説明

磁気センサ

【課題】 複数のコイルを有する磁気センサにおいて、測定精度を確保しつつ、測定の際に使用するコイルの配置間隔を容易に変えることができる磁気センサの提供。
【解決手段】この発明は、磁気検出部1、励磁電源2、選択回路3、差動増幅器4などを備えている。磁気検出部1は、励磁用コイル11dと、検出用コイル11a,11b,11c、11e,11f,11gとを有する。選択回路3は、欠陥検出の際に、コイル11a〜11gの一端側を選択的に接地させるスイッチ31a〜31gを備えている。また、選択回路3は、欠陥検出の際に、検出用コイルのうちから所定の2つのコイルを選択し、この選択した2つのコイルの検出信号を差動増幅器4の入力側に導くとともに、その選択されない残余のコイルについては各コイルの両端をフローティング状態で短絡させるための切り替えスイッチ32a〜32fを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のコイルを有する磁気センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気センサは、金属板、金属管、金属帯などの金属材料の内部、表面、または表層欠陥の検知、金属板との距離の計測、回転体の回転速度の検出、電流値や磁場の大きさの計測など、各種の計測や検出に使用される。
以下では、磁気センサの適用例として、磁性金属材料(特に、鉄鋼材料)の表面、内部(介在物など)の欠陥検知について説明するが、本発明はこのような適用例について限定されるものではない。
【0003】
近年、磁性金属製品に求められる品質レベルの高度化により、表面または内部欠陥などの有害欠陥の少ない磁性金属材料に対する要望がますます強くなっている。このような磁性金属製品としては、例えば鉄鋼薄板製品では自動車用、製缶用の冷延鋼板、めっき鋼板などがある。また、厚板鋼材、鋼管などにおいても、欠陥が割れの起源となり得ることから、欠陥を減少させることは非常に重要である。このような欠陥の有無は、鋼以外の磁性金属を使用した磁性金属材料でも、品質上、非常に重要であることは同様である。
【0004】
そのため、磁性金属材料を製造する際には、製造ラインにおいて、または出荷前に欠陥を検知し、客先(ユーザ)への流出を防ぐことが必要となる。
このような欠陥を検知する1つの手段として、磁気探傷方法が知られている。この磁気探傷方法に使用される磁気センサには、各種のものがあるが、その一例として図6に示すE型の強磁性体のコアを有するものが知られている。以下に、図6に示す磁気センサをE型センサと呼ぶものとする。
【0005】
このE型センサは、図6に示すように、E型の強磁性体100と、強磁性体100の中央の脚部に巻回される励磁用コイル101aと、強磁性体100の両側の脚部に巻回される検出用コイル101b,101cと、磁化電源102と、差動増幅器104とを備え、例えば被検査体aのピット状の欠陥a1を検出するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
次に、このような構成からなる図6に示すE型センサの探傷動作について説明する。
励磁用コイル101aは、磁化電源102から供給される交流電流により、交流磁束を発生させる。この発生した交流磁束は被検査体aに作用すると、その相互作用に応じて、検出用コイル101b,101cには電圧がそれぞれ誘起される。その両誘起電圧は差動増幅器104に導かれると、差動増幅器104はその両誘起電圧の差に対応する電圧を出力する。
【0007】
このため、被検査体aに欠陥がないときには、検出用コイル101b,101cに誘起する電圧は同じになるので、差動増幅器104の出力電圧はゼロになる。一方、図6に示すように、検出用コイル101cの近傍にのみ被検査体aの欠陥a1が存在する場合には、検出用コイル101b,101cの誘起電圧には差があるので、差動増幅器104の出力電圧はゼロではなくその欠陥a1に応じたものとなる。
【0008】
従って、検出用コイル101b,101cの誘起電圧の差分を差動増幅器104で求めれば、被検査体aの欠陥の有無を検出できる。
【特許文献1】特開2003−240761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、磁気測定では、励磁用コイルと検出用コイルの配置間隔、または検出用コイル間の配置間隔を変えることで、測定条件を変えることができる。
例えば、2極式電磁膜厚測定においては、コイルが巻回されている極の間隔を変えることで、膜厚測定の領域を変えることができる。このため、その極の間隔を大きくすることで、局部的な変化の影響を受けにくい膜厚を測定でき、逆に、その極の間隔を小さくすることで、狭い領域のみの膜厚を測定することができる。
【0010】
また、図6に示すE型センサでは、コイル101a〜101cが巻回される強磁性体100の脚部の間隔を変えることにより、検出できる欠陥の大きさを変えることができる。通常、その脚部の間隔は、主に検査対象である欠陥の大きさから決定されるが、実際の検査対象にはいろいろな大きさの欠陥がある。このため、そのいろいろな大きさの欠陥に対応する必要がある。
【0011】
例えば、小さな欠陥の場合には、図6に示すE型センサにおいて、強磁性体100の脚部の間隔を狭くすることで欠陥の検出ができる。逆に、大きな欠陥の場合には、検出用コイル101b,101cの誘起電圧の差分をとるため、欠陥の大きさよりも脚部の間隔が狭い場合には誘起電圧が打ち消されてしまい、欠陥を適切に検出できない。
そのため、大きな欠陥の場合には、脚部の間隔を広くする必要がある。また、脚部の間隔が広い方が、表面粗さ、リフトオフなどの検査対象の局部的な変化の影響を小さくできる等の利点がある。
【0012】
以上の説明からわかるように、磁気測定では、コイルの配置間隔を変えることで、測定条件を変えた検出が可能となる。
しかし、通常の磁気測定に使用される磁気センサは、図6に示すE型センサのように強磁性体100のコアを有し、そのコアにコイルが巻回されているので、コイルの配置間隔を変えることができないという不具合がある。また、たとえコアを有していなくても、コイルの位置を機械的に固定しているため、コイルの位置を変えることは容易ではない。
【0013】
このような不具合に対処するために、磁気センサごと取り替えることも可能である。しかし、オンラインでの測定などの場合には、磁気センサを取り替えることは容易ではない。また、オンライン以外の測定で、仮に磁気センサを取り替えることができたとしても、リフトオフの調整など、諸条件の調整を再度やり直す必要があるなど、大きな手間のかかる作業が必要になるという新たな不具合が発生する。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記の点に鑑み、複数のコイルを有する磁気センサにおいて、測定精度を確保しつつ、測定の際に使用するコイルの配置間隔を容易に変えることができる磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決し本発明の目的を達成するために、各発明は以下のように構成するようにした。
すなわち、請求項1に係る発明は、複数のコイルを有する磁気センサであって、磁束の検出時に、前記複数のコイルのうちから1以上の励磁用のコイルと1以上の検出用のコイルの組を選択する選択手段と、前記選択手段で選択されない残余のコイルはコイル毎にその両端を短絡する短絡手段とを備え、前記選択手段で選択された励磁用のコイルを励磁し、前記選択手段で選択された検出用のコイルで磁束を検出するようになっている。
【0016】
請求項2に係る発明は、複数のコイルを有する磁気センサであって、前記複数のコイルのうちから1以上の励磁用コイルと1以上の検出用のコイルの組を選択する選択手段と、前記選択手段で選択されない残余のコイルはコイル毎にその両端をフローティング状態で短絡する短絡手段とを備え、前記選択手段で選択された励磁用のコイルを励磁し、前記選択手段で選択された検出用のコイルで磁束を検出するようになっている。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の磁気センサにおいて、前記選択手段は、前記コイルの組の選択の切り替えができるようになっている。
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の磁気センサにおいて、前記複数のコイルは、一列に配置されている。
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の磁気センサにおいて、前記選択手段で選択するコイルは等間隔に配置される3つのコイルであり、前記選択手段の選択時にそのコイルの間隔を変更できるようになっており、かつ、前記選択手段で選択された3つのコイルのうち、中央のコイルを励磁用に使用し、両側の2つのコイルを検出用とし使用し、前記2つの検出用のコイルの出力の差分信号を求めるようになっている。
【発明の効果】
【0018】
このような構成からなる本発明によれば、測定精度を確保しつつ、測定の際に使用するコイルの配置間隔を容易に変えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の磁気センサの実施形態について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の磁気センサの第1実施形態の全体の構成を示すブロック図である。
この第1実施形態に係る磁気センサは、図1に示すように、磁気検出部1と、磁化電源2と、選択回路3と、差動増幅器4と、位相検波器5と、欠陥レベル判別器6と、制御回路7とを備えている。
【0020】
磁気検出部1は、例えば7つの脚部10a〜10gを有する櫛型の磁性体10と、中央の脚部10dに巻回される励磁用コイル11dと、他の脚部10a、10b、10c、10e、10f、10gに巻回される検出用コイル11a、11b、11c、11e、11f、11gと、を備えている。
従って、磁気検出部1の複数のコイル11a〜11gは、一列であって等間隔に配置されている。また、脚部10a〜10gの各先端面は、図2に示すように、被検査体aの欠陥検出の際には、その検出面と対向するようになっている。
【0021】
磁化電源2は、励磁用コイル11dを励磁するものであり、その一端側が励磁用コイル11dに接続され、その他端側が接地されている。そして、磁化電源2は、選択回路3のスイッチ31dが閉じたときに、励磁コイル11dを励磁するようになっている。
選択回路3は、欠陥検出の際に、コイル11a〜11gの一端側を選択的に接地させるスイッチ31a〜31gを備えている。すなわち、スイッチ31a〜31gは、欠陥検出の際に、コイル11a〜11gのうちから検出に必要なコイルを選択し、その選択したコイルの一端側を接地するものである。
【0022】
また、選択回路3は、欠陥検出の際に、検出用コイル11a、11b、11c、11e、11f、11gのうちから所定の2つのコイルを選択し、この選択した2つのコイルの検出信号を差動増幅器4の入力側に導くとともに、その選択されない残余のコイルについては各コイルの両端をフローティング状態で短絡させるための切り替えスイッチ32a〜32fを備えている。
【0023】
このため、スイッチ31a〜31gの各一端側がコイル11a〜11gの各一端側に接続され、スイッチ31a〜31gの各他端側が接地されている。また、切り替えスイッチ32a〜32fの一端側の各固定接点は、検出用コイル11a、11b、11c、11e、11f、11gの各一端側に接続されている。
また、切り替えスイッチ32a〜32fの各切り替え接点は、検出用コイル11a、11b、11c、11e、11f、11gの各他端側に接続されている。さらに、切り替えスイッチ32a〜32cの他端側の各固定接点は差動増幅器4の一方の入力端子に接続され、切り替えスイッチ32d〜32fの他端側の各固定接点は差動増幅器4の他方の入力端子に接続されている。
【0024】
スイッチ31a〜31gは、欠陥検出の際に、後述のように制御回路7の制御に従って開閉制御されるようになっている。また、切り替えスイッチ32a〜32fは、欠陥検出の際に、後述のように制御回路7の制御に従って切り替え接点が切り替え制御されるようになっている。
ここで、スイッチ31a〜31gおよび切り替えスイッチ32a〜32fは、トランジスタのような電子スイッチ、またはリレーのような機械的な接点などが使用される。
【0025】
差動増幅器4は、選択回路3で選択された2の検出用コイルの両誘起電圧を入力し、その両誘起電圧の差分に応じた信号を位相検波器5に出力するようになっている。
位相検波器5は、差動増幅器4からの出力信号を入力し、この入力信号を磁化電源2の波形に同期した信号をより位相検波し、これにより被検査体の欠陥の大きさに応じた信号を得るものである。
【0026】
欠陥レベル判別器6は、位相検波器5からの出力信号を入力し、これをあらかじめ定めてあるしきい値と比較することにより、被検査体の欠陥のレベルを判別し、その判別結果を出力するものである。
制御回路7は、欠陥検出の指示があると、その指示に基づいてあらかじめ定められた手順で、選択回路3のスイッチ31a〜31gの開閉制御、および切り替えスイッチ32a〜32fの切り替え接点の切り替え制御を行うものである。
【0027】
次に、このような構成からなる第1実施形態による被検査体の欠陥の検出方法について、図1および図2を参照して説明する。
この欠陥の検出では、図1に示す磁気検出部1の各脚部10a〜10gを、図2に示すように被検査体aの検査面に対向させて行う。
まず、被検査体aの大きな欠陥を検出する場合について、図1および図2(a)を参照して説明する。
【0028】
この場合には、励磁用コイル11dを選択して使用するとともに、検出用コイル11a、11gを選択して使用し、それ以外の選択されない検出用コイル11b,11c,11e,11gの両端をフローティング状態で短絡させ、これにより被検査体aの欠陥検出を行う。
このときには、制御回路7により選択回路3のスイッチ31a、31d、31gがそれぞれオンとなる。また、制御回路7により、選択回路3の切り替えスイッチ32a、32fの各切り替え接点が図1中の上側の各固定接点と接続され、切り替えスイッチ32b、32c、32d、32eの各切り替え接点が図1中の下側の各固定接点と接続される。
【0029】
このときのコイルの両端の接続状態は、図2(a)に示すようになる。ここで、図2では、コイル11a,11d,11gについてはその一端側の接続のみ表示され、その他端側の接地の表示は省略されている。
この結果、励磁用コイル11dは磁化電源2により励磁されて交流磁束が発生し、検出用コイル11a,11gにより検出された検出信号(誘起電圧)が差動増幅器4に入力される。差動増幅器4の出力は位相検波器5に入力され、磁化電源2の波形に同期した信号により位相検波されると、位相検波器5からは被検査体aの欠陥の大きさに応じた信号が出力される。欠陥レベル判別器6は、その出力信号を入力し、これをあらかじめ定めてあるしきい値と比較することにより、被検査体の欠陥のレベルを判別し、その判別結果を出力する。
【0030】
ここで、被検査体aに欠陥がないときには、検出用コイル11a,11gの誘起電圧は同じであるので、差動増幅器4の出力電圧はゼロになる。一方、検出用コイル11a,11gのいずれか一方の検出用コイルの近傍にのみ大きな欠陥が存在する場合には、検出用コイル11a,11gの誘起電圧には差があるので、差動増幅器4の出力電圧はゼロではなくその欠陥に応じたものとなる。従って、検出用コイル11a,11gの誘起電圧の差分を差動増幅器4で求めれば、被検査体aの欠陥の有無を検出できる。
【0031】
次に、被検査体aの小さい欠陥を検出する場合について、図1および図2(b)を参照して説明する。
この場合には、励磁用コイル11dを選択して使用するとともに、検出用コイル11b、11fを選択して使用し、それ以外の選択されない検出用コイル11a,11c,11e,11gの両端をフローティング状態で短絡させ、これにより被検査体aの欠陥検出を行う。
【0032】
このときには、制御回路7により選択回路3のスイッチ31b、31d、31fがそれぞれオンとなる。また、制御回路7により、選択回路3の切り替えスイッチ32b、32eの各切り替え接点が図1中の上側の各固定接点と接続され、切り替えスイッチ32a、32c、32d、32fの各切り替え接点が図1中の下側の各固定接点と接続される。このときのコイルの両端の接続状態は、図2(b)に示すようになる。
【0033】
この結果、励磁用コイル11dは磁化電源2により励磁されて交流磁束が発生し、検出用コイル11b,11fにより検出された検出信号が差動増幅器4に入力される。
次に、被検査体aのさらに小さい欠陥を検出する場合について、図1および図2(c)を参照して説明する。
この場合には、励磁用コイル11dを選択して使用するとともに、検出用コイル11c、11eを選択して使用し、それ以外の選択されない検出用コイル11a,11b,11f,11gの両端をフローティング状態で短絡させ、これにより被検査体aの欠陥検出を行う。
【0034】
このときには、制御回路7により選択回路3のスイッチ31c、31d、31eがそれぞれオンとなる。また、制御回路7により、選択回路3の切り替えスイッチ32c、32dの各切り替え接点が図1中の上側の各固定接点と接続され、切り替えスイッチ32a、32b、32e、32fの各切り替え接点が図1中の下側の各固定接点と接続される。このときのコイルの両端の接続状態は、図2(c)に示すようになる。
【0035】
この結果、励磁用コイル11dは磁化電源2により励磁されて交流磁束が発生し、検出用コイル11c,11eにより検出された検出信号が差動増幅器4に入力される。
ところで、第1実施形態では、図6に示すE型センサによる測定と比較すると、図2(a)(b)の場合には、実際に検出に使用する検出用コイルを巻回している脚部と、励磁用コイルを巻回している脚部との間に、検出の際に直接使用しない検出用コイルが巻回される脚部がある。このため、その使用しない検出用コイルが巻回される脚部にも磁束が流れ、実際に使用する検出用コイルに鎖交する磁束が減少することが懸念される。
【0036】
しかし、第1実施形態では、上記のように、使用しない検出用コイルは短絡させるようにした。このため、使用しない検出用コイルには、電磁誘導現象により磁束が流れにくくなる方向に電流が流れるので、磁束の流入が難しくなる。この結果、検出に使用する検出用コイルに鎖交する磁束は、殆ど減少せず、第1実施形態では図6に示すE型センサと同等の測定を行うことが可能となる。
【0037】
そこで、第1実施形態における使用しない検出用コイルの短絡による効果を確認するために、人工欠陥を用いて、以下の条件の下で比較実験を行った。
この比較実験では、被検査体の測定対象となる人工欠陥として、幅0.5〔mm〕、深さ0.5〔mm〕のものを用意し、図3(a)〜(d)の右側の図のような条件で実験を行った。すなわち、図3(a)(c)(d)の場合には、強磁性体の脚部の間隔を1.5〔mm〕、図3(b)の場合には、強磁性体の脚部の間隔を3〔mm〕とした。また、脚部の幅はいずれも0.5〔mm〕、脚部の奥行きはいずれも2〔mm〕、脚部の長さはいずれも3〔mm〕とした。さらに、励磁信号は、いずれの場合も周波数が750〔kHz〕で、電圧は2〔V〕とした。
【0038】
図3(a)の実験は、脚部の配置間隔が1.5〔mm〕であり、その各脚部に巻回されるコイルのうち連続する3つのコイルを使用するものであり、これは脚部の間隔が1.5〔mm〕の図6に示すE型センサに相当する。同図(b)の実験は、脚部の配置間隔が3〔mm〕であり、その各脚部に巻回されるコイルのうち連続する3つのコイルを使用するものであり、これは脚部の間隔が3〔mm〕の図6に示すE型センサに相当する。
【0039】
同図(c)の実験は、脚部の配置間隔が1.5〔mm〕であり、その各脚部に巻回されるコイルを1つおきに3つ使用し、使用しないコイルは各コイル毎にその両端を開放させている。同図(d)の実験は、脚部の配置間隔が1.5〔mm〕であり、その各脚部に巻回されるコイルを1つおきに3つ使用し、使用しないコイルは各コイル毎にその両端を短絡させ、フローティング状態にさせている。
【0040】
このような条件の下で行った4つの比較実験の結果を、図3(a)〜(d)の各左側に示す。
この比較実験の結果によれば、欠陥の信号出力はピーク・ピーク値で、(a)の場合が1.1〔V〕、(b)の場合が0.8〔V〕、(c)の場合が0.4〔V〕、(d)の場合が0.75〔V〕である。
【0041】
(a)と(b)の比較によれば、脚部の間隔を変えることで、欠陥に対する検出性能が変わることが確認できる。また、(b)(c)(d)の比較により、使用しないコイルが使用するコイルの間に存在しても、(d)に示すようにその使用しないコイルの両端を短絡し、フローティング状態にすることで、(b)に示すように図6に示すE型センサと同等の結果を得ることが確認できた。
【0042】
以上説明したように、この第1実施形態によれば、欠陥の測定精度を確保しつつ、測定の際に検出対象である欠陥の大きさに応じて、使用するコイルの配置間隔を容易に変えることができる。
なお、この第1実施形態では、検出に直接使用しないコイルは、図3(d)に示すように、その両端を短絡してフローティング状態とするのが最適である。しかし、これに代えて、使用しないコイルの両端を短絡して接地するようにしても、その使用しないコイルへの磁束の流入を防ぐことができ、実用上問題はない。
【0043】
(第2実施形態)
図4は、本発明の磁気センサの第2実施形態の全体の構成を示すブロック図である。
この第2実施形態に係る磁気センサは、図4に示すように、磁気検出部1Aと、磁化電源2と、選択回路3Aと、信号処理回路8と、欠陥レベル判別器9と、制御回路7Aとを備え、図1に示す第1実施形態と比較して全体の構成の簡易化を図ったものである。
【0044】
磁気検出部1Aは、例えば4つの脚部10h〜10kを有する櫛型磁性体10Aと、一端側の脚部10hに巻回される励磁用コイル11hと、残りの脚部10i、10j、10kに巻回される検出用コイル11i、11j、11kと、を備えている。
従って、磁気検出部1Aの複数のコイル11h〜11kは、一列であって等間隔に配置されている。また、脚部10h〜10kの各先端面は、図5に示すように、被検査体の欠陥検出の際には、その検出面と対向するようになっている。
【0045】
磁化電源2は、励磁用コイル11hを励磁するものであり、その一端側が励磁用コイル11hに接続され、その他端側が接地されている。そして、磁化電源2は、選択回路3Aのスイッチ31hが閉じたときに、励磁コイル11hを励磁するようになっている。
選択回路3Aは、欠陥検出の際に、コイル11h〜11kの一端側を選択的に接地させるスイッチ31h〜31kを備えている。すなわち、スイッチ31h〜31kは、欠陥検出の際に、コイル11h〜11kのうちから検出に必要なコイルを選択し、その選択したコイルの一端側を接地するものである。
【0046】
また、選択回路3Aは、欠陥検出の際に、検出用コイル11i〜11kのうちから所定の1つのコイルを選択し、この選択したコイルの検出信号を信号処理回路8の入力側に導くとともに、その選択されない残余のコイルについては各コイルの両端をフローティング状態で短絡させるための切り替えスイッチ32i〜32kを備えている。
このため、スイッチ31h〜31kの各一端側がコイル11h〜11kの各一端側に接続され、スイッチ31h〜31kの各他端側が接地されている。また、切り替えスイッチ32i〜32kの一端側の各固定接点は、検出用コイル11i〜11kの各一端側に接続されている。また、切り替えスイッチ32i〜32kの各切り替え接点は、検出用コイル11i〜11kの各他端側に接続されている。さらに、切り替えスイッチ32i〜32kの他端側の各固定接点は、信号処理回路8の入力側に接続されている。
【0047】
スイッチ31h〜31kは、欠陥検出の際に、後述のように制御回路7Aの制御に従って開閉制御されるようになっている。また、切り替えスイッチ32i〜32kは、欠陥検出の際に、後述のように制御回路7Aの制御に従って切り替え接点が切り替え制御されるようになっている。
ここで、スイッチ31h〜31kおよび切り替えスイッチ32i〜32kは、トランジスタのような電子スイッチ、またはリレーのような機械的な接点などが使用される。
【0048】
信号処理回路8は、検出用コイル11i,11j,11kからの各検出信号を選択的に入力し、その入力した検出信号を増幅回路で増幅するとともに、その増幅した検出信号中からフィルタ回路により所望の成分を抽出し、その抽出した信号を出力するようになっている。
欠陥レベル判別器9は、信号処理回路8からの出力信号を入力し、これをあらかじめ定めてあるしきい値と比較することにより、被検査体の欠陥のレベルを判別し、その判別結果を出力するものである。
【0049】
制御回路7Aは、欠陥検出の指示があると、その指示に基づいてあらかじめ定められた手順で、選択回路3のスイッチ31h〜31kの開閉制御、および切り替えスイッチ32i〜32kの切り替え接点の切り替え制御を行うものである。
次に、このような構成からなる第2実施形態による被検査体の欠陥の検出方法について、図4および図5を参照して説明する。
【0050】
この欠陥の検出では、図4に示す磁気検出部1Aの各脚部10h〜10kを、図5に示すように被検査体aの検査面に対向させて行う。
まず、被検査体aの大きな欠陥を検出する場合について、図4および図5(a)を参照して説明する。
この場合には、励磁用コイル11hを選択して使用するとともに、検出用コイル11kを選択して使用し、それ以外の選択されない検出用コイル11i,11jの両端を短絡させてフローティング状態とし、これにより被検査体aの欠陥検出を行う。
【0051】
このときには、制御回路7Aにより選択回路3Aのスイッチ31h、31kがそれぞれオンとなる。また、制御回路7Aにより、選択回路3Aの切り替えスイッチ32kの各切り替え接点が図4中の上側の各固定接点と接続され、切り替えスイッチ32i、32jの各切り替え接点が図4中の下側の各固定接点と接続される。
このときのコイルの両端の接続状態は、図5(a)に示すようになる。ここで、図5では、コイル11h,11kについてはその一端側の接続のみ表示され、その他端側の接地の表示は省略されている。
【0052】
この結果、励磁用コイル11hは磁化電源2により励磁されて交流磁束が発生し、検出用コイル11kにより検出された検出信号(誘起電圧)が信号処理回路8に入力される。信号処理回路8は、その検出信号の増幅およびフィルタ処理を行い、欠陥信号を強調して出力する。欠陥レベル判別器9は、その出力信号を入力し、これをあらかじめ定めてあるしきい値と比較することにより、被検査体の欠陥のレベルを判別し、その判別結果を出力する。
【0053】
次に、被検査体aの小さい欠陥を検出する場合について、図4および図5(b)を参照して説明する。
この場合には、励磁用コイル11dを選択して使用するとともに、検出用コイル11jを選択して使用し、それ以外の選択されない検出用コイル11i,11kの両端を短絡させてフローティング状態とし、これにより被検査体aの欠陥検出を行う。
【0054】
このときには、制御回路7Aにより選択回路3Aのスイッチ31h、31jがそれぞれオンとなる。また、制御回路7Aにより、選択回路3Aの切り替えスイッチ32jの各切り替え接点が図4中の上側の各固定接点と接続され、切り替えスイッチ32i、32kの各切り替え接点が図4中の下側の各固定接点と接続される。このときのコイルの両端の接続状態は、図5(b)に示すようになる。
【0055】
この結果、励磁用コイル11hは磁化電源2により励磁されて交流磁束が発生し、検出用コイル11jにより検出された検出信号が信号処理回路8に入力される。
次に、被検査体aのさらに小さい欠陥を検出する場合について、図4および図5(c)を参照して説明する。
この場合には、励磁用コイル11hを選択して使用するとともに、検出用コイル11iを選択して使用し、それ以外の選択されない検出用コイル11j,11kの両端を短絡させ、これにより被検査体aの欠陥検出を行う。
【0056】
このときには、制御回路7Aにより選択回路3Aのスイッチ31h、31iがそれぞれオンとなる。また、制御回路7Aにより、選択回路3Aの切り替えスイッチ32j、32kの各切り替え接点が図4中の上側の各固定接点と接続される。このときのコイルの両端の接続状態は、図5(c)に示すようになる。
この結果、励磁用コイル11hは磁化電源2により励磁されて交流磁束が発生し、検出用コイル11iにより検出された検出信号は信号処理回路8に入力される。
【0057】
以上説明したように、この第2実施形態によれば、欠陥の測定精度を確保しつつ、測定の際に検出対象である欠陥の大きさに応じて、使用するコイルの配置間隔を容易に変えることができる。
また、この第2実施形態では、第1実施形態と同様に、検出に直接使用しないコイルはその両端を短絡してフローティング状態としたが、これによる効果は第1実施形態の場合と同様である。
【0058】
なお、上記の第1実施形態および第2実施形態では、図1および図4に示すように、磁気検出部を有し、その磁気検出部は複数の脚部を有する櫛型磁性体と、その各脚部に巻回される複数のコイルと、を備えるものとした。
しかし、本発明は、複数のコイルを有すれば良く、欠陥などの検出時に、その複数のコイルのうちから励磁用のコイルと検出用のコイルとを少なくとも1つずつ選択できるとともに、その選択の際に使用するコイルの間隔が容易に変わるようになっており、かつ、使用しないコイルはその両端が短絡できるようになっていれば良い。
【0059】
また、上記の実施形態は、欠陥検出の場合について説明したが、本発明は2極式電磁膜厚計による膜厚計測などのように、欠陥検出以外にも適用できる。
さらに、本発明に係る磁気センサは、測定時に、必ずしも機械的に固定して使用する必要はなく、走査させるようにしても良い。磁気センサを走査させる場合には、例えば、被検査体と平行に脚部の配列方向に走査させたり、脚部の配列方向と直交方向に走査させたり、あるいは斜め方向に走査させるようにしても良い。
【0060】
さらにまた、上記の実施形態では、励磁用コイルを1つだけ選択して使用する場合について説明したが、励磁用コイルを2つ選択して使用するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の磁気センサの第1実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】その第1実施形態による検出例を説明する図である。
【図3】その第1実施形態において、不使用の検出用コイルを短絡してフローティング状態とした場合の効果を確認するための比較実験の結果を示す図である。
【図4】本発明の磁気センサの第2実施形態の構成を示すブロック図である。
【図5】その第2実施形態による検出例を説明する図である。
【図6】従来の磁気センサの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
a 被検査体
1、1A 磁気検出部
2 磁化電源
3、3A 選択回路
4 差動増幅器
5 位相検波器
6、9 欠陥レベル判別器
7、7A 制御回路
10 櫛型の強磁性体
10a〜10k 脚部
11d、11h 励磁用コイル
11a〜11c,11e〜11f,11i〜11k 検出用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイルを有する磁気センサであって、
磁束の検出時に、前記複数のコイルのうちから1以上の励磁用のコイルと1以上の検出用のコイルの組を選択する選択手段と、
前記選択手段で選択されない残余のコイルはコイル毎にその両端を短絡する短絡手段とを備え、
前記選択手段で選択された励磁用のコイルを励磁し、前記選択手段で選択された検出用のコイルで磁束を検出するようになっていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
複数のコイルを有する磁気センサであって、
前記複数のコイルのうちから1以上の励磁用コイルと1以上の検出用のコイルの組を選択する選択手段と、
前記選択手段で選択されない残余のコイルはコイル毎にその両端をフローティング状態で短絡する短絡手段とを備え、
前記選択手段で選択された励磁用のコイルを励磁し、前記選択手段で選択された検出用のコイルで磁束を検出するようになっていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項3】
前記選択手段は、前記コイルの組の選択の切り替えができるようになっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記複数のコイルは、一列に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記選択手段で選択するコイルは等間隔に配置される3つのコイルであり、前記選択手段の選択時にそのコイルの間隔を変更できるようになっており、
かつ、前記選択手段で選択された3つのコイルのうち、中央のコイルを励磁用に使用し、両側の2つのコイルを検出用とし使用し、前記2つの検出用のコイルの出力の差分信号を求めるようになっていることを特徴とする請求項4に記載の磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−10440(P2006−10440A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186325(P2004−186325)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】