説明

発光素子、発光素子ユニット、発光素子パッケージおよび発光素子の製造方法

【課題】放熱効率および光の取り出し効率の向上を図ることができる発光素子、これを含む発光素子ユニット、発光素子ユニットを樹脂パッケージで覆った発光素子パッケージならびに発光素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】発光素子1は、発光層4の発光波長に対して透明な基板2と、基板2上に積層されたn型窒化物半導体層3と、n型窒化物半導体層3上に積層された発光層4と、発光層4上に積層されたp型窒化物半導体層5と、p型窒化物半導体層5上に積層され、発光層4の発光波長に対して透明な透明電極層6と、銀と白金族金属と銅とを含む合金からなり、透明電極層6に接触した状態で透明電極層6上に積層され、透明電極層6を透過した光を反射させる反射電極層7とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光素子、これを含む発光素子ユニット、発光素子ユニットを樹脂パッケージで覆った発光素子パッケージおよび発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1つの先行技術に係る半導体発光素子は、特許文献1に開示されている。この半導体発光素子では、光が取り出されるサファイア基板上に、n−GaN層、発光層、p−GaN層、透明電極、絶縁層、バリア層、AuSn層が、サファイア基板側からこの順番で積層されている。AuSn層は、配線基板に接合される。透明電極とバリア層とは、絶縁層の側方に配置されたp電極によって直接接続されている。絶縁層中には、金属反射層が埋設されていて、金属反射層は、透明電極との間で、絶縁層(透明電極側の絶縁層)を挟んでいる。
【0003】
発光層が発光すると、大部分の光は、サファイア基板から取り出されるが、一部の光は、サファイア基板でなく、透明電極側へ向かう。透明電極側へ向かった光は、透明電極を透過した後に、金属反射層と絶縁層との界面で反射し、透明電極を経て、サファイア基板から取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−263130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の半導体発光素子のように透明電極と金属反射層との間に絶縁層を挟んで金属反射層と絶縁層との界面で光を反射させる構成では、透明電極と金属反射層とを直接接触させて透明電極と金属反射層との界面で光を反射させる構成に比べて、光の反射率が良好である。
しかし、絶縁層を備えると、下記の問題が発生し得る。
【0006】
1つ目の問題は、放熱対策上の不利である。すなわち、金属反射層と透明電極との間に絶縁層が存在するので、発光層が発光することによって発生した熱を、透明電極から金属反射層、バリア層およびAuSn層を介して配線基板側へ効率的に放熱させることが困難である。また、絶縁層中に金属反射層が埋設されているので、絶縁層中で金属反射層が存在する領域と存在しない領域とでは表面に凹凸が発生する。この凹凸に起因して、AuSn層の表面が平坦でなくなるから、AuSn層と配線基板との接合面積が減少し、AuSn層から配線基板への放熱効率が低下する。
【0007】
2つ目の問題は、金属反射層での反射効率が不充分であり、それによって光の取り出し効率が不充分であることである。すなわち、絶縁層が存在するので、透明電極とバリア層とを電気的に接続するp電極が、絶縁層を避けるように絶縁層の側方に設けられている。したがって、p電極を配置する領域を確保しなければならないから、それに応じて、絶縁層中の金属反射層が小さくなる。これにより、金属反射層の反射面積が小さくなるので、発光層から透明電極(金属反射層)側へ向かった光を金属反射層で効率的に反射させることが困難になる。さらに、発光層から透明電極を透過した光の一部は、絶縁層における前述した凹凸の影響で、金属反射層に入射しなくなるおそれがある。これにより、金属反射層での光の反射効率の低下が生じ得る。そして、金属反射層での光の反射効率が低いと、サファイア基板からの光の取り出し効率の向上を図ることが困難になる。
【0008】
そこで、この発明は、放熱効率および光の取り出し効率の向上を図ることができる発光素子、これを含む発光素子ユニット、発光素子ユニットを樹脂パッケージで覆った発光素子パッケージならびに発光素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の発光素子は、発光層の発光波長に対して透明な基板と、前記基板上に積層されたn型窒化物半導体層と、前記n型窒化物半導体層上に積層された前記発光層と、前記発光層上に積層されたp型窒化物半導体層と、前記p型窒化物半導体層上に積層され、前記発光層の発光波長に対して透明な透明電極層と、銀と白金族金属と銅とを含む合金からなり、前記透明電極層に接触した状態で前記透明電極層上に積層され、前記透明電極層を透過した光を反射させる反射電極層とを含む(請求項1)。
【0010】
「発光波長に対して透明」とは、具体的には、たとえば、発光波長の透過率が60%以上の場合をいう。
この構成によれば、発光層が発光すると、ほとんどの光は、n型窒化物半導体層を透過して基板から取り出されるが、一部の光は、p型窒化物半導体層および透明電極層を順に透過してから透明電極層と反射電極層との界面で反射され、その後、基板から取り出される。
【0011】
銀と白金族金属と銅とを含む合金からなる反射電極層と透明電極層との界面では、透明電極層と反射電極層との間に絶縁層を挟んだ場合における絶縁層と反射電極層との界面と同等程度に、光を良好に反射できる。
また、反射電極層が透明電極層に接触した状態で透明電極層上に積層されているから、発光層が発光することによって発生した熱を、透明電極層から反射電極層に直接伝えて、反射電極層から発光素子の外部へ効率的に放熱することができる。
【0012】
よって、放熱効率および光の取り出し効率の向上を図ることができる。
前記反射電極層は、前記透明電極層と同一パターンで前記透明電極層上に積層され、前記反射電極層において前記透明電極層に対向する対向面の全域が前記透明電極層に接触していることが好ましい(請求項2)。
この構成によれば、反射電極層と、透明電極層と、これらの接触部分とは、積層方向(基板の厚さ方向)から見て、完全に重なっている。つまり、反射電極層および透明電極層において、互いに重なっていない部分が存在しない。そのため、反射電極層および透明電極層には、互いに重なっていない部分に起因する凹凸が存在しない。
【0013】
これにより、発光層から透明電極層を透過した光を、透明電極層と反射電極層との界面に確実に入射させて、この界面で効率的に反射させることができる。また、積層方向から見て、反射電極層と透明電極層とが同じ大きさなので、透明電極層と反射電極層との界面(反射面)を最大限の大きさにして、透明電極層を透過した光を当該界面で効率的に反射させることができる。これらの結果、光の取り出し効率の一層の向上を図ることができる。
【0014】
また、前述した凹凸が存在しないので、発光素子における外部の配線素子との接合面を平坦にして、発光素子と配線素子との接合面積を大きく確保できるので、発光素子から配線素子への放熱効率の一層の向上を図ることができる。
前記透明電極層と前記反射電極層との間に絶縁層が存在しないことが好ましい(請求項3)。
【0015】
この構成によれば、絶縁層が存在しなくても、前記合金からなる反射電極層によって、反射電極層と透明電極層との界面で光を良好に反射させることができる。そして、絶縁層が存在しないことから、絶縁層に起因する放熱効率および光の取り出し効率の低下を防ぐことができる。
前記発光波長は、450nmであることが好ましい(請求項4)。前記白金族金属は、白金またはパラジウムであることが好ましい(請求項5および6)。前記基板は、GaNまたはSiCからなることが好ましい(請求項7)。
【0016】
前記基板における前記n型窒化物半導体層との接合面には、複数の凸部が形成されていることが好ましい(請求項8)。
この構成によれば、n型窒化物半導体層から基板へ向かう光が前記接合面でn型窒化物半導体層側へ反射することを抑制できるので、その分、光の取り出し効率の向上を図ることができる。
【0017】
複数の前記凸部は、離散配置されていることが好ましい(請求項9)。この場合、複数の前記凸部は、行列状に配置されていてもよく(請求項10)、千鳥状に配置されていてもよい(請求項11)。
前記透明電極層は、ZnOまたはITOからなることが好ましい(請求項12)。前記発光層は、Inを含むことが好ましい(請求項13)。
【0018】
この発明の発光素子は、銀、半田またはAuSnからなり、前記反射電極層上に積層された接合層を含んでいることが好ましい(請求項14)。これにより、発光素子と、前記接合層に接合された配線素子とを含む発光素子ユニットを構成し、配線素子から発光素子に電圧を印加できる(請求項15)。
前記発光素子は、前記配線素子と前記n型窒化物半導体層とをつなぐn型電極層を含んでいることが好ましい(請求項16)。この構成によれば、n型電極層と反射電極層との間に電圧が印加されることで、発光層から光が発生する。
【0019】
発光素子は、前記n型電極層と前記反射電極層とを分離絶縁する分離絶縁層を含んでいることが好ましい(請求項17)。
そして、発光素子ユニットと、前記発光素子ユニットを覆う樹脂パッケージとを含む発光素子パッケージを構成することができる(請求項18)。
この発明の発光素子の製造方法は、発光層の発光波長に対して透明な基板上にn型窒化物半導体層を積層する工程と、前記n型窒化物半導体層上に前記発光層を積層する工程と、前記発光層上にp型窒化物半導体層を積層する工程と、前記p型窒化物半導体層上に、前記発光層の発光波長に対して透明な透明電極層を積層する工程と、銀と白金族金属と銅とを含む合金からなり、前記透明電極層を透過した光を反射させる反射電極層を、前記透明電極層に接触するように前記透明電極層上に積層する工程とを含む(請求項19)。前記反射電極層を前記透明電極層上に積層する工程は、前記反射電極層において前記透明電極層に対向する対向面の全域が前記透明電極層に接触するように、前記反射電極層を、前記透明電極層と同一パターンで前記透明電極層上に積層する工程を含むことが好ましい(請求項20)。
【0020】
この方法により、前述の構造の発光素子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る発光素子の構造を図解的に示す断面図である。
【図2】図2は、発光素子の模式的な平面図である。
【図3】図3は、発光素子の模式的な斜視図である。
【図4A】図4Aは、基板の構造例を示す模式的な斜視図である。
【図4B】図4Bは、基板の構造例を示す模式的な斜視図である。
【図5A】図5Aは、図1に示す発光素子の製造方法を示す図解的な断面図である。
【図5B】図5Bは、図5Aの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図5C】図5Cは、図5Bの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図5D】図5Dは、図5Cの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図5E】図5Eは、図5Dの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図5F】図5Fは、図5Eの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図5G】図5Gは、図5Fの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図6】図6は、配線素子の構造を図解的に示す断面図である。
【図7】図7は、配線素子の模式的な平面図である。
【図8】図8は、発光素子パッケージの構造を図解的に示す断面図である。
【図9】図9は、配線素子の模式的な平面図であって、配線素子と発光素子との接合状態を示している。
【図10】図10は、発光素子パッケージの模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る発光素子の構造を図解的に示す断面図である。図2は、発光素子の模式的な平面図である。図3は、発光素子の模式的な斜視図である。
この発光素子1は、基板2と、n型窒化物半導体層3と、発光層4と、p型窒化物半導体層5と、透明電極層6と、反射電極層7と、n型電極層8(中継電極層)と、分離絶縁層9と、接合層10とを備えている。
【0023】
基板2上に、n型窒化物半導体層3、発光層4、p型窒化物半導体層5、透明電極層6、反射電極層7、n型電極層8、分離絶縁層9および接合層10が形成されている。
基板2は、発光層4の発光波長(たとえば450nm)に対して透明な材料(たとえばサファイア、GaNまたはSiC)からなる。基板2の厚さは、たとえば、300μmである。基板2では、図1における下面が表面2Aであり、図1における上面が裏面2Bである。表面2Aは、光が取り出される光取出し面である。裏面2Bは、基板2におけるn型窒化物半導体層3との接合面である。
【0024】
n型窒化物半導体層3は、基板2上に積層されている。n型窒化物半導体層3は、基板2の裏面2Bの全域を覆っている。n型窒化物半導体層3は、n型のGaNからなり、発光層4の発光波長に対して透明である。n型窒化物半導体層3について、図1において基板2の裏面2Bを覆う下面を表面3Aといい、表面3Aとは反対側の上面を裏面3Bということにする。裏面3Bでは、図1における左側の領域が部分的に突出しており、これにより、裏面3Bには、段差が形成されている。
【0025】
発光層4は、n型窒化物半導体層3上に積層されている。発光層4の積層構造は、ドライエッチング法によって形成される。発光層4は、n型窒化物半導体層3の裏面3Bにおいて、図1における左寄りの突出した領域を部分的に覆っている。発光層4は、Inを含む窒化物半導体(たとえばInGaN)からなる。発光層4について、図1においてn型窒化物半導体層3の裏面3Bの左寄りの領域を覆う下面を表面4Aといい、表面4Aとは反対側の上面を裏面4Bということにする。
【0026】
p型窒化物半導体層5は、発光層4上に積層されている。p型窒化物半導体層5は、発光層4の裏面4Bの全域を覆っている。p型窒化物半導体層5の積層構造は、発光層4の積層構造と併せて、ドライエッチング法によって形成される。p型窒化物半導体層5は、p型のGaNからなり、発光層4の発光波長に対して透明である。n型窒化物半導体層3、発光層4およびp型窒化物半導体層5の全体の厚さは、最大で、たとえば6.5μmである。p型窒化物半導体層5について、図1において発光層4の裏面4Bを覆う下面を表面5Aといい、表面5Aとは反対側の上面を裏面5Bということにする。
【0027】
透明電極層6は、p型窒化物半導体層5上に積層されている。透明電極層6は、p型窒化物半導体層5の裏面5Bのほぼ全域を覆っている。透明電極層6の積層構造は、たとえばリフトオフ法によって形成される。透明電極層6は、ZnO(酸化亜鉛)またはITO(酸化インジウム錫)からなり、発光層4の発光波長に対して透明である。この実施形態では、透明電極層6は、ITOからなる。透明電極層6の厚さは、たとえば1750Åである。透明電極層6において、図1においてp型窒化物半導体層5の裏面5Bを覆う下面を表面6Aといい、表面6Aとは反対側の上面を裏面6Bということにする。
【0028】
反射電極層7は、透明電極層6と同一パターンで透明電極層6上に積層されている。反射電極層7は、図1における透明電極層6の裏面6Bの全域を、裏面6Bからはみ出ることなく覆っている。反射電極層7において、図1での透明電極層6の裏面6Bを覆う下面を表面7Aといい、表面7Aとは反対側の上面を裏面7Bということにする。反射電極層7では、表面7Aが透明電極層6の裏面6Bに対向する対向面であり、表面7Aの全域が透明電極層6の裏面6Bに接触(面接触)している。そのため、透明電極層6と反射電極層7との間には、他のもの(たとえば絶縁層)は存在しない。
【0029】
反射電極層7は、銀と白金族金属と銅とを含む合金からなる。当該白金族金属として、白金やパラジウムを用いる事ができる。各金属の配合比率は、銀が98%程度であり、白金族金属および銅のそれぞれが1%程度である。反射電極層7の厚さは、たとえば50nm〜500nmであり、好ましくは、350nmである。
n型電極層8は、n型窒化物半導体層3の裏面3Bにおいて図1における右側領域に形成されている。n型電極層8は、n型窒化物半導体層3の裏面3Bにおいて、前述した段差を形成するために表面3A側へ一段低くなった部分に形成されている。n型電極層8は、AlやCrからなる。この実施形態では、Alをn型窒化物半導体層3に接するように形成し、そのAl上にCrを形成することでn型電極層8を構成している。n型電極層8の厚さは、たとえば約26000Åである。n型電極層8において、図1でのn型窒化物半導体層3の裏面3Bと接する面を表面8Aといい、表面8Aとは反対側の面を裏面8Bということにする。
【0030】
n型窒化物半導体層3、発光層4、p型窒化物半導体層5、透明電極層6および反射電極層7のそれぞれの側面は、たとえばSiOからなる分離絶縁層9によって覆われている。これにより、発光層4、p型窒化物半導体層5、透明電極層6および反射電極層7と、n型電極層8とが分離絶縁されている。分離絶縁層9では、SiOの代わりに、SiNやAlNやAlやSiONなども代用できる。分離絶縁層9の厚みは500Å〜50000Åであり、たとえば1000Åである。なお、図2および図3では、分離絶縁層9の図示が省略されている。
【0031】
接合層10は、反射電極層7上およびn型電極層8上に積層されている。接合層10は、たとえば、Ag、TiもしくはPtまたはこれらの合金からなる。接合層10は、半田またはAuSnからなってもよい。さらに、接合層10からの反射電極層7やn型電極層8への拡散を抑えるために、接合層10にPtなどを挿入しても良い。この実施形態では、接合層10は、Ti、Pt、AuSnを反射電極層7およびn型電極層8の側からこの順番で積層することによって構成されている。接合層10において、図1で反射電極層7やn型電極層8と接する下面を表面10Aといい、表面10Aとは反対側の上面を裏面10Bということにする。
【0032】
また、反射電極層7に接する接合層10の裏面10Bを、p型電極部12といい、n型電極層8に接する接合層10の裏面10Bを、n型電極部13という。p型電極部12とn型電極部13とはいずれも平坦面であり、同じ高さ位置において面一になっている(図3も参照)。前述したように分離絶縁層9によって反射電極層7とn型電極層8とが分離絶縁されているので、反射電極層7上の接合層10のp型電極部12と、n型電極層8上の接合層10のp型電極部12とは、分離絶縁層9によって分離絶縁されている。
【0033】
平面視において、p型窒化物半導体層5、透明電極層6、反射電極層7、および、p型電極部12における接合層10のそれぞれは、たとえば、略E字形状であり、n型電極層8、および、n型電極部13における接合層10のそれぞれは、略I字形状である(図2参照)。また、n型電極層8は、p型窒化物半導体層5、透明電極層6、反射電極層7および接合層10(p型電極部12)のそれぞれのE字形状における2つの隙間に入り込む延設部8Cを有している(図2および図3参照)。
【0034】
この発光素子1では、p型電極部12とn型電極部13との間に順方向電圧を印加すると、発光層4から、波長440nm〜460nmの光が発生する。この光は、n型窒化物半導体層3および基板2をこの順で透過して基板2の表面2Aから取り出される。発光層4からp型窒化物半導体層5側に向かった光は、p型窒化物半導体層5および透明電極層6をこの順で透過して、透明電極層6と反射電極層7との界面で反射される。反射した光は、透明電極層6、p型窒化物半導体層5、発光層4、n型窒化物半導体層3および基板2をこの順で透過して基板2の表面2Aから取り出される。
【0035】
基板2の裏面2Bには、n型窒化物半導体層3側へ突出する凸部11が複数形成されている。
図4Aおよび図4Bは、基板の構造例を示す模式的な斜視図である。
複数の凸部11は、離散配置されている。具体的には、複数の凸部11は、互いに間隔を空けて行列状に配置されていてもよいし(図4A参照)、千鳥状に配置されていてもよい(図4B参照)。各凸部11は、SiNで形成されている。
【0036】
凸部11が形成されるとともに、各凸部11がSiNで形成されていることによって、様々な角度から入射される光が基板2の裏面2Bで全反射することを抑制する効果が得られる。これにより、n型窒化物半導体層3から基板2へ向かう光が、n型窒化物半導体層3と基板2との界面においてn型窒化物半導体層3側へ反射することが抑制される。すなわち、光の取り出し効率が向上する。
【0037】
図5A〜図5Hは、図1に示す発光素子の製造方法を示す図解的な断面図である。
まず、図5Aに示すように、基板2を作製する。
次いで、基板2の裏面2Bに、SiNからなる層(SiN層)を形成し、レジストパターン(図示せず)をマスクとするエッチングにより、このSiN層を、図5Bに示すように、複数の凸部11に分離する。
【0038】
次いで、基板2の裏面2B上に、n型のGaNからなる層(n−GaN層)を形成する。n−GaN層は、n型窒化物半導体層3となって基板2上に積層され、全ての凸部11を覆う。
次いで、図5Cに示すように、n型窒化物半導体層3の裏面3B上に、Inを含む窒化物半導体層(たとえばInGa1−XN層)を形成する。この層が、n型窒化物半導体層3上に積層される発光層4になる。発光層4における発光の波長は、InおよびGaの組成を調整することで、440nm〜460nmに制御される。
【0039】
次いで、発光層4の裏面4B上に、p型窒化物半導体層5として、p型のGaNからなる層(p−GaN層)を形成する。p型窒化物半導体層5を、Alを混入させたp−AlGaN層や、p−GaN層とp―AlGaN層との積層構造にしても構わない。
次いで、レジストパターン(図示せず)をマスクとしたリフトオフ法を用いて、図5Dに示すように、たとえば、ITOからなる層(ITO層)をp型窒化物半導体層5の裏面5B上に選択的に形成する。このITO層が透明電極層6になる。透明電極層6を形成する際、p型窒化物半導体層5と透明電極層6との電気的接合性および密着性を良好にするために熱処理を加えても良く、その場合、たとえば500〜700℃の温度で熱処理する。
【0040】
次いで、透明電極層6の裏面6Bおよびp型窒化物半導体層5の裏面5Bの上に、全面に亘って、銀と白金族金属と銅とを含む合金の層(合金層)を形成し、この合金層に対して、レジストパターン(図示せず)をマスクとするエッチングを施すことで、図5Dに示すように、透明電極層6上に、透明電極層6と同一パターンで反射電極層7を形成する。
次いで、レジストパターン(図示せず)をマスクとするエッチングにより、図5Eに示すように、p型窒化物半導体層5、発光層4およびn型窒化物半導体層3のそれぞれを選択的に除去する。
【0041】
次いで、図5Fに示すように、レジストパターン(図示せず)によるリフトオフ法によってn型窒化物半導体層3の裏面3B上にn型電極層8を形成する。n型電極層8としては、Alや、TiとAlとの積層構造等を用いることができる。n型電極層8を形成する際、n型電極層8とn型窒化物半導体層3との密着性や電気的接合性を向上させるために熱処理を施しても良い。
【0042】
次いで、図5Gに示すように、SiOからなる分離絶縁層9を形成する。分離絶縁層9は、n型窒化物半導体層3の裏面3Bにおいてp型電極部12(図1参照)に近い領域の一部と、発光層4、p型窒化物半導体層5、透明電極層6および反射電極層7のそれぞれの側面と、反射電極層7の裏面7Bの一部とを覆うように形成される。分離絶縁層9の形成方法は、レジストパターン(図示せず)によるリフトオフ法でも、エッチオフ法でもよい。分離絶縁層9としては、SiO以外に、SiNやAlN、Al、SiONなどを用いることができる。
【0043】
次いで、レジストパターン(図示せず)によるリフトオフ法により、接合層10を、反射電極層7の裏面7B上と、n型電極層8の裏面8B上とに形成する。本実施形態では、接合層10として、AuSnからなる層(AuSn層)を用いている。さらに、このAuSn層の拡散から反射電極層7およびn型電極層8を保護するために、接合層10にPtを挿入している。また、接合層10では、反射電極層7およびn型電極層8との密着性を良くするために、Tiを用いている。そのため、本実施形態の接合層10では、Ti、PtおよびAuSnが、反射電極層7およびn型電極層8側からこの順番で積層されている。
【0044】
ここまでの工程により、図1の構造が形成される。
ここまででは、半導体ウエハ工程を図解説明したが、この工程以後に、研削・研磨工程によってウエハの厚みをたとえば300μmに調整し、素子分離工程(スクライブ・ブレーキング)によってウエハ状態からチップ状態へと加工すると、最終的に図1の発光素子1が個別に得られる。
【0045】
図6は、配線素子の構造を図解的に示す断面図である。発光素子1は、接合層10によって配線素子20に接合される。
図6を参照して、配線素子20は、ベース基板21と、絶縁層22と、電極層23と、接合層24とを備えている。
ベース基板21はたとえばSiからなり、その厚さは、たとえば130μmである。絶縁層22は、たとえばSiOからなり、ベース基板21の表面(図6における上面)の全域を覆っている。絶縁層22の厚さは、たとえば1000Åである。
【0046】
電極層23は、たとえばAlからなり、厚さはたとえば25000Åである。電極層23は、ここでは、絶縁層22上の2箇所に設けられ、図6では、左右に隔てた状態で絶縁層22上に2つ形成されている。
接合層24は各電極層23上に積層されている。接合層24は、ベース基板21側のTi層25と、Ti層25上に積層されたAu層26とを含む2層構造である。Ti層25は、Tiからなり、その厚さは、たとえば1000Åである。Au層26は、Auからなり、その厚さは、たとえば10000Åである。接合層24において電極層23に接触している面とは反対側の面(図6における上面)が、表面24Aとされる。表面24Aは、平坦面である。
【0047】
図7は、配線素子の模式的な平面図である。
図7に示すように、平面視において、接合層24全体は、p型電極部12と同形状の略E字形状と、n型電極部13と同形状の略I字形状とを合わせた形状を有している(図2も参照)。
図8は、発光素子パッケージの構造を図解的に示す断面図である。図9は、配線素子の模式的な平面図であって、配線素子と発光素子との接合状態を示している。図10は、発光素子パッケージの模式的な斜視図である。発光素子パッケージ50は、発光素子ユニット30とリードフレーム31と樹脂パッケージ40とを含んでいる。
【0048】
配線素子20を、図6に示すように、接合層24の表面24Aが上を向くような姿勢にする。また、図1に示す発光素子1を、接合層10の裏面10B(p型電極部12およびn型電極部13)が下を向くような姿勢(図1とは上下が逆の姿勢)にし、図6の姿勢にある配線素子20に対して上から対向させる。
発光素子1を配線素子20に接近させると、図8に示すように、接合層10の裏面10Bと接合層24の表面24Aが面接触する。具体的には、接合層10において、p型電極部12が、図8における左側の接合層24の表面24Aに対して面接触し、n型電極部13が、図8における右側の接合層24の表面24Aに対して面接触する。そして、この状態で熱処理工程を施し、接合層10と接合層24とを融解・固着させて接合する。その結果、発光素子1と配線素子20とが一体化されて発光素子ユニット30となる。
【0049】
完成した発光素子ユニット30では、図9においてハッチングを付して示すように、接合層10の裏面10Bと接合層24の表面24Aとが重なって接合されている。接合層10の裏面10Bと接合層24の表面24Aとは平坦かつ面一であるため、接合層10の裏面10Bと接合層24の表面24Aとにおいて接合されていない部分が生じることはない。よって、接合層10の裏面10Bと接合層24の表面24Aとは全面接合されている。この接合により、接合層10と接合層24とは、電気的にも接合される。また、この状態で、n型電極層8は、配線素子20とn型窒化物半導体層3とを電気的につないでいる(図8参照)。
【0050】
図8を参照して、発光素子ユニット30は、リードフレーム31に接合されている。リードフレーム31は、発光素子ユニット30を支持する絶縁基板32と、絶縁基板32の両端から露出するように設けられて、発光素子1と外部とを電気的に接続する金属製の一対のリード33とを有している。
図8の姿勢を基準として、発光素子ユニット30では、発光素子1の基板2が一番上に位置して配線素子20のベース基板21が一番下に位置した状態で、ベース基板21が絶縁基板32に上から接合されている。そして、p型電極部12に接続された接合層24が積層された電極層23(図8における左側の電極層23)と、この電極層23側のリード33とが、ボンディングワイヤ34によって接続されている。また、n型電極部13に接続された接合層24が積層された電極層23(図8における右側の電極層23)と、この電極層23側のリード33とが、ボンディングワイヤ34によって接続されている。
【0051】
樹脂パッケージ40は、樹脂が充填されたリング状のケースであり、その内側に発光素子ユニット30を収容して(覆って)保護した状態で、リードフレーム31に固定されている。樹脂パッケージ40は、発光素子ユニット30の発光素子1から出射された光を反射させて外部へ取り出す。
樹脂パッケージ40を構成する樹脂には、蛍光体や反射剤が含有されているものがある。例えば発光素子1が青色光を発光する場合、当該樹脂に黄色蛍光体を含有させることで発光素子パッケージ50は白色光を発光することができる。発光素子パッケージ50は、多数が集まることによって、電球などの照明機材に用いることもでき、また液晶テレビのバックライトや自動車等のヘッドランプに用いることもできる。
【0052】
図1を参照して、以上のように、この発光素子1では、発光層4が発光すると、ほとんどの光は、n型窒化物半導体層3を透過して基板2から取り出されるが、一部の光は、p型窒化物半導体層5および透明電極層6を順に透過してから透明電極層6と反射電極層7との界面で反射され、その後、基板2から取り出される。
銀と白金族金属と銅とを含む合金からなる反射電極層7と透明電極層6との界面では、透明電極層6と反射電極層7との間に絶縁層(図示せず)を挟んだ場合における絶縁層と反射電極層7との界面と同等程度に、光を良好に反射できる。
【0053】
また、反射電極層7が透明電極層6に接触した状態で透明電極層6上に積層されているから、発光層4が発光することによって発生した熱を、透明電極層6から反射電極層7に直接伝えて、反射電極層7から発光素子1の外部(配線素子20)へ効率的に放熱することができる。
よって、放熱効率および光の取り出し効率の向上を図ることができる。
【0054】
また、反射電極層7は、透明電極層6と同一パターンで透明電極層6上に積層され、反射電極層7において透明電極層6に対向する表面7Aの全域が透明電極層6の裏面6Bに接触している。そのため、反射電極層7の表面7Aと透明電極層6の裏面6Bとは完全に重なっており、反射電極層7および透明電極層6には、互いに重なっていない部分に起因する凹凸が存在しない。
【0055】
これにより、発光層4から透明電極層6を透過した光を、凹凸に邪魔されることなく、透明電極層6と反射電極層7との界面で効率的に反射させて取り出すことができる。また、積層方向から見て、反射電極層7と透明電極層6とが同一パターンであるので、透明電極層6と反射電極層7との界面の面積を最大限の大きさにして、反射電極層7を透過した光を界面で効率的に反射させることができる。これらの結果、光の取り出し効率の一層の向上を図ることができる。
【0056】
また、前述した凹凸が存在しないので、発光素子1における外部の配線素子20との接合面(接合層10の裏面10B)を平坦にして、発光素子1と配線素子20との接合面積を大きく確保できる。この接合面積とは、接合層10の裏面10Bと配線素子20側の接合層24の表面24Aとの接合面積である(図9参照)。この接合面積を大きく確保できるので、発光素子1から配線素子20への放熱効率の一層の向上を図ることができる。
【0057】
また、透明電極層6と反射電極層7との間に絶縁層が存在しない。絶縁層が存在しなくても、前述した合金からなる反射電極層7によって、反射電極層7と透明電極層6との界面で光を良好に反射させることができる。そして、絶縁層が存在しないことから、絶縁層に起因する放熱効率および光の取り出し効率の低下を防ぐことができる。
また、基板2の裏面2Bには、複数の凸部11が形成されているから、n型窒化物半導体層3から基板2へ向かう光が基板2の裏面2Bでn型窒化物半導体層3側へ反射することを抑制できるので、その分、光の取り出し効率の向上を図ることができる。
【0058】
以上の他にも、この発明は、様々な形態での実施が可能であり、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 発光素子
2 基板
2B 裏面
3 n型窒化物半導体層
4 発光層
5 p型窒化物半導体層
6 透明電極層
7 反射電極層
7A 表面
8 n型電極層
9 分離絶縁層
10 接合層
11 凸部
20 配線素子
30 発光素子ユニット
40 樹脂パッケージ
50 発光素子パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層の発光波長に対して透明な基板と、
前記基板上に積層されたn型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層上に積層された前記発光層と、
前記発光層上に積層されたp型窒化物半導体層と、
前記p型窒化物半導体層上に積層され、前記発光層の発光波長に対して透明な透明電極層と、
銀と白金族金属と銅とを含む合金からなり、前記透明電極層に接触した状態で前記透明電極層上に積層され、前記透明電極層を透過した光を反射させる反射電極層とを含む、発光素子。
【請求項2】
前記反射電極層は、前記透明電極層と同一パターンで前記透明電極層上に積層され、前記反射電極層において前記透明電極層に対向する対向面の全域が前記透明電極層に接触している、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記透明電極層と前記反射電極層との間に絶縁層が存在しない、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記発光波長は、450nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記白金族金属は、白金である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記白金族金属は、パラジウムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記基板は、GaNまたはSiCからなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項8】
前記基板における前記n型窒化物半導体層との接合面には、複数の凸部が形成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項9】
複数の前記凸部は、離散配置されている、請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
複数の前記凸部は、行列状に配置されている、請求項9に記載の発光素子。
【請求項11】
複数の前記凸部は、千鳥状に配置されている、請求項9に記載の発光素子。
【請求項12】
前記透明電極層は、ZnOまたはITOからなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項13】
前記発光層は、Inを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項14】
銀、半田またはAuSnからなり、前記反射電極層上に積層された接合層を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項15】
請求項14に記載の発光素子と、
前記接合層に接合された配線素子とを含む、発光素子ユニット。
【請求項16】
前記発光素子は、前記配線素子と前記n型窒化物半導体層とをつなぐn型電極層を含む、請求項15に記載の発光素子ユニット。
【請求項17】
前記発光素子は、前記n型電極層と前記反射電極層とを分離絶縁する分離絶縁層を含む、請求項16に記載の発光素子ユニット。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか一項に記載の発光素子ユニットと、前記発光素子ユニットを覆う樹脂パッケージとを含む、発光素子パッケージ。
【請求項19】
発光層の発光波長に対して透明な基板上にn型窒化物半導体層を積層する工程と、
前記n型窒化物半導体層上に前記発光層を積層する工程と、
前記発光層上にp型窒化物半導体層を積層する工程と、
前記p型窒化物半導体層上に、前記発光層の発光波長に対して透明な透明電極層を積層する工程と、
銀と白金族金属と銅とを含む合金からなり、前記透明電極層を透過した光を反射させる反射電極層を、前記透明電極層に接触するように前記透明電極層上に積層する工程とを含む、発光素子の製造方法。
【請求項20】
前記反射電極層を前記透明電極層上に積層する工程は、前記反射電極層において前記透明電極層に対向する対向面の全域が前記透明電極層に接触するように、前記反射電極層を、前記透明電極層と同一パターンで前記透明電極層上に積層する工程を含む、請求項19に記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−124429(P2012−124429A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276126(P2010−276126)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】