説明

発泡成形部材、その取付用クリップ、発泡成形部材の製造方法並びに発泡成形部材の取付構造

【課題】比較的簡易な構造の金型を用いて製造することが可能であり、且つクリップ本体の端面に挿入穴を塞ぐ封体を設けることを不要とすることが可能なクリップと、このクリップを備えた発泡成形部材と、この発泡成形部材の製造方法と、この発泡成形部材を被取付部材に取り付けた取付構造とを提供する。
【解決手段】クリップ10は、被取付部材20に設けられたクリップ係止用突起21が挿入される挿入穴12を有した筒状のクリップ本体11と、該挿入穴12の内周面に設けられた、該クリップ係止用突起21が係合する係合部15とを備えている。係合部15は、クリップ本体11を外周側から挿入穴12まで貫通した貫通孔16よりなる。クリップ本体11の少なくとも貫通孔16の周囲部分の肉厚Tは、発泡成形体2の成形時にクリップ本体11の外周側から貫通孔16に侵入した該発泡成形体2の発泡成形材料が挿入穴12の内周面まで到達し得ない大きさとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形体を被取付部材に取り付けるためのクリップに係り、特に、該被取付部材に設けられたクリップ係止用突起が挿入される挿入穴を有する筒状のクリップ本体と、該挿入穴の内周面に設けられた、該クリップ係止用突起が係合する係合部とを備えており、少なくとも該クリップ本体の筒軸心線方向の一端側が該発泡成形体中に埋設されることにより該発泡成形体と一体化されるクリップに関する。また、本発明は、このクリップが発泡成形体に埋設されるようにして該発泡成形体と一体化されてなる発泡成形部材と、この発泡成形部材の製造方法と、この発泡成形部材を該クリップを介して被取付部材に取り付けた取付構造とに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドアの裏側(車内側)には、車両の側面衝突時の衝撃エネルギー吸収(Energy Absorption:EA)のために、硬質ウレタンフォームよりなる衝撃エネルギー吸収材(以下、EA材と略すことがある。)が取り付けられている。このEA材をドアトリムに取り付ける方法として、特開2005−47225(特許文献1)には、EA材にクリップを設けておき、このクリップを、ドアトリムに設けられたクリップ係止用突起に係合させることにより、EA材をドアトリムに取り付けることが記載されている。特許文献1では、このクリップは、一部がEA材本体に埋設されるようにして該EA材本体と一体化されている。
【0003】
第5図は、特許文献1の図6に記載のクリップ及びEA材取付構造の説明図である。第5図(a)は、このEA材取付構造を示す断面図、第5図(b)は、このEA材取付構造のクリップ係止用突起の斜視図、第5図(c)は、このEA材取付構造に用いられたクリップの縦断面斜視図である。
【0004】
このEA材取付構造においては、EA材101がドアトリム102に対しクリップ104及びクリップ係止用突起108を介して取り付けられている。
【0005】
このクリップ係止用突起108は、ドアトリム102から突出する1対の突出部108b,108bを有している。各突出部108b,108bの先端側の側面に、それぞれ側方へ張り出す爪部108aが設けられている。この爪部108aは、各突出部108bの基端側ほど側方への張り出し高さが大きくなっている。
【0006】
各突出部108bは、弾性を有した合成樹脂により形成されており、これらの突出部108b,108b同士は、互いに接近方向に弾性的に変形可能となっている。
【0007】
クリップ104は、このクリップ係止用突起108が挿入される挿入穴112を有した筒状のクリップ本体106と、該クリップ本体106の筒軸心線方向の一端側から外向き鍔状に張り出すアンカー部105と、該クリップ本体106の筒軸心線方向の他端側から外向き鍔状に張り出すフランジ部107とを備えている。挿入穴112は、クリップ本体106をその筒軸心線方向の一端面から他端面まで貫通している。挿入穴112の内周面には、周方向に凹段部113が凹設されている。
【0008】
第5図(a)の通り、クリップ104は、クリップ本体106及びアンカー部105がEA材101中に埋設されている。
【0009】
このクリップ104を備えたEA材101をドアトリム102に取り付ける場合には、クリップ係止用突起108を挿入穴112に挿入しながらEA材101をドアトリム102に押し付ける。これにより、クリップ係止用突起108の各爪部108aが挿入穴112内の凹段部113に弾性的に係合してクリップ104が該クリップ係止用突起108に係止され、EA材101がドアトリム102に固定される。
【0010】
第6図は、特許文献1の図1に記載のクリップとEA材成形用金型との係合関係を示す断面図である。第6図(a)は、このクリップをEA材成形用金型のクリップ固定用突起に係合させる前の状態を示し、第6図(b)は、このクリップをEA材成形用金型のクリップ固定用突起に係合させた後の状態を示している。
【0011】
第6図のクリップ140は、ドアトリムのクリップ係止用突起(第6図では図示略)が挿入される挿入穴142を有した角筒状のクリップ本体141を備えている。挿入穴142は、クリップ本体141をその筒軸心線方向の一端面から他端面まで貫通している。
【0012】
このクリップ140にあっては、挿入穴142は、クリップ本体141の筒軸心線方向の一端側と他端側とが大口径部142a,142cとなっており、両者の間が小口径部142bとなっている。この小口径部142bと大口径部142cとの間に、該挿入穴142の内方へ張り出す凸段部143が形成されている。小口径部142の内周面には、後述のクリップ固定用突起150に当接する凸部147が設けられている。
【0013】
クリップ本体141の該他端側には外向き鍔状のアンカー部144が設けられ、該一端側には外向き鍔状のフランジ部145が設けられている。クリップ本体141の該アンカー部144側の端面には、挿入穴142(大口径部142c)を封鎖した封体148が取り付けられている。
【0014】
このクリップ140を備えたEA材を製造する場合には、EA材成形用金型160の内面から突設されたクリップ固定用突起150を挿入穴142に挿入してクリップ140を該EA材成形用金型160の内面に取り付けておく。このクリップ固定用突起150は、挿入穴142の小口径部142bに差し込まれる。この際、小口径部142bの内周面の凸部147が押し縮められるようにしてクリップ固定用突起150の側面に当接することにより、クリップ140がクリップ固定用突起150に係止される。その後、該EA材成形用金型160内で発泡合成樹脂原料を発泡させてEA材本体を成形することにより、クリップ140が一体化されたEA材が製造される。
【0015】
このクリップ140を備えたEA材をドアトリムに取り付ける場合には、第5図のEA材取付構造と同様に、ドアトリムに設けられたクリップ係止用突起を挿入穴142に押し込んで該挿入穴142内の凸段部143にクリップ係止用突起の爪部を係合させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−47225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記第5図のクリップ104にあっては、挿入穴112の内周面に凹設された凹段部113にクリップ係止用突起108の各爪部108aを係合させるように構成されているが、この凹段部113はアンダーカット形状となっているので、このクリップ104を射出成形等により成形する場合には、クリップ成形用金型が複雑な構造となり、製造に手間がかかると共に、コスト高となる。
【0018】
上記第6図のクリップ140にあっては、挿入穴142の内周面から該挿入穴142の内方に張り出す凸段部143にクリップ係止用突起の爪部を係合させるように構成されているので、挿入穴142内にアンダーカット部が存在しない。そのため、このクリップ140は、比較的簡易な構造のクリップ成形用金型を用いて製造することができる。
【0019】
しかしながら、このクリップ140を備えたEA材を製造するに際し、EA材成形用金型160のクリップ固定用突起150を挿入穴142の小口径部142bに差し込んでクリップ140をEA材成形用金型160内に固定したときに、この小口径部142bの両側の大口径部142a,142cの内周面と該クリップ固定用突起150との間には、この凸段部143の分だけ隙間があく。そのため、EA材本体の発泡成形時に、この隙間に発泡合成樹脂が侵入しないようにするために、前述の通りクリップ本体141のアンカー部144側の端面に封体148を設けて挿入穴142(大口径部142c)を塞ぐ必要がある。
【0020】
本発明は、比較的簡易な構造の金型を用いて製造することが可能であり、且つクリップ本体の端面に挿入穴を塞ぐ封体を設けることを不要とすることが可能なクリップを提供することを目的とする。また、本発明は、このクリップが発泡成形体に埋設されるようにして該発泡成形体と一体化されてなる発泡成形部材と、この発泡成形部材の製造方法と、この発泡成形部材を被取付部材に取り付けた取付構造とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明(請求項1)のクリップは、発泡成形体を被取付部材に取り付けるためのクリップであって、該被取付部材に設けられたクリップ係止用突起が挿入される挿入穴を有した筒状のクリップ本体と、該挿入穴の内周面に設けられた、該クリップ係止用突起が係合する係合部とを備えており、該挿入穴は、該クリップ本体をその筒軸心線方向に貫通しており、少なくとも該クリップ本体の筒軸心線方向の一端側が該発泡成形体に埋設されるようにして該発泡成形体と一体化されるクリップにおいて、該係合部は、該クリップ本体を外周側から該挿入穴まで貫通した貫通孔よりなり、該クリップ本体の少なくとも該貫通孔の周囲部分の肉厚は、該発泡成形体の成形時に該クリップ本体の外周側から該貫通孔に侵入した該発泡成形体の発泡成形材料が該挿入穴の内周面まで到達し得ない大きさとなっていることを特徴とするものである。
【0022】
請求項2のクリップは、請求項1において、前記クリップ本体の少なくとも前記貫通孔の周囲部分の肉厚は、該クリップ本体の筒軸心線方向における該貫通孔の最大幅の60〜200%であることを特徴とするものである。
【0023】
請求項3のクリップは、請求項2において、前記クリップ本体の少なくとも前記貫通孔の周囲部分の肉厚は、該クリップ本体の筒軸心線方向における該貫通孔の最大幅の100〜150%であることを特徴とするものである。
【0024】
請求項4のクリップは、請求項3において、前記クリップ本体の少なくとも前記貫通孔の周囲部分の肉厚は、該クリップ本体の筒軸心線方向における該貫通孔の最大幅と実質的に同一の大きさであることを特徴とするものである。
【0025】
請求項5のクリップは、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記クリップ本体は、合成樹脂の射出成形品よりなることを特徴とするものである。
【0026】
請求項6のクリップは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記クリップ本体の前記一端側に、該クリップ本体の外周面から放射方向に張り出すアンカー部が設けられていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明(請求項7)の発泡成形部材は、発泡成形体と、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のクリップとを有し、該クリップは、少なくとも前記クリップ本体の筒軸心線方向の一端側が該発泡成形体に埋設されることにより該発泡成形体と一体化されていることを特徴とするものである。
【0028】
本発明(請求項8)の発泡成形部材の製造方法は、請求項7に記載の発泡成形部材を製造するための方法であって、発泡成形体成形用金型の内面に設けられたクリップ固定用突起を前記挿入穴に挿入して前記クリップを該発泡成形体成形用金型の内面に取り付けるクリップ取付工程と、該発泡成形体成形用金型内で前記発泡成形体を発泡成形する発泡成形工程とを有しており、該クリップ固定用突起は、該挿入穴に挿入された状態において、その外周面が該挿入穴の内周面に密着するように構成されていることを特徴とするものである。
【0029】
本発明(請求項9)の発泡成形部材の取付構造は、請求項7に記載の発泡成形部材を被取付部材に取り付けた構造であって、該被取付部材にクリップ係止用突起が設けられており、該クリップ係止用突起が前記クリップの前記挿入穴に挿入されて前記係合部に係合したことにより、該発泡成形部材が該被取付部材に取り付けられているものである。
【0030】
請求項10の発泡成形部材の取付構造は、請求項9において、前記クリップ係止用突起は、前記被取付部材から突出した突出部と、該突出部から側方へ張り出した爪部とを備え、該爪部が前記係合部に係合していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明(請求項1)のクリップは、被取付部材に設けられたクリップ係止用突起がクリップ本体の挿入穴に挿入され、該クリップ係止用突起が該挿入穴の内周面の係合部に係合することにより、被取付部材に係止される。本発明では、この係合部は、クリップ本体を外周側から挿入穴まで貫通した貫通孔よりなる。即ち、本発明にあっては、挿入穴の内周面に、前述の第5図のクリップ104における凹段部113のようなアンダーカット部は存在しない。従って、本発明のクリップは、比較的簡易な構造の金型を用いて製造することが可能である。
【0032】
また、本発明にあっては、挿入穴の内周面に、前述の第6図のクリップ140の凸段部143のような、該挿入穴の内方へ張り出す段部も存在しない。そのため、このクリップを備えた発泡成形部材を製造するに際し、発泡成形体成形用金型のクリップ固定用突起を挿入穴に挿入してクリップを該発泡成形体成形用金型の内面に取り付けたときに、このクリップ固定用突起を挿入穴の内周面に密着させることが可能である。これにより、クリップ本体の端面に封体を設けて挿入穴を塞がなくても、発泡成形体の成形時に発泡成形材料がこの挿入穴とクリップ固定用突起との間に侵入することを防止することが可能である。
【0033】
このように、本発明にあっては、クリップを比較的簡易な構造の金型を用いて製造することが可能であり、且つクリップ本体の端面に挿入穴を塞ぐ封体を設けることを不要とすることが可能であるため、クリップを低コストにて構成することが可能である。
【0034】
発泡成形体の成形時に発泡成形材料がクリップ本体の外周側から貫通孔に侵入するか否かは、クリップ本体の外周面に開口した貫通孔の入口部分の大きさによるが、仮に貫通孔に発泡成形材料が侵入した場合に、この発泡成形材料が該貫通孔を通って挿入穴の内周面にまで到達するか否かは、クリップ本体の外周面から該貫通孔を通って挿入穴の内周面に達するまでの距離、即ちクリップ本体の肉厚による。本発明では、このクリップ本体の少なくとも貫通孔の周囲部分の肉厚は、発泡成形体の成形時にクリップ本体の外周側から貫通孔に侵入した発泡成形材料が挿入穴の内周面まで到達し得ない大きさとなっているので、仮に貫通孔に発泡成形材料が侵入しても、この発泡成形材料により貫通孔が埋まってしまうことが防止され、この貫通孔を、クリップ係止用突起が係合する係合部として機能させることが可能である。これにより、クリップ本体の外周側からこの貫通孔を塞ぐように封体等を設けることが不要であり、クリップの構成を簡易化することが可能である。
【0035】
請求項2,3の通り、経験則上、このクリップ本体の少なくとも貫通孔の周囲部分の肉厚を、該クリップ本体の筒軸心線方向における貫通孔の最大幅の60〜200%特に100〜150%とすることにより、発泡成形体の成形時に、仮に貫通孔に発泡成形材料が侵入しても、この発泡成形材料が該貫通孔を通って挿入穴の内周面まで到達することを防止することが可能である。
【0036】
とりわけ、請求項4の通り、このクリップ本体の少なくとも貫通孔の周囲部分の肉厚を、該クリップ本体の筒軸心線方向における貫通孔の最大幅と実質的に同一の大きさとすることにより、発泡成形体の成形時に、仮に貫通孔に発泡成形材料が侵入しても、この発泡成形材料が該貫通孔を通って挿入穴の内周面まで到達することを防止することが可能である。
【0037】
請求項5の通り、本発明のクリップは、比較的簡易な構造の金型を用いて合成樹脂の射出成形により容易に製造することが可能である。
【0038】
請求項6の通り、クリップ本体の一端側に、該クリップ本体の外周面から放射方向に張り出すアンカー部を設け、このアンカー部を発泡成形体に埋設するようにしてクリップを発泡成形体と一体化させることにより、クリップの発泡成形体からの抜け留め効果が向上し、クリップと発泡成形体との結合強度が高い発泡成形部材を得ることができる。
【0039】
本発明(請求項7)の発泡成形部材は、かかる本発明のクリップを備えているため、比較的低コストにて製造することが可能である。
【0040】
本発明(請求項8)の発泡成形部材の製造方法にあっては、発泡成形体成形用金型の内面に設けられたクリップ固定用突起をクリップの挿入穴に挿入して該クリップを発泡成形体成形用金型の内面に取り付けたときに、このクリップ固定用突起を該挿入穴の内周面に密着させるため、クリップ本体の端面に封体を設けて該挿入穴を塞がなくても、発泡成形体の成形時に発泡合成樹脂がこの挿入穴とクリップ固定用突起との間に侵入することを防止することが可能である。
【0041】
本発明(請求項9)の発泡成形部材の取付構造にあっては、被取付部材のクリップ係止用突起をクリップの挿入穴に挿入して係合部に係合させることにより、簡単に発泡成形部材を被取付部材に取り付けることができる。
【0042】
請求項10の通り、このクリップ係止用突起に、側方へ張り出す爪部を設け、この爪部をクリップの係合部(貫通孔)に係合させることにより、クリップをしっかりとクリップ係止用突起に係止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施の形態に係るクリップの説明図である。
【図2】図1のクリップの製造方法の説明図である。
【図3】図1のクリップを備えた発泡成形部材の製造方法の説明図である。
【図4】図3の発泡成形部材を被取付部材に取り付けた取付構造の説明図である。
【図5】第1の従来例に係るクリップ及びこのクリップを用いた発泡成形部材の取付構造の説明図である。
【図6】第2の従来例に係るクリップ及びこのクリップと発泡成形体成形用金型との係合関係を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態では、発泡成形部材はEA材であり、このEA材を被取付部材としてのドアトリムに取り付けた取付構造を例示しているが、本発明の発泡成形部材は、EA材に限定されない。また、本発明において、被取付部材は、ドアトリムに限定されない。
【0045】
第1図(a)は、実施の形態に係るクリップのクリップ本体の筒軸心線に沿う断面斜視図であり、第1図(b)は第1図(a)のB−B線に沿う断面図であり、第1図(c)は第1図(b)のC−C線矢視図(クリップの側面図)であり、第1図(d)は第1図(a)のD部分の拡大断面図である。第2図(a)は、このクリップを製造するためのクリップ成形用金型の縦断面図(第2図(b)のA−A線に沿う断面図)であり、第2図(b)は第2図(a)のB−B線に沿う断面図であり、第2図(c)は、このクリップ成形用金型の型開き状態における第2図(a)と同様部分の縦断面図である。第3図(a)は、このクリップを備えた発泡成形部材としてのEA材を製造するためのEA材成形用金型の縦断面図であり、第3図(b)は、クリップが取り付けられる前のEA材成形用金型のクリップ固定用突起付近の拡大断面図であり、第3図(c)は第3図(b)のC−C線矢視図であり、第3図(d)は、該クリップ固定用突起にクリップが取り付けられた状態を示す第3図(b)と同様部分の断面図である。なお、第3図(a),(b),(d)は、それぞれ、該クリップ固定用突起の軸心線に沿う断面にて図示されている。第4図(a)は、このEA材を被取付部材としてのドアトリムに取り付けた取付構造の水平断面図であり、第4図(b)は、EA材を取り付ける前のドアトリムの水平断面図であり、第4図(c)は第4図(b)のC−C線矢視図である。なお、第4図(a)は、クリップ本体の筒軸心線に沿う断面を示しており、第4図(b)は第4図(a)と同様部分の断面を示している。
【0046】
EA材1は、第3図(a)及び第4図(a)の通り、硬質ウレタンフォーム等の発泡合成樹脂成形体よりなるEA材本体2と、該EA材本体2をドアトリム20に取り付けるためのクリップ10とを備えている。クリップ10は、インサート成形によりEA材本体2と一体化されている。このクリップ10が、ドアトリム20に設けられたクリップ係止用突起21(第4図(a)〜(c))に係止されることにより、EA材1がドアトリム20に取り付けられる。EA材本体2のドアトリム20との対峙面には、クリップ10が複数個、所定位置に配設されており、ドアトリム20のEA材取付面には、これらのクリップ10とそれぞれ対応する位置関係にて、複数個のクリップ係止用突起21が設けられている。このクリップ係止用突起21の詳細については後述する。
【0047】
EA材本体2を構成する発泡合成樹脂は、コア部分の静的圧縮試験によって求められる硬さが2.5〜15kgf/cm以下であることが好ましい。この静的圧縮試験は、以下の手順で行われるものである。即ち、まずEA材本体2の構成材料として使用される発泡合成樹脂材料から厚み50mm×幅50mm×長さ50mmのサンプルを取得する。次いで、このサンプルを、全面圧縮で厚み方向に10〜50mm/秒のスピードにて元の厚みの20%の厚みとなるまで圧縮する。その際、このサンプルを元厚みの50%の厚みまで圧縮したときの荷重を測定し、この測定値をサンプルの圧縮方向と垂直な断面の断面積で割った計算値を、その発泡合成樹脂材料の硬さとする。
【0048】
クリップ10は、該クリップ係止用突起21が挿入される挿入穴12を有した略円筒形状のクリップ本体11と、該クリップ本体11の筒軸心線方向の一端側(以下、先端側ということがある。)から放射方向へ外向き鍔状に張り出したアンカー部13と、該クリップ本体11の筒軸心線方向の他端側(以下、後端側ということがある。)から放射方向へ外向き鍔状に張り出したフランジ部14等を備えている。該挿入穴12は、クリップ本体11をその筒軸心線方向に貫通している。該挿入穴12の内径は、クリップ本体11の先端側から後端側まで実質的に一定となっている。アンカー部13及びフランジ部14は、それぞれ、該クリップ本体11の先端面及び後端面と面一状に形成されている。挿入穴12の内周面には、クリップ係止用突起21から側方へ張り出した後述の爪部23が係合する係合部15が設けられている。
【0049】
この実施の形態では、第1図(b)の通り、クリップ本体11の筒軸心線と垂直な断面において、挿入穴12の内周面は、該挿入穴12の弦方向に延在した平坦部12aと、クリップ本体11の外周側に凸に湾曲した湾曲部12bとを有している。この実施の形態では、第1図(b)の通り、クリップ本体11の筒軸心線と垂直な断面において、挿入穴12の内周面は、該クリップ本体11の筒軸心線を挟んで対向する1対の平坦部12a,12aと、これらの平坦部12a,12aの一端側同士及び他端側同士をそれぞれ繋いだ1対の湾曲部12b,12bとを有した略小判形の断面形状となっている。
【0050】
第1図(a)の通り、各平坦部12a及び各湾曲部12bは、それぞれ、クリップ本体11の先端側から後端側まで連続して形成されている。第1図(b)の通り、これらの平坦部12a,12a同士は、互いに略平行に延在している。各平坦部12aの幅(クリップ本体11の筒軸心線と直交方向の幅。以下、同様。)は、該クリップ本体11の先端側から後端側まで実質的に一定となっている。各平坦部12aの幅は、挿入穴12の最大内径(各平坦部12aの幅方向と平行方向における湾曲部12b,12b同士の間隔の最大値)の20〜80%特に30〜70%程度であることが好ましい。平坦部12a,12a同士の間隔は、この挿入穴12の最大内径の70〜95%特に80〜90%程度であることが好ましい。この実施の形態では、湾曲部12b,12b同士は、実質的にクリップ本体11の軸心を共通の曲率中心とし、実質的に同一の曲率半径にて湾曲した円弧形断面形状となっている。なお、挿入穴12の断面形状はこれに限定されない。例えば、平坦部12aは、1個だけ、あるいはクリップ本体11の周方向に隣接させて又は間隔をあけて3個以上設けられてもよい。湾曲部12bは、挿入穴12の中心を曲率中心として湾曲していなくてもよく、湾曲部12b,12b同士は、異なる曲率中心及び曲率半径を有するものであってもよい。本発明においては、挿入穴12の断面形状は、平坦部12aを有しない円形状や、湾曲部12bを有しない多角形状などであってもよい。
【0051】
この実施の形態では、第1図(b),(c)の通り、クリップ本体11の外周面は、挿入穴12と同心状の円形断面形状となっている。なお、クリップ本体11の外周面の断面形状はこれに限定されない。例えば、クリップ本体11の筒軸心線と垂直な断面において、クリップ本体11の外周面は、挿入穴12の内周面と相似形の断面形状を有していてもよい。クリップ本体11の外周面と挿入穴12の内周面とで断面形状が異なっていてもよい。クリップ本体11の外周面の断面形状は、四角形などの多角形状などであってもよい。
【0052】
この実施の形態では、第1図(a),(b)の通り、クリップ本体11の筒軸心線の延長方向から見たアンカー部13及びフランジ部14の平面視形状は、それぞれ、実質的に同一の外径を有する円盤状となっている。なお、アンカー部13及びフランジ部14の形状はこれに限定されない。例えば、アンカー部13とフランジ部14とは、異なる形状であってもよい。
【0053】
本発明では、第1図(a)〜(d)及び第2図(c)の通り、クリップ本体11に、該クリップ本体11を外周側から挿入穴12内まで貫通する貫通孔16が設けられており、この貫通孔16により前記係合部15が設けられている。即ち、挿入穴12にクリップ係止用突起21が挿入されると、該クリップ係止用突起21の爪部23がこの貫通孔16に入り込んでこの貫通孔16の縁部に係合するようになる。
【0054】
この実施の形態では、第1図(a),(b)及び第2図(c)の通り、2個の貫通孔16がクリップ本体11の中心を挟んで正対するように設けられている。この実施の形態では、これらの貫通孔16は、挿入穴12の各湾曲部12bをそれぞれ貫通するように設けられている。各貫通孔16は、クリップ本体11をその直径方向且つ挿入穴12の各平坦部12aと平行方向に貫通している。各貫通孔16は、各湾曲部12bの周方向の中間部に配置されている。また、各貫通孔16は、クリップ本体11の筒軸心線方向の中間部に配置されている(即ち、各貫通孔16は、クリップ本体11の筒軸心線方向の先端面及び後端面からそれぞれ等距離に位置している)。この実施の形態では、第1図(c)の通り、クリップ10を側面視したときの各貫通孔16の開口形状は、直交する2辺がそれぞれクリップ本体11の筒軸心線と平行方向及びこれと直交方向に延在した略正方形状となっている。
【0055】
なお、貫通孔16の個数及び配置、開口形状はこれに限定されない。例えば、貫通孔16は、1個だけ、又は挿入穴12の周方向に間隔をあけて3個以上設けられてもよい。挿入穴12の各平坦部12aにそれぞれ貫通孔16が設けられてもよい。挿入穴12の各平坦部12aと各湾曲部12bの双方にそれぞれ貫通孔16が設けられてもよい。隣り合う平坦部12aと湾曲部12bとに跨って貫通孔16が設けられてもよい。貫通孔16の開口形状は、クリップ係止用突起21の爪部23の形状に応じて種々の形状とすることができる。あるいは、例えばクリップ10の取付誤差を吸収するために、この貫通孔16を、クリップ本体11の周方向に長い長穴状としてもよい。
【0056】
本発明においては、クリップ本体11の少なくとも各貫通孔16の周囲部分の肉厚(即ちクリップ本体11の外周面から貫通孔16を通って挿入穴12の内周面に達するまでの距離)Tは、EA材本体2の成形時に仮に発泡合成樹脂が各貫通孔16に侵入しても、この発泡合成樹脂が各貫通孔16を通って挿入穴12の内周面まで到達し得ない大きさとなっている。この実施の形態では、第1図(b)の通り、クリップ本体11のうち挿入穴12の各湾曲部12bの周方向の一端側から他端側までの肉厚Tが、それぞれこのような大きさとなっている。なお、クリップ本体11の肉厚Tは、該クリップ本体11の全周にわたって一定であってもよく、各貫通孔16の周囲部分とそれ以外の部分とで異なっていてもよい。
【0057】
より具体的には、第1図(d)の通り、クリップ本体11の少なくとも各貫通孔16の周囲部分における肉厚Tは、該クリップ本体11の筒軸心線方向における各貫通孔16の最大幅Hの60〜200%特に100〜150%であることが好ましく、とりわけこのクリップ本体11の少なくとも各貫通孔16の周囲部分における肉厚Tと該クリップ本体11の筒軸心線方向における各貫通孔16の最大幅Hとが実質的に同一の大きさであることが好ましい。経験則上、このように構成することにより、EA材本体2の成形時に、仮に発泡合成樹脂が各貫通孔16に侵入しても、この発泡合成樹脂が各貫通孔16を通って挿入穴12の内周面まで到達することを防止することが可能である。なお、一般的な市販車両に装着されるEA材に用いられるクリップ10の各部の寸法は、挿入穴12の最大内径が6〜12mm程度であり、クリップ本体11の筒軸心線方向の長さが8〜14mm程度であり、該クリップ本体11の筒軸心線方向における各貫通孔16の最大幅Hが4〜6mm程度である。従って、本発明をこの一般的な車両用EA材に用いられるクリップ10に適用した場合には、クリップ本体11の少なくとも各貫通孔16の周囲部分における肉厚Tは、好ましくは3〜12mm程度(貫通孔16の最大幅Hの60〜200%程度)、特に好ましくは4〜9mm程度(貫通孔16の最大幅Hの100〜150%程度)、とりわけ好ましくはこの貫通孔16の最大幅Hと実質的に同一の大きさとされる。
【0058】
このクリップ10は、合成樹脂の射出成形品よりなる。このクリップ10を構成する材料としては、例えばABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)等が好適であるが、これに限定されない。
【0059】
以下に、このクリップ10の製造方法について説明する。なお、以下の製造方法は一例であり、クリップ10の製造方法はこれに限定されない。
【0060】
第2図(a)〜(c)の通り、このクリップ10を製造するためのクリップ成形用金型30は、クリップ本体11の外周面、アンカー部13のフランジ部14側の面、及びフランジ部14のアンカー部13側の面の半周分をそれぞれ成形する第1の型31と、該クリップ本体11の外周面、アンカー部13のフランジ部14側の面、及びフランジ部14のアンカー部13側の面の残りの半周分をそれぞれ成形する第2の型32と、該アンカー部13のフランジ部14と反対側の面を成形する第3の型33と、該フランジ部14のアンカー部13と反対側の面を成形する第4の型34とを有している。
【0061】
第1の型31及び第2の型32のうち、クリップ本体11の外周面を成形するキャビティ面からは、それぞれ、貫通孔16を形成するための貫通孔形成用凸部35が突設されている。第3の型33のキャビティ面からは、挿入穴12を形成するための挿入穴形成用凸部36が突設されている。第2図(b)の通り、この挿入穴形成用凸部36は、その軸心線と垂直な断面形状が実質的に該挿入穴12の断面形状と合致する形状となっている。即ち、この挿入穴形成用凸部36の外周面は、挿入穴12の各平坦部12aを成形する1対の平坦部36aと、各湾曲部12bを成形する1対の湾曲部36bとを有した略小判形の断面形状となっている。
【0062】
この実施の形態では、第1の型31と第2の型32とは、第2図(b)の通り、挿入穴形成用凸部36の各平坦部36a,36aの幅方向の中間付近で二分された構成となっている。これらの第1の型31と第2の型32とは、該挿入穴形成用凸部36の各平坦部36aの延在方向と平行方向に離反可能となっている。各貫通孔形成用凸部35は、それぞれ、軸心線をこの第1の型31と第2の型32との離反方向と平行方向として設けられている。第3の型33と第4の型34とは、第1の型31及び第2の型32から挿入穴12の軸心線の延長方向に離反可能となっている。
【0063】
第2図(a),(b)の通り、これらの型31〜34を合体させて型締めした状態にあっては、挿入穴形成用凸部36の先端が第4の型34のキャビティ面に当接し、各貫通孔形成用凸部35の先端がそれぞれこの挿入穴形成用凸部36の外周面の各湾曲部36bに当接するようになっている。なお、挿入穴形成用凸部36は、第4の型34のキャビティ面から突設されてもよい。あるいは、第3の型33のキャビティ面からこの挿入穴形成用凸部36の一半側が突設されると共に、第4の型34のキャビティ面からこの挿入穴形成用凸部36の他半側が突設され、型締めしたときにこれらの凸部36,36の先端同士が当接するように構成されてもよい。
【0064】
第2図(a),(b)の通りこれらの型31〜34を合体させて型締めした後、クリップ10の成形材料を型内に注入する。この成形材料が硬化した後、第2図(c)の通り型開きしてクリップ10の成形品を取り出す。この成形時に挿入穴形成用凸部36が存在していた部分が脱型後に挿入穴12となり、各貫通孔形成用凸部35が存在していた部分が、それぞれ、クリップ本体11を外周側からこの挿入穴12まで貫通した貫通孔16となる。その後、必要に応じバリ取り等の仕上げ作業をすることにより、クリップ10が完成する。
【0065】
次に、このクリップ10を備えたEA材1の製造方法について説明する。なお、以下の製造方法は一例であり、EA材1の製造方法はこれに限定されない。
【0066】
第3図(a)のEA材成形用金型40は、上型41と、下型42とを備えている。なお、EA材成形用金型40の構成はこれに限定されない。この実施の形態では、該EA材成形用金型40内において、EA材本体2は、ドアトリム20との対峙面を上向きにして成形される。上型41のキャビティ面からは、クリップ10を該キャビティ面に固定するためのクリップ固定用突起43が突設されている。上型41のキャビティ面には、前述のクリップ10の配置と対応する位置関係にて複数個のクリップ固定用突起43が配設されている。
【0067】
この実施の形態では、第3図(a)〜(d)の通り、該クリップ固定用突起43は、該上型41のキャビティ面からEA材成形用金型40の内方へ突出した軸部43aを有している。第3図(c)の通り、この軸部43aの軸心線と垂直な断面形状は、クリップ10の挿入穴12と実質的に相似形状となっている。即ち、この軸部43aの外周面も、挿入穴12の各平坦部12aに対応する1対の平坦部43bと、各湾曲部12bに対応する1対の湾曲部43cとを有した略小判形の断面形状となっている。この軸部43aは、クリップ10の挿入穴12に挿入されたときに、その外周面が該挿入穴12の内周面に実質的に密着する太さ(好ましくは、クリップ固定用突起43を挿入穴12に挿入したときに、後述の張出部44以外の部分において、該軸部43aの外周面と挿入穴12の内周面との間に0.05〜0.5mm特に0.05〜0.2mm程度の隙間があく太さ)となっている。
【0068】
上型41のキャビティ面からの軸部43aの起立高さは、第3図(d)の通り、クリップ10のフランジ部14が該上型41のキャビティ面に当接するまでクリップ固定用突起43を挿入穴12に挿入した状態において、該軸部43aの先端が各貫通孔16よりもアンカー部13側に位置し、且つクリップ本体11の該アンカー部13側の端面から突出しない大きさとなっている。具体的には、この軸部43aの起立高さは、クリップ本体11のアンカー部13側の端面からフランジ部14側の端面までの距離(即ちクリップ本体11の筒軸心線方向の長さ)の85〜95%特に85〜90%程度であることが好ましい。
【0069】
この実施の形態では、第3図(c)の通り、軸部43aの外周面に、該外周面から僅かに側方へ張り出した張出部44が設けられている。軸部43aの外周面からの張出部44の張り出し高さは、0.05〜0.2mm特に0.05〜0.1mm程度であることが好ましい。第3図(c)の通り、この実施の形態では、1対の張出部44が該軸部43aの各湾曲部43cにそれぞれ設けられている。各張出部44の張り出し方向の先端側の端面は、各湾曲部43cと同心状に湾曲した湾曲面となっている。ただし、張出部44の個数や配置、形状はこれに限定されない。
【0070】
この張出部44の分だけクリップ固定用突起43の太さが挿入穴12の内径よりも大きくなるので、クリップ固定用突起43が挿入穴12に圧入されるようになる。即ち、クリップ固定用突起43が挿入穴12に挿入された状態においては、各張出部44が挿入穴12の内周面に食い込み、その他の部分では軸部43aの外周面が実質的に該挿入穴12の内周面に密着するようになる。これにより、発泡成形中におけるクリップ固定用突起43の挿入穴12からの抜け出し、即ちクリップ10のクリップ固定用突起43からの脱落が防止される。また、クリップ固定用突起43の外周面と挿入穴12の内周面との間に発泡合成樹脂が侵入することが防止される。
【0071】
なお、各張出部44は、それぞれ、挿入穴12にクリップ固定用突起43が挿入されたときに各貫通孔16に係合するように設けられてもよい。
【0072】
EA材1を製造する場合には、まず、上型41と下型42とを型開きした状態において、上型41の各クリップ固定用突起43に、それぞれ、第3図(d)の通りフランジ部14が該上型41のキャビティ内面に対面するようにクリップ10を装着する。この際、該挿入穴12の内周面の各平坦部12aをクリップ固定用突起43の軸部43aの外周面の各平坦部43bに合わせるようにして該挿入穴12にクリップ固定用突起43を挿入する。これにより、クリップ10は、各貫通孔16(各係合部15)が所定方向を向いた姿勢で上型41のキャビティ面に取り付けられる。上記の通り、この実施の形態では、クリップ固定用突起43がクリップ10の挿入穴12に圧入されるため、発泡成形中にクリップ10がクリップ固定用突起43から脱落しないようにしっかりと固定される。その後、下型42内にEA材本体2の発泡合成樹脂原料を注入し、上型41と下型42とを型締めして該発泡合成樹脂原料を発泡させる。この発泡合成樹脂は、第4図(a)の通り、下型42のキャビティ底面から上型41のキャビティ天井面まで膨張して金型40内のキャビティ空間を充填する。これにより、EA材本体2が成形される。また、この際、各クリップ10のアンカー部13、クリップ本体11、及びフランジ部14の該アンカー部13側が該発泡合成樹脂中に埋没することにより、各クリップ10がEA材本体2と一体化される。
【0073】
このクリップ10にあっては、クリップ本体11の少なくとも各貫通孔16の周囲部分の肉厚Tは、EA材本体2の成形時に仮に発泡合成樹脂が各貫通孔16に侵入しても、この発泡合成樹脂が各貫通孔16を通って挿入穴12の内周面まで到達し得ない大きさとなっているので、このEA材本体2の発泡成形時に各貫通孔16が該発泡合成樹脂により埋まってしまうことが防止され、各貫通孔16を、クリップ係止用突起21の各爪部23が係合する係合部15として機能させることが可能である。
【0074】
この発泡合成樹脂が硬化した後、上型41と下型42とを型開きしてEA材本体2及び各クリップ10を脱型する。各クリップ10は、各々のフランジ部14が該EA材本体2のドアトリム20との対峙面に露出したものとなっている。このフランジ部14の中央に挿入穴12が開口している。脱型後、必要に応じバリ取り等の仕上げ作業を行うことにより、EA材1が完成する。
【0075】
次に、このEA材1のドアトリム20への取付構造について説明する。
【0076】
前述の通り、ドアトリム20のEA材取付面には、EA材1の各クリップ10とそれぞれ対応する位置関係にてクリップ係止用突起21が設けられている。第4図(a)〜(c)の通り、この実施の形態では、該クリップ係止用突起21は、ドアトリム20のEA材取付面から立設された2個の突出部22を備えている。第4図(c)の通り、これらの突出部22は、それぞれ、挿入穴12に挿入されたときに該挿入穴の内周面の各湾曲部12bに対峙する位置に配置されている。また、これらの突出部22は、相互間に所定の間隔をあけて配置されている。これらの突出部22は、弾性を有した合成樹脂により形成されており、該突出部22,22同士は互いに接近方向に弾性的に変形可能となっている。なお、この実施の形態では、該突出部22はドアトリム20と同一の材料により一体に形成されている。
【0077】
この実施の形態では、ドアトリム20のEA材取付面からの各突出部22の突出高さは、第4図(a)の通り、クリップ本体11の筒軸心線方向の長さと実質的に同一か、それよりも若干小さいものとなっている。具体的には、各突出部22の突出高さは、クリップ本体11の筒軸心線方向の長さの85〜95%特に85〜90%程度であることが好ましい。これにより、クリップ10のフランジ部14がドアトリム20のEA材取付面に当接するまで各突出部22を挿入穴12に挿入した状態において、各突出部22の先端がクリップ本体11のアンカー部13側の端面から突出しないようになっている。
【0078】
第4図(b)の通り、各突出部22の側面には、それぞれ、側方(突出部22のEA材取付面からの突出方向と直交方向)へ張り出す爪部23が設けられている。突出部22,22同士の間では、爪部23,23同士は、互いに反対方向に張り出している。この実施の形態では、各爪部23は、第4図(a),(b)の通り、各突出部22の先端側ほど該突出部22の側面からの張り出し高さが小さくなるテーパ形状となっている。
【0079】
なお、クリップ係止用突起21の構成はこれに限定されるものではない。例えば、挿入穴12の各平坦部12a及び各湾曲部12bの4面全てに貫通孔16が設けられている場合には、クリップ係止用突起21は、これらの平坦部12a及び湾曲部12bにそれぞれ対面するように配置された4個の突出部22と、これらの突出部22から各貫通孔16に係合するように側方へ張り出した4個の爪部23とを有した構成とされてもよい。
【0080】
EA材1をドアトリム20に取り付ける場合、ドアトリム20の各クリップ係止用突起21を対応するEA材1の各クリップ10の挿入穴12に挿入しつつ、EA材1をドアトリム20に押し付ける。この際、各クリップ係止用突起21においては、各爪部23が挿通穴12の内周面に押し付けられることにより、突出部22,22同士が接近方向に撓みながら該挿入穴12に差し込まれる。そして、第4図(a)の通り、クリップ10のフランジ部14がドアトリム20のEA材取付面に当接するまで突出部22,22が挿入穴12に差し込まれると、各爪部23が各貫通孔16に達する。これにより、突出部22,22同士を接近方向に撓ませていた力が解除されて該突出部22,22がそれぞれ元形状に復帰し、これにより各爪部23が各貫通孔16に入り込んで該貫通孔16の縁部(即ち係合部15)に係合する。これにより、各クリップ10が各クリップ係止用突起21に係止され、EA材1がドアトリム20に取り付けられる。
【0081】
<クリップ10の作用効果>
前述の通り、本発明のクリップ10にあっては、この係合部15は、筒状のクリップ本体11をその外周側から挿入穴12まで貫通した貫通孔16により形成されている。即ち、このクリップ10は、挿入穴12内にアンダーカット部を有していない。そのため、このクリップ10は、第2図(a)〜(c)のような簡易な構造の金型30を用いた射出成形等により容易に製造することができる。
【0082】
また、本発明のクリップ10にあっては、挿入穴12の内周面に、該挿入穴12の内方へ張り出す段部も形成されていない。そのため、第3図(a),(d)の通り、EA材本体2を発泡成形するに際し、EA材成形用金型40のクリップ固定用突起43を該挿入穴12に挿入してクリップ10を該EA材成形用金型40に取り付けたときに、このクリップ固定用突起43の軸部43aの外周面を挿入穴12の内周面に密着させることが可能である。これにより、クリップ本体12のアンカー部13側の端面に封体を設けて挿入穴12を塞がなくても、EA材本体2の成形時に発泡合成樹脂がこの挿入穴12とクリップ固定用突起43との間に侵入することを防止することができる。
【0083】
このように、本発明にあっては、クリップ10を比較的簡易な構造の金型30を用いて製造することが可能であり、且つ挿入穴12を塞ぐ封体を設けることを不要とすることが可能であるため、クリップ10を低コストにて構成することが可能である。
【0084】
本発明では、このクリップ本体11の少なくとも各貫通孔16の周囲部分の肉厚Tは、EA材本体2の成形時にクリップ本体11の外周側から各貫通孔16に侵入した発泡合成樹脂が挿入穴12の内周面まで到達し得ない大きさとなっているので、EA材本体2の成形時に仮に各貫通孔16に発泡合成樹脂が侵入しても、この発泡合成樹脂により各貫通孔16が埋まってしまうことが防止されるため、各貫通孔16を、クリップ係止用突起21の爪部23が係合する係合部15として機能させることが可能である。これにより、クリップ本体11の外周側から各貫通孔16を塞ぐように封体等を設けることが不要であり、クリップ10の構成を簡易化することが可能である。
【0085】
上記の通り、経験則上、このクリップ本体11の少なくとも各貫通孔16の周囲部分の肉厚Tを、好ましくは該クリップ本体11の筒軸心線方向における各貫通孔16の最大幅Hの60〜200%特に好ましくは100〜150%、とりわけ好ましくは該最大幅Hと実質的に同一の大きさとすることにより、EA材本体2の成形時に、仮に各貫通孔16に発泡合成樹脂が侵入しても、この発泡合成樹脂が各貫通孔16を通って挿入穴12の内周面まで到達することを防止することが可能である。
【0086】
この実施の形態では、クリップ本体11の一端側に、該クリップ本体11の外周面から放射方向に張り出すアンカー部13が設けられており、このアンカー部13がEA材本体2に埋設されているので、クリップ10のEA材本体2からの抜け留め効果が高い。
【0087】
かかる本発明のクリップ10を備えたEA材1は、比較的低コストにて製造することが可能である。
【0088】
本発明では、EA材1を製造する際に、EA材成形用金型40のクリップ固定用突起43をクリップ10の挿入穴12に挿入して該クリップ10をEA材成形用金型40の内面に取り付けたときに、このクリップ固定用突起43の外周面を挿入穴12の内周面に密着させるため、挿入穴12の端面を封体で塞がなくても、EA材本体2の成形時に発泡合成樹脂がこの挿入穴12とクリップ固定用突起43との間に侵入することが防止される。
【0089】
本発明のEA材1の取付構造にあっては、ドアトリム20のクリップ係止用突起21をクリップ10の挿入穴12に挿入して係合部15に係合させることにより、簡単にEA材1をドアトリム20に取り付けることができる。
【0090】
この実施の形態では、このクリップ係止用突起21に、側方へ張り出す爪部23を設け、この爪部23をクリップ10の係合部15(貫通孔16)に係合させているので、クリップ10をしっかりとクリップ係止用突起21に係止することができる。
【0091】
上記実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態をもとりうる。
【0092】
上記の実施の形態は、EA材及びその取付用クリップ、並びにそのドアトリムへの取付構造への本発明の適用例を示しているが、本発明は、これ以外の発泡成形部材及びその取付用クリップ、並びにその取付構造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 EA材(発泡成形部材)
2 EA材本体(発泡成形体)
10 クリップ
11 クリップ本体
12 挿入穴
13 アンカー部
14 フランジ部
15 係合部
16 貫通孔
20 ドアトリム(被取付部材)
21 クリップ係止用突起
22 突出部
23 爪部
30 クリップ成形用金型
35 貫通孔形成用凸部
36 挿入穴形成用凸部
40 EA材成形用金型
43 クリップ固定用突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡成形体を被取付部材に取り付けるためのクリップであって、
該被取付部材に設けられたクリップ係止用突起が挿入される挿入穴を有した筒状のクリップ本体と、
該挿入穴の内周面に設けられた、該クリップ係止用突起が係合する係合部と
を備えており、
該挿入穴は、該クリップ本体をその筒軸心線方向に貫通しており、
少なくとも該クリップ本体の筒軸心線方向の一端側が該発泡成形体に埋設されるようにして該発泡成形体と一体化されるクリップにおいて、
該係合部は、該クリップ本体を外周側から該挿入穴まで貫通した貫通孔よりなり、
該クリップ本体の少なくとも該貫通孔の周囲部分の肉厚は、該発泡成形体の成形時に該クリップ本体の外周側から該貫通孔に侵入した該発泡成形体の発泡成形材料が該挿入穴の内周面まで到達し得ない大きさとなっていることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
請求項1において、前記クリップ本体の少なくとも前記貫通孔の周囲部分の肉厚は、該クリップ本体の筒軸心線方向における該貫通孔の最大幅の60〜200%であることを特徴とするクリップ。
【請求項3】
請求項2において、前記クリップ本体の少なくとも前記貫通孔の周囲部分の肉厚は、該クリップ本体の筒軸心線方向における該貫通孔の最大幅の100〜150%であることを特徴とするクリップ。
【請求項4】
請求項3において、前記クリップ本体の少なくとも前記貫通孔の周囲部分の肉厚は、該クリップ本体の筒軸心線方向における該貫通孔の最大幅と実質的に同一の大きさであることを特徴とするクリップ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記クリップ本体は、合成樹脂の射出成形品よりなることを特徴とするクリップ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記クリップ本体の前記一端側に、該クリップ本体の外周面から放射方向に張り出すアンカー部が設けられていることを特徴とするクリップ。
【請求項7】
発泡成形体と、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のクリップと
を有し、
該クリップは、少なくとも前記クリップ本体の筒軸心線方向の一端側が該発泡成形体に埋設されることにより該発泡成形体と一体化されていることを特徴とする発泡成形部材。
【請求項8】
請求項7に記載の発泡成形部材を製造するための方法であって、
発泡成形体成形用金型の内面に設けられたクリップ固定用突起を前記挿入穴に挿入して前記クリップを該発泡成形体成形用金型の内面に取り付けるクリップ取付工程と、
該発泡成形体成形用金型内で前記発泡成形体を発泡成形する発泡成形工程と
を有しており、
該クリップ固定用突起は、該挿入穴に挿入された状態において、その外周面が該挿入穴の内周面に密着するように構成されていることを特徴とする発泡成形部材の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の発泡成形部材を被取付部材に取り付けた構造であって、
該被取付部材にクリップ係止用突起が設けられており、
該クリップ係止用突起が前記クリップの前記挿入穴に挿入されて前記係合部に係合したことにより、該発泡成形部材が該被取付部材に取り付けられている発泡成形部材の取付構造。
【請求項10】
請求項9において、前記クリップ係止用突起は、前記被取付部材から突出した突出部と、該突出部から側方へ張り出した爪部とを備え、該爪部が前記係合部に係合していることを特徴とする発泡成形部材の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−37001(P2012−37001A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178879(P2010−178879)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】