説明

積層構造体、多層配線基板、アクティブマトリックス基板、画像表示装置、及び積層構造体の製造方法

【課題】インクジェット法により形成した微細な導電層の積層構造体、多層配線基板、アクティブマトリックス基板、画像表示装置、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】濡れ性変化材料を含む濡れ性変化層を形成し、その一部にエネルギーを付与して、低表面エネルギー部を隔て互いに近接した第1の領域43と第2の領域44を含む高表面エネルギー部を形成し、導電性材料を含有する機能液61を第1の領域43にインクジェット法を用いて選択的に滴下し、機能液61を乾燥させて高表面エネルギー部上に導電層を形成する。その際、第1の領域43の中心位置と機能液61の滴下中心位置の距離Xは、機能液の飛翔時の直径D、機能液の着弾位置ばらつきα、第1の領域の幅L、第1の領域と第2の領域との間隔Sとして、X<±(L+2S−D−2α)/2(但し、L+2S>D+2α)、及び、X<±(L+D−2α)/2(但し、L+2D>D+2α)で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、多層配線基板、アクティブマトリックス基板、画像表示装置、及び積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路等における電極、絶縁体、半導体などの形成方法として、これらの機能性材料を含有する機能液を基板上の所定位置に供給するインクジェット法がある。インクジェット法は、露光装置を用いるフォトリソグラフィー法に比べて、高価な装置や設備を必要とすることなく、工程数も少なく、材料効率が高いといった利点を有している。しかし一方で、1pL以下の液滴の制御が困難であり液滴の大きさに下限が存在する、複数のノズルを用いた際に機能液の着弾位置のばらつきが生じる、着弾後被印刷面で濡れ広がる、などといった理由で、一般に線幅50μm以下といった微細パターンを形成することが困難であった。
【0003】
これに対して特許文献1では、エネルギーの付与により表面エネルギーが変化する濡れ性変化層を用いた積層構造体の製造方法が開示されている。濡れ性変化層へエネルギーを付与し、機能液に対して親水的な高表面エネルギー部と、機能液に対して疎水的な低表面エネルギー部を形成することで、高表面エネルギー部に選択的に導電性材料を含有する機能液を滴下した場合に、微細な導電層を備える積層構造体が形成可能となる。
【0004】
又、特許文献2では、画素の隔壁としてバンクをあらかじめ形成するカラーフィルタの製造方法が開示されている。隔壁で囲まれた画素部(着色部)の濡れ性の差を利用し、更に隔壁幅と画素幅に対して機能液の液滴径を調整することで、隣接画素間での混色および「白抜け」の無い、均一性に優れるカラーフィルタを歩留まりよく形成可能とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている製造方法では、微小な低表面エネルギー部を隔てて互いに近接する2つの高表面エネルギー部の両方に導電層を形成しようとした場合、低表面エネルギー部近傍に着弾した液滴によって、2つの高表面エネルギー部が繋がってしまう可能性があり、微細化には限界があった。
【0006】
又、特許文献2に開示されている製造方法では、バンクを形成するためにフォトリソグラフィー法が必要になり、結果として製造コストが高くなる。又、画素幅やバンク幅に応じて機能液の液滴径を調整する必要があるため、例えば配線パターン等の線幅が異なるパターンに開示の製造技術を適用する場合に、制限が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、インクジェット法により微細な導電層を形成した積層構造体、多層配線基板、アクティブマトリックス基板、画像表示装置、及び積層構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本積層構造体の製造方法は、エネルギーの付与により表面エネルギーが変化する濡れ性変化材料を含み、少なくとも表面エネルギーの異なる2つの部位を有する濡れ性変化層と、前記濡れ性変化層の2つの部位のうちの前記表面エネルギーの高い高表面エネルギー部上に形成された導電層と、を備える積層構造体の製造方法であって、前記濡れ性変化材料を含む前記濡れ性変化層を形成する第1の工程と、前記濡れ性変化層の一部にエネルギーを付与し、前記濡れ性変化層に低表面エネルギー部を隔てて互いに近接した第1の領域と第2の領域とを含む、前記低表面エネルギー部よりも前記表面エネルギーの高い高表面エネルギー部を形成する第2の工程と、導電性材料を含有する機能液を少なくとも前記第1の領域に選択的に滴下する第3の工程と、前記高表面エネルギー部に滴下された前記機能液を乾燥させて前記高表面エネルギー部上に前記導電性材料を含む前記導電層を形成する第4の工程と、を有し、前記第3の工程において、前記機能液の滴下がインクジェット法を用いて行われ、前記第1の領域の中心位置と前記機能液の滴下中心位置の距離Xが、下記式(1)及び式(2)の両方を満足するように、前記機能液の滴下中心位置が決定されることを要件とする。
【0009】
X<±(L+2S−D−2α)/2(但し、L+2S>D+2α)・・・式(1)
X<±(L+D−2α)/2(但し、L+2D>D+2α)・・・式(2)
但し、式(1)及び式(2)において、X:第1の領域の中心位置と機能液の滴下中心位置との距離、D:機能液の飛翔時の直径、α:機能液の着弾位置ばらつき、L:第1の領域の幅、S:第1の領域と第2の領域との間隔である。
【0010】
又、本積層構造体は、本発明に係る積層構造体の製造方法を用いて製造されたことを要件とする。
【0011】
又、本多層配線基板は、少なくとも基板と、絶縁体層と、電極層とを有する多層配線基板において、本発明に係る積層構造体を有し、前記高表面エネルギー部上に形成された前記導電層は、前記電極層の少なくとも一部として利用されることを要件とする。
【0012】
又、本アクティブマトリックス基板は、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極、保持容量電極、及び半導体層を含むトランジスタと、前記ゲート電極から一方向に延設されたゲート信号線と、前記ソース電極から、前記ゲート信号線の延設方向に対して略直交する方向に延設されたソース信号線と、前記保持容量電極から、前記ゲート信号線又は前記ソース信号線の延設方向に対して略平行に延設された共通信号線と、を備えるアクティブマトリックス基板において、本発明に係る積層構造体を有し、前記高表面エネルギー部上に形成された前記導電層は、前記ゲート電極、前記ソース電極、前記ドレイン電極、前記保持容量電極、前記ゲート信号線、前記ソース信号線、及び前記共通信号線のうち少なくともいずれか1つとして利用されることを要件とする。
【0013】
又、本画像表示装置は、画像表示素子と、本発明に係るアクティブマトリックス基板と、を有することを要件とする。
【発明の効果】
【0014】
開示の技術によれば、インクジェット法により微細な導電層を形成した積層構造体、多層配線基板、アクティブマトリックス基板、画像表示装置、及び積層構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態に係る積層構造体を例示する断面図である。
【図2】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法を例示する図(その1)である。
【図3】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法を例示する図(その2)である。
【図4】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法を例示する図(その3)である。
【図5】本実施の形態に係る積層構造体の製造方法を例示する図(その4)である。
【図6】インクジェット装置の構造を例示する概略図である。
【図7】機能液の滴下位置に関する第1の必要条件を説明するための図である。
【図8】機能液の滴下位置に関する第2の必要条件を説明するための図である。
【図9】機能液の滴下位置に関する一例を示す図(その1)である。
【図10】機能液の滴下位置に関する一例を示す図(その2)である。
【図11】本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板を例示する図である。
【図12】本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板の製造方法を例示する図(その1)である。
【図13】本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板の製造方法を例示する図(その2)である。
【図14】本実施の形態に係る積層構造体を形成する際の機能液の滴下中心位置の決定方法の一例を示す図(その1)である。
【図15】本実施の形態に係る積層構造体を形成する際の機能液の滴下中心位置の決定方法の一例を示す図(その2)である。
【図16】実施例1に係る積層構造体の製造方法を例示する図である。
【図17】実施例3に係るアクティブマトリックス基板を例示する図である。
【図18】実施例3における機能液の配置例を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0017】
[積層構造体の構造]
始めに、本実施の形態に係る積層構造体の概略の構造について説明する。図1は、本実施の形態に係る積層構造体を例示する断面図である。図1を参照するに、本実施の形態に係る積層構造体10は、基板20上に濡れ性変化層30及び導電層71が積層された構造を有する。
【0018】
基板20としては、例えばガラス基板、シリコン基板、ステンレス基板、フィルム基板等を用いることができる。フィルム基板としては、例えばポリイミド(PI)基板、ポリエーテルサルホン(PES)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板等を用いることができる。
【0019】
濡れ性変化層30は、熱、電子線、紫外線、プラズマ等のエネルギーの付与により表面エネルギー(臨界表面張力)が変化する濡れ性変化材料を含む。この濡れ性変化材料には、側鎖に疎水性基を有する高分子材料を用いることができる。高分子材料としては、具体的には、ポリイミドや(メタ)アクリルレート等の骨格を有する主鎖に直接或いは結合基を介して疎水性基を有する側鎖が結合しているものを用いることができる。疎水基としては、フッ素原子を含むフルオロアルキル基やフッ素元素を含まない炭化水素基を用いることができる。濡れ性変化層30の表面近傍には、相対的に表面エネルギー(臨界表面張力)が大きい高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42と、相対的に表面エネルギー(臨界表面張力)が小さい低表面エネルギー部50が形成されている。
【0020】
濡れ性変化層30を構成する高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42上には、導電層71が形成されている。導電層71としては、例えばAu、Ag、Cu、Pt、Al、Ni、Pd、Pb、In、Sn、Zn、TIやこれらの合金、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ガリウム等の透明導電体等からなる金属微粒子を含む材料や、金属錯体を含む材料や、ドープドPANI(ポリアニリン)やPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)にPSS(ポリエチレンスルホン酸)をドープした導電性高分子を含む材料等を用いることができる。
【0021】
本実施の形態に係る積層構造体は、例えば、基板と、基板上に形成された濡れ性変化層である絶縁体層と、濡れ性変化層である絶縁体層の高表面エネルギー部上に形成された導電層である電極層とを有する多層配線基板に適用することができる。又、本実施の形態に係る積層構造体であるトランジスタを有するアクティブマトリックス基板等に適用することができる。本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板を用いることにより、安価かつ高性能な画像表示装置を実現することができる。
【0022】
[積層構造体の製造方法]
次に、本実施の形態に係る積層構造体の製造方法について説明する。図2〜図5は、本実施の形態に係る積層構造体の製造方法を例示する図である。なお、図2(a)〜図5(a)は平面図であり、図2(b)〜図5(b)は図2(a)〜図5(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0023】
本実施の形態に係る積層構造体の製造方法は、濡れ性変化層30を形成する第1の工程(図2)と、濡れ性変化層30の一部に紫外線等のエネルギーを付与し濡れ性変化層30に高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42と低表面エネルギー部50とを形成する第2の工程(図3)と、導電性材料を含有する機能液61を高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42上へ選択的に滴下する第3の工程(図4)と、機能液61を乾燥させて導電層71を形成する第4の工程(図5)と、を有する。以下、図2〜図5を参照しながら、各工程について詳説する。
【0024】
図2に示す第1の工程では、前述の濡れ性変化材料を含む溶液を、スピンコート法等により基板20上に塗布し、乾燥させて、濡れ性変化層30を形成する。例えば濡れ性変化材料として、側鎖に疎水基を有する構造の高分子材料を用いた場合、低表面エネルギー部50を有する濡れ性変化層30が基板20上に形成される。
【0025】
図3に示す第2の工程では、フォトマスク91を用いて、紫外線92を濡れ性変化層30上の一部へ露光する。紫外線を露光した部分の濡れ性変化層30は、疎水基の結合が切断され低表面エネルギー(疎水性)から高表面エネルギー(親水性)に変化する。このため、濡れ性変化層30上に高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42と低表面エネルギー部50とからなるパターンを形成することができる。
【0026】
図4に示す第3の工程では、液滴吐出ノズル93から、導電性材料を含む機能液61を高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42上へ選択的に配置する。機能液61の配置手段としては、微小液滴を1滴ずつ精度よく滴下可能であるという特徴を有するインクジェット法が好適である。導電性材料を含む機能液61は、Au、Ag、Cu、Pt、Al、Ni、Pd、Pb、In、Sn、Zn、TIやこれらの合金、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ガリウム等の透明導電体、等からなる金属微粒子を有機溶媒や水に分散させたインクや、金属錯体を有機溶媒や水に溶解させたインクや、ドープドPANI(ポリアニリン)やPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)にPSS(ポリエチレンスルホン酸)をドープした導電性高分子の水溶液などが挙げられる。
【0027】
インクジェット法で用いるために、機能液61の表面張力は20mN/m以上50mN/m以下であることが望ましく、又、粘度は2mPa・s以上50mPa・s以下であることが望ましい。又、高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42に対する機能液61の接触角並びに低表面エネルギー部50に対する機能液61の接触角を規定することで、高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42に対する機能液61の滴下許容範囲が拡大でき、より安定して導電層71を形成することができる。この際、高表面エネルギー部の第1の領域41及び第2の領域42に対する機能液61の接触角は5°以下、低表面エネルギー部50に対する機能液61の接触角は30°以上であることが望ましい。
【0028】
図5に示す第4の工程では、機能液61を乾燥・固化させて導電層71を形成する。乾燥方法としては、オーブン等を利用した対流伝熱方式、ホットプレート等を利用した伝導伝熱方式、遠赤外線やマイクロ波を利用した輻射伝熱方式を用いることができる。又、必ずしも大気圧で行う必要はなく、必要に応じて減圧するなどの工夫を加えても良い。又、乾燥・固化させた導電層71に追加で熱処理等を加えてよい。特に、機能液61として上述のナノメタルインクを用いた場合、乾燥・固化させただけでは十分な導電性を実現し難いため、ナノ粒子同士を融着させるための熱処理等が必要になる。このように、図2〜図5に示す工程により、図1に示す積層構造体10が製造される。
【0029】
次に、図4に示す第3の工程で用いるインクジェット装置の構造、及び図4に示す第3の工程のうち機能液61の滴下位置に関して、図6〜図10を参照しながら、より詳細な説明を行う。
【0030】
図6は、インクジェット装置の構造を例示する概略図である。図6に示すインクジェット装置100は、定盤101と、ステージ102と、液滴吐出ヘッド103と、液滴吐出ヘッド103に接続されたX軸方向移動機構104と、ステージ102に接続されたY軸方向移動機構105と、制御装置106とを備えている。
【0031】
ステージ102は、基板20を支持する目的で備えられており、基板20を吸着する吸着機構(図示せず)等の固定機構を備えている。又、基板20上に滴下された機能液61を乾燥させるための熱処理機構を備えて良い。
【0032】
液滴吐出ヘッド103は、複数の液滴吐出ノズル(図4に示す液滴吐出ノズル93)を備えたヘッドであり、複数の液滴吐出ノズルが液滴吐出ヘッド103の下面に、X軸方向に沿って一定間隔で並んでいる。この液滴吐出ノズルからステージ102に支持されている基板20に対して機能液61が吐出される。液滴吐出ヘッド103の液滴吐出機構には、例えばピエゾ方式を用いることができ、この場合、液滴吐出ヘッド103内のピエゾ素子に電圧を印加することで液滴が吐出する。
【0033】
X軸方向移動機構104は、X軸方向駆動軸107、及びX軸方向駆動モータ108で構成される。X軸方向駆動モータ108はステッピングモータ等であり、制御装置106からX軸方向の駆動信号が供給されると、X軸駆動軸107を動作させ、液滴吐出ヘッド103がX軸方向に移動する。
【0034】
Y軸方向移動機構105は、Y軸方向駆動軸109およびY軸方向駆動モータ110で構成される。制御装置106からX軸方向の駆動信号が供給されるとステージ102がY軸方向に移動する。
【0035】
制御装置106は、液滴吐出ヘッド103に吐出制御用の信号を供給する。又、X軸方向駆動モータ108にX軸方向の駆動信号を、Y軸方向駆動モータ110にY軸方向の駆動信号をそれぞれ供給する。なお、制御装置106は、液滴吐出ヘッド103、X軸方向駆動モータ108、Y軸方向駆動モータ110とそれぞれ電気的に接続されているが、その配線は図示していない。
【0036】
インクジェット装置100は、液滴吐出ヘッド103とステージ102とを相対的に走査させながらステージ102上に固定された基板20に対して機能液61の液滴を吐出する。なお、液滴吐出ヘッド103とX軸方向移動機構104の間には、X軸方向移動機構104と独立動作する回転機構を備え付けても良い。回転機構を動作させて液滴吐出ヘッド103とステージ102との相対角度を変化させることで、液滴吐出ノズル間ピッチを調節できる。又、液滴吐出ヘッド103とX軸方向移動機構104の間には、X軸方向移動機構104と独立動作するZ軸方向移動機構を備え付けても良い。Z軸方向に液滴吐出ヘッド103を移動させることで、基板20とノズル面との距離を任意に調節可能である。又、ステージ102とY軸方向移動機構105の間には、Y軸方向移動機構105と独立動作する回転機構を備え付けても良い。回転機構を動作させることで、ステージ102上に固定された基板20を任意の角度に回転させた状態で、基板20に対して液滴を吐出できる。
【0037】
図7は、機能液の滴下位置に関する第1の必要条件を説明するための図である。図7において、43は高表面エネルギー部の第1の領域を、44は高表面エネルギー部の第1の領域43に隣接する高表面エネルギー部の第2の領域を示している。なお、高表面エネルギー部の第1の領域43及び第2の領域44の周囲は、低表面エネルギー部である。又、43Cは第1の領域43の中心位置を、61Cは機能液61の滴下中心位置を、Dは機能液61の飛翔時の直径を、αはノズルばらつき等による機能液61の着弾位置ばらつきを、Lは第1の領域43の線幅を、Sは第1の領域43と第2の領域44との間隔を、Xは第1の領域43の中心位置43Cと機能液61の滴下中心位置61Cとの距離を示している。なお、図7(a)は、中心位置43Cと滴下中心位置61Cとの距離X=0である場合を示す図であり、図7(b)は、中心位置43Cと滴下中心位置61Cとの距離X=(L+2S−D−2α)/2である場合を示す図である。
【0038】
機能液の滴下位置に関する第1の必要条件は、第1の領域43に導電層を形成するために第1の領域43に機能液61を滴下する際に、滴下された機能液61が第2の領域44に接することが無いことである。ばらつき等を考慮した機能液61の滴下範囲61Eは、機能液61の滴下中心位置61Cを中心とした直径D+2αからなる円となる。従って、この滴下範囲61Eが第2の領域44に重なることが無いように、機能液61の滴下中心位置61Cを決定することで、第1の領域43に安定して導電層を形成することが可能になる。機能液61の滴下範囲61Eが第2の領域44に重ならないための滴下許容範囲61Fの直径はL+2Sと表すことができる。
【0039】
機能液61の滴下範囲61Eが一方の第2の領域44に接する場合の機能液61の滴下中心位置61Cの位置Xは、第1の領域43の中心位置43Cを基準として、『X=−(L+2S−D−2α)/2』となる。又、機能液61の滴下範囲61Eが他方の第2の領域44に接する場合の機能液61の滴下中心位置61Cの位置Xは、第1の領域43の中心位置43Cを基準として、『X=(L+2S−D−2α)/2』となる。第1の必要条件は、X<X<Xであるから、結果として、式(1)を導くことができる。
【0040】
X<±(L+2S−D−2α)/2(但し、L+2S>D+2α)・・・式(1)
式(1)において、X:第1の領域43の中心位置43Cと機能液61の滴下中心位置61Cとの距離、D:機能液61の飛翔時の直径、α:機能液61の着弾位置ばらつき、L:第1の領域43の線幅、S:第1の領域43と第2の領域44との間隔である。
【0041】
図8は、機能液の滴下位置に関する第2の必要条件を説明するための図である。機能液61の滴下位置に関する第2の必要条件は、第1の領域43に導電層を形成するために、図8(a)に示すように滴下された機能液61が第1の領域43に確実に接する範囲に滴下することである。もちろん、図8(b)に示すように滴下された機能液61が第1の領域43に重なっても良い。機能液61の滴下範囲が第1の領域43に重なるための滴下許容範囲61Gの直径は、第1の領域43の線幅L、及び機能液61の飛翔時の直径Dを用いて、L+2Dと表すことができる。
【0042】
機能液61が第1の領域43の一方の側に接する場合の機能液61の滴下中心位置61Cの位置Xは、第1の領域43の中心位置43Cを基準として、『X=−(L+D−2α)/2』となる。又、機能液61が第1の領域43の他方の側に接する場合の機能液61の滴下中心位置61Cの位置Xは、第1の領域43の中心位置43Cを基準として、『X=(L+D−2α)/2』となる。第2の必要条件は、X<X<Xであるから、結果として、式(2)を導くことができる。
【0043】
X<±(L+D−2α)/2(但し、L+2D>D+2α)・・・式(2)
式(2)において、X:第1の領域43の中心位置43Cと機能液61の滴下中心位置61Cとの距離、D:機能液61の飛翔時の直径、α:機能液61の着弾位置ばらつき、L:第1の領域43の幅である。
【0044】
なお、上記第1及び第2の必要条件を決定する際には、あらかじめ第1の領域43の中心位置43Cを決定しておく必要があるが、例えば第1の領域43が線形状である場合、第1の領域43の中心位置43Cは線幅方向に関して線中心上の位置とする事が好ましい。又、第1の領域43の形状としては線に限定されることは無く、正多角形、多角形、真円、楕円等を含む任意の形状であってよい。この場合、第1の領域43の中心位置43Cとしては第1の領域43の重心位置とすることが好ましい。
【0045】
以上の式(1)と式(2)の両方を満足するように機能液61の滴下中心位置61Cを決定することで、第1の領域43に安定して導電層を形成することが可能になる。
【0046】
図9は機能液の滴下位置に関する一例を示す図(その1)である。図9において、45は高表面エネルギー部の第3の領域を示している。なお、高表面エネルギー部の第1の領域43、第2の領域44、及び第3の領域45の周囲は、低表面エネルギー部である。又、S1は第1の領域43と第2の領域44との間隔を、S2は第1の領域43と第3の領域45との間隔を示している。図9において、間隔S1は間隔S2よりも広くなっている。この場合、滴下中心位置の許容範囲Rは、第1の領域43から第2の領域44への方向に関してより広くなっている。従って滴下中心位置を決定する際には、マージンのより広い第1の領域43から第2の領域44への方向に向かって、線中心上の位置よりずらしても良い。
【0047】
図10は機能液の滴下位置に関する一例を示す図(その2)である。第1の領域43及び第2の領域44の両方に機能液を滴下する際には、機能液1滴の滴下範囲が互いに重ならないように距離を隔てることで、より安定して第1の領域43及び第2の領域44に導電層を形成できる。更にこの場合、図10に示すように千鳥状に機能液を配置することが好ましい。千鳥状に機能液を配置することで、機能液の滴下中心位置の間隔をより長くすることが可能になり、より安定して微細な導電層を形成できる。
【0048】
[アクティブマトリックス基板の構造]
次に、本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板の概略の構造について説明する。図11は、本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板を例示する図である。図11(a)は平面図であり、図11(b)は図11(a)のA−A線に沿う断面図である。なお、図11(b)は、アクティブマトリックス基板に含まれるトランジスタの部分を示している。
【0049】
図11(a)及び図11(b)を参照するに、本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板120は、トランジスタ270と、ゲート信号線280と、ソース信号線290と、共通信号線300とを有する。
【0050】
トランジスタ270は、基板20上に、濡れ性変化層200、ゲート電極210及び保持容量電極250、濡れ性変化層であるゲート絶縁層220、ソース電極230及びドレイン電極240、及び半導体層260が順次積層された積層構造体である。
【0051】
より詳しく説明すると、基板20上には、表面近傍に高表面エネルギー部201及び低表面エネルギー部202が形成された濡れ性変化層200が積層されている。濡れ性変化層200の高表面エネルギー部201上には導電層であるゲート電極210及び保持容量電極250が形成されている。濡れ性変化層200上には、ゲート電極210及び保持容量電極250を覆うように濡れ性変化層であるゲート絶縁層220が積層されている。
【0052】
濡れ性変化層であるゲート絶縁層220の表面近傍には高表面エネルギー部221と低表面エネルギー部222が形成され、高表面エネルギー部221上には導電層であるソース電極230及びドレイン電極240が形成されている。ソース電極230とドレイン電極240との間には間隙が設けられており、ソース電極230及びドレイン電極240上には、この間隙を埋めるように半導体層260が形成されている。
【0053】
導電層であるゲート信号線280は、ゲート電極210から一方向に延設されている。導電層であるソース信号線290は、ゲート信号線280の延設方向に対して略直交する方向に延設されている。導電層である共通信号線300は、保持容量電極250からゲート信号線280又はソース信号線290の延設方向に対して略平行に延設されている。ゲート信号線280及び共通信号線300は、濡れ性変化層200の高表面エネルギー部201上に形成されている。ソース信号線290は、濡れ性変化層220の高表面エネルギー部221上に形成されている。なお、本構成においては、濡れ性変化層がゲート絶縁層220の機能を兼ねており、又、ソース信号線290がソース電極230の機能を兼ねている。
【0054】
このように、アクティブマトリックス基板120は、本実施の形態に係る積層構造体を有し、その積層構造体の導電層として、ゲート電極210、ソース電極230、ドレイン電極240、保持容量電極250、ゲート信号線280、ソース信号線290、及び共通信号線300が設けられており、これらの全てが濡れ性変化層の高表面エネルギー部上に形成されている。但し、これらの全てを濡れ性変化層の高表面エネルギー部上に形成する必要はなく、少なくともと何れか一つを濡れ性変化層の高表面エネルギー部上に形成することにより、本実施の形態の所定の効果を奏する。
【0055】
[アクティブマトリックス基板の製造方法]
次に、本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板の製造方法について説明する。図12及び図13は、本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板の製造方法を例示する図である。図12(a)及び図13(a)は平面図であり、図12(b)及び図13(b)は図12(a)及び図13(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0056】
始めに、図12に示す工程では、図2を用いて説明した方法により、基板20上に濡れ性変化層200を積層形成する。そして、図3を用いて説明した方法により、濡れ性変化層200の表面近傍に高表面エネルギー部201及び低表面エネルギー部202を形成する。更に、図4及び図5を用いて説明した方法により、濡れ性変化層200の高表面エネルギー部201上に、ゲート電極210、保持容量電極250、ゲート信号線280、及び共通信号線300を形成する。
【0057】
次いで、図13に示す工程では、図2を用いて説明した方法により、濡れ性変化層200上に、ゲート電極210、保持容量電極250、ゲート信号線280、及び共通信号線300を覆うように濡れ性変化層であるゲート絶縁層220を積層形成する。そして、図3を用いて説明した方法により、濡れ性変化層であるゲート絶縁層220の表面近傍に高表面エネルギー部221及び低表面エネルギー部222を形成する。更に、図4及び図5を用いて説明した方法により、ゲート絶縁層220の高表面エネルギー部221上に、ソース電極230、ドレイン電極240、及びソース信号線290を形成する。
【0058】
次いで、図13に示す工程の後、ソース電極230及びドレイン電極240の両方に接するように半導体層260を形成することで、図11に示すアクティブマトリックス基板120が完成する。
【0059】
次に、より詳細な説明として、上述したアクティブマトリックス基板120に含まれる積層構造体を形成する際の、機能液の滴下中心位置の決定方法に関して述べる。図14は、本実施の形態に係る積層構造体を形成する際の機能液の滴下中心位置の決定方法の一例を示す図(その1)である。
【0060】
始めにアクティブマトリックス基板の1画素の構成に着目し、所定の導電層(例えばゲート電極210或いは保持容量電極250)を形成する際に、所定の導電層に重なり、かつ隣接する導電層に重なることのない最大の円を考え、これを滴下許容範囲とする。図14において、210Rはゲート電極210の滴下許容範囲を、250Rは保持容量電極250の滴下許容範囲を、400は機能液の飛翔時の直径及び着弾位置ばらつきを考慮した機能液の滴下範囲を、400Cは滴下中心位置(滴下範囲400の中心)を示している。ここで、ゲート電極210とゲート信号線280、或いは保持容量電極250と共通信号線300は、互いに接続する要素であるため、同一要素の導電層とみなして考える。
【0061】
次に、予め求めた滴下範囲400を参考に、各導電層を形成する際の滴下中心位置400Cを決定する。滴下中心位置400Cは、まず、滴下範囲400がゲート電極210の滴下許容範囲210R、又は保持容量電極250の滴下許容範囲250Rからはみだすことの無いように決定される。更に、確実に導電層を形成するために、滴下範囲400と高表面エネルギー部201の重なり面積ができるだけ大きくなるように滴下中心位置400Cが決定される。なお機能液の滴下数は、1画素に1滴である必要は無く、上記条件を満たす範囲で1画素に対して複数滴でも良いし、また、複数画素に対して1滴でも良い。
【0062】
滴下範囲400は、例えば液滴飛翔状態の観察装置等を用いて予め求めることができる。例えば、図6に示すインクジェット装置100において、液滴吐出ヘッド103の液滴吐出ノズルから垂直方向(図6のZ方向)に吐出される液滴を、カメラ等の観察機構を用いて、ヘッド面に平行で互いに直交する2方向(図6のX方向、Y方向)から観察することで、液滴が特定距離飛翔した際に、液滴吐出ノズル直下の位置から(X、Y)方向にどの程度ずれた位置に着弾するかを求めることが可能である。液滴吐出ヘッド103に搭載された全ての液滴吐出ノズルの着弾位置の広がりを統計的に求めることで滴下範囲400を決めることが可能である。
【0063】
図15は、本実施の形態に係る積層構造体を形成する際の機能液の滴下中心位置の決定方法の一例を示す図(その2)である。ここでも図14の場合と同様に、アクティブマトリックス基板の1画素の構成に着目し、所定の導電層(例えばソース電極230或いはドレイン電極240)を形成する際に、所定の導電層に重なり、かつ隣接する導電層に重なることのない最大の円を考え、これを滴下許容範囲とする。図15において、230Rはソース電極230の滴下許容範囲を、240Rはドレイン電極240の滴下許容範囲を示している。ここで、ソース電極230とソース信号線290は、互いに接続する要素であるため、同一要素の導電層とみなして考える。
【0064】
次に予め求めた滴下範囲400を参考に、各導電層を形成する際の滴下中心位置400Cを決定する。滴下中心位置400Cは、まず、滴下範囲400がソース電極230の滴下許容範囲230R、又はドレイン電極240の滴下許容範囲240Rからはみだすことの無いように決定される。更に、確実に導電層を形成するために、滴下範囲400と高表面エネルギー部221の重なり面積ができるだけ大きくなるように滴下中心位置400Cが決定される。ここでは、ドレイン電極240を形成するための機能液の滴下中心位置400Cをドレイン電極240の重心位置近傍とし、又、ソース電極230を形成するための機能液の滴下中心位置400Cをソース電極230の線中心上の位置とした。なお、機能液の滴下数は、1画素に1滴である必要は無く、上記条件を満たす範囲で1画素に対して複数滴でも良いし、また、複数画素に対して1滴でも良い。
【0065】
以上のように、本実施の形態によれば、飛翔時の機能液の直径、機能液の着弾位置ばらつき、第1の領域の幅、及び第1の領域と第2の領域との間隔から、第1の領域の中心位置と機能液の滴下中心位置の距離のマージンを見積もる事が可能になり、第1の領域に安定して微細な導電層を形成することができる。
【0066】
又、機能液の滴下範囲が重ならないように距離を隔てて、第1の領域及び第2の領域に機能液が滴下されるため、安定して第1の領域及び第2の領域の両方に導電層を形成することができる。
【0067】
又、機能液の滴下中心位置を千鳥状に配置することで、隣接して滴下される機能液の距離を広くとることが可能であり、より安定して第1の領域及び第2の領域の両方に導電層を形成することができる。
【0068】
又、機能液の接触角を規定することで、高表面エネルギー部に対する機能液の滴下許容範囲が拡大でき、より安定して導電層を形成することができる。
【0069】
又、本実施の形態に係る積層構造体を用いることにより、安価で微細な多層配線基板が提供できる。
【0070】
又、本実施の形態に係る積層構造体を用いることにより、安価で微細なアクティブマトリックス基板が提供できる。
【0071】
又、本実施の形態に係るアクティブマトリックス基板を用いることにより、安価かつ高性能な画像表示装置が提供できる。
【0072】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0073】
(実施例1)
実施例1は、図16に示す積層構造体10Aの製造方法に関する実施例である。図16は、実施例1に係る積層構造体の製造方法を例示する図である。図16(a)は平面図であり、図16(b)は図16(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0074】
まず、濡れ性変化材料を含有するNMP溶液を、ガラス基板20上にスピンコート塗布した。この濡れ性変化材料には、下記に示す化1で表されるポリイミド材料を用いた。次に、100℃のオーブンで前焼成を行った後、300℃のオーブンで熱処理を加えて濡れ性変化層30を形成した。
【0075】
【化1】

続いて、複数の線状の開口パターンを有するフォトマスクを作製し、波長300nm以下の紫外線(超高圧水銀ランプ)を濡れ性変化層30上の一部へ露光させ、濡れ性変化層30上に高表面エネルギー部の第1の領域41及び高表面エネルギー部の第2の領域42、並びに低表面エネルギー部50とからなるパターンを形成した。作製したフォトマスクには9種類の大きさの異なる開口パターンをあらかじめ設けており、第1の領域41の線幅Lと第1の領域41と第2の領域42との間隔Sの組み合わせの異なる積層構造体を9種類作製している。
【0076】
続いて、下記の表1に示した線幅Lと間隔Sの組み合わせの各パターンに対して、機能液(飛翔時の直径約25μm、着弾位置ばらつき±15μm)を滴下した。なお、下記の表1に示した線幅Lと間隔Sの組み合わせは、式(1)を満足する場合と満足しない場合の両方を含んでいる。又、下記の表1に示した線幅Lと間隔Sの組み合わせは、全て式(2)を満足している。
【0077】
具体的には、Agナノ粒子を含有する親水性インクからなる機能液をインクジェット法で高表面エネルギー部の第1の領域41のみに選択的に滴下した。滴下中心位置は第1の領域41の中心位置41C(第1の領域41の線中心;X=0)としている。この機能液の表面張力は約30mN/m、粘度10mPa・sであり、液滴法を用いて測定した機能液の高表面エネルギー部に対する接触角は約5°、低表面エネルギー部に対する接触角は約30°であった。ノズル数100のピエゾ方式のインクジェットヘッドを用い、駆動電圧を調整することで、液滴吐出ノズルから吐出される機能液の平均体積を約8pL(飛翔時の直径は約25μm)として機能液の滴下を行った。この際に基板と液滴吐出ノズルの間隔を0.5mmとしており、全100ノズルでの着弾位置ばらつきは±15μmである。
【0078】
続いて、第1の領域41に機能液を滴下した後、機能液を100℃のオーブンで乾燥・固化させて導電層71を形成し、積層構造体10Aを作製した。
【0079】
作製した積層構造体10Aを金属顕微鏡で観察し、導電層71がどのように形成されているかを評価した結果を表1に示す。表1に示すように、式(1)と式(2)の両方を満足する場合(表1の式(1)の欄の数値が正である場合)には、第1の領域41のみに導電層71が形成され、式(2)は満足するが式(1)を満足しない場合(表1の式(1)の欄の数値が負である場合)には、第2の領域42にも導電層71が形成された。すなわち、式(1)と式(2)の両方を満足することにより、第1の領域41のみに安定して導電層71を形成可能であることが確認できた。なお、表1において、『○』は第1の領域41のみに導電層71が形成されたことを意味し、『×』は第2の領域42にも導電層71が形成されたことを意味している。
【0080】
【表1】

(実施例2)
実施例2は、実施例1と同様に図16に示す積層構造体10Aの製造方法に関する実施例である。
【0081】
実施例2では、実施例1で用いたフォトマスクとは異なる線状の開口パターンを有するフォトマスクを用いている点、及び滴下中心位置を第1の領域41の中心位置41C(第1の領域41の線中心;X=0)から変えている点、以外は実施例1と同様の方法で積層構造体10Aを作製している。
【0082】
下記の表2に示した線幅Lと間隔Sの組み合わせの各パターンに対して、機能液(飛翔時の直径約25μm、着弾位置ばらつき±15μm)を滴下して積層構造体10Aを作製した。そして、作製した積層構造体10Aを金属顕微鏡で観察し、導電層71がどのように形成されているかを評価した結果を表2に示す。なお、下記の表2に示した線幅Lと間隔Sの組み合わせは、全て式(1)を満足している。又、下記の表2に示した線幅Lと間隔Sの組み合わせは、式(2)を満足する場合と満足しない場合の両方を含んでいる。
【0083】
表2に示すように、式(1)と式(2)の両方を満足する場合(表1の式(2)の欄の数値が正である場合)には、第1の領域41のみに導電層71が形成され、式(1)は満足するが式(2)を満足しない場合(表1の式(2)の欄の数値が負である場合)には、第2の領域42にも導電層71が形成された。すなわち、式(1)と式(2)の両方を満足することにより、第1の領域41のみに安定して導電層71を形成可能であることが確認できた。なお、表2において、『○』は第1の領域41のみに導電層71が形成されたことを意味し、『×』は第2の領域42にも導電層71が形成されたことを意味している。
【0084】
【表2】

(実施例3)
実施例3は、図17に示すアクティブマトリックス基板120Aの製造方法に関する実施例である。図17は、実施例3に係るアクティブマトリックス基板を例示する図である。図17(a)は平面図であり、図17(b)は図17(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0085】
アクティブマトリックス基板120Aは、図11に示すアクティブマトリックス基板120のトランジスタ270がトランジスタ270Aに置換されたものである。トランジスタ270Aは、トランジスタ270から濡れ性変化層200が削除されたものである。すなわち、トランジスタ270Aにおいて、ゲート電極210、保持容量電極250、ゲート信号線280、及び共通信号線300は、基板20上に直接形成されている。
【0086】
図17には、アクティブマトリックス基板120Aの4画素の構成例を示すが、実際には、画素が縦200画素、横200画素からなる、計40000画素がマトリックス状に並設されている。
【0087】
各部の寸法は以下の通りである。画素サイズは160PPIに相当し約159μm。機能液の飛翔時の直径D=約25μm、着弾位置ばらつきα=±15μm。ソース電極230の線幅L1=40μm。ドレイン電極240の横幅L2=65μm、縦幅L3=89μm。ソース電極230とドレイン電極240の間隔として表現されるチャネル長L4=5μm。ソース電極230とドレイン電極240の間隔S3=25μm。隣接するドレイン電極240の間隔S4=94μm。
【0088】
以下、アクティブマトリックス基板120Aの製造方法について説明するが、ポリイミド材料、機能液、機能液の滴下条件は、実施例1と同一に設定したので、説明を省略する。
【0089】
始めに、フォトリソグラフィー法を用いて、ガラス基板からなる基板20上にゲート電極210、保持容量電極250、ゲート信号線280、及び共通信号線300を作製した。次に、ポリイミド材料を含有するNMP溶液を、スピンコート法で基板20上に塗布し、100℃のオーブンで前焼成を行った後、300℃のオーブンで熱処理を加えて濡れ性変化層220を形成した。その後、所定のパターンを有するフォトマスクを用いて、紫外線を濡れ性変化層220上の一部へ露光させ、濡れ性変化層220上に高表面エネルギー部221と低表面エネルギー部222とからなるパターンを形成した。
【0090】
次に機能液を、高表面エネルギー部221へ選択的に滴下し、熱処理してソース電極230及びドレイン電極240、及びソース信号線290を形成した。
【0091】
次に、下記に示す化2に示すようなスキームより合成した有機半導体なる重合体をトルエンに溶解した溶液をインクジェット法にて塗布して半導体層260を形成し、アクティブマトリックス基板120Aを作製した。
【0092】
【化2】

図18には、実施例3においてソース電極230、ドレイン電極240、及びソース信号線290を形成する際の、機能液の配置例を示す。図17の各部の寸法から、下記の値が導かれる。機能液61の滴下範囲の直径D+2α=55μm。ドレイン電極240の滴下許容範囲240Rの直径=L3+2×L4=99μm。ソース電極230の滴下許容範囲230Rの直径=2×√{(L1/2+L4)+(S4/2)}=106μm。
【0093】
図18に示すように、ソース電極230の滴下許容範囲230R(直径106μm)内に、機能液の滴下範囲430が収まるように、機能液の滴下中心位置430Cを設定している。又、ドレイン電極240の滴下許容範囲240R(直径99μm)内に、機能液の滴下範囲440が収まるように、機能液の滴下中心位置440Cを設定している。
【0094】
より具体的には、ソース電極230を形成するための機能液の滴下中心位置430Cをソース電極230の線中心上の位置とし、ソース電極230を形成する際には159μm置きに1滴ずつとしている。又、ドレイン電極240を形成するための機能液の滴下中心位置440Cをドレイン電極240の重心位置とし、ドレイン電極240を形成する際にはドレイン電極1個につき1滴ずつとしている。このように機能液の滴下位置を決定することで、線幅L1=40μmやチャネル長L4=5μmといった微細な電極を安定して形成することができた。
【0095】
(実施例4)
実施例4では、実施例3で作製したアクティブマトリックス基板120Aに、電気泳動素子を貼り合わせて表示装置を作製した。電気泳動素子は酸化チタン粒子オイルブルーで着色したアイソパーを内包するマイクロカプセルをPVA水溶液に混合して、ITOからなる透明電極を形成したポリカーボネート基板上に塗布して、マイクロカプセルとPVAバインダーからなる層を形成した。この基板と前記アクティブマトリックス基板を積層して表示装置を形成して動作させたところ、コントラストの高い画像を表示することができた。又、160PPIと高精細なアクティブマトリックス基板を用いたことで、10pt文字を明瞭に表示することができた。
【0096】
以上、好ましい実施の形態及び実施例について詳説したが、上述した実施の形態及び実施例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0097】
10、10A 積層構造体
20 基板
30、200 濡れ性変化層
41、43 高表面エネルギー部の第1の領域
42、44 高表面エネルギー部の第2の領域
41C、43C 高表面エネルギー部の第1の領域の中心位置
45 高表面エネルギー部の第3の領域
50、202、222 低表面エネルギー部
61 機能液
61C 機能液の滴下中心位置
61E、400、430、440 機能液の滴下範囲
61F、61G 機能液の滴下許容範囲
71 導電層
91 フォトマスク
92 紫外線
93 液滴吐出ノズル
100 インクジェット装置
101 定盤
102 ステージ
103 液滴吐出ヘッド
104 X軸方向移動機構
105 Y軸方向移動機構
106 制御装置
107 X軸方向駆動軸
108 X軸方向駆動モータ
109 Y軸方向駆動軸
110 Y軸方向駆動モータ
120、120A アクティブマトリックス基板
201、221 高表面エネルギー部
210 ゲート電極
210R ゲート電極の滴下許容範囲
220 ゲート絶縁層
230 ソース電極
230R ソース電極の滴下許容範囲
240 ドレイン電極
240R ドレイン電極の滴下許容範囲
250 保持容量電極
250R 保持容量電極の滴下許容範囲
260 半導体層
270、270A トランジスタ
280 ゲート信号線
290 ソース信号線
300 共通信号線
400C、430C、440C 滴下中心位置
α 機能液の着弾位置ばらつき
D 機能液の飛翔時の直径
L 第1の領域の線幅
L1 ソース電極の線幅
L2 ドレイン電極の横幅
L3 ドレイン電極の縦幅
L4 チャネル長
R 滴下中心位置の許容範囲
S 第1の領域と第2の領域との間隔
S1 第1の領域と第2の領域との間隔
S2 第1の領域と第3の領域との間隔
S3 ソース電極とドレイン電極の間隔
S4 隣接するドレイン電極の間隔
X 第1の領域の中心位置と機能液の滴下中心位置の距離
【先行技術文献】
【特許文献】
【0098】
【特許文献1】特開2005−310962号公報
【特許文献2】特開2004−109209号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーの付与により表面エネルギーが変化する濡れ性変化材料を含み、少なくとも表面エネルギーの異なる2つの部位を有する濡れ性変化層と、前記濡れ性変化層の2つの部位のうちの前記表面エネルギーの高い高表面エネルギー部上に形成された導電層と、を備える積層構造体の製造方法であって、
前記濡れ性変化材料を含む前記濡れ性変化層を形成する第1の工程と、
前記濡れ性変化層の一部にエネルギーを付与し、前記濡れ性変化層に低表面エネルギー部を隔てて互いに近接した第1の領域と第2の領域とを含む、前記低表面エネルギー部よりも前記表面エネルギーの高い高表面エネルギー部を形成する第2の工程と、
導電性材料を含有する機能液を少なくとも前記第1の領域に選択的に滴下する第3の工程と、
前記高表面エネルギー部に滴下された前記機能液を乾燥させて前記高表面エネルギー部上に前記導電性材料を含む前記導電層を形成する第4の工程と、を有し、
前記第3の工程において、前記機能液の滴下がインクジェット法を用いて行われ、前記第1の領域の中心位置と前記機能液の滴下中心位置の距離Xが、下記式(1)及び式(2)の両方を満足するように、前記機能液の滴下中心位置が決定されることを特徴とする積層構造体の製造方法。
X<±(L+2S−D−2α)/2(但し、L+2S>D+2α)・・・式(1)
X<±(L+D−2α)/2(但し、L+2D>D+2α)・・・式(2)
但し、式(1)及び式(2)において、X:第1の領域の中心位置と機能液の滴下中心位置との距離、D:機能液の飛翔時の直径、α:機能液の着弾位置ばらつき、L:第1の領域の幅、S:第1の領域と第2の領域との間隔である。
【請求項2】
前記第3の工程において、前記機能液の滴下範囲が重ならないように距離を隔てて、前記第1の領域及び前記第2の領域に前記機能液が滴下され、前記第1の領域及び前記第2の領域の両方に前記導電層を形成することを特徴とする請求項1記載の積層構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程において、前記機能液の滴下中心位置が千鳥状に配置されるように前記機能液を滴下することを特徴とする請求項2記載の積層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記低表面エネルギー部に対する前記機能液の接触角が30°以上、前記高表面エネルギー部に対する前記機能液の接触角が5°以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の積層構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項記載の積層構造体の製造方法を用いて製造された積層構造体。
【請求項6】
少なくとも基板と、絶縁体層と、電極層とを有する多層配線基板において、
請求項5記載の積層構造体を有し、
前記高表面エネルギー部上に形成された前記導電層は、前記電極層の少なくとも一部として利用される多層配線基板。
【請求項7】
ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極、保持容量電極、及び半導体層を含むトランジスタと、
前記ゲート電極から一方向に延設されたゲート信号線と、
前記ソース電極から、前記ゲート信号線の延設方向に対して略直交する方向に延設されたソース信号線と、
前記保持容量電極から、前記ゲート信号線又は前記ソース信号線の延設方向に対して略平行に延設された共通信号線と、を備えるアクティブマトリックス基板において、
請求項5記載の積層構造体を有し、
前記高表面エネルギー部上に形成された前記導電層は、前記ゲート電極、前記ソース電極、前記ドレイン電極、前記保持容量電極、前記ゲート信号線、前記ソース信号線、及び前記共通信号線のうち少なくともいずれか1つとして利用されるアクティブマトリックス基板。
【請求項8】
画像表示素子と、請求項7に記載されたアクティブマトリックス基板と、を有することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−187492(P2011−187492A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48127(P2010−48127)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】