説明

燃料電池システム

【課題】生成水を高純度で分離することができる気水混合物分離機構を備えた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】このシート部材40は、ピトー管38内の水圧が低い状態では前記排水ポートの出口側開口端39及び前記排水通路37の入口側開口端41に密着して、前記排水ポートの出口側及び前記排水通路37の入口側の開口端41を閉じているが、ピトー管38内の水圧の増大したときには、弾性的に変形して開口端から離間して前記排水ポートの出口側開口端と前記排水通路の入口側開口端とを間欠的または連続的に連通させ、排水ポートの水を排水通路37に排出するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水圧を利用し燃料電池から排出される気液混合物から水分をガスと分離して排出する排水機構、該排出機構を用いた気水分離システムと当該気水分離システムを組み込んだ微小重力環境及び/または閉鎖環境でも対応可能な燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機への搭載が実利用として最初に米国航空宇宙局(NASA)が1960年代に30分間のフライト実証を終えて以来、ジェミニ/アポロ/スペースシャトル等の有人宇宙船の電源として燃料電池が使用されている。燃料電池は特に大電力(Wh)を必要とする宇宙機等において極めて有効な発電装置である。宇宙機に燃料電池を適用する際には以下の技術課題がある。
(1)運用期間中の全ての燃料/酸化剤の運搬・確保
(2)導入通路閉鎖環境下における気密性(外部への排出無し)の確保
微小重力下での生成水の除去燃料電池は電気と共に水を生成するが、微小重力環境(10-6-10-8G)となる軌道上では気体と液体は容易に分離されないため、水を除去する機構が必要となる。また、外部から燃料・酸化剤を供給することができないため、閉ざされた宇宙機の内部に電池反応に必要となる活物質等の全てを貯蔵する必要があり、ロケットの打上げ負荷の軽減等のための重量軽減・コンパクト化が重要である。発電部で効率的な発電を維持するためには、電解質膜/電極/酸素ガス付近において電気化学反応により生成された反応生成水は、そこに留まると反応阻害物質となってしまうため効率的に除去する必要があり、水の除去・分離技術が重要となる。
【0003】
地上においては、気水分離は冷却水等を用いて生成水を凝縮させ、重力を利用して気体と凝縮水を分離する方法が主に用いられている(特開平6−76843号公報など)。一方、宇宙空間等の微小重力環境においては、重力を利用した気水分離を行うことが出来ないため、スペースシャトル等においては、遠心分離の原理を用いて生成水を凝縮し、水を分離する方法を用いている。また吸収材を用いた気水分離方法(特開2004−317747)もある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−76843号公報
【特許文献2】特開2004−317747号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
とくに宇宙機において使用される燃料電池においては、制約のある空間(容積)、質量の中で燃料電池発電システム本体、燃料、酸化剤の全てを保有して発電を行うためには搭載した燃料、酸化剤のガスを可能な限り利用し、未反応のまま排出することを極力防ぐ必要があり、そのためには反応生成水を高純度で分離することができる気水混合物分離機構を備えた燃料電池システムを提供することが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に対処するため本発明は以下のように構成される。
【0007】
すなわち、本発明の1つの特徴によれば、燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの反応生成水と未反応気体を含む気水混合物を吸入し、前記未反応気体を前記燃料電池の当該気体の入口側に還流させるための循環ポンプであって、
前記燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの前記気水混合物を導入する導入通路に連通する吸入口と未反応気体を燃料電池の当該気体の入口側へ送出する排出口とを有するポンプケーシングと、
該ポンプケーシング内に配置されるインペラと、
前記インペラとともに回転するようにインペラの前面中心部付近に設けられ、前記吸入口を介してポンプケーシング内に導入される前記気水混合物中の水分をトラップする水分トラップと、
該水分トラップに連通して設けられ前記水分トラップの回転によって該水分トラップから排出される水を遠心力を受けた状態で収容する集水部と、
該集水部の水を集水部から排水する排水機構を備えたことを特徴とする循環ポンプが提供される。
【0008】
好ましい態様では、さらに、前記集水部からの水を排出するための排水ポートと該排水ポートに近接して設けられ排水ポートからの水を排出するため排水通路とを備え、
前記排水機構が、前記集水部の水中に一端が開口することにより該集水部に連通し、他端が前記排水ポートに連通しているピトー管と、
前記ピトー管内の水圧が低い状態では前記排水ポートの出口側開口端及び前記排水通路の入口側開口端に密着して、前記排水ポートの出口側及び前記排水通路の入口側を閉じているが、前記ピトー管内の水圧の増大したときには、弾性的に変形して開口端から離間して前記排水ポートの出口側開口端と前記排水通路の入口側開口端とを間欠的または連続的に連通させ、排水ポートの水を排水通路に排出するシート部材とを備えている。本件発明者らは、このシート部材の動作によって、排水ポートからの水が排水通路側に選択的に排出され、ガス分は排出されないことを知見した。このシート部材は、代表的には、好ましくは上記の動作を保障する程度に可撓性、柔軟性のあるパネル部材で構成される。たとえば薄いシート状に加工されたテフロン(登録商標)等の高分子材料を好適に使用することができる。
【0009】
また、別の態様では、前記シート部材の背後に隣接して配置され前記シート部材を弾性力によって前記排水ポートの開口部に対して押しつける付勢部材をさらに備えている。この場合、弾性体としてはコイルスプリング等のバネ部材が代表的である。また、バネ等の付勢部材の先端に平らな表面を有する押圧部材を配置し、その平らな表面が前記シート負材の背面に面接触により密着するように構成し、その背後からバネ等の部材によって弾性力を付与することにより、付勢部材をからの押圧力を均一にシート部材に伝達するようにし、排水ポート及び排水通路の開口端の周縁に均一な圧力で密着させるようにすることが好ましい。このように一般的には前記シート部材と付勢部材とを面接触させることにより前記排水ポートの開口端の周縁に密着するように構成することができるが、必ずしもそのようにする必要はなく、1つ以上の複数の点接触によってシート部材を圧迫するように構成することもできる。
【0010】
また、付勢部材の背後に空間部を設け、該空間部と前記導入通路とを連通する均圧管が配設することが望ましい。このようにすることによりポンプケーシング内外で圧力差が生じた場合であっても支障なく集水部における生成水を系外に排出することができる。
【0011】
さらに、好ましい態様では、水分トラップが、気体導入部の端部のインペラ前部かつインペラの回転中心部から半径方向に外側に向かって延びるように配設されたガス透過性の多孔質材で構成されている。
【0012】
好ましくは、生成水及び未反応気体を含む気水混合物が前記インペラの回転軸に沿って前記ポンプの吸入口に案内され、インペラの前面中央部において前記水分トラップに衝突しインペラの前面壁に沿って直角に進行方向を変更させられ、半径方向外方に向かって案内された後、前記ポンプケーシングの排出口に案内されるようになっている。このように気水混合物の流れを変更させることによって、燃料電池からの気水混合物中の水分を効果的に分離することができる。
【0013】
また、好ましくはマグネットモータの出力軸が動力伝達可能に前記インペラに結合されて安全性を高めることができるとともに、装置設計の自由度を高めることも可能となる。別の態様では安全性の面から、ブラシレスモータの出力軸が動力伝達可能に前記インペラに結合される。
【0014】
上記の装置は、基本的には、微少重力環境下で好適に使用することができる。本発明の別の特徴によれば、遠心力を受けている水を収容することが可能な集水部と、
該集水部からの水を排出するための排水ポートと、
前記集水部の水中に一端が開口することにより該集水部に連通し、他端が前記排水ポートに連通しているピトー管と、
該排水ポートに近接して設けられ排水ポートからの水を排出するための排水通路と、
前記排水ポートの出口側開口端及び前記排水通路の入口側開口端に密着することにより前記排水ポートの出口側及び前記排水通路の入口側の両方を閉じることができるように構成されたシート部材とを備え、
前記ピトー管内の水圧が低いときには、前記シート部材は前記排水ポートの出口側開口端及び前記排水通路の入口側開口端の両方に同時に密着することにより前記排水ポートの出口側及び前記排水通路の入口側の両方を閉じており、前記ピトー管内の水圧が増大したとき前記排水ポートの出口側開口端と前記排水通路の入口側開口端とを間欠的に連通させ、排水ポートの水を排水通路に排出するように動作することを特徴とする排水弁が提供される。
【0015】
さらに、別の特徴によれば、燃料極側に供給された気体と酸化剤極側に供給された気体との電気化学的反応により電力を発生する燃料電池と、
前記燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの反応生成水と未反応気体を含む気水混合物を吸い込み、前記未反応気体を前記燃料電池に当該気体の入口に還流させるための循環ポンプであって、
前記燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの前記気水混合物を導入する導入通路に連通する吸入口と未反応気体を燃料電池の当該気体の入口側へ送出する排出口とを有するポンプケーシングと、
該ポンプケーシング内に配置されるインペラと、
前記インペラとともに回転するようにインペラの前面中心部付近に設けられ、前記吸入口を介してポンプケーシング内に導入される前記気水混合物中の水分をトラップする水分トラップと、
該水分トラップに連通して設けられ前記水分トラップの回転によって該水分トラップから排出される水を遠心力を受けた状態で収容する集水部と、
該集水部の水を集水部から排水する排水機構とを有する循環ポンプとを備えたことを特徴とする燃料電池システムが提供される。
【0016】
この場合、前記燃料極と酸化剤極のうちの少なくとも酸化剤極側からの気体の排出口を前記酸化剤極側への気体の供給路に接続して閉循環路を形成し、該閉循環路に凝縮器を設けた燃料電池システムとすることにより本発明の特徴を有効に活用することができる。
【0017】
本発明によれば、前記燃料気体および酸化剤気体が供給源から無加湿で前記凝縮器に供給される態様において好適である。本発明では、水圧を利用し、ポンプの内外の差圧を調整し、排水口と水トラップ部との間の圧力的にバランスさせるようにした独特の排水弁が提供される。ブラシレスモータを採用することにより可燃性ガスの循環・加圧にも使用可能な循環ポンプを提供できる。上記排水弁と循環ポンプを用いることによりで、宇宙空間等の微小重力環境下でも気水分離を効果的におこなうことができる可気水分離システムを得ることができる。さらには、この気水分離システムをベースとして、燃料電池発電の際の排気側に含まれる未反応ガスと反応後の生成水を効率よく分離し、未反応ガスのみを供給系に戻し、再び発電に寄与できるようにするガスを有効活用する燃料電池システムを提供することが可能となる。水以外の排出物を出さないシステムを構築することで、宇宙環境以外の地上のガス排気を嫌う閉鎖環境でも利用可能な燃料電池システムも実現できる。水の質量により発生する水圧と雰囲気圧力との差を利用する水排出機構を有する。上記構成によって、生成水を含む未反応ガスから水を凝縮して分離する構造が提供される。気水分離装置はインペラの回転により遠心力を受けて集水された水を得ることを特徴とする。インペラの回転数を可変にすることにより、生成水の集水量を制御することもできる。上記のとおりインペラの回転のためのモータとしてブラシレスを採用することにより酸化剤(支燃性ガス)の中でも発火・爆発を起こさないという利点がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、遠心力により発生した水圧を利用して水を排出するため、水のみ気体と分離して選択的に排出することができ、未反応気体の系外への散逸を防ぐことができる。また、回転数を上げることにより、多量の生成水を凝縮、排出可能なため、小型の気水分離システムとすることができる。ブラシレスモータ、マグネットモータを採用することで、支燃性ガスの循環利用が可能となる。本発明にかかる気水分離システムを用いることにより、微少重力にかかる宇宙環境のみならず、地上でガス排気を嫌う閉鎖環境等での燃料電池発電が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は本発明の好適な実施の形態に係る固体高分子電解質形燃料電池システム1の全体図を示している。固体高分子電解質形燃料電池(燃料電池スタック)10は、水素イオン電解質膜11を挟んで燃料極12と酸化剤極13とが対面するように配置されて構成される。前記燃料極12及び前記酸化剤極13の一方の側には水素供給口14、酸素排出口15がそれぞれ設けられ、また、前記酸化剤極13の他方の側には酸素供給口16がそれぞれ設けられている。本例においては、燃料側の出口は閉塞されており、燃料である純水素は燃料スタック内で反応により消耗する構成とされている。なお、燃料電池10によって発生した電力は負荷2によって消費される。
【0021】
燃料電池システムにおいては供給ガスの利用率を高めることが極めて望ましく、このためには、活物質として純水素および純酸素を使用して、上記のように燃料側気体排出口を閉塞するシステムを構成する。しかし、酸素側の循環ラインは単なる閉塞では酸素極に生成水が蓄積・滞留し燃料電池特性の急速な低下が生ずる。そこで酸素側生成水の燃料電池内滞留を抑制するために燃料電池スタック10の入口と出口を閉ループ化し、その間にガス循環ポンプ17を設置して循環酸素の流れで生成水を燃料電池スタック10の外へ搬出し、かつループ内に設けた循環ポンプ17で生成水を凝縮させて系外へ排出するとともに、未反応酸化剤ガスを高効率で分離して回収循環させるように燃料電池システム1を構成している。 加えて水素、酸素の流れを対向流化し、かつ酸素の循環量を適宜設定するようにすることによって、燃料電池10の内部を適正な湿度環境に維持できるように構成している。さらに発電状態を長時間維持するには閉ループ内の循環ポンプにおいて燃料電池内で生成凝縮した水分を微小重力下であっても酸素ガスと分離し、発電を中断することなく系外へ排出することが望ましい。この環境下においても、本発明にかかる循環ポンプを用いた燃料電池システムは、効率的に気水分離を行うことができるものである。
【0022】
本例の循環ポンプ17は、気水混合物を受け入れ排出するためのポンプ部18と該ポンプ部18に必要な回転動力を付与するためのモータ部19から構成されている。循環ポンプ17は燃料電池10の酸化剤極出口15側からの反応生成水と未反応気体を含む気水混合物を吸入し、前記未反応気体を前記燃料電池10に還流させるものであって、燃料電池10の酸化剤気体出口通路20からの前記気水混合物を導入する導入通路21に吸気口22を介して連結されている。循環ポンプ17は該吸気口22と未反応気体を燃料電池の酸化剤入口側へ送出する排気口23とを有するポンプケーシング24を備えており、ポンプケーシング内には回転翼すなわちインペラ25が配置される。インペラの吸気側は、燃料電池の酸化剤気体の出口通路からの前記気水混合物を導入する導入通路に連通している。該気水混合物は燃料電池の出口通路から上記導入通路に案内されるがこの導入通路21はインペラの回転軸26に沿ってこれを囲むにようにシリンダー状に設けられている。したがって該導入通路21に案内された気水混合物はインペラ25の回転軸に沿って循環ポンプ17に導入されてインペラ25前面壁に当たり、流れ方向を直角に変更させられたのち、ポンプケーシング24内の周壁に沿って円周方向外方に、そして外周に設けられた排気口に向けて案内される。
【0023】
しかし、本例の構成では循環ポンプ17と一体化した構成としてさらに効果的に生成水及び未反応気体を分離する排水機構(排水弁)27を組み込んで構成される。そして、本例の循環ポンプ17においては、上記気水混合物の導入通路21に連通するポンプケーシング24の吸気口22の近傍には前記吸気口を介してポンプケーシング24内に導入される前記気水混合物中の水分をトラップする水分トラップ28が設けられる。この水分トラップ28は、好ましくはガス透過性のある多孔質材料で構成され、たとえばスポンジのような材料で構成され、代表的にはポンプ17の回転軸と共通の中心軸を有する円筒状あるいは円柱状の形態を有する。そして水分トラップ28はインペラ25の吸入口側すなわち前面の中心部にインペラ25の中心部の前面に貼り付けられるように設けられる。これによって、ポンプケーシング24の吸気口から吸い込まれた生成水、未反応気体は必ずこの水分トラップ28に衝突してインペラ前面壁の表面上を半径方向外方に広がるように案内されるように構成されている。この構成により水分トラップ28によって、気水混合物の水分のみ効果的かつ選択的にトラップして吸収し、未反応気体は透過させて未反応酸化剤気体と生成水を効率的に分離する。この場合、インペラ25の中心部の水分トラップが配置される部分には、複数の開口29が設けられており、導入通路21から軸方向に案内されて水分トラップに衝突した気水混合物の水分は水分トラップに捕獲され、気体部分は水分トラップ28を通過して、インペラの後面側に回り、その後インペラ25の回転吸引力によって半径方向外方に誘導されて排気口23に導かれる。これによって未反応酸化剤気体成分のみを水と分離して効率よく燃料電池システム1内を循環に供しせしめることができる。
【0024】
上記のように水分トラップ28は、インペラ25とともに回転するようにインペラ25の前面中心部付近に設けられている。そして、該水分トラップの外周部には、該水分トラップ28の周囲を取り囲むように配置され、中間部に大径部すなわち集水用凹部を有する円板状ないし円筒状の集水部30が設けられる。この集水部は、後端でインペラの前面に固定され、その前端が前記ポンプケーシング24の吸気口22付近まで延びており、吸気口に案内された酸化剤極側出口からの気水混合物が前記水分トラップ28を迂回して案内されることがないような構成にされている。この集水部30はインペラの回転とともに回転するようになっており、同様にインペラの回転によって該水分トラップ28から排出される水を遠心力を受けた状態で収容する。
【0025】
上記ポンプケーシング24は、円錐状の形態をしており前端部に吸気口を有する前側ポンプケーシング31と前端が該前側ポンプケーシング31と接合され後端側がモータ34を収容したモータケーシング33と結合される後側ポンプケーシング32とを有する。前部ポンプケーシング31と後部ポンプケーシング32とモータケーシング33とは本例ではボルト結合されている。モータ34の回転軸35とインペラ25の回転軸26とは動力伝達可能に結合されている。これによってモータ34の起動によってその回転動力がインペラすなわち回転翼に伝達されインペラ25を回転させる。
【0026】
ケーシング31、32は、インペラ部分並びにモータ部19を覆い、生成水、未反応ガスが飛散しないように閉鎖空間を形成している。
【0027】
さらに、本例の構成では、集水部30の水を集水部30から排水する排水機構すなわち排水弁27を備えている。本例の排水機構27は、上記水分トラップ28で捕獲された水がガス側へ流れていかないようにするため、水分トラップ28の周囲を覆うように配設された集水部30を有する。図4を合わせて参照すると、一方の端部が集水部30の底板部から僅かに隙間を開けて取り付けられ、他方は排水ポート36に取り付けられている。
【0028】
本例の構成では集水部30からの水を排出するための排水ポート36と該排水ポート36に近接して設けられ排水ポート36からの水を排出するための排水通路とが設けられる。この場合、図5、図6に示すように、排水ポート36と排水通路37とは近接してほぼ平行に設けられている。そして、排水ポートの入口側には、前記集水部30の水中に一端が開口することにより該集水部30に連通するピトー管38が連通している。ピトー管38は、集水部30内に収容された生成水を水圧により吸引し、排水ポート36内に案内する役割を果たす。本例の構成では、排水ポート36の出口側の開口39と排水通路の入口側開口41とは共通の平面内に設けられている。そして、本例の構成では、両方の開口端39、41を閉塞ないし、開放することができるシート部材40が設けられる。
【0029】
このシート部材40は、図5に示すようなピトー管38内の水圧が低い状態では前記排水ポートの出口側開口端39及び前記排水通路37の入口側開口端41に密着して、前記排水ポートの出口側及び前記排水通路37の入口側の開口端41を閉じているが、図6に示すようにピトー管38内の水圧の増大したときには、弾性的に変形して開口端から離間して前記排水ポートの出口側開口端と前記排水通路の入口側開口端とを間欠的または連続的に連通させ、排水ポートの水を排水通路37に排出するようになっている。
【0030】
このシート部材の動作によって、排水ポート36からの水が排水通路側に選択的に排出され、ガス分は排出されず水分と気体部分とを効果的に分離することができる。上記の動作を保障する程度に可撓性、柔軟性のあるパネル部材で構成されており、薄いシート状に加工されたテフロン(登録商標)が使用されている。
【0031】
本例の構成では、シート部材40の背後に隣接して配置され、シート部材を弾性力によって排水ポートの開口部に対して付勢する付勢部材、本例ではスプリングが設けられている。そして、スプリング42の先端には、平らな表面を有する押圧部材43を配置して、この押圧部材によってシート部材の背面を押圧して、所望の付勢力を与えている。このように、押圧部材の平らな表面がシート部材40の背面にほぼ全面に亙って密着するように構成し、その背後からスプリング42によって弾性力を付与することにより、スプリングの付勢力を均一にシート部材40に伝達するようにすることにより、排水ポート及び排水通路の開口端の周縁に均一な圧力で密着させることができ、排水ポート36から排水通路への水の流れを円滑にしている。
【0032】
さらに、本発明においては、スプリング42の背後に外部から遮断された空間部44を設け、該空間部とポンプケーシング24内の空間あるいは導入通路とを連通する圧力調整管すなわち均圧管45が配設されている。
【0033】
このようにすることによりポンプケーシング内で圧力変動があった場合もその影響を受けず集水部30の遠心力に応じた水圧に応じて生成水を系外に排出することができる。
【0034】
以下、本例の燃料電池システム1の動作を説明する。
【0035】
まず、酸化剤極出口側15からの生成水及び未反応気体を含む気水混合物は導入通路21を介して、循環ポンプ17のポンプケーシング24の吸気口22を介してインペラ25へ送られる。ポンプケーシング24内においてインペラの回転軸は、モータ34の回転軸35に結合されており、モータ34の動力によって回転させられている。この場合、気水混合物は、インペラ25の回転軸26に沿って延びる管状の導入通路20、21内をインペラ25に対して直交方向に導入される。そして、インペラ25の吸気口側すなわち前面に取り付けられている多孔質材料からなる水分トラップ28に正面から衝突する。これにより酸化剤極出口側15からの気水混合物のうちの水分は効果的に捕獲される。
【0036】
この水分トラップ28と集水部30はいずれもインペラ25に取り付けられているため、インペラ25と一体で回転する。そのため、水分トラップ28に捕獲された水は回転による遠心力で中心から外側へ押し出される。押し出されることによって、水分トラップ28から排出され、飛散した水は集水部30の内壁に当たり集水部30に溜まる。集水部30自体も回転しているため、同様に遠心力を受けている。このため集水部30の内面に捕獲された水は集水部30の大きな内径を有するすなわち回転半径の大きい大径部46に集中する。図4に示すように、この大径部46にピトー管38の一端47が延びており、この場合、ピトー管は、大径部46に集められた水の水面下に一端が開口する程度に延びている。これによって集水部30の水が一定量以上溜まるとピトー管38の端部47がその水面したに没する(図4)。集水部30の空間部分の圧力はポンプ17への導入通路21部分と同じであるが、集水部30で水が溜まるとピトー管38の端部47の圧力は水のピトー管38の端部47と水面との水位差及びその回転による遠心力とにより力が気体部分の圧力に付加されるので、ピトー管の集水内への進入深さをhとすると;

が成り立つ。ここで、m(h)はピトー管38の開口端部47からの水面の高さに依存する質量、rは回転の半径、ωは角速度である。
【0037】
一方、シート部材の押圧部材43の側の空間部44の圧力は均圧管45により均圧されているので、この部分の圧力は循環ポンプ17への導入通路21内の圧力と同じ圧力にされている。集水部の上記大径部46に水が溜まっていない状態では、押圧部材43側背後の空間部44と集水部30内部の空間の圧力は同じであるため、図5に示すようにスプリングによる付勢力により、シート部材40はピトー管38の他端が連通している排水ポート36の開口端39及び排水通路37の開口端41に押し付けられているので、以下の式

により排水ポートと排水通路のそれぞれの開口端の周縁に密着して両者を閉塞しており、両開口端39及び41の連通を遮断している。
【0038】
ここで、kはバネ定数、xは予め与圧よるスプリング42の変移量である。そして、集水部の大径部に水が溜まって、水位が上がりピトー管38の開口端部47を覆ってこの端部47より水面が上昇するとピトー管38の端部47に圧力が付加される。このとき、

となり、排水ポート36側の水圧がスプリング42によるシート部材40の押圧力を上回るようになると、水圧に押されてシート部材40が開口端39、41から離間するように変位して、シート部材40が排水ポート36及び排水通路37の両方の開口端39、41に密着することによって分断されていたピトー管38・排水ポート36及び排水通路37の端部が空間的に連通する(図6)。
【0039】
ピトー管38・排水ポート36と排水通路37が繋がることによって、集水部30にある水が水の圧力差によりピトー管38を介して排水通路37側へ流れ、水だけが効果的に排出され、集水部の空間部に存在する未反応酸化剤ガスはそのポンプケーシング24内にとどまる。
【0040】
そして、このような水圧差に基づいて排水ポート36と排水通路37との連通により水が排出され、水位が所定以上に低下して、

となって、集水部30内部で水により発生した圧力がスプリング42による押圧力よりも小さくなると、シート部材40は再び押圧部材43によりピトー管38・排水ポート36及び排水通路37の開口端39側へ押し付けられ、ピトー管38・排水ポート36と排水通路37の連通を遮断して、再び水の流通が停止される。
【0041】
スプリング42の力を調整し、ピトー管38の端部開口部47よりも水位が高い状態に維持することにより、排水通路37には気水混合物のうちの水だけを未反応酸化剤ガスと分離して排水通路37に誘導し、系外に排出することができる。本例の上記構成によれば、気体が排出されることなく気水分離を効率的に行うことができるので、未反応酸化剤ガスを閉ループシステムにおいて支障なく循環させることができる。
【0042】
上記の構成によれば、遠心力によって、水圧を発生させ、これに基づいて気水混合物の水分と気体とを分離するようにしているので、微小重力下においても有効に燃料電池システムに組み込んで活用することができる。しかも本例の構成では、気水混合物の全体を多孔質材料により構成した水分トラップ28に案内し、水分を捕獲し、気体成分を透過させるようにしたので簡単な構成にすることできるととも、効果的に水分と気体とを分離することができる。
【0043】
また、モータ部を支燃性である酸素ガス濃度が高い場合でも爆発等の恐れの無いブラシレスモータを用いることにより、安全な気水分離装置となる。さらに、駆動源としてマグネットモータを用いて循環ポンプを構成することにより、モータ部19とポンプ部18とを隔離することができ、隔離した状態で循環ポンプ17を駆動するようにすると、酸化剤(支燃性ガス)の中でポンプをも発火・爆発の問題が生じないという利点がある。
【0044】
したがって、マグネットモータを採用することによって、支燃性ガスの循環に利用可能となる。
【0045】
さらにインペラ回転数を適宜調整することにより、水の排出量を調整できるので、気水分離装置の小型化が可能である。また、本例の構成により、循環ポンプと気水分離機構を一体化することができるので、燃料電池システム全体の小型化も行える。したがって、微小重力環境に限らず、地上での閉鎖環境等外界との接続に制約があり、限られた空間での燃料電池発電においては、有効な気水分離技術となる。
【0046】
さらに、本実施例では酸化剤系統での気水分離について例示したが、燃料系統における気水分離が必要とされる場合には酸化剤系統と同様な循環ポンプと気水分離機構を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のとおり本発明は微少重力環境下で使用する燃料電池システムにおいて好適に使用することができるとともに、ガス循環を行う機器を利用する分野においても利用性は高い。さらに一般的に、気水分離を行う機器を利用する分野での活用も期待される。
【0048】
さらに、上記本発明の構成により電池性能の向上、運転コストの低減化、高出力発電を可能にする等種々の優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を好適に活用することができる燃料電池システムの全体構成図である。
【図2】本発明の1実施例にかかる循環ポンプの断面図である。
【図3】図2の循環ポンプの正面図である。
【図4】図2におけるA部(集水部)の拡大断面図である。
【図5】図2におけるB部(排水弁)の拡大断面図であって、弁の閉状態を示す。
【図6】図2におけるB部(排水弁)の拡大断面図であって、弁の開状態を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 固体高分子電解質形燃料電池システム
2 負荷
10 燃料電池(燃料電池スタック)
11 水素イオン電解質膜
12 燃料極
13 酸化剤極
14 水素供給口
15 酸素排出口
16 酸素供給口
17 循環ポンプ
18 ポンプ部
19 モータ部
20 酸化剤気体出口通路
21 導入通路
22 吸気口
23 排気口
24 ポンプケーシング
25 インペラ
26 インペラの回転軸
27 排水機構(排水弁)
28 水分トラップ
29 開口
30 集水部
31 前側ポンプケーシング
32 後側ポンプケーシング
33 モータケーシング
34 モータ
35 モータ回転軸
36 排水ポート
37 排水通路
38 ピトー管
39 排水ポート36の出口側の開口
40 シート部材
41 排水通路の入口側開口
42 スプリング
43 押圧部材
44 空間部
45 均圧管
46 大径部
47 開口端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの反応生成水と未反応気体を含む気水混合物を吸入し、前記未反応気体を前記燃料電池の当該気体の入口側に還流させるための循環ポンプであって、
前記燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの前記気水混合物を導入する導入通路に連通する吸入口と未反応気体を燃料電池の当該気体の入口側へ送出する排出口とを有するポンプケーシングと、
該ポンプケーシング内に配置されるインペラと、
前記インペラとともに回転するようにインペラの前面中心部付近に設けられ、前記吸入口を介してポンプケーシング内に導入される前記気水混合物中の水分をトラップする水分トラップと、
該水分トラップに連通して設けられ前記水分トラップの回転によって該水分トラップから排出される水を遠心力を受けた状態で収容する集水部と、
該集水部の水を集水部から排水する排水機構を備えたことを特徴とする循環ポンプ。
【請求項2】
さらに、前記集水部からの水を排出するための排水ポートと該排水ポートに近接して設けられ排水ポートからの水を排出するための排水通路とを備え、
前記排水機構が、前記集水部の水中に一端が開口することにより該集水部に連通し、他端が前記排水ポートに連通しているピトー管と、
前記ピトー管内の水圧が低い状態では前記排水ポートの出口側開口端及び前記排水通路の入口側開口端に密着して、前記排水ポートの出口側及び前記排水通路の入口側を閉じており、前記ピトー管内の水圧の増大したとき排水ポート及び排水通路の開口端から離間して、前記排水ポートの出口側開口端と前記排水通路の入口側開口端とを連通させ、排水ポートの水を排水通路に排出するシート部材とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の循環ポンプ。
【請求項3】
前記シート部材の背後に隣接して配置され前記シート部材を弾性力によって前記排水ポートの開口部に対して押しつける付勢部材をさらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の循環ポンプ。
【請求項4】
前記付勢部材の背後に空間部が設けられ、該空間部と前記導入通路とを連通する均圧管が配設されていることを特徴とする請求項3に記載の循環ポンプ。
【請求項5】
前記水分トラップが、前記気体導入部の端部のインペラ前部かつインペラの回転中心部から半径方向に外側に向かって延びるように配設されたガス透過性多孔質材で構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの請求項に記載の循環ポンプ。
【請求項6】
生成水及び未反応気体を含む気水混合物が前記インペラの回転軸に沿って前記ポンプの吸入口に案内され、インペラの前面中央部において前記水分トラップに衝突しインペラの前面壁に沿って直角に進行方向を変更させられ、半径方向外方に向かって案内された後、前記ポンプケーシングの排出口に案内されるようになっていることを特徴とする請求項1ないし5に記載の循環ポンプ。
【請求項7】
マグネットモータの出力軸が動力伝達可能に前記インペラに結合されていることを特徴と請求項1ないし6のいずれかの請求項に記載の循環ポンプ。
【請求項8】
ブラシレスモータの出力軸が動力伝達可能に前記インペラに結合されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかの請求項に記載の循環ポンプ。
【請求項9】
微少重力環境下で使用されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかの請求項に記載の循環ポンプ。
【請求項10】
遠心力を受けている水を収容することが可能な集水部と、
該集水部からの水を排出するための排水ポートと、
前記集水部の水中に一端が開口することにより該集水部に連通し、他端が前記排水ポートに連通しているピトー管と、
該排水ポートに近接して設けられ排水ポートからの水を排出するための排水通路と、
前記排水ポートの出口側開口端及び前記排水通路の入口側開口端に密着することにより前記排水ポートの出口側及び前記排水通路の入口側の両方を閉じることができるように構成されたシート部材とを備え、
前記ピトー管内の水圧が低いときには、前記シート部材は前記排水ポートの出口側開口端及び前記排水通路の入口側開口端の両方に同時に密着することにより前記排水ポートの出口側及び前記排水通路の入口側の両方を閉じており、前記ピトー管内の水圧が増大したとき前記排水ポートの出口側開口端と前記排水通路の入口側開口端とを間欠的に連通させ、排水ポートの水を排水通路に排出するように動作することを特徴とする排水弁。
【請求項11】
前記シート部材の背後に隣接して配置され前記シート部材を弾性力によって前記排水ポートの開口部に対して押しつける付勢部材をさらに備えていることを特徴とする請求項10に記載の排水弁。
【請求項12】
前記付勢部材の背後に設けられた空間部と該空間部と前記集水部の水が接している空間とを連通する均圧管が配設されていることを特徴とする請求項10または11のいずれかの請求項に記載の排水弁。
【請求項13】
微少重力環境下で使用されることを特徴とする請求項10ないし12のいずれかの請求項に記載の排水弁。
【請求項14】
燃料極側に供給された気体と酸化剤極側に供給された気体との電気化学的反応により電力を発生する燃料電池と、
前記燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの反応生成水と未反応気体を含む気水混合物を吸い込み、前記未反応気体を前記燃料電池に当該気体の入口に還流させるための循環ポンプであって、
前記燃料電池の燃料出口側、酸化剤出口側の少なくとも一方からの前記気水混合物を導入する導入通路に連通する吸入口と未反応気体を燃料電池の当該気体の入口側へ送出する排出口とを有するポンプケーシングと、
該ポンプケーシング内に配置されるインペラと、
前記インペラとともに回転するようにインペラの前面中心部付近に設けられ、前記吸入口を介してポンプケーシング内に導入される前記気水混合物中の水分をトラップする水分トラップと、
該水分トラップに連通して設けられ前記水分トラップの回転によって該水分トラップから排出される水を遠心力を受けた状態で収容する集水部と、
該集水部の水を集水部から排水する排水機構とを有する循環ポンプとを備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項15】
前記燃料極と酸化剤極のうちの少なくとも酸化剤極側からの気体の排出口を前記酸化剤極側への気体の供給路に接続して閉循環路を形成し、該閉循環路に凝縮器を設けた請求項14に記載の燃料電池システム。
【請求項16】
前記燃料気体および酸化剤気体が供給源から無加湿で前記凝縮器に供給されることを特徴とする請求項14または15のいずれかの請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項17】
微少重力環境下で使用されることを特徴とする請求項14ないし16のいずれかの請求項に記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−47392(P2008−47392A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221055(P2006−221055)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】