5秒間流し、その後、二次冷却としてキャビティ表面温度115℃まで下がった状態から−100℃/分の冷却速度で冷却水を流し、熱可塑性樹脂の熱変形温度である85℃まで約18秒間流した。冷却終了後、型開きして熱可塑性樹脂成形体を取出した。得られた熱可塑性樹脂成形体は光沢ムラがなく外観良好であった。
【0037】
[比較例1]
冷却工程で、冷却開始からキャビティ表面温度122℃の状態で5℃の冷却水を−104℃/分の冷却速度で流し、熱可塑性樹脂の熱変形温度である85℃まで約23秒間冷却したこと以外は実施例1と同様に、熱可塑性樹脂成形体を成形した。得られた熱可塑性樹脂成形体は光沢ムラが目立つ外観であった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る熱可塑性樹脂成形体の製造方法で使用する金型の断面を示した図である。
【図2】加熱工程の手順を示した図である。
【図3】供給工程において、熱可塑性樹脂の供給開始から供給完了までの様子を示した図である。
【符号の説明】
【0039】
10 金型
20 雌型
21、31 キャビティ面
22 断熱部材
23 枠部材
210 金属板
220 金属管
30 雄型
32 樹脂供給通路
310 温度調節通路
320 樹脂供給ゲート
40 キャビティ
50 射出装置
51 溶融状熱可塑性樹脂
60 加熱手段
61 加熱コイル
62 搬送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティを形成するキャビティ面付近を加熱手段により加熱する加熱工程と、前記キャビティ内に溶融状態の熱可塑性樹脂を供給する供給工程と、供給された前記熱可塑性樹脂を冷却する一次冷却工程と、この一次冷却工程における冷却速度よりも速い冷却速度で前記熱可塑性樹脂を冷却する二次冷却工程と、製造された成形体を前記キャビティ内から取出す取出工程と、を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記一次冷却工程の冷却開始時におけるキャビティ面の上限温度は、前記熱可塑性樹脂の熱変形温度を基準として、この熱変形温度よりも50℃高い温度であり、かつ、前記キャビティ表面温度の下限温度は、前記熱変形温度よりも35℃高い温度であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記二次冷却工程の冷却開始時におけるキャビティ面の上限温度は、前記熱可塑性樹脂の熱変形温度を基準として、この熱変形温度よりも35℃高い温度であり、かつ、前記キャビティ表面温度の下限温度は、前記熱変形温度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記一次冷却工程における冷却速度と前記二次冷却工程における冷却速度の比は、1.1倍以上であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記金型は、キャビティを形成するキャビティ面に金属板が設けられていることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記金属板は、電鋳法により製造される金属板であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記加熱手段は、前記金型の外部に配置されることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記加熱手段として、高周波誘導加熱用の加熱コイルを用いることを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の熱可塑性樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−83395(P2009−83395A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258384(P2007−258384)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】