説明

移動体用測位装置

【課題】より正確な移動体の速度ベクトルを出力することが可能な移動体用測位装置を提供すること。
【解決手段】衛星電波を用いて移動体の位置を算出する位置演算手段と、衛星電波又は慣性航法により前記移動体の速度ベクトルを算出する速度演算手段と、道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、前記速度ベクトル算出手段により算出された速度ベクトルを、前記リンクのうち移動体が存すると推定されるリンクに投影した投影速度ベクトルを出力する投影手段と、前記投影手段により出力される投影速度ベクトルの採用の可否を判定する投影可否判定手段と、を備え、該投影可否判定手段により前記投影速度ベクトルを採用すべきと判定された場合に、前記投影速度ベクトルを前記移動体の速度ベクトルとして出力することを特徴とする、移動体用測位装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星電波を用いて移動体の位置や速度を算出する移動体用測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GNSS(Global Navigation Satellite System;GPS(Global Positioning System)やGalileo、Glonass等を含む)において、搬送波周波数の変化量に基づいて移動体の速度ベクトルを算出する装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。移動体の速度ベクトルは、その向きによって移動体の方位(進行方向)を特定することができ、その積算値を用いて移動体の位置変化を算出することもできる。また、速度ベクトルは、移動体位置を特定する際に、単独測位やINS(Inertial Navigation System;慣性航法装置)と組み合わせて用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−25046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、GNSSにおいて算出される速度ベクトルに関しては、環境によって精度やばらつきが変化するという問題がある。この結果、慣性航法等と組み合わせた場合の蓄積誤差が大きくなる等の不都合が生じうる。図1は、係る不都合が生じる様子を示す図である。
【0005】
GNSSにおいて算出される速度ベクトルの精度は、主として(A)各GNSS衛星から送信される電波に基づく測位誤差、(B)捕捉GNSS衛星の数と位置関係によって決定される。特に、市街地においては、マルチパス(電波が建物等で反射されることにより、衛星と移動体の距離を誤推定すること)の影響等で(A)の測位誤差が生じる。また、建物や懸架物で衛星との間が遮蔽されることにより(B)の捕捉GNSS衛星の数が減少する。
【0006】
GNSSにおいて推定する速度ベクトルの精度が低下すると、移動体の姿勢の推定精度が低下してしまう。市街地等で捕捉GNSS衛星の数が少ない場合は、INSによって位置を推定するが、移動体の姿勢の誤差は蓄積を続けてしまう。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、より正確な移動体の速度ベクトルを出力することが可能な移動体用測位装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
衛星電波を用いて移動体の位置を算出する位置演算手段と、
衛星電波又は慣性航法により前記移動体の速度ベクトルを算出する速度演算手段と、
道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、
前記速度ベクトル算出手段により算出された速度ベクトルを、前記複数のリンクのうち移動体が存すると推定されるリンクに投影した投影速度ベクトルを出力する投影手段と、
前記投影手段により出力される投影速度ベクトルの採用の可否を判定する投影可否判定手段と、を備え、
該投影可否判定手段により前記投影速度ベクトルを採用すべきと判定された場合に、前記投影速度ベクトルを前記移動体の速度ベクトルとして出力することを特徴とする、
移動体用測位装置である。
【0009】
この本発明の一態様によれば、より正確な移動体の速度ベクトルを出力することができる。
【0010】
本発明の一態様において、
前記投影可否判定手段の判定結果に基づいて出力された前記移動体の速度ベクトルを積算して、前記移動体の位置変化を算出する速度ベクトル積算手段と、
前記位置演算手段により算出された移動体の位置と、前記速度ベクトル積算手段により算出された前記移動体の位置変化を加味して得られた移動体の位置と、のいずれの信頼性が高いかを判定する信頼性判定手段と、を備え、
該信頼性判定手段により、信頼性が高いと判定された方の移動体の位置を出力することを特徴とするものとしてもよい。
【0011】
こうすれば、単独測位等により算出された移動体の位置と、速度ベクトルを積算して算出された移動体の位置とのうち信頼性の高い方を出力するため、マルチパス等の影響を抑制することができる。
【0012】
また、本発明の一態様において、
慣性航法により前記移動体の位置及び速度を算出する慣性航法測位演算手段と、
該慣性航法測位演算手段により算出された前記移動体の位置及び速度と、衛星電波により算出された前記移動体の位置及び速度との差分が入力されるカルマンフィルタと、を備え、
前記慣性航法測位演算手段は、前記カルマンフィルタの出力に応じて補正を行なうことを特徴とするものとしてもよい。
【0013】
こうすれば、より精度の高い慣性航法測位を行なうことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より正確な移動体の速度ベクトルを出力することが可能な移動体用測位装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】GNSSにおいて算出される速度ベクトルの精度やばらつきが変化し、慣性航法等と組み合わせた場合の蓄積誤差が大きくなるという不都合が生じる様子を示す図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1のシステム構成例である。
【図3】車両の速度ベクトルVをリンクWに投影して投影速度ベクトルV#を得る様子を示す図である。
【図4】投影速度ベクトルV#を用いることにより、方位誤差を減少させることができる様子を示す図である。
【図5】本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施例に係る移動体用測位装置2のシステム構成例である。
【図7】本発明の第2実施例に係る移動体用測位装置2により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施例に係る移動体用測位装置3のシステム構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0017】
<第1実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1について説明する。移動体用測位装置1は、GNSSに適用される装置である。GNSSは、衛星からの信号を用いて移動体に搭載された測位装置が移動体の位置を測位する測位システムであり、GPS(Global Positioning System)、Galileo、Glonass等の衛星を用いた測位システムを含む。以下の説明ではGPSを基本構成として説明するが、本発明は、GPSに限らずあらゆるGNSSに広く適用可能である。移動体は、車両、自動二輪車、鉄道、船舶、航空機、ホークリフト、ロボットや、人の移動に伴い移動する携帯電話等の情報端末等がありうる。
【0018】
なお、以下ではGNSSの一例として、GPSに適用されるものとして説明する。また、移動体が車両であるものとする。
【0019】
GPS衛星は、航法メッセージ(衛星信号)を地球に向けて常時放送している。航法メッセージには、対応するGPS衛星に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナク)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれている。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散されL1波(周波数:1575.42MHz)に乗せられて、地球に向けて常時放送されている。なお、L1波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波の合成波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1が不規則に周期的に並ぶ符号列である。
【0020】
図2は、本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1のシステム構成例である。移動体用測位装置1は、主要な構成として、GPSアンテナ10と、図示しないマイクロコンピュータがプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである(但し、回路構成であっても構わない)、測位信号受信部20、位置演算部22、速度演算部24、投影可否判定部26、投影部28、及びマップマッチング部30と、図示しない記憶装置に記憶された地図データベース(図では地図DBと表記した)32と、を有する。
【0021】
測位信号受信部20は、GPSアンテナ10が受信した信号について、内部で発生させたレプリカC/Aコードを用いてC/Aコード同期を行ない、航法メッセージを取り出す。C/Aコード同期の方法は、多種多様であり、任意の適切な方法が採用されてよい。例えば、DLL(Delay―Locked Loop)を用いて、受信したC/Aコードに対するレプリカC/Aコードの相関値がピークとなるコード位相を追尾する方法であってよい。
【0022】
測位信号受信部20は、GPS衛星と車両(正確には移動体用測位装置1)との間の擬似距離ρを算出する。擬似距離ρは、時計誤差(クロックバイアス)や電波伝搬速度変化による誤差を含んでいる。擬似距離ρは、例えば次式(1)により算出される。式中、Nは、GPS衛星と車両との間のC/Aコードのビット数に相当し、レプリカC/Aコードの位相及び移動体位置測位装置1内部の受信機時計に基づいて算出される。なお、数値300は、C/Aコードが、1ビットの長さが1μsであり、1ビットに相当する長さが約300m(1μs×光速)であることに由来する。
【0023】
ρ=N×300 …(1)
【0024】
また、測位信号受信部20は、衛星信号の搬送波位相を測定する機能を備え、内部で発生させたレプリカキャリアを用いて、ドップラーシフトした受信搬送波のドップラー周波数変化量Δfを測定する。ドップラー周波数変化量Δfは、レプリカキャリアの周波数frと既知の搬送波周波数fc(1575.42MHz)の差分(=fr−fc)として測定される。係る機能は、レプリカキャリアを用いてキャリア相関値を演算して受信キャリアを追尾するPLL(Phase-Locked Loop)により実現されてよい。
【0025】
位置演算部22は、まず、GPS衛星の位置(以下、「衛星位置」という)を算出する。具体的には、航法メッセージの衛星軌道情報及び現在の時間に基づいて、GPS衛星iの、ワールド座標系における現在位置(Xi、Yi、Zi)を算出する(符号iは、複数の衛星についてこのような演算を行なう中で、i番目の衛星であることを示す)。GPS衛星は、その運動が地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定され、その軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であるため、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで軌道面におけるGPS衛星の位置が計算できる。そして、ワールド座標系におけるGPS衛星iの位置(Xi、Yi、Zi)は、GPS衛星iの軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面におけるGPS衛星iの位置を3次元的に回転座標変換することで得られる。
【0026】
そして、複数のGPS衛星の位置と、対応する観測擬似距離ρに基づいて、車両の位置(Xu,Yu,Zu)を測位する。車両の位置は、3つのGPS衛星に対して得られる位置及び観測擬似距離ρに基づいて、三角測量の原理で導出される。観測擬似距離ρは、前述のように時計誤差を含んでいるため、4つ目のGPS衛星に対して得られる観測擬似距離ρ及び衛星位置を用いて、時計誤差成分を除去する。
【0027】
なお、位置演算部22の演算機能はこのような単独測位に限られず、干渉測位(既知の点に設置された固定局での受信データを併用する方式)であってもよい。干渉測位の場合、上述の如く固定局及び車両にてそれぞれ得られる観測擬似距離ρの一重位相差や2重位相差等を用いて車両の位置が測位される。
【0028】
速度演算部24は、ドップラー周波数変化量ΔfとGPS衛星の速度ベクトルViに基づいて、車両の速度ベクトルVを算出する。具体的には、まずドップラー周波数変化量Δfに基づいて、GPS衛星iと車両との間の相対速度ベクトル(V−V1)を、例えば次式(2)を用いて算出する。
【0029】
Δf=fc×{(V−V1)・(Xu−Xi,Yu−Yi,Zu−Zi)/√{(Xu−Xi)+(Yu−Yi)+(Zu−Zi)} …(2)
【0030】
そして、GPS衛星iと車両の相対速度ベクトル(V−V1)と、GPS衛星iの速度ベクトルViとの差分ベクトルを、車両の速度ベクトルVとして算出する。GPS衛星iの速度ベクトルViは、今回の衛星位置から前回の衛星位置を差し引いて、測位演算周期で除することにより求めることができる。
【0031】
投影可否判定部26は、投影部28により算出される投影速度ベクトルの採用の可否を判定する。
【0032】
先に投影部28について説明する。投影部28は、地図データベース32が有する複数のリンクのうち、車両が沿って走行していると判定されるリンクに車両の速度ベクトルVを投影し、投影速度ベクトルV#を算出する。車両が沿って走行していると判定されるリンクについての情報(特にリンクの方位)は、マップマッチング部30から提供される。マップマッチング部30では、ノードとリンクで道路が表現された地図データベース32と、各種センサ(GPS、INS用センサ、車輪速センサ、舵角センサ等)の情報とから、地図データベース32上のどの位置を走行しているかを特定している。
【0033】
図3は、車両の速度ベクトルVをリンクWに投影して投影速度ベクトルV#を得る様子を示す図である。このような投影速度ベクトルV#を用いることにより、方位誤差を減少させることができる。図4は、係る様子を示す図である。
【0034】
投影可否判定部26は、例えば以下の条件の全て、又は一部を満たす場合に、地図データベース32が有する特定のリンクに沿って車両が走行していると判定し、従って、投影速度ベクトルV#を採用すべきと判定する。リンクの曲率については、地図データベース32に含まれるものとしてもよいし、前後数点のノードから推定してもよい。
(1)マップマッチング部30が特定のリンクにマッチングしている。
(2)車速が所定値以上である。
(3)リンクの長さがある値以上である。
(4)リンクの端点からの距離がある値以上である。
(5)リンクに対応する曲率がある値以下である。
【0035】
一方、投影速度ベクトルV#を採用すべきと判定しなかった場合は、速度演算部24が出力した速度ベクトルVを用いてもよいし、マップマッチング部30において把握されている速度ベクトルを用いてもよい。
【0036】
図5は、本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【0037】
まず、位置演算部22が車両の位置(Xu,Yu,Zu)を、速度演算部24が車両の速度ベクトルVを、それぞれ算出する(S100)。
【0038】
次に、投影可否判定部26が、前述のように投影速度ベクトルV#の採用の可否を判定する(S102)。
【0039】
投影速度ベクトルV#を採用すべきと判定した場合は、投影部28に投影を行なわせ、位置演算部22により算出された車両の位置(Xu,Yu,Zu)、及び投影部28が出力した投影速度ベクトルV#を、最終的に出力する(S104)。
【0040】
一方、投影速度ベクトルV#を採用すべきでないと判定した場合は、位置演算部22により算出された車両の位置(Xu,Yu,Zu)、及び速度演算部24により算出された車両の速度ベクトルVを、最終的に出力する(S106)。
【0041】
以上説明した本実施例の移動体用測位装置1によれば、車両がリンクに沿って走行していると判定されるときには、投影部28が出力した投影速度ベクトルV#を最終的に出力するため、より正確な車両の速度ベクトルを出力することができる。
【0042】
<第2実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第2実施例に係る移動体用測位装置2について説明する。
【0043】
図6は、本発明の第2実施例に係る移動体用測位装置2のシステム構成例である。移動体用測位装置2は、第1実施例に係る移動体用測位装置1が有する構成(図では符号のみ記載した)に加えて、速度ベクトル積算部40と、信頼性判定部42と、を有する。
【0044】
速度ベクトル積算部40は、例えば、第1実施例の移動体用測位装置1により最終的に出力された速度ベクトルV又は投影速度ベクトルV#にサンプル間隔を乗じて、当該サンプリング回における車両の位置変化(ΔX,ΔY,ΔZ)を算出する。そして、繰り返しこのような処理を行なう中で、前回に第1実施例の移動体用測位装置1により最終的に出力された車両の位置(Xu(n−1),Yu(n−1),Zu(n−1))に、係る車両の位置変化を加算して、今回の車両の位置(Xu*,Yu*,Zu*)を算出する(次式(3)参照)。
【0045】
(Xu*,Yu*,Zu*)=(Xu(n−1)+ΔX,Yu(n−1)+ΔY,Zu(n−1)+ΔZ) …(3)
【0046】
ここで、速度ベクトルV又は投影速度ベクトルV#をそのまま用いるのではなく、過去の複数のサンプル回における速度ベクトルに適切な重みを付けて加重平均したものを用いてもよい。
【0047】
信頼性判定部42は、位置演算部32により算出された車両の位置(Xu,Yu,Zu)と、速度ベクトル積算部40により算出された車両の位置変化を加味して得られた車両の位置(Xu*,Yu*,Zu*)と、のいずれの信頼性が高いかを判定する。
【0048】
ここで、GNSSで算出された位置、及び速度ベクトルは以下のような特徴を有する。(A)位置に関しては、車速が小さい時ほどマルチパスの影響を受けやすい。(B)速度ベクトル突の方が、位置よりもマルチパスの影響を受けにくい。従って、信頼性判定部42は、例えば以下の条件の全て、又は一部を満たす場合に、速度ベクトル積算部40により算出された移動体の位置変化を加味して得られた車両の位置(Xu*,Yu*,Zu*)の信頼性が高いと判定する。
(1)車速がある値以下である。
(2)速度ベクトルの算出に用いた衛星の数がある値以上である。
(3)速度ベクトルの算出における残差平方和がある値以下である。
(4)速度ベクトルの算出に用いた衛星群のDOP(Dilution of Precision;精度低下率)がある値以下である。
【0049】
図7は、本発明の第2実施例に係る移動体用測位装置2により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。S100〜S106については第1実施例と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0050】
位置演算部22により算出された車両の位置(Xu,Yu,Zu)、及び投影速度ベクトルV#、又は速度ベクトルVが出力されると(S100〜106)、位置演算部32により算出された車両の位置(Xu,Yu,Zu)と、速度ベクトル積算部40により算出された車両の位置変化を加味して得られた車両の位置(Xu*,Yu*,Zu*)と、のいずれの信頼性が高いかを判定する(S108)。
【0051】
位置演算部32により算出された車両の位置(Xu,Yu,Zu)の信頼性が高いと判定した場合は、位置演算部32により算出された車両の位置(Xu,Yu,Zu)を、車両の位置として出力する(S110)。
【0052】
一方、速度ベクトル積算部40により算出された移動体の位置変化を加味して得られた車両の位置(Xu*,Yu*,Zu*)の信頼性が高いと判定した場合は、速度ベクトル積算部40により算出された車両の位置変化を加味して得られた車両の位置(Xu*,Yu*,Zu*)を、車両の位置として出力する(S112)。
【0053】
なお、S110又はS112において、車両の速度ベクトルも併せて出力される。
【0054】
以上説明した本実施例の移動体用測位装置2によれば、単独測位等により算出された車両の位置と、速度ベクトルを積算して算出された車両の位置とのうち信頼性の高い方を出力するため、マルチパス等の影響を抑制することができる。
【0055】
<第3実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第3実施例に係る移動体用測位装置3について説明する。
【0056】
図8は、本発明の第3実施例に係る移動体用測位装置3のシステム構成例である。移動体用測位装置3は、第1実施例に係る移動体用測位装置1が有する構成(図では符号のみ記載した)に加えて、慣性センサ50と、INS測位演算部52と、カルマンフィルタ54と、車輪速センサ56と、を有する。
【0057】
慣性センサ50は、例えば、加速度センサ(Gセンサ)やヨーレートセンサである。
【0058】
INS測位演算部52は、慣性航法により車両の位置(Xui,Yui,Zui)を算出する。慣性航法による車両位置の測位方法は、多種多様であり、如何なる方法であってもよい。例えば車両位置は、加速度センサの出力値に、姿勢変換、重力補正、コリオリ力補正を行って2回積分し、当該2回積分により得られる移動距離を、車両位置の前回値に加算することで導出されてよい。INS測位演算部52により算出される車両位置及び車両速度(INS測位結果)は、測位周期毎に、上述のる移動体用測位装置1が有する構成による車両位置及び速度(GPS測位結果)との差分値が取られ、当該差分値がカルマンフィルタ54に入力され、各種の補正量が決定される。また、車輪速センサ56により検出される速度との差分もカルマンフィルタ54に入力されてよい。
【0059】
カルマンフィルタ54は、INS測位結果とGPS測位結果のそれぞれの信頼性に基づき、確率的に最も正しい値となるように、各種補正量ηを推定する。カルマンフィルタ54における状態方程式は、次式(4)のように設定される。式中、η(tn)は、時刻t=tnでの状態変数を表わす。また、u(tn−1)及びw(tn−1)は、それぞれ、時刻t=tn−1での既知入力及び外乱(システム雑音:正規性白色雑音)である。η(tn)は、INS測位による車両位置や速度、車両姿勢の誤差δr(INS)、δv(INS)、δε(INS)、ジャイロセンサのバイアス誤差δb、加速度センサのドリフト誤差δd、タイヤの半径誤差δs、及び、GPS受信機内の受信機時計の誤差δCtを含む。
【0060】
η(tn)=F・η(tn−1)+G・u(tn−1)+Γ・w(tn−1) …(4)
【0061】
ある状態において観測量z(前述の差分値)は、η(tn)との間において、次式(5)のような関係を有する。式中、Hは状態空間を観測空間に線形写像する役割を担う観測モデルで、v(tn)は、ガウス分布に従う雑音である。
【0062】
z(tn)=H(tn)・η(tn)+v(tn) …(5)
【0063】
INS測位演算部52は、カルマンフィルタ54の出力に基づいて、姿勢変換、重力補正、コリオリ力補正等の補正を行なう。この結果、INS測位の精度を向上させることができる。
【0064】
本実施例の移動体用測位装置3によれば、より精度の高いINS測位を行なうことができる。
【0065】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1、2、3 移動体用測位装置
10 GPSアンテナ
20 測位信号受信部
22 位置演算部
24 速度演算部
26 投影可否判定部
28 投影部
30 マップマッチング部
32 地図データベース
40 速度ベクトル積算部
42 信頼性判定部
50 慣性センサ
52 INS測位演算部
54 カルマンフィルタ
56 車輪速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星電波を用いて移動体の位置を算出する位置演算手段と、
衛星電波又は慣性航法により前記移動体の速度ベクトルを算出する速度演算手段と、
道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、
前記速度ベクトル算出手段により算出された速度ベクトルを、前記複数のリンクのうち移動体が存すると推定されるリンクに投影した投影速度ベクトルを出力する投影手段と、
前記投影手段により出力される投影速度ベクトルの採用の可否を判定する投影可否判定手段と、を備え、
該投影可否判定手段により前記投影速度ベクトルを採用すべきと判定された場合に、前記投影速度ベクトルを前記移動体の速度ベクトルとして出力することを特徴とする、
移動体用測位装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体用測位装置であって、
前記投影可否判定手段の判定結果に基づいて出力された前記移動体の速度ベクトルを積算して、前記移動体の位置変化を算出する速度ベクトル積算手段と、
前記位置演算手段により算出された移動体の位置と、前記速度ベクトル積算手段により算出された前記移動体の位置変化を加味して得られた移動体の位置と、のいずれの信頼性が高いかを判定する信頼性判定手段と、を備え、
該信頼性判定手段により、信頼性が高いと判定された方の移動体の位置を出力することを特徴とする、
移動体用測位装置。
【請求項3】
請求項1に記載の移動体用測位装置であって、
慣性航法により前記移動体の位置及び速度を算出する慣性航法測位演算手段と、
該慣性航法測位演算手段により算出された前記移動体の位置及び速度と、衛星電波により算出された前記移動体の位置及び速度との差分が入力されるカルマンフィルタと、を備え、
前記慣性航法測位演算手段は、前記カルマンフィルタの出力に応じて補正を行なうことを特徴とする、
移動体用測位装置。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−223684(P2010−223684A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69766(P2009−69766)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】