説明

異常判定装置

【課題】高精度での異常判定の実行と速やかな異常判定の実行との両立を図ることのできる異常判定装置を提供する。
【解決手段】この装置は、排気浄化触媒の酸素吸蔵容量Cfを時間間隔を置いて繰り返し検出して蓄積するとともに、それら蓄積した複数のデータに基づいて異常発生の有無を判定する。電子制御ユニットのRAMがバッテリクリアされると、その後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数をカウント値CAとしてカウントする(S202)。そして、異常判定の実行を、バッテリクリア後の1トリップ目においては(S203:YES)カウント値CAが第1閾値N1に達したことを条件(S204:YES)に許可し(S205)、バッテリクリア後の2トリップ目以降においては(S203:NO)カウント値CAが第1閾値N1より小さい第2閾値N2に達したことを条件(S206:YES)に許可する(S205)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定の対象となる機器の作動状態と相関のある状態量を検出するとともにその検出データに基づいて異常発生の有無を判定する異常判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異常判定装置としては、異常判定の対象となる機器(以下、判定対象機器)の作動状態と相関のある状態量を検出するとともに、その検出データと判定値との比較に基づいて判定対象機器の異常発生の有無を判定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そうした異常判定装置において、単に検出データと判定値とを比較するようにすると、検出信号へのノイズの重畳や判定対象機器の作動状態の相異による検出データのばらつきなどといった外乱が判定精度に及ぼす悪影響が大きくなる場合がある。
【0004】
そうした悪影響を抑えるためには、単にそのときどきの検出データと判定値とを比較するのではなく、上記状態量の検出を時間間隔を置いて繰り返し行うとともにそれら検出データの平均値や加重平均値を算出して判定値と比較するなど、所定の期間において検出されるとともに蓄積された複数のデータをもとに異常判定を実行することが考えられる。そうした装置によれば、判定対象機器の作動状態についての所定の期間における検出傾向をもとに異常判定を実行することが可能になり、外乱による影響が小さく抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−36727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、所定の期間において検出されるとともに蓄積された複数のデータをもとに異常判定を実行する装置では、ある程度のデータ蓄積数が確保された場合において異常判定に用いるデータが実情に見合う値になるために、異常判定における高い判定精度が得られるようになる。
【0007】
そのため、例えばバッテリ交換による異常判定装置への電力供給の一時的な遮断などによって判定用のデータが不要に消失して初期値になったりすると、その後において前記状態量の検出が繰り返されて所定のテータ蓄積数が確保されるまでの間、異常判定の精度低下を招くおそれがある。
【0008】
そうした判定精度の低下は、判定用のデータが消失した後に上記状態量についてのデータ蓄積数が一定値に達するまでの期間にわたり異常判定の実行を禁止することによって回避することができる。しかしながら、この場合には一定の期間にわたり異常判定を実行することができなくなるために、その分だけ異常発生の有無が判定されるタイミングが遅くなってしまう。これは、異常の発生を速やかに判定する上で好ましくない。
【0009】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高精度での異常判定の実行と速やかな異常判定の実行との両立を図ることのできる異常判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、判定対象機器の作動状態と相関のある状態量を時間間隔を置いて繰り返し検出する検出手段と、同検出手段によって検出するとともに蓄積した複数のデータに基づいて異常発生の有無を判定する判定手段とを備える異常判定装置において、前記データが蓄積されていない状況になったときに、その後における前記データの蓄積数を総蓄積数としてカウントするとともに前記判定手段による異常判定の実行を、前記状況になった後の1トリップ目の間においては前記総蓄積数が第1閾値に達したことを条件に許可し、前記状況になった後の2トリップ目以降においては前記総蓄積数が前記第1閾値より小さい第2閾値に達したことを条件に許可することをその要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、データが蓄積されていない状況になると、その直後の1トリップ目の間においては、比較的多数(第1閾値に相当する数)のデータが新たに検出されて蓄積されたことを条件に異常判定が行われる。このとき判定に用いる複数のデータに信頼性の低いデータが含まれる可能性があるとはいえ、高い判定精度を得る上で十分な数のデータを新たに検出して蓄積した上で異常判定を実行することができるようになるために、その判定を高い精度で実行することができるようになる。しかも、データが蓄積されていない状況になった後の2トリップ目以降においては、上記状況になった後に比較的少数(第2閾値に相当する数)のデータが新たに検出されて蓄積されたことを条件に異常判定が行われる。これにより、判定精度を維持する上で最低限必要になる数のデータを新たに検出して蓄積した上で異常判定を実行することができるようになるために、判定精度の低下を抑えつつ判定結果を得るタイミングが不要に遅くなることを回避することができる。
【0012】
このように上記構成によれば、データが蓄積されていない状況になると、その直後の1トリップ目において先ずはデータの蓄積数が十分に確保されることを条件に、言い換えれば高い判定精度を重視して異常判定を実行することができるようになる。しかも、十分なデータ蓄積数に達する前に2トリップ目に移行する場合には、比較的少ない蓄積数に達することを条件に、言い換えれば異常判定の早期完了を重視して同異常判定を実行することができるようになる。したがって、高精度での異常判定の実行と速やかな異常判定の実行との両立を図ることができるようになる。
【0013】
なお、上記トリップは、内燃機関が始動されてから同内燃機関が停止されるまでの期間のことである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の異常判定装置において、当該装置は、前記2トリップ目以降においては、トリップ中における前記データの蓄積数を期間蓄積数としてカウントするとともに、前記総蓄積数が前記第2閾値に達したことに加えて、前記期間蓄積数が第3閾値に達していることを条件に、前記判定手段による異常判定の実行を許可することをその要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、データが蓄積されていない状況になった後の2トリップ目以降において、トリップ中に第3閾値に相当する数のデータが新たに検出されて蓄積されたことを条件に異常判定が実行されるようになるため、第3閾値に相当する数以上の最新データを含むデータをもとに異常判定を実行することができるようになる。そのため、異常判定を判定対象機器の実態に即したかたちで精度よく実行することができるようになる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の異常判定装置において、当該装置は、前記検出手段によって検出したデータを記憶する揮発性のメモリと同メモリに電力を供給するバッテリとを備えてなり、同バッテリからメモリへの電力供給が一時的に停止されたことをもって前記データが蓄積されていない状況になったことを判断することをその要旨とする。
【0016】
揮発性のメモリが設けられた装置においては、バッテリの交換などによって同メモリへの電力供給が一時的に停止されると、メモリに記憶されているデータ(具体的には、蓄積データや同蓄積データに基づき算出した値)が消失してしまう。上記構成によれば、そうした場合において、前記データが蓄積されていない状況になったと判断することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の異常判定装置において、前記判定手段は、前記検出手段によって前記状態量を検出して蓄積する度に前記複数のデータの加重平均値を算出するとともに、同加重平均値と予め定められた判定値との比較を通じて異常発生の有無を判定するものであることをその要旨とする。
【0018】
上記構成によれば、データが蓄積されていない状況になると、その後のしばらくの間、異常判定に用いられる加重平均値が実際の判定対象機器の作動状態に応じたかたちで十分に変化するのを待った上で異常判定を実行することができるために、その判定を高い精度で実行することができる。しかも、データが蓄積されていない状況になった後の2トリップ目以降においては、判定精度を維持する上で最低限必要な程度に上記加重平均値が変化したタイミングで異常判定を実行することができるため、判定精度の低下を抑えつつ判定結果を得るタイミングが不要に遅くなることを回避することができる。
【0019】
なお、請求項1〜4のいずれか一項に記載の構成は、請求項5によるように、内燃機関の排気を浄化するための排気浄化触媒を備えた機関システムに適用されて同排気浄化触媒の劣化異常の発生の有無を判定する装置であって、前記検出手段により前記状態量として前記排気浄化触媒の酸素吸蔵容量を検出する装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を具体化した一実施の形態にかかる異常判定装置が適用される機関システムの概略構成を示す略図。
【図2】アクティブ制御の具体的な実行手順を示すフローチャート。
【図3】アクティブ制御の実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【図4】判定許可処理の実行手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施の形態にかかる異常判定装置について説明する。
図1に、本実施の形態にかかる異常判定装置が適用される機関システムの概略構成を示す。
【0022】
同図1に示すように、内燃機関10の吸気通路11には、スロットル弁12が設けられている。スロットル弁12には、スロットルモータ13が連結されている。そして、このスロットルモータ13の駆動制御(スロットル制御)を通じてスロットル弁12の開度(スロットル開度TA)が調節され、これにより吸気通路11を通じて燃焼室14内に吸入される空気の量が調節される。この吸気通路11には燃料噴射弁15が設けられている。この燃料噴射弁15の駆動制御(燃料噴射制御)を通じて吸気通路11内に燃料が噴射される。
【0023】
内燃機関10の燃焼室14においては、吸入空気と噴射燃料とからなる混合気に対して点火プラグ16による点火が行われる。この点火動作によって混合気が燃焼してピストン17が往復移動し、クランクシャフト18が回転する。そして、燃焼後の混合気は、排気として燃焼室14から排気通路19に送り出され、同排気通路19に設けられた三元触媒(以下、排気浄化触媒20)を通じて浄化された後、外部に排出される。
【0024】
なお、この排気浄化触媒20は、理論空燃比近傍での燃焼が行われる状態において、排気中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を酸化するとともに同排気中の窒素酸化物(NOx)を還元して排気を浄化する作用を有している。また、この排気浄化触媒20は、これを通過する排気の酸素濃度が混合気の空燃比をリーンにした状態での機関運転時における濃度であるときには排気中の酸素を吸蔵する一方、同酸素濃度が混合気の空燃比をリッチにした状態での機関運転時における濃度であるときには酸素を放出するといった酸素ストレージ機能を有している。
【0025】
本実施の形態の装置は、内燃機関10の運転状態を検出するための各種センサ類を備えている。そうした各種センサ類としては、例えばクランクシャフト18の回転速度(機関回転速度NE)を検出するためのクランクセンサ31や、吸気通路11を通過する吸入空気の量(通路吸気量GA)を検出するための吸気量センサ32が設けられている。また、アクセルペダル(図示略)の踏み込み量ACを検出するためのアクセルセンサ33や、スロットル開度TAを検出するためのスロットルセンサ34、冷却水の温度(THW)を検出するための水温センサ35が設けられている。さらに、排気通路19の上記排気浄化触媒20より上流側の部分(詳しくは、排気マニホールド)における排気の酸素濃度に応じた信号を出力する空燃比センサ36や、排気通路19の上記排気浄化触媒20より下流側の部分における排気の酸素濃度に応じた信号を出力する酸素センサ37等も設けられている。その他、内燃機関10の運転開始に際してオン操作されるとともに同内燃機関10の運転停止に際してオフ操作される運転スイッチ38なども設けられている。
【0026】
なお、上記空燃比センサ36は、周知の限界電流式酸素センサである。この限界電流式酸素センサは、濃淡電池式酸素センサの検出部に拡散律速層と呼ばれるセラミック層を備えることにより排気中の酸素濃度に応じた出力電流が得られるセンサであり、排気中の酸素濃度と密接な関係にある混合気の空燃比が理論空燃比である場合には、その出力電流が「0」になる。また、混合気の空燃比がリッチになるにつれて出力電流は負の方向に大きくなり、同空燃比がリーンになるにつれて出力電流は正の方向に大きくなる。したがって、この空燃比センサ36の出力信号に基づき、混合気の空燃比についてそのリーン度合いやリッチ度合いを検出することができる。
【0027】
また、上記酸素センサ37は、周知の濃淡電池式の酸素センサである。この濃淡電池式酸素センサからは排気の酸素濃度が、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチであるときの濃度である場合には1ボルト程度の出力電圧が得られ、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンであるときの濃度である場合には0ボルト程度の出力電圧が得られる。また濃淡電池式酸素センサの出力電圧は排気の酸素濃度が、混合気の空燃比が理論空燃比近傍であるときの濃度であるときに大きく変化する。したがって、こうした酸素センサ37の出力信号に基づき、排気浄化触媒20の下流側の排気がリーンに対応する性状であるか、あるいはリッチに対応する性状であるかを検出することができる。
【0028】
この酸素センサ37は、排気浄化触媒20での排気浄化作用の状態を監視するために同排気浄化触媒20の下流側に設けられている。すなわち、排気浄化触媒20より上流側の排気が過度にリーンであるときには、排気浄化触媒20内での酸化作用による酸素消費や酸素吸蔵が生じても余剰酸素が排気浄化触媒20の下流側に排出されて、酸素センサ37の出力信号がリーンに対応する値となる。一方、排気浄化触媒20での酸化作用が促進されており排気中の酸素が消費されているときには、酸素センサ37の出力信号がリッチに対応する値となる。こうした酸素センサ37の検出結果に基づいて排気浄化作用の状態が監視される。
【0029】
本実施の形態の装置は、例えばマイクロコンピュータを有して構成される電子制御ユニット30を備えている。この電子制御ユニット30は、各種センサの検出信号を取り込むとともに各種の演算を行い、その演算結果に基づいてスロットル制御や、燃料噴射制御、点火時期制御等といった各種制御を実行する。
【0030】
この電子制御ユニット30は揮発性のメモリ(RAM30a)を備えている。そして、電子制御ユニット30およびRAM30aにはバッテリ21から電力が供給されるようになっている。上記RAM30aには、各種センサ類の検出結果や上記演算の結果が一時的に記憶される。なお、上記バッテリ21からRAM30aへの電力供給は運転スイッチ38の操作状態によらず維持されるようになっている。これにより、内燃機関10の運転を停止させるべく運転スイッチ38がオフ操作された場合であっても、電子制御ユニット30のRAM30aに記憶されているデータは記憶されたまま保持される。ただし、バッテリ21の交換などによって上記RAM30aへの電力供給が一時的に停止されると、同RAM30aに記憶されているデータ(具体的には、後述する酸素吸蔵容量Cfや加重平均値AVCf)が消失して初期値に変化してしまう。
【0031】
本実施の形態では、燃焼室14内に吸入される空気の量(筒内吸気量)が次のように調節される。すなわち先ず、前記アクセルペダルの踏み込み量ACや機関回転速度NEに基づいて筒内吸気量についての制御目標値(目標筒内吸気量Tga)が算出される。そして、この目標筒内吸気量Tgaと実際の筒内吸気量が一致するようになるスロットル開度TAに相当する値が目標スロットル開度Ttaとして算出されるとともに、同目標スロットル開度Ttaと実際のスロットル開度TAとが一致するようにスロットル制御が実行される。
【0032】
一方、本実施の形態の燃料噴射制御では、通路吸気量GAに基づいて混合気の空燃比が目標空燃比(基本的に、理論空燃比)になる燃料量(目標燃料噴射量TQ)が求められ、実際の燃料噴射量Qが目標燃料噴射量TQと一致するように燃料噴射弁15の駆動が制御される。
【0033】
また本実施の形態では、上記空燃比センサ36によって検出される排気の実際の酸素濃度と所望の濃度(例えば混合気の空燃比が理論空燃比であるときの排気酸素濃度)との乖離度合いに基づいてフィードバック補正量を算出するとともに同補正量に基づいて目標燃料噴射量TQを補正するとの制御、いわゆる空燃比フィードバック制御が実行される。
【0034】
こうした空燃比フィードバック制御を実行するようにしたのは、次のような理由による。上記排気浄化触媒20は、燃焼される混合気の空燃比が理論空燃比近傍の狭い範囲(いわゆるウインドウ)であるときにのみ、排気中の主要有害成分(HC、CO、NOx)のすべてを酸化還元反応により効率的に浄化する。そのため、排気浄化触媒20の排気浄化作用を有効に発揮させるには、混合気の空燃比を上記ウインドウの中心に合わせこむべく、燃料噴射量を厳密に調節する必要があるためである。
【0035】
本実施の形態では、排気浄化触媒20の劣化度合いを把握するための指標値として、排気浄化触媒20の酸素吸蔵能力(具体的には、吸蔵可能な酸素の量「酸素吸蔵容量」)が求められる。なお、前述したように排気浄化触媒20は酸素ストレージ機能を有しており、同排気浄化触媒20の劣化進行に伴って上記酸素吸蔵容量が少なくなる傾向があることから、本実施の形態では、同酸素吸蔵容量を排気浄化触媒20の劣化度合いの指標値として求めるようにしている。この酸素吸蔵容量は具体的には以下のように求められる。
【0036】
すなわち先ず、酸素センサ37の出力信号がリーンを示す値からリッチを示す値に(あるいはリッチを示す値からリーンを示す値に)変化したときに、混合気の空燃比についての制御目標値(目標空燃比TAF)をリッチからリーンに(あるいはリーンからリッチに)変更する制御(アクティブ制御)の実行が開始される。
【0037】
図2はアクティブ制御の実行手順を示すフローチャートであり、図3は同アクティブ制御が実行されるときの目標空燃比TAFの推移、酸素センサ37の出力信号の推移、および排気浄化触媒20の酸素吸蔵量Cの推移をそれぞれ示している。
【0038】
図2に示すように、アクティブ制御の実行が開始されると、先ず「モード1」が選択されて、目標空燃比TAFが強制変更される(ステップS101)。ここでは、酸素センサ37の出力信号がリッチを示す値であるときには目標空燃比TAFが理論空燃比よりリーン側の所定比率に変更される一方、酸素センサ37の出力信号がリーンを示す値であるときには目標空燃比TAFが理論空燃比よりリッチ側の所定比率に変更される。
【0039】
図3に示す例では、アクティブ制御の実行開始時(時刻t11)における酸素センサ37の出力信号がリーンを示す値であるために、このとき目標空燃比TAFが理論空燃比よりリッチ側の比率に強制変更される。これにより、以後において燃料噴射量Qが増量されて混合気の空燃比がリッチになる。
【0040】
そして、混合気の空燃比がリッチになった直後においては排気浄化触媒20から酸素が放出されるために、酸素センサ37の出力信号がリーンに対応する値となる。その後、排気浄化触媒20に吸蔵されていた酸素が全て放出されて同排気浄化触媒20からの酸素放出が停止されると、酸素センサ37の出力信号がリッチに対応する値になる(時刻t12以降)。このように酸素センサ37の出力信号がリーンを示す値からリッチを示す値に変化することによって、排気浄化触媒20に吸蔵されていた酸素が全て放出されて酸素吸蔵量Cが「0」になったと判断することができる。
【0041】
このように「モード1」の選択時において酸素センサ37の出力信号が変化すると(図2のステップS102:YES)、「モード2」が選択されて、目標空燃比TAFが強制変更される(ステップS103)。ここでは、「モード1」の選択時における目標空燃比TAFがリッチ側の比率であるときには同目標空燃比TAFがリーン側の所定比率に強制変更される一方、「モード1」の選択時における目標空燃比TAFがリーン側の比率であるときには同目標空燃比TAFがリッチ側の所定比率に強制変更される。
【0042】
図3に示す例では、「モード1」の選択時(時刻t11〜t12)における目標空燃比TAFがリッチ側の比率であるために、このとき目標空燃比TAFがリーン側の所定比率に強制変更される。これにより、以後において燃料噴射量Qが減量されて混合気の空燃比がリーンになる。
【0043】
そして、混合気の空燃比がリーンになった直後において排気浄化触媒20には酸素が吸蔵されるために、酸素センサ37の出力信号がリッチを示す値となる。その後、排気浄化触媒20による酸素の吸蔵が限界にまで達すると、排気中の酸素が排気浄化触媒20に吸蔵されなくなるために、酸素センサ37の出力信号がリーンを示す値となる(時刻t13以降)。このように酸素センサ37の出力信号がリッチを示す値からリーンを示す値に変化することによって、排気浄化触媒20の酸素吸蔵量Cが限界量(最大酸素吸蔵量Cmax)に達したことがわかる。
【0044】
このように「モード2」の選択時において酸素センサ37の出力信号が変化すると(図2のステップS104:YES)、「モード3」が選択されて、目標空燃比TAFが強制変更される(ステップS105)。ここでは、「モード2」の選択時における目標空燃比TAFがリッチ側の比率であるときには同目標空燃比TAFがリーン側の所定比率に強制変更される一方、「モード2」の選択時における目標空燃比TAFがリーン側の比率であるときには同目標空燃比TAFがリッチ側の所定比率に強制変更される。
【0045】
図3に示す例では、「モード2」の選択時(時刻t12〜t13)における目標空燃比TAFがリーン側の比率であるために、このとき目標空燃比TAFがリッチ側の所定比率に強制変更される。そして、混合気の空燃比がリッチになった直後において排気浄化触媒20から酸素が放出されるために、酸素センサ37の出力信号がリーンを示す値になる。そして、排気浄化触媒20に吸蔵されていた酸素が全て放出されると、酸素センサ37の出力信号がリッチを示す値になる(時刻t14以降)。このように酸素センサ37の出力信号がリーンを示す値からリッチを示す値に変化することによって、排気浄化触媒20に吸蔵されていた酸素、すなわち上記最大酸素吸蔵量Cmaxの全てが放出されたと判断することができる。
【0046】
このように「モード3」の選択時において酸素センサ37の出力信号が変化すると(図2のステップS106:YES)、「モード0」が選択され、これによって目標空燃比TAFの強制変更が解除されて(ステップS107)、アクティブ制御の実行が停止される。
【0047】
このようにアクティブ制御では、酸素センサ37の出力信号に基づいて混合気の空燃比が強制変更される。そして、上述したようにアクティブ制御の実行中における排気浄化触媒20より下流側の排気の酸素濃度(具体的には、酸素センサ37の出力信号)の変化態様に基づいて、排気浄化触媒20の酸素吸蔵量Cが「0」になった状態や最大酸素吸蔵量Cmaxに達した状態を把握することができる。
【0048】
具体的には、混合気の空燃比がリーンであり且つ酸素センサ37の出力信号がリッチを示す値である期間(図3に示す例では「モード2」が選択される期間)において排気浄化触媒20に流入した酸素の量を積算することにより、排気浄化触媒20の酸素吸蔵容量を推定することができる。また、混合気の空燃比がリーンであり且つ酸素センサ37の出力信号がリッチを示す値である期間(図3に示す例では「モード3」が選択される期間)において排気浄化触媒20から放出された酸素の量を積算することにより、同排気浄化触媒20が放出可能な酸素の量(酸素放出容量)を推定することができる。なお排気浄化触媒20から放出される酸素はもともと同排気浄化触媒20に吸蔵されていた酸素であるため、上記酸素放出容量は酸素吸蔵容量と概ね同じような値となり、実質的には酸素吸蔵容量を示す値となる。
【0049】
この点をふまえて本実施の形態では、排気浄化触媒20の酸素吸蔵容量の推定値(以下、「酸素吸蔵容量Cf」)として、アクティブ制御の実行時において算出される酸素吸蔵容量と酸素放出容量とがそれぞれ検出される。
【0050】
なお本実施の形態では、以下の各条件からなる論理積条件を含む検出条件が設定されており、その検出条件が成立していることを条件に上記酸素吸蔵容量Cfの検出が実行される。
・内燃機関10の吸入空気量(詳しくは、通路吸気量GA)の単位時間あたりの変化が小さい状態であること。
・排気浄化触媒20の温度がある程度高くなっていること。
・内燃機関10の暖機が完了していること(具体的には、冷却水の温度THWが所定温度「例えば、80℃」)以上であること。
【0051】
こうした酸素吸蔵容量Cfの検出にかかる処理(検出処理)は、所定周期毎の割り込み処理として電子制御ユニット30により実行される。本実施の形態では、排気浄化触媒20が判定対象機器として機能し、酸素吸蔵容量Cfが判定対象機器の作動状態と相関のある状態量として機能し、電子制御ユニット30が、時間間隔を置いて繰り返し上記状態量を検出する検出手段として機能する。
【0052】
そして本実施の形態の装置では、上述のように検出された酸素吸蔵容量Cfに基づいて排気浄化触媒20の劣化異常の発生の有無が判定される。具体的には先ず、前回の算出タイミングにおいて算出された加重平均値をAVCf[i]とすると、酸素吸蔵容量Cfが検出される度に、以下の関係式(1)から加重平均値AVCfが算出される。本実施の形態では、このようにして加重平均値AVCfが算出される度にデータが一つずつ蓄積される。
【0053】

AVCf=(AVCf[i]×N+Cf)/(N+1) …(1)
ただし、Nは正の数(本実施の形態では、「1」)

そして、そうした加重平均値AVCfと予め定められた劣化判定値Jとが比較される。詳しくは、加重平均値AVCfが劣化判定値J以下である場合(AVCf≦J)には、酸素吸蔵容量が少ない状態になっていることから、このとき排気浄化触媒20の劣化が進んでいる可能性が高いとして劣化異常が発生していると判定される。一方、加重平均値AVCfが劣化判定値Jより大きい場合(AVCf>J)には、酸素吸蔵量が比較的多い状態であるため、排気浄化触媒20の劣化はさほど進んでいないとして、劣化異常が発生していないと判定される。
【0054】
なお、こうした排気浄化触媒20の劣化異常の発生の有無を判定する処理(判定処理)についても、前述した検出処理と同様に、所定周期毎の割り込み処理として電子制御ユニット30により実行される。また上記劣化判定値Jとしては、排気浄化触媒20の劣化異常の発生の有無を的確に判定することの可能な値が、実験やシミュレーションの結果をもとに予め求められて、電子制御ユニット30に記憶されている。本実施の形態では、この電子制御ユニット30が、検出処理により検出するとともに蓄積した複数のデータ(詳しくは、酸素吸蔵容量Cf)に基づいて異常発生の有無を判定する判定手段として機能する。
【0055】
ここで、本実施の形態の装置では、酸素吸蔵容量Cfの加重平均値AVCfが算出されるとともに、同加重平均値AVCfに基づいて異常判定が実行される。この加重平均値AVCfは、酸素吸蔵容量Cfの蓄積数がある程度確保されると、排気浄化触媒20の実際の作動状態に見合う値になる。そのため、本実施の形態では、酸素吸蔵容量Cfの蓄積数がある程度確保された場合に、異常判定の高い精度での実行が可能になると云える。
【0056】
ところで、本実施の形態の装置では、バッテリ21の交換によって電子制御ユニット30(詳しくは、そのRAM30a)への電力供給が一時的に遮断されると、RAM30aに記憶されている蓄積データ(詳しくは、酸素吸蔵容量Cfおよび加重平均値AVCf)が初期値になってしまう。そのため、その後において酸素吸蔵容量Cfの検出および蓄積が繰り返されて一定量の蓄積数が確保されるまでの間、加重平均値AVCfが排気浄化触媒20の実際の作動状態に見合う値にならないために、異常判定の精度低下を招いてしまう。
【0057】
そうした判定精度の低下は、データが誤って初期化された後において酸素吸蔵容量Cfの蓄積数が一定値に達するまでの期間にわたり異常判定の実行を禁止することによって回避することができる。しかしながら、この場合には一定の期間にわたり異常判定を実行することができなくなる分だけ異常発生が判定されるタイミングが遅くなってしまうため、好ましくない。
【0058】
この点をふまえて本実施の形態では、RAM30aに記憶されている蓄積データ(詳しくは、酸素吸蔵容量Cfおよび加重平均値AVCf)が初期値になったとき(いわゆるバッテリクリア時)に、その後の酸素吸蔵容量Cfの蓄積数をカウントするとともにその蓄積数をもとに異常判定の実行の許可と禁止とを切り替えるようにしている。本実施の形態にかかる装置では、データが蓄積されていない状況になったことが、バッテリ21の交換によって同バッテリ21からRAM30aへの電力供給が一時的に停止されたこと、詳しくは蓄積データが初期化されたことをもって判断される。
【0059】
以下、上記酸素吸蔵容量Cfの蓄積数をもとに異常判定の実行を許可する処理(判定許可処理)について、図4を参照しつつ詳細に説明する。
図4は、上記判定許可処理の実行手順を示すフローチャートである。同図のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット30により実行される。
【0060】
図4に示すように、この処理では先ず、前述した検出処理を通じて酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されたか否かが判断される(ステップS201)。
そして、酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されていない場合には(ステップS201:NO)、以下の処理を実行することなく、本処理は一旦終了される。
【0061】
一方、酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積された場合には(ステップS201:YES)、カウンタAのカウント値CAとカウンタBのカウント値CBとが共にインクリメントされる(ステップS202)。
【0062】
カウンタAのカウント値CAは、蓄積データ(具体的には、前記加重平均値AVCf)が初期値になると「0」にリセットされる値である。このカウンタAにより、バッテリ21からRAM30aへの電力供給が一時的に遮断された後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数がカウントされる。すなわち、このカウント値CAは、バッテリ21からRAM30aへの電力供給が一時的に遮断された後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数に相当する値になる。本実施の形態では、上記カウント値CAによりカウントされる回数が総蓄積数として機能する。
【0063】
また、カウンタBのカウント値CBは、運転スイッチ38がオン操作されたときに「0」にリセットされる値である。このカウンタBにより、内燃機関10の運転が開始された後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数がカウントされる。すなわち、このカウント値CBは、内燃機関10の運転が開始された後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数に相当する値になる。本実施の形態では、上記カウント値CBによりカウントされる回数が期間蓄積数として機能する。
【0064】
このように各カウント値CA,CBがインクリメントされた後、バッテリクリア後の1トリップ目であるか否かが判断される(ステップS203)。ここでは、加重平均値AVCfが初期値になってから運転スイッチ38がオフ操作されるまでの期間であることをもって、バッテリクリア後の1トリップ目であると判断される。なお、上記トリップは、運転スイッチ38のオン操作によって内燃機関10が始動されてから運転スイッチ38のオフ操作によって同内燃機関10が停止されるまでの期間のことである。また、電子制御ユニット30には、カウンタA,Bの他に、カウンタDが設定されている。このカウンタDのカウント値CDは、加重平均値AVCfが初期値になると「0」にリセットされるとともに運転スイッチ38がオフ操作される度にインクリメントされる。ステップS203の処理では、そうしたカウンタDのカウント値CDが「0」であることをもって、バッテリクリア後の1トリップ目であると判断される。
【0065】
そして、バッテリクリア後の1トリップ目である場合には(ステップS203:YES)、前記カウンタAのカウント値CAが第1閾値N1(例えば、「8」)以上であることを条件に(ステップS204:YES)、前述した加重平均値AVCfに基づく判定処理が実行される(ステップS205)。
【0066】
一方、カウンタAのカウント値CAが第1閾値N1未満である場合には(ステップS204:NO)、加重平均値AVCfに基づく異常判定が実行されない(ステップS205の処理がジャンプされる)。
【0067】
なお、上記第1閾値N1としては、加重平均値AVCfが誤って初期値になった後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数であって上記加重平均値AVCfに基づく異常判定を高い精度で実行する上で十分な蓄積数が、実験やシミュレーションの結果をもとに予め求められて、電子制御ユニット30に記憶されている。
【0068】
本実施の形態の装置では、加重平均値AVCfが誤って初期値になると、その後のしばらくの間(詳しくは、直後の1トリップ目の間)、多数(第1閾値N1)の酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されることを条件に、言い換えれば加重平均値AVCfが実際の排気浄化触媒20の作動状態に応じたかたちで十分に変化するのを待った上で、同加重平均値AVCfに基づく異常判定が実行される。したがって、加重平均値AVCfの算出に用いられるデータに信頼性の低いデータ(初期値)が含まれるとはいえ、高い判定精度を得る上で十分な数のデータ(酸素吸蔵容量Cf)を新たに検出して蓄積した上で異常判定が実行されるようになるため、その判定を高い精度で実行することができるようになる。
【0069】
また、バッテリクリアされた後の1トリップ目ではない場合(ステップS203:NO)には、前記カウンタAのカウント値CAが第2閾値N2(例えば、「4」)以上であり、且つ前記カウンタBのカウント値CBが第3閾値N3(例えば、「2」)以上であることを条件に(ステップS206:YES)、加重平均値AVCfに基づく異常判定が実行される(ステップS205)。
【0070】
なお、上記第2閾値N2としては、加重平均値AVCfが誤って初期値になった後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数であって上記加重平均値AVCfに基づく異常判定の判定精度を維持する上で最低限必要になる蓄積数が、実験やシミュレーションの結果をもとに予め求められて、電子制御ユニット30に記憶されている。この第2閾値N2としては、第1閾値N1より小さい値が設定される。
【0071】
また、上記第3閾値N3としては、運転スイッチ38のオン操作後における酸素吸蔵容量Cfの蓄積数であって、異常判定の実行頻度を確保することと直近の酸素吸蔵容量Cfを異常判定に適度に反映させることとの両立を図ることのできる蓄積数が、実験やシミュレーションの結果をもとに予め求められて、電子制御ユニット30に記憶されている。この第3閾値N3としては、第1閾値N1および第2閾値N2より小さい値が設定される。
【0072】
一方、前記カウンタAのカウント値CAが第2閾値N2未満である場合、あるいは前記カウンタBのカウント値CBが第3閾値N3未満である場合には(ステップS206:NO)、加重平均値AVCfに基づく異常判定が実行されない(ステップS205の処理がジャンプされる)。
【0073】
本実施の形態では、加重平均値AVCfが誤って初期値になった後の2トリップ目以降においては、同加重平均値AVCfが初期値になった後において比較的少数(第2閾値N2に相当する数)の酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されたことを条件に、言い換えれば判定精度を維持する上で最低限必要な程度に上記加重平均値AVCfが変化したタイミングで異常判定が実行されるようになる。
【0074】
これにより、判定精度を維持する上で最低限必要になる回数だけ酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されたことを条件に加重平均値AVCfに基づく異常判定を実行することができるようになるために、判定精度の低下を抑えつつ判定結果を得るタイミングが不要に遅くなることを回避することができるようになる。
【0075】
なお本実施の形態では、酸素吸蔵容量Cfの検出に際してアクティブ制御が実行される。このアクティブ制御の実行に際しては、混合気の空燃比が強制的に変更されるために、排気性状の悪化を招く可能性がある。そのため、異常判定の実行にかかる時間が長くなると、その分だけ排気性状の悪化を招きやすくなると云える。この点、本実施の形態にかかる装置では、異常判定の実行時間の短縮を図ることができるため、その分だけ排気性状の悪化の抑制を図ることができるようになる。
【0076】
また、排気浄化触媒20の劣化異常の発生を早期に特定して、例えば排気浄化触媒20を交換するなどといったようにその劣化異常の発生に早期に対処することができるようになるために、同劣化異常に起因する排気性状の悪化を抑えることができる。
【0077】
さらに本実施の形態では、加重平均値AVCfが誤って初期値になった後の2トリップ目以降においては、上記カウント値CAが第2閾値N2以上になったことに加えて、上記カウント値CBが第3閾値N3以上になったこと、すなわち運転スイッチ38がオン操作された後に「N3」個以上の酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されたことを条件に、加重平均値AVCfに基づく異常判定が実行される。これにより、上記「N3」個以上の最新データ(詳しくは、直近における運転スイッチ38のオン操作後において検出されて蓄積された酸素吸蔵容量Cf)を含むデータをもとに算出された加重平均値AVCfに基づいて異常判定を実行することができる。そのため、排気浄化触媒20の実際の作動状態に即したかたちで異常判定を精度よく実行することができるようになる。
【0078】
こうした判定許可処理を実行することにより、以下のような作用が得られるようになる。すなわち、バッテリ21の交換などに際して加重平均値AVCfが誤って初期値になると、先ずは酸素吸蔵容量Cfの蓄積数が十分に確保されることを条件に、言い換えれば高い判定精度を重視して異常判定が実行されるようになる。そのため、この場合には異常判定を高い精度で実行することができるようになる。しかも、酸素吸蔵容量Cfの蓄積数が十分な数に達する前に運転スイッチ38がオフ操作されるような場合には、その後において比較的少ない回数だけ酸素吸蔵容量Cfが検出されて蓄積されることを条件に、言い換えれば異常判定の早期完了を重視して同異常判定が実行されるようになる。そのため、判定精度の低下を抑えつつ判定結果を得るタイミングが不要に遅くなることを回避することができるようになる。
【0079】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)加重平均値AVCfが誤って初期値になると、その直後の1トリップ目においては、多数の酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されることを条件に、加重平均値AVCfに基づく異常判定が実行される。そのため、加重平均値AVCfの算出に用いられるデータに信頼性の低いデータが含まれるとはいえ、高い判定精度を得る上で十分な数のデータを新たに検出して蓄積した上で異常判定を実行することができ、その判定を高い精度で実行することができる。しかも、加重平均値AVCfが誤って初期値になった後の2トリップ目以降においては、同加重平均値AVCfが初期値になった後に比較的少数の酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されたことを条件に異常判定が実行される。そのため、判定精度を維持する上で最低限必要になる回数だけ酸素吸蔵容量Cfが新たに検出されて蓄積されたことを条件に、加重平均値AVCfに基づく異常判定を実行することができ、判定精度の低下を抑えつつ判定結果を得るタイミングが不要に遅くなることを回避することができる。したがって、高精度での異常判定の実行と速やかな異常判定の実行との両立を図ることができる。
【0080】
(2)加重平均値AVCfが誤って初期値になった後の2トリップ目以降において、上記カウント値CAが第2閾値N2以上になったことに加えて、上記カウント値CBが第3閾値N3以上になったことを条件に、加重平均値AVCfに基づく異常判定を実行するようにした。これにより、「N3」個以上の最新データを含むデータをもとに算出された加重平均値AVCfに基づいて異常判定を実行することができるようになるため、排気浄化触媒20の実際の作動状態に即したかたちで異常判定を精度よく実行することができるようになる。
【0081】
(3)酸素吸蔵容量Cfが検出されて蓄積される度にその加重平均値AVCfが算出されるとともに、同加重平均値AVCfと劣化判定値Jとの比較を通じて異常発生の有無が判定される装置に適用するようにした。そのため、加重平均値AVCfが誤って初期値になると、その後のしばらくの間、同加重平均値AVCfが実際の排気浄化触媒20の作動状態に応じたかたちで十分に変化するのを待った上で異常判定を実行することができ、その判定を高い精度で実行することができる。しかも、加重平均値AVCfが誤って初期値になった後の2トリップ目以降においては、判定精度を維持する上で最低限必要な程度に上記加重平均値AVCfが変化したタイミングで異常判定を実行することができ、判定精度の低下を抑えつつ判定結果を得るタイミングが不要に遅くなることを回避することができる。
【0082】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・加重平均値AVCfが誤って初期化された場合に、その後のしばらくの間(例えば、運転スイッチ38のオン操作とオフ操作とが複数回繰り返される間)、酸素吸蔵容量Cfの検出条件を緩和するようにしてもよい。そうした検出条件の緩和は、例えば内燃機関10の吸入空気量の単位時間あたりの変化が若干大きいときにも酸素吸蔵容量Cfの検出が許可されるようになる条件に前記検出条件を変更したり、排気浄化触媒20の温度が若干低いときにも酸素吸蔵容量Cfの検出が許可されるようになる条件に前記検出条件を変更したりすることなどより実現することができる。上記構成によれば、検出条件の緩和を通じて酸素吸蔵容量Cfの検出頻度を高くすることができる。これにより、各カウンタA、Bのカウント値CA,CBの増加速度を早くすることができるようになるために、加重平均値AVCfに基づく異常判定を早期に実行することができるようになる。
【0083】
・図4のステップS206の処理において、カウンタBのカウント値CBが第3閾値N3以上であることとの条件を省略してもよい。すなわち、カウンタAのカウント値CAが第2閾値N2以上であることのみをもって、判定処理を実行するようにしてもよい。
【0084】
・上記実施の形態では、電子制御ユニット30のRAM30aにデータが蓄積されていない状況であること、具体的には同RAM30aがバッテリクリアされたことを、カウンタDのカウント値CDが「0」になったことをもって判断するようにした。これに限らず、カウンタAのカウント値CAが「0」であることや、電子制御ユニット30のRAM30aに記憶されているデータが初期値であることをもって、同RAM30aにデータが蓄積されていない状況であると判断するようにしてもよい。
【0085】
・前記関係式(1)に基づいて加重平均値AVCfを算出することに代えて、前回の算出処理の実行時に算出した値を[i]とし所定の正の数をN(ただし、0<N<1)として関係式「最新の値=値[i]−(値[i]−Cf)×N」から最新の値を算出したり、直近において検出された複数の酸素吸蔵容量Cfの平均値を算出したりしてもよい。要は、酸素吸蔵容量Cfの変化の傾向を示す値を算出することができればよい。
【0086】
・上記実施の形態は、複数の酸素吸蔵容量Cfに基づき算出される値(詳しくは、加重平均値AVCf)をもとに異常発生の有無を判定する装置に限らず、複数の酸素吸蔵容量Cfそのものに基づいて異常発生の有無を判定する装置にも、その構成を適宜変更した上で適用することができる。そうした装置としては、例えば酸素吸蔵容量Cfが検出されて蓄積される度に同酸素吸蔵容量Cfと予め定められた判定値との比較を通じて異常発生の有無についての仮判定を実行するとともに、直近の複数の仮判定の結果における異常有りの判定が占める割合が所定値以上であること、あるいは異常有りと判定された回数が所定回数以上であることをもって異常が発生していると判定する装置を挙げることができる。
【0087】
・本発明は、判定対象機器の作動状態と相関のある状態量を時間間隔を置いて繰り返し検出して蓄積するとともにそれら蓄積した複数のデータに基づいて異常発生の有無を判定する装置であれば、排気浄化触媒以外の判定対象機器の異常発生の有無を判定する異常判定装置にも適用することができる。そうした装置としては、例えば次の[装置1]および[装置2]に記載する装置を挙げることができる。[装置1]判定対象機器として空燃比センサを採用し、その作動状態と相関のある状態量として空燃比センサにより検出されて蓄積される排気の酸素濃度の変化速度を採用して、複数の排気酸素濃度の変化速度に基づいて空燃比センサの劣化異常発生の有無を判定する異常判定装置。[装置2]判定対象機器として燃料噴射弁を採用し、その作動状態と相関のある状態量として空燃比センサにより検出されて蓄積される排気の酸素濃度とその基準値(理論空燃比に対応する値)との定常的な偏差を採用して、複数の偏差に基づいて燃料噴射弁のデポジット付着異常の発生の有無を判定する異常判定装置。
【符号の説明】
【0088】
10…内燃機関、11…吸気通路、12…スロットル弁、13…スロットルモータ、14…燃焼室、15…燃料噴射弁、16…点火プラグ、17…ピストン、18…クランクシャフト、19…排気通路、20…排気浄化触媒、21…バッテリ、30…電子制御ユニット、30a…RAM、31…クランクセンサ、32…吸気量センサ、33…アクセルセンサ、34…スロットルセンサ、35…水温センサ、36…空燃比センサ、37…酸素センサ、38…運転スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象機器の作動状態と相関のある状態量を時間間隔を置いて繰り返し検出する検出手段と、同検出手段によって検出するとともに蓄積した複数のデータに基づいて異常発生の有無を判定する判定手段とを備える異常判定装置において、
前記データが蓄積されていない状況になったときに、その後における前記データの蓄積数を総蓄積数としてカウントするとともに前記判定手段による異常判定の実行を、前記状況になった後の1トリップ目の間においては前記総蓄積数が第1閾値に達したことを条件に許可し、前記状況になった後の2トリップ目以降においては前記総蓄積数が前記第1閾値より小さい第2閾値に達したことを条件に許可する
ことを特徴とする異常判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常判定装置において、
当該装置は、前記2トリップ目以降においては、トリップ中における前記データの蓄積数を期間蓄積数としてカウントするとともに、前記総蓄積数が前記第2閾値に達したことに加えて、前記期間蓄積数が第3閾値に達していることを条件に、前記判定手段による異常判定の実行を許可する
ことを特徴とする異常判定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の異常判定装置において、
当該装置は、前記検出手段によって検出したデータを記憶する揮発性のメモリと同メモリに電力を供給するバッテリとを備えてなり、同バッテリからメモリへの電力供給が一時的に停止されたことをもって前記データが蓄積されていない状況になったことを判断する
ことを特徴とする異常判定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の異常判定装置において、
前記判定手段は、前記検出手段によって前記状態量を検出して蓄積する度に前記複数のデータの加重平均値を算出するとともに、同加重平均値と予め定められた判定値との比較を通じて異常発生の有無を判定するものである
ことを特徴とする異常判定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の異常判定装置において、
当該装置は、内燃機関とその排気を浄化するための排気浄化触媒とを備えた機関システムに適用されて、同排気浄化触媒の劣化異常の発生の有無を判定するものであり、
前記検出手段は、前記状態量として前記排気浄化触媒の酸素吸蔵容量を検出するものである
ことを特徴とする異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−67719(P2012−67719A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215177(P2010−215177)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】