説明

磁石励磁の磁束量可変回転電機システム

【課題】
磁石励磁回転電機に於いて,エネルギー効率の良い磁束量可変回転電機システムを提供する。
【解決手段】
本発明による磁石励磁の磁束量可変回転電機システムは,同種の極性に磁化されるべき磁性体突極を一括して励磁する励磁部を有し,励磁部内の界磁磁石は磁化の容易さが異なる磁石要素の並列接続構成とし,励磁コイルにより任意に磁化状態を不可逆的に変える構成である。回転電機の運転中に界磁磁石の磁化状態を変えて最適の動作条件で運転すると共に不要な渦電流損を抑制し,高エネルギー効率の可変速回転電機システムが実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,永久磁石界磁を持つ発電機,電動機を含む回転電機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石界磁と電機子との相対的回転によって電磁的に生ずる電力を取り出す発電機,或いは電機子に供給する電流によって生ずる磁界と永久磁石界磁との相互作用により永久磁石界磁と電機子との相対的回転を生ずる電動機等の回転電機装置はエネルギー効率に優れ,永久磁石の技術的進歩に伴い日常的に広く使われている。しかしそのような回転電機は、界磁磁石からの磁束が一定であるので電動機として用いられるにしても発電機として用いられるにしても広い回転速度範囲で常に最適の出力が得られる訳ではない。
【0003】
すなわち,電動機の場合は高速回転域では逆起電力(発電電圧)が高すぎる結果となって制御が困難となり,弱め界磁制御として界磁強度を弱める種々の手段が提案されている。また発電機の場合,広い回転速度範囲に於いて発電電圧を所定のレベルとする為に専ら界磁電流制御による定電圧発電機或いは半導体による発電電圧の定電圧化回路が用いられている。
【0004】
電動機では進み位相電流による弱め界磁制御が広く採用されているが,回転に直接寄与しない電流を流す為にエネルギー損失を大とする。永久磁石励磁に制御用電流励磁を併用する場合は回転電機の構造を複雑にし,その上にエネルギー損失を伴う。このような環境下で磁石励磁のエネルギー効率の高さを犠牲にすることなく,界磁制御を可能として広い回転速度範囲で使用可能とする為に機械的な偏倚により界磁制御を行う回転電機の試みがある(例えば特許第4150765号,特許第4150779号)。これは界磁条件を機械的な偏倚として保持できるので界磁制御に伴うエネルギー損失を最小限に留めて高エネルギー効率の回転電機を実現出来る。
【0005】
さらに界磁条件を保存して間歇的に界磁強度を変える事でエネルギー損失を最小限に留める他の界磁制御方法は回転電機の運転中に界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変更することであり,特開平7−336980,米国特許6800977,特開2005−304204,特開2006−280195,特開2008−048514,特開2008−125201等の技術提案がある。特開平7−336980,米国特許6800977,特開2005−304204,特開2006−280195,特開2008−048514は電機子と対向する磁極内に配置した界磁磁石の磁化状態を電機子コイルにより変更しようとし,米国特許6800977,特開2008−125201は界磁磁石個々に配置した励磁コイルを有して磁化状態を変更しようとし,さらに特開2008−289300は電機子側に配置した励磁コイルにより回転子内の界磁磁石の磁化状態を変更しようとする。
【0006】
しかしながら,特開2005−304204,特開2006−280195,特開2008−048514,特開2008−125201等では電機子コイル或いは励磁コイルによる磁束を界磁磁石に集中させる構成の記述は無く,磁化変更の確実性は期待できない。界磁磁石を電機子に対向する磁極部に配置するので界磁磁石に加える磁界強度は通常の運転中と界磁磁石の磁化変更時とで十分な余裕を持って分離設定される必要があり,電子回路への負担を大にし,さらに界磁磁石周辺の磁性体選定を困難にしている。通常の運転中或いは障害発生時に電機子コイルが発生する磁界に対して界磁磁石の磁化状態保全が不十分となり,回転電機システムの安定性及び安全性が脅かされる重大な懸念がある。
【0007】
また,特開2008−289300に於いて,励磁コイルにより発生させられる磁束は電機子コイルに高い誘起電圧を発生させて電子回路への負担を大とし,回転子から磁束は常に漏れているので無負荷で連れ回り回転する場合に電機子に鉄損発生は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−336980「ブラシレスDCモータ」
【特許文献2】米国特許6800977「Field control in permanent magnet machine」
【特許文献3】特開2005−304204「 永久磁石型同期モータおよび駆動装置」
【特許文献4】特開2006−280195「永久磁石式回転電機」
【特許文献5】特開2008−048514「永久磁石式回転電機の回転子」
【特許文献6】特開2008−125201「可変磁束モータドライブシステム」
【特許文献7】特開2008−289300「永久磁石式回転電機」
【特許文献8】特許第4150765号「磁束分流制御回転電機システム」
【特許文献9】特許第4150779号「磁束分流制御回転電機システム」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって,本発明が解決しようとする課題は,界磁磁石の磁化を安定的に保持しながら界磁磁石の磁化状態を変える事が出来る回転電機システム,磁束量制御方法を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明による回転電機システムは,電機子コイルを有する電機子と,電機子と対向して周方向に配置された複数の磁性体突極を有する表面磁極部と,同種の極性に磁化されるべき磁性体突極グループ毎に一括して磁化する励磁部とを有し,表面磁極部と電機子とは軸を中心に相対的に回転可能である回転電機装置であって,励磁部は界磁磁石及び界磁磁石の磁化を変更する励磁コイルを有し,前記界磁磁石のN極或いはS極の何れか一方の磁極から流れる磁束が磁性体突極及び電機子を介して界磁磁石の他方の磁極に環流する主磁路と,前記界磁磁石の一方の磁極から出た磁束が主として励磁部内で界磁磁石の他方の磁極に環流する励磁磁路とが並列に界磁磁石に接続され,励磁コイルは励磁磁路に加えて界磁磁石を含む磁路に磁束を誘起するよう配置され,回転電機装置の出力を最適化するように前記出力に応じて励磁コイルに磁化電流を供給して界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変え,電機子に流れる磁束量が制御される事を特徴とする。
【0011】
同種の極性に磁化されるべき磁性体突極グループ毎に一括して磁化する励磁部を有し,励磁部は界磁磁石及び界磁磁石を磁化する励磁コイルを有し,回転電機の運転中或いは静止時に界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変えて電機子に流れる磁束量を変更する。励磁部は回転子に配置された表面磁極部と磁気的な結合部を有して静止側に配置,或いは回転子内に配置,或いは更に回転子側及び静止側に分割配置等の柔軟な構成が可能である。電機子を流れる磁束量を変更する時のみ励磁コイルに磁化電流を供給するのでエネルギー効率の高い回転電機システムである。
【0012】
界磁磁石に励磁磁路及び主磁路を並列に接続し,励磁コイルは励磁磁路と界磁磁石とで構成する閉磁路に配置され,界磁磁石の着磁変更に際して電機子コイルへの影響を軽減できる構成としている。また,励磁部は電機子と対向する磁性体突極より離れ,十分なスペースを有する位置に配置されるので,励磁磁路は交流磁束が流れやすく構成され,界磁磁石の構成及び界磁磁石の磁化変更に最適な磁路構成を実現できる。すなわち,励磁コイルが誘起する磁束は界磁磁石に集中されて界磁磁石の磁化状態は確実に変更される。
【0013】
界磁磁石には単独の磁石或いは磁化容易さの異なる磁石要素が並列に接続されて磁性体突極及び電機子を含む主磁路に磁束を供給する。更に具体的に界磁磁石は主磁路と繋がる断面内で抗磁力が異なるよう傾斜的に含有成分が変えられて構成され,或いは長さの異なる磁石素材を並列に接続して構成される。励磁コイルによって界磁磁石に加えられる磁気ポテンシャル差(起磁力)を前記磁石素材の長さで除した値に相当する磁界強度が抗磁力より大である磁石要素の磁化が選択的に変えられ,主磁路を流れる磁束量が変えられる。
【0014】
本発明に於いて,磁性体突極から電機子側に流れる磁束量制御を容易とするよう磁性体突極とは軟磁性体で構成された磁極を指す。電機子と対向する表面磁極部の構成には磁性体突極と磁気空隙部が周方向に交互に並ぶ磁極構成,磁性体突極と略周方向磁化を有する永久磁石が交互に並ぶ磁極構成,さらに磁性体側面に永久磁石板を配置した集合永久磁石と磁性体突極とが周方向に交互に並ぶ磁極構成等,種々存在するが,本発明はそれら何れの磁極構成を有する回転電機にも適用できる。
【0015】
また,回転電機には表面磁極部が回転し電機子が静止する構造及びその逆の構造,さらに円筒状の電機子と表面磁極部が径方向に空隙を介して対向する構造,或いは略円盤状の電機子と表面磁極部が軸方向に空隙を介して対向する構造等のいずれの構造も存在する。本発明は永久磁石励磁の界磁部を持つ上記何れの構造の回転電機システムにも適用される。
【0016】
また,回転電機は電機子コイルへの電流を入力として回転力を出力とすれば電動機であり,回転力を入力として電機子コイルから電流を出力すれば発電機である。電動機或いは発電機に於いて最適の磁極構成は存在するが,可逆的であり,上記の回転電機システムは電動機,発電機の何れにも適用される。
【0017】
請求項2の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,磁性体間に磁化方向長さと抗磁力の積が異なる磁石要素が並列に接続されて界磁磁石が構成されていることを特徴とする。界磁磁石は磁化容易さの異なる一以上の磁石要素が並列に接続される構成,或いは断面内で磁化容易さ,すなわち,磁化方向長さと抗磁力の積が連続的に変わる磁石であって,励磁コイルによる起磁力はほぼ均等に界磁磁石を構成する磁石要素に加えられ,起磁力を磁化方向長さで除した値が各磁石要素に加わる磁界強度となるので磁化方向長さと抗磁力の積の小さな磁石要素が磁化されやすく,励磁コイルに加えられる電流により並列接続された磁石要素の磁化状態は選択的に制御される。
【0018】
請求項3の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,励磁コイルに供給される磁化電流による磁界の磁界強度が抗磁力より大とされる界磁磁石の磁石要素が磁化電流の極性により定められた方向に選択的に磁化されることを特徴とする。界磁磁石は磁化の容易さが異なる磁石要素が並列に接続されているので励磁コイルに供給する磁化電流振幅により磁化する領域を限定でき,磁化電流の極性により磁化の方向を変える事が出来る。界磁磁石内には消磁状態及び互いに逆方向の磁化が存在し得るが,それぞれの磁化の磁極表面積に比例した磁束が発生されるので前記磁極表面積の差に比例した磁束が界磁磁石から流れる。
【0019】
請求項4の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石は磁性体突極を予め定めた方向に磁化する第一磁化の磁石要素,第一磁化と逆方向の磁化である第二磁化の磁石要素を有している事を特徴とする。界磁磁石は互いに逆方向に磁化された要素を有し,磁性体突極を予め定めた方向に磁化する界磁磁石内の磁化を第一磁化とする。磁性体突極間に略周方向磁化を持つ永久磁石或いは集合磁石を配置する場合には永久磁石或いは集合磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じに磁化する界磁磁石内の要素を第一磁化と設定する。
【0020】
請求項5の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,表面磁極部は周方向に隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化する永久磁石を有し,界磁磁石の第一磁化と永久磁石とが磁性体突極を同種の極性に磁化するよう永久磁石の磁化方向が設定され,界磁磁石全体が第一磁化とされて電機子を流れる磁束量が最大にされ,電機子内に於いて前記永久磁石からの磁束と界磁磁石からの磁束とが相殺されるように界磁磁石は第二磁化の磁極面積が第一磁化の磁極面積より大とされて電機子を流れる磁束量を最小であるゼロとするよう構成されている事を特徴とする。
【0021】
本発明では界磁磁石の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量をゼロから最大値まで制御できる。更に表面磁極部の磁性体突極間に永久磁石を有して磁性体突極に磁束を供給する構成の回転電機に於いても電機子を流れる磁束量をゼロから最大値まで制御できる。すなわち,前記永久磁石の磁束を励磁部側に引き込む方向に界磁磁石を磁化して電機子側に流れる磁束量をゼロにする。これが電機子側に流れる磁束量の最小値である。前記永久磁石からの電機子に流入する磁束に加算されるように界磁磁石を最大限に磁化した場合が電機子側に流れる磁束量を最大値とする。このように磁性体突極間に永久磁石が配置される回転電機でも界磁磁石の磁化方向及び磁化領域を制御して電機子側に流れる磁束量を自由に制御できる。
【0022】
請求項6の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石は磁化容易さが互いに異なる第一界磁磁石及び第二界磁磁石の並列接続で構成され,励磁コイルは第一界磁磁石及び第二界磁磁石が直列となる閉磁路に磁束を発生させ,第一界磁磁石及び第二界磁磁石は互いに他を励磁磁路の一部とするよう配置されていることを特徴とする。並列接続された第一界磁磁石及び第二界磁磁石は同時に直列接続として閉磁路を構成している。励磁コイルはその閉磁路に磁束を発生させるよう配置されるので第一界磁磁石及び第二界磁磁石は常に逆方向に励磁される。したがって,第一界磁磁石,第二界磁磁石の何れか磁化変更容易な界磁磁石の磁化方向をさらに反転させて界磁磁石全体の磁束量を調整する場合がある。
【0023】
請求項7の発明は,請求項6記載の回転電機システムに於いて,磁化容易さが互いに異なる第一界磁磁石及び第二界磁磁石は磁化変更に必要な磁界強度が互いに異なる磁石によりそれぞれ構成されることを特徴とする。励磁コイルに磁化電流が供給された場合,直列に接続された各磁石内の磁界強度はほぼ等しいので第一界磁磁石及び第二界磁磁石それぞれで磁化反転に必要な磁界強度が異なるよう構成して界磁磁石の磁化状態を独立に制御する。磁化反転に必要な磁界強度を異ならせるには磁石素材の種類を変える,或いは同種の素材に於いて構成元素の組成比を変える等の手段で実現出来る。さらにそれぞれの界磁磁石を磁化容易さの異なる磁石の並列接続とする構成も可能である。
【0024】
請求項8の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,可動磁性体片を偏倚させて界磁磁石,主磁路,励磁磁路間の接続状態を変える磁路スイッチを有し,通常の運転中に界磁磁石は主磁路に接続されて励磁磁路は切り離され,励磁コイルにより界磁磁石の磁化状態を変更する際に界磁磁石は主磁路から切り離されて励磁磁路と接続されることを特徴とする。磁路スイッチは可動磁性体片を偏倚させて磁路の接続状態を変える構成として界磁磁石と主磁路或いは励磁磁路との接続を二者択一的に切り替え,励磁コイルに供給される磁化電流が電機子コイルに及ぼす影響を小とする。
【0025】
主磁路と励磁磁路の磁気抵抗に差があると,可動磁性体片には磁気抵抗が小さい側へ偏倚させる磁気力が働いて可動磁性体片による接続変更は妨げられる。前記磁気力を抑制するには主磁路と励磁磁路の磁気抵抗をほぼ等しく設定する。さらに磁路スイッチにより励磁磁路を界磁磁石に接続する際には励磁磁路の磁気抵抗を実効的に小とし,励磁磁路を界磁磁石から切断する際には励磁磁路の磁気抵抗を実効的に大として可動磁性体片の偏倚を妨げる磁気力を小にする,或いは磁気力の方向を前記偏倚をアシストする方向とする事が出来る。
【0026】
請求項9の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,可動磁性体片を偏倚させて励磁磁路の構成を変える磁路スイッチを有し,通常の運転中に励磁磁路の磁気抵抗は大となるよう励磁磁路中の磁気的な間隙が大とされ,励磁コイルにより界磁磁石の磁化状態を変更する際に励磁磁路の磁気抵抗が小となるよう励磁磁路中の磁気的な間隙が小とされることを特徴とする。界磁磁石の磁化状態を変更する際に励磁磁路の磁気抵抗を小として界磁磁石の磁化状態変更を容易にする。
【0027】
請求項10の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,主磁路の磁気抵抗より励磁磁路の磁気抵抗が大に設定されていることを特徴とする。主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯との相対位置により変動するが,本発明で主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯間の各相対位置に関して平均化された値としている。界磁磁石からの磁束は主磁路及び励磁磁路に供給されるが,励磁磁路側の磁気抵抗を大として主磁路に多くの磁束が分流される構成とする。励磁磁路内に磁路の狭隘部分或いは磁気的な空隙からなる磁気抵抗調整部分を有して磁気抵抗を設定する。
【0028】
請求項11の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石から磁性体突極に至る磁路は界磁磁石に接する磁性体より渦電流損を大とする構成を有して交流磁束が通り難いよう構成される事を特徴とする。励磁磁路は交流磁束が流れやすい構成として界磁磁石の着磁変更を容易にさせる一方で磁性体突極を含む表面磁極部と励磁磁路との間は渦電流損を生じやすい構成として交流磁束が通り難くする。界磁磁石を励磁する際に誘起される磁束パルスが磁性体突極に到達し難い構成として電機子コイル周辺の電子回路に及ぼす不具合を軽減させる。
【0029】
交流磁束を通り難くする構成は,渦電流損を大とする比抵抗の小さい軟鉄ブロックを有する構成,磁性体表面を導電性の良い材料で被覆した構成,磁性体表面を導体板で周回した構成,界磁磁石から磁性体突極に至る磁路を構成するバルク状磁性体表面に磁束の流れる方向とほぼ直交する凹凸を形成した構成等が有効である。渦電流が流れる磁性体に於いて交流磁束は磁性体表面に集中して伝搬する特性を利用し,交流磁束の磁路長を実効的に長くして交流磁束を通り難くする。凹凸の振幅及び四分の一の周期を交流磁束の表皮深さ以上に設定すると効果が大きい。
【0030】
請求項12の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,励磁コイルには界磁磁石の磁化状態変更の為の磁化電流を供給する回路に加えて磁束調整回路が接続され,磁束調整回路は界磁磁石に不可逆的な磁化変化を生ぜしめない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給し,誘起された磁束を界磁磁石からの磁束に重畳して電機子を流れる磁束量を調整する事を特徴とする。
【0031】
界磁磁石からの磁束に励磁電流による磁束を重畳させて磁束量を制御する複合励磁である。界磁磁石の磁化変更は離散的に為される場合があり,また磁化の大きさを連続的に変更が可能であっても,界磁磁石の磁化変更は殆どの場合は間歇的に実施され,結果として電機子を流れる磁束量は離散的に制御される事が多い。本発明では界磁磁石の各磁化状態に於いて界磁磁石に不可逆的な磁化変化を生ぜしめない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給して磁束を発生させ,界磁磁石からの磁束に重畳させて電機子を流れる磁束量を精密に制御する。
【0032】
請求項13の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して配置され,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の異なる方向に延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,励磁部は回転子内に配置され,第一延長部,第二延長部を介して隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化するよう構成される事を特徴とする。励磁コイル及び界磁磁石は回転子内に配置し,励磁コイルはスリップリングを介して外部の制御部と結合させる。回転子内のスペースを有効に利用でき,界磁磁石から磁性体突極への磁路の長さを短くできる利点がある。表面磁極部が電機子とが軸方向に対向する場合には上記趣旨に沿って第一延長部,第二延長部は径方向に磁性体突極を延長させる。
【0033】
請求項14の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して配置され,電機子はさらに磁気ヨークを有し,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の異なる方向に延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,回転子両端の静止側に配置された二つの励磁部は第一延長部と磁気ヨーク間,第二延長部と磁気ヨーク間にそれぞれ磁束を供給し,隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化すよう構成される事を特徴とする。励磁部が静止側に配置されるのでブラシは不要であり,回転子はシンプルに構成される。
【0034】
請求項15の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して配置され,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の一方向,内径方向にそれぞれ延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,回転子端の静止側に配置された励磁部は第一延長部と第二延長部間に磁束を供給し,隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化するよう構成される事を特徴とする。励磁部が静止側に配置されるのでブラシは不要であり,回転子はシンプルに構成される。
【0035】
請求項16の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して電機子の外周側に配置され,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の異なる方向に延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,励磁部は電機子の内周領域に配置され,第一延長部,第二延長部に微小間隙を介して磁気的に結合され,隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化するよう構成される事を特徴とする。第一延長部,第二延長部はそれぞれ内径方向への延長部を以て励磁部と磁気的に結合する構成とする。回転電機の主要部を磁気的にも物理的にもシールド容易な構成としてインホイールモータに適する構成である。
【0036】
請求項17の発明は,請求項1から請求項16記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,回転力を入力とし,発電電力を出力とする回転電機システムであって,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より大の時は制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より小の時は制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,発電電圧が所定の値に制御される事を特徴とする回転電機システムである。
【0037】
界磁磁石内には磁性体突極を予め定めた方向に磁化する第一磁化,第一磁化と逆方向の磁化或いは消磁状態が存在する。磁化状態を変更して第一磁化に属する磁極面積を増せば,第一磁化以外の領域の磁極面積は減少する関係にある。
【0038】
請求項18の発明は,請求項1から請求項16記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,回転速度が所定の値より大で電機子を流れる磁束量を減少させる時には制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,回転速度が所定の値より小で電機子を流れる磁束量を増大させる時には制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転力が最適に制御される事を特徴とする回転電機システムである。駆動電流の進み位相制御を併用する場合には,電機子を流れる磁束量変更に際して界磁磁石の磁化状態を変更する他に駆動電流の進み位相制御を行う事も出来る。
【0039】
請求項19の発明は,請求項1から請求項16記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,回転速度を減少させる場合には制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転エネルギーが発電電力として取り出される事を特徴とする回転電機システムである。
【0040】
請求項20の発明は,電機子コイルを有する電機子と,電機子と対向して周方向に配置された複数の磁性体突極を有する表面磁極部と,同種の極性に磁化されるべき磁性体突極グループ毎に一括して磁化する励磁部とを有し,表面磁極部と電機子とは軸を中心に相対的に回転可能である回転電機装置の磁束量制御方法であって,励磁部は界磁磁石及び界磁磁石の磁化を変更する励磁コイルを有し,前記界磁磁石のN極或いはS極の何れか一方の磁極から流れる磁束が磁性体突極及び電機子を介して界磁磁石の他方の磁極に環流する主磁路と,励磁コイルを流れる電流により生起された磁束が界磁磁石を含んで主として励磁部内で環流する励磁磁路とを界磁磁石に並列に接続し,励磁コイルに磁化電流を供給して界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変えて電機子を流れる磁束量を制御する磁束量制御方法である。
【0041】
同種の極性に磁化されるべき磁性体突極グループ毎に一括して磁化する励磁部を有し,励磁部内には界磁磁石及び界磁磁石を磁化する励磁コイルとを有し,回転電機の運転中或いは静止時に界磁磁石の磁化状態を変え電機子に流れる磁束量を変更する。励磁コイルが発生させる磁束が流れる励磁磁路を界磁磁石に並列に接続し,界磁磁石の着磁変更に際して電機子コイルへの影響を軽減できる構成とすると共に電機子コイルが発生する駆動磁束の影響が界磁磁石に及び難い構成としている。
【0042】
界磁磁石には単独の磁石或いは磁化容易さの異なる磁石要素が並列に接続された構成として磁化する磁石要素の領域を制御して電機子を含む主磁路に供給する磁束量を制御する事が出来る。励磁コイルに供給する磁化電流を変えて界磁磁石を部分的に磁化し,或いは消磁する事により界磁磁石が主磁路の供給する磁束量を変える。
【0043】
請求項21の発明は,請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石は磁化の容易さが異なる磁石要素を並列に接続して構成する磁束量制御方法である。磁化の容易さが異なる磁石要素を並列に接続された界磁磁石は,磁化方向長さと抗磁力の積が異なる一以上の磁石が並列に接続された構成,磁化方向長さが徐々に変わる磁石,傾斜的に含有成分が異なって抗磁力が異なる磁石として構成される。
【0044】
請求項22の発明は,請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石の磁化状態を変更しない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給し,生起された磁束を界磁磁石からの磁束に重畳して電機子を流れる磁束量を調整する磁束量制御方法である。界磁磁石の磁化変更は離散的に為される場合があり,また磁化の大きさを連続的に変更が可能であっても,界磁磁石の磁化変更は殆どの場合は間歇的に実施され,結果として電機子を流れる磁束量は離散的に制御される事が多い。本発明では界磁磁石の各磁化状態に於いて界磁磁石に不可逆的な磁化変化を生ぜしめない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給して磁束を発生させ,界磁磁石からの磁束に重畳させて電機子を流れる磁束量を精密に制御する。
【0045】
請求項23の発明は,請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石を磁化変更に必要な磁界強度が互いに異なる第一界磁磁石及び第二界磁磁石の並列接続で構成し,励磁コイルは第一界磁磁石及び第二界磁磁石が直列となる閉磁路に磁束を発生させる磁束量制御方法である。第一界磁磁石及び第二界磁磁石の磁極面積が等しい場合,直列に接続された各磁石内の磁界強度はほぼ等しいので第一界磁磁石及び第二界磁磁石それぞれで磁化反転に必要な磁界強度が異なるよう構成して界磁磁石の磁化状態を独立に制御する事を可能にする。磁化反転に必要な磁界強度を異ならせるには磁石素材の種類を変える,或いは同種の素材に於いて構成元素の組成比を変える等の手段で実現出来る。それぞれの界磁磁石を更に磁化容易さの異なる磁石の並列接続とする構成も可能である。
【0046】
請求項24の発明は,請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石から磁性体突極に至る磁路は渦電流損を大として交流磁束が通り難い構成を有する磁束量制御方法である。界磁磁石を励磁する際に誘起される磁束パルスが磁性体突極に到達し難い構成として電機子コイル周辺の電子回路に及ぼす不具合を軽減させる。交流磁束が通り難い構成には種々の方法があり,比抵抗の小さい軟鉄ブロックで渦電流損を大にする,或いは磁性体表面を導電性の良い材料で被覆する,磁路の表面に磁束の流れる方向と略直交する凹凸を形成した構成等が有効である。
【発明の効果】
【0047】
界磁磁石及び界磁磁石を磁化する励磁コイルを含む励磁部を回転子内或いは静止側に配置する構成として,界磁磁石の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を制御する。磁化状態を変える時のみ励磁コイルに磁化電流を供給するので高エネルギー効率で出力を最適に制御する回転電機システムを実現出来る。また,励磁部を電機子から離れた位置に配置できるので低保持力の界磁磁石としても電機子コイルの影響を回避出来,界磁磁石を磁化する磁気回路,界磁磁石の形状寸法等を最適に出来て確実に界磁磁石の磁化状態を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第一の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図2】図1に示された回転電機の電機子と回転子とを示す断面図である。
【図3】図1に示された回転電機の回転子構成と励磁部を示す分解斜視図である。
【図4】図1に示された回転電機の励磁部を回転子側から見た平面図である。
【図5】図1に示された回転電機の励磁部を右側から見た平面図である。
【図6】励磁コイルに供給する電流波形の例を示す図である。
【図7】磁束量制御を行う回転電機システムのブロック図である。
【図8】第二の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図9】第三の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図10】図9に示された回転電機の電機子と回転子とを示す断面図である。
【図11】図9に示された回転電機の回転子構成を示す分解斜視図である。
【図12】図9に示された回転電機の回転子の拡大された縦断面図である。
【図13】図9に示された回転電機の励磁部の縦断面図である。
【図14】磁束量制御を行う回転電機システムのブロック図である。
【図15】第四の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図16】図15に示された回転電機の電機子と回転子とを示す断面図である。
【図17】第五の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図18】図17に示された回転電機の電機子と回転子とを示す断面図である。
【図19】図17に示された回転電機の回転子構成と励磁部を示す分解斜視図である。
【図20】図17に示された回転電機の励磁部の拡大された縦断面図である。
【図21】第六の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図22】図21に示された回転電機の電機子と回転子とを示す断面図である。
【図23】図21に示された回転電機の励磁部の拡大された縦断面図である。
【図24】第七の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図25】(a)は図24に示された回転電機の第一表面磁極部を電機子側から見た平面図であり,(b)は図24に示された回転電機の電機子を第一表面磁極部側から見た平面図であり,(c)は図24に示された回転電機の第二表面磁極部を電機子側から見た平面図である。
【図26】図24に示された回転電機の第一表面磁極部,電機子,第二表面磁極部の周方向磁極構成及び磁束の流れを示す。
【図27】図24に示された回転電機の第一表面磁極部,電機子,第二表面磁極部の周方向磁極構成及び磁束の流れを示す。
【図28】図24に示された回転電機の励磁部の縦断面図である。
【図29】第八の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図30】図29に示された回転電機の電機子と回転子とを示す断面図である。
【図31】図29に示された回転電機の回転子構成を示す分解斜視図である。
【図32】図29に示された回転電機の励磁部の縦断面図である。
【図33】第九の実施例による回転電機の縦断面図である。
【図34】図33に示された回転電機の電機子と回転子とを示す断面図である。
【図35】第十の実施例による回転電機システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に本発明による回転電機システムについて,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0050】
本発明による回転電機システムの第一実施例を図1から図7までを用いて説明する。第一実施例は,ラジアルギャップ構造の回転電機システムであり,励磁部は回転子の一方の端部に隣接するハウジング側に配置されている。図1は回転電機の縦断面図,図2は電機子と回転子とを示す断面図,図3は回転子構成と励磁部の配置を示す分解斜視図,図4は励磁部を回転子側から見た平面図,図5は励磁部を軸方向の右側から見た平面図,図6は励磁コイルに供給する電流波形例を示す図,図7は磁束量制御を行う回転電機システムのブロック図である。
【0051】
図1はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク15と,磁性体歯14と,電機子コイル16とを有している。回転子の磁極部は磁性体突極と磁気空隙部とが周方向に交互に並ぶ表面磁極部17,隣り合う磁性体突極を交互に内径方向及び軸と平行の右方向へ延長させた第一延長部18,第二延長部19とを有している。回転子右側のハウジング側に励磁部が配置されて第一延長部18,第二延長部19と空隙を介して対向し,第一延長部18,第二延長部19に磁束を一括して供給し,隣り合う磁性体突極を互いに異極に磁化している。
【0052】
同図に於いて,励磁部の主要部は内側磁極1b,外側磁極1d,円環状磁極1c,界磁磁石1j,励磁磁極1f,励磁コイル1g,可動磁極1h,間隙1nから構成されている。界磁磁石1j内の矢印は磁化方向を示している。可動磁極1hは周方向に摺動可能としてアクチュエータ1mに制御棒1kを介して接続されている。番号1e及び番号1aは非磁性体部,番号1pは回転子に固定された冷却ファンをそれぞれ示している。
【0053】
図2は図1のA−A’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示している。電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク15と,円筒状磁気ヨーク15から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯14と,磁性体歯14に巻回された電機子コイル16とから構成されている。本実施例では9個の電機子コイル16を有し,それらは三相に結線されている。電機子の磁性体歯14先端には径方向に短い可飽和磁性体結合部27を隣接する磁性体歯14先端部間に設けてある。磁性体歯14及び可飽和磁性体結合部27はケイ素鋼板を型で打ち抜いて積層され,電機子コイル16を巻回された後,円筒状磁気ヨーク15と組み合わせて電機子とされている。
【0054】
可飽和磁性体結合部27は隣接する磁性体歯14同士を機械的に連結させて磁性体歯14の支持強度を向上させ,磁性体歯14の不要な振動を抑制させる。可飽和磁性体結合部27の径方向の長さは短く設定して容易に磁気的に飽和する形状としたので電機子コイル16が発生させる磁束或いは界磁磁石からの磁束によって容易に飽和し,その場合に電機子コイル16が発生させる磁束及び磁束の短絡を僅かな量とする。電機子コイル16に電流が供給されると,時間と共に可飽和磁性体結合部27は磁気的に飽和させられて周辺に磁束を漏洩させるが,磁気飽和した可飽和磁性体結合部27に現れる実効的な磁気空隙の境界はクリアではないので漏洩する磁束の分布は緩やかとなり,可飽和磁性体結合部27はこの点でも磁性体歯14に加わる力の時間変化を緩やかにして振動抑制に寄与する。
【0055】
図2に於いて,回転子の表面磁極部17は周方向に交互に配置された磁性体突極及び磁気空隙部で構成され,隣接する磁性体突極を代表して磁性体突極21,22とし,磁気空隙部23として番号を付している。隣接する磁性体突極21,22は内径方向,軸と平行の右方向に交互に延長されてそれぞれ第一延長部18,第二延長部19とされている。番号28は短絡環を示し,磁性体突極21から内径方向に延長された磁路25に周回するよう配置された導体板で構成されている。番号26は可飽和磁性体部を示す。
【0056】
番号24は磁束チャネル部である。磁性体突極21,22は幅の狭い可飽和磁性体部26で連結された構成として所定の型でケイ素鋼板を打ち抜き,積層して構成され,磁束チャネル部24には断面積を同じくするスロットに軟鉄のブロックを挿入している。非磁性体部分23,1aは非磁性のステンレススチールで構成している。
【0057】
磁性体突極21,22はケイ素鋼板を積層されているので積層方向である軸方向の磁気抵抗は大きいが,飽和磁束密度の大きな軟鉄ブロックで構成された磁束チャネル部24は軸方向に磁気抵抗が小であり,回転子の空きスペースを利用して電機子より遠い側の磁性体突極22に配置された磁束チャネル部24は十分な量の界磁磁束を回転軸11と平行な方向に伝搬させる事が出来る。
【0058】
図3は回転子の構成及び励磁部の配置を示す分解斜視図である。理解を容易にする為に磁性体突極21,22等を有する中心部と磁性体突極の第二延長部19とを離して示し,第二延長部19に間隙を介して対向しハウジング12側に配置されている励磁部35を示している。第二延長部19は軟鉄をプレス成形して磁性体突極22の延長部分となる磁性体突部31を有して構成され,非磁性体部34は磁性を持たないステンレススチールで形成されている。磁性体突部31と一体の環状磁気コア部分32は微小空隙を介して励磁部35の円環状磁極1cに,第一延長部18と結合されている円筒状磁気コア33は微小空隙を介して内側磁極1bとそれぞれ対向して磁気的に結合している。
【0059】
励磁部の構成は図1,図3,図4,図5を用いて説明される。図4は励磁部35を回転子側から見た平面図を示し,界磁磁石1jは外径方向に磁化されている界磁磁石領域41,内径方向に磁化されている界磁磁石領域42に区分されて示され,内側磁極1b及び外側磁極1dの間に配置されている。内側磁極1b及び外側磁極1d間の径方向間隙は周方向に徐々に変わり,界磁磁石領域41,42は径方向の長さが周方向に変えられている。界磁磁石領域41,42内の矢印は磁化方向を示し,磁性体突極21,22をそれぞれN極,S極に磁化する界磁磁石領域42を第一磁化,逆方向の界磁磁石領域41を第二磁化としている。
【0060】
第二磁化である界磁磁石領域41と第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を比較すると,界磁磁石領域42の周方向角度長が大きいので界磁磁石1j全体としては界磁磁石領域42の磁化方向で両者の磁極面積差に比例した磁束量が内側磁極1bに流入する。界磁磁石領域42から内側磁極1bに流入した磁束は円筒状磁気コア33,第一延長部18,磁性体突極21,磁性体歯14,磁性体突極22,第二延長部19,磁性体突部31,環状磁気コア部分32,円環状磁極1c,可動磁極1h,外側磁極1dを介して界磁磁石領域42に環流する主磁路を形成している。
【0061】
図5は励磁部35を軸方向の右側から見た平面図を示す。図1,3,5に示されるように界磁磁石領域41,42に並列に接続される励磁磁路が示され,図5には可動磁性体片より構成された可動磁極1hの偏倚位置が異なる場合が示されている。内側磁極1bに励磁磁極1fが接続され,可動磁極1hが外側磁極1dに微小間隙を介して配置され,さらに偏倚に応じて円環状磁極1c或いは励磁磁極1fに微小間隙を介して対向するよう構成されている。図3に示されるように円環状磁極1cは3カ所の軸方向突部を持ち,励磁磁極1fも3カ所の径方向突部を持ち,それぞれの突部は周方向に交互となるよう配置され,周方向に3個の可動磁極1hが配置されている。
【0062】
図5(a)では可動磁極1hが微小間隙を介して励磁磁極1fと外側磁極1dに磁気的に結合され,図5(b)では可動磁極1hが微小間隙を介して円環状磁極1cと外側磁極1dに磁気的に結合され,可動磁極1hと励磁磁極1fと円環状磁極1cは磁路スイッチを構成している。励磁コイル1gは励磁磁極1f及び回転軸11を周回するよう巻回して構成され,図5(a)の状態で励磁コイル1gに供給された磁化電流により励磁磁極1f,可動磁極1h,外側磁極1d,界磁磁石領域41,42,内側磁極1bで構成される励磁磁路に磁束が誘起される。励磁磁極1f,可動磁極1h,内側磁極1b,外側磁極1dは鉄粉を押し固めた比抵抗の大きな圧粉鉄心で構成されている。その他に比抵抗が大きいフェライト系の磁性体,或いはケイ素鋼板の積層体等を回転電機仕様に合わせて採用する事が出来る。
【0063】
3個の可動磁極1hは一体としてアクチュエータ1mに制御棒1kを介して接続されて周方向に偏倚可能に構成され,図5(a)の状態で励磁コイル1gに磁化電流を供給して界磁磁石領域41,42を磁化し,或いは消磁する。図5(b)の状態で界磁磁石領域41,42からの磁束は主磁路に流れる。
【0064】
図4に示されるように界磁磁石領域41,42は径方向の長さが周方向に変わり,同一の永久磁石要素が径方向長さを変えて並列に接続された状態である。図5(a)に示される場合に於いて,励磁コイル1gに磁化電流が供給されると,界磁磁石領域41,42に接する内側磁極1bと外側磁極1d間の磁気ポテンシャル差(起磁力)はほぼ同じとして各磁石要素内では磁気ポテンシャル差を径方向長さで除した値に相当する磁界強度の磁界が加えられる。
【0065】
したがって,径方向に短い磁石要素が磁化されやすく,径方向に長い磁石要素は磁化され難い。励磁コイル1gに供給する磁化電流により界磁磁石領域41,42を一括して励磁すると,磁束は磁界強度が大となる径方向に短い側である界磁磁石領域41に磁束が集中し,磁界強度が抗磁力より大となる領域が磁化される。励磁コイル1gに供給する磁化電流を増やすと磁化される界磁磁石領域41の領域は広がって磁化される領域を制御できる。
【0066】
励磁コイル1gに供給する電流波形は図6に示されている。番号64,65は時間を示す。図6(a)は時間64と共に振幅が徐々に小となる交流電流である消磁電流61の波形を示し,界磁磁石領域41,42は電流極性に応じて磁化の方向を変えられ,徐々にその程度を小さくされて消磁される。同図では交流電流波形を示しているが,交互に向きを変え,振幅を小にするパルス電流列でも同様の効果を得る事が出来る。界磁磁石領域41,42を消磁する場合には上記に説明したように磁化領域の制御と同様に消磁電流61の最大の振幅で消磁される領域を変える事が出来る。
【0067】
図6(b)は界磁磁石領域41,42を磁化する為に加えるパルス電流62を示している。界磁磁石領域41,42を磁化するには仕様に応じて数十マイクロ秒から1ミリ秒程度の時間幅のパルス電流62を励磁コイル1gに加える。消磁電流61及びパルス電流62は界磁磁石領域41,42の磁化状態を変更する磁化電流である。
【0068】
制御電流63は可動磁極1hの偏倚を妨げる磁気力を抑制する場合に加える時間幅の広い電流波形を示している。磁路スイッチの可動部である可動磁極1hには一般に界磁磁石からの磁束量を大とする方向に偏倚させようとする磁気力が現れ,前記可動磁極1hの偏倚は影響を受ける。本発明では励磁磁極1f,可動磁極1h間の間隙1nを磁気抵抗調整部分として励磁磁路の磁気抵抗を主磁路の磁気抵抗とほぼ同じく設定している。可動磁極1hを偏倚させても界磁磁石領域41,42に繋がる磁気抵抗の変動は小さく抑制されるので可動磁極1hの偏倚に際して現れる磁気力は抑制される。
【0069】
励磁磁路の磁気抵抗と主磁路の磁気抵抗を等しくする条件が磁気力を最小にする条件であるが,アクチュエータ1mの出力は摩擦力も考慮して余裕を持って設定するとして,前記磁気力がアクチュエータ1mの出力以下となる程度に両磁路の磁気抵抗を等しく設定する。主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯との相対位置により変動するが,本発明で主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯間の各相対位置に関して平均化された値としている。
【0070】
上記説明のように界磁磁石領域41,42は内側磁極1b及び外側磁極1d間に磁化容易さの異なる磁石要素が並列接続された構成である。励磁コイル1gに加えられるパルス電流62の大きさにより磁化される領域の広さを変え,さらにパルス電流62の極性により磁化される方向が変えられる。図4に示したように外径方向の磁化を有する界磁磁石領域41,内径方向の磁化を有する界磁磁石領域42が共存し,界磁磁石領域41,42の互いの領域の周方向角度長の大きさを変える事により電機子側に流れる磁束量が変わる。また,界磁磁石領域41,42の一方を消磁状態とする状態も可能である。
【0071】
永久磁石には材料,製法等多様な素材が使用可能であり,飽和磁束密度,抗磁力,或いはBHカーブ形状等にそれらの特徴が現れている。BHカーブ形状に於いて矩形性に優れる素材は一般に抗磁力も大であって界磁磁石領域41,42に於ける磁化方向を互いに逆となるよう磁化する場合に適し,逆の場合は一方向の磁化と消磁部分を共存させるように用いる事に適している。
【0072】
界磁磁石領域41,42の磁化状態変更の方法を更に図4を用いて説明する。励磁コイル1gに供給されたパルス電流62が界磁磁石内に加える磁界強度より小の抗磁力を持つ界磁磁石要素は全て同じ方向に磁化されるので界磁磁石の磁化状態変更は以下のように実施される。
【0073】
第一磁化である界磁磁石領域42の磁化領域を減じると第二磁化である界磁磁石領域41の磁化領域が拡大される。界磁磁石領域41は界磁磁石領域42より径方向の長さが短いので第一磁化である界磁磁石領域42の磁化領域を減じるには界磁磁石領域41の領域を増すよう磁化する振幅及び極性のパルス電流62を励磁コイルに加える。
【0074】
図4の状態から第一磁化である界磁磁石領域42の磁化領域を増すには,界磁磁石の径方向長さの最も短い領域に於いて界磁磁石領域41の縮小される差分相当を第一磁化の方向に磁化する振幅及び極性のパルス電流62を励磁コイルに加える。また,第一磁化である界磁磁石領域42の磁化領域を減少させるには,界磁磁石の径方向長さの最も短い領域に於いて界磁磁石領域41が増大された領域相当を第一磁化の方向に磁化する振幅及び極性のパルス電流62を励磁コイルに加える。
【0075】
電機子を流れる磁束量はこのように励磁コイル1gに供給するパルス電流62の振幅及び極性を変えて界磁磁石領域41,42の磁化方向及び磁化範囲を変える事で制御される。電機子を流れる磁束量と励磁コイル1gに供給するパルス電流62との関係は設計段階でマップデータとして設定する。しかし,回転電機の量産段階では部材の寸法が公差範囲内でバラツキ,磁性体の磁気特性のバラツキも存在して電機子を流れる磁束量の精密な制御が困難になる場合がある。そのような場合には回転電機を組み立て後に回転電機個々に電機子を流れる磁束量と励磁コイル1gに供給するパルス電流62との関係を検査し,前記マップデータを修正する。
【0076】
さらに磁性体の特性は温度による影響を受けやすく,経時変化による影響も懸念される場合には運転中に加えられるパルス電流62とその結果としての界磁磁石の磁化状態を監視し,回転電機の運転中に前記マップデータを修正する情報を学習的に取得する事も出来る。電機子を流れる磁束量を直接に把握する事は難しいが,電機子コイル16に現れる誘起電圧を参照して電機子を流れる磁束量を推定できる。
【0077】
本実施例では界磁磁石領域41,42の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を制御する。図5(a)の状態で界磁磁石領域41,42にバイパス磁路のみが接続され,バイパス磁路には励磁コイル1gが巻回されているので励磁コイル1gによる磁束は確実に界磁磁石領域41,42に加えられて磁化状態を変更できる。図5(b)の状態で界磁磁石領域41,42には主磁路のみが接続されるので界磁磁石領域41,42からの磁束は電機子側に供給される。
【0078】
また,界磁磁石領域41,42から磁性体突極21,22に至る第二延長部19及び磁束チャネル24は軟鉄ブロックで構成して電機子コイル16が誘起する交流磁束を通り難い構成とし,さらに短絡環28を配置したので短絡環28を流れる渦電流により交流磁束が通り難く構成されている。電機子コイル16が誘起する交流磁束が界磁磁石領域41,42に及ぼす影響が抑制されるので界磁磁石1jを低保持力磁石で構成する事が出来る。さらに界磁磁石領域41,42を磁化する際に励磁コイル1gが生成する磁束パルスが電機子コイル16に及ぼす影響が軽減される構成である。
【0079】
このように本実施例では界磁磁石領域41,42の磁化状態を回転時或いは静止時の如何なる場合に於いても変更或いは設定できる。したがって,不測の事態により界磁磁石領域41,42の磁化が消失される事があっても直ちに界磁磁石領域41,42に磁化を復元し,回転電機システムの運転を継続でき,安定的に機能する回転電機を提供する。
【0080】
本発明では同種の極性に励磁される磁性体突極グループ毎に一括して励磁する励磁部を有して励磁部内に界磁磁石及び着磁用の励磁コイルを含む構成である。励磁部を電機子から離れた位置に配置できる特徴があり,電機子コイルの発生する磁界の影響を直接には受けない事,スペースに余裕がある事から電機子近傍の表面或いは磁極内に配置する従来の回転電機に比して本発明で採用する界磁磁石素材及び形状寸法には選択の自由度がある。
【0081】
電機子に対向する回転子表面或いは磁極内には電機子コイルの作る磁界によって容易に非可逆減磁を生じないネオジウム磁石(NdFeB)が望ましいが,上記説明のように励磁部には電機子コイル16が誘起する交流磁束は到達し難いので界磁磁石として低保持力の磁石,例えばアルニコ磁石(AlNiCo)を使用する事が出来る。ネオジウム磁石(NdFeB)では着磁に必要な磁界強度が2400kA/m(キロアンペア/メートル)程度であり,アルニコ磁石(AlNiCo)の着磁に必要な磁界強度は240kA/m程度である。これにより界磁磁石1jの磁化変更が容易となる。
【0082】
本発明では回転電機の運転中に励磁コイル1gにより任意に界磁磁石1jの磁化状態を変更して電機子に流れる磁束量を変更する事が目的である。磁石素材の特性はバラツキが多いので同一の素材を用いて寸法を変え,磁化の容易さに関して傾斜を持たせる方が制御しやすい。ネオジウム磁石(NdFeB)の微小な厚みを変えるよりアルニコ磁石(AlNiCo)で数ミリメートルの範囲で寸法を変える方が磁化容易さの程度を制御しやすい。
【0083】
さらに磁石素材を着磁させるに際しては十分な磁界強度の磁界を確実に磁石素材に加える磁気回路が必要であるが,本発明による回転電機では励磁部を独立に設けたので表面磁極部に於ける磁極構成に係わらず励磁コイル及び界磁磁石周辺の磁気回路を最適に構成出来る。界磁磁石近傍にヒータを配置し,界磁磁石の磁化を変更する際に界磁磁石のキュリー温度近傍にまで加熱して磁化変更を容易にする構成も可能である。
【0084】
以上,図1から図6に示した回転電機に於いて,界磁磁石1jの磁化領域を変える事で電機子に流れる磁束量を制御できることを説明した。本実施例は磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,図7を用いて回転電機システムとしての制御を説明する。図7は磁束量制御を行う回転電機システムのブロック図を示している。図7に於いて,回転電機71は入力72,出力73を有するとし,制御装置75は回転電機71の出力73及び回転子の位置,温度等を含む状態信号74を入力として制御信号76を介して磁束量を制御する。番号77は電機子コイル16に駆動電流を供給する駆動回路を示す。回転電機71が発電機として用いられるのであれば,入力72は回転力であり,出力73は発電電力となる。回転電機71が電動機として用いられるのであれば,入力72は駆動回路77から電機子コイル16に供給される駆動電流であり,出力73は回転トルク,回転速度となる。
【0085】
回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する電動機システムを説明する。制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時にはアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を主磁路から励磁磁路への接続に切換え,第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を増す方向のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域41の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を小とさせ,アクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を励磁磁路から主磁路への接続に切り替える。
【0086】
制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時にはアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を主磁路から励磁磁路への接続に切換え,第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を増す方向のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域42の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を大とさせ,アクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を励磁磁路から主磁路への接続に切り替える。
【0087】
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時にはアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を主磁路から励磁磁路への接続に切換え,第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を増す方向のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域41の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を小とさせ,アクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を励磁磁路から主磁路への接続に切り替える。
【0088】
制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時にはアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を主磁路から励磁磁路への接続に切換え,第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を増す方向のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域42の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を大とさせ,アクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて界磁磁石を励磁磁路から主磁路への接続に切り替える。
【0089】
上記実施例に於いて,励磁磁路の磁気抵抗は主磁路の磁気抵抗にほぼ等しくなるよう設定されているので可動磁極1hの偏倚を妨げる磁気力は小さく,磁路の切換は容易に行われる。さらにアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させる際に界磁磁石に非可逆減磁を生じさせない程度の予め定めた振幅の制御電流63を供給して前記偏倚を妨げる磁気力を抑制し,或いは偏倚をアシストする方向の磁気力を発生してさらに偏倚を容易にする事も可能である。
【0090】
界磁磁石1j(界磁磁石領域41,42)の磁化状態変更に際しては一般に励磁コイルにパルス状の磁化電流を流すが,その際に電機子コイル16に高電圧が現れ,電機子コイル16に接続される電子回路に不具合を生じさせる可能性がある。本実施例では界磁磁石1jの磁化状態を変更する際に可動磁極1hにより界磁磁石1jを主磁路から切り離して励磁磁路に接続する事で前記不具合を回避させる。更に主磁路には高い周波数の交流磁束が通り難いよう界磁磁石1jから磁性体突極21,22に至る磁路は渦電流損を大とするよう構成されている。したがって,電機子コイル16周辺の電子回路には耐電圧特性の比較的低い低コストの半導体素子を使用する事が出来る。
【実施例2】
【0091】
本発明による回転電機システムの第二実施例を図8を用いて説明する。第二実施例は,第一実施例に於いて,磁路スイッチの構成を変えた例であり,図8は回転電機の縦断面図である。図3,図5に於いて,円環状磁極1c及び励磁磁極1fは3カ所の突部を持ち,可動磁極1hの周方向偏倚に伴って主磁路,励磁磁路の接続が変更されるよう構成されているが,図8に於いて外側磁極1d,円環状磁極1cは一体の外側磁極82として常に可動磁極1hに対向し,3カ所の突部を持つ励磁磁極81と可動磁極1hとが可動磁極1hの周方向位置により対向する状態が変わる構成である。
【0092】
この構成により,通常の運転時には励磁磁路の磁気抵抗は大とされ,界磁磁石1jの磁化を変更する際にのみ励磁磁路の磁気抵抗が小とされ,界磁磁石1jの磁化変更が可能とされる。励磁磁極81と可動磁極1hとの間隙は微小として励磁磁路の磁気抵抗を極力小となるように構成されている。すなわち,可動磁極1hの偏倚位置により界磁磁石1jへの励磁磁路の接続がオン,オフされる。また,可動磁極1hの偏倚に際して偏倚を妨げる磁気力を抑制する為の制御電流を励磁コイル1gに供給する構成である。その他の構成及び動作原理等は第一の実施例と同じであるので更なる説明は省略する。
【0093】
磁路スイッチの可動磁性体片である可動磁極1hの偏倚に際しては一般に磁気力が現れ,出力の大きなアクチュエータ1mを前記偏倚の為に配置する必要がある。磁気力の方向は支配的な磁化方向である界磁磁石領域42からの磁束量を大とするよう可動磁極1hを偏倚させようとする方向である。
【0094】
本実施例に於いて,制御電流63は界磁磁石領域41,42の磁化状態を変更しない程度に設定し,励磁磁路を界磁磁石1jに接続する際には界磁磁石領域41,42で支配的となっている磁化状態,この場合は界磁磁石領域42の磁極面積を増大させる極性の制御電流63を励磁コイル1gに供給して励磁磁路の磁気抵抗は実効的に小とすると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を接続する。励磁磁路を界磁磁石1jから切り離す際には界磁磁石領域42の磁化領域を減少させる極性の制御電流63を励磁コイル1gに供給して励磁磁路の磁気抵抗は実効的に大とすると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を切り離す。これにより可動磁極1hに作用する磁気力は小に抑圧されるか,或いは偏倚をアシストする方向となり,前記偏倚は円滑に実行される。
【0095】
第二実施例の回転電機に於いて,磁束量を制御して出力を最適化するシステムの制御を説明する。回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には界磁磁石領域41,42に於いて支配的である界磁磁石領域42の磁極面積を増す極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jに接続し,第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を増す極性のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域41の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を小とさせる。その後,界磁磁石領域41,42に於いて支配的となった界磁磁石の磁極面積を減らす極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jから切り離す。
【0096】
制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には界磁磁石領域41,42に於いて支配的である界磁磁石領域42の磁極面積を増す極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jに接続し,第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を増す極性のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域42の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を大とさせる。その後,界磁磁石領域41,42に於いて支配的である界磁磁石領域42の磁極面積を減らす極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jから切り離す。
【0097】
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には界磁磁石領域41,42に於いて支配的である界磁磁石領域42の磁極面積を増す極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jに接続し,第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を増す極性のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域41の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を小とさせる。その後,界磁磁石領域41,42に於いて支配的となった界磁磁石の磁極面積を減らす極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jから切り離す。
【0098】
制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には界磁磁石領域41,42に於いて支配的である界磁磁石領域42の磁極面積を増す極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jに接続し,第一磁化である界磁磁石領域42の磁極面積を増す極性のパルス電流62を励磁コイル1gに供給して第二磁化である界磁磁石領域41の磁極面積を減ずると共に界磁磁石領域42の磁極面積を増大させて電機子に流れる磁束量を大とさせる。その後,界磁磁石領域41,42に於いて支配的である界磁磁石領域42の磁極面積を減らす極性の予め定めた振幅の制御電流63を励磁コイル1gに供給すると共にアクチュエータ1mにより可動磁極1hを偏倚させて励磁磁路を界磁磁石1jから切り離す。
【0099】
上記実施例に於いて,通常の運転時に励磁磁路は界磁磁石1jから実効的に切り離されるので界磁磁石からの磁束は殆どが主磁路に供給され,界磁磁石1jの磁化変更の際に励磁磁路は界磁磁石1jに接続されるので励磁コイル1gからの磁束は有効に界磁磁石1jに供給される。
【実施例3】
【0100】
本発明の第三実施例による回転電機システムを図9から図14を用いて説明する。第三実施例は,表面磁極部内に磁性体突極と永久磁石を周方向に交互に持つ回転電機システムであり,励磁部を回転子内に配置した回転電機システムである。図9は回転電機の縦断面図,図10は電機子と回転子とを示す断面図,図11は回転子の構成を示す分解斜視図,図12は回転子の拡大された縦断面図,図13は励磁部の拡大された縦断面図,図14は回転電機システムのブロック図である。
【0101】
図9はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。電機子の構成は第一実施例と同じであるので説明は省略する。回転子は磁性体突極と永久磁石とが周方向に交互に並ぶ表面磁極部91,隣り合う磁性体突極を回転軸11と平行の互いに異なる方向に延長させた第一延長部92,第二延長部93とを有する。
【0102】
回転子の表面磁極部91の内側には励磁部が配置されて第一延長部92,第二延長部93に結合し,隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化するよう配置されている。励磁部は界磁極95,96,界磁磁石97,励磁コイル98を主要部として構成されている。励磁コイル98にはブラシ9a,スリップリング9bを介して図示していない制御部に接続され,番号94は回転軸11を周回するよう配置された導体層を,番号99は非磁性体部を示している。
【0103】
図10は図9のB−B’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示されている。電機子の構成は第一の実施例と同じであるので説明は省略する。
【0104】
図10に於いて,表面磁極部91は磁性体突極と略周方向磁化を持つ永久磁石とを周方向に交互に有する構造とし,隣接する磁性体突極を番号101,102で,永久磁石を番号103で代表させて示している。隣接する磁性体突極101,102は軸と平行の異なる方向に交互に延長されてそれぞれ第一延長部92,第二延長部93とされている。さらに隣接する磁性体突極101,102は互いに異なる方向に磁化されるよう隣接する永久磁石103の周方向磁化は互いに反転されている。永久磁石103に付された矢印は磁化方向を示している。永久磁石103は磁束を磁性体突極101,102に供給すると共に周方向に磁気抵抗が大の領域を形成する磁束バリアの役割を果たしている。
【0105】
番号104は第一実施例に於いて番号24に対応する磁束チャネル部であり,軸方向に界磁磁束の伝搬供給を容易にする構成としている。磁性体突極101,102は幅の狭い可飽和磁性体部105で連結された構成として所定の型でケイ素鋼板を打ち抜き,積層して構成され,磁束チャネル部104には断面積を同じくするスロットに軟鉄のブロックを挿入し,永久磁石103には断面積を同じくするスロットに永久磁石のブロックを挿入している。磁気空隙部106には非磁性で且つ比抵抗の大きい材料,レジン,樹脂等を充填して構成している。また,非磁性体部分99は非磁性のステンレススチールで構成されている。
【0106】
図11は回転子の構成を示す分解斜視図である。理解を容易にする為に磁性体突極101,102等を有する中心部と磁性体突極の第一延長部92,第二延長部93とを離して示してある。番号11’は回転軸11を通す穴を示す。第一延長部92は軟鉄をプレス成形して磁性体突極101の延長部分となる磁性体突部111を有して構成され,非磁性体部113は磁性を持たないステンレススチールで形成されている。第二延長部93は軟鉄をプレス成形して磁性体突極102の延長部分となる磁性体突部112を有して構成され,非磁性体部114は磁性を持たないステンレススチールで形成されている。番号115は励磁部の一部を示す。
【0107】
図12は図9に示した回転子の上半分を拡大して示した縦断面図であり,励磁部の構成,磁束量制御の動作原理を説明する。図12に於いて,第一延長部92に結合された界磁極95と第二延長部93に結合された界磁極96間は軸方向の間隙が径方向に異なる構成として界磁磁石97は長さの異なる磁石要素121,122,123,124が並列に接続されて構成されている。磁性体突極101,102それぞれは永久磁石103によりN極,S極に磁化されているので永久磁石103と同様に磁性体突極101,102それぞれをN極,S極に磁化する左方向の磁化を第一磁化,右方向の磁化を第二磁化とする。同図に於いて,磁石要素121,122,123は第一磁化に,磁石要素124は第二磁化に属する。
【0108】
電機子側には永久磁石103からの磁束,磁石要素121,122,123,124それぞれからの磁束が流れる事になるが,永久磁石103から電機子側に流れる磁束量を基準として1.0とした場合,磁石要素121,122,123,124それぞれからの磁束量が0.25となるように寸法が設定されている。
【0109】
図9,図12に於いて,第一磁化である磁石要素121,122,123の磁極表面積が第二磁化である磁石要素124の磁極表面積より大であるので両者を差し引いた磁極表面積に比例する磁束量が界磁極95に流入し,第一延長部92,磁性体突極101,磁性体歯14,磁性体突極102,第二延長部93,界磁極96を介して界磁磁石97に環流し,主磁路を形成している。同図の場合,電機子を流れる磁束量は永久磁石103から電機子側に流れる磁束量を基準として1.5である。
【0110】
さらに界磁極95,96の一部は間隙125を介して対向し,励磁コイル98は磁石要素121,122,123,124及び回転軸11に周回するよう巻回されている。励磁コイル98により誘起される磁束は磁石要素121,122,123,124,界磁極95,間隙125,界磁極96を流れ,励磁磁路を形成している。
【0111】
磁石要素121,122,123,124からの磁束は主磁路及び励磁磁路を流れるが,間隙125に於ける対向面積及び間隙長さを磁気抵抗調整部分として励磁磁路の磁気抵抗を主磁路の磁気抵抗より大となるように設定している。主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯との相対位置により変動するが,本発明で主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯間の各相対位置に関して平均化された値としている。
【0112】
一方では,励磁コイル98の作る磁束は磁石要素121,122,123,124,界磁極95,間隙125,界磁極96を流れ,同時に主磁路側にも流れようとする。主磁路の一部である第一延長部92,第二延長部93は交流磁束が流れ難いように軟鉄で構成されているので間隙125部分に於ける磁気抵抗は主磁路の交流磁束に対する磁気抵抗より小に設定されている。
【0113】
導体層94は回転軸11外周に配置された銅板で構成され,励磁コイル98の作る磁束を磁石要素121,122,123,124に集中させ,励磁コイル98のインダクタンスを実効的に減少させてパルス状の磁化電流を流れやすくする役割を持つ。励磁コイル98にパルス状の磁化電流が供給されると,導体層94には鎖交する磁束の変化を妨げる方向の電流が誘起され,これにより励磁コイル98のインダクタンスを実効的に減少する。さらに誘起された電流により導体層94内に励磁コイル98の作る磁束が流れ難くなり,磁石要素121,122,123,124側に励磁コイル98の作る磁束が集中させられる。
【0114】
上記励磁部を構成する部材,磁石要素121,122,123,124,界磁極95,96,励磁コイル98等は回転軸11を周回する円環状,円筒状の形状であり,構成はシンプルに出来る。励磁部を構成する磁性体部材である界磁極95,96には比抵抗が大である圧粉鉄心で構成し,励磁コイル98によるパルス電流,交流電流による磁束が通りやすい構成としている。他に渦電流損を生じがたい比抵抗の大きなバルク状磁性体を用いる事も出来る。
【0115】
図12に示されるように磁石要素121,122,123,124は軸方向の長さが変わり,長さの異なる永久磁石要素が並列に接続された状態である。励磁コイル98に磁化電流が供給されると,磁石要素121,122,123,124に接する界磁極95,96間の磁気ポテンシャル差(起磁力)はほぼ同じとして各磁石要素内では磁気ポテンシャル差を軸方向長さで除した値に相当する磁界強度の磁界が加えられる。したがって,短い磁石要素が磁化されやすく,長い磁石要素は磁化され難い。
【0116】
図1及び図4に示した第一の実施例で界磁磁石は連続体であり,径方向の長さを連続的に周方向に変えて磁化の容易さが異なる構成であった。その場合,磁化方向の異なる界磁磁石領域41と界磁磁石領域42間の境界では徐々に磁化が遷移する領域が存在し,B−H曲線で矩形性の悪い磁石では外乱により不安定となる可能性がある。本実施例では図9,図12に示すように界磁磁石を複数の磁石要素で構成したのでそれぞれの磁化要素は各方向に飽和磁化され,磁束量は離散的に制御されるが,界磁磁石の磁化状態は安定となる利点がある。
【0117】
当初,磁石要素121,122,123,124が第一磁化である左方向に磁化されているとして,励磁コイル98に供給する磁化電流により磁石要素121,122,123,124を一括して第二磁化の方向である右方向に励磁すると,磁束は磁界強度が大となる短い磁石要素124に磁束が集中して磁石要素124が磁化される。この状態が図12の状態であり,励磁コイル98に供給される磁化電流の振幅がさらに大であれば磁石要素123,122,121の順に第二磁化の方向に磁化される。
【0118】
磁石要素121,122,123,124の磁化状態変更の方法を更に図13を用いて説明する。図13は図9及び図12に示された界磁磁石を拡大して示している。図13(a),図13(b),図13(c)は磁石要素121,122,123,124の磁化方向が異なる状態を示しており,界磁磁石の磁化状態変更は以下のように実施される。
【0119】
図12に於いて第二磁化の磁石数を減じるには第二磁化の磁石要素124を左方向に磁化する振幅及び極性を持つパルス電流62を励磁コイルに加える。この結果が図13(a)の磁化状態となる。電機子を流れる磁束量は永久磁石103から電機子側に流れる磁束量を基準として2.0である。
【0120】
図12の磁化状態に於いて,第一磁化の磁石数を減じるには第一磁化の磁石要素121,122,123に於いて最も長さの短い磁石要素123を右方向に磁化し,且つ磁石要素122に影響を与えない程度の振幅及び極性を持つパルス電流62を励磁コイルに加える。この結果が図13(b)の磁化状態となる。電機子を流れる磁束量は永久磁石103から電機子側に流れる磁束量を基準として1.0である。
【0121】
本実施例に於いて,電機子を流れる磁束量の最小値は永久磁石103から電機子側に流れる磁束量を基準として0.0としている。図12,図13(a),図13(b)において,磁石要素121,122,123,124全てを右方向に磁化する振幅及び極性を持つパルス電流62を励磁コイルに加える。この結果が図13(c)の磁化状態であり,永久磁石103から電機子側に流れる磁束量を基準として電機子側に流れる磁束量が0.0となる。
【0122】
このようにして界磁磁石の磁化状態は変更されるが,上記ステップに従って,界磁磁石の磁化状態を変更するには各磁石要素121,122,123,124の磁化状態を常に把握する必要がある。各磁石要素121,122,123,124の磁化状態に関する情報が乱れた場合には変更後に於いて電機子を流れる磁束量が期待に反する事になるが,この場合には界磁磁石の全てを一方向,例えば左方向に磁化し,必要な磁石数のみを右方向に磁化させる。
【0123】
磁石要素121,122,123,124にはネオジウム磁石(NdFeB),アルニコ磁石(AlNiCo)等の種々の磁石素材を使用する事が出来るが,本実施例では長さを変えて磁化容易さが制御容易なアルニコ磁石(AlNiCo)で構成している。
【0124】
電機子を流れる磁束量はこのように励磁コイル98に供給する磁化電流を変えて第一磁化,第二磁化にそれぞれ対応する磁石数を変える事で制御される。電機子を流れる磁束量と励磁コイル98に供給するパルス電流62との関係は設計段階でマップデータとして設定する。しかし,回転電機の量産段階では部材の寸法が公差範囲内でバラツキ,磁性体の磁気特性のバラツキも存在して電機子を流れる磁束量の精密な制御が困難になる場合がある。そのような場合には回転電機を組み立て後に回転電機個々に電機子を流れる磁束量と励磁コイル98に供給するパルス電流62との関係を検査し,前記マップデータを修正する。さらに磁性体の特性は温度による影響を受けやすく,経時変化による影響も懸念される場合には回転電機の運転中に前記マップデータを修正する情報を学習的に取得する事も出来る。電機子を流れる磁束量を直接に把握する事は難しいが,電機子コイル16に現れる誘起電圧を参照して電機子を流れる磁束量を推定する。
【0125】
磁石要素121,122,123,124の磁化状態は離散的にしか変えられないが,本実施例ではさらに磁石要素121,122,123,124の磁化状態を変更させない程度の磁束調整電流を励磁コイル98に供給して磁束を発生させ,磁石要素121,122,123,124及び永久磁石103による磁束に重畳させて電機子を流れる磁束量を制御する。図14は磁束量制御の為のブロック図を示し,図7に於けるブロック図に切換スイッチ141,磁化制御回路143,磁束調整回路142が追加されている。
【0126】
制御信号76は切換スイッチ141,磁化制御回路143,磁束調整回路142を制御し,磁石要素121,122,123,124の磁化状態を変更させる場合には切換スイッチ141により磁化制御回路143を接続して励磁コイル98に磁化状態変更の為のパルス状電流62を供給する。電機子を流れる磁束量の微調整を行う場合には切換スイッチ141により磁束調整回路142を接続して励磁コイル98に磁束調整電流を供給して磁束を発生させる。磁束調整電流は磁石要素121,122,123,124の磁化状態を非可逆的に変更させない程度の大きさであり,磁束量の調整方向に応じて極性が変えられる。
【0127】
本実施例では磁石要素121,122,123,124の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を制御する。界磁磁石からの磁束は主磁路及び励磁磁路に流れるが,励磁磁路の磁気抵抗を主磁路の磁気抵抗より大に設定して主磁路に流れる磁束量を大としている。励磁磁路の磁気抵抗を大にする事で励磁コイル98が磁石要素121,122,123,124を磁化する効率を低下させる事になるので励磁磁路の磁気抵抗設定は電機子側に流す磁束量範囲,励磁コイル98への電流供給能力等回転電機システムの仕様により設定する。
【0128】
また,磁石要素121,122,123,124から磁性体突極101,102に至る第一,第二延長部92,93及び磁束チャネル部104は軟鉄ブロックで構成して交流磁束が通り難くしている。したがって,磁石要素121,122,123,124に低保持力の磁石素材を採用しても電機子コイル16がそれらの磁化状態に不可逆的な影響を与える事はない。また磁石要素121,122,123,124を磁化する際の励磁コイル98による磁束パルスが電機子コイル16に及ぼす影響は軽減される。主磁路に於いて励磁コイル98による磁束パルスに対する磁気抵抗が励磁磁路の磁気抵抗より大となるよう設定して励磁コイル98による磁束を界磁磁石に集中させると共に電機子コイル16に及ぼす影響を抑制する。
【0129】
さらに励磁コイル98は界磁極95,96によって電機子コイル16から完全に遮蔽されているので励磁コイル98と電機子コイル16との結合は小で励磁コイル98に供給されるパルス電流62の電機子コイル16に及ぼす影響はさらに軽減されている。
【0130】
以上,図9から図14に示した回転電機に於いて,界磁磁石97(磁石要素121,122,123,124)の磁化状態を変える事で電機子に流れる磁束量を制御できることを説明した。本実施例は磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,図6,図14を用いて回転電機システムとしての制御を説明する。
【0131】
回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には磁束調整回路142により励磁コイル98に供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62が磁化制御回路143から励磁コイル98に供給されて第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
【0132】
出力73である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には磁束調整回路142により励磁コイル98に供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143から励磁コイル98に供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0133】
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には磁束調整回路142により励磁コイル98に供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62が磁化制御回路143から励磁コイル98に供給されて第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
【0134】
制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には磁束調整回路142により励磁コイル98に供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143から励磁コイル98に供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【実施例4】
【0135】
本発明の第四実施例による回転電機システムを図15,図16を用いて説明する。第四実施例は第三実施例の回転電機システムに於いて,励磁部を二分して界磁磁石を回転子側に,励磁コイルをハウジング側に配置した構成である。図15は回転電機の縦断面図,図16は電機子と回転子とを示す断面図である。
【0136】
図15はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。電機子の構成は第一実施例と同じであり,回転子の磁極部構成は第三実施例と同じであるので説明は省略する。励磁部は二つに分割して,界磁極152及び界磁極153により励磁部の回転子側磁路が構成され,環状磁気コア155により励磁部のハウジング側磁路が構成されている。
【0137】
第一延長部92に接続された界磁極153及び第二延長部93に接続された界磁極152間に界磁磁石151は配置されている。ハウジング12側には断面がC字状の環状磁気コア155が回転軸11を周回するよう配置され,その内周側端面は界磁極153と,外周側端面は界磁極152と間隙156を介して対向し,励磁コイル154がC字状の環状磁気コア155に回転軸11を周回するよう巻回されている。
【0138】
図16は図15のC−C’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示している。電機子の構成は第一の実施例と同じであり,回転子の磁極部構成は第三実施例と同じであるので説明は省略する。図に於いて,励磁部の部材は界磁極153のみが示されている。
【0139】
図15に於いて,界磁磁石151に接続される磁路である界磁極153,第一延長部92,磁性体突極101,磁性体歯14,磁性体突極102,第二延長部93,界磁極152は主磁路を構成している。界磁磁石151には更に励磁磁路が並列に接続されている。すなわち,界磁極153,間隙156,C字状の環状磁気コア155,間隙156,界磁極152で構成される励磁磁路である。上記構成に於いて,界磁磁石151は図9に於ける界磁磁石97と同じ構成であり,図12に示した間隙125は図15に於いて間隙156に対応している。本実施例に於いては間隙156の対向面積及び間隙長を磁気抵抗調整部分として励磁磁路の磁気抵抗が主磁路の磁気抵抗より大となるよう設定する。
【0140】
上記説明のように図15,16に示した第四実施例は励磁部を二分して回転子側及びハウジング側に配置したのみで励磁部の原理的な構成は同じであり,動作原理等の説明は省略する。第三実施例に比して励磁コイル154がハウジング12側に配置されてブラシ9a,スリップリング9bを不要とする特徴がある。
【0141】
間隙156は励磁磁路の磁気抵抗調整部分として励磁磁路の磁気抵抗が主磁路の磁気抵抗より大となるよう設定されているが,この間隙長を可変として磁路スイッチとする構造も可能である。すなわち,環状磁気コア155を軸方向に可動に構成して界磁磁石151の磁化状態を変更する時に間隙156の間隙長を微小とし,通常の運転時には十分に大とする。これにより通常の運転時には界磁磁石151からの磁束は磁性体突極101,磁性体歯14,磁性体突極102を含む主磁路に殆どが流れ,界磁磁石151の磁化状態を変更する時は励磁磁路の磁気抵抗が小となるので界磁磁石151の磁化変更が容易となる。
【実施例5】
【0142】
本発明の第五実施例による回転電機システムを図17から図20を用いて説明する。第五実施例は表面磁極部に磁性体突極と集合磁石が周方向に交互に配置され,励磁部がハウジング側に配置された回転電機システムである。図17は回転電機の縦断面図,図18は電機子と回転子とを示す断面図,図19は回転子と励磁部を示す分解斜視図,図20は励磁部の拡大された縦断面図である。
【0143】
図17はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。電機子の構成は第一実施例と同じであるので説明は省略する。回転子の磁極部は磁性体突極と集合磁石とが周方向に交互に並ぶ表面磁極部171,隣り合う磁性体突極を互いに回転軸11と平行の異なる方向に延長させた第一延長部172,第二延長部173とから構成されている。第一延長部172,第二延長部173と空隙を介して対向するよう静止側に二つの励磁部が配置され,第一延長部172,第二延長部173と円筒状磁気ヨーク15間にそれぞれ界磁磁束を一括して供給し,隣り合う磁性体突極を互いに異極に磁化するよう構成されている。番号174は回転子支持体であり,非磁性のステンレススチールで構成されている。
【0144】
同図に於いて,第二延長部173と対向する励磁部は界磁極175,界磁極176,界磁磁石177,励磁コイル178を含み,ハウジング12に配置されている。第一延長部172側の励磁部の構成部材に番号を付していないが,同じ構成であり,同種の部材には同じ番号を用いるとする。ただ,第一延長部172,第二延長部173側の励磁部に於いてはそれぞれの界磁磁石177の磁化方向は矢印で示されるように第一延長部172,第二延長部173を互いに逆方向に磁化するよう設定されている。
【0145】
図18は図17のD−D’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示している。電機子の構成は第一の実施例と同じであるので説明は省略する。
【0146】
図18に於いて,表面磁極部171には磁性体突極と集合磁石とが周方向に交互に配置されている。中間磁性体突極183の両側面にほぼ同じ磁化方向の磁石板184,185が配置された組み合わせは磁気的には磁石と等価な集合磁石として,回転子の表面磁極部171は一様な磁性体を周方向に等間隔に配置された集合磁石によって区分された磁性体突極181,182及び集合磁石とから構成されている。さらに隣接する磁性体突極181,182は互いに異なる方向に磁化されるよう隣接する集合磁石の磁化方向は互いに反転して構成されている。磁性体突極181,182それぞれの周方向両側面に配置された磁石板はV字状の配置であり,磁石板の交差角度は磁束バリアに好適な角度に設定する。磁石板184,185に付された矢印は磁石板184,185の板面にほぼ直交する磁化方向を示す。番号187は発生トルクを大にする為に設けた径方向のスリットを示している。
【0147】
番号186は第一実施例に於ける磁束チャネル部24に相当する磁束チャネル部であり,軸方向に磁束の伝搬供給を容易にする構成としている。ケイ素鋼板から磁石板184,185及び磁束チャネル部186に相当する部分を打ち抜いて積層した後,磁石板184,185を挿入し,磁束チャネル部186には軟鉄ブロックを挿入して回転子の磁極部を構成する。
【0148】
図19は回転子の構成及び励磁部の配置を示す分解斜視図である。理解を容易にする為に磁性体突極181,182等を有する中心部と磁性体突極の第一,第二延長部172,173とを離して示してある。第一延長部172は軟鉄をプレス成形して磁性体突極181の延長部分となる磁性体突部193を有して構成され,非磁性体部195は磁性を持たないステンレススチールで形成されている。第二延長部173は軟鉄をプレス成形して磁性体突極182の延長部分となる磁性体突部194を有して構成され,非磁性体部196は磁性を持たないステンレススチールで形成されている。
【0149】
第一延長部172,第二延長部173にはそれぞれ励磁部191,192が空隙を介して対向し,励磁部191,192の界磁極175は第一延長部172,第二延長部173それぞれの磁性体突部193,194と空隙を介して磁気的に結合し,励磁部191,192の界磁極176は図17に示すように円筒状磁気ヨーク15の両端に結合されている。
【0150】
図20は励磁部192の上半分の縦断面図を拡大して示している。図20に於いて,第二延長部173に界磁極175が間隙を介して対向し,界磁極176は円筒状磁気ヨーク15に結合され,界磁極175と界磁極176間は軸方向の間隙が径方向に異なる構成として円環状の界磁磁石177が配置されている。同図に於いては界磁磁石177は軸方向の長さが異なる円環状の磁石要素が非磁性体を挟んで同心状に径方向に並んで配置される構成である。界磁磁石177の一部である磁石要素201は軸と平行の左方向に磁化され,磁石要素202,203,204は軸と平行の右方向に磁化されている状態を示している。
【0151】
磁性体突極182は集合磁石によりS極に磁化されているので磁性体突極182をS極に励磁する磁石要素202,203,204は第一磁化に属し,磁石要素201は第二磁化に属する。この構成により,第一磁化の磁極表面積が第二磁化の磁極表面積より大であるので両者を差し引いた磁極表面積に比例する磁束量が界磁磁石177の一方の磁極から界磁極176に流入する。界磁極176に流入した磁束は更に円筒状磁気ヨーク15,磁性体歯14,磁性体突極182,第二延長部173,界磁極175を介して界磁磁石177の他方の磁極に環流し,主磁路を形成している。この場合に磁性体突極182はS極に磁化されている。同様に励磁部191により磁性体突極181はN極に磁化される。
【0152】
界磁極175と界磁極176はさらに間隙205を介して対向し,励磁コイル178が界磁極175と回転軸11を周回するよう配置されている。界磁極175,間隙205,界磁極176が磁石要素201,202,203,204に並列に接続される励磁磁路を形成し,間隙205を磁気抵抗調整部分として対向面積及び間隙の長さを調整して励磁磁路の磁気抵抗が主磁路の磁気抵抗より大となるよう設定されている。
【0153】
上記励磁部を構成する部材,磁石要素201,202,203,204,界磁極175,界磁極176,励磁コイル178等は回転軸11を周回する円環状,円筒状の形状であり,構成はシンプルに出来る。励磁部を構成する磁性体部材である界磁極175,176には比抵抗が大である圧粉鉄心で構成し,励磁コイル178によるパルス電流,交流電流による磁束が通りやすい構成としている。他に渦電流損を生じ難い比抵抗の大きなバルク状磁性体を用いる事も出来る。
【0154】
本実施例で円筒状磁気ヨーク15はケイ素鋼板の積層体で構成されている。しかし,励磁部191,192からの磁束は円筒状磁気ヨーク15内を軸方向に流れるので円筒状磁気ヨーク15の断面積を十分に大に出来ない時は磁束チャネル部186と同様に軸方向に延びる軟鉄ブロックを円筒状磁気ヨーク15内或いは外周部に配置する事で磁束の軸方向伝搬を容易に出来る。また,円筒状磁気ヨーク15は比抵抗の大きいバルク状磁性体で構成しても良い。
【0155】
図20に示されるように磁石要素201,202,203,204は軸方向の長さが径方向に変わり,同一素材の永久磁石要素が軸方向長さを変えて並列に接続された状態である。励磁コイル178に磁化電流が供給されると,磁石要素201,202,203,204に接する界磁極175と界磁極176間の磁気ポテンシャル差(起磁力)はほぼ同じとして各磁石要素内では磁気ポテンシャル差を軸方向長さで除した値に相当する磁界強度の磁界が加えられる。したがって,軸方向に短い磁石要素が磁化されやすく,軸方向に長い磁石要素は磁化され難い。
【0156】
当初,磁石要素201,202,203,204全体が第一磁化と同様に右方向に磁化されているとして,励磁コイル178に供給する磁化電流により磁石要素201,202,203,204を一括して左方向に励磁すると,磁束は磁界強度が大となる軸方向に短い側である磁石要素に磁束が集中して磁化される。その結果,左方向の磁化である第二磁化に含まれる磁石数は励磁コイル178に供給される磁化電流の振幅によって定められる。磁石要素201,202,203,204を構成する各磁石要素は同一素材で飽和磁束密度は同じであるので主磁路の供給される磁束量は第一磁化の磁極表面積,第二磁化の磁極表面積の差し引きで決まり,図20では第一磁化の磁束が流れる。磁石要素201,202,203,204を構成する磁石の磁極表面積は径方向の厚さと径位置により変わるのでそれぞれの磁極表面積を等しくする為に径方向の厚さ,或いは周方向長さを変える。
【0157】
図20を用いて励磁部192の構成及び界磁磁石を励磁する説明をしたが,第一延長部172と対向する励磁部191の構成は励磁部192と全く同じである。ただ,磁石要素201,202,203,204が界磁極175,176に対向する磁化方向は励磁部191と逆になるよう励磁コイル178に供給する磁化電流の極性を変える。
【0158】
本実施例では磁性体突極181,182間に集合磁石を有し,周方向に隣接する集合磁石は互いに略周方向磁化を反転させて隣接する磁性体突極181,182を互いに異極に磁化し,図18に示す例では磁性体突極181はN極に,磁性体突極182はS極に磁化されている。図20に示されている励磁部192は磁石要素201,202,203,204の磁化状態では磁性体突極182をS極に励磁し,励磁部191は磁性体突極181を逆のN極に励磁している。したがって,磁性体歯14を含む電機子側には集合磁石からの磁束及び励磁部からの磁束が合算されて供給されている。
【0159】
第三実施例と同様に,磁石板184,185から電機子側に流れる磁束量を基準として1.0とした場合,磁石要素201,202,203,204それぞれからの磁束量が0.25となるように寸法が設定されている。この構成により図20では電機子を流れる磁束量は磁石板184,185から電機子側に流れる磁束量を基準として1.5である。
【0160】
磁石要素201,202,203,204全てが第一磁化に属する状態で電機子を流れる磁束量が最大となる。電機子を流れる磁束量の最小値はゼロであり,磁石要素201,202,203,204全てが第二磁化に属する状態で電機子内に於いて磁石板184,185から電機子に流れる磁束が励磁部からの磁束により相殺される場合である。
【0161】
本実施例では界磁磁石177(磁石要素201,202,203,204)を磁化方向長さの異なる磁石要素を並列に接続し,励磁コイル178に供給する磁化電流62の大きさにより界磁磁石の磁化状態を変えて磁性体突極181,182及び電機子に流れる磁束量を変える。その際に励磁コイル178は界磁磁石177に並列に接続される励磁磁路に巻回している。この構成により,界磁磁石177からの磁束は主磁路及び励磁磁路に流れるが,励磁磁路の磁気抵抗を主磁路の磁気抵抗より大に設定して主磁路に流れる磁束量を大としている。励磁磁路の磁気抵抗を大にする事で励磁コイル178が界磁磁石177を磁化する効率を低下させる事になるので励磁磁路の磁気抵抗設定は電機子側に流す磁束量範囲,励磁コイル178への電流供給能力等,回転電機システムの仕様により設定する。
【0162】
また,界磁磁石177から磁性体突極181,182に至る第一延長部172,第二延長部173及び磁束チャネル部186は軟鉄ブロックで構成して電機子コイル16が誘起する交流磁束が界磁磁石177に及ぼす影響を軽減し,また界磁磁石177を磁化する際の励磁コイル178による磁束パルスが電機子コイル16に及ぼす影響を軽減する構成としている。
【0163】
本実施例の表面磁極部171の磁極構成は図18に示されるように磁石板184,185により周方向に磁気抵抗の大きい領域及び小さい領域が交互に配置され,磁石トルク及びリラクタンストルクを利用できる構成である。したがって,磁石トルク及びリラクタンストルクを利用する電動機駆動の為の回路及びソフトウエアはそのまま流用する事も可能である。すなわち,回転電機を電動機として用いる場合に界磁磁石177の磁化変更による磁束量制御は離散的に実施し,各段階に於いて細部の磁束量制御は従来と同様に電流の進み位相制御を用いるよう構成できる。
【0164】
回転電機を発電機として用いる場合に電流の進み位相制御による弱め界磁は用い難いので界磁磁石177の磁化変更による磁束量制御は離散的に実施し,各段階に於いて細部の磁束量制御は磁石要素201,202,203,204の磁化状態を変更させない程度の磁束調整電流を励磁コイル178に供給して磁束を発生させ,磁石要素201,202,203,204及び磁石板184,185による磁束に重畳させて電機子を流れる磁束量を制御する。
【0165】
以上,図17から図20に示した回転電機に於いて,界磁磁石177の磁化状態を変える事で電機子に流れる磁束量を制御できることを説明した。本実施例は電機子を流れる磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,図6,図14を用いて回転電機システムとしての制御を説明する。
【0166】
回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とし,制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0167】
回転電機が電動機として用いられる上の例において,磁束調整電流を供給しての磁束量調整を行っていないが,電動機の起動時に可能な限り大きな磁束調整電流を供給し,電機子コイルと鎖交する磁束量を大として出力トルクを大にする事が出来る。この場合に磁束調整電流が界磁磁石の磁化状態を変更するに十分な大きさであっても全ての界磁磁石要素が第一磁化の磁化方向であるので磁化状態を変更する事には成らない。
【0168】
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。本実施例は界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変更して電機子を流れる磁束量を離散的に制御し,界磁磁石の各磁化状態では磁束調整電流を励磁コイル178に供給して磁束を発生させて電機子を流れる磁束量を制御する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。
【0169】
制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には磁束調整回路142により励磁コイル178に供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
【0170】
制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には磁束調整回路142により励磁コイル178に供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【実施例6】
【0171】
本発明の第六実施例による回転電機システムを図21から図23を用いて説明する。第六実施例は,ラジアルギャップ構造の単極回転子を持つ回転電機システムであり,励磁部は回転電機の静止側に配置されている。図21は回転電機の縦断面図,図22は電機子と回転子とを示す断面図,図23は励磁部構成を示す拡大された縦断面図である。
【0172】
図21はアウターロータ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示している。基板218に固定軸211が固定され,固定軸211に電機子が固定され,固定軸211にベアリング213を介して回動可能に支持されたロータハウジング212に磁性体突極217が配置されている。ロータハウジング212は軟鉄を主体とする磁性体で構成されている。
【0173】
電機子は固定軸211に固定された円筒状磁気ヨーク215と,円筒状磁気ヨーク215から径方向に延びる複数の磁性体歯214と,磁性体歯214に巻回された電機子コイル216とから構成されている。ロータハウジング212は外部機器と回転力の伝達の為のプーリー部219を持ち,ロータハウジング212には磁性体歯214に対向して磁性体突極217と磁気空隙部とが周方向に交互に配置されている。
【0174】
磁性体突極217を磁石励磁する励磁部は,固定軸211を周回する形状で静止側に配置され,主要部を第一界磁磁石21a,第二界磁磁石21b,励磁コイル21c,界磁極21d,円盤状磁極21eとから構成され,励磁部はロータハウジング212と円筒状磁気ヨーク215それぞれと磁気的に結合するよう円筒状磁気ヨーク215に固定されている。番号21fは固定軸211を周回するよう配置された導体層であり,励磁コイル21cのインダクタンスを減少し且つ磁束を第一界磁磁石21aに集中させる為に設けられている。番号21gはロータハウジング212表面に形成した同心円状の凹凸を示し,交流磁束を通り難くする為に形成されている。
【0175】
図22は図21のE−E’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示している。電機子は固定軸211に固定された円筒状磁気ヨーク215と,円筒状磁気ヨーク215から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯214と,磁性体歯214に巻回された電機子コイル216とから構成されている。本実施例では24個の電機子コイル216より構成され,それらは三相に結線されている。磁性体歯214と円筒状磁気ヨーク215はケイ素鋼板から所定の型で打ち抜かれた後,積層して構成され,電機子コイル216が巻回されている。
【0176】
図22に於いて,ロータハウジング212の内側に磁性体歯214に対向してケイ素鋼板を積層された磁性体突極217が周方向に等間隔に8個配置されている。磁性体突極217間は磁気空隙部221であり,単に空隙としているが,高速回転で風損がエネルギー効率或いは音響発生で支障となる時には比抵抗が大で非磁性の樹脂,レジン等を配置する事が出来る。回転子に界磁磁石は配置されていないが,励磁部により磁性体突極217はロータハウジング212を介して界磁磁石21aの一方の磁極に,磁性体歯214は界磁磁石21aの他方の磁極に磁気的に結合されて磁化されている。このような構成は単極の回転電機であって,電動機として或いは発電機として使いにくい点はあるが,構成がシンプルであるメリットがある。
【0177】
図23は図21に示した励磁部の構成及び磁束量制御の原理を説明する為に励磁部の縦断面図を拡大して示している。図23に於いて,界磁極21dと円筒状磁気ヨーク215間は軸方向の間隙長さが径方向に変わり,円筒状の磁石要素231,232,233,234が配置されて第一界磁磁石21aを構成している。磁石要素234は右方向に磁化され,磁石要素231,232,233は左方向に磁化されている状態を示している。さらに第二界磁磁石21bは互いに逆方向の磁化を持つ磁石要素235,236の並列接続で構成されている。
【0178】
軸と平行に左方向の磁化は磁性体突極217をN極に磁化して第一磁化であり,逆方向の磁化は第二磁化とする。磁石要素231,232,233は第一磁化に属し,第二磁化には磁石要素234が属している。第一界磁磁石21aの一方の磁極から磁束が界磁極21dに流入し,円盤状磁極21e,ロータハウジング212,磁性体突極217,磁性体歯214,円筒状磁気ヨーク215を介して第一界磁磁石21aの他方の磁極に環流する磁路は主磁路を形成している。
【0179】
第二界磁磁石21bを構成する磁石要素235,236の磁化を変更するに必要な磁界強度は第一界磁磁石21aを構成する磁石要素231,232,233,234より十分に大の磁界強度を有するよう構成され,磁石要素235,236は磁石要素231,232,233,234を励磁する場合に励磁用磁束が流れる励磁磁路となる。磁石要素231,232,233,234は磁石要素235,236より磁化変更が容易とし,励磁コイル21cに供給される磁化電流は磁石要素235,236の磁化状態を変更しない程度に設定されている。
【0180】
また,磁石要素235,236の磁極面積は等しく設定してそれぞれの飽和磁束量を同じくし,さらに磁石要素231,232,233,234の各飽和磁束量の総和と磁石要素235,236それぞれの飽和磁束量をほぼ等しくするよう磁石要素231,232,233,234,及び磁石要素235,236の諸元が設定されている。
【0181】
通常の運転状態で,磁石要素235,236からの磁束は互いに相殺されて電機子側へ流れる磁束量には寄与しない。励磁コイル21cにより磁石要素231,232,233,234を磁化するほどの大きな磁界強度が加えられるとその磁界強度に沿う方向である磁石要素235,236の何れかを励磁コイル21cが誘起した磁束が流れ,励磁磁路の磁気抵抗を実効的に小とする。このように磁石要素235,236は大きな磁界強度で作用する一種の磁路スイッチである。
【0182】
上記励磁部を構成する部材,磁石要素231,232,233,234,235,236,界磁極21d,円盤状磁極21e,励磁コイル21c等は固定軸211を周回する形状であり,構成はシンプルに出来る。励磁部を構成する磁性体部材である界磁極21d,円盤状磁極21eには比抵抗が大である圧粉鉄心で構成し,励磁コイル21cに供給されるパルス電流,消磁電流による磁束が通りやすい構成としている。他に渦電流損を生じ難い比抵抗の大きなバルク状磁性体を用いる事も出来る。
【0183】
導体層21fは磁石要素231,232,233,234と固定軸211間に配置されている。励磁コイル21bにパルス状の磁化電流が供給されて磁束が誘起されると,導体層21fには導体層21fが囲む領域の磁束の変化を妨げる方向の電流が流れるので導体層21f内周領域を磁束が流れ難くなって励磁コイル21cと導体層21f間に配置されている磁石要素231,232,233,234に磁束が集中される結果となる。さらに励磁コイル21cに誘起される磁束の流れる磁路の磁気抵抗は大となるので励磁コイル21cのインダクタンスは減少する。
【0184】
図23に示されるように磁石要素231,232,233,234は軸方向の長さが径方向に変わり,同一磁石素材が軸方向長さを変えて並列に接続された状態である。この励磁部構成は図9に示した第三実施例に於ける励磁部と同じであり,更なる構成及び動作原理の説明は省略する。
【0185】
本実施例では磁石要素231,232,233,234を磁化方向長さの異なる磁石要素を並列に接続して第一界磁磁石21aを構成し,励磁コイル21cに供給する磁化電流の大きさにより第一界磁磁石21aの磁化状態を変えて磁性体突極217及び電機子に流れる磁束量を変える。その際に励磁コイル21cは主磁路及び励磁磁路に巻回されている。主磁路に交流磁束が流れ難く構成されているので第一界磁磁石21aを磁化する為に加えられるパルス状磁束は励磁磁路に集中して第一界磁磁石21aを磁化する。また,この構成により第一界磁磁石21aからの磁束は主磁路及び励磁磁路に流れるようとするが,励磁磁路に一種の磁路スイッチとして機能する第二界磁磁石21bを配置して第一界磁磁石21aからの磁束を流れ難くしている。
【0186】
また,第一界磁磁石21aから磁性体突極217に至る磁路であるロータハウジング212は軟鉄を主体として構成して電機子コイル216が誘起する交流磁束が通り難く構成して第一界磁磁石21aの磁化に及ぼす影響を軽減し,また第一界磁磁石21aを磁化する際の励磁コイル21cによるパルス状磁束が電機子コイル216に及ぼす影響を軽減する構成としている。さらに本実施例では同心円状の凹凸21gをロータハウジング212表面に形成して交流磁束を通り難い構成としている。
【0187】
一般に渦電流が存在する場合,交流磁束は磁性体の表面に沿って伝搬する。交流磁束が伝搬する領域は表面から一定の深さまでに集中し,その深さは交流磁束の角周波数ω,磁性体の導電率σ,透磁率μ等に反比例する表皮深さ(skin depth),すなわち2/ωσμの平方根として知られている。同心円状の凹凸21gの振幅及び四分の一周期を表皮深さより大となるよう設定する事が望ましい。本実施例で回転電機の回転速度は毎分数千回転程度と想定すれば,ロータハウジング212を鉄をベースとするバルク状磁性体で構成しているので上記寸法を1ミリメートル程度以上に設定する事で本実施例で関連する交流磁束の伝搬する磁路長さを大にして交流磁束を通り難く出来る。
【0188】
以上,図21から図23に示した回転電機に於いて,界磁磁石の磁化状態を変える事で電機子に流れる磁束量を制御できることを説明した。本実施例は磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,図7を用いて回転電機システムとしての制御を説明する。
【0189】
回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル21cに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とし,制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル21cに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0190】
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル21cに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル21cに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【実施例7】
【0191】
本発明による回転電機システムの第七実施例を図24から図28を用いて説明する。第七実施例は,アキシャルギャップ・ダブルロータ構造の回転電機システムであり,励磁部は回転電機の静止側に配置されている。図24は回転電機の縦断面図,図25(a)は電機子側から見た第一表面磁極部を示す平面図,図25(b)は第一表面磁極部側から見た電機子を示す平面図,図25(c)は電機子側から見た第二表面磁極部を示す平面図,図26及び図27は第一表面磁極部,電機子,第二表面磁極部の周方向に沿う断面図,図28は励磁部の拡大された縦断面図である。
【0192】
図24はアキシャルギャップ・ダブルロータ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示している。電機子はハウジング242に固定された円環状磁気ヨーク245から軸と平行に左側に延びる磁性体歯244,軸と平行に右側に延びる磁性体歯247が配置され,磁性体歯244及び磁性体歯247にはそれぞれ電機子コイル246,248が巻回されて構成されている。電機子コイル246,248は一方の極性の電流により磁性体歯244,磁性体歯247それぞれから磁束を円環状磁気ヨーク245に流入させ,逆極性の電流により磁性体歯244,磁性体歯247それぞれへ磁束を環状磁気ヨーク245から流出させるよう直列接続されている。
【0193】
回転軸241はベアリング243を介してハウジング242に回動可能に支持され,第一表面磁極部249が磁性体歯244に対向し,第二表面磁極部24cが磁性体歯247に対向して回転軸241に配置されている。第一表面磁極部249側の磁性体基板24aに永久磁石24bが埋め込まれ,磁性体基板24aの一部である磁性体突極と永久磁石24bとが周方向に交互に並んで磁性体歯244に対向し,第二表面磁極部24c側の磁性体基板24dに永久磁石24eが埋め込まれ,磁性体基板24dの一部である磁性体突極と永久磁石24eとが周方向に交互に並んで磁性体歯247に対向している。永久磁石24b及び永久磁石24eは互いに異なる極性の磁極が電機子に対向するよう配置され,永久磁石24b及び永久磁石24e内の矢印は磁化の方向を示す。
【0194】
励磁部は,第一表面磁極部249の磁性体基板24a及び第二表面磁極部24cの磁性体基板24dを互いに異なる方向に磁化するよう磁性体基板24aに繋がる磁性体円板24n及び磁性体基板24dに繋がる磁性体円板24pと微小間隙を介して対向するよう電機子の内周部分に配置されている。励磁部は回転軸241を周回し,主要部を界磁極24f,界磁極24g,第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24k,励磁コイル24jとより構成されている。第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kはほぼ等量の磁束を電機子側に流すようそれぞれの磁極表面積,飽和磁束密度等のパラメータが設定されている。磁性体円板24n,24pは交流磁束が通り難いよう軟鉄の円板で構成されている。番号24mは回転軸241を周回するよう配置された導体層であり,励磁コイル24jのインダクタンスを減少し且つ磁束を励磁磁路に集中させる為に設けられている。
【0195】
図25(a)は第一表面磁極部249を電機子側から見た平面図を示している。磁性体基板24aに永久磁石24bが埋め込まれ,磁性体基板24aの一部である磁性体突極251と永久磁石24bとが周方向に交互に電機子に対向している。図25(c)は第二表面磁極部24cを電機子側から見た平面図を示している。磁性体基板24dに永久磁石24eが埋め込まれ,磁性体基板24dの一部である磁性体突極252と永久磁石24eとが周方向に交互に電機子に対向している。番号253は磁性体突極251と永久磁石24b間,磁性体突極252と永久磁石24e間の磁気的な間隙を示す。
【0196】
図25(a)及び図25(c)に於いて,永久磁石24bと永久磁石24eとは互いに異なる極性の磁極が電機子に対向するよう配置されて永久磁石24bではN極が,永久磁石24eではS極が図に示されている。また,磁性体突極251と永久磁石24eとが電機子を間に挟んで軸方向に対応し,永久磁石24bと磁性体突極252とが電機子を間に挟んで軸方向に対応するよう配置されている。
【0197】
図25(b)は電機子を第一表面磁極部249側から見た平面図を示している。磁性体歯244には電機子コイル246が巻回され,本実施例では9個の電機子コイル246を有し,それらは三相に結線されている。第二表面磁極部24cに対向する磁性体歯247,電機子コイル248も同じ構成である。
【0198】
図26及び図27は第一表面磁極部249及び電機子及び第二表面磁極部24cの周方向断面を図25に示したF−F’に沿って示す図である。これらの図により永久磁石24bと永久磁石24eと励磁部による磁束の流れを説明する。図26は励磁部が電機子コイル246,248と鎖交する磁束量を永久磁石24b及び永久磁石24eのみの場合より増大させる場合,図27は励磁部が電機子コイル246,248と鎖交する磁束量を永久磁石24b及び永久磁石24eのみの場合より減少させる場合をそれぞれ示している。
【0199】
図26,27に於いて,点線261は永久磁石24bからの磁束を示している。永久磁石24bの一方の磁極から磁束261は磁性体歯244,円環状磁気ヨーク245,隣接する磁性体歯244,磁性体突極251を介して永久磁石24bの他方の磁極に環流する。同様に点線262は永久磁石24eからの磁束を示している。永久磁石24eの一方の磁極から磁束262は磁性体歯247,円環状磁気ヨーク245,隣接する磁性体歯247,磁性体突極252を介して永久磁石24eの他方の磁極に環流する。図24に示された第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kの磁化状態では磁束が励磁部外に殆ど流れず,磁束261,262のみが電機子コイル246,248とそれぞれ鎖交する。
【0200】
図26に於いて,励磁部から供給される磁束は点線263で示され,その方向は矢印264で示されている。磁性体突極251を永久磁石24bの磁極と異なる極性に磁化し,磁性体突極252を永久磁石24eの磁極と異なる極性に磁化している。この磁束263により電機子コイル246,248と鎖交する磁束量は永久磁石24b及び永久磁石24eのみの場合より増大される。
【0201】
図27に於いて,励磁部から供給される磁束は点線271で示され,その方向は矢印272で示されている。磁性体突極251を永久磁石24bの磁極と同じ極性に磁化し,磁性体突極252を永久磁石24eの磁極と同じ極性に磁化している。この磁束271により電機子コイル246,248と鎖交する磁束量は永久磁石24b及び永久磁石24eのみの場合より減少される。
【0202】
励磁部は回転軸241を周回するよう構成され,その縦断面は図24に示されている。円筒状の界磁極24f,界磁極24g間に円筒状の第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kが配置され,励磁コイル24jが第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kを直列に繋ぐ磁路に磁束を発生させるよう配置されている。
【0203】
励磁コイル24jが誘起する磁束は第一界磁磁石24h,界磁極24f,第二界磁磁石24k,界磁極24gで構成する励磁磁路を流れるが,同時に磁性体円板24n,24p及び電機子側を含む主磁路にも流れようとする。本実施例では第二界磁磁石24kを磁化変更容易とし,磁性体円板24n,24pを交流磁束が流れ難いように軟鉄ブロックで構成し,主磁路の交流磁束に対する磁気抵抗を大に設定して励磁コイル24jが誘起する磁束が励磁磁路に集中するように構成している。
【0204】
励磁コイル24jが誘起する磁束は直列接続された第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kを流れるのでそれぞれの内部に於ける磁界強度はほぼ同じとなる。したがって,第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kの磁化変更に要する磁界強度は異なった値となるように磁石の素材を変える必要がある。本実施例では組成の異なったアルニコ磁石を用いている。
【0205】
この構成に於いて,第一界磁磁石24hの長さをL1,磁化変更に要する磁界強度をH1とし,第二界磁磁石24kの長さをL2,磁化変更に要する磁界強度をH2としてH1*L1がH2*(L1+L2)より大となるよう設定されている。励磁コイル24jに供給する磁化電流のピーク値と巻回数との積をATとしてそれぞれの界磁磁石の磁化を変更するATは次のように設定されている。第一界磁磁石24hの磁化を変更するATはH1*L1より大に,第二界磁磁石24kの磁化を変更するATはH1*L1より小で且つH2*(L1+L2)より大とする。
【0206】
図28は励磁部の縦断面の上半分を示し,図28(a),(b),(c)はそれぞれ第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kの磁化方向の異なる組み合わせを示している。同図を用いて第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kの磁化を変更する方法を説明する。図26,27を用いて説明したように磁性体基板24aをS極に,磁性体基板24dをN極に励磁すると,電機子コイル246,248と鎖交する磁束量を増し,逆の場合は電機子コイル246,248と鎖交する磁束量を減ずるので図24に於いて外径方向の磁化が第一磁化であり,内径方向の磁化が第二磁化である。
【0207】
図28(a)は第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24k共に第一磁化であり,図26に示した状態に相当して電機子コイル246,248と鎖交する磁束量は最大である。励磁コイル24jに供給する磁化電流は第一界磁磁石24hを第一磁化に磁化する極性で且つATをH1*L1より大として第一界磁磁石24hを第一磁化に磁化する。この時,第二界磁磁石24kは第二磁化となる。さらに励磁コイル24jに供給する磁化電流は第二界磁磁石24kを第一磁化に磁化する極性で且つATをH1*L1より小でH2*(L1+L2)より大として第二界磁磁石24kを第一磁化に磁化する。
【0208】
図28(b)は第一界磁磁石24hは第一磁化,第二界磁磁石24kは第二磁化であり,励磁部から電機子側に磁束は供給されない状態である。図28(a)の状態で第二界磁磁石24kを第二磁化とするよう励磁コイル24jに第二界磁磁石24kを第二磁化に磁化する極性で且つATをH1*L1より小でH2*(L1+L2)より大とする磁化電流を励磁コイル24jに供給する。
【0209】
図28(c)は第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24k共に第二磁化であり,図27に示した状態に相当して電機子コイル246,248と鎖交する磁束量は最小である。励磁コイル24jに供給する磁化電流は第一界磁磁石24hを第二磁化に磁化する極性で且つATをH1*L1より大として第一界磁磁石24hを第二磁化に磁化する。この時,第二界磁磁石24kは第一磁化の磁化となる。さらに励磁コイル24jに供給する磁化電流は第二界磁磁石24kを第二磁化に磁化する極性で且つATをH1*L1より小でH2*(L1+L2)より大として第二界磁磁石24kを第二磁化に磁化する。
【0210】
以上,図24から図28に示した回転電機に於いて,第一界磁磁石24h,第二界磁磁石24kの磁化状態を変える事で電機子に流れる磁束量を制御できることを説明した。本実施例は電機子を流れる磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,図6,図7を用いて回転電機システムとしての制御を説明する。
【0211】
回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル24jに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とし,制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル24jに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0212】
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル24jに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル24jに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0213】
本実施例では電機子コイル246,248と鎖交する磁束量を離散的に制御しているが,各状態に於いて励磁コイル24jにより電機子コイル246,248と鎖交する磁束量を更に調整する事もまた可能である。例えば,励磁コイル24jは励磁磁路及び主磁路に同時に磁束を発生させるので第二界磁磁石24kを空隙として算出した磁気抵抗が主磁路の直流磁束に対する磁気抵抗より大となるよう設定し,第二界磁磁石24kの磁化状態を変更しない程度の調整電流を励磁コイル24jに供給する。
【0214】
本実施例はアキシャルギャップ構成であるが,同趣旨の構成でラジアルギャップ構成も可能である。その場合は電機子に於ける磁気ヨーク及び磁性体歯を回転軸と直交する平面で二分し,励磁部を二分された磁気ヨーク間に配置すると,励磁部が静止側に配置されて構造をシンプルに出来る。
【実施例8】
【0215】
本発明による回転電機システムの第八実施例を図29から図32を用いて説明する。第八実施例は,アウターロータ構造の回転電機システムであり,励磁部は電機子の内周部分に配置されている。回転電機の主要部を磁気的にも物理的にもシールド容易な構成としてインホイールモータに適する構成である。図29は回転電機の縦断面図,図30は電機子と回転子とを示す断面図,図31は回転子の磁極部分を示す分解斜視図,図32は励磁部の拡大された縦断面図である。
【0216】
図29はラジアルギャップ・アウターロータ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示し,ロータハウジング292がベアリング293を介して固定軸291に回動可能に支持されている。磁性体突極と集合磁石とが周方向に交互に並ぶ表面磁極部297がロータハウジング292の内周側に配置され,隣り合う磁性体突極を固定軸291と平行の互いに異なる方向に延長させた第一延長部298,第二延長部299とを有する。電機子は磁性体歯294が周方向に並んで表面磁極部297と対向して内側に配置され,電機子コイル296が磁性体歯294に巻回されている。番号295は電機子支持体を示す。
【0217】
励磁部は固定軸291外側に固定軸291を周回するよう配置されて第一延長部298,第二延長部299に微小間隙を介して磁気的に結合し,隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化するよう構成されている。励磁部の主要部は界磁極29a,界磁極29b,第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29d,第二界磁磁石29e,励磁コイル29fとより構成される。番号29gは固定軸291を周回するよう配置された導体層であり,励磁コイル29fのインダクタンスを減少し且つ磁束を第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dに集中させる為に設けられている。番号29hは第一延長部298,第二延長部299の表面に形成した同心円状の凹凸を示し,交流磁束を通り難くする為に形成されている。
【0218】
図30は図29のG−G’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示されている。磁性体歯294には電機子コイル296が巻回され,9個の電機子コイル296は三相に結線されている。
【0219】
図30に於いて,表面磁極部297には磁性体突極と集合磁石とが周方向に交互に配置されている。中間磁性体突極303の両側面にほぼ同じ磁化方向の磁石板305,306が配置された組み合わせは磁気的には磁石と等価な集合磁石として,回転子の表面磁極部297は一様な磁性体を周方向に等間隔に配置された集合磁石によって区分された磁性体突極301,302及び集合磁石とから構成されている。さらに隣接する磁性体突極301,302は互いに異なる方向に磁化されるよう隣接する集合磁石の磁化方向は互いに反転して構成されている。磁性体突極301,302それぞれの周方向両側面に配置された磁石板はV字状の配置であり,磁石板の交差角度は磁束バリアに好適な角度に設定する。磁石板305,306に付された矢印は磁石板305,306の板面にほぼ直交する磁化方向を示す。
【0220】
隣接する磁性体突極301,302のそれぞれは軸と平行の互いに異なる方向に延長されてそれぞれ第一延長部298,第二延長部299とされている。さらに第一延長部298,第二延長部299の一部は円盤状として図29に示すように励磁部と軸方向に対向するよう内周側にまで延びている。
【0221】
番号304は第一実施例に於いて番号24に対応する磁束チャネル部であり,軸方向に界磁磁束の伝搬供給を容易にする構成としている。ロータハウジング302は磁性を持たないステンレススチールで構成し,その内周面に形成された軸と平行に延びる凹部に磁束チャネル部304として軟鉄ブロックが配置され,所定の型でケイ素鋼板を打ち抜いて積層された磁性体突極301,302,中間磁性体突極303が配置され,磁石板305,306が配置されている。
【0222】
図31は回転子の磁極構成を示す分解斜視図である。理解を容易にする為に回転子からロータハウジング292を除き,磁性体突極301,302等を有する中心部と磁性体突極の第一延長部298,第二延長部299とを離して示している。第一延長部298は軟鉄をプレス成形して磁性体突極301の延長部分となる磁性体突部311及び磁性体円板313を一体として構成され,非磁性体部315は磁性を持たないステンレススチールで形成されている。第二延長部299は軟鉄をプレス成形して磁性体突極302の延長部分となる磁性体突部312及び磁性体円板314を一体として構成され,非磁性体部315は磁性を持たないステンレススチールで形成されている。
【0223】
番号29hは第一延長部298,第二延長部299の表面に形成した同心円状の凹凸を示し,第6実施例に番号21gで示した同心円状凹凸と同様に交流磁束を通り難くする為に形成されている。ロータハウジング292,第一延長部298,第二延長部299の軸方向端面は界磁磁石からの励磁磁束が流れる磁気抵抗に支障を与えない範囲で通風口を設ける事が出来る。その際に通風口を利用して界磁磁石から磁性体突極301,302に至る磁路に短絡環を配置する構成として更に交流磁束を通り難くできる。
【0224】
励磁部は図29に縦断面が示されるように固定軸291を周回するよう構成されている。図24に示した第七実施例の励磁部に類似するが,界磁磁石の構成及び磁路構成が異なっている。すなわち,断面がC字状の界磁極29a,界磁極29b間に長さの異なる円筒状の磁石要素からなる第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dが配置され,さらに第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dと並列に第二界磁磁石29eが接続され,励磁コイル29f,導体層29gが配置されている。
【0225】
この構成に於いて,第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dの一方の磁極から磁束が界磁極29a,第二界磁磁石29e,界磁極29bを流れて界磁磁石29c,界磁磁石29dの他方の磁極に環流する磁路は励磁磁路を構成し,界磁極29a,磁性体円板313,磁性体突部311,磁性体突極301,磁性体歯294,磁性体突極302,磁性体突部312,磁性体円板314,界磁極29bは主磁路を構成する。第二界磁磁石29eの側から見れば第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dを含む磁路が第二界磁磁石29eの励磁磁路となる。第二界磁磁石29eの磁化変更に要する磁界強度が第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dの磁化変更に要する磁界強度より小になるようアルニコ磁石の組成を変えて構成されている。
【0226】
磁性体突極301をN極に磁化する第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29d,第二界磁磁石29eの磁石要素を第一磁化,逆方向の磁化を持つ磁石要素を第二磁化とする。図29に於いて,左方向の磁化を持つ第一界磁磁石29c,第二界磁磁石29eが第一磁化に属し,右方向の磁化を持つ第一界磁磁石29dは第二磁化に属する。本実施例に於いて,励磁部は微小間隙を介して磁性体円板313,磁性体円板314と磁気的に結合して磁性体突極301,磁性体突極302を互いに異なる極性に磁化する構成である。界磁磁石の磁化変更は図32を参照して説明する。
【0227】
図32は図29に示した縦断面図の励磁部の上半分を示した図で,図32(a)〜(e)は第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29d,第二界磁磁石29eの磁化方向の組み合わせが異なる場合を示している。本実施例では磁石板305,306が磁性体突極301,302を介して電機子側に供給する磁束量を1.0として第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dはそれぞれ0.25,第二界磁磁石29eは0.5に相当する磁束量を電機子側に供給するよう寸法諸元が設定されている。
【0228】
第一界磁磁石29c及び第一界磁磁石29dと第二界磁磁石29eとは直列接続で閉磁路を構成するのでそれぞれの界磁磁石の磁化状態を変更する方法は実施例三ないし実施例六とは若干異なる。第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29d,第二界磁磁石29eの長さを順にL1,L2,L3とし,第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29dを磁化変更するに必要な磁界強度をH1,第二界磁磁石29eを磁化変更するに必要な磁界強度をH3としてH1*L1>H1*L2>H3*(L3+L1)を満たすように構成されている。第二界磁磁石29eが最も磁化容易である。
【0229】
この構成に於いて,励磁コイル29fに供給する磁化電流のピーク値と巻回数との積をATとしてそれぞれの界磁磁石の磁化を変更するATを次のように設定されている。すなわち,第一界磁磁石29cの磁化を変更するATはH1*L1より大に設定され,第一界磁磁石29dの磁化を変更するATはH1*L1より小で且つH1*L2より大に設定され,第二界磁磁石29eの磁化を変更するATはH1*L2より小で且つH3*(L3+L1)より大に設定されている。
【0230】
図32(a)に於いて,第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29d,第二界磁磁石29eの磁化は右方向である第二磁化であって励磁部から電機子側に供給される磁束量は−1.0に相当し,磁石板305,306による磁束量を加えた総合磁束量は0.0である。第一界磁磁石29cの磁化を右方向に磁化する磁化電流を励磁コイル29fに供給し,その後に第二界磁磁石29eのみの磁化を右方向に磁化する磁化電流を励磁コイル29fに供給して図32(a)に示す磁化状態にする。
【0231】
図32(b)は図32(a)に於いて第一界磁磁石29dの磁化を左方向に変更し,第一界磁磁石29cの磁化を変更しないレベルの磁化電流を励磁コイル29fに供給した場合の磁化状態を示している。この場合,電機子側に供給される総合磁束量は0.5である。
【0232】
図32(c)は図32(b)に於いて第一界磁磁石29dの磁化を右方向に変更する磁化電流を励磁コイル29fに供給した場合の磁化状態を示している。この場合,電機子側に供給される総合磁束量は0.0である。図32(a)に於いて第二界磁磁石29eの磁化のみを反転させる磁化電流を励磁コイル29fに供給しても結果は同じである。
【0233】
図32(d)は図32(c)に於いて第一界磁磁石29cの磁化を左方向に変更する磁化電流を励磁コイル29fに供給し,その後に第一界磁磁石29dの磁化を右方向に変更し,第一界磁磁石29cの磁化を変更しないレベルの磁化電流を励磁コイル29fに供給した場合の磁化状態を示している。この場合,電機子側に供給される総合磁束量は1.5である。
【0234】
図32(e)は図32(d)に於いて第一界磁磁石29dの磁化を左方向に変更する磁化電流を励磁コイル29fに供給し,その後に第二界磁磁石29eの磁化を右方向に変更し,第一界磁磁石29dの磁化を変更しないレベルの磁化電流を励磁コイル29fに供給した場合の磁化状態を示している。この場合,電機子側に供給される総合磁束量は2.0である。
【0235】
以上,図29から図32に示した回転電機に於いて,第一界磁磁石29c,第一界磁磁石29d,第二界磁磁石29eの磁化状態を変える事で電機子に流れる磁束量を制御できることを説明した。本実施例は電機子を流れる磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,図6,図7を用いて回転電機システムとしての制御を説明する。
【0236】
回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル29fに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とし,制御装置75は出力73である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル29fに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0237】
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル29fに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置75は出力73である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を励磁コイル29fに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0238】
本実施例の構成はまた回転子の磁極構造を第七実施例のように磁性体基板内に永久磁石を埋め込んだ構造にも適用可能である。すなわち,円筒状磁性体基板の内周側に軸方向に延びる永久磁石板を埋め込み,電機子には周方向に永久磁石と円筒状磁性体基板の一部である磁性体突極とが交互に並ぶ二つの円筒状回転子を軸方向に並べて電機子と対向させる。二つの円筒状回転子それぞれで永久磁石は径方向磁化を持ち,同一極性の磁極面が電機子に対向する共に二つの円筒状回転子に於ける永久磁石の磁化方向は互いに逆とし,且つ一方の円筒状回転子の永久磁石には他方の円筒状回転子の磁性体突極が軸方向に対応するよう構成される。二つの円筒状回転子に於ける円筒状磁性体基板は励磁部により互いに異極に磁化されるので磁気的には分離して配置される。
【実施例9】
【0239】
本発明の第九実施例による回転電機システムを図33,図34を用いて説明する。第九実施例に於ける励磁部は,第三実施例の励磁部を簡略にした構成である。図33は回転電機の縦断面図,図34は電機子と回転子とを示す断面図である。
【0240】
図33はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。電機子の構成は第一実施例と同じであるので説明は省略する。回転子は磁性体突極と集合磁石とが周方向に交互に並ぶ表面磁極部331,隣り合う磁性体突極を回転軸11と平行の互いに異なる方向に延長させた第一延長部92,第二延長部93とを有する。
【0241】
回転子の表面磁極部331の内側には励磁部が配置されて第一延長部92,第二延長部93に結合し,隣接する磁性体突極は互いに異極に磁化されるよう配置されている。励磁部は界磁極332,333,第二界磁磁石334,励磁コイル335を主要部として構成されている。励磁コイル335にはブラシ9a,スリップリング9bを介して図示していない制御部に接続され,番号94は回転軸11を周回するよう配置された導体層を示している。
【0242】
図34は図33のH−H’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示されている。電機子の構成は第一の実施例と同じである。回転子の構成は表面磁極部が図18に示す第五実施例の表面磁極部と同じであり,第一磁性体突極181,第二磁性体突極182はそれぞれ図33に於いて軸方向の左及び右方向に延伸されて第一延長部92,第二延長部93とされている。表面磁極部の構成は第五実施例で説明されているので更なる説明は省略する。
【0243】
本実施例では磁性体突極181,182間には集合磁石が配置され,集合磁石を構成する磁石板184,185を磁化を変更しない固定の第一界磁磁石とし,第二界磁磁石334の磁化状態を可変とする構成である。本実施例の構成に於いて集合磁石と第二界磁磁石334とは並列に接続され,磁性体突極181,磁性体歯14,磁性体突極182が主磁路を構成する。界磁極332,第一延長部92,磁性体突極181,磁性体板184,中間磁性体突極183,磁石板185,磁性体突極182,第二延長部93,界磁極96が第二界磁磁石334の励磁磁路を構成している。
【0244】
本実施例の第一延長部92,第二延長部93は第三実施例と同じ形状であるが,励磁磁路に含まれ,第二界磁磁石334の磁化状態を変更する場合に励磁コイル334によって誘起されるパルス状磁束が流れるので鉄粉を押し固めた比抵抗の大きな圧粉鉄心で構成されている。励磁コイル335は第二界磁磁石334を含む励磁磁路に巻回されている。
【0245】
以上に本実施例の構成を説明したように励磁部の構成は励磁磁路の一部が異なるのみで本実施例の第二界磁磁石334と図9に示される界磁磁石97とは同じ構成である。従って,第二界磁磁石334の磁化状態変更,システム動作等は第三実施例と同じであり,詳細な説明は省略する。
【0246】
本実施例が第三実施例と大きく異なる点は,第二界磁磁石334の磁化状態を変更する際に励磁コイル335によって誘起されるパルス状磁束が電機子側に流入する事である。磁石板184,185の厚みを小として前記パルス状磁束の電機子側への流入を抑制できるが,これはまた第二界磁磁石334からの磁束を磁石板184,185で短絡させる事になるので妥協せざるを得ない。したがってパルス状磁束は電機子コイル16と鎖交し,大きな電圧パルスが電機子コイル16両端に現れるので電機子コイル16に接続される電子回路は耐電圧特性の優れた素子を使う必要がある。これは界磁磁石の磁化変更に際して生じる可能性のある不具合を回避するコストを如何に負担するかの手段の差である。第一実施例から第八実施例では励磁部構成にコストを費やして電機子コイル周辺の電子回路でのコスト負担を軽減させ,本実施例では磁路構成をシンプルとして電機子コイル周辺の電子回路でコストを費やして不具合を回避している。回転電機システムの仕様に応じて最適の構成を選択する。
【実施例10】
【0247】
本発明の第十実施例による回転電機システムを図35を用いて説明する。第十実施例は第五実施例の回転電機システムをハイブリッドカーの発電機兼電動機システムとして用いた回転電機システムである。
【0248】
同図に於いて,番号351は第五実施例で示した回転電機を示し,回転電機351はハイブリッドカーのエンジン352とベルトで回転力を伝達するよう結合された回転軸359を持ち,回転軸359の回転力はトランスミッション353を介して駆動軸35aに伝えられる。制御装置354は上位制御装置からの指令35bを受け,駆動回路355を介して回転電機351を電動機として駆動し,磁束量制御回路356を介して電機子に流入する磁束量を制御する。更に制御装置354は上位制御装置からの指令35bを受け,電機子コイル16の引き出し線35cに現れる発電電力を整流回路357を介して整流し,バッテリー358を充電する構成としている。制御装置354は指令35bの指示により駆動回路355を介して回転電機351を電動機として駆動し,エンジン352の回転をアシスト或いは単独で回転軸359を回転駆動させ,トランスミッション353,駆動軸35aを介してハイブリッドカーの駆動力に寄与する。
【0249】
低回転速度域で磁石トルクを強化する必要がある場合は第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。高回転速度域で弱め界磁とする場合には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
【0250】
エンジン352の回転力のみでハイブリッドカーを駆動する時は,指令35bにより電機子コイル16の引き出し線35cに現れる発電電力を整流回路357を介して直流に変え,バッテリー358を充電させる。その場合に制御装置354は発電電圧がバッテリー358を充電する最適な電圧より大である場合は磁束量制御回路356を介して磁束調整回路142により励磁コイル178に供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小となる場合には第二磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
【0251】
制御装置354は発電電圧がバッテリー358を充電する最適な電圧より小である場合は磁束量制御回路356を介して磁束調整回路142により励磁コイル98に供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大となる場合には第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
【0252】
バッテリー358に充電する場合に回転電機システムを定電圧発電機システムとする事で発電電圧を変換するコンバータは不要である。また,更にバッテリー358が電圧の種類の異なる複数種のバッテリーで構成される場合でも切り替え回路を付け加えてそれぞれのバッテリーに最適の発電電圧に制御する事で高価なコンバータを不要に出来る。
【0253】
本実施例はまたハイブリッドカーの制動時に於けるエネルギー回収システムとしても有効に機能する。指令35bを通じて回生制動の指示を受けると,制御装置354は磁束量制御回路356を介して第一磁化の磁石数を増す方向のパルス電流62を磁化制御回路143により励磁コイル178に供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とし,発電電力でバッテリー358に充電させる。
【0254】
電機子コイル16と鎖交する磁束量は増えるので取り出せる電力は大きく,電気二重層コンデンサ他の蓄電システムに一時的に蓄えて制動力の確保とエネルギー回収を大にする。回転電機351は駆動用電動機として用いられる体格であるので回生制動用の発電機として十分な制動力を発生できる。
【0255】
本実施例はハイブリッドカーの発電機兼電動機として用いた回転電機システムであるが,電気自動車に於ける回転電機システムとする事も当然に可能である。その場合には上記実施例に於いてハイブリッドカーのエンジン352を取り除き,本発明による回転電機システムのみで電気自動車を駆動し,制動時に於けるエネルギー回収システムを構成する。
【0256】
以上,本発明の回転電機システムについて,実施例を挙げて説明した。これらの実施例は本発明の趣旨,目的を実現する例を示したのであって本発明の範囲を限定するわけでは無い。例えば,上記の実施例に於いて電機子は磁性体歯を有する構造が示されたが,従来のアキシャルギャップ構成の回転電機では磁性体歯を配置しない構造例も存在する。また,ラジアルギャップ構成に於いても電機子構成を円筒状磁気ヨーク上に印刷配線された電機子コイルを配置して磁性体歯を持たない例も存在する。本発明は磁性体歯の有無に拘わらず適用可能であり,回転電機システムの仕様に沿って最適の電気子構成を採用する事が出来る。上記実施例を組み合わせる,或いは実施例の一部を組み合わせて本発明の趣旨,目的を実現するシステムを完成させる等が可能な事は勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0257】
永久磁石励磁の回転電機システムに於いて,同種の磁化に励磁される磁性体突極には励磁部から一括して界磁磁束を供給する構成とし,励磁部に配置した界磁磁石の磁化状態を励磁コイルに流す磁化電流より不可逆的に変えて電機子側に流入する磁束量を制御する。界磁磁石の磁化状態を変更する際に励磁コイルに供給される電流パルスの影響が電機子コイルに及び難い構成として回転電機の運転に支障が無い構成を提案している。
【0258】
本発明を適用した回転電機システムは従来の回転電機と同様に高出力の電動機として利用できる事に加えて実用出来る回転速度範囲を拡大し,更に発電機能を改善し,またその発電機能を制御できる。移動体の発電機兼電動機システムに用いて,駆動用電動機としては従来以上の回転速度範囲での使用が期待できる他に制動時のエネルギー回収を可能として総合的なエネルギー消費量を改善できる。更に定電圧発電機システムとして広い回転速度範囲で発電電圧を一定に制御できるので定電圧制御回路を不要とし,更に電圧の異なる複数種のバッテリー充電にもコンバータを不要に出来,全体のシステムコストを低減出来る。
【符号の説明】
【0259】
11・・・回転軸, 12・・・ハウジング,
13・・・ベアリング, 14・・・磁性体歯,
15・・・円筒状磁気ヨーク, 16・・・電機子コイル,
17・・・表面磁極部, 18・・・第一延長部,
19・・・第二延長部, 1a,1e・・非磁性体部,
1b・・・内側磁極, 1c・・・円環状磁極,
1d・・・外側磁極, 1f・・・励磁磁極,
1g・・・励磁コイル, 1h・・・可動磁極,
1j・・・界磁磁石, 1k・・・制御棒,
1m・・・アクチュエータ, 1n・・・間隙,
1p・・・冷却ファン
21,22・・・磁性体突極, 23・・・磁気空隙部,
24・・・磁束チャネル部, 25・・・延長部,
26・・・可飽和磁性体部, 27・・・可飽和磁性体結合部,
28・・・短絡環
31・・・磁性体突部, 32・・・環状磁気コア部分,
33・・・円筒状磁気コア, 34・・・非磁性体部,
35・・・励磁部
41・・・外径方向の磁化を持つ界磁磁石領域,
42・・・内径方向の磁化を持つ界磁磁石領域
61・・・消磁電流, 62・・・パルス電流,
63・・・制御電流, 64,65・・時間
71・・・回転電機装置, 72・・・入力,
73・・・出力, 74・・・状態信号,
75・・・制御装置, 76・・・制御信号,
77・・・駆動回路
81・・・励磁磁極, 82・・・外側磁極
91・・・表面磁極部, 92・・・第一延長部,
93・・・第二延長部, 94・・・導体層,
95,96・・界磁極, 97・・・界磁磁石,
98・・・励磁コイル, 99・・・非磁性体部,
9a・・・ブラシ, 9b・・・スリップリング
101,102・・磁性体突極, 103・・・永久磁石,
104・・・磁束チャネル部, 105・・・可飽和磁性体部,
106・・・磁気空隙部
111,112・・磁性体突部, 113,114・・非磁性体部,
115・・・励磁部の一部
121,122,123,124・・磁石要素,
125・・・間隙
141・・・切換スイッチ, 142・・・磁束調整回路,
143・・・磁化制御回路
151・・・界磁磁石, 152,153・・界磁極,
154・・・励磁コイル, 155・・・C字状の環状磁気コア,
156・・・間隙
171・・・表面磁極部, 172・・・第一延長部,
173・・・第二延長部, 174・・・回転子支持体,
175,176・・界磁極, 177・・・界磁磁石,
178・・・励磁コイル
181,182・・・磁性体突極, 183・・・中間磁性体突極,
184,185・・磁石板, 186・・・磁束チャネル部,
187・・・スリット
191,192・・励磁部, 193,194・・磁性体突部,
195,196・・非磁性体部
201,202,203,204・・磁石要素,
205・・・間隙
211・・・固定軸, 212・・・ロータハウジング,
213・・・ベアリング, 214・・・磁性体歯,
215・・・円筒状磁気ヨーク, 216・・・電機子コイル,
217・・・磁性体突極, 218・・・基板,
219・・・プーリー部, 21a・・・第一界磁磁石,
21b・・・第二界磁磁石, 21c・・・励磁コイル,
21d・・・界磁極, 21e・・・円盤状磁極,
21f・・・導体層, 21g・・・同心円状の凹凸
221・・・磁気空隙部
231,232,233,234,235,236・・磁石要素,
241・・・回転軸, 242・・・ハウジング,
243・・・ベアリング, 244,247・・磁性体歯,
245・・・円環状磁気ヨーク, 246,248・・電機子コイル,
249・・・第一表面磁極部, 24a,24d・・磁性体基板,
24b,24e・・永久磁石, 24c・・・第二表面磁極部,
24f,24g・・界磁極, 24h・・・第一界磁磁石,
24j・・・励磁コイル, 24k・・・第二界磁磁石,
24m・・・導体層, 24n,24p・・磁性体円板
251,252・・磁性体突極, 253・・・磁気間隙
261・・・永久磁石24bからの磁束, 262・・・永久磁石24eからの磁束,
263・・・励磁部から供給される磁束, 264・・・磁束263の方向
271・・・励磁部から供給される磁束, 272・・・磁束271の方向
291・・・固定軸, 292・・・ロータハウジング,
293・・・ベアリング, 294・・・磁性体歯,
295・・・電機子支持体, 296・・・電機子コイル,
297・・・表面磁極部, 298・・・第一延長部,
299・・・第二延長部, 29a,29b・・界磁極,
29c,29d・・第一界磁磁石, 29e・・・第二界磁磁石,
29f・・・励磁コイル, 29g・・・導体層,
29h・・・同心円状の凹凸
301,302・・磁性体突極, 303・・・中間磁性体突極,
304・・・磁束チャネル部, 305,306・・磁石板
311,312・・磁性体突部, 313,314・・磁性体円板,
315・・・非磁性体部
331・・・表面磁極部, 332,333・・界磁極,
334・・・第二界磁磁石, 335・・・励磁コイル
351・・・第五の実施例で示した回転電機装置,
352・・・ハイブリッドカーのエンジン,
353・・・トランスミッション, 354・・・制御装置,
355・・・駆動回路, 356・・・磁束量制御回路,
357・・・整流回路, 358・・・バッテリー,
359・・・回転軸, 35a・・・駆動軸,
35b・・・上位制御装置からの指令, 35c・・・電機子コイルの引き出し線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子コイルを有する電機子と,電機子と対向して周方向に配置された複数の磁性体突極を有する表面磁極部と,同種の極性に磁化されるべき磁性体突極グループ毎に一括して磁化する励磁部とを有し,表面磁極部と電機子とは軸を中心に相対的に回転可能である回転電機装置であって,励磁部は界磁磁石及び界磁磁石の磁化を変更する励磁コイルを有し,前記界磁磁石のN極或いはS極の何れか一方の磁極から流れる磁束が磁性体突極及び電機子を介して界磁磁石の他方の磁極に環流する主磁路と,前記界磁磁石の一方の磁極から出た磁束が主として励磁部内で界磁磁石の他方の磁極に環流する励磁磁路とが並列に界磁磁石に接続され,励磁コイルは励磁磁路に加えて界磁磁石を含む磁路に磁束を誘起するよう配置され,回転電機装置の出力を最適化するように前記出力に応じて励磁コイルに磁化電流を供給して界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変え,電機子に流れる磁束量が制御される事を特徴とする回転電機システム
【請求項2】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,磁性体間に磁化方向長さと抗磁力の積が異なる磁石要素が並列に接続されて界磁磁石が構成されることを特徴とする回転電機システム
【請求項3】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,励磁コイルに供給される磁化電流による磁界の磁界強度が抗磁力より大とされる界磁磁石の磁石要素が磁化電流の極性により定められた方向に選択的に磁化されることを特徴とする回転電機システム
【請求項4】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石は磁性体突極を予め定めた方向に磁化する第一磁化の磁石要素,第一磁化と逆方向の磁化である第二磁化の磁石要素を有している事を特徴とする回転電機システム
【請求項5】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,表面磁極部は周方向に隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化する永久磁石を有し,界磁磁石の第一磁化と前記永久磁石とが磁性体突極を同種の極性に磁化するよう前記永久磁石の磁化方向が設定され,界磁磁石全体が第一磁化とされて電機子を流れる磁束量が最大にされ,電機子内に於いて前記永久磁石からの磁束と界磁磁石からの磁束とが相殺されるように界磁磁石は第二磁化の磁極面積が第一磁化の磁極面積より大とされて電機子を流れる磁束量を最小であるゼロとするよう構成されている事を特徴とする回転電機システム
【請求項6】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石は磁化容易さが互いに異なる第一界磁磁石及び第二界磁磁石の並列接続で構成され,励磁コイルは第一界磁磁石及び第二界磁磁石が直列となる閉磁路に磁束を発生させ,第一界磁磁石及び第二界磁磁石は互いに他を励磁磁路の一部とするよう配置されていることを特徴とする回転電機システム
【請求項7】
請求項6記載の回転電機システムに於いて,磁化容易さが互いに異なる第一界磁磁石及び第二界磁磁石は磁化変更に必要な磁界強度が互いに異なる磁石によりそれぞれ構成されることを特徴とする回転電機システム
【請求項8】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,可動磁性体片を偏倚させて界磁磁石,主磁路,励磁磁路間の接続状態を変える磁路スイッチを有し,通常の運転中に界磁磁石は主磁路に接続されて励磁磁路は切り離され,励磁コイルにより界磁磁石の磁化状態を変更する際に界磁磁石は主磁路から切り離されて励磁磁路と接続されることを特徴とする回転電機システム
【請求項9】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,可動磁性体片を偏倚させて励磁磁路の構成を変える磁路スイッチを有し,通常の運転中に励磁磁路の磁気抵抗は大となるよう励磁磁路中の磁気的な間隙が大とされ,励磁コイルにより界磁磁石の磁化状態を変更する際に励磁磁路の磁気抵抗が小となるよう励磁磁路中の磁気的な間隙が小とされることを特徴とする回転電機システム
【請求項10】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,主磁路の磁気抵抗より励磁磁路の磁気抵抗が大に設定されていることを特徴とする回転電機システム
【請求項11】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石から磁性体突極に至る磁路は界磁磁石に接する磁性体より渦電流損を大とする構成を有して交流磁束が通り難いよう構成される事を特徴とする回転電機システム
【請求項12】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,励磁コイルには界磁磁石の磁化状態変更の為の磁化電流を供給する回路に加えて磁束調整回路が接続され,磁束調整回路は界磁磁石に不可逆的な磁化変化を生ぜしめない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給し,誘起された磁束を界磁磁石からの磁束に重畳して電機子を流れる磁束量を調整する事を特徴とする回転電機システム
【請求項13】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して配置され,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の異なる方向に延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,励磁部は回転子内に配置され,第一延長部,第二延長部を介して隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化するよう構成される事を特徴とする回転電機システム
【請求項14】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して配置され,電機子はさらに磁気ヨークを有し,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の異なる方向に延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,回転子両端の静止側に配置された二つの励磁部は第一延長部と磁気ヨーク間,第二延長部と磁気ヨーク間にそれぞれ磁束を供給し,隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化するよう構成される事を特徴とする回転電機システム
【請求項15】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して配置され,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の一方向,内径方向にそれぞれ延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,回転子端の静止側に配置された励磁部は第一延長部と第二延長部間に磁束を供給し,隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化するよう構成される事を特徴とする回転電機システム
【請求項16】
請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子側に配置された表面磁極部が電機子と径方向に対向して電機子の外周側に配置され,隣接する磁性体突極は互いに軸と平行の異なる方向に延伸されて延長部分は延長方向により第一延長部,第二延長部とされ,励磁部は電機子の内周領域に配置され,第一延長部,第二延長部に微小間隙を介して磁気的に結合され,隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化するよう構成される事を特徴とする回転電機システム
【請求項17】
請求項1から請求項16記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,回転力を入力とし,発電電力を出力とする回転電機システムであって,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より大の時は制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より小の時は制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,発電電圧が所定の値に制御される事を特徴とする回転電機システム
【請求項18】
請求項1から請求項16記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,回転速度が所定の値より大で電機子を流れる磁束量を減少させる時には制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,回転速度が所定の値より小で電機子を流れる磁束量を増大させる時には制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転力が最適に制御される事を特徴とする回転電機システム
【請求項19】
請求項1から請求項16記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,回転速度を減少させる場合には制御装置により界磁磁石内の第一磁化に属する磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転エネルギーが発電電力として取り出される事を特徴とする回転電機システム
【請求項20】
電機子コイルを有する電機子と,電機子と対向して周方向に配置された複数の磁性体突極を有する表面磁極部と,同種の極性に磁化されるべき磁性体突極グループ毎に一括して磁化する励磁部とを有し,表面磁極部と電機子とは軸を中心に相対的に回転可能である回転電機装置の磁束量制御方法であって,励磁部は界磁磁石及び界磁磁石の磁化を変更する励磁コイルを有し,前記界磁磁石のN極或いはS極の何れか一方の磁極から流れる磁束が磁性体突極及び電機子を介して界磁磁石の他方の磁極に環流する主磁路と,励磁コイルを流れる電流により生起された磁束が界磁磁石を含んで主として励磁部内で環流する励磁磁路とを界磁磁石に並列に接続し,励磁コイルに磁化電流を供給して界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変えて電機子を流れる磁束量を制御する磁束量制御方法
【請求項21】
請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石は磁化の容易さが異なる磁石要素を並列に接続して構成する磁束量制御方法
【請求項22】
請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石の磁化状態を変更しない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給し,生起された磁束を界磁磁石からの磁束に重畳して電機子を流れる磁束量を調整する磁束量制御方法
【請求項23】
請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石を磁化変更に必要な磁界強度が互いに異なる第一界磁磁石及び第二界磁磁石の並列接続で構成し,励磁コイルは第一界磁磁石及び第二界磁磁石が直列となる閉磁路に磁束を発生させる磁束量制御方法
【請求項24】
請求項20記載の磁束量制御方法に於いて,界磁磁石から磁性体突極に至る磁路は渦電流損を大として交流磁束が通り難い構成を有する磁束量制御方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2010−172046(P2010−172046A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−617(P2009−617)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【特許番号】特許第4337989号(P4337989)
【特許公報発行日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(302014011)有限会社クラ技術研究所 (29)
【Fターム(参考)】