説明

磁気記録媒体、磁気記録再生装置、および磁気記録媒体の製造方法

【課題】ほとんど保磁力あるいは飽和磁化が無い非磁性部を記録層に形成することができ、優れた磁気特性の記録媒体を容易に得ることができる磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】基板11上にCrPt3からなる記録層13’を形成する工程と、記録層13’の表面にマスクパターン層15’を形成する工程と、マスクパターン層15’から露出した記録層13’の各部にイオンを照射する工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるディスクリートトラックメディアあるいはパターンドメディアといった磁気記録媒体、それを備えた磁気記録再生装置、および磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクの技術分野においては、高記録密度化を図るのに好ましい媒体として、いわゆるディスクリートトラックメディア(DTM)やパターンドメディア(PM)といった、記録領域となる記録層に部分的な非磁性部を有する磁気ディスクが知られている。これらの磁気ディスクについては、たとえば下記の特許文献1〜3に記載されている。
【0003】
このような磁気ディスクの製造方法としては、たとえば下記の特許文献4に示されるように、イオン注入により記録層の所々に非磁性部を形成する方法が知られている。この製造方法では、基板上にFePtからなる記録層とイオンバッファ層を順次形成した後、イオンバッファ層の表面にステンシルマスクを形成し、そのステンシルマスクから露出した記録層の各部にイオンを注入している。これにより、イオン注入が施された記録層の所々が非磁性部として形成される。このような製造方法によれば、記録層を機械的に加工せずとも部分的に非磁性部を有する平坦な記録層を形成することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−71467号公報
【特許文献2】特開2005−166115号公報
【特許文献3】特開2005−293730号公報
【特許文献4】特開2006−309841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の製造方法では、記録層を構成する材料がFePtからなるため、イオン注入によっても非磁性部となる部分の保磁力が十分な所望とするレベルまで低減せず、ある程度の保磁力が残存するので、優れた磁気特性の記録媒体が得られないという難点があった。
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、ほとんど保磁力あるいは飽和磁化が無い非磁性部を記録媒体に形成することができ、優れた磁気特性の記録層を容易に得ることができる磁気記録媒体、それを備えた磁気記録再生装置、および磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面により提供される磁気記録媒体は、基板上に形成された記録層内において、情報を磁気記録可能な記録磁性部と磁気記録不可の非磁性部とを有し、上記記録磁性部は、Cu3Au型の規則合金からなるとともに、上記非磁性部は、不規則合金からなることを特徴としている。
【0009】
好ましくは、上記記録磁性部におけるCu3Au型の規則合金としては、Auに対応する主成分がCrからなり、Cuに対応する主成分がPtからなる。
【0010】
好ましくは、上記Cu3Au型の規則合金は、上記記録層の厚み方向に<111>結晶軸を有する。
【0011】
好ましくは、上記Cu3Au型の規則合金は、上記記録層の厚み方向に磁化容易軸を有する。
【0012】
好ましくは、上記Cu3Au型の規則合金は、磁気歪み効果によって上記記録層の厚み方向に磁化容易軸を有する。
【0013】
本発明の第2の側面により提供される磁気記録媒体は、基板上に形成された記録層内において、情報を磁気記録可能な記録磁性部と磁気記録不可の非磁性部とを有し、上記記録磁性部は、NiAs型の規則合金からなるとともに、上記非磁性部は、不規則合金からなることを特徴としている。
【0014】
本発明の第3の側面により提供される磁気記録再生装置は、上記第1または第2の側面による磁気記録媒体と、上記磁気記録媒体に対して情報を記録および再生する磁気ヘッドと、上記磁気記録媒体を回転させるモータと、上記磁気記録媒体上において上記磁気ヘッドを移動させるヘッド移動機構と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
本発明の第4の側面により提供される磁気記録媒体の製造方法は、基板上にCrPt3からなる記録層を形成する工程と、上記記録層の表面にマスクパターン層を形成する工程と、上記マスクパターン層から露出した上記記録層の各部にイオンを照射する工程と、を備えていることを特徴としている。
【0016】
好ましくは、上記基板上にCrおよびPtを堆積させた後、加熱する工程を含んでいる。
【0017】
好ましくは、上記基板上にCr層およびPt層を交互に積層した後、加熱処理を施すことで上記記録層を形成する。
【0018】
このような構成によれば、たとえばCrPt3からなる記録層にイオンを照射するので、イオンが照射された記録層の部分をほとんど保磁力あるいは飽和磁化が無い非磁性部として形成することができ、優れた磁気特性の記録媒体を容易に得ることができる。
【0019】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る磁気記録再生装置の一実施形態を示す内部構造図である。同図に示すように、磁気記録再生装置Aは、スピンドルモータ(図示略)、このスピンドルモータによって回転させられる回転軸1、回転軸1に装着される磁気ディスクX、磁気ディスクXに対向配置され、先端に磁気ヘッドHを備えた浮上ヘッドスライダ2、アーム軸3、浮上ヘッドスライダ2を先端に固着してアーム軸5を中心に磁気ディスクX上を水平に移動するスイングアーム4、およびスイングアーム4を駆動して水平移動させるためのアクチュエータ5を備えている。浮上ヘッドスライダ2、アーム軸3、スイングアーム4、およびアクチュエータ5は、磁気ディスクX上において磁気ヘッドHを移動させるヘッド移動機構として構成されている。
【0022】
磁気ディスクXに対して情報の記録または再生を行う場合には、磁気回路で構成されたアクチュエータ5によりスイングアーム4が駆動され、浮上ヘッドスライダ2の先端に設けられた磁気ヘッドHが回転状態にある磁気ディスクX上の所望のトラックに位置決めされる。磁気ヘッドHには、記録素子とリード素子が形成されている。記録素子の記録コア幅は約60nmであり、ディスク径方向の記録ギャップ長は約30nmである。リード素子のリードコア幅は約60nmであり、ディスク径方向のリードギャップ長は27nmである。
【0023】
図2および図3は、図1の磁気記録再生装置Aに備えられた磁気ディスクXを表す。この磁気ディスクXは、本発明に係る製造方法により得られるものである。図2は、磁気ディスクXの斜視図であり、図3は、磁気ディスクXの部分拡大断面図である。
【0024】
磁気ディスクXは、基板11、軟磁性層12、記録層13、および保護膜14(図2では図示略)を含む積層構造を有し、パターンドメディアとして構成されたものである。
【0025】
基板11は、主に、磁気ディスクXの剛性を確保するための部位であり、たとえば、SiO2、アルミニウム合金、ガラス、または樹脂よりなる。
【0026】
軟磁性層12は、記録時に作用する磁気ヘッドからの磁束を再び磁気ヘッドに還流させる磁路を効率よく形成するためのものである。このような軟磁性層12は、高透磁率を有して大きな飽和磁化を有するとともに小さな保磁力を有する軟磁性材料よりなる。軟磁性層12を構成する軟磁性材料としては、たとえば、FeC、FeNi、FeCoB、FeCoSiC、CoZrNb、FeCoZrNb、およびFeCo−AlOが挙げられる。軟磁性層12の厚さは、たとえば10〜200nmである。
【0027】
記録層13は、図3に示すように、複数の記録磁性部13Aおよび複数の非磁性部13Bを有する。記録磁性部13Aは、垂直磁気異方性を有し、磁化方向が上向きあるいは下向きとなる情報記録部分に相当する。非磁性部13Bは、保磁力(Hc)あるいは飽和磁化の値(Ms)が0となる非磁性の磁気特性を有し、この部分には磁気記録をすることができない。記録層13は、連続膜体であり、記録磁性部13Aおよび非磁性部13Bは共に同一の材料よりなる。ただし、非磁性部13Bは、磁性をもたない材質に変質した部分となっている。本実施形態の記録層13を構成する材料は、Cu3Au型の規則合金からなり、Auに対応する主成分がCr、Cuに対応する主成分がPtになっている。すなわち、記録層13は、CrPt3からなる。記録層13の厚さは、5〜20nm程度である。
【0028】
なお、Cu3Au型の規則合金としては、CrPt3、FePt3、CoPt3、MnPt3、MnPd3、Mn3Ptなどが知られている。これらのうち、FePt3、MnPd3、Mn3Ptは、反強磁性を示して実質的に磁化されないので、磁気記録材料としては適さない。CrPt3、CoPt3、MnPt3は、強磁性をもつため、磁気記録材料として好適である。たとえばSiO2基板上に形成されて熱処理が施されたCrPt3の膜は、原子配列が規則化されて負の磁歪定数を示し、SiO2基板から引っ張り応力を受ける。これにより、CrPt3の膜は、その膜面に対して垂直方向に磁化容易軸をもつ。このような規則合金は、規則・不規則領域を局所的に形成する材料として適している。なお、磁気異方性定数Ku、磁歪定数λおよび応力σの関係は、Ku=−3/2×λ×σとなっている。ここで、CrPt3からなるCu3Au型の規則合金の薄膜は、λ:負、σ:正となり、Kuが正の値を示すため、垂直磁気異方性が発現する。そのため、本実施形態の記録層13における記録磁性部13Aは、磁化方向が上向きあるいは下向きとなる垂直磁気異方性をもつ。
【0029】
保護膜14は、軟磁性層12や記録層13などを外界から物理的および化学的に保護するための部位であり、たとえば、SiN、SiO2、またはダイヤモンドライクカーボンよりなる。保護膜14の露出面は、磁気ディスクXの記録面をなし、この面には、潤滑剤が塗布される。
【0030】
以上のような基板11、軟磁性層12、記録層13、および保護膜14で構成される磁気ディスクXの積層構造中には、必要に応じて他の層が含まれてもよい。たとえば、基板11と記録層13との間には、軟磁性層12に加えて非磁性の中間層などを設けてもよい。
【0031】
このような磁気ディスクXに情報を記録する際には、保護膜14に対して記録用の磁気ヘッド(図示略)が浮上配置され、この磁気ヘッドによる記録磁界の印加により、記録層13の記録磁性部13Aに所定の磁化方向を示す記録マーク(磁区)が形成される。このとき、情報記録進行中であって磁界が印加される記録磁性部13Aと、その両隣りにある記録磁性部13Aとは、非磁性部13Bにより分断されているため、記録磁性部13Aの記録マークが消失ないし劣化するというクロスライト現象が抑制される。クロスライト現象が抑制される磁気ディスクは、トラックの狭ピッチ化ないし高記録密度化を図る上で好ましい。なお、トラッキングサーボなどに用いられるサーボ領域の磁化は、たとえば製造時に外部の永久磁石などによって所定の決まった一方向に揃えられている。両面に記録層が形成されている場合は、表面と裏面の磁化方向が互いに逆方向となるように磁化される。
【0032】
このような磁気ディスクXに対し、記録再生試験機によって磁気的に記録および再生を行った。記録再生試験においては、磁気ディスクXに対して垂直方向の磁界を印加した。これにより、Cu3Au型の規則合金として磁性をもつ部分(記録磁性部13A)の磁化は、垂直方向上向きあるいは下向きに向くことになる。こうして記録された磁気ディスクXにつき、図4に示すように再生信号を調べた。ここでは、信号確認のために用意したドット長が50nm〜200nmのものを示している。同図に示すように、イオンが照射されていない記録磁性部13Aからは、磁気信号を検出することができ、イオンが照射された非磁性部13Bからは、磁気信号を検出することができない。これは、イオンが照射されなかった部分は、もとのCu3Au型の規則合金が維持された状態で磁化を発現するのに対し、イオンが照射された部分は、Cu3Au型の規則合金が乱され、不規則合金になっていることを意味している。同図に示すように、記録層13に対して上向きに磁化した場合は、再生信号の信号波形がプラス側に振れるのに対し、下向きに磁化した場合は、再生信号の信号波形がマイナス側に振れる。実際の記録再生時においても同様の信号波形となる。Cu3Au型の規則合金の構造をもたない非磁性部13Bが連続的に続く領域は、信号出力が0となる。
【0033】
図5〜7は、上記磁気ディスクXの製造方法を表す。本方法は、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一実施家形態に相当する。
【0034】
本方法においては、まず、図5(a)に示すように、基板11上に軟磁性層12および記録層13’を順次形成する。基板11としては、SiO2の基板を用いた。基板11の厚みは0.635mm、外径はφ65mm、内径はφ20mmであり、基板11の形状をドーナツ状としている。軟磁性層12は、たとえばスパッタリング法により形成される。記録層13’は、上述した記録磁性部13Aおよび非磁性部13Bが形成される前の中間生成状態であり、次のようにして形成される。
【0035】
図7に示すように、軟磁性層12が形成された基板11は、その軟磁性層12を上側にした状態で回転テーブル20上に配置され、この基板11に対してCrターゲット21とPtターゲット22を用いてスパッタリングを行う。このとき、到達真空度は、たとえば5×10-6Paであり、製膜時においては、Ar導入により真空度を0.5Pa程度とする。回転テーブル20は、回転数10rpm程度で回転させられ、Crターゲット21およびPtターゲット22に投入する電力は、それぞれ100W、300Wとする。回転テーブル20とともに基板11が低速回転する間、Crターゲット21とPtターゲット22でスパッタリングが行われる。これにより、軟磁性層12の表面には、Cr層13c’とPt層13p’が交互に積層される。Cr層13c’は、1回転当たり膜厚0.4nm程度に形成され、Pt層13p’は、1回転当たり膜厚1.6nm程度に形成される。
【0036】
たとえば基板11が所定回数にわたって回転している間にスパッタリングが行われ、その結果、基板11上には、Cr層13c’とPt層13p’が幾重にも交互に積層される。このCr層13c’とPt層13p’が交互に積層した状態は、いわゆるas-depo状態と称される。たとえば、スパッタレートが約20nm/分でスパッタリングを約1分間行う。これにより、厚みが20nm程度でCrとPtの組成比が1:3となるCrPt3の記録層13’が形成される。こうして形成された記録層13’の磁気特性をVSM(Vibrating Sample MAgnetomer:振動試料型磁力計)で測定したところ、まったく磁性を示さず、飽和磁化Msはゼロであった。ただし、記録層13’には、Ptが75at%程度含まれていることから、fcc構造の稠密構造に対する<111>軸方向が成長していた。この<111>軸方向は、磁化容易軸の方向となる。
【0037】
その後、基板11は、真空中において加熱処理される。加熱温度は、たとえば400〜900℃であり、加熱時間は、15分程度である。このような加熱処理を経ることにより、基板11における軟磁性層12の表面には、所定の厚みで所望とする磁気特性の記録層13’が形成される。
【0038】
具体的には、真空のアニール炉を用い、850℃で15分の熱処理を施した。この熱処理により、CrPt3合金からなる記録層13’は、X線回折の結晶同定の結果、Cu3Au型の規則合金からなることが判明した。また、この規則合金の磁気特性をVSMで測定したところ、飽和磁化Msの値は、約300emu/cc、保磁力Hcは、約6kOeで垂直磁気異方性を示した。トルク計で磁気異方性定数を測定したところ、6×106erg/ccという大きな垂直磁気異方性を示した。このように加熱処理を経て形成された記録層13’は、図8に示すような面心立方格子の結晶構造をもつことになる。このような面心立方格子においては、Cr原子が単位格子の各頂点に位置するとともに、Pt原子が単位格子の各面中心に位置し、単位格子中の原子数としてCr原子が1個でPt原子が3個となる。つまり、記録層13’の構成材料は、CrPt3となる。このように原子が規則的に配列された結晶構造をもつものは、規則合金と称される。記録層13’は、as-depo状態では単にCr層13c’とPt層13p’が積層した状態であるため磁化をもたない。一方、規則合金となった記録層13’は、Cr単体の磁気モーメントが2.33±0.10μB程度、Pt単体の磁気モーメントが−0.27±0.05μB程度となる。このような面心立方格子の結晶構造では、稠密面となる{111}面が成長面となる。この結晶軸<111>の方向は、記録層13’の厚み方向となり、この方向が磁化容易軸の方向となる。これにより、記録層13’は、全体にわたって垂直磁気異方性を有する。垂直磁気異方性を示す主な要因は、CrPt3からなる記録層13’と基板11との熱膨張係数の相違によって生じる磁気歪みの逆効果であると考えられる。
【0039】
なお、基板11と記録層13’の間には、軟磁性層12に加えて中間層を形成してもよい。軟磁性層12と記録層13’の間に形成される中間層としては、たとえばSiO2やSiN、アルミナからなり、非磁性の磁気特性をもつものが好ましい。記録層13’がCrPt3の場合、基板11と記録層13’の間に生じる応力により、垂直磁気異方性を示す。たとえば、軟磁性層12の厚みを20nm程度とし、SiO2からなる中間層の厚みを10nm以下とした場合、CrPt3からなる記録層13’は、基板11との応力によって垂直磁気異方性をもつようになる。
【0040】
次に、図5(b)に示すように、記録層13’の表面全体にレジスト膜15を形成する。レジスト膜15は、たとえばメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)よりなり、膜厚40nm程度に塗布することで形成される。このレジスト膜15は、次の工程を経てマスクパターン層15’(図6(a)参照)となる。
【0041】
レジスト膜15の形成後、図5(c)に示すように、スタンパ30の凹凸面30Aをレジスト膜15に当接させる。このとき、スタンパ30は、たとえば120℃に加熱され、このスタンパ30には、40kN程度の圧力が加えられる。加熱・加圧時間は、5分程度である。スタンパ30は、スタンパ本体30aと凹凸面30Aをなす凸部30bとからなる。凸部30bは、上述の非磁性部13Bに対応したパターン形状を有し、凸部30bの先端は、記録層13’に接した状態とされる。
【0042】
その後、図6(a)に示すように、室温まで冷却することでレジスト膜15を硬化させた後、スタンパ30の凸部30bをレジスト膜15から離脱させる。これにより、スタンパ30の凸部30bに応じて所々に記録層13’を露出させた状態のマスクパターン層15’が形成される。このマスクパターン層15’は、スタンパ30とは逆の凹凸パターンが転写された状態となり、スタンパ30の凸部30bがマスクパターン層15’の凹部になる。つまり、マスクパターン層15’は、上述の記録磁性部13Aに対応したパターン形状を有する。スタンパ30の凸凹パターンは、データ領域となる記録磁性部13Aに対応する部分が凹部となり、サーボ領域に対応する部分も凹部となる。この凹部をマスクパターン層15’に転写することにより、マスクパターン層15’には、凸部が残る。ここで、記録ドットに対応する寸法は、60nm(ディスク径方向)×40nm(ディスク周方向)で、実際のドットパターンは、その面積の略1/4となり、ドット寸法は、30nm×20nm程度である。このようなパターンがサーボパターン領域を除いてマスクパターン層15’の全面に形成される。
【0043】
次に、図6(b)に示すように、マスクパターン層15’から露出した記録層13’の所々にイオンを照射する。照射されるイオンは、たとえばGa+イオンであり、そのイオンドース量を2×1015ion/cm2程度とする。イオン照射時の加速電圧は、たとえば22keVである。垂直磁気異方性定数は、略6×106erg/ccである。イオン照射前における記録層13’の磁気特性は、たとえば保磁力Hc=6kOe、Ms=300emu/cc程度であったが、5×104ion/cm2のイオンドース量では、飽和磁化Msが150emu/ccまで減少した。さらに多量に2×105ion/cm2の照射を行うと、飽和磁化Msは、10emu/ccまで減少した。この時のエッチング量は、約2nmであった。このような磁化が約95%消失した記録層13’のX線回折を測定したところ、Cu3Au型の規則合金に基づく回折は観察されなかった。また、規則構造が崩れたことで、as-depo状態で観察された多結晶による<111>方向の配向は観察されなかった。最終的に所定量のイオンが照射された記録層13’の部分では、Ga+イオンによって結晶構造が不規則に乱されることにより、保磁力Hc≒0Oe、飽和磁化Ms=15emu/cc程度まで磁気特性が劣化する。すなわち、記録層13’においてイオンが照射された部分が非磁性部13Bとなる一方、マスクパターン層15’によりイオン照射を免れた部分が記録磁性部13Aとなり、これら記録磁性部13Aおよび非磁性部13Bを含む記録層13が形成される。なお、イオン照射によるマスクパターン層15’のエッチング量は20nm程度で、マスクパターン層15’から露出した記録層13’のエッチング量は2nmである。
【0044】
その後、図6(c)に示すように、たとえば酸素プラズマを利用して行うアッシングにより、マスクパターン層15’を記録層13上から除去し、さらにその後、スパッタリングにより記録層13の表面に例えばダイヤモンドライクカーボンの保護膜14を形成する。酸素プラズマによるアッシング時のO2ガス圧は、1Pa程度であり、アッシング時の投入電力は約500Wである。このようなアッシングを約30秒行う。こうして概ね平坦に形成された記録層13の表面には、DLC保護膜などによる保護膜14と潤滑剤が3nm程度に塗布される。保護膜14および潤滑剤は、磁気ヘッドHとの擦れによる摩耗を抑える役割を果たす。これにより、マスクパターン層15’が完全に除去され、図3に示すような磁気ディスクXの完成品が得られる。
【0045】
図9は、記録層13’を形成した直後の磁気特性を説明するための説明図である。同図に(a)示すように、as-depo状態の記録層13’についてX線回折法により結晶構造を評価すると(θ−2θスキャン)、概ね結晶面{111}の方向に配向されていると考えられる。このような記録層13’内において、X線回折を測定したところ(φ−2θxスキャン)、規則合金に対応する回折を観察することはできなかった。一方、加熱処理を経た記録層13では、φ−2θxスキャンによるX線回折を測定すると、図9(b)に示すような結晶の規則度を示す測定結果を得た。つまり、同図(b)に示すように、結晶面{110}と{220}の方向で回折ピーク強度が観察されることから、これらの方向に配向されていると考えられる。これにより、記録層13’は、ほぼ完全な規則合金になっていると考えられる。
【0046】
図10は、イオン照射による磁気特性を説明するための説明図である。イオン照射前の記録層の磁気特性は、Hc=6kOe、Ms=300emu/cc程度であり、垂直磁気異方性定数は、略6×106erg/ccである。イオン照射時の加速電圧は、たとえば30keVである。このような記録層にGa+イオンを照射することにより、同図に示すような測定結果を得た。これにより、イオンを照射することで記録層の保磁力Hcおよび飽和磁化Msをほとんど0とし、記録層をほぼ完全に非磁性化することができた。
【0047】
したがって、本実施形態の製造方法によれば、イオン照射によってほぼ完全に磁化をもたない非磁性部13Bを記録層13に形成することができるので、優れた磁気特性の記録層13を機械的に加工せずとも容易に得ることができる。
【0048】
また、本実施形態の製造方法によれば、記録層13の表面全体にイオンを照射しても、マスクパターン層15’によって記録層13の一部にしかイオンが到達しないようになっており、照射するイオンをビーム状に絞る必要がない。そのため、従来のように微細なイオンビームを形成する必要もなく、スタンパ30を用いてインプリントによりマスクパターン層15’を形成することにより、量産性が大幅に向上するというメリットもある。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
記録層には、他にNiAs型の規則合金を用いてもよい。NiAs型の規則合金は、MnBiを代表的な材料とし、六方晶形でC軸配向することにより、膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有することが可能である。MnBiからなる記録層は、概ねMnとBiが交互に積層した構造に対応する。垂直磁気異方性は、11×106erg/ccといった大きな値を示す。このようなMnBiの層は、たとえばガラス基板上にMnとBiをほぼ同等の膜厚で交互に蒸着した後、約350℃で約8時間熱処理を行うことにより規則合金とすることができる。このような規則合金は、イオンを照射すると規則化が乱れ、磁気特性が大きく劣化する。これにより、たとえばMnBiからなるNiAs型の規則合金を記録層に適用した場合でも、イオンの照射/非照射によって規則化と不規則化の部分を記録層に形成することができる。
【0051】
製造時において、記録層の表面とマスクパターン層との間(マスクパターンで覆われた記録層の表面部位)には、記録層を酸化やイオン照射から保護するための層を設けてもよい。
【0052】
たとえば、記録層の膜厚や形成方法については、各請求項に記載した範囲で適当に設計変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る磁気記録再生装置の一実施形態を示す内部構造図である。
【図2】図1の磁気記録再生装置に備えられた磁気ディスクの部分斜視図である。
【図3】図2の磁気ディスクの部分拡大断面図である。
【図4】図2の磁気ディスクから得られる再生信号について説明するための説明図である。
【図5】図2に示す磁気ディスクの製造方法の工程図である。
【図6】図3の後に続く工程図である。
【図7】記録層の形成方法の説明図である。
【図8】記録層の結晶構造の模式図である。
【図9】記録層形成直後の磁気特性を説明するための説明図である。
【図10】イオン照射による磁気特性を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0054】
11 基板
12 軟磁性層
13,13’ 記録層
13c’ Cr層
13p’ Pt層
14 保護膜
15’ マスクパターン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された記録層内において、情報を磁気記録可能な記録磁性部と磁気記録不可の非磁性部とを有し、
上記記録磁性部は、Cu3Au型の規則合金からなるとともに、上記非磁性部は、不規則合金からなることを特徴とする、磁気記録媒体。
【請求項2】
上記記録磁性部におけるCu3Au型の規則合金としては、Auに対応する主成分がCrからなり、Cuに対応する主成分がPtからなる、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記Cu3Au型の規則合金は、上記記録層の厚み方向に<111>結晶軸あるいは<100>結晶軸を有する、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記Cu3Au型の規則合金は、上記記録層の厚み方向に磁化容易軸を有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
上記Cu3Au型の規則合金は、磁気歪み効果によって上記記録層の厚み方向に磁化容易軸を有する、請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
基板上に形成された記録層内において、情報を磁気記録可能な記録磁性部と磁気記録不可の非磁性部とを有し、
上記記録磁性部は、NiAs型の規則合金からなるとともに、上記非磁性部は、不規則合金からなることを特徴とする、磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の磁気記録媒体と、
上記磁気記録媒体に対して情報を記録および再生する磁気ヘッドと、
上記磁気記録媒体を回転させるモータと、
上記磁気記録媒体上において上記磁気ヘッドを移動させるヘッド移動機構と、
を備えていることを特徴とする、磁気記録再生装置。
【請求項8】
基板上にCrPt3からなる記録層を形成する工程と、
上記記録層の表面にマスクパターン層を形成する工程と、
上記マスクパターン層から露出した上記記録層の各部にイオンを照射する工程と、
を備えていることを特徴とする、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
上記基板上にCrおよびPtを堆積させた後、加熱する工程を含んでいる、請求項8に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
上記基板上にCr層およびPt層を交互に積層した後、加熱処理を施すことで上記記録層を形成する、請求項9に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−99182(P2009−99182A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268533(P2007−268533)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】