説明

積層体およびその製造方法、並びにそれを用いた機能素子

【課題】 基体上に最適なバッファー層を形成することで、より結晶性に優れたアナターゼ相を含み、高い屈折率と低い比抵抗を有する、酸化チタンを主成分としてニオブなどの添加元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層を有する積層体を提供し、この積層体を具備した半導体発光素子、あるいは太陽電池などの機能素子を提供する。
【解決手段】 基体上に、酸化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層が形成され、そのバッファー層上に酸化チタンを主成分としニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層が形成されていることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびその製造方法、並びにそれを用いた機能素子に関する。より詳しくは、基体上に酸化ガリウムなどの酸化物薄膜、あるいは酸窒化ガリウムなどの酸窒化物薄膜からなるバッファー層が一旦形成され、該バッファー層上に酸化チタンを主成分としてニオブなどを含み、アナターゼ相を含む結晶質であって、高い屈折率と低い比抵抗を示す透明導電膜が形成された積層体およびその製造方法に関する。また、上記の積層体を具備した機能素子、特に半導体発光素子および太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有するため、フラットパネルディスプレイや太陽電池、その他各種受光素子の電極などに利用されているほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケースなどのための各種の防曇用の透明発熱体としても利用されている。
【0003】
実用的な透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)系、酸化亜鉛(ZnO)系、酸化インジウム(In)系の薄膜がある。酸化スズ系では、アンチモンをドーパントとして含むもの(ATO膜)やフッ素をドーパントとして含むもの(FTO膜)、酸化亜鉛系では、アルミニウムをドーパントとして含むもの(AZO膜)やガリウムをドーパントとして含むもの(GZO膜)がよく知られている。しかし、最も工業的に広く利用されている透明導電膜は、酸化インジウム系である。その中でもスズをドーパントとして含む酸化インジウムは、ITO(Indium−Tin−Oxide)膜と称され、特に低抵抗の膜が容易に得られることから、幅広く利用されている。
【0004】
また、透明導電膜の多くは、n型の縮退した半導体である。このためキャリアとなるのは電子であり、キャリア濃度ならびに移動度が電気伝導を支配する。従来の透明導電膜の開発では、ITO膜をより低抵抗化させるため、キャリア濃度を高めることに注力されてきた。
結晶質のITO膜は、スズが固溶した酸化インジウム相からなる。この酸化インジウム相は、常圧あるいはそれよりも低い圧力で安定な立方晶系の結晶相のビッグスバイト(bixbyte)と呼ばれる結晶構造をとる。したがって、結晶質のITO膜は、酸素欠損、ならびにビックスバイト構造における3価のインジウムの格子点に4価のスズが置き換わることによってキャリアが多量に生成する。スズはドーパントとして最もキャリア濃度を高めることが可能な元素であり、酸化スズ換算で10重量%添加すると最も低抵抗になることが知られている。このようにキャリア濃度を高められた結晶質のITO膜は、極めて優れた特性を示し、あらゆる用途で使用されている。
【0005】
しかし、近年、世界的にインジウム金属の枯渇が危惧されるとともに、その価格が急騰し、ITO膜の代替となるインジウムを使用しない透明導電膜の開発が期待されるようになっている。また、電子デバイスが多様化する中で、ITO膜より高い屈折率を有しITO膜に匹敵する低い電気抵抗を示す透明導電膜が必要とされるようになってきた。
【0006】
このような透明導電膜の用途としては、青色LEDや太陽電池がその代表例に挙げられる。青色LEDの発光層には窒化ガリウム層を用いるが、その窒化ガリウム層の光学的な特徴は、屈折率が約2.4と高い点である。一方、発光層からの光の取り出し効率を高めるためには、透明導電膜と窒化ガリウム層との屈折率の整合性をよくする必要があり、透明導電膜には2.4に近い屈折率が求められる。
この屈折率は物質固有の値であり、一般に知られる酸化インジウムの屈折率は1.9〜2.0と低い。さらに、発光層に窒化ガリウム層を使用する場合には透明導電膜には低い表面抵抗が求められる。その理由としては、窒化ガリウム層の電気的な特徴である膜面方向の電流拡散が十分でないことがあげられる。対して、酸化インジウム系の透明導電膜のキャリア濃度を高めて電気抵抗を下げようとすると、その屈折率は1.9よりもさらに低下してしまう。このように、ITO膜は、ドーパントであるスズによってキャリア濃度が著しく高められた材料であるが故に、低抵抗の結晶膜を得ようとすると屈折率が低下してしまうことが問題であった。
【0007】
ITO膜よりも優れた特性が透明導電膜に要求される用途としては、他に太陽電池が挙げられる。太陽電池の表面電極には、前記FTO膜が広く用いられているが、より屈折率の高い透明導電膜を用いれば、太陽光を効率よく取り込むことができる。また、裏面電極の一部として用いる場合には、太陽光の取り込み効率を高め、モジュール全体の屈折率調整を行うために屈折率を高めた透明導電膜を用いることがあるが、この場合も、青色LED用途と同じ理由から、FTO膜あるいはITO膜では十分な効果が得られないため、より屈折率の高い透明導電膜が有用である。
【0008】
ITO膜より屈折率の高い透明導電膜としては、酸化インジウムより高い屈折率を示す酸化チタンに5価以上の元素を添加した透明導電膜が検討されている。
例えば、特許文献1には、透明かつ導電性で、安定して供給可能であって、かつ耐薬品性等に優れた素材で構成した透明金属材料ならびに透明電極が提案されている。ここには、アナターゼ型の結晶構造からなる金属酸化物層を形成させ、金属酸化物層をM:TiOで構成することにより、内部透過率を維持しつつ、低抵抗率を発現させること、ならびにアナターゼ型TiOのTiサイトを他の原子(Nb、Ta、Mo、As、Sb、Wなど)で置換した結果得られるM:TiOを作製することにより、透明度を維持しつつ、電気伝導度を著しく向上できる旨が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献1では、酸化チタン系透明導電膜を青色LEDの透明電極として使用することが提案されている。特に、アナターゼ型TiOの屈折率は2.4程度であるので、青色LEDの窒化ガリウム層との屈折率の整合性を図るうえでは最適である。また、特許文献1には、ZnO膜、ZrO膜、SrTiO膜、MgO膜、LaAlO膜、CeO膜、ZrO膜、またはAl膜の配向膜をあらかじめ基板に付けておき、その上にTiOを成膜することで、その配向膜がバッファー膜(バッファー層)として機能すると言及されている。しかし、これについては「考えられる」と記載されていること、ならびに配向膜に関する実施例がないことから、推測の域を出ていない。
【0010】
特許文献2には、アナターゼ構造を有する二酸化チタン膜である金属酸化物膜であって、二酸化チタン膜に、Sn、Hf、Si、Zr、PbおよびGeからなる群から選ばれる1または2以上のドーパント、ならびに、Nb、Ta、Mo、As、SbおよびWからなる群から選ばれる1または2以上のドーパントが添加されていることを特徴とする金属酸化物膜が提案され、この構成によれば、屈折率および透過領域となる波長域をSn、Hf、Si、Zr、PbおよびGeからなる群から選ばれる1または2以上のドーパント濃度によって制御しつつ、Nb、Ta、Mo、As、SbおよびWからなる群から選ばれる1または2以上のドーパントによって抵抗率を小さくできるため、優れた光学的性質を有し、かつ低抵抗率である金属酸化物膜が得られる旨が記載されている。
【0011】
また、特許文献3には、Nb、Ta、Mo、As、Sb、Al、Hf、Si、Ge、Zr、W、Co、Fe、Cr、Sn、Ni、V、Mn、Tc、Re、PおよびBiからなる群から選ばれる1または2以上のドーパントが添加された酸化チタンからなる前駆体層を、基板上に形成する工程と、前駆体層を還元雰囲気下でアニールして金属酸化物層を形成する工程を有することを特徴とする導電体の製造方法が提案されており、これによれば導電性に優れるとともに、透明性が良好な導電体を提供できる旨が記載されている。
【0012】
さらに、特許文献4には、導電性が良好であるとともに、耐熱性に優れた導電体およびその製造方法が提案され、特に導電体については、基板上に、Nb、Ta、Mo、As、Sb、W、N、F、S、Se、Te、Cr、Ni、Tc、Re、PおよびBiからなる群から選ばれる1または2以上のドーパントが添加された酸化チタンからなる層が2層以上設けられており、該2層以上のうち少なくとも1層は、チタンとドーパントの原子数合計に対するドーパントの原子数の割合が0.01〜4原子%である第2層であり、該第2層と基板との間に、該第2層よりも、前記チタンとドーパントの原子数合計に対するドーパントの原子数の割合が多い第1層が設けられていることを特徴とすることが記載されている。
しかし、特許文献1〜4に対して、一般には、基体上へのアナターゼ構造の酸化チタン薄膜の直接形成は困難であることが知られている。例えば、非特許文献1に記載されているSrTiOなど、限られた基板を用いた場合のみ達成可能であることが開示されている。
【0013】
一方、酸化チタン系の透明導電膜の高い屈折率を活用し、機能素子、特に半導体発光素子の透明電極として使用することも検討されている。
例えば、特許文献5には、青色LEDの発光層として知られるAlGaInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)と、前記AlGaInN上に形成され、金属酸化物からなる酸化物材料とを有し、前記金属酸化物は、TiO等であることを特徴とする機能素子が提案されており、優れた物理的・化学的性質を備えるIII族窒化物上に、界面での反射が少なく、耐薬品性および耐久性を兼ね備えた膜を一体形成して構成される機能素子が得られる旨が記載されている。
【0014】
また、特許文献6には、サファイア基板、窒化アルミニウム(AlN)から成るバッファー層、nコンタクト層、nクラッド層、発光波長470nmの多重量子井戸層、pクラッド層、pコンタクト層が形成されており、酸化ニオブチタンから成る、凹凸を有する透光性電極が、nコンタクト層上に形成され、さらに電極上の一部には、電極パッドが形成されているIII族窒化物系化合物半導体発光素子が提案されている。透光性電極は、酸化チタンに3%のニオブを添加して形成しているので、波長470nmに対する屈折率がpコンタクト層とほぼ同等となり、pコンタクト層と透光性電極との界面での全反射がほぼ回避でき、加えて凹凸により、光取り出し率が30%向上した旨が記載されている。
【0015】
しかし、特許文献5または6には、窒化ガリウム上にニオブ添加酸化チタン薄膜がエピタキシャル成長する旨の記載はあるが、アナターゼ構造の酸化チタン薄膜が直接形成されている事実は記載されていない。一方、特許文献4の発明者らによる非特許文献2に記載されているように、窒化ガリウム上には、アナターゼ構造ではなく、導電性の低いルチル構造を有するニオブ添加酸化チタン薄膜がエピタキシャル成長することが報告されている。
【0016】
すなわち、窒化ガリウム上に、導電性の高いアナターゼ構造の、ニオブなどを添加した酸化チタン薄膜を、例えばエピタキシャル成長などによって、形成することが依然として課題となっていた。さらには、基体となる機能素子の最表面層の結晶構造によらず、その最表面層上に、導電性の高いアナターゼ構造の、ニオブなどを添加した酸化チタン薄膜を形成することが切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】再表2006−016608号広報
【特許文献2】特開2008−50677号公報
【特許文献3】特開2008−84824号公報
【特許文献4】特開2009−231213号公報
【特許文献5】再表2006−073189号公報
【特許文献6】特開2008−294306号公報
【特許文献7】特開2002−329669号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】「Ta−doped Anatase TiO2 Epitaxial Film as Transparent Conducting Oxide」、Japanese Journal of Applied Physics、2005年、第44巻、p.L1063−L1065
【非特許文献2】「Heteroepitaxial Growth of Rutile TiO2 on GaN(0001)by Pulsed Laser DepositionJapanese」、Japanese Journal of Applied Physics、2005年、第44巻、p.L1503−L1505
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、基体上に、最適なバッファー層を形成することによって、より結晶の優れたアナターゼ相を含み、高い屈折率と低い比抵抗を得ることにあり、そのため酸化チタンを主成分としてニオブなどの添加元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層を含む積層体及びその製造方法を提供するものである。
さらには、この積層体を具備した半導体発光素子、あるいは太陽電池などの機能素子を提供するものである。特に、青色LEDの発光層である窒化ガリウム上に直接形成するのは困難とされる、結晶性の優れたアナターゼ相を含む透明導電膜の形成を可能とすることにより、光の取り出し効率に優れた半導体発光素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、基体上に、直接ではなく、酸化ガリウム薄膜などの酸化物薄膜、あるいは酸窒化ガリウムなどの酸窒化物薄膜からなるバッファー層を一旦形成することによって、そのバッファー層上に形成される、酸化チタンを主成分としてニオブなどの添加元素を含む酸化物薄膜が、透明導電膜として優れた特徴を示すことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0021】
すなわち、本発明の第1の発明は、基体上に、酸化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層を有し、そのバッファー層上に酸化チタンを主成分とし、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層が形成されていることを特徴とする積層体である。
【0022】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるバッファー層が、酸化窒化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなる酸窒化物薄膜である積層体である。
【0023】
本発明の第3の発明は、第1、2の発明における酸化チタンを主成分とする透明導電膜層が、アナターゼ相を含む積層体、あるいはアナターゼ相単相からなる積層体であって、さらにアナターゼ相単相が12回対称のエピタキシャル成長することを特徴とするものである。
【0024】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明における酸化チタンを主成分とし、ニオブを含む酸化物薄膜において、ニオブ含有量がNb/(Ti+Nb)で表される原子数比で0.1〜10原子%、好ましくは2〜6原子%である積層体である。
【0025】
本発明の第5の発明は、第1から第3の発明における酸化チタンを主成分とし、タンタルを含む酸化物薄膜において、タンタル含有量がTa/(Ti+Ta)で表される原子数比で0.1〜10原子%、好ましくは3〜7原子%である積層体である。
【0026】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明における基体の最表面層が、窒化ガリウム層、窒化ガリウムインジウム層、窒化ガリウムインジウムアルミニウム層から選ばれる薄膜層である積層体である。
【0027】
本発明の第7の発明は、第1、2の発明のおけるバッファー層が、結晶質であり、さらに単斜晶型β−Ga構造の結晶相である積層体である。
【0028】
本発明の第8の発明は、第1、2の発明におけるバッファー層の厚みが、0.1〜50nm、好ましくは0.1〜1nmである積層体である。
【0029】
本発明の第9の発明は、基体上に、酸化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層が形成され、そのバッファー層上に酸化チタンを主成分とし、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層を形成する積層体の製造方法で、少なくとも透明導電膜が、ヘリコン波励起プラズマスパッタリング法で成膜されることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の第10の発明は、第9の発明におけるバッファー層が、酸化窒化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜、ガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなる酸窒化物薄膜である積層体の製造方法である。
【0031】
本発明の第11の発明は、第1から第8の発明のいずれかの積層体を具備している機能素子である。
【0032】
本発明の第12の発明は、第1から第8の発明のいずれかの積層体を、少なくとも発光層である(Al1−x−y−zInGa)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)層を基体の最表面層とし、その(Al1−x−y−zInGa)N層上に具備する半導体発光素子である。
【0033】
本発明の第13の発明は、第1から第8の発明のいずれかの積層体を、少なくとも光電変換層上に形成した太陽電池である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の積層体においては、基体上に、酸化ガリウムなどの酸化物薄膜、あるいは酸窒化ガリウムなどの酸窒化物薄膜などの、バッファー層を一旦形成することによって、そのバッファー層上に形成される酸化チタンを主成分としてニオブなどの添加元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層が、より結晶性の優れたアナターゼ相を含み、高い屈折率と低い比抵抗を示す効果が得られる。
【0035】
特に、青色LEDの発光層である窒化ガリウム層上に、単斜晶型のβ−Ga構造を有する結晶質の酸化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、ガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなる薄膜を、バッファー層として一旦形成することによって、酸化チタンを主成分としてニオブなどの添加元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜がアナターゼ相を含み、そのアナターゼ相を、例えば12回対称、すなわち、特定の結晶面が面直軸周りに30°回転させる毎に幾何学的に同じ面が現れるように、エピタキシャル成長させるものである。
【0036】
一例として、図1に、窒化ガリウム層の(0001)面上のアナターゼ相の(001)面における12回対称のエピタキシャル配向関係を示す。図1に示されているように、正方晶のアナターゼ相の(001)面は、六方晶の窒化ガリウム層の(0001)面に対して格子整合を有する配置は2種類あり、それらは、30°ずれた配置関係にある。すなわち、アナターゼ相の(001)面は、窒化ガリウム層(0001)面上では12回対称の配置をとることがわかる。
【0037】
以上のように、発光層である窒化ガリウム層との屈折率の整合性をとることができ、窒化ガリウム層と、酸化チタンを主成分としてニオブなどの添加元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層の界面での光の内部反射を防ぐことができ、光の取り出し効率の向上を図ることが可能となる。
また、透明導電膜を太陽電池の裏面電極の一部として用いる場合、従来の透明導電膜では太陽光の取り込み効率が低いという問題があったが、本発明の屈折率を高めた透明導電膜を、従来の透明導電膜を代替して適用することにより、太陽光の取り込み効率を高めるという優れた効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】窒化ガリウム層の(0001)面上のアナターゼ相の(001)面における12回対称のエピタキシャル配向関係を示す図である。
【図2】本発明の半導体発光素子の一例を模式的に示した断面図である。
【図3】実施例1の透明導電膜の結晶性を示すX線回折図である。
【図4】実施例7の透明導電膜のφスキャンによるアナターゼ相(101)面内配向測定結果を示す図である。
【図5】実施例8および比較例1の透明導電膜の結晶性を示すX線回折図である。
【図6】実施例9の透明導電膜の結晶性を示すX線回折図である。
【図7】実施例9の透明導電膜のφスキャンによるアナターゼ相{104}面内配向測定結果を示す図である。
【図8】実施例15の透明導電膜の結晶性を示すX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の積層体について詳細に説明する。
〔積層体〕
1.第1の積層体
本発明の第1の積層体は、基体上に、酸化ガリウム薄膜、ガリウムおよびインジウムならびに酸素からなる酸化物薄膜、ガリウム、インジウムおよびアルミニウムならびに酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層(以下、第1のバッファー層と記載することがある)が形成され、そのバッファー層上に酸化チタンを主成分とし、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜(以下、酸化チタンを主成分とする透明導電膜と記載することがある)層を形成した積層体である。
【0040】
1−1.酸化チタンを主成分とする透明導電膜
本発明の第1の積層体において、酸化チタンを主成分とする透明導電膜は、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましい。これ等の添加元素を、酸化チタン膜に添加することによって、キャリアとなる電子濃度(以下、キャリア濃度と記載することがある)を高める効果が得られる。
【0041】
上記添加元素の中では、特に、ニオブが好ましく、その含有量はNb/(Ti+Nb)で表される原子数比で0.1〜10原子%が好ましく、2〜6原子%がより好ましい。Nb添加量が0.1原子%未満であると、キャリア濃度が十分高められずに低い比抵抗を示さなくなり、10原子%を超えると、キャリアとなる電子の移動度(以下、キャリア移動度と記載することがある)が十分高められずに低い比抵抗を示さなくなるため好ましくない。
【0042】
また、ニオブの他には、タンタルも好ましく、その含有量はTa/(Ti+Ta)で表される原子数比で0.1〜10原子%が好ましく、3〜7原子%がより好ましい。Ta添加量が0.1原子%未満であると、Nb同様、キャリア濃度が十分高められずに低い比抵抗を示さなくなり、10原子%を超えると、キャリア移動度が十分高められずに低い比抵抗を示さなくなるため好ましくない。
【0043】
さらに、酸化チタンを主成分とする透明導電膜は、アナターゼ相を含むことが好ましく、より低い比抵抗を得るにはアナターゼ単相からなる結晶質であることが好ましい。このアナターゼ相は、正方晶型結晶構造をとり、さらに構造を細かくみるとTiO八面体構造によって構成されている。TiO八面体構造に着目すると、アナターゼ相は、一つの八面体の四つの稜が他の八面体に共有されるため、Ti間の距離が短くなり、電気伝導性には有利であると考えられる。実際に、アナターゼ相の電子の有効質量は、約1m程度(mは、真空中における自由電子の質量)と比較的小さいことが報告されている。一般に、電子の有効質量は電子の見掛けの質量を表しており、有効質量が小さいほど、電子は透明導電膜の結晶内を移動し易く、導電性が高くなることを示している。ITO膜の有効質量は0.3〜0.35mであることが報告されており、アナターゼ相はITO膜に匹敵する小さい値をとることから、上記の考えを支持していると判断される。
【0044】
1−2.第1のバッファー層
第1のバッファー層としては、
(a)酸化ガリウム薄膜、
(b)ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、
(c)ガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜
の中から選択される少なくとも1種以上からなる薄膜が用いられる。
この第1のバッファー層は、その基体の種類によって、非晶質あるいは結晶質となるよう適宜選択すればよい。ただし、基体の最表面層が窒化ガリウム層であり、その窒化ガリウム層上で、酸化チタンを主成分とする酸化物薄膜を結晶性の高いアナターゼ相とするためには、第1のバッファー層は結晶質であることが好ましい。
【0045】
さらに、窒化ガリウム層上に形成した第1のバッファー層が、単斜晶型のβ−Ga構造を有する結晶質であることが好ましい。この場合には、第1のバッファー層上に形成された、酸化チタンを主成分とする透明導電膜は、12回対称構造を有するアナターゼ相を含むエピタキシャル薄膜を形成する効果が得られるため、より好ましい。
【0046】
1−3.第1のバッファー層、および酸化チタンを主成分とする透明導電膜層の製造方法
本発明の第1の積層体を構成する第1のバッファー層、および酸化チタンを主成分とする透明導電膜層は、公知技術である種々の成膜方法を用いて形成することが可能である。
具体的には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、特許文献5に記載のPLD(Pulse Laser Deposition)法、またはクラスターイオンビーム法などの物理的成膜方法、あるいは、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スプレー法、ゾルゲル法、またはMOD(Metal Organic Decompositon)法などの化学的成膜法によって形成することができる。
【0047】
このうち、本発明の第1の積層体を作製する方法としては、工業的な観点から、特に、スパッタリング法、イオンプレーティング法が好ましい。特許文献5に記載のPLD法は、大面積成膜には不利である。
スパッタリング法に関しては、具体的には、直流スパッタリング法、直流パルススパッタリング法、あるいは高周波スパッタリング法が挙げられるが、特許文献7に記載のヘリコン波励起プラズマスパッタリング法は、結晶性に優れた薄膜形成が可能な成膜方法であるため好適である。
【0048】
第1のバッファー層を形成する場合、ターゲットとしては、酸化ガリウム、ガリウムおよびインジウムからなる酸化物、あるいは、ガリウム、インジウムおよびアルミニウムからなる酸化物の焼結体ターゲットが好ましく、特に、還元処理あるいはホットプレス法による焼結などを施して得られた、導電性を高めた酸化物焼結体ターゲットが特に好ましい。金属ガリウムは融点が約30℃と低いため、そのままターゲットとして用いることは困難であるが、ガリウムおよびインジウムからなる金属、ならびにガリウム、インジウムおよびアルミニウムからなる金属のターゲットにおいては、組成によっては融点が高くなるため適用可能な場合がある。
【0049】
酸化チタンを主成分とする透明導電膜層を、スパッタリング法によって成膜する場合のターゲットとしては、チタンを主成分とし、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む金属ターゲット、あるいは、上記金属元素の酸化物を混合焼結して得られる酸化物焼結体ターゲットを用いることが可能である。ただし、上記金属ターゲットを用いる場合、スパッタリングによる成膜の進行とともに、ターゲット表面には導電性の低い酸化物被膜が形成され、成膜レートが低下していく問題がある。したがって、酸化物焼結体ターゲットのほうが好ましい。特に、還元処理あるいはホットプレス法による焼結などを施した、導電性を高めた酸化物焼結体ターゲットが特に好ましい。
【0050】
本発明の第1の積層体を構成する第1のバッファー層あるいは酸化チタンを主成分とする透明導電膜層を、各種スパッタリング法で形成する場合、スパッタリングガスとして不活性ガスと酸素、特にアルゴンと酸素からなる混合ガスを用いることが好ましい。また、スパッタリング装置のチャンバー内のスパッタリングガス圧力を0.1〜5Paとして成膜することが好ましく、特に0.1〜1.0Paの圧力として成膜することが好ましい。
【0051】
酸化チタンを主成分とする透明導電膜をスパッタリング法で成膜する場合、スパッタリングガス中の最適な酸素分圧は、仕様装置によって異なるが、その範囲は他の種類の透明導電膜、例えばITO膜などと比較すると狭い。
特許文献7に記載のヘリコン波励起プラズマスパッタリング法を用いる場合、2.5×10−5Pa〜5.0×10―3Paが好ましい。この圧力範囲外では、酸化チタンを主成分とする透明導電膜は、アナターゼ相ではなくルチル相が形成される場合がある。なお、ガラス基板を用いる場合には、酸素分圧は、2.5×10−5Pa〜5.0×10−4Paが好ましい。
【0052】
本発明においては、例えば、2×10−4Pa以下まで真空排気後、アルゴンと酸素からなる混合ガスを導入し、ガス圧を0.1〜5.0Paとし、ターゲットの面積に対する電力、すなわち電力密度が1〜3W/cm程度の範囲となるよう電力を印加してプラズマを発生させ、プリスパッタリングを実施することができる。このプリスパッタリングを5〜30分間行い、放電状態を安定させた後、必要により基板位置を修正したうえでスパッタリング成膜することが好ましい。
【0053】
本発明では、所定の温度に基板を加熱して成膜することにより、各層が所望の構造をとる結晶質の膜を得ることができる。この場合、基板温度は300℃以上1000℃以下が好ましく、450℃以上650℃以下がより好ましい。基板温度が300℃よりも低いと結晶質となりにくく、1000℃を超えると、例えば窒化ガリウム上に形成する場合、窒化ガリウムに熱的ダメージを与えるため、好ましくない。
また、室温近傍の低温で非晶質膜を形成し、その後、熱処理によって結晶膜としてもよい。熱処理温度は、300℃以上1000℃以下が好ましく、450℃以上650℃以下がより好ましい。熱処理温度が300℃よりも低いと結晶質となりにくく、1000℃を超えると、例えば窒化ガリウム上に形成する場合、窒化ガリウムに熱的ダメージを与えるため、好ましくない。この熱処理雰囲気は、非酸化性雰囲気が好ましく、工業的な観点からは真空、あるいは窒素中であることが好ましい。
【0054】
また、第1のバッファー層は、基体の最表面層が、窒化ガリウム層、窒化ガリウムインジウム層、窒化ガリウムインジウムアルミニウム層から選ばれる薄膜層である場合、熱酸化法、すなわち、基体そのものを酸素が含まれる雰囲気中で熱処理することによって形成することが可能である。
この熱酸化の前処理として、自然酸化膜を除去することを目的とした酸処理を施すことが有効である。この酸処理の一例として、以下のような手順(1)〜(4)による処理方法が挙げられる。
(1)アセトン、エタノールなどによる洗浄
(2)高純度塩酸、王水あるいは弗酸に所定の時間浸漬
(3)専用槽での超純水によるすすぎ
(4)専用槽での超純水による超音波洗浄
【0055】
熱酸化の条件としては、温度範囲として、300℃以上、1000℃以下であることが好ましく、より好ましくは450℃以上、950℃以下である。熱酸化時の温度は、300℃よりも低いと結晶質となり難く、1000℃を超えると、例えば窒化ガリウム上に形成する場合、窒化ガリウムに熱的ダメージを与えるため、好ましくない。酸素分圧としては、特に制限はないが、工業的な観点から1.0×10Pa以下であることが好ましい。
【0056】
第1のバッファー層の厚みは、酸化チタンを主成分とする透明導電膜層が優れた結晶性を有するアナターゼ相となれば特に制限はないが、工業的な観点からは膜厚は0.1nm〜50nmであることが好ましい。しかし、半導体発光素子の発光層である窒化ガリウム層上に形成する場合、電極となる透明導電膜層との間で電気抵抗層となるのを避けるため、0.1nm〜5nmが好ましく、0.1nm〜2nmであればより好ましい。
【0057】
特に、窒化ガリウム上に酸化チタンを主成分とする透明導電膜を形成する場合、第1のバッファー層の膜厚が0.1nm〜1nmの範囲であれば、ヘテロ構造を有する積層体のバンド図では、ヘテロ接合されたアナターゼ相TiO薄膜/(第1のバッファー層/)窒化ガリウム層界面ごく近傍の窒化ガリウム層側において、フェルミレベルが伝導帯に対してスパイク形状をとって局部的に落ち込むように低くなる。これより、その落ち込み部分に二次元的な電子ガスが集積して高速に電子が移動する現象が起こっていることが特定された。
この現象により、特異的に高いキャリア移動度が実現され、結果的に、室温における比抵抗は4×10−4Ω・cm以下、キャリア移動度は200cm−1−1以上を示す。第1のバッファー層の厚みが0.1nm未満の場合、酸化チタンを主成分とする透明導電膜はアナターゼ相ではなくルチル相になってしまい、一方1nmを超えると上記のバンド図が形成されないため高速に電子が移動する現象は起こらない。なお、このような特異的に高い電子が移動する現象は、p型窒化ガリウム層の膜面方向への電流拡散が低いという欠点を解消することを可能にするものである。
【0058】
2.第2の積層体
本発明の第2の積層体は、基体上に、酸化窒化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜、ガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層(以下、第2のバッファー層と記載することがある)が形成され、そのバッファー層上に、第1の積層体と同様の酸化チタンを主成分とする透明導電膜層が形成されることを特徴とする。
【0059】
2−1.第2のバッファー層
第2のバッファー層は、第1のバッファー層が酸化物であるのに対し、酸窒化物である点が異なるものである。第2のバッファー層としては、
(d)酸化窒化ガリウム薄膜、
(e)ガリウム、インジウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜、
(f)ガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜
の中から選択される少なくとも1種以上からなる薄膜が用いられる。
この第2のバッファー層は、その基体の種類によって、非晶質あるいは結晶質となるように適宜選択すればよい。ただし、窒化ガリウム層上に、結晶性の高いアナターゼ相を含む、酸化チタンを主成分とする酸化物薄膜からなる透明導電膜が形成されるためには、この第2のバッファー層は結晶質であることが好ましい。
【0060】
さらに、窒化ガリウム層上に形成した第2のバッファー層が、β−Ga構造を有する結晶質である場合には、第2のバッファー層上に形成される酸化チタンを主成分とする透明導電膜は、12回対称構造を有するアナターゼ相からなるエピタキシャル薄膜となることから、より好ましい。
【0061】
このような第2のバッファー層の好適な膜厚は、第1のバッファー層と同様であり、0.1nm〜50nmであることが好ましく、0.1nm〜5nmがより好ましく、0.1nm〜2nmであればさらに好ましい。また、第1のバッファー層と同様に、ヘテロ接合されたアナターゼ相TiO薄膜/(第2のバッファー層/)窒化ガリウム層界面ごく近傍の窒化ガリウム層側において、高速に電子が移動する現象を実現するためには、第2のバッファー層の膜厚は0.1nm〜1nmの範囲にあると良い。
【0062】
2−2.第2のバッファー層の製造方法
第2のバッファー層は、第1のバッファー層や酸化チタンを主成分とする透明導電膜層と同様の種々の成膜方法を用いて形成することが可能である。
第2のバッファー層を形成する場合、ターゲットとしては、酸化ガリウム、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物、ガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物、あるいは、酸窒化ガリウム、ガリウム、インジウム、酸素および窒素からなる酸窒化物、ガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物の焼結体ターゲットが好ましく、特に還元処理あるいはホットプレス法による焼結などを施した、導電性を高めた焼結体ターゲットが特に好ましい。金属ガリウムは融点が約30℃と低いため、そのままターゲットとして用いることは困難であるが、ガリウムおよびインジウムからなる合金、あるいは、ガリウム、インジウムおよびアルミニウムからなる合金のターゲットにおいては、組成によっては融点が金属ガリウムより高くなるため適用可能な場合がある。
【0063】
第2のバッファー層を形成する方法は、基本的に第1のバッファー層と同様の製法で行うことができる。ただし、各種スパッタリング法で形成する場合には、スパッタリングガスとして不活性ガスに酸素、または窒素、あるいは酸素と窒素の両者、特に、不活性ガスにアルゴンを用いた混合ガスを用いることが好ましい。そのスパッタリングガスの成分比率は、使用するターゲットに合わせて選択すればよい。イオンプレーティング法あるいはPLD法についても同様である。
【0064】
また、第2のバッファー層は、基体が窒化ガリウム、窒化ガリウムインジウム、および窒化ガリウムインジウムアルミニウムである場合、第1のバッファー層と同様に、熱酸化法によって形成することが可能である。その熱酸化条件としては、温度範囲は500℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以上、300℃以下である。酸素分圧は、1.0×10−4Pa以上、1.0×10Pa以下であることが好ましく、1.0×10−3Pa以上、3.0×10Pa以下がより好ましい。
【0065】
〔機能素子〕
本発明の機能素子は、本発明の積層体を具備していることを特徴としている。すなわち、その一つである第1の積層体は、基体上に、酸化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層が形成され、そのバッファー層上に酸化チタンを主成分とし、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層が形成されている積層体を具備している。
【0066】
あるいは、第2の積層体において、バッファー層が、酸化窒化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなる酸窒化物薄膜である積層体を具備している。
【0067】
このような積層体を具備し、積層体に用いられている酸化チタンを主成分とする透明導電膜層を、透明電極として用いた機能素子であり、この透明導電膜層を具備することにより、従来にない優れた特性を発揮することができる。
代表的な機能素子としては、半導体発光素子、あるいは太陽電池が挙げられる。その他の物として、液晶パネル、プラズマディスプレイ、有機EL、無機ELあるいは電子ペーパーなどであってもよい。
【0068】
3.半導体発光素子
本発明の半導体発光素子は、少なくとも発光層である(Al1−x−y−zInGa)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)層が最表面層に位置する基体として、この(Al1−x−y−zInGa)N層上に、第1あるいは第2のバッファー層が一旦形成され、バッファー層上に酸化チタンを主成分とする透明導電膜が形成された構造を具備する半導体発光素子である。
なお、本発明は、少なくとも発光層である(Al1−x−y−zInGa)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)層上に透明導電膜を配する構造を有する公知の半導体発光素子に広く適用されるものである。
以下に、本発明の理解のために、本発明が適用される半導体発光素子の一般的な構造を、図2を用いて簡潔に言及する。
【0069】
3−1.化合物半導体層
一例として、半導体発光素子の窒化ガリウム系化合物半導体層の構成および作製方法について説明する。
例えば、フェイスアップ型の構造では、窒化ガリウム系化合物半導体層10は、n型GaN層12、発光層13、およびp型GaN層14を基板上に順次積層することにより形成される(図2参照)。具体的には、窒化ガリウム系化合物半導体層10は、基板11上に、AlNからなるバッファー層(図示せず)、GaN下地層(図示せず)、n型GaNコンタクト層(図示せず)、ならびにn型AlGaNクラッド層(図示せず)からなるn型GaN層12、InGaNからなる発光層13、p型AlGaNクラッド層(図示せず)、ならびにp型GaNコンタクト層(図示せず)からなるp型GaN層14を積層することで構成される。ただし、窒化ガリウム系化合物半導体層としては、各種構造のものが周知であり、これら周知のものを何ら制限なく用いることができる。
【0070】
例えば、p型半導体層14は、キャリア濃度が一般的な濃度のものを用いればよく、比較的キャリア濃度の低い、例えば1×1017cm−3程度のp型GaN層とした場合であっても、このp型半導体層14上に、本発明を構成する、第1あるいは第2のバッファー層、ならびに酸化チタンを主成分とする透明導電膜からなる積層体15を透明電極(正極)として適用することができる。さらに、p型半導体層14は、凹凸加工処理がなされ、幾何学的に光の取り込み効率を向上させたものが、より好ましい。
【0071】
窒化ガリウム系化合物半導体10としては、上記の、一般式(Al1−x−y−zInGa)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表わされる各種組成の半導体が好ましく、本発明における化合物半導体層として、かかる組成の各種半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0072】
これらの窒化ガリウム系化合物半導体の成長方法は特に限定されず、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、MOVEP法(有機金属化学気相エピタキシー法)HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)等、III族窒化物半導体を成長させることが知られている全ての方法を適用できる。その成長方法としては、種々の制御性、量産性の観点からMOVEP法が望ましい。
なお、本発明は、上記の窒化ガリウム系化合物半導体層の一例に限定されるものではなく、必要に応じて構成を変更した窒化ガリウム系化合物半導体層にも適用可能であることは言うまでもない。
【0073】
3−2.基板
本発明の半導体発光素子は、基板11として、サファイア単結晶(Al;A面、C面、M面、R面)、スピネル単結晶(MgAl)、ZnO単結晶、LiAlO単結晶、LiGaO単結晶、MgO単結晶等の酸化物単結晶、Si単結晶、SiC単結晶、GaAs単結晶、AlN単結晶、GaN単結晶およびZrB等のホウ化物単結晶などの公知の基板材料を何ら制限なく用いることができる。
なお、基板11の面方位は特に限定されない。また、基板11としては、ジャスト基板でもよいし、オフ角を付与した基板であってもよい。
【0074】
3−3.負極
負極17は、本発明の積層体、すなわち、第1あるいは第2のバッファー層および酸化チタンを主成分とする透明導電膜からなる積層体層15の形成後、あるいは、積層体15の形成およびアニール処理後、例えば、p型半導体層14、発光層13、およびn型半導体層12の一部をエッチング除去することにより露出されたn型半導体層12上に設けられる(図2参照)。負極17としては、例えば、Ti/Auからなるものなど各種組成および構造が周知であり、これら周知の負極を何ら制限なく用いることができる。
【0075】
3−4、正極ボンディングパッド
正極である、第1あるいは第2のバッファー層および酸化チタンを主成分とする透明導電膜からなる積層体15上の一部には、回路基板またはリードフレーム等との電気接続のための正極ボンディングパッド16が設けられる。正極ボンディングパッドは、Au、Al、NiおよびCu等の材料を用いた各種構造が周知であり、これら周知の材料、構造のものを何ら制限なく用いることができる。また、正極ボンディングパッドの厚みは、100〜1000nmの範囲内であることが好ましい。また、ボンディングパッドの特性上、その厚みが大きい方が、ボンダビリティーが高くなるため、正極ボンディングパッドの厚みは300nm以上とすることがより好ましい。さらに、製造コストの観点から500nm以下とすることが好ましい。
【0076】
3−5.保護層
本発明の積層体15からなる透明電極(正極)の酸化を防ぐために、正極ボンディングパッド16の形成される領域を除く透明導電膜上の全領域を覆うように、保護層(図示せず)を成膜することが好ましい。
この保護層は、透光性に優れた材料で形成されることが好ましく、p型半導体層14とn型半導体層12とのリークを防ぐために、絶縁性を有する材料で形成されることが好ましい。したがって、保護層を構成する材料には、例えば、SiOやAl等を用いることが望ましい。また、保護層の膜厚は、透明導電膜の酸化を防ぐことができ、かつ透光性に優れる膜厚であればよく、具体的には、例えば、2nm〜500nmの膜厚がよい。
【0077】
4.半導体発光素子を用いたランプ
本発明の半導体発光素子は、例えば、当業者周知の手段を用いて、透明カバーを設けてランプを構成することができる。また、本発明の半導体発光素子と、蛍光体を有するカバーとを組み合わせることにより、白色のランプを構成することもできる。
また、本発明の半導体発光素子は、従来公知の方法を用いて、なんら制限なくLEDランプとして構成することができる。ランプとしては、一般用途の砲弾型、携帯のバックライト用途のサイドビュー型、表示器に用いられるトップビュー型等、何れの用途にも用いることができる。
【0078】
5.太陽電池
本発明の太陽電池は、少なくとも光電変換層と、その光電変換層上に第1あるいは第2のバッファー層が一旦形成され、そのバッファー層上に酸化チタンを主成分とする透明導電膜を形成した構造を具備したものである。本発明は、少なくとも光電変換層上に透明導電膜が形成された構造を有する公知の半導体発光素子に広く適用できるものである。その光電変換層としては、多結晶あるいは単結晶Si系、薄膜Si系、CIGS系、CdTeあるいはGaAsなどの化合物半導体系、あるいは、これらのタンデム構造などを想定している。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
〔透明導電膜の基本特性評価〕
得られた透明導電膜の組成は、XPS装置(VG Scientific社製ESCALAB220i−XL)あるいはICP発光分光法によって調べた。
透明導電膜の膜厚は、表面粗さ計(テンコール社製Alpha−Step IQ)で測定した。成膜速度は、膜厚と成膜時間から算出した。
膜の表面抵抗は、Van der Pauw法による四探針法を用いて、抵抗率計(ダイアインスツルメンツ社製ロレスタEP MCP−T360型)による四探針法で測定した。
膜の比抵抗は、膜の表面抵抗と膜厚の積から算出した。
膜の屈折率は、分光エリプソメーター(大塚電子製FE−5000UV)を用いて測定した。
膜の生成相や結晶性は、X線回折装置(Bruker社製D8)を用いて、2θ/θ測定およびφスキャンによって同定した。
特に、バッファー層の膜厚は、ヘリコン波励起プラズマスパッタ装置付属の膜厚モニターで測定し、また、TEM−EDS(日立ハイテク製HF−2200、NORAN VANTAGE)による観察で確認した。
また、積層体のバンド図の特定には、XPS装置(PHI社製QuanteraSXM)を用いた。
【実施例1】
【0080】
ガラス基板上に、酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層、その上に、酸化チタンを主成分とし、ニオブを含む透明導電膜層を形成した。いずれの成膜でも、ヘリコン波励起プラズマスパッタリング装置(サンユー電子製)を用いた。
ガラス基板は厚み1.1mmの旭硝子製AN100基板を用いた。ターゲットは直径50mm、厚さ6mmの酸化ガリウム焼結体ターゲット、ならびにニオブ添加酸化チタン焼結体ターゲット(住友金属鉱山製)を用いた。なお、ニオブの含有量はNb/(Ti+Nb)で表される原子数比で5.7原子%であった。
【0081】
はじめに、酸化ガリウム薄膜を形成した。
スパッタリング装置のチャンバー内を5×10−3Pa以下の真空度になるまで排気、保持し、基板温度が500℃に到達したことを確認後、アルゴンガスを導入し、ガス圧を0.5Paに調整した。ターゲット−基板間距離は35mmに固定した。次に、高周波電力300Wを印加してヘリコン波励起プラズマを発生させ、ターゲットバイアスとして−300Vを印加して30分間以上のプリスパッタリング後、基板と膜形成中心位置が一致する方向にターゲットを再度配置して成膜した。
【0082】
続いて酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜を形成した。スパッタリングガスにアルゴンと酸素の混合ガスを、酸素比率が0.1%になるように導入し、ガス圧を0.5Paに調整したことを除いては、酸化ガリウム薄膜と同様の条件で成膜した。なお、この酸素比率0.1%において、透明導電膜が最も低い比抵抗を示すことを予め確認している。
【0083】
成膜時間を適宜制御することによって、ガラス基板上に、膜厚10nmの酸化ガリウム薄膜と、さらに、その薄膜上に、膜厚200nmの酸化チタンを主成分とするニオブを含む透明導電膜とからなる積層膜を形成した。なお、得られた酸化ガリウム薄膜および透明導電膜の組成は、それぞれのターゲットとほぼ同じであることを確認した。
【0084】
得られた透明導電膜の比抵抗は4.2×10−4Ω・cmで、波長460nmの屈折率は2.5であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、図3に示す通り、アナターゼ相のみからなる結晶質の膜であることを確認した。なお、酸化ガリウム薄膜に関しては、回折ピークが認められないことから、非晶質であると推測される。
【実施例2】
【0085】
バッファー層を、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜に変更した以外は、実施例1と同様のプロセスによって積層膜を形成した。
ターゲットは直径50mm、厚さ6mmのガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物焼結体ターゲット(住友金属鉱山製)を用いた。このターゲットのインジウム含有量は、In/(Ga+In)で表される原子数比で5原子%であった。
【0086】
得られた透明導電膜の比抵抗は4.5×10−4Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.5であり、実施例1とほぼ同等であった。
X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、実施例1と同様に、アナターゼ相のみからなる結晶質の膜であることが確認された。なお、酸化ガリウム薄膜に関しては、回折ピークが認められないことから、非晶質であると推測される。
【実施例3】
【0087】
バッファー層を、ガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜に変更した以外は、実施例1と同様のプロセスによって積層膜を形成した。
ターゲットは直径50mm、厚さ6mmのガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物焼結体ターゲット(住友金属鉱山製)を用いた。このターゲットのインジウム含有量はIn/(Ga+In+Al)で表される原子数比で5原子%、ならびにアルミニウム含有量はAl/(Ga+In+Al)で表される原子数比で1原子%であった。
【0088】
得られた透明導電膜の比抵抗は5.4×10−4Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.5であり、実施例1とほぼ同等であった。
X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、実施例1と同様に、アナターゼ相のみからなる結晶質の膜であることが確認された。なお、酸化ガリウム薄膜に関しては、回折ピークが認められないことから、非晶質であると推測される。
【実施例4】
【0089】
バッファー層を、酸窒化ガリウム薄膜に変更した以外は、実施例1と同様のプロセスによって積層膜を形成した。
酸窒化ガリウム薄膜の形成は、直径50mm、厚さ6mmの窒化ガリウム焼結体ターゲット(住友金属鉱山製)を用いた。スパッタリングガスをアルゴンと酸素の混合ガスとし、酸素比率を0.02%、ガス圧を0.5Paに変更したことを除いては、実施例1の酸化ガリウム薄膜と同様の条件で成膜した。
【0090】
得られた透明導電膜の比抵抗は4.4×10−4Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.5であり、実施例1とほぼ同等であった。
X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、実施例1と同様に、アナターゼ相のみからなる結晶質の膜であることが確認された。なお、酸窒化ガリウム薄膜に関しては、回折ピークが認められないことから、非晶質であると推測される。
【実施例5】
【0091】
ニオブ添加酸化チタン焼結体ターゲット(住友金属鉱山製)のニオブ含有量をNb/(Ti+Nb)で表される原子数比で9.3原子%に変更した以外は、実施例1と同様のプロセスによって積層膜を形成した。
【0092】
得られた透明導電膜の比抵抗は5.3×10−4Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.5であり、実施例1とほぼ同等であった。
X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、実施例1と同様に、アナターゼ相のみからなる結晶質の膜であることが確認された。なお、酸化ガリウム薄膜に関しては、回折ピークが認められないことから、非晶質であると推測される。
【実施例6】
【0093】
ニオブの代わりにタンタルを添加した酸化チタン焼結体ターゲット(住友金属鉱山製)を用い、そのタンタル含有量をTa/(Ti+Ta)で表される原子数比で5.0原子%に変更した以外は、実施例1と同様のプロセスによって積層膜を形成した。
【0094】
得られた透明導電膜の比抵抗は5.1×10−4Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.5であり、実施例1とほぼ同等であった。
X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、実施例1と同様に、アナターゼ相のみからなる結晶質の膜であることが確認された。なお、酸化ガリウム薄膜に関しては、回折ピークが認められないことから、非晶質であると推測される。
【実施例7】
【0095】
MOVEP法によってサファイア基板上に、基板表面が(0001)面である約3μmのGaN膜を成長させたGaN基板(以降、GaNテンプレートと記載することがある)の表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した。次に、電気炉にて、900℃、1.0×10Paの酸素雰囲気において熱酸化処理を実施し、酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層を形成した。酸化ガリウム薄膜の厚みは2nmであった。以降は、実施例1と同様のプロセスによって、この上に、酸化チタンを主成分とし、ニオブを含む透明導電膜層を形成することにより積層膜を形成した。
【0096】
得られた透明導電膜の比抵抗は3.9×10−4Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.5であり、実施例1とほぼ同等であった。
X線回折測定によって透明導電膜の結晶性を調べた結果、実施例1と同様に、アナターゼ相のみからなる結晶質の膜であることを確認した。
【0097】
図4に、φスキャンにより面内配向を調べた結果を示す。アナターゼ相の(101)面の回折を調べた結果、窒化ガリウム層上のアナターゼ相(TiO A(101)で示されるピーク)は12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが明らかである。酸化ガリウム薄膜に関しては、膜厚が極めて薄いため回折ピークが認められなかったが、TEM観察の結果、非晶質ではなく結晶質であり、β−Ga構造をとることを確認した。
なお、ホール測定の結果では、キャリア移動度は200cm−1−1未満であり、キャリアである電子の移動度が特異的に高くなる現象はみられなかった。
【実施例8】
【0098】
酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜の成膜条件をアルゴンと酸素の混合ガスからなるスパッタリングガス中の酸素比率を0.02%、ガス圧を5Paに変更した以外は、実施例7と同様のプロセスによって、GaNテンプレート上に積層膜を形成した。
【0099】
X線回折測定によって透明導電膜の結晶性を調べた結果、図5に示すように、アナターゼ相およびルチル相からなる結晶質の膜であることが確認され、それぞれの相が窒化ガリウム層に対して、12回対称および6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが判明した。酸化ガリウム薄膜に関しては、実施例7と同様に結晶質であることを確認した。
φスキャンにより面内配向を調べたところ、窒化ガリウム層上のアナターゼ相が12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長しているだけでなく、ルチル相も6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが確認された。ただし、ルチル相の強度は、アナターゼ相と比較して弱いことが判明した。すなわち、実質的に、主相はアナターゼ相であることが確認された。
なお、この積層体の比抵抗は、4.3×10−4Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.6であった。また、ホール測定の結果では、キャリア移動度は200cm−1−1未満であり、キャリアである電子の移動度が特異的に高くなる現象はみられなかった。
【実施例9】
【0100】
酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜ならびに酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層を、いずれもヘリコン波励起プラズマスパッタ法を用いて、成膜条件をアルゴンと酸素の混合ガスからなるスパッタリングガス中の酸素比率を0.02%、ガス圧を5Paとして、GaNテンプレート上に積層膜を形成した。なお、形成された酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜ならびに酸化ガリウムの膜厚は、200nmならびに0.6nmであった。
【0101】
X線回折測定によって透明導電膜の結晶性を調べた結果、図6に示すように、アナターゼ相およびルチル相からなる結晶質の膜であることが確認され、それぞれの相が窒化ガリウム層に対して、12回対称および6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが判明した。酸化ガリウム薄膜に関しては、実施例7と同様に結晶質であることを確認した。
【0102】
図7に、φスキャンにより面内配向を調べた結果を示す。
アナターゼ相の(104)面の回折を調べた結果、窒化ガリウム層上のアナターゼ相(A−TiO{104}で示されるピーク)は12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが明らかである。これに対して、窒化ガリウム層上のルチル相(R−TiO{110}で示されるピーク)は6回対称のエピタキシャル配向関係を有しているものの、その強度は、縦軸がLogスケールであることを考慮すれば、アナターゼ相と比較して弱いことがわかる。すなわち、実質的に、主相はアナターゼ相であることが確認された。
【0103】
この酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜の屈折率を分光エリプソメーターにより測定したところ、波長460nmにおける屈折率は2.6であった。
【0104】
次に、このヘテロ構造を有する積層体についてホール測定を実施した。その結果、室温における比抵抗は3.6×10−4Ω・cmであり、このときのキャリア移動度は260cm−1−1を示して200cm−1−1以上であり、キャリアである電子の移動度が特異的に高いことが明らかとなった。
このように特異的に高いキャリア移動度はヘテロ構造に由来するものと予想されたため、XPS測定(X線光電子分光測定)によりバンド図を調べた。その結果、ヘテロ接合されたアナターゼ相TiO薄膜/(酸化ガリウム薄膜/)窒化ガリウム層界面ごく近傍の窒化ガリウム層側において、フェルミレベルが伝導帯に対してスパイク形状をとって局部的に落ち込むように低くなり、その落ち込み部分に二次元的な電子ガスが集積して高速に電子が移動する現象が起こっていることが特定された。この現象により、特異的に高いキャリア移動度が実現したと考えられる。
【実施例10】
【0105】
GaNテンプレートの表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した後、酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層を実施例9と同様にヘリコン波励起プラズマスパッタ法によって数原子層相当の膜厚となるよう制御して形成した。その膜厚は0.1nmであった。以降は、実施例9と同様のプロセスによって、この上に、酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜層を同スパッタ法にて形成することにより積層膜を形成した。
【0106】
得られた透明導電膜について調べたところ、電気特性および光学特性は実施例9と同等であり、特に電気特性に関しては、ヘテロ構造に由来した、高速に電子が移動する現象が確認された。すなわち、ホール測定の結果ではキャリア移動度は200cm−1−1以上であった。膜の構造についても、実施例9と同様のエピタキシャル配向関係を有したアナターゼ相であることが判明した。φスキャンを実施したところ、主相はアナターゼ相であり、ルチル相が少量含まれる点は実施例9と同様であった。また、バッファー層は、TEM観察の結果、非晶質ではなく結晶質であり、β−Ga構造をとることを確認した。
【0107】
(比較例1)
ガラス基板上に直接、酸化チタンを主成分とし、ニオブを含む透明導電膜を成膜し、その成膜条件を、アルゴンと酸素の混合ガスからなるスパッタリングガス中の酸素比率を0.02%、ガス圧を5Paに変更した以外は、実施例1と同様のプロセスによって積層膜を形成した。
【0108】
得られた透明導電膜の比抵抗は2.1×10−2Ω・cmであり、実施例1より高くなった。波長460nmの屈折率は2.6であった。
X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、図5に示すように、実施例1とは異なり、ルチル相のみからなる結晶質の膜であることを確認した。
【0109】
(比較例2)
GaNテンプレートの表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した後、直接この上に、実施例7と同様のプロセスによって、酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜層を形成することにより積層膜を形成した。
【0110】
X線回折測定によって透明導電膜の結晶性を調べた結果、ルチル相からなる結晶質の膜であることを確認し、この窒化ガリウム層上のルチル相は6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していた。
この積層体の比抵抗は4.5×10−2Ω・cm、波長460nmの屈折率は2.6であった。また、ホール測定の結果では、キャリア移動度は200cm−1−1未満であり、キャリアである電子の移動度が特異的に高くなる現象はみられなかった。
【実施例11】
【0111】
半導体発光素子を以下に示すようなプロセスで作製した。
〔窒化ガリウム系化合物半導体層の製造〕
すなわち、サファイアのc面((0001)結晶面)からなる基板上に、AlNからなるバッファー層を介して、アンドープGaN下地層(層厚2000nm)、Siドープn型GaNコンタクト層(層厚2000nm、キャリア濃度=1×1019cm−3)、Siドープn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層(層厚12.5nm、キャリア濃度=1×1018cm−3)、6層のSiドープGaN障壁層(層厚14.0nm、キャリア濃度=1×1018cm−3)と5層のアンドープIn0.20Ga0.80Nの井戸層(層厚2.5nm)とからなる多重量子構造の発光層、Mgドープp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層(層厚10nm)、およびMgドープp型GaNコンタクト層(層厚100nm)を順次積層した。なお、上記窒化ガリウム系化合物半導体層の積層構造体の各構成層は、MOVEP法で成長させた。
【0112】
〔半導体発光素子の製造〕
次に、得られた窒化ガリウム系化合物半導体層を用いて、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を作製した。まず、HFおよびHClを用いて、窒化ガリウム系化合物半導体層のp型GaNコンタクト層の表面を洗浄し、そのp型GaNコンタクト層上に、熱酸化処理の温度を500℃に変更したことを除いては、実施例7と同様のプロセスによって、酸化ガリウムからなるバッファー層、続いて酸化チタンを主成分とし、ニオブを含む透明導電膜からなる積層膜を膜厚220nmとなるよう調整して順次成膜した。
その後、上記積層膜を、ドライエッチングを施してパターニングし、p型GaNコンタクト層上の正極形成領域にのみ上記積層膜が形成された状態とした。
【0113】
次に、n型電極を形成する領域にドライエッチングを施し、その領域に限り、Siドープn型GaNコンタクト層の表面を露出させた。その後、真空蒸着法により、上記積層膜層(正極)上の一部、およびSiドープn型GaNコンタクト層上に、Crからなる第1の層(層厚40nm)、Tiからなる第2の層(層厚100nm)、Auからなる第3の層(層厚400nm)を順に積層し、それぞれ正極ボンディングパッドおよび負極を形成した。正極ボンディングパッドおよび負極を形成した後、サファイアからなる基板の裏面をダイヤモンド微粒などの砥粒を使用して研磨し、最終的に鏡面に仕上げた。その後、積層構造体を裁断し、350μm角の正方形の個別のチップへと分離し、半導体発光素子を得た。
【0114】
〔発光波長および発光出力の測定〕
このようにして得られた半導体発光素子(チップ)を、リードフレーム上に載置し、金(Au)線でリードフレームと結線した。そして、プローブ針によって通電し、発光波長および発光出力を一般的な積分球で測定した。
半導体発光素子の発光面の発光分布は、正極の全面で発光しており、460nm付近の波長領域に発光波長を有していることが確認された。また、発光効率は、正極にITO膜を用いた場合と比較して、15%向上していることを確認した。
【実施例12】
【0115】
バッファー層である酸化ガリウム薄膜の膜厚が0.3nmであること以外は、実施例9と同様に、GaNテンプレートの表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した後、ヘリコン波励起プラズマスパッタ法を用いて、酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層、続けてこの上に、酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜層を形成することにより積層膜を形成した。
【0116】
得られた透明導電膜について調べたところ、電気特性および光学特性は実施例9と同等であり、特に電気特性に関しては、ヘテロ構造に由来した、高速に電子が移動する現象が確認された。すなわち、ホール測定の結果では、キャリア移動度は200cm−1−1以上であった。膜の構造についても、実施例9と同様のエピタキシャル配向関係を有したアナターゼ相であることが判明した。
φスキャンを実施したところ、主相はアナターゼ相であり、ルチル相が少量含まれる点は実施例9と同様であった。また、バッファー層は、TEM観察の結果、非晶質ではなく結晶質であり、β−Ga構造をとることを確認した。
【実施例13】
【0117】
バッファー層である酸化ガリウム薄膜の膜厚が1nmであること以外は、実施例9と同様に、GaNテンプレートの表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した後、ヘリコン波励起プラズマスパッタ法を用いて、酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層、続けてこの上に、酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜層を形成することにより積層膜を形成した。
【0118】
得られた透明導電膜について調べたところ、電気特性および光学特性は実施例9と同等であり、特に電気特性に関しては、ヘテロ構造に由来した、高速に電子が移動する現象が確認された。すなわち、ホール測定の結果では、キャリア移動度は200cm−1−1以上であった。
膜の構造についても、実施例9と同様のエピタキシャル配向関係を有したアナターゼ相であることが判明した。φスキャンを実施したところ、主相はアナターゼ相であり、ルチル相が少量含まれる点は実施例9と同様であった。また、バッファー層は、TEM観察の結果、非晶質ではなく結晶質であり、β−Ga構造をとることを確認した。
【実施例14】
【0119】
バッファー層である酸化ガリウム薄膜の膜厚が2nmであること以外は、実施例9と同様に、GaNテンプレートの表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した後、ヘリコン波励起プラズマスパッタ法を用いて、酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層、続けてこの上に、酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜層を形成することにより積層膜を形成した。
【0120】
X線回折測定によって透明導電膜の結晶性を調べた結果、アナターゼ相およびルチル相からなる結晶質の膜であることが確認され、それぞれの相が窒化ガリウム層に対して、12回対称および6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが判明した。酸化ガリウム薄膜に関しては、実施例7と同様に結晶質であることを確認した。
φスキャンにより面内配向を調べたところ、アナターゼ相の(104)面の回折から、窒化ガリウム層上のアナターゼ相(A−TiO{104})は12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長しており、窒化ガリウム層上のルチル相(R−TiO{110})は6回対称のエピタキシャル配向関係を有していることが判明した。ものの、その強度は、縦軸がLogスケールであることを考慮すれば、アナターゼ相と比較して弱いことがわかる。すなわち、実質的に、主相はアナターゼ相であることが確認された。
【0121】
この酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜の屈折率を分光エリプソメーターにより測定したところ、波長460nmにおける屈折率は2.6であった。
次に、この積層体の比抵抗を測定したところ、4.2×10−4Ω・cmであった。ただし、ホール測定の結果では、キャリア移動度は200cm−1−1未満であり、キャリアである電子の移動度が特異的に高くなる現象はみられなかった。
【実施例15】
【0122】
酸化ガリウム薄膜の代わりに、膜厚0.6nmのガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜をバッファー層としたこと以外は、実施例9と同様に、GaNテンプレートの表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した後、ヘリコン波励起プラズマスパッタ法を用いて、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜のバッファー層、続けてこの上に、酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜層を形成することにより積層膜を形成した。なお、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の組成は、インジウム含有量がIn/(Ga+In)で表される原子数比で50原子%であり、ターゲットの組成が再現されていることが確認された。
【0123】
X線回折測定によって透明導電膜の結晶性を調べた結果、図8に示すように、アナターゼ相と極少量のルチル相からなる結晶質の膜であることが確認され、それぞれの相が窒化ガリウム層に対して、12回対称および6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが判明した。ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜に関しては、実施例9の酸化ガリウムと同様に結晶質であることを確認した。
【0124】
φスキャンにより面内配向を調べたところ、実施例9と同様に、アナターゼ相の(104)面の回折から、窒化ガリウム層上のアナターゼ相(A−TiO{104}で示されるピーク)は12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長しており、窒化ガリウム層上のルチル相(R−TiO{110}で示されるピーク)は6回対称のエピタキシャル配向関係を有していることが確認された。この場合、ルチル相の回折ピーク強度はアナターゼ相と比較して実施例9と比較にならないほど微弱であった。すなわち、主相はアナターゼ相であり、実質的にほとんどの相がアナターゼ相であることが確認された。
【0125】
この酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜の屈折率を分光エリプソメーターにより測定したところ、波長460nmにおける屈折率は2.5であった。
次に、このヘテロ構造を有する積層体についてホール測定を実施した。その結果、比抵抗は3.0×10−4Ω・cmであり、このときキャリア移動度は200cm−1−1以上で、キャリアである電子の移動度が特異的に高いことが明らかとなった。
【0126】
このように特異的に高いキャリア移動度はヘテロ構造に由来するものと予想されるため、XPS測定によりバンド図を調べた。その結果、ヘテロ接合されたアナターゼ相TiO薄膜/(ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜/)窒化ガリウム層界面ごく近傍の窒化ガリウム層側において、フェルミレベルが伝導帯に対してスパイク形状をとって局部的に落ち込むように低くなり、その落ち込み部分に二次元的な電子ガスが集積して高速に電子が移動する現象が起こっていることが特定された。この現象により、特異的に高いキャリア移動度が実現したと考えられる。
【0127】
(比較例3)
バッファー層である酸化ガリウム薄膜の膜厚が0.05nmであること以外は、実施例9と同様に、GaNテンプレートの表面に酸処理を施して自然酸化膜を除去した後、ヘリコン波励起プラズマスパッタ法を用いて、酸化ガリウム薄膜からなるバッファー層、続けてこの上に、酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜層を形成することにより積層膜を形成した。
【0128】
X線回折測定によって透明導電膜の結晶性を調べた結果、ルチル相からなる結晶質の膜であることが確認され、窒化ガリウム層に対して、6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが判明した。
次に、この積層体の比抵抗を測定したところ、4.2×10−2Ω・cmの高抵抗を示した。また、波長460nmの屈折率は2.6であった。ホール測定の結果では、キャリア移動度は200cm−1−1未満であり、キャリアである電子の移動度が特異的に高くなる現象はみられなかった。
【0129】
以上の実施例1から10、実施例12から15、及び比較例1から3で作製された積層体(透明導電膜層)の構成および諸特性をまとめて表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
以上の実施例から、まず実施例1および実施例5において、ガラス基板上に膜厚10nmの非晶質の酸化ガリウム薄膜をスパッタリング法によって一旦形成し、その上に、膜厚200nmの酸化チタンを主成分とし、異なる添加量のニオブを含む透明導電膜からなる積層膜を形成した。その結果、この透明導電膜は、アナターゼ相からなり、ITO膜に匹敵する低い比抵抗を示し、さらには窒化ガリウム膜と同等の高い屈折率を示している。
【0132】
また、実施例2〜4において、バッファー層を非晶質のガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、非晶質のガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、あるいは非晶質の酸窒化ガリウム薄膜とした場合についても、実施例1の非晶質の酸化ガリウム薄膜と同様の効果を有していることは明らかである。
【0133】
実施例6において、ニオブの代わりにタンタルを適量含む、酸化チタンを主成分とした透明導電膜からなる積層膜を形成した場合についても、実施例1のニオブ添加の場合と同様の効果を有しているは明らかである。
【0134】
一方、実施例7では、GaNテンプレート上に、熱酸化によるβ−Ga構造をもつ結晶質の酸化ガリウム薄膜をバッファー層として形成した場合に、その上に形成された酸化チタンを主成分とするニオブを含む透明導電膜が、アナターゼ相を有するだけでなく、12回対称のエピタキシャル成長していた。したがって、この透明導電膜は、実施例1と同等以上の優れた特性を示している。
【0135】
比較例1では、ニオブを含む酸化チタンからなる透明導電膜について、アルゴンと酸素の混合ガスからなるスパッタリングガス圧を5Pa、酸素比率を0.02%、すなわちヘリコン波励起プラズマスパッタリング法としては、高酸素分圧となる1.0×10−3Paの条件で成膜している。この場合、非晶質であるガラス基板に直接、高酸素分圧の条件で成膜としたため、ルチル相が形成されてしまっている。
【0136】
しかしながら、実施例8では、同じ条件で透明導電膜を形成した場合でも、アナターゼ相とルチル相の2相が形成され、アナターゼ相が支配的であることがX線回折測定の結果からわかる。
すなわち、実施例8では、実施例7と同様に、熱酸化によって形成されたβ−Ga構造をもつ結晶質の酸化ガリウム薄膜の効果によって、本来ルチル相が形成される成膜条件であっても、アナターゼ相が主相として形成されるようになり、しかも12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることは明らかである。
【0137】
実施例9、10、12および13では、スパッタリング法で形成された結晶質の酸化ガリウム薄膜をバッファー層とした場合についても、実施例7の熱酸化で形成された場合と同様に、酸化チタンを主成分とするニオブを含む透明導電膜はアナターゼ相を主相とし、窒化ガリウム層上のアナターゼ相が12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることを示している。
【0138】
さらに、実施例9、10、12および13のように、スパッタリング法で形成された結晶質の酸化ガリウム薄膜をバッファー層の膜厚が0.1〜1nmの範囲である場合、これらヘテロ構造を有する積層体のバンド図では、ヘテロ接合されたアナターゼ相TiO薄膜/(酸化ガリウム薄膜/)窒化ガリウム層界面ごく近傍の窒化ガリウム層側において、フェルミレベルが伝導帯に対してスパイク形状をとって局部的に落ち込むように低くなる。これより、その落ち込み部分に二次元的な電子ガスが集積して高速に電子が移動する現象が起こっていることが特定された。
この現象により、特異的に高いキャリア移動度が実現され、結果的に実施例9に見られるように室温における比抵抗は3.6×10−4Ω・cmの低抵抗を示し、そのキャリア移動度は260cm−1−1であり、キャリアである電子の移動度が200cm−1−1以上と特異的に高いことは明らかである。
【0139】
実施例14では、実施例9、10、12および13とは異なり、スパッタリング法で形成された結晶質の酸化ガリウム薄膜をバッファー層の膜厚が0.1〜1nmの範囲から外れて、より厚い2nmであった。この場合、酸化チタンを主成分とするニオブを含む透明導電膜はアナターゼ相を主相とし、窒化ガリウム層上のアナターゼ相が12回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していたが、高速に電子が移動する現象は観察されなかった。バッファー層の厚みが厚すぎるため、ヘテロ接合を有する積層体のバンド図が異なるものとなったためと結論づけられた。ただし、実施例9、10、12および13に次いで、十分に低い比抵抗を示すことが確認された。
【0140】
また、実施例15では、酸化ガリウム薄膜の代わりに、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜を用いた場合、酸化チタンを主成分とするニオブを含む透明導電膜は、ほとんどの相がアナターゼ相となることが明らかになった。窒化ガリウム層に対するアナターゼ相のエピタキシャル配向関係は実施例9と同様に12回対称であり、高速に電子が移動する現象も確認された。
【0141】
一方、比較例2から、窒化ガリウム層上に、バッファー層を形成せず、直接形成された酸化チタンを主成分とするニオブを含む透明導電膜は、特許文献5ならびに非特許文献2と同様に、ルチル相が6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが確認されている。
【0142】
比較例3では、実施例9、10、12および13とは異なり、スパッタリング法で形成された結晶質の酸化ガリウム薄膜をバッファー層の膜厚が0.1〜1nmの範囲から外れて、極めて薄い0.05nmであった。この場合、酸化チタンを主成分とするニオブを含む透明導電膜はルチル相を主相としており、窒化ガリウム層上のルチル相が6回対称のエピタキシャル配向関係を有して成長していることが確認された。
【0143】
半導体発光素子形成した実施例11から、バッファー層として熱酸化形成による酸化ガリウム薄膜および酸化チタンを主成分としニオブを含む透明導電膜からなる本発明の積層膜を適用した半導体発光素子が、従来のITO膜を用いた場合と比較して、波長460nm付近の青色の発光効率に優れることは明らかである。
【符号の説明】
【0144】
1 半導体発光素子
10 窒化ガリウム系化合物半導体層
11 基板
12 n型GaN層(n型半導体層)
13 発光層
14 p型GaN層(p型半導体層)
15 第1あるいは第2のバッファー層、ならびに酸化チタンを主成分とする透明導電膜からなる積層体
16 正極ボンディングパッド
17 負極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、酸化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層を有し、該バッファー層上に酸化チタンを主成分とし、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層が形成されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記バッファー層が、酸化窒化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウム、酸素及び窒素からなる酸窒化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなる酸窒化物薄膜であることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
酸化チタンを主成分とする前記透明導電膜層が、アナターゼ相を含むことを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
酸化チタンを主成分とする前記透明導電膜層が、アナターゼ相単相からなることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項5】
前記アナターゼ相が、12回対称のエピタキシャル成長していることを特徴とする請求項4記載の積層体。
【請求項6】
前記酸化チタンを主成分とし、ニオブを含む酸化物薄膜において、ニオブ含有量がNb/(Ti+Nb)で表される原子数比で0.1〜10原子%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記ニオブ含有量が、Nb/(Ti+Nb)で表される原子数比で2〜6原子%であることを特徴とする請求項6記載の積層体。
【請求項8】
酸化チタンを主成分とし、タンタルを含む酸化物薄膜において、タンタル含有量がTa/(Ti+Ta)で表される原子数比で0.1〜10原子%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記タンタル含有量が、Ta/(Ti+Ta)で表される原子数比で3〜7原子%であることを特徴とする請求項8記載の積層体。
【請求項10】
基体の最表面層が、窒化ガリウム層、窒化ガリウムインジウム層、窒化ガリウムインジウムアルミニウム層から選ばれる薄膜層であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記バッファー層が、結晶質であることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項12】
前記バッファー層が、単斜晶型β−Ga構造の結晶相からなることを特徴とする請求項11記載の積層体。
【請求項13】
前記バッファー層の厚みが、0.1〜50nmであることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項14】
前記バッファー層の厚みが、0.1〜1nmであることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項15】
基体上に、酸化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウムおよび酸素からなる酸化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウムおよび酸素からなる酸化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなるバッファー層が形成され、該バッファー層上に酸化チタンを主成分とし、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、ならびにタングステンから選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物薄膜からなる透明導電膜層が形成されている積層体の製造方法であって、
少なくとも前記透明導電膜がヘリコン波励起プラズマスパッタリング法で成膜されることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項16】
前記バッファー層が、酸化窒化ガリウム薄膜、ガリウム、インジウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜、ならびにガリウム、インジウム、アルミニウム、酸素および窒素からなる酸窒化物薄膜の中から選択される少なくとも1種以上からなる酸窒化物薄膜であることを特徴とする請求項15記載の積層体の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層体を具備していることを特徴とする機能素子。
【請求項18】
少なくとも発光層である(Al1−x−y−zInGa)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)層を基体の最表面層とし、該(Al1−x−y−zInGa)N層上に、請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層体を具備することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項19】
少なくとも光電変換層と、該光電変換層上に形成された請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層体を具備することを特徴とする太陽電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−201301(P2011−201301A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44497(P2011−44497)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〈インターネットによる公開〉 (i)ホームページのアドレス http://apex.jsap.jp/journal/APEX−3−9.html (ii)掲載日 2010年9月3日 (iii)公開者 羽豆 耕治、Aly Fouda、中山 徳行、田中 明和、秩父 重英 (iv)公開のタイトル 社団法人 応用物理学会「Applied Physics Express Vol.3,No.9(2010)」 (v)発表された発表の内容「Crystal Phase−Selective Epitaxy of Rutile and Anatase Nb−Doped TiO▲2▼ Films on a GaN Template by the Helicon−Wave−Excited−Plasma Sputtering Epitaxy Method」 『ヘリコン波励起プラズマスパッタエピタキシー法によるGaNテンプレート上へのNbドープTiO▲2▼膜のルチル/アナターゼ結晶相選択エピタキシャル成長』
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】