説明

異方導電性接着剤組成物、異方導電性フィルム、回路部材の接続構造、及び、被覆粒子の製造方法

【課題】接続ピッチが狭ピッチになった場合でも、分散した導電粒子の凝集により隣り合う回路電極間でショートが発生することを十分に抑制することができ、優れた長期接続信頼性を得ることができる異方導電性接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、前記第一の回路電極及び前記第二の回路電極を対向配置させた状態で接続するための異方導電性接着剤組成物であって、(A)接着剤と、(B)表面の少なくとも一部に極性基を有する極性基含有導電粒子が、前記極性基と吸着可能な高分子電解質と、前記高分子電解質と吸着可能な無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料で被覆されてなる被覆粒子と、を含有する、異方導電性接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方導電性接着剤組成物、異方導電性フィルム、回路部材の接続構造、及び、被覆粒子の製造方法に関し、より詳しくは、回路基板同士又はICチップ等の電子部品と配線基板との接続に用いられる異方導電性接着剤組成物、それを用いた異方導電性フィルム、回路部材の接続構造、及び、被覆粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板同士又はICチップ等の電子部品と回路基板とを電気的に接続する際には、導電粒子を接着剤組成物中に分散させた異方導電性接着剤組成物が用いられている。すなわち、この異方導電接着剤組成物を、上記のような相対峙する回路部材の電極間に配置し、加熱及び加圧することによって電極同士を接続することで、加圧方向に導電性を持たせ、対向する電極間の電気的接続と回路部材同士の固定とを行うことができる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、液晶表示用ガラスパネルには、COG(Chip−On−Glass)実装又はCOF(Chip−On−Flex)実装等によって液晶駆動用ICが実装される。COG実装では、導電粒子を含む異方導電性接着剤組成物を用いて液晶駆動用ICを直接ガラスパネル上に接合する。COF実装では、金属配線を有するフレキシブルテープに液晶駆動用ICを接合し、導電粒子を含む異方導電性接着剤組成物を用いてそれらをガラスパネルに接合する。
【0004】
ところが、近年の液晶表示の高精細化に伴い、ICチップの回路電極である金バンプは狭ピッチ化、狭面積化しており、その他の電子部品も高精細化が進んでおり、そのため、異方導電性接着剤組成物中の導電粒子が隣り合う回路電極間に流出して、ショートを発生させやすいといった問題がある。
【0005】
この問題を解決する方法として、回路接続部材の少なくとも片面に絶縁性の接着層を形成することで、COG実装又はCOF実装における接合品質の低下を防ぐ方法(例えば、特許文献3参照)や、導電粒子の全表面を絶縁性の皮膜で被覆する方法(例えば、特許文献4参照)が開発されている。また、導電粒子の表面の一部が絶縁性微粒子により被覆された被覆粒子を用いる方法も提案されている(例えば、特許文献5、6参照)。
【0006】
【特許文献1】特許第3581618号公報
【特許文献2】特許第3679618号公報
【特許文献3】特開平8−279371号公報
【特許文献4】特許第2794009号公報
【特許文献5】特開2005−197089号公報
【特許文献6】国際公開第03/025955号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に記載された、回路接続部材の片面に絶縁性の接着層を形成する方法では、例えばバンプ面積が3000μm未満であって、安定した接続抵抗を得るために導電粒子数を増やす場合には、隣り合う回路電極間の絶縁性について未だ改良の余地がある。また、上記特許文献4に記載された、導電粒子の全表面を絶縁性の皮膜で被覆する方法では、対向する回路電極間の接続抵抗が上昇し、安定した電気抵抗が得られないという問題がある。更に、上記特許文献5に記載された、導電粒子の表面の一部が絶縁性微粒子により被覆された被覆粒子を用いた場合でも、信頼性試験を繰り返すと抵抗値が上昇してしまうという問題が残っている。また、上記特許文献6に記載された被覆粒子の形成方法は導電粒子上及び絶縁粒子上に官能基を導入するプロセスが必要であること、またそれぞれの官能基との間の相互作用が弱いために、絶縁粒子が導電粒子上に吸着または凝集させにくく、歩留まりが悪いという課題がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、接続ピッチが狭ピッチになった場合でも、分散した導電粒子の凝集により隣り合う回路電極間でショートが発生することを十分に抑制することができ、優れた長期接続信頼性を得ることができる異方導電性接着剤組成物、それを用いた異方導電性フィルム、回路部材の接続構造、及び、被覆粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極及び上記第二の回路電極を対向配置させた状態で接続するための異方導電性接着剤組成物であって、(A)接着剤と、(B)表面の少なくとも一部に極性基を有する極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部が、上記極性基と吸着可能な高分子電解質と、上記高分子電解質と吸着可能な無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料で被覆されてなる被覆粒子と、を含有する、異方導電性接着剤組成物を提供する。
【0010】
本発明の異方導電性接着剤組成物によれば、通常の導電粒子に代えて上記の被覆粒子を導電性材料として用いているため、接続ピッチが狭ピッチになった場合(例えば、隣接する電極間のスペースが15μm以下の狭スペースになった場合)に被覆粒子が凝集しても、高分子電解質と無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料からなる皮膜によって導電粒子間の絶縁性が保たれ、電極間のショートの発生を十分に抑制することができる。また、対向する電極間においては、回路部材同士を接続する際の圧力によって加圧方向の導電性が得られ、電気的接続が確保される。無機微酸化物粒子を絶縁性材料として用いると接続工程での加圧や加熱による変形やその戻りが少ないために接続部分の抵抗の上昇やその後の抵抗値の上昇が抑制され、優れた長期接続信頼性を得ることができる。また、高分子電解質を含むことにより、絶縁粒子表面に官能基を導入するプロセスが必要ない。また、極性基含有導電粒子と高分子電解質と無機酸化物微粒子とのそれぞれの吸着が強いために、接着剤との配合、混合時において絶縁粒子が脱落することがない。したがって、被覆粒子を歩留良く製造できるとともに、絶縁性にバラツキが生じ難く、当該被覆粒子を含む異方導電性接着剤組成物は、隣り合う回路電極間の絶縁性をより安定して確保することができる。
【0011】
また、本発明の異方導電性接着剤組成物において、上記被覆粒子は、上記極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部に、上記高分子電解質と上記無機酸化物微粒子とが順次に静電的に吸着されてなるものであることが好ましい。導電粒子の表面に極性基を導入し、且つ、高分子電解質を吸着させることで、極性基と高分子電解質と無機酸化物微粒子との間には静電的引力が作用するため、無機酸化物微粒子を導電粒子表面に選択的に吸着させることができる。その結果、当該被覆粒子を含む異方導電性接着剤組成物は、隣り合う回路電極間でのショートの発生をより十分に抑制することができる。
【0012】
また、本発明の異方導電性接着剤組成物において、上記無機酸化物微粒子は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニオブ、亜鉛、錫、セリウム及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物からなるものであることが好ましい。これにより、化学的、熱的に安定な絶縁性粒子として作用させることができる。これらの無機酸化物微粒子は表面に水酸基などの極性基を有しているため、高分子電解質との静電的な引力が作用し、優れた吸着性が得られる。その結果、当該被覆粒子を含む異方導電性接着剤組成物は、隣り合う回路電極間でのショートの発生をより十分に抑制することができる。
【0013】
また、本発明の異方導電性接着剤組成物において、上記無機酸化物微粒子の平均粒子径は、20〜500nmの範囲内であることが好ましい。無機酸化物微粒子の平均粒子径が上記範囲内であることにより、隣接する電極間の絶縁性を十分に確保することができるとともに、接続時の加圧方向の導電性を十分に確保することができる。
【0014】
更に、本発明の異方導電性接着剤組成物において、上記高分子電解質は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン及びハロゲン化物イオンを含まないものであることが好ましい。これにより、エレクトロマイグレーションや腐食の発生を十分に抑制することができる。
【0015】
本発明はまた、上記本発明の異方導電性接着剤組成物をフィルム状に形成してなる、異方導電性フィルムを提供する。
【0016】
かかる異方導電性フィルムによれば、上記本発明の異方導電性接着剤組成物を用いているため、接続ピッチが狭ピッチになった場合でも、分散した導電粒子の凝集により隣り合う回路電極間でショートが発生することを十分に抑制することができ、優れた長期接続信頼性を得ることができる。また、かかる異方導電性フィルムは、フィルム状であるため取扱いが容易である。
【0017】
本発明はまた、第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とが、上記第一及び第二の回路部材の間に設けられた、上記本発明の異方導電性接着剤組成物の硬化物からなる回路接続部材によって、上記第一の回路電極と上記第二の回路電極とが対峙するとともに電気的に接続されるように接続された、回路部材の接続構造を提供する。
【0018】
かかる回路部材の接続構造は、回路接続部材が上記本発明の異方導電性接着剤組成物の硬化物からなることから、接続ピッチが狭ピッチになった場合でも、分散した導電粒子の凝集により隣り合う回路電極間でショートが発生することを十分に抑制することができ、優れた長期接続信頼性を得ることができる。
【0019】
ここで、上記第一の回路部材において、上記第一の基板がガラス基板であり、且つ、上記第一の回路電極が金属電極回路であり、上記第二の回路部材において、上記第二の基板が有機質絶縁基板であることが好ましい。これにより、屈曲性に富む有機質絶縁基板とガラス基板との接続が容易に可能となる。
【0020】
また、上記第一の回路部材において、上記第一の基板が半導体チップであり、上記第二の回路部材において、上記第二の基板がガラス基板であり、且つ、上記第二の回路電極が金属電極回路であることが好ましい。これにより、半導体チップを直接ガラス基板上に実装することが容易に可能となる。
【0021】
本発明は更に、表面の少なくとも一部に極性基を有する極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部が、上記極性基と吸着可能な高分子電解質と、上記高分子電解質と吸着可能な無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料で被覆されてなる被覆粒子の製造方法であって、導電粒子を、上記極性基を有する化合物を含む溶液に分散させ、上記導電粒子の表面の少なくとも一部に上記極性基を導入した後、洗浄して上記極性基含有導電粒子を得る第1のステップと、上記極性基含有導電粒子を、上記高分子電解質を含む溶液に分散させ、上記極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部に上記高分子電解質を吸着させた後、洗浄する第2のステップと、上記高分子電解質を吸着させた上記極性基含有導電粒子を、上記無機酸化物微粒子を含む分散液に分散させ、上記極性基含有導電粒子及び上記高分子電解質の表面の少なくとも一部に上記無機酸化物微粒子を吸着させた後、洗浄する第3のステップと、を有する吸着工程を含む、被覆粒子の製造方法を提供する。
【0022】
かかる被覆粒子の製造方法によれば、上記本発明の異方導電性接着剤組成物に用いられる被覆粒子を効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、接続ピッチが狭ピッチになった場合でも、分散した導電粒子の凝集により隣り合う回路電極間でショートが発生することを十分に抑制することができ、優れた長期接続信頼性を得ることができる異方導電性接着剤組成物、それを用いた異方導電性フィルム、回路部材の接続構造、及び、被覆粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、場合により図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
本発明の異方導電性接着剤組成物は、第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記第一の回路電極及び上記第二の回路電極を対向配置させた状態で接続するための異方導電性接着剤組成物であって、(A)接着剤と、(B)表面の少なくとも一部に極性基を有する極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部が、上記極性基と吸着可能な高分子電解質と、上記高分子電解質と吸着可能な無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料で被覆されてなる被覆粒子と、を含有するものである。
【0026】
本発明の異方導電性接着剤組成物を構成する(A)接着剤としては、例えば、熱反応性樹脂と硬化剤との混合物が用いられる。好ましく用いられる(A)接着剤としては、エポキシ樹脂と潜在性硬化剤との混合物が挙げられる。潜在性硬化剤としては、イミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素−アミン錯体、スルホニウム塩、アミンイミド、ポリアミンの塩、ジシアンジアミド等が挙げられる。この他、(A)接着剤としては、ラジカル反応性樹脂と有機過酸化物との混合物や、紫外線などのエネルギー線の照射により硬化する光硬化性樹脂が用いられる。
【0027】
上記エポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンとビスフェノールAやF、AD等から誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとフェノールノボラックやクレゾールノボラックから誘導されるエポキシノボラック樹脂、ナフタレン環を含んだ骨格を有するナフタレン系エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエーテル、ビフェニル、脂環式等の1分子内に2個以上のグリシジル基を有する各種のエポキシ化合物等を単独にあるいは2種以上を混合して用いることが可能である。これらのエポキシ樹脂は、不純物イオン(Na、Cl等)や、加水分解性塩素等を300ppm以下に低減した高純度品を用いることが、エレクトロマイグレーション防止の観点から好ましい。
【0028】
異方導電性接着剤組成物には、接着後の応力を低減するため、あるいは接着性を向上するために、ブタジエンゴム、アクリルゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、シリコーンゴム等を混合することができる。また、異方導電性接着剤組成物としてはペースト状またはフィルム状のものが用いられる。異方導電性接着剤組成物をフィルム状にするためには、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂をフィルム形成性高分子として配合することが効果的である。これらのフィルム形成性高分子は、反応性樹脂の硬化時の応力緩和にも効果がある。特に、フィルム形成性高分子が、水酸基等の官能基を有する場合、接着性が向上するためより好ましい。フィルム形成は、これら少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、潜在性硬化剤からなる接着剤組成物を有機溶剤に溶解あるいは分散することにより液状化して、それを剥離性基材上に塗布し、硬化剤の活性温度以下で溶剤を除去することにより行われる。この時用いる溶剤は、芳香族炭化水素系と含酸素系との混合溶剤が材料の溶解性を向上させるため好ましい。
【0029】
本発明において、(B)被覆粒子を構成する導電粒子は、例えば、Au、Ag、Ni、Cuやはんだ等の金属を含む粒子であり、ポリスチレン等の高分子からなる球状の核材の表面に、Au、Ag、Ni、Cu、はんだ等の導電層を形成してなる粒子であることがより好ましい。また、導電粒子は、導電性を有する粒子の表面に、Su、Au、はんだ等の表面層を形成してなるものであってもよい。
【0030】
導電粒子の粒径は、異方導電性接着剤組成物を用いて接続する回路部材の電極の最小の間隔よりも小さいことが必要であり、且つ、電極の高さにばらつきがある場合、その高さのばらつきよりも大きいことが好ましい。導電粒子の平均粒径は、1〜10μmであることが好ましく、2〜4μmであることがより好ましい。平均粒径が1μm未満であると、粒子の分級が困難となる傾向があり、10μmを超えると、狭ピッチの電極間接続においてショートが発生する傾向がある。
【0031】
本発明における(B)被覆粒子は、上記導電粒子の表面が、極性基、及び、高分子電解質と無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料からなる絶縁性皮膜で被覆されてなるものである。ここで、絶縁性材料としては、高分子電解質と無機酸化物微粒子とが順次に積層されたものであることが好ましい。ここで、図1は、(B)被覆粒子の一例を模式的に示す外観図である。図1に示すように、被覆粒子1は、表面の少なくとも一部に極性基を有する極性基含有導電粒子8と、極性基含有導電粒子8の表面を被覆する高分子電解質4及び無機酸化物微粒子6とを含む絶縁性材料7と、から構成される。
【0032】
(B)被覆粒子の具体的な製造方法としては、上記導電粒子を、極性基を有する化合物を含む溶液に分散させ、導電粒子の表面の少なくとも一部に極性基を導入した後、洗浄して極性基含有導電粒子を得る第1のステップと、極性基含有導電粒子を、高分子電解質を含む溶液に分散させ、極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部に高分子電解質を吸着させた後、洗浄する第2のステップと、高分子電解質を吸着させた極性基含有導電粒子を、無機酸化物微粒子を含む分散液に分散させ、極性基含有導電粒子及び高分子電解質の表面の少なくとも一部に無機酸化物微粒子を吸着させた後、洗浄する第3のステップと、を有する吸着工程を含む方法が好ましく用いられる。
【0033】
上記吸着工程において、第1、第2及び第3のステップは、少なくとも順次に1回ずつ行えばよいが、各ステップを2回以上繰り返し行ってもよいし、2回目は第1のステップを含まなくてもよい。第2及び第3のステップを2回以上繰り返す場合には、1回目の第2及び第3のステップ後の高分子電解質及び無機酸化物微粒子を吸着させた極性基含有導電粒子に対して、再度、第2及び第3のステップにより高分子電解質及び無機酸化物微粒子を吸着させる。この第2及び第3のステップを交互に繰り返す吸着工程を含むことにより、極性基含有導電粒子の表面が、高分子電解質と無機酸化物微粒子とが積層された絶縁性材料で皮膜された被覆粒子を効率的に製造することができる。第1のステップにおいては、極性基を導電粒子の表面に導入するために、公知の方法を用いることができる。
【0034】
第2または第3のステップのような方法を繰り返す方法は、交互積層法(Layer−by−Layer assembly)と呼ばれる。交互積層法は、G.Decherらによって1992年に発表された有機薄膜を形成する方法である(Thin Solid Films,210/211,p831(1992))。この方法では、正電荷を有するポリマー電解質(ポリカチオン)と負電荷を有するポリマー電解質(ポリアニオン)の水溶液に、基材を交互に浸漬することで基板上に静電的引力によって吸着したポリカチオンとポリアニオンの組が積層して複合膜(交互積層膜)が得られるものである。
【0035】
交互積層法では、静電的な引力によって、基材上に形成された材料の電荷と、溶液中の反対電荷を有する材料が引き合うことにより膜成長するので、吸着が進行して電荷の中和が起こるとそれ以上の吸着が起こらなくなる。したがって、ある飽和点までに至れば、それ以上膜厚が増加することはない。Lvovらは交互積層法を、微粒子に応用し、シリカやチタニア、セリアの各微粒子分散液を用いて、微粒子の表面電荷と反対電荷を有する高分子電解質を交互積層法で積層する方法を報告している(Langmuir、Vol.13、(1997)p6195−6203)。この方法を用いると、負の表面電荷を有するシリカの微粒子とその反対電荷を持つポリカチオンであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)またはポリエチレンイミン(PEI)などとを交互に積層することで、シリカ微粒子と高分子電解質が交互に積層された微粒子積層薄膜を形成することが可能である。
【0036】
第1のステップにおいて、導電粒子を、極性基を含む化合物の溶液に浸漬した後、高分子電解質溶液に浸漬する前に、溶媒のみのリンスによって余剰の極性基を含む化合物の溶液を洗い流すことが好ましい。また、第2のステップにおいて、極性基含有導電粒子を、高分子電解質溶液に浸漬した後、無機酸化物微粒子の分散液に浸漬する前に、溶媒のみのリンスによって余剰の高分子電解質溶液を洗い流すことが好ましい。更に、第3のステップにおいて、高分子電解質を吸着させた極性基含有導電粒子を、無機酸化物微粒子の分散液に浸漬した後、溶媒のみのリンスによって余剰の無機酸化物微粒子分散液を洗い流すことが好ましい。
【0037】
このようなリンスに用いる溶媒としては、水、アルコール、アセトン、及び、それらの混合溶媒等が挙げられる。第1のステップにおいては、過剰な極性基を含む化合物の溶液の除去の点から、アルコール、又は、水とアルコールとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、第2及び第3のステップにおいては、過剰な高分子電解質溶液、又は無機酸化物微粒子の分散液の除去の点から、比抵抗値が18MΩ・cm以上のイオン交換水(いわゆる超純水)を用いることが好ましい。
【0038】
極性基含有導電粒子に吸着した高分子電解質及び無機酸化物微粒子は、互いにまた、導電粒子表面の極性基に静電的に吸着しているために、このリンスの工程で剥離することはない。さらに無機酸化物微粒子表面の極性基(主に水酸基)の分極により、導電粒子表面の例えば金属や部分的な金属酸化物との静電的な相互作用(引力)も作用している。また、反対電荷の溶液に、吸着していない高分子電解質または無機酸化物微粒子を持ち込むことを防ぐためにリンスを行うことが好ましい。このリンスを行わない場合は、持ち込みによって溶液内でカチオン、アニオンが混ざり、高分子電解質と無機酸化物微粒子の凝集や沈殿を起こすことがある。
【0039】
極性基を含む化合物としては、導電粒子と結合する部位、及び、極性基の両方を有するものであることが望ましい。極性基としては、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性の基が挙げられるが、例えば、イオン性基又はイオン化可能基で置換された有機基であってもよい。イオン化可能基は、使用する媒体中でイオン性基を作ることができる基である。イオン性基は、アニオン性基又はカチオン性基であり、イオン化可能基はアニオン性基又はカチオン性基を作ることができる基である。
【0040】
アニオン性基を作るイオン化可能官能基としては、例えば、酸性基又は酸性基の塩を挙げることができる。酸性基としては、例えば、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ホスホン酸基、及び、カルボン酸基等が挙げられる。
【0041】
また、カチオン性基を作るイオン化可能官能基を有する化合物としては、アミン類等が挙げられる。例えば酸性媒体中では、アミンはプロトン化されてアンモニウム基を作ることができる。また、アミン置換基を有する有機基のpKaは5未満であることが好ましい。更に、カチオン性基の例としては、第4級アンモニウム基(−NR3+)及び第4級ホスホニウム基(−PR3+)等が挙げられる。
【0042】
また、極性基には、水酸基、ホルムアミド基など、非イオン性の極性の大きな親水基も含まれる。
【0043】
極性基を含む化合物には、導電粒子と結合する部位が含まれることが好ましい。そのような部位は、一般には金属捕捉官能基と呼ばれ、例えば、メルカプト基、チオカルボニル基、シアノ基、イソシアナート基、アミノ基、アンモニウム基、ピリジニウム基、アジニル基、カルボキシル基、ベンゾトリアゾール基、トリアジンチオール基、イミン環及び硫黄複素環等のいずれか又はこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、メルカプト基、シアノ基、ピリジニウム基が好ましく用いられる。
【0044】
極性基を含む化合物としては、上述のような極性基と、導電粒子と結合可能な部位と、を有するものが好ましく使用される。また、極性基を含む化合物は、水又はアルコールなどの溶媒に溶解して用いることができる。
【0045】
高分子電解質は、導電粒子表面に導入された上記極性基と吸着可能なものである。この高分子電解質は、上記極性基に例えば静電的に吸着されている。かかる高分子電解質としては、水溶液中で電離し、荷電を有する官能基を主鎖または側鎖に持つ高分子(ポリアニオン又はポリカチオン)を用いることができる。この場合、ポリアニオンとしては、一般的に、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負電荷を帯びることのできる官能基を有するものが挙げられ、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸などを用いることができる。また、ポリカチオンとしては、一般に、4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びることのできる官能基を有するもの、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、ポリアクリルアミド及びそれらを少なくとも1種以上含む共重合体などを用いることができる。
【0046】
これらの高分子電解質の中でも、エレクトロマイグレーションや腐食の発生を避けるために、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)イオン、アルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba、Ra)イオン、及び、ハロゲン化物イオン(フッ素イオン、クロライドイオン、臭素イオン、ヨウ素イオン)を含まないものが好ましい。
【0047】
これらの高分子電解質は、いずれも水溶性あるいは水と有機溶媒との混合液に可溶なものである。高分子電解質の分子量としては、用いる高分子電解質の種類により一概には定めることができないが、一般に、300〜200,000程度のものが好ましい。なお、溶液中の高分子電解質の濃度は、一般に、0.01〜10質量%程度が好ましい。また、高分子電解質溶液のpHは、特に限定されない。
【0048】
本発明で使用する高分子電解質溶液は、一般的に、水または水と水溶性の有機溶媒との混合溶媒に高分子電解質を溶解したものである。使用できる水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどが挙げられる。
【0049】
これらの高分子電解質を用いることにより、導電粒子の表面に欠陥なく均一に高分子電解質薄膜を形成することができ、回路電極間隔が狭ピッチでも絶縁性を十分に確保することができ、電気的に接続すべき対向する電極間では接続抵抗が低く良好な電気的接続を得ることができる。
【0050】
無機酸化物微粒子は、上記高分子電解質と吸着可能なものであり、好ましくは、上記高分子電解質と吸着可能な水酸基等の極性基を有するものである。かかる無機酸化物微粒子としては、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニオブ、亜鉛、錫、セリウム及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物からなるものが好ましく、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。さらに、これらの中でも絶縁性に優れることから、粒子径を制御した水分散コロイダルシリカ(SiO)が最も好ましい。このような無機酸化物微粒子の市販品としては、例えば、スノーテックス、スノーテックスUP(以上、日産化学工業社製)、クオートロンPLシリーズ(扶桑化学工業社製)等が挙げられる。十分な絶縁信頼性を得る観点からは、分散溶液中のアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの合計の濃度が100ppm以下であることが望ましい。また、金属アルコキシドの加水分解反応、いわゆるゾルゲル法により製造される無機酸化物微粒子が好ましく用いられる。
【0051】
無機酸化物微粒子の大きさは、BET法による比表面積換算法またはX線小角散乱法で測定された平均粒子径が、20nmから500nmであることが好ましい。無機酸化物微粒子の平均粒子径が20nm未満であると、導電粒子に吸着された無機酸化物微粒子が絶縁膜として十分に機能せず、一部にショートが発生しやすくなる傾向がある。一方、平均粒子径が500nmを超えると、接続時の加圧方向の導電性が不十分となる傾向がある。
【0052】
また、異方導電性接着剤組成物における被覆粒子の含有量は、異方導電性接着剤組成物中の固形分の全体積を基準として0.1〜30体積%であることが好ましく、0.2〜15体積%であることがより好ましい。この含有量が0.1体積%未満であると、加圧部分の導電性が得にくい傾向があり、30体積%を超えると、未加圧部分の絶縁性が損なわれる傾向がある。
【0053】
本発明の異方導電性接着剤組成物には、上記被覆粒子とは別に、無機質充填材を混入・分散することができる。無機質充填材としては、特に限定されるものではなく、例えば、溶融シリカ、結晶質シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、炭酸カルシウム等の粉体が挙げられる。無機充填材の配合量は、接着剤100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましい。異方導電性接着剤組成物の熱膨張係数を低下させるには、無機質充填材の配合量が大きいほど効果的であるが、多量に配合しすぎると接着性や接続部での接着剤の排除性低下に基づく導通不良が発生しやすくなる傾向があり、配合量が少なすぎると熱膨張係数を充分に低下させることができないため、配合量は接着剤100質量部に対して20〜90質量部であることがより好ましい。また、無機質充填材の平均粒径は、接続部での導通不良を防止する観点から、3μm以下であることが好ましい。また、接続時の樹脂の流動性の低下及びチップのパッシベーション膜のダメージを防ぐ観点から、球状フィラーを用いることが望ましい。無機質充填材は、被覆粒子と共に用いることもでき、また、異方導電性接着剤組成物を用いて異方導電性フィルムを形成し、接着剤層を多層化した場合に、被覆粒子が使用されない層に混入・分散することもできる。
【0054】
図2は、本発明の異方導電性フィルム(回路接続用接着フィルム)の好適な一実施形態を示す模式断面図である。図2に示す異方導電性フィルム100は、被覆粒子1と接着剤2とを含む異方導電性接着剤組成物をフィルム状に形成してなるものである。
【0055】
異方導電性フィルム100は、例えば、液状の異方導電性接着剤組成物を離型性フィルム上にロールコータ等で塗布し、乾燥させた後、離型性フィルムから剥離することにより得ることができる。離型性フィルムとしては、離型性を有するように表面処理されたPETフィルム等が好適に用いられる。
【0056】
また、異方導電性フィルムにおいては、接着剤層を多層化することもできる。例えば、異方導電性を付与するために被覆粒子を含有させた接着剤層と、被覆粒子や導電粒子を含まない接着剤層とをラミネートしてなる二層構成の異方導電性フィルムや、被覆粒子を含有させた接着剤層の両側に被覆粒子や導電粒子を含まない接着剤層をラミネート化した三層構成の異方導電性フィルムとすることができる。これらの多層構成の異方導電性フィルムは、接続電極上で効率良く導電粒子を捕獲できるため、狭ピッチ接続に有利である。また、回路部材との接着性を考慮して、対向する回路部材のそれぞれに対して接着性に優れる接着フィルムをラミネートしてから、回路部材同士の接続を行うこともできる。
【0057】
図3は、本発明による回路部材の接続構造の好適な一実施形態を示す模式断面図である。図3に示す回路部材の接続構造200は、第一の基板11及びその主面上に形成された第一の回路電極12を有する第一の回路部材10と、第二の基板21及びその主面上に形成された第二の回路電極22を有する第二の回路部材20とが、上記本発明の異方導電性接着剤組成物又は異方導電性フィルム100が硬化した硬化物からなり第一及び第二の回路部材10,20の間に形成された回路接続部材100aによって接続されたものである。回路部材の接続構造200においては、第一の回路電極12と第二の回路電極22とが対峙するとともに電気的に接続されている。
【0058】
回路接続部材100aは、本発明の異方導電性接着剤組成物又は異方導電性フィルム100が硬化した硬化物3aからなるものであり、上述した接着剤2の硬化物2a及びこれに分散している被覆粒子1を含んでいる。そして、第一の回路電極12と第二の回路電極22とは、被覆粒子1を介して電気的に接続されている。
【0059】
第一及び第二の回路部材10,20としては、電気的接続を必要とする電極が形成されているものであれば特に制限はない。具体的には、液晶ディスプレイに用いられているITO等で電極が形成されているガラス又はプラスチック基板、プリント配線板、セラミック配線板、フレキシブル配線板、半導体シリコンチップ等が挙げられ、これらは必要に応じて組み合わせて使用される。このように、本実施形態では、プリント配線板やポリイミド等の有機物からなる材質をはじめ、銅、アルミニウム等の金属やITO(indium tin oxide)、窒化ケイ素(SiN)、二酸化ケイ素(SiO)等の無機材質のように多種多様な表面状態を有する回路部材を用いることができる。
【0060】
回路部材の接続構造200は、例えば、第一の回路部材10と、上記本発明の異方導電性フィルム100と、第二の回路部材20とを、第一の回路電極11と第二の回路電極21とが対峙するようにこの順に積層して加熱及び加圧することにより、第一の回路電極11と第二の回路電極21とが電気的に接続されるように第一の回路部材10と第二の回路部材20とを接続する方法によって得られる。
【0061】
この方法においては、まず、剥離性基材上に形成されている異方導電性フィルム100を第二の回路部材20上に貼り合わせた状態で加熱及び加圧して異方導電性フィルム100を仮接着し、剥離性基材(離型性フィルム)を剥離してから、第一の回路部材10を回路電極を位置合わせしながら載せて、第二の回路部材20、異方導電性フィルム100及び第一の回路部材10がこの順に積層された積層体を準備することができる。
【0062】
上記積層体を加熱及び加圧する条件は、異方導電性フィルム100中の接着剤2の硬化性等に応じて、異方導電性フィルムが硬化して十分な接着強度が得られるように、適宜調整される。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
(被覆粒子の作製)
樹脂粒子(平均粒子径3μmのポリスチレン系球状樹脂粒子(Merck Chime社製、商品名:エスタポールL300)の表面に、無電解ニッケルめっきにより厚さ90nmのニッケル皮膜を設け、更にそのニッケル皮膜上に、置換金めっきにより厚さ30nmの金皮膜を設けることにより、導電粒子としての金属膜被覆導電樹脂粒子を得た。
【0065】
次に、得られた導電粒子の表面を、以下の方法で絶縁性材料により被覆した。
極性基を含む化合物としては、メルカプト酢酸(和光純薬社製)を用いた。高分子電解質としては、カチオン性ポリマーであるポリエチレンイミンを、無機酸化物微粒子としてはシリカをそれぞれ用いた。まず、メルカプト酢酸をメタノールで希釈して濃度0.4質量%に調整した。また、ポリエチレンイミン水溶液(濃度30質量%、日本触媒社製、商品名:エポミンP1000)を超純水(18MΩ・cm)で希釈して、濃度0.3質量%に調整した。更に、コロイダルシリカ分散液(濃度20質量%、扶桑化学工業社製、商品名:クオートロンPL−13、平均粒子径130nm)も超純水(18MΩ・cm)で希釈して、濃度0.1質量%に調整した。なお、このコロイダルシリカ分散液中のシリカ微粒子の表面電位(ゼータ電位)は−20mVであった。
【0066】
上記導電粒子2gを上記メルカプト酢酸メタノール溶液(濃度0.4質量%)200g中に加えて120分間攪拌することで、極性基としてカルボキシル基を有する極性基含有導電粒子を作製した。その後、孔径1μmのメンブレンフィルタ(ミリポア社製)で極性基含有導電粒子を濾別し、これをメンブレンフィルタ上で200gのメタノールにより2回洗浄することで、吸着されていないメルカプト酢酸を除去した。
【0067】
次に、メンブレンフィルタから回収した極性基含有導電粒子をポリエチレンイミン水溶液(濃度0.3質量%)200g中に加えて15分間攪拌することで、表面にカルボキシル基を有する極性基含有導電粒子の表面にポリエチレンイミンを吸着させた高分子電解質被覆粒子を作製した。その後、孔径1μmのメンブレンフィルタ(ミリポア社製)で高分子電解質被覆粒子を濾別し、これをメンブレンフィルタ上で200gの超純水により2回洗浄することで、吸着されていないポリエチレンイミンを除去した。
【0068】
次に、メンブレンフィルタから回収した高分子電解質被覆粒子を、上記コロイダルシリカ分散液(濃度0.1質量%)200g中に加えて15分間攪拌することで、高分子電解質被覆粒子の表面にシリカ微粒子を吸着させた被覆粒子を作製した。その後、上記と同様の孔径1μmのメンブレンフィルタで被覆粒子を濾別し、これをメンブレンフィルタ上で200gの超純水により2回洗浄することで、吸着されていないコロイダルシリカ微粒子を除去した。更に、水を除去するために、イソプロピルアルコール200gで被覆粒子の洗浄を行った。その後、メンブレンフィルタから回収した被覆粒子を80℃のオーブン内に1時間保管し、イソプロピルアルコールを蒸発させた。この結果、導電粒子の表面に、極性基としてカルボキシル基が導入され、絶縁性材料として、ポリエチレンイミンと平均粒子径130nmのコロイダルシリカとが順次に吸着されてなる被覆粒子を得た。
【0069】
(異方導電性接着剤組成物の作製)
接着剤溶液を以下の手順で作製した。まず、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド社製、商品名:PKHC)100gと、アクリルゴム(ブチルアクリレート40質量部、エチルアクリレート30質量部、アクリロニトリル30質量部及びグリシジルメタクリレート3質量部の共重合体、重量平均分子量:85万)75gとを酢酸エチル400gに溶解し、固形分30質量%の樹脂溶液を得た。次いで、マイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(エポキシ当量185、旭化成エポキシ株式会社製、商品名:ノバキュアHX−3941)300gを上記樹脂溶液に加えて撹拌することで、接着剤溶液を
作製した。
【0070】
次に、上記被覆粒子を上記接着剤溶液に、当該接着剤溶液中の固形分100体積部に対して被覆粒子が9体積部となるように分散し、異方導電性接着剤組成物の溶液を得た。
【0071】
(異方導電性フィルムの作製)
得られた溶液をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、厚さ40μm)上にロールコータで塗布し、90℃で10分間乾燥して、厚さ25μmの異方導電性接着剤層を形成した。これにより、異方導電性フィルムを得た。
【0072】
(回路部材の接続構造の作製)
金バンプ(面積:30×90μm、スペース:10μm、高さ:15μm、バンプ数:362)付きチップ(1.7×17mm、厚さ:0.5mm)と、Al回路付きガラス基板(厚さ:0.7mm)との接続を、以下に示す手順で行った。まず、上記異方導電性フィルム(2×19mm)をAl回路付きガラス基板に、80℃、0.98MPa(10kgf/cm)の条件で加熱及び加圧することで貼り付けた後、異方導電性フィルムからセパレータを剥離し、チップの金バンプとAl回路との位置合わせを行った。
【0073】
次いで、190℃、40g/バンプ、10秒間の条件で、チップ上方から加熱及び加圧を行い、本接続を行った。これにより、回路部材の接続構造を作製した。得られた回路部材の接続構造において、接続抵抗は、1バンプ当たり最高で100mΩ、平均で30mΩであり、隣接するバンプ間の絶縁抵抗は全て1×10Ω以上であった。また、これらの値は、−40℃で30分間保持した後に100℃まで昇温して100℃で30分間保持する熱衝撃試験を1000サイクル行なった後でも変化がなく、良好な長期接続信頼性を示すことが確認された。
【0074】
[比較例1]
被覆粒子に代えて、絶縁性材料で表面を被覆していない実施例1と同じ金属膜被覆導電樹脂粒子を導電粒子として用いたこと以外は実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製した。
【0075】
次に、作製した異方導電性フィルムを用いて、金バンプ(面積:40×90μm、スペース:10μm、高さ:15μm、バンプ数:362)付きチップ(1.7×17mm、厚さ:0.5mm)と、Al回路付きガラス基板(厚さ:0.7mm)との接続を、以下に示す手順で行った。
【0076】
まず、異方導電性フィルム(2×19mm)をAl回路付きガラス基板に、80℃、0.98MPa(10kgf/cm)の条件で加熱及び加圧することで貼り付けた後、異方導電性フィルムからセパレータを剥離し、チップの金バンプとAl回路との位置合わせを行った。
【0077】
次いで、190℃、40g/バンプ、10秒間の条件で、チップ上方から加熱及び加圧を行い、本接続を行った。これにより、回路部材の接続構造を作製した。得られた回路部材の接続構造において、接続抵抗は、1バンプ当たり最高で130mΩ、平均で80mΩであったが、隣接するバンプ間の絶縁性が十分に確保されず、一部のバンプ間で導電粒子の凝集に伴うショートが発生した。
【0078】
[比較例2]
被覆粒子の作製において、極性基を有する化合物の溶液(メルカプト酢酸メタノール溶液)中で攪拌する工程を除いた以外は実施例1と同様にして、導電粒子の表面に、絶縁性材料として、ポリエチレンイミンと平均粒子径130nmのコロイダルシリカとが順次に吸着されてなる被覆粒子を得た。得られた被覆粒子では、シリカ粒子の脱落が観察された。
【0079】
[比較例3]
被覆粒子の作製において、ポリエチレンイミン溶液中で攪拌する工程を除いた以外は実施例1と同様にして、導電粒子の表面に、極性基としてカルボキシル基が導入され、絶縁性材料として平均粒子径130nmのコロイダルシリカが吸着されてなる被覆粒子を得た。得られた被覆粒子では、シリカ粒子の脱落が観察された。
【0080】
[比較例4]
被覆粒子の作製において、極性基を有する化合物の溶液(メルカプト酢酸メタノール溶液)中で攪拌する工程、及び、ポリエチレンイミン溶液中で攪拌する工程を除いた以外は実施例1と同様にして、導電粒子の表面に、絶縁性材料として平均粒子径130nmのコロイダルシリカが吸着されてなる被覆粒子を得た。得られた被覆粒子では、シリカ粒子の脱落が観察された。
【0081】
本発明の異方導電性接着剤組成物によれば、極性基含有導電粒子の表面が均一に高分子電解質薄膜及び無機酸化物微粒子により被覆された被覆粒子を用いているため、隣接する電極間のスペースが15μm以下の狭スペースにおいて被覆粒子が凝集しても、高分子電解質と無機酸化物微粒子を含む絶縁性皮膜によって導電粒子間のショート発生が抑制でき、狭ピッチ接続性を向上させることができる。また、フィルム状の接着剤では、取り扱い性にも優れている。
【0082】
したがって、本発明の異方導電性接着剤組成物は、LCD、プラズマディスプレイや有機ELパネルとTABまたはFPC、TABとFPC、LCD、プラズマディスプレイや有機ELパネルとICチップ、ICチップとプリント基板とを接続時の加圧方向にのみ電気的に接続するために好適に用いることができ接続信頼性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】被覆粒子の一例を模式的に示す外観図である。
【図2】本発明の異方導電性フィルムの好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明の回路部材の接続構造の好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1…被覆粒子、2…接着剤、4…高分子電解質、6…無機酸化物微粒子、7…絶縁性材料、8…極性基含有導電粒子、10…第一の回路部材、11…第一の基板、12…第一の回路電極、20…第二の回路部材、21…第二の基板、22…第二の回路電極、100…異方導電性フィルム、100a…回路接続部材、200…回路部材の接続構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、前記第一の回路電極及び前記第二の回路電極を対向配置させた状態で接続するための異方導電性接着剤組成物であって、
(A)接着剤と、
(B)表面の少なくとも一部に極性基を有する極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部が、前記極性基と吸着可能な高分子電解質と、前記高分子電解質と吸着可能な無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料で被覆されてなる被覆粒子と、
を含有する、異方導電性接着剤組成物。
【請求項2】
前記(B)被覆粒子が、前記極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部に、前記高分子電解質と前記無機酸化物微粒子とが順次に静電的に吸着されてなるものである、請求項1に記載の異方導電性接着剤組成物。
【請求項3】
前記無機酸化物微粒子が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニオブ、亜鉛、錫、セリウム及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物からなるものである、請求項1又は2に記載の異方導電性接着剤組成物。
【請求項4】
前記無機酸化物微粒子の平均粒子径が、20〜500nmの範囲内である、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の異方導電性接着剤組成物。
【請求項5】
前記高分子電解質が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン及びハロゲン化物イオンを含まないものである、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の異方導電性接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の異方導電性接着剤組成物をフィルム状に形成してなる、異方導電性フィルム。
【請求項7】
第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、
第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とが、
前記第一及び第二の回路部材の間に設けられた、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の異方導電性接着剤組成物の硬化物からなる回路接続部材によって、前記第一の回路電極と前記第二の回路電極とが対峙するとともに電気的に接続されるように接続された、回路部材の接続構造。
【請求項8】
前記第一の回路部材において、前記第一の基板がガラス基板であり、且つ、前記第一の回路電極が金属電極回路であり、
前記第二の回路部材において、前記第二の基板が有機質絶縁基板である、請求項7に記載の回路部材の接続構造。
【請求項9】
前記第一の回路部材において、前記第一の基板が半導体チップであり、
前記第二の回路部材において、前記第二の基板がガラス基板であり、且つ、前記第二の回路電極が金属電極回路である、請求項7に記載の回路部材の接続構造。
【請求項10】
表面の少なくとも一部に極性基を有する極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部が、前記極性基と吸着可能な高分子電解質と、前記高分子電解質と吸着可能な無機酸化物微粒子とを含む絶縁性材料で被覆されてなる被覆粒子の製造方法であって、
導電粒子を、前記極性基を有する化合物を含む溶液に分散させ、前記導電粒子の表面の少なくとも一部に前記極性基を導入した後、洗浄して前記極性基含有導電粒子を得る第1のステップと、
前記極性基含有導電粒子を、前記高分子電解質を含む溶液に分散させ、前記極性基含有導電粒子の表面の少なくとも一部に前記高分子電解質を吸着させた後、洗浄する第2のステップと、
前記高分子電解質を吸着させた前記極性基含有導電粒子を、前記無機酸化物微粒子を含む分散液に分散させ、前記極性基含有導電粒子及び前記高分子電解質の表面の少なくとも一部に前記無機酸化物微粒子を吸着させた後、洗浄する第3のステップと、
を有する吸着工程を含む、被覆粒子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−120990(P2008−120990A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160585(P2007−160585)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】