説明

真空ポンプ装置

【課題】1本の動力系ラインを並列接続された複数の配線に分岐した構成において、複数の配線の断線を検出することができる真空ポンプ装置。
【解決手段】U相ラインの配線は2つの配線UL1,UL2に分岐され、コネクタC2の2本のコネクタピンにそれぞれ接続されている。各配線UL1,UL2には、モニタ用の抵抗RMが設けられている。並列配線されたU相配線UL1,UL2間には比較回路202Uが設けられており、比較回路202Uにより配線UL1,UL2が断線したときの抵抗RMの電圧ドロップを検出する。その結果、分岐された配線の断線によるコネクタピンの定格電流超過の発生や、配線の定格を超えた使用を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプユニットと電源ユニットとそれらの間を接続するケーブルとで構成され真空ポンプ装置ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気浮上型のターボ分子ポンプは、ポンプユニットと電源ユニットとそれらの間を接続するケーブルとで構成されている。磁気浮上型ターボ分子ポンプでは、モータへの動力供給系配線と磁気浮上系の信号制御系配線とが必要であるが、動力系と信号系のコネクタを分離して別々のケーブルとするとコストアップとなるため、それらの配線を一本のケーブルにまとめる従来技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、規格品のコネクタにおいては、各コネクタピンは同一電流定格になっており、動力系と信号制御系とに応じて電流定格の異なるピンを一つのコネクタに用意しようとすると、特注品となってコストアップの要因となってしまう。そのため、コネクタの大型化・コスト高を招かないように信号制御系の電流定格に合わせたコネクタを選定し、動力系のラインを複数に分岐して複数のピンを使用することで、同一電流定格のピンで動力系と信号制御系のケーブルを一本にまとめる場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−052727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、信号制御系に合わせた電流定格のコネクタピンに動力系ラインを分岐して並列接続した場合、並列配線の一部が断線したときに他の配線の電流が増加し、配線の定格を超えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、真空排気を行うポンプユニットと、ポンプユニットを駆動制御する電源ユニットと、モータ駆動電力供給ラインと信号制御ラインとを含み、前記電源ユニットおよび前記ポンプユニットを接続するケーブルとを備える真空ポンプであって、モータ駆動電力供給ラインを構成する配線の各々を、並列接続した複数の分岐配線で構成し、分岐配線の断線を検出する断線検出回路を設けたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の真空ポンプ装置において、断線検出回路の検出情報に基づいて、電源ユニットに警報動作を行わせる警報装置を備えたものである。
請求項3の発明は、請求項2に記載の真空ポンプ装置において、電源ユニットは排気性能の異なる複数種類のポンプユニットに接続可能であって、電源ユニットに接続されたポンプユニットの種類に応じた警報動作を行わせるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、断線検出回路により並列接続した複数の分岐配線の断線を検出することができるので、分岐配線の断線に対して適切に対処することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明による真空ポンプ装置の一実施の形態を示す図であり、磁気浮上型ターボ分子ポンプの概略構成を示すブロック図である。ターボ分子ポンプは、ポンプユニット1と電源ユニット2とそれらを接続するケーブル10とから構成されている。
【0009】
ポンプユニット1には、回転翼が形成されたロータが設けられており、ロータは磁気軸受5により非接触支持されるとともにモータ6により回転駆動される。モータ6には、例えば3相モータが用いられる。ロータの回転状態は回転センサにより検出される。また、磁気軸受5によって磁気浮上されたロータの浮上位置は、変位センサにより検出される。なお、図1に示したセンサ類3には、上述した回転センサおよび変位センサの他に、温度センサや断線検出センサなどが含まれている。
【0010】
一方、電源ユニット2には、モータ6に供給される駆動電力を制御するモータドライブ回路201と、ロータが所定浮上位置に支持されるように磁気軸受5に供給される励磁電流を制御する軸受ドライブ回路8と、センサ類3からのセンサ信号が入力されるセンサ回路9と、制御回路7とを備えている。モータドライブ回路201および軸受ドライブ回路8は、センサ回路9からの回転情報および浮上位置情報に基づいて、モータ駆動電流および励磁電流をそれぞれ制御する。ケーブル10には、信号制御ラインを構成するセンサ信号ライン102および軸受制御ライン103と、モータ駆動電力供給ライン104とが設けられている。
【0011】
図2は、モータ6に駆動電力を供給するモータ駆動電力供給ライン104の詳細を示す図である。モータ6のU相巻線,V相巻線およびW相巻線には、電源ユニット2に設けられたモータドライブ回路201から駆動電流iが供給される。C1およびC2はモータユニット1および電源ユニット2に設けられたコネクタであり、本実施の形態では、信号制御ライン102,103の電流に合わせた電流定格のコネクタピンが複数設けられている。
【0012】
モータドライブ回路201からのU相ラインの配線は2つの配線UL1,UL2に分岐され、コネクタC2の2本のコネクタピンにそれぞれ接続されている。各配線UL1,UL2には、モニタ用の抵抗RMが設けられている。並列配線されたU相配線UL1,UL2間には比較回路202Uが設けられており、この比較回路202Uにより配線UL1,UL2が断線したときの抵抗RMの電圧ドロップを検出する。通常、モータドライブ回路201はプリント基板上に実装されるので、抵抗RMおよび比較回路202Uもそのプリント基板上に設けることが可能である。
【0013】
各配線UL1,UL2は、コネクタピンを介してケーブル10の配線UC1,UC2に接続される。また、ケーブル10の配線UC1,UC2は、コネクタC1の2本のコネクタピンを介しポンプユニット1各の配線UP1,UP2に接続されている。ケーブル10の配線UC1,UC2は、長さに応じた抵抗値Rcを有している。配線UP1,UP2はポンプユニット1内で1本にまとめられ、モータ6のU相巻線に電流iを供給するようになっている。他のV相ラインおよびW相ラインもU相ラインと同様の構成を有しており、それぞれ比較回路202V,202Wおよびモニタ用抵抗RMを備えている。
【0014】
比較回路202U,202V,202Wから出力される比較結果はCPU203に入力され、モータ駆動制御等のポンプ制御に利用される。CPU203には警報部204が接続されており、U,VおよびW相ラインのいずれかに断線が検出されたならば、警報部204により警報を発する。例えば、電源ユニット2に設けられている表示装置に異常警告表示を表示したり、電源ユニット2の外部に異常警告信号を出力したりする。
【0015】
図3はU相の断線判定を説明する図であり、(a)は断線がない場合を説明する図であり、(b)は断線が発生した場合を説明する図である。ここでは、U相からV相へ電流を流す際のU相を例に説明する。ここでは、U相ラインの配線UL1,UL2,UC1,UC2と同様に、V相ラインに関する配線をそれぞれVL1,VL2,VC1,VC2とする。また、配線UL1,UL2,VL1,VL2に設けられるモニタ用抵抗RMをそれぞれRMU1,RMU2,RMV1,RMV2とし、配線UC1,UC2,VC1,VC2の抵抗をRCU1,RCU2,RCV1,RCV2とする。
【0016】
断線がない場合のドライブ電流をi、図3(a)のA点での電圧をVとすると、配線UL1のB点での電圧は、モニタ用抵抗RMU1による電圧降下がRMU1×i/2なので、V−i・RMU1/2になる。RMU1=RMU2と設定すれば、B点とC点とは同電位となる。また、D点の電位は抵抗RCU1による電圧降下により、V−i・(RMU1+RCU1)/2となり、E点も同電位である。
【0017】
一方、図3(b)に示すようにC点のすぐ下流が断線した場合、抵抗RMU1で電圧降下はi・RMU1になるので、B点の電圧はV−i・RMU1となる。また、D点での電圧はV−i・(RMU1+RCU1)となる。また、C点近くの下流での断線発生により、モニタ抵抗RMU2には電流が流れず電圧降下が生じないので、C点の電位はA点の電位と同じVになる。このように、断線がない場合にはB点とC点との間に電位差は生じないが、断線時にはi・RMU1の電位差が生じるため、その電位差を比較回路202Uで検出することで断線検出が可能となる。
【0018】
なお、C点より上流の回路はプリント基板上に構成されるので、断線は生じにくいと考えることができる。また、C点の近くの下流で断線が発生した場合を例に説明したが、ケーブル10中で断線が生じたり、E点のようなポンプユニット1内部の箇所に断線が生じたりした場合でも、同様に断線判定を行うことができる。
【0019】
このような断線検出のための電位差の検出には、比較回路202として図4に示すようにコンパレータ回路を使用することが考えられる。使用電圧が高電圧の場合には、コンパレータに信号として直接取り込むことはできないので、分圧をして信号レベルの電圧に変換する。そして、コンパレータ202Uで検出信号を作成し、直接CPU203に取り込めるレベルに変換するようにしている。
【0020】
C点のすぐ下流で断線した場合、B点での電圧は、V−i・RMU1=100−10×0.2=98(V)となる。C点の電位は、電圧降下が生じないので100(V)である。F点では、1M(Ω)と47k(Ω)の抵抗を用いて分圧するので、F点の電位は98×47k/(47k+1M)=4.4(V)となる。同様に、G点の電位は100×47k/(47k+1M)=4.5(V)となる。F点とG点の電位差をコンパレータ202Uで検出し、それを断線信号としてCPU203に取り込む。CPU203は、コンパレータ202Uからの断線信号に基づいて、以下のような制御動作を行う。
【0021】
上述したように、本実施の形態では、モータ6に駆動電力を供給する動力系ラインの各配線(U,V,W相)を、2本の配線に分岐し2本のコネクタピンに接続するようにして、信号制御系の電流定格に合わせて設定されたコネクタピンの定格より小さくなるようにしたので、コネクタの大型化およびコストアップを抑制することができる。さらに、2つに分岐された配線間に比較回路202U,202V,202Wを設けて、その差分信号により断線の判定を行うことで、一部の配線の断線によるコネクタピンの定格電流超過の発生や、配線の定格を超えた使用を防止することができる。例えば、比較回路202U,202V,202Wの信号に基づいて、配線やコネクタピンの定格を超過しないようにモータ駆動電流を制限したり、警報部204による警報の発生を行わせたりする。
【0022】
ターボ分子ポンプの場合、一般的に、容量の異なる複数種類のポンプユニット1に対して同一タイプの電源ユニットが用いられる。そのため、大型のポンプユニットを使用した場合、1本でも断線が発生すると残りの配線が定格超過となってしまうが、本実施の形態によればモータ駆動電流を制限したり、モータ駆動を停止したりするとともに、異常発生をユーザに知らせることで適切な対応を迅速に行うことができる。
【0023】
また、接続されたポンプユニットの大きさの違いをソフトで判別して、断線発生時のアラーム制御動作をポンプユニットに応じて変えるようにしてもよい。例えば、モータ駆動電力の大きなポンプユニットの場合は停止動作を行い、断線が発生してもコネクタピンの定格に対して余裕があるモータ駆動電力の小さなポンプユニットの場合には、警報のみを発生する。
【0024】
上述した実施の形態では、各相の出力を2つの配線に分岐する場合について説明したが、3以上に分岐する場合も同様である。例えば、4つの配線に分岐する場合には、図5に示すように比較回路202a〜202cを多段構成とすることで、配線UL1〜UL4の断線を検出することができる。一般に、n本の配線に分岐する構成でk本目(モニタ用抵抗RMUk)の配線が断線した場合、断線のない場合のとの電位差はi・RMUk・(n−1)/nと表せる。
【0025】
なお、上述した実施の形態では、動力供給系配線と信号制御系配線とを有する真空ポンプ装置として磁気浮上型のターボ分子ポンプを例に説明したが、例えば、磁気浮上型のドラッグポンプのような真空ポンプ装置にも本発明は適用できる。
【0026】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、センサ信号ライン102および軸受制御ライン103は信号制御ラインを、配線UL1〜UL4,VL1,VL2,UC1,UC2,VC1,VC2,UP1,UP2は分岐配線を、比較回路202U,202V,202W,202a〜202cは断線検出回路をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による真空ポンプ装置の一実施の形態を示す図であり、磁気軸受式ターボ分子ポンプの概略構成を示すブロック図である。
【図2】モータ6に駆動電力を供給するモータ駆動電力供給ライン104の詳細を示す図である。
【図3】U相の断線判定を説明する図であり、(a)は断線がない場合を示し、(b)は断線が発生した場合を示す。
【図4】比較回路202Uの具体例を示す図である。
【図5】4つの配線UL1〜UL4に分岐する場合の比較回路の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1:ポンプユニット、2:電源ユニット、3:センサ類、5:磁気軸受、6:モータ、8:軸受ドライブ回路、9:センサ回路、10:ケーブル、102:センサ信号ライン、103:軸受制御ライン、104:モータ駆動電流供給ライン、201:モータドライブ回路、202U,202V,202W,202a〜202c:比較回路、203:CPU、204:警報部、UL1〜UL4,VL1,VL2,UC1,UC2,VC1,VC2,UP1,UP2:配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気を行うポンプユニットと、
前記ポンプユニットを駆動制御する電源ユニットと、
モータ駆動電力供給ラインと信号制御ラインとを含み、前記電源ユニットおよび前記ポンプユニットを接続するケーブルとを備える真空ポンプ装置であって、
前記モータ駆動電力供給ラインを構成する配線の各々を、並列接続した複数の分岐配線で構成し、
前記分岐配線の断線を検出する断線検出回路を設けたことを特徴とする真空ポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプ装置において、
前記断線検出回路の検出情報に基づいて、前記電源ユニットに警報動作を行わせる警報装置を備えたことを特徴とする真空ポンプ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプ装置において、
前記電源ユニットは排気性能の異なる複数種類の前記ポンプユニットに接続可能であって、
前記警報装置は、前記電源ユニットに接続された前記ポンプユニットの種類に応じた前記警報動作を行わせることを特徴とする真空ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−184904(P2008−184904A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16408(P2007−16408)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】