説明

積層構造体、積層構造体の製造方法、および積層構造体の製造装置

【課題】剛性を低下させることなく、軽量化を図ることができる積層構造体を提供すること。
【解決手段】外装パネル10は、金属製の板材11と、この板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブ12と、からなる。よって、板材11を薄肉化しても、リブ12により外装パネル10の剛性を向上できるので、剛性を低下させることなく、軽量化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、積層構造体の製造方法、および積層構造体の製造装置に関する。詳しくは、自動車のフェンダーやルーフ等の自動車用外装部品等に用いられる積層構造体、積層構造体の製造方法、および積層構造体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、自動車のフェンダーやルーフ等の自動車用外装部品等に用いられる部材並びにその製造方法に関するものである。
従来より、フェンダーやルーフ等の自動車の外装部品は、剛性を確保するため、鉄等の金属で形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−173894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃費の向上や生産コストを低減するため、以上の外装部品の軽量化が要請されている。
この問題を解決するため、外装部品を薄肉化することが考えられるが、薄肉化した場合、外装部品の表面を押すとこの表面が凹むような感触があり、剛性が低下する、といった問題があった。
【0005】
本発明は、剛性を低下させることなく、軽量化を図ることができる積層構造体、積層構造体の製造方法、および積層構造体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層構造体(例えば、後述の外装パネル10)は、金属製の板材(例えば、後述の板材11)と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブ(例えば、後述のリブ12)と、からなることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、金属製の板材の表面に樹脂製のリブを一体化して設けて、積層構造体とした。よって、板材を薄肉化しても、リブにより積層構造体の剛性を向上できるので、剛性を低下させることなく、軽量化を図ることができる。
【0008】
本発明の積層構造体の製造方法は、金属製の板材と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブと、からなる積層構造体の製造方法であって、前記板材の表面に表面処理材を塗布する第1の工程と、前記板材の表面を加熱する第2の工程と、前記板材の表面に熱可塑性樹脂を配置し、当該熱可塑性樹脂を前記板材に押し付ける第3の工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、板材の表面に表面処理材を塗布し、板材の表面を加熱して、板材の表面に熱可塑性樹脂を配置し、この熱可塑性樹脂を板材に押し付けた。これにより、金属製の板材の表面に、熱可塑性樹脂製のリブを一体化できる。
【0010】
本発明の積層構造体の製造方法は、金属製の板材と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブと、からなる積層構造体の製造方法であって、前記板材の表面に表面処理材を塗布する第1の工程と、前記板材を加熱する第2の工程と、前記板材の表面に熱硬化性樹脂を配置し、当該熱硬化性樹脂を前記板材に押し付ける第3の工程と、前記板材および前記熱硬化性樹脂を冷却する第4の工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、板材の表面に表面処理材を塗布し、この板材を加熱して、板材の表面に熱硬化性樹脂を配置し、この熱硬化性樹脂を板材に押し付けて、板材および熱硬化性樹脂を冷却した。これにより、金属製の板材の表面に、熱硬化性樹脂製のリブを一体化できる。
【0012】
本発明の積層構造体の製造装置(例えば、後述の外装パネル製造装置1)は、金属製の板材と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブと、からなる積層構造体を製造する積層構造体の製造装置であって、前記板材を把持し、当該板材の位置および姿勢を変更する把持装置(例えば、後述の搬送ロボット3)と、前記板材の表面に表面処理材を塗布する処理材塗布部(例えば、後述の処理材塗布部411)と、熱可塑性樹脂を吐出する樹脂吐出部(例えば、後述の樹脂吐出部412)と、前記樹脂吐出部から吐出された熱可塑性樹脂を前記板材に押し付ける樹脂押圧装置(例えば、後述の成形ローラ413)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、把持装置、処理材塗布部、樹脂吐出部、樹脂押圧装置を含んで積層構造体の製造装置を構成した。したがって、まず、把持装置で板材を把持し、処理材塗布部により、この把持した板材の表面に表面処理材を塗布する。次に、樹脂吐出部により、板材の表面処理材を塗布した部分に熱可塑性樹脂を吐出し、樹脂押圧装置により、この樹脂吐出部から吐出された熱可塑性樹脂を板材に押し付ける。これにより、金属製の板材の表面に樹脂製のリブを一体化して、積層構造体を形成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属製の板材の表面に樹脂製のリブを一体化して設けて、積層構造体とした。よって、板材を薄肉化しても、リブにより積層構造体の剛性を向上できるので、剛性を低下させることなく、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層構造体の模式図である。
【図2】前記実施形態に係る積層構造体の製造装置の構成を示す模式図である。
【図3】前記実施形態に係る積層構造体の製造装置の一部の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る積層構造体としての外装パネル10の全体斜視図である。
外装パネル10は、フェンダーパネルであり、鉄製の板材11と、この板材11の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブ12と、を備える。
板材11の図1中下側の表面は、外装パネル10の外面であり、板材11の図1中上側の表面は、外装パネル10の内面である。この板材11は、プレス成形により、一端側が内面側に向かって湾曲した形状である。
リブ12は、板材11の内面に格子状に形成されている。
【0017】
図2は、外装パネル10を製造する、積層構造体の製造装置としての外装パネル製造装置1の構成を示す模式図である。
外装パネル製造装置1は、プレス成形が完了した板材11の内面に、リブ12を形成した外装パネル10とするものである。
この外装パネル製造装置1は、板材11をストックする第1ストッカ2と、板材11を把持して搬送する把持装置としての搬送ロボット3と、板材11にリブを形成するリブ形成ロボット4と、リブ12を形成した板材11つまり外装パネル10をストックする第2ストッカ5と、を備える。
【0018】
第1ストッカ2は、プレス成形が完了した板材11を、加熱しながら積層状態で保持する。
【0019】
第2ストッカ5は、リブ12が形成された板材11を、加熱しながら積層状態で保持する。
【0020】
搬送ロボット3は、板材11を把持する把持部31と、この把持部31の3次元空間上の位置および姿勢を変化させる多関節アーム32と、を備える。この搬送ロボット3は、把持部31で板材11を把持し、多関節アーム32により把持部31の位置および姿勢を変更することで、板材11の位置および姿勢を変更する。
【0021】
リブ形成ロボット4は、リブ形成部41と、このリブ形成部41を支持する本体42と、を備える。
図3は、リブ形成ロボット4のリブ形成部41の拡大側面図である。
リブ形成部41は、表面処理材を吐出する処理材塗布部411と、樹脂を吐出する樹脂吐出部412と、樹脂を成形する樹脂押圧装置としての成形ローラ413と、を備える。
【0022】
以上の外装パネル製造装置1は、以下のように動作する。
まず、第1ストッカ2により、プレス成形が完了した板材11を加熱しておく。
次に、搬送ロボット3の把持部31により、第1ストッカ2で保持した板材11を把持し、搬送ロボット3の多関節アーム32を駆動して、リブ形成ロボット4まで搬送する。
【0023】
次に、リブ形成ロボット4の処理材塗布部411により、板材11の内面に表面処理材を塗布し、樹脂吐出部412により板材11の表面処理材を塗布した部分に樹脂を吐出する。そして、成形ローラ413により吐出した樹脂を板材11の表面に押し付けてリブ12を形成する。
【0024】
次に、搬送ロボット3の多関節アームを駆動して、リブ12が形成された板材11を、第2ストッカ5まで搬送する。
【0025】
そして、第2ストッカ5は、搬送ロボット3により搬送された板材11を冷却する。
【実施例】
【0026】
以下、5種類の樹脂と3種類の板材との組合せについて、表面処理の有無と接着力との関係を評価した。
具体的には、樹脂として、4種類の熱可塑性樹脂と1種類の熱硬化性樹脂を用いた。すなわち、熱可塑性樹脂としては、PP系のポリプロピレン、PA/PPE系のポリアミド/ポリフェレンエーテル、PA6系のポリアミド6、芳香族PA系の芳香族ポリアミドを用いた。また、熱硬化性樹脂としては、PU系(2液混合材料)のポリウレタンを用いた。
また、板材として、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、メッキ無し鋼板、アルミ板を用いた。
【0027】
表面処理材として、オクタンを40〜50重量%、ノナンを20〜30重量%、ブタンを10〜20重量%、プロパンを15〜25重量%用いた。また、表面処理方法としては、板材の表面に表面処理材を吹き付け塗布し、紙ウエスで拭いて、表面の油脂などを除去した。
【0028】
樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合、以下の手順で、実験を行った。
まず、板材の上面に表面処理を行った。次に、この板材をホットプレート上に載置し、ホットプレートにより板材を樹脂が溶ける温度まで加熱した。この加熱する温度は、樹脂メーカが推奨する成形温度に基づいて決定した。
次に、樹脂のペレットを板材上に載置し、このペレット上に7kgのおもりを10分間載置して、樹脂ペレットを板材に押し付けた。このとき、おもりによる加圧力は、0.01MPa程度である。
その後、おもりを取り外し、板材を冷却して、板材と樹脂との接着面を評価した。
【0029】
一方、樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合、以下の手順で、実験を行った。
まず、板材の上面に表面処理を行った。次に、金型を65℃まで加熱し、この加熱した金型内に板材を配置することで、板材を加熱した。一方で、熱硬化性樹脂を2液混合しておき、この熱硬化性樹脂を金型内の板材の表面に載置して、5分間型締めした。この型締めによる加圧力は、0.5MPa以下である。
その後、金型を開いて板材を取り出して冷却し、板材と樹脂との接着面を評価した。
【0030】
以上の組合せのうち、板材に表面処理を行い、樹脂としてPA/PPE系、PA6系、芳香族PA系、およびPU系を用いた組合せを実施例とし、その他の組合せを比較例として、実験を行った。実験結果を表に示す。
【表1】

【0031】
表中、評価が×とは、工具を使用することなく、樹脂が接着界面で板材から剥離したことを意味する。また、評価が△とは、工具を使用すると、樹脂が接着界面で板材から剥離したことを意味する。また、評価が○とは、工具を使用して樹脂を板材から剥離させても、接着界面で樹脂を剥離できず、多少の樹脂が板材上に残ったことを意味する。
【0032】
表より、PA/PPE系、PA6系、芳香族PA系、およびPU系については、表面処理を行うことにより、樹脂の板材に対する接着力が向上することが判る。
このうち、特に、PA6系、芳香族PA系、およびPU系については、表面処理を行うことにより、接着力が大幅に向上することが判る。
これは、脱脂により板材表面の有機物等が取り除かれたり、表面処理により板材表面の接触角が小さくなり濡れ性が高まったりしたため、と考えられる。
【0033】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)金属製の板材11の表面に樹脂製のリブ12を一体化して設けて、外装パネル10とした。よって、板材11を薄肉化しても、リブ12により外装パネル10の剛性を向上できるので、剛性を低下させることなく、軽量化を図ることができる。
【0034】
(2)板材11の表面に表面処理材を塗布し、板材11の表面を加熱して、板材11の表面に熱可塑性樹脂を配置し、この熱可塑性樹脂を板材11に押し付けた。これにより、金属製の板材11の表面に、熱可塑性樹脂製のリブ12を一体化できる。
【0035】
(3)板材11の表面に表面処理材を塗布し、この板材11を加熱して、板材11の表面に熱硬化性樹脂を配置し、金型を型締めして、この熱硬化性樹脂を板材11に押し付けた。これにより、金属製の板材11の表面に、熱硬化性樹脂製のリブ12を一体化できる。
【0036】
(4)搬送ロボット3、処理材塗布部411、樹脂吐出部412、成形ローラ413を含んで、外装パネル製造装置1を構成した。したがって、まず、搬送ロボット3で板材11を把持し、処理材塗布部411により、この把持した板材11の表面に表面処理材を塗布する。次に、樹脂吐出部412により、板材11の表面処理材を塗布した部分に熱可塑性樹脂を吐出し、成形ローラ413により、この樹脂吐出部412から吐出された熱可塑性樹脂を板材に押し付ける。これにより、板材11の表面に樹脂製のリブ12を一体化して、外装パネル10を形成できる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
1 外装パネル製造装置(積層構造体の製造装置)
3 搬送ロボット(把持装置)
10 外装パネル(積層構造体)
11 板材
12 リブ
411 処理材塗布部
412 樹脂吐出部
413 成形ローラ(樹脂押圧装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の板材と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブと、からなることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
金属製の板材と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブと、からなる積層構造体の製造方法であって、
前記板材の表面に表面処理材を塗布する第1の工程と、
前記板材の表面を加熱する第2の工程と、
前記板材の表面に熱可塑性樹脂を配置し、当該熱可塑性樹脂を前記板材に押し付ける第3の工程と、を備えることを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項3】
金属製の板材と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブと、からなる積層構造体の製造方法であって、
前記板材の表面に表面処理材を塗布する第1の工程と、
前記板材を加熱する第2の工程と、
前記板材の表面に熱硬化性樹脂を配置し、当該熱硬化性樹脂を前記板材に押し付ける第3の工程と、
前記板材および前記熱硬化性樹脂を冷却する第4の工程と、を備えることを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項4】
金属製の板材と、当該板材の表面に一体化して設けられた樹脂製のリブと、からなる積層構造体を製造する積層構造体の製造装置であって、
前記板材を把持し、当該板材の位置および姿勢を変更する把持装置と、
前記板材の表面に表面処理材を塗布する処理材塗布部と、
熱可塑性樹脂を吐出する樹脂吐出部と、
前記樹脂吐出部から吐出された熱可塑性樹脂を前記板材に押し付ける樹脂押圧装置と、を備えることを特徴とする積層構造体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−16275(P2011−16275A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161681(P2009−161681)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】