説明

燃料噴射弁の制御方法

【課題】燃料噴射弁のノズルデポジットの生成を未然防止する燃料の噴射制御方法を提供する。
【解決手段】弁体と弁座との距離であるリフト高さを制御可能な燃料噴射弁の制御方法において、燃料噴射の開始後かつ終了前に、前記リフト高さを第一の高さに制御した後、前記第一の高さよりも低い第二の高さに制御する期間を所定期間設けることを特徴とする制御方法である。このような構成により、弁体のリフト高さを第一の高さで噴射される燃料の後で、弁体を第二の高さに低リフト化すると燃料の慣性力と開口面積の縮小により、噴口内壁近傍の燃料速度が上昇する。この高速の燃料流によって壁面に付着した汚損物質が洗い流される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射弁の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料噴射弁の先端は、燃焼室にさらされており、燃料噴射弁の弁体を含む燃料噴射弁の噴射孔近傍にカーボンなどのデポジットが付着することが知られている。付着したデポジットにより、噴射孔の実質的な流路面積が減少し、燃料噴射弁の燃料噴射特性に影響を与える。
【0003】
従来、このデポジットの付着を抑制する技術は種々考案されており、特許文献1は、弁体のリフト量を変化させることで燃料噴射率を低噴射率側と高噴射率側に切り替え、高噴射率側の燃料噴霧により噴孔近傍に堆積するデポジットを吹き飛ばすことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−239686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、燃料噴射弁に付着するデポジットを抑制・防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
弁体と弁座との距離であるリフト高さを制御可能な燃料噴射弁の制御方法において、燃料噴射の開始後かつ終了前に、前記リフト高さを第一の高さに制御した後、前記第一の高さよりも低い第二の高さに制御する期間を所定期間設けることを特徴とする制御方法である。
【0007】
このような構成により、弁体のリフト高さを第一の高さで噴射される燃料の後で、弁体を第二の高さに低リフト化すると燃料の慣性力と開口面積の縮小により、噴口内壁近傍の燃料速度が上昇する。この高速の燃料流によって壁面に付着した汚損物質が洗い流される。
【0008】
第一の高さに制御したときに燃料が噴射されることによる慣性力が十分に発達した後に弁体を第二の高さに制御するのが良い。第一の高さに制御する期間を十分取るために第二の高さに制御する期間は、燃料噴射期間を二分割した場合にはその後半のいずれかの時期とすることが良い。また、燃料噴射期間が終了する直前とすることで、確実に慣性力の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば噴射の度にノズル壁面に付着したカーボンや不揮発性不純物が効果的に洗浄,除去されるため、ノズルへのデポジット生成を未然防止できる。これによってノズルデポジットによる噴射流量や噴霧形状の変化を防ぐことができ、エンジンの燃費,排気,出力性能を長期にわたり維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例におけるエンジン断面図を示す。
【図2】本発明の一実施例におけるエンジン斜視図を示す。
【図3】本発明の一実施例における燃料噴射弁の断面図を示す。
【図4】(a)は、本発明の一実施例における燃料噴射弁の弁体側ガイド部の拡大図、(b)は、弁体側ガイド部の断面図を示す。
【図5】本発明の一実施例における燃料噴射弁を駆動,制御するための構成図を示す。
【図6】本発明の一実施例における噴射弁駆動電圧とリフト量の関係を示す。
【図7】本発明の一実施例における駆動電圧とリフト量の時間変化の例を示す。
【図8】本発明の一実施例における燃料噴射弁の閉弁時の噴射孔断面図を示す。
【図9】本発明の一実施例における燃料噴射弁の開弁時の噴射孔断面図を示す。
【図10】本発明の一実施例における噴霧形態の斜視図を示す。
【図11】本発明の一実施例における高リフト時の燃料挙動を示す。
【図12】噴口内のデポジット生成例を示す。
【図13】本発明の一実施例における噴射制御のフローチャートを示す。
【図14】本発明の一実施例における駆動電圧,リフトのシーケンスを示す。
【図15】本発明の一実施例における燃料速度変化を示す。
【図16】本発明の一実施例における高リフト時のノズル内燃料挙動を示す。
【図17】本発明の一実施例における低リフト時のノズル内燃料挙動を示す。
【図18】本発明の一実施例における低リフト時のノズル内燃料速度ベクトルを示す。
【図19】燃料速度のCFDシミュレーション結果を示す。
【図20】燃料速度のCFDシミュレーション結果を示す。
【図21】本発明の一実施例における弁リフトシーケンスを示す。
【図22】本発明の一実施例における弁リフトシーケンスを示す。
【図23】本発明の一実施例における弁リフトシーケンスを示す。
【図24】本発明の一実施例における燃料噴射弁の閉弁時の噴射孔断面図を示す。
【図25】本発明の一実施例における燃料噴射弁の低リフト開弁時の燃料挙動を示す。
【図26】本発明の一実施例における燃料噴射弁の高リフト開弁時の燃料挙動を示す。
【図27】本発明の一実施例における燃料噴射の弁体リフトと噴霧角の関係を示す。
【図28】均質,成層燃焼モードの切り替えフローを示す。
【図29】本発明の一実施例における燃焼モードマップを示す。
【図30】本発明の一実施例における均質燃焼モードでの燃焼室内の燃料挙動の模式図を示す。
【図31】本発明の一実施例における成層燃焼モードでの燃焼室内の燃料挙動の模式図を示す。
【図32】本発明の一実施例における燃料噴射弁の高リフト開弁時の燃料挙動を示す。
【図33】ノズルデポジットの生成状況を示す。
【図34】ノズルデポジット生成時の燃料噴射方向の変化を示す。
【図35】本発明の一実施例における噴射制御のフローチャートを示す。
【図36】本発明の一実施例における噴射制御のフローチャートを示す。
【図37】本発明の一実施例における駆動電圧,リフトのシーケンスを示す。
【図38】本発明の一実施例における噴霧角のシーケンスを示す。
【図39】本発明の一実施例における燃料速度の変化を示す。
【図40】本発明の一実施例における駆動電圧,リフトのシーケンスを示す。
【図41】本発明の一実施例における噴霧角のシーケンスを示す。
【図42】本発明の一実施例における駆動電圧,リフトのシーケンスを示す。
【図43】本発明の一実施例における噴射制御のフローチャートを示す。
【図44】本発明の一実施例における弁リフトシーケンスを示す。
【図45】本発明の一実施例における弁リフトシーケンスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の実施例における筒内噴射エンジンの構成を図1及び図2に示す。図1は本実施例における筒内噴射エンジンの縦断面図であり、図2はエンジンの本実施例における筒内噴射エンジンの斜視図である。
【0012】
シリンダヘッド100とシリンダブロック102、そしてシリンダブロック102に挿入されたピストン103により燃焼室110が形成され、燃焼室110のピストン103とは対向する壁面に燃料噴射弁106,燃料噴射弁106に近接して点火プラグ107が設置されている。燃焼室110に吸気ポート109と排気ポート111がそれぞれ開口しており、開口部を開閉する吸気弁104と排気弁105が設けられている。
【0013】
燃料噴射弁106は、図示しない燃料ポンプによって概ね10〜20MPaに加圧された燃料を燃料噴射弁106のノズル先端に設けた噴口から中空コーン状の噴霧形態で噴射するものである。噴射される噴霧SPのザウタ平均粒径は概ね10μm以下になるよう、燃料噴射弁106のノズル形態,燃圧などが設定されている。
【0014】
次に本実施例における燃料噴射弁106の形態について図3から図12を用いて説明する。
【0015】
図3は、燃料噴射弁の内部構造を示す断面図である。ノズル2は円筒状でその内部に弁体1が挿入されており、弁体1はノズル2に対して軸方向に動く構造になっている。そして、弁体1とノズル2には、弁体1の軸方向の動きを案内するための弁体側ガイド部5とノズル側ガイド部6が設けられている。弁体1はノズル2の内径よりも細くなっており、弁体1とノズル2との間の隙間が燃料流路4となっている。
【0016】
図4(a)は、弁体側ガイド部の拡大図を示しており、図4(b)は、弁体側ガイド部の断面を示している。弁体側ガイド部5には4面カット26が施されており、4面カット部26とノズル側ガイド部6の間には隙間があるため、燃料流路4を流れる燃料の流れを妨げない構造になっている。
【0017】
燃料は燃料流路4を通って、噴射孔3へ送られる。通常、弁体1は閉弁用ばね7により引っ張られているため、弁体1とノズル2は絞り部12において接触しているため、噴射孔3からは燃料は噴射されない。なお、弁体1の噴射孔3と軸方向の反対側には、弁体1の軸方向のリフト量を制御するためのピエゾ素子30が設けられている。ピエゾユニットからはリード線31が噴射弁外部に引き出されている。リード線31に電圧が印加されるとピエゾ素子30が軸方向に伸び、弁体1が押し下げられて絞り部12に間隙が生じ、噴射孔3より燃料が噴射される。
【0018】
図5に燃料噴射弁を駆動,制御するための構成図を示す。図5において113は燃料噴射弁のドライバユニットであり、112はエンジン制御ユニット(ECU)である。ECU112はドライバユニット113に対して、噴射弁106のリフト量Liとリフト変更指令CLを送る。ドライバユニット113はECUからリフト指令CLを受けると、燃料噴射弁106のリフト量がECUから指令されたLiになるように所定の駆動電圧Viを噴射弁106に印加する。
【0019】
図6は燃料噴射弁駆動電圧Viと噴射弁リフトLiとの関係を示す。噴射弁リフトLiは駆動電圧Viに比例する。この関係を用いて要求リフト量Liに対する駆動電圧Viをドライバユニット113内で求め、所定の電圧が噴射弁106に印加される。
【0020】
図7は駆動電圧とリフト量の時間変化の例を示している。ドライバユニットはリフト指令CLがECUから送られると直ちに要求リフト量に応じた駆動電圧を燃料噴射弁に印加する。そして次のリフト指令CLが送られるまでその駆動電圧を維持する。ピエゾユニットの応答は極めて高速であるため、駆動電圧が変化すると燃料噴射弁のリフト量は直ちに駆動電圧に応じた高さに変化する。このように、駆動電圧波形と燃料噴射弁のリフト量時間プロファイルはほぼ相似な関係が得られる。
【0021】
次に、噴射孔3の構造を図8を用いて説明する。図8は、閉弁時の噴射孔3の内部構造を示す断面図である。噴射孔3内では、ノズル2と弁体1とがそれぞれ略円錘表面状のテーパを有する。弁体9のテーパ角16(テーパ面とその反対にあるテーパ面がなす角度)は例えば90゜、ノズル10のテーパ角14は例えば60゜である。すなわち、弁体1のテーパ角16はノズルのテーパ角14に比べて大きくなっている。また弁体1の下端部直径21はノズル開口部の直径Φに比べて大きくなっている。
【0022】
弁体1を上に押し上げると弁体1とノズル2が円周面35で接触し、噴口内の燃料と外部とが遮断される。このように弁体が閉じた状態で燃料が円周面35によって線シールされることで、弁体やノズルの加工公差や熱変形に対して高い機密性を保持することができる。
【0023】
次に弁体が開弁時の噴口内の燃料挙動について図9を用いて説明する。図9は開弁時の噴射孔3の内部構造を示す断面図である。
【0024】
弁体1が下に押し下げられると、弁体1とノズル2の間に隙間が生じ、燃料流路4内の高圧燃料が燃料液膜36として外部に噴出する。弁体及びノズルのテーパ面にそって燃料が流れるため、噴射される燃料液膜は中空円錐形状となる。液膜36の厚さは噴口から離れるに従い薄くなり、その先端が分裂して微細な液滴37が発生する。
【0025】
図10は生成された噴霧形態の斜視図である。図10に示すように、本実施例における燃料噴射弁106では中空コーン状の噴霧が形成される。
【0026】
次に図11を用いて、噴口内の燃料の流れについてさらに詳細に説明する。図11は図9に示すAの部分を拡大した図である。図11において38は噴口内の燃料の流れを示している。燃料は燃料流路4内を軸方向に下降し、弁体1,噴口2のテーパによって流れの方向を半径方向に曲げられ、開口部39から外部へ流出する。一般に燃料流路4内を流れる燃料の速度は数十m/s以上と高速となることから、燃料には軸方向下向きに強い慣性力が働く。このため、テーパ部では燃料は弁体1側に強く押し付けられる。一方、同じ慣性力によってテーパ部で燃料はノズル2の壁面からは引き離される。この結果、開口部39において、ノズル2表面近傍の燃料速度U2は弁体1表面近傍の燃料速度U1に比べて大幅に小さくなる。
【0027】
一方、噴口内の壁面上には、燃焼によって生成されるカーボンや、燃料内に含まれるガム質などの不揮発性不純物が付着する。これらカーボンや不純物は壁面近傍に高速の燃料流れがあれば、噴射の度に、燃料流れのせん断力によって壁面から洗い流され堆積することは無い。しかし、壁面近傍の燃料速度が遅い場合には燃料流れのせん断力が弱いため、壁面についたカーボンや不純物は充分に洗い流されず、燃料噴射,燃焼を繰り返す度に壁面上に蓄積する。このため図12に示されるように、燃料流れが遅いノズル2の表面上に開口部39が形成される。開口部39は、燃料の噴射流量低下や噴霧形状変化を引き起こし、エンジンの排気エミッション悪化や出力低下の原因となる。
【0028】
次に図13を用いて本発明の第一の実施形態における燃料噴射の方法について説明する。
【0029】
図13は本実施例における燃料噴射時のECU内での処理フローを示す。処理501において、燃料噴射弁の目標リフト量L1,L2,L3、それぞれのリフト量の保持期間Δt1,Δt2,Δt3,噴射開始クランク角CRsを設定する。ここにL1,L2,L3,Δt1,Δt2,Δt3,CRsはECUに入力されるアクセル開度,エンジン回転数,車速,ギアポジション,油水温,燃圧等の種々の情報に基づき、予め定めた適切な空燃比,噴射タイミングとなるように設定される。
【0030】
また、リフト量L1,L2,L3の大小関係については、L1>L2>L3となるように各リフト量が決められる。例えばリフト量L2はリフト量L1の1/2〜1/5程度に設定される。またはリフト量L2は必ずしもリフト量L1の大きさによって変更する必要はなく、例えばリフト量L1が常に30μm以上に設定されることが予め判っていれば、リフト量L2をこれよりも小さな値(例えば10μm)に固定しても良い。ただしリフト量L2の状態に維持したときに一定量(例えばリフト量をL1に設定した場合の単位時間当たり噴射量に対して1/2〜1/5程度)以上の燃料が噴射されるように設定される。
【0031】
さらにリフト量L2の保持期間Δt2はリフト量L1の保持期間Δt1よりも短いことが望ましい。また保持期間Δt2は予め短い期間(例えば0.3ms)に固定しても良い。
【0032】
一方、リフト量をL3に維持したときの単位時間噴射量は例えばリフト量をL1に設定した場合の単位時間当たり噴射量に対して1/100以下程度になるように、リフト量L3は非常に小さな値に設定される。またΔt3についてもΔt1の1/10以下程度、例えば0.2ms程度と短い期間に設定される。すなわちリフト量L1でΔt1間に噴射される燃料量Mf1に対して、リフト量L3でΔt3間に噴射される燃料量Mf1は1/1000以下程度と非常に小さく、Δt3における燃料噴射量は燃焼に対してはほぼ無視することができる。
【0033】
例えば、ECUに入力された種々の情報に基づき、エンジンが暖機された状態で、かつエンジンの要求負荷が中、高負荷と判断された場合には、均質燃焼モードが選択され、シリンダ内の空燃比が理論空燃比(A/F=14.7)となるように、吸入空気量から必要噴射量Mfが求まる。リフト量L1でΔt1間に噴射される燃料量Mf1とリフト量L2でΔt2間に噴射される燃料量Mf2の合計、Mf1+Mf2が必要噴射量Mfとなるように要求リフト量L1,L2,リフト保持期間Δt1,Δt2が決定される。また燃料噴射が吸気行程内で行われるように、噴射開始クランク角CRsが例えば吸気上死点後90°に設定される。
【0034】
例えば、ECUに入力された種々の情報に基づき、エンジンが暖機された状態で、かつエンジンの要求負荷が低負荷と判断された場合には、成層燃焼モードが選択され、シリンダ内の空燃比が理論空燃比よりも大きく(例えばA/F=90)なるように、吸入空気量から必要噴射量Mfが求まる。リフト量L1でΔt1間に噴射される燃料量Mf1とリフト量L2でΔt2間に噴射される燃料量Mf2の合計、Mf1+Mf2が必要噴射量Mfとなるように要求リフト量L1,L2,リフト保持期間Δt1,Δt2が決定される。また燃料噴射が圧縮行程後期で行われるように、噴射開始クランク角CRsが例えば吸気上死点後330°に設定される。
【0035】
処理502において、現在のクランク角が噴射開始クランク角CRsに到達するまで待機する。
【0036】
クランク角が噴射開始クランク角CRsに到達すると処理503において、ドライバユニットに要求リフト量L1とリフト変更指令CLを送信するとともにタイマーをリセット(t=0)する。これによりタイマーには噴射開始からの経過時間が示される。
【0037】
処理504において経過時間tとリフト保持期間Δt1を比較し、経過時間がΔt1になったら、処理505に移る。
【0038】
処理505においてドライバユニットに要求リフト量L2とリフト変更指令CLを送信する。
【0039】
処理506において経過時間tとリフト保持期間Δt1+Δt2を比較し、経過時間がΔt1+Δt2になったら処理507に移る。
【0040】
処理507においてドライバユニットに要求リフト量L3とリフト変更指令CLを送信する。
【0041】
処理508において経過時間tとリフト保持期間Δt1+Δt2+Δt3を比較し、経過時間がΔt1+Δt2+Δt3になったら処理509に移る。
【0042】
処理509においてドライバユニットに要求リフト量L=0とリフト変更指令CLを送信する。
【0043】
以上示した燃料噴射時の処理フローによって、燃料噴射弁に印加される電圧とリフト量は図14に示すようになる。
【0044】
時刻t=0においてドライバユニットから燃料噴射弁に対してリフト量L1に相当する駆動電圧V1が印加され、噴射弁のリフト量がゼロ(閉弁状態)からL1になり、燃料噴射が開始される。
【0045】
時刻t=0からΔt1の期間でリフト量L1が維持された後、時刻t=Δt1においてドライバユニットから燃料噴射弁に対してリフト量L2に相当する駆動電圧V2が印加され、噴射弁のリフト量がL1からよりリフト量の小さなL2に変更される。
【0046】
時刻t=Δt1+Δt2からΔt1+Δt2+Δt3の期間でリフト量L3が維持された後、時刻t=Δt1+Δt2+Δt3においてドライバユニットから燃料噴射弁に印加される駆動電圧が0となり、噴射弁が閉弁し燃料噴射が終了する。
【0047】
ここで、t=Δt1+Δt2からt=Δt1+Δt2+Δt3にかけて非常に小さなリフト量(L3)を維持してから閉弁動作を行っているのは、閉弁時の弁体のバウンシング,打音を抑えるためである。すなわち高いリフト量から急激に閉弁すると、弁体がノズル壁面に高速で衝突するため、弁体にバウンシングが発生したり、大きな打音が発生したりするおそれがある。閉弁直前に非常に低いリフト状態を介することによって弁体が閉弁するときの衝撃をやわらげ、バウンシング,打音を低減できる。ただし非常に低いリフト状態では、噴射速度が低下して微粒化が悪化したり、弁体の軸ずれによって噴霧形状が変化したり、リフトのばらつきにより流量が変動したりして、燃焼が悪化するおそれがある。従ってリフト量L3の状態で噴射される燃料量が全噴射量に対して無視できるぐらい小さくなるようにリフト量L3,リフト維持期間Δt3を設定しているのである。
【0048】
このように燃料噴射弁のリフト量を変化させることによって、ノズル内の燃料速度を変化させる事ができる。図15はノズル壁面近傍の燃料速度(図11のU2)の時間変化を示している。t=0で開弁するとノズル内に燃料が流れノズル壁面近傍の燃料速度はU21になる。t=Δt1まではリフト量がL1に保たれるため燃料速度はU21に保たれる。t=Δt1を過ぎるとノズル壁面近傍の燃料速度は急激に上昇し、t=t_umaxにおいて最大速度U22に到達する。t=Δt1+Δt2でリフト量がL3になると、噴射量はほぼゼロになるため、t=t_umaxからt=Δt1+Δt2にかけて流速が減少し、t=Δt1+Δt2でほぼゼロとなる。
【0049】
次にt=t_umaxにおける燃料速度の上昇理由について図16及び図17を用いて説明する。図16はt=0〜Δt1、リフト量L1のノズル内の燃料流れを示している。図17はt=t_umax、リフト量L2のノズル内の燃料流れを示している。液膜を効率良く微粒化するためには噴射弁から噴射される燃料速度は充分速くする事が必要である。例えばリフト量L1で噴射されているときの燃料噴射速度Uo1は100〜200m/s程度である。このため噴射される燃料には強い慣性力が働いている。
【0050】
時刻t=Δt1でリフト量がL1からL2に急速に下がっても、慣性力のため燃料は直ぐには流量が低下しない。一方、リフト量がL2に下がることによって開口面積が減るため噴射速度(=流量/開口面積)Uo2はリフト量L1の場合のUo1に比べ大きくなる。またリフト量が下がることによって開口部39が絞られるため、図18に示すように噴口内の速度分布が均一化する。すなわちノズル壁面近傍の燃料速度U22は弁体表面近傍の燃料速度U12とほぼ同等になる。これら慣性力,開口面積の減少,速度分布の均一化の作用により、ノズル壁面近傍の燃料速度U22はリフトがL1に維持されている場合に比べ大幅に上昇する。
【0051】
図19にはリフト量をL1からL2に変化させた場合のノズル壁面近傍の燃料速度U2の変化を示す。本結果は流体数値シミュレーション(CFD)を用いて計算した結果である。図19より、リフト量がL1からL2に下がった直後に、燃料速度が急激に上昇し、その後低下する様子が確認できる。
【0052】
ノズル壁面近傍の速度が上昇することによってノズル壁面上に付着したカーボンや不揮発性不純物が燃料のせん断力によって洗浄,除去される。この洗浄,除去は燃料噴射の度に繰り返し行われるため、ノズル壁面へのデポジット成長を未然に予防できる。
【0053】
なお、上記で説明したように、リフト量を下げることによって燃料流速を増大させるにはリフトを下げる前に燃料に充分な慣性力が作用している必要がある。従って、開弁初期のように燃料が止まっている状態から小さなリフト量に設定しても燃料速度は充分に上昇しない。図20は、閉弁状態から小さなリフト量L2で開弁し、L2の状態をしばらく維持した後にリフト量をより大きなL1に設定した場合の燃料速度の変化を示している。本結果も流体数値シミュレーション(CFD)を用いて計算した結果である。リフト量の小さい状態(L2)での最大流速はリフト量の大きな状態(L1)の燃料速度と同等であり、速度上昇が図れていないことが確認できる。
【0054】
同様に、弁体のバウンシングや打音を抑えるためにリフトをL3に下げる動作では、L3に下げる直前の燃料流速が低下しているため、充分な慣性力が働かず燃料の速度上昇を図ることができない。
【0055】
よって高速の燃料流を生成して効果的にデポジットを防止するには、リフト量が高く充分な量の燃料が噴射されている状態(主噴射状態)と、弁体のバウンシングや打音を抑えるための極低流量の低リフト状態の間に中間的なリフト量を維持する状態を作る事が必要である。
【0056】
なお、弁体のバウンシングや打音を抑えるための弁制御は、例えば図21に示すように段階的にリフトを下げる方式でもよい。また弁体のバウンシングや打音を抑えるための弁制御は、例えば図22や図23に示すようにリフトを連続的に下げる方式でもよい。弁体のバウンシングや打音を抑えるための弁制御期間で噴射される燃料量は全噴射量(開弁から閉弁までの噴射量)に対して非常に小さくなる(概ね0.1%以下になる)ようにそのリフト量やリフトプロファイル,制御期間が設定される。
【0057】
また図13のフローで示したように弁体のリフト量をL2に保持して洗浄する制御を、主たる燃料噴射(リフトL1での噴射)の期間Δt1によって禁止してもよい。すなわち図43に示すように、処理550によって主たる噴射の期間Δt1が予め定めた閾値Δtcより大きい場合はノズル洗浄動作(リフトL2による燃料噴射)を加えた燃料噴射を実施する(図44)。一方、処理550によって主たる燃料噴射の期間Δt1が予め定めた閾値Δtcより小さい場合はノズル洗浄動作(リフトL2による燃料噴射)を加えないで燃料噴射を実施する(図45)。
【0058】
1サイクル内で複数回に分けて燃料を噴射する分割噴射などでは、噴射期間が燃焼性能に大きく影響を与える事がある。この場合にリフト量L2による洗浄動作を加えると噴射期間が長くなり燃焼が悪化するおそれがある。主たる噴射期間Δt1によって洗浄動作を加えるか否かを切り替えることによって、このような課題を解消できる。
【0059】
次に本発明における第二の実施形態について説明する。
【0060】
本発明における第二の実施形態の燃料噴射弁の基本構造は第一の実施形態の燃料噴射弁と同様であり、噴射孔の構造のみが異なる。第二の実施形態の燃料噴射弁の噴射孔3の構造を図24を用いて説明する。図24は、閉弁時の噴射孔3の内部構造を示す断面図である。噴射孔3内では、ノズル2と弁体1とがそれぞれ略円錘表面状のテーパを有する。弁体側テーパ面9のテーパ角16(テーパ面とその反対にあるテーパ面がなす角度)は例えば90゜、ノズル上流側テーパ面10のテーパ角14は例えば80゜、そしてノズル下流側テーパ面11のテーパ角15は例えば100゜である。すなわち、ノズル上流側テーパ面10,弁体側テーパ面9,ノズル下流側テーパ面11の順に、テーパ角が大きくなっていく。閉弁時は絞り部12で弁体1とノズル2は接触しており、このときの弁体終端部に対してノズル終端部はδだけ突出している。ノズル終端部直径をΦとすると、突出量δは例えばΦの0.5%程度である。
【0061】
燃料は弁体1とノズル2との隙間にある燃料流路4を通り絞り部12に到達するが、このとき絞り部12で弁体1とノズル2は接触しているため、絞り部12において燃料の流れは遮断され、燃料は噴射されない。
【0062】
図25は弁体のリフト量が小さいときの噴射孔の内部構造を示す断面図である。弁体のリフト量が小さいときは、弁体1とノズル2との隙間にある燃料流路4を通ってきた燃料は、絞り部12とノズル側テーパ面11と弁体側テーパ面9で構成される流路拡大部13を通り、燃料噴射装置の外部へ噴射される。一般に燃料噴射装置は略円筒形をしているため、燃料流路が外径側に向かう弁体付近では流路断面積は水平方向に拡大する。本実施例にかかる流路拡大部13では、軸方向を含む断面における流路断面が、燃料流路下流に行くにしたがって拡大していく。すなわち、本実施例では、水平方向のみならず垂直方向にも流路が拡大するのである。このとき、流路拡大部13の流路の広がり角は5゜程度と小さいため、燃料の流れは流路一面に広がって噴射孔へ進む。本実施例では、弁体1のリフト量が小さい(弁体1がノズル2に接触しているときも含む)ときには、噴射孔では、ノズル終端部は弁体終端部よりも噴射の方向に突き出ており、噴射孔先端部では弁体側の流路壁が存在しない。換言すれば、燃料の流れの方向(ノズル下流側テーパ面11の稜線方向)に向かって、ノズル2の終端部2aが弁体1の終端部1aに対して、前記弁体の弁体側テーパ面の稜線方向に突き出ている。一般に、コアンダ効果として知られているように、噴射される液体の近傍に壁面があると、液体はその壁面に沿って流れる性質がある。図25に示した状態では、コアンダ効果により噴射孔先端部で流れはノズル側テーパ面11に偏り、噴射される燃料はノズル側テーパ部に沿った流れ18となって噴射される。
【0063】
図26は、弁体のリフト量が大きいときの噴射孔の内部構造を示す断面図である。
【0064】
弁体のリフト量が大きいときは、弁体1とノズル2との隙間にある燃料流路4を通ってきた燃料は、絞り部12とノズル側テーパ面11と弁体側テーパ面9で構成される流路拡大部13を通り、燃料噴射装置の外部へ噴射される。このとき、流量が大きい、すなわち流れが速く、絞り部12で角度が変化するため、流路拡大部13ではノズル側テーパ面11で流体の剥離が生じる。これにより、燃料の流れは弁体側テーパ面9に偏るため、噴射される燃料は弁体側テーパ面9に沿った流れ19となって噴射される。
【0065】
なお、このとき弁体終端部1aはノズル終端部2aよりも噴射の方向(または弁体テーパ面9の稜線方向)に突出していることが燃料の噴出を弁体テーパ面9に沿わせる上で望ましいが、これに限らず突出していなくても良い。弁体1とノズル11の間隔がリフト量小の場合と比べて大きいため、弁体1のテーパ面9に沿った流れはノズル2のテーパ面11の影響を受けにくいからである。
【0066】
これにより、弁体のリフト量が小さいときはノズルテーパ面に沿った噴霧角となり、弁体のリフト量が大きいときは弁体テーパ面に沿った噴霧角となるため、弁体のリフト量を制御することで噴霧角を制御することが可能となる。
【0067】
図27に、上記の構造で構成された燃料噴射装置の弁体のリフト量と噴霧角度との関係を示す。弁体1のリフト量が大きくなるにつれ、噴霧角が徐々に小さく変化していることがわかる。この結果から、噴霧角度は弁体のリフト量を増加させるに従って連続的に小さくなっており、弁体のリフト量を制御することで噴霧角度の制御が可能である。
【0068】
図28にエンジン制御装置(ECU)内で実施されるエンジン制御の手順を示す。
【0069】
処理521においてエンジンに対する要求トルク,回転数から燃焼モードの判定を行う。エンジンの要求トルクは、アクセルペダル開度や変速ギアポジション,車速,油水温等の情報から総合的に求められる。図29に示すようにエンジン回転数とトルクのマップに対して燃焼モードが割り付けられており、本マップに従い、要求トルク,回転数から均質燃焼にするか、成層燃焼にするかの判断が行われる。
【0070】
処理521において均質燃焼モードと判断された場合は、噴霧角度θ_narrowで吸気行程に燃料を噴射する(処理522)。より具体的には、本実施例の燃料噴射弁では、図27に示すように噴射弁のリフト量が高いと噴霧角が狭くなる。そこで噴霧角が最も狭いθ_narrowとなるリフト量L_highで燃料を噴射する。このときの燃料噴射量はシリンダ内が概ね理論空燃比(A/F=14.7)となるように燃料の噴射期間が決められる。
【0071】
一方処理521において成層燃焼モードと判断された場合は、噴霧角度θ_wideで圧縮行程に燃料を噴射する(処理523)。より具体的には、本実施例の燃料噴射弁では、図27に示すように噴射弁のリフト量が低いと噴霧角が広くなる。そこで噴霧角が最も広いθ_wideとなるリフト量L_lowで燃料を噴射する。このときの燃料噴射量はシリンダ内の空燃比が理論空燃比よりも大きくなる(例えばA/F=50)となるように燃料の噴射期間が決められる。このときの設定空燃比はエンジンの要求負荷や回転数等に応じて予め決められている。
【0072】
このように、均質燃焼モードでは噴射弁のリフト量を高くすることで狭い噴霧角の噴霧を吸気行程に噴射して、成層燃焼モードでは噴射弁のリフト量を低くすることで広い噴霧角の噴霧を圧縮行程に噴射する。
【0073】
均質燃焼モードにおいて吸気行程で燃料を噴射するのは燃料と空気を良く混ぜるためである。この時の噴霧とガス流れの形態を図30に示す。吸気行程であるために吸気弁104は開いており、吸気ポート109からシリンダ内へ強いガス流動GFが生じている。噴霧が壁面に衝突すると壁流が生成され、燃料の気化や空気との混合が悪くなる。これはエンジンの排気悪化や燃費効率の低下につながる。本実施例では均質燃焼モードで噴霧SPの噴霧角を狭くすることで、噴霧の吸気弁104やシリンダ壁への衝突,付着を防止できる。
【0074】
一方成層燃焼モードにおいて圧縮行程で燃料を噴射するのは点火プラグ近傍の燃料濃度をその周辺に対して高くするためである。この時の噴霧形態を図31に示す。圧縮行程であるために吸気弁104は閉じてシリンダ内のガス流動は吸気行程に比べ弱くなっている。ピストンは上死点近傍にまで上がってきている。本実施例では成層燃焼モードで噴霧SPの噴霧角を広くすることで、点火プラグ107の電極近傍に燃料を集めることができる。これによって全体として希薄な混合気を安定に着火,燃焼できる。また噴霧角が広いために噴霧の垂直方向(シリンダ軸方向)の貫徹力が弱まり、噴霧がピストンに衝突,付着することを防止できる。これによってエンジンの排気悪化や燃費効率の低下を防止できる。
【0075】
図32はリフト量L_high時の噴射弁ノズル断面を示している。リフト量が高い状態で燃料噴射が行われている場合、ノズルのテーパ面11の表面では燃料が剥離し燃料流路内に空隙40ができる。これは絞り部12で角度でノズルのテーパ面が変化し、下流側のテーパ面11が広がっているためである。燃料の慣性力によって燃料はテーパ面10の角度に沿って流れようとするためテーパ面11で剥離が生じる。特に弁体が高リフトの状態では弁体1とテーパ面11の間隔が広いため剥離が生じやすい。
【0076】
テーパ面11の表面には燃料の流れが無いため、燃焼で生じたカーボンなどが付着しても燃料の流れによって洗い流されることがない。またテーパ面11は燃料による冷却もされにくいため高温の燃焼ガスから熱を受けて温度が高くなりやすい。
【0077】
例えばエンジンへの要求負荷が高い状態が続き、噴射弁のリフト量が高い均質燃焼モードが長時間継続すると、燃料による洗い流し作用が無いこと、温度が高いことから、図33に示すようにテーパ面11に開口部39が生じる。
【0078】
開口部39がテーパ面11に生じると、成層運転モードで広角の噴霧を噴射するために弁体1のリフト量が低く設定しても所定の噴霧角が得られなくなる。図34に示すようにデポジットが無い場合には、弁体を低リフト量に設定すると本来、燃料流れ18が得られるが、テーパ面11に開口部39が生じていると流れがテーパ面11に沿うことができないため燃料流18bは本来の燃料流れ18に比べ内側を向いて噴射される。すなわちテーパ面11への開口部39の生成によって噴霧角が所定の角度より狭くなり、成層燃焼モードで混合気への着火性が悪化したり、排気が悪化したりする。
【0079】
そこで本発明による第二の実施例では以下で説明する燃料噴射制御を行う。図35に本発明による第二の実施例における燃料噴射時のECU内での処理フローを示す。
【0080】
処理531においてエンジンに対する要求トルク,回転数から燃焼モードの判定を行う。エンジンの要求トルクは、アクセルペダル開度や変速ギアポジション,車速,油水温等の情報から総合的に求められる。図29に示すようにエンジン回転数とトルクのマップに対して燃焼モードが割り付けられており、本マップに従い、要求トルク,回転数から均質燃焼にするか、成層燃焼にするかの判断が行われる。
【0081】
処理531において成層燃焼モードと判断された場合は、噴霧角度θ_wideで圧縮行程に燃料を噴射する(処理533)。より具体的には、本実施例の燃料噴射弁では、図27に示すように噴射弁のリフト量が低いと噴霧角が広くなる。そこで噴霧角が最も広いθ_wideとなるリフト量L_lowで燃料を噴射する。このときの燃料噴射量はシリンダ内の空燃比が理論空燃比よりも大きくなる(例えばA/F=50)となるように燃料の噴射期間が決められる。このときの設定空燃比はエンジンの要求負荷や回転数等に応じて予め決められている。
【0082】
一方、処理531において均質燃焼モードと判断された場合は、処理532において基本噴霧角度をθ_narrowに設定する。より具体的には、本実施例の燃料噴射弁では、図27に示すように噴射弁のリフト量が高いと噴霧角が狭くなる。そこで噴霧角が最も狭いθ_narrowとなるリフト量を基本リフト量に設定する。次に処理533において後述する洗浄動作を付加して吸気行程に燃料を噴射する。このときの燃料噴射量はシリンダ内が概ね理論空燃比(A/F=14.7)となるように燃料の噴射期間が決められる。
【0083】
次に図36を用いて処理533について詳細に説明する。図36は処理533におけるECU内での処理フローを示す。
【0084】
処理540において、燃料噴射弁の目標リフト量L1,L2,L3、それぞれのリフト量の保持期間Δt1,Δt2,Δt3,噴射開始クランク角CRsを設定する。ここにL1は噴霧角がθ_narrowになるときのリフト量であり図27に示すリフト量と噴霧角の関係から求められる(L1=L_high)。
【0085】
またL2は噴霧角がθ_wideになるときのリフト量であり、L1と同様に図27に示すリフト量と噴霧角の関係から求められる(L2=L_low)。またリフト量をL3に維持したときの単位時間噴射量は例えばリフト量をL1に設定した場合の単位時間当たり噴射量に対して1/100以下程度になるように、リフト量L3は非常に小さな値に設定される。
【0086】
Δt1,Δt2,Δt3,CRsはECUに入力されるアクセル開度,エンジン回転数,車速,ギアポジション,油水温,燃圧等の種々の情報に基づき、予め定めた適切な空燃比,噴射タイミングとなるように設定される。
【0087】
リフト量L2の保持期間Δt2はリフト量L1の保持期間Δt1よりも短いことが望ましい。また保持期間Δt2は予め短い期間(例えば0.3ms)に固定しても良い。
【0088】
またΔt3についてもΔt1の1/10以下程度、例えば0.2ms程度と短い期間に設定される。すなわちリフト量L1でΔt1間に噴射される燃料量Mf1に対して、リフト量L3でΔt3間に噴射される燃料量Mf1は1/1000以下程度と非常に小さく、Δt3における燃料噴射量は燃焼に対してはほぼ無視することができる。
【0089】
例えば、シリンダ内の空燃比が理論空燃比(A/F=14.7)となるように、吸入空気量から必要噴射量Mfが求まる。リフト量L1でΔt1間に噴射される燃料量Mf1とリフト量L2でΔt2間に噴射される燃料量Mf2の合計、Mf1+Mf2が必要噴射量Mfとなるように要求リフト量L1,L2,リフト保持期間Δt1,Δt2が決定される。また燃料噴射が吸気行程内で行われるように、噴射開始クランク角CRsが例えば吸気上死点後90°に設定される。
【0090】
処理541において、現在のクランク角が噴射開始クランク角CRsに到達するまで待機する。
【0091】
クランク角が噴射開始クランク角CRsに到達すると処理542において、ドライバユニットに要求リフト量L1とリフト変更指令CLを送信するとともにタイマーをリセット(t=0)する。これによりタイマーには噴射開始からの経過時間が示される。
【0092】
処理543において経過時間tとリフト保持期間Δt1を比較し、経過時間がΔt1になったら、処理544に移る。
【0093】
処理544においてドライバユニットに要求リフト量L2とリフト変更指令CLを送信する。
【0094】
処理545において経過時間tとリフト保持期間Δt1+Δt2を比較し、経過時間がΔt1+Δt2になったら処理546に移る。
【0095】
処理546においてドライバユニットに要求リフト量L3とリフト変更指令CLを送信する。
【0096】
処理547において経過時間tとリフト保持期間Δt1+Δt2+Δt3を比較し、経過時間がΔt1+Δt2+Δt3になったら処理548に移る。
【0097】
処理548においてドライバユニットに要求リフト量L=0とリフト変更指令CLを送信する。
【0098】
以上示した燃料噴射時の処理フローによって、燃料噴射弁に印加される電圧とリフト量は図37に示すようになる。
【0099】
また以上示した燃料噴射時の処理フローによって、燃料噴射弁から噴射される噴霧の角度は図38に示すようになる。
【0100】
すなわちリフトL1で噴射されるt=0からt=Δt1では狭角噴霧角θ_narrowで噴射され、リフトL2,L3で噴射されるt=Δt1から閉弁前までは広角噴霧角θ_wideで噴射される。
【0101】
図39はノズルテーパ面12近傍の燃料速度を示している。リフト量がL2の場合のノズル内の燃料流れを示している。図32に示したようにリフト量が大きい場合(L1)にはノズルテーパ面12で燃料流れが剥離するため、燃料速度はゼロである。t=Δt1でリフト量がL2に下がると図25に示したように燃料はノズルテーパ面12に沿って流れるようになる。このためt=Δt1〜Δt1+Δt2以降ではノズルテーパ面12の近傍の燃料速度が急速に上昇する。t=Δt1+Δt2でリフトがL3に下がると燃料が殆ど流れなくなるためノズルテーパ面12の近傍の燃料速度はほぼゼロとなる。
【0102】
t=Δt1〜Δt1+Δt2の期間においてノズルテーパ面12の近傍の燃料速度が上昇するため、この燃料流れによってノズルテーパ面上に付着したカーボンや不揮発性不純物が燃料のせん断力によって洗浄,除去される。この洗浄,除去は燃料噴射の度に繰り返し行われるため、ノズルテーパ面へのデポジット成長を未然に予防できる。
【0103】
なお図40,図41に示すようにリフト量L1での噴射前にリフト量L2の噴射を行うことで噴射開始直後の噴霧角を広くしてから噴霧角を狭くしても良い。この場合のノズルテーパ面近傍の燃料速度は図42に示すように、噴射開始直後で速く、その後噴霧角が狭くなるとほぼゼロとなる。噴射開始直後のノズルテーパ面近傍の燃料流によってノズルテーパ面上に付着したカーボンや不揮発性不純物が洗浄,除去される。
【0104】
但し前述したように弁体が高リフトの状態で噴射してから弁体リフトを下げると燃料自身が持つ慣性力によって燃料速度が上昇する。このため、図37で示したように、狭い噴霧角から広い噴霧角へ変更した方が、リフトL2での燃料速度の上昇が大きく、より高い洗浄効果が得られる。
【符号の説明】
【0105】
1 燃料噴射弁の弁体
2 ノズル
3 噴射孔
4 燃料流路
5 弁体側ガイド部
6 ノズル側ガイド部
7 開弁用ばね
8 燃料供給口
9 弁体側テーパ面
10 ノズル上流側テーパ面
11 ノズル下流側テーパ面
12 ノズル内の絞り部
13 流路拡大部
14 ノズル上流側テーパ面のテーパ角
15 ノズル下流側テーパ面のテーパ角
16 弁体側テーパ面のテーパ角
18 ノズル側テーパ面に沿った燃料流れ
19 弁体側テーパ面に沿った燃料流れ
26 弁体側ガイド部のカット面
30 ピエゾ素子
36 燃料液膜
37 液滴
39 開口部
100 シリンダヘッド
102 シリンダブロック
103 ピストン
104 吸気弁
105 排気弁
106 燃料噴射弁
107 点火プラグ
109 吸気ポート
110 燃焼室
111 排気ポート
112 エンジン制御ユニット
113 噴射弁ドライバユニット
GF 吸気ガス流れ
SP 噴霧
θ 噴霧角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体と弁座との距離であるリフト高さを制御可能な燃料噴射弁の制御方法において、前記弁体が前記弁座を離れてから着座するまでの燃料噴射期間に、前記リフト高さを第一の高さに制御した後、前記第一の高さよりも低い第二の高さに制御する期間を所定期間設けることを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記第二の高さに制御する期間は、前記弁体が前記弁座を離れてから着座するまでの燃料噴射期間を2分割した場合の後半のいずれかの時期から開始することを特徴とする請求項1記載の制御方法。
【請求項3】
前記第二の高さに制御した後に、前記弁体を前記便座に着座させることを特徴とする請求項1記載の制御方法。
【請求項4】
前記弁体が前記弁座を離れてから着座するまでの燃料噴射期間に、前記第一の高さから前記第二の高さまで段階的に又は連続的に制御することを特徴とする請求項1記載の制御方法。
【請求項5】
前記弁体を前記第二の高さに保持した後、弁体のリフト高さを連続的に減少することを特徴とする請求項3記載の制御方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4の燃料噴射弁が、弁体のリフト高さが低い場合の噴霧角が弁体のリフト高さが高い場合の噴霧角よりも広く設定可能な外開き式燃料噴射弁であることを特徴とした燃料噴射弁の制御方法。
【請求項7】
弁体と弁座との距離であるリフト高さを制御可能な燃料噴射弁を制御する制御装置において、
前記弁体を制御して開弁させる噴射弁駆動信号に引き続いて、少なくとも二段階で前記リフト高さを低くする噴射弁駆動信号を出力すること特徴とする燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項8】
弁体と弁座との距離であるリフト高さを制御可能な燃料噴射弁を制御する制御装置において、
前記弁体を制御して開弁させる噴射弁駆動信号に引き続いて、前記弁体リフト高さよりも低い弁体リフトを保持する噴射弁駆動信号を出力し、その後弁体リフトを連続的に減少する噴射弁駆動信号を出力することを特徴とする燃料噴射弁の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【公開番号】特開2011−132849(P2011−132849A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291699(P2009−291699)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】