説明

燃料電池用固体電解質膜およびその製造方法

【課題】
耐熱性があり、化学安定性に優れ、低含水条件下でも良好なプロトン伝導性を有し、且つ、メタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低いメタノール透過性の両方を兼ね備えた燃料電池用固体電解質膜、および当該電解質膜の工業的に簡便かつ多量生産に適した製造方法を提供する。
【解決手段】
強酸性の特定のビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を有するメチド系シロキサン化合物と、特定のポリシロキサン化合物および特定のシラン化合物を架橋反応させることにより得られるシリコン樹脂を用いたことを特徴とする燃料電池用固体電解質膜およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用固体電解質膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は発電効率が高い発電装置であり、副成する熱エネルギーも有効利用できる。燃料電池は、化学反応によって発電するため、燃料を燃焼させて蒸気を発生させタービンを回す等、二次的に電気を取り出す他の発電システムに比べ発電効率が高い。燃料電池の生成物は原理的に水であり、燃料を燃焼させることがないため、二酸化炭素の排出量が小さく、大気汚染の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物を排出しないことから、次世代クリーンエネルギーとして注目されている。
【0003】
特に電解質として高分子固体電解質膜を用いる固体高分子型燃料電池(以下、PEFCと略する)は、取り出される電気エネルギーの出力密度が高く、低温駆動、即ち、低温で発電できることより、自動車用電源、あるいは燃料電池を電源または熱源として利用する家庭用コジョネレーションシステムの用途向け等に開発される。
【0004】
燃料電池は、水の電気分解と逆の反応で発電すると説明される。即ち、水の電気分解が電気エネルギーを化学エネルギーに変えて水を分解し、酸素分子と水素分子を得る反応であるのに対し、燃料電池は化学エネルギーを電気エネルギーに変える反応である、即ち、燃料電池において、水素燃料極に導入した燃料(水素、メタノール、天然ガス等)が、触媒により電子を切り離し、水素イオン(プロトン)となる。燃料電池用固体電解質膜は、電子を通さない性質があるため、電子は、電極を通して外部回路に進み電流が流れる。プロトンは電解質膜内を移動し、対極の空気極で、供給された酸素と外部回路から戻ってきた電子と反応し、水が生成される。
【0005】
燃料電池において、燃料電池用固体電解質膜は、発電性能を左右する重要な部材である。燃料電池用固体電解質膜には、低コスト、高い耐久性が求められる。近年では、廃熱利用による高効率化や触媒被毒低減等の目的から、発電における作動温度が120℃〜150℃と高くなっている。さらに、燃料電池システムのコストダウンを目的に、加湿機を無くしまたは簡素化し、即ち、湿度20%以下の低加湿条件下でも、高いプロトン伝導性を有することが求められている。
【0006】
燃料電池用固体電解質膜には、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーが用いられる。パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーによる燃料電池用固体電解質として、米国アルドリッチ社より、商品名ナフィオン、旭硝子株式会社より、商品名フレミオン、旭化成株式会社より、商品名、アシプレックス、およびジャパンゴアテックス株式会社より、商品名、ゴアセレクト等が市販されている。
【0007】
パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー中のスルホン酸基は、水と親水性を示し、ポリマー中でクラスター部位を構成しており、プロトンは水分子とともにクラスター間を移動していくことで、プロトン伝導性を示すと考えられている。従って、高いプロトン伝導性を得るためには、燃料電池用固体電解質膜が水を含んだ状態であることが必要である。
【0008】
パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーは、化学的安定性に優れるが、ガラス転移温度が低く、耐熱性が低いため、動作温度が70℃〜100℃で低いという問題があった。さらに、低加湿時にプロトン伝導性が低下し、また、100℃以上では、燃料電池用固体電解質膜中に水分が保持できなくなり、プロトン伝導性および機械特性が著しく低下する問題がある。
【0009】
PEFCの中で、ダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCと略する)は、水素の代わりにメタノールを用い、直接これを電極で反応させて発電する。アノード側(燃料極)で、触媒により水素から電子を切り離し、水素を水素イオン(プロトン)と電子とする他の燃料電池と異なり、DMFCにおいては、アノード電極上、触媒によりメタノールが直接水と反応して、プロトン、電子または二酸化炭素に変わる。
【0010】
燃料としてメタノールを用いた場合、メタノールの一部が、アノード側からカソード側へ透過してしまうクロスオーバー現象が生じ、燃料のロスに加え、空気極の電位低下を引き起こす問題がある。
【0011】
また、パーフルオロカーボンスルホン酸系電解質膜は製造工程が多く、コスト的に高くなる傾向にある。そこで、コスト低減のため、芳香族炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入した膜の研究開発が行われている。
【0012】
例えば、特許文献1にはポリアリーレンスルフィドスルホンおよび/またはポリアリーレンスルホンにスルホン酸基が導入された電解質膜が開示されているが、スルホン酸基の脱離により劣化する。
【0013】
さらに、特許文献2には芳香族環からのスルホン酸の脱離を抑えるため、スルホアルキル基を側鎖に導入した芳香族炭化系の電解質膜が開示されているが、耐酸化性に劣る問題がある。このように芳香族炭化水素系電解質膜は、酸化による劣化が問題となっており、芳香族に直接スルホン酸基等を導入したものは、高温において顕著な脱スルホン酸が起こり易く、高温作動膜としては好ましくない。また芳香族炭化水素系電解質膜は、全般的に低加湿時に極端にプロトン伝導性が低下する問題がある。
【0014】
また、特許文献3には、スルホン酸基を用いないビストリフルオロメタンスルホニルメチド基を有する特定の芳香族ユニットをグラフト重合してなる電解質膜について記載されており、パーフルオロスルホニル基を含有する電解質膜が、低含水状態でもプロトン伝導性を有することが開示されているが、スチレン系ポリマーにグラフト重合させる必要があり、製造に手間がかかりコスト的に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−80166号公報
【特許文献2】特開2002−110174号公報
【特許文献3】特開2005−162623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
酸性基としてスルホン酸基を用いる従来の燃料電池用固体電解質膜は、高温時にスルホン酸基が脱離するという問題があった。また、プロトン伝導性を上げるためにスルホン酸基の導入量を増やすことが検討されているが、スルホン酸基の導入量が増えると、電解質膜が脆くなるという問題があった。
【0017】
また、燃料電池用固体電解質膜には、機械的な耐熱性および化学的安定性に加え、低加湿時でも良好なプロトン伝導性を有し、且つ、メタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低いメタノール透過性を兼ね備えた、しかも、低価格であることが求められており、これらを全て満たす燃料電池用の固体電解質膜は現在知られていない。
【0018】
本発明は、耐熱性および化学安定性に優れ、低加湿条件下で良好なプロトン伝導性を有し、且つ、メタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低いメタノール透過性を兼ね備えた燃料電池用固体電解質膜およびその原料化合物を提供することを目的とする。また、当該燃料電池用固体電解質膜の工業的に簡便かつ多量生産に適した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、強酸性のイオン交換基であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有する特定のメチド系シラン化合物を得ることに成功し、当該メチド系シラン化合物を縮合単位とするシリコン樹脂を得た。得られたシリコン樹脂は燃料電池用の固体電解質膜として好適に使用されることを見出した。
【0020】
本発明は次の通りである。
【0021】
[発明1]
下記縮合単位(a)を含むポリシロキサン化合物。
【化1】

【0022】
(式中、R01は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい有機基を表し、Wは単結合または二価の基を表し、Rは炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表す。pは、1、2または3を表す。)
尚、pが1の場合は、シロキサン結合は1つであり、ポリシロキサン化合物の末端となる。pが2の場合はシロキサン結合を2つ有する。また、pが3の場合は、シロキサン結合を3つ有しており、ポリシロキサン化合物は網目構造となる。
【0023】
[発明2]
Wが、単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または一般式(6)で表される二価の有機基である発明1に記載のポリシロキサン化合物。
【化2】

【0024】
(式中、mは、2〜5、nは0〜5の整数を表し、Aは、下記式(7)で表される何れかの基を表す。)
【化3】

【0025】
[発明3]
さらに、下記縮合単位(b)を含む請求項1または請求項2に記載のポリシロキサン化合物。
【化4】

【0026】
(式中、R02は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい有機基を表し、qは1、2、3または4を表す。)
尚、qが1の場合は、シロキサン結合は1つであり、ポリシロキサン化合物の末端となる。qが2の場合は、シロキサン結合は2つである。また、qが3および4の場合は、シロキサン結合は3つおよび4つであり、ポリシロキサン化合物は網目構造となる。
【0027】
[発明4]
ポリシロキサン骨格の末端が下記式(c)で表される基で封鎖された発明1乃至発明3のいずれかに記載のポリシロキサン化合物。
【化5】

【0028】
(式中、R03は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。)
[発明5]
縮合単位(a)を1〜150単位と縮合単位(b)を0〜150単位含む発明1乃至発明4のいずれかに記載のポリシロキサン化合物。
【0029】
[発明6]
架橋基として、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロシリル基、アルコキシシリル基およびヒドロシリル基からなる群から選ばれた少なくとも1種を少なくとも1個有する発明1乃至発明5のいずれかに記載のポリシロキサン化合物。
【0030】
[発明7]
架橋剤と発明1乃至発明6のいずれかに記載のポリシロキサン化合物とを含むポリシロキサン組成物。
【0031】
[発明8]
さらに、下記式(8)で表されるシロキサン化合物を含む発明7に記載のポリシロキサン組成物。
【化6】

【0032】
(式中、R04、R05は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R04、R05の少なくとも2つは架橋基を有する。zは、0〜150の整数を表す。)
[発明9]
架橋剤がイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アルデヒド系化合物、クロロシラン類、アルコキシシラン類、メラミン系化合物、イオウもしくはイオウ化合物、ヒドロシラン類、過酸化物およびアゾ化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種である発明7または発明8に記載のポリシロキサン組成物。
【0033】
[発明10]
架橋剤が下記式(9)で表されるシラン化合物である発明7または発明8に記載のポリシロキサン組成物。
【化7】

【0034】
(式中、R06は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、R06の少なくとも3つは架橋基または架橋基を有する基である。)
[発明11]
発明7乃至発明10のいずれか1項に記載のポリシロキサン組成物を架橋反応させて得られるシリコン樹脂。
【0035】
[発明12]
発明11に記載のシリコン樹脂を含む固体電解質膜。
【0036】
[発明13]
縮合単位(a)成分が膜質量の5質量%以上である発明12に記載の固体電解質膜。
【0037】
[発明14]
一般式(4)で表されるメチド系シラン化合物。
【化8】

【0038】
(式中、R07は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはアルコキシ基を表し、R01は水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、Rは、炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表し、aは0〜3の整数を表す。Wは、単結合または二価の有機基を表す。)
[発明15]
Wが、単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または一般式(6)
【化9】

【0039】
(式中、mは2〜5、nは0〜5の整数を表し、Aは、下記式(7)で表される何れかの基を表わす。)で表される二価の有機基である発明14に記載のメチド系シラン化合物。
【化10】

【0040】
[発明16]
01およびR07がそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基または炭素数6〜8のアリール基である発明14または発明15に記載のメチド系シラン化合物。
【0041】
[発明17]
aが、1〜3の整数である発明14乃至発明16のいずれかに記載のメチド系シラン化合物。
【発明の効果】
【0042】
本発明のシリコン樹脂は、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸系電解質膜と比較して、強酸性基であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を高濃度で導入することができ、低加湿条件下で良好なプロトン伝導性を示す。プロトン伝導度が高いことに加え、耐ラジカル性があり、化学的安定性に優れ、高温で膜が脆くなる等の機械的強度が劣化することなく、メタノール透過性に優れることから、燃料電池用等の固体電解質膜として有用である。
【0043】
さらに、本発明のビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するメチド系シラン化合物は、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するシリコン樹脂の製造に適した原料であり、これを原料とすることにより、燃料電池用等の固体電解質膜を工業的規模で簡便かつ多量に生産する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書において、「ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するメチド系ポリシロキサン化合物」を「メチド系ポリシロキサン化合物」ということがあり、「ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するメチド系シラン化合物」を「メチド系シラン化合物」、「ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有しないポリシロキサン化合物」を単に「ポリシロキサン化合物」、「ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有しないシラン化合物」を単に「シラン化合物」ということがある。
本明細書において、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基というときは、別途説明のない限り、それぞれ置換基を有していてもよい。
【0045】
本明細書において、「架橋基」は、分子内または分子外の他の架橋基と化学反応して共有結合を形成する基をいう。
【0046】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0047】
[ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するメチド系シラン化合物]
本発明の一般式(4)、
【化11】

【0048】
で表されるメチド系シラン化合物において、R07は加水分解性の官能基または加水分解性の官能基を有する基であり、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素。本明細書において同じ。)もしくはアルコキシ基、またはハロゲン原子またはアルコキシ基を有する基である。
【0049】
01は、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、架橋基または架橋基を有する基であってよく、加水分解性の基を有しない。Rは、炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表し、aは0〜3の整数を表す。Wは、単結合または二価の有機基を表す。
【0050】
尚、R07およびR01において、ケイ素と結合した水素原子、ハロゲン原子は架橋性を有し、本発明において、ケイ素との結合が切れラジカルとなり、架橋構造をとることがある。
【0051】
前記アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブトキシ基等を例示でき、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。
【0052】
アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基であって、直鎖状または分岐鎖状であることが好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられ、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0053】
アルケニル基としては、炭素数2〜6のアルケニル基であって、直鎖状または分岐鎖状であるのが好ましく、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基等挙げられ、ビニル基またはアリル基がより好ましい。
【0054】
架橋基としては、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロシリル基、アルコキシシリル基またはヒドロシリル基等が挙げられ、アルケニル基、ビニル基が好ましい。
【0055】
架橋基を有する基としては、前記架橋基を有する有機基であればよく、この有機基としてはアルキル基が好ましく、アルキル基と架橋基が二価の基を介して結合していてもよく、(メタ)アクリロイルオキシ基等も好ましい。また、末端にビニル基を有するアルキル基である前記アルケニル基は好ましい。
【0056】
アリール基としては、炭素数6〜8のアリール基が好ましく、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基等が挙げられ、フェニル基が特に好ましい。
【0057】
Rfとしては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−n−プロピル基、ヘプタフルオロ−i−プロピル基、ノナフルオロブチル基等が挙げられ、トリフルオロメチル基またはペンタフルオロエチル基が好ましい。
【0058】
整数aは、一分子中に含まれる加水分解性の基または加水分解性の基を有する基の数を表し、aが1〜3の場合に、一般式(4)で表されるメチド系シラン化合物は縮合反応に使用される。
【0059】
Wは、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または一般式(6)
【化12】

【0060】
で表される二価の有機基であるのが好ましい。mは2〜5、nは0〜5の整数を表し、Aは、下記の式(7)
【化13】

【0061】
で表される何れかの基を表す。
【0062】
一般式(4)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するメチド系シラン化合物の合成方法について、以下に説明する。
【0063】
原料となるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有する強酸性化合物であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンおよびアルケニルビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンは、公知の方法(例えば、Journal of Orgnic Chemistry., Vol. 38. No.19, 1973, 3358等)により合成することができる。例えば、以下の反応(グリニャール反応)で合成される。
【化14】

【化15】

【0064】
これらの式中、Xはハロゲン原子を示し、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。Rは一般式(4)における炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を示す。
【0065】
メチド系シラン化合物は、アルケニルビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンにヒドロシランを作用させることで合成することができる。アルケニル基等の炭素−炭素不飽和結合を有する基(アリル基等)のヒドロシリル化反応は、公知の手法で進行し、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を含んだメチド系シラン化合物を合成することができる。例えば、以下の反応で合成される。
【化16】

【0066】
、Rは、一般式(4)における意義と同じ。
また、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メタンは、公知の方法により、例えば、スルホニルハライド、カルボン酸ハライドやエポキシドと以下の反応が進行し、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するメチド系シラン化合物を合成することができる。
【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【0067】
Xはハロゲン原子を示し、Rは一般式(4)のR01と同じ意義を示し、Rは、一般式(4)における意義と同じ。
【0068】
これらの反応の反応触媒(反応式中では、白金触媒と表示してある。)としては、アルケニル基とSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するものが使用される。例えば、白金、パラジウム、ロジウム等や塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサンまたはアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、白金ジビニルシロキサン、白金環状ビニルメチルシロキサン、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、ビス(エチレン)テトラクロロ二白金、シクロオクタジエンジクロロ白金、ビス(シクロオクタジエン)白金、ビス(ジメチルフェニルホスフィン)ジクロロ白金、白金カーボン、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属またはこれらの化合物が挙げられる。本反応における反応触媒は、好ましくは白金化合物であり、特にジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)が好ましい。
【0069】
また反応触媒の配合量は、アルケニル基含有化合物の質量に対する触媒中の金属元素の質量比で表して、0.5ppm以上、1000ppm以下である。0.5ppm未満では、反応触媒の作用効果が少なく、1000ppmより多く投入しても効果は変わらず不経済である。反応触媒の有効な範囲を考慮すれば、特に1ppm以上、500ppm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、10ppm以上、100ppm以下の範囲である。
【0070】
ヒドロシラン化合物の配合量は、アルケニル基含有化合物に対して、1当量以上、5当量以下である。1当量より少ないと、アルケニル基含有化合物が余剰となり反応は完結せず収率が減るので好ましくなく、5当量より多く加えてもアルケニル基含有化合物の転化率の向上はないので好ましくない。より好ましくは1当量以上、3当量以下である。
【0071】
前述の反応で得られる、一般式(4)で表されるメチド系シラン化合物の例を、以下に非制限的に列挙する。
【0072】
一般式(4)で表されるメチド系シラン化合物において、Wは、単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または二価の有機基を表し、スルホニル基、カルボニル基、エーテル基、水酸基またはアミノ基を有していてもよい。
【0073】
Wは、例えば、−CH−、−CH−CH−、−CH−CH−CH−、−CH−CH(CH)−、−CH−CH−CH−CH−、−CH−SO−、−CH−CH−SO−、−CH−CH−CH−SO−、−CH−CH(CH)−SO−、−CH−CH−CH−CH−SO−、−CH−CO−、−CH−CH−CO−、−CH−CH−CH−CO−、−CH−CH(CH)−CO−、−CH−CH−CH−CH−CO−、−CH−O−CH−CH(OH)−CH−、−CH−CH−O−CH−CH(OH)−CH−、−CH−CH−CH−O−CH−CH(OH)−CH−、−CH−CH(CH)−O−CH−CH(OH)−CH−、−CH−CH−CH−CH−O−CH−CH(OH)−CH−、−CH−O−CH−CH(NH)−CH−、−CH−CH−O−CH−CH(NH)−CH−、−CH−CH−CH−O−CH−CH(NH)−CH−、−CH−CH(CH)−O−CH−CH(NH)−CH−、−CH−CH−CH−CH−O−CH−CH(NH)−CH−、−CH−O−CH−CH−、−CH−CH−O−CH−CH−、−CH−CH−CH−O−CH−CH−、−CH−CH(CH)−O−CH−CH−、−CH−CH−CH−CH−O−CH−CH−で表され、好ましくは、−CH−CH−CH−、−CH−CH−CH−CH−、−CH−CH−SO−、−CH−CH−CO−、−CH−CH−O−CH−CH(OH)−CH−、−CH−CH−O−CH−CH(NH)−CH−、−CH−CH−O−CH−CH−である。
【0074】
最初に、Wが炭素数3の直鎖状のアルキレン基からなるメチド系シラン化合物について列挙する。
【化21】

【0075】
次いで、Wが炭素数4の直鎖状のアルキレン基からなるメチド系シラン化合物について列挙する。
【化22】

【0076】
次いで、Wが炭素数2の直鎖状のアルキレン基からなるメチド系シラン化合物について列挙する。
【化23】

【0077】
次いで、Wが炭素数2の直鎖状のアルキレン基とカルボニル基からなるメチド系シラン化合物について列挙する。
【化24】

【0078】
次いで、Wがエーテル基とヒドロキシ基を有するメチド系シラン化合物について列挙する。
【化25】

【0079】
次いで、Wにエーテル基とアミノ基を有するメチド系シラン化合物について列挙する。
【化26】

【0080】
次いで、Wにエーテル基を有するメチド系シラン化合物について列挙する。
【化27】

【0081】
上記メチド系シラン化合物中、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示す。また、アルキレン基は分岐状であってもよく、CFをCまたはCで置き換えることも当然に可能である。
【0082】
[ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するメチド系ポリシロキサン化合物]
本発明のメチド系ポリシロキサン化合物は、下記縮合単位(a)を含むポリシロキサン化合物である。当該ポリシロキサン化合物は他の化合物とのさらなる重合または縮合のためには、少なくとも1個以上の架橋基を有するポリシロキサン化合物であることが好ましい。
【0083】
縮合単位(a)は、一般式(4)で表されるメチド系シラン化合物を加水分解して得られる構造であり、加水分解性基以外の構造について変化はなく、原料のメチド系シラン化合物の構造が維持される。
【0084】
尚、本発明のメチド系ポリシロキサン化合物は、下記縮合単位(a)を含むポリシロキサン化合物である。
【化28】

【0085】
式中、R01、WおよびRfは、それぞれ一般式(4)における意義と同じであり、3−pはSiと結合したR01の個数であり、pはSi−O結合の数を示し、1、2または3を表す。固体電解質膜の作製において、pは1、2、3より任意の値をとれるが、ポリシロキサン化合物中で縮合単位(a)は末端でないことが好ましく、pは主に2、3であることが好ましく、特に2が好ましい。
【0086】
ここで、pが3、2、1に対して、それぞれビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位が、下記一般式(1)、(2)、(3)で表される。
【化29】

【0087】
式中、R01、WおよびRfは、一般式(4)における意義と同じである。ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)ビスメチド部位としては、具体的には、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド基、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)メチド基、ペンタフルオロエタンスルホニルトリフルオロメタンスルホニルメチド基、トリフルオロメタンスルホニルヘプタフルオロプロパンスルホニルメチド基、ノナフルオロブタンスルホニルトリフルオロメタンスルホニルイミド基等のビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基等が挙げられる。
【0088】
これらの一般式(1)、(2)、(3)で表される縮合単位は、ポリシロキサン化合物中で任意の比率で用いてよい。
【0089】
一般式(4)で表されるメチド系シラン化合物は、一般式(10)
【化30】

【0090】
(式中、R08は加水分解性の官能基または加水分解性の官能基を有する基であり、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素。)もしくはアルコキシ基またはこれらを置換基として有する基であればよい。R02は水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、架橋基または架橋基を有する基であってよく、加水分解性の基を有しない。bは1〜4の整数を表す。)で表される加水分解性基を有するシラン化合物と共に加水分解して縮合させることができ、縮合単位(a)と下記縮合単位(b)を含むポリシロキサン化合物を得ることができる。
【化31】

【0091】
加水分解反応、縮合反応において加水分解性基以外の基に変化は起こらないので、式中、R02は、一般式(4)におけるR07と同一であり、qはpと同様の意義であり、1、2、3または4を表す。固体電解質膜の作製において、qは1、2、3、4より任意の値をとれるが、ポリシロキサン化合物中で縮合単位(b)は末端でないことが好ましく、qは主に2、3、4であることが好ましく、特に2が好ましい。
【0092】
一般式(10)で表される加水分解性基を有するシラン化合物においては、R08、R02にはそれぞれ一般式(4)におけるR07、R01についての説明が該当する。
【0093】
一般式(10)においてbが1であるシラン化合物を加水分解して、下記構造単位(c)を共重合することは、生成するポリシロキサン化合物の末端を封鎖して安定性を高めるのに有用である。
【化32】

【0094】
加水分解反応、縮合反応において加水分解性基以外の基に変化は起こらないので、式中、R03は、一般式(10)におけるR02に該当し、符号の意義はR02と同じである。
【0095】
ポリシロキサン化合物において、縮合単位(a)に基づく単位の重合度は1〜150であり、好ましくは1〜100、より好ましくは1〜50である。縮合単位(b)に基づく単位の重合度は0〜150、好ましくは0〜100、より好ましくは0〜50である。構造単位(c)はこれら縮合単位(a)および縮合単位(b)の末端に応じた数である。
【0096】
本発明のビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を有するポリシロキサン化合物(メチド系ポリシロキサン化合物)は、縮合単位(a)、縮合単位(b)および必要に応じて構造単位(c)からなり、下記一般式(5)で表すことができる。
【化33】

【0097】
式中、R01、R02、R03は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはヒドロキシ基を表し、R01、R02、R03の少なくとも2つは架橋基であるかまたは架橋基が置換した基である。Rは、炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表し、xおよびyは重合度を表し、xは1〜150の整数を、yは0〜150の整数を表す。xは好ましくは1〜100の整数、より好ましくは1〜50の整数である。yは好ましくは0〜100の整数、より好ましくは0〜50の整数である。
【0098】
また、3−rは、Siと結合するR01の個数、rは、xで括られるカッコ内のSi−O結合の数、4−sはSiと結合するR02の個数、sはyで括られるカッコ内のSi−O結合の数であり、r、sはそれぞれ独立に整数であり、rは1、2、3を、sは1、2、3、4を表す。rは2、3が好ましく、特に2が好ましい。sは2、3、4が好ましく、特に2が好ましい。rとsは同時に2であることが好ましい。ポリシロキサン化合物中において、rおよびsは、各Si分子毎に異なっていてもよい。
【0099】
01、R02、R03には、縮合単位(a)、縮合単位(b)または構造単位(c)についてのR01、R02、R03の説明がそれぞれ該当する。架橋基以外のR01、R02、R03はメチル基またはフェニル基が好ましく、一般式(5)で表されるポリシロキサン化合物は、分子鎖末端が、ジメチルビニルシリル基で封鎖された構造であることが特に好ましい。
【0100】
一般式(5)で表されるメチド系ポリシロキサン化合物は、1分子中に2個以上の架橋基を有し、架橋基は、ポリシロキサン化合物の質量1gあたりに、0.01mmol〜10.0mmolの含有量で含まれることが好ましい。架橋基の含有量が0.01mmolより少ないと架橋による硬化が不十分となり、10.0mmolより多く含むと得られたシリコン樹脂の硬度が高く扱い難いことがあり好ましくない。
【0101】
また、メチド系ポリシロキサン化合物を示す一般式(5)は、縮合単位(a)および縮合単位(b)からなるブロック共重合体またはグラフト共重合体に限らず、ランダム共重合体または交互共重合体であってもよい。したがって、式中のx、yはそれぞれ分子中の各縮合単位の数を示し、ブロックまたはグラフト構造を示すものではない。重合のしやすさからランダム重合体が好ましい。
【0102】
以下、本発明におけるポリシロキサン化合物の重合反応について示す。
【0103】
先ず、加水分解性基および重合性基を有するシラン化合物を用い、ポリシロキサン化合物を重合する際の、連鎖反応の中間段階の反応スキームを示す。
【化34】

【0104】
出発化合物である一般式(10)の一例である一般式(10)−1のR08の一方は、加水分解されてOH基となり、ポリシロキサン化合物(a)と脱水縮合する。式中、R03は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはヒドロキシ基を表わす。Rは、炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表し、xおよびyは重合度を表し、xは1〜150の整数を表す。
【0105】
代表的なものとして、クロロジメチルビニルシランを出発化合物とする連鎖反応の中間段階の反応スキームを示す。
【化35】

【0106】
出発化合物であるクロロジメチルビニルシランのCl基は、加水分解されてOH基となり、ポリシロキサン化合物(a)と脱水縮合する。
【0107】
一般式(10)−1で表される加水分解性基および重合性基を有するシラン化合物を、以下に非制限的に例示するが、本発明において、これら重合性シラン化合物の中でも、入手しやすく反応性が良好なことより、クロロジメチルビニルシランが好適に用いられる。
【0108】
架橋基としてアルケニル基を有するシラン化合物(重合性シラン化合物)としては、メタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル、アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル等の(メタ)アクリロキシ基を有するシラン化合物、アリル(クロロメチル)ジメチルシラン、アリルクロロジメチルシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリス(トリメチルシリルオキシ)シラン、クロロジメチルビニルシラン、ジクロロメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメチルエトキシビニルシラン、1、3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、トリクロロビニルシラン、ジメチルエトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリメトキシシラン、またはビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シランが挙げられる。
【0109】
次いで、加水分解性基を有し重合性基を有しないシラン化合物を用い、ポリシロキサン化合物を重合する際の、連鎖反応の中間段階の反応スキームの反応スキームを示す。
【化36】

【0110】
出発化合物である一般式(10)の一例である一般式(10)−2のR08は、加水分解されてOH基となり、ポリシロキサン化合物(a)と脱水縮合する。式中、R02は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはアリール基表わす。Rは、炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表し、xおよびyは重合度を表し、xは1〜150の整数を、yは0〜150の整数を表す。
【0111】
代表的なものとして、ジクロロジメチルシランを開始化合物とする連鎖反応の中間段階の反応スキームを示す。
【化37】

【0112】
出発化合物であるジクロロジメチルシランのCl基は、加水分解されてOH基となり、ポリシロキサン化合物(a)と脱水縮合する。
【0113】
一般式(10)−2で表される加水分解性基を有し、重合性基を有しないシラン化合物を、以下に非制限的に例示するが、本発明において、これら加水分解性シラン化合物の中で、入手しやすく反応性が良好なことより、ジクロロジメチルシランが特に好適に用いられる。
【0114】
重合性基を有しない加水分解性シラン化合物には、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロピルシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、(クロロメチル)ジメチルイソプロポキシシラン、[ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−イル]トリエトキシシラン、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン、トリメトキシシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシ(プロピル)シラン、トリメトキシ(p−トリル)シラン、トリメトキシ(メチル)シラン、トリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシフルオロシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、N−[2−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、n−オクチルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ベンジルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル クロリド、3−−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、2−シアノエチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、(クロロメチル)トリエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3−ブロモプロピル)トリメトキシシラン、オルトけい酸テトラプロピル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)、オルトけい酸テトライソプロピル、オルトけい酸テトラエチル、オルトけい酸テトラブチル、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジ−p−トリルシラン、ジメトキシ(メチル)シラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ(メチル)フェニルシラン、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、シクロヘキシル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,5−ヘプタメチル−3−(3−グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、3−クロロプロピルジクロロメチルシラン、クロロメチル(ジクロロ)メチルシラン、ジ−tert−ブチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、ジクロロ(メチル)オクタデシルシラン、ジクロロ(メチル)フェニルシラン、ジクロロシクロヘキシルメチルシラン、ジクロロデシルメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロジヘキシルシラン、ジクロロジイソプロピルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジペンチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、ジクロロドデシルメチルシラン、ジクロロエチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロメチルシラン、n−オクチルメチルジクロロシラン、テトラクロロシラン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、ビス(トリクロロシリル)アセチレン、ブチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、1,1,2,2−テトラクロロ−1,2−ジメチルジシラン、イソブチルトリクロロシラン、n−オクチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、テキシルトリクロロシラン、トリクロロ(メチル)シラン、トリクロロ(プロピル)シラン、トリクロロ−2−シアノエチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロシラン、トリクロロテトラデシルシラン、(3−シアノプロピル)ジメチルクロロシラン、(ブロモメチル)クロロジメチルシラン、(クロロメチル)ジメチルクロロシラン、1,2−ジクロロテトラメチルジシラン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、α−(クロロジメチルシリル)クメン、ベンジルクロロジメチルシラン、ブチルクロロジメチルシラン、クロロ(デシル)ジメチルシラン、クロロ(ドデシル)ジメチルシラン、クロロジイソプロピルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロジメチルプロピルシラン、クロロジメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロトリメチルシラン、ジエチルイソプロピルシリル クロリド、ジメチル−n−オクチルクロロシラン、ジメチルエチルクロロシラン、ジメチルイソプロピルクロロシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジフェニルクロロシラン、トリイソプロピルシリルクロリド、またはトリフェニルクロロシランが挙げられる。
【0115】
一般式(5)で表されるメチド系ポリシロキサン化合物の合成方法は、本発明において、特に限定されないが、縮合単位(a)、縮合単位(b)および必要に応じて構造単位(c)の各縮合単位を与える化合物を加水分解した後に、縮合する反応が挙げられる。例えば、水の共存下、塊状重合、溶液重合、懸濁重合または乳化重合等の公知の重合方法により、回分式、半連続式または連続式のいずれかの操作で行えばよい。ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位が強酸性であるため、水の共存下で、各縮合単位を与える化合物は加水分解され、容易に縮合反応が進行する。縮合反応の際には、反応促進剤として、硫酸等の酸やアンモニア等の塩基、または、スズ触媒やチタン触媒等の縮合反応触媒を加えてもよい。本発明において、重合反応に用いる反応容器は特に限定されない。
【0116】
[シリコン樹脂]
本発明のビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を含むシリコン樹脂は、縮合単位(a)を含むポリシロキサン化合物(例えば、一般式(5)で表されるポリシロキサン化合物)を架橋剤と混合してポリシロキサン組成物を調製し架橋させることで得られる。また、さらに一般式(8)で表される下記ポリシロキサン化合物を併用してポリシロキサン組成物を調製し架橋反応させることもできる。
【化38】

【0117】
式中、R04、R05は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはヒドロキシ基を表し、R04またはR05の少なくとも2つは架橋基であり、二つが架橋基であるものが好ましい。重合度の数zは、0〜150の整数を表す。
【0118】
一般式(8)で表されるポリシロキサン化合物は、架橋基以外の置換基R04、R05としてメチル基またはフェニル基が好ましく、zが1〜40のオルガノポリシロキサンが好ましい。1種単独でも2種類以上を組み合わせても使用することができる。溶剤に溶けにくくなるので、重合度は150を超えることは好ましくない。
【0119】
一般式(8)で表されるポリシロキサン化合物は、一般式(10)で表される加水分解性基を有するシラン化合物を加水分解および縮合反応させることで得られる。その際、末端を前記構造単位(c)で封鎖することもできる。ここで、R04、R05は、それぞれ、一般式(10)のR02、R03に該当し、R02、R03の説明がそれらに該当する。反応は、加水分解性基を2個有するシラン化合物zモルに対し、加水分解性基を1個有するシラン化合物2/zモルを前記した加水分解および縮合反応させることで行われる。架橋基は、いずれのシラン化合物に含まれていてもよい。このようなポリシロキサン化合物としては、市販されているもの、例えばCAT−104(信越化学工業株式会社製架橋触媒、製品名)を使用してもよい。
【0120】
本発明のビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を含むシリコン樹脂は、架橋反応により得られるが、架橋反応の形式には限定されない。
【0121】
架橋剤としては、メチド系ポリシロキサン化合物が有する水素原子、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロシリル基、アルコキシシリル基またはヒドロシリル基等の官能基(架橋基)と反応し得る基を有するイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アルデヒド系化合物、クロロシラン類、アルコキシシラン類、メラミン系化合物、イオウもしくはイオウ化合物またはヒドロシラン類等が挙げられる。これらの化合物は3官能以上の多官能化合物であるものが架橋密度の点から好ましい。
【0122】
また、過酸化物やアゾ化合物を架橋剤とするラジカル反応によって架橋させることも可能であり、ラジカル反応によって架橋されるものでは反応機構は限定されないが、耐久性の点から好ましく採用できる。
【0123】
イソシアネート化合物は、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基等と反応して架橋構造を形成する。例えば、1,4−フェニレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジクロロビフェニル−4,4’-ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、トリレン−2,6−ジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアネート、またはイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物が挙げられる。また、当該ジイソシアネート化合物のウレチジンジオン型二量化物、ビウレット型三量化物、またはイソシアヌレート型三量化物が挙げられる。また、当該ジイソシアネート化合物の1,3−プロパンジオール、またはトリメチロールプロパン等のポリオールのアダクト体が挙げられる。また、トリフェニルメタンイソシアネート、トリス(イソシアナートファニル)チオホスフェイト等のトリイソシアネート等が挙げられる。これらのうち、ヘキサメチレンジイソシアネートが特に好ましい。
【0124】
エポキシ化合物は、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基基等と反応して架橋構造を形成する。例えば、グリシジルエーテル系、グリシジルエステル系、グリシジルアミン系、または脂環式系化合物等が挙げられる。具体的には、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、1,7−オクタジエンジエポキシド、1,5−ヘキサジエンジエポキシド、イソシアヌル酸トリグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−ブタジエンモノエポキシド、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、または1,2−エポキシ−9−デセン等が挙げられる。反応性がよいことより、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0125】
アルデヒド系化合物は、フェノール性ヒドロキシ基等と反応して架橋構造を形成する。ホルムアルデヒド、ホルマリン水溶液、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、ポリオキシメチレンまたはプロピオンアルデヒド等が挙げられる。反応性がよく、取り扱いが容易なことから、パラホルムアルデヒドは特に好ましい。
【0126】
クロロシラン類は、ヒドロキシ基、アルコキシシリル基等と反応して、シロキサン結合となり、架橋構造を形成する。例えば、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジビニルジクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルジクロロシラン、フェニルジクロロシラン、ビニルジクロロシラン、ジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、ビス(トリクロロシリル)アセチレン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチル)シラン、トリクロロ−2−シアノエチルシラン、またはフェニルトリクロロシラン等が挙げられる。反応性がよく、安価であり入手し易いことより、ジメチルジクロロシランが特に好ましい。
【0127】
アルコキシシラン類は、ハロゲン原子またはアルコキシ基と縮合してシロキサン結合を形成する。例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、エチルジメトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、ビニルジメトキシシラン、ジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、エチルジエトキシシラン、フェニルジエトキシシラン、ビニルジエトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、ベンジルトリエトキシシラン、(3-ブロモプロピル)トリメトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル クロリド、2−シアノエチルトリエトキシシラン、(クロロメチル)トリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、1,1,1−トリフルオロ-3−(トリメトキシシリル)プロパン、トリエトキシフェニルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシ(4−メトキシフェニル)シラン、トリメトキシ(p−トリル)シラン等が挙げられる。反応性がよく、安価であり入手し易いことより、ジメチルジメトキシシランが特に好ましい。
【0128】
メラミン系化合物は、水酸基等と反応して架橋構造を形成する。例えば、メラミン、メチロール化メラミン、またはメチロール化メラミン誘導体が挙げられる、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて、部分的あるいは完全にエーテル化した化合物等を用いることができる。また、単量体あるいは2量体以上の多量体のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。反応性がよく、取り扱いが容易なことより、メチロール化メラミンとその誘導体が特に好ましい。
【0129】
ヒドロシラン化合物は、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等と反応して架橋構造を形成する。1分子中に3個のSiH基を有し、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基を有するものが好ましい。下記式(9)で表される。
【化39】

【0130】
(式中、R06は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、R06の少なくとも3つは架橋基または架橋基を有する基である。)。具体的には、メチルシラン、エチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン等が好ましく、特にフェニルシランが好ましい。
【0131】
イオウまたはイオウ化合物は、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等と反応して架橋構造を形成する。イオウまたはイオウ化合物としては、イオウ、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、モルフォリンジスルフィド、または、2−(4’−モルフォリノジチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられる。安価であり、取り扱いが容易なことより、イオウが特に好ましい。
【0132】
過酸化物は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等とのラジカル反応により架橋構造を形成する。ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキサイドベンゾエート)ヘキシン−3,1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3,2,5−トリメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルフェニルアセテート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペル−sec−オクトエート、tert−ブチルペルピパレート、クミルペルピパレート、またはtert−ブチルペルジエチルアセテート等が挙げられる。反応性がよく、得られたシリコン樹脂から形成した膜の機械的特性に優れることから、ベンゾイルパーオキサイドまたは2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が特に好ましい。
【0133】
また、アゾ化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等とのラジカル反応により架橋構造を形成する。例えば、アゾビスイソブチロニトリル、またはジメチルアゾイソブチレート等が挙げられる。安価であり、取り扱いが容易なことより、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0134】
これらの架橋剤は、単独あるいは複数を選択して使用することも可能である。また、架橋剤の種類または使用量の適正化によって、シリコン樹脂の硬化速度やポットライフ、または得られるシリコン樹脂の物性を燃料電池用固体電解質膜向けに、調整することも可能である。
【0135】
これらの架橋剤を用いたシリコン樹脂の製造において、架橋基がアルケニル基、特に末端にビニル基を有するアルケニル基であり、架橋剤を一般式(9)で表されるシラン化合物、特にアルキル基またはフェニル基が置換した一置換シランとして付加反応させるのが好ましい。この付加反応では、硬化(架橋)時の収縮が少なく寸法安定性に優れるため、燃料電池用の固体電解質膜等の膜を形成する場合には特に好ましい。
【0136】
本発明のシリコン樹脂の合成においては、 一般式(5)で表されるメチド系ポリシロキサン化合物と反応させる、一般式(8)で表されるポリシロキサン化合物および一般式(9)で表されるシラン化合物の合計量は、一般式(5)で表されるポリシロキサン化合物100質量部に対して0.5質量部〜3000質量部であり、好ましくは、1質量部〜2000質量部である。前記配合量が0.5質量部未満であると、硬化物が得られず、3000質量部を超えて混合する必要はない。
【0137】
一般式(8)で表されるポリシロキサン化合物に対する、一般式(9)で表されるシラン化合物の質量は、質量百分率で表して、0%以上、30%未満が好ましく、30%を超えて使用すると得られるシリコン樹脂が硬化不良となり、好ましくない。
【0138】
付加反応触媒としては、一般式(5)で表されるメチド系ポリシロキサン化合物中のアルケニル基と、一般式(8)で表されるポリシロキサン化合物、または一般式(9)で表されるシラン化合物中のSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するものであれば、いかなる反応触媒を使用してもよい。例えば、白金、パラジウム、ロジウム等や塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサンまたはアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、白金ジビニルシロキサン、白金環状ビニルメチルシロキサン、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、ビス(エチレン)テトラクロロ二白金、シクロオクタジエンジクロロ白金、ビス(シクロオクタジエン)白金、ビス(ジメチルフェニルホスフィン)ジクロロ白金、白金カーボン、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属またはこれらの化合物が挙げられ、入手し易さおよび触媒活性を考えると、本発明のシリコン樹脂の製造方法においては、反応触媒として特に前記白金化合物を用いることが好ましい。
【0139】
付加反応における反応触媒の配合量は、一般式(5)で表されるポリシロキサン化合物と一般式(8)に示すポリシロキサン化合物および/または一般式(9)に示すシラン化合物を合計した質量に対して、反応触媒中の金属元素の質量で表して、0.5ppm〜1000ppm、特に1ppm〜500ppmの割合であることが好ましく、より好ましくは、10ppm〜100ppmである。配合量が0.5ppm未満では付加反応が著しく遅くなる、または硬化しないことがあり、配合量が多すぎると、硬化した樹脂膜が黒く変色する。
【0140】
本発明のシリコン樹脂を硬化させるためには、100℃〜200℃に加熱する。好ましくは150℃〜180℃とする。加熱時間は加熱温度に依存するが、1〜48時間であり、3時間〜24時間が好ましく、6時間〜18時間がより好ましい。付加(硬化)反応を速やかに進行させるためには、一般式(5)で表されるメチド系ポリシロキサン化合物の100重量部に対して、溶媒を10重量部〜500重量部、より好ましくは、30重量部〜300重量部を使用する。10質量部より少ないと十分に溶解できず、硬化不良となり、500質量部を超えて使用する必要はない。
【0141】
また、ヒドロシリル化による重合反応においては、この反応に通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。使用する有機溶媒としては、付加反応を阻害せず、本発明の燃料電池用固体電解質膜に使用する原料化合物が可溶であれば特に制限されないが、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、ベンゼン、またはヘキサンが挙げられる。
【0142】
[シリコン樹脂組成物]
本発明のシリコン樹脂には、必要に応じて補強性シリカを配合することができる。即ち、本発明の組成物に高引裂き性を付与するために、微粉末シリカ、例えば、周知の比表面積測定法であるBET法で測定した比表面積が、50m/g以上の煙霧質シリカ、沈降シリカ等を補強剤として使用することにより、燃料電池用固体電解質膜としての引裂き強度を満足するシリコン樹脂を得ることが可能である。
【0143】
他に、無機質充填剤として、結晶性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土およびガラス繊維、または有機ケイ素化合物であるオルガノアルコキシシラン化合物等が使用される。また、シリコンゴムパウダーまたはシリコンレジンパウダーも使用可能である。 本発明のビス(パーフルオロアルキルスルホニル)メチド基を有する縮合単位を約5質量%〜90質量%含有するシリコン樹脂を燃料電池用固体電解質膜として使用すると約1mS/cm〜100mS/cmのプロトン伝導度が得られる。
【0144】
本発明により得られる燃料電池用固体電解質膜は、低含水率の状態において、良好なプロトン伝導度を有する。さらに、約260℃の耐熱性を有し、化学的に安定な燃料電池用固体電解質膜である。
【実施例】
【0145】
本発明について以下の実施例により、具体的に説明する。以下のモノマー合成例、膜作成例およびポリシロキサン化合物の合成例で示す実施例は、実施の形態の一例を示すものであり、本発明を限定するものではない。
【0146】
[モノマー合成例1]
還流冷却器を備えた容量100mlの三口フラスコ内に、1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)−3−ブテン(以下、BTSBと略する)100.2g(0.313モル)、トルエン69.8g、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(東京化成工業株式会社製)11.7mg(BTSBに対して0.0001質量部)、トリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)155.0g(BTSBに対して155質量部)を、窒素雰囲気下で各々仕込んだ。引き続き、窒素雰囲気下で、3分間攪拌混合させた後、このフラスコを85℃に調節したオイルバスに浸けて加熱しつつ、11時間反応させた。反応終了後、トリエトキシシランとトルエンを減圧下に留去回収した。次いで、減圧蒸留を行い、533Pa(4mmHg)の減圧下、100℃〜108℃に加熱し留出させて、4,4−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルトリエトキシシラン(以下、BTSB−TESと略する)を98.8g得た。
【0147】
尚、反応式は、以下に示す通りであり、BTSBにトリエトキシシランをジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を触媒とし付加反応させて、BTSB−TES、即ち、1aを得た。
【0148】
[BTSB−TESの物性]
H NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=4.85(t,J=5.6Hz,1H),3.83(q,J=6.8Hz,6H),2.52(m,2H),1.86(m,2H),1.23(t,J=7.2Hz,9H), 0.70(t,J=8.0Hz,2H)ppm 19F NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=−73.25ppm
【化40】

【0149】
[モノマー合成例2]
還流冷却器を備えた100mlの三口フラスコ内に、BTSB、6.4g(0.020モル)、トルエン23.8g、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(東京化成工業株式会社製)2.7mg(BTSBに対して0.0004質量部)、ジエトキシメチルシラン(東京化成工業株式会社製)13.2g(BTSBに対して2.1質量部)を、窒素雰囲気下で各々仕込んだ。引き続き、窒素雰囲気下で、3分間攪拌混合させた後、このフラスコを90℃に調整したオイルバスに浸けて加熱しつつ、16時間付加反応させた。付加反応終了後、ジエトキシメチルシランとトルエンを減圧下に留去回収した。次いで、減圧蒸留を行い、533Pa(4mmHg)に減圧下、85〜90℃に加熱し留出させて、4,4−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルジエトキシメチルシラン(以下、BTSB−DEMSと略する)を、4.8g得た。
【0150】
尚、反応式は、以下に示す通りであり、BTSBにジエトキシシランをジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を触媒とし付加反応させて、BTSB−DEMS、即ち、1bを得た。
【0151】
[BTSB−DEMSの物性]
H NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=4.90 (t,J=5.6Hz,1H),3.84(q,J=6.8Hz,4H),2.50(m,2H),1.86(m,2H),1.24(t,J=7.2Hz,6H),0.60(t,J=8.0Hz,2H),0(s,3H)ppm 19F NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=−73.09ppm
【化41】

【0152】
[モノマー合成例3]
還流冷却器を備えた容量100mlの三口フラスコ内に、BTSB、5.0g(0.016モル)、トルエン2.0g、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(東京化成工業株式会社製)0.8mg(BTSBに対して0.0002質量部)、ジクロロエチルシラン(東京化成工業株式会社製)2.1g(BTSBに対して0.43質量部)を、窒素雰囲気下で各々仕込んだ。引き続き、窒素雰囲気下で、3分間攪拌混合させた後、このフラスコを50℃に調整したオイルバスに浸けて加熱しつつ、1時間付加反応させた。付加反応終了後、トルエンを減圧下に留去回収した。次いで、減圧蒸留を行い、533Pa(4mmHg)に減圧下、98〜112℃に加熱し留出させて、4,4−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルジクロロエチルシラン(以下、BTSB−DCESと略する)を6.4g得た。
【0153】
尚、反応式は、以下に示す通りであり、BTSBにジクロロエチルシランを、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を触媒とし付加反応させて、BTSB−DCES、即ち、1cを得た。
【0154】
[BTSB−DCESの物性]
H NMR(溶剤:重テトラヒドロフラン);σ=5.47(t,J=5.6Hz,1H),1.78(m,2H),1.14(m, 2H),0.50(t,J=8.8Hz,2H),0.34(m,3H),0.30(m,2H)ppm 19F NMR(溶剤:重テトラヒドロフラン);σ=−73.19ppm
【化42】

【0155】
[モノマー合成例4]
還流冷却器を備えた100mlの三口フラスコに、BTSB、11.6g(0.036モル)、トルエン11.6g、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(東京化成工業株式会社製)1.9mg(BTSBに対して0.0002質量部)、トリクロロシラン(東京化成工業株式会社製)5.2g(BTSBに対して0.45質量部)を、窒素雰囲気下で各々仕込んだ。引き続き、窒素雰囲気下で、3分攪拌混合させた後、90℃のオイルバスに浸けて加熱しつつ、16時間付加反応させた。付加反応終了後、トルエンを減圧下に留去回収した。次いで、減圧蒸留を行い、533Pa(4mmHg)に減圧下、100〜115℃に加熱留出させて、4,4−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルトリクロロシラン(以下、BTSB−TCSと略する)を、14.5g得た。
【0156】
尚、反応式は、以下に示す通りであり、BTSBにトリクロロシランを、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を触媒とし付加反応させて、BTSB−TCS、即ち、1dを得た。
【0157】
[BTSB−TCSの物性]
H NMR(溶剤:重テトラヒドロフラン);σ=5.48(t,J=5.6Hz,1H), 1.82(dt,J=9.0,6.0Hz,2H),1.21(m,2H),0.91(t,J=9.0Hz,2H)ppm 19F NMR(溶剤:重テトラヒドロフラン);σ=−73.15ppm
【化43】

【0158】
[モノマー合成例5]
還流冷却器を備えた容量100ml三口フラスコ内に、BTSB、126.7g(0.393モル)、トルエン68.7g、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(東京化成工業株式会社製)15.2mg(BTSBに対して0.0002質量部)、ジクロロメチルシラン(東京化成工業株式会社製)50.0g(BTSBに対して0.4質量部)を窒素雰囲気下で各々仕込んだ。引き続き、窒素雰囲気下で、3分攪拌混合させた後、このフラスコを50℃に調整したオイルバスに浸けて加熱しつつ、30分間付加反応させた。付加反応終了後、トルエンを減圧下に留去回収した。次いで、減圧蒸留を行い、533Pa(4mmHg)に減圧下、105〜115℃に加熱し留出させて、4,4−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルジクロロメチルシラン(以下、BTSB−DCMSと略する)を163.0g得た。
【0159】
尚、反応式は、以下に示す通りであり、BTSBにジクロロメチルシランを、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を触媒とし付加反応させて、BTSB−DCMS、即ち、1eを得た。
【0160】
[BTSB−DCMSの物性]
H NMR(溶剤:重テトラヒドロフラン);σ=5.47(t,J=5.4Hz,1H), 1.77(dt,J=9.0,6.3Hz,2H),1.15(m,2H),0.51(t,J=8.8Hz, 2H), 0(s,3H)ppm 19F NMR(溶剤:重テトラヒドロフラン);σ=−73.21ppm
【化44】

【0161】
[モノマー合成例6]
還流冷却器を備えた100mlの三口フラスコ内に、BTSB、48.6g(0.152モル)、トルエン16.0g、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)(東京化成工業株式会社製)11.4mg(BTSBに対して0.0002質量部)、クロロジメチルシラン(東京化成工業株式会社製)15.2g(BTSBに対して0.31質量部)を、窒素雰囲気下で各々仕込んだ。引き続き、窒素雰囲気下で、3分攪拌混合させた後、このフラスコを50℃に調整したオイルバスに浸けて加熱し、30分間付加反応させた。付加反応終了後、トルエンを減圧下に留去回収した。次いで、減圧蒸留を行い、533Pa(4mmHg)に減圧下、101〜111℃に加熱し留出させて、4,4−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルクロロジメチルシラン(BTSB−CDMS)を56.1g得た。
【0162】
尚、反応式は、以下に示す通りであり、BTSBにクロロジメチルシランを、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を触媒とし付加反応させて、BTSB−CDMS、即ち、1fを得た。
【0163】
[BTSB−CDMSの物性]
H NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=5.47(t,J=5.6Hz,1H),2.07(m,2H),1.45(m,2H), 0.50(t,J=8.5Hz,2H), 0(m,6H)ppm 19F NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=−73.51ppm
【化45】

【0164】
[ポリシロキサン化合物の合成例1]
上記[モノマー合成例5]で得られたBTSB−DCMS(化合物1e)を用いて、発明のポリシロキサン化合物を合成した。
【0165】
ガラス製フラスコ中にBTSB−DCMSを28.1g、ジメチルビニルクロロシラン5.9g計り入れ、テトラヒドロフラン10.8gを添加した後、氷浴にフラスコを浸け冷やした。次いで、フラスコ中にイオン交換水5.0gを10分間かけて、徐々に滴下した。室温(20℃)にて1時間攪拌混合した後、イソプロピルエーテルで希釈し、有機層を水で3回洗浄し、エバポレーターにて溶媒留去した。得られた粘稠液体を、150℃加熱しつつ真空乾燥し、23.3gの淡黄色液体(ポリシロキサン化合物2e)を得た(ビニル基含有量=1.32mmol/g=1.32ミリモル/グラム)。以下、反応式を示す。
【化46】

【0166】
[ポリシロキサン化合物の合成例2]
上記[モノマー合成例4]で得られたBTSB−TCS(化合物1d)を用いて、本発明のポリシロキサン化合物を合成した。
【0167】
ガラス製フラスコ中にBTSB−TCSを6.6g、ジメチルビニルクロロシラン0.6g計り入れ、イソプロピルアルコール5.3gを添加後、氷浴中にフラスコを浸け冷やした。次いで、フラスコ中にイオン交換水1.0gを10分間かけて、徐々に滴下した。室温(20℃)にて1時間攪拌混合した後、イソプロピルエーテルで希釈し、有機層を水で3回洗浄し、エバポレーターにて溶媒留去した。得られた粘稠液体を150℃加熱中、真空乾燥し、4.1gの淡黄色液体(ポリシロキサン化合物2d)を得た(ビニル基含有量=1.97mmol/g)。以下に反応式を示す。
【化47】

【0168】
nは重合度であり、n=3〜5を主成分とする。
【0169】
[膜作製例1]
上記の[ポリシロキサン化合物の合成例1]で得られた淡黄色液体(ポリシロキサン化合物2e:ビニル基含有量=1.32mmol/g)を用いて燃料電池用固体電解質膜の作製を行った。
【0170】
ガラス製のフラスコ中に、化合物2e、即ち、分子鎖両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチル(メチル)シロキサン(ビニル基含有量=0.0012モル%)100部(質量部をいう。以下同じ)に、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン18部、フェニルシラン4部、酢酸ブチル71部およびジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)0.1部(50ppm)を加え、混合した。混合後、恒温装置に入れ、80℃で30分間、100℃で30分間、120℃で30分間、150℃で30分間、段階的に加熱後、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略する)板上にバーコータで均一な膜厚になるように塗布した後、180℃にて15時間加熱し、硬化膜(A)を得た。以下に、概略図を用いて反応式を示す。
【化48】

【0171】
得られた硬化膜(A)のTG−DTA測定の結果、熱分解の開始温度は、260℃だった。
【0172】
また、耐ラジカル性の調査のために、周知のフェントン試験を行った。硬化膜(A)の化学的安定性を試験した。硬化膜(A)を、ガラス製フラスコ中90℃に保持した3質量%の過酸化水素水に2ppmのFe2+を加えた試験液に浸漬させ、2時間経過後に取り出す操作を計3回行なった。尚、各浸漬開始の際の試験液は新たに調製したものを用いた。
【0173】
浸漬試験終了後の硬化膜(A)を1N塩酸水溶液およびイオン交換水で洗浄した後、真空オーブンを用い、80℃にて減圧乾燥した。減圧乾燥後の硬化膜(A)は、形状変化はなく、その質量変化率は2%以内であった。
【0174】
このようにして、硬化膜(A)の熱分解温度は260℃であり耐熱性があること、且つフェントン試験の結果、耐ラジカル性があり、化学的安定性に優れることを確認した。
【0175】
[膜作製例2]
上記の[ポリシロキサン化合物の合成例1]で得られた淡黄色液体(ポリシロキサン化合物2e:ビニル基含有量=0.0012モル%)を用いて燃料電池用固体電解質膜の作製を行った。
【0176】
ガラス製のフラスコ中に、ポリシロキサン化合物2e、即ち、分子鎖両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルビニルシリル基含有ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチル(メチル)シロキサン(ビニル基含有量=1.32mmol/g)100部に、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン29部、1,1,3,3−テトラメチルシロキサン57部、フェニルシラン10部、酢酸ブチル32部およびジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)0.1部(50ppm)を加え、混合した。混合後、恒温装置に入れ、80℃で30分間、100℃で30分間、120℃で30分間、150℃で30分間、段階的に加熱後、PTFE板上にバーコータで均一に塗布した後、180℃にて15時間加熱し、硬化膜(B)を得た。以下に反応式を示す。
【化49】

【0177】
得られた硬化膜(B)のTG−DTA測定の結果、熱分解の開始温度は260℃だった。
【0178】
燃料電池用固体電解質膜作製例1と同様に、フェントン試験を行ったところ、減圧乾燥後の硬化膜(B)に形状変化はなく、その質量変化率は2質量%以内だった。
【0179】
このようにして、硬化膜(B)の熱分解温度は260℃であり耐熱性があること、且つフェントン試験の結果、耐ラジカル性があり、化学的安定性に優れることを確認した。
【0180】
[膜作製例3]
上記の[ポリシロキサン化合物の合成例1]で得られた淡黄色液体(ポリシロキサン化合物2e:ビニル基含有量=1.32mmol/g)を用いて燃料電池用固体電解質膜の作製を行った。
【0181】
ガラス製のフラスコ中に、ポリシロキサン化合物2e、即ち、分子鎖両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチル(メチル)シロキサン(ビニル基含有量=0.0012モル%)100部、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン120部、1,1,3,3−テトラメチルシロキサン190部、フェニルシラン37部、酢酸ブチル62部およびジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)0.1部(50ppm)を加え、混合した。混合後、恒温層に入れ、80℃で30分間、100℃で30分間、120℃で30分間、150℃で30分間、段階的に加熱後、PTFE板上にバーコータで均一に塗布したものを180℃にて15時間加熱し、硬化膜(C)を得た。
【0182】
得られた硬化膜(C)のTG−DTA測定の結果、熱分解の開始温度は260℃だった。
【0183】
膜作製例1と同様に、フェントン試験を行ったところ、減圧乾燥後の硬化膜(C)に形状変化はなく、その質量変化率は2質量%以内だった。
【0184】
このようにして、硬化膜(C)の熱分解温度は260℃であり耐熱性があること、且つフェントン試験の結果、耐ラジカル性があり、化学的安定性に優れることを確認した。
【0185】
[膜作製例4]
上記の[ポリシロキサン化合物の合成例2]で得られた淡黄色液体(ポリシロキサン化合物2d:ビニル基含有量=0.0006モル%)を用いて燃料電池用固体電解質膜の作製を行った。
【0186】
ガラス製のフラスコ中に、化合物2d、即ち、ジメチルビニルシリル基含有ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブチルシロキサンレジン(ビニル基含有量=1.97mmol/g)100部に、ジメチルシロキサン縮合ポリシロキサン化合物(信越化学工業株式会社製、品番:CAT−104)34部、酢酸ブチル200部、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)0.1部(50ppm)を加え、混合した。混合後、加熱炉に入れ、80℃で30分間、100℃で30分間、120℃で30分間、150℃で30分間、段階的に加熱後、PTFE板上にバーコータで均一な膜厚になるように塗布した後、180℃にて15時間加熱し、硬化膜(D)を得た。以下に、反応式を示す。
【化50】

【0187】
m、nは重合度を示し、m=16〜20、n=3〜5をそれぞれ主成分とする。
【0188】
得られた硬化膜(D)のTG−DTA測定の結果、熱分解の開始温度は260℃だった。
【0189】
膜作製例1と同様に、フェントン試験を行ったところ、減圧乾燥後の硬化膜(D)に形状変化はなく、その質量変化率は2質量%以内だった。
【0190】
このようにして、硬化膜(D)の熱分解温度は260℃であり耐熱性があること、且つフェントン試験の結果、耐ラジカル性があり、化学的安定性に優れることを確認した。
【0191】
[比較例1]
米国アルドリッチ社より販売される、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーからなる燃料電池用固体電解質膜、商品名ナフィオン、品番112を180℃、15時間の加熱条件下、乾燥させた。
【0192】
[プロトン伝導度]
実施例(膜作製例1〜4)で作製した本発明の燃料電池用固体電解質膜、比較例1の燃料電池用固体電解質膜(商品名、ナフィオン)のプロトン伝動度を測定し、結果を表1に示した。
【0193】
プロトン伝導度は、以下の手法で測定した。燃料電池用固体電解質膜を50mm×10mmに切り出し、5mm間隔に配置した白金電極と膜を密着させ、電極に電気化学インピーダンス測定装置(Gamry Instruments社製、型番、VFP600)を接続し、周波数1Hz〜1MHzの領域で交流インピーダンス測定を行い、交流抵抗を求めた。電極間距離と抵抗との勾配から次式によりプロトン伝導性膜の比抵抗を算出し、比抵抗の逆数から交流インピーダンスを算出した。含水率は、プロトン伝導度測定後の膜中の水重量を測定することによって算出した。
【表1】

【0194】
表1において、比較例1の燃料電池用固体電解質膜(商品名、ナフィオン)に比較して、実施例(膜作製例1〜4)の燃料電池用固体電解質膜は、含水率が低い低加湿条件下であっても、良好なプロトン伝導性を有することが確認された。
【0195】
[メタノール透過速度]
メタノール透過速度は、以下の手法で測定した。イオン交換水に1日浸漬した上記燃料電池用固体電解質膜を、株式会社テクノシグマ製のセパラブルタイプのガラスセルに挟み込み、片方のセルに10wt%メタノール水溶液を20ml入れ、もう一方のセルにイオン交換水を20ml入れた。25℃中、攪拌下、イオン交換水中のメタノール濃度をガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、型番:GC2010)により測定した。
【0196】
実施例(膜作製例1〜4)および比較例1で得られた膜のメタノール透過速度の測定結果を表2に示す。
【表2】

【0197】
表2から明らかなように、本発明の実施例(膜作成例1〜4)で得た膜の方が、メタノール透過性が、ほぼ3桁以上低い値を示した。本発明の膜の方が、メタノールの透過を抑制することにおいて、燃料電池用固体電解質膜として優れることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の燃料電池用固体電解質膜は、耐熱性および化学安定性に優れ、低加湿条件下で良好なプロトン伝導性を有するので、固体高分子型燃料電池用の燃料電池用固体電解質膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記縮合単位(a)を含むポリシロキサン化合物。
【化1】

(式中、R01は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい有機基を表し、Wは単結合または二価の基を表し、Rは炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表す。pは、1、2または3を表す。)
【請求項2】
Wが、単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または一般式(6)で表される二価の有機基である請求項1に記載のポリシロキサン化合物。
【化2】

(式中、mは2〜5、nは0〜5の整数を表し、Aは、下記式(7)で表される何れかの基を表す。)
【化3】

【請求項3】
さらに、下記縮合単位(b)を含む請求項1または請求項2に記載のポリシロキサン化合物。
【化4】

(式中、R02は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい有機基を表し、qは1、2、3または4を表す。)
【請求項4】
ポリシロキサン骨格の末端が下記式(c)で表される基で封鎖された請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のポリシロキサン化合物。
【化5】

(式中、R03は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であって、架橋基を有してよい有機基を表す。)
【請求項5】
縮合単位(a)を2〜150単位と縮合単位(b)を0〜150単位含む請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のポリシロキサン化合物。
【請求項6】
架橋基として、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロシリル基、アルコキシシリル基およびヒドロシリル基からなる群から選ばれた少なくとも1種を少なくとも1個有する請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のポリシロキサン化合物。
【請求項7】
架橋剤と請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のポリシロキサン化合物とを含むポリシロキサン組成物。
【請求項8】
さらに、下記式(8)で表されるシロキサン化合物を含む請求項7に記載のポリシロキサン組成物。
【化6】

(式中、R04、R05は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R04、R05の少なくとも2つは架橋基を有する。zは、0〜150の整数を表す。)
【請求項9】
架橋剤がイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アルデヒド系化合物、クロロシラン類、アルコキシシラン類、メラミン系化合物、イオウもしくはイオウ化合物、ヒドロシラン類、過酸化物およびアゾ化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項7または請求項8に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項10】
架橋剤が下記式(9)で表されるシラン化合物である請求項7または請求項8に記載のポリシロキサン組成物。
【化7】

(式中、R06は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、R06の少なくとも3つは架橋基または架橋基を有する基である。)
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載のポリシロキサン組成物を架橋反応させて得られるシリコン樹脂。
【請求項12】
請求項11に記載のシリコン樹脂を含む固体電解質膜。
【請求項13】
縮合単位(a)成分が膜質量の5質量%以上を含む請求項12に記載の固体電解質膜。
【請求項14】
一般式(4)で表されるメチド系シラン化合物。
【化8】

(式中、R07は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素またはアルコキシ基を表し、R01は水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、Rは、炭素数1〜9のパーフルオロアルキル基を表し、aは0〜3の整数を表す。Wは、単結合または二価の有機基を表す。)
【請求項15】
Wが、単結合、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基または一般式(6)
【化9】

(式中、mは2〜5、nは0〜5の整数を表し、Aは下記式(7)で表される何れかの基を表す。)で表される二価の有機基である請求項14に記載のメチド系シラン化合物。
【化10】

【請求項16】
01およびR07がそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基または炭素数6〜8のアリール基である請求項14または請求項15に記載のメチド系シラン化合物。
【請求項17】
aが1〜3の整数である請求項14乃至請求項16のいずれか1項に記載のメチド系シラン化合物。

【公開番号】特開2011−63797(P2011−63797A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182900(P2010−182900)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】