説明

燃料噴射装置

【課題】内燃機関の状態に応じて最適な噴霧パターンを形成して、エミッションを改善しつつ出力向上も図る燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】軸線AXを中心に放射状に配置した狭角噴霧用のホール型噴孔12と広角噴霧用のピントル型噴孔13とを有するノズルボディ10内に、アウタニードル21内にインナニードル22が嵌合されている二重構造タイプのニードル弁20を備え、アウタニードル及びインナニードルの軸線方向位置を調整することにより、燃料の噴霧形状を変化させる燃料噴射ノズル1を含む燃料噴射装置であって、アウタニードルを駆動する第1の駆動機構及びアウタニードルによりホール型噴孔への燃料の流れを閉止させる第1のシート構造21ST,FSTを備えると共に、インナニードルを駆動する第2の駆動機構及びインナニードルによりピントル型噴孔への燃料の流れを閉止させる第2のシート構造22ST,SSTを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関、特にディーゼルエンジンに好適な燃料噴射装置に関する。より詳細には、ノズルボディ内に二重構造タイプのニードル弁を具備する燃料噴射ノズルを含む燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの運転状態に応じて、燃料噴射ノズルから噴射する燃料の噴霧形状(以下、噴霧パターンと称する)を最適なものに調整すると、出力の向上が図れると共に、排気エミッションの改善などを図ることもできる。よって、従来から、最適な噴霧パターンを得るための噴射ノズルや噴射装置に関して種々の提案がなされている。例えば特許文献1は、ノズルボディ内に二重構造タイプのニードル弁(以下、二重ニードルと称する)を配置した燃料噴射ノズルを提案する。この二重ニードルは、ノズルボディ内に配置される中空のアウタニードルと、このアウタニードル内で軸線方向に形成した貫通穴に嵌合するインナニードルとによって構成されている。この燃料噴射ノズルのノズルボディには、広角噴霧用に設けた単一の噴孔(噴口)と、軸線を中心に放射状に配置した狭角噴霧用の複数の噴孔とが設けられている。
【0003】
ノズルボディ内に収容されるアウタニードルの外周には環状のシート部が設けられている。ノズルボディの内壁には、シート部が着座(当接)するシート面が形成してある。アウタニードルのシート部がシート面と着座したときには、これより下流への燃料の流れが閉止される。このようにアウタニードルの高さ位置(リフト量或いは揚程など、とも称される)を変化させて、広角噴霧用の噴孔及び狭角噴霧用の噴孔へ供給する燃料の量を調節する。
【0004】
また、インナニードルの先端部には栓状の広がり部(特許文献1ではピントル部と称している)が設けられており、広い噴霧パターンを形成できる。このインナニードルの軸線(軸心)方向の移動により広角噴霧用の噴孔を開閉して、広角噴霧と狭角噴霧の燃料の量を調節できるようにしてある。よって、このような燃料噴射ノズルであれば、アウタニードル及びインナニードルの軸線方向での位置を調整することで、噴霧パターンを変更できる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−3933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の燃料噴射ノズルはアウタニードル側にだけシート構造が設けられている。すなわち、アウタニードルだけがシート機能を有し、ノズルボディのシート面に着座(当接)したときに燃料を閉止するが、インナニードルはシート機能を有していない。そのため、この燃料噴射ノズルでは、広角噴霧と狭角噴霧とを独立に形成することができなかった。
【0007】
よって、狭角噴霧のみで燃料噴射するのが望ましいディーゼルエンジンの高負荷運転時などであっても、広角噴霧された燃料が漏れ出してエミッション悪化の原因となることが懸念される。また、逆に広角噴霧だけを行いたいディーゼルエンジンの始動時や低負荷運転時などで狭角噴霧がなされてシリンダ壁の潤滑油を洗い流してしまう現象(以下、ボアフラッシングと称する)などの不都合が発生することが懸念される。
【0008】
したがって、本発明の目的は、内燃機関の状態に応じて最適な噴霧パターンを形成して、エミッション悪化やボアフラッシングなどの不都合を抑制しつつ、出力向上を図ることができる燃料噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、軸線を中心として放射状に配置した狭角噴霧用のホール型噴孔と前記軸線の方向に沿って配置した広角噴霧用のピントル型噴孔とを有するノズルボディ内に、アウタニードル内にインナニードルが嵌合されている二重構造タイプのニードル弁を備え、前記アウタニードル及び前記インナニードルの前記軸線方向での位置を調整することにより、噴射する燃料の噴霧形状を変化させる燃料噴射ノズルを含む燃料噴射装置であって、
前記アウタニードルを駆動する第1の駆動機構及び前記アウタニードルの閉弁位置で前記ホール型噴孔への燃料の流れを閉止させる第1のシート構造を備えると共に、前記インナニードルを駆動する第2の駆動機構及び前記インナニードルの閉弁位置で前記ピントル型噴孔への燃料の流れを閉止させる第2のシート構造を備えている、ことを特徴とする燃料噴射装置により達成できる。
【0010】
本発明によると、二重構造のニードル弁のアウタニードルとインナニードルとの位置を独立に調整することで、所望の噴霧パターンを形成できる。よって、エミッション悪化などの不都合を抑制しながら、出力向上を図ることができる燃料噴射装置を提供できる。
【0011】
そして、内燃機関の状態に基づいて、前記第1の駆動機構及び前記第2の駆動機構を制御する制御手段を更に含む燃料噴射装置とするのがより望ましい。この場合には、内燃機関の状態に応じて、アウタニードル及びインナニードルの位置を調整して、最適なものを選択、或いは組合せて燃料を噴射できる。これにより最適な噴霧パターンを形成できるので、ススやNOxを確実に低減してエミッションを改善できる。
【0012】
また、前記制御手段は、前記内燃機関の低負荷運転時に、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔のみからの燃料噴射を実行するようにしてもよい。この場合には、従来と比較して、低NOx、低スモーク及び低騒音を促進して内燃機関を運転できる。
【0013】
また、前記制御手段は、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔からパイロット噴射を実行した後に、前記第1の駆動機構を制御して前記ホール型噴孔からメイン噴射を実行するようにしてもよい。この場合には空気利用効率を向上させることができる。
【0014】
また、前記制御手段は、前記内燃機関の高負荷低回転時に、前記第1の駆動機構を制御して前記ホール型噴孔からメイン噴射を実行した後に、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔からアフタ噴射を実行するようにしてもよい。この場合には、ボアフラッシングを抑制しつつ、過給圧を増加させることができる。
【0015】
また、前記内燃機関が排気系にNOx触媒を備え、前記制御手段は、前記NOx触媒の還元時に、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔からアフタ噴射を実行するようにしてもよい。この場合には、ボアフラッシング、ススの発生を抑制しつつ、リッチスパイクを実施してNOx触媒を効率良く還元できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、内燃機関の状態に応じて最適な噴霧パターンを形成して、エミッション悪化やボアフラッシングなどの不都合を抑制しつつ、出力向上を図ることができる燃料噴射装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る燃料噴射装置について説明する。
【0018】
図1は、実施例に係る燃料噴射装置の要部をなす燃料噴射ノズル1の基本構成を模式的に示した拡大図である。この燃料噴射ノズル1は、内部に空間を有している円筒形状のノズルボディ10と、このノズルボディ10内に軸線AX方向へ摺動可能に嵌合されているニードル弁20とを含んで構成されている。
【0019】
ノズルボディ10は、大略の形状において基部(本体部)が円筒形状であり、先端部10TP(図1においては下側)は円錐形状に形成されている。ノズルボディ10内は中空に形成されており、外形と同様に内壁面11は上側が円筒形状の内壁面11A、下側が円錐形状の内壁面11Bとなっている。
【0020】
先端部10TPの傾斜部の途中には、軸線AXを中心として放射状に複数の狭角噴霧用の噴孔12が設けられている。そして、先端部10TPの最先端(図1では最下端)には軸線AXに沿って下向きに噴孔径の大きい広角噴霧用の噴孔13が1つ形成してある。なお、上記噴孔12に燃料を供給する燃料供給路14及び噴孔13に燃料を供給する燃料供給路15がそれぞれ設けられている。
【0021】
上記のニードル弁20は、二重構造タイプのニードル弁であり、アウタニードル21とインナニードル22とにより形成されている。アウタニードル21はノズルボディ10内で軸線AX方向へ摺動可能に嵌合されている。そして、このアウタニードル21の中心部には軸線AX方向に沿った貫通路21THが形成され、この貫通路21TH内にインナニードル22が軸線AX方向へ摺動可能に嵌合されている。
【0022】
上記アウタニードル21及びインナニードル22は、互いに独立して移動可能に設定してある。図1は、アウタニードル21及びインナニードル22が共に下限位置にあるときの状態を示している。
【0023】
アウタニードル21が最も下降したときに、そのシート部21STがノズルボディ10の傾斜した内壁面11Bの一部(以下、第1シート面FSTという)に着座して停止する。このとき、アウタニードル21によって噴孔12への燃料供給が閉止(停止)された状態となる。この状態をアウタニードル21が閉弁位置(閉弁状態)にあるという。このようにアウタニードル21側のシート部21STとズルボディ10側の第1シート面FSTとにより、噴孔12への燃料の流れを閉止させる第1のシート構造が設けられている。
【0024】
そして、本実施例のニードル弁20は、インナニードル22についてもアウタニードル21と同様の構造が設けられている。すなわち、インナニードル22が最も下降したときに、そのシート部22STがノズルボディ10の内壁面11Bの一部(以下、第2シート面SSTという)に着座して停止する。このとき、インナニードル22によって噴孔13への燃料の流れを閉止できる。この状態をインナニードル22が閉弁位置にあるという。このようにインナニードル22に関しても、シート部22STとズルボディ10側の第2シート面SSTとによる第2のシート構造が設けられている。
【0025】
なお、アウタニードル21によって開閉が制御される噴孔12は、前述のように軸線AXを中心にしてノズルボディの先端部10TPに放射状に形成したもので、ホール型と称される噴孔である。噴射の角度や噴孔径を調整することで噴霧流の大きさや到達距離などを調整できるので、複数の噴孔12による凡その噴霧パターンを規定できる。燃料噴射ノズル1における噴孔12は、エンジンが高負荷運転されているときなどに相対的に貫徹力が強く、狭角での燃料噴霧が行えるように設けられている。
【0026】
一方、インナニードル22はその先端側が噴孔13より突出している。このように噴孔と、この噴孔より突出する先端部を有するニードルとによって燃料通路を規定する構造をピントル型構造と称する。噴孔13とインナニードル22との間に形成される燃料通路(環状の通路)を所望に設計することで燃料の噴霧パターンを設計できる。よって、噴孔13をピントル型噴孔と称する。ただし、本実施例の場合、燃料通路はほぼ真っ直ぐに形成してあり、インナニードル22の先端部に円錐状の頭部(以下、インナニードルヘッド22HDと称する)が形成されている。よって、噴射後の燃料がインナニードルヘッド22HDの斜面に衝突して傘状に広がる拡散噴霧パターンを形成するように設計してある。エンジンのアイドル時や低負荷運転時などでは、貫徹力を抑えた広角の拡散噴霧を行うことが望ましい場合がある。燃料噴射ノズル1は、上記のようにピントル構造を含むので、このような要求に応じることができる。
【0027】
以上のように、燃料噴射ノズル1はアウタニードル21とインナニードル22とで形成した二重ニードルを備えている。そして、特にアウタニードル21とインナニードル22とのそれぞれが燃料の流れを閉止できるシート構造(機能)を備えており、独立して駆動できるように構成してある。よって、上記燃料噴射ノズル1を採用すればエンジンの運転状態に応じて、広角噴霧パターンと狭角噴霧パターンとを切り替えることができ、或いはこれらのパターンを組合せた最適な燃料噴射を行うことができる。よって、排気エミッションの改善を図りつつ出力改善を図ることができる。
【0028】
上記燃料噴射ノズル1は、例えば電磁石や油圧力を利用して独立に駆動させる構造を組付けることによりエンジンに搭載できる燃料噴射装置として構成される。図2は、上記燃料噴射ノズル1に駆動機構を組付けた燃料噴射装置2について示した図である。
【0029】
図2で示すように、燃料噴射装置2はアウタニードル21を移動させるための油圧経路が独立に設定され、高圧ポンプHP1が配設されている。このポンプによって供給される油圧は電磁弁M1より調整されて、アウタニードル21上方に位置するコマンドピストンCP1が変更される。これによりアウタニードル21のリフト量が変更される。なお、ここでは燃料タンク及びこのタンクからの燃料ラインの詳細な図示は省略しているが、高圧ポンプHPから供給した燃料は不図示のリターンラインでタンクに戻すようにしておけばよい。
【0030】
インナニードル22についても同様の構造が個別に設けられている。すなわち、インナニードル22用の高圧ポンプHP2が配設され、油圧は電磁弁M2より調整される。これによりインナニードル22上方に位置するコマンドピストンCP2が変更され、インナニードル22のリフト量を変更できる。なお、高圧ポンプHP2は省略し、高圧源として上記高圧ポンプHP1を共有してもよい。
【0031】
図3は、図2で示す燃料噴射装置2をディーゼルエンジンに適用した場合について示しており、ディーゼルエンジンのECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)によって燃料噴射装置2の各部構成(HP1及びM1、並びにHP2及びM2)を制御するように構成した場合のブロック図である。この例では、ディーゼルエンジンを搭載した車両のアクセル踏込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ35の検出信号が制御手段となるECU30へ供給されている。ECU30は、アクセル開度センサ35の出力に基づいて、ディーゼルエンジンの運転負荷状態を判断する。なお、ECU30には燃料噴射の制御に関する一連のプログラムを格納したROM31及び処理領域を提供するRAM32がバス33を介して接続されている。
【0032】
燃料噴射装置2が適用されたディーゼルエンジンでは、ECU30がディーゼルエンジンの運転状態に応じて、アウタニードル21及びインナニードル22の適切な位置に調整する。その際には、従来の燃料噴射ノズルとは異なり、必要に応じてインナニードル22を閉弁状態としてアウタニードル21だけによる貫徹力の強い狭角噴霧や、これとは逆にアウタニードル21を閉弁状態としてインナニードル22だけの貫徹力を抑えた広角の拡散噴霧も行うことができる。
【0033】
よって、従来のように、高負荷運転時に広角噴霧された燃料を原因とするエミッションの悪化や低負荷運転時に不要な狭角噴霧がなされてボアフラッシングが発生するといった問題の発生を確実に防止できる。そして、燃料噴射装置2ではアウタニードル21に基づく燃料噴射とインナニードル22に基づく燃料噴とを組み合わせて、最適な噴霧パターンを合成することもできる。よって、本実施例の燃料噴射装置2を利用すると、ディーゼルエンジンの出力向上及び排気エミッションの改善を両立させることができる。
【0034】
(応用例1)
更に、以下においては上記図1〜図3で示した実施例の燃料噴射装置2の好ましい応用例について説明する。先ずエンジンが低負荷状態のときに好ましい噴霧パターンを形成する例について説明する。
【0035】
図4はエンジンの回転数(NE)と軸トルクとの関係を示した図である。図4で斜線を付した部分は相対的に低回転、低トルクの領域である。この領域に対応する運転状態はアイドル、低・中速運転などであり、エンジンが低負荷状態に相当する。そして、エンジンが低負荷状態にあることは、アクセル開度センサ35(図3参照)の検出信号によって確認できる。
【0036】
エンジンが低負荷状態にあるときに、アウタニードル21を閉状態に維持し、インナニードル22の駆動系のみを操作してピントル構造の噴孔13を開くことにより広角噴霧を行って、例えば予混合圧縮自己着火燃料(HCCI燃焼:Homogeneous-Charge compression-Ignition combustion)させるようにしてもよい。この場合には、ボアフラッシング並びに、NOx、スモーク及び騒音などの不都合を発生させることなく運転が可能である。なお、以上説明した応用例1に係る一連のプログラムは、図3で示したROM31の予め格納しておき、制御手段となるECU30がこれを読み出して全体的な制御を行うようにすればよい。この点については、以下の応用例でも同様とする。
【0037】
(応用例2)
上記応用例1は、エンジンが低負荷状態のときに適した噴霧パターンについて提案するものであるが、この後にアウタニードル21を操作してホール型の噴孔12から燃料を噴射することで高負荷運転に適した燃料噴射へスムーズに移行できる。
【0038】
図5は噴霧パターンを形成する順序を説明するために示した図であり、(A)は側面から噴霧パターンの関係を示した図、同(B)は(A)におけるY−Y矢視図である。実施例の燃料噴射装置2を採用すると、応用例1で説明したように低負荷状態にてインナニードル22のみを操作して噴孔13を開いて広角の拡散噴霧BSを行ってから、アウタニードル21を操作してホール型噴孔12からの狭角噴霧NSに切り替える制御を実行できる。このような噴霧パターンの切り替えを実行すると、広角の拡散噴霧をパイロット噴霧とし、この後に貫徹力のある狭角噴霧をメインの燃料噴射とすることができる。
【0039】
従来、ホール型噴孔からパイロット噴射を行って、同じ噴孔からメイン噴射を行うと燃料の拡散が不十分となり、着火遅れや燃焼騒音またスモークの問題を発生させる場合があった。しかし、上記のようにパイロット噴射を噴孔13からの広角噴霧で行い、メインの燃料噴射をホール型噴孔12から行うことで、空気の利用効率を図り、上記問題の発生を抑制しながら出力向上を図ることができる。
【0040】
(応用例3)
燃料噴射装置2の応用例を更に説明する。ターボチャージャが適用されているディーゼルエンジンで、高負荷であるが低回転の状態となる場合がある。図6は、図4と同様にエンジンの回転数と軸トルクとの関係を示した図であり、斜線を付した部分が低速高負荷の領域に相当する。
【0041】
ディーゼルエンジンが上記領域に属する運転状態にあり、ターボチャージャが最大過給圧に達していないときに、ホール型噴孔12から狭角の燃料を噴射すると貫徹力(ペネトレーション)が強すぎてボアフラッシングを発生させてしまう場合がある。しかし、燃料噴射装置2の場合にはピントル構造の噴孔13から燃料噴射をすることで対処できる。噴孔13を開いたときの燃料噴射では、中空円錐状の広い噴霧パターンとなる。この噴霧パターンは貫徹力が低いのでシリンダのボア壁に衝突し難く、低い背圧下で燃料が適度に分散、蒸発する。よって、問題の発生を抑制しつつ、燃料を効率良く活用できるようになる。
【0042】
図7は、ディーゼルエンジンが高負荷低回転となったときに採用するのが好ましい燃料噴射パターンの一例を示した図である。図7で示すように、ホール型の噴孔12からメイン噴射を行った後、ATDC(上死点後)40度〜180度の間に、1回又は複数回のピントル噴孔13に基づいて広角の拡散噴霧をアフタ噴射するのが好ましい。このように拡散噴霧によるアフタ燃料噴射を行うと、噴孔12からの燃料噴射の燃焼でスモーク限界に近くなる場合でも、膨張行程が進みガス温度が下がった状態で噴射された燃料がスス及びNOxの発生を抑制して緩慢に燃焼する。これにより膨張行程でのトルク発生に寄与すると共に、排気ガス温度の上昇によりターボチャージャのタービン回転数を増して過給圧を増加させることができる。更に、低速トルクを向上することができる。
【0043】
(応用例4)
他の応用例を更に説明する。ディーゼルエンジンの排気系には浄化用にNOx触媒が配置されているものがある。そして、NOx触媒に吸蔵されたNOxを還元させるため、排気の空燃比を適宜瞬時的にリッチ側に設定する操作が行われる。この排気ガスをリッチにする操作はNOx触媒に燃料を噴射するリッチスパイクと称されるものが広く採用されている。
【0044】
更に、ディーゼルエンジンに適用される排気浄化のための装置として、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置がよく知られている。EGR装置は、排気ガスの一部を吸気側に還流することにより燃焼時の最高温度を下げてNOxの生成量を低減するものである。
【0045】
上記EGR装置及びNOx触媒を備えたディーゼルエンジンで、高いEGR率(排ガスの戻し率)の燃焼条件で燃料噴射の時期をリタード(点火時期を送らせる制御を実行)した場合、失火が発生してリッチな排気ガス状態を形成できる。この状態をホール型の噴孔による噴霧に基づいて行うと、噴射時期が早く温度が高い場合にはススが発生し、また噴射時期が遅すぎる場合には前述したボアフラッシングが発生してしまう場合がある。このスス発生とボアフラッシング発生との不都合がなく、排気ガスをリッチにできる領域は極めて狭い。図8(A)はホール型の噴孔からの燃料噴射による場合を示しており、不都合なく排気ガスをリッチにできる斜線領域が極めて狭いことが分かる。
【0046】
上記に対して、実施例の燃料噴射装置2をディーゼルエンジン適用して、例えば全負荷(フルスロットル)の場合を除く運転領域で高いEGR率としてストイキに近い燃焼を行い、上記応用例3の場合と同様にATDC(上死点後)40度〜180度の間で1回または複数回ピントル構造の噴孔13から広角の拡散噴霧を行う。この場合、十分に温度が下がった遅い噴射タイミングでも過大な貫徹力とならず、ボアフラッシングやススの生成なしにリッチスパイクを行って排気ガスをリッチにできる。燃料噴射装置2を適用したディーゼルエンジンは、図8(B)で示すようにリッチスパイクを広範囲に噴射してもススやボアフラッシングの問題を発生させない。よって、燃料噴射装置2を備えるエンジンは効率良くNOx触媒を還元できる。
【0047】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例に係る燃料噴射装置の要部をなす燃料噴射ノズルの基本構成を模式的に示した拡大図である。
【図2】燃料噴射ノズルに駆動機構を組付けた燃料噴射装置を示した図である。
【図3】燃料噴射装置の各部構成をディーゼルエンジンのECUで制御するように構成した場合のブロック図である。
【図4】応用例1を説明するために示した図である。
【図5】応用例2を説明するために示した図である。
【図6】応用例3を説明するために示した図である。
【図7】応用例3を説明するために示した他の図である。
【図8】応用例4を説明するために示した図である。
【符号の説明】
【0049】
1 燃料噴射ノズル
2 燃料噴射装置
10 ノズルボディ
11 内壁面
12 噴孔(ホール型の噴孔)
13 噴孔(ピントル型の噴孔)
20 ニードル弁
21 アウタニードル
21ST シート部
22 インナニードル
22 シート部
30 ECU(制御手段)
FST アウタニードルのシート面
SST インナニードルのシート面
HP1、HP2 高圧ポンプ
M1、M2 電磁弁
HP1、M1 第1の駆動機構
HP2、M2 第2の駆動機構
AX 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心として放射状に配置した狭角噴霧用のホール型噴孔と前記軸線の方向に沿って配置した広角噴霧用のピントル型噴孔とを有するノズルボディ内に、
アウタニードル内にインナニードルが嵌合されている二重構造タイプのニードル弁を備え、
前記アウタニードル及び前記インナニードルの前記軸線方向での位置を調整することにより、噴射する燃料の噴霧形状を変化させる燃料噴射ノズルを含む燃料噴射装置であって、
前記アウタニードルを駆動する第1の駆動機構及び前記アウタニードルの閉弁位置で前記ホール型噴孔への燃料の流れを閉止させる第1のシート構造を備えると共に、
前記インナニードルを駆動する第2の駆動機構及び前記インナニードルの閉弁位置で前記ピントル型噴孔への燃料の流れを閉止させる第2のシート構造を備えている、ことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
内燃機関の状態に基づいて、前記第1の駆動機構及び前記第2の駆動機構を制御する制御手段を更に含む、ことを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記内燃機関の低負荷運転時に、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔のみからの燃料噴射を実行する、ことを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔からパイロット噴射を実行した後に、前記第1の駆動機構を制御して前記ホール型噴孔からメイン噴射を実行する、ことを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記内燃機関の高負荷低回転時に、前記第1の駆動機構を制御して前記ホール型噴孔からメイン噴射を実行した後に、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔からアフタ噴射を実行する、ことを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記内燃機関が排気系にNOx触媒を備え、
前記制御手段は、前記NOx触媒の還元時に、前記第2の駆動機構を制御して前記ピントル型噴孔からアフタ噴射を実行する、ことを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−64073(P2008−64073A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245557(P2006−245557)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】