説明

燃圧波形取得装置

【課題】多段噴射のうち2段目以降のいずれかの噴射を対象噴射とし、その対象噴射に起因した圧力波形を多段噴射時検出波形から高精度で抽出することを図った燃圧波形取得装置を提供する。
【解決手段】多段噴射を実施している時に燃圧センサにより検出される圧力波形を、多段噴射時検出波形Wとして取得する検出波形取得手段と、単段噴射を実施している時の圧力波形の規範となるモデル波形CALmが記憶されたモデル波形記憶手段と、多段噴射のうち2段目以降のいずれかの噴射を対象噴射(n回目噴射)とし、モデル波形CALmのうち対象噴射よりも前段の噴射(n−1回目噴射)を表した波形CALnを多段噴射時検出波形Wから差し引いて、対象噴射に起因した圧力波形を抽出する波形抽出手段S35と、その抽出に用いるモデル波形CALnを、対象噴射の噴射期間Tqnが長いほど減衰度合いの大きい波形に補正する補正手段S34と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射弁から燃料を噴射させることに伴い生じる燃料圧力の変化を、圧力波形として取得する燃圧波形取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力トルク及びエミッション状態を精度良く制御するには、燃料噴射弁の噴孔から噴射される燃料の噴射量及び噴射開始時期等、その噴射状態を精度良く制御することが重要である。そこで特許文献1,2等には、噴孔に至るまでの燃料供給経路内で噴射に伴い生じる燃料圧力の変化を燃圧センサで検出することで、実際の噴射状態を検出する技術が開示されている。
【0003】
例えば、噴射に伴い燃圧が下降を開始した時期を検出することで実際の噴射開始時期を検出したり、噴射に伴い生じた燃圧の下降量を検出することで実際の噴射量を検出することを図っている。このように実際の噴射状態を検出できれば、その検出値に基づき噴射状態を精度良く制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−3004号公報
【特許文献2】特開2009−57924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、図5(b)は、多段噴射を実施している時に燃圧センサにより検出された検出波形W(多段噴射時検出波形)を表すものであるが、この検出波形Wのうちn回目噴射に対応する部分の波形(図5(b)中の一点鎖線参照)には、n回目より前のm回目噴射(図5の例ではm=n−1)に起因して生じる波形成分の余波(図5(d)中の一点鎖線に示すうねり波形)が重畳している。
【0006】
そこで上記特許文献1では、m回目噴射を単段で実施している時の圧力波形を数式で表したモデル波形CALn−1(図5(d)参照)を予め記憶させておき、図5(e)の如く検出波形Wからモデル波形CALn−1を差し引くことで、n回目噴射に起因した圧力波形Wn(図5(f)参照)を抽出し、その抽出した圧力波形Wnに基づき実際の噴射状態を検出している。
【0007】
しかしながら、本発明者らが各種試験を実施したところ、上述の如く検出波形Wから単純にモデル波形CALn−1を差し引くだけでは、n回目噴射(対象噴射)に起因した圧力波形Wnを精度良く抽出できていないことが分かった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多段噴射のうち2段目以降のいずれかの噴射を対象噴射とし、その対象噴射に起因した圧力波形を多段噴射時検出波形から高精度で抽出することを図った燃圧波形取得装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、内燃機関で燃焼させる燃料を噴孔から噴射する燃料噴射弁と、前記噴孔から燃料を噴射させることに伴い前記噴孔に至るまでの燃料供給経路内で生じる燃料圧力の変化を検出する燃圧センサと、を備えた燃料噴射システムに適用されることを前提とする。
【0011】
そして、前記内燃機関の1燃焼サイクル中に燃料を複数回噴射する多段噴射を実施している時に前記燃圧センサにより検出される圧力波形を、多段噴射時検出波形として取得する検出波形取得手段と、多段噴射のうち2段目以降のいずれかの噴射を対象噴射とした場合に、前記対象噴射を実施することなく前記対象噴射よりも前段の噴射を実施している時の、圧力波形の規範となるモデル波形が記憶されたモデル波形記憶手段と、前記モデル波形を前記多段噴射時検出波形から差し引いて、前記対象噴射に起因した圧力波形を抽出する波形抽出手段と、前記抽出に用いる前記モデル波形を、前記対象噴射の噴射期間が長いほど減衰度合いの大きい波形に補正する補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、図5に例示するように多段噴射時検出波形Wからモデル波形CALn−1を差し引いて抽出された圧力波形Wnの精度について、以下に説明する試験1,2を実施して検証した。
【0013】
試験1では先ず、多段噴射した時の検出波形Wを取得する(図9(b)参照)。次に、前記多段噴射のうちn回目の噴射のみを単段噴射し、その時の検出波形W0nを取得する(図9(c)参照)。そして、多段噴射時検出波形Wからn回目単段噴射時検出波形W0nを差し引く演算を実施して、図9(d)に示す波形W0n−1を取得する。
【0014】
このようにして得られた波形W0n−1は、n−1回目の噴射のみを単段噴射した時の検出波形を表していると当初では想定していた。しかしながら前記波形W0n−1は、n−1回目単段噴射を表したモデル波形CALn−1(図9(e)参照)と、次の点で異なる波形になっていることが明らかとなった。すなわち、「検出波形W0n−1のうちn回目噴射を開始した以降の部分に相当する波形の脈動振幅A1は、モデル波形CALn−1の脈動振幅A2よりも小さくなっている」。
【0015】
さらに、以下の試験2を実施したことにより、「n回目噴射の噴射期間Tqnが長いほど検出波形W0n−1の脈動振幅A1が小さくなる」ことが明らかとなった。
【0016】
試験2では、試験1により得られる脈動振幅の比率A1/A2が、n回目の噴射期間を異ならせるとどのように変化していくかを試験しており、図10は、その試験結果を示すグラフである。なお、図中の複数の実線は、燃料噴射弁へ供給する燃料の圧力を200MPa、140MPa、80MPa、40MPaと異ならせて試験した結果をそれぞれ表している。
【0017】
図10の試験結果は、供給燃圧がいくつであろうと、n回目噴射の噴射期間Tqnが長いほど検出波形W0n−1の脈動振幅A1は小さくなっていくことを表している。ちなみに、n回目噴射を実施しなかった場合(噴射期間Tqnの値がゼロ)には振幅比A1/A2は1となっており、このことは、n回目噴射を実施したことによる影響で検出波形W0n−1の脈動振幅A1が小さくなっていることを表している。
【0018】
このような現象が生じるメカニズムを本発明者らは次のように考察した。燃料供給経路内を伝播していく燃圧波動は噴孔へ向かって伝播した後、その燃圧波動の一部は噴孔部分で反射して燃圧センサへ向かって伝播していく。そして、このように反射してきた燃圧波動の影響を受けて、燃圧センサで検出される燃圧波形にうねり波形(図6(c)(d)中の漸近線k1,k2に沿った波形)が現れる。そして、燃料噴射を停止させるべく噴孔を閉弁させている時には、噴孔部分で燃圧波動が反射する度合いが大きくなるため脈動の振幅は大きくなる。
【0019】
一方、燃料を噴射させるべく噴孔を開弁させている時には、前記燃圧波動の一部は噴孔から抜け出ていくので、前記反射の度合いが小さくなる。そのため、燃料噴射時には噴射停止時に比べて燃圧波形に含まれる脈動(うねり波形)の振幅が小さくなる。そして、開弁時間が長いほど、前記反射の量が少なくなるため脈動の振幅は小さくなる。
【0020】
上記発明は、以上の試験1,2及び考察に基づき想起されたものであり、要するに、図5に例示する場合において、n−1回目噴射に対応するモデル波形CALn−1を多段噴射時検出波形Wから差し引いて、n回目噴射(対象噴射)に起因した圧力波形Wnを抽出するにあたり、前記モデル波形CALn−1を、n回目噴射の噴射期間が長いほど減衰度合いの大きい波形に補正するものである。
【0021】
これによれば、多段噴射時検出波形Wからn回目単段噴射時検出波形W0nを差し引いて得られる実際の検出波形W0n−1に、モデル波形CALn−1を近づけることができるので、n回目噴射(対象噴射)に起因した圧力波形Wnを多段噴射時検出波形Wから高精度で抽出することができる。
【0022】
請求項2記載の発明では、前記多段噴射のうちのn回目の噴射を前記対象噴射とした場合において、前記モデル波形記憶手段には、前記モデル波形として少なくともn−1回目の噴射による圧力波形を表すn−1回目モデル波形、及びn−2回目の噴射による圧力波形を表すn−2回目モデル波形が記憶されており、前記波形抽出手段は、前記多段噴射時検出波形から少なくとも前記n−1回目モデル波形及び前記n−2回目モデル波形を差し引くことで、前記n回目の噴射に起因した圧力波形を抽出することを特徴とする。
【0023】
ここで、図5及び図9の例示では、n回目噴射の直前の噴射(n−1回目噴射)に対応するモデル波形CALn−1を検出波形Wから差し引いて圧力波形Wnを抽出している。これに対し上記発明では、モデル波形CALn−1のみならず、n−2回目噴射に対応するモデル波形CALn−2を検出波形Wからさらに差し引いて圧力波形Wnを抽出する(図6参照)。圧力波形Wnには、n−1回目噴射に起因した波形のみならず、n−2回目噴射に起因した波形も重畳しているので、検出波形Wからモデル波形CALn−1及びモデル波形CALn−2を差し引いて圧力波形Wnを抽出する上記発明によれば、より一層高精度に圧力波形Wnを抽出できる。
【0024】
請求項3記載の発明では、前記補正手段は、前記n−1回目モデル波形についてはn回目の噴射期間に基づき減衰度合いを補正し、前記n−2回目モデル波形についてはn回目の噴射期間及びn−1回目の噴射期間に基づき減衰度合いを補正することを特徴とする。
【0025】
図6(c)に例示されるn−2回目モデル波形CALn−2の脈動振幅An−2の大きさは、n回目の噴射期間Tqnが長いほど、かつ、n−1回目の噴射期間Tqn−1が長いほど小さくなる。この点を鑑みた上記発明によれば、Tqn+Tqn−1に応じてn−2回目モデル波形CALn−2の減衰度合いを補正するので、n−2回目の噴射のみを単段噴射した時の検出波形にモデル波形CALn−2を高精度で近づけることができる。よって、圧力波形Wnを高精度で抽出することを促進できる。
【0026】
請求項4記載の発明では、前記補正手段による減衰度合いを前記対象噴射の噴射期間が長いほど増大させるとともに、その噴射期間が長いほど、前記増大の変化率を小さくしていくことを特徴とする。
【0027】
図8中の実線は、モデル波形の減衰度合いと対象噴射の噴射期間Tqとの関係を例示するグラフであり、図8の縦軸は、モデル波形の減衰係数kに対する補正値cでありk×cが減衰度合いの補正量に相当し、図8の横軸は噴射期間Tqを表す。そして、補正値cの値が大きいほど前記補正量(減衰度合い)が大きいことを示す。
【0028】
上記発明は図8中の実線に例示される如く、噴射期間Tqが長いほど減衰係数kを大きくするよう補正するとともに、噴射期間Tqが長いほど減衰係数kの変化率を小さくする。要するに、上記発明にかかる減衰度合いと噴射期間の関係は、図8中の一点鎖線に示す直線とは異なり、減衰度合いを大きくする側に凸となる曲線データである。図10の試験結果から明らかなように、噴射期間が長くなると振幅比A1/A2の変化率は小さくなる。この点に鑑みた上記発明によれば、噴射期間が長いほど、減衰度合いを増大させる変化率を小さくするので、多段噴射時検出波形Wからn回目単段噴射時検出波形W0nを差し引いて得られる検出波形W0n−1にモデル波形CALn−1を高精度で近づけることができる。よって、圧力波形Wnを高精度で抽出することを促進できる。
【0029】
請求項5記載の発明では、前記燃料噴射弁は、前記噴孔を開閉する弁体と、閉弁する向きに前記弁体へ燃料の背圧を付与する背圧室が形成されたボデーとを有し、前記背圧室の燃料をリークさせることにより前記弁体を開弁作動させるよう構成されているとともに、前記弁体を開弁作動させている噴射期間中には前記背圧室の燃料を常時リークさせるよう構成されたものであることを特徴とする。
【0030】
上述した考察に基づけば、背圧室の燃料をリークさせている時には、前述した燃圧波動の一部はリーク通路から抜け出ていくので、燃圧波形に含まれる脈動の振幅はさらに小さくなる筈である。したがって、噴射期間中に背圧室の燃料を常時リークさせるよう構成された燃料噴射弁においては、上記請求項1記載の補正手段による補正を実施しなければ、図9(d)に例示する検出波形W0n−1とモデル波形CALn−1とのずれは極めて大きくなってしまい、圧力波形Wnを高精度で抽出できなくなるといった問題が顕著となる。
【0031】
この点を鑑みた上記請求項5記載の発明によれば、燃料を常時リークさせる燃料噴射弁に請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明を適用させるので、補正手段による補正を実施することによる「圧力波形Wnを高精度で抽出できる」といった効果が好適に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態にかかる燃圧波形取得装置が適用された、燃料噴射システムの概略を示す構成図。
【図2】図1のシステムに係る燃料噴射制御処理の基本的な手順を示すフローチャート。
【図3】図1の燃圧センサの検出圧力に基づく、燃料噴射状態検出の処理手順を示すフローチャート。
【図4】図1の燃圧センサによる検出圧力の波形と噴射率推移波形との関係を示す、単段噴射実行時におけるタイミングチャート。
【図5】図3のうねり消し処理S23を説明する図。
【図6】図3のうねり消し処理S23を説明する図。
【図7】図3のうねり消し処理S23の詳細手順を示すフローチャート。
【図8】減衰係数kに対する補正値cと噴射期間Tqとの関係を示す図。
【図9】本発明者らが実施した試験1の結果を示す試験データ。
【図10】本発明者らが実施した試験2の結果を示す試験データ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明にかかる燃圧波形取得装置を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の燃圧波形取得装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0034】
図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20、車両に搭載された電子制御装置であるECU30、等を示す模式図である。燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムでは、燃料タンク40内の燃料は、高圧ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、高圧配管43を通じて各気筒の燃料噴射弁10へ分配供給される。
【0035】
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル12(弁体)及び電磁ソレノイド13(アクチュエータ)等を備えて構成されている。ボデー11の内部には高圧通路11aが形成されており、コモンレール42から燃料噴射弁10へ供給される燃料は、高圧通路11aを通じて噴孔11bから噴射される。また、高圧通路11a内の燃料の一部は、ボデー11内部に形成された背圧室11cへ流通する。背圧室11cのリーク孔11dは制御弁14により開閉され、その制御弁14は電磁ソレノイド13により開閉作動する。ニードル12には、スプリング15の弾性力及び背圧室11cの燃料圧力が閉弁側へ付与されるとともに、高圧通路11aに形成された燃料溜まり部11fの燃料圧力が開弁側へ付与される。
【0036】
コモンレール42から噴孔11bに至るまでの燃料供給経路(例えば高圧配管43又は高圧通路11a)には、燃料圧力を検出する燃圧センサ20が取り付けられている。図1の例では、高圧配管43とボデー11との接続部分に取り付けられている。或いは、図1中の一点鎖線に示すようにボデー11に取り付けてもよい。また、燃圧センサ20は、複数の燃料噴射弁10(#1)〜(#4)の各々に対して設けられている。
【0037】
次に、上記構成による燃料噴射弁10の作動を説明する。電磁ソレノイド13へ通電していない時には、制御弁14はスプリング16の弾性力により閉弁作動する。すると、背圧室11c内の燃料圧力が上昇してニードル12は閉弁作動し、噴孔11bからの燃料噴射が停止されることとなる。一方、電磁ソレノイド13へ通電すると、制御弁14はスプリング16の弾性力に抗して開弁作動する。すると、背圧室11c内の燃料圧力が下降してニードル12は開弁作動し、噴孔11bから燃料が噴射されることとなる。
【0038】
ちなみに、電磁ソレノイド13へ通電して燃料噴射させている時には、高圧通路11aから背圧室11cへ流入した燃料はリーク孔11dから11eへ排出される(リークする)。つまり、燃料の噴射期間中には、高圧通路11aの燃料は、背圧室11cを通じて低圧通路11eへ常時リークすることとなる。
【0039】
ECU30は、電磁ソレノイド13の駆動を制御することで、ニードル12の開閉作動を制御して噴射状態を制御する。例えば、エンジン出力軸の回転速度及びエンジン負荷等に基づき、噴射開始時期、噴射終了時期及び噴射量等の目標噴射態様を算出し、その目標噴射態様となるよう、電磁ソレノイド13の駆動を制御する。
【0040】
次に、ECU30が電磁ソレノイド13の駆動を制御することで燃料噴射状態を制御する手順について、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0041】
図2の処理においては、まずステップS11で、エンジン運転状態を表す所定のパラメータ、例えばその時のエンジン回転速度、エンジン負荷、燃料噴射弁10へ供給される燃料の圧力等を読み込む。
【0042】
続くステップS12では、上記ステップS11で読み込んだ各種パラメータに基づいて噴射パターンを設定する。例えば、各種パラメータに応じた最適な噴射パターンを噴射制御用マップ等に予め記憶させておき、ステップS11で読み込んだパラメータに基づき、前記マップを参照して最適な目標噴射パターンを設定する。なお、目標噴射パターンは、例えば噴射段数(1燃焼サイクル中の噴射回数)、噴射開始時期、噴射時間(噴射量に相当)等のパラメータにより定められるものである。こうして、上記噴射制御用マップは、それらパラメータと最適噴射パターンとの関係を示すものとなっている。
【0043】
続くステップS13では、ステップS12で設定された目標噴射パターンに基づき、燃料噴射弁10の電磁ソレノイド13へ噴射指令信号を出力する。これにより、ステップS11で取得した各種パラメータ(エンジン運転状態)に応じた最適な噴射パターンとなるよう、燃料噴射制御される。
【0044】
但し、燃料噴射弁10の経年劣化や燃料噴射弁10の機差ばらつき等が原因で、噴孔11bから噴射される実際の噴射パターンは目標噴射パターンからずれることが懸念される。この懸念に対し、燃圧センサ20の検出値に基づけば、後述する手法により実際の噴射パターン(実噴射状態)を検出できるので、その検出した実噴射パターンを目標噴射パターンに一致させるように噴射指令信号を補正する。また、その補正内容を学習して、次回の噴射指令信号の算出にその学習値を用いる。
【0045】
次に、燃圧センサ20の検出値に基づき実噴射状態を検出(算出)する処理について、図3を用いて説明する。
【0046】
図3に示す一連の処理は、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期)又は所定のクランク角度毎に、ECU30のマイコンにより実行される。まずステップS21(検出波形取得手段)で、燃圧センサ20の出力値(検出圧力)を取り込む。この取り込み処理は複数の燃圧センサ20の各々について実行される。また、取り込んだ検出圧力に対し、高周波ノイズ等を除去するフィルタ処理を施すことが望ましい。
【0047】
以下、ステップS21の取り込み処理について、図4を用いて詳細に説明する。
【0048】
図4(a)は、図3のステップS13にて燃料噴射弁10に出力される噴射指令信号を示しており、この指令信号のパルスオンにより電磁ソレノイド13が作動して噴孔11bが開弁する。つまり、噴射指令信号のパルスオン時期Isにより噴射開始が指令され、パルスオフ時期Ieにより噴射終了が指令される。よって、指令信号のパルスオン期間(噴射指令期間)により噴孔11bの開弁時間Tqを制御することで、噴射量Qを制御している。図4(b)は、上記噴射指令に伴い生じる噴孔11bからの燃料噴射率の変化(推移)を示し、図4(c)は、噴射率の変化に伴い生じる燃圧センサ20の出力値(検出圧力)の変化(圧力波形)を示す。なお、図4は噴孔11bを1回開閉させた場合の各種変化の一例である。
【0049】
そしてECU30は、図3の処理とは別のサブルーチン処理により、燃圧センサ20の出力値を検出しており、そのサブルーチン処理では燃圧センサ20の出力値を、該センサ出力で圧力推移波形の軌跡(図4(c)にて例示される軌跡)が描かれる程度に短い間隔(図3の処理周期よりも短い間隔)にて逐次取得している。具体的には、50μsecよりも短い間隔(より望ましくは20μsec)でセンサ出力を逐次取得し、このように逐次取得した値を上記ステップS21では取り込んでいる。
【0050】
燃圧センサ20により検出される圧力波形と噴射率の変化とは以下に説明する相関があるため、検出波形から噴射率の推移波形を推定することができる。
【0051】
図4(b)に示す噴射率の変化について説明すると、先ず、符号Isの時点で電磁ソレノイド13への通電を開始した後、噴孔11bから燃料が噴射開始されることに伴い、噴射率は変化点R3にて上昇を開始する。つまり実際の噴射が開始される。その後、変化点R4にて最大噴射率に到達し、噴射率の上昇は停止する。これは、R3の時点でニードル弁20cがリフトアップを開始してR4の時点でリフトアップ量が最大になったことに起因する。
【0052】
なお、本明細書における「変化点」は次のように定義される。すなわち、噴射率(又は燃圧センサ20の検出圧力)の2階微分値を算出し、その2階微分値の変化を示す波形の極値(変化が最大となる点)、つまり2階微分値波形の変曲点が、噴射率又は検出圧力の波形の変化点である。
【0053】
次に、符号Ieの時点で電磁ソレノイド13への通電を遮断した後、変化点R7にて噴射率は下降を開始する。その後、変化点R8にて噴射率はゼロとなり、実際の噴射が終了する。これは、R7の時点でニードル弁20cがリフトダウンを開始し、R8の時点で完全にリフトダウンして噴孔11bが閉弁されたことに起因する。
【0054】
図4(c)に示す燃圧センサ20の検出圧力の変化について説明すると、変化点P1以前の圧力P0は噴射指令開始時点Isでの燃料供給圧力であり、先ず、駆動電流が電磁ソレノイド13に流れた後、噴射率がR3の時点で上昇を開始する前に、検出圧力は変化点P1にて下降する。これは、P1の時点で制御弁14がリーク孔11dを開放し、背圧室11cが減圧処理されることに起因する。その後、背圧室11cが十分に減圧された時点で、変化点P2にてP1からの下降が一旦停止する。これは、リーク孔11dが完全に開放されたことで、リーク量がリーク孔11dの径に依存して一定となることに起因する。
【0055】
次に、R3の時点で噴射率が上昇を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P3にて下降を開始する。その後、R4の時点で噴射率が最大噴射率に到達したことに伴い、検出圧力の下降は変化点P4にて停止する。なお、変化点P3からP4までの降下量は、P1からP2までの降下量に比べて大きい。
【0056】
次に、検出圧力は変化点P5にて上昇する。これは、P5の時点で制御弁14がリーク孔11dを閉塞し、背圧室11cが増圧処理されることに起因する。その後、背圧室11cが十分に増圧された時点で、変化点P6にてP5からの上昇が一旦停止する。
【0057】
次に、R7の時点で噴射率が下降を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P7にて上昇を開始する。その後、R8の時点で噴射率がゼロになり実際の噴射が終了したことに伴い、検出圧力の上昇は変化点P8にて停止する。なお、変化点P7から変化点P8までの上昇量はP5からP6までの上昇量に比べて大きい。P8以降の検出圧力は、一定の周期T10で下降と上昇を繰り返しながら減衰する。
【0058】
以上により、燃圧センサ20による検出圧力の変動のうち変化点P3,P4,P7及びP8を検出することで、噴射率の上昇開始時点R3(実噴射開始時期)、最大噴射率到達時点R4、噴射率下降開始時点R7及び下降終了時点R8(実噴射終了時期)等を推定することができる。また、以下に説明する検出圧力の変動と噴射率の変化との相関関係に基づき、検出圧力の変動から噴射率の変化を推定できる。
【0059】
つまり、検出圧力の変化点P3からP4までの圧力下降率Pαと、噴射率の変化点R3からR4までの噴射率上昇率Rαとは相関がある。変化点P7からP8までの圧力上昇率Pγと変化点R7からR8までの噴射率下降率Rγとは相関がある。変化点P3からP4までの圧力降下量Pβ(最大圧力降下量)と変化点R3からR4までの噴射率上昇量Rβ(最大噴射率)とは相関がある。よって、燃圧センサ20による検出圧力の変動から圧力下降率Pα、圧力上昇率Pγ及び最大圧力降下量Pβを検出することで、噴射率上昇率Rα、噴射率下降率Rγ及び最大噴射率Rβを推定することができる。以上の如く噴射率の各種状態R3,R4,R7,R8,Rα,Rβ,Rγを推定することができ、よって、図4(b)に示す燃料噴射率の変化(推移波形)を推定することができる。
【0060】
さらに、実噴射開始から終了までの噴射率の積分値(斜線を付した符号Sに示す部分の面積)は噴射量Qに相当する。そして、検出圧力の変動波形のうち実噴射開始から終了までの噴射率変化に対応する部分(変化点P3〜P8の部分)の圧力の積分値と噴射率の積分値Sとは相関がある。よって、燃圧センサ20による検出圧力の変動から圧力積分値を算出することで、噴射量Qに相当する噴射率積分値Sを推定することができる。以上により、燃圧センサ20は、燃料噴射弁10に供給される燃料の圧力を噴射状態に関連する物理量として検出する噴射状態センサとして機能していると言える。
【0061】
図3の説明に戻り、先述のステップS21に続くステップS22において、検出対象となっている噴射が多段噴射のうち2段目以降の噴射であるか否かを判定する。2段目以降の噴射であると判定された場合には(S22:YES)、続くステップS23において、ステップS21で取得した検出圧力値の波形(圧力波形)に対して以下に説明するうねり消し処理を行う。
【0062】
図5において、(a)は、多段(2回)噴射するよう噴射指令信号を出力した時に電磁ソレノイド13に流れる駆動電流を示すタイムチャートであり、(b)は、(a)の指令信号を出力した時に検出された燃圧の波形(検出波形W)を示す。また、(c)は、単段噴射するよう噴射指令信号を出力した時に電磁ソレノイド13に流れる駆動電流を示すタイムチャートであり、(d)は、(c)の指令信号を出力した時に検出された圧力波形を示す。
【0063】
(b)に示す検出波形Wのうちn回目噴射に対応する部分の波形((b)中の一点鎖線参照)には、n回目より前の噴射(n−1回目噴射、n−2回目噴射、n−3回目噴射・・・)に起因して生じる余波が重畳している。図5(d)に示すn−1回目噴射の余波を例に説明すると、n−1回目噴射が終了した後にも、n−1回目噴射の余波として、所定周期(図4の場合T10の周期)で下降と上昇を繰り返しながら減衰していくうねり波形((d)中の一点鎖線参照)が現れる。この余波(うねり波形)が、n回目噴射の検出波形Wのうちn回目噴射に対応する部分の波形((b)中の一点鎖線参照)に重畳している。そのため、検出波形Wをそのまま用いてn回目噴射にかかる噴射率変化(図4(b)に例示する噴射率の推移波形)を推定しようとすると、その推定誤差は極めて大きくなる。
【0064】
そこで、上記ステップS23のうねり消し処理では、検出波形Wから前段噴射の余波(うねり波形)を差し引いてn回目噴射に起因した圧力波形Wn(図5(f)参照)を抽出する処理を実施している。具体的には、予め各種態様の単段噴射を試験して、それら態様毎のうねり波形を取得しておく。前記各種態様の具体例としては、図4のP0(或いはP2)に相当する噴射開始時燃圧(供給燃圧)や、開弁時間Tqに相当する噴射量等の噴射条件を種々異ならせておくことが挙げられる。上記試験により得られたうねり波形、又はその得られたうねり波形を数式で表した波形は「モデル波形」に相当し、各種態様毎のモデル波形をECU30のメモリ(モデル波形記憶手段)に予め記憶させておく。
【0065】
なお、本実施形態では、以下の数式1で例示されるうねり波形を、上記モデル波形として記憶させている。数式1中のpはモデル波形の値(燃圧センサ20による検出圧力の規範値)を示す。数式1のA,k,ω,θは、減衰振動における振幅、減衰係数、周波数、位相をそれぞれ示すパラメータを示す。数式1中のtは経過時間を示す。そして、経過時間tを変数として検出圧力の規範値pが数式1で特定され、上記各パラメータA,k,ω,θが噴射態様(例えば噴射開始時燃圧や噴射量等)に応じて異なる値に設定されている。
【0066】
p=Aexp(−kt)sin(ωt+θ)・・・〔数式1〕
そして、例えばn−1回目噴射の余波(うねり波形)の規範となるモデル波形を取得したい場合には、n−1回目噴射の噴射開始時燃圧や噴射量等の噴射態様に基づき、メモリに記憶された各種態様毎のモデル波形の中から最も近い噴射態様のモデル波形を選択し、その選択したモデル波形を、n−1回目噴射の余波(うねり波形)の規範となるモデル波形CALn−1として取得する。例えば、図5(e)中の点線はモデル波形CALn−1を表し、図5(e)中の実線は(b)の検出波形Wを表す。そして、検出波形Wからモデル波形CALn−1を差し引く演算を実施して、図5(f)に示す圧力波形Wnを抽出する。このように抽出された圧力波形Wnは、前段噴射のうねり波形成分が除去されているので、n回目噴射に起因した噴射率変化との相関が高い圧力波形となっている筈である。
【0067】
図5(e)(f)の例では、n−1回目噴射のうねり波形を表すモデル波形CALn−1のみを検出波形Wから差し引いているが、n−2回目噴射以前の複数のうねり波形についても同様にモデル波形を取得して、取得した複数のモデル波形を検出波形Wから差し引くようにしてもよい。ちなみに、図6の例では、n−1回目噴射及びn−2回目噴射のうねり波形(モデル波形CALn−1,CALn−2)を検出波形Wから差し引いている。
【0068】
図9及び図10を用いて先述したように、「n回目噴射の噴射期間Tqnが長いほど検出波形W0n−1の脈動振幅A1が小さくなる」との知見を本発明者らは得ている。この知見を鑑みた本実施形態では、上述の如く選択したモデル波形CALn−1,CALn−2を、n回目噴射の噴射期間Tqnが長いほど減衰度合いの大きい波形に補正している。この「減衰度合い」とは、数式1に記載の減衰係数kに相当するものである。
【0069】
図6(c)(d)の例で説明すると、図中の実線に示すモデル波形CALn−1,CALn−2は、減衰度合いを大きくするよう補正した後の波形を示している。そして、図中の点線k1は補正後のモデル波形のピーク値に沿った漸近線を表しており、図中の一点鎖線k2は補正前のモデル波形のピーク値に沿った漸近線を表している。そして、数式1中の減衰係数kを変化させると、漸近線k1,k2の傾きが変化する。すなわち、「減衰度合い」を大きくさせるべく減衰係数kを大きくする補正を行うと、補正前の漸近線k2はk1に示す如くその傾きが大きくなるように補正される。
【0070】
図3の説明に戻り、うねり消し処理S23に続くステップS24においては、検出対象となっている噴射が1段目の噴射であると判定されている場合には(S22:NO)、ステップS21で取得した検出圧力値(圧力波形)を微分演算することにより、圧力微分値の波形を取得する。2段目以降の噴射の場合には(S22:YES)、ステップS23にてうねり消し処理が施された後の検出圧力値(圧力波形)を微分演算する。
【0071】
続くステップS25〜S28では、ステップS24にて取得した圧力微分値を用いて、図4(b)に示す各種噴射状態を算出する。つまり、ステップS25では燃料の噴射開始時期R3を、ステップS26では噴射終了時期R8を、ステップS27では最大噴射率到達時期R4及び噴射率下降開始時期R7を、ステップS28では最大噴射率Rβをそれぞれ算出する。なお、噴射量が少ない場合には、最大噴射率到達時期R4及び噴射率下降開始時期R7は一致することとなる。
【0072】
そして、続くステップS29では、ステップS25〜S28にて算出した噴射状態R3,R8,Rβ,R4,R7に基づき、実噴射開始から終了までの噴射率の積分値(斜線を付した符号Sに示す部分の面積)を算出し、その算出結果を実際の噴射量Qとする。前記面積Sは、噴射量が多い場合には台形に近い形状となり、噴射量が少ない場合には三角形に近い形状となる。なお、上記噴射状態R3,R8,Rβ,R4,R7の他に、噴射率の上昇率Rα及び噴射率の下降率Rγを圧力波形から算出し、これらの上昇率Rα及び下降率Rγを加味して噴射率の積分値S(噴射量Q)を算出するようにしてもよい。
【0073】
次に、上述したうねり消し処理S23の手順について、図7のフローチャートを用いて説明する。当該処理は、図4のステップS23に相当するサブルーチン処理であり、先ずステップS31にてm段目の噴射開始時燃圧P0mと、噴射量Qmを取得する。なお、噴射量Qmは、図3のステップS29で算出した噴射量を用いてもよいし、噴射指令信号による開弁時間Tqmから推定される噴射量を用いてもよい。
【0074】
続くステップS32では、ステップS31で取得した噴射開始時燃圧P0m及び噴射量Qmに基づき、メモリに記憶されている各種態様毎のモデル波形の中から、最も近い噴射態様のモデル波形CALmを選択する。続くステップS33では、n段目の噴射指令信号に基づき、n段目の噴射期間Tqnを取得する。続くステップS34(補正手段)では、ステップS33で取得した噴射期間Tqnに基づき、ステップS32で選択したモデル波形CALmの減衰係数kを補正する。
【0075】
より詳細に説明すると、図8は、減衰係数kに対する補正値cと噴射期間Tqとの関係(補正データ)を示しており、図8に示す特性マップは、予め実施した試験等に基づき設定されてECU30のメモリに記憶されている。そして、ステップS33で取得した噴射期間Tqnに基づき、図8の特性マップを参照して補正値cを決定する。そして、数式1中の減衰係数kをk×cとなるよう補正して、モデル波形CALn−1を補正する。図8の特性マップは、噴射期間Tqが長いほど減衰係数kを大きくするよう補正するとともに、噴射期間が長いほど減衰係数kの上昇率を小さくしていると言える。
【0076】
また、n回目噴射に起因した圧力波形Wnを抽出するにあたり、検出波形Wからn−2回目モデル波形CALn−2を差し引く場合には、n−2回目モデル波形CALn−2を補正するにあたり、n回目の噴射期間Tqnにn−1回目の噴射期間Tqn−1を加算した値に基づき図8の特性マップを参照して、n−2回目モデル波形CALn−2の減衰係数kに対する補正値cを決定する。
【0077】
続くステップS35(波形抽出手段)では、図3のステップS21で取得した検出波形Wから、ステップS34で補正した後のモデル波形CALm(図6の例ではCALn−1,CALn−2)を減算する。この減算により得られた波形は、図5(f)又は図6(e)に例示されるn回目噴射に起因した圧力波形Wnに相当する。
【0078】
以上により、本実施形態によれば、「n回目噴射の噴射期間Tqnが長いほど検出波形W0n−1の脈動振幅A1が小さくなる」との上記知見に基づき、n回目噴射(対象噴射)に起因した圧力波形Wnを抽出するにあたり、モデル波形CALn−1の減衰係数kをn回目噴射の噴射期間Tqnに応じて補正する。また、モデル波形CALn−2の減衰係数kを、n回目噴射の噴射期間Tqn及びn−1回目噴射の噴射期間Tqn−1に応じて補正する。
【0079】
よって、多段噴射時検出波形Wからn回目単段噴射時検出波形W0nを差し引いて得られる図9(d)の検出波形W0n−1に、モデル波形CALn−1を近づけることができるので、n回目噴射(対象噴射)に起因した圧力波形Wnを多段噴射時検出波形Wから高精度で抽出することができる。よって、実噴射状態R3,R8,Rβ,R4,R7,Qを高精度で検出でき、エンジンの出力トルク及びエミッション状態を高精度で制御できる。
【0080】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0081】
・上記実施形態によるモデル波形CALは数式1で表されており、経過時間tを変数として検出圧力の規範値pが数式1から算出できるよう、各パラメータA,k,ω,θを噴射態様(例えば噴射開始時燃圧や噴射量等)に応じて異なる値に設定して記憶させている。これに対し、経過時間tに対する検出圧力の規範値pをそのままマップ等に記憶させておき、当該マップを噴射態様如く記憶させてモデル波形として用いるようにしてもよい。
【0082】
・上記実施形態が適用される燃料噴射弁10は、制御弁14に2方弁を採用することに起因して、ニードル12を開弁作動させている噴射期間中には背圧室11cの燃料を常時リークさせる構成のものである。しかし本発明は、制御弁14に3方弁を採用した燃料噴射弁であって、噴射期間中であっても背圧室11cの燃料をリークさせない構成の燃料噴射弁にも適用できる。
【符号の説明】
【0083】
10…燃料噴射弁、11…ボデー、11c…背圧室、12…ニードル(弁体)、20…燃圧センサ、30…ECU(モデル波形記憶手段)、S21…検出波形取得手段、S34…補正手段、S35…波形抽出手段、CALn−1…n−1回目モデル波形、CALn−2…n−2回目モデル波形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関で燃焼させる燃料を噴孔から噴射する燃料噴射弁と、前記噴孔から燃料を噴射させることに伴い前記噴孔に至るまでの燃料供給経路内で生じる燃料圧力の変化を検出する燃圧センサと、を備えた燃料噴射システムに適用され、
前記内燃機関の1燃焼サイクル中に燃料を複数回噴射する多段噴射を実施している時に前記燃圧センサにより検出される圧力波形を、多段噴射時検出波形として取得する検出波形取得手段と、
多段噴射のうち2段目以降のいずれかの噴射を対象噴射とした場合に、前記対象噴射を実施することなく前記対象噴射よりも前段の噴射を実施している時の、圧力波形の規範となるモデル波形が記憶されたモデル波形記憶手段と、
前記モデル波形を前記多段噴射時検出波形から差し引いて、前記対象噴射に起因した圧力波形を抽出する波形抽出手段と、
前記抽出に用いる前記モデル波形を、前記対象噴射の噴射期間が長いほど減衰度合いの大きい波形に補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする燃圧波形取得装置。
【請求項2】
前記多段噴射のうちのn回目の噴射を前記対象噴射とした場合において、
前記モデル波形記憶手段には、前記モデル波形として少なくともn−1回目の噴射による圧力波形を表すn−1回目モデル波形、及びn−2回目の噴射による圧力波形を表すn−2回目モデル波形が記憶されており、
前記波形抽出手段は、前記多段噴射時検出波形から少なくとも前記n−1回目モデル波形及び前記n−2回目モデル波形を差し引くことで、前記n回目の噴射に起因した圧力波形を抽出することを特徴とする請求項1に記載の燃圧波形取得装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記n−1回目モデル波形についてはn回目の噴射期間に基づき減衰度合いを補正し、前記n−2回目モデル波形についてはn回目の噴射期間及びn−1回目の噴射期間に基づき減衰度合いを補正することを特徴とする請求項2に記載の燃圧波形取得装置。
【請求項4】
前記補正手段による減衰度合いを前記対象噴射の噴射期間が長いほど増大させるとともに、その噴射期間が長いほど、前記増大の変化率を小さくしていくことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃圧波形取得装置。
【請求項5】
前記燃料噴射弁は、
前記噴孔を開閉する弁体と、閉弁する向きに前記弁体へ燃料の背圧を付与する背圧室が形成されたボデーとを有し、
前記背圧室の燃料をリークさせることにより前記弁体を開弁作動させるよう構成されているとともに、
前記弁体を開弁作動させている噴射期間中には前記背圧室の燃料を常時リークさせるよう構成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の燃圧波形取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−2173(P2012−2173A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139474(P2010−139474)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】