説明

磁気浮上型回転導入機

【課題】磁性流体シールを使用する必要がない磁気浮上型を採用し、しかも装置としてのアキシャル方向の長さを極力短くすることができるようにする。
【解決手段】回転動力を出力する回転子12を備え、回転子12は、回転子12のラジアル方向に配置されて該回転子12のラジアル方向変位を非接触で制御する2組以上のラジアル磁気軸受40と、回転子12の周囲に3組以上に分割配置されて該回転子12のアキシャル方向変位を非接触で制御するアキシャル磁気軸受50によって、所定の位置に非接触で回転支承され、ラジアル磁気軸受40のラジアル電磁石44とアキシャル磁気軸受50のアキシャル電磁石54は、略同一平面上に配置されてケーシング部14に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体ウェハ等の基板の表面に薄膜を形成したり、基板の表面に形成されている薄膜に対してエッチング処理を施したりする時に、基板を保持してプロセスチャンバ内に収容した基板搭載台等を回転させるのに使用される磁気浮上型回転導入機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般産業や半導体産業において、基板等の母材の表面に金属材料の蒸着を行う蒸着装置では、蒸着工程が行われるプロセスチャンバの内部に配置した多数の母材に対して金属材料の蒸着をより均一に行うため、複数の母材をプロセスチャンバ内で回転させることが広く行われている。また、半導体産業において、蒸着工程後に母材(ウェハ)の表面をエッチングするエッチング工程においても、エッチングガスが充満されたプロセスチャンバ内で母材表面に対するエッチング反応が均等に行えるよう、母材を回転させることも広く行われている。
【0003】
プロセスチャンバの内部に収納したウェハ等の基板を回転させるための手段として、プロセスチャンバの内部にモータを配置し、このプロセスチャンバ内に配置したモータで、多数の基板を搭載してプロセスチャンバ内に収容した基板搭載台を回転させることが知られている。
【0004】
しかし、プロセスチャンバの内部にモータを設置すると、プロセスチャンバ内部に充填される蒸着ガスやエッチングガス等のプロセスガスにモータその物が晒されてしまう。このため、モータは、プロセスチャンバの内部雰囲気に大きな影響を受ける。特に、モータには、駆動軸を回転自在に支承する、ボールベアリング等の接触型軸受が備えられており、この軸受の内部にプロセスガスが侵入すると、軸受内部に生成物が発生して軸受が故障する原因となる。このため、軸受の外方に磁性流体シールなどの軸封機構を設置し、軸受の内部、更には軸受の内部を通過してモータの内部にプロセスガスが侵入しないようにした構造が広く採用されている。
【0005】
図1は、プロセスチャンバ100の外部に設置される外部モータ102を有し、外部モータ102の回転力を、マグネットカップリング104の結合力を介して、プロセスチャンバ100の内部に伝達するようにした回転導入機を備えた基板処理装置の一例を示す。回転導入機は、昇降シャフト106の昇降アーム108上に載置され、上面にプロセスチャンバ100を保持するフランジ部110を有するケーシング部112と、上面に保温筒114を保持する回転台テーブル部116を有する回転子118を備えている。保温筒114の上部に、内部に多数の基板Wを搭載した基板搭載台120が載置され、保温筒114及び基板搭載台120は、プロセスチャンバ100内に配置される。
【0006】
回転子118は、上端に回転台テーブル部116を連結して下方に延びる軸部122を有しており、この軸部122の下部に下方に開口する中空部が設けられている。そして、外部モータ102の駆動軸124の上端は、軸部122の中空部の内部に達しており、駆動軸124の外周面に、マグネットカップリング104の駆動側インナーマグネット126が、軸部122の中空部内周面の駆動側インナーマグネット126に対向する位置に、マグネットカップリング104の従動側アウターマグネット128がそれぞれ取付けられている。これにより、外部モータ102の駆動に伴う駆動軸124の回転によって、回転子118が回転する。
【0007】
ケーシング部112は、上端にフランジ部110を連結して下方に延びる円筒部130を有しており、この円筒部130と回転子118の軸部122との間に、軸部122を回転自在に支承する一対の軸受132,134が上下に配置されている。この軸受132,134は、ボールベアリングなどの接触型軸受からなる。更に、上方に位置する軸受132の上方に位置して、ケーシング部112の円筒部130と回転子118の軸部122との間には、軸受132,134の内部にプロセスガスが侵入するのを防止する、例えば磁性流体シールからなる軸封機構136が配置されている。
【0008】
この基板処理装置によれば、外部モータ102の駆動に伴って、回転子118を回転させて、内部に多数の基板Wを搭載した基板搭載台120を回転させる。同時に、プロセスチャンバ100の内部にプロセスガスを導入することで、基板Wに対するより均一な処理が行われる。
【0009】
近年、蒸着技術やエッチング技術においては、プロセスを行うプロセスチャンバの内部雰囲気のより高い純粋度が求められており、プロセスガスが導入されるプロセスチャンバの内部で異物が発生することを極力阻止することが望まれている。
【0010】
しかしながら、図1に示すように、プロセスチャンバの内部に導入されるプロセスガスの軸受内への侵入を防止するため、該プロセスガスに晒される位置に磁性流体シール等の軸封機構を設けると、シール剤に使用されている磁性流体の油分の分解ガス化や、磁性流体に混入している物質を原因とするコンタミネーションの発生を避けることができず、また磁性流体の寿命にも問題があった。このことは、モータを圧力装置の内部に配置するようにした場合においても同様である。
【0011】
このため、磁性流体シール等の軸封機構を必要とするボールベアリングなどの接触型軸受を使用することなく、プロセスチャンバ内に配置されるロータをラジアル磁気軸受やアキシャル磁気軸受によって非接触で支持することで、プロセスチャンバの内部に軸受や軸封機構による異物の発生がないようにしたものが提案されている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2005/039019号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/098500号パンフレット
【特許文献3】特開平8−139171号公報
【特許文献4】特開平10−46336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように、ボールベアリングなどの接触型軸受を使用してロータを回転自在に支承すると、磁性流体シール等の軸封機構が必要となり、シール剤に使用されている磁性流体の油分の分解ガス化や、磁性流体に混入している物質を原因とするコンタミネーションの発生を避けることができない。
【0014】
また、例えば特許文献4に記載の発明のように、鉛直方向に配置された回転軸(ロータ)を、上下に所定間隔離間して配置された上下ラジアル磁気軸受と、上下ラジアル磁気軸受間に配置されたアキシャル磁気軸受で浮上支持するようにすると、回転軸の軸方向に沿って、上下ラジアル磁気軸受とアキシャル軸が並列に配置されて、アキシャル方向にかなり長くなってしまい、基板処理装置等への組込みが困難になってしまう。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、磁性流体シールを使用する必要がない磁気浮上型を採用し、しかも装置としてのアキシャル方向の長さを極力短くすることができるようにした磁気浮上型回転導入機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、回転動力を出力する回転子を備え、前記回転子は、前記回転子のラジアル方向に配置されて該回転子のラジアル方向変位を非接触で制御する2組以上のラジアル磁気軸受と、前記回転子の周囲に3組以上に分割配置されて該回転子のアキシャル方向変位を非接触で制御するアキシャル磁気軸受によって、所定の位置に非接触で回転支承され、前記ラジアル磁気軸受のラジアル電磁石と前記アキシャル磁気軸受のアキシャル電磁石は、略同一平面上に配置されてケーシング部に固定されていることを特徴とする磁気浮上型回転導入機である。
【0017】
このように、磁気軸受を使用することで、磁性流体シールを使用する必要がない回転子の非接触支持を実現し、しかもラジアル磁気軸受のラジアル電磁石とアキシャル磁気軸受のアキシャル電磁石を略同一平面上に配置してケーシング部に固定することで、アキシャル方向の長さを極力短くして、基板処理装置等への組込みを容易に行うことができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、前記回転子と一体で構成されるモータ回転子鉄心と、前記モータ回転子鉄心と対向して配置され、該モータ回転子鉄心を回転させるモータ固定子磁極鉄心とを有するモータ回転子部を備え、前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石及び前記モータ固定子磁極鉄心は、略同一平面上に配置されて前記ケーシング部に固定されていることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上型回転導入機である。
【0019】
このように、回転子を回転させるモータ回転子部を一体に組込んだ場合にあっても、モータ回転子部のモータ固定子磁極鉄心を、ラジアル電磁石及びアキシャル電磁石と略同一平面上に配置することで、アキシャル方向の長さを極力短くして、基板処理装置等への組込みを容易に行うことができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、前記ケーシング部は、プロセスチャンバの蓋体として機能し、前記ラジアル磁気軸受、前記アキシャル磁気軸受及び前記モータ回転子部は、前記プロセスチャンバと前記ケーシング部で密閉される空間の内部に配置されることを特徴とする請求項2記載の磁気浮上型回転導入機である。
このように、ケーシング部をプロセスチャンバの蓋体として機能させることで、プロセスチャンバ内の導入されたプロセスガスをプロセスチャンバ内に封入させることができる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石及び前記モータ回転子部の前記モータ固定子磁極鉄心は、その表面が外部に露出しないよう金属隔壁で覆われているか、または各磁極全体が保護皮膜で被覆されていることを特徴とする請求項3記載の磁気浮上型回転導入機である。
これにより、ラジアル電磁石の表面が腐食性ガスに晒される場合に、ラジアル電磁石が腐食性ガスで腐食されることを防止することができる。このことは、アキシャル電磁石及びモータ固定子磁極鉄心にあっても同様である。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記ケーシング部は、前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石及び前記モータ固定子磁極鉄心を収納する空間にパージガスを導入するパージガス導入部を有することを特徴とする請求項3記載の磁気浮上型回転導入機である。
このように、ラジアル電磁石、アキシャル電磁石及びモータ固定子磁極鉄心を収納する空間にパージガスを導入することによっても、ラジアル電磁石、アキシャル電磁石及びモータ固定子磁極鉄心が腐食性ガスで腐食されることを防止することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、前記ケーシング部は、プロセスチャンバの蓋体として機能し、前記ラジアル磁気軸受、前記アキシャル磁気軸受及び前記モータ回転子部の前記モータ回転子鉄心は、前記プロセスチャンバと前記ケーシング部で密閉される空間の内部に、前記モータ回転子部のモータ固定子磁極鉄心は、前記空間の外部にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項2記載の磁気浮上型回転導入機である。
このように、モータ固定子磁極鉄心をプロセスチャンバとケーシング部で区画される空間の外部に配置することで、モータ固定子磁極鉄心が腐食性ガスに晒されないようにすることができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、外部モータを有し、該外部モータの駆動軸と前記回転子とは、マグネットカップリングを介して互いに結合され、前記マグネットカップリングの駆動側インナーカップリングは前記ケーシング部を挟んで前記外部モータ側に、従動側アウターカップリングは前記ケーシング部を挟んで前記回転子側にそれぞれ配置されており、前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石、前記駆動側インナーカップリング及び前記従動側アウターカップリングは、略同一平面上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上型回転導入機である。
このように、外部モータとマグネットカップリングを使用して回転子を回転させるようにした場合にあっても、マグネットカップリングをラジアル電磁石及びアキシャル電磁石と略同一平面上に配置することで、アキシャル方向の長さを極力短くして、基板処理装置等への組込みを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、磁性流体シール等を必要とするボールベアリングなどの接触型軸受を使用せず、プロセスチャンバ内に配置される回転子を非接触で支承する磁気軸受装置を用いた回転機構を使用することで、プロセスチャンバの内部に異物が発生することを理論上無くすることが可能となる。しかも、アキシャル方向の長さを極力短くすることができ、これによって、基板処理装置等への組込みを容易となすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の回転導入機を備えた基板処理装置の概要を示す縦断正面図である。
【図2】本発明の実施形態の磁気浮上型回転導入機の概要を示す縦断正面図である。
【図3】図2に示す磁気浮上型回転導入機における、モータ、ラジアル磁気軸受のラジアル電磁石、ラジアル変位センサ及びアキシャル磁気軸受のアキシャル電磁石の配置状態を示す平面図である。
【図4】図2及び図4に示す磁気浮上型回転導入機を組込んだ基板処理装置の概要を示す縦断正面図である。
【図5】本発明の他の実施形態の磁気浮上型回転導入機の概要を示す縦断正面図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態の磁気浮上型回転導入機の概要を示す縦断正面図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態の磁気浮上型回転導入機の概要を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図2乃至図7を参照して説明する。なお、図2乃至図7において、同一または相当部材には同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0028】
図2は、本発明の実施形態の磁気浮上型回転導入機の概要を示す縦断正面図で、図3は、図2に示す磁気浮上型回転導入機における、モータ、ラジアル磁気軸受のラジアル電磁石、ラジアル変位センサ及びアキシャル磁気軸受のアキシャル電磁石の配置状態を示す平面図である。図2及び図3に示すように、磁気浮上型回転導入機10は、回転動力を出力する回転子12と、該回転子12の外周及び下方を包囲する上方に開口したケーシング部14とを有している。ケーシング部14は、例えば図4に示すように、磁気浮上型回転導入機10を基板処理装置に組込んだ時に、プロセスチャンバ68の下端開口部を閉塞する蓋体として機能する。
【0029】
回転子12は、平板状の回転台テーブル部16と、該回転台テーブル部16を上端に連結して同心円状に下方に延びる内側軸部18及び外側軸部20を有している。回転台テーブル部16の上面には、例えば図4に示すように、保温筒64が載置され、この保温筒64の上面に、内部に多数の基板Wを搭載した基板搭載台66が乗せられる。これによって、回転台テーブル部16の回転に伴って、保温筒64及び基板搭載台66が一体に回転する。
【0030】
ケーシング部14は、平板状の底板(塞板)22と、この底板22の周囲に一体に連接された円筒部24と、この円筒部24の上端から外方に延出するフランジ部26を有している。底板22のほぼ中央には、内部にパージガスを導入するパージガス導入口22aが設けられている。このパージガス導入口22aは,回転体部分と固定側部分との隙間にプロセスチャンバ内部のプロセスガスが侵入し、構造体表面に腐食などが発生する可能性がある場合に、回転体部分と固定側部分との隙間にプロセスガスの侵入を防ぐためパージガスを導入するために使用するポートである。なお、このパージガス導入口22aは、下記の図5乃至図7に示す例では設けられていないが、図5乃至図7に示す例に設けても良いことは勿論である。
【0031】
フランジ部26の外周部には、例えば図4に示すように、フランジ部26の上面にプロセスチャンバ68をセットした時に、プロセスチャンバ68の下端フランジ部68aに圧接して、ケーシング部14のフランジ部26とプロセスチャンバ68の下端フランジ部68aとの間をシールするシールリング28が装着されている。このように構成することによって、プロセスチャンバ68を密閉空間とすることができる。
【0032】
この例は、回転子12を回転駆動させるモータ回転子部30が一体に組込まれている。すなわち、回転子12の内側軸部18の外周面にはモータ回転子鉄心32が設けられ、このモータ回転子鉄心32に対向する位置に、この例では、合計3個のモータ固定子磁極鉄心34がケーシング部14の底板22に固定されて配置されている。このモータ回転子鉄心32及びモータ固定子磁極鉄心34によってモータ回転子部30が構成されている。この例では、モータ回転子鉄心32は、鉄心32aにコイル32bを巻回して構成され、モータ固定子磁極鉄心34は、鉄心34aにコイル34bを巻回して構成されている。これにより、モータ回転子鉄心32のコイル32bとモータ固定子磁極鉄心34のコイル34bに電流を流すことで、モータ回転子鉄心32が回転子12と一体に回転する。
【0033】
回転子12の外側軸部20とケーシング部14の底板22との間には、回転子12のラジアル方向変位を非接触で制御する、この例では合計4組のラジアル磁気軸受40が配置されている。すなわち、回転子12の外側軸部20の内周面にはラジアル電磁石ターゲット42が取付けられ、このラジアル電磁石ターゲット42と対向する位置に、合計4個のラジアル電磁石44がケーシング部14の底板22に固定されて配置されている。このラジアル電磁石ターゲット42と1つのラジアル電磁石44で1組のラジアル磁気軸受40が構成されている。ラジアル電磁石44は、鉄心44aにコイル44bを巻回して構成されている。ラジアル磁気軸受40を2組以上設けることで、回転子12を2軸制御することができる。
【0034】
各ラジアル電磁石44の間に位置して、回転子12の外側軸部20のラジアル方向変位を検知するラジアル変位センサ46が、該外側軸部20の内周面に取付けたラジアル電磁石ターゲット42に対向して、ケーシング部14の底板22に固定されて配置されている。ラジアル変位センサ46は、鉄心46aにコイル46bを巻回して構成されている。ラジアル変位センサ46を備えることによってラジアル磁気軸受40の制御が容易となるが、ラジアル変位センサ46は、必ずしも必要ではない。
【0035】
回転子12の外側軸部20とケーシング部14の円筒部24との間に位置して、回転子12のアキシャル方向変位を非接触で制御するアキシャル磁気軸受50が、この例では合計4組に分割されて配置されている。すなわち、回転子12の外側軸部20の外周面には、リング状のアキシャルディスク52の内周面が固定されており、このアキシャルディスク52を挟んだ上下位置に、上下一対のアキシャル電磁石54がケーシング部14の底板22乃至円筒部24の内周面に固定されて配置されている。このアキシャルディスク52と上下一対のアキシャル電磁石54で1組のアキシャル磁気軸受50が構成され、この例では、上下一対のアキシャル電磁石54は、4つに分割されている。アキシャル電磁石54は、鉄心54aに設けた凹部内にコイル54bを装着して構成されている。アキシャル磁気軸受50を3組以上に分割配置することで、回転子12を3軸制御することができる。
【0036】
アキシャル電磁石54を3組以上配置することで、アキシャルディスク52自身の平面度、すなわち回転子12の外側軸部20を水平に保つように制御することが可能となる。通常,ラジアル電磁石は、(回転子)周囲に配置された2組4個の電磁石で構成されるため、アキシャル電磁石が3を基調とする奇数組である場合、ラジアル電磁石の配置とアキシャル電磁石の配置方向が同等位置に配置されず、全体の制御を困難にする場合がある。このようなとき、アキシャル電磁石を4を基調とする偶数組で配置すると、ラジアル電磁石と同等位置に配置されるため、ラジアル電磁石との連携した制御が容易に実施可能になる。3組のアキシャル電磁石を選択するか、4組のアキシャル電磁石を選択するかについては,構造体の重量・制御回路の特性・全体のコストを考慮して、適時選択すればよい。
【0037】
この例では、ラジアル磁気軸受40及びアキシャル磁気軸受50を使用することで、磁性流体シールを使用する必要がない、回転子12の非接触支持を実現している。しかも、モータ回転子部30のモータ固定子磁極鉄心34、ラジアル磁気軸受40のラジアル電磁石44、及びアキシャル磁気軸受50のアキシャル電磁石54、更にはラジアル変位センサ46をケーシング部14の底板20乃至円筒部22に固定して略同一平面上に配置することで、磁気浮上型回転導入機10のアキシャル方向の長さを極力短くして、磁気浮上型回転導入機10の基板処理装置等への組込みを容易に行うことができる。
【0038】
磁気浮上型回転導入機10は、例えば図4に示すように、基板処理装置に組込まれて使用され、ケーシング部14は、プロセスチャンバ68の開口部を閉塞する蓋体として機能する。このため、プロセスチャンバ68内にプロセスガスが導入されると、プロセスチャンバ68とケーシング部14で囲まれたプロセス領域内にプロセスガスが充満し、このプロセス領域内に位置するモータ回転子部30、ラジアル磁気軸受40、ラジアル変位センサ46及びアキシャル磁気軸受50は、プロセスガス雰囲気に晒される。そして、プロセスガスが腐食性ガスの場合、例えばモータ固定子磁極鉄心34の鉄心34aが鉄製である場合、鉄心34aは、腐食性ガスで腐食するおそれがある。このことは、モータ回転子鉄心32の鉄心32a、ラジアル電磁石44の鉄心44a、ラジアル変位センサ46の鉄心46a及びアキシャル電磁石54の鉄心54aにあっても同様である。
【0039】
このため、この例では、モータ固定子磁極鉄心34の鉄心34aとして、例えば鉄の表面を、ポリイミド等の耐腐食性に優れた樹脂からなる保護皮膜で被覆したものを使用して、モータ固定子磁極鉄心34の鉄心34aの耐腐食性を高めるようにしている。このことは、モータ回転子鉄心32の鉄心32a、ラジアル電磁石44の鉄心44a、ラジアル変位センサ46の鉄心46a及びアキシャル電磁石54の鉄心54aにあっても同様である。
【0040】
モータステータのコイルや電磁石のコイルとして、導線の周りをエナメルで被覆した、いわゆるエナメル線が一般に使用される。エナメル線は、腐食性ガスに晒されると腐食する虞がある。このため、この例では、モータ固定子磁極鉄心34のコイル34bとして、導線の周りを、ポリイミド等の耐腐食性に優れた樹脂からなる保護皮膜で被覆したものを使用して、モータ固定子磁極鉄心34のコイル34bの耐腐食性を高めるようにしている。このことは、モータ回転子鉄心32のコイル32b、ラジアル電磁石44のコイル44b、ラジアル変位センサ46のコイル46b及びアキシャル電磁石54のコイル54bにあっても同様である。
【0041】
更に、この例では、ケーシング部14の底板22のほぼ中央にパージガス導入口22aを設け、このパージガス導入口22aからプロセスチャンバ68とケーシング部14で囲まれたプロセス領域内にパージガスを導入することで、腐食性ガスがモータ固定子磁極鉄心34の鉄心34aやラジアル電磁石44の鉄心44a等の表面に滞留することを防止し、これによって、モータス固定子磁極鉄心34の鉄心34aやラジアル電磁石44の鉄心44a等の耐腐食性を更に高めるようにしている。
【0042】
上記の例では、ポリイミド等の耐腐食性に優れた樹脂をコーティングすることで、モータ固定子磁極鉄心34やラジアル電磁石44等の耐腐食性を高めるようにしているが、図2及び図3に仮想線で示すように、ラジアル電磁石44が外部に外部に露出しないように、ラジアル電磁石44の表面(ラジアル電磁石ターゲット42との対向面)を金属隔壁56で覆うことによって、ラジアル電磁石44の耐腐食性を高めるようにしてもよい。このことは、モータ回転子鉄心32、モータ固定子磁極鉄心34、ラジアル変位センサ46及びアキシャル電磁石54にあっても同様である。
【0043】
図4は、図2及び図3に示す磁気浮上型回転導入機10を組込んだ基板処理装置の概略を示す縦断面図である。図4に示すように、基板処理装置には、昇降シャフト60に沿って昇降する昇降アーム62が備えられ、この昇降アーム62の上面に磁気浮上型回転導入機10が設置されている。そして、磁気浮上型回転導入機10の回転台テーブル部16の上面に保温筒64が載置され、この保温筒64の上面に、内部に多数の基板Wを搭載した基板搭載台66が乗せられる。
【0044】
昇降アーム62の上方に位置して、下方に開口する円筒状のプロセスチャンバ68が配置されている。このプロセスチャンバ68の下端開口部は、昇降アーム62を磁気浮上型回転導入機10と共に上昇させることによって、磁気浮上型回転導入機10のケーシング部14によって閉じられる。この時、磁気浮上型回転導入機10のケーシング部14の外周部に装着したシールリング28がプロセスチャンバ68の下端フランジ部68aに圧接して、磁気浮上型回転導入機10のケーシング部14とプロセスチャンバ68の下端フランジ部68aとの間がシールされる。これによって、プロセスチャンバ68と磁気浮上型回転導入機10のケーシング部14で気密に包囲されたプロセス領域が形成される。
【0045】
この基板処理装置によれば、昇降アーム62を下降させた状態で、回転台テーブル部16の上面に載置した保温筒64の上に、内部に多数の基板Wを搭載した基板搭載台66を乗せる。そして、昇降アーム62を上昇させて、プロセスチャンバ68の下端開口部を磁気浮上型回転導入機10のケーシング部14で塞ぐ。
【0046】
この状態で、モータ回転子部30を駆動して、回転子12をラジアル磁気軸受40及びアキシャル磁気軸受50によって非接触で5軸制御しながら回転させ、この回転子12の回転に伴って、内部に多数の基板Wを搭載した基板搭載台66を所定速度で回転させる。同時に、プロセスチャンバ68の内部にプロセスガスを導入し、これによって、基板Wを回転させながら、基板Wに対する所定の処理を行う。
【0047】
図5は、本発明の他の実施形態の磁気浮上型回転導入機10aの概要を示す縦断正面図である。この例の図2及び図3に示す磁気浮上型回転導入機10と異なる点は、ケーシング部14の底板22の中央に円筒状に上方に立上る凹部22bを設け、この凹部22b内に、モータ回転子部30、ラジアル磁気軸受40及びアキシャル磁気軸受50等を制御する制御部70を収納した点にある。
【0048】
この例によれば、磁気浮上型回転導入機10aに制御部70を一体化して、磁気浮上型回転導入機10aのよりコンパクト化を図ることができる。
【0049】
図6は、本発明の更に他の実施形態の磁気浮上型回転導入機10bの概要を示す縦断正面図である。この例の図2及び図3に示す磁気浮上型回転導入機10と異なる点は、以下の通りである。すなわち、ケーシング部14の底板22の中央には、上方に円筒状に立上る隔壁部22cを有する凹部22bが設けられている。そして、モータ回転子部30のモータ回転子鉄心32とモータ固定子磁極鉄心34は、隔壁部22cを挟んで互いに対向する位置に配置され、モータ回転子鉄心32は、隔壁部22cの外側に位置して、回転子12の内側軸部18の内周面に固定され、モータ固定子磁極鉄心34は、隔壁部22cの内側に位置して該隔壁部22cに固定されている。
【0050】
この例によれば、モータ回転子部30のモータ固定子磁極鉄心34を、前述のプロセスチャンバ68と磁気浮上型回転導入機10bのケーシング部14との間に形成されるプロセス領域の外に置くことで、モータ固定子磁極鉄心34の不活性ガスによる腐食を考慮する必要をなくすことができる。
【0051】
図7は、本発明の更に他の実施形態の磁気浮上型回転導入機10cの概要を示す縦断正面図である。この例は、モータを一体に組込むことなく、外部モータ80を備え、マグネットカップリング82の結合力を介して、外部モータ80の回転力を回転子12に伝達するようにしており、図2及び図3に示す磁気浮上型回転導入機10と異なる点は、以下の通りである。
【0052】
すなわち、ケーシング部14の底板22の中央には、上方に円筒状に立上る隔壁部22cを有する凹部22bが設けられている。そして、外部モータ80の駆動軸84の上端は、底板22の凹部22bの内部に達しており、駆動軸84の外周面に、マグネットカップリング82の駆動側インナーマグネット86を取付けた駆動ホイール88が固定されている。一方、底板22の隔壁部22cを挟んで、駆動側インナーマグネット86と対向する位置に、マグネットカップリング82の従動側アウターマグネット90が、回転子12の内側軸部18の内周面に固定した従動リング92の内周面に固定されて配置されている。これにより、外部モータ80の駆動に伴う駆動軸84の回転によって、回転子12が回転する。
【0053】
この例によれば、前述のプロセスチャンバ68と磁気浮上型回転導入機10cのケーシング部14との間に形成されるプロセス領域の外に外部モータ80を置くことで、外部モータ80の不活性ガスによる腐食を考慮する必要をなくすことができる。
【0054】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0055】
10,10a,10b,10c 磁気浮上型回転導入機
12 回転子
14 ケーシング部
16 回転台テーブル部
18 内側軸部
20 外側軸部
22 底板
22a パージガス導入口
22c 隔壁部
26 フランジ部
28 シールリング
30 モータ回転子部
32 モータ回転子鉄心
34 モータ固定子磁極鉄心
40 ラジアル磁気軸受
42 ラジアル電磁石ターゲット
44 ラジアル電磁石
46 ラジアル変位センサ
50 アキシャル磁気軸受
52 アキシャルディスク
54 アキシャル電磁石
56 金属隔壁
62 昇降アーム
64 保温筒
66 基板搭載台
68 プロセスチャンバ
80 外部モータ
82 マグネットカップリング
84 駆動軸
86 駆動側インナーマグメット
90 従動側アウターマグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力を出力する回転子を備え、
前記回転子は、前記回転子のラジアル方向に配置されて該回転子のラジアル方向変位を非接触で制御する2組以上のラジアル磁気軸受と、前記回転子の周囲に3組以上に分割配置されて該回転子のアキシャル方向変位を非接触で制御するアキシャル磁気軸受によって、所定の位置に非接触で回転支承され、
前記ラジアル磁気軸受のラジアル電磁石と前記アキシャル磁気軸受のアキシャル電磁石は、略同一平面上に配置されてケーシング部に固定されていることを特徴とする磁気浮上型回転導入機。
【請求項2】
前記回転子と一体で構成されるモータ回転子鉄心と、前記モータ回転子鉄心と対向して配置され、該モータ回転子鉄心を回転させるモータ固定子磁極鉄心とを有するモータ回転子部を備え、前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石及び前記モータ固定子磁極鉄心は、略同一平面上に配置されて前記ケーシング部に固定されていることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上型回転導入機。
【請求項3】
前記ケーシング部は、プロセスチャンバの蓋体として機能し、前記ラジアル磁気軸受、前記アキシャル磁気軸受及び前記モータ回転子部は、前記プロセスチャンバと前記ケーシング部で密閉される空間の内部に配置されることを特徴とする請求項2記載の磁気浮上型回転導入機。
【請求項4】
前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石及び前記モータ回転子部の前記モータ固定子磁極鉄心は、その表面が外部に露出しないよう金属隔壁で覆われているか、または各磁極全体が保護皮膜で被覆されていることを特徴とする請求項3記載の磁気浮上型回転導入機。
【請求項5】
前記ケーシング部は、前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石及び前記モータ固定子磁極鉄心を収納する空間にパージガスを導入するパージガス導入部を有することを特徴とする請求項3記載の磁気浮上型回転導入機。
【請求項6】
前記ケーシング部は、プロセスチャンバの蓋体として機能し、前記ラジアル磁気軸受、前記アキシャル磁気軸受及び前記モータ回転子部の前記モータ回転子鉄心は、前記プロセスチャンバと前記ケーシング部で密閉される空間の内部に、前記モータ回転子部のモータ固定子磁極鉄心は、前記空間の外部にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項2記載の磁気浮上型回転導入機。
【請求項7】
外部モータを有し、該外部モータの駆動軸と前記回転子とは、マグネットカップリングを介して互いに結合され、前記マグネットカップリングの駆動側インナーカップリングは前記ケーシング部を挟んで前記外部モータ側に、従動側アウターカップリングは前記ケーシング部を挟んで前記回転子側にそれぞれ配置されており、前記ラジアル電磁石、前記アキシャル電磁石、前記駆動側インナーカップリング及び前記従動側アウターカップリングは、略同一平面上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上型回転導入機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−60754(P2012−60754A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200713(P2010−200713)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】