説明

磁性シート及びその製造方法

【課題】 特に、基板上に高抵抗軟磁性膜(Fe−M−O)をスパッタ成膜して成るRFID用あるいは電磁波抑制用としての磁性シート及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 RFIDタグ2と、金属部材3との間に磁性シート4が挿入されている。前記磁性シート4には、樹脂シートに、A−M−O(ただし元素AはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Caのうち少なくともいずれか一種を表す)から成り、元素MとOの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeまたはCoから選ばれる一種または二種を主体とした平均結晶粒径30nm以下の微結晶相との膜構造で形成された高抵抗軟磁性膜がスパッタ成膜されている。これにより効果的にRFID特性の向上を図ることができるともに薄型化に貢献できる。またFe−M−O膜に対して熱処理を施す必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDデバイスや電磁波抑制体に用いられる磁性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency ID)タグの需要は、非接触ICカードの普及や携帯電話等への搭載により拡大している。
【0003】
前記RFIDタグは、情報を記録するICチップと、金属製のアンテナを備え、リーダライタとの間で無線通信を可能としている。
【0004】
しかしながら前記RFIDタグの近傍に金属がある場合、前記リードライタからの磁界により前記金属に渦電流が生じ、前記渦電流による反磁界が、無線通信に必要な磁界をキャンセルしてしまう問題があった。
【特許文献1】特開平4−48707号公報
【特許文献2】特開平6−316748号公報
【特許文献3】特開平4−144210号公報
【特許文献4】特開平11−186035号公報
【特許文献5】特開2004−221522号公報
【特許文献6】特開2004−259787号公報
【非特許文献7】日本金属学会誌57、1301(1993)
【非特許文献8】日本応用磁気学会誌18、750(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって上記した問題を解決すべく、磁性シートを、前記金属と、前記RFIDタグとの間に挿入すると、磁性シートが前記リードライタからの磁束をRFIDタグ側に引き寄せて、リードライタのアンテナとRFIDタグのアンテナ間に磁束を貫通させることができ、前記RFIDタグのアンテナにて受信した信号出力の減衰量を小さくできRFID特性の向上を図ることができる。
【0006】
しかしながら従来では、RFID用磁性シートとして必要な複素比透磁率の実数部μ´及び比抵抗ρを満たした高抵抗軟磁性膜をシート上に物理蒸着法にて成膜(例えば金属蒸着、スパッタ成膜、イオンビームデポジション)してなるRFID用磁性シートは存在しなかった。
【0007】
上記特許文献1〜6はいずれもRFID用磁性シートとして用いられるものでなく、当然に上記したRFIDの従来課題の認識はなく、従来課題を解決するために磁性スパッタ膜に対する調整は何らなされていない。
【0008】
また例えば特許文献3にあるように、通常、磁性膜に対して熱処理(アニール)を施さないと良好な軟磁気特性を得ることができず、よって複素比透磁率の実数部μ´を大きくできないため、良好な軟磁気特性を得るには熱処理を必要としたが、樹脂シートの材質が限定されてしまい、あるいは樹脂シートが熱に曝された際の熱変形により寸法精度が低下する問題が生じた。
【0009】
さらに従来では、複素比透磁率の実数部μ´を十分に大きくすることが困難であり、したがってRFID用磁性シートを挿入したことによるRFID特性の向上を効果的に図るには、前記磁性膜の膜厚を厚くする必要があった。あるいは、従来ではバルクのフェライト材を使用したり、軟磁性粉末(例えばFe−Al−Si合金であるセンダスト(登録商標))を樹脂に混合してシート状にしたものをRFID用として用いていたため、さほど大きい複素比透磁率の実数部μ´を得られなくても、RFID用磁性シートとして使用することができた。従来では、磁性粉末を含む樹脂シートの膜厚は、磁性体の濃度を大きくすることができないため大きな体積を必要とし、少なくとも100μm以上あった。しかし、このように膜厚の厚い磁性シートを、RFIDタグと金属との間に挿入すると、RFIDデバイスの薄型化に支障をきたした。
【0010】
また磁性シートは、携帯電話やパーソナルコンピュータ等のノイズ対策として内蔵される電磁波抑制体として用いることも出来る。
【0011】
電磁波抑制特性(ノイズ抑制効果)を向上させるには、100MHz以上の高周波帯域で、電磁波抑制体の複素比透磁率の虚数部μ″を大きくすることが必要であり、また、比抵抗ρも大きくなければならない。
【0012】
しかしながら従来では、複素比透磁率の虚数部μ″及び比抵抗ρが大きい高抵抗軟磁性膜をシート上にスパッタ成膜してなる電磁波抑制体は存在しなかった。
【0013】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、基板上に高抵抗軟磁性膜(Fe−M−O)をスパッタ成膜して成るRFID用あるいは電磁波抑制用としての磁性シート及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における磁性シートは、基板上に、A−M−O(ただし元素AはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Caのうち少なくともいずれか一種を表す)から成り、元素MとOの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeまたはCoから選ばれる一種または二種を主体とした平均結晶粒径30nm以下の微結晶相との膜構造で形成された磁性膜が物理蒸着法により成膜されてなることを特徴とするものである。
【0015】
上記により本発明では、RFID用や電磁波抑制用として、優れた軟磁気特性を備える磁性シートを得ることが出来る。
【0016】
本発明では、前記基板は、携帯電話やノートPC等の携帯機器の樹脂製筐体等も含む可撓性の樹脂シートであり、前記磁性膜の膜構造を、熱処理することなく形成できる。これにより、前記樹脂シートを熱に曝すことがなくなり、寸法精度に優れた磁性部材を形成できるとともに、前記樹脂シートの材質の選択性を広げることができる。
【0017】
また本発明では、前記磁性膜は、元素AがFeであり、組成式がFeabcから成り、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Mの組成比が7.95〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。アモルファス相中にFeを主体とした微結晶相が点在する混相構造で形成できる。
【0018】
本発明では、元素MはHfであり、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Hfの組成比bが11.40〜15.74at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
あるいは本発明では、元素MはAlであり、元素Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内、元素Alの組成比bが9.79〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。
【0020】
または本発明では、元素MはZrであり、元素Oの組成比cが、8.11〜9.29at%の範囲内、元素Zrの組成比bが7.95〜8.36at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。
【0021】
前記磁性シートはRFIDデバイスに用いられる。このとき、前記磁性膜の膜厚は、0.5〜15μmの範囲内であることが好ましい。このように本発明では、前記磁性膜の膜厚を15μm以下の薄い膜厚にしてもRFID特性の指標となるRFID用デバイスのアンテナからの受信信号の減衰量を効果的に小さくできるが、前記磁性膜の膜厚を0.5μmより薄くすると前記減衰量が大きくなってしまうため、前記磁性膜の膜厚を0.5〜15μmの範囲に設定している。
【0022】
また前記磁性シートを電磁波抑制体に用いることも出来る。
本発明における磁性シートの製造方法は、
基板上に、A−M−O(ただし元素AはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)から成る磁性膜を物理蒸着法により成膜するとき、不活性ガスとO2ガスとの混合ガスのガス圧を0.5mTorr〜6mTorrの範囲内で調整し、元素MとOの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeまたはCoから選ばれる一種または二種を主体とした平均結晶粒径30nm以下の微結晶相との膜構造を形成することを特徴とするものである。
【0023】
上記のように、ガス圧を調整することで、アモルファス相と微結晶相との膜構造を形成でき、良好な軟磁気特性を得ることが出来る。
【0024】
本発明では、前記磁性膜は、元素AがFeであり、組成式がFeabcから成り、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Mの組成比が7.95〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜することが好ましい。
【0025】
また本発明では、元素MはHfであり、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Hfの組成比bが11.40〜15.74at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜することが好ましい。
【0026】
あるいは本発明では、元素MはAlであり、元素Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内、元素Alの組成比bが9.79〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜することが好ましい。
【0027】
または本発明では、元素MはZrであり、元素Oの組成比cが、8.11〜9.29at%の範囲内、元素Zrの組成比bが7.95〜8.36at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、RFID用あるいは、電磁波抑制用として優れた軟磁気特性を備える磁性シートを得ることができる。
【0029】
また前記磁性膜の膜構造を、熱処理することなく形成できるため、前記磁性膜を支持する樹脂シートを熱に曝すことがなくなり、寸法精度に優れた磁性部材を形成できるとともに、前記樹脂シートの材質の選択性を広げることができる。
【0030】
また磁性膜を物理蒸着法により成膜するとき、不活性ガスとO2ガスとの混合ガスのガス圧を適正化することで、アモルファス相と微結晶相との膜構造を形成でき、良好な軟磁気特性を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、RFIDデバイス及びリードライタの模式図、図2は本発明の実施形態の磁性シートの斜視図、図3はFe−M−O膜の膜構造の模式図である。
【0032】
図1に示すようにRFID(Radio Frequency ID)デバイス1は、アンテナ及びICチップを備えるRFIDタグ2と、金属部材3と、前記RFIDタグ2と前記金属部材3との間に挿入された磁性シート4とを有して構成される。
【0033】
前記RFIDタグ2は、基板上に前記アンテナ及びICチップが形成された形態である。
【0034】
前記金属部材3は例えば筐体の一部を成しており、Al、Ti、Cr等で形成される。前記金属部材3の膜厚T1は、0.05〜0.5mm程度である。
【0035】
前記RFIDタグ2と前記金属部材3との間に挿入される磁性シート4は、図2に示すように樹脂シート5上に磁性膜6がスパッタ成膜されたものである。
【0036】
前記磁性膜6は、A−M−O(ただし元素AはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)から成る。
【0037】
ここで、前記磁性膜6は、A−M−O膜の元素AがFeであり、FeaMbOcの組成式からなり、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Mの組成比bが7.95〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす高抵抗軟磁性膜である。
【0038】
また本実施形態では、元素MはHfであり、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Hfの組成比bが11.40〜15.74at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を50以上、比抵抗ρを200(μΩ・cm)以上に設定できる。また元素Oの組成比cを、27.08〜47at%、元素Hfの組成比bを11.40〜15.74at%とすることがより好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を400以上、比抵抗ρを300(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0039】
あるいは本実施形態では、元素MはAlであり、元素Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内、元素Alの組成比bが9.79〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を50以上、比抵抗ρを200(μΩ・cm)以上に設定できる。また本実施形態では、元素Oの組成比cを、12.20〜16.75at%、Hfの組成比bを12.68〜15.17at%とすることがより好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を300以上、比抵抗ρを300(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0040】
または本実施形態では、元素MはZrであり、元素Oの組成比cが、8.11〜9.29at%の範囲内、Zrの組成比bが7.95〜8.36at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を100以上、比抵抗ρを250(μΩ・cm)以上に設定できる。また本実施形態では、元素Oの組成比cを、8.11〜9.27at%、Hfの組成比bを7.95〜8.36at%とすることがより好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を800以上、比抵抗ρを250(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0041】
また、前記磁性膜6は、金属部材3ではなく、携帯電話、ノートPC等の樹脂製の筐体に直接成膜しても良い。
【0042】
以降本発明の磁性膜を、Fe−M−O膜6という表記で代表させた。
Fe−M−O膜6は、図2に示すように前記樹脂シート5上の全面にスパッタ成膜される形態のほかに、部分的に、例えば、前記樹脂シート5の縁部を残して、前記樹脂シート5の中央部分のみに形成されてもよい。ただし、図1のように磁性シート4とRFIDタグ2とを重ねたときに、前記Fe−M−O膜6が前記RFIDタグ2上の全面を完全に覆う程度の大きさで形成されることが好適である。また、樹脂シート5は携帯電話やノートPC等の携帯機器の樹脂筐体であっても良い。
【0043】
前記Fe−M−O膜6は、スパッタ成膜中、あるいはスパッタ成膜後に熱処理を施すことなく形成されたものであり、このように非熱処理においても、図3に示すように、元素MとOの化合物を含むアモルファス相7と、前記アモルファス相7中に点在するFeを主体とした微結晶相8との混相構造で形成されている。前記微結晶相8の平均粒径を30nm以下にでき、また前記微結晶相8の結晶構造をbcc構造にできる。前記微結晶相8は、bcc構造に限定されずhcp構造、fcc構造でもよい。前記微結晶相8は、元素AにCo、あるいは元素AにFe及びCoを選択したときは、Co、あるいは、Fe及びCoを主体とした平均結晶粒径30nm以下の微結晶相である。
【0044】
前記アモルファス相7は、元素Mの酸化物を多量に含み、そのほか、FeOやFe23も含むと考えられる。元素MがHfの場合、前記アモルファス相7にはHfO2が多量に含まれていると考えられる。
【0045】
前記Fe−M−O膜6における上記の膜構造は、ナノグラニュラー合金とは異なる。ナノグラニュラーは、強磁性微粒子と強磁性微粒子間に絶縁物等の粒界物質が介在する構成である。一方、前記Fe−M−O膜6におけるアモルファス相7は、微結晶相8間の粒界だけに存在しない。上記したように前記Fe−M−O膜6は、アモルファス相7中に微結晶相8が点在した混相構造となっている。後述するX線回折スペクトルでもアモルファス相7の存在とはっきりと見て取れる。
【0046】
前記Fe−M−O膜6中に含まれるアモルファス相7は体積比率で20〜80%程度であることが好適である。
【0047】
上記したFe−M−O膜6は、軟磁気特性に優れる。例えば、複素比透磁率の実数部μ´を50以上、好ましくは300以上、より好ましくは400以上にでき、また比抵抗ρを200(μΩ・cm)以上、好ましくは300(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0048】
本実施形態では、前記Fe−M−O膜6の膜厚T2(図2参照)を従来における樹脂に磁性粉末を分散させたRFID用磁性シートよりも薄い厚さで形成できる。具体的には、磁性体を樹脂に分散させる必要がなく、前記Fe−M−O膜6のみで形成できるため膜厚T2を100μmより薄い膜厚で形成できる。また上記のように前記Fe−M−O膜6の複素比透磁率の実数部μ´を50以上、好ましくは300以上や400以上に高くでき、よって後述する実験で示すように、前記Fe−M−O膜6の膜厚T2を100μmより十分に薄くしても、受信信号の減衰量を左右する複素比透磁率の実数部μ´×磁性膜の膜厚tを比較的大きくできる。本実施形態では、Fe−M−O膜6の膜厚T2を、0.5〜15μmの薄い膜厚に設定しても、前記減衰量を効果的に小さくすることが可能である。好ましくは膜厚T2を10μm以上とする。
【0049】
本実施形態では前記Fe−M−O膜6を支持する基板として可撓性の樹脂シート5を用いている。これにより前記磁性シート4を前記RFIDタグ2と金属部材3との間に密着させることができる。また、前記磁性シート4を湾曲させるような場合でも適切に前記磁性シート4を湾曲でき、また前記Fe−M−O膜6はアモルファス相7を備えるため、前記Fe−M−O膜6を樹脂シート5とともに平面状から変形させたときでも前記Fe−M−O膜6は割れ等の損傷を受けにくい。なお前記基板としてリジッドなガラス基板等を用いることもできる。
【0050】
また上記したように前記Fe−M−O膜6に対して熱処理を施さないため、前記Fe−M−O膜6を支持する樹脂シート5の材質を特に限定しなくてもよい。すなわち前記樹脂シート5の材質の選択性を広げることができる。また樹脂シート5に対する熱的影響がないため磁性シート4の寸法安定性を従来よりも高精度に得ることが可能である。前記樹脂シート5には、熱可塑性樹脂を使用でき、その中でも耐熱性に優れたPPS(ポリフェニレンスルフィド)の使用が好適であるものの、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)、アミラード(全芳香族系ポリアミド)、ポリイミド等の使用も可能である。
【0051】
前記樹脂シート5の膜厚T3は、0.01〜0.05mm程度であることが好適である。
【0052】
本実施形態では、図1に示すように、Fe−M−O膜6を樹脂シート5上にスパッタ成膜した磁性シート4を前記RFIDタグ2と前記金属部材3との間に挿入することで、リードライタ10からの磁束Hが前記Fe−M−O膜6内を通り、前記RFIDデバイス1とリードライタ10との間で還流磁束が形成される。この結果、前記RFIDタグ2のアンテナにて受信した信号出力の減衰量を小さくでき、例えば13.56MHzでのRFID特性の向上を効果的に図ることができる。また、本実施形態では、前記RFIDデバイス1とリードライタ10間の通信距離L1の範囲を広げることができ、具体的には前記通信距離L1を10〜50mmの範囲に設定しても適切に無線通信を行うことが可能である。
【0053】
なお前記磁性シート4を前記金属部材3とRFIDタグ2との間に挿入するとき、磁性シート5及びFe−M−O膜6が金属部材3あるいはRFIDタグ2のどちら側に向くか特に限定しないが、例えば、前記Fe−M−O膜6を接着層(図示しない)を介して前記金属部材3に接触させ、前記磁性シート5を接着層(図示しない)を介して前記RFIDタグ2に接触させる。
【0054】
本実施形態では上記したように、Fe−M−O膜6に対して熱処理を施さなくとも、図3に示すアモルファス相7と、前記アモルファス相7中に点在する微結晶相8との混相構造を得ることができ、軟磁気特性に優れ、RFID用磁性シートとして十分に大きい複素比透磁率の実数部μ´(具体的には50以上、好ましくは300以上や400以上)を得ることができ、さらに高い比抵抗ρ(具体的には200(μΩcm)以上、好ましくは300(μΩcm)以上)を得ることが可能になる。
【0055】
また本実施形態では、熱処理がなくとも、より適切に、アモルファス相7と、前記アモルファス相7中に点在する微結晶相8との膜構造を得ることができ、さらにより効果的に、50以上、好ましくは300以上や400以上の複素比透磁率の実数部μ´及び、200(μΩcm)以上、好ましくは300(μΩcm)以上の比抵抗ρを得ることができる。
【0056】
上記したように、本実施形態では、元素MとしてHf、Al、Zr等を使用できる。このとき、元素MがZrであると、高い複素比透磁率の実数部μ´、低い複素比透磁率の虚数部μ″、及び低い膜応力を得られることが後述する実験によりわかった。後述する実験によれば、複素比透磁率の実数部μ´を800程度、、複素比透磁率の虚数部μ″を50程度、及び膜応力を80(MPa)程度に出来る。したがって、優れた軟磁気特性を備えるとともに、膜応力が低いFeZrOから成る磁性膜6を、筐体カバーに直接成膜したり、ガラスエポキシ基板や樹脂シート等の軟らかい材質に成膜したときに適切に磁性膜の成膜を行うことが出来る。特に、柔らかい基材の片側だけに磁性膜を成膜しても膜応力が低いため磁性シート4がロール状にならず、磁性シート4の取り扱いが楽になるし、また材料費も安く済む。材料費が安く済む理由は、上記したように、基材の片側にだけ磁性膜を成膜すればよいことと(膜応力が大きい場合、基材の両側に磁性膜を成膜して基材に作用する膜応力を小さくする方法がある)、ZrはHf等に比べて十分に安いためである。
【0057】
また図2に示す磁性シート4は、電磁波抑制用として用いることが出来る。電磁波抑制用としての磁性シート4は、使用用途や使用範囲によって変わるが、例えば横寸法L1は、10mm以上、縦寸法L2は、10mm以上の範囲内で形成される。
【0058】
樹脂シート5上に成膜されたFe−M−O膜6の組成比及び膜構造については上記で述べたとおりである。
【0059】
アモルファス相7と微結晶相8との混相構造を備えるFe−M−O膜6を樹脂シート5上にスパッタ成膜した電磁波抑制用の磁性シート4は、100MHz以上の周波数帯域で前記Fe−M−O膜6の複素比透磁率の虚数部μ″を80以上にでき、また前記Fe−M−O膜6の比抵抗ρを300(μΩ・cm)以上にでき、薄いシート厚にて優れた電波吸収特性を得ることが可能になる。
【0060】
また本実施形態では、前記Fe−M−O膜6の膜厚T2(図2参照)を、0.5μm程度に薄く形成しても、100MHz以上の周波数帯域で前記複素比透磁率の虚数部μ″を80以上に大きくできる。
【0061】
また前記樹脂シート5の膜厚T3(図2参照)は、10〜50μm程度であり、したがって、前記磁性シート4のトータル厚T1を10.5〜65μmの範囲内に設定できる。このように電磁波抑制用としての磁性シート4のトータル厚T1を薄くできるため、例えば携帯電話のような小型機器の筐体内部の壁面に前記磁性シート4を貼着しても部品の設置の邪魔にならない。
【0062】
本実施形態では前記Fe−M−O膜6を支持する基板として可撓性の樹脂シート5を用いている。よって例えば前記磁性シート4を、凹凸のある平面上や曲面上にも適切に貼着できる。また、前記Fe−M−O膜6はアモルファス相7を備えるため、前記Fe−M−O膜6を樹脂シート5とともに平面状から変形させたときでも前記Fe−M−O膜6は割れ等の損傷を受けにくい。
【0063】
図2に示す磁性シート4は、物理蒸着法により樹脂シート5上に成膜できる。本実施形態では、Fe−M−O膜6を樹脂シート5上に成膜するとき、不活性ガス(例えばAr)とO2ガスとの混合ガスのガス圧を0.5mTorr〜6mTorrの範囲内で調整する。これにより、元素MとOの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeまたはCoから選ばれる一種または二種を主体とした平均結晶粒径30nm以下の微結晶相との膜構造を形成することが可能である。後述する実験に示すように、ガス圧を高くしすぎると、X線回折スペクトルにFeのbcc相に対応するシャープで明瞭なピークが現れず、ブロードになり、全体的に膜構造がアモルファス化することがわかった。そして、複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″が共に低くなることがわかった。
【0064】
ガス圧を0.5mTorr〜6mTorrの範囲内で調整すると、X線回折スペクトルにFeのbcc相に対応するシャープで明瞭なピークが現れ、アモルファス相7と微結晶相8との混相構造にでき、複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″の双方が高い軟磁気特性を得ることが可能になる。
【0065】
このような成膜条件と膜構造と磁気特性の関係は、高抵抗軟磁性膜特有のものである。例えばCoZrNb等はアモルファス膜であるが、軟磁気特性を得ることが出来る。
【0066】
物理蒸着法としては、RFまたはDC平行平板マグネトロンスパッタ法(MT法)、DC対向ターゲットスパッタ法(FTS法)、RF対向ターゲットスパッタ法、蒸着法、反応性プラズマ蒸着法等を提示できる。
【実施例】
【0067】
(RFID特性の実験)
RFID特性(受信信号の減衰量)の実験を行った。
図4(a)は、基準構成である。図4(a)に示すように、送信アンテナ20と受信アンテナ21との間の通信距離L2を28mmとした。また前記送信アンテナ20と受信アンテナ21を、平面の大きさが55mm×85mm、厚さが0.55mmの基板上に形成した。また、前記送信アンテナ20と受信アンテナ21を、最大外縁寸法を30mm×30mm、及び3ターンとした平面パターンで形成した。
【0068】
図4(b)では、図4(a)の基準構成に、金属板22を追加したものであり、図4(b)に示すように、前記金属板22を、前記受信アンテナ21の前記送信アンテナ20との対向面と反対面側に設けた。前記金属板22は、Alであり、平面の大きさが55mm×85mm、厚さが2mmであった。なお前記金属板22と前記受信アンテナ21との間に膜厚が0.1μmのAl23膜を形成した。
【0069】
また、図4(c)では、図4(b)の構成に対して、前記金属板22と受信アンテナ21との間に磁性シート23を挿入した。
【0070】
前記磁性シート23には比較例として、アルプス電気(製)の商品名20R(厚さ100μm、200μm)、40R(厚さ100μm、200μm)、60R(厚さ100μm)、80R(厚さ100μm)(比較例1〜6)と、NECトーキン(製)の商品名R4N(01)、FK1(01)(比較例7、8:いずれも厚さ100μm)の磁性シートを使用した。
【0071】
また、厚さが0.55mmのホウケイ酸ガラス基板上に、膜厚が0.78μm、3.3μm、10μm、15μmのFe50.19at%Hf13.72at%36.09at%をスパッタ成膜した磁性シート23を形成した。ターゲットにはFe−Hf合金を用いた。スパッタ装置には、キヤノンアネルバ製のSPF−730 マグネトロンスパッタ装置を用いた。またスパッタ条件としてArガス流量を50sccm、Ar+5%O2ガス流量を25sccm、R
F電力を600W、ガス圧を3mTorr、T/S=0%、基板間接冷却とした。なおFe−Hf−O膜に対する熱処理は行っていない。
【0072】
そして各試料に対して、スペクトラムアナライザ(アンリツ(株)製、型式:MS2601B)を用いて、13.56MHzにおける受信アンテナ21からの受信信号の出力値を測定した。
【0073】
受信信号の減衰量(dBm)は、(図4(a)の基準構成での受信信号の出力値)−(図4(b)、あるいは図4(c)の各構成での受信信号の出力値)で得ることができる。減衰量は小さいほど受信アンテナ21が送信アンテナ20からの電磁波を漏れなく受信しRFID特性が良好であることを意味する。
実験で使用した試料、受信アンテナからの信号出力、減衰量を以下の表1に示した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1を基に、試料No.2〜14の磁性膜の膜厚と減衰量との関係を調べた。その実験結果が図5に示されている。
【0076】
また、表1の試料No.2〜14の複素比透磁率の実数部μ´×磁性膜の膜厚t(以下、μ´×tという)を調べ、磁性膜厚、減衰量とともに以下の表2に掲載した。
【0077】
【表2】

【0078】
また表2を基に、試料No2〜14のμ´×tと減衰量との関係を調べた。その実験結果が図6に示されている。
【0079】
図5、図6に示すように、受信アンテナ21と金属板22との間に磁性膜を設けない図4(b)の形態では、減衰量が非常に大きくなった。これは前記金属板22に生じた渦電流による反磁界の影響である。
【0080】
また、図5、図6に示すように受信アンテナ21と金属板22との間に磁性シートを挿入した比較例では、図4(b)の形態に比べて減衰量を小さくできたが、磁性膜の膜厚が100μm〜200μmであり、前記磁性シートを挿入してしまうとRFIDデバイスの薄型化を促進できなかった。
【0081】
一方、受信アンテナ21と金属板22との間にFe−Hf−Oスパッタ膜を設けた形態では、図4(b)の形態よりも減衰量を小さくできるとともに、前記Fe−Hf−Oスパッタ膜の膜厚を、比較例の磁性膜の膜厚よりも十分に薄くできた。具体的には表1や表2に示すように前記Fe−Hf−Oスパッタ膜の膜厚を、比較例の磁性膜の膜厚の約1/10程度にできた。
【0082】
図5及び図6に示すように比較例と同等以下の減衰量とするには、前記Fe−Hf−Oスパッタ膜の膜厚を概ね0.5μm以上、好ましくは0.78μm以上さらに好ましくは10μm以上にすることが好適であるとわかった。
【0083】
図6に示すように、受信信号の減衰量は、μ´×tを大きくするほど徐々に小さくできることがわかった。よってFe−Hf−Oスパッタ膜の膜厚を厚くすればするほど、減衰量をよりゼロに近づけることが可能になるが、RFIDデバイスの薄型化に寄与するためにFe−Hf−Oスパッタ膜の最大厚を15μmとした。すなわちFe−Hf−Oスパッタ膜の好ましい膜厚範囲を0.5〜15μmとした。また好ましいμ´×tの範囲を402(μm)〜7895(μm)とした。
【0084】
次に、基板上にFe−Hf−O膜をスパッタ成膜し、元素Oの組成比と複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)及び虚数部μ″(13.56MHz)との関係を調べた。
【0085】
前記Fe−Hf−O膜のスパッタに使用したスパッタ装置、ターゲット及びスパッタ条件(O2流量比以外)は上記での実験と同じである。各試料のFe−Hf−O膜をほぼ1μmの膜厚にて形成した。また各試料に対していずれも熱処理を施していない。実験ではO2流量比を変化させて、Fe−Hf−O中に取り込まれる元素Oの組成比を変化させるとともに、各試料に対して複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)及び虚数部μ″(13.56MHz)を測定した。μ´及びμ″の測定には、凌和電子(株)製のPMF−3000(ネットワークアナライザHP4396B、検出部にshielded Loop coilを採用した高周波透磁率測定方式)を用いて行った。実験結果を以下の表3及び図7に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3及び図7に示すように元素Oの組成比を27.08〜47at%の範囲に設定することで、複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)を400以上にできることがわかった。また複素比透磁率の虚数部μ″(13.56MHz)を22以下に抑えることができるとわかった。
【0088】
また、上記の表3のFe−Hf−O膜の比抵抗ρを調べた。さらに、Fe−Hf−O膜の飽和磁束密度Bs及び保磁力Hcも調べた。元素Oの組成比と比抵抗ρとの関係を以下の表4及び図8に、元素Oの組成比と飽和磁束密度Bsとの関係を図9に、元素Oの組成比と保磁力Hcとの関係を図10に夫々示す。なお表4及び図8にはHf組成比/(Fe組成比+Hf組成比)(%)も合わせて掲載した。
【0089】
【表4】

【0090】
表4及び図8に示すように、元素Oの組成比を27.08〜47at%の範囲に設定したとき、300(μΩcm)以上の高い比抵抗ρを得られることがわかった。
【0091】
また図9、図10に示すように、元素Oの組成比を27.08〜47at%の範囲に設定したとき、飽和磁束密度Bsを大きくでき、保磁力Hcを小さくでき優れた軟磁気特性が得られることがわかった。
【0092】
続いて、表3に示す元素Oの組成比が6.41at%、27.08at%、66.91at%の各Fe−Hf−O膜のX線回折スペクトルを求めた。いずれも熱処理を施していない。その結果が図11に示されている。
【0093】
元素Oの組成比を6.41at%とした場合、アモルファス相が主相となり、一方、Feのbcc相の存在を確認できなかった。また、元素Oの組成比を66.91at%としたFe−Hf−O膜のX線回折スペクトルには、Feのbcc相のピークが見られず、HfO、FeOのピークとアモルファス相(FeあるいはHfの酸化物)が存在することがわかった。
【0094】
一方、元素Oの組成比を27.08at%としたFe−Hf−O膜のX線回折スペクトルには、Feのbcc相に対応するシャープで明瞭なピークとHfあるいはFeの酸化物に近い回折角にブロードなピークが観察された。この結果から、元素Oの組成比を27.08at%としたFe−Hf−O膜の膜構造は、アモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeを主体としたbccの微結晶相との混相構造であるとわかった。
【0095】
このようにFe−Hf−O膜に対して熱処理をしなくても、アモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeを主体としたbccの微結晶相との混相構造が得られることがわかった。このような混相構造は、微結晶相を備えることで軟磁気特性に優れるとともにアモルファス相の存在により比抵抗ρを高くできる。したがって図7、図8に示す実験結果から元素Oの組成比を27.08〜47at%の範囲にしたFe−Hf−O膜では、熱処理を施さなくとも、アモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeを主体としたbccの微結晶相との混相構造になっていると推測できる。なお、以上の実験においてはホウケイ酸ガラス基板上にFe−Hf−O膜を形成したが、樹脂シート上にFe−Hf−O膜形成しても同様な効果が得られることは言うまでもない。
【0096】
(ノイズ抑制効果の実験)
放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)、及び、伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率:P(loss)/P(in))の実験を行った。
【0097】
図12は、ノイズ抑制評価装置を示す図である。図12に示すように、前記ノイズ抑制評価装置は、導電パターン16を有する評価基板11と、導電パターン16に信号を送出する信号源13と、放射ノイズを受信する受信用ループアンテナ14a,14bと、放射ノイズ抑制効果及び伝導ノイズ抑制効果を評価する制御部15とから主に構成されている。
【0098】
評価基板11上に、導電パターン16を覆うように磁性シート4を配置する。前記導電パターン16上に磁性シート4を配置した際に、磁性シート4が存在していない領域及び磁性シート4が存在している領域ができるので、受信用ループアンテナ14a,14bにて、それぞれの領域の放射ノイズを受信する。図12においては、受信用ループアンテナ14aで磁性シート4が存在していない領域の放射ノイズを受信し、受信用ループアンテナ14bで磁性シート4が存在している領域の放射ノイズを受信する。これにより、受信用ループアンテナ14aで受信した放射ノイズにより、磁性シート4が存在していない領域の反射依存分のノイズ抑制効果を評価することができ、受信用ループアンテナ14bで受信した放射ノイズにより、磁性シート4が存在している領域の透過減衰分のノイズ抑制効果を評価することができる。
【0099】
制御部15は、放射ノイズ抑制効果と伝導ノイズ抑制効果とを評価する処理部である。放射ノイズ抑制効果は、スペクトルアナライザにより評価し、伝導ノイズ抑制効果は、ネットワークアナライザにより評価することができる。そして、受信用ループアンテナ14a,14bがスペクトラムアナライザに電気的に接続されており、評価基板11の導電パターン16がネットワークアナライザに電気的に接続されている。
【0100】
図12に示すように、評価基板に形成された導電パターン16上に磁性シート4を配置し、この状態で、導電パターン16に信号を出力したときに導電パターン16を通る信号の伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)を測定すると共に、磁性シート4が存在していない領域及び磁性シート4が存在している領域のそれぞれの放射ノイズ抑制効果を測定する。
【0101】
まず、評価基板11に磁性シート4を配置しない状態で受信用ループアンテナ14aにより放射ノイズ抑制効果の反射依存分を測定し、受信用ループアンテナ14bにより放射ノイズ抑制効果の透過減衰分を測定する。次いで、評価基板11に磁性シート4を配置した状態で受信用ループアンテナ14aにより放射ノイズ抑制効果の反射依存分を測定し、受信用ループアンテナ14bにより放射ノイズ抑制効果の透過減衰分を測定する。そして、磁性シート4がある場合の反射依存分の放射ノイズ抑制効果から磁性シート4がない場合の反射依存分の放射ノイズ抑制効果を差し引いて反射依存分の放射ノイズを求め、磁性シート4がある場合の透過減衰分の放射ノイズ抑制効果から磁性シート4がない場合の透過減衰分の放射ノイズ抑制効果を差し引いて透過減衰分の放射ノイズ抑制効果を求め、求められた反射依存分の放射ノイズ抑制効果と求められた透過減衰分の放射ノイズ抑制効果を加えることで放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)を測定できる。また、信号源13から送出された信号を制御部15で受信することにより伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)を測定できる。
【0102】
上記放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)及び伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)は以下の式にて求めることができる。
【0103】
放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)(dB)=S31(磁性シート41がある場合)−S31(磁性シート4がない場合)
伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)(P(loss)/P(in))=1−(S11)2−(S21)2
【0104】
実験では、厚さが0.55mmで幅寸法30mm×長さ寸法40mmのホウケイ酸ガラス基板上に、膜厚が3μmのFe50.19at%Hf13.72at%36.09at%をスパッタ成膜した磁性シート4(実施例)を形成した。ターゲットにはFe−Hf合金を用いた。スパッタ装置には、キャノンアネルバ製のSPF−730 マグネトロンスパッタ装置を用いた。またスパッタ条件としてArガス流量を50sccm、Ar+5%O2ガス流量を25sccm、RF電力を600W、ガス圧を3mTorr、T/S=0%、基板間接冷却とした。なおFe−Hf−O膜に対する熱処理は行っていない。
【0105】
また、図12に示すノイズ抑制評価装置において、受信用ループアンテナとして、φ4mmのマイクロループアンテナを用い、ネットワークアナライザとして、N3383A(アジレントテクノロジ社製)を用い、スペクトラムアナライザとして、8595E(アジレントテクノロジ社製)を用いた。
【0106】
実施例として、前記磁性シート4のFe−Hf−O膜側を前記導電パターン16に対向させ、ちょうど前記磁性シート4の中心に前記導電パターン16が位置するように前記磁性シート4を前記評価基板11上に設置した。なお前記磁性シート4上には重り(約100g)を載せた。そして、500MHzでの放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)を求めるとともに、伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)を求めた。
【0107】
また比較例として、NECトーキン(製)の商品名FK1(01)の磁性シート(磁性膜の膜厚は100μm)を前記導電パターン16上に設置して、500MHzでの放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)を求めるとともに、伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)を求めた。
【0108】
図13が、実施例及び比較例の放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)の実験結果、図14が、実施例及び比較例の伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)の実験結果である。
【0109】
図13に示すように、実施例では比較例よりも透過減衰量(絶対値)が大きくなり、実施例のほうが比較例よりもノイズを適切に減衰させることができるとわかった。
【0110】
また図14の実験結果から、実施例のほうが比較例に比べて、広い周波数帯域でノイズ抑制効果が大きいことがわかった。
【0111】
続いて、上記した実施例の磁性シート4における複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″の周波数依存性を求めた。その結果が図15に示されている。
【0112】
図15に示すように、100MHz以上の周波数帯域で、前記電磁波吸収シート1の複素比透磁率の虚数部μ″を80以上にできることがわかった。
【0113】
なお、以上の実験においてはホウケイ酸ガラス基板上にFe−Hf−O膜を形成したが、樹脂シート上にFe−Hf−O膜形成しても同様な効果が得られることは言うまでもない。
【0114】
(ガス圧の実験)
RF平行平板マグネトロンスパッタ法(MT法)、及び、DC対向ターゲットスパッタ法(FTS法)を用いて、Fe−Hf−O膜を基板上にスパッタ成膜した。
【0115】
まずFe−Hf−O膜をMT法でスパッタ成膜した。基板にはホウケイ酸ガラス基板を用いた。またターゲットにはFe−Hf合金を用いた。スパッタ装置には、キヤノンアネルバ製のSPF−730 マグネトロンスパッタ装置を用いた。またスパッタ条件としてArガス流量を50sccm、Ar+5%O2ガス流量を25sccm、O2/(Ar+O2)流量比を1.67%、RF電力を600W、T/S=0%、基板間接冷却とした。Fe−Hf−O膜を1μmの膜厚で成膜した。また、ガス圧はオリフィスの角度で調整した。
【0116】
Fe−Hf−O膜に対して熱処理は施していない。ArとO2との混合ガスのガス圧を変化させ、ガス圧と、Fe−Hf−O膜の複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係を調べた。
【0117】
続いて、Fe−Hf−O膜をFTS法でスパッタ成膜した。基板にはSi基板を用いた。また、ターゲットにはFe−Hf合金ターゲットを用いた。スパッタ装置には、RF対向ターゲットスパッタ装置を用いた。またスパッタ条件として電力を300W、5500W(高Power)、ArガスとO2ガスの混合ガスを用いてO2/(Ar+O2)流量比を0%〜26.3%とした。Fe−Hf−O膜を2μmの膜厚で成膜した。ガス圧はガスの流量を調整して設定した。
【0118】
Fe−Hf−O膜に対して熱処理は施していない。ArとO2との混合ガスのガス圧を変化させ、ガス圧と、Fe−Hf−O膜の複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係を調べた。
【0119】
図16に実験結果が示されている。図17は、ガス圧と、Fe−Hf−O膜との組成比との関係が示されている。
【0120】
図17に示すようにガス圧が6mTorrと9mTorrとでは、Fe−Hf−O膜との組成比に顕著な差が出ないことがわかった。
【0121】
しかしながら、図16に示すように、ガス圧が6mTorrより高くなると、複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″が大きく低下することがわかった。
【0122】
次に、ガス圧と、Fe−Hf−O膜のX線回折スペクトルの関係を調べた。測定には、Fe−Hf−O膜を上記の実験でMT法により成膜した試料を用いた。その実験結果が図18に示されている。
【0123】
この図18に示すように、ガス圧を9mTorrとした試料では、bcc−Fe(110)のピークがブロードになり、アモルファスに近い構造になっていることがわかった。またガス圧を、6.5mTorr、7mTorr、8mTorrとした実験結果も、ガス圧を9mTorrとしたときほどではないが、bcc−Fe(110)のピークがブロードになることがわかった。
【0124】
次に、主としてFTS法にてFe−Hf−O膜を成膜したときのガス圧と、Fe−Hf−O膜のX線回折スペクトルの関係を調べた。なお図19での測定に用いたFTS法及びMT法でのFe−Hf−O膜は図17の実験で使用したものと同じである。
【0125】
図19に示すように、FTS法においてもガス圧を9.8mTorrとするとbcc−Fe(110)のピークがブロードになり、アモルファスに近い構造になっていることがわかった。また、FTS法においてガス圧を6mTorrとしたとき、bcc−Fe(110)のピークが現れていないように見えるが、実際にはピークが現れており軟磁性を示すことがわかった。
【0126】
続いて、FTS法により、様々な組成比によりなるFe−Hf−O膜をスパッタ成膜した。以下の表5に示すようにガス圧を0.7mTorr、1.0mTorr、3.0mTorrと変えた。
【0127】
【表5】

【0128】
表5に示すように元素Oを6.85at%まで小さくしても複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″の双方が高い優れた軟磁気特性を得ることが可能である。なお、以上の実験においてはホウケイ酸ガラス基板上にFe−Hf−O膜を形成したが、樹脂シート上にFe−Hf−O膜形成しても同様な効果が得られることは言うまでもない。
【0129】
以上により、Fe−Hf−O膜については、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Hfの組成比bが11.40〜15.74at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たすことが好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を50以上、比抵抗ρを200(μΩ・cm)以上に設定できる。また元素Oの組成比cを、27.08〜47at%、Hfの組成比bを11.40〜15.74at%とすることがより好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を400以上、比抵抗ρを300(μΩ・cm)以上に設定できる。
【0130】
(Fe−Al−O膜、及び、Fe−Zr−O膜の実験)
基板上に元素Oの組成比やAlの組成比を変化させたFe−Al−O膜をスパッタ成膜し、このとき得られた各Fe−Al−O膜の複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)、及び、虚数部μ″(13.56MHz)等を調べた。
【0131】
実験では、RF平行平板コンベンショナルスパッタ法、あるいは、DC対向ターゲットスパッタ法(FTS法)にて、Fe−Al−O膜を成膜した。成膜時におけるガス圧を前者は4mTorr、後者は3mTorrとした。
【0132】
続いて、基板上に元素Oの組成比やZrの組成比を変化させたFe−Zr−O膜をスパッタ成膜し、このとき得られた各Fe−Zr−O膜の複素比透磁率の実数部μ´(13.56MHz)、及び、虚数部μ″(13.56MHz)等を調べた。
【0133】
上記したように、Fe−Zr−O膜に占める元素Oの組成比を変化させるには、図20、図21に示すように、O2/(Ar+O2)流量比を変化させて行った。なお図20、図21は、MT法にてFe−Zr−O膜を成膜した際、ガス圧、及びO2/(Ar+O2)流量比を変化させたときの複素比透磁率の実数部μ´及び膜応力の実験結果である。
【0134】
実験では、RF平行平板マグネトロンスパッタ法(MT法)にて、Fe−Zr−O膜を成膜した。成膜時におけるガス圧を3mTorrとした。
その実験結果を以下の表6に示す。
【0135】
【表6】

【0136】
表6には、既に上記で説明したFe−Hf−O膜の実験結果も合わせて掲載した。
表6に示すようにFe−Al−O膜について、元素Oの組成比を6.99〜16.75at%、Alの組成比を9.79〜21.38at%と規制することで、複素比透磁率の実数部μ´50以上で、比抵抗(抵抗率)を200(μΩcm)以上にできることがわかった。
【0137】
また、元素Oの組成比cを、12.20〜16.75at%、Alの組成比bを12.68〜15.17at%とすることがより好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を300以上、比抵抗ρを300(μΩ・cm)以上に設定できることがわかった。
【0138】
また表6に示すようにFe−Zr−O膜について、元素Oの組成比を、8.11〜9.29at%の範囲内、Zrの組成比を7.95〜8.36at%の範囲内とすることで、複素比透磁率の実数部μ´を100以上、比抵抗ρを250(μΩ・cm)以上に設定できることがわかった。
【0139】
また、元素Oの組成比を、8.11〜9.27at%、Zrの組成比bを7.95〜8.36at%とすることがより好ましい。これにより、複素比透磁率の実数部μ´を800以上、比抵抗ρを250(μΩ・cm)以上に設定できることがわかった。
【0140】
表6及び図20、図21によりFe−Zr−O膜については、Fe−Hf−O膜やFe−Al−O膜に比べて、高い複素比透磁率の実数部μ´、低い複素比透磁率の虚数部μ″、及び低い膜応力を得られることがわかった。具体的には、複素比透磁率の実数部μ´を800程度、複素比透磁率の虚数部μ″を50程度、及び膜応力を80(MPa)程度に出来ることがわかった。したがって、Fe−Zr−O膜を用いれば、特に、柔らかい基材の片側だけに磁性膜を成膜しても膜応力が低いため磁性シートがロール状にならず、磁性シートの取り扱いが楽になるし、また片側成膜で済み、しかもHf等に比べて安いZrを使用できることで材料費も安く済むことがわかった。
【0141】
次に、Fe73.22at%Al13.31at%13.47at%膜のX線回折スペクトルの関係を調べた。その実験結果が図22に示されている。
【0142】
図22に示すように、Feのbcc相に対応するシャープで明瞭なピークが観察された。一方、アモルファスを示すブロードなピークが観察されなかった。しかしながら、次の理由により、Fe−Al−O膜もbccFeの微結晶相とアモルファス相との混相構造であると推測できる。
【0143】
まず、図22に示すように、アモルファスであるAl23膜にも、アモルファスのブロードのピークが見られない。また、Fe−Al−O膜のX線回折スペクトルに示すように、Feのbcc相に対応するピーク以外に明瞭な結晶を示すピークが見られない。さらには、α−Fe(110)の面間隔dは、Fe−Al膜であると(すなわち元素Oが無い)、AlがFe格子に置換して入るためか広がるのに、Fe−Al−O膜であると、AlがOと優先して結合するためか、Fe格子にAlが入らなくなり、アモルファスのブロードピークが明確に観察されるFe−Zr−O膜(X線回折スペクトルを次に示す)とほぼ同じ面間隔となっている。以上を総合的に勘案すれば、Fe−Al−O膜についてもアモルファスが存在することを推測できる。
【0144】
図23は、次に、Fe83.58at%Zr8.31at%8.11at%膜のX線回折スペクトルである。図23に示すように、Feのbcc相に対応するシャープで明瞭なピークと、ZrあるいはFeの酸化物に近い回折角にブロードなピークが観察された。この結果から、Fe−Zr−O膜の膜構造は、アモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeを主体としたbccの微結晶相との混相構造であるとわかった。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】RFIDデバイス及びリードライタの模式図、
【図2】本発明の実施形態の磁性シートの斜視図、
【図3】Fe−M−O膜の膜構造の模式図、
【図4】受信信号の減衰量の測定に使用した試料の各構成図であり、(a)は、基本構成図、(b)は、(a)の受信アンテナの送信アンテナとの対向面と反対側に金属板を設けた構成図、(c)は、(b)の受信アンテナと金属板との間に磁性シートを挿入した構成図、
【図5】受信アンテナと金属板との間に挿入した磁性膜の膜厚と減衰量との関係を示すグラフ、
【図6】磁性膜の複素比透磁率の実数部μ´×磁性膜の膜厚tと減衰量との関係を示すグラフ、
【図7】Fe−Hf−O膜の元素Oの組成比と複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係を示すグラフ、
【図8】Fe−Hf−O膜の元素Oの組成比と比抵抗ρとの関係を示すグラフ、
【図9】Fe−Hf−O膜の元素Oの組成比と飽和磁束密度Bsとの関係を示すグラフ、
【図10】Fe−Hf−O膜のFe−Hf−O膜の元素Oの組成比と保磁力Hcとの関係を示すグラフ、
【図11】元素Oの組成比を6.41at%、27.08at%、66.91at%とした各Fe−Hf−O膜のX線回折スペクトル、
【図12】ノイズ抑制評価装置の構成図、
【図13】実施例(Fe−Hf−O膜)及び比較例(従来の磁性シート)の放射ノイズ抑制効果(透過減衰量)の実験結果、
【図14】実施例(Fe−Hf−O膜を用いた電磁波吸収シート)及び比較例(従来の磁性シート)の伝導ノイズ抑制効果(伝送減衰率)の実験結果、
【図15】実施例の電磁波吸収シートにおける複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″の周波数依存性を示すグラフ、
【図16】ArとO2との混合ガスのガス圧を変化させたときの、ガス圧と、Fe−Hf−O膜の複素比透磁率の実数部μ´及び虚数部μ″との関係を示すグラフ、
【図17】ガス圧と、Fe−Hf−O膜との組成比との関係を示すグラフ、
【図18】異なるガス圧で成膜されたFe−Hf−O膜のX線回折スペクトル(MT法)、
【図19】異なるガス圧で成膜されたFe−Hf−O膜のX線回折スペクトル(FTS法及びMT法)、
【図20】Fe−Al−O膜を成膜した際、ガス圧、及びO2/(Ar+O2)流量比を変化させたときの複素比透磁率の実数部μ´の実験結果、
【図21】Fe−Al−O膜を成膜した際、ガス圧、及びO2/(Ar+O2)流量比を変化させたときの膜応力の実験結果、
【図22】Fe73.22at%Al13.31at%13.47at%膜のX線回折スペクトル、
【図23】Fe83.58at%Zr8.31at%8.11at%膜のX線回折スペクトル、
【符号の説明】
【0146】
1 RFIDデバイス
2 RFIDタグ
3、22 金属部材
4、23 磁性シート
5 樹脂シート
6 磁性膜
7 アモルファス相
8 微結晶相
10 リードライタ
20 送信アンテナ
21 受信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、A−M−O(ただし元素AはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)から成り、元素MとOの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeまたはCoから選ばれる一種または二種を主体とした平均結晶粒径30nm以下の微結晶相との膜構造で形成された磁性膜が物理蒸着法により成膜されてなることを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
前記基板は、可撓性の樹脂シートであり、前記磁性膜の膜構造は、熱処理することなく形成されたものである請求項1記載の磁性シート。
【請求項3】
前記磁性膜は、元素AがFeであり、組成式がFeabcから成り、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Mの組成比が7.95〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす請求項1または2に記載の磁性シート。
【請求項4】
元素MはHfであり、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Hfの組成比bが11.40〜15.74at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす請求項3記載の磁性シート。
【請求項5】
元素MはAlであり、元素Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内、元素Alの組成比bが9.79〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす請求項3記載の磁性シート。
【請求項6】
元素MはZrであり、元素Oの組成比cが、8.11〜9.29at%の範囲内、元素Zrの組成比bが7.95〜8.36at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす請求項3記載の磁性シート。
【請求項7】
前記磁性シートはRFIDデバイスに用いられる請求項1ないし6のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項8】
前記磁性膜の膜厚は、0.5〜15μmの範囲内である請求項7記載の磁性シート。
【請求項9】
前記磁性シートは電磁波抑制体に用いられる請求項1ないし6のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項10】
基板上に、A−M−O(ただし元素AはFeまたはCoまたはその混合物を表し、元素Mは、Hf、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mg、Zn、Ca、Ce、Yのうち少なくともいずれか一種を表す)から成る磁性膜を物理蒸着法により成膜するとき、不活性ガスとO2ガスとの混合ガスのガス圧を0.5mTorr〜6mTorrの範囲内で調整し、元素MとOの化合物を含むアモルファス相と、前記アモルファス相中に点在するFeまたはCoから選ばれる一種または二種を主体とした平均結晶粒径30nm以下の微結晶相との膜構造を形成することを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項11】
前記磁性膜は、元素AがFeであり、組成式がFeabcから成り、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Mの組成比が7.95〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜する請求項10記載の磁性シートの製造方法。
【請求項12】
元素MはHfであり、元素Oの組成比cが、6.85〜47at%の範囲内、元素Hfの組成比bが11.40〜15.74at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜する請求項11記載の磁性シートの製造方法。
【請求項13】
元素MはAlであり、元素Oの組成比cが、6.99〜16.75at%の範囲内、元素Alの組成比bが9.79〜21.38at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜する請求項11記載の磁性シートの製造方法。
【請求項14】
元素MはZrであり、元素Oの組成比cが、8.11〜9.29at%の範囲内、元素Zrの組成比bが7.95〜8.36at%の範囲内、残部が元素Feの組成比aであり、a+b+c=100at%の関係を満たす前記磁性膜を成膜する請求項11記載の磁性シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−10641(P2010−10641A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239883(P2008−239883)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】